説明

燃料電池システム

【課題】再起動時に生じ得る炭素析出や改質触媒劣化等の発生を防止し、長寿命運転を可能とした燃料電池システムを提供する。
【解決手段】改質器20と制御部110とを備えた燃料電池システム1であって、制御部110は、燃料電池システム1の起動制御において、(1)改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)未満の場合に、燃料ガスによる燃焼熱によって改質器を加熱する制御と、(2)記改質器の温度がT1以上で水蒸気改質反応可能温度(T2)未満の場合にPOX工程と、(3)改質器の温度がT2以上の場合にATR工程と、を順に実行するように構成されており、制御部110は、燃料電池システム1の起動制御を開始する時における改質器20の温度がT2以上である場合には、ATR工程から起動制御を開始することなく、改質器20の温度がT2未満に低下した後に、POX工程を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに係わり、特に、再起動時の起動時間を短縮可能な燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解質型燃料電池(SOFC)では、起動時に、改質器において燃料ガスの部分酸化改質反応(POX)、オートサーマル改質反応(ATR)、水蒸気改質反応(SR)を各起動段階に応じて順に実行し改質器等を昇温していくものが知られている。
【0003】
このような燃料電池において、稼動状態からの運転停止動作中又はその後の運転停止状態において再起動する場合、燃料電池モジュールに余熱が依然として蓄積されている状態では、上記のPOX、ATR、SRのすべての反応工程を順に実行せずに、すなわちPOXを行わずに、SR(又はATR)に移行することができる(例えば、特許文献1参照)。このようにPOXを省略することにより、再起動時間を短縮化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−159463号公報
【特許文献2】特開2005−340075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、再起動時に改質器が高温状態であるときにSRから開始すると、炭素析出や改質触媒の劣化が生じるといった問題があった。すなわち、SRから開始する場合には、燃料ガスと水との供給開始タイミングを確実に一致させる必要があり、これらの供給タイミングが一致せず、水の供給が遅れたり供給過少であると炭素析出が生じ、一方、水が過剰に供給されると改質触媒の劣化が生じる。
【0006】
例えば、特許文献2は燃料電池の停止方法に関するものであるが、特許文献2は、停止時に高温領域で水蒸気のみが触媒層に供給されると、水蒸気が酸素源となって触媒を酸化してしまうという問題点を指摘している。
【0007】
また、改質器は、例えば燃料電池モジュール内に配置されており、再起動時において、燃料電池モジュール内の温度ばらつきにより、改質器が局所的に高温になっている場合がある。したがって、改質器の測定温度が低い場合であっても、局所的に高温部位が存在する可能性があり、このような状態で水蒸気改質(SR)を開始すると、上述の炭素析出等が発生してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、再起動時に生じ得る炭素析出や改質触媒劣化等の発生を防止し、長寿命運転を可能とした燃料電池システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、燃料電池セルに改質した燃料ガスを供給するための改質器と、制御手段とを備えた燃料電池システムであって、制御手段は、燃料電池システムの起動制御において、(1) 改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)未満の場合に、燃料ガスによる燃焼熱によって改質器を加熱する加熱工程と、(2) 改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)以上で水蒸気改質反応可能温度(T2)未満の場合に、燃料ガスの部分酸化改質反応の反応熱と燃焼ガスによる燃焼熱によって改質器を加熱するPOX工程と、(3) 改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上の場合に、燃料ガスの部分酸化改質反応と水蒸気改質反応とを併用するオートサーマル改質反応を実行して、燃料ガスの部分酸化改質反応の反応熱と燃料ガスによる燃焼熱と燃料ガスの水蒸気改質反応の吸熱を制御して改質器を加熱するATR工程と、を順に実行するように構成されており、制御手段は、燃料電池システムの起動制御を開始する時における改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上である場合には、ATR工程から起動制御を開始することなく、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下した後に、POX工程を実行することを特徴としている。
【0010】
改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上(すなわち、ATR工程に対応する温度帯域)のときに燃料電池システムを起動又は再起動する場合、高温環境における改質器の劣化(すなわち、水供給量の不足状態又は過剰状態に起因する炭素析出や触媒劣化の発生)を防止するために、水と燃料ガスとを改質触媒に同時に到達させる必要がある。しかしながら、再起動時に水と燃料ガスとを改質触媒に同時に到達させるように制御することは困難である。
【0011】
そこで、本発明では、再起動制御を開始する時の改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上である場合には、低温又は常温の状態から起動制御を開始する通常の起動時とは異なり、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上であってもATR工程から起動制御を開始せず、改質器の温度が水蒸気改質可能温度(T2)未満に低下した後に、POX工程から起動制御を開始するように構成されている。POX工程では、水供給を必要とする水蒸気改質反応は行われず、水と燃料ガスの供給タイミングを精緻に制御する必要がないため、上述の炭素析出と触媒劣化の発生といった問題を確実に回避することができる。また、POX工程では、水蒸気改質反応に代えて、空気による燃料ガスの酸化反応が行われるが、この反応では空気と燃料ガスの供給タイミングが同時である必要が無いため、制御を簡単にすることができる。
