説明

燃料電池用電極触媒、膜/電極接合体、燃料電池および携帯用電子機器

【課題】触媒担持性に優れ、電子伝導性の高い炭素担体を提供することにより、高性能な燃料電池用電極触媒および燃料電池を実現すること。
【解決手段】燃料電池用電極触媒であって、表面に窒素、リン、酸素及び硫黄の少なくとも1種以上を含む炭素と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維又は炭素と表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維との混合物に触媒金属を担持したものである。本発明は更に、膜/電極接合体、燃料電池およびそれを搭載した電子機器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒、膜/電極接合体、燃料電池および携帯用電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子技術の進歩によって、電話器、ノート型パソコン、オーデオ・ビジュアル機器、カムコーダ、あるいは個人情報端末機器などの携帯電子機器が急速に普及している。従来、こうした携帯用電子機器は二次電池によって駆動するシステムであり、シール鉛蓄電池からNi/Cd電池、Ni/水素電池、更にはLiイオン二次電池へと新型の高エネルギー密度の二次電池が出現した。その結果、携帯機器はより小型・軽量化が進み、一方では携帯機器の高機能化が図られてきた。何れの二次電池、中でもLiイオン二次電池のエネルギー密度より更に高いエネルギー密度の二次電池を得るために、電池活物質の開発や高容量電池構造の開発が進められ、一充電での使用時間のより長い電源を実現する努力が払われている。
【0003】
然しながら、二次電池は一定の電力を使用した後に、必ず充電操作を必要とし、充電設備と比較的長い充電時間が必要となるため、携帯機器を何時でも、何処でも、長時間にわたって連続的に駆動するには多くの問題が残されている。今後、携帯機器は増加する情報量とその高速化、高機能化に対応して、より高出力密度で高エネルギー密度の電源、すなわち、連続駆動時間の長い電源を必要とする方向に向かっている。従って、充電を必要としない小型発電機、即ち、容易に燃料補給ができるマイクロ発電機の必要性が高まっている。
【0004】
こうした背景から、この要請に応え得るものとして燃料電池電源が考えられる。燃料電池は少なくとも固体又は液体の電解質及び所望の電気化学反応を誘起する二個の電極、アノード及びカソードから構成され、その燃料が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに高効率で変換する発電機である。燃料には化石燃料或いは水などから化学変換された水素、通常の環境で液体或いは溶液であるメタノール、アルカリハイドライドやヒドラジン又は加圧液化ガスであるジメチルエーテルが用いられ、酸化剤ガスには空気又は酸素ガスが用いられる。燃料はアノードにおいて電気化学的に酸化され、カソードでは酸素が還元されて、両電極間には電気的なポテンシャルの差が生じる。このときに外部回路として負荷が両極間にかけられると電解質中にイオンの移動が生起し外部負荷には電気エネルギーが取り出される。このために各種の燃料電池は、火力機器代替の大型発電システム、小型分散型コージェネレーションシステムやエンジン発電機代替の電気自動車電源としての期待は高く、実用化開発が活発に展開されている。
【0005】
こうした燃料電池の中でも、液体燃料を使用する直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)やメタルハイドライド、ヒドラジン燃料電池は燃料の体積エネルギー密度が高いために小型の可搬型又は携帯型の電源として有効なものとして注目されている。中でも取り扱いが容易で、近い将来バイオマスからの生産も期待されるメタノールを燃料とするDMFCは理想的な電源システムといえる。
【0006】
固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)発電システムは一般的に固体高分子電解質膜の両面に多孔質のアノード及びカソードを配した単位電池を直列及び必要に応じて並列に接続した電池、燃料容器、燃料供給装置と空気又は酸素供給装置から構成される。特に液体燃料を用いるDMFCのような燃料電池を携帯機器用電源として用いるためには、より出力密度の高い電池を目指して電極触媒の高性能化、電極構造の高性能化、燃料クロスオーバー(浸透)の少ない固体高分子膜の開発などの努力が払われている。ここで電極触媒は触媒金属を炭素担体上に担持したものが用いられており、炭素担体としてはカーボンブラックや炭素繊維を用いることが一般的である。非特許文献1においては、カーボンブラックと、気相成長による高導電性チューブ状炭素繊維との混合物を混合し、金属触媒を担持させた燃料電池用触媒が開示されている。
【0007】
