説明

燃料電池スタック及びその荷重制御方法

【課題】小型化及び軽量化を図るとともに、外部荷重による発電セルの横ずれを可及的に阻止することを可能にする。
【解決手段】燃料電池スタック10は、複数の発電セル15が積層された燃料電池16を備え、前記発電セル15の積層方向端部とバックアッププレート24との間には、加圧ユニット26が介装される。加圧ユニット26は、油圧により積層方向に加圧力を付与するシリンダ部60と、前記シリンダ部60に接続される油圧供給配管64に配置され、前記油圧を供給するコンプレッサ70と、前記油圧供給配管64に接続され、燃料電池16に所定値以上の衝撃荷重が付与された際、前記コンプレッサ70に代えて前記シリンダ部60に前記油圧を供給する蓄圧部76とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質を一対の電極間に配設した電解質・電極構造体とセパレータとが積層される発電セルを備え、複数の前記発電セルが積層される燃料電池と、
前記発電セルの積層方向端部に配置され、前記燃料電池に前記積層方向に荷重を付与する加圧ユニットとを備える燃料電池スタック及びその荷重制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)が、セパレータによって挟持された発電セル(単位セル)を備えている。この種の燃料電池は、通常、所定の数の発電セルを積層することにより、車載用燃料電池スタック等として使用されている。
【0003】
この種の燃料電池スタックでは、所望の発電性能を得るとともに、所望のシール機能を発揮させる必要がある。このため、複数の発電セルに対して積層方向に締め付け荷重を確実に付与し、しかも前記発電セルが前記積層方向に交差する発電面方向に位置ずれを惹起することを阻止することが望まれている。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池の組み立て方法が知られている。この組み立て方法では、図5に示すように、スタック加圧用の加圧板1の四隅にセル組立用位置決め穴2が穿設され、この位置決め穴2には、端面を面取りした長いPTFE製のノックピン3が挿入されるとともに、前記ノックピン3が直立されている。次に、位置決め穴2が穿設されたカーボンプレート4、ナフィオン膜5及び触媒電極6を有するセル7が、順次、ノックピン3に位置決めされて積層されることにより、スタック8が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−134734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1では、スタック8に積層方向に直交する方向(発電面方向)に衝撃荷重が付与された際、セル7の横ずれを防止するためにノックピン3を利用しようとすると、前記ノックピン3を相当に大径に構成する必要がある。これにより、スタック8全体が大型化するとともに、前記スタック8の重量が大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、小型化及び軽量化を図るとともに、外部荷重による発電セルの横ずれを可及的に阻止することが可能な燃料電池スタック及びその荷重制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質を一対の電極間に配設した電解質・電極構造体とセパレータとが積層される発電セルを備え、複数の前記発電セルが積層される燃料電池と、前記発電セルの積層方向端部に配置され、前記燃料電池に前記積層方向に荷重を付与する加圧ユニットとを備える燃料電池スタック及びその荷重制御方法に関するものである。
【0009】
この燃料電池スタックでは、加圧ユニットは、圧力媒体により積層方向に加圧力を付与するシリンダ部と、前記シリンダ部に接続される供給配管に配置され、前記圧力媒体を供給するコンプレッサと、前記供給配管に接続され、燃料電池に所定値以上の衝撃荷重が付与された際、前記コンプレッサに代えて前記シリンダ部に前記圧力媒体を供給する蓄圧部とを備えている。
【0010】
また、この燃料電池スタックは、燃料電池車両に搭載されるとともに、前記燃料電池車両は、衝撃検出センサからの検出信号に基づいて、コンプレッサを停止させる一方、蓄圧部の開放制御を行うコントローラを備えることが好ましい。
【0011】
さらに、この荷重制御方法は、加圧ユニットにより燃料電池に荷重を付与する工程と、前記燃料電池に所定値以上の衝撃荷重が付与されたか否かを判断する工程と、前記燃料電池に前記衝撃荷重が付与されたと判断した際、前記加圧ユニットに接続された蓄圧部を開放して該加圧ユニットに圧力媒体を供給し、前記燃料電池に付与される荷重を増加させる工程とを有している。
【0012】
さらにまた、この荷重制御方法では、燃料電池スタックに衝撃荷重が付与されたと判断した際、燃料電池を負荷電力線に接続するコンタクタ及び蓄電装置を前記負荷電力線に接続するコンタクタを遮断する一方、蓄圧部を開放して前記加圧ユニットに圧力媒体を供給することが好ましい。
【0013】
また、この荷重制御方法では、燃料電池に所定値未満の衝撃荷重が付与されたと判断した際、加圧ユニットに接続されたコンプレッサから前記加圧ユニットに圧力媒体を供給し、前記燃料電池に付与される荷重を増加させる工程を有することが好ましい。
