説明

燃料電池システム

【課題】 テトラヒドロホウ酸塩などの金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて発生させた水素ガスを水素燃料電池の燃料として用いるに当たって、アルカリ成分が原因で生じる当該燃料電池の不具合を解消することを目的とする燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】 アルカリ吸収液である水を収容する容器に水素ガスを供給してバブリングするように構成することで、水素ガスに含まれるアルカリ成分を除去することができる。また当該水素ガスには水分が加わるため電解質膜の湿性を長時間保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテトラヒドロホウ酸塩などの金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて水素ガスを発生させ、この水素ガスを燃料電池の燃料として供給する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロホウ酸塩例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)などの固体の金属水素錯化合物と水とを反応させて水素ガスを得、この水素ガスを水素−酸素(空気)型の燃料電池の燃料として用いることが従来から知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、固体の水素化ホウ素ナトリウムに水を接触させると、一時に多量の水素が発生するために、取り扱いと共に水素発生量の制御が容易ではないことから、前記燃料電池の燃料として用いるのに最適な方法とは言えない。
【0004】
そこで例えば特許文献2には、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)をアルカリ水溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に溶解し、この水溶液を例えば基材であるニッケルの表面に白金を被覆させた触媒体に接触させることで水素ガスを発生させる方法が記載されている。これはアルカリ水溶液中では水素化ホウ素ナトリウムの性状が安定しているため水素ガスは発生せず、前記触媒体に接触すると下記の(1)式に示す化学反応を起こして水素ガスが発生するので、当該触媒体に接触させる水溶液の量を調節したり、若しくは触媒体の形状を適宜設計することで、水素発生量を容易に制御することができる。
【0005】
NaBH4+2H2O→NaBO2+4H2……(1)
しかしながら、水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液を前記触媒体に接触させて発生させた水素ガスには、アルカリ成分例えば水素化ホウ素ナトリウムの安定剤として用いたNaOH、未反応のNaBH4及び当該反応により生成した副生成物であるNaBO2などが含有されている。このようなアルカリ成分を多く含有した水素ガスを水素−酸素(空気)型の燃料電池の燃料として燃料電池に供給すると燃料電池を構成する各構成部材に対して様々な影響を及ぼす。特に燃料電池を構成する構成部材の中で燃料極及び電解質膜において、次のような問題が生じる。
【0006】
アルカリ成分を含有した水素ガスを燃料極に接触させると、水素ガス中のアルカリ成分が燃料極の表面に付着するので、時間の経過と共に燃料極の表面はアルカリ成分で被覆され、燃料極における電極反応が阻害されるという問題がある。
【0007】
また燃料極における電極反応により生成した水素イオン(H)が電解質膜を通過するときにアルカリ成分中のナトリウムイオン(Na)も一緒に電解質膜を通過するので、このイオンの流れによって燃料極側から電解質膜中の水分の持ち去り(電気浸透現象)が盛んになり電解質膜中の水分が減少して、電解質膜が乾燥するおそれがある。このように電解質膜が乾燥してしまうと、結果的に燃料電池の出力電圧が低下してしまう。さらに水素ガスに含まれるアルカリ成分のアルカリ作用により燃料電池を構成する構成部材が腐食し劣化するという問題もある。
【0008】
【特許文献1】特開平10−64572(請求項1〜3、図2)
【特許文献2】特開2001−19401(段落0005、段落0015、段落0025〜0026)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、例えばテトラヒドロホウ酸塩などの金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて発生させた水素ガスを水素燃料電池の燃料として用いるに当たって、アルカリ成分が原因で生じる当該燃料電池の不具合を解消することを目的とする燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の燃料電池システムは、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて、水素ガスを発生させる水素発生部と、
