説明

燃料電池用ガス拡散層の作製方法

【課題】燃料電池の耐久性の向上や発電性能の低下の抑制が可能な技術を提供する。
【解決手段】燃料電池の膜電極接合体に用いられるガス拡散層は、多孔質性を有する拡散基材層を準備し、拡散基材層上に拡散基材層よりも微細な多孔質性を有する微多孔質層を形成することにより作製される。微多孔質層は、粒子径または比表面積が異なる複数の酸化セリウムを用意し、複数の酸化セリウムを所定の割合で混合して混合酸化セリウムを作製するとともに、混合酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む微多孔質層形成部材を作製し、微多孔質層形成部材を拡散基材層上に塗工することにより形成される。また、酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む複数の異なる物質の各粒子が略球状にまとまった造粒体を作製するとともに、造粒体と撥水性部材と導電性部材とを含む微多孔質層形成部材を作製し、微多孔質形成部材を拡散基材層上に塗工するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、通常、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下MEAと呼ぶ。)と、MEAを挟持するセパレータと、を備えるセルを直列に積層して構成される。MEAは、電解質膜と、電解質膜の両側上に形成された触媒層と、各触媒層上に形成されたガス拡散層と、を備える。
【0003】
燃料電池の発電時には、上記セル内の触媒層における電気化学反応により電気エネルギーが取り出されるとともに、水(H0)が生成される。また、この電気化学反応の途中において、過酸化水素(H)が生成される場合がある。この過酸化水素は、反応性の高いOHラジカルの発生要因となり、このOHラジカルは、MEAの触媒層や電解質膜の電解質成分(アイオノマー)を劣化させる要因となる。
【0004】
そして、従来から、MEAのガス拡散層に酸化セリウムを配合し、酸化セリウムや酸化セリウムから溶出されるセリウムイオンの過酸化水素分解性能により過酸化水素量を抑制して、MEAの劣化を抑制することにより、発電性能の低下を抑制することが行われている。例えば、カーボンペーパー等の拡散基材層上に微多孔質層(マイクロポーラス層:MPL)が形成され拡散層において、MPL中に酸化セリウムを配合することが行われている。しかしながら、従来のように拡散層に酸化セリウムを配合する場合、MEAの劣化の抑制効果にのみ着目して酸化セリウムを使用しており、MEAの劣化の抑制効果を長期間持続させること、すなわち、耐久性について考慮されていなかった。また、酸化セリウムは非導電性であるため、これを配合すると、ガス拡散層の抵抗が増大するため、酸化セリウムを配合しない場合に比べて、発電性能、具体的には、発生電圧の低下を招く。
【0005】
ここで、耐久性の観点からすると、酸化セリウムの溶出速度を遅くしてMEAの拡散層に配合された酸化セリウムが全て消失してしまう時間を遅らせることが好ましく、単純には、粒径の大きな酸化セリウムを利用することや酸化セリウム量を増加することが考えられる。しかしながら、粒径の大きな酸化セリウムは、例えば既製品の酸化セリウムをそのまま利用した場合、それに含まれる酸化セリウムの粒子径の分布は非常に広範囲になり、100μmに達するような粗大粒子も含まれる場合がある。このような粗大粒子を含む酸化セリウムを配合した拡散層を触媒層上に形成した場合、触媒層や電解質膜の損傷を引き起こす可能性があるため、単純に粒径の大きな酸化セリウムを使用することは困難であった。また、単純に粒径の大きな酸化セリウムを用いた場合、あるいは、酸化セリウム量を増加した場合には、上述したように、酸化セリウム自体は非導電性であるため、ガス拡散層の抵抗値が増加して発電性能の低下を招く。また、酸化セリウムは親水性であるため、酸化セリウムが配合されている拡散層に発電時に生成される水が留まって、いわゆるフラッディングが発生することによる発電性能の低下が発生するという問題もある。すなわち、従来のような酸化セリウムが配合された拡散層では、耐久性の点や発電性能の点で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−073352号公報
【特許文献2】特開2009−245871号公報
【特許文献3】特開2008−262741号公報
