説明

燃料電池の製造方法

【課題】本発明は、燃料電池の製造方法に関し、カーボンナノチューブ触媒層が傾斜したMEAであってもスタック内部の面圧の分布の不均一化を低減可能な燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】第1の基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜した第1のカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、第2の基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜した第2のカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、前記第1の基板の触媒層形成面と電解質膜の一面とを接合する工程と、前記第2の基板を、前記第1の基板の表面に対して前記第2の基板の表面が平行で、かつ、前記第1の基板の触媒層形成面に対して前記第2の基板の触媒層形成面が平行となるように配置して、前記第2の基板の触媒層形成面と、前記電解質膜の他面とを接合する工程と、前記第1の基板と前記第2の基板とをそれぞれ除去する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の製造方法に関し、より詳細には、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)を含む電極を備える燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、CNTを成長させるための成長用触媒を担持させた基板の面方向垂直にCNTを成長させ、このCNTに電極用触媒を担持させた後に、CNTを電解質膜に熱転写する燃料電池の製造方法が開示されている。また、例えば非特許文献1には、基板の面方向垂直にCNTを成長させるための装置が開示されている。この装置は、一端の閉じた石英管が水平に設置され、この石英管内にガス供給ラインが挿入された構造となっている。石英管内に成長用触媒を担持させた石英基板をセットし、ガス供給ラインから原料ガスを供給することで、石英基板の面方向垂直にCNTを成長させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−257886号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小倉一晃ら著、「垂直配向単層CNT膜の合成と色素増感太陽電池への応用」、第45回日本伝熱シンポジウム講演論文集、2008年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に基板上に成長するCNTの長さは、供給する原料ガスの量が多いほど長くなり、少ないほど短くなる。従って、原料ガスが基板面全体に均等供給できれば、CNTの長さを揃えることができ、CNT触媒層の厚みを均一にできる。しかしながら、非特許文献1においては、ガス供給ラインが石英管の開口端側から閉口端側に向かって挿入された構造となっているので、石英管内部で原料ガスの濃度差が生じる可能性がある。例えば、石英管の開口端側にガス供給ラインのガス供給口が設けられている場合、原料ガスの濃度はその付近において最も濃く、閉口端側ほど薄くなる。そして、このような濃度勾配が生じると、成長用触媒上に成長するCNTの長さが揃わず、傾斜したCNT触媒層ができてしまう。更に、傾斜したCNT触媒層を電解質膜に熱転写すると厚みの不安定な膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう。)ができるので、このようなMEAを組み込んだ燃料電池スタック内部の面圧の分布が不均一となる可能性が高かった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、CNT触媒層が傾斜したMEAであってもスタック内部の面圧の分布の不均一化を低減可能な燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
第1の基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜した第1のカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、
第2の基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜した第2のカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、
前記第1の基板の触媒層形成面と電解質膜の一面とを接合する工程と、
前記第2の基板を、前記第1の基板の表面に対して前記第2の基板の表面が平行で、かつ、前記第1の基板の触媒層形成面に対して前記第2の基板の触媒層形成面が平行となるように配置して、前記第2の基板の触媒層形成面と、前記電解質膜の他面とを接合する工程と、
