説明

燃料電池用の触媒含有ガス拡散層並びにその製造方法

本発明は、燃料電池、特に低温型燃料電池、例えばPEMFC及びDMFC用の触媒含有ガス拡散層に関する。ガス拡散層は、燃料電池のアノード側に使用され、かつ一酸化炭素の除去(PEMFCにおける)もしくはメタノールの酸化(DMFCにおける)を生じさせる触媒成分を含有する。触媒成分は、適している前駆物質化合物から直接に多孔質層材料中で温度処理により製造され、かつガス拡散層の全体積に亘って均一に分配されている。触媒成分は、それにより特に高い活性を有する。さらに触媒含有ガス拡散層の製造方法が記載される。ガス拡散層は、低温型燃料電池用、特にCO含有リホーメートガスを用いて運転されるPEM燃料電池用の膜電極ユニット(MEEs)において使用される。これらはさらに直接メタノール燃料電池(DMFC)において使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性ポリマーを電解質として含有する燃料電池、特に低温型燃料電池(例えばPEMFC又はDMFC)用の、触媒含有ガス拡散層(katalysatorhaltiges Gasverteilersubstrat)に関する。前記ガス拡散層は、燃料電池のアノード側に使用され、かつ、例えば一酸化炭素(CO)を除去することができるかもしくはメタノールを酸化することができる、触媒成分を含有する。さらに触媒含有ガス拡散層の製造方法が記載される。前記製品は、低温型燃料電池、例えばCO含有リホーメートガスを用いて作動されるPEM燃料電池用の膜電極ユニット(MEEs)において使用される。しかしこれらは直接メタノール燃料電池(DMFC)にも使用されることができる。
【0002】
燃料電池は燃料及び酸化剤を、2つの電極上で場所的に互いに離れて電流、熱及び水に変換する。燃料として水素、メタノール又は水素に富んだガスが、酸化剤として酸素又は空気が利用されることができる。燃料電池におけるエネルギー変換の過程は、大きく有害物質を含まないこと及び特に高い効率に傑出している。この理由から燃料電池は代替的な駆動構想、家庭用エネルギー供給装置並びにポータブルな用途にとってますます重要になってきている。
【0003】
膜燃料電池、例えばポリマー電解質燃料電池(英語:PEMFC)及び直接メタノール燃料電池(英語:DMFC)は、それらの低い作動温度、それらのコンパクトな構造形式及びそれらの出力密度に基づいて多数の可動形及び固定形の使用分野に適している。燃料電池の専門技術は文献、例えばK. Kordesch及びG. Simader、“Fuel Cells and its Applications”, VCH Verlag Chemie, Weinheim (Germany) 1996に詳細に記載されている。
【0004】
PEM燃料電池は、多数の燃料電池ユニットからなる積み重ねた配置(“スタック”)で構成されている。これらは、作動電圧を高めるために電気的に直列に接続されている。燃料電池ユニットは、その都度5層の膜電極ユニット(“MEE”)を有し、前記ユニットは、ガス供給及び電流伝導のためのセパレータプレートとも呼ばれるバイポーラプレートの間に配置されている。そのような5層の膜電極ユニットはそしてまた、両側にその都度電極層が設けられているポリマー電解質膜から構成されている(3層の、両側で触媒被覆された膜、英語:catalyst-coated membrane、CCM)。電極層の1つは水素の酸化のためのアノードとして及びもう1つの電極層は酸素の還元のためのカソードとして形成されている。ポリマー電解質膜はプロトン伝導性ポリマーからなる。これらの材料は以下にイオノマーとも略称される。CCMのアノード及びカソードは、それぞれの反応(水素の酸化もしくは酸素の還元)を触媒的に促進する電気触媒を含有する。触媒活性成分として好ましくは元素の周期表の白金族の金属が使用される。大多数においていわゆる担持触媒が使用される。
【0005】
CCMの両側に、さらにいわゆるガス拡散層(英語:gas diffusion layers、GDLs又は“バッキング(backings)”)が取り付けられるので、それと共に5層の膜電極ユニットが得られる。ガス拡散層は通常、炭素繊維紙又は炭素繊維布からなり、かつ反応層への反応ガスの良好な接近及びセル電流及び形成される水の良好な導出を可能にする。
【0006】