【特許文献4】特開2009−193777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、燃料電池の耐久性の向上や発電性能の低下の抑制が可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
燃料電池を構成する膜電極接合体に用いられるガス拡散層の作製方法であって、
多孔質性を有する拡散基材層を準備する工程と、
前記拡散基材層上に前記拡散基材層よりも微細な多孔質性を有する微多孔質層を形成する工程と、を備え、
前記微多孔質層は、粒子径または比表面積が異なる複数の酸化セリウムを用意し、前記複数の酸化セリウムを所定の割合で混合して混合酸化セリウムを作製するとともに、前記混合酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む微多孔質層形成部材を作製し、前記微多孔質層形成部材を前記拡散基材層上に塗工することにより形成される
ことを特徴とするガス拡散層の作製方法。
酸化セリウムは、粒子径が小さいほどまたは比表面積が大きい粒子ほど速く溶出する。従って、燃料電池を構成する膜電極接合体に適用例1により作製されたガス拡散層を用いた場合、燃料電池の使用初期には、粒子径の小さいまたは比表面積の大きい酸化セリウムが微多孔質層から溶出して、膜電極接合体で発生する過酸化水素を分解してOHラジカルの発生を抑制する効果を発揮する。そして、微多孔質層には、燃料電池の長期間の使用により、粒子径の小さい酸化セリウムが溶出して消失したとしても、粒子径の大きいまたは比表面積の小さい酸化セリウムが消失せずに存在するように、粒子径または比表面積が異なる複数の酸化セリウムが所定の割合で含まれているので、燃料電池の粒子径の大きいまたは比表面積の小さい酸化セリウムが微多孔質層から溶出して、膜電極接合体で発生する過酸化水素を分解してOHラジカルの発生を抑制する効果を発揮することができる。これにより、燃料電池の耐久性を向上させることが可能である。
【0010】
[適用例2]
燃料電池を構成する膜電極接合体に用いられるガス拡散層の作製方法であって、
多孔質性を有する拡散基材層を準備する工程と、
前記拡散基材層上に前記拡散基材層よりも微細な多孔質性を有する微多孔質層を形成する工程と、を備え、
前記微多孔質層は、酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む複数の異なる物質の各粒子が略球状にまとまった造粒体を作製するとともに、前記造粒体と前記撥水性部材と前記導電性部材とを含む微多孔質層形成部材を作製し、前記微多孔質形成部材を前記拡散基材層上に塗工することにより形成される
ことを特徴とするガス拡散層の作製方法。
燃料電池を構成する膜電極接合体に適用例2により作製されたガス拡散層を用いた場合、微多孔質層に含まれる造粒体は、酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む複数の異なる物質の各粒子がまとまった構造を有しており、酸化セリウム単体の場合に比べて、溶出の速度がなだらかになるので、過酸化水素分解性能を長期間持続することが可能となる。また、造粒体は、角張った酸化セリウムの粉体とは異なり、略球形の構造を有しているので、膜電極接合体の損傷を抑制することが可能である。さらにまた、造粒体は、酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含んでいるので、酸化セリウムが親水性および非導電性であるのに対して、造粒体としては撥水性および導電性を高めることができ、拡散層に水が滞留することによる発電性能の低下を抑制することが可能であり、酸化セリウムによる抵抗値の増大を抑制して、発電性能の低下を抑制することが可能である。
【0011】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池を構成する膜電極接合体に用いられるガス拡散層の作製方法だけでなく、ガス拡散層、このガス拡散層を用いた膜電極接合体や膜電極接合体の作製方法、この膜電極接合体を用いた燃料電池や燃料電池の作製方法等の種々の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。
【図2】MEA16の作製手順を示す説明図である。
【図3】アノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15の作製手順を示す説明図である。