この水素発生部から発生した水素ガスに同伴されているアルカリ成分を除去するためのアルカリ除去手段と、
水素を燃料とする燃料電池と、
前記アルカリ除去手段からの水素ガスを前記燃料電池に供給するための手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また上記燃料電池システムにおいて前記アルカリ除去手段は、アルカリ吸収液を収容する容器と、水素ガスをアルカリ吸収液内にバブリングさせるためのバブリング手段と、を備えている。また前記容器は、水素ガスが順番にバブリングされて通過するように複数設けてもよい。
【0012】
さらに上記燃料電池システムにおいて前記水素発生部は、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を貯溜する貯溜部と、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させるための反応部と、前記貯溜部からのアルカリ水溶液と前記アルカリ除去手段にてアルカリ成分を吸収した前記容器内の液体とを混合して反応部内に供給するための混合部と、を備えている。
【0013】
また本発明の好ましい構成例としては、前記容器内の液体のアルカリ濃度を検出するアルカリ濃度検出部と、前記アルカリ濃度検出部にて検出されたアルカリ濃度に基づいて前記混合部における前記貯溜部からの金属水素錯化合物のアルカリ水溶液と前記容器からの液体との混合比を調整する制御部と、を備えた構成を挙げることができる。また前記燃料電池から排出された水を前記容器にアルカリ吸収液として供給することが好ましい。さらに前記アルカリ除去手段は、水素ガスが通過するように設けられ、酸を付着させたフィルタを含む構成であってもよい。なお、前記水素錯化合物は、例えばテトラヒドロホウ酸塩を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液を触媒体に接触させて発生させた水素ガスを水素燃料電池に供給するに当たって、水素ガスに同伴するアルカリ成分を除去しているため、燃料極における電極反応の阻害が抑えられると共に、アルカリ成分による燃料電池の構成部材の腐食劣化が抑えられる。
【0015】
またアルカリ除去手段をアルカリ吸収液である水を収容する容器に水素ガスを供給してバブリングするように構成すれば水素ガスには水分が加わるため電解質膜の湿性を長時間保つことができる。
【0016】
また本発明によれば、貯溜部に貯溜された金属水素錯化合物のアルカリ水溶液(燃料液)の金属水素錯化合物の濃度、あるいは更にアルカリ濃度を、アルカリ除去手段にてアルカリ成分を吸収した水(アルカリ水溶液)により調整して水素発生部に供給するようにしているので、アルカリ成分を再利用することができ、アルカリ成分の使用量を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る燃料電池システムの一実施の形態について図1から図3を用いて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る燃料電池システムの概略構成図であり、このシステムは金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて水素ガスを発生させるための水素発生部100と、水素ガスに含有されているアルカリ成分を除去するためのアルカリ除去手段50と、アルカリ除去された水素ガスを燃料として起電力を発生する固体高分子型燃料電池である水素燃料電池例えば水素−酸素(空気)燃料電池70(以下、燃料電池70という。)とを組み合わせてなる。
【0018】
ここで金属水素錯化合物のアルカリ水溶液とは、具体的には金属水素錯化合物である例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)をアルカリ水溶液である例えば水酸化ナトリウム水溶液に例えば5〜20重量%溶解させ、水酸化ナトリウムの濃度が例えば5〜20重量%の水溶液である。また金属水素錯化合物は水素化ホウ素ナトリウムに限られず、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、または水素化ホウ素リチウム(LiBH4)などを用いてもよい。またアルカリ水溶液は水酸化ナトリウムに限られず、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いてもよい。
【0019】
