説明

燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法

【課題】燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層における細孔径を設定するのに有利な燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法を提供する。
【解決手段】燃料電池用ガス拡散層5は、反応ガスの配流板から供給される反応ガスを触媒層に拡散させるためのものであり、反応ガスの配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層51と、触媒層に対向する側に位置するようにベース層に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層52とを有する。ベース層51は、導電性を有する導電繊維と撥水性を有する接着材とを基材とする。細孔制御層は、導電性を有する導電繊維と撥水性を有する接着材とを基材とする。細孔制御層52の導電繊維の長さは、ベース層51の導電繊維の長さよりも相対的に短くされている。細孔制御層52の細孔の平均細孔径は、ベース層51の細孔の平均細孔径よりも相対的に小さくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応ガスを拡散させる燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電反応用の反応ガスを触媒層に供給させる燃料電池用ガス拡散層(以下、ガス拡散層ともいう)が知られている。ガス拡散層は、導電性およびガス通過性を発揮できるように、炭素繊維の集積体で形成されている(特許文献1)。
【0003】
この種のガス拡散層によれば、ガス拡散層のうち触媒層に対向する側の部位において炭素繊維の長さを長く設定すると共に密度を相対的に小さくさせ、ガス拡散層のうち配流溝に対向する側の部位において炭素繊維の長さを短く設定すると共に密度を相対的に高めているものが知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−302339号公報
【特許文献2】特開昭59−27466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した技術によれば、燃料電池の運転条件に合わせてガス拡散層の細孔を制御するのが必ずしも容易ではなかった。特に特許文献2によれば、ガス拡散層のうち触媒層に対向する側の部位において炭素繊維の長さを長く設定しているため、細孔径が相対的に大きくなる。これに対して、ガス拡散層のうち配流溝に対向する側の部位においては、炭素繊維の長さを短く設定しているため、細孔径が相対的に小さくなる。このため、反応ガスの分配性の制御には限界がある。
【0005】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層における細孔径を設定するのに有利な燃料電池用ガス拡散層およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明者は燃料電池用ガス拡散層について長年にわたり鋭意開発を進めている。そして、本発明者は、燃料電池の運転条件に合わせて、ガス拡散層における細孔径を調整することが好ましいことを知見した。しかしながら、ガス拡散層全体における細孔径を大きくさせると、ガス拡散層を流れる反応ガスの流量が確保され、更に、燃料電池の内部において発生した水を排出させる性能が確保されるものの、触媒層に向かう反応ガスの流量の均一性を高めるように細孔径を調整しにくいおそれがある。また、ガス拡散層全体における細孔径を小さくさせると、触媒層への反応ガスの分配性が確保されるものの、ガス拡散層を流れる反応ガスの流量が確保されにくくなり、更に、燃料電池の内部において発生した水を排出させる性能が低下するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明者は、反応ガスの配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層と、触媒層に対向する側に位置するようにベース層に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層とを備えている複合構造をもつガス拡散層を構成とすることを着想した。更に、本発明者は、細孔制御層を構成する導電繊維の長さを、ベース層を構成する導電繊維の長さよりも相対的に短くする構成とすれば、ベース層における細孔の細孔径を細孔制御層の細孔の細孔径よりも大きく設定でき、これによりガス拡散層を流れる反応ガスの流量、燃料電池で生成された水の排出性を確保しつつ、燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層の細孔の細孔径を設定し易くなることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、様相1に係る燃料電池用ガス拡散層は、反応ガスの配流板から供給される反応ガスを触媒層に拡散させるための燃料電池用ガス拡散層であって、反応ガスの配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層と、触媒層に対向する側に位置するようにベース層に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層とを具備しており、ベース層は、導電性を有する第1導電繊維と撥水性を有する第1接着材とを基材としており、細孔制御層は、導電性を有する第2導電繊維と撥水性を有する第2接着材とを基材としており、細孔制御層の導電繊維の長さは、ベース層の導電繊維の長さよりも相対的に短くされており、細孔制御層の細孔の平均細孔径は、ベース層の細孔の平均細孔径よりも相対的に小さくされていることを特徴とする。
【0009】
本様相によれば、ガス拡散層を構成するベース層における細孔径が細孔制御層の細孔径よりも大きくされるため、ガス拡散層を流れる反応ガスの流量がベース層により確保され、更に燃料電池の内部で生成された水の排出性が確保される。更に、ガス拡散層を構成する細孔制御層における細孔径がベース層における細孔径よりも小さくされているため、ガス拡散層から触媒層に向かう反応ガスの流量の均一性および分配性が細孔制御層により確保される。なお本明細書によれば、流量は単位時間あたりの流量を意味する。
【0010】
すなわち、細孔制御層の第2導電繊維の長さは、ベース層の第1導電繊維の長さよりも相対的に短くされているため、細孔制御層における細孔の細孔径は、ベース層における細孔の細孔径よりも相対的に小さくされ易くなる。これに対して、ベース層の細孔の細孔径は、細孔制御層の細孔の細孔径よりも相対的に大きくされ易くなり、ガス拡散層を流れる反応ガスの流量、水の排出性は、基本的には、ベース層の細孔において確保される。ガス拡散層から触媒層に流れる反応ガスの流量の制御は、基本的には、細孔制御層の細孔により確保される。
