説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池システムを停止する際に転極を抑制し、水素を消費する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システムを停止する場合に、燃料電池1の燃料極51に水素ボンベ4からの水素供給を停止し、循環ポンプ6によって排出水素を環流させ、燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続する。その後単位セル40の最小電圧VLが所定電圧V1よりも低くなると燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する第1制御を行う。その後所定時間T1経過後に単位セル40の電圧の中でいずれか一つの電圧が所定電圧V2よりも高い場合に燃料電池1と電荷消費手段21との電気的に接続する第2制御を行う。そして、再び第1制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関するものであり、特に燃料電池システムの停止時の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池システムの停止時に、燃料極における水素の残存により引き起こされる劣化を抑制するために、燃料電池に電荷消費手段を接続して発電反応を行い、燃料電池の内部に残った水素と酸素、特に燃料極内の水素を消費するものが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−139950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の発明では、燃料電池の各単位セルの電圧低下が均一の場合、つまり各単位セルに均一の濃度の水素が供給されている場合には、各単位セル間で電圧の低下に差異が生じず、水素を残存させずに燃料電池の劣化を抑制できる。
【0004】
しかし、各単位セルにおける水素濃度が均一ではない場合には、各単位セル間で電圧の低下に差異が生じ、単位セルの電圧が0V未満となり転極を生じる単位セルがあると、電荷消費手段と燃料電池との電気的な接続を切断するために、水素が残存する単位セルが存在し、燃料電池の劣化を十分に抑制できない、といった問題点がある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、転極を抑制しながら単位セルに残存する水素を消費し、燃料電池の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、電解質膜を挟持する燃料極と酸化剤極とから構成する単位セルを積層したスタック部を有する燃料電池と、燃料極に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、燃料極から排出される排出燃料ガスを環流させる燃料ガス循環手段と、複数の単位セルの電圧を検出する電圧検出手段と、燃料電池システムを停止する場合に、燃料極に残った前記燃料ガスを消費させる電荷消費手段と、燃料電池と電荷消費手段との電気的な接続を切り換える切換手段と、燃料電池システムの停止制御を行う燃料電池システム停止制御手段と、を備える。燃料電池システムを停止する場合には、燃料ガス供給手段から燃料極への燃料ガスの供給を停止し、排出燃料ガスを環流させ、燃料電池と電荷消費手段とを電気的に接続した後に、複数の単位セルのうちの最低電圧が第1所定電圧よりも低くなった場合に燃料電池と電荷消費手段との電気的な接続を切断する第1制御を行い、第1制御から所定時間経過した後に、単位セルの電圧の中でいずれか一つの電圧が第1所定電圧よりも高い第2所定電圧よりも高くなった場合に、燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続する第2制御を行い、そして再び第1制御を行う。
【0007】
また、燃料電池システムを停止する場合には、燃料ガス供給手段から燃料極への燃料ガスの供給を停止し、前記排出燃料ガスを環流させ、燃料電池と電荷消費手段とを電気的に接続した後に、単位セルの最低電圧が第1所定電圧よりも低くなった場合に燃料電池と電荷消費手段との電気的な接続を切断する第1制御を行い、第1制御から所定時間経過した後に、最低電圧となった単位セルの電圧が第1所定電圧よりも高い第2所定電圧よりも高くなった場合に、燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続する第3制御を行い、再び第1制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、燃料電池システムを停止する場合に、単位セルの電圧が所定電圧V1よりも低くなると、燃料電池と電荷消費手段との電気的な接続を切断し、各単位セルの燃料極の水素濃度を略均一とする。その後、単位セルの電圧が所定電圧V2よりも高い場合には、再び燃料電池と電荷消費手段とを電気的に接続し、燃料電池に残存した水素を消費する。これらを繰り返すことで、単位セルの水素濃度を略均一に保ち、転極を抑制して、燃料電池に残存した水素を消費することができる。そのため燃料電池の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1実施形態の燃料電池システムの構成について図1を用いて説明する。