自動車及び家庭用エネルギー供給装置におけるPEM燃料電池の幅広い商業的使用のためには、電気化学的電池出力及び寿命のさらなる改善が、特にCO含有リホーメートガスの使用の際に必要である。
【0007】
天然ガス、メタン、石油、ベンジン又はアルコールのような炭化水素の改質により製造される典型的な水素含有燃料ガスは、精製方法に応じて一酸化炭素(CO)2〜3体積%までを含有する。一酸化炭素含分はそしてまた、Pt−もしくはPtRu−アノード触媒を被毒し、ひいては全てのPEM燃料電池の出力損失をまねく。
【0008】
過去においてCOによるアノード触媒の被毒を取り除くかもしくはその作用を減少させるという試みが欠けていたわけではなかった。これには、主として白金/ルテニウム合金をベースとし、CO含有燃料ガスを用いる作動の際に改善された許容差(Toleranz)を有するCO許容性の電気触媒の開発についての広範囲に亘る研究が存在する(例えばUS 6,007,934及びUS 6,066,410参照)。文献からはさらにいわゆる“エアブリード(air-bleed)”法が公知である。その際にPt−又はPtRu−電気触媒上に吸着されるCOをCOへ酸化し、ひいては除去するために、付加的に空気約1〜3体積%が電池のアノード室中へ導入される(例えばS. Gottesfeld及びJ. Pafford, J. Electrochem. Soc. 135, (1988), 139-146参照)。反応は気相中で進行し、かつ次のように表すことができる:
【0009】
【化1】

【0010】
水素含有燃料ガスから一酸化炭素を除去するさらなる可能性はいわゆるメタン化反応である。触媒上で、存在するCOは水素と共に不活性なメタンへ転化され、こうして混合物から除去される:
【0011】
【化2】

【0012】
式(1)による選択酸化とは異なり、一酸化炭素のメタン化は水素の消費と内在的に結びついているが、しかしながら“エアブリード”、ひいては空気の外部供給を必要しない。このことは少ない調整費用(Regelaufwand)を意味する。メタン化によるCO除去の方法がなお相対的に乏しく文献に記載されるのに対して、CO酸化のための気相活性触媒をガス拡散層中へ組み込むかもしくは統合することに取り組む特許文献における多数の提案が存在する。
【0013】
例えばEP 0 736 921 B1には2つの異なる触媒成分を含有する電極が記載されている。第一の触媒成分は、気相反応サイトについて活性であるのに対して、第二の触媒成分は電気化学的反応サイト上で活性である。双方の触媒成分は二重層(“bi-layer”)としてガス拡散層上に塗布され、かつ互いに物理的に接触される。
【0014】
WO 00/36679には、イオノマー膜に面していない側にのみCOの酸化のための気相活性触媒を有するPEMアノード用のガス拡散層(“バッキング”)が記載されている。気相活性触媒及び電気触媒は双方とも薄層として形成されており、かつそれ自体は互いに直接接触していない。
【0015】
EP 0 985 241には、3層アノードとして形成されているアノードを有する一体形PEM燃料電池スタックが記載されている。このアノードは、膜に面していない側にCO酸化に選択的な触媒層を、及び膜に面している側に電気化学的に活性な層を有する。
【0016】
JP 9-129243には、CO酸化触媒を有するガス拡散層を同様に含有する低温型(PEM)燃料電池が提案されている。その際にCO酸化触媒は導電性材料(例えばカーボンブラック)及び撥水性材料(例えばPTFE)からなる混合物中で多孔質フィルムへ加工され、かつガス拡散層上に施与される。
【0017】
ここで提案された全ての解決への手掛かりは、気相活性触媒がガス拡散層上に薄層中でのみ形成されているという欠点を有する。これらの薄層に基づいて、触媒材料上でのCO含有燃料ガスの滞留時間は減少される。このことは部分的に過ぎない転化、ひいては不完全なCO酸化をまねく。さらに気相活性触媒は予め製造された担持触媒の形で使用され(例えばカーボンブラック上のRu、酸化アルミニウム上のPt)、ついでカーボンブラック、テフロン及び場合により別の成分との混合物でさらに加工される。多くの場合に活性触媒表面はこれらの付加的な成分によりブロックされる。それに伴って活性触媒表面の最適な利用が得られず、このことはそしてまた、CO最終残分(例えば100ppm未満の含分)が除去されないことをまねく。このことは燃料電池スタックのアノード上での電気触媒のCO被毒がさらに行われることを意味する。