【図4】第1実施形態のガス拡散層の構造を示す説明図である。
【図5】第2実施形態のガス拡散層の構造を示す説明図である。
【図6】実施例および比較例のガス拡散層を作製する際に用いた酸化セリウムの種類と物性の一覧表である。
【図7】各実施例および比較例の電池評価結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施形態:
B.実施例:
C.変形例:
【0014】
A.実施形態:
A1.燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。燃料電池100は、膜電極接合体(以下、「MEA」(Membrane-Electrode Assembly)とも呼ぶ)16と、アノード側セパレータ17と、カソード側セパレータ18と、を備えている。アノード側セパレータ17とカソード側セパレータ18とは、MEA16を挟み込むように配置されている。
【0015】
MEA16は、電解質膜11と、アノード側触媒層12と、カソード側触媒層13と、アノード側拡散基材層14aおよびアノード側微多孔質層(MPL)14bを含むアノード側ガス拡散層14と、カソード側拡散基材層15aおよびカソード側微多孔質層(MPL)15bを含むカソード側ガス拡散層15と、を備えている。アノード側触媒層12は、電解質膜11上に形成されている。アノード側ガス拡散層14は、アノード側触媒層12の外側に、アノード側MPL14bが接するように形成されている。なお、カソード側の構成は、アノード側の構成と電解質膜11を挟んで対称になっている。
【0016】
電解質膜11は、スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜であり、デュポン社のナフィオン(登録商標)や、旭化成(株)のアシプレックス(登録商標)や、旭硝子(株)のフレミオン(登録商標)等を用いることができる。なお、電解質膜11としては、スルホン酸基に限らず、リン酸基やカルボン酸基など、他のイオン交換基(電解質成分)を含む膜を用いることができる。
【0017】
アノード側触媒層12およびカソード側触媒層13は、触媒として機能する白金等の白金族金属や白金族元素の合金が、導電性物質として機能するカーボンブラック等の炭素系材料に担持された触媒担持カーボンと、電解質膜11と同様の電解質成分と、から構成される。
【0018】
アノード側ガス拡散層14のアノード側拡散基材層14aおよびカソード側ガス拡散層15のカソード側拡散基材層15aは、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスやガラス状カーボン等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、撥水性を得るために、拡散層用基材を、撥水ペーストでコーティング(撥水処理)したものを用いることができる。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)との混合溶液を用いることができる。アノード側ガス拡散層14のアノード側MPL14bおよびカソード側ガス拡散層15のカソード側MPL15bは、アノード側拡散基材層14aおよびカソード側拡散基材層15aよりも微細な気孔を有しており、過酸化水素分解のための酸化セリウムと、導電性部材としてのカーボンブラックと、撥水性部材としてのPTFEと、から構成される。
【0019】
以上のように、MEA16はガス拡散層も含むことから、MEGA(Membrane-Electrode&Gas. Diffusion Layer Assembly)と呼ぶこともできる。なお、ガス拡散層の詳細構成については後述する。
【0020】
アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ18は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板によって構成することができる。アノード側セパレータ17の表面は凸凹形状となっており、アノード側ガス拡散層14のアノード側拡散基材層14aとの間には、燃料ガスが流れる燃料ガス流路17aが形成されている。同様にして、カソード側セパレータ18とカソード側ガス拡散層15のカソード側拡散基材層15aとの間には、酸化ガスが流れる酸化ガス流路18aが形成されている。なお、図1の例では、アノード側セパレータ17は、互いに平行な複数の溝から成る凸凹形状を有しているが、これに限らず、アノード側セパレータ17とアノード側拡散基材層14aとの間に燃料ガスの流路を形成可能な任意の形状とすることができる。また、カソード側セパレータ18についても同様に、カソード側セパレータ18とカソード側拡散基材層15aとの間に酸化ガスの流路を形成可能な任意の形状とすることができる。
