説明

燃料電池用空気の浄化方法及び装置並びに燃料電池

燃料電池に供給される空気を処理して、該空気に含まれる、燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の浄化方法において、空気中の硫黄化合物を除去して硫黄化合物濃度を5ppb以下とする。燃料電池用空気の硫黄化合物濃度が5ppb以下であれば、燃料電池用空気中の起電力低下要因成分に起因する燃料電池の起電力の低下をほぼ完全に排除して、燃料電池の特性を長期に亘り安定に維持し、その寿命を延長することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に供給される空気に含まれる、燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の処理方法及び装置に係り、特に燃料電池用空気に含まれる二酸化硫黄(SO)等の燃料電池の起電力低下要因成分を効率的に除去して、燃料電池の特性維持、寿命延長を図る燃料電池用空気の浄化方法及び装置に関する。本発明はまた、このようにして浄化された空気が供給される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の電気化学反応により起電力を発生させる装置である。この燃料電池に供給される燃料や空気の流体中に不純物が含まれていると、電極触媒を被毒させるため、燃料電池の起電力が低下し、結果として、発電効率の低下や寿命の低下を引き起こすことが知られている。この燃料電池に供給される空気や燃料中の不純物を除去することが種々提案されている。
【0003】
特開2000−277139には、昇温された燃焼触媒層に空気を通過させ、空気中の有機溶媒等の不純物を燃焼分解して除去することが記載されている。
【0004】
特開2000−327305には、燃料ガスの改質に用いられる空気を活性炭で吸着処理し、空気中のSO,NO等の不純物を吸着除去することが記載されている。
【0005】
特開2001−313057には、イオン交換樹脂よりなるフィルタに空気や水素ガスを接触させて、酸性ガスやアルカリ性ガス等の気体不純物を除去することが記載されている。
【0006】
特開2002−93452には燃料ガス中の亜硫酸ガス等の不純物を、溶融炭酸塩と接触させて除去することが記載されている。
【0007】
燃料電池のカソード極又はアノード極へ空気中の酸素を導入する燃料電池システムの中で、固体高分子電解質膜や電極に使用される触媒物質を被毒させるようなガス等(本発明において、これらを「燃料電池の起電力低下要因成分」と称す。)を取り除くための浄化フィルタについては、特開2003−297410に、三次元網状骨格構造体と、該三次元網状骨格構造体に保持された不純物の分解又は吸着用の物質とを有するフィルタが提案されている。この浄化フィルタであれば、燃料電池に供給される空気中の燃料電池の起電力低下要因成分が、三次元網状骨格構造体に保持された分解又は吸着用の物質によって分解又は吸着されて、空気中から除去される。この分解又は吸着用の物質は三次元網状骨格構造体に保持されているので、比表面積が大きく、燃料電池の起電力低下要因成分が効率良く分解又は吸着除去される。
【0008】
特開2003−297410に記載される浄化フィルタを燃料電池システム内で実際に用いた場合における、燃料電池の起電力の低下を十分に防止し得る条件についての検討は、未だ十分になされていない。このため、燃料電池の起電力の低下を十分に防止し得ない場合があった。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、燃料電池に供給される空気を効率的に浄化して、燃料電池の特性を長期に亘り安定に維持し、その寿命を延長することができる燃料電池用空気の浄化方法及び装置と、このようにして浄化された空気が供給される燃料電池を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の燃料電池用空気の浄化方法は、燃料電池に供給される空気を処理して、該空気に含まれる、燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の浄化方法において、該空気中の硫黄化合物を除去して硫黄化合物濃度を5ppb以下とすることを特徴とする。
【0011】
本発明の燃料電池用空気の浄化装置は、燃料電池に供給される空気を処理して、該空気に含まれる、燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の浄化装置において、本発明の燃料電池用空気の浄化方法により該空気を浄化する手段を備えてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の燃料電池は、本発明の燃料電池用空気の浄化方法により浄化された空気が導入されることを特徴とする。
