説明

燃料電池の製造におけるプロトン伝導性付与材料の使用

モノマー単位から構成されるとともに不規則な形式を有してなるプロトン伝導性付与材料の燃料電池の製造に際しての適用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造に際してのプロトン伝導性付与材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願第102007011427号明細書により、不均一化学反応におけるプロトン伝導および/またはプロトン受容物質としてイオノゲン基を含有し5ないし500nmの平均粒子大を有する乳化重合によって製造されたポリマー粒子の使用が知られている。乳化重合の乳液から得られたポリマー粒子は製造要件に従って通常球形の形状を有する。
【0003】
独国特許出願第102007011427号明細書によって知られている材料はさらに改善されるべき特性スペクトルを有している。特にこの材料の性質は比較的高いゲル含有率の点に関して改善の必要があり、その理由はより弱い架橋結合のシステム、すなわちポリマー構造がより粗目のメッシュを有するシステムの方が特定の適用分野において、例えば燃料電池製造における材料への添加剤としてより好適であり得るためである。ポリマー粒子が埋入された高分子材料の機械的特性の変化の観点においてもさらに改善の余地がある。
【0004】
独国特許出願第102007011424号明細書(国際公開第2008/107192号A1パンフレット)により少なくとも1つの基本ポリマーと1つあるいは複数のドーパントを有するポリマーマトリクスからなり、ナノメートル領域の平均粒子大を有するイオノゲン基を含有する粒子が前記ポリマーマトリクス内に埋入されるとともに前記イオノゲン基を含有する粒子がポリマーマトリクスに対して50%未満の濃度で均一にポリマーマトリクス内に分散した、ポリマー電解膜が知られている。この乳化重合によって製造されたポリマーマトリクスも依然として理想的な特性プロフィールを有するものではない。
【0005】
燃料電池は、継続的に供給された燃料と酸化剤の化学反応エネルギー電気エネルギーに変換するガルバニ電池である。化学エネルギー蓄積体からの電気エネルギーの獲得は今日大抵熱動力装置内において熱および運動エネルギーの循環を通じた発電機との組み合わせおいて実施される。燃料電池は前記の変換を迂回路無しで達成することに適しておりその結果より効率的となる可能性を有している。
【0006】
燃料電池は薄膜あるいは電解質(イオン伝導体)を介して相互に離間した電極から形成される。従って電極と並んで電解質が電気化学電池の重要な構成要素を成す。これはプロトン伝導体としての機能と同時に両方の電極空間の間のセパレータとしても作用するため電気的に絶縁されるとともに、熱的および機械的に安定する必要がある。以前はしばしば液体の電解質が使用されたが、今日電池の独立性および安定性の理由から常に頻繁に固形の電解質が使用される傾向にある。ここでいう固形の定義はゲルあるいはゴム状からセラミック状のものにまで該当する。
【0007】
リン酸形燃料電池はリン酸を電解質として動作する点において他の燃料電池と異なっている。90ないし100%の濃度で使用される高濃度のリン酸はしばしばPTFE相構造内に固定される。リン酸形燃料電池においては水素が燃料ガスとして作用し、一方酸化剤として空気あるいは純粋な酸素を使用することができる。
【0008】
ポリマー電解質燃料電池は、水素と酸素を使用しながら化学および電気エネルギー変換を行う低温燃料電池である。電気エネルギー効率は動作点に応じて約60%となる。その際電解質として通常例えばNationTM(ペルフルオロ化されたスルホン酸基を含んだポリマーをベースにしたもの)からなる固形のポリマー薄膜が機能する。
【0009】
薄膜は両側が触媒活性電極によって被覆され、これはしばしば炭素(カーボンブラック)と大抵プラチナまたはプラチナとルテニウム(PtRu電極)、プラチナとニッケル(PtNi電極)、あるいはプラチナとコバルト(PtCo電極)の合金からなる触媒の混合物とされる。水素分子がアノード側で分解されて2個の電子を放出しながらそれぞれ2個のプロトンに酸化される。それらのプロトンは薄膜を介して拡散する。カソード側においては予め電気エネルギーによって発生させることができた電子によって酸素が還元され;電解質によって搬送されたプロトンとの組み合わせによって水が発生する。電気エネルギーを利用可能にするためにアノードとカソードに電気負荷が接続される。
【0010】
しかしながら、この薄膜内の電荷移動が水の存在に依存するため該当するポリマー電解質薄膜燃料電池の稼働領域は最大100℃に制限される。より高い動作温度を可能にするために無機質粒子を含んだ燃料電池用の薄膜が提案されている(独国特許出願公開第19919988A1号明細書、独国特許出願公開第10205849号A1明細書、国際公開第03/063266号A2パンフレット、および国際公開第03/081691号A2パンフレット参照)。
【0011】
独国特許出願公開第102004009396号A1明細書には燃料電池稼働に際してより改善された電気的、機械的、および熱特性を有する燃料電池用の薄膜が開示されている。この薄膜は、好適には樹脂製のポリマーと、天然材料、シリコンあるいはゴムと、プロトン伝導性の物質とから形成される。しかしながら、この種の薄膜は室温中においては技術的に充分な伝導性を示さず、また低い機械的安定性しか備えていない。
【0012】
従ってこの燃料電池内で使用される薄膜はさらに改善する必要がある。この場合の改善の必要性は全般的、特に伝導性、機械的および熱安定性、膨潤性、ならびに使用される電極に対する適合性の観点における薄膜特性に関するものである。これらの薄膜特性は一般的に添加剤の使用によって改善することができる。しかしながら、従来これに適した特性プロフィールを備えたポリマー添加剤は開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明の目的は、(例えば独国特許出願公開第102007011427号明細書によって知られている材料と比べて)より低い分枝性を有するとともに、例えば特にリン酸形燃料電池およびポリマー電解質燃料電池内で使用される薄膜中に適用することができるプロトン伝導性付与添加剤を提供することである。
【0014】
本発明の目的はさらに、リン酸形燃料電池あるいはポリマー電解質燃料電池内の薄膜のための伝導性を改善させる添加剤を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、薄膜の機械的および熱特性を改善させる、リン酸形燃料電池あるいはポリマー電解質燃料電池内の薄膜のための添加剤を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、特に良好な膨潤性を備えるリン酸形燃料電池あるいはポリマー電解質燃料電池内の薄膜のための添加剤を提供することである。
【0017】
その際に使用される添加剤は該当する薄膜材料に対して良好な相溶性、すなわち特に混合性を有することが好適である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に従って製造される添加剤は、可能な限り高い酸あるいは塩基改質されたモノマーの含有率と高い透明性、ならびに薄膜に対する良好な相溶性を有する必要がある。
【0019】
さらに、改善された出力密度と長期間安定性を有する高温ポリマー電解質燃料電池用のガス拡散電極等の燃料電池用電極材料を提供し、その際に触媒層がガス拡散層および/またはポリマー電解質薄膜上で良好な粘着性ならびにプロトン伝導性の着合を示すとともに100℃超の稼働温度においても持続的に高い安定性を有するようにすることが要望される。本発明のさらに別の目的は、同種のガス拡散電極の効果的な製造方法ならびにそのガス拡散電極を使用して200℃まであるいは250℃までの稼働温度に対応する燃料電池を提供することである。
【0020】
前記の課題は、モノマー単位から形成され不規則な形式を有しているプロトン伝導性付与材料を新たに使用することによって解決される。
【0021】
本発明の対象は特にプロトン伝導性を付与する高分子材料の使用であり、その際その高分子材料が酸性基あるいは塩基改質されたモノマー単位から構成するとともに不規則な形式を有することが好適である。
【0022】
「プロトン伝導性を付与する材料」という表現は本発明の枠内においてプロトン受容体および/またはプロトン供与体として機能することができ従って特にプロトンの非局在化および/または搬送を可能にする材料を意味する。このためには一般的に、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸基のようにプロトンを放出することができるものかまたは特にアミノ基等の塩基のようにプロトンを吸収することができるものである、酸性官能基および/または塩基性官能基の存在が前提となる。従って酸基によって改質されたプロトン伝導性付与材料は塩基受容性の性質を有し、一方塩基によって改質されたプロトン伝導性付与材料は特に酸受容性の性質を有する。
【0023】