【0018】
前記の解決への提案はさらに、燃料電池の、特にガス拡散系及び電極系のかなりの複雑化をまねく。付加的な層がガス拡散層上に塗布されなければならず、この層はより複雑な製造プロセスをまねくので最終的に製品の製造コストの増大を引き起こす。
【0019】
故に本発明の課題は、低温型燃料電池用の改善された触媒含有ガス拡散層を提供すること及びそのような製品に適している製造方法を見出すことである。
【0020】
それに応じて、本発明は、多孔質担持材料及び触媒粒子を含有している低温型燃料電池用の触媒含有ガス拡散層に関するものであり、その際に触媒粒子はガス拡散層の全体積に亘って均一に分配されている。このガス拡散層の有利な実施態並びにそのための適している製造方法は、以下の特許請求の範囲に記載されている。
【0021】
有利には本発明による触媒含有ガス拡散層の場合に、触媒もしくは触媒表面の良好な利用、ひいては高い活性及び選択性は(CO酸化によるか又はメタン化による)一酸化炭素の除去の際に及び(DMFCにおける)メタノールの酸化の際に達成される。さらにそのようなガス拡散層の本発明による製造方法は僅かな複雑さに傑出している。本方法は実際的であり、かつ連続的な製造プロセス中へ容易に統合されることができ、それにより製造コストは低下される。
【0022】
本発明による触媒含有ガス拡散層は、ガス拡散層の全体積に亘って均一に分配されている触媒活性成分を含有する。これは、当該ガス拡散層中へ前もって導入されている水溶性の及び/又は容易に分解可能な金属化合物のような前駆物質が分解もしくは熱分解されることによる方法において製造されることができる。好ましくはその際に貴金属化合物が使用される。好ましい一実施態様においてガス拡散層は前駆物質の水溶液に(例えば容易に分解可能な金属化合物)に浸漬もしくは含浸される。この浸漬プロセスは単純浸漬により、吹付け、刷毛塗りにより又は含浸により行われることができる。最も単純な場合にガス拡散層は金属化合物の溶液を有する槽中へ置かれ、引き続いて取り出され、かつ乾燥される。このプロセスは、触媒的に有効な金属化合物での前記層の必要な負荷が達成されるまで繰り返される。典型的には0.05〜5mg金属/cmの面積濃度の占有量(Belegungsmenge)は1〜10回繰り返すことにより達成される。しかしながら約100mg/cmまでのより高い面積濃度も達成可能である。さらにまた前駆物質溶液をガス拡散層の両側に吹き付け、引き続いて乾燥させることも可能である。スクリーン印刷法において操作される場合には、ガス拡散層の浸漬もしくは含浸は希薄インキのスクリーン印刷により行われることができ、その粘度は、これが全ガス拡散層を湿潤し、かつ浸透するように調節されている。本発明によるガス拡散層の場合に、触媒成分は前記層の全体積中に均一に分配されており、かつ好ましくは触媒活性粒子は担持材料上に固定されている。こうして前記層中での粒子の最適な分配並びに粒子の触媒活性サイトへの反応物の極めて良好な接近しやすさは保証される。
【0023】
浸漬もしくは含浸プロセスは適している装置中で連続的に、例えばロール−トゥ−ロール(Rolle-zu-Rolle)に実施されることができる。その際にガス拡散層はエンドレスでフレキシブルなストリップとして使用されることができ、かつ例えば疎水化、前駆物質溶液への含浸/浸漬、乾燥、補償層(Ausgleichsschicht)での被覆及び熱処理からなる多様な段階を経て導かれる。前駆物質化合物への含浸もしくは浸漬はそれゆえにガス拡散層用の連続的な製造方法中へ容易に組み込まれることができる。これはそれゆえに僅かな付加コストを引き起こすが、しかし同時により高価値な生成物をもたらす。
【0024】
前駆物質の分解のために使用されることができ、かつ触媒粒子が形成される熱処理は通例200〜900℃の温度、好ましくは200〜600℃で実施される。この熱処理は空気雰囲気下に、しかしまた保護ガス(例えば窒素、アルゴン又はそれらの混合物)又は還元性ガス(例えば窒素/水素−混合物又はホーメートガス(Formiergas))下にも行われることができる。その際にベルト−連続炉、マッフル炉、箱形炉並びにそれらの組合せが使用されることができる。
【0025】