また、本発明では、水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に改質器の温度が低下した時点で昇温工程に移行するため、改質器の温度が常温まで低下してから通常の起動制御を実行する場合と比べて、起動時間を短縮することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、制御手段は、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満まで低下してから行うPOX工程を、改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)未満の状態から開始した通常の起動制御におけるPOX工程とは制御内容を異ならせて実行する。
【0013】
改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下したとしても、燃料電池モジュー全体には余熱が蓄積されている。このため、通常のPOX工程(発熱反応)を行うと、燃料電池セルに比べて改質器の昇温速度が大きくなり過ぎる場合があり、この場合、改質器が過昇温して改質器が劣化するおそれがある。このため、本発明では、再起動制御においては、POX工程を実行できる温度まで改質器が冷却されても、通常のPOX工程を行わず、通常とは異なるPOX起動を行うことにより、再起動時における過昇温を防止することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、制御手段は、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下してから行うPOX工程を、通常の起動制御におけるPOX工程よりも時間当たりの発熱量が少なくなるように制御する。
再起動時においては、改質器に余熱が既に蓄積されているので、改質器の昇温速度が大きくなり過ぎる傾向があるが、本発明では、発熱量を低減したPOX工程を実行することにより、改質器の過昇温を確実に防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御手段は、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下してから行うPOX工程を、通常の起動制御におけるPOX工程より時間を短くするように構成されている。
このように構成された本発明においては、発熱反応であるPOX工程を短時間で終了させて、ATR工程に移行することで、過昇温を防止することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御手段は、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)よりも低い所定温度に低下するまでの間、POX工程を開始しないように構成されている。
改質器の温度測定値が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下しても、測定部位以外の特定部位で局所的にT2以上となっているおそれがある。したがって、この時点でPOX工程に移行してしまうと、POXの発熱反応により、当該特定部位が昇温し過ぎて、改質触媒の酸化が生じてしまうおそれがある。
このため、本発明では、改質器全体が確実にT2以下となっているような所定温度まで測定温度値が低下してからPOX工程へ移行するように構成し、これにより、局所的な部位での過昇温を防止することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、水蒸気改質反応可能温度(T2)は350℃以上であって、所定温度は水蒸気改質反応可能温度(T2)より100℃以上低く設定されている。
このように構成された本発明においては、改質器の測定温度がT2よりも100℃以上低い温度に低下するまでは、POX工程へ移行しないので、改質器内に局所的な高温部位があったとしても、当該部位で触媒酸化する温度(350℃)を超えてしまうことを防止することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御手段は、改質器の入口温度と出口温度をそれぞれ取得し、入口温度が所定温度まで低下してからPOX工程へ移行し、出口温度が所定温度より高い第2の所定温度以上となったときに、POX工程における燃料ガスと空気の供給量を増加させるように構成されている。
【0019】
POX反応による発熱は改質器の入口付近で最も生じやすい。このため、本発明では、入口温度が所定温度まで低下したことを確認してからPOX工程へ移行することにより、局所的な過昇温による不具合を防止することができる。更に、本発明では、出口温度が上昇するまでは(すなわち、燃焼の炎による昇温が全体に行き渡ったことを確認するまでは)、燃料量及び空気量を少量とすることで、局所的な過昇温をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料電池システムによれば、再起動時に生じ得る炭素析出や改質触媒劣化等の発生を防止し、長寿命運転を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による燃料電池システムを示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による燃料電池システムの燃料電池モジュールを示す正面断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による燃料電池システムの燃料電池セル単体を示す部分断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による燃料電池システムの燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態による燃料電池システムを示すブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による燃料電池システムの起動時の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の一実施形態による燃料電池システムの運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の一実施形態による燃料電池システムの再起動制御処理フローである。
