説明

燃料電池用セパレータ

【課題】
反応ガス流路内へ結露した凝縮水が進入することを抑制することにより、燃料電池の動作の安定化に寄与する燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】
反応ガスが供給されるマニホールド120と、マニホールド120と連通する反応ガス導入路130と、反応ガス導入路130と連通し、平行な溝が形成される複数の反応部流路134と、反応ガス導入路130と反応部流路134との間に間挿され、反応部流路134に対応する開口部154が設けられる絞り構造150と、を備える燃料電池用セパレータ110において、反応ガス導入路130に設けられ、液体の水を複数の反応部流路134に分配する液滴分配構造160を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータに関し、具体的には、過加湿の状態で運転される燃料電池システムに用いられる燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ITやバイオなどの新技術が世界規模で展開される時代となったが、そうした状況にあっても、エネルギ産業は最大級の基幹産業であることに変わりはない。最近では、地球温暖化防止をはじめとする環境意識の浸透に伴い、いわゆる新エネルギに対する期待が高まっている。新エネルギは、環境性に加え、電力需要家に近接して分散型で生産できるため、送電損失面と電力供給のセキュリティ面でもメリットがある。また、新エネルギの開発が新たな周辺産業を創出する副次的効果も期待できる。新エネルギに対する取り組みは、約30年前の石油危機を契機として本格化し、現在では、太陽光発電などの再生可能エネルギ、廃棄物発電などのリサイクルエネルギ、燃料電池などの高効率エネルギ、およびクリーンエネルギカーを代表とする新分野エネルギなどのエネルギが、それぞれ実用化に向けた開発の段階にある。
【0003】
そうした中でも、エネルギ変換効率が高く、発電による副産物が水だけであり、しかも発電が天候に影響されず安定的である燃料電池が注目を浴びている。こうした燃料電池の一つとして、100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池が知られており、この固体高分子形燃料電池は、住居用をはじめとする定置型、車載用あるいは携帯用などの用途において次世代のひとつの標準電源と目されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜である固体高分子膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)との間に配した基本構造を有し、燃料極に水素を含む燃料、空気極に酸素を含む酸化剤を供給し、以下の電気化学反応により発電する装置である。
燃料極:H→2H+2e(1)
空気極:1/2O+2H+2e→HO(2)
燃料極においては、供給された燃料中に含まれる水素が上記式(1)に示されるように水素イオンと電子に分解される。このうち水素イオンは固体高分子膜の内部を空気極に向かって移動し、電子は外部回路を通って空気極に移動する。一方、空気極においては、空気極に供給された酸化剤に含まれる酸素が燃料極から移動してきた水素イオンおよび電子と反応し、上記式(2)に示されるように水が生成する。このように、外部回路では燃料極から空気極に向かって電子が移動するため、電力が取り出される。
【0005】
また、燃料極および空気極の外側にはセパレータが設けられる。燃料極側のセパレータには燃料流路が設けられており、燃料極に燃料が供給される。同様に、空気極側のセパレータにも酸化剤流路が設けられ、空気極に酸化剤が供給される。なお、本明細書において、燃料および酸化剤を合わせて「反応ガス」と呼ぶ。また、これらのセパレータ間には、電極を冷却するための冷却水の流路が設けられる。
【0006】
ここで、反応ガスは、通常加湿器により加湿されて導入されるが、反応ガス供給用のマニホールド内において冷却されると、大量の凝縮水が発生する。しかし、従来の燃料電池用セパレータにおいては、反応ガス供給用マニホールドから反応ガス流路への導入部において、冷却を防止する手段は講じられておらず、反応ガス由来の凝縮水がセパレータの反応ガス供給用マニホールド上に堆積したり、反応ガス供給用マニホールドから反応ガス流路に浸入したりするといった問題点があった。このため、従来の燃料電池用セパレータでは、反応ガスの流路が凝縮水によって閉塞され、電極表面への均一な反応ガスの供給が阻害され、燃料電池の出力が低下することがあった。