【0011】
前述したように、ガス拡散層は、反応ガスの配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層と、触媒層に対向する側に位置するようにベース層に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層とを備えている。ベース層はガス拡散層の基体となるため、ベース層の厚みは、細孔制御層の厚みよりも厚いことが好ましい。ここで、ガス拡散層の厚みを100として相対表示するとき、ベース層の厚みは40〜〜97の範囲内、55〜95の範囲内、殊に60〜85の範囲内とすることができ、残りを細孔制御層とすることができる。
【0012】
前述したように、第1導電繊維および第2導電繊維は導電性を有する繊維であり、カーボン繊維、耐食性を有する金属繊維等が挙げられる。本明細書における接着材としては、高い撥水性を有するフッ素樹脂が挙げられるが、フッ素樹脂と共に、ウレタン等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられていても良い。
【0013】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(PTFE)、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオロライド、トリフルオロエチレンクロライド、ビニルフロライド、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル等の単独または共重合物が例示される。また、これらとエチレンに代表されるオレフィン類との共重合物が例示される。従って、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)のうちの少なくとも1種が挙げられる。
【0014】
様相1によれば、前述したように、細孔制御層の第2導電繊維の長さは、ベース層の第1導電繊維の長さよりも相対的に短くされており、細孔制御層の細孔の平均細孔径は、ベース層の細孔の平均細孔径よりも相対的に小さくされている。ここで、平均細孔径は、最頻度径を意味するモード径が好ましいが、場合によっては、細孔径を二つに分けたとき大きい側の累積と小さい側の累積とが等体積となるメジアン径としても良いし、単純に平均値をとる算術平均径としても良い。
【0015】
細孔制御層のうち触媒層に対向する側に、ガス透過性を有する多孔質の塗工層が積層されていることが好ましい(請求項2)。塗工層は、ガス透過性を確保しつつ、ガス拡散層に含まれている導電繊維が電解質膜に刺さることを抑制することができる。塗工層の厚みは細孔制御層の厚みよりも薄いことが好ましい。塗工層の厚みは燃料電池の種類に応じて適宜設定されるが、1〜100マイクロメートル、殊に10〜30マイクロメートル、5〜20マイクロメートルが好ましい。この場合、塗工層は、微粉末状の微小導電物質、撥水性をもつ接着材を含むことが好ましい。微粉末状の導電物質としては、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボンナノチューブ、カーボン短繊維(例えば繊維長さ15〜20マイクロメートル)などが挙げられる。カーボンブラックとしては、フォーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラックが挙げられる。
【0016】
ベース層と細孔制御層との境界域には、ガス透過性を有する多孔質の中間塗工層が介在していることが好ましい(請求項3)。この場合、中間塗工層は、微粉末状の導電物質、撥水材をもつ接着材を含むことが好ましい。ベース層と細孔制御層との接着性を高めるためには、ベース層と細孔制御層との境界域に存在する中間塗工層は接着材を含むことが好ましい。中間塗工層の厚みとしては適宜選択されるものの、1〜50マイクロメートルの範囲内とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0017】
ベース層と細孔制御層との境界域には、ベース層と細孔制御層との接着性を高める接着材が介在していることが好ましい(請求項4)。この場合、ベース層と細孔制御層との接着性を一層高めることができる。
【0018】
(2)様相2に係る燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、配流板から供給される反応ガスを触媒層に拡散させるための燃料電池用ガス拡散層を製造する製造方法であって、
導電性を有する第1導電繊維と第1導電繊維の絡み性を高める焼失可能な第1絡み促進物質と撥水性を有する第1接着材を基材として含む未焼成の第1シートを形成し、且つ、導電性を有する第2導電繊維と第2導電繊維の絡み性を高める焼失可能な第2絡み促進物質と撥水性を有する第2接着材を基材として含むと共に第1シートよりも厚みが薄い未焼成の第2シートを形成するシート形成工程と、その後、第1シートおよび第2シートをこれらの厚み方向に重ねた状態で、第1シートおよび第2シートを厚み方向に加圧して積層シートを形成する積層工程と、その後、積層シートを加熱することにより、積層シートの第1シートに含まれている第1絡み促進物質および第2シートに含まれている第2絡み促進物質を焼失させ、且つ、第1シートに含まれている第1接着材および第2シートに含まれている第2接着材を焼成させる焼成工程とを実施することを特徴とする。
【0019】
様相2に係る製造方法によれば、様相1に係るガス拡散層を製造できる。更に、第1シートおよび第2シート(第1シートよりも厚みが薄い)をこれらの厚み方向に重ねた状態で、第1シートおよび第2シートを厚み方向に加圧して積層シートを形成し、その後、積層シートを加熱することにより、積層シートの第1シートに含まれている第1絡み促進物質および第2シートに含まれている第2絡み促進物質を焼失させ、且つ、第1シートに含まれている第1接着材および第2シートに含まれている第2接着材を焼成させる。このため、第1シートおよび第2シートを個別に焼成させる場合に比較して、焼成回数の簡素化を図り得る。
【0020】
第1導電繊維および第2導電繊維としては、カーボン繊維、耐食性を有する金属繊維等の導電繊維が挙げられる。第1絡み促進物質は第1導電繊維と絡み合って第1シートを形成する。第2絡み促進物質は第2導電繊維と絡み合って第2シートを形成する。第1絡み促進物質、第2絡み促進物質としては絡み性および焼失性を有するものであれば何でも良く、パルプ材、木綿、羊毛、ポリ乳酸繊維等の焼失可能な有機系繊維が挙げられる。
【0021】
