説明

燃料電池システムの起動方法

【課題】早期から確実に改質を行いアノードの酸化劣化をより確実に防止することのできる燃料電池システムの起動方法を提供する。
【解決手段】炭化水素系燃料を改質して水素含有ガスを製造する、改質触媒層を有する改質器と、水素含有ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する燃料電池システムの起動方法であって、a)改質触媒層の温度を測定しつつ改質触媒層を昇温する工程、b)測定された改質触媒層の温度に基づいて改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出する工程、および、c)該算出された流量の炭化水素系燃料を、改質触媒層に供給して改質し、得られた改質ガスを高温型燃料電池のアノードに供給する工程を有し、炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量が起動完了時の流量になるまで、工程bおよびcを繰り返しながら、炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油等の炭化水素系燃料を改質して得た改質ガスを用いて発電を行う燃料電池システムの起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物電解質形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell。以下場合によりSOFCという。)システムには、通常、灯油や都市ガスなどの炭化水素系燃料を改質して水素含有ガス(改質ガス)を発生させるための改質器と、改質ガスと空気を電気化学的に発電反応させるためのSOFCが含まれる。
【0003】
SOFCは通常、550〜1000℃の高温で作動させる。
【0004】
改質には水蒸気改質(SR)、部分酸化改質(POX)、自己熱改質(ATR)など種々の反応が利用されるが、改質触媒を用いるためには、触媒活性が発現する温度に加熱する必要がある。
【0005】
このように、改質器もSOFCも起動時に昇温する必要がある。特許文献1には水蒸気改質を行うSOFCシステムを効率的かつ短時間で行うことのできるSOFCシステムの起動方法が記載される。
【0006】
なお、水蒸気改質は非常に大きな吸熱反応であり、また、反応温度が550〜750℃と比較的高く、高温の熱源を必要とする。そのため、SOFCの近傍に改質器(内部改質器)を設置し、主にSOFCからの輻射熱を熱源として改質器を加熱する内部改質型SOFCが知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2006−190605号公報
【特許文献2】特開2004−319420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、SOFCシステム起動時にSOFCを作動温度まで昇温する際、セル燃料極の酸化劣化を防止するため、予め水素などの還元性ガスをアノードに流通させることが行われている。
【0008】
昇温時の水素供給源としては、水素ガスボンベ、水素吸蔵・吸着・発生材、電解水素など種々のものが考えられるが、民生用にシステムを普及させることを考えると、燃料改質ガスを供給源とするのが望ましい。
【0009】
起動時に改質器で燃料を改質し、得られた改質ガスをアノード劣化防止のためにSOFCへ供給する場合、例えば間接内部改質型SOFCの場合は、内部改質器からの伝熱によってSOFCも同時に加熱され、その結果アノードが酸化劣化点以上に上昇し、アノードが例えば空気や水蒸気などの酸化性ガス雰囲気下にあった場合には、アノードが酸化劣化する場合がある。よって極力早期から改質ガスを製造することが望まれる。
【0010】
また一方で、炭化水素系燃料が所定の組成まで改質されず、未改質分がSOFCに供給されてしまうと、特に炭化水素系燃料として灯油などの高次炭化水素を用いた場合には、炭素析出による流路閉塞やアノード劣化を引き起こすこともある。このため、起動時においても確実に改質する方法が必要となる。
【0011】
このように、起動時において極力早期から改質ガスを製造することが望まれる一方、確実に改質を行うことが望まれる。これはSOFCに限らず溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)等の高温型燃料電池を有する燃料電池システムについても言えることである。
【0012】
本発明の目的は、改質触媒層を有する改質器と高温型燃料電池とを有する燃料電池システムを起動する方法において、早期から確実に改質を行い、アノードの酸化劣化をより確実に防止することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明により、以下の方法が提供される。
【0014】
(1) 炭化水素系燃料を改質して水素含有ガスを製造する、改質触媒層を有する改質器と、該水素含有ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する燃料電池システムの起動方法であって、
a)改質触媒層の温度を測定しつつ、改質触媒層を昇温する工程、
b)測定された改質触媒層の温度に基づいて、改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出する工程、および、
c)該算出された流量の炭化水素系燃料を、改質触媒層に供給して改質し、得られた改質ガスを高温型燃料電池のアノードに供給する工程を有し、
炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量が起動完了時の流量になるまで、前記工程bおよびcを繰り返しながら、炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量を増加させる
ことを特徴とする燃料電池システムの起動方法。
【0015】
(2)d)工程cで行う改質に必要な流量の、スチームおよび/または酸素含有ガスを、工程cに先だって改質触媒層に供給する工程
をさらに有する(1)記載の方法。
【0016】
(3)前記改質触媒層として、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒層を用い、
起動完了時の流量の炭化水素系燃料を改質する際に、水蒸気改質を行う(1)または(2)記載の方法。
【0017】
(4)前記改質触媒層として、水蒸気改質反応および部分酸化改質反応を促進可能な改質触媒層を用い、
起動完了時の流量より少ない流量の炭化水素系燃料を改質する際に、部分酸化改質または自己熱改質を行う(3)記載の方法。
【0018】
(5)前記改質触媒層として、燃焼を促進可能な改質触媒層を用い、
工程aにおいて、
e)炭化水素系燃料を改質触媒層に供給して燃焼させる工程
を行う(1)から(4)の何れか一項記載の方法。
【0019】
(6)f)工程eに先だって、測定された改質触媒層の温度に基づいて、改質触媒層において燃焼可能な炭化水素系燃料の流量を算出する工程
