説明

燃料電池車両及びその制御方法

【課題】衝撃荷重が付与された際、燃料電池に残留する反応ガスを消費させるとともに、前記燃料電池が発電中であるか否かを確実に判断することを可能にする。
【解決手段】燃料電池車両10は、該燃料電池車両10に規定の衝撃荷重が付与されたことを検知した際に、燃料電池スタック14の内部の残留反応ガスを消費させることにより発生する電流が供給される警報装置67を備える。そして、警報装置67は、衝撃荷重の検知により燃料電池スタック14と電気的に接続するためのスイッチ72と、前記スイッチ72を介して前記燃料電池スタック14から供給される電流により作動され、前記燃料電池スタック14が発電中であることを外部に知らせるための警告器70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池を備える燃料電池車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)及び酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)をアノード電極及びカソード電極に供給して電気化学的に反応させることにより、直流の電気エネルギを得るシステムである。このシステムは、通常、複数の燃料電池を所定数だけ積層した燃料電池スタックを備えるとともに、前記燃料電池スタックは、車載用として燃料電池車両(例えば、燃料電池電気自動車)に組み込まれている。
【0003】
この種の燃料電池車両では、衝突等により衝撃荷重が付与された際に備えて、燃料電池に対し種々の対策が施されている。例えば、特許文献1に開示されている電気式自動車では、車両衝突時に燃料電池(車両用電源)に含まれる複数の単電池の電力を共通の負荷で強制消費させる手段が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3893965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1では、車両衝突時に燃料電池の電力を強制消費しているが、前記燃料電池に残留する電気エネルギが全て消費されたか否かを判断することができない。このため、燃料電池が残留する反応ガスにより発電中であるにも関わらず、前記燃料電池に触れてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、衝撃荷重が付与された際、燃料電池に残留する反応ガスを消費させるとともに、前記燃料電池が発電中であるか否かを確実に判断することが可能な燃料電池車両及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池を備える燃料電池車両及びその制御方法に関するものである。
【0008】
この燃料電池車両は、規定の衝撃荷重が付与されたことを検知した際に、燃料電池内部の残留反応ガスの消費により発生する電流が供給される警報装置を備えている。そして、警報装置は、衝撃荷重の検知により燃料電池と電気的に接続するためのスイッチング部と、前記スイッチング部を介して前記燃料電池から供給される電流により作動され、前記燃料電池が発電中であることを外部に知らせるための警報部とを備えている。
【0009】
また、この燃料電池車両では、警報部は、少なくとも音又は光により燃料電池が発電中であることを外部に知らせることが好ましい。
【0010】
さらに、この制御方法は、規定の衝撃荷重が付与されたことを検知した際に、燃料電池への燃料ガスの供給を遮断するとともに、前記燃料電池の出力側と負荷との間を電気的に遮断する工程と、前記燃料電池と警報装置とを電気的に接続し、前記燃料電池内部の残留反応ガスの消費により発生する電流を前記警報装置に供給し、該警報装置を介して前記燃料電池が発電中であることを外部に知らせる工程とを有している。
【0011】
さらにまた、この制御方法では、警報装置は、少なくとも音又は光により燃料電池が発電中であることを外部に知らせることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、例えば、車両の衝突時に、燃料電池への反応ガスの供給が遮断されるとともに、前記燃料電池と警報装置とが、電気的に接続されている。このため、燃料電池は、内部の残留反応ガスにより発電が行われ、該発電によって発生する電流が警報装置に供給されている。これにより、燃料電池が発電中であることを外部に知らせることができる。
【0013】
従って、例えば、警報音やランプの点灯等により、燃料電池内部の残留反応ガスの消費状況、すなわち、該残留反応ガスの有無を容易且つ確実に判断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池車両の概略説明図である。
【図2】前記燃料電池車両を構成する回路説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る燃料電池車両10は、例えば、センターコンソール12に燃料電池スタック14が収容される。燃料電池スタック14は、複数の燃料電池16が燃料電池車両10の車長方向(矢印L方向)に積層されて構成される。
【0016】
なお、燃料電池スタック14は、燃料電池車両10のセンターコンソール12の他、床下やフロントボックス(所謂、エンジンルーム)に収容してもよい。また、燃料電池16は、車高方向(動方向)に積層してもよい。
【0017】
各燃料電池16は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18をカソード電極20とアノード電極22とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)24を備える。なお、固体高分子電解質膜18は、フッ素系イオン交換膜の他、炭化水素(HC)系イオン交換膜を使用してもよい。
【0018】
カソード電極20及びアノード電極22は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜18の両面に形成される。