【0021】
A2.燃料電池の作製方法:
図1に示した燃料電池100は、MEA16をアノード側セパレータ17とカソード側セパレータ18でMEA16の両側から挟み込むことにより作製することができる。そして、MEA16およびMEA16に備えられる2つのガス拡散層14,15は、それぞれ以下で説明するように作製することができる。
【0022】
図2は、MEA16の作製手順を示す説明図である。MEA16は、電解質膜11上にアノード側触媒層12およびカソード側触媒層13が形成されたいわゆる膜電極接合体の、アノード側触媒層12上にアノード側ガス拡散層14のアノード側MPL14bが接するように貼り合わせるとともに、カソード側触媒層13上にカソード側ガス拡散層15のカソード側MPL15bが接するように貼り合わせて加熱圧着することにより、作製することができる。なお、アノード側触媒層12およびカソード側触媒層13の形成は、例えば、上述した触媒担持カーボンおよび電解質成分を含む触媒インクを電解質膜11上に塗工し乾燥させることにより実行することができる。
【0023】
図3は、アノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15の作製手順を示す説明図である。アノード側ガス拡散層14は、カーボンペーパー等のアノード側拡散基材層14a上に、MPL用ペーストPmplを塗工して焼成することにより作製することができる。カソード側ガス拡散層15も、同様にして作製することができる。なお、MPL用ドライ粉体を塗工して焼成することにより作製することもできる。
【0024】
なお、MPL用ペーストPmplの組成に応じて、以下で説明する2つの実施形態のガス拡散層が形成される。
【0025】
A3.第1実施形態のガス拡散層:
図4は、第1実施形態のガス拡散層の構造を示す説明図である。第1実施形態のガス拡散層14,15のMPL14b,MPL15bを形成するためのMPL用ペーストPmplは、混合酸化セリウムと、導電性部材としてのカーボンブラックと、撥水性部材としてのPTFEをあらかじめ決定した組成比で混合したものである。混合酸化セリウムは、粒径が異なる複数の酸化セリウムを、酸化セリウムの溶出による過酸化水素の分解の効果が所望の期間維持できるように決定した比率で配合したものである。そして、図3に示すように、このMPL用ペーストPmplをカソード側拡散基材層15a上に塗工して焼成することにより、カソード側ガス拡散層15を作製することができる。同様に、アノード側ガス拡散層14も作製することができる。そして、図2に示すように、電解質膜11上にアノード側触媒層12およびカソード側触媒層13が接合された膜電極接合体の上に、アノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15を貼り合わせてMEA16を作製することができる。
【0026】
このようにして作製されたMEA16において、図4に示すように、カソード側MPL15bには、粒径の異なる複数の酸化セリウム粒子PCeが含まれている。そして、このMEA16が用いられた燃料電池の利用開始初期には、粒径の小さい(比表面積の大きい)酸化セリウムが早く溶出し、過酸化水素の分解効果を発揮する。そして、長期間の利用により、粒径の小さい酸化セリウムが溶出して消失してしまった後も、大きな粒径の酸化セリウムは溶出速度が遅いので、カソード側MPL15bには、大きな粒径の酸化セリウムが残存することになり、これにより過酸化水素分解の効果を持続させることができる。なお、アノード側MPL14bにも、同様に、異なる複数の酸化セリウム粒子PCeが含まれており、カソード側MP15bに含まれる酸化セリウムに比べてその効果は弱いが、同様に、過酸化水素の分解効果を長期間持続させることができる。また、混合酸化セリウムを作製する際に用いる粒径の異なる酸化セリウムは、粒径が非常に大きく、膜の損傷の可能性が高い粗大粒子を、あらかじめふるい処理、例えば、気流式ふるい処理、により除去したものを用いることとする。これにより、ガス拡散層が接合される膜電極接合体の電解質膜や触媒層の損傷を抑制することが可能である。