【図10】本発明の他の実施形態による燃料電池システムの再起動制御処理フローである。
【図11】本発明の一実施形態による燃料電池システムの通常時の起動モードと再起動時の起動モードを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0023】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材(図示せず但し断熱材は必須の構成ではなく、なくても良いものである。)を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0024】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、燃焼熱を受けて空気を加熱するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0025】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
【0026】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0027】
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0028】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
【0029】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0030】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0031】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0032】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0033】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
【0034】
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
【0035】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0036】
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
【0037】
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
【0038】
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
【0039】
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
【0040】
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
【0041】
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
【0042】
次に図6により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体電解質型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
【0043】
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
【0044】
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
【0045】
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
【0046】
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器入口温度センサ148は、改質器20の入口温度を検出するためのものであり、改質器出口温度センサ149は、改質器20の出口温度を検出するためのものである。
外気温度センサ150は、固体電解質型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
【0047】
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
また、制御ユニット110は、インバータ54に、制御信号を送り、電力供給量を制御するようになっている。
【0048】
次に図7により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
【0049】
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を第1ヒータ46を経由して燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を第2ヒータ48を経由して燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
【0050】
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
【0051】
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
【0052】
mn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
【0053】
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器入口温度センサ148及び改質器出口温度センサ149により改質器20が所定温度(例えば、600℃)になったことを検知したとき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスを改質器20に供給する。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
【0054】
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により改質器20が所定温度(例えば、700℃)になったことを検知したとき、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給を停止すると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
【0055】
mn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
mn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
【0056】
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
【0057】
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。次に、発電室10内及び燃料電池セル84の温度が燃料電池モジュール2を安定的に作動させる定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、燃料電池モジュール2を含む回路を閉じ、燃料電池モジュール2による発電を開始し、それにより、回路に電流が流れる。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。この結果、燃料電池モジュール2を作動させる定格定格温度、例えば、600℃〜800℃になる。
【0058】
この後、定格温度を維持するために、燃料電池セル84で消費される燃料ガス及び空気の量よりも多い燃料ガス及び空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
【0059】
次に、図8により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
【0060】
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室の温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
【0061】
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
【0062】
次に、図9を参照して、本実施形態による燃料電池システム1の再起動時の動作を説明する。
本実施形態の燃料電池システム1は、上述の図7で示される通常起動時の動作を実行する制御モード(通常起動モード)を備えている。
また、本実施形態の燃料電池システム1は、図8に示す運転停止動作の実行中に運転の起動(すなわち、再起動)が要求された場合に、この運転の再起動を実行する再起動制御モード(再起動モード)を備えている。
【0063】
図9は、再起動モードの処理フローの一実施形態を示している。
まず、この再起動制御処理フローが開始されると、制御部110は、改質器入口温度センサ148及び改質器出口温度センサ149の検出信号に基づいて、改質器温度Trを取得する(ステップS1)。改質器温度Trは、例えば、改質器入口温度センサ148及び改質器出口温度センサ149の検出信号に基づいて算出した改質器20の入口温度と出口温度の平均温度である。
【0064】
次に、制御部110は、改質器温度Trが水蒸気改質反応可能温度T2(以下、「SR可能温度T2」とも言う)よりも低いか否かを判定する(ステップS2)。なお、SR可能温度T2は、350℃以上であり、通常は450℃から600℃の範囲内に設定される。
【0065】
改質器温度TrがSR可能温度T2よりも低い場合(ステップS2;Yes)、制御部110は、ステップS4の処理へ移行する。
一方、改質器温度TrがSR可能温度T2よりも低くない場合(ステップS2;No)、制御部110は、燃料電池モジュール2内への発電用空気流量調整ユニット45による発電用空気の供給量を増大させることにより、改質器温度TrがSR可能温度T2より低くなるまで改質器20を空気により強制冷却し(ステップS3)、ステップS4の処理へ移行する。
【0066】
ステップS4の処理では、制御部110は、燃料電池システム1の再起動制御を部分酸化改質反応POXの運転制御状態(POX工程)から開始し(ステップS4)、処理を終了する。再起動用のPOX工程へ移行後は、所定の条件に応じて、オートサーマル改質反応ATRの運転制御状態(ATR工程)、水蒸気改質反応SRの運転制御状態(SR工程)へ運転制御状態を順次移行することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、再起動時におけるPOX工程では、通常起動時のPOX工程と比べて、燃料ガス及び改質用空気の供給量が減量され、単位時間当たりの発熱量が少なくなるように、制御内容が異なって設定される。燃料ガスおよび/または改質用空気の供給量を減少させることにより、単位時間当たりの発熱量を減少させることができる。これにより、燃料電池モジュール2内に余熱が蓄積されていることに起因する改質器20等の全体的な又は局所的な過昇温を防止することができる。
【0068】
このように、本実施形態では、再起動時に、改質器温度TrがSR可能温度T2以上であっても、ATR工程又はSR工程から起動を開始することが禁止されている。そして、本実施形態では、再起動時に改質器温度TrがSR可能温度T2以上である場合には、高温状態の改質器20を強制冷却して、改質器温度TrをSR可能温度T2より低温にした後、POX工程から起動制御を行う。
