説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の発電時において、水分過多および電解質膜の乾燥を抑制しつつ、燃料電池の性能を確保する。
【解決手段】フラッディング検知部と、膜乾燥検知部と、燃料電池に対して積層方向に締結荷重を加える締結機構であって、単セルに対して均一な締結荷重を加えることができると共に、単セル内の領域によって異なる締結荷重を加えることが可能な締結機構と、フラッディング検知部がフラッディングの発生を検知したときには、締結機構を駆動することによって、少なくとも、フラッディングが発生しやすい領域として予め設定した領域であるフラッディング領域の締結荷重を減少させ、膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、締結機構を駆動することによって、少なくとも、電解質膜における水分不足が発生しやすい領域として予め設定した領域である膜乾燥領域の締結荷重を増加させる締結荷重制御部と、を備える燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の発電時には、燃料電池内のガス流路に液水が滞留して、ガス流路におけるガス流れを抑制する場合がある。このような液水の滞留に起因するガス流れの抑制は、燃料電池の発電性能の低下の原因となり得る。そのため、燃料電池の性能を維持するためには、燃料電池からの排水性を確保することが重要である。このような燃料電池からの排水性を確保する方法の一つとして、従来、燃料電池システムの停止時に、燃料電池スタック内の水分量に基づいて燃料電池スタックの締め付け荷重を減少させて、燃料電池からの排水性を高める方法が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−115492号公報
【特許文献2】特開2007−005229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池スタックの締め付け荷重を減少させて、燃料電池からの排水性を高める場合には、排水性が高まることにより部分的に電解質膜が乾燥し、燃料電池の性能を充分に確保できない事態も生じ得た。また、燃料電池からの排水性の確保による電池性能の確保は、燃料電池の停止時だけでなく、燃料電池が発電を継続しているときにおいて、強く望まれていた。燃料電池の停止時には、電解質膜が乾燥したとしても、その後の発電に必ずしも直接影響するとは限らないが、燃料電池が発電を継続しているときには、電解質膜の乾燥は、電池性能の低下を直ちに引き起こす可能性がある。そのため、燃料電池の発電中には、燃料電池からの排水性を確保するためであっても、電解質膜の乾燥を引き起こす可能性のある締め付け荷重の減少という方策は、採用し難い場合があった。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池の発電時において、水分過多および電解質膜の乾燥を抑制しつつ、燃料電池の性能を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0007】
[適用例1]
電解質膜および電極を含む単セルを有する燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池におけるフラッディングの発生を検知するフラッディング検知部と、
前記燃料電池が備える電解質膜における水分不足を検知する膜乾燥検知部と、
前記燃料電池に対して前記電解質膜および電極の積層方向に締結荷重を加える締結機構であって、前記単セルに対して均一な締結荷重を加えることができると共に、前記単セル内の領域によって異なる締結荷重を加えることが可能な締結機構と、
前記フラッディング検知部がフラッディングの発生を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいてフラッディングが発生しやすい領域として予め設定した領域であるフラッディング領域の締結荷重を減少させ、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいて前記電解質膜における水分不足が発生しやすい領域として予め設定した領域である膜乾燥領域の締結荷重を増加させる締結荷重制御部と
を備える燃料電池システム。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池システムによれば、フラッディングが発生したときには、少なくともフラッディング領域の締結荷重を減少させることによってフラッディングの解消を図ることができ、電解質膜の水不足が生じたときには、少なくとも膜乾燥領域の締結荷重を増加させることによって膜乾燥の解消を図ることができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記締結荷重制御部は、前記フラッディング検知部がフラッディングを検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記単セル全体の締結荷重を減少させ、その後、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記膜乾燥領域の締結荷重を他の領域に比べて増加させる燃料電池システム。適用例2に記載の燃料電池システムによれば、単セル内のいずれの領域においてフラッディングが生じていても、単セル全体の締結荷重を減少させることによって、フラッディングの解消を図ることが可能になる。また、単セル全体の締結荷重を減少させることによって、膜乾燥領域において電解質膜の水分不足が発生する場合には、膜乾燥領域の締結荷重を他の領域に比べて増加させることにより、電解質膜の水分不足の解消を図ることができる。
【0010】
[適用例3]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記締結荷重制御部は、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記単セル全体の締結荷重を増加させ、その後、前記フラッディング検知部がフラッディングを検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記フラッディング領域の締結荷重を他の領域に比べて減少させる燃料電池システム。適用例3に記載の燃料電池システムによれば、単セル内のいずれの領域において電解質膜の水分不足が発生していても、単セル全体の締結荷重を増加させることによって、電解質膜の水分不足の解消を図ることが可能になる。また、単セル全体の締結荷重を増加させることによって、フラッディング領域においてフラッディングが発生する場合には、フラッディング領域の締結荷重を他の領域に比べて減少させることにより、フラッディングの解消を図ることができる。
【0011】
[適用例4]
適用例1ないし3いずれか記載の燃料電池システムであって、前記フラッディング検知部は、前記燃料電池において電圧低下が検出され、且つ、電気化学反応に供される反応ガスが流れる流路として前記燃料電池内に形成された燃料電池内ガス流路において圧力損失の増加が検出されたときに、フラッディングの発生を検知する燃料電池システム。適用例4に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池の電圧低下と、燃料電池内ガス流路における圧力損失の増加とを組み合わせることにより、精度良くフラッディングを検知することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例1ないし4いずれか記載の燃料電池システムであって、前記膜乾燥検知部は、前記燃料電池において電圧低下が検出され、且つ、前記燃料電池における抵抗の上昇が検出されたときに、前記電解質膜における水分不足を検知する燃料電池システム。適用例5に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池の電圧低下と、燃料電池における抵抗の上昇とを組み合わせることにより、精度良く電解質膜の水分不足を検知することができる。
【0013】
[適用例6]
適用例1ないし5いずれか記載の燃料電池システムであって、前記フラッディング領域は、電気化学反応に供される反応ガスが流れる流路として前記単セル内に形成されたセル内ガス流路から前記単セル外へと前記反応ガスが排出される反応ガス排出口の近傍領域であり、前記膜乾燥領域は、前記単セル外から前記セル内ガス流路へと前記反応ガスが供給される反応ガス供給口の近傍領域である燃料電池システム。適用例6に記載の燃料電池システムによれば、比較的湿度の高い反応ガスが流れる反応ガス排出口の近傍領域をフラッディング領域として設定し、比較的湿度が低い反応ガスが流れる反応ガス供給口の近傍領域を膜乾燥領域として設定することにより、フラッディングおよび電解質膜の水分不足を、適切に抑制することが可能になる。
