説明

燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法

【課題】燃料電池の停止時における電極触媒層の劣化を防止または抑制する。
【解決手段】燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、燃料極側への燃料ガスの供給および燃料極側からのオフガスの排出を遮断し(S102)、燃料極側に残存する水素を消費し(S104)、燃料極側のガス圧が所定値以下まで低下したことを判定し(S110)、燃料極側に外気を導入し(S114)、燃料電池の運転を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は一般に、電解質膜の一方の面に燃料極触媒層と、もう一方の面に酸化剤極触媒層とを電解質膜を挟んで対向するように設け、電解質膜を挟持した各触媒層の外側に拡散層をさらに設けた、膜−電極接合体(MEA)を、原料供給用の流路を設けたセパレータで挟んだ構造を1単位とするいわゆる単セルを有している。通常の燃料電池システムにおいては、この単セルを複数積層させて所望の電力が得られるようにしたセルスタックを使用し、各触媒層に水素、酸素等の原料(以下、原料ガスまたは反応ガスとも称する)を供給して発電する。
【0003】
燃料電池の発電時には、燃料極に供給する燃料ガスを水素、酸化剤極に供給する酸化剤ガスを空気とした場合、燃料極において、水素から水素イオンと電子とが発生する。電子は外部端子から外部回路を通じて酸化剤極に到達する。酸化剤極において、供給される空気中の酸素と、電解質膜を通過した水素イオンと、外部回路を通じて酸化剤極に到達した電子により、水が生成する。このように燃料極及び酸化剤極において電気化学反応が起こり、電池として機能する。
【0004】
ところで、例えば燃料電池の停止時や、高負荷から低負荷への運転モードの変更時など、発電に要する水素および酸素の量が大幅に変化するような場合には、そのシステム制御の手順によっては酸化剤ガスや燃料ガスの過不足などに起因して異常電位が発生し、酸化剤極触媒層や燃料極触媒層の劣化が生じる場合があり、長期的には、燃料電池の耐久性にまで影響を及ぼすこともあり得た。
【0005】
特許文献1には、燃料電池を搭載する車両において、イグニッションスイッチがオフになったことを検知して燃料極側に空気を供給し、改質ガス中のCOによる燃料極触媒の劣化を防止する燃料電池制御装置について開示されている。
【0006】
特許文献2には、燃料電池に接続された外部負荷回路を開くと同時に燃料ガスおよび酸化剤ガスそれぞれに代えて不活性ガスを導入するとともに、放電抵抗回路を閉じて残量酸素および残留水素による発電電流の放電を開始し、残留水素量が不足する前に放電を終了させて燃料電池システムの発電停止させることについて記載されている。
【0007】
特許文献3には、アノード側の水素の一部を圧力容器に移した後でカソード側の圧力をアノード側に見合うように低下させ、次いで圧力容器内の水素を、流量を調節しながら排出させる燃料電池システムについて記載されている。
【0008】
特許文献4には、バイパス配管を通して空気を希釈器に送り、高濃度の水素を希釈器内で希釈しながら外部に排出する燃料電池システムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−241726号公報
【特許文献2】特開平11−26003号公報
【特許文献3】特開2007−73418号公報
【特許文献4】特開2008−300165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、停止時における電極触媒層の劣化を防止または抑制することの可能な燃料電池システム、および燃料電池システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0012】
(1)燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池の運転動作を制御する制御部と、前記燃料極への燃料ガスの供給を制御する燃料ガス供給制御手段と、前記燃料極からのオフガスの排出を制御する燃料ガス排出制御手段と、燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費手段と、燃料極側のガス圧を検知するガス圧検知手段と、を備え、前記制御部が、前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料ガス供給制御手段および前記燃料ガス排出制御手段を制御して前記燃料極への燃料ガスの供給および前記燃料極からのオフガスの排出を遮断し、前記残存水素消費手段により前記燃料極側の水素を消費して、前記燃料極側のガス圧を、少なくとも大気圧と比較して負圧である所定値以下まで低下させた後、前記燃料ガス排出制御手段を開放し、前記燃料極側に外気を導入させる、燃料電池システム。