前記水素発生部100は、燃料液を触媒体に接触させるための反応部30を備えている。この反応部30は、図2(a)に示すように反応容器31の天井部の中央領域には燃料液供給管21が貫通するように設けられていると共に天井部には水素排出管35が接続されている。さらに前記反応容器31の天井部にはL字状の支持用ロッド33の一端側が接続されており、前記支持用ロッド33の他端側は前記燃料液供給管21の先端部に挿設されている。図2(b)に示すように前記燃料液供給管21の先端部の両側壁の間には例えば板状の触媒体32の上部が若干の隙間を保って挿入さており、前記触媒体32は吊り具34を介して前記支持用ロッド33に支持されている。また前記反応容器31の底部には触媒体32の表面に沿って流れ落ちた燃料液を回収するための回収部35が設けられている。
【0020】
前記触媒体32としては、ラネーNiなどの金属、Mg2Niなどの水素吸蔵合金及びそれらのフッ化処理物などが用いられる。また触媒体32の形状としては板状に限られず、当該触媒体32を粉粒状にし、この粉粒体を例えば袋体に充填して用いてもよい。この場合、燃料液供給管21の先端部に当該袋体が取り付けられ、袋体に燃料液が染み込むようになっている。
【0021】
図1に戻って、前記燃料供液給管21の上流端側にはバルブV2を介して混合部20が接続されており、この混合部20には、燃料液供給管11及び後述する戻り水供給管65が接続されている。前記燃料液供給管11の上流端側には、流量調整機能を備えたポンプ12及びバルブV1を介して燃料タンク10が接続されている。また前記戻り水供給管65の一端側には流量調整機能を備えたポンプ66及びバルブV4を介して戻り水タンク64に接続されている。前記戻り水タンク64には、アルカリ除去手段50にてアルカリ成分を吸収したアルカリ含有水が貯留されるようになっている。なお実施の形態においては、このアルカリ含有水を便宜上戻り水と呼んで説明することにする。前記混合部20は、燃料タンク10からの燃料と前記戻り水タンク64からの戻り水とが十分混合されるように例えばコイル状の流路が形成され、両液が当該流路の出口側に達したときに十分混合される構成になっている。
【0022】
一方反応部30の出口側に設けられた前記水素排出管35の下流側には温度調整部36を介してアルカリ除去手段50が接続されている。このアルカリ除去手段50について図3に示すと、図中51は、所定量のアルカリ吸収液である純水が入った容器である。この容器51の底部には水素排出管35の先端部が挿入されており、この先端部にはバブリング手段である例えば多孔質体からなるバブラー52が設けられている。また前記容器51の天井部の中央領域には、ミストセパレータ53を介して水素供給管62が接続されている。さらに前記容器51の上部側面には給水管81が接続されており、この給水管81の上流端側にはポンプ82及びバルブV5を介して水補給タンク80が接続されている。また前記容器51の底部の中央領域には排水管63が接続されており、前記排水管63の一端側には、戻り水タンク64が接続されている。前記アルカリ除去手段50には、図1に示すように容器51内の液体のアルカリ濃度を検出するためのアルカリ濃度検出部60と当該液体の液面レベルを検出するレベルセンサ61とが設けられている。
【0023】
また水素排出管35と水素供給管62とを繋ぐ管の間には容器51内の過圧状態を防止するための逆止弁54が介設されている。なお容器51内に収容されている純水の温度を50〜60℃に加熱するために容器51内の外周部を囲むように図示されない加熱手段例えばヒータが設けられている。
【0024】
図1に示すように前記水素供給管62の下流端側には燃料電池70が接続されている。この燃料電池70は、燃料極71と酸化剤極72との間に高分子電解質膜73が介在しており、燃料極71の一面には燃料電池70の燃料である水素ガスが通流するための燃料通流路74が形成されると共に、酸化剤極72の一面には酸化剤である例えば空気が通流するための空気通流路75が形成されている。前記高分子電解質膜73には例えば交換基にスルホン酸をもつイオン交換膜が用いられ、電極には例えばカーボンに白金系金属触媒を担持したガス拡散電極が用いられる。
【0025】
前記燃料通流路74の一端側及び他端側には、夫々前記水素供給管62及び排出管76が接続されている。さらに空気通流路75の一端側及び他端側には、夫々空気供給管77及び空気排出管78が接続されており、空気排出管78の一端側には気液分離部79を介して既述の水補給タンク80が接続されている。
【0026】
また燃料電池システムは、後述する作用で述べる種々の制御を行うためのプログラムを備えた制御部90を有しており、この制御部90により、反応部30に供給される金属水素錯化合物のアルカリ水溶液の濃度及び供給量と、アルカリ除去手段50の容器51内のアルカリ吸収液の交換のタイミングや補給のタイミングなどが制御される。
【0027】
