説明

燃料系ホースおよびその製法

【課題】耐燃料透過性に優れた燃料系ホースを提供する。
【解決手段】内側ゴム層1が(A),(B)および(C)成分を含有するゴム材料からなり、外側ゴム層3が(A′),(B)および(C′)成分を含有するゴム材料からなり、樹脂層2が(X)成分を主成分とする樹脂材料からなる燃料系ホースである。
(A)アクリロニトリル−ブタジエンゴム。
(A′)アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリル系ゴムのブレンドゴム。
(B)硫黄加硫剤。
(C)接着点形成用アミン系触媒。
(C′)1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)を含有する接着点形成用アミン系触媒。
(X)テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の燃料〔ガソリン、アルコール混合ガソリン(ガソホール)、アルコール、水素、軽油、ジメチルエーテル、LPG、CNG等〕の輸送等に用いられる燃料系ホースおよびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を取り巻く燃料ガスの蒸散規制は厳しくなってきており、燃料系ホースからの燃料の蒸散量の大幅な低減が求められ、これに対応する低透過な自動車用燃料系ホースが各種検討されている。このような燃料系ホースとしては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)材料を用いた内層と、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル四元共重合体(四元THV)からなる中間層(バリア層)と、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム(NBR−PVC)材料を用いた外層とを備えた燃料系ホースが提案されている(特許文献1)。上記内層および外層には、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩(DBU塩)が配合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−261079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、上記特許文献1に記載の燃料系ホースについて、耐燃料透過性(バリア性)の改良を図るため実験を続けた結果、四元THVからなる中間層(バリア層)について、さらに耐燃料透過性を改善する余地があることを突き止めた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐燃料透過性に優れた燃料系ホースおよびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、管状の内側ゴム層と、その外周面に形成される樹脂層と、その外周面に形成される外側ゴム層とを備えた燃料系ホースであって、上記内側ゴム層が、下記の(A),(B)および(C)成分を含有するゴム材料からなり、上記外側ゴム層が、下記の(A′),(B)および(C′)成分を含有するゴム材料からなるとともに、上記樹脂層が、下記の(X)を主成分とする樹脂材料からなる燃料系ホースを第1の要旨とする。
(A)アクリロニトリル−ブタジエンゴム。
(A′)アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリル系ゴムのブレンドゴム。
(B)硫黄加硫剤。
(C)接着点形成用アミン系触媒。
(C′)1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)を含有する接着点形成用アミン系触媒。
(X)テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体。
【0007】
また、本発明は、上記燃料系ホースの製法であって、ゴムの加硫温度において、上記(C)成分もしくは(C′)成分の触媒作用により、上記樹脂層を形成する(X)成分からの脱塩素化反応を促進してゴムとの接着点を作り、この樹脂層の接着点を利用して、樹脂層と、上記内側ゴム層および外側ゴム層とを接着させる工程とを備えた燃料系ホースの製法を第2の要旨とする。
【0008】