【0014】
[適用例7]
適用例6記載の燃料電池システムであって、前記単セルは、前記電解質膜の両面に電極が形成されて成る膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体を挟持するように配置された導電性多孔質体から成る一対のガス拡散層と、前記ガス拡散層上に配置されて、前記ガス拡散層との間で前記セル内ガス流路を形成するための凹凸が形成されたガスセパレータと、を備え、前記セル内ガス流路は、前記反応ガス供給口側から前記反応ガス排出口側へと直進するように前記反応ガスを導く互いに平行な溝状流路であって、交互に配置された第1の流路および第2の流路を備え、前記第1の流路は、一方の端部が前記反応ガス供給口側で開口すると共に、他方の端部が閉塞されており、前記第2の流路は、前記反応ガス供給口の近傍に配置される一方の端部が閉塞されると共に、他方の端部が前記反応ガス排出口側で開口している燃料電池システム。適用例7に記載の燃料電池システムによれば、特に、第1の流路の一方の端部側で電解質膜の水分不足が発生し易く、第1および第2の流路の他方の端部側でフラッディングが生じ易いため、フラッディングおよび電解質膜の水分不足を抑制する効果を、顕著に得ることができる。
【0015】
[適用例8]
適用例6または7記載の燃料電池システムであって、前記セル内ガス流路は、前記反応ガスとして、酸素を含有する酸化ガスが流れる流路である燃料電池システム。適用例8に記載の燃料電池システムによれば、電気化学反応に伴って生成水が生じるカソード側の流路である酸化ガスの流路の上流側を膜乾燥領域に設定し、下流側をフラッディング領域に設定することにより、電解質膜の水分不足およびフラッディングに起因する電池性能の低下を、精度良く抑制することができる。
【0016】
[適用例9]
電解質膜および電極を含む単セルを有する燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池におけるフラッディングの発生を検知するフラッディング検知部と、
前記燃料電池が備える電解質膜における水分不足を検知する膜乾燥検知部と、
前記燃料電池に対して前記電解質膜および電極の積層方向に締結荷重を加える締結機構であって、前記単セルに対して均一な締結荷重を加えることができると共に、前記単セル内の領域によって異なる締結荷重を加えることが可能な締結機構と、
前記フラッディング検知部がフラッディングの発生を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいてフラッディングが発生していると判断される領域であるフラッディング領域の締結荷重を減少させ、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいて前記電解質膜における水分不足が発生していると判断される領域である膜乾燥領域の締結荷重を増加させる締結荷重制御部と
を備える燃料電池システム。
【0017】
適用例9に記載の燃料電池システムによれば、フラッディングが発生したときには、少なくともフラッディング領域の締結荷重を減少させることによってフラッディングの解消を図ることができ、電解質膜の水不足が生じたときには、少なくとも膜乾燥領域の締結荷重を増加させることによって膜乾燥の解消を図ることができる。
【0018】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池システムの制御方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】燃料電池システム10の概略構成を表わすブロック図である。
【図2】単セル70の構成を表わす断面模式図である。
【図3】ガスセパレータ77の形状を表わす平面図である。
【図4】フラッディング領域Eと膜乾燥領域Dの配置を示す説明図である。
【図5】締結荷重制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図6】電流−電圧特性(IV特性)の一例を示す説明図である。
【図7】締結荷重制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図8】締結荷重制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.燃料電池システム10の構成:
図1は、本発明の第1実施例の燃料電池システム10の概略構成を表わすブロック図である。燃料電池システム10は、燃料電池15と、水素タンク20と、水素循環ポンプ23と、コンプレッサ30と、圧力センサ42,43と、制御部45と、を備えている。
【0021】
燃料電池15は、固体高分子型の燃料電池であり、発電体としての単セル70を複数積層して成るスタック18を備えている。スタック18は、単セル70を複数積層して成る積層体の両端に、出力端子を備える集電板および絶縁板(図示せず)、そしてエンドプレート16,17を、順次配置することによって構成されている。また、燃料電池15には、燃料電池15を構成する個々の単セル70の電圧を検出する電圧センサ40が設けられている。また、燃料電池15には、スタック18全体の抵抗を測定するための抵抗測定部44が設けられている。抵抗測定部44は、スタック18の両極端子に交流の電圧をその周波数を掃引しつつ入力する際に、両極端子間を流れる交流の電流を検出することにより、正負両極端子間の交流インピーダンスを測定する周知の装置である。さらに、燃料電池15には、締結部50が設けられている。
【0022】
締結部50は、単セル70の積層方向に締結荷重を加えた状態で、スタック18を保持する締結機構を備えている。スタック18は、一方の端部であるエンドプレート16において固定されている。そして、他方の端部であるエンドプレート17側において、エンドプレート17を介してスタック18に対して加える締結荷重を変更可能な締結部50が設けられている。締結部50は、複数のスプリング51と、スプリング51を介してエンドプレート17へと締結荷重を加える複数のアクチュエータ52とを備えている。各々のアクチュエータ52は、サーボモータ(図示せず)を備え、サーボモータの駆動制御によって、各々のアクチュエータ52がエンドプレート17へと加える締結荷重の大きさを調節可能となっている。各々のアクチュエータ52が備えるサーボモータの駆動制御によって、スタック18に加えられる締結荷重を、セル面内で一様にすることもでき、セル面内で異ならせることもできる。スタック18には、さらに、各々のアクチュエータ52に対応する位置にロードセル53が設けられており、アクチュエータ52によって加えられる締結荷重を検出可能となっている。サーボモータを駆動制御する際には、ロードセル53の検出信号に基づいてフィードバック制御が行なわれる。燃料電池15の構成、および、締結部50による締結荷重の制御については、後に詳しく説明する。
【0023】
水素タンク20は、燃料ガスとしての水素ガスが貯蔵される貯蔵装置であり、水素供給流路25を介してスタック18へと接続されている。水素供給流路25上において、水素タンク20から近い順に、水素遮断弁21と、可変調圧弁22とが設けられている。可変調圧弁22は、水素タンク20から燃料電池15へ供給される水素圧(水素量)を調整可能な調圧弁である。なお、水素タンク20は、高圧の水素ガスを貯蔵する水素ボンベとする他、水素吸蔵合金を備えて水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることによって水素を蓄えるタンクとしても良い。
【0024】
スタック18には、さらに、水素排出流路26が接続されている。この水素排出流路26には、パージ弁24が設けられている。また、水素供給流路25と水素排出流路26とを接続して、接続流路27が設けられている。接続流路27は、可変調圧弁22よりも下流側で水素供給流路25に接続し、パージ弁24よりも上流側で水素排出流路26に接続している。接続流路27には、流路内を水素が循環する際の駆動力を発生する水素循環ポンプ23が設けられている。
【0025】