をさらに有する(5)記載の方法。
【0020】
(7)g)工程eに先だって、工程eで行う燃焼に必要な流量の、酸素含有ガスを改質触媒層に供給する工程
をさらに有する(6)記載の方法。
【0021】
(8)改質触媒層をガス流通方向に沿って分割した複数個の分割領域を考え、
工程aにおいて、改質触媒層の、ガス流通方向に相異なる位置にある複数点の温度を測定し、
工程bにおいて、該複数点の温度に基づいて、該複数個の分割領域のうちの少なくとも一部において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出し、該算出した流量の合計値を前記改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量とする
(1)から(5)の何れか一項記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、改質触媒層を有する改質器と高温型燃料電池とを有する燃料電池システムを起動する方法において、早期から確実に改質を行い、アノードの酸化劣化をより確実に防止することのできる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において用いる燃料電池システムは、炭化水素系燃料を改質して水素含有ガスを製造する改質器と、高温型燃料電池とを有する。改質器は、改質触媒層を有する。高温型燃料電池は、改質器から得られる水素含有ガスを用いて発電を行う。改質触媒層は改質反応を促進可能な改質触媒によって構成される。改質器から得られる水素含有ガスは改質ガスと呼ばれる。
【0024】
〔工程a〕
実際に燃料電池システムを起動する際には、工程aを行う。すなわち改質触媒層の温度を測定しつつ改質触媒層を昇温する。工程aによる温度測定および昇温は起動完了時まで継続される。
【0025】
この昇温の熱源としては、例えば、改質器に設けた電気ヒータを用いることができる。
【0026】
また、改質触媒層に高温流体を流すことによって、改質触媒層を昇温することもできる。例えば、改質に必要な水蒸気および/または空気を、必要に応じて予熱して供給することができる。この予熱の熱源としては、電気ヒータやバーナ等の燃焼器を用いることができる。あるいは、燃料電池システムの外部から、高温流体が供給される場合は、その流体を上記予熱の熱源とすることもできる。
【0027】
あるいは、改質触媒層が燃焼を促進可能であれば、炭化水素系燃料を改質触媒層で燃焼させることによって改質触媒層を昇温することもできる。燃焼ガスは酸化性ガスである。よって、燃焼ガスが燃料電池に流れることによって燃料電池が劣化することを防止する観点から、改質触媒層において燃焼を行うのは、燃焼ガスが燃料電池に流れても燃料電池が劣化しない温度に燃料電池がある場合とする。このために、燃料電池の温度、特には、アノード電極の温度を監視しておき、その温度が劣化のおそれのある温度になった場合には、上記燃焼を停止することができる。
【0028】
さらに、改質ガスが製造された後は、改質ガスを燃焼させた燃焼熱を用いて改質触媒層を昇温することもできる。
【0029】
また改質を開始した後、改質によって発熱する場合には、その発熱によって改質触媒層を昇温することもできる。部分酸化改質を行う場合、また、自己熱改質すなわちオートサーマルリフォーミングにおいて水蒸気改質反応による吸熱よりも部分酸化改質反応による発熱が大きい場合、改質によって発熱する。
【0030】
上記昇温手法を、適宜併用したり、状況に応じて使い分けたりすることもできる。
【0031】
〔工程bおよびc〕
改質触媒層の昇温を開始した後もしくは開始した時点から、工程bおよびcを繰り返して行う。炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量が起動完了時の流量になるまで、工程bおよびcを繰り返しながら、炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量を増加させる。
【0032】
低温のうちは、工程bによって算出した流量が、ゼロである場合もある。このとき、炭化水素系燃料流量の改質触媒層への供給流量はゼロであり、改質ガスの流量もゼロである。つまり工程cにおける改質触媒層への炭化水素系燃料の供給は行わず、従って、高温型燃料電池のアノードへの改質ガス供給も行わない。
【0033】
温度が上昇してくると、触媒の改質活性が発現し始め、比較的少流量の炭化水素系燃料であれば、改質可能となる。つまり、工程bでゼロを超える流量の炭化水素系燃料が算出される。工程cにより、初めて改質触媒層に炭化水素系燃料(ゼロでない流量)を供給する際には、その流量は起動完了時の炭化水素系燃料流量より少ない流量とする。起動運転における最後の工程cでは、起動完了時の炭化水素系燃料流量の炭化水素系燃料を改質触媒層に供給する。
【0034】
このように、本発明では、まず比較的少流量の炭化水素系燃料を改質し、改質ガスを発生させる。つまり起動時に改質量を増加させてゆく。より少ない流量の炭化水素系燃料を改質するには、より低い温度で足りる。よって、昇温のあまり進んでいない時点から、すなわち起動の比較的早期から、還元ガス(改質ガス)を製造することができる。そして、この還元ガスを燃料電池のアノードに供給することにより、早期からアノード劣化を防止することが可能となる。
【0035】
工程cに先だって、工程dを行うことができる。つまり、工程cで流す炭化水素系燃料を改質するために必要な流量の、スチームおよび/または酸素含有ガスを、工程cに先だって改質触媒層に供給することができる。工程bおよびcを繰り返すにあたり、工程bで炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量を算出したら、工程dを行って、次の工程cで供給する流量の炭化水素系燃料を改質するに必要な流量のスチームおよび/または酸素含有ガスを、予め改質触媒層に供給しておくことができる。工程dによって、工程cで供給する炭化水素系燃料を、より確実に改質することが可能である。ただし、この限りではなく、工程cと同時に、工程cにおいて必要な流量のスチームおよび/または酸素含有ガスを供給することもできる。
【0036】
なお、水蒸気改質反応を行う場合、つまり水蒸気改質もしくはオートサーマルリフォーミングを行う場合には、改質触媒層にスチームを供給する。部分酸化改質反応を行う場合、つまり部分酸化改質もしくはオートサーマルリフォーミングを行う場合には、改質触媒層に酸素含有ガスを供給する。酸素含有ガスとしては、酸素を含有するガスを適宜用いることができるが、入手容易性から空気が好ましい。
【0037】
本発明においては、改質を徐々に行うが、必ずしも同じ種類の改質を継続して行う必要はない。例えば、初期にはオートサーマルリフォーミングを行い、途中から水蒸気改質を行うことができる。また、初期には部分酸化改質を行い、途中でオートサーマルリフォーミングに切り替え、さらに水蒸気改質に切り替えることもできる。あるいは、水蒸気改質のみを継続して行うこともできるし、オートサーマルリフォーミングのみを継続して行うこともできるし、部分酸化改質のみを継続して行うこともできる。