上記した積層工程は、回転可能な複数の加圧ロールを有する熱プレス装置を用い、熱プレス装置の加圧ロール間に第1シートおよび第2シートを重ねて状態で挿入させて行われ、焼成工程は、第1シートおよび第2シートを重ねた状態に圧着させた積層シートを焼成炉に通すことにより行われることが好ましい(請求項6)。熱プレス装置は、第1シートおよび第2シートから積層シートを連続的に形成させ、生産性を高めるのに有利である。
【0022】
上記したシート形成工程は、第1導電繊維と第1導電繊維の絡み性を高める焼失可能な第1絡み促進物質とを基材として含む第1シートを作製した後、撥水性を有する第1接着材を含む第1流動物を第1シートの表面に接触させて塗工させる工程と、第2導電繊維と第2導電繊維の絡み性を高める焼失可能な第2絡み促進物質とを基材として含む第2シートを形成した後、撥水性を有する第2接着材を含む第2流動物を第2シートの表面に接触させて塗工させる工程とを包含することが好ましい(請求項7)。第1接着材および第2接着材としては、上記した接着材を用いることができる。
【0023】
第2流動物の粘度は第1流動物の粘度よりも高いことが好ましい(請求項8)。この場合、第2流動物を第2シートのうち第1シートと反対側の表面に塗工させれば、第2シートのうち第1シートと反対側に、すなわち、第2シートで形成される細孔制御層のうち触媒層に対向する側に、塗工層を形成することができる。この場合、ガス拡散層が燃料電池に組み付けられたとき等において、この塗工層は、第1シートまたは第2シートに含まれている導電繊維が電解質膜に刺さることを抑えるのに有利であり、電解質膜の長寿命化に貢献できる。
【0024】
シート形成工程と積層工程との間において、第1シートを乾燥させる操作と第2シートを乾燥させる操作とを実施し、第2シートを乾燥させる乾燥温度は、第1シートを乾燥させる乾燥温度よりも低くされていることが好ましい(請求項9)。第2シートは第1シートよりも厚みが薄いため、第2シートの引張強度を充分に確保することが好ましい。このため第2シートの乾燥時において、第2シートに含まれている水分の急激な過剰蒸散を抑制することが好ましい。水分の急激な過剰蒸散は、第2シートの引張強度の低下を発生させ易いためである。そこで第2シートを乾燥させる乾燥温度は、第1シートを乾燥させる乾燥温度よりも低くされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ガス拡散層は、反応ガスの配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層と、触媒層に対向する側に位置するようにベース層に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層とを備えている。更に、細孔制御層を構成する第2導電繊維の長さは、ベース層を構成する第1導電繊維の長さよりも相対的に短くされているため、ベース層における細孔の細孔径を細孔制御層の細孔の細孔径を大きく設定できる。これによりガス拡散層を流れる反応ガスの流量、燃料電池で生成された水の排出性を確保しつつ、燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層の細孔の細孔径を設定し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0027】
(実施形態1)
先ず、実施形態1に係る製造方法から説明する。導電性を有する第1導電繊維としての第1カーボン繊維と、第1カーボン繊維の絡み性を高める焼失可能な第1絡み促進物質としての第1パルプ材とを、分散媒としての水に分散させた第1抄紙液を用意する。そして、網部材で第1抄紙液を紙すき処理(抄紙処理)することにより、第1カーボン繊維および第1パルプ材の集積体を形成し、第1シート11とする。第1シート11は後述するように、ガス拡散層5のベース層51を形成するものである。紙すきされた第1シート11は、巻回されて第1巻回体11aとされている。
【0028】
紙すき処理された第1シート11については、坪量が45〜50g/mであり、平均厚みが200〜250マイクロメートルである。第1シート11において、質量比で、第1カーボン繊維/パルブ=(5.5〜6.5)/(3.5〜4.5)、殊に、6/4とされている。
【0029】
同様に、導電性を有する第1導電繊維としての第2カーボン繊維と、第2カーボン繊維の絡み性を高める焼失可能な第2絡み促進物質として第2パルプ材とを、分散媒としての水に分散させた第2抄紙液を用意する。そして、網部材で第2抄紙液を紙すき処理(抄紙処理)することにより、第2カーボン繊維および第2パルプ材の集積体を形成し、第2シート12とする。第2シート12は後述するようにガス拡散層5の細孔制御層52を形成するものであり、第1シート11よりも厚みが薄くされている。紙すき処理された第2シート12は、巻回されて第2巻回体12aとされている。
【0030】
紙すき処理された第2シート12については、坪量が25〜125g/mであり、平均厚みが70〜350マイクロメートルである。第2シート12において、質量比で、第2カーボン繊維/パルブ=(5.5〜6.5)/(3.5〜4.5)、殊に、6/4とされている。第2パルプ材は第1パルプ材と同材質とされている。
【0031】
図1は製造装置による製造過程を示す。製造装置は、第1シート11を巻回した第1巻回体11aを回転可能にセットする第1保持部21と、第2シート12を巻回した第2巻回体12aを回転可能にセットする第2保持部22と、第1シート11を大気雰囲気において加熱乾燥させる第1乾燥炉24と、第2シート12を大気雰囲気において加熱乾燥させる第2乾燥炉25と、第1シート11を積層方向に方向変換させる第1方向変換ロール27と、第2シート12を積層方向に方向変換させる第2方向変換ロール28と、第1シート11および第2シート12を加圧して積層シート13とする熱プレス装置3と、積層シート13を加熱して大気雰囲気において焼成させる焼成炉36と、積層シート13の接合性を高める調整ロール38と、積層シート13を巻き取る巻取ロール39とを有する。大気雰囲気は酸素含有雰囲気に相当する。熱プレス装置3は、ロール加圧面31kをもつ第1加圧ロール31と、ロール加圧面32kをもつ第2加圧ロール32とを備える。
【0032】
ここで、第1巻回体11aから巻き外れた第1シート11は、第1乾燥炉24において乾燥条件(例えば、温度:120〜160℃、特に140℃、時間:5〜30分、殊に20分、大気雰囲気)で乾燥させた後、第1方向変換ロール27で方向変換され、熱プレス装置3に向かう。第2巻回体12aから巻き外れた第2シート12は、第2乾燥炉25において乾燥条件(例えば、温度:60〜98℃、殊に95℃、時間:5〜30分、特に20分、大気雰囲気)で乾燥させた後、第2方向変換ロール28で方向変換され、熱プレス装置3に向かう。第1シート11には第1カーボン繊維の他に第1パルプ材が配合されているためので、第1カーボン繊維同士の絡み性が確保されており、焼成前の第1シート11のロール搬送性は確保される。第2シート12についても第2カーボン繊維の他に第2パルプ材が配合されているためので、第2カーボン繊維同士の絡み性が確保されており、焼成前の第2シート12のロール搬送性は確保される。
