説明

燃料電池システムにおける発電方法

【課題】ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止する。
【解決手段】燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、燃料電池スタックにおける発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、炭化水素原料のカーボンと水蒸気との比であるスチーム/カーボン比を定格出力運転時における定格スチーム/カーボン比よりも低い低スチーム/カーボン比に設定し、水素含有ガスのガス流路における燃料電池スタック温度よりも低い露点の水素含有ガスをアノード極に供給する。また、低スチーム/カーボン比は、2.5を下限値とする。また、酸化剤ガスの供給量を定格出力運転時における定格酸化剤ガス供給量と等しくする。また、定格出力運転移行時から所定時間の間は、燃料電池スタック温度を定格出力運転における燃料電池スタックの定格温度よりも高い目標温度に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムにおける発電方法に関し、特にガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる燃料電池システムにおける発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に優しいエネルギー源として、燃料電池システムが注目されている。この燃料電池システムでは、固体高分子電解質膜を挟んでアノード極とカソード極を設けて固体高分子膜・電極接合体(MEA)を構成し、これらのアノード極およびカソード極に通ずるガス流路が形成された燃料電池スタックにより発電が行なわれる。
【0003】
すなわち、炭化水素原料と水蒸気(改質水)との反応によって水素が含まれる水素含有ガスを生成して、この水素含有ガスをアノード極に通じるガス流路から燃料電池スタックに導入し、カソード極に通じるガス流路から酸素を導入して、水素と酸素との電気化学反応により発電が行なわれる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−156298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来起動時において、燃料電池スタックの温度が低い場合には、MEA内およびMEAに通じるガス流路で凝縮水が生成されやすく、ガス流路が結露閉塞して発電不良が起こり易いという問題があった。
そこで、本発明は、前記した問題を解決するため、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる燃料電池システムにおける発電開始方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、改質装置により炭化水素原料と水蒸気とを反応させて生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に供給し、前記水素とカソード極に供給された酸素を含む酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、前記燃料電池スタックにおける発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、前記炭化水素原料のカーボンと前記水蒸気との比であるスチーム/カーボン比を前記定格出力運転時における定格スチーム/カーボン比よりも低い低スチーム/カーボン比に設定し、前記水素含有ガスのガス流路における前記燃料電池スタック温度よりも低い露点の水素含有ガスを前記アノード極に供給すること、を特徴とする。
【0006】
通常、スチーム/カーボン比(S/C)は、最適な定格出力運転時における一定の値に制御されるが、請求項1に係る発明によれば、発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、スチーム/カーボン比を定格出力運転時よりも低く設定して、前記水素含有ガスのガス流路における前記燃料電池スタック温度よりも低い露点の水素含有ガスを前記アノード極に供給することで、ガス流路における水分バランスを調整して凝縮水の生成を抑制することができる。
そして、燃料電池スタックのガス流路(アノード側)における凝縮水の生成を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【0007】
なお、「発電開始時」とは、燃料電池スタックが発電を開始できる所定のスタック温度に到達した時点をいう。また、「定格出力運転時」とは、燃料電池システムを起動して、発電を開始した後、燃料電池スタックが所定の定格出力を発生できる状態に到達した時点をいう。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の燃料電池システムにおける発電方法であって、前記低スチーム/カーボン比は、2.5を下限値としてこの下限値に近付くように設定すること、を特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、低スチーム/カーボン比は、2.5を下限値としてこの下限値に近付くように設定することで、より効果的に凝縮水の生成を抑制しながら、燃料電池システムを安定して運転することができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、改質装置で生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に供給し、前記水素とカソード極に供給された酸素を含む酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、前記燃料電池スタックにおける発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、前記酸化剤ガスの供給量を定格出力運転時における定格酸化剤ガス供給量と等しくすること、を特徴とする。
