説明

燃料電池車両

【課題】燃料電池の劣化を抑制しながら、回生電力の回収効率を上げ、結果としてシステム効率を上げることを可能とする燃料電池車両を提供する。
【解決手段】燃料電池(FCスタック)40の酸化還元進行電圧範囲外で燃料電池40の電圧をDC/DCコンバータ22により固定した状態でガス供給手段により酸素又は水素濃度を低下させて燃料電池40の出力電力を減少させることで燃料電池40の劣化を抑制し、劣化を抑制した状態で、回生発電により発生した回生電力をバッテリ20に回収するようにしたので、燃料電池40の出力電力を減少させた分、回生電力を有効に回収することができる。よって、燃料電池40の劣化を抑制しながら、回生電力の回収効率を上げ、結果、システム効率を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化剤ガス及び燃料ガスの両反応ガスの電気化学反応により発電する燃料電池の劣化を防止し、且つ回生時におけるシステム効率を向上させる燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜をカソード電極とアノード電極とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)を備える。カソード電極及びアノード電極は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金等の触媒(以下、Pt触媒ともいう。)粒子が表面に担持されたカーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜の両面に形成される。
【0003】
燃料電池の劣化を抑制するための技術が、特許文献1に提案されている。この特許文献1に提案された技術では、前記Pt触媒がシンタリング現象(Pt触媒の凝集)を発生する酸化還元電位を回避して燃料電池を発電させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−5038号公報([0041]、図11等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池車両においては、車両の減速時等に回生電力が発生するが、この回生電力は、システム効率を向上させるためにバッテリに充電することが好ましい。
【0006】
特許文献1には、アクセル開度が上がっても、バッテリのSOC値が第1充電閾値(SOC値下限目標値)を下回るまで燃料電池セルの出力電圧を0.7V程度に制限してバッテリから電力を供給するようにし、SOC値が第1充電閾値を下回ったことを検知すると、燃料電池の発電電力を上げることで前記出力電圧を0.7V程度から下げてバッテリに充電し、アクセル開度が下がっても、その後、SOC値が第2充電閾値(SOC値上限目標値)を上回るまで燃料電池の発電電力を上げた状態を継続しバッテリに充電することが開示されている。
【0007】
このように、燃料電池の出力電圧を酸化還元電位以下の電位に制限することで、燃料電池の劣化を抑制することができるが、アクセル開度が下がっても、換言すれば、回生電力の回収が可能なときに、燃料電池の発電電力を上げた状態を継続しているので、システム効率が悪化するという問題が発生する。
【0008】
この発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、燃料電池の劣化を抑制しながら、回生電力の回収効率を上げ、結果としてシステム効率を上げることを可能とする燃料電池車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る燃料電池車両は、酸素を含む第1ガスと水素を含む第2ガスが供給され、触媒によって反応が促進されて発電する燃料電池と、前記燃料電池に、前記第1ガス及び前記第2ガスの少なくとも一方を供給するガス供給手段と、前記燃料電池の出力電圧を調整する電圧調整手段と、前記燃料電池の出力電力により駆動される負荷としての駆動モータと、前記駆動モータからの回生発電による電力を蓄電する蓄電装置と、を備えた燃料電池車両において、前記燃料電池、前記ガス供給手段、前記電圧調整手段、前記駆動モータ、及び前記蓄電装置を制御する制御手段を有し、前記制御手段は、前記駆動モータの回生発電時に前記燃料電池の酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧で前記電圧調整手段により前記燃料電池の電圧を固定した状態で前記ガス供給手段により前記酸素又は水素濃度を低下させて前記燃料電池の出力電力を減少させることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、燃料電池の電圧を酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧に固定した状態を維持することで燃料電池の劣化を抑制しながら、回生電力を回収する際には、ガス供給手段により酸素濃度又は水素濃度を低下させて燃料電池の出力電力を減少させることで燃料電池から蓄電装置に充電用として供給される発電電力(瞬間発電電力)を下げることで回生電力を良好に回収できる。よって、燃料電池の劣化を抑制しながら、回生電力の回収効率を上げ、結果として、システム効率を上げることができる。
【0011】
この場合、前記燃料電池の前記酸化還元進行電圧範囲外の前記所定電圧は、前記酸化還元進行電圧範囲の上限電圧を上回る電圧とすることで、回生時における駆動モータの出力電圧が高電圧となり、劣化抑制が維持されつつ回生効率がより向上する。
【0012】
なお、前記燃料電池の前記酸化還元進行電圧範囲外の前記所定電圧は、前記酸化還元進行電圧範囲の前記上限電圧を上回る前記電圧中、前記燃料電池の劣化量が少ない電圧とすることで、劣化の抑制を最大(劣化の進行を最小)にすることができる。
【0013】
また、前記制御手段は、前記燃料電池の温度が閾値温度以下の温度であると判断したとき、前記燃料電池の前記酸化還元進行電圧範囲外の前記所定電圧を、前記酸化還元進行電圧範囲の下限電圧を下回る電圧にすることで、燃料電池での熱損失が増加し、その分燃料電池を暖機することができる。
【0014】
暖機の効果をより高めるために、前記制御手段は、前記燃料電池の温度が前記閾値温度以下の温度であると判断したとき、冷却手段を通じて冷媒の流量を低下させることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、駆動モータの回生発電時に、酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧に燃料電池の電圧を固定した状態で、酸素濃度又は水素濃度を低下させて燃料電池の出力電力を減少するようにしたので、燃料電池の劣化を抑制しながら回生電力の回収効率を上がり、結果としてシステム効率(例えば、燃料電池車両の燃費の向上等を含む。)を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態に係る燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の概略全体構成図である。
【図2】前記燃料電池車両の電力系のブロック図である。
【図3】前記実施形態における燃料電池ユニットの概略構成図である。
【図4】前記実施形態におけるDC/DCコンバータの詳細を示す回路図である。
【図5】電子制御装置(ECU)における基本的な制御(メインルーチン)のフローチャートである。
【図6】システム負荷を計算するフローチャートである。
【図7】現在のモータ回転数とモータ予想消費電力との関係を示す図である。
【図8】燃料電池を構成する燃料電池セルの電圧とセルの劣化量との関係の一例を示す図である。
【図9】燃料電池セルの電圧の変動速度が異なる場合の酸化の進行と還元の進行の様子の例を示すサイクリックボルタンメトリ図である。
【図10】燃料電池の通常の電流電圧特性の説明図である。
【図11】カソードストイキ比とセル電流との関係を示す図である。
【図12】燃料電池のエネルギマネジメント及び発電制御に係る基本制御モードの説明に供されるフローチャートである。
【図13】燃料電池における複数の電力供給モード(基本制御モード等)の説明図である。
【図14】バッテリのSOC値と充放電係数の関係を示す図である。
【図15】目標FC電流と目標酸素濃度との関係を示す図である。
【図16】目標FC電流と目標エアポンプ回転数及び目標ウォータポンプ回転数との関係を示す図である。
【図17】目標FC電流と目標背圧弁開度との関係を示す図である。
【図18】モータのトルク制御のフローチャートである。
【図19】燃料電池の発電電力と発電効率との関係を示す図である。
