説明

燃料電池車の冷却構造

【課題】燃料電池車の冷却構造において、前側冷却水経路と後側冷却水経路で圧力損失を抑制し、前側冷却通路及び後側冷却通路へ適切な流量配分を行い、大型の冷却水ポンプを不要とし、冷却水ポンプの小型化を図り、また、冷却水の脈動を抑え、冷却水の脈動による振動・騒音を低減することにある。
【解決手段】車両前方のエンジンルームに配設される前側補機とエンジンルームの車両後方の車体のメインフロアに配設される後側補機とを冷却する冷却水ポンプを設けた燃料電池車の冷却構造において、冷却水ポンプに出口通路を設け、この出口通路に連通するチャンバーを設け、このチャンバーには前側補機に冷却水を供給する前側冷却通路と後側補機に冷却水を供給する後側冷却通路とを連通させて設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池車の冷却構造に係り、特に冷却水ポンプの配置を最適化し、冷却水ポンプの能力を劣化させることなく、冷却系部品をコンパクトに配置する燃料電池車の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両としての燃料電池車においては、燃料電池及び複数の補機を冷却する際に、冷却水による水冷式の場合に、冷却水ポンプが必要となる。この冷却水ポンプは、配置の自由度が高く、燃料電池の位置及びその他の補機等のレイアウトにより左右されるものである。
【0003】
従来、ハイブリッド車の冷却装置には、冷却回路にサブタンクを接続し、このサブタンクのエア抜き孔に弁手段を介してエア配管を接続するとともに、冷却回路として、配管を介して、ラジエータに、各補機類に形成された冷却ジャケットを、複数の系統に並列とした上で接続したものである。
【特許文献1】特許第3507303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池車においては、冷却を必要とする補機が多数存在し、また、これらの補機が車両前側や車両後側に離れてレイアウトされる場合には、冷却水通路を分岐させなければならず、このように、冷却水通路が分岐すると、前側冷却水経路と後側冷却水経路とで圧力損失が大きくなり、この圧力損失を補って前側冷却水経路及び後側冷却水経路への適切な流量配分を行うためには、冷却水ポンプを大型化する等の対策が必要であり、改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、車両前方のエンジンルームに配設される前側補機と前記エンジンルームの車両後方の車体のメインフロアに配設される後側補機とを冷却する冷却水ポンプを設けた燃料電池車の冷却構造において、前記冷却水ポンプに出口通路を設け、この出口通路に連通するチャンバーを設け、このチャンバーには前記前側補機に冷却水を供給する前側冷却通路と前記後側補機に冷却水を供給する後側冷却通路とを連通させて設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明の燃料電池車の冷却構造は、冷却水ポンプの出口通路に連通するチャンバーに、前側補機に冷却水を供給する前側冷却通路と後側補機に冷却水を供給する後側冷却通路とを連通させることにより、チャンバー内の圧力差が均等となり、前側冷却水経路と後側冷却水経路で圧力損失を抑制し、これにより、前側冷却通路及び後側冷却通路へ適切な流量配分を行うことができ、大型の冷却水ポンプを不要とし、冷却水ポンプの小型化を図り、また、チャンバーにより冷却水の脈動を抑えることができ、冷却水の脈動による振動・騒音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明は、前側冷却通路及び後側冷却通路へ適切な流量配分を行う目的を、冷却水ポンプの出口通路に連通するチャンバーに、前側補機に冷却水を供給する前側冷却通路と後側補機に冷却水を供給する後側冷却通路とを連通させて実現するものである。
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を詳細且つ具体的に説明する。
【実施例】
【0008】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。
【0009】
図5において、2は燃料電池車(以下「車両」という)、4は車体、6は車両前方側のエンジンルーム、8はフロントガラス、10はリヤガラス、12は運転席、14は後部座席である。
【0010】