【非特許文献1】第44回電池討論会「チューブ状炭素を用いた固体高分子形燃料電池触媒の開発」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電極触媒中の炭素担体の役割は大きく2つに分けられ、触媒金属の担持体としての役割と電子の伝導体としての役割である。したがって電極触媒の性能を更に向上させるためには、前記2つの役割において高性能な炭素担体を見出すことが課題となる。第1の役割においては、反応場である触媒金属の表面積を稼ぐためにできるだけ微粒子化した触媒金属を担持することが必要である。第2の役割においては、反応に関わる電子の移動を容易に行うことで損失を低減することが必要である。本発明は、触媒担持性に優れ、電子伝導性の高い炭素担体を提供することにより、高性能な燃料電池用電極触媒および燃料電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、触媒金属と炭素材料から構成される燃料電池用電極触媒において、前記炭素材料が炭素と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物又は2種の異なった種類の炭素繊維の混合物である燃料電池用電極触媒を提供するものであり、更にこの触媒を用いた膜/電極接合体、燃料電池、携帯用電子機器を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、高性能な燃料電池用電極触媒、膜/電極接合体、燃料電池およびこれを搭載した携帯用電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の具体的な実施形態の説明に先立って、本発明の好ましい実施形態を説明する。まず、本発明において、炭素材料の1つとして用いる炭素はカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは大きな比表面積を持つために、多くの触媒金属を担持することができる。また、この炭素は窒素、リン、酸素及び硫黄の少なくとも1種を含むことができる。
【0012】
本発明においては、触媒金属と炭素材料から構成される燃料電池用電極触媒であって、前記炭素材料が表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物を用いることができる。
【0013】
前記炭素材料を構成するカーボンブラックの重量Xと表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の重量Wの関係が、0<W/(X+W)<50であることが好ましい。また、前記炭素材料を構成する表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維の重量Yと表面に炭素結晶C面が露出した炭素繊維の重量Wの関係が、0<W/(Y+W)<50であることも好ましい。更に、前記炭素材料を構成する表面に窒素、リン、酸素及び硫黄の少なくとも1種以上を含む炭素の重量Zと表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の重量Wの関係が、0<W/(Z+W)<50であることができる。
【0014】
前記触媒金属としては、白金,ルテニウム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,ロジウム,パラジウム,レ二ウム,イリジウム及び金から選ばれる少なくとも1種の金属が用いられる。
【0015】
本発明によれば、燃料電池用電極触媒とプロトン伝導性材料から構成される燃料を酸化するアノードと、酸素を還元するカソードと、前記アノードとカソード間に配置されるプロトン伝導性を有する膜とからなる膜/電極接合体が提供される。ここにおいて、前記アノードとカソードの少なくとも一方に含まれる燃料電池用電極触媒が触媒金属と炭素材料から構成され、前記炭素材料が炭素と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物である燃料電池用電極触媒である膜/電極接合体が提供される。
【0016】
前記炭素材料としてカーボンブラック又はリン、酸素および硫黄に少なくとも1つを含む炭素と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維又はグラファイトのC面端部が露出した炭素繊維との混合物を用いたものである。
【0017】
以下本発明を実施例により説明する。本発明において、膜/電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)はアノード、電解質膜及びカソードを備えるものであるが、更にその接合体の外側に拡散層を設けてもよい。
【0018】
(実施例1)
以下に本発明の好ましい実施の形態を示す。以下、DMFCの場合について記述するが、本実施例に係る燃料電池用電極触媒はDMFCに限定されず水素を燃料とするPEFC等、炭素担体に触媒を分散する構成を取る燃料電池用電極触媒であれば適用可能である。
【0019】
本実施例におけるカーボンブラックの模式図を図1に示す。カーボンブラックは直径数十ナノメートルの球状の一次粒子を基本構造としており、これら一次粒子が連なり二次粒子を構成している。図1は一次粒子を示している。カーボンブラックにおいて一次粒子は、平均3〜4層の小さい結晶子11からなっており、粒子表面に近いところでは同心円的に配向し、内部ではランダムな配向をとっている。すなわちグラファイト化領域が小さい低結晶性の炭素であるため、電子伝導における損失が大きくなる。しかしながら触媒金属は結晶子と結晶子の間の領域に担持できるため、前記グラファイトC面が露出した炭素繊維と比較して触媒の担持性は高い。