【図20】図12の基本制御モードを前提とするエネルギマネジメント及び発電制御の説明に供されるフローチャート(その1)である。
【図21】図12の基本制御モードを前提とするエネルギマネジメント及び発電制御の説明に供されるフローチャート(その2)である。
【図22】モータ電圧に対するモータ効率の対応説明図である。
【図23】充電電流に対する充電効率の対応説明図である。
【図24】第1実施例と基本制御等に係る技術とを比較して説明するタイムチャートである。
【図25】バッテリ温度に対するバッテリ充電可能電力を示す対応説明図である。
【図26】低温下回生時等における電力供給モードの説明図である。
【図27】燃料電池スタック温度に対する冷媒流量の対応説明図である。
【図28】第2実施例と比較例に係る技術とを比較して説明するタイムチャートである。
【図29】第3実施例における燃料電池ユニットの概略構成図である。
【図30】循環弁の弁開度とカソード流路における酸素濃度の関係を示す図である。
【図31】燃料電池システムの第1変形例の概略構成を示すブロック図である。
【図32】燃料電池システムの第2変形例の概略構成を示すブロック図である。
【図33】燃料電池システムの第3変形例の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、この発明の一実施形態に係る燃料電池システム12(以下「FCシステム12」という。)を搭載した燃料電池車両10(以下「FC車両10」という。)の概略全体構成図である。図2は、FC車両10の電力系のブロック図である。図1及び図2に示すように、FC車両10は、FCシステム12に加え、走行用のモータ14(駆動モータ)と、インバータ(双方向の直流/交流変換器)16とを有する。
【0018】
FCシステム12は、燃料電池ユニット18(以下「FCユニット18」という。)と、高電圧バッテリ20(以下「バッテリ20」ともいう。)(蓄電装置)と、DC/DCコンバータ22(電圧調整手段)と、電子制御装置24(以下「ECU24」という。)と、を有する。
【0019】
モータ14は、FCユニット18及びバッテリ20から供給される電力に基づいて駆動力を生成し、当該駆動力によりトランスミッション26を通じて車輪28を回転させる。また、モータ14は、回生を行うことで生成した電力(回生電力Preg)[W]をバッテリ20等に出力する(図2参照)。
【0020】
インバータ16{PDU(Power Drive Unit)ともいう。}は、3相フルブリッジ型の構成とされて、直流/交流変換を行い、直流を3相の交流に変換してモータ14に供給する一方、モータ14の回生動作に伴う交流/直流変換後の直流をDC/DCコンバータ22を通じてバッテリ20等に供給する。
【0021】
なお、モータ14とインバータ16を併せて負荷30(後記する補機負荷31と区別する場合には、主負荷30ともいう。)という。主負荷30と補機負荷31とを合わせて、負荷33(総合負荷33ともいう。)という。
【0022】
図3は、FCユニット18の概略構成図である。FCユニット18は、燃料電池スタック40(以下「FCスタック40」又は「FC40」という。)と、FCスタック40のアノードに対して水素(燃料ガス)を給排するアノード系54と、FCスタック40のカソードに対して酸素を含む空気(酸化剤ガス)を給排するカソード系56と、FCスタック40を冷却する冷却水(冷媒)を循環させる冷却系58と、セル電圧モニタ42とを備える。
【0023】
FCスタック40は、例えば、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟み込んで形成された燃料電池セル(以下「FCセル」という。)を積層した構造を有する。
【0024】
アノード系54は、水素タンク44、レギュレータ46、エゼクタ48及びパージ弁50を有する。水素タンク44は、燃料ガスとしての水素を収容するものであり、配管44a、レギュレータ46、配管46a、エゼクタ48、配管48aを介して、アノード流路52の入口に接続されている。これにより、水素タンク44の水素を、配管44a等を介してアノード流路52に供給可能である。なお、配管44aには、遮断弁(図示せず)が設けられており、FCスタック40の発電の際、当該遮断弁は、ECU24により開弁される。
【0025】