続いて上述した燃料電池システムの作用について説明する。先ず、燃料タンク10から混合部20に水酸化ナトリウム水溶液に水素化ホウ素ナトリウムを溶解させて既述のように調整した燃料液を所定の量供給する共に、戻り水タンク64から混合部20に水を所定量供給する。運転の立ち上げ時においては、戻り水タンク64に例えば純水あるいはアルカリ濃度を調整したアルカリ水溶液を溜めておく。そして混合部20内を通流することで上記2つの溶液が混合され当該水酸化ナトリウム水溶液に溶解している水素化ホウ素ナトリウムの濃度を設定濃度となるように燃料液を調整する。具体例を挙げると、燃料タンク10からの水素化ホウ素ナトリウムの濃度が10〜20重量%の燃料液と、戻りタンク64からの戻り水とを混合して水素化ホウ素ナトリウムの濃度が5〜15重量%の燃料液を得、この燃料液を反応部30に供給する。
【0028】
このように調整された燃料液を反応部30の燃料液として用いると、当該燃料液を触媒体32に接触させたとき反応により触媒体32の表面に例えばメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)などの析出物の析出が抑えられる。即ち、水酸化ナトリウム水溶液に溶解している水素化ホウ素ナトリウムの濃度が高いと、触媒体32の表面に析出物が析出して当該析出物により燃料液と触媒体32との反応を阻害するので、水酸化ホウ素ナトリウムの濃度を析出物が析出しない程度の濃度まで調整している。
【0029】
この燃料液は通常ではアルカリ水溶液中では水素化ホウ素ナトリウムの性状が安定しているため水素ガスは発生せず、前記触媒体32に接触すると下記の(2)式に示すような化学反応を起こして水素ガスが発生する。
【0030】
NaBH4+2H2O→NaBO2+4H2……(2)
供給された燃料液は、触媒体32の両面に沿って液膜を形成しながら流下し、触媒体32の下端部に達し、この間に水素化ホウ素ナトリウムは上記の(2)式に示した加水分解反応を行い、水素ガスを発生する。この水素ガスは反応容器31の天井部の水素供給管35の入り口へ送られる。また当該水素ガスには、アルカリ成分例えば水素化ホウ素ナトリウムの安定剤として用いたNaOH、未反応のNaBH4及び当該反応により生成した副生成物であるNaBO2などが同伴される。
【0031】
上記(2)式により発生した水素ガスの温度は例えば80〜120℃であり、燃料電池70の燃料ガスとして供給するのに好ましい温度50〜60℃に調整するために水素供給管35に介設された温度調整部36により水素ガスを冷却する。また水素化ホウ素ナトリウムは、触媒体32の両面を流展している間に酸化されて酸化物に変化し、この酸化物を含んだアルカリ水溶液は回収部35に捕集される。
【0032】
図3に示すようにアルカリ除去手段50に供給された水素ガスは、所定量のアルカリ吸収液である例えば温度50〜60℃の純水が入った容器51内のバブリング手段である前記バブラー52を介して当該純水中に泡状に放出され、当該純水により水素ガスに同伴されているアルカリ成分(NaOH、NaBH4及びNaBO2)が取り除かれる。即ち、純水が当該アルカリ成分を吸収することになる。
【0033】
前記容器51内の気相部に放出された水素ガスは、前記容器51の天井部に設置されたミストセパレータ53でアルカリミストが除去され、そして前記容器51の天井部から水素排出口を介して水素供給管62へ送られる。水素ガスをアルカリ吸収液内にバブリングするとこの水素ガスに水分が同伴されるので、時間の経過と共に容器51内の水が減少する。このためレベルセンサ61で容器51内の水面レベルを検知し、制御部90はその水面レベルに応じて、給水管81に設けられた流量調整部82を調整して水補給タンク80から容器51内への給水量を制御する。例えば水面レベルが予め設定した下限レベルになったときに流量調整部82を介して図示しないポンプにより水補給タンク80内の水を容器51内に供給し、水面が上限レベルになったときに給水を停止するといった制御が行われる。なお運転の立ち上げ時においては、水補給タンク80には例えば予め少量の水が蓄えられている。
【0034】
さらに容器51内のアルカリ吸収液は、水素ガスに同伴されたアルカリ成分を吸収することにより、時間の経過と共にアルカリ成分の濃度が高くなる。そこでアルカリ濃度検出部60で容器51内の水のアルカリ濃度が予め設定した濃度になったときに、制御部90の制御信号に基づいてバルブV3が開き、当該アルカリ吸収液を排出管63を介して戻り水タンク64に回収する。従って戻り水タンク64に蓄えられている水のアルカリ濃度は概ね一定に保たれている。またこのとき容器51内の水は全部回収されるのではなく、レベルセンサ61の液面検出値が既述の下限レベルになったときにバルブV3が閉じられる。この下限レベルはバブラー52よりも上方側に位置している。
【0035】