車体4には、図1、図5に示す如く、運転席12の下側で且つエンジンルーム6の車両後方で、メインフレーム(図示せず)に設置されたメインフロア(図1、図5の波線で示す)16が設けられている。
【0011】
エンジンルーム6には、図6に示す如く、燃料電池スタック18が設けられているとともに、燃料電池の前部位の前側補機20として、走行モータ22と走行モータ用インバータ24とDC/DCコンバータ26と空気供給用コンプレッサ28と水素循環ポンプ30とが設けられ、また、冷却水を冷却するように、第1ラジエータ32と第2ラジエータ34とが設置されている。前記燃料電池スタック18は、複数の燃料電池を多数積層して構成され、水素と空気内の酸素とから得られた電気エネルギを走行モータ22に供給するものである。
【0012】
メインフロア16には、図1に示す如く、車両2の右側、左側で、下方に突出した断面U字形状の右側サイドメンバ36Rと左側サイドメンバ36Lとが、車両前後方向Xに指向して所定の長さで形成されている。
【0013】
このメインフロア16の右側サイドメンバ36Rと左側サイドメンバ36Lとには、サブフレーム38が取り付けられる。このサブフレーム38は、図4に示す如く、車両2の右側、左側で且つ車両前後方向Xに指向する一対の右側、左側前後方向メンバ40R、40Lと、この右側、左側前後方向メンバ40R、40Lに連設し且つ車両2の幅方向(左右方向)Yに指向して所定間隔で配置された複数の第1〜5幅方向メンバ42−1〜42−5とを備えている。また、このサブフレーム38は、右側前後方向メンバ40Rに設けられた右側第1〜3取付具44R−1〜44R−3と、左側前後方向メンバ40Lに設けられた左側第1〜3取付具44L−1〜44L−3とにより、右側サイドメンバ36Rと左側サイドメンバ36Lとの下面に弾性的に取り付けられる。
【0014】
サブフレーム38には、図4に示す如く、燃料電池の後部位の後側補機46として、エアコン用インバータ48が取り付けられ、また、このエアコン用インバータ48の車両後方で、車両2には、他の補機(図示せず)や燃料となる水素を貯留する水素タンク50(図6参照)が設けられている。
【0015】
図6に示す如く、水素タンク50は、水素供給通路52を介して燃料電池スタック18に連通している。また、空気供給用コンプレッサ28は、空気供給通路54を介して燃料電池スタック18に連通している。
【0016】
サブフレーム38には、冷却装置56が設置される。この冷却装置56は、車両前後方向Xの中央に、冷却水ポンプ58を設置している。この冷却水ポンプ58は、前側補機20及び後側補機46の各補機を冷却する冷却水を循環させる第1冷却水ポンプ58−1と、燃料電池スタック18を冷却する冷却水を循環させる第2冷却水ポンプ58−2とからなる。この第2冷却水ポンプ58−2は、車両2の幅方向Yの略中心2C部位に配設されているとともに、第1冷却水ポンプ58−1は、第2冷却水ポンプ58−2に対して少し車両前方で且つ少し車両右方で並んで配設されている。
【0017】
図3に示す如く、第1冷却水ポンプ58−1には、第1ポンプケース60−1の前面の中央部位に第1吸入口62−1が形成されているとともに、第1ポンプケース60−1の周縁部位の前面に第1エア抜きボルト64−1が取り付けられ、また、第1ポンプケース60−1の側部に設けられる第1吐出口68−1に第1ポンプケース60−1側(車両中央側)で斜め上方に延出される第1延長部66−1の一端が接続され、そして、この第1延長部66−1によって所定の第1長さL1の第1助走区間を有する第1延長通路66−1Aが形成される。また、第2冷却水ポンプ58−2には、第2ポンプケース60−2の中央部位の前面に第2吸入口62−2が形成されているとともに、第2ポンプケース60−2の周縁部位の前面に第2エア抜きボルト64−2が取り付けられ、また、第2ポンプケース60−2の側部に設けられる第2吐出口68−2に車両中央側で斜め上方に延出される第2延長部66−2の一端が接続され、そして、この第2延長部66−2によって前記第1長さL1よりも大きな第2長さL2の第2助走区間を有する第2延長通路66−2Aが形成される。前記第2延長部66−2は、後述する熱交換器102の後面に沿って車両幅方向Yに延出される。
【0018】