水素タンク20から水素供給流路25を介して供給される水素は、燃料電池15で電気化学反応に供され、水素排出流路26に排出される。水素排出流路26に排出された水素は、接続流路27を経由して、再び水素供給流路25に導かれる。このように、燃料電池システム10において水素は、水素排出流路26の一部、接続流路27、水素供給流路25の一部、および、燃料電池15内に形成される燃料ガスの流路(これらの流路を併せて、水素循環流路と呼ぶ)を循環する。なお、燃料電池15の発電時には、通常はパージ弁24は閉弁されているが、循環する水素中の不純物(窒素や水蒸気等)が増加したときにはパージ弁24は適宜開弁され、これによって、不純物濃度が増加した水素ガスの一部がシステムの外部に排出される。また、電気化学反応の進行による水素の消費や、パージ弁24の開弁によって、水素循環流路内の水素量が不足するときには、可変調圧弁22を介して水素タンク20から水素循環流路へと水素が補われる。
【0026】
コンプレッサ30は、外部から空気を取り込んで圧縮し、酸化ガスとして燃料電池15に供給するための装置であり、空気供給流路31を介して、スタック18へと接続されている。また、スタック18には、さらに空気排出流路32が接続されている。コンプレッサ30から空気供給流路31を介して供給される空気は、燃料電池15で電気化学反応に供され、空気排出流路32を介して燃料電池15の外部に排出される。なお、空気供給流路31および空気排出流路32には、それぞれ、スタック18との接続部近傍に、流路内の酸化ガスの圧力を検出する圧力センサ42,43が設けられている。
【0027】
制御部45は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPUと、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROMと、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAMと、各種信号を入出力する入出力ポート等を備える。制御部45は、コンプレッサ30、水素遮断弁21、可変調圧弁22、水素循環ポンプ23、パージ弁24、アクチュエータ52等に対して駆動信号を出力する。また、電圧センサ40や圧力センサ42,43等から、検出信号を取得する。
【0028】
B.燃料電池15の構成:
図2は、燃料電池15を構成する単セル70の構成を表わす断面模式図である。単セル70は、電解質膜71と、電解質膜71の両面に形成された触媒を備える電極であるアノード72およびカソード73を備える。また、電極を形成した上記電解質膜71を両側から挟持するガス拡散層74,75を備える。さらに、ガス拡散層74,75上にはガスセパレータ76,77を備えている。ガスセパレータ76とガス拡散層74との間には、燃料ガスが流れるセル内燃料ガス流路78が形成され、ガスセパレータ77とガス拡散層75との間には、酸化ガスが流れるセル内酸化ガス流路79が形成される。なお、図2には記載していないが、隣り合う単セル70間には、冷媒が流れるセル間冷媒流路が形成されている。
【0029】
電解質膜71は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード72およびカソード73は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。ガス拡散層74,75は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。ガスセパレータ76,77は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。ガスセパレータ76,77は、既述したセル内燃料ガス流路78およびセル内酸化ガス流路79の壁面の一部を成す部材であって、その表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。
【0030】
図3は、ガスセパレータ77におけるガス拡散層75と接する面、すなわち、セル内酸化ガス流路79を形成する面の形状を表わす平面図である。図中、ガスセパレータ77の長手方向をA方向と表わし、A方向に垂直な方向をB方向と表わす。ガスセパレータ77は、B方向の2辺に沿って、外周近傍に孔部60〜65が形成されている。単セル70を複数積層して燃料電池を組み立てると、各セパレータの対応する位置に設けられた孔部は、互いに重なり合って、ガスセパレータの積層方向に燃料電池内部を貫通する流路を形成する。具体的には、孔部63は、各セル内酸化ガス流路79に酸化ガスを分配する酸化ガス供給マニホールドを形成し(図中、O2 inと示す)、孔部62は、各セル内酸化ガス流路79から酸化ガスが集合する酸化ガス排出マニホールドを形成する(図中、O2 outと示す)。また、孔部60は、各セル内燃料ガス流路78に燃料ガスを分配する燃料ガス供給マニホールドを形成し(図中、H2 inと示す)、孔部65は、各セル内燃料ガス流路78から燃料ガスが集合する燃料ガス排出マニホールドを形成する(図中、H2 outと示す)。また、孔部61は、各セル間冷媒流路に冷媒を分配する冷媒供給マニホールドを形成し(図中、CLT inと示す)、孔部64は、各セル間冷媒流路から冷媒が集合する冷媒排出マニホールドを形成する(図中、CLT outと示す)。
【0031】
図3に示すガスセパレータ77において、孔部60〜65が形成された領域以外の領域であって、カソード73およびガス拡散層75と重なってセル内酸化ガス流路79が形成される略四角形状の領域を、以下、発電領域Cと呼ぶ。図3では、発電領域Cを破線で囲んで示している。発電領域Cと孔部63の接続部は、燃料電池15内において、酸化ガス供給マニホールドからセル内酸化ガス流路79へと酸化ガスが流入する酸化ガス供給口を構成する。また、発電領域Cと孔部62の接続部は、燃料電池15内において、セル内酸化ガス流路79から酸化ガス排出マニホールドへと酸化ガスが排出される酸化ガス排出口を構成する。発電領域Cの中ほどには、A方向に延出して、複数の線状凸部80および溝流路81が形成されている。各線状凸部80は、ガスセパレータ77内におけるA方向の相対的位置が互いに揃った略同一の長さに形成されている。また、発電領域Cにおいて、複数の線状凸部80の端部と孔部60〜62との間の領域、および、複数の線状凸部80の端部と孔部63〜65との間の領域には、互いに離間して形成された複数の凸部86が形成されている。これら複数の線状凸部80および複数の凸部86は、ガス拡散層75に当接して、セル内酸化ガス流路の壁面の一部を構成する。また、図3では、ガスセパレータ77上に配置されて、電解質膜71との間でセル内酸化ガス流路のシール性を確保すると共に、隣接する他のガスセパレータとの間で各孔部60〜65が形成するマニホールドのシール性を確保するシール部材88の配置も、併せて記載している。なお、図3では、隣接部材と接触する部位には、ハッチを付して示している。孔部63が形成する酸化ガス供給マニホールドからセル内酸化ガス流路に流入した酸化ガスは、上流側の凸部86間に形成される空間に導かれて、溝流路81が形成する空間に分配される。各溝流路81が形成する空間を流れた燃料ガスは、下流側の凸部86間に形成される空間に導かれて、孔部62が形成する酸化ガス排出マニホールドに排出される。
【0032】
ここで、ガスセパレータ77に形成された複数の溝流路81は、交互に配置された、出口側閉塞部84を有する第1の溝流路82と、入り口側閉塞部85を有する第2の溝流路83と、によって構成されている。出口側閉塞部84および入り口側閉塞部85は、配置された溝流路81の断面を隙間無く塞ぐ形状に形成されている。これら出口側閉塞部84および入り口側閉塞部85は、例えば、セラミックス、カーボン、金属、あるいは、樹脂やゴムにより形成することができ、少なくとも一部を多孔質に形成することもできる。このような閉塞部84,85は、ガスセパレータ77上に形成された溝流路81の所定の位置において、溶接、接着、圧着等により固着される。
【0033】
酸化ガス供給マニホールドからセル内酸化ガス流路79へと酸化ガスが供給されるときには、酸化ガスは、入り口側閉塞部85によって入り口が塞がれていない第1の溝流路82内へと流入する。第1の溝流路82には、出口側閉塞部84が設けられているため、第1の溝流路82へと流入した酸化ガスは、第1の溝流路82の下流側端部から排出されることができない。そこで、第1の溝流路82へと流入した酸化ガスは、ガス透過性を有するガス拡散層75内へと広がる。そして、ガス拡散層75内において、第1の溝流路82に沿って設けられた線状凸部80が接する領域に拡散して、第2の溝流路83へと流入する。その後、第2の溝流路83における開放された下流側端部から、酸化ガス排出マニホールド側へと排出される。
