説明

燃料電池システム

【課題】燃料過供給による異常昇温や発電部での不可逆劣化を確実に防止できる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料供給により電力を発電する燃料電池本体1の燃料電池発電部101に燃料を送液するポンプ101、燃料電池本体1の出力電流が所定時間、所定値以下の状態を検出する出力電流状態検出部701、燃料電池本体1の開回路電圧の大きさを判定する開回路電圧判定部702を有し、さらに第1及び第2の基準電圧V1、V2(但しV1>V2)を有する閉塞解除待ち領域41が設定され、燃料電池本体1の通常運転で燃料電池本体1の出力電流が所定時間、所定値以下の状態が検出されると、開回路電圧が第2の基準電圧V2以上で第1の基準電圧V1以下にあると、閉塞解除待ち領域41での動作を維持し、開回路電圧が第1の基準電圧V1を超えると、燃料電池本体1を通常運転に復帰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の充電電源などに適用される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機や携帯情報端末などの電子機器の小型化は目覚しいものがあり、これら電子機器の小型化とともに、電源として燃料電池を使用することが試みられている。燃料電池は、燃料と空気を供給するのみで、発電することができ、燃料のみを補充あるいは交換すれば連続して発電できるという利点を有するため、小型化が実現できれば、小型の電子機器の電源として極めて有効である。
【0003】
そこで、最近、燃料電池として、直接メタノール型燃料電池(DMFC;Direct Methanol Fuel Cellと称する。)が注目されている。かかる燃料電池は、液体燃料の供給方式によって分類され、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式のものと、燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式のものがあり、これらのうち、パッシブ方式のものは燃料電池の小型化に対して特に有利である。
【0004】
従来、このようなパッシブ方式の燃料電池として、特許文献1に開示されるように、例えば燃料極、電解質膜および空気極を有する膜電極接合体(燃料電池セル)を、燃料収容部上に配置した構造のものが考えられている。
【0005】
また、燃料電池の燃料電池セルと燃料収容部とを流路を介して接続する構成のものも特許文献2〜4に開示されている。これら特許文献2〜4は、燃料収容部から供給された液体燃料を燃料電池セルに流路を介して供給することによって、流路の形状や径等に基づいて液体燃料の供給量を調整可能としたもので、特に、特許文献3では燃料収容部から流路にポンプで液体燃料を供給している。また、ポンプに代えて、流路に電気浸透流を形成する電界形成手段を用いることも記載されている。さらに特許文献4には電気浸透流ポンプを用いて液体燃料等を供給することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/112172号パンフレット
【特許文献2】特表2005−518646号公報
【特許文献3】特開2006−085952号公報
【特許文献4】米国特許公開第2006/0029851号公報
【特許文献5】特開2006−147486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池は、通常の運転では、図6に示すように時間TMの経過とともに、燃料電池の温度Tが増減すると、この温度Tの増減に対応して燃料電池に対する燃料供給量Fを調整するようにしている。このようにすると、周囲環境温度が一定ならば、温度Tを目標温度Toにしたがって一定温度に保つのに必要な燃料供給量Fはほぼ一定となり、燃料供給量Fの周期は、温度Tの逆位相の関係で推移し、出力電流Iが略一定に維持される。
【0008】
ところが、燃料電池の運転中に、例えば、燃料電池のカソードへの空気の供給が遮断され、カソード面が閉塞されることがあると、酸素量の不足による電気化学反応の低下により、図7に示すように燃料電池の温度Tおよび出力電圧Tが低下する。また、外部環境、つまり外気温度や風量などの変化で燃料電池の放熱量が増加すると、図8に示すように温度Tを目標温度Toに維持するのに必要とする燃料供給量Fが増加し、結果として酸素供給量の不足による出力電圧Iの低下を引き起こす。
【0009】
このように燃料電池は、燃料、酸素、その他、種々の環境などが適正でないと、安定した発電を継続することができない。言い換えると、これら必要とする要素のどれか一つでも欠けると、安定した発電が継続できずに出力が低下する。
【0010】
そこで、燃料電池の出力低下が燃料や酸素量の不足によるものか、外部環境の変化によるものかを判定するための手段を必要とするが、パッシブ方式の燃料電池では基本的に燃料供給以外の制御手段を持たないため,これらの判定を下すのが難しい。このため、これらの判定を誤ると、必要としない燃料供給を行うことがあり、この結果、初期の段階では出力や発電効率の低下が起こり、この状態が継続されると、燃料の過供給により異常昇温や発電部での不可逆劣化が生じるという問題があった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、燃料過供給による異常昇温や、発電部での不可逆劣化を確実に防止できる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、
