説明

燃料電池システム

【課題】 構成の小型化及び簡素化を図った燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 燃料電池システム1は、供給されるガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて二酸化炭素及び水素を得る変成器13を備える水素生成装置10と、水素生成装置10で得られる水素を含むガスを用いて発電を行う燃料電池20と、を備える。変成器13の動作温度と、燃料電池20の動作温度と、はともに130℃以上180℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を用いて発電する固体高分子形燃料電池(以下、PEFCとする)等の燃料電池と、当該燃料電池に水素を供給する水素生成装置と、を備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷等の観点や、災害時等の非常用の独立電源として、燃料電池が普及しつつある。このような燃料電池は、燃料として水素を用いるものが多く、当該水素を生成するための水素生成装置と組み合わせて用いられることが多い。このような燃料電池と水素生成装置とを備える従来の燃料電池システムの構成の一例について、図面を参照して説明する。図10は、従来の燃料電池システムの構成の一例について示すブロック図である。なお、図10に示す燃料電池は、PEFCである。
【0003】
図10に示すように、従来の燃料電池システム500は、炭化水素系燃料(例えば、天然ガス、液化石油ガス、メタノール、ジメチルエーテル等。以下同じ。)を含む原料ガスから硫黄成分を除去する脱硫器511と、脱硫器511で得られるガスに水蒸気を反応させて水素及び一酸化炭素を得る改質器512と、改質器512で得られるガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて二酸化炭素及び水素を得る高温変成器513と、高温変成器で得られるガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて二酸化炭素及び水素を得る低温変成器514と、低温変成器514で得られるガスに含まれる一酸化炭素を酸化することで二酸化炭素を得るCO選択酸化器515と、CO選択酸化器515で得られるガスの温度を下げる熱交換を行う熱交換器516と、を備える水素生成装置510と、水素生成装置510で得られる水素を含むガスを用いて発電を行う燃料電池520と、を備える。
【0004】
また、図10に示すように、脱硫器511の動作温度(換言するとガスの反応温度。以下同じ。)は、250℃程度である。また、改質器512の動作温度は、650℃〜700℃程度である。また、高温変成器513の動作温度は、400℃程度である。また、低温変成器514の動作温度は、200℃程度である。また、CO選択酸化器515の動作温度は、100℃〜130℃程度である。また、熱交換器516は、ガスの温度を、熱交換により100℃〜130℃程度から70℃程度まで変化させる。また、燃料電池520の動作温度は、70℃程度である。
【0005】
燃料電池520は、例えばセルに含まれる電解質膜等が好適に作用する温度等の都合により、動作温度が低温(上述の例では70℃程度)となっている。そのため、燃料電池520に供給するガスの温度を当該低温にするために、熱交換器516が必要になる。さらに、このような低温では、セルの電極触媒として一般的に用いられる白金が、一酸化炭素によって被毒され易い。そのため、燃料電池520に供給するガスから一酸化炭素を極力除外する(例えば、10ppm以下まで除外する)必要があり、高温変成器513、低温変成器514及びCO選択酸化器515などの各機器が必要になる。
【0006】
したがって、従来の燃料電池システム500では、特に水素生成装置510における一酸化炭素を除去するための構成が、大型化及び複雑化するため、問題になる。
【0007】
この問題を鑑み、本出願人は、一酸化炭素及び水蒸気の反応により生成される二酸化炭素を選択的に排出することで当該反応を進行させる、小型かつ高効率で一酸化炭素を除外可能な変成器を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−036364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、燃料電池システムが今後広く普及して利用されるためには、燃料電池システムの構成のさらなる小型化及び簡素化(ひいては、これらの実現による低価格化)が求められる。
