説明

燃料電池の封止状態を検出する方法

本発明は、燃料電池スタックの状態を検出する方法に関し、燃料電池スタックがオフ状態であるとみなされるやいなや、Pになるアノード回路内の圧力及びカソード回路内の圧力の和を読み取る。180秒の追加の時間間隔後、Pになるアノード回路内の圧力及びカソード回路内の圧力の和を読み取る。PがPよりも低い場合、警報をトリガする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタック、特に高分子膜の形態をした電解質を有する形式(即ち、PEFC(高分子型燃料電池)型)の燃料電池スタックに関するが、これには限定されない。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックは、機械的エネルギー変換ステップを介さないで水素(燃料)及び酸素(オキシダント)を用いた電気化学酸化還元(レドックス)反応により電気エネルギーを直接発生させることが知られている。この技術は、特に自動車用途に関して大いに期待できるように思われる。燃料電池スタックは、一般に、各々が本質的にアノード及びカソードから成る単位要素の直列組み合わせを有し、アノードとカソードは、イオンがアノードからカソードに移ることができるようにする高分子膜によって隔てられている。
【0003】
燃料電池の封止状態、即ち、アノードのところのガス回路(燃料ガス回路)の封止状態及びオキシダントガス回路(カソードのところのガス回路)の封止状態の正確な評価を行なうことが非常に重要である。これは、ガス漏れが必然的に燃料電池スタックの動作を妨害すると共に特にこれが燃料ガス漏れである場合には燃料電池スタックの環境を汚染するからである。その結果、燃料電池スタックは、電力の低下、効率の低下又は時期尚早な経年劣化を生じる場合があり、更に、安全な動作のための動作条件が損なわれる場合がある。
【0004】
国際公開第2003/061046号パンフレットは、オキシダントガスとしての空気で動作する高分子電解質膜燃料電池のための消弧(extinction)方法を開示している。開示されている方法は、アノードとカソードと間の圧力差を許容可能なレベルを下回るレベルに維持するステップを有する。これを行なうため、消弧中、空気の供給を維持し、空気圧力を制御して水素側の圧力降下に追随するようにする。しかしながら、空気供給を維持することは、水素枯渇を生じさせる恐れを招き、水素枯渇は、燃料電池スタックの動作を存続させるうえで、極めて大きな問題である。さらに、上述の国際公開パンフレットは、燃料電池スタックの封止状態を観察する手段を何ら教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/061046号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に各消弧後、大気に対する燃料電池スタックの封止状態を観察してモニタ機能を提供する機器、即ち、燃料電池スタックの通常の動作にとって不要である機器を追加する必要なく、燃料電池スタックをモニタして診断することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、燃料電池スタックの状態を検出する方法であって、燃料電池スタックは、各々が高分子イオン交換膜の各側にアノード及びカソードを有する電気化学セルのスタックを積み重ねることによって形成され、燃料電池スタックは、電気化学セルのアノード側に設けられた燃料ガス供給システム及び電気化学セルのカソード側に設けられたオキシダントガス供給システムを有し、この方法は、燃料電池スタックの各動作停止(shut down)時に、動的挙動を測定してアノード回路内の圧力及びカソード回路内の圧力が漸変するようにするステップと、動的挙動があらかじめ特定された特有の指標を示したとき、燃料電池スタックが点検を必要としていることを示す警告信号を出すステップとを有することを特徴とする方法を提案する。
【0008】
本出願人は、事実、動的挙動があらかじめ特定された特有の符号(その正確な例は、以下に与えられる)を示したときに、燃料電池スタックが封止状態が失われたことを示し、これは、安全性を損ねると共に効率及び耐久性を低下させる場合があることに気付いた。この場合、燃料電池スタックの劣化を厳密に検査し、しかる後に適当な手段(補修又は破棄)を取ることができるようにするために必要である。
【0009】
本発明の一観点によれば、燃料電池スタックの状態の評価を得るため、カソード回路内の圧力とアノード回路内の圧力を組み合わせる数学的関数が構築される。アノード回路内の圧力及びカソード回路内の圧力を変化させる動的挙動の測定値としてのこの数学的関数の時間中における変化を観察する。