【0038】
起動完了時の流量の炭化水素系燃料を改質する際、すなわち燃料電池システムの起動に際して最終的に行う改質において、さらに言い換えれば最後に行う工程cにおいては、水蒸気改質を行うことが好ましい。すなわち、水蒸気改質反応のみ進行させ、部分酸化改質反応は進行させないことが好ましい。起動完了後の通常運転に先立って、改質ガス中の水素濃度を比較的高くすることができるからである。この場合、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒層を用いる。
【0039】
小流量(起動完了時の流量より少ない流量)の炭化水素を改質する際には、部分酸化改質またはオートサーマルリフォーミングを行うことが好ましい。特に、初期、すなわち初めてゼロでない流量の炭化水素系燃料を改質触媒層に供給する時点およびこの時点から引き続くある期間には、部分酸化改質またはオートサーマルリフォーミングを行うことが好ましい。部分酸化改質反応を伴う改質を行うことによって、昇温を早めることができるからである。この場合、水蒸気改質反応および部分酸化改質反応を促進可能な改質触媒層を用いることが好ましい。改質の最終段階において水蒸気改質反応を行うことができ、水素濃度を比較的高くすることができるからである。
【0040】
〔工程e、fおよびg〕
さらに、改質反応に加えて燃焼も促進可能な改質触媒層を用い、工程aにおいて、炭化水素系燃料を改質触媒層に供給して燃焼させる工程eを行うこともできる。つまり改質触媒層における燃焼によって改質触媒層を昇温することができる。この場合も、工程eに先だって、改質触媒層の温度を測定し、その測定温度に基づいて、改質触媒層において燃焼可能な炭化水素系燃料の流量を算出する工程fを行うことが好ましく、算出された流量の炭化水素系燃料を改質触媒層に供給して燃焼を行うことが好ましい。より確実に燃焼を行うことができるからである。このときの流量は、起動完了時の炭化水素系燃料の流量より少なくてよい。
【0041】
また、工程eに先だって、工程eで行う燃焼に必要な流量の、酸素含有ガスを改質触媒層に供給する工程gを行うことが好ましい。これによって工程eにおける燃焼をより確実に行うことができる。
【0042】
〔改質可能な炭化水素系燃料の流量の算出〕
以下、工程bにおいて、測定された改質触媒層の温度に基づいて、改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出する方法に関して説明する。
【0043】
改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量は、その流量の炭化水素系燃料を改質触媒層に供給した場合に、改質触媒層から排出されるガスの組成が、高温型燃料電池に供給するに適した組成になる流量をいう。以下場合により、「改質可能な炭化水素系燃料の流量」を、「改質可能流量」と呼ぶ。
【0044】
例えば、改質触媒層における改質可能流量は、供給した炭化水素系燃料がC1化合物(炭素数1の化合物)まで分解されうる流量の最大値以下の任意の流量とすることができる。すなわち、改質触媒層出口ガスにおけるC2+成分(炭素数が2以上の成分)の濃度が0(ゼロ)ドライモル%である組成になるまで改質触媒層において改質が進みうる場合の、改質触媒層への炭化水素系燃料の供給流量の最大値以下の任意の流量とすることができる。そしてこのとき、改質触媒層出口ガスが還元性になっていればよい。この場合は、炭化水素系燃料がC1成分まで改質され、改質触媒層出口ガスがC2+成分を含まないので、炭素析出による流路閉塞やアノード劣化を防止する観点から好ましい。改質触媒層出口ガス中に、メタンが含まれることは許容される。炭化水素系燃料の改質においては、通常、平衡論上メタンが残留する。改質触媒層出口ガス中に、メタン、COあるいはCO2の形で炭素が含まれていても、必要に応じてスチームを添加することで炭素析出を防止することができる。炭化水素系燃料としてメタンを用いる場合は、改質触媒層出口ガスが還元性になるように、改質が進めばよい。なお、ドライモル%は、水(水蒸気)を除外して計算したモル%を意味する。
【0045】
改質触媒層出口ガスの還元性については、このガスがアノードに供給されても、アノードの酸化劣化を抑えられる程度であればよい。このために、例えば、改質触媒層出口ガス中の水素濃度を5ドライモル%程度とすることができる。
【0046】
改質可能流量は、改質触媒層の温度に依存する。そのため、改質触媒層における改質可能流量の算出は、測定された改質触媒層の温度に基づいて行う。
【0047】
改質触媒層における改質可能流量は、改質触媒層の温度Tの関数(rk(T)もしくは単にrkと表す)として、予め実験により求めることができる。また、実験により求めた関数に安全率を乗じたり、安全側に温度を補正したりしたうえで、改質可能流量とすることもできる。なお、rk(T)の単位は例えばmol/sである。
【0048】
<温度測定点が1点である場合>
・温度測定個所
改質触媒層の温度測定点が一点である場合、改質可能量の算出に用いる温度の測定個所としては、安全側制御の観点から、好ましくは改質触媒層の中で相対的に温度が低くなる箇所、より好ましくは改質触媒層の中で最も温度が低くなる個所を採用することが好ましい。改質触媒層における反応熱が吸熱である場合、温度測定個所として、触媒層中心付近を選ぶことができる。改質触媒層における反応熱が発熱であり、放熱によって中心部より端部の方が低温になる場合、温度測定個所として、触媒層端部を選ぶことができる。温度が低くなる位置は、予備実験やシミュレーションにより知ることができる。
【0049】
改質可能流量rk(T)は、温度Tのみの関数とすることができる。しかしその限りではなく、改質可能流量rkは、温度Tに加えて、触媒層体積やガス成分の濃度などのT以外に変数を持つ関数であってもよい。その場合、改質可能流量rkを計算する際には、T以外の変数を適宜求め、T以外の変数と、測定されたTとから改質可能流量rkを計算することができる。
【0050】
<温度測定点が複数点である場合>
改質可能流量の算出に用いる温度の測定点は一点である必要はない。より正確に改質触媒層における改質可能流量を算出するためには、温度測定点が2点以上であることが好ましい。例えば、改質触媒層の入口温度と出口温度を測定し、これらを平均した温度を前述の改質触媒層温度Tとすることができる。
【0051】
あるいは例えば、改質触媒層をN分割した領域Zi(Nは2以上の整数、iは1以上N以下の整数)を考え、各分割領域Ziの温度Tiを知り、各温度Tiから各分割領域における改質可能流量rki(Ti)を計算し、それらを積算した値を改質触媒層における改質可能流量rkとして計算することができる。
【0052】
