説明

燃料電池システム及び燃料電池の活性化方法

【課題】酸化剤の供給量に依らずに、燃料電池反応の限界電流よりも大きな電流を通電させることができる、燃料電池システムおよび活性化方法を提供する。
【解決手段】固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池において、酸化剤極と燃料極の間に、燃料極に燃料を供給した状態で、酸化剤極で水素生成反応が生じ、且つ、定常運転時に発生する最大電流よりも大きな電流を通電させるに充分な逆極性の電圧を印加する電圧印加回路を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池を有する燃料電池システムに係る。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、基本的にはプロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜、及びその両面に配置された一対の電極からなる。電極は、主に白金あるいは白金族金属触媒からなる触媒層、触媒層の外面に形成されたガス供給と集電を担うガス拡散電極から構成される。この電極および固体高分子電解質膜を一体化させたものを膜電極接合体(MEA)と言い、一方の電極に燃料(水素)を、他方に酸化剤(酸素)を供給することで発電が行われる。
【0003】
燃料として水素が供給された燃料極では下記(式1)の反応が生じ、水素からプロトンと電子が生成される。また、酸化剤として酸素が供給された酸化剤極では下記(式2)の反応が生じ、酸素とプロトンと電子とから水が生成される。このとき、プロトンは固体高分子電解質膜中を通って燃料極から酸化剤極へと移動する。また、電子は外部負荷を通って燃料極から酸化剤極へと移動し、この過程で電力が得られる。
燃料極:H→2H+2e (式1)
酸化剤極:1/2O+2H+2e→HO (式2)
燃料電池の理論電圧は約1.23Vであるが、通常の運転状態では0.7V程度で使用されることが多い。この電圧の降下分には電池内部の様々な損失(分極)が関わっている。
【0004】
固体高分子電解質膜には、Nafion(デュポン社の商標)に代表されるようなパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質膜が広く使われている。これらパーフルオロスルホン酸系の固体高分子電解質膜においては、プロトンの伝導に際し、プロトンに同伴して移動する水が必要である。そのため、十分なプロトン伝導性を得るためには、固体高分子電解質膜の含水率を高める必要があり、含水率が低い状態で燃料電池を運転させれば燃料電池の電圧が低下することが知られている。
【0005】
また、燃料電池の燃料極の電位に対する酸化剤極の電位を0.8V以上の高い値に保持した場合には、酸化剤極に用いた白金触媒表面に酸化皮膜が形成され、触媒活性が低下することが知られている。
【0006】
これらの理由による燃料電池の電圧の低下を小さくし、燃料電池の特性を運転開始直後から高く安定な状態にするために、従来から燃料電池の活性化の方法が提案されている。
【0007】
ここで言う燃料電池の活性化とは、固体高分子電解質膜の含水率を高め、触媒表面に形成された酸化被膜を除去することによって損失(分極)を減らすことを指している。
【0008】
特許文献1では、燃料電池の両極間をショートさせることによって燃料電池を活性化させる方法が開示されている。
【0009】
燃料電池の電圧を0V近傍に保持することで、白金触媒表面の酸化皮膜を還元除去する。また、燃料電池反応による電流を通電させることで水の発生を促し、固体高分子電解質膜を加湿させている。
【0010】
このような活性化方法においては、定常運転時に流される最大電流(以下、限界電流と呼ぶ)以上の電流を燃料電池に通電させることはできない。
【0011】
特許文献2においては、メタノール等の有機燃料を燃料極に供給する燃料電池において、酸化剤極に不活性ガスを供給した状態で、燃料極と酸化剤極の電位が反転するように外部電源に接続して、固体高分子電解質膜を加湿する方法が開示されている。
【0012】
この場合、酸化剤極では、燃料極から固体高分子電解質膜を通過して移動してきたプロトンと、外部電源から供給された電子により式3で見られるような水素の生成反応が生じている。
酸化剤極:2H+2e→H (式3)
上記反応の過程において、プロトンの移動に伴って、水を固体高分子電解質膜中に行き渡らせることで加湿を行っている。また、燃料極と酸化剤極の電位を反転させていることから、酸化剤極の電位が燃料極に比べて低く保持されるため、白金触媒表面の酸化皮膜の還元除去が促されている。
【0013】
しかし、特許文献2で述べる活性化は、固体高分子電解質膜の加湿を目的としたものであり、燃料電池の特性を定常運転時に使用される全電流領域に亘って向上させる点において未だ不十分である。
【特許文献1】特開2005−93143号公報
【特許文献2】特開2006−40598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、限界電流よりも大きな電流を通電させるように活性化処理を行なうことで、燃料電池の特性を定常運転時に使用される全電流領域に亘って向上させることができる、燃料電池システムおよび燃料電池の活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するため、次のように構成した燃料電池システム及び燃料電池の活性化方法を提供するものである。
【0016】
即ち、本発明の燃料電池システムは、
固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池を有する燃料電池システムにおいて、
前記酸化剤極と前記燃料極の間の電位差を制御する制御装置を有し、
前記制御装置は、前記燃料極に燃料を供給した状態で、前記酸化剤極と前記燃料極の間の電位差を前記酸化剤極で水素生成反応が生じる値に制御可能に構成されており、
該水素生成反応を伴いながら前記燃料電池が定常運転時に発生する電流よりも大きな電流を通電させるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の燃料電池の活性化方法は、