【0010】
好ましくは、本発明を実施するため、燃料電池スタックは、燃料貯蔵タンクに由来する加圧酸素供給源及び加圧大気を充填する装置を燃料電池スタックのカソード回路の出口に連結された再利用サイクルと一緒に有する。
【0011】
本明細書における以下の説明において、オキシダントガスとしての純粋酸素が供給される燃料電池スタックを考慮することにより本発明を説明する。しかしながら、この観点は、本発明を限定するものではなく、本発明は周囲空気が供給される燃料電池スタックにも利用できる。説明する実施形態(純粋酸素が供給される)は、所与の燃料電池スタックのコンパクトさに有利であり、これは、輸送車両、特に自動車への利用のための望ましい実施形態となる。
【0012】
本出願人の本件は、実際に、電気化学セルのアノード側の燃料ガス供給回路及び電気化学セルのカソード側のオキシダントガス供給回路について実質的に同一の内部容積を有する燃料電池スタックを設計することを意味している。この場合、1つの適当な単純な数学的関数は、カソード回路内の圧力とアノード回路内の圧力の和であり、別の数学的関数は、カソード回路内の圧力及びアノード回路内の圧力の平均である。当然のことながら、上述の数学的関数(和又は平均)のうちの一方又は他方を実施するため、アノード側及びカソード側のガス回路は、同一のモル数を有することは、実現されるべきである。そうではない場合、当業者であれば、適切な適応係数をどのように利用したらいいかを知っており、或いは、一般的に、大気に対する燃料電池スタックの両方のガス回路の封止具合をひとまとめにモニタする適切な数学的関数をどのように選択するかを知っているであろう。
【0013】
本発明の別の観点によれば、動的挙動の測定、観察又は評価は、アノード及びカソード回路内の残留圧力が大気圧とは異なる状態でスタックを完全に動作停止させるやいなや始まる。この場合、燃料電池スタックの状態を検出する方法は、所定の期間tCにわたるこれら回路内の圧力変化を測定するようなものである。
【0014】
本発明の一観点によれば、動的挙動を評価するため、所与の時点後における圧力差を測定するのではなく、所与の圧力差に達するまでの時間を測定する。当然のことながら、本発明は、動的挙動を評価する別の方法を含む。
【0015】
好ましくは、燃料電池スタックを動作停止させる方法の実施後に上述したように燃料電池スタックの封止状態を検出する方法は、次のステップ、即ち、
・(i)燃料ガス及びオキシダントガスの供給を遮断するステップと、
・(ii)適切な指標により表示器がオキシダント供給システム内のオキシダントガスが十分に消費されなかったことが指示される限り、電流を流し続けるステップと、
・(iii)窒素富化ガスをオキシダントガス供給システム中に注入するステップとを有する。
【0016】
ステップ(i)、(ii)及び(iii)は、全て互いに付随して実施される。以下の説明を一層良く理解するためには、ステップ(ii)とステップ(iii)は、連続したステップであり、2つのステップ(i)及び(ii)は、互いに付随して実施される。また、本発明を説明する動作停止方法の説明においても示されているようにステップ(iii)後に燃料ガス吸引ステップを提供することが有用である。
【0017】
上述の動作停止方法により、水素は、消弧後、即ち、酸素は全て消費され、カソード回路が窒素で満たされた後、高分子イオン交換膜を通ってカソード中に極めてゆっくりとしか拡散しない。したがって、酸素と水素は、相当多くの量の状態で同時に存在することは決してない。水素供給は、オキシダントガス供給の遮断と同時に又はほぼ同時にこの方法の開始から完全に中断される。燃料ガス供給を中断するステップは、オキシダントガス供給を中断するステップに対して幾分遅延されても良いが、大幅に遅延されてはならない。以下の説明は、オキシダントガスの供給と燃料ガスの供給が同時に中断される場合にのみ制限されており、これは、制御するのが最も簡単な手法であり、完全に満足の行く結果をもたらす。アノードのところの残留水素は全て、所望のH2/N2混合物の生成を保証するために節約状態で用いられる。
【0018】
注目されるべきこととして、上記において提案した動作停止方法は、追加の燃料ガス蓄積チャンバが燃料ガス供給回路中の任意の箇所、即ち、再利用回路内又は気水分離器とエゼクタとの間の回路内において遮断弁と燃料電池スタックとの間の任意の箇所に配置される燃料電池スタックに及ぶ。しかしながら、追加燃料ガス蓄積チャンバを上述の燃料電池スタックの説明において指定したようにその容積を減少させるために圧力が最も高い回路中の箇所に配置することが有利である。