【0013】
本発明において、硫黄化合物濃度とは、体積濃度を指す。
【0014】
本発明において、硫黄化合物濃度及び後述の空間速度は、平均的な値を指し、瞬間的ないし短時間だけ硫黄化合物濃度又は空間速度が本発明の範囲を超えるような場合であっても、平均値(例えば1時間平均値)が本発明の範囲内であれば良いものとする。
【0015】
本発明において、この硫黄化合物としては、SO、SO及びHSよりなる群から選ばれる1種又は2種以上、特にSOが挙げられる。
【0016】
即ち、本発明者らは、前記特開2003−297410に開示される浄化フィルタにより燃料電池用空気の浄化を行った際に、効果が安定しない理由について種々検討する過程において、大気中に存在する燃料電池の起電力低下要因成分のうち、SO等の硫黄化合物が燃料電池システムに最も影響を及ぼし易いガスであることから、空気中のSO等の硫黄化合物の濃度に注目した。燃料電池に用いられている固体高分子膜や電極には、その特性を向上させる手段としてPt、Pd、Ruなどの様々な貴金属触媒が多く使用されているが、これら貴金属触媒は、硫黄系の無機ガス又は有機ガス、及び窒素系の無機ガス又は有機ガス、炭化水素系ガス、HCHO、CHCOOH、一酸化炭素などがその表面に吸着することにより被毒される。燃料電池の起電力低下要因の一つとして、このような燃料電池の起電力低下要因成分による触媒劣化、とりわけSO等の硫黄化合物による触媒劣化が考えられるため、燃料電池の信頼性の向上と普及に際してこれらに対応する技術開発が必要である。本発明者らは、燃料電池用空気に含まれるSO量と、燃料電池の起電力の低下との関係について検討した結果、後述の実験例1に示す如く、両者に密接な関係があることをつきとめ、燃料電池用空気の硫黄化合物濃度が5ppb以下であれば、燃料電池用空気中の起電力低下要因成分に起因する燃料電池の起電力の低下をほぼ完全に排除し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明によれば、燃料電池に供給される空気中の燃料電池の起電力低下要因成分であるSO等の硫黄化合物濃度を、燃料電池の起電力の低下を十分に抑制し得る程度に規制して、燃料電池の特性を長期に亘り安定に維持し、その寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実験例1で求められた、カソード供給空気中のSO濃度と燃料電池の電圧低下速度との関係を示す対数グラフである。
【図2】図2は、図1のグラフの要部を拡大したグラフである。
【図3】図3は、実験例2における各浄化フィルタを用いた場合の出口ガスのSO濃度の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4は、実験例2で用いたSOガス吸着試験装置を示す構成図である。
【図5】図5は、実験例2で用いた圧力損失測定試験装置を示す構成図である。
【発明の好ましい形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明においては、燃料電池に供給される空気中のSO、SO、HS等の硫黄化合物を除去して、燃料電池用空気中の硫黄化合物濃度を5ppb以下とする。この硫黄化合物濃度が5ppbを超えると、燃料電池の起電力が、空気中の起電力低下要因成分により早期に低下することとなる。燃料電池用空気中の硫黄化合物濃度は5ppb以下であれば良いが、一般的には検出限界までの極低濃度に除去することが好ましい。
【0021】
本発明において、燃料電池用空気中の硫黄化合物を5ppb以下となるように除去するためには、前記特開2003−297410に開示される浄化フィルタを用い、空間速度11100h−1以下で空気を流通させて処理する方法が好ましい。
【0022】
以下に、本発明で燃料電池用空気の浄化に好適に用いられる浄化フィルタについて説明する。
【0023】
この浄化フィルタは、フィルタ基材としての三次元網状骨格構造体と、この三次元網状骨格構造体に保持された、燃料電池の起電力低下要因成分の分解又は吸着用の物質とを有するものである。
【0024】
フィルタ基材としては三次元構造を有するものであれば、その種類や形状は特に問わないが、ポリウレタンフォームや三次元構造を有する立体ネット、又はハニカム構造体などが好適である。中でも、爆破処理等によりセル膜を除去した三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームは、低圧力損失で、空気との接触効率が良いため、好適に用いることができる。特に、除膜処理を施したポリウレタンフォームとしては、エーテル系素材の方がエステル系素材に比べて耐加水分解性に優れ、後述のアルカリ添着処理等によるフィルタ基材の加水分解劣化を抑制することができることから、より好適である。