請求項1記載の本発明は、燃料供給により電力を発電する燃料電池発電部を有する燃料電池本体と、前記燃料電池発電部に燃料を送液する燃料送液手段と、前記燃料電池本体の出力電流が所定時間、所定値以下の状態を検出する出力電流状態検出手段と、前記出力電流が所定時間、所定値以下の状態で、前記燃料電池本体の開回路電圧の大きさを判定する開回路電圧判定手段と、を具備し、第1及び第2の基準電圧V1、V2(但しV1>V2)を有する第1の状態維持領域が設定され、前記燃料電池本体が前記燃料送液手段の動作許可状態での通常運転で、前記出力電流状態検出手段により出力電流が所定時間、所定値以下の状態が検出されると、前記開回路電圧判定手段で判定される前記開回路電圧が前記第2の基準電圧V2以上で前記第1の基準電圧V1以下にあると、前記第1の状態維持領域での動作を維持し、前記開回路電圧が前記第1の基準電圧V1を超えると、前記燃料電池本体を前記通常運転に復帰させることを特徴としている。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載において、さらに、第2及び第3の基準電圧V2、V3(但しV2>V3)を有する第2の状態維持領域、第3及び第4の基準電圧V3、V4(但しV3>V4)を有する第3の状態維持領域がそれぞれ設定され、前記開回路電圧が前記第1の状態維持領域で第2の基準電圧V2以下であれば、前記燃料送液手段を動作禁止にするとともに、前記第2の状態維持領域に移行させ、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3以上で、前記第4の基準電圧V4以下に有ると、前記第2の状態維持領域での動作を維持し、前記開回路電圧が前記第2の基準電圧V2を超えると、前記燃料送液手段を動作許可して前記第1の状態維持領域の動作に復帰させ、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3以下であれば、前記燃料送液手段を動作許可して前記第3の状態維持領域に移行させ、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3以下で、前記第4の基準電圧V4以上であれば、前記第3の状態維持領域での動作を維持し、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3を超えると、前記燃料送液手段を動作禁止にして前記第2の状態維持領域の動作に復帰させることを特徴としている。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載において、前記第1乃至3の状態維持領域での動作が継続すると前記燃料電池本体の運転を停止することを特徴としている。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載において、前記第1の状態維持領域は、閉塞解除待ち領域、前記第2の状態維持領域は、燃料消費待ち領域、前記第3の状態維持領域は、燃料枯れ回避領域であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料電池本体への酸素供給量の不足、温度や風量等の周囲環境の変化など、燃料電池の出力を低下させる要因が生じても、不必要に燃料供給量を急増させることが無く、燃料の過供給による異常昇温、発熱体の不可逆劣化を防止して、安的性向上を図ることができる。
【0017】
また、これらの問題を解決するために、不必要にシステムを停止してユーザーの利便性を損なうこともない。
【0018】
さらには、上記出力低下要因の検知手段として、発電体そのものを一種の化学センサーとして用いるため、個別にセンサーを設置する必要がなく、システムの簡略化、ひいては低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態の燃料電池システムの概略構成を示す図。
【図2】第1の実施の形態の燃料電池本体を詳細に説明するための断面図。
【図3】第1の実施の形態の燃料電池本体に用いられる燃料分配機構の斜視図。
【図4】第1の実施の形態の燃料電池システムの動作を説明するフローチャート。
【図5】第1の実施の形態の燃料電池システムの動作状態を説明するための図。
【図6】従来の燃料電池の通常運転時での運転経過時間に対する温度、燃料供給量及び出力電流の状態を示す図。
【図7】従来の燃料電池での酸素量不足時の運転経過時間に対する温度、燃料供給量及び出力電流の状態を示す図。
【図8】従来の燃料電池での放熱量増加状態の運転経過時間に対する温度、燃料供給量及び出力電流の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる燃料電池システムの概略構成を示している。
【0022】
図1において、1は燃料電池本体(DMFC)で、この燃料電池本体1は、起電部を構成する燃料電池発電部(セル)101、液体燃料を収容する燃料収容部102、燃料収容部102と燃料電池発電部101を接続する流路103及び燃料収容部102から燃料電池発電部101に液体燃料を移送するための燃料送液手段としてのポンプ104を有している。
【0023】
図2は、このような燃料電池本体1をさらに詳細に説明するための断面図である。
【0024】