式(1)によるCO酸化のための触媒として、好ましくは卑金属とのRu−、PtRu−又はPt−合金が考慮される。さらに金含有触媒、例えばAu、Au/酸化チタン又はAu/酸化鉄が使用されることができる。銀含有担持触媒(例えばAg/酸化チタン)も使用されることができる。
【0026】
式(2)によるCOのメタン化には、例えば、ニッケル及び/又はルテニウムをベースとする触媒が適している。好ましくは、メタン化触媒を有するガス拡散層の使用の際の電池の作動温度はPEM燃料電池の通常温度を幾分上回るべきである。90℃を上回る作動温度の場合に、それというのも触媒のメタン化活性の増大が達成され、かつ同時にPt含有アノード触媒のCO被毒が抑制されるからである。
【0027】
触媒活性成分のための前駆物質として、分解の際に所望の触媒粒子を形成する、水溶性で、容易に分解可能な金属化合物、好ましくはアンミン硝酸塩、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、ブタン酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、オクタン酸塩又はエチルヘキサン酸塩の群からの化合物が使用される。好ましい触媒粒子は金属、特に例えばPt、Pd、Ru、Rh、Au、Ag、Ir、Osのような貴金属、及び/又はそれらの酸化物及び/又はそれらの混合物もしくは非貴金属との合金、しかしまたTi、Fe、Co、Mn、Cr又はNiのような卑金属を含む。腐食の理由から、可能性に従ってハロゲンもしくは塩素を含有する前駆物質が回避される。しかしながら例えば、金属の有機金属錯体、いわゆる樹脂酸塩も使用されることもできる。
【0028】
適している貴金属化合物の例は、Pt前駆物質である硝酸白金(II)、乳酸白金(II)、硝酸アンミン白金(II)、エチルアンモニウム−白金六水化物、酢酸白金等である。適しているRu前駆物質の例は、ニトロシル硝酸ルテニウム(III)又は酢酸ルテニウム(III)である。Au含有前駆物質の例は、樹脂酸金、例えばAu−ポリマーエステル(FERRO GmbH社、フランクフルト)又は金含有錯塩である。他の貴金属の類似の錯体ももちろん使用されることができる。
【0029】
単独で又は貴金属前駆物質と組合せて使用されることができる卑金属の前駆物質は、例えば硝酸コバルト(II)、シュウ酸マンガン(II)、硝酸クロム(III)、硝酸ニッケル(II)、炭酸鉄(III)及び前記の卑金属以外の元素の匹敵しうる化合物である。この際にもハロゲン含有前駆物質は腐食の理由から回避される。
【0030】
さらに記載された貴金属−及び卑金属−前駆物質に、助触媒として、担持材料として又はそれらの前駆物質として機能する付加的な成分が添加されることができる。この例は、高表面積の貴金属黒、微細金属粉末、カーボンブラック、熱分解法酸化物、例えばケイ酸(Degussa社の“アエロジル(Aerosil)”)、熱分解法酸化チタン及び匹敵しうる材料である。熱分解もしくは温度処理の際に酸化材料へ変換される他の無機の成分も使用されることができる。この例は、有機ケイ素エステル、オルガノシラン、有機チタン酸塩、有機スズ酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩及び類似の化合物である。
【0031】
前駆物質化合物は、ガス拡散層上へのそれぞれの塗布法に適している調製物に加工される。含浸もしくは浸漬法における塗布のためには、相応して低粘度の溶液が製造される。この溶剤は加工特性の改善のために助剤、例えば界面活性剤、湿潤剤、結合剤、増粘剤、沈降防止剤又は有機溶剤を含有していてよい。刷毛塗りによる又はスクリーン印刷による塗布のためには、溶液の粘度は相応して改変され、このための手段及び手法は当業者に公知である。
【0032】
本発明による触媒含有ガス拡散層の製造のための出発物質として商用の炭素繊維基材が使用されることができる。しばしば100〜400μmの層厚を有する多孔質の炭素繊維基材(炭素繊維紙又は炭素繊維布)が使用される。これらの材料は通常60〜90%の多孔度及び20〜50μmの平均孔径を有する。構造、製造方法及び性質が異なる多様な基材材料が存在する。そのような多孔質材料の例はToray-紙、SGLの炭素繊維不織布(Sigracetタイプ)又はTextron社の織られた炭素繊維形成体(AvCarbタイプ)である。これらの材料の多数はシートの形として又はロールの形としても入手可能である。さらに、ガス拡散層用の出発物質として金属布、微細な金属網、導電被覆されたプラスチック布、導電被覆された紡織布、被覆されたガラス繊維及び類似の材料も使用可能である。原則的にガス拡散層はこれらが前駆物質溶液で処理される前に、前もって、疎水化されていてよく、親水化されていてよく、プレスされていてよく、ロール掛けされていてよく、又はその他の方法で処理されていてよい。