【0011】
通常、酸化剤ガスの供給量は、燃料電池スタックの出力に比例して設定されるが、請求項3に係る発明によれば、発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、酸化剤ガスの供給量を定格出力運転時における定格酸化剤ガス供給量と等しくし、MEA(固体高分子膜・電極接合体)内の水分バランスを乾燥側に傾けることで、凝縮水の生成を抑制することができる。また、酸化剤ガスの供給量を定格流量と等しくすることで、制御および装置を簡素化することができる。
このようにして、燃料電池スタックのガス流路(カソード側)における凝縮水の生成を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、改質装置で生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に供給し、前記水素とカソード極に供給された酸素を含む酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、発電開始後における定格出力運転移行時から所定時間の間は、前記燃料電池スタック温度を定格出力運転における前記燃料電池スタックの定格温度よりも高い目標温度に設定し、前記所定時間の間における前記目標温度に基づく発熱量を前記定格温度に至るまでに発生する過剰な水分を蒸発させる熱量に等しくすること、を特徴とする。
【0013】
通常、燃料電池スタックの温度を定格温度以上に設定することはないが、請求項4に係る発明によれば、発電開始後における定格出力運転移行時から所定時間の間は、前記燃料電池スタック温度を定格出力運転における前記燃料電池スタックの定格温度よりも高い目標温度に設定することで、前記定格温度に至るまでの低温時に発生しやすい過剰な凝縮水を蒸発させて、凝縮水の結露を抑制することができる。
そして、燃料電池スタックのガス流路における凝縮水の結露を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおける発電方法であって、前記燃料電池スタックに供給される循環水流量を定格出力運転時における定格循環水流量よりも大きく設定すること、を特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、前記燃料電池スタックに供給される循環水流量を定格出力運転時における定格循環水流量よりも大きく設定し、燃料電池スタックの中央部(高温部)と端部(低温部)との温度差をより少なくして、端部における凝縮水の生成を抑制することができる。
そして、燃料電池スタックのガス流路(低温部)における凝縮水の生成を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項4に記載の燃料電池システムにおける発電開始方法であって、前記発電開始時から前記所定時間の終期までの間において、前記循環水流量を前記定格循環水流量よりも大きく設定すること、を特徴とする。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、前記発電開始時から前記所定時間の終期までの間において、前記循環水流量を前記定格循環水流量よりも大きく設定することで、より効果的に燃料電池スタックの中央部と端部との温度差を少なくして、端部(低温部)における凝縮水の生成を抑制することができる。
そして、燃料電池スタックのガス流路(低温部)における凝縮水の生成をより効果的に抑制することで、結露水の閉塞による発電不良を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る燃料電池システムにおける発電方法は、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る燃料電池システム1における発電方法について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。参照する図において、図1は本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の主要構成を示すブロック図である。
【0020】
まず、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の構成について説明する。
燃料電池システム1は、図1に示すように、炭化水素原料に含まれる炭化水素と水蒸気とを反応させて水素を生成する改質装置2と、改質装置2で生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に導入し、この水素とカソード極に導入された酸素との電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタック3と、系内で利用される水を貯留する純水タンク4と、燃料電池スタック3に循環水を供給する循環水ポンプ5と、循環水を加温するヒータ6と、これらの改質装置2、燃料電池スタック3、循環水ポンプ5、およびヒータ6を含む燃料電池システム1の動作を制御する制御装置8と、を備えている。そして、燃料電池システム1は、系統連系インバータIVを介して電力を負荷に供給する。
【0021】
燃料電池システム1において、炭化水素原料には、例えば、水素源としてのエネルギー密度が非常に高く、可搬性および貯蔵性に富む灯油(JIS1号灯油)を使用することができる。ただし、灯油に限定されるものではなく、軽油、重油、アスファルテン、オイルサンド油、メタノール、ナフサ、石炭液化油、石炭系重質油、ガソリン等の液状炭化水素混合物、都市ガス、LPG等の気体状炭化水素混合物などの各種の炭化水素混合物を用いることができる。
【0022】
なお、炭化水素原料である灯油には、改質器21に充填された改質反応触媒(不図示)の機能を阻害する硫黄分が含まれているため、図示しない脱硫装置により、硫黄分を除去した改質灯油に調整して、改質器21に供給される。