また、第1冷却水ポンプ58−1においては、複数の補機を冷却した冷却水を戻す第1吸入口62−1に第1冷却水戻り通路70を形成する第1冷却水戻りパイプ72が接続され、第1延長部66−1の他端には第1出口通路74を形成する第1出口パイプ76が接続される。また、第2冷却水ポンプ58−2においては、第2吸入口62−2に車両前側のエンジンルーム6に配設された燃料電池スタック18を冷却した冷却水を戻す第2冷却水戻り通路78を形成する第2冷却水戻りパイプ80が接続され、第2延長部66−2の他端には第2出口通路82を形成する第2出口パイプ84が接続される。
【0019】
第2出口パイプ84は、前記第1延長部66−1と接続された後に、湾曲部位を介して後述する熱交換器102の左側の側面に沿って前方に延出され、熱交換器102の前面に沿ってU字状に湾曲して熱交換器102の冷却水入口部102Aに接続される。熱交換器102の前面には、スタック冷却水通路(図示せず)が接続される冷却水入口部102Aが形成される。スタック冷却水通路は、後述する第2冷却水配管通路106を構成する。また、第2出口パイプ84の前側に位置するU字状の湾曲部位に、後述する分岐パイプ104が接続される。
【0020】
第1出口パイプ76の先端側には、チャンバー86が接続して設けられている。このチャンバー86は、例えば、有底の円筒形状で所定容量を有し、軸方向が車両2の幅方向Yに延出して配設されている。
【0021】
図2に示す如く、チャンバー86の外周面86Dには、車両前側で、前側補機20に冷却水を供給する第1前側冷却水通路88としての複数の第1一方、第1他方前側冷却水通路88A、88Bを形成する第1一方、第1他方前側冷却水パイプ90A、90Bと、車両後側で、第1出口パイプ76の先端側と後側補機46に冷却水を供給する単一の後側冷却水通路92を形成する後側冷却水パイプ94とが接続して設けられている。つまり、図2に示す如く、チャンバー86には、複数として、2つの第1一方、第1他方前側冷却水通路88A、88Bが設けられるとともに、単一の後側冷却水通路92が設けられている。
【0022】
このチャンバー86は、第1、第2冷却水ポンプ58−1、58−2の車両前方で車両2の幅方向Yに指向して第2冷却水ポンプ58−2よりも車両中央側に少しずらして配設されている。また、チャンバー86の右側の側方には、第1冷却水ポンプ58−1の前面に設けた第1吸入口62−1に連通する第1冷却水戻り通路70が配設されている。更に、図1に示す如く、第1吸入口62−1と第1冷却水戻り通路70とは、車両前後方向Xに指向し、略一直線上に配置されている。また、第1冷却水戻り通路70を構成する第1出口パイプ76と後述する熱交換器102との間には、第1冷却水戻り通路70(車両右側)から順次に、第1一方前側冷却水通路88Aを形成する第1一方前側冷却水パイプ90A、第1他方前側冷却水通路88Bを形成する第1他方前側冷却水パイプ90B、燃料電池スタック18を冷却した冷却水を戻す第2冷却水戻り通路78を形成する第2冷却水戻りパイプ80が、夫々車両前後方向Xに一直線状に配置されている。図2に示す如く、後側冷却水通路92の径D2は、第1一方、第1他方前側冷却水通路88A、88Bの径D1より小さく形成されている。
【0023】
第1一方、第1他方前側冷却水通路88A、88Bは、図6に示す如く、第1前側冷却水経路A−1を形成する第1冷却水配管通路96により、空気供給用コンプレッサ28と水素循環ポンプ30とDC/DCコンバータ26と走行モータ22と走行モータ用インバータ24と第1ラジエータ32とを順次に経て、第1冷却水戻り通路70に連通している。
【0024】
後側冷却水通路92は、メインフロア16の後部側に延長した後側冷却水経路Bを形成する後側冷却水配管98で形成した後側冷却水配管通路100に連通し、そして、後側補機46に連通して設けられているとともに、さらに車両後方の補機にも連通している。
【0025】
図1に示す如く、第2冷却水ポンプ58−2の第2出口パイプ84は、メインフロア16の前部側で、車両2の略中心2Cに配設された熱交換器102に接続しているとともに、この熱交換器102の手前に前側分岐パイプ104を備えている。この前側分岐パイプ104には、第2前側冷却水経路A−2を形成する第2冷却水配管通路106が連通している。従って、第2出口通路82は、熱交換器102に連通しているとともに、第2冷却水配管通路106により、燃料電池スタック18に連通している。この燃料電池スタック18には、排出通路108が連通している。
【0026】