レギュレータ46は、導入される水素の圧力を所定値に調整して排出する。すなわち、レギュレータ46は、配管46bを介して入力されるカソード側の空気の圧力(パイロット圧)に応じて、下流側の圧力(アノード側の水素の圧力)を制御する。従って、アノード側の水素の圧力は、カソード側の空気の圧力に連動し、後記するように、酸素濃度を変化させるべくエアポンプ60の回転数等を変化させると、アノード側の水素の圧力も変化する。
【0026】
エゼクタ48は、水素タンク44からの水素をノズルで噴射することで負圧を発生させ、この負圧によって配管48bのアノードオフガスを吸引することができる。
【0027】
アノード流路52の出口は、配管48bを介して、エゼクタ48の吸気口に接続されている。そして、アノード流路52から排出されたアノードオフガスは、配管48bを通って、エゼクタ48に再度導入されることでアノードオフガス(水素)が循環する。
【0028】
なお、アノードオフガスは、アノードにおける電極反応で消費されなかった水素、及び、水蒸気を含んでいる。また、配管48bには、アノードオフガスに含まれる水分{凝縮水(液体)、水蒸気(気体)}を分離・回収する気液分離器(図示せず)が設けられている。
【0029】
配管48bの一部は、配管50a、パージ弁50、配管50bを介して、配管64cに設けられた希釈器(図示せず)に接続されている。パージ弁50は、FCスタック40の発電が安定していないと判定された場合、ECU24からの指令に基づき所定時間、開弁される。前記希釈器は、パージ弁50からのアノードオフガス中の水素を、カソードオフガスで希釈して大気に排出する。
【0030】
カソード系56は、エアポンプ60、加湿器62、及び背圧弁64を有する。
【0031】
エアポンプ60は、外気(空気)を圧縮してカソード側に送り込むものであり、その吸気口は、配管60aを介して車外(外部、外気)と連通している。エアポンプ60の吐出口は、配管60b、加湿器62及び配管62aを介して、カソード流路74の入口に接続されている。エアポンプ60がECU24の指令に従って作動すると、エアポンプ60は、配管60aを介して車外の空気を吸気して圧縮し、この圧縮された空気が配管60b等を通ってカソード流路74に圧送される。
【0032】
加湿器62は、水分透過性を有する複数の中空糸膜62eを備えている。そして、加湿器62は、中空糸膜62eを介して、カソード流路74に向かう空気とカソード流路74から排出された多湿のカソードオフガスとを水分交換させ、カソード流路74に向かう空気を加湿する。
【0033】
カソード流路74の出口側には、配管62b、加湿器62、配管64a、背圧弁64、配管64b及び配管64cが配置されている。カソード流路74から排出されたカソードオフガス(酸化剤オフガス)は、配管62b等を通って、配管64cから車外(大気)に排出される。
【0034】
背圧弁64は、例えば、バタフライ弁で構成され、その開度がECU24により制御されることで、カソード流路74における空気の圧力を制御する。より具体的には、背圧弁64の開度が小さくなると、カソード流路74における空気の圧力が上昇し、体積流量当たりにおける酸素濃度(体積濃度)が高くなる。逆に、背圧弁64の開度が大きくなると、カソード流路74における空気の圧力が下降し、体積流量当たりにおける酸素濃度(体積濃度)が低くなる。
【0035】
温度センサ72は、配管64aに取り付けられ、カソードオフガスの温度を検出してECU24に出力する。
【0036】
冷却系58は、ウォータポンプ80及びラジエータ82(放熱器)を有する。ウォータポンプ80は、冷却水(冷媒)を循環させるものであり、その吐出口は、配管80a、冷媒流路84、配管82a、ラジエータ82、配管82bを順に介して、ウォータポンプ80の吸込口に接続されている。ECU24の指令に従ってウォータポンプ80が作動すると、冷却水が冷媒流路84とラジエータ82との間で循環し、FCスタック40を冷却する。
【0037】
セル電圧モニタ42は、FCスタック40を構成する複数の単セル毎のセル電圧Vcellを検出する測定機器であり、モニタ本体と、モニタ本体と各単セルとを接続するワイヤハーネスとを備える。モニタ本体は、所定周期で全ての単セルをスキャニングし、各単セルのセル電圧Vcellを検出し、平均セル電圧及び最低電圧を算出する。そして、平均セル電圧及び最低セル電圧をECU24に出力する。
【0038】