固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池の活性化方法において、
前記燃料極に燃料を供給した状態で、前記酸化剤極と前記燃料極の間の電位差を前記酸化剤極で水素生成反応が生じる値に制御し、
該水素生成反応を伴いながら前記燃料電池が定常運転時に発生する電流よりも大きな電流を通電させる処理を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燃料電池の活性化方法によれば、限界電流よりも大きな電流を燃料電池に通電することで、定常運転時に使用される全電流領域に亘って発電特性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
従来は、燃料電池を活性化させるためには、固体高分子電解質膜を十分に含水させるほど、また、燃料極の電位に対する酸化剤極の電位を低く保つほど有効であると考えられていた。
【0020】
しかしながら、本発明者らが活性化処理の過程を検討した結果、燃料電池を更に活性化させるためには、通電させる電流の大きさが重要であることを見出した。
【0021】
即ち、活性化処理の際に燃料電池に通電させた電流の大きさと、活性化処理後における燃料電池の特性の向上の度合いとの間に相関があることがわかった。
【0022】
この原因としては、活性化処理の際に固体高分子電解質膜中を通過させたプロトンが、固体高分子電解質膜のプロトンチャネルに与える何らかの影響によるものではないかと考えられている。
【0023】
本発明者らは、燃料電池の特性、例えば定電流駆動時の電圧値を定常運転時に使用される全電流域に渡って向上させるには、定常運転時に流される最大電流以上の電流を通電させることが有効であることを見出した。
【0024】
従って、本発明における「活性化」とは、従来の固体高分子電解質膜の含水率を高め、触媒表面に形成された酸化被膜を除去することによって損失(分極)を減らすことに加え、プロトンの伝導性に関する特性の向上をも指している。
【0025】
なお、本発明で言うところの「定常運転」とは、燃料電池から見た負荷のインピーダンスや酸化剤の供給量に代表される運転条件の変動幅を含み、発電が継続して行なわれている状況を指している。
【0026】
一般に燃料電池が使用される際には、当該燃料電池が単独で、あるいは他の燃料電池と組み合わされ、様々な負荷が接続されて用いられる。また、稼動状況に応じて負荷の状況も様々に変わり得るものであり、結果として燃料電池から見た負荷のインピーダンスは一定ではなく、大きく変わり得るものである。従って、定常運転時に取り出す電流の値も状況に応じて大きく変わりうるものであり、その時点での電流値において、より効率よく電力を取り出すことが望ましい。
【0027】
本発明の燃料電池システムにおいては、燃料極に燃料を供給した状態で、酸化剤極で水素生成反応が生じ、且つ、定常運転時に発生する最大電流よりも大きな電流を通電させるに充分な逆極性の電圧を印加する電圧印加回路を有することが望ましい。
【0028】
また、前記活性化処理工程を含む製造方法によって製造された燃料電池は、使用される全電流域で特性が向上するため、好ましいものである。
【0029】
(実施形態1)
以下に、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0030】
図1は、実施形態1の燃料電池の活性化方法で運転される燃料電池システムを示す概略図である。
【0031】
燃料電池システム1は、固体高分子電解質膜6の両側に燃料極7と酸化剤極8を設けた構造の膜電極接合体を有する燃料電池セル5、あるいは燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックを備えている。また、燃料極7に燃料を供給する燃料流路3と、酸化剤極8に酸化剤を供給する酸化剤流路4を備えている。また、燃料極7および酸化剤極8と接続される外部電源10を備えている。
【0032】
実施形態1の燃料電池セル5は、燃料として純水素やメタノール等、様々な燃料を用いることができるが、燃料極での分極が小さい水素を燃料に用いるものが好ましい。
【0033】
燃料極7には例えば燃料タンク2から燃料流路を通じて水素燃料が供給される。燃料タンク7としては、水素燃料を燃料電池に供給できるものならばどのようなものを用いても良く、高圧充填した水素や水素吸蔵材料に吸蔵された水素を保持するものが好適に用いられ得る。また、燃料タンク2にメタノールやエタノールなどの液体燃料を保持しておき、該液体燃料を改質器に通すことで水素ガスの形にして燃料電池に供給する方式でも構わない。
【0034】
酸化剤極8には例えば空気が自然拡散により供給される。また、ファンなどの補器を使用して供給しても良い。また、別途タンクに充填保持した酸素ガスを供給しても良い。
【0035】
固体高分子電解質膜6としては、パーフルオロスルホン酸系のプロトン交換樹脂膜が好ましい。固体高分子電解質膜には、運転開始時に速やかに加湿される必要があるため、なるべく薄い膜であることが好ましいが、膜の機械的強度やガスバリアー性等を考えると、50μm程度の厚みのものが好ましい。
【0036】
固体高分子型燃料電池の膜電極接合体は、例えば次のようにして作製される。
【0037】
まず、白金黒や白金担持カーボン等の触媒担持粒子と固体高分子電解質溶液とイソプロピルアルコール等の有機溶媒を混合することで触媒インクを作製する。次に、この触媒インクをスプレー塗工法やスクリーン印刷法、ドクターブレード法などでポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の高分子フィルム、導電性多孔質体のカーボン電極基板上などに成膜することで触媒層が作製される。
【0038】
次に、得られた触媒層を、固体高分子電解質膜の両面に触媒が担持された側を接するように、熱転写等で圧着することで膜電極接合体を得ることができる。
【0039】
また、触媒材料としては、白金以外にも貴金属触媒や、合金系触媒などを用いても良い。
【0040】
また、触媒層作製には、めっき法やスパッタ法などの成膜プロセスを用いることも可能である。
【0041】
燃料流路3及び燃料極7は、燃料タンク2から供給された燃料を系外へリークさせることのないよう、部品間の接続部分や燃料極の外周縁にはシール部材が配置されている。