【0014】
さらに、この荷重制御方法では、燃料電池に衝撃荷重が付与されていないと判断した際、前記燃料電池に付与されている荷重が規定荷重範囲内に維持されるように、加圧ユニットに供給される圧力媒体の供給量を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、燃料電池に所定値以上の衝撃荷重が付与された際、蓄圧部が開放されてシリンダ部に圧力媒体が供給されることにより、前記燃料電池の締め付け荷重が増加される。
【0016】
このため、燃料電池に衝突等の衝撃が加えられた際に、蓄圧部を介して前記燃料電池の締め付け荷重が有効に増加され、発電セル間の静摩擦力が増加する。これにより、燃料電池スタック全体の小型化及び軽量化を図るとともに、外部荷重による発電セルの横ずれを可及的に阻止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックが組み込まれる燃料電池システムの概略説明図である。
【図2】前記燃料電池スタックを構成する発電セルの要部分解斜視説明図である。
【図3】前記燃料電池システムを構成する回路説明図である。
【図4】前記燃料電池スタックの荷重制御方法を説明するフローチャートである。
【図5】特許文献1に開示された燃料電池の組み立て方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る燃料電池スタック10は、車載用燃料電池システム12に組み込まれるとともに、この燃料電池システム12は、燃料電池自動車(燃料電池車両)14に搭載される。燃料電池スタック10は、燃料電池自動車14の床下、センターコンソール、フロントボックス(エンジンルーム)又はリアボックス(トランクルーム)等に収容される。
【0019】
燃料電池スタック10は、複数の発電セル15が矢印A方向(鉛直方向)に積層される燃料電池16を備え、前記燃料電池16の積層方向両端には、ターミナルプレート18a、18b、絶縁プレート20a、20b及びエンドプレート22a、22bが配置される。なお、複数の発電セル15は、水平方向(図2中、矢印B方向又は矢印C方向)に積層して構成してもよい。
【0020】
発電セル15の積層方向端部であるエンドプレート22aとバックアッププレート24との間には、燃料電池16に積層方向に荷重を付与する加圧ユニット26が介装される。エンドプレート22bとバックアッププレート24とは、四隅に配置されるタイロッド27を介して積層方向に締め付け力が付与される。タイロッド27には、内部に流体を封入したブラッダー28が設けられるとともに、前記ブラッダー28内には、伸縮可能な過荷重防止機構(シリンダ機構)29が構成される。
【0021】
図2に示すように、発電セル15は、電解質膜・電極構造体30が、第1セパレータ32及び第2セパレータ34に挟持される。第1セパレータ32及び第2セパレータ34は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、あるいはめっき処理鋼板等の金属セパレータやカーボンセパレータ等により構成される。 発電セル15の矢印B方向(水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガスである空気を供給するための酸化剤ガス入口連通孔36a、及び燃料ガスである水素ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔38aが、矢印C方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0022】
発電セル15の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔38b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔36bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0023】
発電セル15の矢印C方向の両端縁部には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔40a、及び前記冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔40bが設けられる。
【0024】
第1セパレータ32の電解質膜・電極構造体30に向かう面32aには、酸化剤ガス入口連通孔36aと酸化剤ガス出口連通孔36bとに連通する酸化剤ガス流路42が設けられる。
【0025】
第2セパレータ34の電解質膜・電極構造体30に向かう面34aには、燃料ガス入口連通孔38aと燃料ガス出口連通孔38bとに連通する燃料ガス流路44が設けられる。
【0026】
互いに隣接する発電セル15を構成する第1セパレータ32の面32bと、第2セパレータ34の面34bとの間には、冷却媒体入口連通孔40aと冷却媒体出口連通孔40bとを連通する冷却媒体流路46が設けられる。
【0027】
第1セパレータ32の面32a、32bには、第1シール部材48が、一体的又は個別に設けられるとともに、第2セパレータ34の面34a、34bには、第2シール部材50が、一体的に又は個別に設けられる。
【0028】