【0013】
(2)上記(1)に記載の燃料電池システムにおいて、前記残存水素消費手段が、前記燃料電池の外部に、前記燃料電池からの電力を充電可能に設けられたバッテリであり、前記燃料ガス供給制御手段による燃料極側への燃料ガスの供給の遮断後、前記燃料ガス排出制御手段を開放して前記燃料極側に外気を導入させるまで前記バッテリと前記燃料電池とを電気的に接続させる、燃料電池システム。
【0014】
(3)上記(2)に記載の燃料電池システムにおいて、前記燃料電池が、燃料極と酸化剤極とを有する単セルを複数積層させたセルスタックであり、前記燃料ガス供給制御手段による燃料極側への燃料ガスの供給の遮断後、少なくとも前記バッテリと前記燃料電池との電気的な接続を解除させるまで各単セル内の燃料極側をガス循環させる燃料ガス循環流路と、燃料極側に残存する水素量に応じて燃料ガス循環流路内の流速を調整する燃料ガス循環ポンプと、をさらに備える、燃料電池システム。
【0015】
(4)燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、燃料極側への燃料ガスの供給および前記燃料極側からのオフガスの排出を遮断する燃料ガス流通遮断工程と、燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費工程と、燃料極側のガス圧を検知するガス圧検知工程と、所定値以下までガス圧が低下した前記燃料極側に外気を導入する外気導入工程と、を含み、前記燃料電池の運転を停止する、燃料電池システムの制御方法。
【0016】
(5)燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池の運転動作を制御する制御部と、前記燃料極への燃料ガスの供給を調整する燃料ガス供給調整手段と、前記燃料極からのオフガスの排出を調整する燃料ガス排出調整手段と、前記酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費手段と、燃料極側に残存する水素を検知する残存水素検知手段と、前記燃料極側に酸化剤ガスを導入する酸化剤ガス導入手段と、を備え、前記制御部が、前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料ガス供給調整手段および前記燃料ガス排出調整手段を制御して前記燃料極への燃料ガスの供給および前記燃料極からのオフガスの排出を遮断し、前記残存水素消費手段により前記燃料極側の水素濃度を所定値以下まで低下させ、前記酸化剤ガス導入手段を制御して、所定値以下まで水素が消費された前記燃料極側に酸化剤ガスを導入する、燃料電池システム。
【0017】
(6)上記(5)に記載の燃料電池システムにおいて、前記残存水素消費手段が、前記燃料電池の外部に設けられ、前記燃料電池からの電力を充電可能なバッテリであり、燃料極側への燃料ガスの供給の遮断後、前記燃料極側への酸化剤ガスの導入開始まで前記バッテリと前記燃料電池とを電気的に接続させて前記燃料極側に残存する水素を消費する、燃料電池システム。
【0018】
(7)上記(6)に記載の燃料電池システムにおいて、前記燃料電池が、燃料極と酸化剤極とを有する単セルを複数積層させたセルスタックであり、少なくとも前記バッテリと前記燃料電池とを電気的に接続させている間、各単セル内の燃料極側をガス循環させる燃料ガス循環流路と、燃料極側に残存する水素量に応じて燃料ガス循環流路内の流速を調整する燃料ガス循環ポンプと、をさらに備える、燃料電池システム。
【0019】
(8)上記(5)から(7)のいずれか1つに記載の燃料電池システムにおいて、燃料極側内部の温度を検知する温度センサをさらに備え、前記温度センサの検知温度が所定値以上となったときに、前記酸化剤ガス導入手段を制御して前記燃料極側への酸化剤ガスの導入を停止する、燃料電池システム。
【0020】
(9)燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、燃料極側への燃料ガスの供給を遮断する燃料ガス供給遮断工程と、燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費工程と、燃料極側に残存する水素量を検知する残存水素検知工程と、所定量以下まで水素が消費された前記燃料極側に酸化剤ガスを導入する酸化剤ガス導入工程と、を含み、前記燃料電池の運転を停止する、燃料電池システムの制御方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、システム停止時における電極触媒層の劣化を防止または抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池システム100の構成の概略を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池システムの制御方法を例示するフローチャートである。