図2に示すように、FCスタック40からの電力(以下「FC電力Pfc」という。)は、インバータ16及びモータ14(力行時)に供給されるとともに、DC/DCコンバータ22を通じて高電圧バッテリ20(充電時)に供給され、さらに、エアポンプ60、ウォータポンプ80、エアコンディショナ90、ダウンバータ92(降圧型DC−DCコンバータ)、低電圧バッテリ94、アクセサリ96及びECU24に供給される。なお、FCスタック40とインバータ16及びDC/DCコンバータ22との間には、逆流防止ダイオード98が配置されている。また、FCスタック40の発電電圧(以下「FC電圧Vfc」という。)は、電圧センサ100(図4)により検出され、FCスタック40の発電電流Ifc(以下「FC電流Ifc」という。)は、電流センサ102により検出され、いずれもECU24に出力される。
【0039】
バッテリ20は、複数のバッテリセルを含む蓄電装置(エネルギストレージ)であり、例えば、リチウムイオン2次電池等を利用することができる。キャパシタを利用してもよい。本実施形態ではリチウムイオン2次電池を利用している。バッテリ20の出力電圧(以下「バッテリ電圧Vbat又は1次電圧V1」という。)[V]は、電圧センサ120により検出され、バッテリ20の出力電流(以下「バッテリ電流Ibat又は1次電流I1」という。)[A]は、電流センサ124により検出され、それぞれECU24に出力される。さらに、バッテリ20の残容量(以下「SOC」という。)[%]は、SOCセンサ104(図2)により検出され、ECU24に出力される。
【0040】
DC/DCコンバータ22は、FCユニット18からのFC電力Pfcと、バッテリ20から供給された電力(以下「バッテリ電力Pbat」という。)[W]と、モータ14からの回生電力Pregの供給先をECU24の制御下に制御する。
【0041】
図4には、この実施形態におけるDC/DCコンバータ22の一例が示されている。図4に示すように、DC/DCコンバータ22は、一方がバッテリ20のある1次側1Sに接続され、他方が負荷33とFCスタック40との接続点である2次側2Sに接続されている。
【0042】
DC/DCコンバータ22は、1次側1Sの電圧(1次電圧V1=Vbat)[V]を2次側2Sの電圧(2次電圧V2)[V](V1≦V2)に昇圧するとともに、2次電圧V2を1次電圧V1(V1=Vbat)に降圧する昇降圧型且つチョッパ型の電圧変換装置である。
【0043】
図4に示すように、DC/DCコンバータ22は、1次側1Sと2次側2Sとの間に配される相アームUAと、リアクトル110とから構成される。
【0044】
相アームUAは、ハイサイドアームとしての上アーム素子(上アームスイッチング素子112とダイオード114)とローサイドアームとしての下アーム素子(下アームスイッチング素子116とダイオード118)とで構成される。上アームスイッチング素子112と下アームスイッチング素子116には、それぞれ例えば、MOSFET又はIGBT等が採用される。
【0045】
リアクトル110は、相アームUAの中点(共通接続点)とバッテリ20の正極との間に挿入され、DC/DCコンバータ22により1次電圧V1と2次電圧V2との間で電圧を変換する際に、エネルギを放出及び蓄積する作用を有する。
【0046】
上アームスイッチング素子112は、ECU24から出力されるゲート駆動信号(駆動電圧)UHのハイレベルによりオンにされ、下アームスイッチング素子116は、ゲート駆動信号(駆動電圧)ULのハイレベルによりオンにされる。
【0047】
なお、ECU24は、1次側1Sの平滑コンデンサ122に並列に設けられた電圧センサ120により1次電圧V1を検出し、電流センサ124により1次側1Sの電流(1次電流I1)[A]を検出する。また、ECU24は、2次側2Sの平滑コンデンサ128に並列に設けられた電圧センサ126により2次電圧V2を検出し、電流センサ130により2次側2Sの電流(2次電流I2)[A]を検出する。
【0048】
DC/DCコンバータ22の昇圧時には、第1のタイミングで、ゲート駆動信号ULがハイレベル及びゲート駆動信号UHがローレベルにされ、リアクトル110にバッテリ20からエネルギが蓄積される(バッテリ20の正側からリアクトル110、下アームスイッチング素子116、及びバッテリ20の負側に至る電流路)。第2のタイミングで、ゲート駆動信号ULがローレベル及びゲート駆動信号UHがローレベルにされ、リアクトル110に蓄積されたエネルギがダイオード114を通じて2次側2Sに供給される(バッテリ20の正側からリアクトル110、ダイオード114、2次側2Sの正側、負荷33等、2次側2Sの負側、バッテリ20の負側の電流路)。以降、昇圧時の第1のタイミングと第2のタイミングが繰り返される。