第1シール部材48及び第2シール部材50は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコンゴム、フロロシリコンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材を使用する。
【0029】
電解質膜・電極構造体30は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜52と、前記固体高分子電解質膜52を挟持するカソード側電極54及びアノード側電極56とを備える。
【0030】
カソード側電極54及びアノード側電極56は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成される電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜52の両面に形成される。
【0031】
図1に示すように、エンドプレート22bには、図示しないマニホールド配管が接続され、燃料電池16に対して酸化剤ガス、燃料ガス及び冷却媒体がそれぞれ供給並びに排出される。
【0032】
加圧ユニット26は、圧力媒体、例えば、油圧(又は空気圧)により積層方向(矢印A方向)に加圧力を付与する複数のシリンダ部60と、各シリンダ部60により付与される荷重を計測する複数の荷重計測センサ部62とを備える。各シリンダ部60は、図示しない押圧プレートに連結され、前記押圧プレートが油圧によってエンドプレート22aを積層方向に押圧する。
【0033】
バックアッププレート24には、各シリンダ部60に連通する油圧供給配管64の一端が接続される。油圧供給配管64には、三方弁(パージ弁)66を介してパージ配管68が接続されるとともに、コンプレッサ70が油圧配管72を介して接続される。この油圧配管72には、開閉弁74が配置される。油圧供給配管64の他端には、蓄圧部(アキュムレータ)76が開閉弁78を介して配置される。
【0034】
蓄圧部76は、後述するように、燃料電池16に所定値以上の衝撃荷重が付与された際、制御ユニット(コントローラ)80を介しコンプレッサ70に代えてシリンダ部60に油圧を供給する。制御ユニット80は、三方弁66、開閉弁74及び78の開閉制御を行う一方、荷重計測センサ部62からの検出信号を入力する。この制御ユニット80には、さらに燃料電池自動車14に取り付けられた衝撃センサ(例えば、加速度センサ)82からの検出信号が入力される。
【0035】
図3に示すように、燃料電池(FC)16の電力出力には、バスライン90の一端が接続されるとともに、前記バスライン90の他端がインバータ92に接続される。直流を三相の交流に変換するインバータ92には、三相の車両走行用の走行モータ(負荷)94が接続される。バスライン90の他端には、燃料電池16を運転させるための補機類(例えば、酸化剤ガス供給装置、燃料ガス供給装置及び冷却媒体供給装置等を含む)96が接続される。
【0036】
バスライン90には、FCコンタクタ98が配設されるとともに、バッテリコンタクタ100を介してバッテリ102が接続される。バッテリ102は、燃料電池16からの電力を充電する一方、負荷94及び補機類96に電力を供給することができる。
【0037】
このように構成される燃料電池システム12の動作について、以下に説明する。
【0038】
先ず、燃料電池システム12の起動時には、図3に示すように、バッテリコンタクタ100が閉塞されてバッテリ102が補機類96に接続される。このため、図1に示すように、燃料電池スタック10には、エンドプレート22bを介して酸素含有ガス等の酸化剤ガス(以下、空気ともいう)、水素含有ガス等の燃料ガス(以下、水素ガスともいう)及び純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。従って、矢印A方向に重ね合わされた複数の発電セル15に対し、空気、水素ガス及び冷却媒体が、それぞれ矢印A方向に供給される。
【0039】
これにより、図2に示すように、空気は、酸化剤ガス入口連通孔36aから第1セパレータ32の酸化剤ガス流路42に導入される。空気は、矢印B方向に移動しながら、電解質膜・電極構造体30を構成するカソード側電極54に供給される。
【0040】
一方、水素ガスは、燃料ガス入口連通孔38aから第2セパレータ34の燃料ガス流路44に導入される。この水素ガスは、矢印B方向に移動しながら、電解質膜・電極構造体30を構成するアノード側電極56に供給される。
【0041】
従って、電解質膜・電極構造体30では、カソード側電極54に供給される空気中の酸素と、アノード側電極56に供給される水素ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。燃料電池16から所望の電力が得られると、図3に示すように、FCコンタクタ98が閉塞されて前記燃料電池16から走行モータ94に電力が供給され、燃料電池自動車14が走行可能になる。
【0042】
次いで、カソード側電極54に供給されて酸素が消費された空気は、酸化剤ガス出口連通孔36bに沿って矢印A方向に排出される。一方、アノード側電極56に供給されて消費された水素ガスは、燃料ガス出口連通孔38bに沿って矢印A方向に排出される。
【0043】