この熱交換器102は、図6に示す如く、水素供給通路52の途中に設けられた第1熱交換器102−1と、空気供給通路54の途中に設けられた第2熱交換器102−2とから構成されている。また、燃料電池スタック18には、水素循環通路110の一端側が連通している。この水素循環通路110は、他端側が水素循環ポンプ30を介して水素タンク50と第1熱交換器102−1との間の水素供給通路52の途中に連通している。また、燃料電池スタック18に供給される空気内の酸素と水素との温度を燃料電池スタック18と同程度にすべく、夫々第1熱交換器102−1と第2熱交換器102−2により熱交換されている。
【0027】
図2に示す如く、チャンバー86の下面には、車両2の幅方向Yで一対の脚部(ブラケット)112R・112Lが設けられている。この脚部112R・112Lには、取付ボルト(図示せず)を挿通する取付孔114R・114Lが形成されている。そして、このチャンバー86は、この脚部112R・112Lを介してメインフロア16の下側に配設されている。また、このチャンバー86の下面には、水抜き用のドレイン116が設けられている。
【0028】
また、図1に示す如く、第1一方、第1他方前側冷却水パイプ90A、90Bの第1一方、第1他方前側冷却水通路88A、88Bには、第1、第2流量計118、120が設けられている。また、第2冷却水戻りパイプ80の第2冷却水戻り通路78には、第3流量計122が設けられている。
【0029】
図4に示す如く、サブフレーム38には、熱交換器102の車両左方に第1バルブ124と、第2冷却水ポンプ58−2の車両左方に第2バルブ126と、第2冷却水ポンプ58−2の車両後方にエアコンコンプレッサ128と、このエアコンコンプレッサ128の車両右方にウォータポンプ用インバータ130と、エアコンコンプレッサ128の車両左方で排出通路108に連通したマフラ132と、このマフラ132とエアコンコンプレッサ128との間に第4流量計134と、マフラ132の車両左方に差圧計136と、エアコンコンプレッサ128の車両後方にエアコンコンプレッサ用インバータ48と、このエアコンコンプレッサ用インバータ48の車両左方に第3バルブ138と、車両前後方向Xで車両2の中心2C付近に空気供給通路54を形成する空気供給配管140が設置されている。
【0030】
即ち、図6に示す如く、車両2において、水素タンク50の水素は、第1熱交換器102−1を介して燃料電池スタック18に供給され、そして、その残量分が水素循環通路110から、再び、燃料電池スタック18に還流される。また、空気供給用コンプレッサ28からの空気内の酸素は、第2熱交換器120−2を介して燃料電池スタック18に供給され、そして、その残量分が排出通路108から外部に排出される。
【0031】
一方、第1冷却水ポンプ58−1からの冷却水は、第1前側冷却水経路A−1において、空気供給用コンプレッサ28と水素循環ポンプ30とDC/DCコンバータ26と走行モータ22と走行モータ用インバータ24とを冷却して高温となり、そして、第1ラジエータ32で冷却されて第1冷却水ポンプ58−1に戻される。また、第2冷却水ポンプ58−2からの冷却水は、第2前側冷却水経路A−2を形成する第2冷却水配管通路106において、第1、第2熱交換器102−1、102−2と燃料電池スタック18とを冷却して高温となり、そして、第2ラジエータ34で冷却されて第2冷却水ポンプ58−2に戻される。
【0032】
次に、この実施例の作用を説明する。
【0033】
図1に示す如く、第1冷却水ポンプ58−1は、第1前側冷却水経路A−1、後側冷却水経路Bで、車両前後方向Xの各補機を冷却するための冷却水を循環させる。第2冷却水ポンプ58−2は、第2前側冷却水経路A−2で、燃料電池スタック18を冷却する冷却水を循環させる。第1冷却水ポンプ58−1と第2冷却水ポンプ58−2は、図4に示す如く、運転席12の下方のサブフレーム38に設置されている。また、第1前側冷却水経路A−1と第2前側冷却水経路A−2とは、夫々独立している。
【0034】
第1冷却水ポンプ58−1が循環する冷却水経路は、車体前方の第1前側冷却水経路A−1と車体後方の後側冷却水経路Bとに、チャンバー86で分岐されている。車体前方の第1前側冷却水経路A−1は、2つの経路であり、車体後方の後側冷却水経路Bは、1つの経路である。
【0035】
ここで、例えば、冷却水ポンプ58を車両前方に寄せて配設すると、車両前方側の配管は短くなるが、車両後方側の配管が長くなる。車両後方側は1つの冷却水経路であり、その通路面積が狭く且つ配管が長くなると、冷却水の圧力損失が大きくなるものである。
【0036】