【0034】
なお、ガスセパレータ76上に形成されるセル内燃料ガス流路78の構成、およびセル内燃料ガス流路78において燃料ガスが流れる様子も同様とすることができる。このとき、ガスセパレータ76上に配置されるシール部材(図3に示すシール部材88に対応する部材)は、ガスセパレータ76上に形成されるセル内燃料ガス流路78と、孔部60および65とを連通させる形状に形成される。
【0035】
燃料電池が発電する際には、電気化学反応の進行に伴ってカソードで水が生じる。カソードで生じた水の少なくとも一部は、酸化ガス中に気化して、酸化ガス流れの下流側へと導かれる。そのため、セル内酸化ガス流路79を流れる酸化ガスは、下流側ほど湿度が高くなり、セル内酸化ガス流路79では、下流側ほど液水が生じやすくなる。特に、第1の溝流路82は、下流側に出口側閉塞部84が設けられているため、酸化ガス中の水蒸気および流路内に生じた液水が第1の溝流路82から排出され難くなる。また、第2の溝流路83の下流側領域および孔部62(酸化ガス排出マニホールド)近傍の複数の凸部86が設けられた領域は、セル内酸化ガス流路を流れる酸化ガス中の湿度が最も高くなる部位であるといえる。そのため、第1の溝流路82および第2の溝流路83の下流側領域、および、孔部62の近傍領域は、最もフラッディングが起きやすい領域であるといえる。なお、フラッディングとは、電極やセル内ガス流路に液水が過剰に存在することによって、電極が備える触媒へのガスの流通が妨げられて、電気化学反応の進行が抑制されることをいう。
【0036】
また、第1の溝流路82の上流側領域および孔部63(酸化ガス供給マニホールド)近傍の複数の凸部86が設けられた領域は、セル内酸化ガス流路79内の他の領域に比べて湿度が低い酸化ガスが流れる領域である。このように乾燥したガスが流れる領域では、乾燥したガスによって電解質膜中の水分が奪われ、電解質膜が水分不足になり易い。そのため、第1の溝流路82の上流側領域および孔部63の近傍領域は、最も電解質膜の乾燥が起こりやすい領域であるといえる。図4は、上記した最もフラッディングが起きやすい領域(以下、フラッディング領域Eと呼ぶ)と、最も電解質膜の乾燥が起こりやすい領域(以下、膜乾燥領域Dと呼ぶ)の配置を示す説明図である。
【0037】
本実施例の燃料電池システム10は、発電領域Cの内、上記フラッディング領域Eと膜乾燥領域Dとで、それぞれ別個に締結荷重を変更可能となっている。具体的には、締結部50が備えるアクチュエータ52として、フラッディング領域側に配置されたアクチュエータと、膜乾燥領域側に配置されたアクチュエータの2つのアクチュエータ52を備えている。一方のアクチュエータ52による締結荷重を他方のアクチュエータ52による締結荷重よりも強めることで、エンドプレート17が傾いた状態となり、上記一方のアクチュエータ52側の領域に加えられる締結荷重を相対的に強めることができる。
【0038】
C.締結荷重に係る制御:
図5は、制御部45のCPUにおいて、燃料電池15の発電中に繰り返し実行される締結荷重制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池15の発電が開始される際に起動される。
【0039】
本ルーチンが起動されると、制御部45のCPUは、電圧センサ40から、燃料電池15を構成する各単セル70の電圧を取得する(ステップS100)。そして、電圧値が基準値を下回る単セル70が存在するか否かを判断する(ステップS110)。図6は、燃料電池の出力特性としての電流−電圧特性(IV特性)の一例を示す説明図である。図6に示すように、燃料電池は、出力電流と出力電圧との間に一定の関係があり、出力電流値が決まれば、電圧値が定まる。このようなIV特性は燃料電池ごとに定まっており、また、IV特性は、燃料電池に供給されるガス流量や、燃料電池の運転温度等の発電条件によって変化する。本実施例の燃料電池システム10では、供給ガス流量や燃料電池温度などの発電条件毎に、出力電流値に対応する電圧値として、燃料電池が支障なく発電していると判断する基準となる電圧値(単セル70の電圧値)が予め定められて、制御部45内にマップとして記憶されている。ステップS110における判断を行なう際には、そのときの発電条件および出力電流値をさらに取得すると共に、上記マップを参照して基準となる電圧値を取得し、ステップS100で取得した各単セル70の電圧が、上記基準となる電圧値を下回るか否かを判断する。ステップS110において、すべての単セル70の電圧が、上記基準となる電圧値以上であるときには、燃料電池15が支障なく発電を行なっているものと判断して、本ルーチンを終了する。
【0040】
ステップS110において、いずれかの単セル70の電圧が、上記基準となる電圧値未満であるときには、制御部45のCPUは、スタック18内の酸化ガス流路における圧力損失を導出する(ステップS120)。本実施例では、圧力損失は、スタック18に導入される酸化ガスの圧力である圧力センサ42の検出値と、スタック18から排出される酸化ガスの圧力である圧力センサ43の検出値と、の差として求められる。
【0041】
その後、制御部45のCPUは、ステップS120で求めた圧力損失が、基準値を超えるか否かを判断する(ステップS130)。スタック18内でフラッディングが生じておらず、スタック18内を支障なくガスが流れる時の圧力損失は、スタック18に供給するガスの流量や圧力、および、燃料電池15における発電量(水素及び酸素の消費量)に応じて、実験的あるいはシミュレーションによって予め求めることができる。本実施例では、このようにして求めた基準となる圧力損失を、供給ガスの条件や発電量ごとにマップとして制御部45内に記憶している。ステップS130では、このようなマップを参照して、上記基準となる圧力損失と、ステップS120で導出した圧力損失との比較を行なっている。
【0042】
ステップS130において、圧力損失が基準値を上回り、圧力損失が通常よりも増加していると判断される時には、電圧低下の原因が、フラッディングによるものであると判断することができる。この場合には、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、スタック18に加えている締結荷重を、一様に低下させる制御を行なう(ステップS140)。燃料電池15の通常の発電時にスタック18に加えられる締結荷重は、スタック18を構成する各部材の耐久性や、各部材間の接触抵抗の大きさや、スタック18内に設けられたシール部材によるシール性の信頼性等を考慮して、適宜設定されている。ステップS140において締結荷重を低下させる際には、上記のように設定された通常の締結荷重よりも低い値であって、接触抵抗の大きさやシール性の信頼性が許容範囲となる値として予め設定された値へと、締結荷重を変更する制御が行なわれる。
【0043】
スタック18に加える締結荷重を減少させると、電極やガス拡散層におけるガス拡散性が高まり、電極やガス拡散層内に滞留する液水のガスによる持ち去り量を増加させることができる。また、電極やガス拡散層における空隙の容積が大きくなることにより、電極やガス拡散層内に滞留していた液水が排出され易くなる。したがって、スタック18内のいずれかの箇所においてフラッディングが生じている場合には、スタック18に加えている締結荷重を一様に低下させることにより、このフラッディングを解消することが可能になる。
【0044】
ステップS140において締結荷重を低下させる動作を行なって所定時間が経過すると、制御部45のCPUは、再び電圧センサ40の検出信号を取得して、各単セル70の電圧が回復したか否かを判断する(ステップS150)。締結荷重を低下させてから電圧が回復したか否かの判断を行なうまでの時間は、供給ガス流量や燃料電池温度などの発電条件や、生成水量に係る条件(現在の発電量や積算発電量)等に基づいて、フラッディングを解消するために要する時間を適宜設定して、マップとして記憶しておけばよい。ステップS150において、電圧が回復していると判断されるときには、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、締結荷重を一様に元に戻して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。
【0045】