【特許文献1】特開2004−220828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体高分子形燃料電池において電解質として用いられる固体高分子膜は、湿潤状態でイオン導電性を発現するため、反応ガスを相対湿度100%近い湿度、または100%以上となるように加湿して供給することが望ましい。しかし、相対湿度100%に近い湿度となるように反応ガスを加湿して供給しようとすると、反応ガスがセパレータに設けられた流路の上流側で結露する可能性が高くなる。
【0008】
そこで特許文献1では、反応ガスの流路の入口部に先端が凸状のノズルプレートを配置するとともに水抜きの流路を設け、反応ガスの導入部において結露した凝縮水は反応ガス流路に浸入することなく、水抜き流路から排出される技術が開示されている。しかしながら、このような構成では、凝縮水が大量に発生した場合には、凸部に設けられたノズルプレートの特定の入口から凝縮水が集中して進入し、動作が不安定化する虞がある。
【0009】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、反応ガス流路内へ結露した凝縮水が進入することを抑制することにより、燃料電池の動作の安定化に寄与する燃料電池用セパレータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであって、本発明の燃料電池用セパレータは、反応ガスが供給されるマニホールドと、前記マニホールドと連通する反応ガス導入路と、前記反応ガス導入路と連通し、平行な溝が形成される複数の反応部流路と、前記反応ガス導入路と前記反応部流路との間に間挿され、前記反応部流路に対応する開口部が設けられる絞り構造と、を備える燃料電池用セパレータにおいて、前記反応ガス導入路に設けられ、液体の水を前記複数の反応部流路に分配する液滴分配構造を備えることを特徴とする。
【0011】
これにより、反応ガス導入路にて凝縮した水分あるいは反応ガス導入路に進入してきた水滴は液滴分配構造にて、複数の反応部流路に分配され、特定の絞り構造に設けられた開口や反応部流路に集中して進入することを抑制することができる。
【0012】
したがって、本発明の燃料電池用セパレータによって挟持される燃料電池の動作を安定させることができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の燃料電池用セパレータにおいて、前記液滴分配構造は、前記反応部流路まで延設されることを特徴する。また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の燃料電池用セパレータにおいて、前記液滴分配構造は、前記反応ガス導入路から前記反応部流路へ水分を供給する水分流通機能を有することを特徴とする。これにより、反応ガス導入部にて分配された水分は反応部流路へ均一に供給され、固体高分子膜を湿潤状態に保つことができ、かつ絞り構造に液体の水が詰まってしまうことも回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用セパレータによれば、反応ガス流路内へ結露した凝縮水が進入すること抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の燃料電池用セパレータについて図を用いて詳細に説明する。図1は、本発明に係る燃料電池用セパレータを用いた家庭用燃料電池コージェネレーションシステムCGSのシステム構成図である。家庭用燃料電池コージェネレーションシステムCGSは、LPGや都市ガスなどの原燃料(炭化水素系燃料)を改質し、水素(燃料)を約80%含有する改質ガスを生成する改質装置と、改質装置から供給される改質ガスと空気中の酸素(酸化剤)とにより発電を行う燃料電池10と、改質装置や燃料電池10などから発生する熱を、お湯(40℃以上の水)というかたちで熱回収して貯湯する貯湯装置と、を備えており、発電機能と給湯機能との両方を有するシステムである。
【0016】
家庭に敷設されているLPGや都市ガスなどの原燃料は、通常、ガス漏れに対する安全対策として硫化物によって付臭されているが、この硫化物は改質装置内の触媒を劣化させてしまうので、改質装置では、はじめに脱硫器52によって原燃料中の硫化物を除去する。脱硫器52によって脱硫された原燃料は、次に水蒸気と混合され、改質器54によって水蒸気改質され、変成器56に導入される。そして、変成器56によって、水素約80%、二酸化炭素約20%、一酸化炭素1%以下の改質ガスが生成されるが、一酸化炭素の影響を受けやすい低温(100℃以下)で運転される燃料電池10へ改質ガスを供給する本システムCGSでは、さらに改質ガスと酸素とを混合して、CO除去器58によって一酸化炭素を選択的に酸化する。CO除去器58により、改質ガス中の一酸化炭素濃度を10ppm以下にすることができる。
【0017】