【0033】
本発明による触媒含有ガス拡散層には、補償層が設けられていてよく、又は設けられていなくてよい。補償層(いわゆる“ミクロレイヤー(Microlayer)”)として本発明の範囲内で、ガス拡散層の燃料電池中で電極層と接触する側の層であると理解される。補償層は通例、疎水性ポリマー、例えばPTFEと微粒状カーボンブラックとからなる混合物を含有する。補償層は通常スクリーン印刷法により塗布され、その厚さは例えば5〜100μmである。
【0034】
PEM又はDMFC燃料電池の完全な膜電極ユニット(“MEE”)は、両側に取り付けられたガス拡散層を有する触媒被覆されたポリマー電解質膜(“CCM”)を有する。好ましくは本発明によるガス拡散層は膜電極ユニットのアノード側に使用される。これを用いて製造された膜電極ユニットは、一酸化炭素に対する改善された許容差に基づいて燃料ガスとしてのCO含有水素混合物の使用のために使用可能である。そのような燃料ガスは、しばしば天然ガス、メタン又はベンジンのような炭化水素の改質により製造され、かつ燃料電池の固定使用の際に使用される。
【0035】
しかしながら本発明による触媒含有ガス拡散層は、直接メタノール燃料電池(DMFC)用のMEEsにおいても使用されることができる。その際に例えばアノード側でメタノールのより良好な酸化を生じさせ、かつDMFC電池の出力改善に寄与する。
【0036】
次の図は本発明の実施態様を示す。
【0037】
図1:補償層を有する本発明による触媒含有ガス拡散層の略示図
図1は、本発明による触媒含有ガス拡散層の略示断面図を示す。その際に(11)は多孔質層材料を表す。触媒粒子(12)は、層の表面上に固定されており、かつ層の全体積に亘って均一に分配されている。それ故にこれらの粒子は、例えばCOにより汚染された燃料ガスにとって最適な接近しやすさを有する。例えばPTFE及びカーボンブラックからなっている場合による補償層(13)は、イオノマー膜上での電極層への接触を改善するために塗布されている。
【0038】
図2:アノード側に本発明による触媒含有ガス拡散層を有する完全な5層の膜電極ユニット。
【0039】
図2は、アノード側に触媒粒子(22)を含有する本発明によるガス拡散層(21)を有する完全な5層のMEEの略示断面図を示す。ガス拡散層(21)は、アノード触媒層(23a)、イオノマー膜(23)及びカソード触媒層(23b)からなる3層の触媒被覆されたイオノマー膜と接触している。カソード側には、触媒されないガス拡散層(24)が取り付けられている。この実施態様において、双方のガス拡散層は補償層を有していない。
【0040】
次の例は、本発明をより詳細に説明するはずである。しかしながら本発明は、そこに記載された実施態様に限定されるものではない。
【0041】
実施例
例1:
補償層を有するRu含有ガス拡散層の製造を記載する。出発物質として200μmの厚さを有し、面積50cm(寸法約7×7cm)の疎水化された炭素繊維紙(Sigracet 10、SGL Carbon社)を利用する。テフロン含量は約8質量%である。実験室用てんびんを用いる質量測定後に、前記基材を大きなシャーレ中で酢酸ルテニウム(III)溶液(水中Ru 5質量%、OMG社、ハーナウ)に浸漬する。完全な湿潤後に、前記基材をピンセットを用いて浸漬浴から取り出す。これを短時間水切りし、引き続いて乾燥戸棚中で100℃で15min乾燥させる。ついで冷却させ、吸収された酢酸Ru量を重量分析により測定する。浸漬過程を、0.85mg酢酸Ru/cmの負荷が得られるまで3回繰り返す。引き続いてガス拡散層を炉中で200℃でホーメートガス(窒素95体積%、水素5体積%)下に30min熱処理する。基材の冷却後に基材のRu含量は0.48mg Ru/cmである。Ru粒子は基材中に均一に分配されており、かつ基材表面上に固定されている。これらは、透過型電子顕微鏡法(TEM)を用いて測定される5nmの平均粒度を有する。