【0042】
燃料電池セル5は、発電による出力を供給する外部負荷である電子機器9とは別に、外部電源10に接続されている。
【0043】
外部電源10は、燃料電池の活性化処理時に、燃料電池の酸化剤極で水素の生成反応が生じるように負荷制御する。具体的には、燃料極の電位に対して酸化剤極の電位が負となるように制御する。
【0044】
外部電源10は二次電池やキャパシタのような電源であっても良く、該電源の正極を燃料極に、補助電源の負極を酸化剤極に接続することで負荷制御しても良い。
【0045】
ここで、外部電源10による制御について、詳細に説明する。
【0046】
図2および図3は、燃料電池の特性に対して、活性化処理時に流した電流の大きさが如何に影響を与えるかを示すグラフである。
【0047】
図2では、供給する酸化剤中の酸素濃度が異なる燃料電池に対して、各々の酸素濃度に対する燃料電池セルの両極間の電位差を0Vに制御したときに流れる電流の大きさの経時変化を示している。図中(a)の最も大きな電流が流れているものは、定常運転時と同様の条件で空気が供給された場合のデータである。酸化剤中の酸素濃度を次第に小さくした場合のデータを(b)〜(e)で表している。酸素の濃度が空気よりも小さくなるにつれて、燃料電池の限界電流は減少していくことから、酸化剤の不足によって限界電流が制限されることがわかる。
【0048】
図3では、図2中の(a)〜(e)と同様の処理を行なった後に、酸化剤極に空気を供給したときの燃料電池セルの電流−電圧特性を示している。活性化処理の際に流れた電流が大きかった燃料電池セルほど特性が良いことが分かる。また、活性化処理の際に最も電流が流れた(a)の燃料電池セルを基準とすると、特性に差が生じ始める電流値は、活性化処理の際に流れた電流の大きさにほぼ一致していることが分かる。
【0049】
これらから、燃料電池の活性化処理の効果を、該燃料電池の定常運転時の全電流域に渡って得るためには、燃料電池の定常運転時の最大電流値以上の電流を流すことが必要であることが分かる。
【0050】
また、図4は燃料電池の電圧を開回路電圧からマイナス側に50mV/secの掃引速度で下げていった場合の電流値の変化を示すグラフである。図中(a)は燃料電池の燃料極に水素を、酸化剤極に空気を供給した場合の特性である。開回路電圧から0Vに到達するまでの間では、燃料極では下記(式1)の反応が、酸化剤極では下記(式2)の反応が生じている。これは、いわゆる燃料電池反応と呼ばれるものである。
燃料極:H→2H+2e (式1)
酸化剤極:1/2O+2H+2e→HO (式2)
また、セル電圧が0Vのときの限界電流は酸化剤の不足によって制限されている。
【0051】
燃料電池の電圧を0Vからさらにマイナス側に下げていくと、酸化剤極の電位と燃料極の電位の高さが反転する。このとき燃料極では前記の(式1)の反応が、酸化剤極では新たに下記(式3)の反応が生じ始める。
酸化剤極:2H+2e→H (式3)
(式3)で示される水素の生成反応では、燃料極から固体高分子電解質膜中を移動してくるプロトンの量に対応する電流が流れる。そのため、酸化剤の不足で拡散限界電流に達する燃料電池では、固体高分子電解質膜が十分に含水しているならば、水素の生成反応によって、燃料電池の限界電流よりも大きな電流を流すことができる。
【0052】
ここで、燃料電池(a)の酸化剤極には酸化剤が存在しているため、電位の反転後の酸化剤極では(式2)と(式3)の反応が同時に起こっていると考えられる。
【0053】
一方、図中(b)は燃料極に水素を、酸化剤極に高濃度の窒素を供給した場合の特性を示すグラフである。酸化剤の供給がほぼゼロであることから、開回路電圧から0Vの間で酸化剤極では前記(式2)の反応がほとんど生じていない。そのため、空気を供給した(a)に比べて限界電流が非常に小さい。しかし、0.1Vあたりから(式3)の反応が生じ始め、電位の反転後には、空気を供給した(a)の燃料電池反応による限界電流よりも大きな電流を流すことができている。
【0054】
即ち、酸化剤の不足で限界電流が制限されている燃料電池であっても、固体高分子電解質膜が十分に含水しているならば、水素の生成反応によって、燃料電池の限界電流よりも大きな電流を流すことができる。
【0055】
ここで、酸化剤を供給した(a)および酸化剤が供給されなかった(b)のどちらでも、燃料電池の燃料極の電位に対する酸化剤極の電位が−0.5Vから−0.7Vの近傍で電流のピークを示している。燃料極において水の電気分解が生じる電位に近づいていること、また、プロトンの移動量が大きいために、固体高分子電解質膜内の同伴水が不足してきていることなどが理由として考えられる。
【0056】
これから、水素の生成反応で流すことのできる電流の範囲は、水素生成により流れる電流が示すピークの最大値以下の範囲であることが分かる。
【0057】
また、図中(c)は燃料極に窒素を、酸化剤極に空気を供給した場合の特性である。水素即ちプロトンの供給が無いために、燃料電池反応も、水素の生成反応もほとんど生じず電流が流れていない。しかし、燃料電池の燃料極の電位に対する酸化剤極の電位を−0.7V近傍よりもさらにマイナス側にすると、燃料極では下記(式4)で示す水の電気分解反応が生じて電流が流れる。
燃料極:HO→1/2O+2H+2e (式4)
燃料極での(式4)の反応は(a)および(b)でも生じている。燃料極に燃料が供給された状態で、燃料極に水の電気分解反応による酸素が発生すると触媒燃焼が生じ、燃料電池を構成する部材の劣化を招いてしまう。従って、活性化処理を行なう際の酸化剤極と燃料極の間の電位差は、燃料極で水の電気分解反応が生じるまでの範囲内となるように制御する必要がある。
【0058】
図5は前記触媒燃焼が生起した履歴の有無に対する、燃料電池の定電流印加時の特性経時変化を示すグラフである。図中(a)は、0Vから−1.5Vまでの電圧の繰り返し印加によって、燃料極で水の電気分解を生じさせ、触媒燃焼を生起させた燃料電池の特性である。一方、図中(b)は、燃料極で水の電気分解が生じないよう、0Vから−0.7Vまでの電圧の繰り返し印加を行なった燃料電池の特性を示すグラフである。
【0059】
水の電気分解を生起させた(a)では、特性が大きく低下している。水素と水素雰囲気中に生成した酸素との触媒燃焼による劣化が原因と考えられる。一方、燃料極で水の電気分解が生じない程度の電圧を繰り返し印加した(b)においては、酸化剤極で水素が生成し、空気中の酸素との触媒燃焼が生起しているはずであるが、(b)の特性が示すように影響は小さいことが分かる。