本発明に従って使用されるプロトン伝導性付与材料は一般的にそれ自体プロトン伝導性であり、すなわち特に例えば薄膜を介したプロトンの伝導を可能にする薄膜の製造を可能にするものである。このことは例えば導電性測定、抵抗測定等によって判定することができる。
【0024】
本発明の枠内において不規則な形式として略球形のものではない全ての粒子形状が理解される。「略球形の」形状とは粒子がその外観、例えば電子顕微鏡画像において実質的に円形の面を形成することを意味する。本発明に従って使用される材料は一般的に乾燥した粉末の形態で提供され、これは特に破砕および粉砕プロセスのため角あるいはジャグを有する。本発明に係る粒子の角およびエッジ部の例は図1に示されている。図1は実施例中の試料3(DB43)についての光学顕微鏡写真である。この点によって本発明に係る材料が、特に製造上の条件(ミセル)から一般的に顕著な球形を有している乳化重合によって製造された材料と相違する。
【0025】
本発明によれば、本発明に従って使用されるプロトン伝導性を付与する高分子材料は一般的に粗目ではあるが三次元に架橋結合され、これが燃料電池の薄膜およびガス拡散電極の特性プロフィールを改善することが判明した。
【0026】
加えて、本発明に従って使用されるプロトン伝導性付与材料はリン酸形燃料電池およびポリマー電解質燃料電池内で使用される薄膜のマトリクス材料に対して良好な相溶性を有し、また250℃までの稼働温度のポリマー電解質燃料電池のガス拡散電極の触媒層のマトリクス材料に対しても良好な相溶性を有する。
【0027】
本発明に係るプロトン伝導性付与材料によれば、特に濃縮リン酸内および120℃超の高温における稼働中でもその効果を維持する添加剤が提供される。
【0028】
本発明の好適な実施形態においてプロトン伝導性付与高分子材料は結合剤によって架橋結合される。
【0029】
リン酸形燃料電池内においてしばしばポリマーマトリクスがポリベンゾイミダゾール(PBI,ポリ−[2,2′(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])によって形成される。PBIは425℃のガラス転移温度と310℃までの熱長時間耐久性を備えその温度領域での使用に適している。さらにこの材料は電気的に絶縁性であり、これは燃料電池内の薄膜材料としての使用の前提条件ともなっている。PBIは勿論熱可塑性であるとともに非柔軟性である。そのことから例えば製造プロセス中(不良品発生率の上昇)と稼働中(振動による故障の可能性)における薄膜の取り扱い性における問題点が生じる。本発明によれば、本発明に係るプロトン伝導性付与材料はポリベンゾイミダゾールと異なって稼働温度下において過度に高くはならない架橋結合度を伴った柔軟なポリマー連鎖を有することが判明した。それによって前記の状況が改善される。この点に関して前述したような架橋結合度を有する本発明のプロトン伝導性付与材料が有効である。
【0030】
本発明に係るプロトン伝導性付与材料は、スチロール、エチレングリコールメタクリレートフォスファート(MAEP)、スルホン酸ビニル(VSS)、スルホン酸スチロール(SSS)、ホスホン酸ビニル(VPS)、N−ビニルイミダゾール(VID)、4−ビニルピリジン(VP)、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、アクリルアミド、2−アクリルアミドグリコール酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、アクリル酸−[2−(((ブチルアミノ)−カルボニル)−オキシ)エチルエステル]、アクリル酸−(2−ジエチルアミノエチルエステル)、アクリル酸−(2−(ジメチルアミノ)−エチルエステル)、アクリル酸−(3−(ジメチルアミノ)−プロピルエステル)、アクリル酸−イソプロピルアミド、アクリル酸フェニルアミド、アクリル酸−(3−スルホプロピルエステル)−カリウム塩、メタクリル酸アミド、メタクリル酸−2−アミノエチルエステル−塩酸塩、メタクリル酸−(2−(第3−ブチルアミノ)−エチルエステル)、メタクリル酸−((2−ジメチルアミノ)−メチルエステル)、メタクリル酸−(3−ジメチルアミノプロピルアミド)、メタクリル酸イソプロピルアミド、メタクリル酸−(3−スルホプロピルエステル)−カリウム塩、3−ビニルアニリン、4−ビニルアニリン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、1−ビニル−イミダゾール、2−ビニル−ピリジン、4−ビニル−ピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、5−ビニルウラシル、メタクリル酸グリシドエステル(GDMA)、上記化合物の混合物、上記化合物の塩、ならびに上記化合物の共役酸あるいは共役塩基からなる一群の中から選択される少なくとも1個の化合物に基づいたモノマー単位を含むことが好適である。化合物が塩として存在する場合はそれを重合化の前に中性の有機モノマーに変換することができる。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、本発明に係る材料の製造に際しての一官能価モノマーの重量比率は全てのモノマー(架橋結合するモノマーを含む)の100重量部、特に100重量%に対して一般的に0.1ないし100重量%、特に好適には10ないし99.0重量%、さらに好適には30ないし98重量%となり、その際残りのモノマーは後述するように一般的に多官能価モノマーとなる。
【0032】
本発明の別の好適な実施形態によれば、一官能価モノマーの百分率の重量比率は全て(100重量%)のモノマー(架橋結合するモノマーを含む)に対して一般的に40ないし100重量%、特に好適には50ないし99.0重量%、さらに好適には50未満から98重量%となり、その際残りのモノマーは後述するように一般的に多官能価モノマーとなる。
【0033】
本発明に係る材料は0.5ないし50、特に3ないし45、さらに好適には3ないし35、極めて好適には3ないし25の膨潤係数を有する。膨潤係数は実施例の項目で後述するように判定される。
【0034】
本発明に係るプロトン伝導性付与材料はイオノゲン基を有することが好適である。本発明においてイオノゲン基はイオン化しているかあるいはイオン化した基の形成を可能にする基である。この方式によってプロトン伝導性および/またはプロトン受容性となり得る。イオノゲン基は塩基性および/または酸性官能基を有するモノマーを介して導入される酸性あるいは塩基性の基とすることが好適である。本発明に係る材料は塩基性の基を有することが極めて好適である。
【0035】
本発明の好適な実施形態によれば、プロトン伝導性付与高分子材料は塩基および/または酸性基によって改質された一官能価モノマー単位と、場合によってさらに多官能価モノマー単位(結合剤)とから形成される。
【0036】
本発明の好適な一実施形態によれば、高分子材料は結合剤によって架橋結合される。
【0037】
本発明の好適な一実施形態によれば、高分子材料は塩基および/または酸性基を有するモノマー単位を含む。
【0038】
本発明の好適な一実施形態によれば、高分子材料は塩基および/または酸性基によって改質された一官能価モノマー単位と、場合によって多官能価モノマー単位(結合剤)とから形成される。
【0039】
本発明の好適な一実施形態によれば、高分子材料は中性あるいは塩基性の結合剤によって架橋結合される。
【0040】
本発明の好適な一実施形態によれば、イオノゲン基、特にプロトン伝導性および/またはプロトン受容性の基は以下の酸性官能基のうちの1つあるいは複数として選択される:−COOH、−SOH、−OSOH、−P(O)(OH)、−O−P(OH)、および−O−P(O)(OH)および/またはそれらの塩および/またはそれらの誘導体、例えば特にそれらの部分エステル。塩は酸性官能基への共役塩基を形成し、すなわち−COO、−SO、−OSO、−P(O)(OH)あるいは−P(O)3−、−O−P(O)2−、および−OP(O)(OH)あるいは−OP(O)2−をその金属塩、特にそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩の形式、特に好適にはナトリウムあるいはカリウム塩の型式で形成する。
【0041】
本発明の別の好適な実施形態によれば、イオノゲン基、特にプロトン伝導性および/またはプロトン受容性の基が下記の塩基性官能基のうちの1つあるいは複数として選択される:−NR、ここでRは水素、アルキルあるいはアリルの中から選択される。Rは水素および/または1ないし18個、特に1ないし10個、さらに好適には1ないし6個の炭素原子を有するアルキルとすることが好適である。−NRは特にジメチルアミノ等のジアルキルアミノとすることが極めて好適である。塩基は特に塩酸塩等の酸添加塩の形式で存在することができる。前記の酸性官能基の共役塩基、例えば−COONa等のカルボキシレート基も塩基として使用することができる。
【0042】
本発明の理念においてイオノゲン基は−SOH、−PO(OH)、−O−P(O)(OH)および/またはそれらの塩および/またはそれらの誘導体、例えば特にそれらの部分エステル、ならびに極めて好適には塩基−NRおよび前述したようなそれらの酸添加塩から選択することが極めて好適である。
【0043】