そこで、この実施例において、図1に示す如く、冷却ポンプ58を車両2の中心に近い位置とし、各配管の前後長さの差を少なくした。また、各冷却経路を4方に分岐する部分にチャンバー86を設けることにより(図2参照)、チャンバー86内の圧力差が均等となるため、車両前後方向Xの第1前側冷却水経路A−1と後側冷却水経路Bとへの適当な流量配分が得られ、分岐による圧力損失を抑制することができ、更に、チャンバー86が冷却水の脈動を抑えることができるため、振動、騒音の面で有利である。更にまた、チャンバー86の下側にドレイン116を設けることにより、一段と下方で水抜きを行うことにより、その作業上有利とすることができる。
【0037】
一方、第2冷却水ポンプ58−2が循環する第2前側冷却水経路A−2の冷却水は、燃料電池スタック18に入る前に、熱交換器102に入る。燃料電池スタック18に入る空気供給用コンプレッサ28からの空気の温度は、燃料電池スタック18の温度に近いことが望まれるため、燃料電池スタック18には、第2熱交換器102−2で冷却水と熱交換された空気を供給する。よって、この冷却水は、燃料電池スタック18に入る前に、第2熱交換器102−2に入る必要がある。第2冷却水ポンプ58−2の配置は、なるべく車両前方にある燃料電池スタック18に近い方が、冷却配管長さを短くすることができるが、上述の如く、冷却水を燃料電池スタック18に入れる前に第2熱交換器102−2に入れることから、第2冷却水ポンプ58−2を熱交換器102の車両後方に配置した。また、これら2台の第1、第2冷却水ポンプ58−1、58−2は、メインフロア16の下側、つまり、車体4の下部に配置されているため、呼び水、エア抜きに有利となる。この冷却水は、第1、第2冷却水ポンプ58−1、58−2の中心である第1、第2吸入口62−1、62−2より吸入され、第1、第2冷却水ポンプ58−1、58−2の内部のインペラ(図示せず)により遠心力を与えられ、第1、第2吐出口68−1、68−2より吐出される。この際に、図3に示す如く、第1、第2冷却水ポンプ58−1、58−2において、ポンプ遠心方向へ配管を延長し助走区間を与えることで、インペラより与えられた流れを、十分に発達させることができ、ポンプ効率を向上することができる。
【0038】
よって、車両2において、冷却水ポンプ58の配置を最適化することにより、冷却水ポンプ58の能力を劣化させることなく、冷却系部品をコンパクトに配置することを可能とした。
【0039】
この結果、この実施例において、車両前方のエンジンルーム6に配設される前側補機20とエンジンルーム6の後方のメインフロア16に配設される後側補機46とを冷却する冷却水ポンプ58を設けた車両2において、冷却水ポンプ58の第1冷却水ポンプ58−1に第1出口通路74を設け、この第1出口通路74に連通するチャンバー86を設け、このチャンバー86には前側補機20に冷却水を供給する第1一方、第1他方前側冷却通路88A、88Bと後側補機46に冷却水を供給する後側冷却通路92とを連通させて設けたことから、チャンバー86内の圧力差が均等となり、第1前側冷却水経路A−1と後側冷却水経路Bとで圧力損失を抑制し、これにより、第1前側冷却水経路A−1及び後側冷却水経路Bへ適切な流量配分を行うことができ、大型の冷却水ポンプを不要とし、また、チャンバー86により冷却水の脈動を抑えることができ、冷却水の脈動による振動・騒音を低減することができる。
【0040】
冷却水ポンプ58は、車両前後方向Xの中央に配設されたことから、前側冷却通路88と後側冷却通路92とにおける通路長さの差を可及的に低減することができる。
【0041】
複数の第1一方、第1他方前側冷却水通路88A、88Bを設けるとともに、単一の後側冷却通路92を設け、後側冷却通路92の径D2を前側冷却通路88の径D1より小さく形成したことから、後側冷却通路92の径D2が前側冷却通路88の径D1より小さく、通路数も少ないために、車両2の前側ではなく、車両前後方向Xの中央に冷却水ポンプ58を設置することにより、前側冷却通路88より圧力損失の大きい後側冷却通路92の圧力損失を可及的に防止することができる。
【0042】
チャンバー86に脚部112R、112Lを設け、この脚部112R、112Lを介してチャンバー86を車体2のメインフロア16の下側に配設したことから、冷却水ポンプ58の呼び水を重力により効率良く行うことができるとともに、メインフロア16の下側の低い位置で水抜きを行うことができ、効率よく水抜きを行うことができる。
【0043】
チャンバー86の下面には、ドレイン116を設けたことから、サブフレーム38に支持された冷却水ポンプ58の下面に冷却水のドレイン116を設けて、重力により一段と下方で水抜きを行うことができ、効率よく冷却水を抜くことができる。