【0025】
フィルタ基材のポリウレタンフォームのセル数は、基材に付着する吸着体粒子との関係で異なるが、25.4mm直線上の穴の数で5〜50個、即ち、5〜50PPI(pores per inch)のもの、特に5〜20PPI程度のものが好適である。このセル数が5PPI未満の場合には、フィルタの圧力損失は低下するが、空気との接触効率が低下するため好ましくない。また、セル数が50PPIを超えると空気との接触効率は高まるが、圧力損失が高くなり、燃料電池システムの空気供給ファンの負荷増大に繋がるため好ましくない。
【0026】
このフィルタ基材に保持させる、燃料電池の起電力低下要因成分吸着用の物質としては、吸着体粒子の単体又はその集合体が好ましい。この吸着体粒子としては、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、活性白土、活性アルミナ、粉体シリカゲル等の各種吸着体の粒子を使用目的に応じて任意に選択、使用できるが、汎用性のある点では活性炭が一般的である。活性炭としてはBET比表面積が500m/g以上とくに1000〜2000m/g程度のものが好ましい。吸着能を考えると比表面積は大きい程よいが、比表面積を大きくすると吸着体の硬度が下がる傾向にあり、吸着体の種類によっては発塵要因となる可能性が出てくる。
【0027】
この吸着体粒子として活性炭を用いる場合、起電力低下となる大気中の硫黄系化合物を高効率で除去する目的で、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの、アルカリ金属の塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩、及びアルカリ土類金属の水酸化物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ性物質を添着させた添着活性炭を用いてもよい。この場合、活性炭に予めアルカリ性物質を添着して用いても良く、活性炭をフィルタ基材に保持させた後、アルカリ性物質の添着処理を行っても良い。活性炭へのアルカリ性物質の添着が過度に多いと、活性炭による吸着性能が損なわれることから、このアルカリ性物質の添着量は活性炭に対して20重量%以下とすることが好ましい。アルカリ性物質の添着量が少な過ぎても、アルカリ性物質を添着したことによる硫黄化合物の除去性能の向上効果を十分に得ることができない。従って、アルカリ性物質は、活性炭の吸着性能の維持と、硫黄化合物の除去性能の確保の面から、0.1〜20重量%、特に5〜10重量%、とりわけ5〜10重量%とすることが好ましい。
【0028】
この吸着体粒子は、不純物を分解する触媒を担持しても良い。なお、この触媒は、吸着体粒子を介することなく直接にフィルタ基材に担持されても良い。
【0029】
本発明で用いる浄化フィルタとしては、フィルタ基材の三次元網状骨格構造体にバインダー層を介して上記の吸着体粒子を保持させたものが好適であり、特に吸着体粒子の一部が該バインダー層に接触し、残部がバインダー層から露出しているものが好適である。このように吸着体粒子がバインダー層から露出していると、吸着体粒子と空気とが直接的に接触するようになり、不純物除去効果が高いものとなる。
【0030】
バインダーとしては、特に制限はなく、各種のものを適宜選択、使用することができるが、フィルタ基材との接着力が強く、かつ吸着体粒子の細孔の目詰まりを生じにくいものが好ましい。この観点からは固形分が多く揮発成分が少ないもの、即ち固形分が30重量%以上、好ましくは50重量%以上で、有機溶剤は50重量%以下、好ましくは0%のものが好適である。また、吸着性能への影響を考えると非溶剤系バインダーの方が好適に使用することができる。
【0031】
具体例を挙げれば、ポリエーテル系又はポリエステル系ウレタンエマルジョンバインダー、アクリル系エマルジョンバインダー、湿気硬化型反応性ウレタン系ホットメルトバインダーを使用することができる。また、NCO過剰のウレタン系プレポリマー、より好ましくはMDI(メチレンジイソシアネート)ベースのウレタン系プレポリマーを使用する。MDIベースのプレポリマーの方がTDI(トリレンジイソシアネート)ベースのものより遊離イソシアネートが発生し難く、吸着体粒子への吸着が少なく、かつ製造工程における衛生面からも問題が少ない。
【0032】