塩基性官能基あるいはそのような基を有するモノマーの使用の利点は、例えばそのような本発明に係る材料が混合されるポリマーの特に膨潤性が酸性の媒体中で改善されることである。
【0044】
本発明に係る材料のイオノゲン基による改質のため、本発明に係るプロトン伝導性付与材料例えばリン酸に対して可能な限り誘引的に作用することが可能になる。本発明の枠内においてこの「誘引的」という特性は本発明に係る材料によって電荷伝送が支援されることが理解される。そのため塩基性あるいは酸性改質は好適である。この点に関して特にポリマーを塩基によって改質することが好適である。
【0045】
本発明のプロトン伝導性付与材料は中性あるいは塩基性の結合剤によって架橋結合することができる。前記のモノマーを塩基性の結合剤によって架橋結合することによって本発明に係る材料が塩基を有することもできる。塩基性の結合剤は例えばトリアリルアミンとすることができる。
【0046】
本発明に係る材料は架橋結合された材料とすることが極めて好適である。これは一般的にラジカル重合可能なモノマーのラジカル重合によって溶液中あるいはコンパウンド中で形成され、その際重合は一般的なラジカル開始剤によって開始することができる。
【0047】
高分子材料の架橋結合は一般的に下記の処理のうちの少なくとも1つによって実施される:
(a) 架橋結合の作用を有する多官能価化合物(いわゆる結合剤)による共有重合による、
(b) 重合後における架橋結合剤あるいは加硫剤を用いた、または例えば600nm未満、特に400nm未満の波長の光による高エネルギー照射による追加的な架橋結合による、
(c) 例えば全モノマーの総量に対して少なくとも約80mol%までの高い変換率までの重合の継続による、
(d) モノマー流入方式における例えば既に流入したモノマーの総量に対して少なくとも約80mol%までの高い内部変換率を有する重合による。
【0048】
高分子材料の架橋結合は特に下記の処理のうちの少なくとも1つによっても実施される:
(a) 溶融体中あるいは溶液中における架橋結合の作用を有する多官能価化合物(結合剤)による共有重合による、
(b) 重合後における架橋結合剤を用いた、または高エネルギー照射による追加的な架橋結合による、
(c) 溶融体中あるいは溶液中における高い変換率までの重合の継続による、
(d) モノマー流入方式における溶融体中あるいは溶液中での高い内部変換率を有する重合によるもので、架橋結合後に高分子材料に対して少なくとも1回の粉砕工程を実施する。
【0049】
溶融体あるいは溶液中における重合は従来の技術によって知られている方式に係る。
【0050】
その際重合中における架橋結合の作用を有する多官能価化合物(結合剤)による直接的な架橋結合が好適な架橋結合方式である。
【0051】
結合剤としては特に下記の一群から選択される化合物が適している:ジイソプロペニルベンゾール、ジビニルベンゾール、トリビニルベンゾール、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、1,2−ポリブタジエン、N,N′−m−フェニレンマレイミド、2,4−トルイレンビス(マレインイミド)、および/またはトリアリルトリメリテート等の少なくとも2個、特に2ないし4個の共重合可能なC=C二重結合を有する多官能価モノマー、特にエチレングリコール、プロパンジオール−1,2、ブタンジオール、ヘキサンジオール、2ないし20個、特に2ないし8個のオキシエチレン単位を有するポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、およびソルビット等ならびに特にトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、ジメチルレングリコールジメタクリレート(EGDMA)等の多価、好適には二価ないし四価のC2ないしC10アルコールのアクリレートおよび/またはメタクリレート、脂肪族ジオレンおよびポリオレンからなる不飽和のポリエステル、ならびにマレイン酸、フマル酸、および/またはイタコン酸およびトリアリルアミン等のポリアリルアミン。
【0052】
本発明によれば、多価のアルコール、好適には二価ないし四価のC2ないしC10アルコールのアクリレートおよび/またはメタクリレートが結合剤として極めて好適であり、特にトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)が最も好適である。
【0053】
本発明の枠内において、結合剤の重量比率(結合度)は総量、特に本発明に係るプロトン伝導性付与材料中の全てのモノマーの重量に対して一般的に0、好適には0重量%超、さらに好適には0重量%超かつ15重量%以内、さらに好適には0.5重量%超かつ15重量%以内、特に好適には0.50ないし10重量%、さらに好適には1.0ないし8重量%とされる。
【0054】
本発明の枠内においてプロトン伝導性付与材料中の結合率とはモノマーの総量に対する架橋結合するモノマー(いわゆる結合剤で1超特に2超の官能性を有する)の重量比を意味する。
【0055】
塩基性の結合剤を使用する利点は、リン酸形/PBI薄膜内における該当するポリマーの使用に際して一方で酸性の電解質のプロトリシスを容易にするとともに他方で薄膜内への電解質の吸収を改善する塩基性中心が形成される点である。
【0056】
塩基性中心の数の増加の別の利点はリン酸吸収の上昇であり、それによってもシステム内の可能な電荷キャリアの増加がもたらされる。
【0057】
本発明に係る材料の製造に際してのラジカル開始剤としては、過酸化ジキュミル、過酸化t−ブチルキュミル、ビス−(t−ブチル−ペルオキシイソプロピル)ベンゾール、過酸化ジt−ブチル、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキシン−3,2,5−ジヒドロペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、ビス−(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、t−ブチルペルベンゾアート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビスシクロヘキサンニトリル等の有機アゾ化合物等の一般的なラジカル開始剤を使用することができる。好適には有機アゾ化合物、特にアゾビスイソブチロニトリルが使用される。
【0058】
それらのラジカル開始剤は、本発明の枠内において前述した選択肢(b)の重合後の追加的な架橋結合における結合剤(または加硫剤)として使用することもできる。その際ラジカル開始剤の使用による架橋結合はラジカル開始剤の分解によって形成される遊離ラジカルによって誘発される。また高エネルギーの照射による追加的な架橋結合も可能である。
【0059】
本発明によれば、好適には過酸化ジキュミル、過酸化t−ブチルキュミル、ビス−(t−ブチル−ペルオキシイソプロピル)ベンゾール、過酸化ジt−ブチル、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキシン−3,2,5−ジヒドロペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、ビス−(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、t−ブチルペルベンゾアート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビスシクロヘキサンニトリル等の有機アゾ化合物、ジメルカプトおよびポリメルカプト化合物、特にジメルカプトエタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、1,3,5−トリメルカプトトリアジン等の硫黄含有結合剤あるいは加硫剤、ならびにメルカプト終端多硫化ゴム、特にビス−クロロエチルホルマールと多硫化ナトリウムのメルカプト終端転化生成物を含む一群の中から選択される結合剤(加硫剤)を使用して架橋結合を重合後に追加的に実施することができる。
【0060】
本発明の枠内において、本発明に係る高分子材料が少なくともN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)をベースにしたモノマー単位を有することが極めて好適である。
【0061】
本発明の極めて好適な一実施形態によれば、本発明に係る高分子材料の一官能価モノマーは、存在することが好適である結合剤の他にはN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)のみによって形成される。
【0062】
加えて、本発明のプロトン伝導性付与材料が少なくともトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)をベースにしたモノマー単位を結合剤として有することが好適である。
【0063】
プロトン伝導性付与材料が少なくともN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)をベースにしたモノマー単位を有するとともに少なくともトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)をベースにしたモノマー単位が結合剤として使用されれば特に好適である。プロトン伝導性付与材料がそれら両方のモノマーから形成されれば極めて好適である。