N個の分割領域Ziを考える場合、全ての分割領域の改質可能流量を積算してもよく、あるいはN個の分割領域のうちの一部の分割領域のみ積算した値を改質触媒層における改質可能流量rkとして採用してもよい。炭化水素系燃料供給量に応じて、積算対象とする触媒層領域を適宜変えることもできる。例えば、触媒層が上流から加熱されることが予め分かっている場合には、流量が増加するごとに、積算対象とする触媒層領域を上流から増加させることができる。
【0053】
分割領域Ziの温度としては、実際に測定した温度をそのまま用いることもできるが、分割領域の入口温度と出口温度との平均値など、適宜計算した値を代表値として用いることもできる。
【0054】
また、全ての分割領域Ziについて、温度を測定する必要はない。また触媒層分割数Nと温度測定点数は無関係に設定することができる。
【0055】
N個の分割領域のうちの一部について温度を測定し、残りの分割領域については、測定した温度から適宜補完することによって温度を知ることもできる。
【0056】
例えば、温度センサーを設置していない分割領域の温度として、その分割領域に最も近い分割領域の温度を用いることができる。最も近い分割領域が二つある場合には、二つのうちのいずれかの分割領域の温度を用いることもできるし、二つの分割領域の温度の平均値を用いることもできる。
【0057】
分割領域とは無関係に改質触媒層の複数点(ガス流通方向に相異なる位置にある)の温度を測定し、測定した複数点の温度から、各分割領域の温度を知ることもできる。例えば、改質触媒層の入口および出口の温度を測定し(さらに中間部の任意の個所の温度を測定してもよい)、これら測定温度から最小二乗法等の近似法によって改質触媒層の温度を補間し、その補間曲線から分割領域の温度を知ることができる。
【0058】
・改質可能流量算出に用いる温度の測定個所の例
全ての分割領域の温度を知るために、次のような個所の温度を計測することができる。
・各分割領域の入口および出口。
・各分割領域内部(入口および出口より内側)(1点もしくは複数点)。
・各分割領域の入口、出口および内部(一つの分割領域について1点もしくは複数点)。
【0059】
一部の分割領域の温度を知るために、次のような個所の温度を計測することができる。
・一部の分割領域の入口および出口。
・一部の分割領域内部(入口および出口より内側)(1点もしくは複数点)。
・一部の分割領域の入口、出口および内部(一つの分割領域について1点もしくは複数点)。
【0060】
〔燃焼可能な炭化水素系燃料の流量の算出〕
以下、工程fにおいて、測定された改質触媒層の温度に基づいて、改質触媒層において燃焼可能な炭化水素系燃料の流量を算出する方法を説明する。
【0061】
改質触媒層において燃焼可能な炭化水素系燃料の流量は、その流量の炭化水素系燃料を改質触媒層に供給した場合に、その炭化水素系燃料が改質触媒層において完全燃焼し得る流量の最大値以下の任意の流量である。以下場合により、「燃焼可能な炭化水素系燃料の流量」を、「燃焼可能流量」と呼ぶ。
【0062】
<温度測定点が1点である場合>
燃焼可能流量は、改質触媒層の温度に依存する。そのため、改質触媒層における燃焼可能流量の算出は、測定された改質触媒層の温度に基づいて行う。
【0063】
改質触媒層における燃焼可能流量は、改質触媒層の温度Tの関数(ck(T)もしくは単にckと表す)として、予め実験により求めることができる。また、実験により求めた関数に安全率を乗じたり、安全側に温度を補正したりしたうえで、燃焼可能流量とすることもできる。なお、ck(T)の単位は例えばmol/sである。
【0064】
・温度測定個所
改質触媒層の温度測定点が一点である場合、燃焼可能流量の算出に用いる温度の測定個所としては、安全側制御の観点から、好ましくは改質触媒層の中で相対的に温度が低くなる箇所、より好ましくは改質触媒層の中で最も温度が低くなる個所を採用することが好ましい。例えば、放熱によって中心部より端部の方が低温になる場合、温度測定個所として、触媒層端部を選ぶことができる。温度が低くなる位置は、予備実験やシミュレーションにより知ることができる。
【0065】
燃焼可能流量ck(T)は、温度Tのみの関数とすることができる。しかしその限りではなく、燃焼可能流量ckは、温度Tに加えて、触媒層体積やガス成分の濃度などのT以外に変数を持つ関数であってもよい。その場合、燃焼可能流量ckを計算する際には、T以外の変数を適宜求め、T以外の変数と、測定されたTとから燃焼可能流量ckを計算することができる。
【0066】
<温度測定点が複数点である場合>
燃焼可能流量算出に用いる温度の測定点は一点である必要はない。より正確に燃焼可能な炭化水素系燃料の流量を算出するためには、温度測定点が2点以上であることが好ましい。例えば、改質触媒層の入口温度と出口温度を測定し、これらを平均した温度を前述の改質触媒層温度Tとすることができる。
【0067】
あるいは例えば、改質触媒層をN分割した領域Zi(Nは2以上の整数、iは1以上N以下の整数)を考え、各分割領域Ziの温度Tiを知り、各温度Tiから各分割領域における燃焼可能流量cki(Ti)を計算し、それらを積算した値を改質触媒層における燃焼可能流量ckとして計算することができる。
【0068】
なお、ここで考える分割数N、領域Zi、温度Tiは、改質可能流量算出の際に用いる分割数、領域、温度とそれぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0069】
N個の分割領域Ziを考える場合、全ての分割領域の燃焼可能流量を積算してもよく、あるいはN個の分割領域のうちの一部の分割領域のみ積算した値を改質触媒層における燃焼可能流量ckとして採用してもよい。炭化水素系燃料供給量に応じて、積算対象とする触媒層領域を適宜変えることもできる。例えば、触媒層が上流から加熱されることが予め分かっている場合には、流量が増加するごとに、積算対象とする触媒層領域を上流から増加させることができる。
【0070】
分割領域Ziの温度としては、実際に測定した温度をそのまま用いることもできるが、分割領域の入口温度と出口温度との平均値など、適宜計算した値を代表値として用いることもできる。
【0071】
また、全ての分割領域Ziについて、温度を測定する必要はない。また触媒層分割数Nと温度測定点数は無関係に設定することができる。
【0072】
改質可能流量に関する場合と同様、N個の分割領域のうちの一部について温度を測定し、残りの分割領域については、測定した温度から適宜補完することによって温度を知ることもできる。
【0073】
改質可能流量に関する場合と同様、分割領域とは無関係に改質触媒層の複数点(ガス流通方向に相異なる位置にある)の温度を測定し、測定した複数点の温度から、各分割領域の温度を知ることもできる。
【0074】
・燃焼可能流量算出に用いる温度の測定個所の例
全ての分割領域の温度を知るための温度測定個所の例、一部の分割領域の温度を知るための温度測定個所の例ともに、改質可能流量算出に用いる温度の測定個所の例と同様の個所を挙げることができる。
【0075】