【0023】
改質装置2は、図1に示すように、炭化水素原料に含まれる炭化水素分と水蒸気とを反応させて水素ガスと一酸化炭素ガスを含む改質ガスを生成する改質器21と、改質ガスに含まれる一酸化炭素を二酸化炭素に変性してシフトガスを生成するCO変成器22と、残余の一酸化炭素をさらに低減した水素含有ガスを生成するCO除去器23と、を備えている。
【0024】
改質器21には、改質灯油ポンプ24により炭化水素原料である脱硫された改質灯油が供給され、純水タンク4から改質水ポンプ25により流路L1を通って、水蒸気となる改質水が供給される。
そして、改質灯油ポンプ24および改質水ポンプ25の回転数を制御装置8によって制御することで、炭化水素原料のカーボンと水蒸気との比であるスチーム/カーボン比(S/C)を適宜可変する。
【0025】
バーナ21aには、燃焼灯油ポンプ21bにより燃料としての燃焼灯油が供給されるとともに、燃料電池スタック3で使用されなかった未反応の水素が含まれているアノードオフガスが流路L2を通って供給される。また、バーナ21aには、燃焼空気送風機21cにより燃料を燃焼させる燃焼空気が供給される。
このように構成された改質器21は、改質反応触媒の存在下で、例えば、550℃〜700℃の改質処理温度に加熱され、炭化水素原料に含まれる炭化水素と水蒸気とを反応させて、水素ガスと一酸化炭素ガスを含む改質ガスを生成する。
【0026】
CO変成器22は、内部に、酸化鉄、銅−亜鉛系、銅−クロム系等のシフト反応触媒が充填されたシフト反応触媒層を備えている。そして、CO変成器22には、改質器21で生成された改質ガスが導入される。
CO変成器22においては、図示しないシフト反応触媒の存在下に、例えば150〜300℃の温度下で、導入された改質ガス中に含まれる一酸化炭素と水蒸気の発熱反応(CO+HO→CO+H)によって、一酸化炭素を二酸化炭素に変成する。このようにして、CO変成器22では、一酸化炭素濃度を低減させるとともに、さらに水素含有量が増加されたシフトガスを生成する。生成されたシフトガスは、CO除去器23に供給される。
【0027】
CO除去器23は、燃料電池スタック3における電極の被毒の問題を回避するため、図示しないCO選択酸化触媒(PROX反応触媒)の存在下に、PROX空気を導入してCO変成器22から供給されるシフトガス中に微量に存在する一酸化炭素を酸化させて、シフトガスの一酸化炭素濃度をさらに低減させた水素含有ガスを燃料電池スタック3に供給するための装置である。
【0028】
燃料電池スタック3は、CO除去器23から供給される水素含有ガスをガス流路L3からアノード入口弁31を通してアノードに導入する。一方、燃料電池スタック3のカソードには、加湿器(図示せず)によって加湿された空気(酸化剤ガス)をカソード空気送風機32によりカソード入口弁33を通して導入する。
そして、燃料電池スタック3は、触媒を含むアノードとカソードの間に固体高分子電解質膜等の電解質膜を挟装し、アノードに供給される水素含有ガス中の水素と、カソードに供給される空気中の酸素との反応によって水を生成する電気化学反応によって発電を行なう。なお、電気化学反応により生成された生成水は、図示しないイオン交換器により、含まれている金属イオン等の陽イオンを除去し、イオン濃度を低下させて純水タンク4に貯留して再利用される。
【0029】
純水タンク4は、燃料電池スタック3に循環させる循環水を貯留している。そして、貯留された循環水は、循環水ポンプ5により燃料電池スタック3を通って循環される。また、循環水はヒータ6で所定の温度に加温することができる。かかる構成により、循環水を循環させることで、燃料電池スタック3を加温したり、冷却したりすることができる。
【0030】
続いて、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1における発電方法について、図2を参照しながら説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1における発電方法を説明するためのタイムチャートであり、本発明の動作を実線で示し、従来のものを二点鎖線で示す。図2において、横軸は時間の経過を示し、燃料電池システムの起動時から発電を開始して定格出力運転に至る経緯を主として表わす。また、縦軸における各項目欄は燃料電池システム1の作動状態等を概念的に示す。各項目欄において、「スタック電流」は燃料電池スタック3の出力電流を示し、「スタック温度」は燃料電池スタック3の温度を示し、「S/C」はスチーム/カーボン比を示し、「カソード空気流量」はカソードに供給される空気流量(酸化剤ガスの供給量)を示し、「循環水流量」は燃料電池スタックに供給される循環水の流量を示す。
なお、図2において、温度や時間の長さは説明の便宜上一例を示すものであり、誇張して表示する場合がある。
【0031】
本発明の実施形態に係る燃料電池システム1における発電方法は、図2の「スタック電流」の項目に示すように、燃料電池システム1を起動してから(t)、所定のスタック温度(60℃、「スタック温度」の項目を参照)になったときに発電を開始して(t)、その後スタック温度の上昇とともに徐々に出力を増大させながら定格出力運転に移行している(t〜)。
【0032】
スタック温度は、「スタック温度」の項目に示すように、燃料電池スタック3に設けられた図示しない加熱手段、およびヒータ6(図1)により循環水を加温して管理され、燃料電池システム1の起動後から徐々に上昇し、定格温度(73℃)まで加温される(t)。
【0033】
ここで、スタック温度は、発電開始後における定格出力運転移行時(t)から所定時間の間(t〜t)、定格出力運転における燃料電池スタック3の定格温度(73℃)よりも高い目標温度(77℃)に設定されている。
そして、この目標温度(77℃)における定格温度(73℃)よりも高い増加分の温度差(4℃)は、所定時間の間における目標温度に基づく発熱量(t〜tに発生する熱量の増加分)が定格温度に至るまで(t〜t)に発生する過剰な水分を蒸発させる熱量に等しくなるように、燃料電池システム1の仕様等に応じて試験運転およびシミュレーションを行ない適宜設定される。