【0027】
A4.第2実施形態のガス拡散層:
図5は、第2実施形態のガス拡散層の構造を示す説明図である。第2実施形態のガス拡散層14,15のMPL14b,15bを形成するためのMPL用ペーストPmplは、酸化セリウム含有造粒体と、導電性部材としてのカーボンブラックと、撥水性部材としてのPTFEをあらかじめ決定した組成比で混合したものである。酸化セリウム含有造粒体は、図5(B)に示すように、酸化セリウムとカーボンブラックとPTFEとを含む水溶液を、スプレードライヤを用いたスプレードライ法によって噴霧乾燥させることによって、酸化セリウムとカーボンブラックとPTFEとがまとまって複合化した略球状の造粒体である。この造粒体の粒径は、水溶液の組成、噴霧乾燥の条件等を設定することにより、略均一で所望な値に制御することができる。そして、図3に示すように、このMPL用ペーストPmplをカソード側拡散基材層15a上に塗工して焼成することにより、カソード側ガス拡散層15を作製することができる。同様に、アノード側ガス拡散層14も作製することができる。そして、図2に示すように、電解質膜11上にアノード側触媒層12およびカソード側触媒層13が接合された膜電極接合体の上に、アノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15を貼り合わせてMEA16を作製することができる。
【0028】
このようにして作製されたMEA16において、カソード側MPL15bには、図5(A)に示すように、粒径が略均一で所望の値に設定された酸化セリウム含有造粒体PPCeが、ガス流路が確保されるように形成される。そして、この酸化セリウム含有造粒体PPCeは、図5(B)に示すように、撥水性部材(PTFE)および導電性部材(カーボンブラック)を含む造粒体であるので、酸化セリウム単体としては、非導電性および親水性であるが、造粒体としては撥水性が高く導電性を有することができる。これにより、発電によって生成される水が留まって発電性能を低下させてしまうのを抑制することができる。また、酸化セリウムを用いたことによる抵抗の増大によって発電性能を低下させてしまうのを抑制することができる。さらに、また、造粒化させたことにより、酸化セリウム単体の場合に比べて、酸化セリウムの溶出速度を遅くすることができるので、酸化セリウムによる過酸化水素の分解効果を長期間持続させることができる。また、造粒体は略球状であるので、膜電極接合体の電解質膜や触媒層の損傷を抑制することができる。
【0029】
B.実施例:
第1実施形態に対応する実施例1および実施例2のガス拡散層と、第2実施形態に対応する実施例3のガス拡散層と、比較例のガス拡散層を、それぞれ、以下で説明するように作製した。そして、作製したガス拡散層を用いてそれぞれMEAを作製し、作製したMEAを用いてそれぞれ燃料電池を作製した。
【0030】
なお、図6は、実施例および比較例のガス拡散層を作製する際に用いた酸化セリウムの種類と物性の一覧表である。図6に示すように、5種類の酸化セリウムA〜Eを用いることとした。酸化セリウムCは標準品であり、メジアン径6μm、比表面積2m/gである。なお、この標準品には、粒径分布として粒径が非常に大きな粗大粒子が含まれる可能性があると考えられるため、38μmよりも大きい粒径の酸化セリウムを除去するように、目開き38μmでふるい処理を行なったものを用いることとした。酸化セリウムDについては、メジアン径が20μmと標準品よりも大きく、粒径分布として粒径が非常に大きな粗大粒子が含まれる可能性があると考えられるので、酸化セリウムCと同様に、ふるい処理を行なったものを用いることとした。また、酸化セリウムEについては、メジアン径は1μmと小さいが、標準品と比べてメジアン径の変化に対応する比表面積の変化が非常に大きいため、粒径分布として粒径が非常に大きな粗大粒子が含まれる可能性があると考えられる。そこで、酸化セリウムEについても、酸化セリウムCと同様に、ふるい処理を行なったものを用いることとした。酸化セリウムA,Bについては、メジアン径が0.014μm,1.2μmと小さく、比表面積も、標準品と比べてメジアン径の変化に対応する比表面積の変化の許容範囲内と考えられる。そこで、これらの酸化セリウムA,Bについては、粒径分布として粒径が非常に大きな粗大粒子が含まれることはほとんど無いと考えられるので、ふるい処理を行なわないものとした。
【0031】
[実施例1]