前記第1の基板と前記第2の基板とをそれぞれ除去する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記第1のカーボンナノチューブ触媒層にガスを供給可能なガス供給部材であって、前記第1の基板の除去後の前記第1のカーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が前記基板除去面に対して平行で、かつ、前記対向面の反対面が前記電解質膜の表面に対して平行な形状の第1のガス供給部材と、前記第1のカーボンナノチューブ触媒層とを接合する工程と、
前記第2のカーボンナノチューブ触媒層にガスを供給可能なガス供給部材であって、前記第2の基板の除去後の前記第2のカーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が前記基板除去面に対して平行で、かつ、前記対向面の反対面が前記電解質膜の表面に対して平行な形状の第2のガス供給部材と、前記第2のカーボンナノチューブ触媒層とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記第1のガス供給部材は、その厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能な第1のガス流路を備え、
前記第1のガス供給部材と前記第1のカーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記第1のガス流路のガス流通方向に沿って下向きに傾斜するように接合することを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第2の発明において、
前記第1のガス供給部材は、その厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能な第1のガス流路を備え、
前記第1のガス供給部材と前記第1のカーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記第1のガス流路のガス流通方向に沿って上向きに傾斜するように接合することを特徴とする。
【0011】
第5の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜したカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、
前記基板の触媒層形成面と電解質膜の表面とを接合する工程と、
前記基板を除去する工程と、
前記カーボンナノチューブ触媒層にガスを供給可能なガス供給部材であって、前記カーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が前記基板除去面に対して平行で、かつ、前記対向面の反対面が前記電解質膜の表面に対して平行な形状のガス供給部材と、前記カーボンナノチューブ触媒層とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第5の発明において、
前記ガス供給部材は、前記ガス供給部材の厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能なガス流路を備え、
前記ガス供給部材と前記カーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記ガス流路のガス流通方向に沿って下向きに傾斜するように接合することを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第5の発明において、
前記ガス供給部材は、前記ガス供給部材の厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能なガス流路を備え、
前記ガス供給部材と前記カーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記ガス流路のガス流通方向に沿って上向きに傾斜するように接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、基板の厚み方向に対して傾斜した第1、第2のカーボンナノチューブ触媒層という2つの触媒層によってMEAの厚みを均一にできる。従って、このようなMEAを組み込んだ燃料電池スタック内部の面圧の分布の不均一化を低減できる。
【0015】
第2、第5の発明によれば、カーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が基板除去面に対して平行で、かつ、上記対向面の反対面が電解質膜の表面に対して平行な形状のガス供給部材を、カーボンナノチューブ触媒層に接合できるので、電極の厚みを均一にできる。従って、このようなMEAを組み込んだ燃料電池スタック内部の面圧の分布の不均一化を低減できる。
【0016】
カーボンナノチューブ触媒層が基板の厚み方向に対して傾斜していると、スタック内部の面圧の分布が不均一となるだけでなく、カーボンナノチューブ触媒層内で触媒目付量の分布も不均一となる。第3、第6の発明によれば、カーボンナノチューブ触媒層の基板除去面を、ガス供給部材のガス流通方向に沿って下向きに傾斜するように接合できる。従って、ガス流通方向の入口側ほど触媒担持量を多くできるので、燃料電池の最大出力を向上させることができる。
【0017】
