説明

燃料電池車両の暖房装置

【課題】燃料電池のアノード排気中の排気水素ガスを可燃下限濃度以下に希釈するとともに、燃料電池システムの廃熱を暖房に利用することができ、シンプルなシステム構成である空冷式の燃料電池システムをそのまま用いて車室内を暖房することができる燃料電池車両の暖房装置を実現。
【解決手段】酸素と水素との化学反応によって発電する燃料電池2と、導入した外気を前記燃料電池2のカソード極に供給し発電反応に用いるとともに、燃料電池2から排出された空気が通るカソード排気通路12と燃料電池2から排出された水素が通るアノード排気通路14とを備えた燃料電池車両の暖房装置において、カソード排気通路12の分岐点17から分岐し燃料電池から排出された空気を車室に供給する分岐通路18を設け、分岐点17よりも下流側のカソード排気通路12にアノード排気通路14を合流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池車両の暖房装置に係り、特に、空冷式の燃料電池システムを用いて車両の室内を暖房する燃料電池車両の暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両に搭載される燃料電池システムは、電気化学反応により発電し、それに付随して水を生成する。燃料電池システムの燃料電池は、通常、セルと呼ばれる最小構成単位を多数積層して燃料電池(スタック)を構成している。通常の固体高分子型燃料電池において、図7に示すように、セル201は、水素および空気(酸素)をそれぞれ供給するアノード極202とカソード極203に挟まれて拡散層204・205および反応活性化のための触媒層206・207、そして中央に水素イオンを選択的に透過させる電解質膜208を配している。
アノード極202に供給された水素分子は、アノード極202の電解質膜208の表面にある触媒層206において活性な水素原子となり、さらに水素イオンとなって電子を放出する。図7において、(1)で示されるこの反応は、以下の式1で表される。
・H→2H+2e (式1)
式1により発生した水素イオンは、電解質膜208に含まれる水分を伴ってアノード極202側からカソード極203側へと電解質膜208中を移動し、また電子は外部回路209を通じてカソード極203に移動する。この電子の移動により、外部回路209に介装された負荷(例えば、車両の走行用モータ)210には、電流が流れる。
一方、カソード極203に供給された空気中の酸素分子は、触媒層207において外部回路209から供給された電子を受け取り酸素イオンとなり、電解質膜208を移動してきた水素イオンと結合して水となる。図7において、(2)で示されるこの反応は、以下の式2で表される。
・1/2 0+2H+2e→H0 (式2)
このようにして生成された水分の一部は、濃度拡散によりカソード極203からアノード極202へと移動する。
上述の化学反応において、セル201内部では電解質膜208や電極の電気抵抗に起因する抵抗過電圧、水素と酸素が電気化学反応を起こすための活性化過電圧、拡散層204・205中を水素や酸素が移動するための拡散過電圧など様々な損失が発生し、それにより発生した廃熱を冷却する必要がある。
【0003】
上記セル201を備えた燃料電池システムであって、従来の燃料電池車両の一般的な水冷式の燃料電池システムの構成を図8に示す。図8に示す燃料電池システム301においては、前述最小構成単位のセルを多数積層した燃料電池302を備え、高圧水素タンク303に貯蔵した圧縮水素ガスを、アノード吸気通路304により減圧弁305を介して燃料電池302のアノード吸気部306に導入し、一方、フィルタ307を通してカソード吸気通路308に吸入した外気をコンプレッサ309により圧縮して燃料電池302のカソード吸気部310に導入することにより、燃料電池302内に多数積層したセルで発電が行われる。
燃料電池302のカソード排気部311からカソード排気通路312に排気されたカソード排気は、気水分離器313により排気中の水分の一部が分離された後、カソード系の圧力制御を目的とした背圧弁314を介して外気に放出される。また、燃料電池302のアノード排気部315からアノード排気通路316に排気されたアノード排気も同様に、気水分離器317を通り、パージ弁318を経て、カソード排気通路312の途中に接続されたアノード排気通路316によりカソード排気に混入される。
アノード排気部315からのパージ水素排気量は、カソード排気量に比べて十分に相対的に流量が小さい。このため、カソード排気により、アノードパージ水素を可燃下限濃度である4%以下として外気に放出することができる。なお、システムによっては、水素の利用率を向上させるため、アノード排気通路316をアノード吸気部306にアノード戻し通路319により接続し、アノード戻し通路319に設けた水素ポンプ320を用いて、アノード排気をアノード吸気部306に再循環させるものもある。