なお、本実施形態では、ステップS3の処理で、改質器20を強制空冷しているが、これに限らず、強制空冷せずに、通常の運転停止動作又は自然冷却により改質器20が冷却されるのを待つように構成してもよい。
【0069】
このように構成することにより、本実施形態では、再起動時にPOX工程から再起動制御を開始することにより、従来のようにATR工程及びSR工程での水と燃料の供給タイミング制御を精緻に行う必要がないので、制御を簡単化することができると共に、ATR工程及びSR工程での水と燃料の供給タイミング制御の困難さに起因する炭素析出や触媒劣化といった問題の発生を回避することができる。
【0070】
次に、図10を参照して、他の実施形態による燃料電池システム1の再起動時の動作を説明する。
図10は、図9に代えて実行される再起動制御の処理フローを示している。
まず、この再起動制御処理フローが開始されると、制御部110は、改質器入口温度センサ148からの検出信号に基づいて、改質器入口温度Tr1を取得する(ステップS11)。
【0071】
次に、制御部110は、改質器入口温度Tr1が所定温度(本例では200℃)よりも低いか否かを判定する(ステップS12)。なお、この所定温度は、SR可能温度T2よりも100℃以上低く設定された温度である。
燃料電池モジュール2内の温度分布にはばらつきがあるため、改質器20の任意の特定部位が局所的に測定部位よりも高温である可能性がある。このため、再起動制御の開始時において、改質器入口温度Tr1がSR可能温度T2よりも低い場合であっても、改質器20内の特定部位がSR可能温度T2以上であるおそれがある。
【0072】
したがって、本実施形態では、燃料電池モジュール2内及び改質器20内の温度分布のばらつきを考慮して、上記所定温度は、運転停止動作中において改質器入口温度Tr1がこの所定温度であるときに、改質器20内のすべての部位がSR可能温度T2より低くなるように設定されている。本実施形態では、改質器入口温度Tr1がSR可能温度T2よりも100℃以上低い場合に、改質器20内のすべての部位がSR可能温度T2より確実に低くなることが確認されている。
【0073】
改質器入口温度Tr1が所定温度よりも低い場合(ステップS12;Yes)、制御部110は、ステップS14の処理へ移行する。
一方、改質器入口温度Tr1が所定温度よりも低くない場合(ステップS12;No)、制御部110は、燃料電池モジュール2内への発電用空気流量調整ユニット45による発電用空気の供給量を増大させることにより、改質器入口温度Tr1が所定温度より低くなるまで改質器20を空気により強制冷却し(ステップS13)、ステップS14の処理へ移行する。
【0074】
ステップS14の処理では、制御部110は、燃料電池システム1の再起動制御をPOX工程から開始する(ステップS14)。ただし、ステップS14で開始されるPOX工程は、本格的なPOX工程を開始する前の予備的な又は制限的なPOX工程(以下「制限的POX工程」という)である。本実施形態では、この制限的POX工程において、部分酸化改質反応POXを行うために必要な燃料ガス及び改質用空気の供給量を、その後のPOX工程(ステップS17)よりも少量に設定している。
【0075】
燃料電池モジュール2は、運転停止動作中からの再起動時には、常温からの起動時に比べて、大量の余熱を蓄積している。すなわち、ステップS12及びS13で改質器入口温度Tr1が所定温度より低温であるとしても、改質器20を含む燃料電池モジュール2は大量の余熱を内部に蓄積している。したがって、ステップS14の処理の時点で、通常又はそれに近いPOX工程から開始した場合、改質器20等が過昇温し劣化してしまうおそれがある。
【0076】
このため、本実施形態では、当初から通常又はそれに近いPOX工程を開始するのではなく、部分酸化改質反応POXによる発熱反応を当初は抑制するために、制限的POX工程を実行することにより、燃料ガス及び改質用空気の供給量を少量に制限している。この少量の燃料ガス及び改質用空気を用いた制限的POX工程により、POXによる反応熱と燃料ガスの燃焼熱によって改質器20が徐々に昇温される。
【0077】
次いで、制御部110は、改質器出口温度センサ149からの検出信号に基づいて、改質器出口温度Tr2を取得し(ステップS15)、改質器出口温度Tr2が第2の所定温度(本例では、250℃)以上であるか否かを判定する(ステップS16)。
【0078】
改質器出口温度Tr2が第2の所定温度以上でない場合(ステップS16;No)、制御部110は、ステップS15の処理を繰り返し、改質器出口温度Tr2を算出する。このようにして、制御部110は、改質器出口温度Tr2が第2の所定温度以上になるまで(ステップS16;Yes)、ステップS15及びS16の処理を繰り返す。
【0079】
改質器出口温度Tr2が第2の所定温度以上になると(ステップS16;Yes)、制御部110は、制限的POX工程から本格的な再起動用のPOX工程へ移行し、この再起動用のPOX工程に従って、燃料ガス及び改質用空気の供給量を増量して再起動用のPOX工程に移行し(ステップS17)、処理を終了する。再起動用のPOX工程へ移行後は、所定の条件に応じて、ATR工程、SR工程へ順次移行することができる。
【0080】
上述の制限的POX工程により改質器20の温度は徐々に又全体的に上昇していくが、本実施形態では、改質器20の出口温度Tr2が第2の所定温度以上に上昇すれば、燃焼の炎による昇温が全体に行き渡り、改質器20が全体的に第2の所定温度以上に昇温されたことを確認できるので、改質器出口温度Tr2が第2の所定温度以上に上昇するまでは、燃料ガス量及び改質用空気量を少量とすることで、局所的な過昇温をより確実に抑制することができる。
【0081】
このように、本実施形態では、再起動時に、改質器20全体が確実にSR可能温度T2以下まで冷却された後、制限的POX工程により徐々に改質器20を昇温して行くことにより、改質器20全体を昇温し、そして、十分に昇温された時点で燃料ガス及び改質用空気を増量して本格的にPOX工程を実行する。これにより、ATR工程及びSR工程での水と燃料の供給タイミング制御の困難さに起因する炭素析出や触媒劣化といった問題の発生を回避すると共に、昇温工程における改質器20の過昇温を防止することができる。