以下図面を用いて本発明のより具体的な形態について説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0076】
〔形態1−1〕
ここでは、起動における改質の全ての段階においてオートサーマルリフォーミングを行う。このとき改質反応はオーバーオールで発熱反応とする(部分酸化改質反応による発熱が、水蒸気改質反応による吸熱を上回るようにする)。改質反応熱を利用して改質触媒層、さらにはSOFCの昇温を加速するためである。
【0077】
部分酸化改質反応と水蒸気改質反応とを促進可能な改質触媒層を用いる。
【0078】
図1に示すSOFCシステムは、改質器3およびSOFC6が筐体(モジュール容器)8に収容された間接内部改質型SOFCを有する。改質器3は改質触媒層4を備え、また電気ヒータ9を備える。
【0079】
またこのSOFCシステムは、電気ヒータ2を備える水気化器1を有する。水気化器1は電気ヒータ2による加熱によって水蒸気を発生する。水蒸気は水気化器においてもしくはその下流において適宜スーパーヒートしたうえで改質触媒層に供給することができる。
【0080】
また空気も改質触媒層に供給されるが、ここでは、空気を水気化器で予熱したうえで改質触媒層に供給できるようになっている。水気化器からは、水蒸気を得ることができ、また空気と水蒸気との混合ガスを得ることができる。
【0081】
水蒸気または空気と水蒸気との混合ガスは、炭化水素系燃料と混合されて改質器3、特にはその改質触媒層4に供給される。炭化水素系燃料として灯油等の液体燃料を用いる場合は、炭化水素系燃料を適宜気化したうえで改質触媒層に供給することができる。
【0082】
改質器から得られる改質ガスがSOFC6、特にはそのアノードに供給される。図示しないが、空気が適宜予熱されてSOFCのカソードに供給される。
【0083】
アノードオフガス(アノードから排出されるガス)中の可燃分がSOFC出口において、カソードオフガス(カソードオフガス)中の酸素によって燃焼される。このために、イグナイター7を用いて着火することができる。アノード、カソードともその出口がモジュール容器内に開口している。
【0084】
ここでは、温度センサーとして熱電対を用いる。触媒層4の入口に熱電対Sinが配され、触媒層出口に熱電対Soutが配される。
【0085】
水流量については、炭素析出抑制のため、S/C(改質触媒層に供給されるガス中の炭素原子モル数に対する水分子モル数の比)が所定の値を維持するよう、燃料流量の増加に伴い水流量を増加させるのが好ましい。空気流量については、改質反応がオーバーオールで発熱反応となるよう、燃料流量の増加に伴い空気流量を増加させるのが望ましい。
【0086】
次に示す手順によって、このシステムを実際に起動することができる。
【0087】
1.水気化器に備わる電気ヒータ2により、水気化器1を水が気化可能な温度に昇温する。このとき改質触媒層4には何も供給しない。
【0088】
2.電気ヒータ9により、改質触媒層を昇温する。熱電対SinおよびSoutによる温度監視も開始する。
【0089】
3(工程b).熱電対SinおよびSoutでそれぞれ測定される温度tinおよびtoutを平均し、改質触媒層の温度Tを求める(T=(tin+tout)/2)。そして、このTを用いて改質可能流量rk(T)を算出する。
【0090】
4.水気化器1に水を供給し、水を気化し、得られた水蒸気を改質触媒層4に供給する。ここで供給する水の流量は、工程3で算出したrkと予め定めたS/Cから算出する値とする。最初の工程3で算出されたrkが0の場合は、水気化器への水の流量を0とすることができる。すなわち水蒸気を改質触媒層に供給しないでよい。あるいは、最初の工程3で算出されたrkが0であっても、例えば水蒸気の顕熱により改質触媒層を加熱するために、水気化器に任意の流量の水を供給することもできる。この場合、例えば、水気化器に供給する水の流量を、水を供給するための昇圧手段により安定に供給できる流量の最低値としてもよい。
【0091】
5.改質触媒層4に空気を供給する。ここで供給する空気の流量は、工程3で算出したrkと予め定めたO2/Cから算出する値とする。最初の工程3で算出されたrkが0の場合は、空気の流量を0とすることができる。すなわち空気を改質触媒層に供給しないでよい。あるいは、最初の工程3で算出されたrkが0であっても、例えば空気(予熱された空気)の顕熱により改質触媒層を加熱するために、改質触媒層に任意の流量の空気を供給することもできる。この場合、例えば、改質触媒層に供給する空気の流量を、空気を供給するための昇圧手段により安定に供給できる流量の最低値としてもよい。
【0092】
なお、改質触媒層は、水蒸気および空気の顕熱によっても加熱される。
【0093】
6(工程c).改質触媒層に流量rkの炭化水素系燃料を供給して改質し、得られた改質ガスをSOFCアノードに供給する。
【0094】
改質ガスをSOFCアノードに供給すれば、アノードからアノードオフガス(ここでは改質ガスがそのまま)排出される。アノードオフガスは可燃性であるので、イグナイター7を用いてアノードオフガスに着火し、燃焼させることができる。この燃焼熱によっても改質触媒層が加熱される。これは昇温加速のために好ましい。
【0095】
なお、改質触媒層でオートサーマルリフォーミングを開始した後は、電気ヒータ9の発熱ならびに水蒸気および予熱空気の顕熱に加えて、改質反応による発熱によっても改質触媒層が加熱される。間接内部改質型SOFCシステムの場合、アノードオフガスが燃焼していれば、その燃焼熱を利用して改質触媒層を加熱することもできる。間接内部改質型SOFCシステム以外の場合、例えばアノードオフガスを適宜の燃焼手段で燃焼させた燃焼ガスを改質器周辺へ供給し、改質触媒層を加熱することができる。これらは昇温加速のために好ましい。
【0096】
工程3〜6を繰り返しながら、起動完了時の炭化水素系燃料の流量まで、改質触媒層に供給する炭化水素系燃料の流量を増加させることができる。ただし、工程3(工程b)で算出されるrkがゼロを超えるまでの間は、工程cにおける改質触媒層への炭化水素系燃料供給は行わない。
【0097】
改質器およびSOFCが所定の温度まで昇温されたら、SOFCシステムの起動を完了することができる。
【0098】
SOFCは、改質器から得られる改質ガスの顕熱によって、またアノードオフガスの燃焼熱によって加熱することができる。燃料電池が発電を開始していれば、電池反応による発熱によってもSOFCが加熱される。
【0099】
最後の工程c終了時点で、定格時の空気流量より多い空気を改質触媒層に供給している場合には、最後の工程cで供給している流量の炭化水素系燃料が改質可能な温度に改質触媒層を保持しながら、空気流量を定格流量まで減少させることができる。例えば、最後の工程cにおいては改質反応をオーバーオールで発熱反応にするために定格時の空気流量より多い空気をしておき、定格時には、水蒸気改質反応を主として用いて水素濃度がより高い改質ガスを得るために空気流量を減らす(ゼロにすることも含む)ことができる。定格時には改質反応はオーバーオールで吸熱となるが、アノードオフガスの燃焼熱(発電時にはこれに加えてSOFCからの輻射熱も)によって改質器を加熱することができる。ここで、最後の工程cで供給している流量の炭化水素系燃料が改質可能な温度に改質触媒層を保持するためには、カソードに供給される空気流量、炭化水素系燃料流量、水流量、およびSOFCに電流を流している場合には電流値を増減すればよい。