【0010】
この実施形態の燃料電池システムは、燃料電池1と、後述する燃料極51に水素(燃料ガス)を供給する水素ボンベ(燃料ガス供給手段)4と、後述する酸化剤極52に空気を供給するコンプレッサ5と、燃料極51から排出された排出水素を燃料極に環流させる循環ポンプ(燃料ガス循環手段)6と、を備える。
【0011】
燃料電池1は単位セル40を複数枚積層したスタック部2と、スタック部2の両端にそれぞれ設けた集電板3と、を備える。燃料電池1によって発電した電力は2つの集電板3によって外部へ供給される。
【0012】
また、水素ボンベ4と燃料極51とを連通する水素供給流路10と、排出水素中の水素濃度が低下した場合に、燃料電池1の発電反応に使用されなかった排出水素を燃料電池システムの外部へ排出する水素排出流路11と、水素排出流路11と水素供給流路10とを連結し、その途中に循環ポンプ6を有する水素循環流路12と、を備える。
【0013】
水素供給流路10には水素ボンベ4からの水素流量を制御する流量制御弁13を備え、水素排出路11には排出水素の流量を制御する流量制御弁14を備える。
【0014】
また、コンプレッサ5と酸化剤極52とを連通する空気供給流路15と、燃料電池1の発電反応に使用されなかった排出空気を燃料電池システムの外部へ排出する空気排出流路16と、を備える。
【0015】
空気供給流路15には酸化剤極52に供給する空気流量を制御する流量制御弁17を備え、空気排出流路16には排出空気の流量を制御する流量制御弁18を備える。
【0016】
さらに、燃料電池1の各単位セル40の電圧を検出する電圧センサ(電圧検出手段)20を備える。また、燃料電池システムの停止時に燃料極51と酸化剤極52とに残る水素、または酸素を消費するための電荷消費手段21を備える。電荷消費手段21はスイッチ(切換手段)22によって燃料電池1との電気的な接続状態を切り換えられる。なお、電圧センサ20は図1において説明のために1つの電圧センサ20を記載する。電圧センサ20は各単位セル40にそれぞれ設けることが望ましく、少なくともスタック部2の両端に位置する単位セル40に設ける。
【0017】
電荷消費手段21は、例えば抵抗であり燃料電池1に残留した水素と空気中の酸素を消費する。なお、電荷消費手段21に二次電池を使用してもよい。
【0018】
燃料電池システムの停止時に、流量制御弁13、14、17、18の開閉を制御し、コンプレッサ5と循環ポンプ6とを制御し、スイッチ22による燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切り換えるコントローラ(燃料電池システム停止制御手段)30を備える。
【0019】
ここで単位セル40について図2の概略構成図を用いて説明する。
【0020】
単位セル40は、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜とする)41と、電解質膜41を挟持するアノード触媒層42とカソード触媒層43と、アノード触媒層42の外側に設けたアノードガス拡散層44と、カソード触媒層43の外側に設けたカソードガス拡散層45と、を備える。また、アノードガス拡散層44の外側に設けられ、水素流路46を有するアノードセパレータ47と、カソードガス拡散層45の外側に設けられ、空気流路48を有するカソードセパレータ49を備える。さらに水素または空気がリークしないようにエッジシール50を備える。なお、図示しないが、単位セル40を冷却する冷却水が流れる冷却水流路を設けても良い。また、アノードセパレータ47とカソードセパレータ49との間に電圧センサ20を設ける。
【0021】
ここではアノード触媒層42とアノードガス拡散層44とを燃料極51とし、カソード触媒層43とカソードガス拡散層45とを酸化剤極52とする。
【0022】
電解質膜41は、例えばデュポン社製のNafion(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸などの高分子電解質膜である。
【0023】
アノード触媒層42とカソード触媒層43とは、触媒として白金を担持するカーボンブラックである。なお、触媒としては白金に限られることはない。
【0024】
アノードガス拡散層44とカソードガス拡散層45は、例えばカーボンペーパ、カーボンクロスを使用する。
【0025】
以上の構成によって、燃料電池システムを停止する場合に各単位セル40の水素と空気中の酸素の濃度を均一にし、単位セル40に残る水素と酸素を少なくし、燃料電池1の劣化を抑制することができる。
【0026】
次にコントローラ30によって行う燃料電池システムの停止制御について図3のフローチャートを用いて説明する。