NCO過剰のウレタン系プレポリマーをバインダーとする場合、そのままでは粘度が高すぎる時には、必要最小限の有機溶剤を加えて塗布し、乾燥温風によって大部分の有機溶剤をとばした後、吸着体粒子を付着させれば、加工性を容易にしつつ、溶剤吸着を防止できるため有利である。
【0033】
バインダーの塗布方法は、含浸槽にてフィルタ基材を含浸させた後余分のバインダーをロールで絞り取る方法、スプレーやコーターで表面に塗布した後ロールで絞り込み内部まで行きわたらせる方法等がある。
【0034】
フィルタ基材に対するバインダーの付着量はバインダーの種類により異なるため、特に限定するものではないが、フィルタ基材体積(見掛け体積)当たり乾燥後の樹脂量として10〜100g/L、特に20〜50g/Lに設定するのが好ましい。この付着量が10g/L未満の場合は、吸着体粒子の接着保持力が弱く、フィルタ基材に対する吸着体粒子の付着量が稼げなかったり、フィルタ加工後、吸着体粒子が脱落し易くなったりするなどの問題を生じるおそれがある。また、100g/Lを超えると、目詰まりによる圧力損失の上昇やバインダーにより吸着体粒子が被覆される部分が増すため、吸着体粒子の脱落は抑制されるものの、吸着体粒子本来の吸着性能が低減するといった問題が生じる。
【0035】
このようにして予めバインダーを付着させたフィルタ基材に吸着体粒子を付着させるためには、吸着体流動床浸漬、粉体スプレー法、又は篩落下法等の方法を採用することができる。粉体スプレー、又は篩落下による方法を用いる場合は、フィルタ基材を反転せしめる等の方法により、フィルタ基材の両面から吸着体粒子をスプレー又は落下させることにより均等な付着を行うことができる。吸着体粒子付着時及び/又は付着後、フィルタ基材を振動させることにより、吸着体粒子の三次元網状骨格構造体内部への侵入及び三次元網状骨格構造体骨格への確実な付着を助けることができる。吸着体粒子付着後、一組又は複数組のロールの間を通し、軽く圧縮することにより、吸着体粒子の三次元網状骨格構造体骨格への付着を助けることができる。この際、ロール間隔をフィルタ基材の三次元網状骨格構造体の厚さの90〜60%とするのが適当である。
【0036】
このようにして吸着体粒子を付着させた後は、バインダーを固化させる。バインダーを固化させるためには、それぞれのバインダーに適した方法を用いればよい。バインダーとしてウレタン系プレポリマーを使用した場合、加熱水蒸気でキュアーすることができる。この方法であれば、工程が単純でかつ大きな固着力が得られる。吸着体粒子の一部がバインダーで被覆された場合も、ウレタンの硬化時の炭酸ガス発生により皮膜に微細気孔があくため、吸着力の低下が少ない。
【0037】
吸着体粒子がフィルタ基材の三次元網状骨格構造体から脱落することを防止するために、三次元網状骨格構造体に吸着体粒子を付着させた後、バインダーを固化させる前に、更にその上からバインダーを塗布し、その後、これらのバインダーを固化させても良い。これにより、吸着体粒子を極めて強固にフィルタ基材の三次元網状骨格構造体に保持させることができる。
【0038】
この場合、基材表層に固着している吸着体粒子はその表面が全部バインダーで被覆されることになり、三次元網状骨格構造体に対する固着力は増加するが、その部分の吸着体粒子の吸着能力は低下する。しかし三次元網状骨格構造体内層に固着された大部分の吸着体粒子は三次元網状骨格構造体表層に塗布されたバインダーの影響を受けることがないため、吸着材全体としての吸着能力はそれ程低下しない。
【0039】
塗布される表層の厚さは、塗布するバインダー量により任意にコントロールすることができるので、表層の吸着体粒子の固着力増加と吸着体全体の吸着能力低下の状態を勘案して適宜定めればよい。三次元網状骨格構造体の厚さが厚ければ厚い程、表層塗布による吸着能力低下の割合は小さくなる。表層に塗布するバインダーは当初三次元網状骨格構造体全体に塗布するバインダーと同じものでも良いが、当初全体に塗布するバインダーには柔軟なものを用いて三次元網状骨格構造体の柔軟性を阻害せぬようにし、表層に塗付するバインダーには強固な固着力を有する剛性のものを使用して組合わせ効果を得てもよい。皮膜に欠陥(ピンホール等)が生じ易いエマルジョンタイプのバインダーを使用することも、通気性の点では有利である。
【0040】
本発明においては、燃料電池のカソード極へ酸素を導入するのために供給する空気を、このような浄化フィルタに流通させて、空気中の燃料電池の起電力低下要因成分を除去する。この空気の空間速度は好ましくは11100h−1以下である。この空間速度が11100h−1を超えると、浄化フィルタが早期に破過(燃料電池の起電力低下要因成分除去性能が損なわれる)に達し、燃料電池の起電力低下要因成分を安定かつ確実に除去し得なくなる。この空間速度は低い程、燃料電池の起電力低下要因成分除去効果の持続性の面では好ましいが、過度に低いと処理効率が低下し、燃料電池に必要とされる空気の浄化に大量の浄化フィルタが必要となり、浄化系統が大型化したり供給コンプレッサーへの負荷につながるため好ましくない。従って、空間速度は10000h−1以下、特に7000〜8000h−1とすることが好ましい。