【0100】
以上説明したようにしてSOFCシステムを起動することにより、まず、比較的小流量の改質原料を投入し、還元性の改質ガスをSOFCに供給することができる。このため、触媒層の加熱に必要な熱量を低減することが容易で、改質ガス発生までの時間を短縮することが容易である。早期に還元性のガスが利用可能となることは、アノードの酸化劣化を防止するためにも有効である。
【0101】
上で説明した例においては、オートサーマルリフォーミングを行い、改質触媒層を加熱する熱として部分酸化改質反応熱を利用している。このため、電気ヒータの発熱のみで改質触媒層を加熱し、水蒸気改質反応を行う場合と比較して電気ヒータのサイズ、電源容量を小さくでき、間接内部改質型SOFCモジュールのサイズをコンパクトに、また構造を簡素にすることができる。なお、SOFCモジュールは少なくともSOFCを筐体(モジュール容器)に収納したものであり、筐体内には必要な配管を収納することができる。間接内部改質型SOFCモジュールでは、筐体内に改質器も収納することができる。
【0102】
また、本形態では、改質触媒層を昇温するために電気ヒータ9を用いているが、水蒸気や空気の顕熱で触媒層が十分に加熱される場合には、電気ヒータ9を用いなくても良い。
【0103】
電気ヒータ9による改質触媒層の加熱開始は、昇温時間短縮のため、極力早い時点から行うことが好ましい。電気ヒータ2によって水気化器を水が気化可能な温度に昇温する工程(工程1)の完了を待たずに、電気ヒータ9により改質触媒層を昇温することができる。水気化器加熱用電気ヒータ2と改質触媒層加熱用電気ヒータ9とを同時に作動させてもよい。
【0104】
本形態では、水気化のために電気ヒータ2の発熱を用いているが、その限りではない。モジュール外部から高温の水蒸気を供給する場合、あるいはモジュール外部から高温の空気を供給し、その顕熱により水気化器が十分加熱される場合などには、電気ヒータ2を用いなくても良い。
【0105】
〔形態1−2〕
本形態では、ゼロでない流量の炭化水素系燃料を初めて改質触媒層に供給した時点から、起動運転の途中の或る時点(炭化水素系燃料が起動完了時の流量より少ない或る流量に増加する時点)まで、工程cで部分酸化改質を行う。ここでいう或る時点としては、例えば、改質ガス中に含まれる水分がモジュール内で凝縮しない温度に改質ガス流路およびその燃焼ガス流路が昇温される時点を採用することができる。それ以降は、工程cでオートサーマル改質を行う。水を改質原料としない部分酸化改質を初期に行うことにより、改質ガス中に含まれる水分がモジュール内で凝縮することを抑制することができる。この場合、形態1−1と異なり、初期(部分酸化改質を行う間)には、水気化器1に水を供給する工程4を行わない。また、初期(部分酸化改質を行う間)には水気化器1を電気ヒータ2により昇温する工程1を行わず、オートサーマル改質を行うにあたって、水気化器1を電気ヒータ2により昇温する工程1を行っても良い。
【0106】
〔形態1−3〕
本形態では、工程aにおいて、改質触媒層において燃焼を行う。触媒燃焼熱を利用して、改質触媒層の昇温を加速するためである。図3は改質触媒層の温度と、改質可能流量rkおよび燃焼可能流量ckとの相関を概念的に示すグラフである。通常、燃焼可能流量ck(T)の方が、改質可能流量rk(T)より大きく、低い温度で値が0を超える。従って、低い温度で燃焼を開始し、rk(T)が0を超えたら、燃焼を終了して改質を開始することができる。
【0107】
前述の工程2まで行った後、熱電対SinおよびSoutでそれぞれ測定される温度tinおよびtoutを平均し、改質触媒層の温度Tを求める(T=(tin+tout)/2)(工程2−1)。そして、このTを用いて触媒燃焼による燃焼可能流量ckを算出する(工程2−2)。算出したckと予め定めたO2/Cより空気流量を算出し、その流量の空気を改質触媒層に供給する(工程2−3)。流量ckの炭化水素系燃料を触媒層に供給し(工程2−4)、触媒燃焼を開始する。その後、前述の工程3を行う。工程2−1〜2−4および工程3を繰り返して触媒燃焼させる炭化水素系燃料を増加させ、工程3において計算されるrkがゼロを超えたら、炭化水素系燃料の供給を停止し(工程2−5)、空気の供給を停止し(工程2−6)、触媒燃焼を終了する。その後、工程4以降を行い、最初の工程6で改質を開始する。
【0108】
予め最初の工程6で供給する炭化水素系燃料流量rk0を決めておき、工程2−1〜2−4を繰り返して触媒燃焼させる炭化水素系燃料をrk0まで増加させて保持した後、工程3を行い、計算されるrkがrk0以上になったら、工程4以降を行っても良い。この場合、最初の工程5で改質触媒層に供給する空気流量を触媒燃焼に必要な流量からオートサーマル改質に必要な流量まで減少させ、触媒燃焼を終了すると同時に、改質を開始する。
【0109】
上記rk0としては、起動完了時の炭化水素系燃料流量より少ない或る流量とすることができる。例えば、この流量を、燃焼ガスが燃料電池に流れて燃料電池が劣化する温度になる炭化水素系燃料流量以下の流量とすることができる。
【0110】
あるいは、工程2−1〜2−2を繰り返し、計算されるckがrk0を超えたら、工程2−3、2−4を行い、触媒燃焼を開始し、工程3を繰り返して行い、工程3において計算されるrkがrk0以上になったら、工程4以降を行っても良い。この場合も、最初の工程5で改質触媒層に供給する空気流量を触媒燃焼に必要な流量からオートサーマル改質に必要な流量まで減少させ、触媒燃焼を終了すると同時に、改質を開始する。
【0111】
〔形態2−1〕
本形態では、改質触媒層をガス流通方向に沿って分割した複数個の分割領域を考える。工程aにおいては、改質触媒層の、ガス流通方向に相異なる位置にある複数点の温度を測定する。工程bにおいては、この複数点の温度に基づいて、上記複数個の分割領域のうちの少なくとも一部において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出する。そして、算出した流量の合計値を前記改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量とする。もちろん、一つだけの分割領域において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出する場合には、この流量が上記合計値となる。
【0112】
図2に示すように、改質触媒層を4分割した分割領域Z1〜Z4を考える。各分割領域の触媒層高は互いに等しい。改質触媒層の入口および出口、ならびに分割領域同士の境界に熱電対をそれぞれ設ける(S1〜S5)。熱電対S1〜S5で測定される温度をそれぞれt1〜t5とする。
【0113】