【0019】
いずれの場合においても、電解質に関し、本発明は、高分子膜の形態をした電解質を有する形式(即ち、PEFC型のうちの1つ)の燃料電池スタックに利用される。以下に説明する発電装置及び動作停止方法は、自動車内に設置されると共に実施されるのに特に適していることが判明した。
【0020】
以下の説明は、本発明の観点の全てが添付の図面によって明確に理解されるようにするのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】純粋酸素が供給される本発明の燃料電池のスタックの略図である。
【図2】燃料電池スタックの消弧中における種々のパラメータの挙動を示す図である。
【図3】消弧後における圧力の挙動を示すと共にスタックの封止状態を測定する原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
安全上の理由で、燃料電池スタックは、一般に、動作停止中、閉鎖状態のままであるH2遮断弁を備えている。この場合、消弧手順の間、H2をタンク内に引き込むことができない。したがって、燃料電池スタックは、安全弁から実際の燃料電池スタックに進む供給ラインのチャネル、ダクト、内部脱湿リザーバ及び他のコンポーネント内の残留水素だけで機能しなければならず、これらコンポーネントは、以下、一般に、燃料電池スタックのための供給回路と称する。
【0023】
図1は、高分子膜の形態をした電解質を有する(即ち、PEFC又はPEM(プロトン交換膜(固体高分子膜とも呼ばれる)型)の燃料電池スタック1を示している。燃料電池スタック1には2種類のガス、即ち、燃料(車両上に貯蔵され又は車両上で発生する水素)とオキシダント(純粋酸素)が供給され、これらガスは、電気化学セルの電極に供給される。電気負荷14が電力ライン10を経て燃料電池スタック1に結合されている。説明を簡単にするために、図1は、本発明の理解に有用なガス回路コンポーネントしか示していない。
【0024】
アノード回路の説明
【0025】
この装置は、アノード側に燃料ガス供給回路11を有している。純粋水素(H2)タンク11Tが見え、これは、遮断弁110を通り、次にエゼクタ113を通り、次にカソードで終端する燃料ガス供給チャネル11Aを通る供給ラインによって燃料電池スタック1のアノード回路の入口に結合されている。圧力プローブ111が燃料電池スタック1の入口のすぐ手前で供給チャネル11A内に設けられている。燃料電池スタックによって消費されなかった水素を再利用する回路11Rが水素(燃料)供給回路11の一部をなしており、この回路は、燃料電池スタック1のアノード回路の出口に結合されている。気水分離器114が再利用回路11R内に設けられている。エゼクタ113及び再循環ポンプ115は、消費されなかった水素を再利用し、これをタンクから来た新鮮な水素と混合する。
【0026】
追加の燃料ガス蓄積チャンバ116も又見え、これは、遮断弁110と圧力調整弁117との間で燃料ガス供給回路11の管系に設けられている。追加の蓄積チャンバは、この好ましい実施形態では、その容積を減少させるために又は容積が同一であるとすると、多量の水素を貯蔵するよう供給回路内の圧力が最も高い箇所に配置される。注目されるべきこととして、追加の燃料ガス蓄積チャンバは、燃料ガス供給回路中の任意の箇所、即ち、再利用回路内又は気水分離器とエゼクタとの間の回路内において遮断弁と燃料電池スタックとの間の任意の箇所に配置される。しかしながら、追加燃料ガス蓄積チャンバをその容積を減少させるよう圧力が最も高い回路中の箇所に配置するのが有利である。
【0027】
大気に通じると共に気水分離器114の下に結合されているライン上に設けられた吸引ポンプ119及び遮断弁118も又見える。図1に示されているこの位置での連結により、遮断弁118を制御することによって3つの機能、即ち、水排出、パージ及び水素吸引を実行することができる。しかしながら、この実施形態の細部は、本発明を限定するものではない。本発明の特定の水素吸引機能を実行するため、遮断弁118を備えたラインは、気水分離器114を再循環ポンプ115に連結するラインから分岐されるのが良い。
【0028】
水素濃度センサC11を有利にはアノード回路中に挿入し、それにより消弧方法の実施中に水素枯渇が生じているかどうかをチェックすると共に例えば水素圧力が異常に低くて消弧方法を完了させるのに十分な量の水素をもたらさない場合に起こる場合のあるブースタポンプによる空気の注入を制限するのが良い(カソード回路の説明を参照されたい)。かかる水素センサC11は、図1に示されているように設けられる。
【0029】
カソード回路の説明
【0030】