【0060】
これから、水素の生成反応のために制御される好適な電圧の範囲は、燃料極で水の電気分解反応が生じるまでの範囲であることが分かる。
【0061】
外部電源10による制御は、燃料電池セルの電圧を一定に保つ定電圧制御であっても良いし、燃料電池セルの電流を一定に保つ定電流制御であっても良い。また、燃料極と酸化剤極の電位の高さが反転するように、セル電圧を徐々にマイナス側に下げていくように制御しても良いし、セル電流を徐々に大きくして限界電流よりも大きくするよう制御しても良い。
【0062】
外部電源10の制御によって燃料電池セルに印加される電圧の範囲は、0Vから燃料極で水の電気分解反応が生じるまでの電位差、セル電圧で言うと0Vから−1.23Vまでの範囲である。図4の試験の結果から燃料極で水の電気分解が生じ始めるのが−0.7V近傍であることから、好ましくはセル電圧で0Vから−0.7Vの範囲である。また、図4の転極試験の結果から水素生成により流れる電流のピークは−0.5V付近であることから、より好ましくはセル電圧で0Vから−0.5Vの範囲である。また、外部電源10の制御によって燃料電池セルに流される電流の範囲は、燃料電池が酸化剤の不足により示す(式2)の限界電流以上、(式3)の水素生成により流れる電流が示すピークの最大値以下の範囲である。
【0063】
また、上記電圧の条件と電流の条件とは共に満たされる必要がある。
【0064】
また、外部電源10が二次電池などの補助電源であって、これら補助電源の電圧が上記の範囲を越えているような場合には、例えばDC/DCコンバータのような電圧調整手段を用いることで制御が可能となる。
【0065】
水素生成により流れる電流がピークを示す理由は、一つに、プロトンの移動量が大きいために、固体高分子電解質膜内の同伴水が不足した結果と考えられる。
【0066】
これから、水素生成により流れる電流の、初期からの低下量などを閾値として外部電源を制御することがより好ましい。
【0067】
また、水素の生成反応によって燃料電池セルに限界電流以上の電流を通電させるためには、固体高分子電解質膜が十分に含水している必要がある。
【0068】
図6は燃料電池セルの内部抵抗と水素生成により流れる電流のピーク値の関係を示したものである。内部抵抗は固体高分子電解質膜の含水が高いほど小さな値を示す。また、図から内部抵抗が小さいほど水素生成により流れる電流のピークの最大値は大きい。これは水素生成反応が主にプロトンの移動量で規定されていることを示している。また、定常運転時の酸化剤の供給量に対して、燃料電池が示す限界電流よりも大きな電流を水素生成反応により通電させるためには、固体高分子電解質膜がある程度含水している必要があることが分かる。固体高分子電解質膜の加湿のために、例えばバブラーなどを通して加湿した燃料ガスを供給するような加湿手段を用いても良い。
【0069】
また、活性化処理に先立って燃料電池反応により酸化剤極に十分な水を生成させ、固体高分子電解質膜を十分に含水させた後に、活性化処理を行なうようにするとより好ましい。この場合、水素の生成反応により固体高分子電解質膜内の同伴水が減少しても、酸化剤極側の生成水が逆拡散して固体高分子電解質膜を湿潤させてくれる作用を併せ持つ。
【0070】
また、酸化剤極に酸化剤が供給された状態で、活性化処理を行なうと酸化剤極では水の生成反応(式2)と水素の生成反応(式3)が同時に起こっていることになる。この場合、酸化剤極で生成した水の逆拡散で固体高分子電解質膜を湿潤させることが可能である。
【0071】
また、活性化処理時に酸化剤の供給量を減少させることは、酸化剤極にて発生した水素と酸素の触媒燃焼による無用の発熱を低減できるため、好ましい。
【0072】
また、図7は本実施の形態における燃料電池の活性化処理のルーチンを示すものである。
【0073】
(S701)
活性化処理の開始にあたって、燃料電池セルには燃料が十分に供給されている状態とする。
【0074】
(S702)
次に燃料電池セルの固体高分子電解質膜の加湿が必要かどうかを判断する。
【0075】
図6で見られるように本発明の活性化方法には固体高分子電解質膜が十分に加湿されていることが望ましい。そこで、例えば交流インピーダンスメータなどで燃料電池の内部抵抗を測定することで、固体高分子電解質膜の含水の状態を判断すると良い。
【0076】
(S703)
内部抵抗が高くて加湿が必要であると判断されれば、外部負荷への接続などにより、燃料電池を発電させて自己加湿させる。そして、内部抵抗の低下をもって加湿の終了とすれば良い。勿論、はじめから内部抵抗が十分に小さければ、加湿しなくとも良い。また、加湿の判断は行なわず、必ず一定の負荷を接続して、一定の発電を行なわせることにより発生した水で固体高分子電解質膜を加湿するような構成にしても構わない。この場合は、固体高分子電解質膜の含水状態によらず一定の燃料と加湿のための時間を必要とするが、内部抵抗を測定する機構を必要としないため、特に小型化が要求されるような燃料電池においては好ましい。また、加湿方法はバブラーなどを通して加湿されたガスを供給するなどの方法でも構わないし、別途水供給手段を設けることにより固体高分子電解質膜を直接加湿する方法でも構わない。
【0077】
(S704)
必要に応じて酸化剤の供給制限を行なう。
本発明の活性化方法では、酸化剤を積極的に供給する必要は無い。燃料電池セルの発熱量を下げたい場合は、酸化剤の供給量を下げたほうが好ましい。また、酸化剤が供給された状態で活性化を行なえば、酸化剤極では水の生成反応と水素の生成反応が同時に生じるため、生成した水を加湿に使える効果も期待できる。
【0078】
(S705)
酸化剤極で水素の生成反応が生じるように燃料電池のセル電圧を制御する。
【0079】
活性化処理時の電圧制御には、外部電源が用いられる。用いられる外部電源は、二次電池やキャパシタとDC/DCコンバータのような電圧調整手段を備えた補助電源であっても構わない。これら、外部電源の正極が燃料極に、負極が酸化剤極に接続されることで、活性化処理が行なわれる。
【0080】
(S706)
活性化処理時に酸化剤の供給量を下げた場合には、定常運転時の量の酸化剤を供給するように制御する。