また、第4、第7の発明によれば、カーボンナノチューブ触媒層の基板除去面を、ガス供給部材のガス流通方向に沿って上向きに傾斜するように接合できる。従って、ガス流通方向の出口側ほど触媒担持量を多くでき、低ガス濃度での発電が容易となるので燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態により製造される燃料電池10の断面構成の模式図である。
【図2】図1のMEA18の断面構成の模式図である。
【図3】燃料電池10の製造方法の各工程を説明するための図である。
【図4】CVD装置内に設置した成長用基板36の表面に平行な方向から原料ガスを供給する場合におけるCVD装置内の模式図である。
【図5】実施の形態1の熱転写方法を説明するための図である。
【図6】実施の形態2のGDL配置方法を説明するための図である。
【図7】実施の形態3のセパレータ配置方法を説明するための図である。
【図8】実施の形態3の変形例のセパレータ配置方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
以下、図1〜図5を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
【0020】
[燃料電池の構成]
先ず、図1を参照して、本実施の形態により製造される燃料電池の構成を説明する。図1は、本実施の形態により製造される燃料電池10の断面構成の模式図である。図1に示すように、燃料電池10は、高分子電解質膜12を備えている。高分子電解質膜12は、例えばパーフルオロスルホン酸樹脂から構成される。高分子電解質膜12の両側には、これを挟むようにアノード電極14、カソード電極16が設けられている。アノード電極14、カソード電極16の詳細な構成については後述する。高分子電解質膜12と、これを挟む一対のアノード電極14、カソード電極16とにより、MEA18が構成される。アノード電極14の外側には、ガスを流通させるためのガス流路が形成されたセパレータ20が設けられている。カソード電極16の外側には、同様にガス流路が形成されたセパレータ22が設けられている。本図においては、上記のように構成されたMEA18とその両側に配置された一対のセパレータ20,22を1組のみ示したが、実際の燃料電池は、MEA18がセパレータ20,22を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0021】
次に、図2を参照して、MEA18の詳細な構成を説明する。図2は、図1のMEA18の断面構成の模式図である。図2に示すように、高分子電解質膜12の表面には、CNT24が複数設けられている。CNT24は、一本のCNTからなり、それぞれが高分子電解質膜12の面方向に対して実質上垂直に配向されることで一つの層を構成している。ここで、高分子電解質膜12の面方向に対して実質上垂直とは、高分子電解質膜12の面方向と、CNT24のチューブ長さ方向とのなす角度が90°±10°であることを意味する。これは、製造時の条件等によって、必ずしも90°とならない場合を含むものである。ただし、実質上垂直に配向されたCNT24には、チューブ長さ方向の形状が直線状のものと、直線状でないものの両方が含まれる。そのため、チューブ長さ方向の形状が直線状でないCNT24の場合には、CNT24の両端面の中心部を結ぶ直線の方向をもってチューブの長さ方向とする。
【0022】
また、図2に示すように、CNT24の外表面には、触媒粒子26が設けられている。触媒粒子26には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等の粒子が使用される。また、CNT24の外表面には、CNT24や触媒粒子26を覆うようにアイオノマー28が設けられている。アイオノマー28は、高分子電解質膜12同様、例えばパーフルオロスルホン酸樹脂から構成される。また、隣り合うアイオノマー28間には、空隙34が形成されている。空隙34が形成されていることで、電気化学反応に必要なガスの流路や、電気化学反応により生じた水の排水路として利用できる。
【0023】
また、図2に示すように、高分子電解質膜12は、CNTの層を隔ててガス拡散層(以下、「GDL」ともいう。)30,32と対向している。GDL30,32は、例えば多孔質の基材から構成され、図1のセパレータ20,22側から供給されたガスをCNTの層に均一に拡散させることができる。GDL30,32は単層から形成されるが、例えばCNTの層に接する側に小さい孔径の多孔質の基材、その外側に大きい孔径の多孔質の基材を設けて二層構造であってもよい。また、GDL30,32は、CNTの層に接する側に撥水層が設けられていてもよい。
【0024】
[燃料電池の製造方法]
次に、図3を参照して、上述した構成の燃料電池10の製造方法の各工程を説明する。燃料電池10は、(i)CNT作製工程、(ii)金属塩溶液滴下工程、(iii)乾燥・焼成還元工程、(iv)アイオノマー分散液滴下工程、(v)乾燥工程、(vi)熱転写工程を経ることで製造できる。以下、これらの各工程について、詳細を説明する。
【0025】
(i)CNT作製工程
本工程は、化学気相成長法(CVD法)を用いて、成長用基板36の面方向に対して実質上垂直にCNT24を配向させる工程である。ここで、成長用基板36の面方向に対して実質上垂直とは、成長用基板36の面方向と、CNT24のチューブ長さ方向とのなす角度が90°±10°であることを意味する。