【0034】
このようにして、スタック温度を定格温度よりも高い目標温度に設定することで、定格温度よりも高い増加分の発熱量により定格温度に至るまでの低温時に発生する過剰な凝縮水を蒸発させて、凝縮水の結露を抑制することができる。
そして、燃料電池スタック3のガス流路における凝縮水の結露を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【0035】
炭化水素原料のスチーム/カーボン比(S/C)は、燃料電池スタック3における発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間(t〜t)、および、定格出力運転に移行してからスタック温度が定格温度に下降するまでの間(t〜t)において、定格出力運転時における定格スチーム/カーボン比(定格S/C)よりも低い低スチーム/カーボン比(低S/C)であるS/C=2.5に設定されている。
【0036】
ここで、低S/C=2.5にしたのは、水素含有ガスのガス流路における燃料電池スタック温度よりも低い露点の水素含有ガスをアノード極に供給して、ガス流路における水分バランスを調整するためである。すなわち、例えば、S/C=3.0の場合は露点が63℃であるのに対し、低S/C=2.5の場合は露点が55℃であり、発電開始時(t)においてスタック温度よりも低い露点の水素含有ガスを供給することで、凝縮水の生成を抑制することができるからである。
そして、燃料電池スタック3のガス流路(アノード側)における凝縮水の生成を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することが可能となる。
【0037】
なお、本実施形態においては、発電開始時(t)から定格出力運転に移行(t)するまでの間だけではなく、タイムラグを見込んで発電開始前から低S/Cとした。また、定格出力運転移行後もスタック温度が定格温度に下降するまでの間(t〜t)は過剰な水分の結露をより確実に抑制するために低S/Cとしているが、これに限定されるものではない。
【0038】
カソード空気流量は、「カソード空気流量」の項目に示すように、発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間(t〜t)において、酸化剤ガスである空気の供給量を定格出力運転時における定格酸化剤ガス供給量(定格流量)と等しくなるように制御されている。
【0039】
このように制御して、MEA(固体高分子膜・電極接合体)内の水分バランスを乾燥側に傾けることで、凝縮水の生成を抑制することができる。また、酸化剤ガスの供給量を定格流量と等しくすることで、制御および装置を簡素化することができる。
このようにして、燃料電池スタック3のガス流路(カソード側)における凝縮水の生成を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することができる。
【0040】
循環水流量は、「循環水流量」の項目に示すように、発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間(t〜t)の他、起動時から発電開始までの間(t〜t)、および、定格出力運転に移行してから燃料電池スタック3の定格温度(73℃)よりも高い目標温度(77℃)に設定されている間(t〜t)において、燃料電池スタック3に供給される循環水流量が定格出力運転時における定格循環水流量(定格流量)よりも大きくなるように制御されている。
ここで、循環水流量は、昇温されにくい燃料電池スタック3の端部の温度を基準として、水素含有ガスの露点よりも燃料電池スタック3の端部温度の方が高くなるように中央部(高温部)と端部(低温部)の温度差を小さくできるように設定することができる。
【0041】
このように、発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間(t〜t)において、循環水流量を定格循環水流量よりも大きくしたのは、燃料電池スタック3の中央部(高温部)と端部(低温部)との温度差をより少なくして、端部における凝縮水の生成を抑制することができるからである。
そして、燃料電池スタック3のガス流路(低温部)における凝縮水の生成を抑制することで、ガス流路の結露閉塞による発電不良を防止することが可能になる。
【0042】
また、起動時から発電開始までの間(t〜t)においても、発電開始時(t)の温度差を低減するために循環水流量を大きくしたが、これに限定されるものではない。
そして、定格出力運転に移行してから燃料電池スタック3の定格温度(73℃)よりも高い目標温度(77℃)に設定されている間(t〜t)においても循環水流量を大きくしたが、発電開始時(t)から定格運転移行時(t)までに発生する過剰な凝縮水を蒸発させて、凝縮水の結露をより確実に抑制することができるからであり、これに限定されるものではない。
【0043】
続いて、本発明の実施形態に係る発電方法と従来の発電方法の動作の相違について、図2を参照しながら、主として起動してから発電開始までに要する時間(t〜t,t′)、および発電開始から定格出力運転に移行するまでの時間(t〜t,t′〜t′)の観点から説明する。
【0044】
従来のスタック電流の推移は、「スタック電流」の項目に示すように、発電開始時(t)においてS/Cが定格の3.0であるから、スタック温度が十分に加温され結露が生じない温度(t′,63℃)になるまで発電を開始できないという問題があった。
【0045】
この点、本発明の実施形態においては、発電開始時(t)において、S/C=2.5に設定し、カソード空気流量を定格流量に等しく設定し、循環水流量を定格流量よりも大きく設定しているため、凝縮水の生成を抑制しガス流路の結露閉塞を防止することができることから、例えば、S/C=2.5における露点55℃に対して5℃の余裕を見ても、スタック電流が60℃になったときに発電を開始することができる。