【0041】
本発明においては、好ましくは、このような空間速度が得られるように、浄化フィルタ量や空気流通速度を調節すること以外は常法に従って燃料電池用空気の浄化を行って、硫黄化合物濃度が5ppb以下の空気を得、この空気を燃料電池に供給する。
【0042】
本発明においては、浄化フィルタの上流側に除塵フィルタを設け、燃料電池用空気を除塵フィルタに流通させて塵埃を予め除去した後、浄化フィルタに流通させて浄化するようにしてもよい。この場合、より一層浄化フィルタの性能を長期に亘り維持することが可能となる。また、浄化フィルタの下流側に除塵フィルタを設け、浄化フィルタで浄化処理した燃料電池用空気を除塵フィルタに流通させて、浄化フィルタから脱落した吸着体粒子を捕捉するようにしてもよい。この場合、浄化フィルタから脱落した吸着体粒子の燃料電池内への流入を確実に防止することができる。
【0043】
この除塵フィルタとしては、帯電処理された不織布やスパンポンド不織布、メルトブロー不織布、ニードルパンチ加工された不織布、エンボス加工された不織布、HEPAフィルタやULPAフィルタなどを用いることができる。その材質としては特に制限はないが、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等の有機繊維や、ボロン系繊維、ガラス繊維等の無機繊維が挙げられ、形状としてもプリーツ形状、ハニカム形状、フラット形状等各種のものを採用することができる。また、目付としては特に制限はないが、除塵性能及び流通抵抗の面から15〜500g/m、特に50〜200g/mであることが好ましい。
【0044】
このような本発明の燃料電池用空気の浄化方法が適用される燃料電池には特に制限はなく、固体高分子型燃料電池、アルカリ水溶液電解質型燃料電池、リン酸水溶液電解質型燃料電池、溶融炭酸塩電解質型燃料電池、固体酸化物電解質型燃料電池などのいずれのものであっても良い。この燃料電池は静置型であっても良く、車両搭載用などの可搬型のものであっても良い。
【実施例】
【0045】
以下に、実験例、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0046】
実験例1
固体高分子型燃料電池(単電池、有効面積25cm)を用いて、カソードに供給する空気中に含まれるSO濃度を系統的に変え、空気中のSO濃度と、燃料電池の電圧の低下速度との関係を調べる実験を行った。SO濃度の異なる各試験において、燃料電池はすべて同一仕様の未使用品を使用し、試験条件もすべて同一とした。電極触媒には、固体高分子型燃料電池の電極触媒として一般的に用いられているカーボン担持貴金属触媒を用い、アノード触媒には白金ルテニウム合金触媒、カソード触媒には白金触媒を適用した。
【0047】
上記構成の、固体高分子型燃料電池単セルのアノード及びカソードに、相対湿度100%となるように加湿した水素と、相対湿度90%となるように加湿した空気をそれぞれ供給した。電池温度80℃、電流密度350mA/cmの条件下で水素利用率70%、酸素利用率40%となるように反応ガス流量を調整し、カソード空気にSOを添加した直後からの燃料電池の電圧低下速度を調べた。カソードに供給する空気中のSO濃度は、カソード空気入口における水蒸気を除外したドライベースの体積換算のSO濃度(常温常圧)で定義し、5ppm,1ppm,0.1ppm,0.04ppm(40ppb)、又は0.005ppm(5ppb)となるように調整した。図1及び図2にカソード供給空気中のSO濃度と電圧低下速度との関係を示した。
【0048】
図1より明らかなように、カソード供給空気中のSO濃度の対数値と、燃料電池の電圧低下速度の対数値との関係には、5ppb以上5ppm以下の領域において、直線的な関係があることが示された。SO濃度の増大に伴い電圧低下速度が急激に上昇するため、SO濃度の増大は燃料電池の運転継続に深刻な影響を及ぼすことがわかる。
【0049】
図2に示したように、空気中のSO濃度が5ppb以下の領域では、SOを含有しない場合の電圧低下速度(0.17mV/h)と等しいことがわかる。ここで、SOを含有しない場合の電圧低下速度とは、触媒活性の低下等の劣化要因、即ちカソード空気中の起電力低下要因成分とは無関係の起電力低下要因を意味している。空気中のSO濃度を5ppb以下とすることにより、空気中の起電力低下要因成分に起因する電圧低下をほぼ完全に防止することができることは、本実験結果から明らかである。