【0020】
表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の模式図を図2に示す。その製造法は、「炭素繊維」近代編集社、大石杉郎、他著(1983)に開示されている。前記炭素繊維は、グラフェンシート21が何層もの筒状を呈しており、表面にはグラファイトC面が露出している。電子はグラファイトC面の面内方向には高い伝導性を示し、且つ繊維状であることから本炭素繊維は良好な電子伝導経路となり得る。しかしながら触媒金属はグラファイトC面には、極めて担持しにくいため、微細な触媒金属粒子を担持し、発電を継続する過程で長期的にこれを維持することが困難である。ここで前記炭素繊維の直径は10〜500ナノメートル程度、アスペクト比は2〜100程度が好ましい。直径が細すぎると分散が難しく、太すぎると電極の形成が困難になる。またアスペクト比が小さすぎると電子伝導経路としての役割が小さくなり、大きすぎると電極の形成が困難になる。
【0021】
図3にカーボンブラック31と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維32を混合した炭素担体の模式図を示す。カーボンブラック31の高い触媒担持効果に加え、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維32が優先的な電子伝導経路となり、高い電子伝導性を得ることができる。
【0022】
ここで触媒金属としては特に限定されるものではないが、白金,ルテニウム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,ロジウム,パラジウム,レ二ウム,イリジウム及び金から選ばれる少なくとも一種以上の金属あるいは合金が望ましい。特にDMFCにおいてはアノード用として白金及びルテニウムが好ましい。カソード用として白金が望ましい。本実施例ではアノード用として白金とルテニウムを用いた。これらの触媒金属を、まず高い触媒担持性を持つカーボンブラックにのみ担持し、その後、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維を混合して燃料電池用電極触媒を得ることが好ましいが、先に炭素担体と炭素繊維とを混合したのちに、触媒金属を担持しても良い。本実施例では、先にカーボンブラックと表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維を、重量比で4:1の割合で混合した。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.075Ωcmであった。
【0023】
混合炭素担体と、アルカリ性水溶液と、還元剤とを容器に入れ、スターラにて1時間攪拌し混合した。ここで、アルカリ性水溶液としては例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水等を用いることができ、還元剤としては水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリン等を用いることができる。本実施例ではアルカリ性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液,還元剤としてホルマリンを用いた。これに触媒金属塩の水溶液を加え、ウォーターバスを用いて容器を40℃に保ち、更に1時間攪拌を行った。
【0024】
触媒金属塩は、例えば塩化物、硝酸塩又はアンモニア塩を用いることができ、本実施例では塩化物である塩化白金酸、塩化ルテニウムを用いた。その後、ガラスフィルターを用いて攪拌後の溶液を、濾過した。得られた固形物に純水を加え洗浄、濾過する作業を数回行い最終的に得られた固形物を恒温槽にて80℃で24時間、乾燥を行った。乾燥後、乳鉢にて粉砕し、混合炭素担体に白金とルテニウムを担持した電極触媒を得た。触媒金属の担持法は、本実施例で用いた湿式還元法の他に、含浸法、イオン交換法などを用いることができる。
【0025】
触媒金属の担持量は、触媒全体重量の1〜70重量%が望ましく、更に望ましくは20〜50重量%とするのが良い。本実施例では30重量%とし、白金とルテニウムの割合は原子比で1:1とした。ここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を、メタノール含有電解液(1.5M硫酸、20重量%メタノール)中にて測定した。その結果、あらかじめ定義した評価基準電位において60mAのメタノール酸化電流を得た。
【0026】
(実施例2)
表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維の模式図を図4に示す。その製造方法は特開2003−342839号公報に開示されている。前記炭素繊維は、繊維の長手方向と垂直にグラフェンシート41が層状に配置しており、表面にはグラファイトC面の端部が露出している。この端部には触媒金属を担持することが容易なため、微細な触媒金属粒子を担持し、発電を継続する過程で長期的にこれを維持することが可能である。一方でグラファイトC軸方向には電子が伝導しにくいため、本材料の長手方向には電子は伝導しにくく、損失が大きくなる。ここで前記炭素繊維の直径は10〜500ナノメートル程度、アスペクト比は100以下が好ましい。直径が細すぎると分散が難しく、太すぎると電極の形成が困難になる。またアスペクト比が大きすぎると電極の形成が困難になる。表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維には、図5に示す様にグラフェンシート51が、繊維の長手方向に対して角度をなすものもある。その製造方法は、特開2003−342839号公報及び特開2005−29696号公報に開示されている。