【0033】
上記したように第2乾燥炉25において第2シート12を乾燥させる乾燥温度は、第1乾燥炉24において第1シート11を乾燥させる乾燥温度よりも低くされている。その理由は以下のようである。すなわち、第2シート12は第1シート11よりも細孔の径が細かく、第2シート12の内部に含有する水分が抜けにくくなっている。このため第2シート12を乾燥すると、水分が熱せられて水蒸気に変わるが、この水蒸気が孔から抜けきらず、内部で膨張し易くなっている。この膨張が第2シート12の内部の細孔を押し広げてボイドを発生させ、第2シート12の表面を凹凸状にするため表面12uの平滑性が損なわれるおそれがある。この結果、第2シート12に接する触媒層との反応ガスや生成水の流通制御や第2シート12内を流通する反応ガスや生成水の制御が難しくなるおそれがある。従って、第2シート12内の水(水蒸気)が細孔から抜け出し易く、第2シート12内の水蒸気による膨張を抑えるため、第2シート12の乾燥温度は水の沸騰点未満としている。また、第2シート12内の水蒸気による膨張を抑えることで第2シート12の引張強度の低下を抑えることができる。
【0034】
第1シート11および第2シート12は、熱プレス装置3の第1加圧ロール31および第2加圧ロール32の間に挿入されて厚み方向に加圧され、重ね合わされて圧着されて積層シート13を形成する。積層シート13は、焼成炉36において焼成条件(大気雰囲気、300〜400℃、殊に380℃、時間:30〜2時間、殊に1時間)で加熱されて焼成される。
【0035】
このように焼成炉36において焼成工程が実施されると、積層シート13が加熱されることにより、積層シート13の第1シート11に含まれている第1パルプ材および第2シート12に含まれている第2パルプ材がほぼ同時に焼失するので、第1パルプ材および第2パルプ材で占められていた部分が流路となる。流路は反応ガスおよび水の通路となり得る。更に焼成により、第1シート11に含まれているPTFE(第1接着材)および第2シート12に含まれているPTFE(第2接着材)がほぼ同時に焼成され、接着力を発揮する。
【0036】
すなわち、本実施形態によれば、上記したように第1シート13および第2シート12について個別に焼成させるのではなく、同時に焼成できるため、焼成工程の簡素化、焼成時間の短縮、焼成設備の簡素化に貢献できる。第1シート11と第2シート12との境界域には、両者の接着性を高める撥水性を有するPTFEが介在している。ここで、積層シート13は焼成前の第1シート11および第2シート12を圧着させて形成されている。このように圧着した後の未焼成の積層シート13を焼成しているため、第1シート11および第2シート12の境界域の接合強度を高めるのに貢献できる。
【0037】
焼成炉36と巻取ロール39との間においては、第1シート11における絡み性を高める第1パルプ材、第2シート12における絡み性を高める第2パルプ材が焼失しているものの、第1シート11に含まれているPTFE(第1接着材)、第2シート12に含まれているPTFE(第2接着材)が既に焼成されているため、積層シート13の引張強度が確保され、積層シート13の搬送時における破断が抑えられている。更に焼成炉36は第1シート11および第2シート12の双方に使用される共通炉であるため、第1シート11専用の焼成炉、第2シート12専用の焼成炉を個別に設けることを廃止でき、設備費の低減に貢献できる。なお製造過程において、図1に示すように、第1シート11は第2シート12よりも上側に位置しているが、これに限定されるものではなく、逆でも良い。
【0038】
上記したように焼成炉36で焼成された積層シート13は、厚み調整ロール38のロール38a,38bにより接合性が高められ、巻取ロール39に巻き取られる。積層シート13を適宜のサイズに切断してガス拡散層を形成する。
【0039】
本実施形態によれば、図1に示すように、第1塗工装置41が第1乾燥炉24と第1保持部21との間に配置されている。第1塗工装置41は、カーボンブラックと撥水性を有するPTFE(第1接着材)とを含むインク状をなす第1流動物45を第1シート11の表面11u(第1シート11のうち第2シート12に対向する側の表面)に接触させて塗工させる。同様に、第2塗工装置42が第2乾燥炉25と第2保持部22との間に配置されている。第2塗工装置42は、カーボンブラックと撥水性を有するPTFE(第2接着材)とを含むインク状をなす第2流動物46を第2シート12の表面12u(第2シート12のうち第1シート11と反対側の表面)に接触させて塗工させる。
【0040】
第1塗工装置41は、第1流動物45を第1シート11に載せて塗工させる塗工部41pと、第1シート11に載せられて塗工された第1流動物45を掻き取る掻き取り部41tとをもつ。塗工は塗布に相当する。第1塗工装置41が第1流動物45を載せて塗工させる方向を矢印P1(図1参照)として示す。第2塗工装置42は、第2流動物46を第2シート12に載せて塗工させる塗工部42pと、第2シート12に塗工された第2流動物46が所定の厚みとなるように第2流動物46を掻き取る掻き取り部42tとをもつ。第2塗工装置42が第2流動物46を載せて塗工させる方向を矢印P2(図1参照)として示す。
【0041】
ここで、第1流動物45を形成するにあたり、まず、カーボンブラックと水(分散媒)とを界面活性剤とを混合して攪拌した第1混合液を形成する。そして、撥水材としてテトラフルオロエチレン(PTFE,フッ素系重合体)を40〜80質量%、殊に60質量%含有するディスパージョン溶液をその第1混合液に混合して攪拌する。これにより流動性をもつ第1流動物45を形成する。第1流動物45は、カーボンブラックおよびPTFE(撥水性を有する第1接着材)とを主要成分として含有しており、流動性を有する。この場合、質量比で、カーボンブラック/PTFE(固形分)の比率としては、(8〜13)/(2〜6)、殊に11/4とすることができる。
【0042】
第2流動物46を形成するにあたり、同様に、カーボンブラックと水(分散媒)とを界面活性剤とを混合して攪拌した第2混合液を形成する。そして、撥水材としてテトラフルオロエチレン(PTFE,フッ素樹脂)を40〜80質量%、殊に60質量%含有するディスパージョン溶液をその第2混合液に混合して攪拌する。これにより流動性をもつ第2流動物46を形成する。第2流動物46は、カーボンブラックおよびPTFE(撥水性を有する第1接着材)を主要成分として含有しており、流動性を有する。この場合、質量比で、カーボンブラック/PTFE(固形分)の比率としては、(8〜13)/(2〜6)、殊に11/4とすることができる。