すなわち、本発明者らは、耐燃料透過性に優れた燃料系ホースを得るため、従来、中間層(バリア層)に使用していた四元THVに代えて、フッ素濃度の高いフッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体(CPT)を用いることを想起した。そして、このCPTを用いた実験の過程で、上記CPTは四元THVに比べてフッ素樹脂濃度が高いため、耐燃料透過性が向上するが、樹脂層(CPT)と、外側ゴム層(NBR−PVC)との層間接着性が劣ることを突き止めた。この理由は明らかではないが、外側ゴム材料中の1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩(DBU塩)が、PVCの脱塩素化反応の促進に寄与するため、CPTの脱塩素化反応による接着点(架橋点)が殆ど形成されず、ゴム層との層間接着性が劣るためであると考えられる。そこで、本発明者らは、上記CPTの優れた耐燃料透過性は維持したまま、層間接着性の向上を図るため、外層ゴム材料に使用するNBR−PVCのPVCレス化を図ることを想起した。しかし、ゴム材料としてNBRを使用した場合には、PVCレス化により耐オゾン性が劣るため、NBR−PVCと略同等の耐オゾン性を備える、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリル系ゴムとのブレンドゴムに着目した。また、上記DBU塩に代えて、DBU塩よりも塩基性が強い、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)を使用すると、樹脂層と外側ゴム層との層間接着性が向上することを見いだし、本発明に到達した。この理由は明らかでないが、以下のように考えられる。すなわち、ゴムの硫黄加硫時の加硫温度(通常、140〜170℃)において、接着点形成用アミン系触媒(C成分)中のDBN塩の触媒作用により、上記CPTからの脱塩素化反応が促進され、これがゴムとの接着点(架橋点)となると考えられる。そして、この樹脂層の接着点(架橋点)と、上記外側ゴム層の二重結合(ジエン)部分とが硫黄を介して接着するようになるため、樹脂層と外層ゴム層との層間接着性が向上する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料系ホースは、樹脂層の基材として、フッ素濃度が高いCPT(X成分)を用いているため、従来の四元THVを使用する場合に比べて、耐燃料透過性が向上する。また、本発明の燃料系ホースは、内側および外側のゴム層に、接着点形成用アミン系触媒を配合している。そのため、ゴムの硫黄加硫時の加硫温度において、上記接着点形成用アミン系触媒の触媒作用により、上記CPTからの脱塩素化反応が促進され、これがゴムとの接着点(架橋点)となる。そして、この樹脂層の接着点(架橋点)と、上記内側ゴム層および外側ゴム層の二重結合(ジエン)部分とが硫黄を介して接着するようになるため、樹脂層とゴム層との間の層間接着性にも優れ、ホースの層間剥離が生じることもない。また、本発明の燃料系ホースは、外層用材料にアクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリル系ゴムのブレンドゴム(A′成分)を使用するため、NBR中に分散するアクリル系ゴムによりクラックの伝達を阻止することができ、NBR−PVCを使用する場合と略同等の耐オゾン性を備えている。
【0010】
また、上記ブレンドゴム(A′成分)が、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)と、エチレンアクリルゴム(AEM)とのブレンドゴム(NBR−AEM)であると、耐オゾン性および層間接着性がさらに向上する。
【0011】
そして、上記ブレンドゴム(A′成分)における、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)と、アクリル系ゴムとのブレンド比が、重量比で、NBR/アクリル系ゴム=95/5〜70/30の範囲であると、層間接着性と耐オゾン性とのバランスが良好となる。
【0012】
また、上記接着点形成用アミン系触媒(C′成分)が、さらに1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩(DBU塩)を含有すると、層間接着性がより一層向上する。
【0013】
さらに、本発明の製法は、加硫を利用して、樹脂層に接着点(架橋点)をつくり、これと樹脂層両側のゴムとを接着させ、上記のように、樹脂層と両側のゴム層とを接着させるため、層間剥離を生じないホースを簡易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の燃料系ホースの一例の構成を示す模式図である。
【図2】燃料透過量の測定方法(カップ法)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本発明の燃料系ホースとしては、例えば、図1に示すように、管状の内側ゴム層(以下、「内層」と略す場合がある)1の外周面に樹脂層2が形成され、さらにこの樹脂層2の外周面に外側ゴム層(以下、「外層」と略す場合がある)3が形成されてなる三層構造のものがあげられる。
【0017】