【0026】
本工程では、先ず、成長用基板36の表面に種触媒38を分散担持させる。ここで、成長用基板36としては、シリコン基板やガラス基板、石英基板等を用いることができる。成長用基板36は、必要に応じて表面を洗浄してもよい。成長用基板36の洗浄方法としては、例えば、真空中における加熱処理等が挙げられる。
【0027】
成長用基板36の表面に分散担持される種触媒38は、CNT24が成長する際の核となるものである。種触媒38は、金属又は合金の微粒子で構成される。種触媒38としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、モリブデン、パラジウム又はこれらの合金が挙げられる。
【0028】
種触媒38の具体的な担持方法としては、次の方法が挙げられる。先ず、種触媒の金属又はこれらの錯体を含む溶液を塗布、電子ビーム蒸着法等によって、成長用基板36の表面に薄膜を形成させる。次に、不活性雰囲気下又は減圧下、成長用基板36を200℃程度で加熱する。これにより、上記の薄膜に含まれる金属を微粒子化させ、分散状態で担持させることができる。種触媒38は、通常、1〜20nm程度の粒径を有している。このような粒径を有する種触媒38とするためには、上記薄膜の膜厚は、1〜10nm程度とすることが好ましい。
【0029】
次に、上記種触媒38を基点として、成長用基板36の表面上にCNT24を成長させる。具体的な成長方法としては、成長用基板36を、CNTの成長に適した所定温度(通常、800℃程度)、不活性雰囲気の空間内に配置した状態で、種触媒38に原料ガスを供給する。これにより、CNT24が種触媒38を起点として成長する。CNT24は、互いに交差することなく成長する。従って、CNT24を成長用基板36の面方向に対し実質上垂直に配向できる。本工程で好ましく使用できる原料ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、アルコール等の炭素源ガスが挙げられる。
【0030】
(ii)金属塩溶液滴下工程
本工程は、CNT24に金属塩の溶液を滴下する工程である。本工程を経ることで、CNT24の表面に、触媒粒子26となる金属の塩(イオン)を注入できる。本工程では、触媒粒子26として列挙した金属のハロゲン物、酸ハロゲン物、無機酸塩、有機酸塩、錯塩等を含む溶液を使用することができる。溶液は、水溶液でも有機溶媒溶液でもよい。例えば、触媒粒子26に白金を用いる場合は、エタノールやイソプロパノール等のアルコール中に塩化白金酸や白金硝酸溶液(例えば、ジニトロジアミン白金硝酸溶液など)等を適量溶解させた白金塩溶液を用いることができる。CNTの表面に白金を均一に分散担持できるという観点から、特に、エタノール中にジニトロジアミン白金硝酸溶液を溶解させた白金塩溶液を用いることが好ましい。
【0031】
なお、ここで説明した工程では、金属塩の溶液を滴下することでCNT24の表面に金属塩を注入させたが、他の方法で注入させることもできる。例えば、金属塩の溶液中にCNT24を浸漬することや、金属塩の溶液をCNT24の表面に噴霧(スプレー)することで、CNT24の表面に金属塩を注入させてもよい。
【0032】
(iii)乾燥・焼成還元工程
本工程は、上記(ii)の工程で注入した金属塩の溶液から溶媒を乾燥除去し、その後、金属塩を焼成還元することでCNT24の表面に触媒粒子26を担持させる工程である。ここで、溶媒を乾燥除去させる方法は特に限定されず、加熱乾燥、真空乾燥等を適宜選択することができる。
【0033】
また、CNT24を所定の条件下で加熱することで金属塩を焼成還元できる。例えば、金属塩として白金を用いた場合には、CNT24を水素雰囲気中で150℃以上に加熱することで還元できる。CNT24にエタノール、メタノール、ギ酸、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、エチレングリコール等の還元剤を添加して還元してもよい。還元剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
なお、ここで説明した工程は、金属塩の溶液を乾燥・焼成還元してCNT24の表面に触媒粒子26を担持させる湿式法を用いたものであるが、乾式法を用いた工程であってもよい。乾式法を用いた工程としては、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法、静電塗装法等が挙げられる。
【0035】
(iv)アイオノマー分散液滴下工程
本工程は、触媒粒子26を担持させたCNT24の表面に、アイオノマー28の溶液を滴下する工程である。アイオノマー28は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やジメチルスルホオキシド(DMSO)といった適当な溶剤に分散ないし溶解させた状態で滴下される。本工程を経ることで、CNT24及び触媒粒子26をアイオノマー28の溶液で被覆できる。スプレー、ダイコーター、ディスペンサー、スクリーン印刷等を用いてCNT24の表面をアイオノマー28の分散溶液で被覆してもよい。
【0036】
(v)乾燥工程