【0050】
本実験例では、空気中のSO濃度と電圧低下速度との関係を一例として示したが、SOの代わりに、SO又はHSをカソード空気に添加した場合においても、本実験例と同等の傾向があり、SO又はHS濃度が5ppb以下の領域では硫黄化合物を含むカソード空気中の起電力低下要因成分による電圧低下を防止することができる。
【0051】
製造例1
除膜処理されたセル数10PPIのポリエーテル系ポリウレタンフォーム((株)ブリヂストン製商品名「エバーライトSF」品番「QW−09 5t」(250mm×250mm×厚さ5mm))をフィルタ基材として用いた。これに固形分50重量%のポリエーテル系ウレタンエマルジョンバインダーを基材体積当たりのバインダー付着量が乾燥樹脂分として30g/Lとなるように含浸処理した。100℃で5分間乾燥した後、平均粒子径30メッシュ(BET比表面積1500m/g)の椰子殻活性炭を篩落下法により供給して、基材の表裏及び内部にまで均一に付着させた。フィルタ基材体積当たりの活性炭付着量は150g/Lとなるように調整した。その後、硫化物の除去性能を向上させるために、活性炭を付着させたフィルタ基材の表裏面から炭酸カリウム13.8重量%水溶液を液付着量が326g/m(炭酸カリウム付着量45m/g、活性炭に対する付着割合は6重量%)となるように塗布した。その後、十分に乾燥させることにより、浄化フィルタ素材を得た。
【0052】
実験例2
製造例1で得られた厚さ5mmの浄化フィルタ素材を表1に示す枚数重ね、表1に示す総厚みを有する。3種類の浄化フィルタNo.1,2,3を得た。これらの浄化フィルタを用いて、下記のSOガス吸着試験と圧力損失測定試験を行った。
【0053】
[SOガス吸着試験]
図4に示す試験装置を用いて、SO濃度を大気中の約100倍に相当する500ppbとして促進試験を行った。
【0054】
図4において、縦型カラム1(内径20mmφ、長さ200mmのガラス製カラム)の内部におけるの高さ方向のほぼ中央部に、直径20mmφに裁断加工されたサンプル2が、その厚み方向が上下方向となるようにセットされている。SOボンベ3からの50ppmのSOガス及びNボンベ4からのNガスが、流量計を備えるガス混合器5に供給される。このガス混合器5でSOガスが100倍に希釈され500ppb濃度のSO−Nガスとされ、このカラム1の下方から2.333L/minのガス流量で導入される。カラム1に導入された500ppbSOガスは、サンプル(浄化フィルタ)2を通過する間にSOが除去され、処理ガスがカラム1の上部から流出する。6,7は三方コックであり、各々入口ガス及び出口ガスが採取され、図示しないSOガス測定機(0.1ppbの検出限定を有する紫外線蛍光法によるSOガス測定機)でSO濃度の連続測定が行われる。
【0055】
2.333L/minのガス流量に対して、各々のフィルタを用いた場合の空間速度及び線速度を算出し、結果を表1に示した。
【0056】
なお、空間速度SVとは、流量Qをフィルタ容積Vで除したもので、SV=Q/V((m/h)/m=h−1)である。線速度はガス流量をフィルタ面積で除したものである。
【0057】
このSO吸着試験において、カラム1の入口ガスSO濃度をモニターした後、出口ガスSO濃度の測定値及びその測定結果から算出されるSOの除去率をモニターした。出口ガス中にSOがリークし、出口ガス中にSOが検出され始めた時間を破過時間として表1に記載した。SOの除去率が99%となった時間(出口ガスSO濃度が5ppbとなった時間)を99%到達時間として表1に記載した。出口ガスのSO濃度の経時変化は図3に示す通りであった。
【0058】
通常、大気中のSO濃度は本吸着試験のSO濃度500ppbの約1/100の5ppbであることから、実際の燃料電池に供給される空気の浄化処理に用いた場合には、本吸着試験における破過時間の100倍相当が有効寿命であると推定される。このため、破過時間の100倍を実用有効推定寿命として表1に併記した。
【0059】
[圧力損失測定試験]
上記SOガス吸着試験で採用した、カラム1内に導入されたガスの線速度0.12m/secにおける圧力損失を調べるために、図5に示す試験装置を用いて圧力損失の測定試験を行った。
【0060】
図5において、縦型風洞11(内径250mm×250mmのSUS製の風洞)の内部における高さ方向のほぼ中央部に、製造例1で製造した浄化フィルタ素材(5mm厚みのもの1枚)がサンプル12として、その厚さ方向が上下方向となるようにセットされている。インバータ13により送風機14の回転数を制御して、風速計16で計測される風速が1m/sec,2m/sec,3m/secの各風速となるように、この風洞11の下方から送風を行った。各風速におけるサンプル12の圧力損失をマノメータ15で測定した。その結果、風速V(m/sec)に対して圧力損失ΔP(Pa)=23.4V−1.78の関係が得られた。