【0082】
次に、図11を参照して、通常起動モードと再起動モードの各運転制御状態について説明する。
まず、通常起動モードについて説明する。図11に示すように、通常起動モードは、制御部110が各運転制御状態(着火工程、燃焼運転工程、通常起動POX工程、通常起動ATR工程、通常起動SR工程)を時間的に順に実行するように構成されている。通常起動モードによる改質器温度等のパラメータの時間変化は、図7に基づいて説明した通りである。
【0083】
まず、着火工程では、燃料流量調整ユニット38による燃料ガスの供給量は6.0(L/min)、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給量は10.0(L/min)、発電用空気流量調整ユニット45による発電用空気の供給量は100.0(L/min)、水流量調整ユニット28による水の供給量は0.0(cc/min)に設定される。
【0084】
この状態で、着火工程において、点火装置83により燃料ガスが着火され、燃焼運転工程(加熱工程)に移行する。燃焼運転工程では、燃料ガスの供給量、改質用空気の供給量、発電用空気の供給量、水供給量は、着火工程と同じであり、燃料ガスによる燃焼熱によって改質器20を加熱する。
【0085】
燃焼運転工程中に改質器温度Trが部分酸化改質反応開始温度T1である300℃以上になると、制御部110は、運転制御状態を通常起動POX工程に移行する。このとき、燃料ガスの供給量は5.0(L/min)に減量され、改質用空気の供給量は18.0(L/min)に増量され、燃料ガスの部分酸化改質反応POXの反応熱と燃焼ガスによる燃焼熱によって改質器20を加熱する。
【0086】
次に、通常起動POX工程中に改質器温度Trが水蒸気改質反応可能温度T2(SR可能温度T2)である600℃以上になり、且つ、発電室温度センサ142により測定された燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の近傍の温度であるスタック温度Tsが250℃以上になると、制御部110は、運転制御状態を通常起動POX工程から通常起動ATR工程に移行する。このとき、燃料ガスの供給量は4.0(L/min)に減量され、改質用空気の供給量は4.0(L/min)に更に減量され、水供給量は3.0(cc/min)に増量され、オートサーマル改質反応ATRが行われる。オートサーマル改質反応ATRでは、部分酸化改質反応POXと水蒸気改質反応SRとが併用され、燃料ガスの部分酸化改質反応POXの反応熱と、燃料ガスによる燃焼熱と、燃料ガスの水蒸気改質反応SRの吸熱とを制御して改質器20を加熱する。
【0087】
次に、通常起動ATR工程中に改質器温度Trが650℃以上になり、且つ、スタック温度Tsが600℃以上になると、制御部110は、運転制御状態を通常起動ATR工程から通常起動SR工程に移行する。このとき、燃料ガスの供給量は3.0(L/min)に更に減量され、改質用空気の供給量は0.0(L/min)に減量され、水供給量は8.0(cc/min)に更に増量され、水蒸気改質反応SRが行われる。
その後、通常起動SR工程中に改質器温度Trが650℃以上になり、且つ、スタック温度Tsが700℃以上になると、制御部110は、通常起動SR工程を終了して、これにより通常起動モードを終了して、通常運転モードに移行する。
【0088】
次に、再起動モードについて説明する。図11に示すように、再起動モードは、制御部110が各運転制御状態(着火工程、再起動POX工程、通常起動ATR工程、通常起動SR工程)を必要に応じて時間的に順に実行するように構成されている。
【0089】
まず、着火工程では、燃料ガスの供給量、改質用空気の供給量、発電用空気の供給量、水供給量は、通常起動モードの着火工程と同じに設定される。
この状態で、着火工程において、点火装置83により燃料ガスが着火される。ただし、再起動モードでは、制御部110は、改質器温度TrがSR可能温度T2よりも低い温度(本例では、200℃以下)になるまで待ってから着火を行い、着火後、再起動POX工程へ移行する。なお、図10の例では、改質器温度Trとして、改質器温度Tr1が用いられる。
【0090】
再起動POX工程では、燃料ガスの供給量は4.5(L/min)に減量され、改質用空気の供給量は17.0(L/min)に増量され、燃料ガスの部分酸化改質反応POXの反応熱と燃焼ガスによる燃焼熱によって改質器20を加熱する。
なお、本実施形態では、再起動POX工程において、通常起動POX工程と比べて、燃料ガス及び改質用空気の供給量が減量され、時間当たりの発熱量が少なくなるように、制御内容が異なって設定されている。これにより、燃料電池モジュール2内に余熱が蓄積されていることに起因する改質器20等の過昇温を防止することができる。
【0091】
また、図10の例と同様に、再起動POX工程を実行する前に、制限的POX工程を実行し、改質器出口温度Tr2が第2の所定温度(250℃)以上になったときに、再起動POX工程へ移行するように構成してもよい。
【0092】
次に、再起動POX工程中に改質器温度Trが500℃以上になると、制御部110は、運転制御状態を再起動POX工程から通常起動ATR工程に移行する。このとき、燃料ガスの供給量は4.0(L/min)に減量され、改質用空気の供給量は4.0(L/min)に減量され、水供給量は3.0(cc/min)に増量され、オートサーマル改質反応ATRが行われる。なお、このときの燃料ガスの供給量、改質用空気の供給量、発電用空気の供給量、水供給量は、通常起動モードにおける通常起動ATRと同じに設定されている。
【0093】
本実施形態の再起動POX工程では、改質器温度Trが500℃以上になると、運転制御状態が通常起動ATR工程に切り替わるように構成されており、通常起動モードにおける通常起動POX工程から通常起動ATR工程への切り替わりの温度条件(600℃)よりも低く設定されている。すなわち、通常起動モードでは改質器温度Trの切り替わり温度が、600℃であるのに対し、再起動モードでは500℃に低減されている。これにより、再起動POX工程は、通常起動POX工程よりも実行時間が短くされており、再起動モードでは発熱反応である部分酸化改質反応POXを短時間で終了させて、次のオートサーマル改質反応ATRへ移行することにより、過昇温を防止することができる。