この場合、燃料電池発電部101は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード(空気極/酸化剤極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17とから構成される膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を有している。
【0025】
ここで、アノード触媒層11やカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11にはメタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層14にはPtやPt−Ni等を用いることが好ましい。ただし、触媒はこれらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。触媒は炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0026】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜17はこれらに限られるものではない。
【0027】
アノード触媒層11に積層されるアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層11の集電体も兼ねている。カソード触媒層14に積層されるカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層14の集電体も兼ねている。アノードガス拡散層12およびカソードガス拡散層15は多孔質基材で構成されている。
【0028】
アノードガス拡散層12やカソードガス拡散層15には、必要に応じて導電層が積層される。これら導電層としては、例えばAu、Niのような導電性金属材料からなる多孔質層(例えば、メッシュ)、多孔質膜、箔体あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材等が用いられる。
【0029】
電解質膜17と後述する燃料分配機構105およびカバープレート18との間には、それぞれゴム製のOリング19が介在されており、これらによって燃料電池発電部101からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0030】
カバープレート18は酸化剤である空気を取入れるための不図示の開口を有している。カバープレート18とカソード16との間には、必要に応じて保湿層や表面層が配置される。保湿層はカソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制すると共に、カソード触媒層14への空気の均一拡散を促進するものである。表面層は空気の取入れ量を調整するものであり、空気の取入れ量に応じて個数や大きさ等が調整された複数の空気導入口を有している。
【0031】
燃料電池発電部101のアノード(燃料極)13側には、燃料分配機構105が配置されている。燃料分配機構105には配管のような液体燃料の流路103を介して燃料収容部102が接続されている。
【0032】
燃料収容部102には、燃料電池発電部101に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部102には燃料電池発電部101に応じた液体燃料が収容される。
【0033】
燃料分配機構105には燃料収容部102から流路103を介して燃料が導入される。流路103は燃料分配機構105や燃料収容部102と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構105と燃料収容部102とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ燃料の流路であってもよい。燃料分配機構105は流路103を介して燃料収容部102と接続されていればよい。
【0034】
ここで、燃料分配機構105は図3に示すように、燃料が流路103を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口21と、燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口22とを有する燃料分配板23を備えている。燃料分配板23の内部には図2に示すように、燃料注入口21から導かれた燃料の通路となる空隙部24が設けられている。複数の燃料排出口22は燃料通路として機能する空隙部24にそれぞれ直接接続されている。
【0035】
燃料注入口21から燃料分配機構105に導入された燃料は空隙部24に入り、この燃料通路として機能する空隙部24を介して複数の燃料排出口22にそれぞれ導かれる。複数の燃料排出口22には、例えば燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、燃料電池発電部101のアノード(燃料極)13には燃料の気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構105とアノード13との間に気液分離膜等として設置してもよい。燃料の気化成分は複数の燃料排出口22からアノード13の複数個所に向けて排出される。
【0036】