【0042】
ついでスクリーン印刷法においてカーボンブラック/PFTEからなる補償層を塗布し、乾燥させ、390℃で10min熱処理する。補償層の層厚は約20μmである。
【0043】
前記基材をプレアノードとして触媒被覆された膜(CCM)と組み合わせ、膜電極ユニット(MEE)へ組み立てる。CCMとしてタイプ6 Cの触媒被覆された膜を使用する(アノード負荷0.2mg Pt/cm;カソード負荷0.4mg Pt/cm、厚さ50ミクロンを有する膜 EW 1100、OMG社、ハーナウ)。カソード側に補償層を有する疎水化された炭素繊維紙(標準、SGL社、タイプSigracet 10)を使用する。
【0044】
MEEを、PEM燃料電池において水素/空気−運転並びにリホーメート/空気−運転で試験し、とりわけCO 100ppmの含量でのリホーメート/空気−運転で極めて良好な結果を有する(第1表参照)。触媒を含まないガス拡散層(比較例VB1)と比較して、COに対する許容差は明らかに改善されている。このことは、本発明による触媒含有ガス拡散層が極めて良好な有効性を有することを示している。
【0045】
例2:
補償層を有しないRu含有ガス拡散層の製造を記載する。出発物質として再び、200μmの厚さを有し、面積50cm(寸法約7×7cm)の疎水化された炭素繊維紙(Sigracet 10、SGL Carbon社)を利用する。テフロン含量は約8質量%である。前駆物質溶液への含浸を例1に記載されたように行う。浸漬過程を、0.5mg酢酸Ru/cmの負荷が得られるまで2回繰り返す。引き続いてガス拡散層を炉中で250℃でホーメートガス(窒素95体積%、水素5体積%)下に30min熱処理する。前記基材の冷却後に、基材のRu含量は0.28mg Ru/cmである。Ru粒子は基材中に均一に分配されており、かつ基材表面上に固定されている。これらの粒子は4nmの平均粒度(TEMを用いて測定)を有する。基材をプレアノードとして触媒被覆された膜(CCM)と組み合わせ、例1に記載されたように、膜電極ユニット(MEE)へ組み立てる。CO含有リホーメート(CO 100ppm)を用いるMEEの運転の際に、極めて良好な結果及び比較例VB1(下記参照)と比較して明らかに改善されるCO許容差が得られる。
【0046】
例3
この例は、補償層を有しないAu/TiO含有ガス拡散層の製造を記載する。出発物質として再び、200μmの厚さを有し、面積50cm(寸法約7×7cm)の疎水化された炭素繊維紙(Sigracet 10、SGL Carbon社)を利用する。テフロン含量は約8質量%である。Au−ポリマーエステルHF 3401(FERRO社、フランクフルト)及び酸化チタン(タイプP25、Degussa社、フランクフルト)を含有する水含有前駆物質溶液を製造する。溶液のAu含量はAu 5質量%であり、酸化チタン含分は0.1質量%である。浸漬を例1に記載されたように行う。浸漬過程を3回繰り返す。引き続いてガス拡散層を炉中で250℃でホーメートガス下に30min熱処理する。前記層の冷却後に、層のAu含量は約0.1mg Au/cmである。Au粒子は、酸化チタンと共に前記層中に均一に分配されている。前記層を例1に記載されたように、プレアノードとして触媒被覆された膜(CCM)と組み合わせ、膜電極ユニット(MEE)へ組み立てる。
【0047】
CO含有リホーメート(CO 100ppm)を用いるMEEの運転の際に、極めて良好な結果及びVB1と比較して明らかに改善されたCO許容差が得られる。
比較例(VB1)
本発明によらないこの例において、アノード側に補償層を有しない触媒を含まないガス拡散層を有するMEEの製造及び試験を記載する。出発物質として再び、200μmの厚さを有し、面積50cm(寸法約7×7cm)の疎水化された炭素繊維紙(Sigracet 10、SGL Carbon社)を利用する。テフロン含量は約8質量%である。触媒を含まない前記層を、触媒被覆された膜(CCM)と組み合わせ、例1及び2において記載されたように、膜電極ユニット(MEE)へ組み立てる。CO含有リホーメート(CO 100ppm)を用いるMEEの運転の際に、Pt触媒のCO被毒に基づいて極めて劣悪な結果が得られる。このことは、本発明による触媒含有ガス拡散層(補償層を有する又は有しない)が極めて良好な有効性を有することを示す。
【0048】
例4:
補償層を有しないPtRu−含有ガス拡散層の製造及び直接メタノール燃料電池(DMFC)におけるプレアノードとしてのその使用を記載する。
【0049】
出発物質として再び、200μmの厚さを有し、面積50cm(寸法約7x7cm)の疎水化された炭素繊維紙(Sigracet 10、SGL Carbon社)を利用する。テフロン含量は約8質量%である。実験室用てんびんを用いた質量測定後に、前記基材を大きなシャーレ中で酢酸ルテニウム(III)溶液6部(水中Ru 5質量%、OMG社、ハーナウ)及び硝酸白金(II)1部(Pt 16質量%、OMG社、ハーナウ)に浸漬する。完全な湿潤後に、前記基材を、ピンセットを用いて浸漬浴から取り出す。これを短時間水切りし、引き続いて乾燥戸棚中で100℃で15min乾燥させる。ついで冷却させ、吸収された酢酸Ru及び硝酸Ptの量を重量分析により測定する。引き続いてガス拡散層を炉中で250℃でホーメートガス(窒素95体積%、水素5体積%)下に30min熱処理する。前記層の冷却後に層のRu含量は約0.65mg Ru/cmであり、かつ白金含量は約0.35mg Pt/cmである。Pt−及びRu−粒子は、前記層の全体積に亘って均一に分配されている。前記層をプレアノードとして触媒被覆された膜(CCM、タイプR221、アノード負荷 0.3mg Pt/cm及び0.15mg Ru/cm、カソード負荷 0.4mg Pt/cm;OMG社、ハーナウ)と組み合わせ、例1に記載されたように、膜電極ユニット(MEE)へ組み立てる。これを、50cmの活性セル面積を有する直接メタノール燃料電池(DMFC)中へ組み込む。測定のために2モル濃度のメタノール/水−溶液を使用し、セル温度は60℃である。カソード側に空気を無加圧運転で供給する。80mW/cmを上回る極めて高い出力密度(peak power density)が得られる。
【0050】
電気化学的試験
PEMFC出力試験の際にアノードガスとしてH 60体積%、N 15体積%及びCO 25体積%からなる燃料ガス混合物を使用する。燃料ガスに、空気1体積%もしくは3体積%の“エアブリード”を有するCO 100ppmを添加する。この燃料ガス混合物は、水蒸気改質及びその後の精製段階を用いるメタン又は炭化水素の改質により得られることができるリホーメートガスをシミュレートする。カソードガスとして空気を使用する。セル温度は75℃である。作動ガスの圧力は3bar(絶対)である。ガスの化学量論は1.5(アノードガス)及び2.0(カソードガス)である。MEEsはOMG標準条件に従って50cmの活性面積を有する電池において測定される。例1、2及び3並びに比較例VB1の結果は第1表にまとめられている。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】補償層を有する本発明による触媒含有ガス拡散層を示す略示図。
【図2】アノード側に本発明による触媒含有ガス拡散層を有する完全な5層の膜電極ユニットを示す略示図。
【符号の説明】
【0053】
11 多孔質層材料、 12 触媒粒子、 13 補償層、 21 ガス拡散層、 22 触媒粒子、 23 イオノマー膜、 23a アノード触媒層、 23b カソード触媒層、 24 触媒されないガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担持材料及び触媒粒子を含有している燃料電池用の触媒含有ガス拡散層において、触媒粒子が均一にガス拡散層の全体積に亘って分配されていることを特徴とする、燃料電池用の触媒含有ガス拡散層。
【請求項2】
触媒粒子が多孔質担持材料の表面上に固定されている、請求項1記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項3】
触媒粒子が1〜100nmの平均粒度を有している、請求項1又は2記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項4】
触媒粒子が、Pt、Pd、Ru、Rh、Au、Ag、Ir、Osの群からの貴金属、及び/又はそれらの酸化物、及び/又はそれらの混合物もしくは非貴金属との合金を含んでいる、請求項1から3までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項5】