改質装置とは、少なくとも改質器54と変成器56とを含み、本システムCGSのように、家庭に敷設されているガスを原燃料とする場合には脱硫器52を、燃料電池10として固体高分子形燃料電池のような低温タイプの燃料電池10を用いる場合にはCO除去器58を、さらに含むものとする。
【0018】
水蒸気改質は吸熱反応であるため、改質器54にはバーナ60が設けられる。改質装置の起動時には、このバーナ60にも原燃料が供給されて改質器54を昇温し、本システムCGSが安定的に運転できるようになると、バーナ60への原燃料の供給はストップし、燃料電池10から排出される未反応の燃料をバーナ60に供給することで、改質器54へ熱を供給する。バーナ60により改質器54へ熱を供給した後の排気は、まだ大きな熱量をもっているため、この排気は熱交換器HEX01、HEX02にて貯湯タンク62内の水と熱交換される。そして、この水は燃料電池10のカソード14からの排ガスと熱交換(HEX03)し、さらにアノード22からの排ガスとも熱交換(HEX04)して貯湯タンク62に戻る。この熱交換器HEX01、HEX02、HEX03、HEX04を通る水配管64には、熱交換器HEX04を通った後の水(お湯)の温度によって、カソード側加湿タンク66の昇温または冷却に利用できるように、分岐配管68が設けられている。本システムCGSの起動時など、カソード側加湿タンク66の温度が低いときには、水は熱交換器HEX04を通った後、分岐配管68を通って熱交換器HEX05にてカソード側加湿タンク66に熱を供給してから貯湯タンク62に戻る。
【0019】
このカソード側加湿タンク66は、冷却水タンクとしても機能しており、カソード側加湿タンク66内の水は、燃料電池10を冷却してカソード側加湿タンク66に戻る。上記のように、本システムCGSの起動時など、燃料電池10の温度が低いときには、熱交換器HEX05によって温められた冷却水を燃料電池10へ供給することにより、燃料電池10を温めることもできる。また、冷却水が通る冷却水通路70は、アノード側加湿タンク72に設けられる熱交換器HEX06に接続され、冷却水はカソード側加湿タンク66とアノード側加湿タンク72の温度をほぼ同一にする役割も果たしている。
【0020】
改質装置からの改質ガスは、このアノード側加湿タンク72にて、加湿(本システムCGSの場合はバブリング)されてアノード22へ供給される。アノード22にて発電に寄与しなかった未反応の燃料は、燃料電池10から排出されてバーナ60へ供給される。この燃料電池10は通常70〜80℃の範囲で発電するように運転しており、燃料電池10から排出された排ガスは80℃程度の熱を持っているため、上記のように熱交換器HEX04にて熱交換した後、さらに熱交換器HEX07にて、カソード側加湿タンク66およびアノード側加湿タンク72へ供給される水を昇温した後に、バーナ60へ供給される。
【0021】
カソード側加湿タンク66およびアノード側加湿タンク72へ供給される水は、導電率が低く、有機物の混入が少ない清浄な水が望ましいので、上水からの水を水処理装置74にて、逆浸透膜とイオン交換樹脂による水処理を施してから供給される。また、この水処理を施した水は、改質器54の水蒸気改質にも用いられる。上水は貯湯タンク62にも供給されるが、このとき上水は貯湯タンク62の下部から供給される。また、水配管64も貯湯タンク62の下部から温度の低い水を引出し、各熱交換器と熱交換した水を上部へ戻す。
【0022】
HEX10は全熱交換器である。カソード14にて発電に寄与しなかった未反応の酸素を含む排ガスは80℃程度の熱と反応によって生成された生成水を含んでいるため、全熱交換器HEX10にてカソード14へ供給される空気へ熱と水分を供給する。カソード14へ供給される空気は、さらにカソード側加湿タンク66にて加湿(本システムCGSの場合はバブリング)されてからカソード14へ供給され、一方、全熱交換器HEX10にて熱と水分とを供給した排ガスは、さらに熱交換器HEX03にて水と熱交換してから、本システムCGSの外部へ排出される構成となっている。
【実施例1】
【0023】
図2は本発明に係る燃料電池用セパレータ110および本燃料電池用セパレータ110にて挟持される燃料電池10の構成を示す構成図である。本発明の燃料電池用セパレータ110は、カーボン粉末とフェノール樹脂とを混合して成型した材料からなり、1枚あたりの厚さは約2mm、最も薄いところでも水素ガスの遮蔽するために約0.6mmとなっている。燃料電池用セパレータ110には、ガス供給用マニホールド120、反応ガス導入路130、絞り設置部132、反応部流路134、反応ガス排出路136、ガス排出用マニホールド122が設けられている。ガス供給用マニホールド120に供給された反応ガスは、反応ガス導入路130、導入路拡張部132、反応部流路134、反応ガス排出路136の順に通過した後、ガス排出用マニホールド122に排出される。