【図3】燃料極側の目標圧力を決定する手法の一例を説明するための図である。
【図4】本発明の他の実施の形態における燃料電池システム200の構成の概略を示す模式図である。
【図5】本発明の他の実施の形態における燃料電池システムの制御方法を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0024】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構成の概略を示す模式図である。図1において、燃料電池システム100は、燃料電池20と、燃料ガス供給配管12と、燃料ガス排出配管14と、酸化剤ガス供給配管16と、酸化剤ガス排出配管18と、を備えている。
【0025】
本実施の形態において、燃料ガス供給配管12は、水素タンク28からの水素ガスを、圧力および/または流量調整するための水素供給弁26を介して、燃料電池20の燃料極(アノード)側(図示せず)に供給する。一方、酸化剤ガス供給配管16は空気圧縮機30に接続されており、酸化剤極(カソード)側(図示せず)に空気を供給する。他の実施の形態として、燃料ガスとして例えば図示しない改質器からの改質ガスを、酸化剤ガスとして例えば図示しない酸素タンクからの酸素ガスを、燃料電池20における反応ガスとしてそれぞれ供給する構成とすることも可能である。
【0026】
燃料ガス排出配管14により燃料電池20から排出された使用済みの水素(燃料ガスのオフガス)は、水素排出弁34を介して、本実施の形態では、さらに希釈器40を経由して、外部に排出される。図1において、希釈器40はまた、酸化剤ガス排出配管18にも接続されている。燃料電池20の酸化剤極側から排出され、空気排出弁38を介して希釈器40に導入された使用済みの空気(酸化剤ガスのオフガス)により、使用済みの水素ガス中に含まれる水素の濃度を希釈して低下させるとともに、酸化剤極側から排出される排気圧力を利用して、燃料極側からのオフガスを外気に排出させることができる。
【0027】
燃料ガス供給配管12と燃料ガス排出配管14とは、燃料ガス循環配管22によって連通可能に構成され、燃料ガス供給配管12−燃料電池20(単セル10)−燃料ガス排出配管14−燃料ガス循環配管22により一連の燃料ガス循環流路が形成されている。水素循環ポンプ32の作動により各単セル10間の燃料ガスを循環させることができ、各単セル10の燃料極側に残存する燃料ガス中の水素濃度を均一化し、各単セル10における運転状態の偏りに伴う触媒の劣化を抑制することができる。
【0028】
燃料ガス供給配管12には、水素タンク28から燃料電池20に供給される水素ガスの圧力を検出する圧力センサ44が設けられ、酸化剤ガス排出配管18には、燃料電池20から排出される空気のオフガスの圧力を検出する圧力センサ46が設けられている。
【0029】
制御部50は、内部に信号処理を行うCPUとプログラムや制御データを格納する記憶部とを備えるコンピュータであり、単セル10および/または燃料電池20、水素供給弁26、空気圧縮機30、水素循環ポンプ32、水素排出弁34、空気排出弁38はそれぞれ制御部50に接続され、制御部50の指令によって動作するよう構成されている。また、圧力センサ44,46はそれぞれ制御部50に接続され、各センサの検出信号が制御部50に入力されるよう構成されている。
【0030】
制御部50はまた、起動スイッチ42に接続され、起動スイッチ42のオンオフ信号が制御部50に入力されるよう構成されている。起動スイッチ42は、燃料電池システム100を始動停止させるスイッチである。燃料電池システム100が電動車両などの移動体に搭載される場合には通常、イグニッションキーとして設けることができる。
【0031】
本発明の実施の形態において、制御部50には、燃料極側に残存する水素量または濃度を検知する残存水素検知手段(図示せず)を備えている。残存水素検知手段は、例えば通常運転中のクロスリーク量と排気量とを参照し、予め推定しておいた水素供給弁26の閉弁時の残存水素量または量と、残存水素消費手段により消費された水素量とに基づいて残存水素の推定値を算出することができる。また、他の実施の形態として、各単セル10のセル電圧の値および/またはそのセル電圧の偏差に基づいて残存水素の推定値を算出することもできる。さらに別の実施の形態として、燃料極側に図示しない水素センサを配置し、水素濃度または水素量を直接検知することもできる。
【0032】