各分割領域Ziの温度Tiは、Ti=(ti+ti+1)/2から求める(i=1、2、3、4)。
【0114】
このTiから、各分割領域Ziにおける改質可能流量rki(Ti)を計算し、それらを積算した値を改質触媒層における改質可能流量rkとする。rki(Ti)は予め実験により求めることができる。
【0115】
上記以外は、形態1−1と同様にして、燃料電池システムを起動することができる。
【0116】
〔炭化水素系燃料〕
炭化水素系燃料としては、改質ガスの原料としてSOFCの分野で公知の、分子中に炭素と水素を含む(酸素など他の元素を含んでもよい)化合物もしくはその混合物から適宜選んで用いることができ、炭化水素類、アルコール類など分子中に炭素と水素を有する化合物を用いることができる。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等の炭化水素燃料、また、メタノール、エタノール等のアルコール、ジメチルエーテル等のエーテル等である。
【0117】
なかでも灯油やLPGは、入手容易であり好ましい。また独立して貯蔵可能であるため、都市ガスのラインが普及していない地域において有用である。さらに、灯油やLPGを利用したSOFC発電装置は、非常用電源として有用である。特には、取り扱いも容易である点で、灯油が好ましい。
【0118】
〔高温型燃料電池〕
本発明は、アノードの酸化劣化防止が必要な高温型燃料電池を備えるシステムに好適に適用することができる。アノードに金属電極が用いられる場合、例えば400℃程度でアノードの酸化劣化が起きることがある。このような燃料電池としては、SOFCやMCFCがある。
【0119】
SOFCとしては、平板型や円筒型などの各種形状の公知のSOFCから適宜選んで採用できる。SOFCでは、一般的に、酸素イオン導電性セラミックスもしくはプロトンイオン導電性セラミックスが電解質として利用される。
【0120】
MCFCについても、公知のMCFCから適宜選んで採用できる。
【0121】
SOFCやMCFCは単セルであってもよいが、実用上は複数の単セルを配列させたスタック(円筒型の場合はバンドルと呼ばれることもあるが、本明細書でいうスタックはバンドルも含む)が好ましく用いられる。この場合、スタックは1つでも複数でもよい。
【0122】
〔改質器〕
改質器は、炭化水素系燃料から水素を含む改質ガスを製造する。改質器においては、水蒸気改質、部分酸化改質、および、水蒸気改質反応に部分酸化反応が伴うオートサーマルリフォーミングのいずれを行ってもよい。
【0123】
改質器は、水蒸気改質能を有する水蒸気改質触媒、部分酸化改質能を有する部分酸化改質触媒、部分酸化改質能と水蒸気改質能とを併せ持つオートサーマル改質触媒を適宜用いることができる。
【0124】
炭化水素系燃料(必要に応じて予め気化される)および水蒸気、さらに必要に応じて空気等の酸素含有ガスをそれぞれ単独で、もしくは適宜混合した上で改質器(改質触媒層)に供給することができる。また、改質ガスは高温型燃料電池のアノードに供給される。
【0125】
高温型燃料電池のなかでも、間接内部改質型SOFCはシステムの熱効率を高めることができる点で優れている。間接内部改質型SOFCは、水蒸気改質反応を利用して炭化水素系燃料から水素を含む改質ガスを製造する改質器と、SOFCとを有する。この改質器では、水蒸気改質反応を行うことができ、また、水蒸気改質反応に部分酸化反応が伴うオートサーマルリフォーミングを行ってもよい。SOFCの発電効率の観点からは起動完了後、部分酸化反応は起きない方が好ましい。オートサーマルリフォーミングにおいても、起動完了後は水蒸気改質が支配的になるようにされ、従って改質反応はオーバーオールで吸熱になる。そして、改質反応に必要な熱がSOFCから供給される。改質器とSOFCが一つのモジュール容器に収容されモジュール化される。改質器はSOFCから熱輻射を受ける位置に配される。こうすることによって、発電時にSOFCからの熱輻射によって改質器が加熱される。また、SOFCから排出されるアノードオフガスをセル出口で燃焼させることにより、SOFCを加熱することもできる。
【0126】
間接内部改質型SOFCにおいて、改質器は、SOFCから改質器の外表面へと直接輻射伝熱可能な位置に配することが好ましい。従って改質器とSOFCとの間には実質的に遮蔽物は配置しないこと、つまり改質器とSOFCとの間は空隙にすることが好ましい。また、改質器とSOFCとの距離は極力短くすることが好ましい。
【0127】
各供給ガスは必要に応じて適宜予熱されたうえで改質器もしくはSOFCに供給される。
【0128】
モジュール容器としては、SOFCと改質器とを収容可能な適宜の容器を用いることができる。その材料としては、例えばステンレス鋼など、使用する環境に耐性を有する適宜の材料を用いることができる。容器には、ガスの取り合い等のために、適宜接続口が設けられる。
【0129】
セル出口がモジュール容器内で開口している場合は特に、モジュール容器の内部と外界(大気)とが連通しないように、モジュール容器が気密性を持つことが好ましい。
【0130】
〔改質触媒〕
改質器で用いる水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒のいずれも、それぞれ公知の触媒を用いることができる。部分酸化改質触媒の例としては白金系触媒、水蒸気改質触媒の例としてはルテニウム系およびニッケル系、オートサーマル改質触媒の例としてはロジウム系触媒を挙げることができる。燃焼を促進可能な改質触媒の例としては白金系およびロジウム系触媒を挙げることができる。
【0131】
部分酸化改質反応が進行可能な温度は例えば200℃以上、水蒸気改質反応が進行可能な温度は例えば400℃以上である。
【0132】
以下、水蒸気改質、オートサーマル改質、部分酸化改質のそれぞれにつき、改質器における起動時および定格運転時の条件について説明する。
【0133】
水蒸気改質では、灯油等の改質原料にスチームが添加される。水蒸気改質の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは500℃〜850℃、さらに好ましくは550℃〜800℃の範囲で行うことができる。反応系に導入するスチームの量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する水分子モル数の比(スチーム/カーボン比)として定義され、この値は好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は炭化水素系燃料の液体状態での流速をA(L/h)、触媒層体積をB(L)とした場合A/Bで表すことができ、この値は好ましくは0.05〜20h-1、より好ましくは0.1〜10h-1、さらに好ましくは0.2〜5h-1の範囲で設定される。
【0134】