【0081】
(S707)
活性化の終了後、燃料電池は外部電源からの制御が解除される。
その後、燃料電池は定常運転を開始される。
【0082】
(実施形態2)
実施形態2においては、燃料として水素を供給し、酸化剤として空気を自然拡散により取り入れる、大気開放型の燃料電池セルに対する別の形態の活性化処理例を説明する。図11に本実施例における燃料電池システムの構成の概略図を示す。また、本実施形態の燃料電池セルの構成は実施形態1と同様である。
【0083】
図11において、20は燃料電池セル、21は燃料極、22は固体高分子電解質膜、23は酸化剤極、24は燃料タンク、26は外部負荷、27はスイッチ、28はLiイオン電池、29はDC/DCコンバータである。
【0084】
燃料電池セル20とLiイオン電池28とはDC/DCコンバータ29を介して接続されている。Liイオン電池28は燃料電池の活性化処理時には、正極を燃料極に、負極を酸化剤極に接続するように構成されている。
【0085】
燃料電池セル20を、例えば温度25℃、湿度50%に制御された環境試験機内に設置する。酸化剤極23には環境雰囲気下の空気が自然拡散により供給され、燃料極21にはドライな水素が供給される。
【0086】
まず燃料電池セル20を外部負荷26に接続して駆動させ、酸化剤極23に生成した水の逆拡散を利用して固体高分子電解質膜22を加湿させる。
【0087】
次に活性化のために、スイッチ27を燃料電池セル20の酸化剤極23がLiイオン電池28の負極に、燃料電池セル20の燃料極21がLiイオン電池28の正極に接続するように制御する。DC/DCコンバータ29は燃料電池セルの燃料極21に対する酸化剤極23の電位が−0.5Vになるよう制御される。このような低出力電圧の降圧型DC/DCコンバータとしては、例えば米Aivaka社のAV2102などがある。
【0088】
酸化剤極23においては水の生成反応とともに水素の生成反応が生じてくる。このため、水素生成により燃料電池反応の限界電流以上の電流が流れる。
【0089】
活性化を1分間行なった後、燃料電池セル20の電流−電圧特性を測定すると、活性化を行なわなかったものと比較して、燃料電池セルの特性を広い電流の範囲に渡って向上させることができる。
【0090】
また、図11では、Liイオン電池28とDC/DCコンバータ29からなる補助電源を活性化のためのみに使用する構成をとっているが、もちろん、図12で示すようなハイブリッドの構成であっても構わない。図12において、20は燃料電池セル、21は燃料極、22は固体高分子電解質膜、23は酸化剤極、24は燃料タンク、26は外部負荷、27はスイッチ、28はLiイオン電池、30は電圧調整器である。
【0091】
この場合、燃料電池セル20とLiイオン電池28は通常運転時にはスイッチ27がAの側に入ることで、並列に外部負荷26に出力を供給する。Liイオン電池28の電圧が燃料電池セル20と異なる場合には、DC/DCコンバータなどの電圧調整器30で降圧すれば良い。
【0092】
燃料電池セル20の活性化処理時には、スイッチ27がBの側に入ることで、燃料電池セル20の酸化剤極23とLiイオン電池の負極が、燃料電池セルの燃料極21とLiイオン電池28の正極が接続される。また、燃料電池セル20にかかる電圧の大きさは、電圧調整器30で調整される。
【0093】
このとき、Liイオン電池28と電圧調整器30からなる補助電源と、外部負荷26の間の接続はそのままでも良いし、解除されて良い。例えば補助電源と外部負荷26の間にスイッチを挿入し、通常はスイッチはオンの状態で、両者は接続されているが、燃料電池の活性化処理時にはスイッチはオフの状態とされ、両者の接続が解除された状態となるような構成でも良い。
【0094】
上記構成をとることにより、燃料電池セルの活性化が可能となる。
【0095】
(実施形態3)
実施形態3においては、燃料として水素を供給し、酸化剤として空気を取り入れる、大気開放型の燃料電池セルに対する別の形態の活性化処理例を説明する。図13に本実施形態における燃料電池システムの構成の概略図を示す。また、本実施形態の燃料電池セルの構成は実施形態1と同様である。
【0096】
図13において、20は燃料電池セル、21は燃料極、22は固体高分子電解質膜、23は酸化剤極、24は燃料タンク、26は外部負荷、27はスイッチ、28はLiイオン電池、29はDC/DCコンバータ、31は酸化剤量調整器である。
【0097】
酸化剤量調整器31は、燃料電池セル20の活性化処理時に、酸化剤の供給量を定常運転時よりも少なくする機構を有する。このようなものとしては図14または図15のような構成が挙げられる。
【0098】
図14では、ファン32が酸化剤量調整器31の役割を果たす。ファン32は燃料電池セル20の空気取り入れ面である発泡金属46の側面に取り付けられる。燃料電池セル20の定常運転時は、酸化剤極23にはファン32の駆動によってファンが無い場合に比べて多くの空気が供給される。また、ファン32が駆動しない時には空気の取り入れをファン32が阻害することにより、空気の取り入れ量はファンが無い場合に比べて少なくなる。
【0099】
また、図15のように通気孔35が開けられた2枚の通気板のうち、一方を固定された通気板33、他方を可動される通気板34としたものを発泡金属46の側面に配置しても良い。可動通気板34をスライドすることで、通気孔の開閉度を変化させ、空気取り入れ面の面積を変化させる。空気取り入れ面の面積変化によって、酸化剤の供給量が変化する。
【0100】
実施形態2と同様に、燃料電池セル20とLiイオン電池28とはDC/DCコンバータ29を介して接続されている。Liイオン電池28は燃料電池の活性化処理時には、正極を燃料極に、負極を酸化剤極に接続するように構成されている。
【0101】
燃料電池セル20を、例えば温度25℃、湿度50%に制御された環境試験機内に設置する。酸化剤極23には環境雰囲気下の空気が自然拡散により供給され、燃料極21にはドライな水素が供給される。
【0102】
まず燃料電池セル20を実施例1と同様にして駆動させ、酸化剤極23に生成した水の逆拡散を利用して固体高分子電解質膜22を加湿させる。このとき酸化剤量調整器31としてのファンを駆動することによって酸化剤を多く取り入れるようにすれば、燃料電池反応による電流を大きくとることができるため、酸化剤極23での生成水量は大きくなる。一方、酸化剤量調整器31としてのファンの駆動を停止することによって、取り入れる酸化剤の量を少なくするように調整すれば、酸化剤極での発熱を抑制することができる。