燃料排出口22は燃料電池発電部101の全体に燃料を供給することが可能なように、燃料分配板23のアノード13と接する面に複数設けられている。燃料排出口22の個数は2個以上であればよいが、燃料電池発電部101の面内における燃料供給量を均一化する上で、0.1〜10個/cm2の燃料排出口22が存在するように形成することが好ましい。
【0037】
燃料分配機構105と燃料収容部102の間を接続する流路103には、ポンプ104が挿入されている。このポンプ104は燃料を循環される循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部102から燃料分配機構105に燃料を移送する燃料供給ポンプである。このようなポンプ104で必要時に燃料を送液することによって、燃料供給量の制御性を高めるものである。この場合、ポンプ104としては、少量の燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリーベーンポンプはモータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。
【0038】
ポンプ104には、後述する燃料供給制御回路5が接続され、ポンプ104の駆動が制御される。
【0039】
このような構成において、燃料収容部102に収容された燃料は、ポンプ104により流路103を移送され、燃料分配機構105に供給される。そして、燃料分配機構105から放出された燃料は、燃料電池発電部101のアノード(燃料極)13に供給される。燃料電池発電部101内において、燃料はアノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる。あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0040】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
この反応で生成した電子(e-)は集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる出力として負荷側に供給された後、カソード(空気極)16に導かれる。また、(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と下記の(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成される。
【0041】
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
図1に戻って、このように構成された燃料電池本体1は、燃料電池発電部(セル)101に温度検出手段としての温度センサー106が設けられている。この温度センサー106は、燃料電池発電部101の温度、つまり発熱部温度を検出するもので、例えば、サーミスタや熱電対からなり、図2に示す燃料電池発電部101のカソード(空気極)16に配置され、燃料電池発電部101の中央温度として、例えばカソード温度Tを検出し、制御部7に出力する。制御部7については、後述する。
【0042】
燃料電池本体1には、出力検出部6及び出力調整手段としてDC−DCコンバータ(電圧調整回路)2が接続されている。出力検出部6は、燃料電池本体1の出力電流I及び燃料電池本体1の開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV)を検出する。ここで、開回路電圧は、DC−DCコンバータ2の動作を停止して出力を遮断した状態(出力電流Iが取り出せない状態)での燃料電池本体1の出力電圧である。
【0043】
DC−DCコンバータ2は、不図示のスイッチング要素とエネルギー蓄積要素を有し、これらスイッチング要素とエネルギー蓄積要素により燃料電池本体1で発電された電気エネルギーを蓄積/放出させ、燃料電池本体1からの比較的低い出力電圧を十分の電圧まで昇圧して生成される出力を発生する。また、DC−DCコンバータ2は、制御部7の指示により出力(出力電圧)を任意に調整されるとともに、コンバータ動作を停止されるようになっている。このDC−DCコンバータ2の出力は、補助電源4に供給される。
【0044】
なお、ここでは標準的な昇圧型のDC−DCコンバータ2を示したが、昇圧動作が可能なものならば、他の回路方式のものでも実施可能である。
【0045】
DC−DCコンバータ2の出力端には、補助電源4が接続され、所謂ハイブリッド型燃料電池を構成している。この補助電源4は、DC−DCコンバータ2の出力により充電可能としたもので、負荷である電子機器本体3の瞬間的な負荷変動に対して電流を供給し、また、燃料枯渇状態になって燃料電池本体1が発電不能に陥った場合に電子機器本体3の駆動電源として用いられる。この補助電源4には、充放電可能な蓄電素子(例えばリチウムイオン二次電池(LIB))や電気二重層コンデンサ)が用いられる。
【0046】
補助電源4には、燃料供給制御回路5が接続されている。燃料供給制御回路5は、補助電源4が電源として与えられ制御部7の指示に基づいてポンプ104の動作禁止、動作許可を制御する。
【0047】