この装置は、カソード側に設けられたオキシダントガス供給回路12を更に有している。純粋酸素(O2)タンク12Tが見え、これは、遮断弁120を通り、次に圧力調整弁127を通り、次にエゼクタ123を通り、次にカソードで終端するオキシダントガス供給チャネル12Aを通る供給ラインによって燃料電池スタック1のカソード回路の入口に結合されている。圧力プローブ121が燃料電池スタック1の入口のすぐ手前で供給チャネル12A内に設けられている。燃料電池スタックによって消費されなかった酸素を再利用する回路12Rが酸素供給回路12の一部をなしており、この回路は、燃料電池スタック1のカソード回路の出口に結合されている。気水分離器124が再利用回路12R内に設けられている。エゼクタ123及び再循環ポンプ125は、消費されなかった酸素を再利用し、これをタンクから来た新鮮な酸素と混合する。パージ弁122が気水分離器124の底部に連結されている。かくして、この弁は、2つの機能、即ち、水の除去及び大気への酸素回路のガス抜きを実行する。変形例として、このパージ弁122は、酸素回路を気水分離器124内の水の排出とは独立して大気中にガス抜きすることが望ましい場合、燃料電池スタック1と気水分離器124との間でラインから枝分かれしたちょうど燃料電池スタック1のガス出口のところに連結されても良い。全ての場合において、気水分離器124及び気水分離器114からの水の排出機能が保証されなければならないことは言うまでもない。
【0031】
本発明の燃料電池スタックは、カソード回路を加圧大気を充填する充填装置12Nを有している。充填装置12Nは、次のコンポーネント、即ち、空気取り入れオリフィス126で始まるライン並びにこのライン上に設けられた遮断弁128及びブースタポンプ129を有し、このラインは、燃料電池スタック1のすぐ上流側で酸素供給回路で終端している。加圧大気充填装置12Nは、オキシダントガス供給回路12のループ中の任意の箇所で終端しても良いことは指摘されるべきであり、このループは、再利用回路12R及びエゼクタ123を燃料電池スタック1に連結しているラインによって形成されている。
【0032】
好ましい消弧(extinction)手順の説明
【0033】
以下に説明する手順により、燃料電池スタックを「消弧(extinguish)」させて、窒素タンクを必要としないで、水素/窒素混合物を燃料電池スタック内に入れた状態での貯蔵を保証することができる。この方法は、燃料電池スタックを自然に、大気圧に対し、スタック封止状態の測定を実施することができるのに十分な圧力差がある状態にすることにより終わるので推奨される。加うるに、この方法は、ガスの性状及び温度の面で安定した条件に有利であり、それにより、スタック封止状態測定の良好な再現性が保証される。
【0034】
動作停止(shut down)手順は、本質的に、次のように説明する種々の指令の結果として生じる最高3つの段階で構成される。
‐第1段階:残留酸素消費段階、この段階は、燃料ガス供給及びオキシダントガス供給の遮断時に、そして、燃料電池スタックの端子のところの電流ISを流すことによって起こる。この電流の流れISは、適切な指標により表示器がオキシダント供給システム内のオキシダントガスが十分に消費されなかったことが指示される限り、維持される。適当な指標は、例えば、カソード回路内の圧力である。
‐第2段階:カソード回路の窒素を充填したときに生じる中和段階。本明細書において説明する実施形態では、窒素は、大気中の窒素である。この場合、大気の強制注入が起こり、それによりこの場合も又、少量の酸素が導入され、この酸素の消費は、制御されなければならない。
‐第3段階:この段階は、オプションであり、この段階の間、電気化学プロセスが完全に停止された後、過剰の燃料ガスが強制的に除去される(この場合、過剰水素の強制吸引)。強調されるべきこととして、本発明により、この吸引は、燃料電池スタックを重大な結果になることが知られている水素の不十分な供給を回避するための予防措置が取られている状態に至らせた後にのみ起こる。
【0035】
図2は、純粋酸素で動作する有効面積が300cm2の20個のセルから成る燃料電池スタックで実際に測定された動作停止中の3つの段階のシーケンスを示している。x軸は、秒で表された時間を示し、動作停止手順が開始した時点では基準(0)となっている。この図は、以下の量の変化を窒素が発生する動作停止中の時間の関数として示している。
‐曲線1、この曲線のy軸は、「スタック電流[A]」で表示され、アンペアで表された燃料電池スタックから流れる電流を示している。
‐曲線2、この曲線のy軸は、「スタック電圧[V]」で表示され、ボルトで表された燃料電池スタックの端子にかかる全電圧を示している。