【0061】
この圧力損失の関係式に上記SOガス吸着試験のときの線速度0.12m/secを代入して線速度0.12m/secにおける浄化フィルタ素材1枚のときの圧力損失を求め、この値に各々のフィルタの積層枚数を乗して各フィルタの圧力損失を算出した。結果を表1に示した(除塵フィルタなし)。
【0062】
各フィルタの上下に、除塵フィルタとして各々目付50g/mの帯電不織布を2枚ずつ、計4枚積層して設けた場合についても同様の測定及び算出を行い、結果を表1に示した(除塵フィルタあり)。
【0063】
なお、除塵フィルタ(目付50g/m品1枚)の圧力損失ΔP(Pa)=23.4V1.78であった。
【0064】
【表1】

【0065】
表1より、空間速度11100h−1以下で処理を行うことにより、空気中のSOを長期に亘り安定かつ確実に除去することができることが分かる。
【0066】
実施例1
実験例2のNo.1の浄化フィルタ(浄化フィルタ素材を16枚積層した厚み80mmのもの)を用いて、燃料電池用空気の浄化処理を行った。
【0067】
試験に用いた燃料電池システムは、改質装置、燃料電池本体、電気制御装置、及び補機で構成されている。燃料電池本体のアノードには、都市ガス(13A)を原燃料として改質装置で改質して得られた改質ガスを供給した。カソードには、100mmφに成型した実験例2のNo.1の浄化フィルタを通過させて浄化処理した空気を供給した。直流発電端出力0.95kW、平均空気流量3.5Nm/hとなる条件下にて、1000時間以上の連続発電運転を実施した。浄化フィルタの上流側及び下流側には、各々、除塵フィルタ(帯電処理したポリプロピレン製不織布(目付50g/m)を2枚重ね合わせたもの)を設け、流入空気及び浄化空気の浄化を行った。大気中の平均SO濃度は18ppb、平均NO濃度は50ppbであり、大気中のSOは、この連続発電運転中は、浄化フィルタにより、確実に検出限界以下に除去された。
【0068】
1094時間の連続発電運転を行ったとき(空気の積算流量3829m)の起電力低下率(発電開始時の初期起電力に対する1094時間後の起電力の低下の割合(%))を調べ、後述の比較例1における起電力低下率を100とする相対値で求め、結果を表2に示した。
【0069】
このときの浄化フィルタの空気流通空間速度は表2に示す通りであった。
【0070】
比較例1
実施例1において、カソード供給空気の浄化フィルタによる浄化処理を行わなかったこと以外は同様にして連続発電運転を行い、起電力低下率を調べた。
【0071】
【表2】

【0072】
表2より明らかなように、所定の空間速度で浄化フィルタによるカソード供給空気の浄化を行って、SOを除去することにより、浄化フィルタによる浄化を行わない場合に比べて、起電力低下率を46ポイント抑制することができた。
【0073】
起電力の低下は100%抑制することができることが望ましいが、実際の燃料電池システムでは、空気中の燃料電池の起電力低下要因成分以外に、電極劣化等に起因する起電力低下の影響もあるため、空気の浄化のみでは、フィルタを装着しない従来のシステム対比54ポイント程度の起電力の低下は回避し得ないものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に供給される空気を処理して、該空気に含まれる、燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の浄化方法において、
該空気中の硫黄化合物を除去して硫黄化合物濃度を5ppb以下とすることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、該硫黄化合物がSO、SO及びHSよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項3】
請求項1において、燃料電池に供給される空気を、三次元網状骨格構造体と、該三次元網状骨格構造体に保持された燃料電池の起電力低下要因成分の分解又は吸着用の物質とを有する浄化フィルタに流通させることにより、該空気中の燃料電池の硫黄化合物を除去することを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項4】
請求項3において、該浄化フィルタ内の空気の空間速度を11100h−1以下とすることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項5】