燃料供給制御回路5には、制御部7が接続されている。制御部7は、システム全体を制御するもので、出力電流状態検出部701、開回路電圧判定部702、送液制御部703を有している。出力電流状態検出部701は、出力検出部6より検出される燃料電池本体1の出力電流Iが、所定時間続けて所定値以下まで低下した状態を検出する。開回路電圧判定部702は、出力検出部6より検出される開回路電圧の大きさを判定する。送液制御部703は、開回路電圧判定部702で判定された開回路電圧の大きさに基づいて、図4に示す第1の状態維持領域としての閉塞解除待ち領域41、第2の状態維持領域としての燃料消費待ち領域42、第3の状態維持領域としての燃料枯れ回避領域43での動作を実行するとともに、ポンプ104に対する動作許可、動作停止の他、燃料電池本体1の運転停止を決定する。閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43については後述する。
【0048】
次に、このように構成された実施の形態の作用を図4に示すフローチャートに従い説明する。
【0049】
いま、燃料電池本体1への燃料及び酸素の供給が適量である場合、ポンプ104は、起動許可されDC−DCコンバータ2も動作しており、燃料電池本体1の通常運転により燃料電池本体1の発電出力が負荷の電子機器本体3側に供給されている(ステップ401)。この状態で、ステップ402で、出力電流状態検出部701により、燃料電池本体1の出力電流Iが所定時間続けて所定値以下まで低下されるかが判断される。具体的には、出力電流Iが100mA以下の状態が、60sec連続しているかが判断される。ここで、Noと判断されると、ステップ401に戻り、通常運転が継続される。一方、YESと判断されると、ステップ403に進み、DC−DCコンバータ2の動作を一時停止させ、燃料電池本体1の出力を遮断した状態(出力電流Iが取り出せない状態)にする。この状態で、出力検出部6より検出される開回路電圧により開回路電圧判定部702で開回路電圧の大きさを判定する。
【0050】
まず、第1の状態維持領域である閉塞解除待ち領域41に進む。この閉塞解除待ち領域41では、出力電流Iの低下の原因が、燃料電池本体1への燃料供給量は適量であるが、酸素供給路が一時的に閉塞され酸素量が不足している可能性を判断し、閉塞解除待ちをする。この場合、閉塞解除待ち領域41には、第1及び第2の基準電圧V1、V2(但しV1>V2)が設定されている。そして、ステップ404で、開回路電圧が第2の基準電圧V2(例えば4.5V)より大きいかを判断する。ここで、開回路電圧が第2の基準電圧V2より大きくYesと判断されると、ステップ405に進み、開回路電圧が第1の基準電圧V1(例えば5V)より大きいかを判断する。ここで、Noと判断されると、ステップ404に戻って、再び開回路電圧が第2の基準電圧V2より大きいかを判断し、以下、この動作を繰り返して閉塞解除待ち領域41での閉塞解除待ちを維持する。その後、開回路電圧が第1の基準電圧V1より大きくなって、ステップ405でYesと判断されると、一時的な酸素供給路の閉塞が解消して燃料電池本体1での運転が正常に戻ったと判定し、ステップ401に戻り、DC−DCコンバータ2を再起動させて燃料電池本体1を通常運転に復帰させる。
【0051】
一方、ステップ404で、Noと判定されると、つまり開回路電圧が第2の基準電圧V2(4.5V)より小さいと判断されると、ステップ406でポンプ104の動作を停止し、第2の状態維持領域である燃料消費待ち領域42に進む。
【0052】
この燃料消費待ち領域42では、出力電流Iの低下の原因が、燃料電池本体1への燃料供給量が過多で、酸素供給が不足している可能性を判断し、燃料消費待ちをする。この場合、燃料消費待ち領域42には、第2及び第3の基準電圧V2、V3(但しV2>V3)が設定されている。そして、ステップ407で、開回路電圧が第3の基準電圧V3(例えば3.5V)より大きいかを判断する。ここで、開回路電圧が第3の基準電圧V3より大きくYesと判断されると、ステップ408に進み、開回路電圧が第2の基準電圧V2(4.5V)より大きいかを判断する。ここで、Noと判断されると、ステップ407に戻って、再び開回路電圧が第3の基準電圧V3より大きいかを判断し、以下、この動作を繰り返して燃料消費待ち領域42での燃料消費待ちを維持する。その後、開回路電圧が第2の基準電圧V2より大きくなって、ステップ408でYesと判断されると、燃料供給量の過多が解消したと見なして、ステップ409で、ポンプ104の動作を許可し、閉塞解除待ち領域41のステップ404に戻り、上述し動作を繰り返す。一方、ステップ407でNoと判定されると、つまり開回路電圧が第3の基準電圧V3(3.5V)より小さいと判断されると、ステップ410でポンプ104の動作を許可して第3の状態維持領域である燃料枯れ回避領域43に進む。
【0053】
この燃料枯れ回避領域43では、出力電流Iの低下の原因が、燃料電池本体1への燃料供給量が不足で酸素供給量も不足している可能性を判断し、燃料枯れの回避を行う。この場合、燃料枯れ回避領域43には、第3及び第4の基準電圧V3、V4(但しV3>V4)が設定されている。そして、ステップ411で、開回路電圧が第3の基準電圧V3(3.5V)より小さいかを判断する。ここで、開回路電圧が第3の基準電圧V3より小さくてYesと判断されると、ステップ412に進み、開回路電圧が第4の基準電圧V4(例えば3.0V)より小さいかを判断する。ここで、Noと判断されると、ステップ411に戻って、再び開回路電圧が第3の基準電圧V3より小さいかを判断し、以下、この動作を繰り返して燃料枯れ回避領域43での燃料枯れの回避を維持する。その後、開回路電圧が第3の基準電圧V3より大きくなって、ステップ411でNoと判定されると、つまり燃料枯れの回避を継続した結果、開回路電圧が第3の基準電圧V3(3.5V)より大きくなったことが判断されると、ステップ406でポンプ104の動作を禁止し、燃料消費待ち領域42に戻る。一方、ステップ412でYesと判断されると、これら閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43での動作を継続しても燃料電池本体1を通常運転に戻るのが難しいと判断し、ステップ413に進み、燃料電池本体1の運転を停止する。