【0019】
電解質膜・電極構造体24は、カソード側セパレータ26及びアノード側セパレータ28で挟持される。カソード側セパレータ26及びアノード側セパレータ28は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0020】
カソード側セパレータ26と電解質膜・電極構造体24との間には、酸化剤ガス流路30が設けられるとともに、アノード側セパレータ28と前記電解質膜・電極構造体24との間には、燃料ガス流路32が設けられる。燃料電池16間には、冷却媒体流路34が形成される。
【0021】
燃料電池スタック14の積層方向両端には、エンドプレート36a、36bが配設され、前記エンドプレート36a、36bは、複数の締結ボルト38により積層方向に締め付け荷重が付与される。
【0022】
エンドプレート36a側には、各燃料電池16の積層方向に互いに連通して、各酸化剤ガス流路30に酸化剤ガス(反応ガス)、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう)を供給する酸化剤ガス供給装置42と、各燃料ガス流路32に燃料ガス(反応ガス)、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス供給装置44と、各冷却媒体流路34に冷却媒体(例えば、純水やエチレングリコール、オイル等)を供給する冷却媒体供給装置46とが接続される。燃料ガス供給装置44は、各燃料ガス流路32への燃料ガスの供給を遮断するために遮断弁48を備える。
【0023】
図2に示すように、燃料電池スタック14には、バスライン50a、50bの一端が接続されるとともに、前記バスライン50a、50bの他端がインバータ52に接続される。インバータ52には、三相の車両走行用の駆動モータ(負荷)54が接続される。
【0024】
バスライン50a、50bには、燃料電池スタック14の出力端子に近接してFCコンタクタ56が配設されるとともに、前記バスライン50a、50bには、電力線58a、58bの一端が接続される。電力線58a、58bには、バッテリコンタクタ60が配設されるとともに、前記バッテリコンタクタ60には、DC/DCコンバータ62を介装して蓄電装置、例えば、二次電池(又はキャパシタ)64が接続される。
【0025】
バスライン50a、50bには、燃料電池スタック14とFCコンタクタ56との間から電力線66a、66bが分岐する。電力線66a、66bには、警報装置67が接続される。警報装置67は、電力線66a、66bに並列に接続されるディスチャージ抵抗68及び警告器70を備えるとともに、前記電力線66aには、スイッチ(スイッチング部)72が設けられる。
【0026】
警告器70は、音や光等により外部に知らせる機器であり、例えば、ホーン(クラクション)や警報音発生器の他、ヘッドライトや警報用ランプ等が使用される。警告器70は、燃料電池スタック14からの出力電圧が低下するのに沿って、音量や光度等が低下又は変化し、前記出力電圧が規定電圧以下になった際に、駆動が停止される。規定電圧とは、燃料電池スタック14に直接作業を行っても電圧の影響が発生しない電圧値をいう。
【0027】
警報音は、出力電圧に応じて音の高さや音色を変えたり、断続する間隔を変えたりすることができ、警報光は、前記出力電圧に応じて点滅間隔や発光色を変えることも可能である。その他、音や光に変えて、又は、併用して、音声や臭い等を発生させてもよい。なお、電力線66a、66bには、ディスチャージ抵抗68と警告器70とを直列に接続してもよい。
【0028】
燃料電池車両10は、スイッチ72、FCコンタクタ56、バッテリコンタクタ60、DC/DCコンバータ62及び遮断弁48を制御するECU(電子制御ユニット)74を備える。ECU74には、Gセンサ76から加速度信号が入力される。Gセンサ76は、例えば、エアバッグ制御用センサを用いることができる。ECU74は、Gセンサ76から得られる加速度Gから、車両衝突荷重を検知する。
【0029】
このように構成される燃料電池車両10の動作について、以下に説明する。
【0030】
先ず、燃料電池車両10の運転時には、図1に示すように、燃料電池スタック14では、酸化剤ガス供給装置42から酸素含有ガス(例えば、空気)等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス供給装置44から水素含有ガス(例えば、水素ガス)等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体供給装置46から純水やエチレングリコール、又はオイル等の冷却媒体が供給される。
【0031】
酸化剤ガスは、カソード側セパレータ26の酸化剤ガス流路30に導入される。この酸化剤ガスは、電解質膜・電極構造体24のカソード電極20に供給される。一方、燃料ガスは、アノード側セパレータ28の燃料ガス流路32に導入され、電解質膜・電極構造体24のアノード電極22に供給される。
【0032】
このため、電解質膜・電極構造体24では、カソード電極20に供給される酸化剤ガスと、アノード電極22に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。従って、図2に示すように、燃料電池スタック14からバスライン50a、50bを介してインバータ52に電力が供給され、駆動モータ54が駆動されて燃料電池車両10が走行可能になる。
【0033】
また、冷却媒体供給装置46では、冷却媒体が冷却媒体流路34に供給される。この冷却媒体は、各燃料電池16を冷却した後、燃料電池スタック14から排出される。
【0034】
次いで、本実施形態に係る燃料電池車両10の制御方法について、図3に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0035】