【0010】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成の小型化及び簡素化を図った燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、
供給される水素を用いて発電する燃料電池と、
前記燃料電池に水素を供給する水素生成装置と、を備える燃料電池システムであって、
前記水素生成装置が、
供給される第1ガス中の一酸化炭素及び水を反応させて水素及び二酸化炭素を得るとともに、二酸化炭素を選択的に系外へ排出することで、前記燃料電池に供給する第2ガスを生成する変成器を備え、
前記変成器及び前記燃料電池の動作温度が、ともに130℃以上かつ180℃以下であることを特徴とする燃料電池システムを提供する。
【0012】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記変成器が生成する前記第2ガスが、前記燃料電池に直接供給されると、好ましい。
【0013】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記変成器が、一酸化炭素及び水を反応させるための一酸化炭素変成触媒と、二酸化炭素を選択的に透過させることで系外へ排出する二酸化炭素促進輸送膜と、を備え、
前記燃料電池が、アノード電極及びカソード電極に電解質膜が挟持されたセルを備え、
前記一酸化炭素変成触媒の触媒作用が活性化される温度、前記二酸化炭素促進輸送膜の作用が活性化される温度及び前記電解質膜の作用が活性化される温度が、それぞれ130℃以上かつ180℃以下であると、好ましい。
【0014】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記変成器の前記一酸化炭素変成触媒が、銅系触媒を含み、
前記変成器の前記二酸化炭素促進輸送膜が、二酸化炭素を輸送するキャリアを含むゲル層と、当該ゲル層を担持する親水性の多孔膜とを含むと、好ましい。
【0015】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記セルの当該電解質膜は、
ポリベンズイミダゾール、酸化ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン及びこれらの少なくとも1つを架橋して成るもの、
を少なくとも1つ含むと、好ましい。
【0016】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記セルの熱により水を蒸発させて水蒸気にすることで、前記セルの冷却を行う冷却装置を、
さらに備えると、好ましい。
【0017】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記冷却装置が、
前記セルの熱により前記水を蒸発させて前記水蒸気を得る蒸発器と、
前記蒸発器で生じた前記水蒸気を放熱し凝縮することで、前記蒸発器で蒸発させる前記水を得る凝縮器と、
を備えると、好ましい。
【0018】
さらに、上記特徴の燃料電池システムは、前記水素生成装置が、炭化水素系燃料を含む原料ガスに、前記冷却装置から供給される前記水蒸気を反応させることで、前記第1ガスを生成する改質器を備えると、好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記特徴の燃料電池システムによれば、ともに130℃以上かつ180℃以下で動作する変成器から燃料電池に対して、ガスが供給される。そのため、例えば当該ガスを供給する水素生成装置の小型化及び簡素化を図ることが可能になる。したがって、燃料電池システムの小型化及び簡素化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成の一例について示すブロック図
【図2】図1に示す燃料電池システムの水素生成装置に適用可能な変成器の構成の一例について示す模式図
【図3】図2に示す変成器の二酸化炭素促進輸送膜の構成の一例について示す模式図
【図4】二酸化炭素促進輸送膜の温度特性の一例について示すグラフ
【図5】図1に示す燃料電池システムの燃料電池に適用可能なセル及びセルスタックの構成の一例について示す模式図
【図6】図5に示す燃料電池が備えるセルの温度と電圧との関係を示すグラフ
【図7】図5に示す燃料電池が備えるセルの温度とリン酸蒸発量との関係を示すグラフ
【図8】図5に示す燃料電池が備えるセルについて、発電時間とリン酸蒸発量及び低下電圧との関係をセルの温度毎に示したグラフ