【0044】
チャンバー86を車両2の幅方向Yに延出させて形成するとともに、チャンバー86を冷却水ポンプ58の車両前方の幅方向Yでずらして配設し、チャンバー86の側方に冷却水ポンプ58の第1冷却水ポンプ58−1の前面に設けた第1吸入口62−1に連通する第1冷却水戻り通路70を配設し、第1吸入口62−1と第1冷却水戻り通路70とを略一直線上に配置したことから、チャンバー86の側方に冷却水ポンプ58の第1冷却水戻り通路70を配置するスペースを形成することができ、これにより、第1冷却水戻り通路70の冷却水を効率よく戻すことができる。
【0045】
なお、この発明においては、第1冷却水ポンプと第2冷却水ポンプとを一体化し、冷却水経路を一本化することによっても同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
チャンバーには前側補機に冷却水を供給する前側冷却通路と後側補機に冷却水を供給する後側冷却通路とを連通させる構造を、他の構造にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】車両のメインフロア部位の平面図である。
【図2】チャンバーの斜視図である。
【図3】冷却水ポンプの正面図である。
【図4】車両のメインフロア部位の斜視図である。
【図5】車両の平面図である。
【図6】冷却水経路の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
2 車両
4 車体
6 エンジンルーム
16 メインフロア
18 燃料電池スタック
20 前側補機
22 走行モータ
38 サブフレーム
46 後側補機
50 水素タンク
56 冷却装置
58 冷却ポンプ
70 第1冷却水戻り通路
74 第1出口通路
86 チャンバー
102 熱交換器
112 脚部
116 ドレイン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方のエンジンルームに配設される前側補機と前記エンジンルームの車両後方の車体のメインフロアに配設される後側補機とを冷却する冷却水ポンプを設けた燃料電池車の冷却構造において、前記冷却水ポンプに出口通路を設け、この出口通路に連通するチャンバーを設け、このチャンバーには前記前側補機に冷却水を供給する前側冷却通路と前記後側補機に冷却水を供給する後側冷却通路とを連通させて設けたことを特徴とする燃料電池車の冷却構造。
【請求項2】
前記冷却水ポンプは、車両前後方向の中央に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車の冷却構造。
【請求項3】
複数の前記前側冷却通路を設けるとともに、単一の前記後側冷却通路を設け、前記後側冷却通路の径を前記前側冷却通路の径よりも小さく形成したことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池車の冷却構造。
【請求項4】
前記チャンバーに脚部を設け、この脚部を介して前記チャンバーを前記メインフロアの下側に配設したことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池車の冷却構造。
【請求項5】
前記チャンバーの下面には、ドレインを設けたことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池車の冷却構造。
【請求項6】
前記チャンバーを前記車両の幅方向に延出させて形成するとともに、前記チャンバーを前記冷却水ポンプの車両前方で前記車両の幅方向にずらして配設し、前記チャンバーの側方に前記冷却水ポンプの前面に設けた吸入口に連通する冷却水戻り通路を配設し、前記吸入口と前記冷却水戻り通路とを略一直線上に配置したことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池車の冷却構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−160212(P2006−160212A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358793(P2004−358793)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】