説明

燃料配管の取付構造

【課題】燃料配管のエンジン本体への取付構造において、耐振性と耐久性とを両立でき、締結後の燃料配管に残存する応力の増大を抑制できる燃料配管の取付構造を提供する。
【解決手段】燃料配管1をエンジン本体(吸気マニホールド)へ3箇所以上の締結部を有して取り付け、少なくとも2箇所の締結部(ブラケット7,8とボス部11,12)は、剛体部材のみを用いて締結すると共に、隣接する締結部間の距離が他の隣接する締結部間の距離より短くなる組合せの締結部のうち少なくとも1箇所の締結部(ブラケット9とボス部13)は、弾性部材(カラー17,18)を介して締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料配管の取付構造に関し、特に、耐久性と耐振性とを両立させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の燃料配管の取付構造として特許文献1に記載のものでは、燃料配管の両端部付近に、ボルト孔が開口された剛体の取付座(ブラケット)を一体形成し、これら2つのブラケットを、剛体のインシュレータを介して、ボルトによってエンジン本体に締結している。
【特許文献1】特開平10−153156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記締結部は燃料配管の両端部のみに設けられているが、このように締結部間の間隔が大きいと、振動を大きく生じる。このため、燃料脈動吸収用の大重量のパルセーションダンパを、燃料配管へ直接搭載することが耐振上困難であるため、燃料配管から分岐したパルセーションダンパ搭載用の別配管の配設が必要となり、複雑な構成となる。
パルセーションダンパを燃料配管へ直接搭載して上記別配管を省略するには、燃料配管の両端部付近の締結部間にも中間の締結部を設け、締結部間の間隔を小さくして、燃料配管の振動を抑制すればよいが、締結部間の間隔が小さくなると、締結部の寸法のばらつきにより生じる燃料配管の組付応力が増大する。特に、スロットルチャンバとの干渉回避などのため、中間の締結部を、燃料配管の燃料入口側または出口側に片寄って配設して、締結部間の間隔が不等間隔となってしまうような場合は、最短となる締結部間の間隔が小さくなりすぎ、燃料配管の両端部に設けられた両締結部に生じる応力が増大する。
【0004】
本発明は、以上のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、燃料配管のエンジン本体への取付構造において、耐振性と耐久性とを両立でき、締結後の燃料配管に残存する応力の増大を抑制できる燃料配管の取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明は、燃料配管をエンジン本体へ3箇所以上の締結部を有して取り付け、少なくとも2箇所の締結部は、剛体部材のみを用いて締結すると共に、隣接する締結部間の距離が他の隣接する締結部間の距離より短くなる組合せの締結部のうち少なくとも1箇所の締結部は、弾性部材を介して締結する構成とした。
【発明の効果】
【0006】
以上の構成によって、燃料配管の3箇所以上の取り付けで、耐振性を確保し、パルセーションダンパの燃料配管への直接搭載を可能として簡易な構成とする一方、隣接する締結部間の距離が他の隣接する締結部間の距離より短くなる組合せの締結部で、弾性部材を介して締結を行うことにより、弾性部材が弾性変形し、締結部の寸法のばらつきにより生じる燃料配管の組付応力が吸収される。したがって、該締結部で剛体部材のみを用いた締結を行う構成と比べて、締結後の燃料配管に残存する応力の増大が抑制され、燃料配管は、強度設計上有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明に係る燃料配管の取付構造の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の概要を示す。
図1において、剛体の燃料配管1は、エンジンの気筒配列方向に延び、各インジェクタ3(1つのみ図示)が嵌入、接続される複数の接続管4を分岐させている。なお、接続管4の内周面と、インジェクタ3の外周面と、は各Oリング5によってシールされる。
【0008】
燃料配管1の周壁には、燃料入口1a側の端部付近に、ボルト孔7aが開口された剛体のブラケット7が、燃料出口1b側の端部付近に、ボルト孔8aが開口された剛体のブラケット8が、夫々取り付けられ、ブラケット7,8間の位置の周壁には、ボルト孔9aが開口された剛体のブラケット9が取り付けられている。なお、ブラケット9の配設位置は、燃料配管1の中央部に位置するスロットルチャンバ(図示せず)との干渉を回避するように、燃料出口1b側に片寄って設けられている。