【0043】
本実施形態によれば、第2流動物46の粘度は、第1流動物45の粘度よりも高くされており、第2流動物46が第2シート12の厚み方向へ含浸する含浸性は低い。このため、第2シート12のうち第1シート11と反対側の表面12uに第2流動物46をできるだけ残留させることができる。従って、第2シート12のうち第1シート11と反対側の表面12uにおいて第2流動物46により塗工層54を良好に形成できる。つまり、第2シート12で形成される細孔制御層52のうち、触媒層に対向する側の表面52uに塗工層54を積層させることができる。
【0044】
また、第1流動物45の粘度は第2流動物46の粘度よりも低くされており、第1シート11の厚み方向への含浸性は高い。このため第1塗工装置41で第1シート11の表面11uに塗工された第1流動物45は、第1シート11の厚み方向に良好に含浸され、第1シートの他方の表面11dに至る。このため、第1流動物45に含まれているカーボンブラックおよびPTFEは、重力や表面張力等の影響により第1シート11の厚み全体に含浸される。このため第1シート11で形成されるベース層51における導電性、撥水性および接着性は、ベース層51の厚み方向において良好に確保される。
【0045】
なお、第1流動物45および第2流動物46については、粘度を除いて、互いに同一成分および同一組成とすることができる。但し、必要に応じて、第1流動物45の配合比と第2流動物46の配合比とを変えても良い。
【0046】
図2は、上記した製造方法により製造されたガス拡散層5を示す。ガス拡散層5は、厚み方向および面内方向においてガス透過性を有しており、反応ガスの配流板から供給される反応ガスを触媒層に拡散させるためのものである。ガス拡散層5は、ガス透過性を有する多孔質のベース層51と、ガス透過性を有する多孔質の細孔制御層52とを厚み方向に積層して形成されている。ベース層51は、配流板に対向する側に配置されるものである。細孔制御層52は、触媒層に対向する側に位置するように、ベース層51の表面51uに積層されている。第1シート11で形成されたベース層51と第2シート12で形成された細孔制御層52との境界域には、撥水性を有するPTFE(接着材)が介在しており、両者の接着性が高められている。
【0047】
ベース層51の厚みは細孔制御層52の厚みよりも厚くされている。具体的には、ベース層51の厚みは100〜400マイクロメートル、殊に200〜250マイクロメートルとされている。これに対して、細孔制御層52の厚みは10〜50マイクロメートル、殊に20〜40マイクロメートルとされている。但し、厚みはこれらに限定されるものではなく、燃料電池に応じて適宜選択できる。
【0048】
ベース層51は、導電性を有する第1導電繊維としての第1カーボン繊維と、撥水性を有する第1接着材(PTFE)とを基材としている。細孔制御層52は、導電性を有する第2導電繊維としての第2カーボン繊維と、撥水性を有する第2接着材(PTFE)とを基材としている。ここで、細孔制御層52のカーボン繊維の長さは、ベース層51のカーボン繊維の長さよりも相対的に短くされている。この結果、細孔制御層52の細孔の平均細孔径(モード径)は、ベース層51の細孔の平均細孔径(モード径)よりも相対的に小さくされている。モード径は前記したように最頻度径を意味する。
【0049】
ここで本実施形態によれば、ベース層51の第1カーボン繊維の長さは、1〜5ミリメートルの範囲内、殊に2〜4ミリメートルの範囲内、2.5〜3.5ミリメートルの範囲内とされている。これに対して、細孔制御層52の第2カーボン繊維の長さは、5〜500マイクロメートルの範囲内、殊に8〜100マイクロメートルの範囲内、8〜50マイクロメートルの範囲内、更には15〜20マイクロメートルの範囲内とされている。但し、長さはこれらに限定されるものではない。
【0050】
ベース層51の細孔の平均細孔径(モード径)は、20〜100マイクロメートルの範囲内、殊に25〜80マイクロメートルの範囲内、20〜60マイクロメートルの範囲内とされている。これに対して細孔制御層52の細孔の平均細孔径(モード径)は、4〜30マイクロメートルの範囲内、殊に6〜25マイクロメートルの範囲内、6〜10マイクロメートルの範囲内とされている。要するに、細孔制御層52の細孔の平均細孔径(モード径)は、ベース層51の細孔の平均細孔径(モード径)よりも相対的に小さくされている。
【0051】
本実施形態によれば、仮に、ガス拡散層5全体における細孔径を大きくさせると、ガス拡散層5を流れる反応ガスの流量が確保され、更に、燃料電池の内部において発生した水を排出させる性能が確保されるものの、触媒層に向かう反応ガスの流量の均一性を高めるように細孔径を調整しにくいおそれがある。また、仮に、ガス拡散層5全体における細孔径を小さくさせると、ガス拡散層5を流れる反応ガスの流量が確保されにくくなり、更に、燃料電池の内部において発生した水を排出させる性能が低下するおそれがある。
【0052】
そこで、本実施形態によれば、ガス拡散層5は、配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層51と、触媒層に対向する側に位置するようにベース層51に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層52とを備えている。更に、細孔制御層52を構成するカーボン繊維の長さは、ベース層51を構成するカーボン繊維の長さよりも相対的に短くされているため、ベース層51における細孔の細孔径は、細孔制御層52の細孔の細孔径よりも相対的に大きくされている。これによりガス拡散層5を流れる反応ガスの流量、燃料電池で生成された水の排出性を確保しつつ、燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層52の細孔の細孔径を設定することができる。
【0053】
更に本実施形態によれば、第2シート12で形成される細孔制御層52のうち触媒層に対向する側の表面52uには、ガス透過性を有する多孔質の塗工層54が積層されている。塗工層54は、ガス透過性を確保しつつ、ガス拡散層5に含まれているカーボン繊維が電解質膜に刺さることを抑制することができ、電解質膜の保護性を高めることができる。第2流動物46で形成された塗工層54は、カーボンブラック(微小粉末状の導電物質)およびPTFE(撥水性を有する接着材)を主要成分として含む。このため第2シート12で形成された細孔制御層52と触媒層との間における導電性および撥水性を確保するのに貢献できる。
【0054】