また、冷却媒体入口連通孔40aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ32及び第2セパレータ34間の冷却媒体流路46に導入された後、矢印C方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体30を冷却した後、冷却媒体出口連通孔40bから排出される。
【0044】
次に、本実施形態に係る荷重制御方法について、図4に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0045】
制御ユニット80は、燃料電池自動車14の走行時に、衝撃センサ82からの検出信号を入力し、検出された衝撃センサ値Aを読み込む(ステップS1)。そして、ステップS2に進んで、読み込まれた衝撃センサ値Aが、正常であるか否かが判断される。具体的には、衝撃センサ値A<衝突判断閾値(水素供給弁を遮断して燃料電池スタック10の運転を停止する必要がある大きな衝撃値)Acであるか否かが判断される。
【0046】
衝撃センサ値A<衝突判断閾値Acであると、すなわち、正常である(衝突ではない)と判断されると(ステップS2中、YES)、ステップS3に進んで、必要スタック(STK)荷重Fminが算出され出力される。ここで、必要スタック荷重Fminは、発電セル15に横ずれが発生しないために必要最低のスタック荷重である。
【0047】
必要スタック荷重Fminは、衝撃センサ値に応じて算出され、Fmin=S1・Fs/μ=S1・A・m・g/μから求められる。なお、S1は、必要スタック荷重Fminの算出に必要な安全率であり、Fsは、衝撃時に発生する発電セル15の横ずれせん断力(Fs=A・m・g)であり、μは、発電セル15間の静摩擦係数である。mは、スタック重量であり、gは、重力加速度である。
【0048】
さらに、ステップS4に進んで、最大スタック荷重Fmaxが出力される。ここで、最大スタック荷重Fmaxは、発電セル15に横ずれが発生しないために十分な最大のスタック荷重である。なお、スタック荷重が高いほど、経年荷重へたりが早いため、不必要に高いスタック荷重とならないように、最大スタック荷重Fmaxを設定する必要がある。最大スタック荷重Fmaxは、Fmax=Fmin・S2から求められる。S2は、最大スタック荷重Fmaxの算出に必要な係数である。
【0049】
そして、ステップS5に進んで、制御ユニット80は、荷重計測センサ部62からの検出信号を入力することにより、燃料電池16に付与されている締め付け荷重であるスタック荷重センサ値Fstkを読み込む。さらに、ステップS6では、燃料電池スタック10に必要なスタック荷重が付与されているか否かが判断される。
【0050】
ステップS6において、必要スタック荷重Fmin>スタック荷重センサ値Fstkであると判断されると(ステップS6中、YES)、すなわち、燃料電池スタック10に必要なスタック荷重が付与されていないと判断されると、ステップS7に進む。
【0051】
ステップS7では、図1に示すように、開閉弁74が開放されてコンプレッサ70から油圧配管72を介して油圧供給配管64に油圧が供給され、各シリンダ部60が前記油圧によりエンドプレート22aを積層方向に押圧する。このため、燃料電池スタック10に付与されるスタック荷重が増加される。
【0052】
一方、ステップS6において、スタック荷重センサ値Fstkが、必要スタック荷重Fminよりも高いと判断されると(ステップS6中、NO)、すなわち、燃料電池スタック10に必要なスタック荷重が付与されていると判断されると、ステップS8に進む。このステップS8では、燃料電池スタック10に最大スタック荷重Fmaxを超えるスタック荷重が付与されているか否かが判断される。
【0053】
スタック荷重センサ値Fstk>最大スタック荷重Fmaxであると判断されると(ステップS8中、YES)、すなわち、燃料電池スタック10に最大スタック荷重Fmaxを超えるスタック荷重が付与されていると判断されると、ステップS9に進む。
【0054】
このステップS9では、図1に示すように、三方弁66が操作されて油圧供給配管64からパージ配管68に油圧が排出される。従って、各シリンダ部60に供給される油圧が削減され、燃料電池スタック10に付与されるスタック荷重が低下される。
【0055】
また、ステップS2において、衝撃センサ値Aが、衝突判断閾値Acを超えていると判断されると(ステップS2中、NO)、ステップS10に進み、電力の供給が停止される。具体的には、図3に示すように、FCコンタクタ98及びバッテリコンタクタ100が開放されて、燃料電池16及びバッテリ102からの電力供給が停止される。
【0056】
次いで、ステップS11に進んで、開閉弁78が開放されることにより、蓄圧部76に貯留されている油圧が、油圧供給配管64に供給される。これにより、各シリンダ部60は、油圧によりエンドプレート22aを積層方向に押圧し、燃料電池スタック10に付与されるスタック荷重が増加される。
【0057】
この場合、本実施形態では、燃料電池16に所定値以上の衝撃荷重(衝突判断閾値Ac)が付与された際、コンプレッサ70に代えて蓄圧部76が開放されて各シリンダ部60に油圧が供給されている。このため、燃料電池自動車14から燃料電池16に衝突等の衝撃が加えられた際、蓄圧部76の開放作用下に、前記燃料電池16の締め付け荷重が有効に増加される。
【0058】