‐曲線3、この曲線のy軸は、「圧力アウト[バール]」で表示され、バール絶対圧(bara)で表されたアノードコンパートメント(水素:実線)及びカソードコンパートメント(酸素:点線)内の圧力を示している。
‐曲線4、この曲線のy軸は、「H2濃度[%]」で表示され、%で表されたアノードコンパートメント(水素:実線)及びカソードコンパートメント(酸素:点線)内の水素濃度を示している。
【0036】
酸素供給が遮断された時点(遮断弁110を閉鎖し、水素供給を遮断したのと同時に遮断弁120を閉鎖することによって)から始まる消弧の第1段階の際(図2に「酸素減少」と記された0〜35秒)、電流を流すことによって燃料電池スタック内の残留純粋酸素を消費する。第1の曲線が示すように、この電流は、まず最初に、50Aのところで得られ、次に、この電流を燃料電池スタックのセルのうちの幾つかが電圧降下を始めるのと同時に減少させ、最終的に、燃料電池スタックの電圧が0Vに近づくと35秒のところで停止させる。第3の曲線は、酸素コンパートメント内の圧力が500ミリバール絶対圧未満まで下がっていることを示している(燃料電池スタックの分野において通常用いられているように、“mbara ”は、「ミリバール絶対圧」を意味し、最後の文字“a”は「絶対圧」を表している)。しかしながら、電流発生と関連した消費量にもかかわらず、水素圧力は、追加燃料ガス蓄積チャンバ116が設けられているので1.75バール絶対圧のままである。
【0037】
本明細書の冒頭の部分において既に強調して説明したように、本発明の消弧方法は、周囲空気が供給される燃料電池スタックにも利用可能である。空気が供給される燃料電池スタックに関して本発明により提案される動作停止方法を実施するため、かかる燃料電池スタックへの供給を行なう通常の方式とは異なり、オキシダントガス回路は、少なくとも動作停止方法の実施中、燃料電池スタックにより消費されない空気を循環させるループを有することが必要である。したがって、燃料電池スタック1のカソード回路の出口に連結されていて、供給ラインへの戻り及び直接的連結部(エゼクタも気水分離器が設けられておらず、これらは、この形態では不要である)前に燃料電池スタックによって消費されなかった空気を再循環させる再循環回路12Rが空気供給回路11の一部をなしている。
【0038】
純粋酸素が供給される燃料電池スタックのための動作停止方法の説明に戻る。35秒の時点(図2の時間軸線上の「35」)で、空気ブースタポンプ129を作動させてカソード回路を2.2バール絶対圧(パラメータ1)の圧力まで加圧し、この圧力に50秒の時点で達する。このように供給された酸素により、燃料電池スタックの電圧は、再び上昇する。燃料電池スタックの電圧が再びゼロになるまで電流をもう一度流す。一方、ブースタポンプ129をモニタして一定圧力を保つ。
【0039】
ところで、以下に詳細に説明する曲線の全ては、オキシダントとして純粋酸素が供給される燃料電池スタックを動作停止させる方法に関しており、窒素富化ガスは、大気であることが思い起こされるべきである。しかしながら、指摘されるべきこととして、一方において、窒素富化ガスは、純粋窒素であっても良く、当然のことながら、この場合、曲線は、「35秒」の時点の後では異なる外観を有する。というのは、酸素の新たな供給に伴って窒素注入が行なわれないからである。
【0040】
上述の場合、即ち、オキシダントとして純粋酸素が供給される燃料電池の場合に説明を戻す。電流が消費されているとき、カソードのところに存在する空気は、燃料電池スタックの端子にかかる電圧が65秒の時点でゼロになるということにより明らかなように、酸素がますます減少し、その後、最終的に、主として窒素だけを含む。
【0041】
この時点で(酸素供給及び水素供給の遮断後65秒の時点で)、空気ブースタポンプ129を停止させ、水素吸引ポンプ119を作動させ、それにより過剰水素を除去する。吸引ポンプ119は、水素圧力が0.5バール絶対圧(パラメータ2)に達するまで作動状態のままである。この圧力に75秒の時点で達する。次に、この手順を終了し、ブースタポンプ129及び吸引ポンプ119を停止させ、遮断弁118,128を閉じる。
【0042】
消弧手順方法全体を通じて、カソード側の再循環ポンプ125は、ガスの良好な均質性を保証すると共に酸素の完全な消費を保証するよう作動状態に保たれ、それにより、局所的に高い酸素濃度を持つゾーンの発生が阻止される。アノード側の再循環ポンプ115も又、局所的な水素枯渇を回避するよう作動状態に保たれる。消弧期間全体を通じて、水素枯渇は、第4の曲線によって示されている水素消費量が示すように回避される。濃度は、水素吸入が始まる65秒の時点までアノード回路内では85%を超えたままである。