ステップS150において、電圧が回復していないと判断したときには、制御部45のCPUは、抵抗測定部44が測定したスタック18の抵抗値を取得する(ステップS160)。そして、測定したスタック18の抵抗値が、通常時の抵抗値として予め設定して記憶した基準値に比べて上昇しているか否かを判断する(ステップS170)。スタック18の抵抗値は、スタック18における活性化過電圧と、抵抗過電圧と、濃度過電圧の影響を受ける。抵抗過電圧の内、各部材の内部抵抗に係る過電圧と、活性化過電圧とは変化しないと考えられ、抵抗値の変動の主な原因は、電解質膜の抵抗の変化と考えることができる。そのため、抵抗値に基づいて、電解質膜71の水分不足(膜乾燥)の程度を判断することができる。ただし、スタック18に加える締結荷重を減少させると、接触抵抗が大きくなることにより抵抗過電圧が上昇すると共に、電極等における空隙容積が大きくなることにより濃度過電圧が低下する。そのため、ステップS170で用いる抵抗の基準値としては、締結荷重を減少させた状態における抵抗過電圧および濃度過電圧を考慮して、膜乾燥が生じておらず燃料電池15が支障なく発電していると判断するための抵抗値が予め設定されている。
【0046】
ステップS170において抵抗値が上昇していると判断したときには、締結荷重を減少させても電圧が回復しない原因が、膜乾燥であると判断することができる。この場合には、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、膜乾燥領域D側における締結荷重を元に戻す制御を行なう(ステップS180)。
【0047】
ステップS140における締結荷重を低下させる動作は、既述したようにフラッディングを解消させる方向に作用するが、電極やガス拡散層におけるガス拡散性が高まることによって、ガスによる電解質膜からの水分の持ち去り量も増加して、電解質膜の水分不足が発生する場合がある。また、ステップS140において締結荷重を低下させる当初から、電圧低下の原因の一つとして、フラッディングの発生に加えて電解質膜の水分不足が発生している場合も考えられる。このような電解質膜の水分不足は、特に、比較的湿度が低いガスが流入する領域、すなわち、既述した膜乾燥領域Dにおいて生じやすい。そのため、ステップS180では、膜乾燥領域D側における締結荷重を元に戻すことによって、膜乾燥領域Dにおけるガス拡散性を抑えて、膜乾燥領域Dにおける電解質膜からの水分の持ち去りを抑制し、電解質膜の水分不足の解消を図っている。
【0048】
その後、制御部45のCPUは、再び電圧センサ40の検出信号を取得して、各単セル70の電圧が回復したか否かを判断する(ステップS190)。そして、電圧が回復すると、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、締結荷重を、全体が一様である通常の状態に戻して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。
【0049】
ステップS130において、圧力損失が基準値以下であって、圧力損失の増加が認められないときには、制御部45のCPUは、抵抗測定部44が測定したスタック18の抵抗値を取得し(ステップS210)、取得した抵抗値が、基準値に比べて上昇しているか否かを判断する(ステップS220)。なお、このステップS210およびS220の処理は、既述したステップS160およびS170と同様に、膜乾燥を判定するための処理である。ただし、ステップS210、220では、締結荷重の低下の処理は行なわれていないため、ステップS220で用いる基準値は、通常の締結荷重を加えたときに燃料電池15が支障なく発電する際の抵抗値が予め設定されて用いられている。
【0050】
ステップS220において抵抗値が上昇していると判断されたときには、電圧低下の原因が、フラッディングではなく電解質膜71の水分不足(膜乾燥)であると判断することができる。この場合には、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、膜乾燥領域D側における締結荷重を、通常よりも高める制御を行なう(ステップS230)。ステップS230において締結荷重を部分的に高める際には、構成部材の耐久性が許容範囲であって、面内で締結圧が変更させることによるシール性への影響が許容範囲となる値として予め設定された値へと、締結荷重を変更する制御が行なわれる。
【0051】
その後、制御部45のCPUは、再び電圧センサ40の検出信号を取得して、各単セル70の電圧が回復したか否かを判断する(ステップS240)。そして、電圧が回復すると、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、締結荷重を、全体が一様である通常の状態に戻して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。
【0052】
なお、ステップS170およびS220において、抵抗値が上昇していないと判断したときには、制御部45のCPUは、電圧低下の原因が、フラッディングでも膜乾燥でもない他の要因によるものと判断して(ステップS260)、本ルーチンを終了する。
【0053】
以上のように構成された燃料電池システム10によれば、スタック18に加える締結荷重を、全体として一様に変更可能であると共に、フラッディング領域E側の締結荷重に比べて、膜乾燥領域D側の締結荷重を高める制御を行なうことができる。そのため、フラッディングを抑制しつつ、電解質膜の水分不足の抑制を行なうことが可能となる。
【0054】
ここで、フラッディングや膜乾燥といった電解質内の水分量に係る不具合は、燃料電池に供給するガスの流量や供給するガス中の水分量、あるいは発電量(生成水量)の制御によっても解消できる可能性がある。しかしながら、フラッディングや膜乾燥は、一般に、セル面内の一部の領域で生じる不具合であるため、供給ガスや発電量に係る制御、すなわち、燃料電池全体における水分量に係る制御によって、上記不具合を適切に解消するには、困難を伴う。これに対して、本実施例では、アクチュエータを駆動してスタックに加える締結圧を面内で異ならせるという簡便な構成により、効率良く上記不具合を解消することができる。
【0055】
なお、本実施例では、ステップS110でスタック18の電圧低下を判定する際に、全ての単セル70について電圧を検出しているが、スタック18全体の電圧を検出して判定することも可能である。ただし、全ての単セル70の電圧を検出して個々の単セル毎に判定を行ない、1つのセルでも基準値を下回るときには対策を行なうことで、フラッディングあるいは膜乾燥による性能低下を、より早く精度良く検出することが可能になる。そして、フラッディングあるいは膜乾燥による性能低下の度合いが小さい内に、より早く性能低下を回復させることが可能になる。
【0056】
また、本実施例では、ステップS130で圧力損失が増加していると判断され、フラッディングが起こっていると考えられる場合には、一旦、スタック18全体の締結荷重を一様に低下させている。そのため、既述したフラッディング領域Eに限らず、セル面内のいずれの位置でフラッディングが起こっている場合であっても、フラッディングの解消を図ることができる。
【0057】
また、図5では、ステップS140で締結荷重を減少させた後に、ステップS150において電圧が回復していないときには、直ちに抵抗値を測定して、膜乾燥の有無を判定しているが、異なる構成としても良い。例えば、ステップS150において電圧が回復していないときには、再び圧力損失を導出し、フラッディングが解消しているか否かを確認しても良い。フラッディングが解消していないときには、締結荷重を減少させた状態を維持し、引き続き、所定時間、フラッディングの解消を図っても良い。何らかの要因によりフラッディングの程度が特に大きい場合であっても、フラッディングを確実に解消することが可能になる。
【0058】
また、図5では、ステップS170で抵抗値が上昇していると判断されたときに、膜乾燥領域D側の締結荷重だけを元に戻しているが、異なる構成としても良い。例えば、一旦、スタック18全体の締結荷重を元に戻し、その後に、膜乾燥領域D側の締結荷重を、ステップS230と同様に通常の状態よりも高めても良い。膜乾燥領域D側の締結荷重を他の領域よりも高めることによって、フラッディングの解消と膜乾燥の解消とを両立する同様の効果を得ることができる。
【0059】
D.第2実施例:
第1実施例では、燃料電池の電圧低下を検出した時に、まず、フラッディングの発生の有無を判断を先に行い、膜乾燥が生じているか否かの判断を後に行っているが、逆の順序としても良い。以下に、第2実施例として、燃料電池の電圧低下を検出した時に、まず、膜乾燥が生じているか否かの判断を先に行い、フラッディングの発生の有無の判断を後に行う構成を説明する。第2実施例の燃料電池システム10は、第1実施例と同様の構成を有しているため、詳しい説明は省略する。図7は、第2実施例の燃料電池システム10の制御部45のCPUにおいて、図5に示した処理に代えて実行される締結荷重制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【0060】