【図9】図5に示す燃料電池を冷却した水の利用方法の一例について示す模式的なブロック図
【図10】従来の燃料電池システムの構成の一例について示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る燃料電池システムの実施形態について、以下図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成の一例について示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、燃料電池システム1は、炭化水素系燃料を含む原料ガスから硫黄成分を除去する脱硫器11と、脱硫器11で得られるガスに水(水蒸気)を反応させて水素及び一酸化炭素を得る改質器12と、改質器12で得られるガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を反応させて二酸化炭素及び水素を得る変成器13と、を備える水素生成装置10と、水素生成装置10で得られる水素を含むガスを用いて発電を行う燃料電池20と、を備える。
【0023】
また、図1に示すように、脱硫器11の動作温度は、250℃程度である。また、改質器12の動作温度は、650℃〜700℃程度である。また、変成器13の動作温度は、130℃〜180℃程度である。また、燃料電池20の動作温度は、変成器13と同様の130℃〜180℃程度である。
【0024】
例えば、上記のそれぞれの動作温度は、水素生成装置10の各機器や燃料電池20のそれぞれで、効率良く反応を継続する観点等に基づいて設定される。なお、詳細については後述するが、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1は、変成器13の動作温度と燃料電池20の動作温度とを、ともに130℃〜180℃とした点が重要である。したがって、この点が達成されるように、変成器13及び燃料電池20の構成が適宜選択される。
【0025】
脱硫器11は、例えば、ニッケル−モリブデン系やコバルト−モリブデン系等の水素化脱硫触媒と、硫黄成分を取り込んで除去する酸化亜鉛と、を備える。水素化脱硫触媒は、原料ガスに含まれる硫黄成分を水素化分解して、硫化水素を生成する。酸化亜鉛は、生成される硫化水素と反応して硫化亜鉛と水を生じる。これにより、原料ガスから硫黄成分が除去される。
【0026】
改質器12は、例えば、ルテニウム、ニッケル、白金等の改質触媒を備える。改質触媒は、脱硫器11で得られるガスに含まれる炭化水素系燃料(以下、説明の具体化のためにメタンを例示する)と、改質器12に供給される水蒸気と、を下記(化1)に示す反応式のように反応させて、水素と一酸化炭素を含むガスを生成する。なお、当該反応は吸熱反応であるため、改質器12を加熱するなどして、上述の動作温度(650℃〜700℃)に保持すると、好ましい。
【0027】
(化1)
CH + HO → CO + 3H
【0028】
変成器13は、改質器12で得られるガスに含まれる一酸化炭素及び水蒸気を、下記(化2)に示す反応式のように反応させて、二酸化炭素及び水素を得る。さらに、変成器13は、二酸化炭素を選択的に系外へ排出することで、下記(化2)の右方向の反応が進行するようにする。なお、記号「⇔」は、可逆反応であることを示したものである。
【0029】
(化2)
CO + HO ⇔ CO + H
【0030】
この変成器13の一例について、図面を参照して説明する。図2は、図1に示す燃料電池システムの水素生成装置に適用可能な変成器の一例について示す模式図である。
【0031】
図2に示すように、変成器13は、上記(化2)の反応を促進する一酸化炭素変成触媒131と、二酸化炭素を選択的に透過させて上記(化2)の反応の系外に排出する二酸化炭素促進輸送膜132と、一酸化炭素変成触媒131及び二酸化炭素促進輸送膜132を内部に保持するとともに各種ガスの流路を形成する壁部133と、を備える。
【0032】
壁部133は、改質器12が変成器13に供給するガス(第1ガス)及び変成器13が燃料電池20に供給するガス(第2ガス)が流れる第1流路133Aと、スイープガス(例えば、空気)及び二酸化炭素促進輸送膜132を透過した二酸化炭素が流れる第2流路133Bと、の2つの流路を形成する。また、第1流路133A及び第2流路133Bは、二酸化炭素促進輸送膜132で隔絶される。
【0033】