【0004】
ここで、水冷式の燃料電池システム301の冷却システム321について説明する。冷却システム321の冷却ループの冷却水導入通路322には、燃料電池302の前段あるいは後段に水ポンプ323を備え、冷却水をラジエータ324に圧送する。燃料電池302を冷却した冷却水は、ラジエータ324において大気と熱交換した後、冷却ループの冷却水導出通路325により再度燃料電池302に戻される。
冷却システム321には、暖房装置326を設けている。暖房装置326は、冷却水導入通路322と冷却水導出通路325との間を接続する暖房通路327を備え、暖房通路327にラジエータ324と並列に調整弁328を介して車室内暖房のためのヒータコア329を備えている。暖房装置326は、暖房が必要な場合は調整弁328を開けることでヒータコア329に高温冷却水を供給し、送風のためのファン330を駆動することにより車室内の暖房に供する。ただし、燃料電池302の廃熱量は、エンジンが発生する廃熱量に比べて非常に小さいため、この他に電気ヒータなど他の補助熱源を併用するのが一般的である。
【0005】
上述のように、水冷式の燃料電池車両システム301においては、燃料電池302の出力密度を向上させるために、導入空気を圧縮するコンプレッサ309を始めとして多くの補機類を備えている。このため、水冷式の燃料電池システム301は、システムの複雑化、大型化、重量化、高コスト化に繋がる。これに対して、コンプレッサなどの補機類を極力廃し、燃料電池の冷却に空冷方式を採用し、システムを簡素化した空冷式の燃料電池システムがある。
図9に示すように、空冷式の燃料電池システム401は、前述最小構成単位のセルを多数積層した燃料電池402を備え、高圧水素タンク403に貯蔵した圧縮水素ガスを、アノード吸気通路404の減圧弁405により降圧した後に燃料電池402のアノード吸気部406に導入する。一方、燃料電池システム401は、一般的に水冷式の燃料電池システムのようにカソード吸気における高圧圧縮コンプレッサを有さず、フィルタ407を通してカソード吸気通路408に吸気した外気を、低圧の空気供給用ファン409によって燃料電池402のカソード吸気部410に供給する。
カソード吸気部410に供給された空気は、水素との反応ガスとして燃料電池402内に多数積層したセルにおける発電反応に供するのみでなく、燃料電池402における廃熱を奪い、燃料電池402を冷却する役割を有している。水素との反応後の空気及び燃料電池402を冷却後の空気は、燃料電池402のカソード排気部411からカソード排気通路412に排気され、外気に放出される。燃料電池402のアノード排気部413からアノード排気通路414に排気されたアノード排気は、パージ弁415を経て、カソード排気通路412の途中に接続されたアノード排気通路414によりカソード排気に混入される。アノード側の水素ガスパージを行う際には、排気水素ガスをカソード側排気により可燃下限濃度以下に希釈して外気に放出される。
この空冷式の燃料電池システム401には、図8に示す水冷式の燃料電池システム301のような冷却システム321を有していないため、水冷式の燃料電池システム301と同様の暖房装置326を実現することはできない。
【0006】
従来の燃料電池車両の暖房装置には、燃料電池のカソード排気を車室内に直接排出するもの(特許文献1)、燃料電池のカソード排気を車室内に直接排出するとともに車室の暖房装置の熱交換器に導くもの(特許文献2)、燃料電池のカソード排気を車室の暖房装置の熱交換器に導くもの(特許文献3)、がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−108538号公報
【特許文献2】特開2002−5478号公報
【特許文献3】特開2001−30742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の燃料電池車両の燃料電池システムとしては、図8に示すように、複数のセルを積層した燃料電池302が発生する廃熱を、車両用のエンジンの廃熱と同様に冷却水で冷却する水冷式の燃料電池システム301が一般的である。水冷式の燃料電池システム301を用いた燃料電池車両においては、燃料電池302を冷却して相対的に温度の上昇した冷却水を、車両の暖房装置326のヒータコア329(熱交換器)に導くことにより、その廃熱を車室内の暖房に利用している。