【0024】
また、燃料電池用セパレータ110には、燃料電池用セパレータ110の流路に流れる反応ガスと対になる反応ガス供給用のマニホールドとして使用される貫通穴124、および上記対になる反応ガス排出用のマニホールドとして使用される貫通穴125が形成されている。ここで、燃料電池用セパレータ110の流路に流れる反応ガスと対になる反応ガスは、燃料電池用セパレータ110の流路に流れる反応ガスが水素を含む燃料ガスの場合には酸素を含む空気などの酸化剤ガスであり、逆に、燃料電池用セパレータ110の流路に流れる反応ガスが酸素を含む空気などの酸化剤ガスの場合には水素を含む燃料ガスである。さらに、燃料電池用セパレータ110には、冷却水供給用のマニホールドとして使用される貫通穴126、および冷却水排出用のマニホールドとして使用される貫通穴127が形成されている。
【0025】
反応ガス導入路130の入口は、ガス供給用マニホールド120と連通している。反応ガス導入路130にガス供給用マニホールド120に供給された反応ガスが導入される。絞り設置部132には、反応ガスが通過する流路を絞り込む絞り構造150が設けられている。絞り構造150は、複数の開口154が設けられたプレート152からなる。開口154の形状および径は特に限定されないが、たとえば、200μm〜1mmφの円形状とすることができる。これによれば、反応ガスが絞り構造150に設けられた開口154を通過することにより、流速が増加し、開口154を通過した反応ガスが勢いを増した状態でシャワー状となって反応部流路134に向けて噴出する。この結果、反応部流路134の入口部分での結露が抑制される。また、たとえ、結露による凝縮水が発生したとしても、反応ガスによって凝縮水が反応部流路134に押し流され、反応ガス排出路136に排出される。これにより、結露の影響が軽減され、燃料電池10の動作が安定化する。
【0026】
複数の反応部流路134は、燃料電池用セパレータ110の一方の面に互いに平行な溝状に形成されており、絞り構造150に設けられた開口154は、反応部流路134と対向する位置に設けられている。これにより、開口154を通過した反応ガスが反応部流路134に直接に噴出するため、反応部流路134の入口や反応部流路134内の凝縮水をより速やかに反応部流路134から排出することができる。また、絞り構造150の開口154に対向する反応部流路134の入口の断面積が絞り構造150の出口部分の開口断面積以上になっている。これにより、開口154から噴出される反応ガスが絞り構造150の開口154に対向する反応部流路134に確実に供給されるため、凝縮水による反応部流路134の目詰まりがより確実に抑制される。
【0027】
図3は本実施例に係る燃料電池用セパレータ110の絞り構造150の部分を詳細に示す拡大模式図である。絞り構造150よりも上流側で結露してしまった凝縮水、あるいは、加湿タンク66、72およびガス供給用マニホールド120から液体状態で飛沫してきた水滴は、開口154の特定の開口に流れる場合がある。そこで、反応ガス導入路130に水滴を分配する液滴分配構造160を設ける。具体的には、反応ガス導入路130に段差(凹部)を0.5mm程度設けることにより、水滴が進入してきた場合には、凹部にて水滴が横方向に広がり、絞り構造150に水滴が均一に供給されるようにしたものである。より好ましい形態としては、液滴分配構造160の中央部が高くなるように段差を山形に形成し(図3(b)参照)、ガス供給用マニホールド120から反応ガス導入路130に進入してきた水滴を中央部で受け、外側に向かって斜めに形成された凹部を伝わせることにより、段差を0.2mm程度に低くしても水滴が横方向に広がりやすくなる。これにより、絞り構造150の特定の開口に集中して目詰まりが抑制され、燃料電池10の動作が安定化する。
【実施例2】
【0028】
図4は本実施例に係る燃料電池用セパレータ210の絞り構造250の部分を詳細に示す拡大模式図である。実施例1と同様の部分の説明は省略する。
【0029】
本実施例では、具体的には、反応ガス導入路230に吸水材を設けることにより、水滴が進入してきた場合には、吸水材が水滴を吸水・拡散し、絞り構造250に水滴を均一に分配供給するようにした液滴分配構造260を反応ガス導入路230に設ける。別の形態としては、絞り設置部232の、燃料電池用セパレータ210と絞り構造250との間に吸水材を設け、水滴が絞り構造250のところまで進入してきたときには、液滴分配構造260が水滴を吸水するとともに水分の濃度勾配によって反応部流路234へ水分を送り出す水分流通路としての機能を果たすようにしてもよい。また、より好ましい形態としては、反応ガス導入路230、絞り設置部232および反応部流路234に跨るように液滴分配構造260を設けることにより、絞り構造250に水滴が到達する前に確実に水滴を吸水し、絞り構造250近傍には水滴が存在しない状態にし、吸水した水分を反応部流路234へ送り出すようにしてもよい。これにより、絞り構造250の目詰まりが抑制されるとともに、反応部流路234へ水分を均一に供給できるため、燃料電池10の動作がより安定化する。