燃料電池車両10では、図2に示すように、ECU74を介してGセンサ76からの車両進行方向の加速度信号が、常時、入力されている。ECU74は、検出された加速度が設定加速度以上であるか否か、すなわち、規定衝撃荷重が検知されたか否かを判断する(ステップS1)。
【0036】
ECU74は、規定衝撃荷重が検知されたと判断すると(ステップS1中、YES)、ステップS2に進む。このステップS2では、遮断弁48が閉弁されて、燃料ガス供給装置44から各燃料ガス流路32への燃料ガスの供給が遮断される。このため、燃料電池スタック14には、新たな燃料ガスの供給が停止され、この燃料電池スタック14の内部に残留する燃料ガス及び酸化剤ガスが反応し、発電が行われる。
【0037】
一方、FCコンタクタ56及びバッテリコンタクタ60が遮断されることにより、燃料電池スタック14及び二次電池64と負荷(駆動モータ54を含む)とが電気的に遮断される。
【0038】
そして、ステップS3では、スイッチ72が接続(ON)されることにより、燃料電池スタック14の出力側は、ディスチャージ抵抗68及び警告器70に電気的に接続される。従って、燃料電池スタック14の内部の残留燃料ガス(残留反応ガス)を消費させることにより発生する電流は、ディスチャージ抵抗68及び警告器70に供給されて消費される。
【0039】
その際、警告器70では、音や光等の警告を外部に発生している(ステップS4)。このため、燃料電池車両10の外部で作業する作業者は、燃料電池スタック14が残留反応ガスにより発電中であることを容易且つ確実に認知することができる。
【0040】
さらに、警告器70から音や光等の警告がなくなる際(ステップS5中、YES)、作業者は、燃料電池スタック14が規定電圧以下になったことを認知する。これにより、燃料電池車両10に対する種々の作業が良好に開始可能になる。
【0041】
この場合、本実施形態では、例えば、燃料電池車両10の衝突時に、燃料電池スタック14への燃料ガス(反応ガス)の供給が遮断されるとともに、前記燃料電池スタック14とディスチャージ抵抗68及び警告器70とが、電気的に接続されている。
【0042】
従って、燃料電池スタック14は、内部の残留燃料ガス(残留反応ガス)による発電が行われ、該発電によって発生する電流が警告器70に供給される。これにより、燃料電池スタック14が発電中であることを、外部に確実に知らせることができる。
【0043】
このため、燃料電池車両10の外部の作業者は、例えば、警報音やランプの点灯等により、燃料電池スタック14の残留反応ガスの消費状況、すなわち、該残留反応ガスの有無を確実に判断することが可能になるという効果が得られる。従って、作業者は、燃料電池車両10に対する適切な処理を迅速且つ確実に遂行することができる。
【0044】
また、警告器70は、燃料電池スタック14からの出力電圧が低下するのに沿って、音量や光度等が低下し、前記出力電圧が規定電圧以下になった際に、駆動が停止されている。これにより、作業者は、燃料電池スタック14の内部環境を一層確実に把握することが可能になり、作業の効率化が容易に図られる。
【符号の説明】
【0045】
10…燃料電池車両 14…燃料電池スタック
16…燃料電池 18…固体高分子電解質膜
20…カソード電極 22…アノード電極
24…電解質膜・電極構造体 26…カソード側セパレータ
28…アノード側セパレータ 30…酸化剤ガス流路
32…燃料ガス流路 34…冷却媒体流路
36a、36b…エンドプレート 42…酸化剤ガス供給装置
44…燃料ガス供給装置 46…冷却媒体供給装置
50a、50b…バスライン 54…駆動モータ
56…FCコンタクタ
58a、58b、66a、66b…電力線
60…バッテリコンタクタ 64…二次電池
67…警報装置 68…ディスチャージ抵抗
70…警告器 74…ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池を備える燃料電池車両であって、
規定の衝撃荷重が付与されたことを検知した際に、前記燃料電池内部の残留反応ガスの消費により発生する電流が供給される警報装置を備え、
前記警報装置は、前記衝撃荷重の検知により前記燃料電池と電気的に接続するためのスイッチング部と、
前記スイッチング部を介して前記燃料電池から供給される電流により作動され、前記燃料電池が発電中であることを外部に知らせるための警報部と、
を備えることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池車両において、前記警報部は、少なくとも音又は光により前記燃料電池が発電中であることを外部に知らせることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項3】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池を備える燃料電池車両の制御方法であって、
規定の衝撃荷重が付与されたことを検知した際に、前記燃料電池への前記燃料ガスの供給を遮断するとともに、前記燃料電池の出力側と前記負荷との間を電気的に遮断する工程と、
前記燃料電池と警報装置とを電気的に接続し、前記燃料電池内部の残留反応ガスの消費により発生する電流を前記警報装置に供給し、該警報装置を介して前記燃料電池が発電中であることを外部に知らせる工程と、
を有することを特徴とする燃料電池車両の制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の制御方法において、前記警報装置は、少なくとも音又は光により前記燃料電池が発電中であることを外部に知らせることを特徴とする燃料電池車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−27275(P2013−27275A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162990(P2011−162990)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】