【0027】
ステップS100では、燃料電池システムの停止信号を受けると、コンプレッサ5を停止し、流量制御弁13、14、17、18を全閉とする。これによって水素ボンベ4から燃料極51への新たな水素の供給を停止し、コンプレッサ5から酸化剤極52への新たな空気の供給を停止する。また、燃料極51または酸化剤極52と燃料電池システム1の外部との連通を遮断する。循環ポンプ6は継続して運転させ、燃料極51へ排出水素のみを環流させる。
【0028】
ステップS101では、スイッチ22をONとし、燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続する。これによって単位セル40に残った水素と酸素を消費する。
【0029】
ステップS102では、電圧センサ20によって各単位セル40の電圧を検出し、検出した電圧の中で最も電圧が低い単位セル40の最低電圧VLと所定電圧(第1所定電圧)V1とを比較する。そして、最低電圧VLが所定電圧V1よりも低くなるとステップS103へ進む。この実施形態では所定電圧V1は、0V<V1≦0.2Vとする。所定電圧V1について、詳しくは後述する。
【0030】
ステップS103では、スイッチ22をOFFとし、燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を遮断する。つまり、燃料電池1における発電反応を停止し、循環ポンプ6によって、燃料極51に排出水素を環流させる。スイッチ22をOFFとすることで燃料極51では水素が消費されず、循環ポンプ6によって排出水素を環流させるので、各単位セル40の燃料極51の水素濃度にバラツキが生じている場合には、燃料極51の水素濃度が略均一になる。そのため単位セル40の中で水素濃度が低い単位セル40においては、単位セル40の電圧が上昇する(ステップS102、103が第1制御を構成する)。
【0031】
ステップS102とステップS103において、単位セル40の最低電圧VLが所定電圧V1よりも小さくなると、スイッチ22をOFFとして、燃料電池1において発電反応を停止する。そして、循環ポンプ6により燃料極51に排出水素を環流させることで、燃料極51の水素濃度を略均一にすることができ、単位セル40で水素不足による転極を防止することができる。そのため、単位セル40の劣化を抑制することができる。
【0032】
ステップS104では、スイッチ22をOFFとしてから所定時間T1経過後に、電圧センサ20によって各単位セル40の電圧Vを検出し、全ての単位セル40の電圧Vと所定電圧(第2所定電圧)V2とを比較する。そして全ての単位セル40の電圧VがV≦V2となっている場合にはステップS105へ進み、いずれか一つの単位セル40の電圧VがV≦V2となっていない場合にはステップS102へ戻り、上記制御を繰り返す。所定電圧V2は、V2=V1+0.1Vとなる電圧である。また、所定時間T1は、予め実験などにより得られた時間である。この実施形態では所定時間T1を100msとする(ステップS104、S101が第2制御を構成する)。
【0033】
ステップS105では、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素と空気中の酸素とを消費させる。ここでは全ての単位セル40の電圧VがV≦V2を満たすので、各単位セル40の燃料極51での水素濃度の差が小さく、燃料極51に残った水素も少ない。そのため、単位セル40において転極が生じる可能性が低いので、燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素を更に消費して、燃料電池システムの運転停止制御を終了する。
【0034】
以上の制御によって、燃料電池システムを停止する際に電圧センサ20によって検出した単位セル40の最低電圧VLが所定電圧V1よりも低い場合には、燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断し、循環ポンプ6によって燃料極51に排出水素を環流させる。これにより、単位セル40の水素濃度を略均一にすることができ、単位セル40の転極による劣化を抑制する。また、所定時間T1経過後、単位セル40の全ての電圧Vが所定電圧V2よりも低くなると、つまり燃料極51に残る水素が十分に少なくなると、燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料極51に残った水素消費して燃料電池システムの停止制御を終了する。これにより、転極による単位セル40の劣化を抑制し、燃料極51内に水素を消費することで、燃料電池1の劣化を抑制することができる。
【0035】
次にコントローラ30による燃料電池システムの停止制御を行った際の単位セル40の電圧変化について図4のタイムチャートを用いて説明する。なお、図4においては単位セル40の中で電圧が一番低い単位セル40の電圧を実線で示し、その他の単位セル40の電圧を破線で示す。
【0036】