【0054】
このような動作を図5により、さらに説明する。この場合、期間Aは、燃料電池本体1の通常運転を示しており、この期間Aでは、図6でも述べたように、時間TMの経過とともに、燃料電池の温度Tが増減すると、この温度Tの増減に対応して燃料供給量Fが調整される。これにより、温度Tを目標温度Toにしたがって一定温度に保つのに必要な燃料供給量Fは、ほぼ一定となり、燃料供給量Fの周期は、温度Tの逆位相の関係で推移し、出力電流Iも略一定に維持される。このような通常運転から、期間Bにおいて、酸素供給量の不足、或いは外気温度の低下、風量の増加による放熱量の増加などの要因で燃料電池本体1の出力電流Iが低下し、図示C点で、出力電流Iが所定時間(例えば60sec)続けて所定値(例えば100mA)以下になると、DC−DCコンバータ2の動作を一時停止させ、燃料電池本体1の出力を遮断した状態(出力電流Iが取り出せない状態)にする。そして、この状態で、開回路電圧を検出し、この開回路電圧の大きさに基づいて、上述した閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43での動作が行われる。これにより、期間Dでは、これらの閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43での適切な動作により、燃料供給量Fは、開回路電圧を保つための最低限に保持されるので、温度Tが低下することがあっても燃料過供給に陥るようなことが無くなる。また、この期間Dでは、開回路電圧の大きさが燃料電池本体1の通常運転への移行が可能な状態に戻れば、通常運転を試み、可能であれば、期間Aに示す通常運転状態に復帰する。また、不可であれば、再び開回路電圧に切替えて閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43での動作が行われる。そして、これら閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43での動作が一定時間継続する場合は、燃料電池本体1の運転を停止する。
【0055】
したがって、このようにすれば、燃料供給により電力を発電する燃料電池本体1の燃料電池発電部101に燃料を送液するポンプ101、燃料電池本体1の出力電流が所定時間、所定値以下の状態を検出する出力電流状態検出部701、燃料電池本体1の開回路電圧の大きさを判定する開回路電圧判定部702をそれぞれ有し、さらに第1及び第2の基準電圧V1、V2(但しV1>V2)を有する閉塞解除待ち領域41が設定され、燃料電池本体1の通常運転で、燃料電池本体1の出力電流が所定値以下の状態が検出されると、この状態で開回路電圧が検出され、この開回路電圧の大きさが第2の基準電圧V2以上で第1の基準電圧V1以下にあると、閉塞解除待ち領域41での動作を維持し、開回路電圧が第1の基準電圧V1を超えると、燃料電池本体1を通常運転に復帰させるようにしたので、仮に燃料電池本体1への酸素の供給路が閉塞され酸素供給量の不足が生じたような場合も、閉塞解除待ちを維持することで不必要に燃料供給量を急増させること無くなり、燃料の過供給による異常昇温を確実に防止できるとともに、異常昇温による発熱体の不可逆劣化を防止することもできる。
【0056】
また、第2及び第3の基準電圧V2、V3(但しV2>V3)を有する燃料消費待ち領域42、第3及び第4の基準電圧V3、V4(但しV3>V4)を有する燃料枯れ回避領域43がそれぞれ設定され、開回路電圧が閉塞解除待ち領域41で第2の基準電圧V2以下であれば、ポンプ101を動作禁止にするとともに、燃料消費待ち領域42に移行させ、開回路電圧が第3の基準電圧V3以上で、第4の基準電圧V4以下に有ると、燃料消費待ち領域42での動作を維持し、開回路電圧が第2の基準電圧V2を超えると、ポンプ104の動作を許可して閉塞解除待ち領域41の動作に復帰させ、開回路電圧が第3の基準電圧V3以下であれば、ポンプ104の動作を許可して燃料枯れ回避領域43に移行させ、開回路電圧が第3の基準電圧V3以下で、第4の基準電圧V4以上であれば、燃料枯れ回避領域43での動作を維持し、開回路電圧が第3の基準電圧V3を超えると、ポンプ104を動作禁止にして燃料消費待ち領域42の動作に復帰させるようにしたので、さらに外気温度の低下、風量の増加による放熱量の増加などの原因で、燃料電池本体1への燃料供給量が過多で、酸素供給が不足している可能性が生じたような場合も、燃料消費待ちを維持することで不必要に燃料供給量を急増させること無くなり、この場合も、燃料の過供給による異常昇温を確実に防止でき、異常昇温による発熱体の不可逆劣化を防止できる。さらに、燃料電池本体1への燃料供給量が不足で酸素供給量も不足している可能性が生じたような場合も、燃料枯れ回避の動作を維持することで燃料枯れにより燃料電池本体が動作不能に陥るようなことも無くすことができる。
【0057】