一方で、水冷式の燃料電池システム301と異なり、図9に示すよう、補機類を最小限として非常にシンプルなシステム構成を実現可能な空冷式の燃料電池システム401が知られている。空冷式の燃料電池システム401を用いた燃料電池車両は、その構成がシンプルであり、小型・軽量・低コストなどメリットが多い。
しかし、空冷式の燃料電池システム401は、車室内の暖房に燃料電池402の冷却水の廃熱を利用できず、これまでに有効な暖房方法・装置に関する提案がなかった。
【0009】
この発明は、燃料電池のアノード排気中の排気水素ガスを可燃下限濃度以下に希釈するとともに、燃料電池システムの廃熱を暖房に利用することができ、シンプルなシステム構成である空冷式の燃料電池システムをそのまま用いて車室内を暖房することができる燃料電池車両の暖房装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、酸素と水素との化学反応によって発電する燃料電池と、導入した外気を前記燃料電池のカソード極に供給し発電反応に用いるとともに、前記燃料電池から排出された空気が通るカソード排気通路と前記燃料電池から排出された水素が通るアノード排気通路とを備えた燃料電池車両の暖房装置において、前記カソード排気通路の分岐点から分岐し前記燃料電池から排出された空気を車室に供給する分岐通路を設け、前記分岐点よりも下流側の前記カソード排気通路に前記アノード排気通路を合流させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明の燃料電池車両の暖房装置は、アノード排気中の排気水素ガスを可燃下限濃度以下に希釈することができるとともに、燃料電池システムの廃熱を車室の暖房に利用することができる。
また、この発明の燃料電池車両の暖房装置は、シンプルなシステム構成である空冷式の燃料電池システムにおいて、暖房要求された車室内にカソード排気を直接導入するので、シンプルな構成のままとすることができる。
さらに、この発明の燃料電池車両の暖房装置は、カソード排気を暖房用とパージ水素希釈用とに分岐させているので、アノード排気中の排気水素ガスが暖房要求された車室内に侵入することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】燃料電池車両の暖房装置のブロック図である。(実施例1)
【図2】燃料電池車両の暖房装置のフローチャートである。(実施例1)
【図3】燃料電池車両の暖房装置のブロック図である。(実施例2)
【図4】燃料電池車両の暖房装置の暖房空気流量調整のフローチャートである。(実施例2)
【図5】燃料電池車両の暖房装置の暖房吹き出し温度調整のフローチャートである。(実施例2)
【図6】燃料電池車両の暖房装置のブロック図である。(変形例)
【図7】燃料電池のセルの断面図である。
【図8】水冷式の燃料電池システムのブロック図である。(従来例)
【図9】空冷式の燃料電池システムのブロック図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1・図2は、この発明の実施例1を示すものである。図1において、1は燃料電池車両に搭載された空冷式の燃料電池システムである。燃料電池システム1は、前述のように、セルと呼ばれる最小構成単位を多数積層した燃料電池2を備え、電気化学反応により発電し、それに付随して水を生成する。燃料電池システム1は、高圧水素タンク3に貯蔵した圧縮水素ガスを、アノード吸気通路4の減圧弁5により降圧した後に燃料電池2のアノード吸気部6に導入する。一方、燃料電池システム1は、一般的に水冷式の燃料電池システムのようにカソード吸気における高圧圧縮コンプレッサを有さず、フィルタ7を通してカソード吸気通路8に吸気した外気を、低圧の空気供給用ファン9によって燃料電池2のカソード吸気部10に供給する。
カソード吸気部10に供給された空気は、水素との反応ガスとして燃料電池2内に多数積層したセルにおける発電反応に供するのみでなく、燃料電池2における廃熱を奪い、燃料電池2を冷却する役割を有している。水素との反応後の空気及び燃料電池2を冷却後の空気は、燃料電池2のカソード排気部11からカソード排気通路12に排気され、外気に放出される。燃料電池2のアノード排気部13から排気されるアノード排気は、アノード排気通路14に導入される。アノード排気通路14は、途中にパージ弁15を配設し、カソード排気通路12に接続している。アノード排気通路14のアノード排気は、パージ弁15を経て、カソード排気通路12のカソード排気に混入される。アノード側の水素ガスパージを行う際には、排気水素ガスをカソード側排気により可燃下限濃度以下に希釈して外気に放出される。
【0015】