本工程は、アイオノマー28の溶液で被覆したCNT24及び触媒粒子26を真空乾燥する工程である。本工程と、上記(vi)の工程とを繰り返し実施することで、CNT24の表面に所望の厚さのアイオノマー28の層を形成できるので、隣り合うCNT24の間に所望の幅の空隙34が形成されたCNT触媒層40を得ることができる。
【0037】
(vi)熱転写工程
本工程は、プレス機を用い、成長用基板36を高分子電解質膜12に対向させて、CNT触媒層40を高分子電解質膜12に熱転写する工程である。本工程は、具体的に、CNT24の成長端側が高分子電解質膜12の表面に対向するように成長用基板36を配置する。そして、加温しながら成長用基板36上のCNT24と、高分子電解質膜12とをプレスする。これにより、高分子電解質膜12の面方向に対して実質上垂直にCNT24を配向させることができる。CNT触媒層40の熱転写は、高分子電解質膜12の両面に対して行われる。燃料電池10は、この熱転写の後に成長用基板36を剥離し、その剥離面と接するようにGDL30,32やセパレータ20,22を配置することで製造できる。
【0038】
[CNT作製方法に由来する問題点]
ところで、上記(i)CNT作製工程において、供給する原料ガスの濃度[原料ガス流量/(原料ガス流量+不活性ガス流量)]を変化させると、成長用基板36に形成させるCNT24の長さを設計できる。即ち、供給する原料ガスの濃度が高いほどCNT24を長く設計できる。ここで、(i)CNT作製工程に図4に示す方式、即ち、CVD装置内に設置した成長用基板36の表面に平行な方向から原料ガスを供給する方式を採用したと仮定する。
【0039】
そうすると、CVD装置内においては、ガス流入口側に原料ガスが多く、ガス流出口側に少ない状態となる。つまり、原料ガスの濃度勾配が生じることになるので、CNT24の長さがCVD装置のガス出口側に向かうほど短く形成されてしまう。即ち、CNT触媒層40にガス出口側に向かって傾斜する傾斜面が形成されてしまう。傾斜面が形成されたCNT触媒層40を高分子電解質膜12に熱転写すると、厚みの不安定なMEAができることになる。このようなMEAは面圧の分布が不均一であり、そのまま燃料電池に組み込むと、CNT24が局所的に潰れて空隙34が局所的に詰まる原因となってしまう。従って、面圧の分布が不均一なMEAを燃料電池に組み込むと、その電池性能が低下する可能性が高い。
【0040】
そこで、本実施の形態においては、上記(vi)熱転写工程において、図5に示すように、高分子電解質膜12の両側で2つのCNT触媒層40が180°回転対称形となるように熱転写する。こうすることで、2つのCNT触媒層40による層厚の総和を面内で均一にできる。よって、このような配置としたMEAを燃料電池に組み込めば、燃料電池スタック内部の面圧の分布の不均一化を低減できるので、電池性能の低下を防止できる。
【0041】
なお、本実施の形態においては、アノード電極14をCNT触媒層40及びGDL30で構成し、カソード電極16をCNT触媒層40及びGDL32で構成したが、GDL30,32を設けずに、アノード電極14、カソード電極16をCNT触媒層40のみで構成してもよい。
【0042】
実施の形態2.
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態と実施の形態1とでは、実施の形態1においては、2つのCNT触媒層40を高分子電解質膜12の両面に設けたが、本実施の形態においては、CNT触媒層40を高分子電解質膜12の片面にのみ設ける点で異なる。
【0043】
傾斜面が形成されたCNT触媒層40を高分子電解質膜12の片面にのみ設ける場合、実施の形態1の様な効果が期待できない。そこで、本実施の形態では、図6に示すように、傾斜面が形成されたCNT触媒層40に、厚みを傾斜させたGDL30を対向配置することで、面圧の均一なMEA18とする。例えば、厚みを傾斜させた小孔径のGDL30aをCNT触媒層40に対向配置し、大孔径のGDL30bをGDL30aの外側に配置する。こうすることで、MEAの面圧の分布を均一にできるので、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0044】
なお、上述した実施の形態2においては、GDL30が上記第5の発明における「ガス供給部材」に相当している。
【0045】
なお、本実施の形態においては、GDL30の厚みを傾斜させることでMEAの面圧の分布を均一としたが、GDL30を設けない場合には、セパレータ22の厚みを傾斜させることでMEAの面圧の分布を均一としてもよい。本変形例においては、セパレータ22が上記第5の発明における「ガス供給部材」に相当することになる。
【0046】
また、本実施の形態においては、CNT触媒層40を高分子電解質膜12の片面にのみ設ける場合について説明したが、実施の形態1と組み合わせることも可能である。即ち、2つのCNT触媒層40を高分子電解質膜12の両面に設けてMEAとしつつ、厚みを傾斜させたGDL30,32でこのMEAを挟持してもよい。本変形例においては、GDL30が上記第2の発明における「第1のガス供給部材」に、GDL32が上記第2の発明における「第2のガス供給部材」に、それぞれ相当することになる。
【0047】
実施の形態3.