【0009】
一方、エンジン本体の吸気マニホールド(図示せず)には、燃料配管1の取り付けのための雌ねじ部11a,12a,13aが夫々加工されたボス部11,12,13が一体形成されている。
また、燃料配管1の燃料入口1a側の端部付近には、パルセーションダンパ23が搭載されている。このパルセーションダンパ23は、燃料出口1b側よりも燃料流量が多い燃料入口1a側に設けるのが効果的である。
【0010】
燃料配管1の吸気マニホールドへの取り付けは、以下のように行われる。
まず、各インジェクタ3を、接続管4と接続した状態で、吸気マニホールドに取り付ける。
次に、締結部材としてのボルト15を、ボルト孔9aに挿通し、雌ねじ部13aに螺合するが、ここで、ボルト15の頭部とブラケット9との間、およびブラケット9とボス部13との間には、夫々、弾性材からなる環状のカラー17,18(弾性部材)が、ボルト15に嵌挿された状態で挟持される。
【0011】
その後、剛体のボルト19,20を、夫々、ボルト孔7a,8aに挿通し、雌ねじ部11a,12aに螺合して剛体部材のみを用いた締結を行い、図2に示すように燃料配管1の取り付けが完了する。
以下、本実施形態の効果について説明する。
まず、弾性変形可能なカラー17,18によって、ブラケット9またはボス部13の寸法のばらつきにより生じる燃料配管の組付応力が吸収されるため、剛体部材のみを用いた締結をブラケット9で行う構成と比べて、締結後の燃料配管1に残存する応力の増大が抑制される。本実施形態のように、ブラケット9のスロットルチャンバとの干渉回避などのため、隣接するブラケット間の最短間隔が一層狭まるような場合には、特に有効である。
【0012】
このように、本実施形態では、燃料配管1のブラケット9での締結による振動抑制と、燃料配管1に残存する応力の低減と、を両立できる。そして、上記振動抑制によって、パルセーションダンパ23の燃料配管1への直接搭載が可能となるため、燃料配管から分岐してパルセーションダンパ搭載用の別配管を配設することが不要となり、構成を簡易とすることができる一方、上記応力低減によって、燃料配管1はその強度設計上有利となる。
【0013】
また、ボルト15を雌ねじ部13aに螺合した状態では、各インジェクタ3および燃料配管1は、略一定位置に固定されるものの、カラー17,18の弾性変形によって、位置の微調整が可能である(先にボルト19,20による剛体部材のみを用いた締結を行うと、このような微調整は困難となる)。したがって、その後、ボルト19,20を雌ねじ部11a,12aに螺合しても、上記微調整によって、各Oリング5の捩れは抑えられ、各インジェクタ3と接続管4との間のシール性を十分に確保できる。
【0014】
図3は、本発明に係る燃料配管の取付構造の第2実施形態の構成を示す。
本実施形態は、弾性部材として、燃料配管1と吸気マニホールドとを締結する締結部材25を設けた点で、前記第1実施形態と相違する。
締結部材25は、軸部材25aの一端部に形成された頭部25bと、軸部材25aの他端部の周壁に設けられたストッパ部25cと、を備える一方、ブラケット9およびボス部13には、夫々、ボルト孔9a,雌ねじ部13aに代えて、貫通孔27,29が形成されている。ここで、ストッパ部25cは、貫通孔29より大径の先細テーパ状に形成され、頭部25bは、貫通孔27より大径に形成されている。
【0015】
なお、ボス部13に代えて、貫通孔を有するブラケットを設けてもよい。
そして、軸部材25aを、ストッパ部25cを貫通孔27,29の内側に強制収縮変形させつつ、重合させた貫通孔27,29に貫通孔27側から嵌入し、貫通孔29から突出して弾性戻り変形するストッパ部25cと、頭部25bと、によって、これらの間にブラケット9とボス部13とを挟持して締結する。
【0016】
本実施形態では、上記第1実施形態と比べて、少ない部品点数で容易にブラケット9とボス部13とを締結可能である。
なお、ブラケット9とボス部13との間に、締結部材25の軸部材25aが嵌挿された状態で、弾性材からなるカラー(図示せず)を緩衝材として介装させてもよい。
図4は、本発明に係る燃料配管の取付構造の第3実施形態の構成を示す。
【0017】
本実施形態は、弾性部材として、軸部材31aの中央部が大径のフランジ部31bに形成され、軸部材31aの両端部の周壁が雄ねじ部31cで形成された締結部材31を設けた点で、前記第2実施形態と相違する。
そして、軸部材31aを、貫通孔27,29に夫々嵌入し、各雄ねじ部31cに雌ねじ部材33を螺合し、フランジ部31bを挟んで両側にて、ブラケット9とボス部13とを挟持して締結している。