【0103】
燃料電池を加湿後、活性化のために、スイッチ27を燃料電池セル20の酸化剤極がLiイオン電池28の負極に、燃料電池セル20の燃料極がLiイオン電池28の正極に接続するように制御した。DC/DCコンバータ29は燃料電池セル20の燃料極21に対する酸化剤極23の電位が−0.5Vになるよう制御される。また、このとき酸化剤量調整器31は酸化剤の供給量を少なくするよう駆動される。
【0104】
燃料電池は酸化剤極の電位の高さと燃料極の電位の高さが反転するため、酸化剤極23においては水の生成反応とともに水素の生成反応が生じてくる。酸化剤量調整器31を駆動して空気の取り入れ量を少ない状態とした場合、水の生成反応で既存の酸素が消費されて、酸化剤の不足した状態となる。
【0105】
このため、水の生成反応、即ち燃料電池反応で流れる限界電流は非常に小さくなっていく。一方、水素の生成反応で流れる電流は、燃料極21から固体高分子電解質膜22を移動してきたプロトン量に対応するため、酸化剤の供給量に関わらずに大電流を流すことが可能である。このため、水素生成により燃料電池反応の限界電流以上の電流が流れる。
【0106】
上記のような活性化処理を行なえば、活性化を行なわない燃料電池セル20と比較して、燃料電池セルの特性を広い電流の範囲に渡って向上させることができる。また、酸化剤である空気の量を減らしているため、空気がより多く供給されている場合と比べて、活性化処理時における発熱量を抑えることができる。出力の大きさに比べて放熱量が少ないような燃料電池セルのように、活性化処理時の発熱を抑えたい場合には好ましい実施形態である。
【0107】
(実施形態4)
実施形態4においては、燃料として水素を供給し、酸化剤として空気を自然拡散により取り入れる、大気開放型の燃料電池スタックに対する活性化処理例を説明する。図16に本実施例における燃料電池システムの構成の概略図を示す。また、本実施形態の燃料電池スタックの構成は実施形態1の燃料電池セルを4つ積層した構成である。
【0108】
図16において、36は燃料電池スタック、20は燃料電池セル、21は燃料極、22は固体高分子電解質膜、23は酸化剤極、24は燃料タンク、26は外部負荷、27はスイッチ、28はLiイオン電池、30は電圧調整器である。
【0109】
燃料電池スタック36は実施形態2と同様にLiイオン電池28とは電圧調整器30を介して接続されたハイブリッドな構成である。
【0110】
この場合、燃料電池スタック36とLiイオン電池28は定常運転時にはスイッチ27がAの側に入ることで、並列に外部負荷26に出力を供給する。Liイオン電池28の電圧が燃料電池スタック36と異なる場合には、DC/DCコンバータなどの電圧調整器30で昇圧あるいは降圧すれば良い。
【0111】
燃料電池スタック36の活性化処理時には、スイッチ27がBの側に入ることで、燃料電池スタック36の出力端子のうち、酸化剤極側とLiイオン電池28の負極が、燃料極側の21とLiイオン電池28の正極が接続される。また、燃料電池スタック36にかかる電圧の大きさは、電圧調整器30で調整される。
【0112】
この場合、活性化処理時には、燃料電池スタックの燃料電池セル一つあたりの電圧が−0.3Vになるように電圧調整器30が制御される。即ち、4つの燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの場合は、活性化処理時には燃料極の電位の高さと酸化剤の電位の高さが反転するようにして、燃料電池スタックの両端子間に1.2Vの電圧が印加される。
【0113】
このとき、Liイオン電池28と電圧調整器30からなる補助電源と、外部負荷26の間の接続はそのままでも良いし、解除されて良い。例えば補助電源と外部負荷26の間にスイッチを配置し、燃料電池の活性化処理時には両者の接続が解除された状態となるような構成でも良いし、活性化処理時にも両者を接続した状態として補助電源から外部負荷に電力を供給しても良い。
【0114】
燃料電池スタック36を、例えば温度25℃、湿度50%に制御された環境試験機内に設置する。酸化剤極23には環境雰囲気下の空気が自然拡散により供給され、燃料極21にはドライな水素が供給される。
【0115】
燃料電池スタック36を加湿後に活性化処理を行なうと、燃料電池スタック36の各燃料電池セルには、燃料電池反応の限界電流以上の電流が流れる。
【0116】
通常、燃料電池スタックにおいては、各セルの空気の取り込み量のばらつきなどで、限界電流にばらつきが生じ、活性化の条件が揃わないということが想定される。本実施形態においては、最も大きな限界電流値よりも大きな電流を流して活性化を行なう。
【0117】
(実施形態5)
実施形態5においては、燃料に水素を、酸化剤に空気を自然拡散により取り入れる、大気開放型の燃料電池スタックに対する別の形態の活性化処理例を説明する。図17に本実施形態における燃料電池システムの構成の概略図を示す。また、本実施形態の燃料電池スタックの構成は実施形態1の燃料電池セルを複数積層した構成である。
【0118】
図17において、36は燃料電池スタック、20は燃料電池セル、21は燃料極、22は固体高分子電解質膜、23は酸化剤極、24は燃料タンク、26は外部負荷、27はスイッチ、28はLiイオン電池、29はDC/DCコンバータである。
【0119】
燃料電池スタック36は実施形態2と同様にLiイオン電池28とはDC/DCコンバータ29のような電圧調整器を介して接続される。実施形態4では燃料電池スタック36の両端子間に電圧を印加したが、この場合、各燃料電池セル間で電圧の差が生じる可能性がある。そこで本実施形態では、燃料電池スタック36の各燃料電池セルの両電極間に個別に電圧を印加する。この場合、活性化処理時には、燃料電池スタック36の各燃料電池セルの燃料極の電位に対する酸化剤極の電位が−0.5VになるようにDC/DCコンバータ29が制御される。
【0120】
燃料電池スタック36を、例えば温度25℃、湿度50%に制御された環境試験機内に設置する。酸化剤極23には環境雰囲気下の空気が自然拡散により供給され、燃料極21にはドライな水素が供給される。
【0121】