触媒粒子が0.01〜100mg金属/cmの面積濃度でガス拡散層上に存在している、請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項6】
炭素繊維布、炭素繊維不織布、カーボン紙、炭素繊維網、導電被覆されたプラスチック網、導電被覆されたポリマー布、導電被覆されたガラス繊維、導電被覆されたフォーム又は金属繊維布又は金属線網からなる多孔質担持材料を含んでいる、請求項1から5までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項7】
触媒粒子が気相活性であり、かつ一酸化炭素の酸化に適している、請求項1から6までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項8】
触媒粒子が気相活性であり、かつ一酸化炭素からメタンへの転化に適している、請求項1から7までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項9】
触媒粒子がメタノールの酸化に適している、請求項1から8までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層。
【請求項10】
触媒粒子を、少なくとも1つの前駆物質化合物の熱分解により多孔質担持材料上に形成させることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項11】
多孔質担持材料を少なくとも1つの前駆物質化合物で処理し、乾燥し、かつ熱処理し、その際に前駆物質化合物の分解が起こり、かつ触媒粒子が形成され、かつ担持材料の表面上に固定される、請求項10記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項12】
前駆物質化合物として熱分解可能な金属化合物を使用する、請求項10又は11記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項13】
硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、ブタン酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、樹脂酸塩又はエチルヘキサン酸塩の群からの1つ又はそれ以上の金属化合物を前駆物質化合物として使用する、請求項10から12までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項14】
熱処理を200〜900℃の温度で実施する、請求項10から13までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項15】
熱処理を気体雰囲気下に、好ましくは空気、窒素、水素又はそれらの混合物下に実施する、請求項10から14までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項16】
製造を連続法で行う、請求項10記載の触媒含有ガス拡散層の製造方法。
【請求項17】
水素含有燃料ガスから一酸化炭素を除去するための、燃料電池における請求項1から9までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層の使用。
【請求項18】
メタノールの酸化のための、直接メタノール燃料電池における請求項1から9までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層の使用。
【請求項19】
請求項1から9までのいずれか1項記載の触媒含有ガス拡散層を有している、低温型燃料電池用の膜電極ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−512724(P2006−512724A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563200(P2004−563200)
【出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014839
【国際公開番号】WO2004/059770
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4、D−63457 Hanau、Germany
【Fターム(参考)】