燃料電池システム100はさらに、制御部50に接続され、制御部50の指令によって動作するよう構成されている残存水素消費手段(図示せず)を備える。残存水素消費手段は、燃料電池20および/または単セル10に電気的に接続可能に設けられており、燃料電池20および/または単セル10との間の電気的接続により各単セル10の燃料極側に残存する水素を消費し、水素濃度を低減させることができる。実施の形態では、残存水素消費手段として、例えば充放電可能なバッテリや、キャパシタ、または補機などの放電抵抗を使用することが可能である。残存水素消費手段は一般に、燃料電池20からの電力を消費または蓄電することにより、単セル10の燃料極側に残存する水素を消費することができるものであればいかなるものであってもよく、本燃料電池システム100の停止時にのみ利用する部材を新たに設置することも可能であるが、部品点数の削減の観点から、例えば燃料電池20の運転時には他の用途にも供されるものを残存水素消費手段として兼用することが好適である。例えば電動車両では一般に、車載され、回生電力の蓄電にも供されているリチウムイオン二次電池などのバッテリを残存水素消費手段として用いることができる。なお、本明細書において、「電動車両」とは、エンジンによる駆動や回生により発電を行う発電機と、バッテリからの電力により作動し駆動輪を駆動するモータとを有するハイブリッド電気自動車(HV:Hybrid Vehicle)や、いわゆる電気自動車(EV:Electric Vehicle)、燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)を含む意である。
【0033】
本発明の実施の形態において、残存水素消費手段による残存水素の消費は、水素供給弁26、水素排出弁34を閉じて水素の供給・排出を遮断した状態にて圧力センサ44により検知された燃料極側の圧力が、制御部50内の記憶部に予め設定された目標値A以下となるまで行われる。このとき、燃料極側の圧力を大気圧Pよりも少なくとも負圧となるようにすると、水素排出弁34の開弁により、燃料ガス排出配管14を介して燃料電池20の燃料極側に外気が導入される。
【0034】
図3に示すように、燃料極側に残存する水素のモル濃度Qに対し、反応に必要となる酸素のモル濃度Qは、その半分、つまりQ=Q/2である。一方、水素排出弁34の開弁により外気から燃料極側に導入される酸素量Oinは、ΔP×Vstack×酸素濃度で表すことができる。ここで、ΔPは、外気の圧力(一般には大気圧)と燃料電池20の燃料極側の圧力との差、Vstackは、配管を含む燃料極側の容積である。このとき、燃料極側の目標圧力値Aが図3に示す領域Tに収まるよう、より具体的にはOin≧Qとなるように設定することにより、燃料電池システム100の停止時における、燃料電池20の燃料極側に残存する水素量をほぼ0にまで低減させることができる。残存水素消費手段による残存水素の消費時間の短縮や、燃料電池20の特にMEAへの負荷の低減などの観点から、実施の形態では、Oin=Qとなるように燃料極側の目標圧力値Aを設定することが好適である。
【0035】
そして、燃料極側への外気の導入が完了したら、水素排出弁34を閉弁して外気の導入を停止させる。燃料極側への外気の導入完了の判定は、例えば、外気の圧力及び燃料極側の内部圧力の程度に応じて燃料極側への外気の導入がどの程度の時間で完了するのかを予め実機試験またはシミュレーションなどにより推定しておき、この時間に到達したか否かにより判定することができる。他の実施の形態では、圧力センサにより検出される燃料極側の圧力の値が、外気と等しくなったか否かにより判定し、外気の導入を停止することもできる。また、他の実施の形態として、燃料極側に図示しない水素センサを配置し、検知した水素濃度または水素量が予め設定した値以下となったか否かで判定することもできる。また、フェールセーフとして、触媒上でHとOとが反応し、異常な温度上昇が発生して燃料極側および/または単セル10の温度が所定値以上となったときに外気の導入を緊急停止する構成を備えることもできる。さらに、別の実施の形態として、各単セル10のセル電圧の値および/または燃料電池20の総電圧が予め設定した値以下となったか否かで判定することもでき、これらのいずれか、または二つ以上を組み合わせて燃料極側への外気の導入完了を判定することができる。
【0036】
このような燃料電池システム100を構成することにより、燃料電池20の停止時における電極触媒や触媒担持体の劣化を抑制することが可能となる。
【0037】
以上のように構成された燃料電池システム100の動作の一例について、図1,2を用いて以下に説明する。
【0038】