まず燃料電池スタック36を外部負荷26に接続して駆動させ、酸化剤極23に生成した水の逆拡散を利用して固体高分子電解質膜22を加湿させる。このとき、スイッチ27のAは接続が解除された状態であり、Bは接続された状態である。
【0122】
次に活性化のために、スイッチ27のAを接続した状態とし、Bを接続解除した状態とした。活性化処理を行なうと、燃料電池スタック36の各セルには燃料電池反応の限界電流以上の電流が流れる。
【0123】
通常、燃料電池スタックにおいては、各燃料電池セルの空気の取り込み量のばらつきなどで、限界電流にばらつきが生じ、活性化の条件が揃わないということが想定される。本実施形態においては、各セルの限界電流がばらついていても、全てのセルに対して、限界電流よりも大きな電流を流すことができる。また、実施形態4と比較して、各燃料電池セル間でのばらつきの影響を受けない、より確実な活性化処理が可能である。
【実施例】
【0124】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0125】
[実施例1]
実施例1においては、燃料として水素を供給し、酸化剤として空気を自然拡散により取り入れる、大気開放型の燃料電池セルに対する活性化処理例を説明する。図8に本実施例における燃料電池システムの構成の概略図を、図9に本実施例における燃料電池セルの構成の概略図を示す。
【0126】
図8において、20は燃料電池セル、21は燃料極、22は固体高分子電解質膜、23は酸化剤極、24は燃料タンク、25は外部電源、26は電子機器などの外部負荷、27はスイッチである。
【0127】
図9において、43は膜電極接合体、41、45はカーボンクロス、40、47は集電板、42はシール材、46は発泡金属、44は支持部材である。
【0128】
本実施例では次のような燃料電池セルが作製される。
【0129】
まず、白金黒粉末1gに対してデュポン社製ナフィオンアルコール系溶液1.5ccを加え、混合して触媒スラリーを作製する。これをPTFEシート上に展開・塗布させて触媒層を得る。このとき触媒層の単位面積あたりの白金担持量は約5mg/cmであった。
【0130】
次に、前記触媒層を固体高分子電解質膜ナフィオン112(デュポン社製)の両側にホットプレスにより転写し、PTFEシートを剥離することで膜電極接合体を得た。作製した膜電極接合体の触媒層の面積は約2cmである。
【0131】
本実施の燃料電池セル20は、膜電極接合体43を間に挟む形で、燃料極側には集電板40、カーボンクロス41、シール材42が、酸化剤極側にはカーボンクロス45、発泡金属46、支持部材44、集電板47が配置されている。ここで、カーボンクロス41、45はガス拡散層であり、発泡金属46は空気を燃料電池セルの側面から取り入れるための流路形成部材である。また、支持部材44はシール材42に対向し、締結の圧力をシール材に均一にかけることで燃料極の封止をより確実にするものである。また、集電板40、シール材42、膜電極接合体43、支持部材44、集電板47はボルト穴を有している。これらの部材を位置合わせしながら積み重ね、不図示のボルトおよび絶縁部材により両集電板40、47間を、絶縁した状態で締結する。
【0132】
作製した燃料電池セル20を、温度25℃、湿度50%に制御された環境試験機内に設置した。酸化剤極23には環境雰囲気の空気が自然拡散により供給され、燃料極21にはドライな水素が供給される。
【0133】
まず燃料電池セル20を次のように外部電源25を制御することにより駆動させ、酸化剤極23に生成した水の逆拡散を利用して固体高分子電解質膜22を加湿させた。駆動は燃料電池の両極間の電圧を、開回路電圧から0Vまで10mV/secのスピードで往復掃引させ、加湿とともに限界電流での通電を行なった。流れた限界電流の大きさは約700mA/cmであった。この駆動を4回繰り返した。
【0134】
加湿後の燃料電池セル20に対し、活性化処理として外部電源25により燃料極21に対する酸化剤極23の電位として−0.3Vを1分間印加した。活性化処理時にはスイッチ27によって、燃料電池セル20は外部負荷26との接続から外部電源25への接続へと切り替えられている。
【0135】
活性化処理時に酸化剤極23では水の生成反応とは別に水素の生成反応が生じるため、燃料電池の限界電流以上の電流が流れた。流れた電流の大きさは約1600mA/cmで、限界電流の2倍近い電流を通電させることができた。
【0136】
図10は、上記の活性化処理を行なった燃料電池セル20の特性を、活性化処理を行なっていない燃料電池セル20の特性と比較して示している。図中(a)は活性化処理を行なった燃料電池セル20の電流−電圧特性であり、(b)は活性化を行なっていない燃料電池セル20の電流−電圧特性である。
【0137】
活性化処理を行なうことで燃料電池セルの特性を広い電流の範囲に渡って向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池の酸化剤濃度に対する拡散限界電流を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態における燃料電池の通電電流に対する特性を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態における燃料電池の転極時の挙動を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態における燃料電池の転極試験後の特性を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態における燃料電池の内部抵抗と水素生成により流れる電流の関係を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態における燃料電池の活性化のルーチンを説明する図である。
【図8】本発明の実施例1における燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例1における燃料電池セルの構成を示す概略図である。
【図10】本発明の実施例1における燃料電池セルの活性化後の特性を説明する図である。