【0043】
上述の方法では、最初の2つの段階(残留酸素消費及び窒素注入による中和化)は、連続して行なわれる。しかしながら、これら2つの段階は、付随して行なわれても良い。消弧の迅速さを高めるため、これら2つの段階を同時に生じさせることが望ましい。最終の段階(過剰水素吸引)は、常に必要不可欠であるというわけではない。水素バッファタンクは、事実、方法が上述したように所望の量の水素で終わるよう設計されても良い。
【0044】
燃料ガス供給回路11の内部容積は、オキシダントガス供給回路12の内部容積よりも大きいよう設計され、通常の作動の際、オキシダントガス供給回路12内の圧力及び燃料ガス供給回路11内の圧力は、オキシダントガス供給回路12の内部容積及び燃料ガス供給回路11の内部容積が一定であるとすれば、燃料ガス供給回路内の消弧プロセスの開始時に常時利用できる燃料ガスのモル数が消弧プロセス全体の間、即ち、カソード回路が本質的に窒素で所望の圧力状態にて満たされるまで、オキシダントガス供給回路内で消費される酸素のモル数の2倍以上であるようなものである。
【0045】
かくして、計算して実施されるべき簡単な改造例では、燃料ガス供給回路は、燃料電池スタックの消弧がオキシダントガス供給回路内の酸素を排出した結果として生じるのに十分なガスを常時収容するようにすることが可能である。
【0046】
アノード回路12及びカソード回路11の容積をどのようにして計算するかについて説明する。mo2が消弧全体にわたり完全に消費されなければならない例えばモルで表された酸素の量であるとする。これは、消弧の開始時に、パージ可能な量に窒素を発生させるためにブースタポンプ129により導入される空気の導入量を加えた量よりも少ないカソード回路内の残留酸素である。
【0047】
ガス消費量が水素側の2倍であるので、アノード回路及びカソード回路の容積は、次式が成立するよう設定されなければならない。
〔数1〕
h2≧2×mo2+resh2
上式において、mh2は、燃料ガス供給回路(管、チャネル、双極板、遮断弁110の下流側の供給ライン)の内部容積内で消弧の開始時に利用できるモルで表された水素の量であり、resh2は、これ又モルで表された残留酸素の所望の量である。最終的に必要な水素の量mh2は、追加の燃料ガス蓄積チャンバ116の容積を調節することにより得られるであろう。
【0048】
量mo2及びmh2は、一般的に認められているように、寸法決めすることが必要な対応の回路の容積に関連付けられるが、これら量は、かかる回路内に生じている圧力にも依存する。これは、簡単な手法である。というのは、通常、圧力の関数としてガスの温度及び水素密度の非直線性を考慮に入れることも又必要だからである。しかしながら、圧力を考慮に入れることは、所望の精度を得る上で十分であることが分かっている。かかる回路容積は、遭遇する場合のある最も望ましくない圧力及び温度条件、即ち、消弧開始時における水素回路中の最も低い圧力及び酸素回路中の最も高い残留圧力について計算されなければならない。
【0049】
しかしながら、供給圧力が変化する場合、水素及び最終吸引力が過剰な状態でこの方法を実行することにより、水素枯渇が生じないようになると共に最終条件の良好な再現性が得られる。
【0050】
上述の消弧方法を実施し、その後、数10分間そこらにわたり延長する図2の場合よりも長い期間にわたってアノード側及びカソード側の圧力の変化を与える図3を参照する。消弧方法の終わりに(酸素及び水素供給の遮断後約100秒で)、アノードコンパートメント内の圧力(連続した線)及びカソードコンパートメント内の圧力(長い点線)は、大気圧とは異なり、上述の例では、カソードのところでは2.2バール絶対圧、アノードのところでは0.5バール絶対圧である。理解できるように、これら2つの圧力は、2つのコンパートメントを互いに隔てる膜の透過性に鑑みて、10分後に約1.3バール絶対圧で生じる共通の均衡圧力に収斂する。しかしながら、短い点線による曲線で表されている2つの圧力の代数和は、スタックが大気に対して適正に封止されていることを条件として、実質的に一定のままであることが理解できる。かくして、燃料電池スタックが消弧したと考えられるやいなや点検を行ない、P1に等しいアノード回路及びカソード回路内の圧力の和を記録する。しかる後、一方においてアノード回路及び他方においてカソード回路内の圧力の和は、実質的に同一のままであり、これら回路が適正に封止されているという状況が示される。180秒の追加の期間tC後、P2に等しいアノード回路及びカソード回路内の圧力の和を記録し、P2は、事実上、P1と同一である。
【0051】