燃料電池車両は、燃料電池システム1の廃熱を利用した暖房装置16を備えている。暖房装置16は、カソード排気通路12の分岐点17で分岐する分岐通路18を設け、分岐通路18に調整弁19を設けている。分岐通路18は、調整弁19を介してカソード排気通路12を車室内に連通している。暖房装置16は、カソード排気通路12のカソード排気を、分岐通路18で車室に導いて室内暖房に利用する。分岐点17よりも下流側のカソード排気通路12には、前記アノード排気通路14が接続され、アノード排気の排気水素ガス希釈用に使用する。
前記調整弁19は、暖房装置16の制御部20に接続されている。制御部20には、操作者の操作による暖房の要求の有無および要求熱量を入力する暖房要求入力手段21を接続している。制御部20は、暖房要求入力手段21の入力に基づいて、分岐通路18に配設した調整弁19の無段階開閉制御を行う。
燃料電池車両の暖房装置16は、図2に示すように、制御部20の制御がスタートすると(A01)、暖房要求入力手段21による暖房要求が有るかを判断する(A02)。この判断(A02)がYESの場合は、暖房要求に応じて調整弁19の開度を無段階に調整し(A03)、スタート(A01)に戻る。この判断(A02)がNOの場合は、調整弁19を閉じ(A04)、スタート(A01)に戻る。なお、制御部20は、暖房要求入力手段21にる暖房要求が無くなると、調整弁19を閉じて制御をエンドにする。
【0016】
このように、燃料電池車両の暖房装置16は、カソード排気通路12の分岐点17から分岐し燃料電池2から排出された空気を車室に供給する分岐通路18を設け、分岐点17よりも下流側のカソード排気通路12にアノード排気通路14を合流させている。
これにより、暖房装置16は、アノード排気中の排気水素ガスを可燃下限濃度以下に希釈するとともに、燃料電池システム1の廃熱を車室の暖房に利用することができる。また、この暖房装置16は、シンプルなシステム構成である空冷式の燃料電池システム1において、暖房要求された車室内にカソード排気を直接導入するので、シンプルな構成のままとすることができる。さらに、この暖房装置16は、カソード排気を暖房用とパージ水素希釈用とに分岐させているので、アノード排気中の排気水素ガスが暖房要求された車室内に侵入することを防止することができる。
また、暖房装置16は、分岐通路18に調整弁19を設け、暖房要求量に応じてカソード排気流量が変わるように調整弁19の開度を変えるので、要求された暖房量に応じたカソード排気流量を得ることができる。
なお、暖房装置16は、車室内に水素濃度を検出する水素センサ22を設け、この水素センサ22を制御部20に接続し、水素センサ22が水素漏れを検知した時に、制御部20によって調整弁19の全閉制御を行うことで、水素ガスが暖房要求された車室内に漏れることを防ぐことができる。
【実施例2】
【0017】
図3〜図5は、この発明の実施例2を示すものである。
上記実施例1の燃料電池システム1の燃料電池2冷却後の排気が有する熱量は、水冷式の燃料電池システムの燃料電池冷却後の冷却水が有する熱量に比較して小さく、車室内暖房の熱源としては十分でないことが多い。このため、上述した実施例1では、車室内の暖房としては不十分となる場合がある。実施例2においては、実施例1の暖房が不十分となる場合の改善を図っている。
図3において、101は燃料電池車両に搭載された空冷式の燃料電池システムである。実施例2の燃料電池システム101は、セルと呼ばれる最小構成単位を多数積層した燃料電池102を備えている。燃料電池システム101は、高圧水素タンク103に貯蔵した圧縮水素ガスを、アノード吸気通路104の減圧弁105により降圧した後に燃料電池102のアノード吸気部106に導入する。一方、燃料電池システム101は、一般的に水冷式の燃料電池システムのようにカソード吸気における高圧圧縮コンプレッサを有さず、フィルタ107を通してカソード吸気通路108に吸気した外気を、低圧の空気供給用ファン109によって燃料電池102のカソード吸気部110に供給する。
カソード吸気部110に供給された空気は、水素との反応ガスとして燃料電池102内に多数積層したセルにおける発電反応に供するのみでなく、燃料電池102における廃熱を奪い、燃料電池102を冷却する役割を有している。水素との反応後の空気及び燃料電池102を冷却後の空気は、燃料電池102のカソード排気部111からカソード排気通路112に排気され、外気に放出される。燃料電池102のアノード排気部113から排気されるアノード排気は、アノード排気通路114に導入される。アノード排気通路114は、途中にパージ弁115を配設し、カソード排気通路112に接続している。アノード排気通路114のアノード排気は、パージ弁115を経て、カソード排気通路112のカソード排気に混入される。アノード側の水素ガスパージを行う際には、排気水素ガスをカソード側排気により可燃下限濃度以下に希釈して外気に放出される。