なお本実施形態によれば、第2シート12の細孔径よりも第1シート11の細孔径が相対的に大きいため、第1シート11におけるパルプ材の蒸散性が確保されている。従って、万一、第2シート12に形成される細孔が過剰に小さい場合において、第2シート12に含まれているパルプ材が焼失時に第2シート12の細孔から蒸散されにくいときであっても、細孔径が大きくなる第1シート11の細孔からの蒸散が期待される。
【0055】
本実施形態によれば、第1シート11に含まれている第1カーボン繊維としては、直線性が高いカーボン繊維でもよいし、カール性が高いカーボン繊維でも良いし、両者の混合物でも良い、直線性が高いカーボン繊維としてはPAN系カーボン繊維が例示される。カール性が高いものとしては、ピッチ系カーボン繊維が例示される。第2シート11に含まれている第2カーボン繊維についても同様である。
【0056】
(試験例)
上記した実施形態1に係る製造方法で製造した実施例に係るガス拡散層5について細孔分布を測定した。この場合、ベース層51と細孔制御層52とが積層したガス拡散層5を所定のサイズに切断した試験片を作製した。ここで、ベース層51のカーボン繊維の長さは300マイクロメートルであり、細孔制御層52のカーボン繊維の長さは30マイクロメートルであった。ベース層51の厚みは300マイクロメートルであり、細孔制御層52の厚みは150マイクロメートルであった。この試験片について、水銀圧入を行う試験装置(製造者:島津製作所株式会社,型式:オートポア9500)を用いて実施した。
【0057】
比較例に係るガス拡散層を形成し、これについても同様に試験した。比較例に係るガス拡散層は、小さな細孔を有する細孔制御層を備えておらず、基本的には本発明品におけるベース層に相当する。なお、比較例に係るガス拡散層を構成するカーボン繊維の長さは約15〜20マイクロメートルであった。比較例に係るガス拡散層については、実施例に係るガス拡散層5と厚み、見掛け容積は同一とされている。図3は測定結果を示す。図3において、特性線M1は実施例に係る試験片の特性を示す。特性線M2は比較例に係るガス拡散層の試験片の特性を示す。
【0058】
実施例においては、特性線M1に示すように、細孔径が50〜80マイクロメートル付近においてピークP1が得られていると共に、細孔径が8〜20マイクロメートルにおいてピークP2が得られている。ピークP1は、ベース層51に形成されている細孔が影響しているものと推察される。ピークP2は、細孔制御層52に形成されている細孔が影響しているものと推察される。
【0059】
比較例においては、特性線M2に示すように、細孔径が50〜80マイクロメートル付近において極めて大きいピークP3が得られていると共に、細孔径が1〜2マイクロメートルにおいてピークP4が得られている。なお、近年、水の排出性を確保するには、細孔径8〜20マイクロメートルの細孔が有効と考えられているが、実施例に係るガス拡散層5において、この範囲の細孔は、比較例に係るガス拡散層よりも多い。
【0060】
(実施形態2)
図4は実施形態2を示す。本実施形態は、実施形態1で形成したガス拡散層5を用いて膜電極接合体6を形成し、膜電極接合体6を燃料電池を組み込んだものである。ここで、燃料側には『f』の符号を付する。酸化剤側には『o』の符号を付する。図4に示すように、膜電極接合体6は、厚み方向において、燃料用のガス拡散層5fと、燃料用の触媒層63fと、固体高分子型の電解質膜60(例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂等の炭化フッ素系樹脂が採用されるが、炭化水素系樹脂でも良い)と、酸化剤用の触媒層63oと、酸化剤用のガス拡散層5oとを積層して形成されている。図4に示すように、燃料電池は、膜電極接合体6と、膜電極接合体6のうち酸化剤用のガス拡散層5oに対面する酸化剤用の配流板65o(反応ガスの配流板)と、膜電極接合体6のうち燃料用のガス拡散層5fに対面する燃料用の配流板65f(反応ガスの配流板)とを有する。燃料は水素ガスまたは水素含有ガスである。水素は燃料極(アノード)における活物質である。酸化剤は酸素である。酸素は酸化剤極(カソード)における活物質である。
【0061】
燃料用の配流板65fは、燃料用のガス拡散層5fに燃料を供給する多数の流路溝67fと、流路溝67fに連通する供給口68fと、吐出口69fとをもつ。酸化剤用の配流板65oは、酸化剤用のガス拡散層5oに酸化剤を供給する多数の流路溝67oと、流路溝67oに連通する供給口68oと、吐出口69oとをもつ。発電運転時には、酸化剤用のガス供給口68oより酸化剤用の流路溝67oを介して酸化剤用のガス拡散層5oに酸化剤用ガス(一般的には空気)を供給する。同様に、燃料用の供給口68fより燃料用の流路溝67fを介して燃料用のガス拡散層5fに燃料用ガス(水素ガス)を供給する。
【0062】
(実施形態3)
本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1を準用する。第1塗工装置41で第1シート11に塗工される第1流動物45、第2塗工装置42で第2シート12に塗工される第2流動物46に配合されている接着材としては、高い撥水性を有するPTFEの他に、フッ素樹脂以外の第2の樹脂が配合されている。第2の樹脂としては、ウレタン等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が用いることができる。これによりガス拡散層5の強度を更に高めるのに有利となる。この場合、第1流動物45において、質量比で、カーボンブラック/フッ素樹脂(固形分)の比率としては、(8〜13)/(2〜6)、殊に11/4とすることができる。更に、質量比で、フッ素樹脂/第2の樹脂=5〜35%、殊に6〜15%とすることができる。但しこれに限定されるものではない。第2流動物46についても粘度を除いて同様にできる。
【0063】
(実施形態4)
図5は実施形態4を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1を準用する。本実施形態においても、実施形態1と同様に、第2シート12のうち第1シート11と反対側の表面12uに第2流動物46を残留させ、表面12uに塗工層54を形成することができる。つまり、第2シート12で形成される細孔制御層52のうち触媒層に対向する側の表面52uに塗工層54を積層させることができる。この結果、ベース層51および細孔制御層52に含まれているカーボン繊維が電解質膜60を刺すことが塗工層54により効果的に抑えられる。
【0064】
更に本実施形態によれば、第1流動物45の粘度は実施形態1の場合よりも高められており、ベース層51を形成する第1シート11の厚み方向への含浸性は抑えられている。このため第1塗工装置41で第1シート11のうち第2シート12に対向する側の表面11uに載せられて塗工された第1流動物45が第1シート11のうち表面11u(すなわち、第1シート11のうち第2シート12に対向する側の表面)に残留する確率が増加する。