【0027】
本実施例に係る電極触媒の作製法であるが、カーボンブラックの代わりに表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維を用いる以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.116Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において61mAのメタノール酸化電流を得た。
【0028】
(実施例3)
表面に窒素、リン、酸素、硫黄の少なくとも1種以上を含む炭素においては、炭素中の窒素、リン、酸素、硫黄は触媒金属と強い相互作用をもつため、触媒金属を担持することが容易である。従って、微細な触媒金属粒子を担持し、発電を継続する過程で長期的にこれを維持することが可能である。しかし炭素に窒素、リン、酸素、硫黄をドーピングにより添加することで電子伝導性は低下するため、損失が大きくなる。ここで炭素に含ませる窒素、リン、酸素及び/又は硫黄の量は特に規定されるものではないが、好ましくはX線光電子分光法(XPS)による表面原子濃度分析において0.1〜30原子%程度が良い。
【0029】
本実施例に係る電極触媒の作製法であるが、カーボンブラックの代わりに表面に窒素を5原子%含む炭素を用いる以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.123Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において63mAのメタノール酸化電流を得た。
【0030】
(実施例4)
本実施例に係る電極触媒の作製法であるが、カーボンブラックと表面に図2に示すグラファイトC面が露出した炭素繊維の混合割合を重量比で2:1にする以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.052Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において57mAのメタノール酸化電流を得た。
【0031】
(比較例1)
本比較例に係る電極触媒の作製法であるが、炭素繊維担体を混合せずにカーボンブラックのみを用いる以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.120Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において53mAのメタノール酸化電流を得た。
【0032】
(比較例2)
本比較例に係る電極触媒の作製法であるが、炭素担体を混合せずにグラファイトC面端部が露出した炭素繊維のみを用いる以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.196Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において55mAのメタノール酸化電流を得た。
【0033】
(比較例3)
本比較例に係る電極触媒の作製法であるが、炭素担体を混合せずに表面に窒素を5原子%含む炭素のみを用いる以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.191Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において58mAのメタノール酸化電流を得た。
【0034】
(比較例4)
本比較例に係る電極触媒の作製法であるが、炭素担体を混合せずに表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維のみを用いる以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.018Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において44mAのメタノール酸化電流を得た。
【0035】
(比較例5)
本比較例に係る電極触媒の作製法であるが、カーボンブラックと表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の混合割合を重量比で1:1にする以外は実施例1と同様とした。ここで得られた混合炭素担体を抵抗測定用冶具に装填し、15MPaの圧力下での混合炭素担体の比抵抗を測定したところ、0.038Ωcmであった。またここで得られた電極触媒のメタノール酸化特性を測定した結果、あらかじめ定義した評価基準電位において54mAのメタノール酸化電流を得た。
【0036】
(実施例5)