【0064】
別の好適な実施形態によれば、重合後にプロトン伝導性付与材料に対して、例えばジメルカプトエタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、1,3,5−トリメルカプトトリアジン等のジメルカプトおよびポリメルカプト化合物ならびにビス−クロロエチルホルマールと多硫化ナトリウムのメルカプト終端転化生成物等のメルカプト終端多硫化ゴムによる処理等の、硫黄含有結合剤あるいは加硫剤を用いた架橋結合が実施される。
【0065】
プロトン伝導性付与材料は、一般的に50ないし99重量%、特に60ないし90重量%、さらに好適には63ないし80重量%の23℃においてトルエンに非溶解の成分(ゲル含有率)を有することが好適である。
【0066】
ゲル含有率はトルエンを使用した連続的な抽出によって判定される。そのため約3gの試料をソックスレー抽出器内に計り入れ16時間溶媒還流内で抽出する。
【0067】
ゲル含有率は下記の等式によって算定される:
【0068】
【数1】

【0069】
加えて、本発明に係るプロトン伝導性付与材料は一般的に50μm未満、好適には40μm未満、より好適には30μm未満、特に25μm未満の平均粒子大を有する。平均粒子大は後述するようにポリマー製造後に粉砕処理した後に得られる。
【0070】
本発明の枠内において平均粒子大は動的光散乱法によって判定される。平均粒子大を判定するための動的光散乱法はラインヘミーラインガウ有限会社のプロセス分析研究室(事業研究室)内で以下のように実施した。
【0071】
このため、SVM(スモールボリュームモジュール)を備えた動的光散乱装置Coulter LS 230を使用した。この「動的光散乱」粒子大分析装置LS230は0.4ないし2000μmの測定領域に対して双眼光学技術を使用する。ミー散乱の領域においてはPIDS(偏光散乱強度差法)技術によって波長450,600および900nmの白色光で実施される測定の基礎が構成される。光はいずれも垂直および水平に偏光され垂直散乱の散乱光強度が6個の測定方位をもって測定される。異なった偏光面間の散乱光強度の差がいわゆるPIDSパターンを提供し、それが粒子大に大きく依存する。それによって光学システムを変更することなく合計で0.04μmないし2000μmの測定範囲が可能になる。151台の検出器が円形に配置されたセグメントから構成され116個のサイズ等級の測定を達成し、それらは対数分割されるとともに従って幾何学的に近似する粒子等級を示すものとなる。多数の粒子等級によって粒子大分布の高解像度分析が可能になる。0.04μmないし2000μmで116個に対数分割された粒子等級の測定範囲は、レーザ回析とPIDS測定のための2個の測定セルの直列接続によって達成される。
【0072】
本発明において使用される平均粒子大は重量中央値(d50)に関するものである。
【0073】
本発明に係る高分子材料は50μm未満の重量平均粒子直径(d50)を有することが好適である。
【0074】
本発明に従って製造される材料は乳化重合によってではなくてコンパウンド中あるいは溶液中における重合とその後(場合によってはさらに予め乾燥した後の)の粉砕によって製造されるため、一般的に乳化重合によって製造された粒子と比べてより大きな平均粒子直径を有する。従って本発明に従って製造された材料の平均粒子直径は一般的に700nm超、好適には800nm超、さらに好適には900nm超、通常は1μm(1000μm)超となる。
【0075】
本発明に係る材料が特にスルホン酸基の存在によって硫黄含有性である場合、プロトン伝導性付与材料が材料の総重量に対して一般的に0.5ないし50重量%、好適には1ないし40重量%、特に2ないし30重量%の硫黄含有率を有する。
【0076】
本発明に係る材料が特にリン含有酸基、ホスホネート基あるいはホスフェート基の存在によってリン含有性である場合、プロトン伝導性付与材料が一般的に0.5ないし50重量%、好適には1ないし40重量%、特に2ないし30重量%のリン含有率を有する。
【0077】
本発明に係る材料が特に前述した−NR等のアミノ基の存在によって窒素含有性である場合、プロトン伝導性付与材料が材料の総重量に対して一般的に0.25ないし30重量%、好適には0.6ないし20重量%、特に1.0ないし16重量%の窒素含有率を有する。
【0078】
本発明に係る材料の硫黄含有率、リン含有率、および窒素含有率はポリマー中における硫黄、リン、あるいは窒素含有モノマーの含有率に相関する。
【0079】
本発明の好適な一実施形態によれば、本発明に従って使用される高分子材料の窒素含有率は材料の総重量に対して一般的に0.50ないし50重量%となる。
【0080】
加えて、本発明に係るプロトン伝導性付与材料は窒素ガス中で10℃/分の加熱速度による熱重量分析において430℃までに一般的に50重量%超、特に60重量%超の相対重量減少を示すことを特徴とする。さらに、本発明に係る材料は予定されている稼働温度範囲内において熱安定性であることが重要である。
【0081】
熱重量分析は温度および時間に対する試料の質量変化を示す。その際試料は窯内で600℃までの温度まで加熱することができる耐火性の坩堝内に収容される。試料容器はマイクロ秤に接続され、それによって加熱工程中に重量変化を測定することができる。本発明に従って設定された熱重量分析は窒素ガス中において30℃ないし600℃の温度範囲かつ10℃/分の加熱速度で実施した。
【0082】
加えて、本発明に係るプロトン伝導性付与材料は一般的に100ないし10000mPa、好適には300ないし6000mPa、特に好適には600ないし4000mPaの振動測定によって判定される貯蔵弾性係数G′を有し、この貯蔵弾性係数は下記のようにして判定される。
【0083】
本発明の枠内において振動測定による貯蔵弾性係数G′の判定は、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド/PBI(ポリ−[2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])中で85.67:14.3:1.43(N,N−ジメチルアセトアミド:PBI:プロトン伝導性付与材料)の重量比で拡散させた材料に対して実施する。この際アントンパールジャーマニー有限会社製のレオメータMCR301上で流動試験が実施される。
【0084】
下記の各ステップを含んだプログラムを使用した:
【0085】
ステップ1:γ=0.1%、f=1Hz、T=30℃、10個の測定点、貯蔵弾性係数が判定されるまで自動測定点持続時間。
【0086】
ステップ2:γ=0.1s−1、T=30℃、10個の測定点、ずり速度γ=0.1s−1で動的粘性ηが判定されるまで測定点持続時間5s。
【0087】
ステップ3:γ=0.1...100s−1(線形)、T=30℃、10個の測定点、ずり速度γ=100s−1で動的粘性ηが判定されるまで測定点持続時間2s。
【0088】
ステップ4:γ=100s−1、T=30℃、5個の測定点、測定点持続時間5s。
【0089】
測定球体CP50−1(SN9672)を使用し0.05mmのギャップ高で測定した。
【0090】
本発明の別の実施形態によれば、プロトン伝導性付与材料はN,N−ジメチルアセトアミド/PBI(ポリ−[2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])中で85.67:14.3:1.43(N,N−ジメチルアセトアミド:PBI:プロトン伝導性付与材料)の重量比で拡散させた際に30℃の温度で一般的に1000ないし10000mPa・s、好適には2000ないし9000mPa・s、特に好適には3500ないし7500mPa・sの回転測定法によって判定された粘度η(0.1s−1)を有する。
【0091】
本発明の別の実施形態によれば、プロトン伝導性付与材料はN,N−ジメチルアセトアミド/PBI(ポリ−[2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])中で85.67:14.3:1.43(N,N−ジメチルアセトアミド:PBI:プロトン伝導性付与材料)の重量比で拡散させた際に30℃の温度で一般的に2000ないし8000mPa・s、好適には3000ないし6500mPa・s、特に好適には3500ないし5500mPa・sの回転測定法によって判定された粘度η(100s−1)を有する。
【0092】
加えて、本発明に係るプロトン伝導性付与材料は30℃の温度で一般的に1ないし5、好適には1ないし3、特に好適には1ないし1.8の剪断係数η(0.1s−1)/η(100s−1)を材料が有することが極めて有効である(前述のようにN,N−ジメチルアセトアミド/PBI(ポリ−[2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])中(85.67:14.3:1.43(N,N−ジメチルアセトアミド:PBI:プロトン伝導性付与材料)の重量比で拡散)で測定)。この測定結果(剪断係数)から意外なことに殆どニュートン流体が明確となる。このことは粒子とDMAc−PBI混合物との高い相溶性が証明するものである。すなわち、本発明に係る粒子がDMAc−PBI混合物との間で高い相溶性を有することが証明される。