こうして容器51内の水が戻り水タンク64に回収されると、つまり液面が下限レベルになると、制御部90の制御信号に基づいてバルブV5が開き、ポンプ82が駆動されて水補給タンク80から給水管81を介して所定量の水(液面が上限レベルになるまでの量)が供給される。一方戻り水タンク64内の戻り水は、燃料タンク10からの燃料と混合部20にて混合されるが、戻り水中のアルカリ濃度が概ね一定であれば、制御部90は、混合比が予め設定された値となるようにポンプ12、66に対して流量調整信号を出力する。また戻り水のアルカリ濃度を例えば戻り水タンク64内に設けた濃度計(図示せず)により検出すると共に、燃料タンク10内に設けた濃度計(図示せず)により燃料の濃度を検出し、制御部90によりその検出結果に基づいて予め定めた演算式によりポンプ12、66に対して流量調整信号を出力して、混合液のアルカリ濃度が設定値となるように両液の混合比を調整するようにしてもよい。
【0036】
続いて、アルカリ成分が除去された水素ガスは、水素供給管62を通って燃料通流路74の一端側から供給される。また空気通流路75の一端側からは空気が供給される。燃料極71側では下記(3)式に示す反応が起こり、酸化剤極72側では下記(4)式に示す反応が起ることで燃料電池70から電気が取り出される。
【0037】
H2→2H+2e ……(3)
1/2O2+2H+2e→H2O ……(4)
当該反応により酸化剤極72側では水が生成されるので、この水と空気中に含まれる窒素ガスと未反応の酸素ガスとは空気通流路75の他端側から排出される。排出されたガス成分は、気液分離部79で水から分離され、外部に放出される。そして水は排出管78を介して水補給タンク80へと回収され、容器51内に補給するための水として再利用される。
【0038】
この実施の形態によれば、水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液を触媒体32に接触させて発生させた水素ガスを、水を満たした容器51内に供給してバブリングさせることで、水が水素ガスに含まれるアルカリ成分(NaOH、NaBH4及びNaBO2)を吸収して、水素ガス中のアルカリ濃度を低減することができるので、この水素ガスを燃料電池70の燃料ガスとして長時間使用しても、燃料極71にアルカリ成分が付着することが抑えられまたアルカリ作用により燃料電池70を構成する構成部材が腐食し劣化するおそれが少ない。
【0039】
また、水によりアルカリ成分が除去されると共に、水素ガスには水分が加わるため、この水素ガスを燃料電池70の燃料として供給した場合、イオンの流れによる燃料極71側から高分子電解質膜73中の水分の持ち去り(電気浸透現象)を抑えると共に水素ガスに加わった水分が高分子電解質膜73に浸透するので、高分子電解質膜73の湿性を長時間保つことができ、結果的に燃料電池70の出力電圧が安定する。
【0040】
さらにこの実施の形態によれば、アルカリ除去手段50にてアルカリ成分を吸収した水(アルカリ水溶液)をいわばフィードバックして、その戻り水と燃料タンク10に貯溜された水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液(燃料液)とを混合して燃料の濃度を調整して反応部30に供給するようにしているので、アルカリ成分を再利用することができる。このためアルカリ成分の使用量を抑えることができるので、低コスト化に寄与する。なおここでいう燃料の濃度とは、水素化ホウ素ナトリウムの濃度及びアルカリ濃度を指すが、例えばアルカリ濃度は概ねある許容範囲に入っているものとして、水素化ホウ素ナトリウムの濃度の調整のみを目的とする場合も本発明の範囲に含まれる。
【0041】
さらにまたこの実施の形態では、酸化剤極72における電極反応により生成した水を、気液分離部79でガス成分と水とに分離した後、容器51内の水の補給水として用いているので、電極反応により生成した水を既述した燃料電池システムにおいて再利用することができる。
【0042】
ここで、上述した燃料電池システムに用いられるアルカリ除去手段50の他の形態について図4〜図6に基づいて説明する。なお、図中において上述したアルカリ除去手段50と同じ構成にある部分については同じ符号を付してある。
【0043】
図4は、図3を用いて説明したバブラー52を設置した容器51を上下に2つ連結させて水素ガスを順番にバブリングさせて通過するように構成したものである。具体的に説明すると、下段の容器51内に設置されたバブラー52によりバブリングされた水素ガスは気相部である空間部56から水素供給管57を介して上段の容器51内に設置されたバブラー52に供給され、同様にバブラー52により水素ガスをバブリングするものである。このように順番にバブリングすることで水素ガスに同伴されているアルカリ成分をより多く取り除くこと、つまり燃料電池70に供給される水素ガス中のアルカリ濃度をより一層低減できる。なお、55は給水管であり、下段の容器51内の水がバブリングにより減少すると給水管55を介して上段の容器51内の水が下段の容器51へ補給されるようになっている。
【0044】