これにより、発電セル15間の静摩擦力が増加し、燃料電池スタック10全体の小型化及び軽量化を図るとともに、外部荷重による発電セル15の横ずれを可及的に阻止することが可能になるという効果が得られる。
【0059】
一方、衝撃センサ値Aが、正常であると判断された際には、スタック荷重センサ値Fstkが所望の荷重範囲内になるように、すなわち、必要スタック荷重Fmin≦スタック荷重センサ値Fstk≦最大スタック荷重Fmaxとなるように、油圧制御が行われている。このため、燃料電池スタック10のスタック荷重は、常時、所望の範囲内に維持されており、所望の発電性能及び所望のシール機能を発揮させることができる。
【符号の説明】
【0060】
10…燃料電池スタック 12…燃料電池システム
14…燃料電池自動車 15…発電セル
16…燃料電池 22a、22b…エンドプレート
24…バックアッププレート 26…加圧ユニット
27…タイロッド 30…電解質膜・電極構造体
32、34…セパレータ 36a…酸化剤ガス入口連通孔
36b…酸化剤ガス出口連通孔 38a…燃料ガス入口連通孔
38b…燃料ガス出口連通孔 40a…冷却媒体入口連通孔
40b…冷却媒体出口連通孔 42…酸化剤ガス流路
44…燃料ガス流路 46…冷却媒体流路
52…固体高分子電解質膜 54…カソード側電極
56…アノード側電極 60…シリンダ部
62…荷重計測センサ部 64…油圧供給配管
70…コンプレッサ 76…蓄圧部
80…制御ユニット 82…衝撃センサ
90…バスライン 94…走行モータ
96…補機類 98…FCコンタクタ
100…バッテリコンタクタ 102…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を一対の電極間に配設した電解質・電極構造体とセパレータとが積層される発電セルを備え、複数の前記発電セルが積層される燃料電池と、
前記発電セルの積層方向端部に配置され、前記燃料電池に前記積層方向に荷重を付与する加圧ユニットと、
を備える燃料電池スタックであって、
前記加圧ユニットは、圧力媒体により前記積層方向に加圧力を付与するシリンダ部と、
前記シリンダ部に接続される供給配管に配置され、前記圧力媒体を供給するコンプレッサと、
前記供給配管に接続され、前記燃料電池に所定値以上の衝撃荷重が付与された際、前記コンプレッサに代えて前記シリンダ部に前記圧力媒体を供給する蓄圧部と、
を備えることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池スタックにおいて、前記燃料電池スタックは、燃料電池車両に搭載されるとともに、
前記燃料電池車両は、衝撃検出センサからの検出信号に基づいて、前記コンプレッサを停止させる一方、前記蓄圧部の開放制御を行うコントローラを備えることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
電解質を一対の電極間に配設した電解質・電極構造体とセパレータとが積層される発電セルを備え、複数の前記発電セルが積層される燃料電池と、
前記発電セルの積層方向端部に配置され、前記燃料電池に前記積層方向に荷重を付与する加圧ユニットと、
を備える燃料電池スタックの荷重制御方法であって、
前記加圧ユニットにより前記燃料電池に荷重を付与する工程と、
前記燃料電池に所定値以上の衝撃荷重が付与されたか否かを判断する工程と、
前記燃料電池に前記衝撃荷重が付与されたと判断した際、前記加圧ユニットに接続された蓄圧部を開放して該加圧ユニットに圧力媒体を供給し、前記燃料電池に付与される荷重を増加させる工程と、
を有することを特徴とする燃料電池スタックの荷重制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の荷重制御方法において、前記燃料電池に前記衝撃荷重が付与されたと判断した際、前記燃料電池を負荷電力線に接続するコンタクタ及び蓄電装置を前記負荷電力線に接続するコンタクタを遮断する一方、前記蓄圧部を開放して該加圧ユニットに圧力媒体を供給することを特徴とする燃料電池スタックの荷重制御方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載の荷重制御方法において、前記燃料電池に前記所定値未満の衝撃荷重が付与されたと判断した際、前記加圧ユニットに接続されたコンプレッサから該加圧ユニットに圧力媒体を供給し、前記燃料電池に付与される荷重を増加させる工程を有することを特徴とする燃料電池スタックの荷重制御方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の荷重制御方法において、前記燃料電池に前記衝撃荷重が付与されていないと判断した際、前記燃料電池に付与されている荷重が規定荷重範囲内に維持されるように、前記加圧ユニットに供給される前記圧力媒体の供給量を制御することを特徴とする燃料電池スタックの荷重制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−150990(P2012−150990A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8900(P2011−8900)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】