上記(化2)の反応により生じる二酸化炭素は、二酸化炭素促進輸送膜132を透過した後、スイープガスとともに排出される。スイープガスは、第2流路133B中のガスにおける二酸化炭素の分圧を低くすることで、第1流路133Aから二酸化炭素促進輸送膜132を透過して第2流路133Bに二酸化炭素が移動することを、促進する。これにより、上記(化2)の反応の系外に二酸化炭素が選択的に排出されるため、上記(化2)における一酸化炭素及び水蒸気の反応を、平衡の制約による限界を超えて進行させることが可能になる。そのため、変成器13が燃料電池20に供給するガス中の一酸化炭素の濃度を効果的に低減するとともに、水素の濃度を増大することが可能になる。
【0034】
一酸化炭素変成触媒131として、例えば、300℃以下の低温(特に、上述の130℃以上かつ180℃以下)で触媒作用が活性化する触媒を用いると、好ましい。具体的に例えば、一酸化炭素変成触媒131として、銅系の触媒を用いると好ましく、さらに具体的に例えば、銅亜鉛系触媒や銅クロム系触媒を用いると好ましい。なお、一酸化炭素変成触媒131は、上述の130℃以上かつ180℃以下の温度範囲において、温度が高いほど触媒作用が活性化することが知られており、140℃以上でさらに触媒作用を活性化することができる。
【0035】
なお、図2に示す変成器13の構造は一例に過ぎず、他の構造を採用しても良い。例えば、壁部133を二重管構造として、内管内を第1流路133Aにするとともに外管内を第2流路133B(または、これの逆)としても良い。また、第1流路133A及び第2流路133Bを流れるガスの方向は、図2に示すように同じ方向であっても良いし、反対方向であっても良い。また、一酸化炭素変成触媒131の少なくとも一部に、白金などの貴金属を含む触媒を適用しても良い。
【0036】
さらに、図3を参照して、上記の二酸化炭素促進輸送膜132の構成の一例について説明する。図3は、図2に示す変成器の二酸化炭素促進輸送膜の構成の一例について示す模式図である。
【0037】
図3に示すように、二酸化炭素促進輸送膜132は、二酸化炭素を輸送するキャリア(以下、単にキャリアとする)を含有するゲル層1321と、ゲル層を担持する親水性多孔膜1322と、ゲル層1321及び親水性多孔膜1322を挟持する2つの疎水性多孔膜1323,1324と、を備える。
【0038】
例えば、ゲル層1321は、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸(PVA/PAA)共重合体に、キャリアを含ませた構成とすると、好ましい。また例えば、キャリアとして、炭酸セシウム(CsCO)を適用すると好ましく、他に水酸化セシウム、重炭酸セシウム、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、重炭酸ルビジウム、DAPA(NH−CH−CH(NH)−COOH)などを適用しても、好ましい。さらに例えば、ゲル層1321中のPVA/PAA及び炭酸セシウムの重量に対して、PVA/PAAの重量が約20〜80%、炭酸セシウムの重量が約20〜80%となるようにすると、好ましい。
【0039】
親水性多孔膜1322は、親水性に加えて、100℃以上(特に、上述の130℃以上かつ180℃以下)の耐熱性、機械的強度、ゲル層1321との密着性を有するように構成すると、好ましい。さらに、多孔度(空隙率)が55%以上であり、細孔径が0.1〜1μmの範囲であると、好ましい。また、例えばこれらの特性を備える親水性多孔膜1322として、親水性化した四フッ化エチレン重合体(PTFE)を適用すると、好ましい。
【0040】
疎水性多孔膜1323,1324は、疎水性に加えて、100℃以上(特に、上述の130℃以上かつ180℃以下)の耐熱性、機械的強度、ゲル層1321との密着性を有するのが好ましく、更に、多孔度(空隙率)が55%以上であり、細孔径が0.1〜1μmの範囲であると、好ましい。また、例えばこれらの特性を備える疎水性多孔膜1323,1324として、親水性化していない四フッ化エチレン重合体(PTFE)を適用すると、好ましい。
【0041】
上述のように、ゲル層1321を親水性多孔膜1322が担持する構成にすると、親水性多孔膜1322の表面のみならず細孔内にもゲル層1321が充填されるため、欠陥を生じ難くさせるとともに、全体的なガスの透過性を低くすることができる。ただし、二酸化炭素の透過性は、上述したキャリアによって高いものとなる。そのため、二酸化炭素よりも分子サイズが小さい水素の透過を、抑制することができる。
【0042】
二酸化炭素促進輸送膜132の温度特性の一例を、図4に示す。図4は、二酸化炭素促進輸送膜の温度特性の一例について示すグラフである。なお、図4は、PVA/PAAに70wt%の炭酸セシウムをキャリアとして添加したゲル層1321を備える二酸化炭素促進輸送膜132の温度特性を示すグラフであり、上下段双方のグラフの横軸が変成器13の温度(℃)、上段のグラフの縦軸が二酸化炭素のパーミアンス(透過性の性能指標の一つ)、下段のグラフの縦軸が二酸化炭素の対水素選択率(CO/H)である。