時間t0において、燃料電池システムの停止制御が開始されると、水素ボンベ4から燃料極51への新たな水素の供給が停止され、コンプレッサ5による酸化剤極52への新たな空気の供給が停止される(ステップS100)。また、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素と空気中の酸素を消費させる(ステップS101)。これにより単位セル40の電圧Vが次第に低下する。
【0037】
時間t1において、最も電圧が低い単位セル40の最低電圧VLが所定電圧V1となると、スイッチ22をOFFとして燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する(ステップS102、S103)。このとき循環ポンプ6によって燃料極51から排出された排出水素が環流し、燃料電池1では発電反応が行われていないので、各単位セル40の燃料極51の水素濃度が略均一になる。そのため単位セル40の電圧Vの中で最も低い最低電圧VLとなった単位セル40の電圧は高くなる。
【0038】
そして、時間t1から所定時間T1が経過した時間t2において、全ての単位セル40の電圧VがV≦V2の条件を満たし、燃料電池1に残った水素量が少なくなったので、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続して燃料電池システムの停止制御を終了する(ステップS104、S105)。
【0039】
また、コントローラ30による燃料電池システムの停止制御を行った際の単位セル40の電圧変化について図5のタイムチャートを用いて説明する。図5はステップS104において単位セル40の電圧Vのいずれか一つがV≦V2を満たさない場合の電圧変化である。なお、図5においても単位セル40の中で電圧が一番低い単位セル40の電圧を実線で示し、その他の単位セル40の電圧を破線で示す。
【0040】
時間t0において、燃料電池システムの停止制御が開始されると、水素ボンベ4から燃料極51への新たな水素の供給が停止され、コンプレッサ5による酸化剤極52への新たな空気の供給が停止される(ステップS100)。また、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素と空気中の酸素を消費させる(ステップS101)。これにより単位セル40の電圧が次第に低下する。
【0041】
時間t1において、単位セル40の電圧Vの中で最も低い最低電圧VLが所定電圧V1となる(ステップS102)と、スイッチ22をOFFとして燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する(ステップS103)。このとき循環ポンプ6によって燃料極51から排出された排出水素が環流し、燃料電池1では発電反応が行われていないので、各単位セル40の燃料極51に供給される水素を含んだガス中の水素濃度の差が小さくなる。
【0042】
しかし、燃料極51の水素濃度にバラツキが大きい場合には、時間t1から所定時間T1が経過した時間t2に、単位セル40の電圧VのいずれかがV≦V2の条件を満たさない場合がある。つまり、燃料電池1に残っている水素量が比較的多い場合がある(ステップS104)。この場合には、単位セル40における転極を防止するために、スイッチ22をONとして、再び燃料電池1に残った水素を消費させる(ステップS101)。
【0043】
時間t3において、時間t1と同様に最低電圧VLが所定電圧V1以下となると、スイッチ22をOFFとする(ステップS102、103)。
【0044】
時間t3から所定時間T1が経過した時間t4において、全ての単位セル40の電圧VがV≦V2の条件を満たすと、燃料電池システムの停止制御を終了する(ステップS104、S105)。
【0045】
以上のように、燃料電池システムの停止制御時に単位セル40の最低電圧VLが所定電圧V1以下となると、燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断し、所定時間T1経過後に全ての単位セル40の電圧VがV≦V2の条件を満たした場合に、燃料電池システムの停止制御を終了する。これにより、単位セル40による転極を防止し、燃料電池1に残った水素を消費させるので、燃料電池1の劣化を抑制することができる。
【0046】
ここで、単位セル40の燃料極51に供給するガス中の水素濃度と、単位セル40の電圧Vと、燃料電池システムを停止する際の単位セル40の劣化度合いと、の関係を図6に示す。
【0047】
図6によると燃料極51に供給するガス中の水素濃度が低くなると、単位セル40の電圧Vが低くなる。つまり、単位セル40の電圧を検出することで、燃料極51のガス中の水素濃度を推定することができる。また、燃料極51に供給するガス中の水素濃度が、約30%よりも低くなると燃料電池システムを停止する際の単位セル40の劣化の割合が小さくなる。この実施形態では、単位セル40の水素濃度に対応して変化する単位セル40の電圧Vを検出し、単位セル40の電圧Vに基づいて燃料電池システムの停止制御を行うことで、燃料電池1の劣化を抑制する。
【0048】