さらに、閉塞解除待ち領域41、燃料消費待ち領域42、燃料枯れ回避領域43での動作が所定時間継続すると燃料電池本体1の運転を停止するようにもしたので、燃料電池本体1に対して不都合な動作が長時間継続するのを防止でき、燃料電池システムの動作の安全性も確保することもできる。
【0058】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、実施段階では、その要旨を変更しない範囲で種々変形することが可能である。例えば、上述では、第1の状態維持領域として閉塞解除待ち領域について述べたが、これに代えて、第1の状態維持領域として燃料消費待ち領域を設定してもよい。この場合、燃料電池本体が通常運転で、出力電流状態検出手段により出力電流が所定時間、所定値以下の状態が検出されると、燃料送液手段を動作禁止してから第1の状態維持領域(燃料消費待ち領域)に移行させるようにすればよい。
【0059】
さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示されている複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出できる。例えば、実施の形態に示されている全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題を解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出できる。
【0060】
さらに燃料電池発電部へ供給される液体燃料の気化成分においても、全て液体燃料の気化成分を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…燃料電池本体、101…燃料電池発電部
102…燃料収容部、103…流路
104…ポンプ、1041…ポンプ異常検出部、105…燃料分配機構
106…温度センサー、2…DC/DCコンバータ、3…電子機器本体
4…補助電源、5…燃料供給制御回路、6…出力検出部、
7…制御部、701…出力電流状態検出部、702…開回路電圧判定部、 703…送液制御部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料供給により電力を発電する燃料電池発電部を有する燃料電池本体と、
前記燃料電池発電部に燃料を送液する燃料送液手段と、
前記燃料電池本体の出力電流が所定時間、所定値以下の状態を検出する出力電流状態検出手段と、
前記出力電流が所定時間、所定値以下の状態で、前記燃料電池本体の開回路電圧の大きさを判定する開回路電圧判定手段と、を具備し、
第1及び第2の基準電圧V1、V2(但しV1>V2)を有する第1の状態維持領域が設定され、前記燃料電池本体が前記燃料送液手段の動作許可状態での通常運転で、前記出力電流状態検出手段により出力電流が所定時間、所定値以下の状態が検出されると、前記開回路電圧判定手段で判定される前記開回路電圧が前記第2の基準電圧V2以上で前記第1の基準電圧V1以下にあると、前記第1の状態維持領域での動作を維持し、前記開回路電圧が前記第1の基準電圧V1を超えると、前記燃料電池本体を前記通常運転に復帰させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
さらに、第2及び第3の基準電圧V2、V3(但しV2>V3)を有する第2の状態維持領域、第3及び第4の基準電圧V3、V4(但しV3>V4)を有する第3の状態維持領域がそれぞれ設定され、前記開回路電圧が前記第1の状態維持領域で第2の基準電圧V2以下であれば、前記燃料送液手段を動作禁止にするとともに、前記第2の状態維持領域に移行させ、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3以上で、前記第4の基準電圧V4以下に有ると、前記第2の状態維持領域での動作を維持し、前記開回路電圧が前記第2の基準電圧V2を超えると、前記燃料送液手段を動作許可して前記第1の状態維持領域の動作に復帰させ、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3以下であれば、前記燃料送液手段を動作許可して前記第3の状態維持領域に移行させ、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3以下で、前記第4の基準電圧V4以上であれば、前記第3の状態維持領域での動作を維持し、前記開回路電圧が前記第3の基準電圧V3を超えると、前記燃料送液手段を動作禁止にして前記第2の状態維持領域の動作に復帰させることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記第1乃至3の状態維持領域での動作が継続すると前記燃料電池本体の運転を停止することを特徴とする請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記第1の状態維持領域は、閉塞解除待ち領域、前記第2の状態維持領域は、燃料消費待ち領域、前記第3の状態維持領域は、燃料枯れ回避領域であることを特徴とする請求項2又は3記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−96511(P2011−96511A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249176(P2009−249176)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】