図7に示す処理では、制御部45のCPUは、ステップS100と同様に、電圧センサ40から各単セル70の電圧を取得して(ステップS300)、ステップS110と同様に、電圧値が基準値を下回る単セル70が存在するか否かを判断する(ステップS310)。そして、いずれかの単セル70の電圧が基準となる電圧値未満であるときには、制御部45は、抵抗測定部44が測定したスタック18の抵抗値を取得し(ステップS320)、取得した抵抗値が基準値に比べて上昇しているか否かを判断する(ステップS330)。このステップS320およびS330の処理は、図5のステップS210およびS220と同様の処理である。
【0061】
そして、ステップS330で、抵抗値が基準値に比べて上昇していると判断したときには、電圧低下の原因が膜乾燥であると判断できるため、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、スタック18に加えている締結荷重を、一様に上昇させる制御を行なう(ステップS340)。ステップS340において締結荷重を上昇させる際には、通常の締結荷重よりも高い値であって、各部材の耐久性が許容範囲となる値として予め設定された値へと、締結荷重を変更する制御が行なわれる。スタック18全体の締結荷重を高めることによって、電極やガス拡散層におけるガス拡散性が低下して、電極やガス拡散層内に水分が留まりやすくなり、ガスによる水分の持ち去り量を抑制させることができる。したがって、いずれかの箇所において膜乾燥が進行している場合であっても、スタック18に加えている締結荷重を一様に上昇させることにより、この膜乾燥を解消することが可能になる。さらに、締結荷重を一様に上昇させることにより、スタック18の構成部材間の接触抵抗が低下し、このような接触抵抗の低下もまた、スタック18の電圧上昇に寄与する。
【0062】
締結荷重を上昇させた後、所定時間経過後に、制御部45のCPUは、各単セル70の電圧が回復したか否かを判断し(ステップS350)、電圧が回復している時には、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、スタック18全体に加えている締結荷重を元に戻して(ステップS400)、本ルーチンを終了する。なお、締結荷重を上昇させてから電圧が回復したか否かの判断を行なうまでの時間は、供給ガス流量や燃料電池温度などの発電条件や、生成水量に係る条件(現在の発電量や積算発電量)等に基づいて、電解質膜71の含水量を回復するために要する時間を適宜設定して、マップとして記憶しておけばよい。
【0063】
ステップS350において、電圧が回復していないと判断されるときには、制御部45のCPUは、スタック18内の酸化ガス流路における圧力損失を、ステップS120と同様にして導出し(ステップS360)、導出した圧力損失が基準値を超えるか否かを判断する(ステップS370)。ステップS370の判断を行う時には締結荷重が上昇された状態であるが、このような状態でスタック18内を支障なくガスが流れる時の圧力損失は、スタック18に供給する燃料ガスおよび酸化ガスの流量や圧力、および、燃料電池15における発電量(水素及び酸素の消費量)に応じて、実験的あるいはシミュレーションによって予め求めることができる。本実施例では、このようにして求めた基準となる圧力損失を、供給ガスの条件や発電量ごとにマップとして制御部45内に記憶している。
【0064】
ステップS370において圧力損失が増加していると判断されたときには、締結荷重を増加させても電圧が回復しない原因が、フラッディングの発生であると判断することができる。この場合には、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、フラッディング領域E側における締結荷重を元に戻す制御を行なう(ステップS380)。
【0065】
ステップS340における締結荷重を上昇させる動作により、膜乾燥の抑制が図られた時に、ガスによる電極やガス拡散層からの水分の持ち去り量が減少することによって、フラッディングが発生する場合がある。また、ステップS340において締結荷重を上昇させる当初から、電圧低下の原因の一つとして、膜乾燥に加えてフラッディングが発生している場合も考えられる。このようなフラッディングは、特に、比較的湿度が高いガスが流れる領域、すなわち、既述したフラッディング領域Eにおいて生じやすい。そのため、ステップS380では、フラッディング領域E側における締結荷重を元に戻すことによって、フラッディング領域Eにおけるガス拡散性を向上させて、フラッディング領域Eにおける液水の排出の促進を図っている。
【0066】
その後、制御部45のCPUは、再び電圧センサ40の検出信号を取得して、各単セル70の電圧が回復したか否かを判断する(ステップS390)。そして、電圧が回復すると、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、締結荷重を、全体が一様である通常の状態に戻して(ステップS400)、本ルーチンを終了する。
【0067】
ステップS330において、抵抗値が基準値以下であって、抵抗値の上昇が認められないときには、制御部45のCPUは、スタック18内の酸化ガス流路における圧力損失を導出し(ステップS410)、導出した圧力損失が基準値に比べて増加しているか否かを判断する(ステップS420)。このステップS410およびS420の処理は、ステップS120およびS130と同様の処理である。
【0068】
ステップS420において圧力損失が増加していると判断されるときには、電圧低下の原因が、フラッディングの発生であると判断することができる。この場合には、制御部45のCPUは、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、フラッディング領域E側における締結荷重を、通常よりも下げる制御を行なう(ステップS430)。ステップS430において締結荷重を部分的に低下させる際には、通常の締結荷重よりも低い値であって、接触抵抗の大きさやシール性の信頼性が許容範囲となる値として予め設定された値へと、締結荷重を変更する制御が行なわれる。
【0069】
その後、制御部45のCPUは、再び電圧センサ40の検出信号を取得して、各単セル70の電圧が回復したか否かを判断する(ステップS440)。そして、電圧が回復すると、締結部50の各アクチュエータ52を駆動して、締結荷重を、全体が一様である通常の状態に戻して(ステップS450)、本ルーチンを終了する。
【0070】
なお、ステップS370およびS420において、圧力損失が増加していないと判断されるときには、電圧低下の原因が、フラッディングでも膜乾燥でもない他の要因によるものと判断して(ステップS460)、本ルーチンを終了する。
【0071】
以上のように構成された第2実施例の燃料電池システム10によれば、スタック18に加える締結荷重を、全体として一様に変更可能であると共に、フラッディング領域E側の締結荷重を、膜乾燥領域D側の締結荷重に比べて小さくする制御を行なうことができる。そのため、フラッディングを抑制しつつ電解質膜の水分不足を抑制するという第1実施例と同様の効果を得ることができる。
【0072】
また、本実施例では、ステップS330で抵抗値が上昇していると判断され、膜乾燥が起こっていると考えられる場合には、一旦、スタック18全体の締結荷重を一様に上昇させている。そのため、既述した膜乾燥領域Dに限らず、セル面内のいずれの位置で膜乾燥が起こっている場合であっても、膜乾燥の解消を図ることができる。
【0073】
また、図7では、ステップS340でスタック18全体の締結荷重を上昇させた後に、ステップS350で電圧が回復していないと判断するときには、直ちに圧力損失を導出して、フラッディングの有無を判定しているが、異なる構成としても良い。例えば、ステップS350において電圧が回復していないときには、再び抵抗値を導出し、膜乾燥が解消しているか否かを確認しても良い。膜乾燥が解消していないときには、締結荷重を増加させた状態を維持し、引き続き、所定時間、膜乾燥の解消を図っても良い。何らかの要因により膜乾燥の程度が特に大きい場合であっても、膜乾燥を確実に解消することが可能になる。
【0074】