図6では、単位セル40の電圧Vが0.3V以下の場合に単位セル40の劣化が小さくなっている。この実施形態では燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、素早く燃料極51に残る水素を消費し、燃料電池1の劣化を抑制する。そこで所定電圧V1を0<V1≦0.2Vとする。また、所定電圧V2を0.3V以下とすることが望ましく、この実施形態では所定電圧V2=V1+0.1Vとする。なお、所定電圧V2を0.4Vとしても良い。所定電圧V2を0.4Vとしても、燃料電池1の劣化を比較的抑制することができる。
【0049】
また、図10に示すように酸化剤極52から排出される排出空気を空気循環ポンプ60によって環流させ、燃料電池システムの停止制御時に酸化剤極52へ排出空気を環流させても良い。また、酸化剤極52へ空気を供給して燃料電池システムの停止制御を行っても良い。
【0050】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0051】
この実施形態では、燃料電池システムを停止する場合に、燃料極51へ水素ボンベ4からの水素供給を停止し、循環ポンプ6によって排出水素を環流させた後に、単位セル40の電圧Vの最低電圧VLが所定電圧V1よりも低くなると、スイッチ22によって燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する。そして、所定時間T1経過した後に、単位セル40の電圧Vのいずれか一つが所定電圧V2よりも大きい場合にはスイッチ22によって燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料極51に残った水素を消費させる。その後再び、最低電圧VLと所定電圧V1とを比較する。この制御を繰り返すことで、燃料極51の水素濃度を略均一に保ちながら、燃料極51に残る水素を消費することができる。また、燃料極51の水素濃度のバラツキによって生じる単位セル40の転極を防止し、転極による単位セル40の劣化を抑制することができる。
【0052】
単位セル40の全ての電圧Vが所定電圧V2以下となると、スイッチ22によって燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池システムの停止制御を終了する。単位セル40の全ての電圧Vが所定電圧V2以下となると、燃料極51の水素濃度のバラツキが小さく、燃料極51に残った水素が十分に消費されているので、転極が生じ難くなる。そのため、単位セル40の劣化を抑制し、燃料電池システムを停止することができる。
【0053】
次に本発明の第2実形態について説明する。この実施形態の燃料電池システムの構成は第1実施形態と同じなので、ここでの説明は省略する。
【0054】
この実施形態では、燃料電池システムの停止制御が異なっており、燃料電池システムの停止制御について図7のフローチャートを用いて説明する。
【0055】
ステップS200からステップS203までの制御は第1実施形態のステップS100からステップS103までと同じ制御なので、ここでの説明は省略する。
【0056】
ステップS203の制御から所定時間T1経過の後に、ステップS204では、電圧センサ20によって、ステップS202で最低電圧VLとなった単位セル40の電圧Vを再び検出し、電圧Vを所定電圧V2と比較し、電圧VがV≦V2となっているかどうか判定する。そして電圧VがV≦V2となっている場合には、ステップS205へ進み、V2<Vとなっている場合には、ステップS201へ戻り、上記制御を繰り返す(ステップS204、S201が第3制御を構成する)。
【0057】
ステップS203において、スイッチ22をOFFとし、循環ポンプ6によって燃料極51に水素を含んだガスを環流させているので、各単位セル40の水素濃度が略均一となる。このときステップS204において最低電圧VLとなった単位セル40内の水素濃度が高くなるので、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧は高くなる。ステップS204では、所定時間T1経過の後に、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧Vが所定電圧V2よりも大きくなると、燃料電池1の全体で多くの水素が残っていると判定し、ステップS201へ戻り、再び電荷消費手段21によって、燃料電池1内に残った水素を消費する。
【0058】
以上のように、所定時間T1経過の後に最低電圧VLとなった単位セル40の電圧Vが所定電圧V2よりも高くなった場合には、電荷消費手段21によって燃料電池1に残った水素を単位セル40で転極が生じないように消費することで、燃料電池1の劣化を抑制することができる。
【0059】
ステップS205では、ステップS202において最低電圧VLとなった単位セル40の電圧変化量dVを算出し、dV>0の場合、つまり単位セル40の電圧が上昇している場合には、その後電圧Vが所定電圧V2よりも大きくなる可能性があるので、ステップS204へ戻り、上記制御を繰り返す。また、dV≦0の場合、つまり単位セル40の電圧が上昇していない場合には、ステップS206へ進む。