かくして、理解できるように、数学的関数の期間中の変化、この場合、代数和を記録し、時間及びこの時間と関連した数学的関数の値から成る値の対が所定のしきい値を超えたときに警報をトリガする燃料電池スタックの状態の検出を行なう方法を実施することができる。所定の期間tCにわたるこれらの回路内の圧力変化を測定し、これら回路内の圧力の値を組み合わせる数学的関数を計算する。次に、この数学的関数が所定の期間の終わりに警告しきい値を下回ったときに警告を出す。
【0052】
実際には、全累積有効面積が約5000cm2であり、アノード及びカソード回路の容積が1リットルオーダであり、消弧の終わりにおける大気に対する平均圧力差が約500ミリバールであるPEFC型の燃料電池スタックの場合、実験的観察により、以下の良好な実施上の規則が提供され、即ち、アノード及びカソード圧力の和が温度70℃の状態で3分で240ミリバールだけ降下したときに警告しきい値が出されるべきである。これとは別に、アノード及びカソード圧力の和が温度70℃の状態で3分で300ミリバールだけ降下したときに動作停止しきい値を設定するのが良い。動作停止しきい値のレベルに達すると、スタックの機能実行を禁止し(例えば、中央制御ユニットのプログラムによって)、保守行為が必要とされる。燃料電池スタック内の種々の場所におけるシールは、封止欠陥の原因である場合が多い。保守作業中における漏れの出所を突き止めるため、一方法では、スタックを通常の動作圧力に近い圧力にて不活性ガス、好ましくは窒素で加圧し、次に、一般に漏れを検出するために用いられる発泡製品をスタックの外側に吹き付けて漏れの出所を突き止める。
【0053】
ガス及び圧力の性状に関し、上述の動作停止方法は、正確な状態を提供し、極めて良好な再現性を達成させることができ、即ち、アノードのところに500ミリバール絶対圧の圧力で純粋水素を生じさせると共にカソードのところに2.2バール絶対圧の圧力で純粋窒素を生じさせる。存在するガスが電気化学活動を可能にしないようにすることが必要であり、かかる電気化学活動が起こると、スタックの状態の圧力変化測定が実施不能になる。また、はっきりと理解されるように、アノード及びカソード回路は、測定中、閉鎖されていなければならず、したがって、周囲環境又はタンクとのガス交換は行なわれず、ガス交換が行なわれると、スタック状態の測定値が完全に歪められる。このことは、弁128,122,120,127,118,110,117が閉鎖状態でなければならないことを意味している。
【0054】
アノード回路及びカソード回路内のガス圧力は、大気圧とは異なっていなければならないことは明らかであり、もしそうでなければ、大気に対する漏れに起因して圧力変化を観察することができなくなる。内部圧力が大気圧を下回った場合、問題の回路の漏れの結果として、圧力が上昇し、又その逆の関係が成り立つ。
【0055】
さらに、再循環ポンプ115,125及びブースタポンプ129は、測定を妨害しないよう動作停止されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックの状態を検出する方法であって、前記燃料電池スタック(1)は、各々が高分子イオン交換膜の各側にアノード及びカソードを有する電気化学セルのスタックを積み重ねることによって形成され、前記燃料電池スタックは、前記電気化学セルのアノード側に設けられた燃料ガス供給システム及び前記電気化学セルのカソード側に設けられたオキシダントガス供給システムを有し、前記方法は、前記燃料電池スタックの各動作停止時に、動的挙動を測定して前記アノード回路内の圧力及び前記カソード回路内の圧力が漸変するようにするステップと、前記動的挙動があらかじめ特定された特有の指標を示したとき、前記燃料電池スタックが点検を必要としていることを示す警告信号を出すステップとを有する、方法。
【請求項2】
前記動的挙動の漸変の測定は、前記カソード回路内の圧力と前記アノード回路内の圧力を組み合わせた数学的関数の変化を記録するステップと、時間及び前記時間と関連した前記数学的関数の値により形成される値の対が所定のしきい値を超えたときに警報をトリガするステップとを含む、請求項1記載の燃料電池スタックの状態の検出方法。
【請求項3】
前記数学的関数は、前記カソード回路内の圧力と前記アノード回路内の圧力の和である、請求項2記載の燃料電池スタックの状態の検出方法。
【請求項4】
前記数学的関数は、前記カソード回路内の圧力及び前記アノード回路内の圧力の平均である、請求項2記載の燃料電池スタックの状態の検出方法。
【請求項5】
前記値の対は、燃料電池スタックが消弧状態になったと考えられた後に経過した時間及び前記カソード回路内の圧力を前記時間と関連した前記アノード回路内の圧力を組み合わせた前記数学的関数の値である、請求項3又は4記載の燃料電池スタックの状態の検出方法。