【0030】
家庭用燃料電池コージェネレーションシステムCGSでは、実施例1または2のような燃料電池用セパレータを用いて、燃料電池10を挟持する。図5は燃料電池10の構成を示す構成模式図である。燃料電池10において、ガス拡散層は、カーボンペーパ、カーボンの織布あるいは不織布を基材として、基材にカーボンブラックを主とする粘性の有るカーボンペーストを塗布して作製する。ガス拡散層は生産性を考慮して、両ガス拡散層20、28の基材に共通のカーボンペーパを用いる。また、カソード側は触媒層14から生成水を排出し、アノード側は加湿水を固体高分子膜12へ供給する、あるいは、固体高分子膜12を保湿する機能を持たせるため、基材に塗布するガス拡散層ペースト(微孔層)16、24をカソード側とアノード側とで異なるものを用いる。即ち、基材にガス拡散層ペーストを塗布・乾燥・熱処理して作製されたカソード側微孔層16は、生成水によってガス供給経路が塞がれて触媒層14へ反応流体の供給が阻害されるのを防ぐため、毛細管現象を利用して触媒層14より生成水を引き抜くよう、アノード側より撥水性を低く(フッ素樹脂量を少なく)する。一方、基材にガス拡散層ペーストを塗布・乾燥・熱処理して作製されたアノード側微孔層24は、カソードから逆拡散して来た移動水を閉じ込めて固体高分子膜12を保湿するため、撥水性を高く(フッ素樹脂量を多く)する。
【0031】
しかし、一般的なフッ素樹脂(以下、高分子フッ素樹脂)は結着性を有するため、ガス拡散層ペースト中に多くの高分子フッ素樹脂を投入すると、混合作業や塗布作業により、粘性が高くなり、団子状になる。そのため、塗布工程が非常に困難となる。そこで、高分子フッ素樹脂よりも平均分子量が小さく、結着性が非常に低い性質を有する低分子フッ素樹脂を用い、低分子フッ素樹脂に撥水性を、高分子フッ素樹脂に結着性を担わせることにより、それぞれのガス拡散層ペーストが、バランスよく撥水性と結着性とを持つようにする。具体的な拡散層20、28の作製方法を以下に示す。
【0032】
ガス拡散層の基材となるカーボンペーパ(東レ社製:TGPH060H)は、重量比でカーボンペーパ:FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)=95:5(カソード用)、60:40(アノード用)となるように、FEP分散液に浸漬した後、60℃1時間の乾燥後、380℃15分間の熱処理(FEP撥水処理)を行う。これにより、カーボンペーパはほぼ均一に撥水処理される。カーボンブラック(CABOT社製:Vulcan XC72R)と溶媒としてテルピネオール(キシダ化学社製)と非イオン性界面活性剤のトリトン(キシダ化学社製)とを、重量比がカーボンブラック:テルピネオール:トリトン=20:150:3となるように、万能混合機(DALTON社製)にて常温で均一になるように混合し、カーボンペーストを作製する。
【0033】
低分子フッ素樹脂(ダイキン社製:ルブロンLDW40E)と高分子フッ素樹脂(デュポン社製:PTFE30J)とを、分散液中に含まれるフッ素樹脂の重量比が低分子フッ素樹脂:高分子フッ素樹脂=20:3となるように混合し、カソード用混合フッ素樹脂を作製する。ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストを投入し、カーボンペーストが10〜12℃になるまで冷却する。冷却したカーボンペーストに上記カソード用混合フッ素樹脂を、重量比がカーボンペースト:カソード用混合フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=31:1となるように投入し、ハイブリッドミキサ(キーエンス社製:EC500)の混合モードにて混合する。混合停止のタイミングはペーストの温度が50〜55℃となるまでとし、混合時間を適宜調整する。ペーストの温度が50〜55℃に達した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、脱泡を行う。脱泡を終えたペーストを自然冷却してカソード用ガス拡散層ペーストを完成させる。
【0034】
ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストと上記低分子フッ素樹脂とを、重量比がカーボンペースト:低分子フッ素樹脂(以下、アノード用フッ素樹脂とする)(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=26:3となるように投入し、ハイブリッドミキサの混合モードにて混合する。混合した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、脱泡を行う。脱泡を終えたペーストの上部に上澄み液が溜まった場合はこの上澄み液を廃棄し、ペーストを自然冷却してアノード用ガス拡散層ペーストを完成させる。