【0018】
燃料電池車両は、燃料電池システム101の廃熱を利用した暖房装置116を備えている。実施例2の暖房装置116は、カソード排気通路112の分岐点117で分岐する分岐通路118を設け、分岐通路118に調整弁119を設けている。分岐通路118は、調整弁119を介してカソード排気通路112を車室内に連通している。暖房装置116は、カソード排気通路112のカソード排気を、分岐通路118で車室に導いて室内暖房に利用する。分岐点117よりも下流側のカソード排気通路112には、前記アノード排気通路114が接続され、アノード排気の排気水素ガス希釈用に使用する。
また、暖房装置116は、調整弁119よりも下流側の分岐通路118の合流部120に、外気に開放した外気通路121を接続している。外気通路121には、外気を導入する押し込み型のファン122を設けている。外気通路121は、ファン122により導入された外気を、合流部120を経て分岐通路118に導入させ、調整弁119を通過したカソード排気と合流させ、車室内に導入する。さらに、暖房装置116は、合流部120よりも下流側の分岐通路118に、PTCヒータなど、補助熱源となる電気ヒータ123を設けている。
前記調整弁119と、ファン122と、電気ヒータ123とは、暖房装置116の制御部124に接続されている。制御部124には、分岐通路118から車室内へ吹き出される空気の流量を検出する空気流量検出手段125を接続し、分岐通路118から車室内へ吹き出される空気の温度を検出する空気温度検出手段126を接続し、操作者の操作による暖房の要求の有無および要求熱量を入力する暖房要求入力手段127を接続している。空気流量検出手段125及び空気温度検出手段126は、車室内の分岐通路118の暖房吹き出し部128に備えられている。
制御部124は、空気流量検出手段125により検出された実空気流量と暖房要求入力手段127により設定された暖房要求量に基づく目標空気流量とを比較し、この比較結果に基づいて調整弁119の開度とファン122の回転数とを変える。また、制御部124は、空気温度検出手段126により検出された実空気温度と暖房要求入力手段127により設定された暖房要求量に基づく目標空気温度とを比較し、この比較結果に基づいて電気ヒータ123への供給電流を変える。
【0019】
燃料電池車両の暖房装置116は、図4に示すように暖房空気流量を調整し、また、図5に示すように暖房吹き出し温度を調整する。これらの制御は、制御部124により以下のように並列に処理される。
【0020】
暖房空気流量の調整は、図4に示すように、制御部124による暖房空気流量の調整の制御がスタートすると(B01)、暖房要求入力手段127による暖房要求が有るかを判断する(B02)。この判断(B02)がYESの場合は、実空気流量が目標空気流量未満であるかを判断する(B03)。
この判断(B03)がYESの場合は、調整弁119が全開であるかを判断する(B04)。この判断(B04)がNOの場合は、調整弁119を徐々に開き(B05)、スタート(B01)に戻る(B06)。この判断(B04)がYESの場合は、ファン124の回転数を徐々に増加し(B07)、スタート(B01)に戻る(B08)。
これに対して、前記判断(B03)がNOの場合は、ファン122が停止しているかを判断する(B09)。この判断(B09)がYESの場合は、調整弁119を徐々に閉じ(B10)、スタート(B01)に戻る(B11)。この判断(B09)がNOの場合は、ファン122の回転数を徐々に減少し(B12)、スタート(B01)に戻る(B13)。
一方、前記判断(B02)がNOの場合は、電気ヒータ123を停止し(B14)、ファン122を停止し(B15)、調整弁119を閉じ(B16)、スタート(B01)に戻る(B17)。
【0021】
このように、暖房装置116の制御部124は、暖房要求を検知した場合、車室内の分岐通路118の暖房吹き出し部128に備える空気流量検出手段125により測定された実空気流量と、暖房要求入力手段127による操作者の要求に基づいた目標空気流量とを比較する。制御部124は、実測空気流量が目標空気流量に満たない場合、調整弁119が全開でなければ、調整弁119を徐々に開くことにより供給空気流量を増加させる。制御部124は、調整弁119が全開であっても、まだ流量が不足する場合はファン122の回転数を徐々に増加させて空気流量を増加させる。