まず、起動スイッチ(イグニッションキー)42がオフになったか否かを確認する(S100)。起動スイッチ42がオフになったら、制御部50は、水素供給弁26および水素排出弁34を閉じて、燃料ガスの流通を遮断し(S102)、次いで、燃料電池20または単セル10に残存水素消費手段を電気的に接続させて、各単セル10の燃料極に残存する水素を消費する(S104)。一方、残存水素検知手段では、燃料極側に残存する水素量または濃度を検知する(S106)。燃料極側に残存する水素量または濃度が低下すると、各単セル10の燃料極に残存する水素量に偏りが生じうるため、水素循環ポンプ32を作動させて単セルごとの水素のストイキ比を確保し、セル電圧の安定化を図る。このとき、残存する水素量または濃度の低下に応じて、水素循環ポンプ32を調節し、水素の循環速度を上昇させることが好適である(S108)。
【0039】
圧力センサ44により検知した燃料極側の圧力が、予め設定された値A以下になったか否かを判定し(S110)、所定量以下まで水素が消費されたと判定されると、燃料電池20と残存水素消費手段との電気的な接続を解除する(S112)。次いで、水素排出弁34を開いて燃料電池20の燃料極側に外気を導入する(S114)。燃料極側への外気の導入が完了したと判定されたら(S116)、水素排出弁34を閉じて燃料極側への外気の導入を停止する(S118)。この間、残存水素と導入した外気を混合し、濃度分布の偏りを解消するとともに残存水素と導入した外気中の酸素が触媒上で反応するのを促進するために、水素循環ポンプ32の作動を継続させることが好適である。以上のようにして、図1に示す燃料電池システム100の一連の停止動作が完了する。本実施の形態によれば、電極触媒層の劣化を防止または抑制し、燃料電池システムの停止動作を適切に行うことができる。
【0040】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の形態における燃料電池システムの構成の概略を示す模式図である。図4において、燃料電池システム200は、制御部50に接続され、制御部50の指令によって動作するよう構成されている空気導入弁36と、空気導入弁36により空気の導入を制御することのできる酸化剤ガス導入配管24とをさらに備えることを除き、図1に示す燃料電池システム100とほぼ同様の構成を有している。
【0041】
本発明の実施形態において、燃料電池システム200はさらに、制御部50に接続され、制御部50の指令によって動作するよう構成されている残存水素消費手段(図示せず)を備え、制御部50には、燃料極側に残存する水素量または濃度を検知する残存水素検知手段(図示せず)を備える点については図1に示す燃料電池システム100とほぼ同様であり、その説明については省略する。一方、残存水素検知手段により検知された残存水素の量または濃度が、制御部50内の記憶部に予め設定された目標値B以下となるまで、残存水素消費手段による残存水素の消費が行われる点につき、図1に示す燃料電池システム100と相違している。この目標値Bは例えば、燃料極側に残存する水素が、酸素の存在下でも燃焼しないとされる希薄可燃限界濃度に基づいて設定することができる。希薄可燃限界濃度は一般に、環境温度や圧力などの諸条件により変動するものであり、制御部50内の記憶部に予めこれらの情報をマップとして記憶させておくことも好適である。なお、図4のように希釈器40を備える燃料電池システム200においては、目標値Bは希薄可燃限界濃度よりも高濃度に設定することができる。また、別の実施形態では、環境負荷の低減の観点から、目標値Bを希薄可燃限界濃度よりも低濃度に設定しても良い。
【0042】
酸化剤ガス導入配管24は、残存水素の量または濃度が所定値B以下となるまで消費された燃料電池20の燃料極側に空気を送り込み、燃料極側に残存する水素量または濃度を低減させるためのものである。目標値Bは例えば、燃料極側に残存する水素が、酸素の存在下でも燃焼しないとされる希薄可燃限界濃度に基づいて設定することができる。希薄可燃限界濃度は一般に、環境温度や圧力などの諸条件により変動するものであり、制御部50内の記憶部に予めこれらの情報をマップとして記憶させておくことも好適である。なお、図1のように希釈器40を備える燃料電池システム100においては、目標値Bは希薄可燃限界濃度に相当する水素濃度またはそれに対応する水素量よりも高い水素濃度または水素量に設定することができる。また、別の実施形態では、環境負荷の低減の観点から、目標値Bを希薄可燃限界濃度(または量)よりも低い水素濃度(または量)に設定しても良い。
【0043】
図4に示す本実施の形態では、部品点数の削減や燃料電池システム200の小型化などのために、酸化剤ガス導入配管24が、空気導入弁36を介して酸化剤ガス供給配管16と燃料ガス供給配管12とを連結するように配置されており、空気導入弁36の開弁により、空気圧縮機30からの空気を利用して燃料極側に空気を導入することができる。空気圧縮機30による空気の導入速度または導入流量は、例えば空気圧縮機30の作動に伴い発生する振動および/または騒音が許容できる程度であること、また、少なくとも電極触媒の劣化の抑制に要する程度の空気導入量を確保することが要求される。