【請求項6】
所定の期間tCにわたる前記回路内の圧力変化を測定し、前記回路内の圧力の値を組み合わせた数学的関数を計算し、前記関数が所定の期間の終わりに警告しきい値を下回ったときに警告を出す、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の燃料電池スタックの状態の検出方法。
【請求項7】
前記燃料電池スタック(1)を動作停止させる方法の実施後に請求項1〜6のうちいずれか一の記載に従って燃料電池スタックの封止状態を検出する方法であって、前記動作停止方法は、次のステップ、即ち、
・(i)燃料ガス及びオキシダントガスの供給を遮断するステップと、
・(ii)適切な指標により表示器がオキシダント供給システム内のオキシダントガスが十分に消費されなかったことが指示される限り、電流を流し続けるステップと、
・(iii)窒素富化ガスをオキシダントガス供給システム中に注入するステップとを有する、燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項8】
燃料電池スタックに関して、請求項1〜7のうちいずれか一に記載に従って燃料電池スタックの封止状態を検出する方法であって、前記燃料電池スタックは、前記電気化学セルのカソード側に設けられたオキシダントガス供給システムを有し、前記オキシダントガス供給システムは、酸素貯蔵タンク(12T)の出口のところに配置された遮断弁(120)及び加圧大気を充填する装置を同時に有し、前記燃料電池スタックは、前記オキシダントガス供給ラインへの戻り部及び連結部の前に、気水分離器(124)と一緒に、前記燃料電池スタック(1)の前記カソード回路の出口に接続された再利用回路(12R)を更に有する、燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項9】
前記ステップ(i)、(ii)及び(iii)は、互いに付随して実施される、請求項8記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項10】
前記ステップ(ii)と前記ステップ(iii)は、連続したステップであり、前記2つのステップ(i)及び(ii)は、互いに付随して実施される、請求項7記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項11】
前記ステップ(iii)の実施後に、燃料ガス吸引ステップを更に有する、請求項7記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項12】
燃料電池スタックにオキシダントとして純粋酸素を供給するために、前記窒素富化ガスは、大気である、請求項7記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項13】
前記燃料ガス供給を遮断する前記ステップは、前記オキシダントガス供給を遮断する前記ステップに対して遅延される、請求項7記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項14】
純粋酸素の供給と前記燃料ガス供給は、同時に遮断される、請求項7記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。
【請求項15】
まず最初に、前記電流の流れを第1のレベルに設定し、次に、前記燃料電池スタックの或る特定のセルが電圧降下を開始し始めるのと同時に減少させ、最後に、前記電流の流れは、前記燃料電池スタックの電圧が0Vに近づくとゼロになる、請求項7記載の燃料電池スタックの封止状態の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−509679(P2013−509679A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535808(P2012−535808)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066261
【国際公開番号】WO2011/051340
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512068547)コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン (169)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】