【図11】本発明の実施例2における燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【図12】本発明の実施例2における燃料電池システムの別の構成を示す概略図である。
【図13】本発明の実施例3における燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【図14】本発明の実施例3における燃料電池システムの酸化剤量調整手段の構成を示す図である。
【図15】本発明の実施例3における燃料電池システムの酸化剤量調整手段の別の構成を示す図である。
【図16】本発明の実施例4における燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【図17】本発明の実施例5における燃料電池システムの構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0139】
1 燃料電池システム
2 燃料タンク
3 燃料流路
4 酸化剤流路
5 燃料電池セル
6 固体高分子電解質膜
7 燃料極
8 酸化剤極
9 電子機器
10 外部電源
20 燃料電池セル
21 燃料極
22 固体高分子電解質膜
23 酸化剤極
24 燃料タンク
25 外部電源
26 外部負荷
27 スイッチ
28 Liイオン電池
29 DC/DCコンバータ
30 電圧調整器
31 酸化剤量調整器
32 ファン
33 固定通気板
34 可動通気板
35 通気孔
36 燃料電池スタック
40 集電板(燃料極)
41 カーボンクロス
42 シール材
43 膜電極接合体
44 支持部材
45 カーボンクロス
46 発泡金属
47 集電板(酸化剤極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池を有する燃料電池システムにおいて、
前記酸化剤極と前記燃料極の間に、
前記燃料極に燃料を供給した状態で、前記酸化剤極で水素生成反応が生じ、且つ、前記燃料電池が定常運転時に発生する最大電流よりも大きな電流を通電させるに充分な逆極性の電圧を印加する電圧印加回路を有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料として水素が供給されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池が大気開放型の燃料電池であって、前記酸化剤として空気が供給されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池とは別の電源を有し、前記定常運転時に発生する電流よりも大きな電流を通電させる際に、
前記電源の正極を燃料極に、負極を酸化剤極にそれぞれ接続するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池の活性化方法において、
前記酸化剤極と前記燃料極の間に、前記燃料極に燃料を供給した状態で、前記酸化剤極で水素生成反応が生じ、且つ、前記燃料電池が定常運転時に発生する最大電流よりも大きな電流を通電させるに充分な逆極性の電圧を印加する工程を含む活性化処理を行なうことを特徴とする燃料電池の活性化方法。
【請求項6】
前記活性化処理を行なう際の前記酸化剤極と前記燃料極の間の電位差を、
0Vから前記燃料極で水の電気分解反応が生じるまでの範囲内となるように制御することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項7】
前記活性化処理を行なう際の電流の大きさが、前記燃料極の電位に対する前記酸化剤極の電位が−0.3V乃至−0.7Vの範囲である場合に流れる電流の最大値以下であるように制御することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項8】
前記活性化処理を行なう際の前記酸化剤極において、燃料電池反応による水の生成と水素生成反応が同時に生じることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項9】
前記活性化処理を行なう前に前記固体高分子電解質膜を加湿することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項10】
前記固体高分子電解質膜の加湿が燃料電池反応に伴って生じる水による加湿であることを特徴とする請求項9に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項11】
前記活性化処理を行なう際には、前記酸化剤の供給量を定常運転時よりも少なくすることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項12】
前記酸化剤の供給量を少なくするために、酸化剤量調整装置を停止することを特徴とする請求項11に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項13】
前記酸化剤の供給量を少なくするために、酸化剤の取り入れ部の面積を変化させることを特徴とする請求項11に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項14】
前記活性化処理を行なう際には、前記燃料電池とは別の電源の正極を前記燃料極に、負極を前記酸化剤極にそれぞれ接続することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の活性化方法。
【請求項15】
固体高分子電解質膜の一方の面に設けられた酸化剤極に酸化剤を、他方の面に設けられた燃料極に燃料をそれぞれ供給することによって発電を行なう燃料電池の製造方法において、
前記酸化剤極と前記燃料極の間に、前記燃料極に燃料を供給した状態で、前記酸化剤極で水素生成反応が生じ、且つ、前記燃料電池が定常運転時に発生する最大電流よりも大きな電流を通電させるに充分な逆極性の電圧を印加する工程を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−311064(P2008−311064A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157610(P2007−157610)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】