【0060】
ステップS206では、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素と酸素とを消費する。ここではステップS202において最低電圧VLとなった単位セル40の電圧VがV≦V2を満たし、電圧Vが増加していないので、燃料電池1に残った水素は少ない。そのため、単位セル40において転極が生じる可能性が低いので、燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素を更に消費して、燃料電池システムの停止制御を終了する。
【0061】
以上の制御によって、燃料電池システムを停止する際に電圧センサ20によって検出した単位セル40の最低電圧VLが所定電圧V1よりも低い場合には、燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断し、循環ポンプ6によって燃料極51に排出水素を環流させる。これにより、単位セル40の水素濃度を略均一にすることができ、単位セル40の転極による劣化を抑制する。また、所定時間T1経過後、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧Vが所定電圧V2以下となり、さらに電圧増加量dVがゼロ以下となると、燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料極51に残った水素消費して燃料電池システムの停止制御を終了する。これにより、転極による単位セル40の劣化を抑制し、燃料極51内に水素を消費することで、燃料電池1の劣化を抑制することができる。
【0062】
次にコントローラ30による燃料電池システムの停止制御を行った際の単位セル40の電圧変化について図8のタイムチャートを用いて説明する。なお、図8では単位セル40の中で、電圧が最も低い単位セル40の電圧変化を示す。
【0063】
時間t0において、燃料電池システムの停止制御が開始されると、水素ボンベ3から燃料極51への新たな水素の供給が停止され、コンプレッサ4による酸化剤極52への新たな空気の供給が停止される(ステップS200)。また、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素と空気中の酸素を消費させる(ステップS201)。これにより単位セル40の電圧が次第に低下する。
【0064】
時間t1において、単位セル40の電圧Vの中で一番小さい最低電圧VLが所定電圧V1となると(ステップS202)、スイッチ22をOFFとして燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する(ステップS203)。このとき循環ポンプ6によって燃料極51から排出された排出水素が環流し、燃料電池1では発電反応が行われていないので、各単位セル40の燃料極51の水素濃度が略均一になる。そのため単位セル40の電圧Vの中で最も低い最低電圧VLとなった単位セル40の電圧は高くなる。
【0065】
そして、時間t1から所定時間T1が経過した時間t2において、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧VがV≦V2となり(ステップS204)、さらに電圧増加量dVがdV≦0となると(ステップS205)、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続して燃料電池システムの停止制御を終了する(ステップS206)。
【0066】
次にステップS204において一度V2<Vと判定された場合の電圧変化について図9のタイムチャートを用いて説明する。なお、図9では単位セル40の中で、電圧が最も低い単位セル40の電圧変化を示す。
【0067】
時間t0から時間t1までの電圧変化は図8に示すタイムチャートと同じなので、ここでの説明は省略する。
【0068】
時間t1から所定時間T1が経過した時間t2において、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧VがV>V2であると(ステップS204)、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池1に残った水素を消費する(ステップS201)。これにより単位セル40の電圧は低くなる。
【0069】
時間t3において、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧を再び検出し、電圧Vが所定電圧V1よりも低くなると(ステップS202)、スイッチ22をOFFとして燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する(ステップS203)。
【0070】