図5は、アルカリ吸収液である純水を満たした容器51内にバブルキャップ58が設置された形態である。この形態について説明すると前記水素供給管35の基端側は屈曲しており、水素供給管35の先端部が容器51内の中央部まで延設されている。そしてバブルキャップ58が水素供給管35の先端口を塞ぐようにして設けられている。前記バブルキャップ58の中は圧力差により気相部である空間部59が形成されており、この空間部59に水素ガスが供給されるようになっている。前記空間部59に水素ガスが満たされてくると、バブルキャップ58の中の圧力が大きくなるので、前記空間部59からバブルキャップ58の外方側へと水素ガスが放出され、水素ガスがバブリングされることになる。
【0045】
図6は、図5を用いて説明したバブルキャップ58を設置した容器51を上下に2つ連結させて水素ガスを順番にバブリングさせて通過するように構成したものである。具体的に説明すると、下段の容器51内に設置されたバブルキャップ58によりバブリングした水素ガスは気相部である空間部21に貯められる。そしてこの水素ガスは水素供給管22を介して上段の容器51に設置されたバブルキャプ58の気相部である空間部59に供給し、同様にバルブキャップ58により水素ガスをバブリングするものである。このように順番にバブリングすることで水素ガスに含まれているアルカリ成分をより多く取り除くこと、つまり燃料電池70に供給される水素ガス中のアルカリ濃度をより一層低減できる。なお、23は給水管であり、下段の容器51内の水がバブリングにより減少すると給水管23を介して上段の容器51内の水が下段の容器51へ補給されるようになっている。
【0046】
また上述した燃料電池システムにおいて、アルカリ濃度検出部60、レベルセンサ61、戻り水タンク64及び水補給タンク80を備えることを必要としない形態であってもよい。なお、この場合、前記燃料タンク10に蓄えられている金属水素錯化合物のアルカリ水溶液は、反応部30に供給するのに必要な濃度に予め調整されている。
【0047】
アルカリ除去手段50の他の例を図7に示す。アルカリ除去手段50は箱体40を備え、箱体40内の中央部には酸が表面に塗布されたフィルタ41が設置されており、前記フィルタ41の面に対向するように流入口42及び排気口43が夫々開設されている。また前記排気口43側には箱体40内に吸引流を形成させるためのファン44が設けられている。そして前記流入口42及び排気口43には既述した水素供給管35及び水素供給管62が夫々接続されている。
【0048】
この実施の形態の作用について述べると、前記ファン41を回転させることで箱体40内には流入口42から排気口43へと向かう吸引流が形成される。この吸引流により水素供給管35を介して流入口42から流入されたアルカリ成分を含んだ水素ガスはフィルタ41を通過し、排気口43から排気され、水素供給管62を介して燃料電池70の燃料通流路74に供給される。
【0049】
この実施の形態によれば、水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液を触媒体32に接触させて発生させた水素ガスを、酸を付着させたフィルタ41に通過させることで、水素ガスに含まれるアルカリ成分がフィルタ41に付着した酸によって中和されるので、上述と同様な効果を得ることができる。しかし、当該水素ガスは、水素発生部30により発生した水素ガスに含まれている水分だけなので高分子電解質膜73の湿性が若干劣る。
【0050】
また図8に示すように、上述した燃料電池システムにおいて、気液分離部79でガス成分と水とに分離した後、当該水を水補給タンク80に供給せず水貯蔵部83に蓄えるようにしてもよい。この形態について説明すると図中において前記水貯蔵部83には給水管84が設けられており、前記給水管84の基端側はポンプ82とバルブV5との間の給水管81に接続されている。また前記給水管84にはバルブV6が介設されている。なお、図中において燃料電池システムと同じ構成にある部分については同じ符号を付してある。
【0051】
このような構成にすることで容器51内の水を補給する水は主に水貯蔵部83に蓄えられている水が使用され、水貯蔵部83に蓄えられている水が不足したときに、予め水補給タンク80に蓄えられている水を使用するようにしている。
【実施例】
【0052】
次に本発明の効果を確認するために行った実験について述べる。
【0053】
図1に示す混合部20内の燃料液をNaBH4:NaOH:H2O=15:8.5:76.5重量%とし、この燃料液を図2に示す反応部30において、ラネーNiの粉粒体2.5gが充填された袋体(触媒体32)に供給して、水素ガスを1.3mL/min発生させた。そしてこの水素ガス40Lを図3に示すアルカリ除去手段50に供給して、即ち60℃に保持した純水50mLを収容した容器51内に設置されたバブラー52に供給してバブリングさせた。水素ガスをバブリングさせた後、前記容器51内に収容されている水に含まれるアルカリ成分の量を測定した。測定方法は、40Lの水素ガスをバブリングした後における容器51内の水のpH測定し、そのpHからNaOHに換算して評価を行った。その結果、容器51内の水にはNaOH換算で0.1gのアルカリ成分が含有されていることが確認された。このようなことから発生した水素ガスに同伴するアルカリ成分の量は、発生した水素ガスに対してNa換算で1.6%であった。