【0043】
図4に示すように、二酸化炭素促進輸送膜132は、100℃以上(特に、上述の130℃以上かつ180℃以下)の温度において、高い二酸化炭素の透過性(パーミアンス)を得るとともに、高い二酸化炭素の対水素選択率(CO/H)を得ることができる。換言すると、上述の130℃以上かつ180℃以下の温度において、二酸化炭素促進輸送膜132は、その作用が活性化された状態となる。なお、上述の一酸化炭素変成触媒131と同様に、二酸化炭素促進輸送膜132も、140℃以上でさらに作用を活性化することができる。
【0044】
また、ゲル層1321を担持した親水性多孔膜1322を、疎水性多孔膜1323,1324で挟持する構成にすると、二酸化炭素促進輸送膜132の強度が増大し、第1流路133A及び第2流路133Bの圧力差(例えば、2気圧以上)に耐えることが可能になる。さらに、疎水性多孔膜1323,1324が水蒸気等をはじくため、水がゲル層1321内にしみ込み、キャリアが水で薄められたり、当該薄められたキャリアがゲル層1321から流出したりすることを、抑制することが可能になる。
【0045】
燃料電池20は、アノード電極と、カソード電極と、これらの電極に挟持される電解質膜と、から成るセル(例えば、MEA:Membrane Electrode Assembly)を備える。アノード電極では、水素が下記(化3)の(1)に示す反応式のように反応することで、水素イオンと電子を生じる。当該反応で生じた水素イオンは、電解質膜を通過してカソード電極に至る。そして、水素イオンは、カソード電極で電子を受け取るとともに空気等に含まれる酸素と下記(化3)の(2)に示す反応式のように反応することで、水を生じる。
【0046】
(化3)
→ 2H + 2e ・・・(1)
+ 4H + 4e → 2HO ・・・(2)
【0047】
この燃料電池20が備えるセルと、当該セルを複数連結して成るセルスタックの一例と、について、図面を参照して説明する。図5は、図1に示す燃料電池システムの燃料電池に適用可能なセル及びセルスタックの構成の一例について示す模式図である。
【0048】
図5に示すように、燃料電池20は、上述の電解質膜211とこれを挟持するアノード電極212及びカソード電極213とから成るセル21と、隣接するセル21の間に配置されるセパレータ22と、所定数のセル21毎に設けられてセル21を冷却する冷却板31と、を備える。
【0049】
変成器13から供給されるガスは、セパレータ22とアノード電極212との間で拡散する。同様に、セパレータ22とカソード電極213との間で、酸素を含む空気等のガス(例えば、燃料電池システム1の外部から供給される)が拡散する。そのため、セパレータ22と、アノード電極212及びカソード電極213と、の少なくとも一方に、これらのガスを拡散可能にする溝等が形成されていると、好ましい。
【0050】
また、冷却板31は、セル21の熱を冷却媒体である水に伝達し、セル21の冷却を行う。これにより、発熱反応の上記(化3)で生じる熱により、セル21の温度が上昇することが抑制され、上述の130℃以上かつ180℃以下の温度で保持される。なお、冷却板31は、セル21を冷却可能な構成であれば、どのような構成であっても良い。例えば、冷却板31が、その内部を水(水蒸気)が通過する構成であっても良い。
【0051】
例えば、アノード電極212は、電極触媒として白金や白金及びルテニウムの合金を備えたものであると、好ましい。また、カソード電極213は、電極触媒として白金を備えたものであると、好ましい。
【0052】
また例えば、電解質膜211は、ポリベンズイミダゾール(PBI)、酸化ポリエチレン(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリエチレンイミン(PEI)や、これらの少なくとも1つを架橋して成るものを、少なくとも1つ含むと、好ましい。また、電解質膜211は、これらの高分子化合物に電解質(例えば、リン酸)を含浸させたものから成る。これらの構成であれば、上述した130℃以上かつ180℃以下の温度において、電解質膜211の作用が活性化された状態になる。なお、以下では説明の具体化のため、電解質膜211が、高分子化合物にリン酸を含浸して成る場合について例示する。
【0053】