図6は、本発明に係る燃料電池の断面図模式図である。燃料電池は、本発明に係る電極触媒とバインダーを含むアノード61、カソード63及びそれらの中間の固体高分子電解質膜62を有する膜/電極接合体を中心に構成される。アノード61およびカソード63には、カーボンペーパーやカーボンクロスなどの拡散層70を配置することが望ましい。アノード61側には、メタノール水溶液65が供給され、二酸化炭素56が排出される。カソード63側には、酸素、空気等の酸化剤ガス67が供給され、導入した気体中の未反応気体と、水とを含む排ガス68が排出される。またアノード61と、カソード63は外部回路64へ接続される。
【0037】
ここで電解質膜62には水素イオン導電性材料を用いると大気中の炭酸ガスの影響を受けることなく安定な燃料電池を実現できる。このような材料として、ポリパーフルオロスチレンスルフォン酸、パーフルオロカーボン系スルフォン酸などに代表されるスルフォン酸化したフッ素系ポリマーがある。また、ポリスチレンスルフォン酸、スルフォン酸化ポリエーテルスルフォン類、スルフォン酸化ポリエーテルエーテルケトン類などの炭化水素系ポリマーをスルフォン化した材料もある。炭化水素系ポリマーをアルキルスルフォン酸化した材料を用いることもできる。これらの材料を電解質膜として用いれば一般に燃料電池を80℃以下の温度で作動することができる。
【0038】
また、タングステン酸化物水和物、ジルコニウム酸化物水和物、スズ酸化物水和物などの水素イオン導電性無機物を耐熱性樹脂若しくはスルフォン酸化樹脂にミクロ分散した複合電解質膜等を用いて、より高温域まで作動する燃料電池とすることもできる。特にスルフォン酸化されたポリエーテルスルフォン類、ポリエーテルエーテルスルフォン類或いは水素イオン導電性無機物を用いた複合電解質類は、ポリパーフルオロカーボンスルフォン酸類に比較して燃料のメタノール透過性の低い電解質膜として好ましい。いずれにしても水素イオン伝導性が高く、メタノール透過性の低い電解質膜を用いると燃料の発電利用率が高くなるため本実施例の効果であるコンパクト化及び長時間発電をより高いレベルで達成することができる。
【0039】
またバインダーは同様に固体高分子電解質を用いることができ、電解質膜と同様の材質のものが使える。膜/電極接合体の作製方法としては、電極触媒とバインダーを溶媒に分散させ、これを電解質膜に直接スプレー法、インクジェット法などで塗布する方法がある。また、テフロン(登録商標)シートなどに塗布し、熱転写によって電解質膜に貼り付ける方法、あるいは拡散層に塗布した後に電解質膜に貼り付ける方法もある。このようにして得られる本発明の電極触媒を用いた膜/電極接合体、あるいはDMFCは高い出力密度を持つ。
【0040】
作成したDMFCを携帯用情報端末に実装した例を図7に示す。この携帯用情報端末は、タッチパネル式入力装置が一体化された表示装置71と、アンテナ72を内蔵した部分と、DMFC73と、メインボード74と、リチウムイオン二次電池75を搭載する部分とを備える。メインボード74にはプロセッサ、揮発及び不揮発メモリ、電力制御部、DMFCと二次電池のハイブリッド制御、燃料モニタなどの電子機器及び電子回路などが実装されている。リチウムイオン二次電池75を搭載する部分には、燃料カートリッジ76のホルダーを兼ねたヒンジ77で連結された折り畳み式の構造をとっている。このようにして得られる携帯用情報端末は、DMFCの出力密度が高いため、DMFC部を小さくでき、軽量でコンパクトな構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】カーボンブラック一次粒子の構成を示す模式図。
【図2】実施例において用いられた炭素繊維の模式図で、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の構造を示す。
【図3】実施例において用いられた、混合炭素担体の模式図。
【図4】実施例において用いられた、表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維の模式図。
【図5】実施例において用いられた、表面にグラファイトC面端部が斜方に露出した炭素繊維の模式図。
【図6】実施例に係る燃料電池の断面模式図。
【図7】実施例に係る携帯用情報端末の断面模式図。
【符号の説明】
【0042】
11…結晶子、21…グラフェンシート、31…カーボンブラック、32…表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維、41…グラフェンシート、51…グラフェンシート、61…アノード、62…固体高分子電解質、63…カソード、64…外部回路、65…メタノール水溶液、66…二酸化炭素、67…酸化剤ガス、68…排ガス、70…拡散層、71…表示装置、72…アンテナ、73…DMFC、74…メインボード、75…リチウムイオン二次電池、76…燃料カートリッジ、77…ヒンジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属と炭素材料から構成される燃料電池用電極触媒であって、前記炭素材料が炭素と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物であり、前記炭素が窒素、リン、酸素、硫黄の少なくとも1種を含むことを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用電極触媒において、前記触媒金属が白金,ルテニウム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,ロジウム,パラジウム,レ二ウム,イリジウム及び金から選ばれる少なくとも1種の金属からなることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池用電極触媒において、前記炭素材料を構成するカーボンブラックの重量Xと表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の重量Wの関係が、0<W/(X+W)<50であることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