酸化セリウムA〜DをA:B:C:D=1:1:1:1でブレンドした混合酸化セリウムFを作製した。そして、アセチレンブラック(カーボンブラックの一種):PTFE:混合酸化セリウムFの組成が6:3.5:0.5のMPL用ペーストPmpl(F)を作製した。作製したMPL用ペーストPmpl(F)を拡散基材層上に塗工し、350℃で焼成してガス拡散層G(F)を作製した。このガス拡散層G(F)をアノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15として用いてMEA16を作製した。そして作製したMEA16を用いて燃料電池100を作製した。
【0032】
[実施例2]
酸化セリウムD,EをD:E=1:1でブレンドした混合酸化セリウムGを作製した。そして、アセチレンブラック:PTFE:混合酸化セリウムGの組成が6:3.5:0.5のMPL用ペーストPmpl(G)を作製した。作製したMPL用ペーストPmpl(G)を拡散基材層上に塗工し、350℃で焼成してガス拡散層G(G)を作製した。このガス拡散層G(G)をアノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15として用いてMEA16を作製した。そして作製したMEA16を用いて燃料電池100を作製した。
【0033】
[実施例3]
アセチレンブラック:PTFE:酸化セリウムEの組成が4:2:4の混合水溶液を作製し、この水溶液から、スプレードライ法によりアセチレンブラックとPTFEと酸化セリウムEとが略球状にまとまって複合化したメジアン径20μmの造粒体Sを作製した。そして、アセチレンブラック:PTFE:造粒体Sの組成が3:3.5:3.5のMPL用ペーストPmpl(S)を作製した。作製したMPL用ペーストPmpl(S)を拡散基材層上に塗工し、350℃で焼成してガス拡散層G(S)を作製した。このガス拡散層G(S)をアノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15として用いてMEA16を作製した。そして作製したMEA16を用いて燃料電池100を作製した。
【0034】
[比較例]
アセチレンブラック:PTFE:酸かセリウムBの組成が6:3.5:0.5のMPL用ペーストPmpl(B)を作製した。作製したMPL用ペーストPmpl(B)を拡散基材層上に塗工し、350℃で焼成してガス拡散層G(B)を作製した。このガス拡散層G(B)をアノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15として用いてMEA16を作製した。そして作製したMEA16を用いて燃料電池100を作製した。
【0035】
上記各実施例および比較例のようにして作製した燃料電池の電池評価を行った。電池評価としては、初期および耐久試験後の性能として、電圧対電流特性等の評価を行った。
【0036】
図7は各実施例および比較例の電池評価結果を示す一覧表である。図7に示すように、比較例のガス拡散層を用いた燃料電池では、初期性能もあまり良好ではなく耐久試験後の性能では十分な性能を確保できない結果を得た。第1実施形態のガス拡散層の実施例1,2を用いた燃料電池は、比較例に比べて、初期および耐久試験後の性能において、良好な結果を得ることができた。さらに、第2実施形態のガス拡散層の実施例3を用いた燃料電池では、初期性能および耐久試験後の性能において、実施例1,2よりもさらに良好な結果を得ることができた。
【0037】
以上説明したように、実施例1,2に対応する第1実施形態のガス拡散層を用いた膜電極接合体により構成される燃料電池では、粒径の小さな酸化セリウムが消失しても、粒径の大きな酸化セリウムにより過酸化水素の分解効果を持続させることができ、燃料電池の耐久性を向上させることが可能である。また、酸化セリウムの粗大粒子を除去しているので、膜電極接合体の触媒層や電解質膜の損傷を抑制することができる。
【0038】
また、実施例3に対応する第3実施形態のガス拡散層を用いた膜電極接合体により構成される燃料電池では、酸化セリウムが撥水性部材としてのPTFEと導電性部材としてのカーボンブラックとで複合化された略球状で粒径が略均一な造粒体の一部として構成されている。これにより、MPLから溶出する酸化セリウムの速度が遅くなって過酸化水素の分解効果を長期間化させることが可能となる。また、酸化セリウム単体では親水性であるが、造粒体としては撥水性を高めることが可能となり、ガス拡散層に水が溜まってフラッディングが発生することを抑制して、発電性能が低下することを抑制することが可能となる。さらに、また、酸化セリウム単体は非導電性を有しているが、造粒体としては導電性を高めることが可能となり、酸化セリウムを用いることによる抵抗値の増加を抑制して、発電性能が低下することを抑制することが可能となる。また、造粒体は略球状であるので、酸化セリウム単体のように角張った構造によって膜電極接合体の電解質膜や触媒層を損傷してしまうことを抑制することが可能である。