逆に、制御部124は、実空気流量が目標空気流量よりも大きくなった場合、ファン122が回転中であれば、その回転数を徐々に低減させ、ファン122が停止している時には、調整弁119を徐々に閉じることにより実空気流量を目標空気流量に合わせるように制御する。暖房要求入力手段127による暖房要求が無い場合には、電気ヒータ123およびファン122を停止し、調整弁119は閉じるように制御する。
これにより、この燃料電池車両の暖房装置116は、暖房要求された車室内への目標空気流量に合わせて、空気流量を変えることができる。なお、暖房吹き出し部128に空気流量検出手段125を設けたが、ファン122の回転数や燃料電池システム101の運転状態から空気流量を予測可能な場合は、空気流量検出手段125を省略することが可能である。
【0022】
また、暖房吹き出し温度の調整は、図5に示すように、制御部124による暖房吹き出し温度の調整の制御がスタートすると(C01)、暖房要求入力手段127による暖房要求が有るかを判断する(C02)。この判断(C02)がYESの場合は、実空気温度が目標空気温度未満であるかを判断する(C03)。
この判断(C03)がYESの場合は、電気ヒータ123への供給電流を徐々に増加し(C04)、スタート(C01)に戻る(C05)。この判断(C03)がNOの場合は、電気ヒータ123への供給電流を徐々に減少し(C06)、スタート(C01)に戻る(C07)。
一方、前記判断(C02)がNOの場合は、電気ヒータ123を停止し(C08)、ファン122を停止し(C09)、調整弁119を閉じ(C10)、スタート(C01)に戻る(C11)。
【0023】
このように、暖房装置116の制御部124は、暖房要求を検知した場合、暖房吹き出し部128に備える空気温度検出手段126により測定された実空気温度と、暖房要求入力手段127による操作者の要求に基づいた目標空気温度とを比較する。制御部124は、実空気温度が目標空気温度に満たない場合、電気ヒータ123ヘの供給電流を徐々に増加させることにより吹き出し空気温度を上昇させる。逆に、制御部124は、実空気温度が目標空気温度を上回る場合、電気ヒータ123への供給電流を徐々に減少させ、吹き出し空気温度を下げる。暖房要求入力手段127による暖房要求が無い場合には、電気ヒータ123およびファン122を停止し、調整弁119は閉じるように制御する。
これにより、この燃料電池車両の暖房装置116は、暖房要求された車室内への目標空気温度に合わせて、吹き出し空気温度を変えることができる。
【0024】
ここで、燃料電池システム101のカソード排気について説明する。上述の通り、燃料電池システム101のカソード排気は、水素と酸素の電気化学反応に伴って生じた水分を含むため、吸気に比較して相対的に湿度が上昇している。したがい、冬季や雨天時の暖房時において、フロントウィンドウなど車室内の窓の曇りが懸念される。
この懸念を解決するため、実施例2の燃料電池車両の暖房装置116においては、制御部124により以下のような制御を行う。すなわち、暖房装置116は、車室のフロントウィンドウの曇りを検知するウィンドウ曇り検知手段129を設け、制御部124に接続する。制御部124は、ウィンドウ曇り検知手段129によりフロントウィンドウの曇りが検知された時には、調整弁119の開度を予め設定された開度以下にしてカソード排気を減少させ、ファン122により導入される外気量を増加させる。
このように、暖房装置116は、フロントウィンドウの曇りが発生し、それをウィンドウ曇り検知手段129が検知し、曇り検知信号が制御部124に伝達されると、制御部124によって調整弁119の最大開度をある特定の閾値に制限する。暖房装置116の配管径や、燃料電池102の排気流量とファン122による吸入空気流量との関係などから定められた閾値を調整弁119の最大開度とすることにより、燃料電池102のカソード排気流量最大値が減少する。それにより、外気からの温度の低いファン122による吸入空気流量が相対的に増加し、フロントウィンドウの曇りを解消することができる。なお、制御部124に入力される曇り検知信号は、フロントウィンドウの曇りを視覚的に検知した乗員が、何らかのスイッチを操作するなどにより制御部124に伝達される構成とすることもできる。
また、この実施例2の暖房装置116においては、車室内に水素濃度を検出する水素センサ130を設け、この水素センサ130を制御部124に接続し、水素センサ130が水素漏れを検知した時に、制御部124によって調整弁119の全閉制御を行うことで、水素ガスが暖房要求された車室内に漏れることを防ぐことができる。
なお、実施例2の燃料電池車両の暖房装置116においては、電気ヒータ123前段の外気通路121に外気導入用の押し込み型のファン122を設けたが、図6に示すように、電気ヒータ123後段の分岐通路118に吸い込み型のファン131を設けてもよい。