【0093】
本発明に係るプロトン伝導性付与材料はコンパウンド中におけるラジカル重合または溶液中における重合によって生成することが好適である。
【0094】
好適な実施形態によれば、プロトン伝導性を付与する官能基を有するモノマーを少なくとも1種類含んだモノマーをコンパウンド中あるいは溶液中で重合し、得られた高分子材料に必要に応じて重合後に粉砕処理を施す方法によってプロトン伝導性付与高分子材料を製造する。
【0095】
コンパウンド中におけるラジカル重合に際しては、希釈していないモノマーを熱、光学、あるいはラジカル生成剤あるいは開始剤の添加によって重合するが、本発明において好適には前述したようにラジカル生成剤の添加によって実施する。ラジカル生成剤の分量はモノマーの総重量に対して例えば0.01ないし10重量%、特に0.1ないし4重量%となる。重合は大抵液体の形態あるいは気相の状態で実施される。従って固形物重合に際して適宜に純粋な原料を付加することによって高い純度のポリマーが生成されるが、この反応は放出される高い反応熱とポリマーの高い粘度および低い熱伝導性のため場合によって扱い難いものとなる。
【0096】
溶液重合によれば固形物重合に比べてより良好な排熱の制御がもたらされる。ここでモノマーは不活性の溶媒中で重合される。この溶媒は所要の重合温度で沸騰するように選択することができる。従って放出される重合熱が溶媒の沸騰熱によって補償される。また、完全な転化の達成後にもポリマー溶液が依然として撹拌可能であるように粘度を選択することもできる。
【0097】
溶液重合に適した溶媒は変換されるモノマーの種類に依存し、例えば水および/または有機溶媒から選択される。溶媒は50ないし150℃、特に60ないし120℃の沸点を有することが好適である。溶媒として特にメタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノール、n−ブタノールおよびイソブタノール等のアルコールで中でも特にイソプロパノールおよび/またはイソブタノール、ならびにトルエンおよびベンジン等の炭化水素で、60ないし120℃の沸点のものが好適である。さらに、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および例えば酢酸エチルエステル等のエステル、およびそれらの混合物を使用することができる。ポリマーは重合に際して沈下するかあるいは溶液中に滞留することができる。本発明によれば、重合に続いて溶媒の分離を実施することが好適である。
【0098】
プロトン伝導性付与材料を好適にはコンパウンド中の重合または溶液中の重合によって製造した後、得られた高分子材料に粉砕処理を施すことが好適である。
【0099】
粉砕処理の種類および方式は本発明において特に限定されることはなく、特に磨砕、ミル、パールミル、トリプルロールミル、ディソルバ、バキュームディソルバ、ウルトラタラックス、ホモゲナイザ、および/または高圧ホモゲナイザによって実施することが好適である。
【0100】
本発明によれば特に、好適にはコンパウンド中の重合または溶液中の重合によって製造されたプロトン伝導性付与材料に対して少なくとも二段階の粉砕処理を施すことが好適である。
【0101】
本発明によれば粉砕は例えば選択的にまず第1の粉砕工程において得られた材料を好適にはコンパウンドとしてミル内で粉砕し;続いて第2の粉砕工程において例えばディソルバ、バキュームディソルバ、あるいはウルトラタラックスを使用して例えば有機溶媒等の分散媒中でさらに粉砕を実施し、さらに第3の粉砕工程において分散媒中の本発明に係る材料の分散体に対して例えば100バール超、特に500バール超、さらに好適には800バール超の圧力で動作する高圧ホモゲナイザ、パールミル、あるいはトリプルロールミル、中でも特に高圧ホモゲナイザを使用した処理を施す(前述したホモゲナイザは高圧ホモゲナイザに比べて低い圧力、特に100バール未満で動作する)。
【0102】
本発明に係るプロトン伝導性付与材料のミリング(粉砕)は、ロータを使用しその後ホモゲナイザを使用して低い圧力をもって水中あるいは例えばN,Nジメチルアセトアミド等の有機媒体中で複数回実施することもできる。
【0103】
好適な実施形態によれば、粉砕に際して所要の平均粒子大を有する材料を分離するために1つあるいは複数の篩を使用することができる。
【0104】
従って前述した所要の粒子大を得るために、本発明によれば粉砕に際して適宜な大きさを有する材料を分離するために適宜な目幅を有する篩を使用することが好適である。
【0105】
コンパウンド中または前述したモノマーの溶液中におけるラジカル重合と好適にはその後の粉砕によって材料を得る方法によってプロトン伝導性付与材料を製造することが好適である。前述した結合剤を使用することが好適である。本発明に係る高分子材料は、必要に応じて溶媒の除去を実施した後乾燥し、特に微細な粉末として提供することが好適である。また前述したように溶媒中の分散体として提供することもできる。
【0106】
成形体、薄膜あるいは皮膜等の形態のポリマーマトリクス内に、本発明に従って使用されるプロトン伝導性付与材料を1:99ないし99:1、特に10:90ないし90:10、特に好適には20:80ないし80:20のマトリクスポリマー:ポリマー粒子の比率で含有することが可能である。本発明に従って使用されるポリマー粒子の分量は例えば薄膜のプロトン伝導性等の必要とされる成形体の性質に依存する。
【0107】
好適なマトリクスポリマーは例えば標準熱可塑性樹脂等の熱可塑性ポリマー、いわゆるテクノ熱可塑性樹脂、およびいわゆる高機能熱可塑性樹脂(H.G.エリアス著、「マクロモレキュラー」第2集第5版、1991年、ヒュティヒ&ヴェプ出版、第443頁−参照)等であり、例えばポリプロピレン;HDPE,LDPE,LLDPE等のポリエチレン;PU,PC,EVM,PVA,PVAC,ポリビニルブチラール,PET,PBT,POM,PMMA,PVC,ABS,AES,SAN,PTFE,CTFE,PVF,PVDF,ポリビニルイミダゾール,ポリビニルピリジン,ポリイミド,特にPA−6(ナイロン),好適にはPA−4,PA−66(ペルロン),PA−69,PA−610,PA−11,PA−12,PA−612,PA−MXD6等のPA,特に(前記1991年、ヒュティヒ&ヴェプ出版、第441−443頁および第447頁参照)ポリプロピレン等のポリスチロール類および極性熱可塑性材料;HDPE(高密度ポリエチレン),LDPE(低密度ポリエチレン),LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等のポリエチレン;ポリウレタン(PU),ポリカーボネート(PC),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),または例えばポリイミドベースの熱祖可塑性エラストマ(TPE−A),熱可塑性ポリウレタンエラストマ(TPE−U),エチレンビニルアセテート共重合体(EVM),ポリビニルアセテート(PVA/PVAC),ポリビニルブチラール,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリオキシメチレン(POM),ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリビニルクロライド(PVC),アクリルニトリルブタジエンスチロール(ABS)、EPDMエラストマ(AES)の存在下におけるスチロール+アクリルニトリルのポリマー,スチロールアクリルニトリル(SAN),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリ(クロロトリフルオロエチレン)(CTFE),ポリビニルフルオライド(PVF),ポリビニリデンフルオライド(PVDF),ポリビニルイミダゾール,ポリビニルピリジン,ポリイミド,特にPA−6(ナイロン),好適にはPA−4,PA−66(ペルロン),PA−69,PA−610,PA−11,PA−12,PA−612,PA−MXD6等のポリアミド(PA)等のポリスチロール類および極性熱可塑性材料である。
【0108】
このマトリクスポリマー対本発明に係るプロトン伝導性付与材料の重量比は1:99ないし99:1、特に10:90ないし90:10、特に好適には20:80ないし80:20とすることができる。特に燃料電池用のポリ電解質薄膜内で使用するために適したマトリクスポリマーはポリベンゾイミダゾール(例えば米国特許第4460763号明細書参照)およびアルキル化されたポリベンゾイミダゾールである。
【0109】
本発明に従って使用される高分子材料は、ポリベンゾイミダゾール(PBI)ベースで燃料電池薄膜用の添加剤として使用することが好適である。
【0110】
本発明に従って使用される高分子材料はさらに燃料電池の電極を製造するための添加剤として使用することが好適である。
【0111】
本発明に従って使用される高分子材料はさらに燃料電池のガス拡散電極を製造するための添加剤として特にガス拡散電極の触媒層内で使用することが好適である。