本発明においては、上記内層1が、下記の(A),(B)および(C)成分を含有するゴム材料からなり、上記外層3が、下記の(A′),(B)および(C′)成分を含有するゴム材料からなるとともに、上記樹脂層2が、下記の(X)を主成分とする樹脂材料からなることが最大の特徴である。これにより、内層1/樹脂層2間、および樹脂層2/外層3間の層間接着性が向上し、ホース全体の層間接着性が優れたものとなる。
(A)アクリロニトリル−ブタジエンゴム。
(A′)アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリル系ゴムのブレンドゴム。
(B)硫黄加硫剤。
(C)接着点形成用アミン系触媒。
(C′)1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)を含有する接着点形成用アミン系触媒。
(X)テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体。
【0018】
上記内層1を形成するゴム材料(内層用材料)中のNBR(A成分)としては、耐燃料透過性(バリア性)の点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)が用いられる。
【0019】
なお、上記NBR(A成分)の含有量は、通常、内層用材料全体の40重量%以上であり、好ましくは50重量%以上である。
【0020】
上記NBRとしては、アクリロニトリル量(AN量)が中高AN,高AN,極高ANのものがあげられ、耐燃料油性の点から、AN量=25〜60の範囲のものが好ましく、特に好ましくはAN量=30〜55の範囲である。極高ANのものは、耐ガソリン透過性が向上し、ガソリンに対する耐性、耐オゾン性も良くなるという利点があり、中高ANのものは、極高ANのものよりは少し劣るが、耐ガソリン透過性が良くなるという利点がある。
【0021】
つぎに、上記NBR(A成分)とともに用いられる硫黄加硫剤(B成分)としては、例えば、硫黄があげられる。この硫黄加硫剤(B成分)の配合量は、上記NBR(A成分)100重量部に対して、0.2〜5重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜3重量部の範囲である。
【0022】
また、上記内層用材料としては、NBR(A成分)および硫黄加硫剤(B成分)とともに、接着点形成用アミン系触媒(C成分)が用いられる。
【0023】
ここで、本発明において、接着点形成用アミン系触媒とは、ゴムの硫黄加硫時の加硫温度(通常、140〜170℃)において、上記樹脂層2中のCPTからの脱塩素化反応を促進させて、ゴムとの接着点(架橋点)を形成させる働きをするものをいう。
【0024】
このような接着点形成用アミン系触媒(以下、単に「アミン系触媒」と略す)(C成分)としては、例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩(DBU塩)、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)等が用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、樹脂層2との接着性の点から、DBU塩が好ましい。
【0025】
上記DBU塩としては、例えば、DBUのカルボン酸塩、DBUのフェノール樹脂塩等があげられる。上記DBUのカルボン酸塩としては、DBUのナフトエ酸塩やソルビン酸塩が好ましい。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、樹脂層2との接着性の点から、DBUのナフトエ酸塩(ナフトエ酸DBU塩)が好ましい。また、上記DBN塩としては、例えば、DBNのカルボン酸塩、DBNのフェノール樹脂塩等があげられる。上記DBNのカルボン酸塩としては、DBNのナフトエ酸塩やソルビン酸塩が好ましい。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、樹脂層2との接着性の点から、DBNのナフトエ酸塩(ナフトエ酸DBN塩)が好ましい。
【0026】
上記アミン系触媒(C成分)の配合量は、上記NBR(A成分)100重量部に対して、1〜20重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜10重量部の範囲である。すなわち、上記アミン系触媒(C成分)の配合量が少なすぎると、所望の層間接着性が得られず、逆にアミン系触媒(C成分)の配合量が多すぎると、加硫が進行しすぎ、ゴム物性等に悪影響を与えるおそれがあるからである。
【0027】
なお、上記アミン系触媒(C成分)としては、層間接着性の点から、DBU塩とDBN塩とを併用することも可能である。
【0028】
なお、上記内層用材料には、上記A,B,C成分に加えて、カーボンブラック、受酸剤、老化防止剤、加硫促進剤、加硫助剤、加工助剤、白色充填材(タルク、クレー等)、可塑剤、軟化剤、着色剤、スコーチ防止剤等を適宜添加しても差し支えない。