【0049】
DC/DCコンバータ22の降圧時には、第1のタイミングで、ゲート駆動信号UHがハイレベル及びゲート駆動信号ULがローレベルにされ、リアクトル110に2次側2S(FCスタック40又はモータ14が回生中の負荷33)からエネルギが蓄積されるとともにバッテリ20に充電される。第2のタイミングで、ゲート駆動信号UHがローレベル及びゲート駆動信号ULがローレベルにされ、リアクトル110に蓄積されたエネルギがダイオード118、リアクトル110を通じてバッテリ20に供給され、バッテリ20が充電される。なお、回生電力Pregは、図2から分かるように、エアポンプ60等の補機負荷31にも供給可能である。以降、降圧時の第1のタイミングと第2のタイミングが繰り返される。
【0050】
DC/DCコンバータ22は、上述したチョッパ型として動作する他、直結型として動作することもできる。直結型として動作する場合、ゲート駆動信号UHがハイレベルにされるとともにゲート駆動信号ULがローレベルとされ、バッテリ20が放電する際には、1次側1Sからダイオード114を通じて2次側2Sに電流が供給され(例えば、バッテリ20から負荷33に電力が供給され)、バッテリ20が充電される場合には、2次側2Sから上アームスイッチング素子112を通じてバッテリ20に電流が供給される(例えば、モータ14からバッテリ20に回生電力Pregが供給される)。
【0051】
ECU24は、通信線140(図1等)を介して、モータ14、インバータ16、FCユニット18、補機負荷31、バッテリ20及びDC/DCコンバータ22等を制御する。当該制御に際しては、メモリ(ROM)に格納されたプログラムを実行し、また、セル電圧モニタ42、流量センサ68、温度センサ72、電圧センサ100、120、126、電流センサ102、124、130、SOCセンサ104等の各種センサの検出値を用いる。
【0052】
ここでの各種センサには、上記センサに加え、開度センサ150、モータ回転数センサ152及び車速センサ154(図1)が含まれる。開度センサ150は、アクセルペダル156の踏み角度である開度(アクセル開度)θp[度]を検出する。モータ回転数センサ152は、モータ14の回転数Nm[rpm]を検出する。車速センサ154は、FC車両10の車速Vs[km/h]を検出する。さらに、ECU24には、メインスイッチ158(以下「メインSW158」という。)が接続される。メインSW158は、FCユニット18及びバッテリ20からモータ14への電力供給の可否を切り替えるものであり、ユーザにより操作可能なスイッチ(エンジン車両のイグニッションスイッチに対応するスイッチ)である。
【0053】
ECU24は、マイクロコンピュータを含み、必要に応じて、タイマ、A/D変換器、D/A変換器等の入出力インタフェースを有する。なお、ECU24は、1つのECUのみからなるのではなく、モータ14、FCユニット18、バッテリ20及びDC/DCコンバータ22毎の複数のECUから構成することもできる。
【0054】
ECU24は、FCスタック40の状態、バッテリ20の状態、及びモータ14の状態の他、各種スイッチ及び各種センサからの入力(負荷要求)に基づき決定したFC車両10全体としてFCシステム12に要求される負荷から、FCスタック40が負担すべき負荷と、バッテリ20が負担すべき負荷と、回生電源(モータ14)が負担すべき負荷の配分(分担)を調停しながら決定し、モータ14、インバータ16、FCユニット18、バッテリ20及びDC/DCコンバータ22に指令を送出する。
【0055】
[基本的な制御動作の説明]
次に、ECU24における基本制御の動作について説明する。この基本制御を前提として、第1〜第3実施例を後述する。
【0056】
図5には、ECU24における基本的な制御(メインルーチン)のフローチャートが示されている。ステップS1において、ECU24は、メインSW158がオンであるかどうかを判定する。メインSW158がオンでない場合(S1:NO)、ステップS1を繰り返す。メインSW158がオンである場合(S1:YES)、ステップS2に進む。ステップS2において、ECU24は、FCシステム12に要求される負荷(システム負荷Psys又はシステム要求負荷Psysという。)[W]を計算する。