【0018】
本実施形態では、雄ねじ部31cと雌ねじ部材33との螺合により、ブラケット9とボス部13とをより強固に締結できると共に、締結力の調整も可能となる。
図5は、本発明に係る燃料配管の取付構造の第4実施形態の構成を示す。
本実施形態は、弾性部材として、板部材35と、板部材35の両端部に突出して設けられたクリップ部37,39と、を備える締結部材41を設けた点で、前記第2,3実施形態と相違する。
【0019】
クリップ部37は、板部材35から突出する突起37aと、突起37aを挟んで互いに反対側に配設され、突起37aの先端部から板部材35へ向けて、突起37aから離れながら延びる2つの爪37bと、を備えている。
そして、各爪37bを突起37a側へ向けて畳むように弾性変形させながら、貫通孔27にクリップ部37を貫通させて係合し、板部材35と各爪37bの先端部とによってブラケット9を挟持することで、クリップ部37とブラケット9とを締結する。
【0020】
同様に、クリップ部39も、突起39aと、2つの爪39bと、を備えており、貫通孔29にクリップ部39を貫通させて係合し、クリップ部39とボス部13とを締結する。以上により、締結部材41を介して、ブラケット9とボス部13とを相互締結する。
本実施形態では、燃料配管1とエンジン本体の吸気マニホールドとの距離が大きく、ブラケット9とボス部13とが離間しているような場合でも、ブラケット9とボス部13とを少ない部品点数で容易に締結できる。
【0021】
図6は、本発明に係る燃料配管の取付構造の第5実施形態の構成を示す。
本実施形態では、ブラケット9に代えて、燃料配管1の外壁に固定され弾性材からなるブラケット45(弾性部材)を設ける一方、エンジン本体の吸気マニホールド47の締結部に対して、インジェクタ3の軸方向と直交して延びるスリット47aを形成し、スリット47aにブラケット45を差し込むことで、燃料配管1と吸気マニホールド47とを締結する。
【0022】
これにより、締結部材が不要となり、構成が簡易となる。
また、ブラケット45は、インジェクタ3の軸方向には固定された状態で挟持されるため、振動が抑制される。これと共に、ブラケット45は、スリット47aへの差込、取付時には、インジェクタ3の軸方向と直交する方向には移動可能なため、インジェクタ3と接続管4との軸同士がずれた状態での接続が防止され、Oリング5の捩れや変形等を回避でき、インジェクタ3と接続管4との間のシール性を確実に確保できる。
【0023】
上記各実施形態では、燃料配管1のエンジン本体への締結部の数は3つとしたが、締結部の数を4つ以上としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る燃料配管の取付構造の第1実施形態の斜視図
【図2】図1の燃料配管を吸気マニホールドへ取り付けた状態の図
【図3】本発明に係る燃料配管の取付構造の第2実施形態の断面図
【図4】本発明に係る燃料配管の取付構造の第3実施形態の断面図
【図5】本発明に係る燃料配管の取付構造の第4実施形態の断面図
【図6】本発明に係る燃料配管の取付構造の第5実施形態の断面図
【符号の説明】
【0025】
1 燃料配管
3 インジェクタ
4 接続管
5 Oリング
9 ブラケット(燃料配管の締結部)
13 ボス部(エンジン本体の締結部)
15 ボルト(締結部材)
17 カラー(弾性部材)
18 カラー(弾性部材)
25 締結部材(弾性部材)
25a 軸部材
25b 頭部
25c ストッパ部
27 貫通孔
29 貫通孔
31 締結部材(弾性部材)
31a 軸部材
31b フランジ部
31c 雄ねじ部
33 雌ねじ部材
35 板部材
37 クリップ部
37a 突起
37b 爪
39 クリップ部
39a 突起
39b 爪
41 締結部材(弾性部材)
45 ブラケット(弾性部材)
47 吸気マニホールド(エンジン本体)
47a スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料配管をエンジン本体へ3箇所以上の締結部を有して取り付け、
少なくとも2箇所の締結部は、剛体部材のみを用いて締結すると共に、
隣接する締結部間の距離が他の隣接する締結部間の距離より短くなる組合せの締結部のうち少なくとも1箇所の締結部は、弾性部材を介して締結したことを特徴とする燃料配管の取付構造。
【請求項2】