【0029】
そして、上記内層用材料は、例えば、上記A,B,C成分と、必要に応じてカーボンブラック等を配合し、これらをバンバリーミキサー、ニーダーおよびロールを用いて混練することにより調製することができる。
【0030】
つぎに、上記樹脂層2を形成する樹脂材料(樹脂層用材料)としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体(X成分)を主成分とする材料を用いることができる。
【0031】
なお、本発明において、主成分とは、材料の過半を占める成分であり、材料全体が主成分のみからなる場合も含む。
【0032】
上記樹脂層用材料には、CPT(X成分)に加えて、相溶化剤、接着付与剤、充填剤等を適宜配合しても差し支えない。
【0033】
つぎに、上記外層3を形成するゴム材料(外層用材料)中のブレンドゴム(A′成分)としては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)と、アクリル系ゴムとのブレンドゴムが用いられるが、耐オゾン性の点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)と、エチレンアクリルゴム(AEM)とのブレンドゴム(NBR−AEM)が特に好ましい。
【0034】
上記ブレンドゴム(A′成分)における、NBRとアクリル系ゴムとのブレンド比は、重量比で、NBR/アクリル系ゴム=95/5〜70/30の範囲が好ましく、特に好ましくはNBR/アクリル系ゴム=90/10〜80/20の範囲である。すなわち、NBRが多すぎると、耐オゾン性が悪くなる傾向がみられ、逆にNBRが少なすぎると、層間接着性が悪くなる傾向がみられるからである。なお、アクリル系ゴムとして特にAEMを使用した場合も、アクリル系ゴムを使用する場合と同様の割合である(以下、同様)。
【0035】
なお、上記ブレンドゴム(A′成分)の含有量は、通常、外層用材料全体の40重量%以上であり、好ましくは50重量%以上である。
【0036】
つぎに、上記ブレンドゴム(A′成分)とともに用いられる、硫黄加硫剤(B成分)としては、前記内層用材料中で例示したものと同様のものを、同様の割合で用いることができる。
【0037】
また、上記ブレンドゴム(A′成分)および硫黄加硫剤(B成分)とともに使用されるアミン系触媒(C′成分)としては、少なくとも1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)が用いられる。
【0038】
なお、上記アミン系触媒(C′成分)としては、層間接着性の点から、上記1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)とともに、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩(DBU塩)を併用することも可能である。
【0039】
上記アミン系触媒(C′成分)の配合量は、上記ブレンドゴム(A′成分)中のアクリル系ゴムの含有量によって異なるが、上記ブレンドゴム(A′成分)100重量部に対して、1〜20重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜10重量部の範囲である。すなわち、上記アミン系触媒(C′成分)の配合量が少なすぎると、所望の層間接着性が得られず、逆にアミン系触媒(C′成分)の配合量が多すぎると、加硫が進行しすぎ、ゴム物性等に悪影響を与えるおそれがあるからである。具体的には、上記DBN塩の配合量は、上記ブレンドゴム(A′成分)100重量部に対して、1〜20重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜10重量部の範囲である。また、上記DBN塩とともにDBU塩を使用する場合のDBU塩の配合量は、上記ブレンドゴム(A′成分)100重量部に対して、1〜20重量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜10重量部の範囲である。
【0040】
また、上記DBN塩とDBU塩とを併用する場合の両者の重量比は、DBN塩/DBU塩=1/10〜1/0.1の範囲が好ましく、特に好ましくはDBN塩/DBU塩=1/5〜1/1の範囲である。
【0041】
なお、上記外層用材料には、上記A′,B,C′成分に加えて、カーボンブラック、受酸剤、老化防止剤、加硫促進剤、加硫助剤、加工助剤、白色充填材(タルク、クレー等)、可塑剤、軟化剤、着色剤、スコーチ防止剤等を適宜添加しても差し支えない。
【0042】
そして、上記外層用材料は、例えば、上記A′,BおよびC′成分と、必要に応じてカーボンブラック等を配合し、これらをバンバリーミキサー、ニーダーおよびロールを用いて混練することにより調製することができる。