上記のセルを備える燃料電池20の特性について、以下図面を参照して説明する。図6は、図5に示す燃料電池が備えるセルの温度と電圧との関係を示すグラフである。また、図7は、図5に示す燃料電池が備えるセルの温度とリン酸蒸発速度との関係を示すグラフである。また、図8は、図5に示す燃料電池が備えるセルについて、発電時間とリン酸蒸発量及び低下電圧との関係をセルの温度毎に示したグラフである。
【0054】
図6に示すグラフは、横軸がセル21の温度(℃)であり、縦軸がセル21の電流密度を0.2A/cmとしたときの電圧(V)である。また、図6に示すグラフにおいて、各温度(120℃,140℃,150℃,160℃,170℃,180℃,190℃,200℃)におけるセル21の初期の電圧を、黒塗りの丸で示し、燃料電池20を所定の時間動作させた後(耐久性試験後)の各温度(150℃,170℃,190℃)におけるセル21の電圧を、白塗りの四角で示している。
【0055】
図7に示すグラフは、横軸がセル21の温度(℃)であり、縦軸がセル21の電解質膜211中からリン酸が蒸発する蒸発速度(μgm−2−1)である。また、図7に示すグラフでは、各温度(150℃,160℃,170℃,180℃,190℃,200℃)におけるリン酸の蒸発速度を示したものである。
【0056】
図8に示すグラフは、横軸がセル21の発電時間(h)であり、縦軸がセル21の電解質膜211中からリン酸が蒸発する蒸発量(mg/cm)及びセル21の電流密度を0.2A/cmとしたときの低下電圧(V)である。また、図8に示すグラフでは、150℃におけるセル21の発電時間と低下電圧との関係を白塗りの丸で示し、170℃におけるセル21の発電時間と低下電圧との関係を黒塗りの四角で示し、190℃におけるセル21の発電時間と低下電圧との関係を白塗りの四角で示している。また、150℃におけるセル21の発電時間とリン酸の蒸発量との関係を実線で示し、170℃におけるセル21の発電時間とリン酸の蒸発量との関係を一点鎖線で示し、190℃におけるセル21の発電時間とリン酸の蒸発量との関係を破線で示している。
【0057】
図6に示すように、燃料電池20のセル21の温度が200℃以下であれば、当該温度を高くするほど、セル21が出力する電圧を高くすることができる。即ち、燃料電池20の性能を向上することができる。さらに、燃料電池20は、高温にするほど発電効率が増大する。具体的に例えば、100℃未満の温度(具体的に例えば、70℃)で動作する従来のPEFC等の燃料電池は、発電効率が37%〜38%程度であるが、130℃以上かつ180℃以下の温度(具体的に例えば、160℃)で動作する上記の燃料電池20では、発電効率が46%程度まで増大する。
【0058】
これに対して、図7及び図8に示すように、燃料電池20のセル21の温度を高くするほど、リン酸の蒸発速度が増大してしまう。そのため、燃料電池20のセル21の温度を高くするほど、発電可能な時間(例えば、許容される電圧低下を超えるまでの時間)が短くなってしまう。即ち、燃料電池20の耐久性が低くなる。
【0059】
そこで、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1では、燃料電池20を上述の130℃以上かつ180℃以下で動作させることで、燃料電池20の性能を高くすると同時に、燃料電池20の耐久性を確保する。なお、より好ましい動作温度は、上述の一酸化炭素変成触媒や二酸化炭素促進輸送膜132と同様に、140℃以上である。
【0060】
本発明の実施形態に係る燃料電池システム1では、変成器13及び燃料電池20のそれぞれの動作温度が、上述した130℃以上かつ180℃以下の温度範囲内でそれぞれ選択されたものとなる。なお、変成器13及び燃料電池20の動作温度は、必ずしも等しいものである必要はなく、当該温度範囲内である限り異なっても良い。
【0061】
上記構成により得られる利点について、以下に述べる。なお、以下では特に言及しない限り、100℃未満の温度で動作する図10に示した従来の燃料電池システム500と比較して、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1が有する利点について、説明する。
【0062】
まず、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1では、変成器13と燃料電池20との間で熱交換を行う必要が無くなる。そのため、図10に示す従来の燃料電池システム500が備える熱交換器516を、不要にすることができる。したがって、燃料電池システム1の構成を、小型化及び簡素化することが可能になる。
【0063】