【0039】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0040】
上述した実施形態では、アノード側ガス拡散層14およびカソード側ガス拡散層15を構成するアノード側MPL14bおよびカソード側MPL15bの両方の構造が第1実施形態または第2実施形態とされている場合を例に説明したが、少なくとも一方のMPLの構造が第1実施形態または第2実施形態とされていればよい。ただし、水が生成されるのはカソード側であり、過酸化水素の生成もカソード側で多くなることを考慮すると、カソード側MPL15bが第1実施形態または第2実施形態とされているほうが、より効果的である。
【0041】
上記実施例では、導電性部材としてカーボンブラックの一種であるアセチレンブラックを用いた例を示している。しかしながら、これに限定されるものではなく、種々のカーボンブラックを用いることができる。また、カーボンブラックだけではなく、種々の炭素系材料を利用することができる。さらにまた、炭素系材料だけでなく、金属材料を用いることもできる。
【0042】
上記実施例では、撥水性部材としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いた例を示している。しかしながら、これに限定されるものではなく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の種々の撥水性部材を用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
11…電解質膜
12…アノード側触媒層
13…カソード側触媒層
14…アノード側ガス拡散層
14a…アノード側拡散基材層
14b…アノード側微多孔質層(アノード側MPL)
15…カソード側ガス拡散層
15a…カソード側拡散基材層
15b…カソード側微多孔質層(カソード側MPL)
17…アノード側セパレータ
17a…燃料ガス流路
18…カソード側セパレータ
18a…酸化ガス流路
100…燃料電池
PPCe…酸化セリウム含有造粒体
PCe…酸化セリウム粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を構成する膜電極接合体に用いられるガス拡散層の作製方法であって、
多孔質性を有する拡散基材層を準備する工程と、
前記拡散基材層上に前記拡散基材層よりも微細な多孔質性を有する微多孔質層を形成する工程と、を備え、
前記微多孔質層は、粒子径または比表面積が異なる複数の酸化セリウムを用意し、前記複数の酸化セリウムを所定の割合で混合して混合酸化セリウムを作製するとともに、前記混合酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む微多孔質層形成部材を作製し、前記微多孔質層形成部材を前記拡散基材層上に塗工することにより形成される
ことを特徴とするガス拡散層の作製方法。
【請求項2】
燃料電池を構成する膜電極接合体に用いられるガス拡散層の作製方法であって、
多孔質性を有する拡散基材層を準備する工程と、
前記拡散基材層上に前記拡散基材層よりも微細な多孔質性を有する微多孔質層を形成する工程と、を備え、
前記微多孔質層は、酸化セリウムと撥水性部材と導電性部材とを含む複数の異なる物質の各粒子が略球状にまとまった造粒体を作製するとともに、前記造粒体と前記撥水性部材と前記導電性部材とを含む微多孔質層形成部材を作製し、前記微多孔質形成部材を前記拡散基材層上に塗工することにより形成される
ことを特徴とするガス拡散層の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−38479(P2012−38479A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175846(P2010−175846)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】