【0043】
本発明の燃料系ホースは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、前記A〜C成分を含有する内層用材料(ゴム材料)、X成分を主成分とする樹脂層用材料(樹脂材料)、およびA′,B,C′成分を含有する外層用材料(ゴム材料)をそれぞれ調製する。そして、上記内層用材料を押し出し成形して内層を形成した後、この内層の外周面に、樹脂層用材料および外層用材料をそれぞれ押し出し成形する(タンデム方式)。つぎに、所定の長さに切断した後、マンドレルに挿入して加硫(通常、140〜170℃×10〜60分)を行う。つぎに、上記加硫後にマンドレルからホースを引き抜き、管状の内層1の外周面に、樹脂層2、外層3が順次形成された三層構造の燃料系ホース(図1参照)を作製することができる。ただし、本発明の燃料系ホースは、上記の製法に限定されるものではない。
【0044】
本発明の燃料系ホースは、ホース内径は2〜100mmの範囲が好ましく、特に好ましくは5〜50mmの範囲である。
【0045】
なお、本発明の燃料系ホースは、前記図1に示した三層構造に限定されるものではなく、例えば、内層1の内周面に最内層を形成したり、外層3の外周面に最外層を形成しても差し支えない。また、各層の間には接着層を形成しても差し支えない。
【実施例】
【0046】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0047】
まず、実施例および比較例に先立ち、燃料系ホースの外層用材料を調製した。すなわち、下記の表1に示す材料を同表に示す割合で配合し、これらをバンバリーミキサー(神戸製鋼社製)およびロール(日本ロール社製)で混練りして、外層用材料を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、上記表1に示す材料は以下の通りである。
〔NBR〕
日本ゼオン社製、ニポールDN003
【0050】
〔AEM〕
デュポン社製、VAMAC DP
【0051】
〔硫黄加硫剤(B成分)〕
硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)
【0052】
〔接着点形成用アミン系触媒(C′成分)〕
〈DBN塩〉
ダイソー社製、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩
〈DBUナフトエ酸塩〉
ダイソー社製、DA−500
【0053】
〔受酸剤〕
酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)
【0054】
〔加工助剤〕
ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)
【0055】
〔熱・酸化劣化防止剤〕
精工化学社製、ノンフレックスDCD
【0056】
〔老化防止剤〕
住友化学社製、アンチゲン3C
住友化学社製、アンチゲン6C
【0057】
〔カーボンブラック〕
キャボットジャパン社製、ショウブラックN330
【0058】
〔塩基性シリカ〕
DSLジャパン社製、カープレックス1120
【0059】
〔エーテルエステル系可塑剤〕
ADEKA社製、アデカサイザーRS107
【0060】
〔スルフェンアミド系加硫促進剤〕
N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA)
【0061】
〔チアゾール系加硫促進剤〕
ZnMBT(大内新興化学工業社製、ノクセラーMZ)
【0062】
つぎに、上記外層用材料を用いて以下のようにしてホースを作製した。
〔実施例1〕
〈内層用材料〔NBR材料〕の調製〉
ゴム成分(A成分)であるNBR(日本ゼオン社製、ニポールDN003、AN量:50)100重量部と、硫黄加硫剤(B成分)である硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)1重量部と、DBUナフトエ酸塩(ダイソー社製、DA−500)1重量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)10重量部と、ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)1重量部と、カーボンブラック(キャボットジャパン社製、ショウブラックN330)45重量部と、塩基性シリカ(DSLジャパン社製、カープレックス1120)25重量部と、エーテルエステル系可塑剤(ADEKA社製、アデカサイザーRS107)25重量部と、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)〕(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA)1重量部とを配合し、これらをバンバリーミキサー(神戸製鋼社製)およびロール(日本ロール社製)で混練りして、NBR材料を調製した。