【0065】
この結果、焼成工程後において、第1シート11で形成されるベース層51と第2シート12で形成される細孔制御層52との境界域に、中間塗工層54mが形成される。中間塗工層54mは、カーボンブラック(微小粉末状の導電物質)およびPTFE(撥水性を有する接着材)を主要成分として含む。このため、第1シート11と第2シート12との境界域における導電性および撥水性を確保すると共に、第1シート11と第2シート12との接合性を確保することができ、ひいてはベース層51と細孔制御層52との接合性を更に確保することができる。更に、ベース層51に含まれている第1カーボン繊維(細孔制御層52に含まれている第2カーボン繊維よりも長さが長い)が電解質膜60を刺すことが中間塗工層54mにより効果的に抑えられる。なお、中間塗工層54mは多孔質であり、厚み方向におけるガス透過性を有する。
【0066】
(実施形態5)
図6は実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有するため、図1を準用する。本実施形態においては、第2塗工装置42により、第2シート12のうち第1シート11と対向する側の表面12d(製造時において第2シート12の下面に相当する)に、第2流動物46を残留させ、表面12dに中間塗工層54mを形成することができる。この場合、第2塗工装置42において、図1に示す塗工方向である矢印P1と反対方向から塗工させることにより行うことができる。
【0067】
このような本実施形態によれば、製造されたガス拡散層5においては、図6に示すように、第1シート11で形成されるベース層51と第2シート12で形成される細孔制御層52との境界域に、中間塗工層54mが介在する。
【0068】
中間塗工層54mは少なくとも厚み方向にガス透過性を発揮できる多孔質であり、前述したようにカーボンブラックおよびPTFE(撥水性を有する接着材)を主要成分として含むため、第1シート11と第2シート12との境界域における導電性および撥水性を確保することができる。更に第1シート11と第2シート12との接合性を更に確保することができる。即ち、ベース層51と細孔制御層52との接合性を更に確保することができる。更に、ガス拡散層5が燃料電池に組み付けられているとき、ベース層51に含まれている第1カーボン繊維(細孔制御層52に含まれている第2カーボン繊維よりも繊維長さが長い)が、電解質膜60を刺すことが中間塗工層54mにより効果的に抑えられる。なお本実施形態によれば、図6に示すように、細孔制御層52のうち触媒層側の表面52uには塗工層が実質的に積層されていない。
【0069】
(実施形態6)
図7は実施形態6を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用効果を有する。本実施形態によれば、第1シート11に塗工されたインク状の第1流動物45の粘度が低いため、含浸性が高くなり、第1流動物45が第1シート11のうち第2シート12に対向する側の表面11uに載せて塗工されたとき、第1流動物45の全部または大部分は重力、表面張力等の影響により第1シート11の厚み方向に含浸している。
【0070】
同様に、第2シート51に塗工されたインク状の第2流動物46の粘度が低いため、含浸性が高くなり、第2流動物46が第2シート12のうち触媒層に対向する側の表面12uに塗工されたとき、第2流動物46の全部または大部分は重力、表面張力等の影響により第2シート12の厚み方向に含浸している。従って、第2シート12で形成された細孔制御層52のうち触媒層側の表面52u(12u)には塗工層が実質的に積層されていない。
【0071】
なお本実施形態によれば、ガス拡散層の厚みを100として相対表示するとき、ベース層の厚みは60〜70とされており、残りが細孔制御層とされている。
【0072】
(その他)
上記した実施形態1によれば、細孔制御層のうち触媒層側に塗工層54が塗工されているているが、場合によっては塗工層54を廃止しても良い。ベース51に含まれている第1カーボン繊維の長さ、細孔制御層52に含まれている第2カーボン繊維の長さについては、上記した値に限定されるものではなく、適宜変更できる。接着材としてはPTFEに限らず、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオロライド、トリフルオロエチレンクロライド、ビニルフロライド、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル等の単独または共重合物としても良い。
【0073】
上記した実施形態1によれば、抄紙法で形成された第1シート11および第2シート12はそれぞれカーボンペーパとされているが、これに限らず、カーボン繊維を織物化してカーボンクロスとしても良い。
【0074】
実施形態1によれば、第2シート12を乾燥させる第2乾燥炉25における乾燥温度は、第1シート11を乾燥させる第1乾燥炉24における乾燥温度よりも低温とされているが、これに限らず、焼成前の第2シート12の内部でのボイド発生を抑制し、引張強度が確保される限り、同じ温度としても良い。また、第1シート11を乾燥させる乾燥温度、第2シート12を乾燥させる乾燥温度は、必要に応じて設定でき、大気雰囲気において水の沸点温度未満でも、水の沸点温度以上でも良い。
【0075】
第1塗工装置41は第1流動物45を矢印P1に載せて塗工させることにしているが、反対方向としても良い。第2塗工装置42は第2流動物46を矢印P2に載せて塗工させることにしているが、反対方向としても良い。図1において、第1シート11は第2シート12よりも下側に位置しているが、逆としても良い。
【0076】
電解質膜60は固体高分子型とされているが、これに限らず、ガラス物質等の無機系、無機および有機の混合系とすることができる。燃料電池は固体高分子型燃料電池に限らず、固体酸化物形燃料電池、りん酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池でも良い。その他、本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。上記した実施形態によれば、第2乾燥炉25において第2シート12を乾燥させる乾燥温度は、第1乾燥炉24において第1シート11を乾燥させる乾燥温度よりも低くされているが、これに限定されるものではなく、支障がなければ、同じ温度としても良い。
【0077】
本明細書から次の技術的思想が把握される。
(付記項1)厚み方向において、燃料用のガス拡散層と、燃料用の触媒層と、電解質膜と、酸化剤用の触媒層と、酸化剤用のガス拡散層とが積層されている膜電極接合体において、燃料用のガス拡散層および酸化剤用のガス拡散層のうちの少なくとも一方は、各請求項に係るガス拡散層で形成されていることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層における細孔径を設定するのに有利となる。