オートサーマル改質ではスチームの他に酸素含有ガスが改質原料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。水蒸気改質反応に伴う吸熱反応をバランスし、かつ、改質触媒層やSOFCの温度を保持もしくはこれらを昇温できる発熱量が得られるように酸素含有ガスを添加することができる。酸素含有ガスの添加量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.005〜1、より好ましくは0.01〜0.75、さらに好ましくは0.02〜0.6とされる。オートサーマル改質反応の反応温度は例えば400℃〜1000℃、好ましくは450℃〜850℃、さらに好ましくは500℃〜800℃の範囲で設定される。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.1〜10、さらに好ましくは0.2〜5の範囲で選ばれる。反応系に導入するスチームの量は、スチーム/カーボン比として好ましくは1〜10、より好ましくは1.5〜7、さらに好ましくは2〜5とされる。
【0135】
部分酸化改質では酸素含有ガスが改質原料に添加される。酸素含有ガスとしては純酸素でも良いが入手容易性から空気が好ましい。反応を進めるための温度を確保するため、熱のロス等において適宜添加量は決定される。その量は、炭化水素系燃料に含まれる炭素原子モル数に対する酸素分子モル数の比(酸素/カーボン比)として好ましくは0.1〜3、より好ましくは0.2〜0.7とされる。部分酸化反応の反応温度は、例えば450℃〜1000℃、好ましくは500℃〜850℃、さらに好ましくは550℃〜800℃の範囲で設定することができる。炭化水素系燃料が液体の場合、この時の空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜30の範囲で選ばれる。反応系においてすすの発生を抑制するためにスチームを導入することができ、その量は、スチーム/カーボン比として好ましくは0.1〜5、より好ましくは0.1〜3、さらに好ましくは1〜2とされる。
【0136】
〔他の機器〕
本発明で用いるSOFCシステムにおいて、高温型燃料電池システムの公知の構成要素は、必要に応じて適宜設けることができる。具体例を挙げれば、炭化水素系燃料に含まれる硫黄分を低減する脱硫器、液体を気化させる気化器、各種流体を加圧するためのポンプ、圧縮機、ブロワなどの昇圧手段、流体の流量を調節するため、あるいは流体の流れを遮断/切り替えるためのバルブ等の流量調節手段や流路遮断/切り替え手段、熱交換・熱回収を行うための熱交換器、気体を凝縮する凝縮器、スチームなどで各種機器を外熱する加熱/保温手段、炭化水素系燃料や可燃物の貯蔵手段、計装用の空気や電気系統、制御用の信号系統、制御装置、出力用や動力用の電気系統などである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、例えば定置用もしくは移動体用の発電システムに、またコージェネレーションシステムに利用される高温型燃料電池システムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の一形態を説明するための、間接内部改質型SOFCシステムの概要を示す模式図である。
【図2】本発明の別の形態を説明するための、間接内部改質型SOFCシステムの概要を示す模式図である。
【図3】本発明の別の形態を説明するための、改質触媒層の温度と、改質可能流量および燃焼可能流量との相関を概念的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0139】
1 水気化器
2 水気化器に付設された電気ヒータ
3 改質器
4 改質触媒層
5 熱電対
6 SOFC
7 イグナイター
8 モジュール容器
9 改質器に付設された電気ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料を改質して水素含有ガスを製造する、改質触媒層を有する改質器と、該水素含有ガスを用いて発電を行う高温型燃料電池とを有する燃料電池システムの起動方法であって、
a)改質触媒層の温度を測定しつつ、改質触媒層を昇温する工程、
b)測定された改質触媒層の温度に基づいて、改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出する工程、および、
c)該算出された流量の炭化水素系燃料を、改質触媒層に供給して改質し、得られた改質ガスを高温型燃料電池のアノードに供給する工程を有し、
炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量が起動完了時の流量になるまで、前記工程bおよびcを繰り返しながら、炭化水素系燃料の改質触媒層への供給量を増加させる
ことを特徴とする燃料電池システムの起動方法。
【請求項2】
d)工程cで行う改質に必要な流量の、スチームおよび/または酸素含有ガスを、工程cに先だって改質触媒層に供給する工程
をさらに有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記改質触媒層として、水蒸気改質反応を促進可能な改質触媒層を用い、
起動完了時の流量の炭化水素系燃料を改質する際に、水蒸気改質を行う請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記改質触媒層として、水蒸気改質反応および部分酸化改質反応を促進可能な改質触媒層を用い、
起動完了時の流量より少ない流量の炭化水素系燃料を改質する際に、部分酸化改質または自己熱改質を行う請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記改質触媒層として、燃焼を促進可能な改質触媒層を用い、
工程aにおいて、
e)炭化水素系燃料を改質触媒層に供給して燃焼させる工程
を行う請求項1から4の何れか一項記載の方法。
【請求項6】
f)工程eに先だって、測定された改質触媒層の温度に基づいて、改質触媒層において燃焼可能な炭化水素系燃料の流量を算出する工程
をさらに有する請求項5記載の方法。
【請求項7】
g)工程eに先だって、工程eで行う燃焼に必要な流量の、酸素含有ガスを改質触媒層に供給する工程
をさらに有する請求項6記載の方法。
【請求項8】
改質触媒層をガス流通方向に沿って分割した複数個の分割領域を考え、
工程aにおいて、改質触媒層の、ガス流通方向に相異なる位置にある複数点の温度を測定し、
工程bにおいて、該複数点の温度に基づいて、該複数個の分割領域のうちの少なくとも一部において改質可能な炭化水素系燃料の流量を算出し、該算出した流量の合計値を前記改質触媒層において改質可能な炭化水素系燃料の流量とする
請求項1から5の何れか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−51712(P2009−51712A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222464(P2007−222464)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】