【0063】
〈樹脂層用材料〉
テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体(CPT)(X成分)(ダイキン工業社製、ネオフロンCPT LP−1000)のペレットを準備した。
【0064】
〈ホースの作製〉
上記内層用材料(NBR材料)を押し出し成形して内層を形成した後、その外周面に樹脂層用材料(CPT)および外層用材料(NBR−AEM材料)1をそれぞれ押し出し成形した(タンデム方式)。つぎに、これを所定の長さ(300mm)に切断した後、マンドレルに挿入して加硫(160℃×30分)を行った。加硫後にマンドレルから引き抜き、管状の内層(厚み2mm)の外周面に、樹脂層(厚み0.1mm)、外層(厚み2mm)が順次形成されてなる三層構造のホース(内径24mm)を作製した。
【0065】
〔実施例2〜6、比較例1〕
外層用材料を後記の表2に示すものに変更する以外は、実施例1と同様にして、三層構造のホースを作製した。
【0066】
〔比較例2〕
樹脂層用材料および外層用材料を、以下のものに変更する以外は、実施例1と同様にして、三層構造のホースを作製した。
【0067】
〈樹脂層用材料〉
実施例のCPTに代えて、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド−パーフルオロアルキルビニルエーテル四元共重合体(四元THV)(DYNEON社製、THV815)を使用した。
【0068】
〈外層用材料(NBR−PVC)の調製〉
NBR−PVCとして日本ゼオン社製、ニポール1203JNS〔NBR/PVC=70/30(重量比)、AN量:33.5〕100重量部と、ステアリン酸(日本油脂社製、ビーズステアリン酸さくら)1重量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ150)10重量部と、DBUナフトエ酸塩(ダイソー社製、DA−500)2重量部と、SRF級カーボンブラック(東海カーボン社製、シーストS)30重量部と、ゼオライト(水澤化学工業社製、ミズカライザーDS)10重量部と、タルク(日本ミストロン社製、ミストロンベーパータルク)20重量部と、塩基性シリカ(DSLジャパン社製、カープレックス1120)15重量部と、エーテルエステル系可塑剤(ADEKA社製、アデカサイザーRS107)25重量部と、硫黄(鶴見化学工業社製、金華印粉砕硫黄)1重量部と、チアゾール系加硫促進剤としてN−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)(大内新興化学工業社製、ノクセラーMSA−G)1重量部とを配合し、これらをバンバリーミキサー(神戸製鋼社製)およびロール(日本ロール社製)を用いて混練することにより、NBR−PVC材料を調製した。
【0069】
〈ホースの作製〉
上記樹脂層用材料および外層用材料を使用する以外は、実施例1と同様にして、三層構造のホースを作製した。
【0070】
【表2】

【0071】
このようにして得られた実施例品および比較例品を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、上記表2に併せて示した。
【0072】
〔層間接着性(中間層/外層)〕
外層用ゴム材料を用い、ロールでシート状に加工して、未加硫ゴムシート(大きさ:100mm×100mm、厚み2mm)を作製した。また、各樹脂層用材料を用い、これをシート状に押出し成型して、樹脂シートを作製した(大きさ:100mm×100mm、厚み:0.15mm)。そして、上記未加硫ゴムシートと、樹脂シートを貼り合わせて、160℃で45分加硫接着させた。その後、ゴムシートと樹脂シートとを、引張試験機(JIS B 7721)を用いて、毎分50mmの速度で剥離して、層間接着力(N/inch)を測定した。
〈評価〉
○:120.0(N/inch)以上(材料破壊)
△:120.0(N/inch)未満で、30.0(N/inch)を超える
×:30.0(N/inch)以下
【0073】
〔オゾン性試験〕
外層用ゴム材料を160℃×45分間のプレス加硫にて2mmの厚みでシート状に成形して試験片を作製した。そして、この試験片を用いて、JIS K 6259に準じて、オゾン性試験を行った。すなわち、上記試験片を80%伸長させた状態で40℃において50pphmのオゾンを含む空気に168時間晒し、クラック(亀裂)発生の有無により評価した。
〈評価〉
○:クラックなし
×:クラック発生
【0074】
〔耐燃料透過性(燃料過量量)〕