(付記項2)厚み方向において、燃料用の配流板と、燃料用のガス拡散層と、燃料用の触媒層と、電解質膜と、酸化剤用の触媒層と、酸化剤用のガス拡散層と、酸化剤用の配流板とが積層されている燃料電池において、燃料用のガス拡散層および酸化剤用のガス拡散層のうちの少なくとも一方は、各請求項に係るガス拡散層で形成されていることを特徴とする燃料電池。燃料電池の運転条件に合わせて、細孔制御層における細孔径を設定するのに有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施形態1に係り、製造過程を示す模式図である。
【図2】実施形態1に係り、ガス拡散層を模式的に示す断面図である。
【図3】ガス拡散層の細孔分布を測定して測定結果を示すグラフである。
【図4】実施形態2に係り、燃料電池を模式的に示す断面図である。
【図5】実施形態4に係り、ガス拡散層を模式的に示す断面図である。
【図6】実施例形態5に係り、ガス拡散層を模式的に示す断面図である。
【図7】実施例形態6に係り、ガス拡散層を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
11は第1シート、12は第2シート、13は積層シート、24は第1乾燥炉、25は第2乾燥炉、3は熱プレス装置、31は第1加圧ロール、32は第2加圧ロール、36は焼成炉、38は厚み調整ロール、41は第1塗工装置、42は第2塗工装置、5はガス拡散層、51はベース層、52は細孔制御層、54は塗工層、6は膜電極接合体、60は電解質膜、63o,63fは触媒層、65o,65fは配流板を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配流板から供給される反応ガスを触媒層に拡散させるための燃料電池用ガス拡散層であって、
前記配流板に対向する側に配置されるガス透過性を有する多孔質のベース層と、前記触媒層に対向する側に位置するように前記ベース層に積層されたガス透過性を有する多孔質の細孔制御層とを具備しており、
前記ベース層は、導電性を有する第1導電繊維と撥水性を有する第1接着材とを基材としており、前記細孔制御層は、導電性を有する第2導電繊維と撥水性を有する第2接着材とを基材としており、
前記細孔制御層の第2導電繊維の長さは、前記ベース層の第1導電繊維の長さよりも相対的に短くされており、前記細孔制御層の細孔の平均細孔径は、前記ベース層の細孔の平均細孔径よりも相対的に小さくされている燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
請求項1において、前記細孔制御層のうち前記触媒層に対向する側に、ガス透過性を有する多孔質の塗工層が積層されていることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
請求項1または2のうちのいずれか一項において、前記ベース層と前記細孔制御層との境界域には、ガス透過性を有する多孔質の中間塗工層が介在していることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項において、前記ベース層と前記細孔制御層との境界域には、前記ベース層と前記細孔制御層との接着性を高める接着材が介在していることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
配流板から供給される反応ガスを触媒層に拡散させるための燃料電池用ガス拡散層を製造する製造方法であって、
導電性を有する第1導電繊維と前記第1導電繊維の絡み性を高める焼失可能な第1絡み促進物質と撥水性を有する第1接着材を基材として含む未焼成の第1シートを形成し、且つ、導電性を有する第2導電繊維と前記第2導電繊維の絡み性を高める焼失可能な第2絡み促進物質と撥水性を有する第2接着材を基材として含むと共に前記第1シートよりも厚みが薄い未焼成の第2シートを形成するシート形成工程と、
その後、前記第1シートおよび前記第2シートをこれらの厚み方向に重ねた状態で、前記第1シートおよび前記第2シートを厚み方向に加圧して積層シートを形成する積層工程と、
その後、前記積層シートを加熱することにより、前記積層シートの前記第1シートに含まれている前記第1絡み促進物質および前記第2シートに含まれている前記第2絡み促進物質を焼失させ、且つ、前記第1シートに含まれている前記第1接着材および前記第2シートに含まれている前記第2接着材を焼成させる焼成工程とを実施することを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記積層工程は、回転可能な複数の加圧ロールを有する熱プレス装置を用い、前記熱プレス装置の前記加圧ロール間に前記第1シートおよび前記第2シートを重ねた状態で挿入させて行われ、
前記焼成工程は、前記第1シートおよび前記第2シートを重ねた状態に圧着させた前記積層シートを焼成炉に通すことにより行われることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6において、前記シート形成工程は、
前記第1導電繊維と前記第1導電繊維の絡み性を高める焼失可能な前記第1絡み促進物質とを基材として含む前記第1シートを作製した後、撥水性を有する前記第1接着材を含む第1流動物を前記第1シートの表面に接触させて塗工させる工程と、前記第2導電繊維と前記第2導電繊維の絡み性を高める焼失可能な前記第2絡み促進物質とを基材として含む前記第2シートを形成した後、撥水性を有する前記第2接着材を含む第2流動物を前記第2シートの表面に接触させて塗工させる工程とを包含することを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記第2流動物の粘度は前記第1流動物の粘度よりも高いことを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のうちの一項において、前記シート形成工程と前記積層工程との間において、前記第1シートを乾燥させる操作と前記第2シートを乾燥させる操作とを実施し、前記第2シートを乾燥させる乾燥温度は、前記第1シートを乾燥させる乾燥温度よりも低くされていることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−102879(P2010−102879A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271845(P2008−271845)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】