また、変成器13は、130℃以上かつ180℃以下の温度で動作することで、燃料電池20に供給するガス中の一酸化炭素濃度を、効果的に低減することができる。また、当該温度であれば、燃料電池20のアノード電極212が、一酸化炭素に被毒されにくくなる。そのため、変成器13と燃料電池20との間で、一酸化炭素を選択酸化する必要が無くなり、図10に示す従来の燃料電池システム500が備えるCO選択酸化器215を、不要にすることができる。したがって、燃料電池システム1の構成を、小型化及び簡素化することが可能になる。
【0064】
また、変成器13は、上述のように燃料電池20に供給するガス中の一酸化炭素濃度を、効果的に低減することができる。そのため、変成器13の構成を簡素化することが可能になる(例えば、図10に示す従来の燃料電池システム500が備える高温変成器213及び低温変成器214のような複数段の変成器を備えず、1段の変成器13のみとすることができる)。したがって、燃料電池システム1の構成を、小型化及び簡素化することが可能になる。
【0065】
また、130℃以上かつ180℃以下の温度で動作可能な上記構成の燃料電池20は、水無しで電解質膜211が水素イオンを伝導することができる。そのため、例えばセル21を加湿するための加湿器が、不要になる。したがって、燃料電池システム1の構成を、小型化及び簡素化することが可能になる。
【0066】
また、燃料電池20は、130℃以上かつ180℃以下の温度で動作すると、セル21のアノード電極212が、一酸化炭素に被毒されにくくなる。一方、変成器13は、当該温度で動作すると、燃料電池20に供給するガス中の一酸化炭素濃度を効果的に低減するともに、水素濃度を増大することができる。そのため、燃料電池20の性能(例えば、電圧や発電効率など)を、改善することができる。また、当該温度であれば、燃料電池20の耐久性を確保することができる。
【0067】
また、130℃以上かつ180℃以下の温度で動作する燃料電池20は、200℃程度の温度で動作するPAFC(Phosphoric Acid Fuel Cell)等と比較すると、動作温度が低い。そのため、燃料電池20(ひいては、燃料電池システム1)の長寿命化を図ることができる。
【0068】
また、燃料電池20のセル21に用いられるアノード電極212やカソード電極213は、燃料電池20の動作温度を130℃以上かつ180℃以下にすることで、一酸化炭素に限られず他の不純物にも被毒されにくくなる。そのため、これらの不順物を取り除く構成(例えば、フィルタなど)を不要として、燃料電池システム1の構成を小型化及び簡素化することが可能になる。また、適用可能な原料ガスを多様化することができるため、使用可能な原料ガスが制限される災害時等の非常用の独立電源にも、好適に利用することができる。
【0069】
また、燃料電池20の動作温度を130℃以上かつ180℃以下にすることで、セル21を冷却する水(水蒸気)を、効率良く利用することができる。この利用方法の一例について、図面を参照して説明する。図9は、図5に示す燃料電池を冷却した水の利用方法の一例について示す模式的なブロック図である。なお、図9の図中に示す太線の矢印が、燃料電池システム1内の水の流れを模式的に示したものである。
【0070】
上述のように、燃料電池20の冷却板31において、セル21を冷却するために水が用いられる。燃料電池20の動作温度が、上述のように130℃以上かつ180℃以下であると、冷却板31から熱を受ける水が蒸発し、水蒸気になる。
【0071】
図9では、燃料電池20の冷却板31から得られる水蒸気を、自然対流させることで熱交換器32に送り込み、熱交換器32の熱交換により凝縮させて水とし、当該水を再び燃料電池20の冷却板31に戻す構成(いわゆるヒートパイプ方式の冷却構成)を例示している。この構成を採用することで、冷却媒体である水を熱交換器32に送り込む機器(動力源)を、不要にすることができる。さらに、水蒸気が高温であるため、当該水蒸気の熱を回収する熱交換器32等の構成を、小型化及び簡素化することが可能になる。したがって、燃料電池システム1の構成を、小型化及び簡素化することが可能になる。
【0072】
さらに、図9に示すように、熱交換器32において水蒸気から得られる熱を貯湯槽33の熱源として利用する場合、様々な用途に利用可能な高温の湯を得ることができる。また、当該水蒸気は高温であるため、貯湯槽33の熱源の他に、暖房などの他の熱源としても利用可能である。
【0073】