このため、本発明の実施形態においては、従来よりもτだけ発電開始までに要する時間を短縮することができる。
【0046】
また、従来、発電開始後におけるスタック電流の上昇速度を大きくすると、それに伴って凝縮水が急速に生成されて結露閉塞を誘引するため、スタック電流の上昇速度を大きくすることができないという問題があった(t′〜t′間の上昇速度を参照)。
【0047】
この点、本発明の実施形態においては、発電開始時において、S/C=2.5に設定し、カソード空気流量を定格流量に等しく設定し、循環水流量を定格流量よりも大きく設定しているため、水分バランスを調整して凝縮水の生成を抑制しガス流路の結露閉塞を防止している。また、本発明の実施形態においては、スタック温度を定格温度よりも高い目標温度に設定し、低温時に発生する過剰な凝縮水を蒸発させ結露閉塞を防止している。
このため、本発明の実施形態においては、スタック電流の上昇速度を大きくすることができ、従来よりもτだけ発電開始から定格出力運転に移行するまでの時間を短縮することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。
例えば、前記した実施形態においては、発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、S/C=2.5に設定し、カソード空気流量を定格流量に等しく設定し、スタック温度を定格温度よりも高い目標温度に設定したが、これに限定されるものではなく、それぞれの設定を独立して実施してもそれぞれの設定におけるそれぞれの作用効果を独立して享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の主要構成を示すブロック図である
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池システムにおける発電方法を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 燃料電池システム
2 改質装置
3 燃料電池スタック
4 純水タンク
5 循環水ポンプ
6 ヒータ
8 制御装置
21 改質器
21a バーナ
21b 燃焼灯油ポンプ
21c 燃焼空気送風機
22 CO変成器
23 CO除去器
24 改質灯油ポンプ
25 改質水ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質装置により炭化水素原料と水蒸気とを反応させて生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に供給し、前記水素とカソード極に供給された酸素を含む酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、
前記燃料電池スタックにおける発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、
前記炭化水素原料のカーボンと前記水蒸気との比であるスチーム/カーボン比を前記定格出力運転時における定格スチーム/カーボン比よりも低い低スチーム/カーボン比に設定し、
前記水素含有ガスのガス流路における前記燃料電池スタック温度よりも低い露点の水素含有ガスを前記アノード極に供給すること、
を特徴とする燃料電池システムにおける発電方法。
【請求項2】
前記低スチーム/カーボン比は、2.5を下限値としてこの下限値に近付くように設定すること、
を特徴とする請求項1に記載の燃料電池システムにおける発電方法。
【請求項3】
改質装置で生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に供給し、前記水素とカソード極に供給された酸素を含む酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、
前記燃料電池スタックにおける発電開始時から定格出力運転に移行するまでの間において、
前記酸化剤ガスの供給量を定格出力運転時における定格酸化剤ガス供給量と等しくすること、
を特徴とする燃料電池システムにおける発電方法。
【請求項4】
改質装置で生成された水素を含む水素含有ガスをアノード極に供給し、前記水素とカソード極に供給された酸素を含む酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電を行なう燃料電池スタックを有する燃料電池システムにおける発電方法であって、
発電開始後における定格出力運転移行時から所定時間の間は、
前記燃料電池スタック温度を定格出力運転における前記燃料電池スタックの定格温度よりも高い目標温度に設定し、
前記所定時間の間における前記目標温度に基づく発熱量を前記定格温度に至るまでに発生する過剰な水分を蒸発させる熱量に等しくすること、
を特徴とする燃料電池システムにおける発電方法。
【請求項5】
前記燃料電池スタックに供給される循環水流量を定格出力運転時における定格循環水流量よりも大きく設定すること、
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおける発電方法。
【請求項6】
前記発電開始時から前記所定時間の終期までの間において、
前記循環水流量を前記定格循環水流量よりも大きく設定すること、
を特徴とする請求項4に記載の燃料電池システムにおける発電開始方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−80961(P2009−80961A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247667(P2007−247667)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000000538)株式会社コロナ (753)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】