また、図7では、ステップS370で圧力損失が増加していると判断されたときに、フラッディング領域E側の締結荷重だけを元に戻しているが、異なる構成としても良い。例えば、一旦、スタック18全体の締結荷重を元に戻して、その後、フラッディング領域E側の締結荷重だけを、ステップS430と同様に低下させても良い。フラッディング領域E側の締結荷重を他の領域よりも低下させることによって、フラッディングの解消と膜乾燥の解消とを両立する同様の効果を得ることができる。
【0075】
E.第3実施例:
第1および第2実施例では、フラッディングあるいは膜乾燥を最初に検出したときには、一旦、スタック18全体の締結荷重を変更しているが、異なる構成としても良い。フラッディングや膜乾燥が特定箇所で生じる可能性が高いときには、フラッディング検出時にはフラッディング領域E側の締結荷重を増加させ、膜乾燥検出時には膜乾燥領域D側の締結荷重を減少させる制御を行なっても良い。以下に、このような構成を第3実施例として説明する。第3実施例の燃料電池システム10は、第1実施例と同様の構成を有しているため、詳しい説明は省略する。図8は、第3実施例の燃料電池システム10の制御部45のCPUにおいて、図5に示した処理に代えて実行される締結荷重制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【0076】
図8において、ステップS500〜S530は、ステップS100〜S130と同様の処理である。ここでは、制御部45のCPUは、ステップS530において圧力損失が増加していると判断されるときには、電圧低下の原因がフラッディングの発生であると判断して、フラッディング領域E側の締結荷重を減少させる制御を行なう(ステップS540)。このステップS540は、ステップS430と同様の処理である。その後、圧力損失の回復が検出されると(ステップS550)、制御部45のCPUは、締結荷重を一旦元に戻して(ステップS560)、電圧が回復したか否かを判断し(ステップS570)、電圧が回復していれば本ルーチンを終了する。電圧が回復していなければ、制御部45のCPUは、引き続き抵抗値を測定して(ステップS580)、抵抗値が上昇しているか否かを判断し(ステップS590)、抵抗値が上昇していれば、膜乾燥領域D側の締結荷重を高める(ステップS600)。ステップS580〜S600は、ステップS210〜230と同様の工程である。その後、抵抗値の回復が検出されると(ステップS610)、制御部45のCPUは、締結荷重を元に戻し(ステップS620)、電圧が回復していれば(ステップS630)、本ルーチンを終了する。
【0077】
なお、ステップS530において、圧力損失が増加していないと判断した場合には、制御部45のCPUは、フラッディング解消に係る処理を行なうことなく、ステップS580以下の処理を実行する。また、ステップS590で抵抗値が上昇していないと判断したとき、および、ステップS630で電圧が回復していないと判断したときには、制御部45のCPUは、電圧低下の原因が、フラッディングでも膜乾燥でもない他の要因によるものと判断して(ステップS260)、本ルーチンを終了する。
【0078】
以上のように構成された第3実施例の燃料電池システム10によれば、フラッディングが検出されたときにはフラッディング領域E側の締結荷重を減少させ、膜乾燥が検出されたときには膜乾燥領域D側の締結荷重を増加させている。そのため、フラッディングを抑制しつつ電解質膜の水分不足を抑制するという第1実施例と同様の効果を得ることができる。また、図8では、ステップS510で電圧低下を検出したときに、フラッディング発生の有無を先に判断し、その後に膜抵抗発生の有無を判断しているが、順序を逆にしても良い。
【0079】
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0080】
F1.変形例1:
第1ないし第3実施例では、スタック18を構成する単セル70の内、電圧が基準値を下回る単セルが1つでも存在すると、フラッディングあるいは膜乾燥が発生している可能性があると判断しているが(ステップS100,S110,S300,S310,S500,S510)、異なる構成としても良い。例えば、2以上の所定の数の単セルの電圧が基準値を下回ったときに、フラッディングあるいは膜乾燥が発生している可能性があると判断しても良い。あるいは、スタック全体の出力電圧が基準値を下回ったときに、フラッディングあるいは膜乾燥が発生している可能性があると判断しても良い。
【0081】
なお、フラッディングや膜乾燥によって燃料電池のIV特性が低下しても、電圧の低下として検出することができない場合がある。例えば、燃料電池スタックを負荷に対して2次電池と並列に接続し、燃料電池スタックと2次電池の双方から負荷に対して電力供給可能とする構成であって、配線中に設けたDC/DCコンバータの電圧指令値によって燃料電池スタックおよび2次電池の出力を制御する構成が考えられる。このような構成では、負荷要求に応じた所望の電力を燃料電池スタックから得るためにDC/DCコンバータの電圧指令値を設定すると、燃料電池のIV特性が低下している場合には、燃料電池スタックの電圧が低下するのではなく、燃料電池スタックの出力電流が低下して、不足分の電力が2次電池から補われることになる。したがって、このような構成では、燃料電池の電圧低下に代えて、燃料電池の出力電流値の低下を判断すればよく、燃料電池スタックのIV特性の低下が判断できればよい。
【0082】
F2.変形例2:
第1ないし第3実施例では、電圧低下時(IV特性低下時)に圧力損失が増加していると、フラッディングが発生していると判断したが、異なる構成によってフラッディングの発生を判断しても良い。例えば、電圧低下時(IV特性低下時)に、発電量が所定の基準値を超える高負荷運転(生成水量が基準値よりも多くなる運転)を行なっているときには、電圧低下の原因がフラッディングであると判断しても良い。
【0083】
なお、フラッディングおよび膜乾燥以外の他の電圧低下要因としては、例えば、スタックを構成する各部材(触媒層やガス拡散層など)の劣化が考えられる。このような部材の劣化に起因する電圧低下は、フラッディングや膜乾燥による電圧低下に比べて進行が極めて遅く、長い時間をかけてゆっくりと電圧低下の程度が蓄積されると考えられる。また、フラッディングや膜乾燥のような燃料電池内の水分量に係る不具合とは異なり、制御による回復を図ることが極めて困難である。そのため、燃料電池スタックの使用を開始してからの積算時間が長く、他の要因によると判断される電圧低下が生じているときには、電圧低下の判断(ステップS110,S310,S510等)に用いる基準値を補正してもよい。これにより、以後の処理において、回復し難い原因による電圧低下を検出することによる動作を省略することが可能になる。
【0084】
F3.変形例3:
第1ないし第3実施例では、酸化ガス流路側の圧力損失に基づいてフラッディングの発生を判断したが、このような構成に代えて、あるいはこのような構成に併せて、燃料ガス流路側の圧力損失に基づく判断を行なっても良い。燃料電池システムの性質上、フラッディングが発生する流路が特定のガス流路側である可能性が高い場合には、フラッディングが起きやすい流路側についてのみ判定することとしても良いが、双方の流路について判断することで、フラッディング検出の精度を向上させることができる。
【0085】
F4.変形例4:
第1ないし第3実施例では、締結部50において、フラッディング領域Eと膜乾燥領域Dとに対応して2つのアクチュエータ52を設けたが、3つ以上のアクチュエータを設けて、面内で締結圧を異ならせる程度を、より細かく制御しても良い。また、フラッディング領域E側における締結荷重を、通常の締結荷重に比べて減少させる程度、あるいは、膜乾燥領域D側における締結荷重を、通常の締結荷重に比べて増加させる程度は、各々1段階のみ変更可能とするのではなく、2段階以上に変更可能としても良い。検出されるフラッディングの程度あるいは膜乾燥の程度に応じて、面内で締結荷重を異ならせる制御を、より細かく行なっても良い。
【0086】
F5.変形例5:
第1ないし第3実施例では、セル内酸化ガス流路は、出口側閉塞部84を有する第1の溝流路82と、入り口側閉塞部85を有する第2の溝流路83と、を交互に配置して成る構成としたが、異なる流路形状としても良い。また、第1ないし第3実施例では、セル面内において、酸化ガス流れの上流側を膜乾燥領域Dとし、下流側をフラッディング領域Eとしたが、異なる構成としても良い。液水の滞留し易さや膜乾燥のし易さは、セル面内のガス流路形状(ガス流れ方向)や、ガス流量や発電量(生じる生成水量)、あるいは環境温度や燃料電池内の温度分布などの影響を受ける。そのため、想定される燃料電池の運転条件や、燃料電池が配置される環境に応じて、用いる燃料電池毎に、予め、実験的にあるいはシミュレーションにより、フラッディングしやすい領域と膜乾燥しやすい領域を設定しておき、領域毎に締結荷重を調節可能にすればよい。