【0025】
この実施例2の燃料電池車両の暖房装置116においても、前述実施例1と同様に、カソード排気通路112の分岐点117から分岐し燃料電池102から排出された空気を車室に供給する分岐通路118を設け、分岐点117よりも下流側のカソード排気通路118にアノード排気通路114を合流させているので、アノード排気中の排気水素ガスを可燃下限濃度以下に希釈するとともに、燃料電池システム1の廃熱を車室の暖房に利用することができる。
また、この実施例2の暖房装置116は、前述実施例1と同様に、シンプルなシステム構成である空冷式の燃料電池システム101において、暖房要求された車室内にカソード排気を直接導入するので、シンプルな構成のままとすることができ、カソード排気を暖房用とパージ水素希釈用とに分岐させているので、アノード排気中の排気水素ガスが暖房要求された車室内に侵入することを防止することができる。さらに、この実施例2の暖房装置116は、分岐通路118に調整弁119を設け、暖房要求量に応じてカソード排気流量が変わるように調整弁119の開度を変えるので、要求された暖房量に応じたカソード排気流量を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明は、燃料電池車両に搭載した燃料電池システムの暖房装置に関するものであるが、住宅用など定置型空冷式の燃料電池システムを用いた室内暖房への適用も可能なものである。
【符号の説明】
【0027】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 高圧水素タンク
4 アノード吸気通路
5 減圧弁
6 アノード吸気部
7 フィルタ
8 カソード吸気通路
9 空気供給用ファン
10 カソード吸気部
11 カソード排気部
12 カソード排気通路
13 アノード排気部
14 アノード排気通路
15 パージ弁
16 暖房装置
17 分岐点
18 分岐通路
19 調整弁
20 制御部
21 暖房要求入力手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と水素との化学反応によって発電する燃料電池と、
導入した外気を前記燃料電池のカソード極に供給し発電反応に用いるとともに、前記燃料電池から排出された空気が通るカソード排気通路と前記燃料電池から排出された水素が通るアノード排気通路とを備えた燃料電池車両の暖房装置において、
前記カソード排気通路の分岐点から分岐し前記燃料電池から排出された空気を車室に供給する分岐通路を設け、
前記分岐点よりも下流側の前記カソード排気通路に前記アノード排気通路を合流させることを特徴とする燃料電池車両の暖房装置。
【請求項2】
前記分岐通路に調整弁を設け、
暖房要求量に応じてカソード排気流量が変わるように前記調整弁の開度を変えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両の暖房装置。
【請求項3】
車室内に水素濃度を測定する水素センサを設け、
前記水素センサにより水素漏れが検知された時には前記調整弁を全閉とすることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池車両の暖房装置。
【請求項4】
外気を導入するファンと、
前記ファンにより導入された外気と前記調整弁を通過したカソード排気とを合流させ、車室内に導入する通路と、
車室内への空気流量を検出する空気流量検出手段とを設け、
前記空気流量検出手段により検出された実空気流量と暖房要求量に基づく目標空気流量とを比較し、この比較結果に基づいて前記調整弁の開度と前記ファンの回転数とを変えることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の燃料電池車両の暖房装置。
【請求項5】
フロントウィンドウの曇りを検知するウィンドウ曇り検知手段を設け、
前記ウィンドウ曇り検知手段によりフロントウィンドウの曇りが検知された時には、前記調整弁の開度を予め設定された開度以下にし、前記ファンにより導入される外気量を増加させることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池車両の暖房装置。
きる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−11942(P2012−11942A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152049(P2010−152049)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】