時間t3から所定時間T1が経過した時間t4において、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧VがV≦V2となり(ステップS204)、さらに電圧増加量dVがdV≦0となると(ステップS205)、スイッチ22をONとして燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続して燃料電池システムの停止制御を終了する(ステップS206)。
【0071】
以上のように、燃料電池システムの停止制御時に単位セル40のうち最も低い最低電圧VLが所定電圧V1以下となると、燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断し、所定時間T1経過後に最低電圧VLとなった単位セル40の電圧VがV≦V2となり、さらに電圧増加量dVがdV≦0の条件を満たした場合に、燃料電池システムの停止制御を終了する。これにより、単位セル40による転極を防止し、燃料電池1に残った水素を消費させるので、燃料電池1の劣化を抑制することができる。
【0072】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0073】
この実施形態では、燃料電池システムを停止する場合に、燃料極51へ水素ボンベ4からの水素供給を停止し、循環ポンプ6によって排出水素を環流させた後に、単位セル40の電圧Vの中で最も低い電圧VLが所定電圧V1よりも低くなると、スイッチ22によって燃料電池1と電荷消費手段21との電気的な接続を切断する。そして、所定時間T1経過した後に、最低電圧VLとなった単位セル40の電圧Vが所定電圧V2よりも大きい場合にはスイッチ22によって燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池51に残った水素を消費させる。その後再び、最低電圧VLと所定電圧V1とを比較する。この制御を繰り返すことで、燃料極51の水素濃度を略均一に保ちながら、燃料極51に残る水素を消費することができる。また、燃料極51の水素濃度のバラツキによって生じる単位セル40の転極を防止し、転極による単位セル40の劣化を抑制することができる。
【0074】
最低電圧VLとなった単位セル40の電圧Vが所定電圧V2以下となり、さらに電圧増加量dVがゼロ以下となると、スイッチ22によって燃料電池1と電荷消費手段21とを電気的に接続し、燃料電池システムの停止制御を終了する。電圧Vが所定電圧V2以下となり、さらに電圧増加量dVがゼロ以下となると、燃料極51の水素濃度のバラツキが小さく、燃料極51に残った水素が十分に消費されているので、転極が生じ難くなる。そのため、単位セル40の劣化を抑制し、燃料電池システムを停止することができる。
【0075】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
燃料電池システムの起動、停止回数が多い燃料電池自動車に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の単位セルの概略構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態の燃料電池システムの停止制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態の単位セルの電圧変化を示すタイムチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態の単位セルの電圧変化を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態の単位セルにおける水素濃度と電圧との関係、または水素濃度と単位セルの劣化度合いとの関係を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態の燃料電池システムの停止制御を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態の単位セルの電圧変化を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態の単位セルの電圧変化を示すタイムチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態における燃料電池システムの変更例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0078】
1 燃料電池
2 スタック部
4 水素ボンベ(燃料ガス供給手段)
5 コンプレッサ
6 循環ポンプ(燃料ガス循環手段)
20 電圧センサ(電圧検出手段)
22 スイッチ(切換手段)
30 コントローラ(燃料電池システム停止制御手段)
40 単位セル
41 固体高分子電解質膜(電解質膜)
51 燃料極
52 酸化剤極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜を挟持する燃料極と酸化剤極とから構成する単位セルを積層したスタック部を有する燃料電池と、