前記弾性部材は、締結部材に嵌挿される弾性材からなるカラーであることを特徴とする請求項1に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記燃料配管とエンジン本体とを締結する締結部材であることを特徴とする請求項1に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項4】
前記燃料配管およびエンジン本体の締結部に、夫々貫通孔を形成し、
前記締結部材は、重合させた前記各貫通孔に嵌入された軸部材の両端部の間に、前記各締結部を挟持して締結するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項5】
前記締結部材は、
前記軸部材の一端部に形成された頭部と、
該軸部材の他端部の周壁に設けられ、少なくとも前記貫通孔の一方より大径の先細テーパ状に形成されたストッパ部と、
を備え、
前記軸部材を、ストッパ部を少なくとも前記一方の貫通孔の内側に強制収縮変形させつつ前記各貫通孔に他方の貫通孔側から嵌入し、前記一方の貫通孔から突出して弾性戻り変形する前記ストッパ部と、頭部と、によって、前記各締結部を挟持することを特徴とする請求項4に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項6】
前記両締結部間に、前記締結部材が嵌挿され、弾性材からなるカラーを介装することを特徴とする請求項5に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項7】
前記締結部材は、前記軸部材の中央部が大径のフランジ部に形成され、該フランジ部を挟んで両側にて、前記各締結部を締結することを特徴とする請求項4に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項8】
前記締結部材は、前記軸部材の両端部の周壁が、夫々、雄ねじ部に形成され、
前記各雄ねじ部に雌ねじ部材を螺合することで、前記両締結部を締結することを特徴とする請求項7に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項9】
前記燃料配管およびエンジン本体の締結部に、夫々貫通孔を形成し、
前記締結部材は、板部材の両端部に突出して設けられた各クリップ部を、前記各貫通孔に貫通して、前記両締結部を締結することを特徴とする請求項3に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項10】
前記各クリップ部は、
前記板部材から突出する突起と、
該突起を挟んで互いに反対側に配設され、該突起の先端部から前記板部材へ向けて、該突起から離れながら延びる2つの爪と、
を備え、
前記各貫通孔にクリップ部を貫通させて係合し、前記板部材と各爪とによって前記締結部を挟持することで、前記締結部材は各クリップ部と締結部とを締結して、締結部同士を相互締結することを特徴とする請求項9に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項11】
前記エンジン本体側の締結部に、前記燃料配管に接続されるインジェクタの軸方向と直交して延びるスリットを形成し、
前記燃料配管の外壁に固定した弾性材からなるブラケットを、前記スリットに差し込み、前記インジェクタが、軸方向には固定され、該軸方向と直交する方向には移動可能な締結構造としたことを特徴とする請求項1に記載の燃料配管の取付構造。
【請求項12】
前記燃料配管と、該燃料配管に接続されるインジェクタと、はOリングによってシールされていることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1つに記載の燃料配管の取付構造。
【請求項13】
前記剛体部材のみを用いた締結部は、前記燃料配管の両端部付近のみに設け、該剛体部材のみを用いた締結部に挟まれた位置に、前記弾性部材を介する締結部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1つに記載の燃料配管の取付構造。
【請求項14】
前記剛体部材のみを用いた締結は、前記弾性部材を介する締結後に行うことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1つに記載の燃料配管の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−75470(P2008−75470A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252945(P2006−252945)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】