【0112】
本発明に係るプロトン伝導性付与材料は特に添加剤として燃料電池薄膜内で使用することができる。そこでしばしば使用されるポリベンゾイミダゾールと異なって本発明に係る材料は過度に高い結合度を伴わない柔軟なポリマー鎖を有する。本発明に係る材料上およびポリベンゾイミダゾール上のプロトン化された塩基性の中心が同符号の電荷のため互いに反発し、ポリマー鎖の延伸をもたらす。従って溶媒和作用によって水とリン酸を結合することができる。加えて、本発明に係る材料は薄膜内において一種の吸上作用をもたらし、それが液体、すなわち例えばリン酸を吸収材内に誘導する。その種の吸上作用は一種の毛細管圧力に類似しており、膨潤する材料が膨潤液に対して高い親和性を有する、すなわち良好に膨潤可能である場合に最も大きくなる。
【0113】
ポリマー中の水と外部の間の濃縮度差あるいは電位差から生じる熱力学圧力がポリマー鎖を延伸された通常の配置から再び非正常で団塊化した配置に回帰させる圧力と等しくなった場合に、例えば水あるいは一般的に分散媒のポリマー中への分散が破裂をもたらす。ポリマーの延伸と容積の拡大に寄与する重要なメカニズムは、本発明に係る材料が好適に含んでいるイオン官能基の特性に起因する。ポリマー鎖上に結合された、イオン、例えば負に帯電したカルボキシレート基、スルホネート基、または正に帯電した第四アンモニウム基はクーロン相互作用のため互いに反発し、その結果ポリマー鎖の延伸に寄与する。延伸したポリマー鎖が再び大きな溶媒和容積を有する。またポリマー鎖上に結合された全てのイオンに対する電荷中立性のために同様に強く溶媒和を有する対イオンが存在しなければならない。
【0114】
本発明はさらに少なくとも1枚のガス拡散層と1枚の触媒層を含むガス透過性かつ導電性の複数の層を備え250℃までの稼働温度に対応するポリマー電解質燃料電池用のガス拡散電極を製造するためのプロトン伝導性付与高分子材料の適用に係り、前記触媒層が前記プロトン伝導性付与高分子材料を含む。その際触媒層は導電性の担体材料と電気触媒を含む。前記触媒層の導電性の担体材料は好適には金属、酸化金属、金属カーバイド、カーボンブラック等の炭素、あるいはそれらの混合物の一群から選択される。電気触媒は好適には、例えば元素周期表の6族および/または8族の亜属金属、特にプラチナおよび/またはルテニウム等の金属および合金の一群の中から選択される。ガス拡散層は好適には炭素であり、特に紙、フリース、格子、メリヤス、および/または繊維等の形態を有する。触媒層は導電性の担体材料と電気触媒の総質量に対して0.2ないし50重量%、特に0.5ないし10重量%のプロトン伝導性付与高分子材料を含むことが好適である。
【0115】
本発明はさらに前述したプロトン伝導性付与高分子材料を含んだ燃料電池用に係る。
【0116】
本発明はさらに前述したプロトン伝導性付与高分子材料を含んでなり少なくとも1枚のガス拡散層と1枚の触媒層を含むガス透過性かつ導電性の複数の層からなるガス拡散電極を備え250℃までの稼働温度に対応するポリマー電解質燃料電池に係り、前記触媒層が前記プロトン伝導性付与高分子材料を含むか、または燃料電池内で使用される薄膜、特にPBI薄膜が前記プロトン伝導性付与高分子材料を含む。その他の薄膜材料は:ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリチノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリ(テトラザピレン)、またはそれらのうちの2つあるいはそれ以上の組み合わせからなり、またリン酸、リン酸派生物、ホスホン酸、ホスホン酸派生物、硫酸、硫酸派生物、スルホン酸、スルホン酸派生物、またはそれらのうちの2つあるいはそれ以上の組み合わせからなる一群の中から選択されるドーピング剤を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明に係る粒子を示した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0118】
次に、以下に記述する非限定的な実施例を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0119】
1. 本発明に係る材料の製造
本発明に係るプロトン伝導性付与材料を表1に従って製造する:
【0120】
【表1】

【0121】
試料(2)のホモポリマーを製造する:
400g(0.235モル)のDMAPMAと0.386g(0.705ミリモル;0.3モル%)の開始剤アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を窒素で洗浄した三つ口フラスコ内に収容し窒素の存在下で撹拌しながら遅速に加熱する。85℃の水槽温度で気泡を形成し破砕しながらAIBNを遅速に溶解し始める。同時に粘度が大きく増加し、その後さらに加熱する。約100℃の水槽温度において材料が固形となり部分的に撹拌器に付着する。170℃の水槽温度においてポリマーの溶融が開始し撹拌器が再び自由になる。この反応をさらに3時間200℃の水槽温度で窒素の存在下において溶融物内で継続する。反応終了後に高温のポリマーを結晶化容器内に注入して硬化させる。冷却後に材料をまず粗目に機械的に破砕し、その後レッチュ社の回転ミルZM100(0.5mmの篩)内で粉砕し、ディソルバを使用してジメチルアセトアミド(DMAc)内に埋入してその後ホモゲナイザAPV1000によって4回にわたって950バールでDMAc内に拡散させる。
【0122】
試料(3)の共重合体を以下のように製造する:
68.0g(0.399モル;96.25phm)のDMAPMAと1.28g(0.0075モル;3.75phm)のTMPTMAと0.210g(1.28ミリモル;0.3モル%)のAIBNを用意し、混合物を加熱水槽内で窒素ガスの存在下において遅速に110℃まで遅速に加熱することによって反応を発生させる。この温度においては気泡生成を伴ったAIBNの反応が確認される。ここで200℃においても溶融しない粉末状の物質が形成される。200℃における反応時間は5時間である。反応終了後に変換されていないモノマーを洗浄するために反応混合物をメタノールで処理する。その後残留物を減圧下において50℃で4時間乾燥させる。転化率は86.2%である。
【0123】
試料(4)の共重合体を以下のように製造する:
68.5g(0.39モル;94phm)のDMAPMAと4.2g(0.012モル;6phm)のTMPTMAと0.210g(1.28ミリモル;0.3モル%)のAIBNを用意し、混合物を加熱水槽内で窒素ガスの存在下において遅速に110℃まで遅速に加熱することによって反応を発生させる。この温度においては気泡生成を伴ったAIBNの反応が確認される。ここで200℃においても溶融しない粉末状の物質が形成される。200℃における反応時間は5時間である。反応終了後に変換されていないモノマーを洗浄するために反応混合物をメタノールで処理する。その後残留物を減圧下において50℃で4時間乾燥させる。転化率は92.6%である。
【0124】
2.測定方法−光散乱
光散乱測定はCoulter LS230SVM(スモールボリュームモジュール)を使用して実施した。このLS230SVMはは160個の対数分割された粒子等級で0.04μmないし2000μmの測定範囲を有し、これはレーザ回析とPIDS測定のための2個の測定セルの直列接続によって達成される。N,N−ジメチルアセトアミド/PBI(ポリ−[2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])中で85.67:14.3:1.43(N,N−ジメチルアセトアミド:PBI:プロトン伝導性付与材料)の重量比で拡散させた数種のポリマーの粒子大を検査し比較する。
【0125】
光散乱測定(重量分布)から以下のパラメータを選択する:
モダリティ: 粒子大分布の極大の数(M=モノモーダル,B=バイモーダル,T=トリモーダル,Mult=マルチモーダル)
mittel: 粒子大分布の平均値(平均粒子直径,相加平均)
max: 粒子大分布の最大における粒子直径(最も頻繁な粒子直径)
10: 粒子大分布の10重量%分の粒子直径
50: 粒子大分布の50重量%分の粒子直径(中央値)
90: 粒子大分布の90重量%分の粒子直径
【0126】
表2に、N,N−ジメチルアセトアミド/PBI(ポリ−[2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジベンゾイミダゾール])中で拡散させた粒子の光散乱測定の結果が示されている。表3には、トルエン中で測定した被検材料のゲル含有率と膨潤係数、ならびに流動検査結果が示されている。
【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
ゲル含有率はトルエンによる連続的な抽出によって判定した。そのため約3gの試料をソックスレー抽出器内に計り入れ16時間溶媒還流内で抽出する。
【0130】
結果数値として抽出物を差分計量によって測定した。
【0131】
膨潤係数を判定するために約250mgのポリマー試料を約1000倍の重量のトルエン中で24時間膨潤させ、その後ひだ付フィルタによって濾過して計量し減圧下において70℃で重量が一定になるまで乾燥させ再び計量した。計量値の差から下記の等式によって膨潤係数が得られる:
【0132】
【数2】

【0133】
相溶性を検査するために試料36,37および43にジメチルアセトアミドを混合して高圧ホモゲナイザによって拡散させその後ポリベンゾイミダゾール(PBI)/ジメチルアセトアミド溶液を混合して撹拌した。続いて、200mmの四角型塗付ナイフを使用して皮膜状に延ばした。乾燥した後この材料は40μmの厚さを有していた。
【0134】
その皮膜は透明で全く濁りがなく、それによって良好な相溶性が証明された。
【0135】
後述の例のために下記のようにして蒸発法によって薄膜を製造した:
注入溶液を製造するために試料36,37あるいは43ならびに595−7をジメチルアセトアミドと混合し、試料36,37あるいは43を含んだジメチルアセトアミド分散液を高圧ホモゲナイザによって拡散させ、その後ポリベンゾイミダゾール(PBI)/ジメチルアセトアミド溶液を混合して撹拌した。その後注入溶液を基膜上に塗付し窒素ガスの存在下で溶媒を蒸発させることによって薄膜を形成した。
【0136】
注入溶液の基膜としてポリエステルフィルムを使用した。このために使用した機器は巻き出し部と塗付ナイフ式塗付装置とフローティングドライヤと巻き付け部とから構成された。注入溶液を塗付装置内に充填し250μmの間隙厚かつ28cmの塗付幅で基膜上に塗付した。薄膜製造に際しての引き出し速度は0.2m/分とした。不活性化されたドライヤ(O含有率=6.0%)と190℃の温度の乾燥ドラムを通過した後30μmないし50μmの層厚を有する薄膜をポリエステルフィルム上に巻き付けることができた。
【0137】
ドーピングのために薄膜片を136.5mm×118.5mmの大きさで打抜き重量を測定した。試料をペトリ皿(直径約20cm)内のテフロンネット中で約70mlの濃リン酸(85%)と混合した。試料を30分間130℃の空気循環オーブン内に載置し、その後試料を酸から取り出してペーパタオルで乾式に浄化し重量を測定した。
【0138】
以下の表4に薄膜検査の結果が示される。
【0139】
【表4】

【0140】
引張応力測定はツヴィック有限会社製のツヴィックI引張応力測定装置によって実施した。乾燥したドーピング無の薄膜に対して200N−測定ヘッドを使用した。各薄膜についてそれぞれ機器引き出し方向に対して縦横各2枚と斜めに1枚の薄膜片を20mm×150mmの寸法で打ち抜いた。5枚の薄膜片についてそれぞれ厚みを測定した。その後試料を引張して測定を開始した。最大引張応力σmax(破断応力)と最大における伸張εσmax(破断伸張)を測定した。以下の測定パラメータを設定した:予応力F=0.5N、引き出し速度ν=5mm/分、測定延長=100mm。
【0141】
導電率測定値σはリン酸でドーピングした薄膜に対して四点接触導電率測定セルによりインピーダンス分光法を使用して判定し、コンピュータプログラムThalesによって評定した。このため2cm×4.5cmの大きさのリン酸によってドーピングした薄膜片を打抜き、厚みを測定した。その薄膜片を前記の導電率セル内に設置した。160℃で測定を行うために導電率セルを熱板で加熱した。
【0142】
1MHzから1Hzのスペクトルを記録した。10Hzにおいて位相ずれが0°となり、10Hzにおけるインピーダンスを抵抗として読み取った。
【0143】
リン酸による膨潤プロセスについての膨潤圧を相対的な厚み増加と相対的な面積拡大から算定した。特定のリン酸吸収における寸法変化を考慮し下記の数式が算定基準として得られる:
【0144】
【数3】

【0145】
ここで上記式のQは面積の寸法変化、Qは厚み変化、kは定数(679バール)である。膨潤圧はポリマー鎖が膨潤に対抗する圧力を示す。従って膨潤し易いポリマーは低い膨潤圧を有し、膨潤し難いポリマーは高い膨潤圧を有する。膨潤圧はポリマー鎖の伸張を反映するものであり、本発明に係る材料によって顕著に低下する。このことは本発明に係る材料がリン酸吸収を改善することを意味している。
【0146】
本発明に係る材料において抽出残留物が顕著に増加し、これが薄膜の顕著な強度上昇につながる。すなわち添加された材料が結合剤として作用する。
【0147】
製造された材料中の結合剤含有率が薄膜中で10%単位の分量で上昇すると膨潤圧が低下、すなわちリン酸による膨潤が増加し、ドーピングされた薄膜の破断応力と破断伸張が上昇し、すなわちドーピングされた薄膜の構造、収縮および膨潤に対する強度を本発明に係る材料の添加によって顕著に向上させることができた。
【0148】
導電率測定における高い導電率値σから薄膜材料としての適性が顕著に示されている。
【0149】
試料のREM吸収によって本発明に係る材料がPBIに対して最高の相溶性を有することが示されている。表5に結果の概要が示されている。
【0150】
【表5】

【0151】
結果として本発明に係る材料を含んだ薄膜がREP−タイプP、すなわち均質であると評価された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池製造に際しての、モノマー単位から形成され不規則な形式を有しているプロトン伝導性付与高分子材料の適用法。
【請求項2】
高分子材料が酸性基および/または塩基によって改質されたモノマー単位から形成される、請求項1記載の適用法。
【請求項3】
高分子材料が下記の処理のうちの少なくとも1つによって架橋結合されたものである請求項1または2記載の適用法:
(a)架橋結合作用を有する多官能価化合物(結合剤)による共有重合、
(b)重合後における架橋結合剤を用いた、または高エネルギー照射による追加的な架橋結合、
(c)高い変換率までの重合の継続、
(d)モノマー流入方式における高い内部変換率を有する重合。
【請求項4】
高分子材料が下記の処理のうちの少なくとも1つによって架橋結合されたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の適用法:
(a)溶融体中あるいは溶液中における架橋結合作用を有する多官能価化合物(結合剤)による共有重合、
(b)重合後における架橋結合剤を用いた、または高エネルギー照射による追加的な架橋結合、
(c)溶融体中あるいは溶液中における高い変換率までの重合の継続、
(d)モノマー流入方式における溶融体中あるいは溶液中での高い内部変換率を有する重合で、架橋結合後に高分子材料に対して少なくとも1回の粉砕工程を実施。
【請求項5】
高分子材料が結合剤によって架橋結合されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の適用法。
【請求項6】
高分子材料がスチロール、エチレングリコールメタクリレートフォスファート(MAEP)、スルホン酸ビニル(VSS)、スルホン酸スチロール(SSS)、ホスホン酸ビニル(VPS)、N−ビニルイミダゾール(VID)、4−ビニルピリジン(VP)、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、アクリルアミド、2−アクリルアミドグリコール酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、アクリル酸−[2−(((ブチルアミノ)−カルボニル)−オキシ)エチルエステル]、アクリル酸−(2−ジエチルアミノエチルエステル)、アクリル酸−(2−(ジメチルアミノ)−エチルエステル)、アクリル酸−(3−(ジメチルアミノ)−プロピルエステル)、アクリル酸−イソプロピルアミド、アクリル酸フェニルアミド、アクリル酸−(3−スルホプロピルエステル)−カリウム塩、メタクリル酸アミド、メタクリル酸−2−アミノエチルエステル−塩酸塩、メタクリル酸−(2−(第3−ブチルアミノ)−エチルエステル)、メタクリル酸−((2−ジメチルアミノ)−メチルエステル)、メタクリル酸−(3−ジメチルアミノプロピルアミド)、メタクリル酸イソプロピルアミド、メタクリル酸−(3−スルホプロピルエステル)−カリウム塩、3−ビニルアニリン、4−ビニルアニリン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、1−ビニル−イミダゾール、2−ビニル−ピリジン、4−ビニル−ピリジン、1−ビニル−2−ピロリドン、5−ビニルウラシル、メタクリル酸グリシドエステル(GDMA)、上記化合物の混合物、上記化合物の塩、ならびに上記化合物の共役酸あるいは共役塩基からなる一群の中から選択される少なくとも1個の化合物に基づいたモノマー単位を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の適用法。
【請求項7】
前記モノマー単位の重量比率が高分子材料中の全てのモノマーユニットの100重量部に対して0.1ないし100重量%となることを特徴とする請求項6記載の適用法。
【請求項8】
高分子材料が塩基および/または酸性基を有するモノマー単位を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の適用法。
【請求項9】
高分子材料は塩基および/または酸性基によって改質された一官能価モノマー単位と、場合によってさらに多官能価モノマー単位(結合剤)とから形成されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の適用法。