【0057】
ステップS3において、ECU24は、計算されたシステム負荷Psysに基づきFCシステム12のエネルギマネジメントを行う。ここにいうエネルギマネジメントは、FCスタック40の劣化を抑制しつつ、FCシステム12全体の出力の効率(システム効率)を向上することを企図している。
【0058】
ステップS4において、ECU24は、エネルギマネジメント処理結果に基づき、FCスタック40の周辺機器、すなわち、エアポンプ60、背圧弁64、及びウォータポンプ80の制御(FC発電制御)を行う。さらに、ステップS5において、ECU24は、モータ14のトルク制御を行う。
【0059】
ステップS6において、ECU24は、メインSW158がオフであるかどうかを判定する。メインSW158がオフでない場合(S6:NO)、ステップS2に戻る。メインSW158がオフである場合(S6:YES)、今回の処理を終了する。
【0060】
図6には、ステップS2のシステム負荷Psysを計算するフローチャートが示されている。ステップS11において、ECU24は、開度センサ150からアクセルペダル156の開度θpを読み込む。ステップS12において、ECU24は、モータ回転数センサ152からモータ14の回転数Nm[rpm]を読み込む。
【0061】
ステップS13において、ECU24は、開度θpと回転数Nmに基づいてモータ14の予想消費電力Pm[W]を算出する。具体的には、図7に示す現在のモータ回転数Nm[rpm]とモータ予想消費電力Pm[W]とのマップ(特性)において、開度θp毎に回転数Nmと予想消費電力Pmの関係を記憶しておく。例えば、開度θpがθp1であるとき、特性180を用いる。同様に、開度θpがθp2、θp3、θp4、θp5、θp6であるとき、それぞれ特性182、184、186、188、190を用いる。そして、開度θpに基づいて回転数Nmと予想消費電力Pmとの関係を示す特性を特定した上で、回転数Nmに応じた予想消費電力Pmを特定する。なお、力行側の加速中は、正の値、回生側の減速中は、予想消費電力Pmは負の値、すなわち予想回生電力となる。
【0062】
ステップS14において、ECU24は、各補機負荷31から現在の動作状況を読み込む。ここでの補機負荷31には、例えば、図2に示すように、エアポンプ60、ウォータポンプ80及びエアコンディショナ90を含む高電圧系の補機や、低電圧バッテリ94、アクセサリ96及びECU24を含む低電圧系の補機が含まれる。例えば、エアポンプ60及びウォータポンプ80であれば、回転数Nap、Nwp[rpm]を読み込む。エアコンディショナ90であれば、その出力設定を読み込む。
【0063】
ステップS15において、ECU24は、各補機の現在の動作状況に応じて補機の消費電力Pa[W]を算出する。
【0064】
ステップS16において、ECU24は、モータ14の予想消費電力Pmと補機の消費電力Paの和(仮システム負荷Pm+Pa)を求め、FC車両10全体での予想消費電力、すなわち、システム負荷Psys(Psys=Pm+Pa、Psys←Pm+Paとも表記する。)を算出する。
【0065】
上記のように、本実施形態におけるエネルギマネジメントでは、FCスタック40の劣化を抑制しつつ、FCシステム12全体の出力の効率向上を図ることを企図している。
【0066】
図8は、FCスタック40を構成するFCセルの電圧(セル電圧Vcell)[V]とセルの劣化量Dとの関係の一例を示している。すなわち、図8中の曲線(特性)142は、セル電圧Vcellと劣化量Dとの関係を示す。
【0067】
図8において、電圧v1(例えば、0.5V)を下回る領域(以下「白金凝集増加領域R1」又は「凝集増加領域R1」という。)では、FCセルに含まれる白金(酸化白金)について還元反応が激しく進行し、白金が過度に凝集する。電圧v1から電圧v2(例えば、0.8V)までは、還元反応が安定的に進行する領域(以下「白金還元安定領域R2」又は「還元安定領域R2」という。)である。
【0068】
電圧v2から電圧v3(例えば、0.9V)までは、白金について酸化還元反応が進行する領域(以下「白金酸化還元進行領域R3」、又は「酸化還元進行領域R3」という。)である。電圧v3から電圧v4(例えば、0.95V)までは、白金について酸化反応が安定的に進行する領域(以下「白金酸化安定領域R4」又は「酸化安定領域R4」という。)である。電圧v4からOCV(開回路電圧)までは、FCセルに含まれるカーボンの酸化が進行する領域(以下「カーボン酸化進行領域R5」という。)である。