【0044】
そして、燃料極側への空気の導入が完了したら、空気導入弁36を閉弁して空気の供給を停止させる。燃料極側への空気の導入完了の判定は、例えば空気導入弁36の開弁前の燃料極側の水素濃度や、燃料極側の容積などに基づいて、燃料ガスのオフガスを置換するのに必要な送気量を予め算出するとともに、燃料極側への空気の導入量が算出した必要な送気量に到達したか否かにより判定することができる。また、他の実施形態として、各単セル10のセル電圧の値および/または燃料電池20の総電圧が予め設定した値以下となったか否かで判定することもできる。さらに別の実施形態として、燃料極側に図示しない水素センサを配置し、検知した水素濃度または水素量が予め設定した値以下となったか否かで判定することもでき、これらのいずれか、または二つ以上を組み合わせて燃料極側への空気の導入完了を判定することができる。
【0045】
このような燃料電池システム200を構成することにより、燃料電池20の停止時における電極触媒や触媒担持体の劣化を抑制することが可能となる。
【0046】
以上のように構成された燃料電池システム200の動作について、図4,5を用いて以下に説明する。
【0047】
まず、起動スイッチ(イグニッションキー)42がオフになったか否かを確認する(S200)。起動スイッチ42がオフになったら、制御部50は、水素供給弁26および水素排出弁34を閉じて、燃料ガスの流通を遮断し(S202)、次いで、燃料電池20または単セル10に残存水素消費手段を電気的に接続させて、各単セル10の燃料極に残存する水素を消費する(S204)。一方、残存水素検知手段では、燃料極側に残存する水素量または濃度を検知し(S206)、水素循環ポンプ32を作動させ、必要に応じて、水素循環ポンプ32を調節し、水素の循環速度を上昇させる(S208)。
【0048】
残存水素検知手段により検知した燃料極側の残存水素の量または濃度が、予め設定された値B以下になったか否かを判定し(S210)、所定量以下まで水素が消費されたと判定されると、燃料電池20と残存水素消費手段との電気的な接続を解除して水素消費を停止する(S212)。このとき、水素循環ポンプ32も停止させることができる。次いで、空気導入弁36を開いて燃料電池20の燃料極側に空気を導入する(S214)。燃料極側への空気の導入が完了したと判定されたら(S216)、空気導入弁36を閉じて燃料極側への空気の導入を停止する(S218)。以上のようにして、図4に示す燃料電池システム200の一連の停止動作が完了する。本実施の形態によれば、空気圧縮機30により燃料極側への空気の導入を行うことができるため、燃料電池システムの停止動作を速やかに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、あらゆる燃料電池システムにおいて好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 単セル、12 燃料ガス供給配管、14 燃料ガス排出配管、16 酸化剤ガス供給配管、18 酸化剤ガス排出配管、20 燃料電池、22 燃料ガス循環配管、24 酸化剤ガス導入配管、26 水素供給弁、28 水素タンク、30 空気圧縮機、32 水素循環ポンプ、34 水素排出弁、36 空気導入弁、38 空気排出弁、40 希釈器、42 起動スイッチ(イグニッションキー)、44,46 圧力センサ、50 制御部、100,200 燃料電池システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池の運転動作を制御する制御部と、
前記燃料極への燃料ガスの供給を制御する燃料ガス供給制御手段と、
前記燃料極からのオフガスの排出を制御する燃料ガス排出制御手段と、
燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費手段と、
燃料極側のガス圧を検知するガス圧検知手段と、
を備え、
前記制御部が、
前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料ガス供給制御手段および前記燃料ガス排出制御手段を制御して前記燃料極への燃料ガスの供給および前記燃料極からのオフガスの排出を遮断し、
前記残存水素消費手段により前記燃料極側の水素を消費して、前記燃料極側のガス圧を、少なくとも大気圧と比較して負圧である所定値以下まで低下させた後、前記燃料ガス排出制御手段を開放し、前記燃料極側に外気を導入させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記残存水素消費手段が、前記燃料電池の外部に、前記燃料電池からの電力を充電可能に設けられたバッテリであり、