各樹脂層用材料を用い、これをシート状に押出し成型して、サンプルシートを作製した(大きさ:100mm×100mm、厚み:0.15mm)。そして、図2に示すように、フランジ付きのSUS製カップ(内径φ:66mm、カップ内高さD:40mm)20を準備し、このカップ20内に、Fuel Cとエタノールとを混合した試験液〔Fuel C:エタノール=90:10(容量基準)〕を100ml入れた。つぎに、上記カップ20のフランジ部21に、上記で作製したサンプルシート10を載せ、さらに金網(16メッシュ)11を介してパッキン12で押さえて、ボルト13で締め付けることにより、カップ20を密封した。このようにして、燃料透過量を測定する試験装置を作製した。つぎに、この試験装置を上下逆さまにした状態で、60℃オーブン中に放置し、1日毎にカップ重量を測定し、その減少量(透過量Q)を測定した。そして、下記の式(1)に従い、燃料透過量(mg・mm/cm2 ・day)を算出した(カップ法)。
〈評価〉
○:燃料透過量が0.12以下
×:燃料透過量が0.12を超える
【0075】
【数1】

【0076】
上記表2の結果から明らかなように、実施例品は、樹脂層にCPTを使用しているため、耐燃料透過性に優れ、また外層用材料にNBR−AEMを使用するとともにDBN塩を使用しているため、層間接着性に優れ、耐オゾン性も良好であった。なお、NBRとAEMとのブレンド比が、NBR/AEM=95/5〜70/30の範囲である外層用材料を使用した実施例1〜5は、上記の範囲から外れた外層用材料を使用した実施例6に比べて、層間接着性が優れていた。
【0077】
これに対して、比較例1は、外層用材料にDBN塩を使用していないため、層間接着性が劣っていた。また、比較例2は、樹脂層にCPTではなく、四元THVを使用しているため、耐燃料透過性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の燃料系ホースは、自動車用の燃料系ホースとして好適に用いられるが、トラクター、耕運機、芝刈り機、船舶等の燃料系ホースにも用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 内側ゴム層
2 樹脂層
3 外側ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の内側ゴム層と、その外周面に形成される樹脂層と、その外周面に形成される外側ゴム層とを備えた燃料系ホースであって、上記内側ゴム層が、下記の(A),(B)および(C)成分を含有するゴム材料からなり、上記外側ゴム層が、下記の(A′),(B)および(C′)成分を含有するゴム材料からなるとともに、上記樹脂層が、下記の(X)を主成分とする樹脂材料からなることを特徴とする燃料系ホース。
(A)アクリロニトリル−ブタジエンゴム。
(A′)アクリロニトリル−ブタジエンゴムとアクリル系ゴムのブレンドゴム。
(B)硫黄加硫剤。
(C)接着点形成用アミン系触媒。
(C′)1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩(DBN塩)を含有する接着点形成用アミン系触媒。
(X)テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−クロロトリフルオロエチレン共重合体。
【請求項2】
(A′)成分が、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)と、エチレンアクリルゴム(AEM)とのブレンドゴム(NBR−AEM)である請求項1記載の燃料系ホース。
【請求項3】
(A′)成分における、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)と、アクリル系ゴムとのブレンド比が、重量比で、NBR/アクリル系ゴム=95/5〜70/30の範囲である請求項1記載の燃料系ホース。
【請求項4】
(C′)成分が、さらに1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩(DBU塩)を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料系ホース。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料系ホースの製法であって、ゴムの加硫温度において、上記(C)成分もしくは(C′)成分の触媒作用により、上記樹脂層を形成する(X)成分からの脱塩素化反応を促進してゴムとの接着点を作り、この樹脂層の接着点を利用して、樹脂層と、上記内側ゴム層および外側ゴム層とを接着させる工程とを備えたことを特徴とする燃料系ホースの製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101420(P2012−101420A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250958(P2010−250958)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】