【請求項10】
高分子材料は中性あるいは塩基性の結合剤によって架橋結合されることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の適用法。
【請求項11】
ジイソプロペニルベンゾール、ジビニルベンゾール、トリビニルベンゾール、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ジアリルフタレート、トリアリルアミン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、1,2−ポリブタジエン、N,N′−m−フェニレンマレイミド、2,4−トルイレンビス(マレインイミド)、および/またはトリアリルトリメリテート等の少なくとも2個、特に2ないし4個の共重合可能なC=C二重結合を有する多官能価モノマー、特にエチレングリコール、プロパンジオール−1,2、ブタンジオール、ヘキサンジオール、2ないし20個、特に2ないし8個のオキシエチレン単位を有するポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノール−A、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、およびソルビット、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、ジメチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)等の多価、好適には二価ないし四価のC2ないしC10アルコールのアクリレートおよび/またはメタクリレート、脂肪族ジオレンおよびポリオレンからなる不飽和のポリエステル、ならびにマレイン酸、フマル酸、および/またはイタコン酸および/またはポリアリルアミン、からなる一群から選択される結合剤によって高分子材料が架橋結合されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の適用法。
【請求項12】
架橋結合剤を使用した重合後の追加的な架橋結合によって高分子材料を架橋結合し、その際架橋結合剤は:有機過酸化物として過酸化ジキュミル、過酸化t−ブチルキュミル、ビス−(t−ブチル−ペルオキシイソプロピル)ベンゾール、過酸化ジ−t−ブチル、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキシン−3,2,5−ジヒドロペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、ビス−(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、t−ブチルペルベンゾアート、有機アゾ化合物としてアゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビスシクロヘキサンニトリル、硫黄含有結合剤としてジメルカプトおよびポリメルカプト化合物、特にジメルカプトエタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、1,3,5−トリメルカプトトリアジン、および/またはメルカプト終端多硫化ゴムとしてビス−クロロエチルホルマールと多硫化ナトリウムのメルカプト終端転化生成物を含む一群の中から選択されることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の適用法。
【請求項13】
高分子材料が結合剤によって架橋結合され、材料中の全モノマーの重量に対する結合剤の重量比(結合度)が0重量%超、特に0.5重量%超かつ15重量%までとなることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の適用法。
【請求項14】
高分子材料が少なくともN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)をベースにしたモノマー単位を有することを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の適用法。
【請求項15】
高分子材料が少なくともトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)をベースにしたモノマー単位を結合剤として有することを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の適用法。
【請求項16】
高分子材料が少なくともN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド(DMAPMA)とトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)をベースにしたモノマー単位を有することを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の適用法。
【請求項17】
高分子材料が50ないし99重量%のゲル含有率を有することを特徴とする請求項1ないし16のいずれかに記載の適用法。
【請求項18】
高分子材料が50μm未満の重量平均粒子直径(d50)を有することを特徴とする請求項1ないし17のいずれかに記載の適用法。
【請求項19】
高分子材料が0.50ないし50重量%の硫黄含有率を有することを特徴とする請求項1ないし18のいずれかに記載の適用法。
【請求項20】
高分子材料が0.50ないし50重量%のリン含有率を有することを特徴とする請求項1ないし18のいずれかに記載の適用法。
【請求項21】
高分子材料が0.50ないし50重量%の窒素含有率を有することを特徴とする請求項1ないし18のいずれかに記載の適用法。
【請求項22】
高分子材料が0.5ないし50の膨潤係数を有することを特徴とする請求項1ないし21のいずれかに記載の適用法。
【請求項23】
プロトン伝導性を付与する官能基を有するモノマーを少なくとも1種類含んだモノマーをコンパウンド中あるいは溶液中で重合し、得られた高分子材料に必要に応じて重合後に粉砕処理を施す方法によってプロトン伝導性付与高分子材料を製造することを特徴とする請求項1ないし22のいずれかに記載の適用法。
【請求項24】
粉砕プロセスは磨砕、ミル、パールミル、トリプルロールミル、ディソルバ、バキュームディソルバ、ウルトラタラックス、ホモゲナイザ、および/または高圧ホモゲナイザによって実施することを特徴とする請求項23記載の適用法。
【請求項25】
材料に対して少なくとも二段階の粉砕処理を施すことを特徴とする請求項23または24記載の適用法。
【請求項26】
選択的にまず第1の粉砕工程において材料を好適にはコンパウンドとしてミル内で粉砕し、続いて第2の粉砕工程において好適には分散媒中に分散させてディソルバ、バキュームディソルバ、ウルトラタラックス、および/またはパールミル、および/またはトリプルロールミル内で粉砕を実施し、さらに第3の粉砕工程において分散媒中の材料の分散体に対して高圧ホモゲナイザを使用した処理を施すことを特徴とする請求項25記載の適用法。
【請求項27】
粉砕に際して所要の平均粒子大を有する材料を分離するために1つあるいは複数の篩を使用することを特徴とする請求項23ないし26のいずれかに記載の適用法。
【請求項28】
高分子材料を特にポリベンゾイミダゾール(PBI)ベースで燃料電池薄膜用の添加剤として使用することを特徴とする請求項1ないし27のいずれかに記載の適用法。
【請求項29】
高分子材料を燃料電池の電極を製造するための添加剤として使用することを特徴とする請求項1ないし27のいずれかに記載の適用法。
【請求項30】
高分子材料を燃料電池のガス拡散電極を製造するための添加剤として特にガス拡散電極の触媒層内で使用することを特徴とする請求項29記載の適用法。
【請求項31】
請求項1ないし27のいずれかに記載のプロトン伝導性付与高分子材料を少なくとも1種類含んでなる燃料電池。

【図1】
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【公表番号】特表2011−524620(P2011−524620A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514020(P2011−514020)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057467
【国際公開番号】WO2009/153258
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(508271458)エルコマックス メンブランズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】ELCOMAX MEMBRANES GMBH
【出願人】(509251327)ライン ヒェミー ライナウ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【Fターム(参考)】