また、図9には、燃料電池20から得られる水蒸気を、改質器12に供給する構成を例示している。上述のように、改質器12における反応(上記(化1))は吸熱反応である。そのため、高温の水蒸気を改質器12に供給することで、エネルギーを効率良く利用することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の燃料電池システムは、PEFCを代表とする燃料電池と、当該燃料電池に水素を供給する水素生成装置と、を備えた燃料電池システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1: 燃料電池システム
11: 脱硫器
12: 改質器
13: 変成器
131: 一酸化炭素変成触媒
132: 二酸化炭素促進輸送膜
1321: ゲル層
1322: 親水性多孔膜
1323: 疎水性多孔膜
1324: 疎水性多孔膜
133A: 第1流路
133B: 第2流路
133: 壁部
20: 燃料電池
21: セル
211: 電解質膜
212: アノード電極
213: カソード電極
22: セパレータ
31: 冷却板
32: 熱交換器
33: 貯湯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される水素を用いて発電する燃料電池と、
前記燃料電池に水素を供給する水素生成装置と、を備える燃料電池システムであって、
前記水素生成装置が、
供給される第1ガス中の一酸化炭素及び水を反応させて水素及び二酸化炭素を得るとともに、二酸化炭素を選択的に系外へ排出することで、前記燃料電池に供給する第2ガスを生成する変成器を備え、
前記変成器及び前記燃料電池の動作温度が、ともに130℃以上かつ180℃以下であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記変成器が生成する前記第2ガスが、前記燃料電池に直接供給されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記変成器が、一酸化炭素及び水を反応させるための一酸化炭素変成触媒と、二酸化炭素を選択的に透過させることで系外へ排出する二酸化炭素促進輸送膜と、を備え、
前記燃料電池が、アノード電極及びカソード電極に電解質膜が挟持されたセルを備え、
前記一酸化炭素変成触媒の触媒作用が活性化される温度、前記二酸化炭素促進輸送膜の作用が活性化される温度及び前記電解質膜の作用が活性化される温度が、それぞれ130℃以上かつ180℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記変成器の前記一酸化炭素変成触媒が、銅系触媒を含み、
前記変成器の前記二酸化炭素促進輸送膜が、二酸化炭素を輸送するキャリアを含むゲル層と、当該ゲル層を担持する親水性の多孔膜とを含むことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記セルの前記電解質膜は、
ポリベンズイミダゾール、酸化ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン及びこれらの少なくとも1つを架橋して成るもの、
を少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項3または4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記セルの熱により水を蒸発させて水蒸気にすることで、前記セルの冷却を行う冷却装置を、
さらに備えることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記冷却装置が、
前記セルの熱により前記水を蒸発させて前記水蒸気を得る蒸発器と、
前記蒸発器で生じた前記水蒸気を放熱し凝縮することで、前記蒸発器で蒸発させる前記水を得る凝縮器と、
を備えることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記水素生成装置が、炭化水素系燃料を含む原料ガスに、前記冷却装置から供給される前記水蒸気を反応させることで、前記第1ガスを生成する改質器を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−221863(P2012−221863A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88794(P2011−88794)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(305009898)株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ (9)
【出願人】(391002487)学校法人大同学園 (23)
【Fターム(参考)】