【0054】
上述した実験結果により容器51内の水にアルカリ成分が含有されることから水素ガスを水を満たした容器51内に供給してバブリングさせることで、水素ガス中のアルカリ成分が取り除かれることが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る燃料電池システムの一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】上記燃料電池システムの一構成部分である水素発生部を示す説明図である。
【図3】上記燃料電池システムの一構成部分であるアルカリ除去手段を示す説明図である。
【図4】上記燃料電池システムの一構成部分であるアルカリ除去手段を示す説明図である。
【図5】上記燃料電池システムの一構成部分であるアルカリ除去手段を示す説明図である。
【図6】上記燃料電池システムの一構成部分であるアルカリ除去手段を示す説明図である。
【図7】本発明に係る他の燃料電池システムの一構成部分であるアルカリ除去手段を示す説明図である。
【図8】本発明に係る燃料電池システムの他の実施の形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
10 燃料タンク
12 流量メータ
20 混合部
30 水素発生部
36 温度調整部
50 アルカリ除去手段
60 アルカリ濃度検出部
61 レベルセンサ
70 固体高分子型燃料電池
79 気液分離部
80 水補給タンク
82 流量メータ
V1〜V5 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させて、水素ガスを発生させる水素発生部と、
この水素発生部から発生した水素ガスに同伴されているアルカリ成分を除去するためのアルカリ除去手段と、
水素を燃料とする燃料電池と、
前記アルカリ除去手段からの水素ガスを前記燃料電池に供給するための手段と、を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記アルカリ除去手段は、アルカリ吸収液を収容する容器と、水素ガスをアルカリ吸収液内にバブリングさせるためのバブリング手段と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記容器は、水素ガスが順番にバブリングされて通過するように複数設けられたことを特徴とする請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記水素発生部は、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を貯溜する貯溜部と、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒体に接触させるための反応部と、前記貯溜部からのアルカリ水溶液と前記アルカリ除去手段によりアルカリ成分を吸収した前記容器内の液体とを混合して反応部内に供給するための混合部と、を備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記容器内の液体のアルカリ濃度を検出するアルカリ濃度検出部と、
前記アルカリ濃度検出部にて検出されたアルカリ濃度に基づいて前記混合部における前記貯溜部からの金属水素錯化合物のアルカリ水溶液と前記容器からの液体との混合比を調整する制御部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池から排出された水を前記容器にアルカリ吸収液として供給することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記アルカリ除去手段は、水素ガスが通過するように設けられ、酸を付着させたフィルタを含むことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記金属水素錯化合物は、テトラヒドロホウ酸塩であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一に記載の燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−107918(P2006−107918A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292763(P2004−292763)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(595155978)株式会社水素エネルギー研究所 (10)
【Fターム(参考)】