次に、図7、8を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態1や2においては、熱転写方法を工夫することでスタック内部の面圧の分布が不均一となる影響を低減した。しかしながら、CNT触媒層40に傾斜面が形成されれば、スタック内部の面圧の分布が不均一となるだけでなく、CNT触媒層40内で触媒目付量の分布も不均一となる。即ち、CNT触媒層40の層厚が厚い箇所には触媒目付量が多く、薄くなるほど少なくなる。
【0048】
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、CNT触媒層40の配置を工夫することで触媒目付量の分布が均一でないことを利用する。具体的には、上記(vi)熱転写工程において、CNT触媒層40の触媒目付量の多い側がガス流路入口側で、触媒目付量の少ない側がガス流路出口側となるようにセパレータ20,22を配置する。こうすることで、高濃度ガスが、常に触媒目付量の多い側に供給されることになるので、燃料電池10の最大出力を向上させることができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、CNT触媒層40の触媒目付量の多い側がガス流路入口側で、触媒目付量の少ない側がガス流路出口側となるようにセパレータ20,22を配置したが、その配置を逆にしてもよい。即ち、図8に示すように、触媒目付量の多い側がガス流路出口側で、触媒目付量の少ない側がガス流路入口側となるようにセパレータ20,22を配置してもよい。こうすることで、低ガス濃度での発電が容易となるので燃料電池10の耐久性を向上させることができる。
【0050】
また、本実施の形態及びその変形例は、実施の形態1、2と適宜組み合わせることが可能である。例えば、実施の形態1に記載した方法でMEAを製造し、本実施の形態に従ってセパレータ20,22を配置して燃料電池10を製造してもよい。また、例えば、実施の形態2に記載した方法で、CNT触媒層40の外側に厚みを傾斜させたGDL30を配置し、更にその外側に本実施の形態に従ってセパレータ22を配置して燃料電池10を製造してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 燃料電池
12 高分子電解質膜
14 アノード電極
16 カソード電極
18 膜電極接合体(MEA)
20,22 セパレータ
24 カーボンナノチューブ(CNT)
26 触媒粒子
28 アイオノマー
30,32 ガス拡散層(GDL)
34 空隙
36 成長用基板
38 種触媒
40 CNT触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜した第1のカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、
第2の基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜した第2のカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、
前記第1の基板の触媒層形成面と電解質膜の一面とを接合する工程と、
前記第2の基板を、前記第1の基板の表面に対して前記第2の基板の表面が平行で、かつ、前記第1の基板の触媒層形成面に対して前記第2の基板の触媒層形成面が平行となるように配置して、前記第2の基板の触媒層形成面と、前記電解質膜の他面とを接合する工程と、
前記第1の基板と前記第2の基板とをそれぞれ除去する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1のカーボンナノチューブ触媒層にガスを供給可能なガス供給部材であって、前記第1の基板の除去後の前記第1のカーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が前記基板除去面に対して平行で、かつ、前記対向面の反対面が前記電解質膜の表面に対して平行な形状の第1のガス供給部材と、前記第1のカーボンナノチューブ触媒層とを接合する工程と、
前記第2のカーボンナノチューブ触媒層にガスを供給可能なガス供給部材であって、前記第2の基板の除去後の前記第2のカーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が前記基板除去面に対して平行で、かつ、前記対向面の反対面が前記電解質膜の表面に対して平行な形状の第2のガス供給部材と、前記第2のカーボンナノチューブ触媒層とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1のガス供給部材は、その厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能な第1のガス流路を備え、
前記第1のガス供給部材と前記第1のカーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記第1のガス流路のガス流通方向に沿って下向きに傾斜するように接合することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1のガス供給部材は、その厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能な第1のガス流路を備え、
前記第1のガス供給部材と前記第1のカーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記第1のガス流路のガス流通方向に沿って上向きに傾斜するように接合することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項5】
基板上に、前記基板の厚み方向に対して傾斜したカーボンナノチューブ触媒層を形成する工程と、
前記基板の触媒層形成面と電解質膜の表面とを接合する工程と、
前記基板を除去する工程と、
前記カーボンナノチューブ触媒層にガスを供給可能なガス供給部材であって、前記カーボンナノチューブ触媒層の基板除去面に対向させる対向面が前記基板除去面に対して平行で、かつ、前記対向面の反対面が前記電解質膜の表面に対して平行な形状のガス供給部材と、前記カーボンナノチューブ触媒層とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記ガス供給部材は、前記ガス供給部材の厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能なガス流路を備え、
前記ガス供給部材と前記カーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記ガス流路のガス流通方向に沿って下向きに傾斜するように接合することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記ガス供給部材は、前記ガス供給部材の厚み方向に対して垂直方向にガスを流通可能なガス流路を備え、
前記ガス供給部材と前記カーボンナノチューブ触媒層とを、前記基板除去面が前記ガス流路のガス流通方向に沿って上向きに傾斜するように接合することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−3896(P2012−3896A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136374(P2010−136374)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】