燃料電池に供給される空気を、三次元網状骨格構造体と、該三次元網状骨格構造体に保持された燃料電池の起電力低下要因成分の分解又は吸着用の物質とを有する浄化フィルタに流通させることにより、該空気中の燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の浄化方法において、
該浄化フィルタ内の空気の空間速度を11100h−1以下とすることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項6】
請求項4において、該空間速度を7000〜8000h−1とすることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項7】
請求項3において、前記燃料電池の起電力低下要因成分の分解又は吸着用の物質は、吸着体粒子の単体又はその集合体であることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項8】
請求項3において、前記燃料電池の起電力低下要因成分の分解又は吸着用の物質は、椰子柄活性炭、木質活性炭、石油ピッチ系球状活性炭、ペレット状成型活性炭、天然ゼオライト、合成ゼオライト、活性白土、界面活性剤、陽イオン又は陰イオン交換樹脂、陽イオン又は陰イオン交換繊維、キレート樹脂、キレート化合物、無機系陽イオン又は陰イオン吸着剤、無機系合成化学脱臭剤、多孔質吸着体に中和反応等の化学反応を利用して対象ガス成分を化学的に分解除去する化合物を担持させたもの、及び、多孔質吸着体に貴金属又は卑金属からなる酸化又は還元触媒を担持させたものや酸化チタン等の光励起触媒を担持又はコーティングさせたものから選ばれる1種又は2種以上を用いた吸着体粒子であることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項9】
請求項8において、該吸着体粒子は、活性炭に、アルカリ金属の塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩、及びアルカリ土類金属の水酸化物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ性物質を添着させた添着活性炭であることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項10】
請求項9において、該アルカリ性物質の添着量が活性炭に対して20重量%以下であることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項11】
請求項7において、該吸着体粒子はバインダー層を介して三次元網状骨格構造体に保持されていることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項12】
請求項3において、該三次元網状骨格構造体はポリウレタンフォームであることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項13】
請求項12において、該ポリウレタンフォームがポリエーテル系ポリウレタンフォームであることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項14】
請求項12において、該バインダーがポリエーテル系ウレタンバインダーであることを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項15】
請求項3において、該浄化フィルタの上流側及び/又は下流側に除塵フィルタを設けたことを特徴とする燃料電池用空気の浄化方法。
【請求項16】
燃料電池に供給される空気を処理して、該空気に含まれる、燃料電池の起電力低下要因成分を除去する燃料電池用空気の浄化装置において、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の燃料電池用空気の浄化方法により、該空気を浄化する手段を備えてなることを特徴とする燃料電池用空気の浄化装置。
【請求項17】
請求項1に記載の燃料電池用空気の浄化方法により浄化された空気が供給されることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/062411
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516483(P2005−516483)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018996
【国際出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【Fターム(参考)】