前記燃料極に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料極から排出される排出燃料ガスを環流させる燃料ガス循環手段と、
複数の前記単位セルの電圧を検出する電圧検出手段と、
燃料電池システムを停止する場合に、前記燃料極に残った前記燃料ガスを消費させる電荷消費手段と、
前記燃料電池と前記電荷消費手段との電気的な接続を切り換える切換手段と、
前記燃料電池システムの停止制御を行う燃料電池システム停止制御手段と、を備え、
前記燃料電池システム停止制御手段は、
前記燃料ガス供給手段から前記燃料極への前記燃料ガスの供給を停止し、前記排出燃料ガスを環流させ、前記燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続した後に、
前記電圧検出手段により検出される、複数の単位セルのうちの最低電圧が第1所定電圧よりも低くなった場合に前記燃料電池と前記電荷消費手段との電気的な接続を切断する第1制御を行い、
前記第1制御から所定時間経過した後に、前記単位セルの電圧の中でいずれか一つの電圧が前記第1所定電圧よりも高い第2所定電圧よりも高くなった場合に、前記燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続する第2制御を行い、
その後、再び前記第1制御を行うことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池システム停止制御手段は、
前記第1制御から所定時間経過した後に、前記単位セルの全ての電圧が前記第2所定電圧よりも低い場合に、前記燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続し、
前記燃料電池システムの停止制御を終了することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
電解質膜を挟持する燃料極と酸化剤極とから構成する単位セルを積層したスタック部を有する燃料電池と、
前記燃料極に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料極から排出される排出燃料ガスを環流させる燃料ガス循環手段と、
複数の前記単位セルの電圧を検出する電圧検出手段と、
燃料電池システムを停止する場合に、前記燃料極に残った前記燃料ガスを消費させる電荷消費手段と、
前記燃料電池と前記電荷消費手段との電気的な接続を切り換える切換手段と、
前記燃料電池システムの停止制御を行う燃料電池システム停止制御手段と、を備え、
前記燃料電池システム停止制御手段は、
前記燃料ガス供給手段から前記燃料極への前記燃料ガスの供給を停止し、前記排出燃料ガスを環流させ、前記燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続した後に、
前記複数の単位セルのうちの最低電圧が第1所定電圧よりも低くなった場合に前記燃料電池と前記電荷消費手段との電気的な接続を切断する第1制御を行い、
前記第1制御から所定時間経過した後に、前記最低電圧となった単位セルの電圧が前記第1所定電圧よりも高い第2所定電圧よりも高くなった場合に、前記燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続する第3制御を行い、
その後、再び前記第1制御を行うことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池システム停止制御手段は、
前記第1制御から所定時間経過した後に、前記最低電圧となった単位セルの電圧が前記第2所定電圧よりも低く、かつ前記単位セルの電圧増加量がゼロ以下である場合に、前記燃料電池と前記電荷消費手段とを電気的に接続し、
前記燃料電池システムの停止制御を終了することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記電圧検出手段は、前記スタックの両端部に位置する前記単位セルに設けることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記第1所定電圧は、0V以上、0.2V以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記第2所定電圧は、前記第1所定電圧よりも0.1V大きいことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記第2所定電圧は、0.4V以下であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−59120(P2007−59120A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240932(P2005−240932)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】