【0087】
F6.変形例6:
第1ないし第3実施例では、セル面内において、予め、フラッディングし易いと考えられる領域をフラッディング領域として設定し、膜乾燥し易いと考えられる領域を膜乾燥領域として設定しているが、フラッディングしている領域や、膜乾燥している領域を、実際に検出した値に基づいてその都度判断しても良い。例えば、温度センサによって、単セル面内の複数箇所の温度を測定し、比較的温度が低い領域をフラッディング領域と判定し、比較的温度が高い領域を膜乾燥領域と判定して、実施例と同様の制御を行なっても良い。この場合には、判定した領域の締結荷重を変更可能となるように、締結部が備えるアクチュエータの内、駆動すべきアクチュエータを選択し、フラッディングと膜乾燥の別に応じて、駆動の方向を決定すればよい。また、セル面内において、抵抗の分布を検出することによって膜乾燥領域を設定しても良く、セル内ガス流路内の圧力損失の分布を検出することによって、フラッディング領域を設定しても良い。
【符号の説明】
【0088】
10…燃料電池システム
15…燃料電池
16,17…エンドプレート
18…スタック
20…水素タンク
21…水素遮断弁
22…可変調圧弁
23…水素循環ポンプ
24…パージ弁
25…水素供給流路
26…水素排出流路
27…接続流路
30…コンプレッサ
31…空気供給流路
32…空気排出流路
40…電圧センサ
42,43…圧力センサ
44…抵抗測定部
45…制御部
50…締結部
51…スプリング
52…アクチュエータ
53…ロードセル
60〜65…孔部
70…単セル
71…電解質膜
72…アノード
73…カソード
74,75…ガス拡散層
76,77…ガスセパレータ
78…セル内燃料ガス流路
79…セル内酸化ガス流路
80…線状凸部
81…溝流路
82…第1の溝流路
83…第2の溝流路
84…出口側閉塞部
85…入り口側閉塞部
86…凸部
88…シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜および電極を含む単セルを有する燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池におけるフラッディングの発生を検知するフラッディング検知部と、
前記燃料電池が備える電解質膜における水分不足を検知する膜乾燥検知部と、
前記燃料電池に対して前記電解質膜および電極の積層方向に締結荷重を加える締結機構であって、前記単セルに対して均一な締結荷重を加えることができると共に、前記単セル内の領域によって異なる締結荷重を加えることが可能な締結機構と、
前記フラッディング検知部がフラッディングの発生を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいてフラッディングが発生しやすい領域として予め設定した領域であるフラッディング領域の締結荷重を減少させ、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいて前記電解質膜における水分不足が発生しやすい領域として予め設定した領域である膜乾燥領域の締結荷重を増加させる締結荷重制御部と
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記締結荷重制御部は、前記フラッディング検知部がフラッディングを検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記単セル全体の締結荷重を減少させ、その後、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記膜乾燥領域の締結荷重を他の領域に比べて増加させる
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記締結荷重制御部は、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記単セル全体の締結荷重を増加させ、その後、前記フラッディング検知部がフラッディングを検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、前記フラッディング領域の締結荷重を他の領域に比べて減少させる
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記フラッディング検知部は、前記燃料電池において電圧低下が検出され、且つ、電気化学反応に供される反応ガスが流れる流路として前記燃料電池内に形成された燃料電池内ガス流路において圧力損失の増加が検出されたときに、フラッディングの発生を検知する
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記膜乾燥検知部は、前記燃料電池において電圧低下が検出され、且つ、前記燃料電池における抵抗の上昇が検出されたときに、前記電解質膜における水分不足を検知する
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか記載の燃料電池システムであって、
前記フラッディング領域は、電気化学反応に供される反応ガスが流れる流路として前記単セル内に形成されたセル内ガス流路から前記単セル外へと前記反応ガスが排出される反応ガス排出口の近傍領域であり、
前記膜乾燥領域は、前記単セル外から前記セル内ガス流路へと前記反応ガスが供給される反応ガス供給口の近傍領域である
燃料電池システム。
【請求項7】
請求項6記載の燃料電池システムであって、
前記単セルは、前記電解質膜の両面に電極が形成されて成る膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体を挟持するように配置された導電性多孔質体から成る一対のガス拡散層と、前記ガス拡散層上に配置されて、前記ガス拡散層との間で前記セル内ガス流路を形成するための凹凸が形成されたガスセパレータと、を備え、
前記セル内ガス流路は、前記反応ガス供給口側から前記反応ガス排出口側へと直進するように前記反応ガスを導く互いに平行な溝状流路であって、交互に配置された第1の流路および第2の流路を備え、
前記第1の流路は、一方の端部が前記反応ガス供給口側で開口すると共に、他方の端部が閉塞されており、
前記第2の流路は、前記反応ガス供給口の近傍に配置される一方の端部が閉塞されると共に、他方の端部が前記反応ガス排出口側で開口している
燃料電池システム。
【請求項8】
請求項6または7記載の燃料電池システムであって、
前記セル内ガス流路は、前記反応ガスとして、酸素を含有する酸化ガスが流れる流路である
燃料電池システム。
【請求項9】
電解質膜および電極を含む単セルを有する燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
前記燃料電池におけるフラッディングの発生を検知するフラッディング検知部と、
前記燃料電池が備える電解質膜における水分不足を検知する膜乾燥検知部と、
前記燃料電池に対して前記電解質膜および電極の積層方向に締結荷重を加える締結機構であって、前記単セルに対して均一な締結荷重を加えることができると共に、前記単セル内の領域によって異なる締結荷重を加えることが可能な締結機構と、
前記フラッディング検知部がフラッディングの発生を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいてフラッディングが発生していると判断される領域であるフラッディング領域の締結荷重を減少させ、前記膜乾燥検知部が前記電解質膜の水不足を検知したときには、前記締結機構を駆動することによって、少なくとも、前記単セルにおいて前記電解質膜における水分不足が発生している領域であると判断される膜乾燥領域の締結荷重を増加させる締結荷重制御部と
を備える燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−258396(P2011−258396A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131583(P2010−131583)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】