【0035】
常温まで冷却した各ガス拡散層ペーストを、FEP撥水処理を施した上記カーボンペーパの表面に、カーボンペーパ面内の塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて乾燥する。最後に、熱処理を行い、ガス拡散層を完成させる。
【0036】
燃料電池10は、各ガス拡散層20、28の、ガス拡散層ペーストを塗布して微孔層16、24を形成した面に触媒層14、22を形成し、固体高分子膜(Nafion112)12を挟持して作製する。カソード側の触媒層14は、Pt担持カーボンと電解質溶液(20%Nafion溶液)とをPt担持カーボン:電解質溶液=3:8の割合で混合し、アノード側の触媒層22は、Pt−Ru担持カーボンと電解質溶液(20%Nafion溶液)とをPt−Ru担持カーボン:電解質溶液=1:2の割合で混合して作製する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、高加湿状態で燃料電池へ反応ガスを供給するタイプの燃料電池システムに用いられる燃料電池用セパレータとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る燃料電池用セパレータを用いた家庭用燃料電池コージェネレーションシステムのシステム構成図である。
【図2】本発明に係る燃料電池用セパレータおよび燃料電池の構成を示す構成図である。
【図3】実施例1に係る燃料電池用セパレータの絞り構造の部分を詳細に示す拡大図である。
【図4】実施例2に係る燃料電池用セパレータの絞り構造の部分を詳細に示す拡大図である。
【図5】燃料電池の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10…燃料電池
12…固体高分子膜(電解質層)
14…カソード側触媒層
16…カソード側微孔層(第2の拡散層)
18…カソード側基材層(第1の拡散層)
20…カソード側拡散層
22…アノード側触媒層
24…アノード側微孔層(第2の拡散層)
26…アノード側基材層(第1の拡散層)
28…アノード側拡散層
52…脱硫器
54…改質器
56…変成器
58…CO除去器
60…バーナ
62…貯湯タンク
64…水配管
66…カソード側加湿タンク
68…分岐配管
70…冷却水通路
72…アノード側加湿タンク
74…水処理装置
76…冷却水流路
78…給湯配管
110、210…燃料電池用セパレータ
120…ガス供給用マニホールド
122…ガス排出用マニホールド
124…貫通穴、125…貫通穴、126…貫通穴、127…貫通穴
130、230…反応ガス導入路
132、232…絞り設置部
134、234…反応部流路
136…反応ガス排出路
150、250…絞り構造
152…プレート
154…開口
160、260…液滴分配構造
CGS…家庭用燃料電池コージェネレーションシステム
HEX01、HEX02、HEX03、HEX04、HEX05…熱交換器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスが供給されるマニホールドと、前記マニホールドと連通する反応ガス導入路と、前記反応ガス導入路と連通し、平行な溝が形成される複数の反応部流路と、前記反応ガス導入路と前記反応部流路との間に間挿され、前記反応部流路に対応する開口部が設けられる絞り構造と、を備える燃料電池用セパレータにおいて、
前記反応ガス導入路に設けられ、液体の水を前記複数の反応部流路に分配する液滴分配構造を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用セパレータにおいて、
前記液滴分配構造は、前記反応部流路まで延設されることを特徴する燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池用セパレータにおいて、
前記液滴分配構造は、前記反応ガス導入路から前記反応部流路へ水分を供給する水分流通機能を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−317520(P2007−317520A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146293(P2006−146293)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】