触媒金属と炭素材料から構成される燃料電池用電極触媒であって、前記炭素材料が表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物であることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
前記炭素が窒素、リン、酸素及び硫黄の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項4に記載の燃料電池用電極触媒において、前記炭素材料を構成する表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維の重量Yと表面に炭素結晶C面が露出した炭素繊維の重量Wの関係が、0<W/(Y+W)<50であることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項7】
請求項4に記載の燃料電池用電極触媒において、前記炭素材料を構成する表面に窒素、リン、酸素、硫黄の少なくとも1種以上を含む炭素の重量Zと表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維の重量Wの関係が、0<W/(Z+W)<50であることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項8】
請求項4に記載の燃料電池用電極触媒において、前記触媒金属が白金,ルテニウム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,ロジウム,パラジウム,レ二ウム,イリジウム及び金から選ばれる少なくとも1種の金属からなることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
【請求項9】
燃料電池用電極触媒とプロトン伝導性材料から構成される燃料を酸化するアノードと、酸素を還元するカソードと、前記アノードとカソード間に配置されるプロトン伝導性を有する膜とからなる膜/電極接合体において、前記アノードとカソードの少なくとも一方に含まれる燃料電池用電極触媒が触媒金属と炭素材料から構成される燃料電池用電極触媒であって、前記炭素材料が炭素と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物である燃料電池用電極触媒であることを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項10】
前記炭素がカーボンブラックであることを特徴とする請求項9記載の膜/電極接合体。
【請求項11】
前記炭素が窒素、リン、酸素及び硫黄の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項9記載の膜/電極接合体。
【請求項12】
燃料電池用電極触媒とプロトン伝導性材料から構成される燃料を酸化するアノードと、酸素を還元するカソードと、前記アノードとカソードの間に配置されるプロトン伝導性を有する膜からなる膜/電極接合体において、前記アノードとカソードの少なくとも一方に含まれる燃料電池用電極触媒が触媒金属と炭素材料から構成される燃料電池用電極触媒であって、前記炭素材料が表面にグラファイトC面端部が露出した炭素繊維と、表面にグラファイトC面が露出した炭素繊維との混合物であることを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項13】
請求項9に記載の膜/電極接合体と燃料を供給する部材と酸素を供給する部材と集電用部材から構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項14】
請求項12に記載の膜/電極接合体と燃料を供給する部材と酸素を供給する部材と集電用部材とから構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項15】
請求項13に記載の燃料電池を搭載したことを特徴とする携帯用電子機器。
【請求項16】
請求項14に記載の燃料電池を搭載したことを特徴とする携帯用電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−61698(P2007−61698A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248921(P2005−248921)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】