【0094】
次に、再起動モードでの通常起動ATR工程中に改質器温度Trが600℃以上になり、且つ、スタック温度Tsが600℃以上になると、制御部110は、運転制御状態を通常起動ATR工程から通常起動SR工程に移行する。このとき、燃料ガスの供給量は3.0(L/min)に更に減量され、改質用空気の供給量は0.0(L/min)に減量され、水供給量は8.0(cc/min)に更に増量され、水蒸気改質反応SRが行われる。なお、このときの燃料ガスの供給量、改質用空気の供給量、発電用空気の供給量、水供給量は、通常起動モードにおける通常起動SRと同じに設定されている。
【0095】
なお、本実施形態では、再起動モードでの通常起動ATR工程から通常起動SR工程への移行する条件としての改質器温度Trが、600℃であり、通常起動モードの場合(650℃)よりも低く設定されている。再起動時には、上述のように燃料電池モジュール2内に余熱が蓄積されているので、本実施形態では、再起動モードにおいて改質器温度Trが650℃よりも低い温度である600℃以上になったことを条件に通常起動SR工程へ早期に移行することができる。
【0096】
その後、再起動モードにおける通常起動SR工程中に改質器温度Trが650℃以上になると(更にスタック温度Tsが700℃以上になると)、制御部110は、通常起動モード、すなわち通常起動SR工程を終了して、通常運転モードに移行する。
【符号の説明】
【0097】
1 固体電解質形燃料電池(燃料電池システム)
2 燃料電池モジュール
4 補機ユニット
10 発電室
12 燃料電池セル集合体
14 燃料電池セルスタック
16 燃料電池セルユニット
18 燃焼室
20 改質器
22 空気用熱交換器
28 水流量調整ユニット
38 燃料流量調整ユニット
44 改質用空気流量調整ユニット
45 発電用空気流量調整ユニット
54 インバータ
83 点火装置
84 燃料電池セル
110 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルに改質した燃料ガスを供給するための改質器と、制御手段とを備えた燃料電池システムであって、
前記制御手段は、燃料電池システムの起動制御において、(1) 前記改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)未満の場合に、燃料ガスによる燃焼熱によって前記改質器を加熱する加熱工程と、(2) 前記改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)以上で水蒸気改質反応可能温度(T2)未満の場合に、燃料ガスの部分酸化改質反応の反応熱と燃焼ガスによる燃焼熱によって前記改質器を加熱するPOX工程と、(3) 前記改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上の場合に、燃料ガスの部分酸化改質反応と水蒸気改質反応とを併用するオートサーマル改質反応を実行して、燃料ガスの部分酸化改質反応の反応熱と燃料ガスによる燃焼熱と燃料ガスの水蒸気改質反応の吸熱を制御して前記改質器を加熱するATR工程と、を順に実行するように構成されており、
前記制御手段は、燃料電池システムの起動制御を開始する時における前記改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)以上である場合には、前記ATR工程から起動制御を開始することなく、前記改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下した後に、前記POX工程を実行することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満まで低下してから行うPOX工程を、前記改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)未満の状態から開始した通常の起動制御におけるPOX工程とは制御内容を異ならせて実行することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御手段は、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下してから行うPOX工程を、通常の起動制御におけるPOX工程よりも時間当たりの発熱量が少なくなるように制御することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御手段は、改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)未満に低下してから行うPOX工程を、通常の起動制御におけるPOX工程より時間を短くするように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記改質器の温度が水蒸気改質反応可能温度(T2)よりも低い所定温度に低下するまでの間、前記POX工程を開始しないように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
水蒸気改質反応可能温度(T2)は350℃以上であって、前記所定温度は水蒸気改質反応可能温度(T2)より100℃以上低く設定されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記改質器の入口温度と出口温度をそれぞれ取得し、入口温度が前記所定温度まで低下してから前記POX工程へ移行し、出口温度が前記所定温度より高い第2の所定温度以上となったときに、前記POX工程における燃料ガスと空気の供給量を増加させるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−79409(P2012−79409A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220432(P2010−220432)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】