前記燃料ガス供給制御手段による燃料極側への燃料ガスの供給の遮断後、前記燃料ガス排出制御手段を開放して前記燃料極側に外気を導入させるまで前記バッテリと前記燃料電池とを電気的に接続させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池が、燃料極と酸化剤極とを有する単セルを複数積層させたセルスタックであり、
前記燃料ガス供給制御手段による燃料極側への燃料ガスの供給の遮断後、少なくとも前記バッテリと前記燃料電池との電気的な接続を解除させるまで各単セル内の燃料極側をガス循環させる燃料ガス循環流路と、
燃料極側に残存する水素量に応じて燃料ガス循環流路内の流速を調整する燃料ガス循環ポンプと、
をさらに備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
燃料極側への燃料ガスの供給および前記燃料極側からのオフガスの排出を遮断する燃料ガス流通遮断工程と、
燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費工程と、
燃料極側のガス圧を検知するガス圧検知工程と、
所定値以下までガス圧が低下した前記燃料極側に外気を導入する外気導入工程と、
を含み、前記燃料電池の運転を停止することを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項5】
燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池の運転動作を制御する制御部と、
前記燃料極への燃料ガスの供給を調整する燃料ガス供給調整手段と、
前記燃料極からのオフガスの排出を調整する燃料ガス排出調整手段と、
前記酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費手段と、
燃料極側に残存する水素を検知する残存水素検知手段と、
前記燃料極側に酸化剤ガスを導入する酸化剤ガス導入手段と、
を備え、
前記制御部が、
前記燃料電池の運転停止時に、前記燃料ガス供給調整手段および前記燃料ガス排出調整手段を制御して前記燃料極への燃料ガスの供給および前記燃料極からのオフガスの排出を遮断し、
前記残存水素消費手段により前記燃料極側の水素濃度を所定値以下まで低下させ、
前記酸化剤ガス導入手段を制御して、所定値以下まで水素が消費された前記燃料極側に酸化剤ガスを導入することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池システムにおいて、
前記残存水素消費手段が、前記燃料電池の外部に設けられ、前記燃料電池からの電力を充電可能なバッテリであり、
燃料極側への燃料ガスの供給の遮断後、前記燃料極側への酸化剤ガスの導入開始まで前記バッテリと前記燃料電池とを電気的に接続させて前記燃料極側に残存する水素を消費することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池が、燃料極と酸化剤極とを有する単セルを複数積層させたセルスタックであり、
少なくとも前記バッテリと前記燃料電池とを電気的に接続させている間、各単セル内の燃料極側をガス循環させる燃料ガス循環流路と、
燃料極側に残存する水素量に応じて燃料ガス循環流路内の流速を調整する燃料ガス循環ポンプと、
をさらに備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
燃料極側内部の温度を検知する温度センサをさらに備え、
前記温度センサの検知温度が所定値以上となったときに、前記酸化剤ガス導入手段を制御して前記燃料極側への酸化剤ガスの導入を停止することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項9】
燃料極に供給される燃料ガス中に含まれる水素と、酸化剤極に供給される酸化剤ガス中に含まれる酸素との電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法であって、
燃料極側への燃料ガスの供給を遮断する燃料ガス供給遮断工程と、
燃料極側に残存する水素を消費する残存水素消費工程と、
燃料極側に残存する水素量を検知する残存水素検知工程と、
所定量以下まで水素が消費された前記燃料極側に酸化剤ガスを導入する酸化剤ガス導入工程と、
を含み、前記燃料電池の運転を停止することを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−14339(P2011−14339A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156623(P2009−156623)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】