【0069】
上記のように、図8では、セル電圧Vcellが白金還元安定領域R2又は白金酸化安定領域R4にあれば、FCセルの劣化の進行度合が小さい。一方、セル電圧Vcellが白金凝集増加領域R1、白金酸化還元進行領域R3、又はカーボン酸化進行領域R5にあれば、FCセルの劣化の進行度合が大きい。
【0070】
なお、図8では、曲線(特性)142を一義的に定まるような表記としているが、実際は、単位時間当たりにおけるセル電圧Vcellの変動量(変動速度Acell)[V/sec]に応じて曲線(特性)142は変化する。
【0071】
図9は、変動速度Acellが異なる場合の酸化の進行と還元の進行の様子の例を示すサイクリックボルタンメトリ図である。図9において、実線の曲線(特性)170は、変動速度Acellが高い場合を示し、破線の曲線(特性)172は、変動速度Acellが低い場合を示す。図9からわかるように、変動速度Acellに応じて酸化又は還元の進行度合が異なるため、必ずしも各電圧v1〜v4は一義的に特定されない。また、FCセルの個体差によっても各電圧v1〜v4は変化し得る。このため、電圧v1〜v4は、理論値、シミュレーション値又は実測値に誤差分を反映させたものとして設定することが好ましい。
【0072】
また、FCセルの電流・電圧特性(IV特性)は、一般的な燃料電池セルと同様、図10に「通常」と示すIV特性(通常IV特性ともいう。)162に示すように、セル電圧Vcellが下がるほど、セル電流Icell[A]が増加する。加えて、FCスタック40の発電電圧(FC電圧Vfc)は、セル電圧VcellにFCスタック40内の直列接続数Nfcを乗算したものである。直列接続数Nfcは、FCスタック40内で直列に接続されるFCセルの数であり、以下、単に「セル数」ともいう。
【0073】
図10の通常IV特性162では、カソードストイキ比(≒酸素濃度)は通常のストイキ比(通常ストイキ比)以上の酸素が豊潤な状態とされているときに得られる特性である。換言すれば酸素濃度は、通常の酸素濃度以上の酸素濃度とされる。なお、カソードストイキ比=カソード電極に供給されるエア流量/発電により消費されたエア流量、で表される。この実施形態において、カソードストイキ比を単にストイキ比ともいう。
【0074】
酸素が豊潤な状態とは、図11に示すように、カソードストイキ比(≒酸素濃度)を上昇させても、セル電流(単セルの出力する電流)Icellが略一定となり、飽和した状態となる通常ストイキ比以上の領域における酸素を意味する。
【0075】
水素についても同様である。すなわち、アノードストイキ比(≒水素濃度)=アノード電極に供給される水素流量/発電により消費された水素流量、で表される。
【0076】
次に、図12のフローチャートを参照して、ステップS3及びステップS4のエネルギマネジメント及びFC発電制御中、基本制御(基本エネルギマネジメント・発電制御)について説明する。
【0077】
ステップS21において、ECU24は、バッテリ20の充放電係数αを算出し、算出した充放電係数αをステップS16で算出したシステム負荷Psysに乗算することで目標FC電力Pfctgtを算出する(Pfctgt←Psys×α)。
【0078】
ここで、充放電係数αは、SOCセンサ104から入力される現在のSOC値と、図14の特性(マップ)163とに基づいて算出される。図14の特性163は、例えば、実測値、シミュレーション値を用いることができ、ECU24に予め記憶されている。また、ここでは、バッテリ20の目標SOC(目標蓄電量)を50[%]とした場合を例示するが、これに限定されることはない。図14に示すように、SOC値が50[%]よりも小さい充電を要する領域では、FCスタック40の発電を余剰とさせ、その余剰電力がバッテリ20に充電されるように、充放電係数αが「1」よりも大きくなる傾向となっている。一方、SOC値が50[%]よりも大きい充電状態が十分な領域では、FCスタック40の発電を不足させ、その不足電力を補うようにバッテリ20が放電するように、充放電係数αが「1」よりも小さくなる傾向となっている。
【0079】
なお、ここでは、以下の説明の理解の便宜のために、充放電係数αはα=1として説明する(Pfctgt=Psys)。
【0080】
次いで、ステップS22において、ECU24は、ステップS21で算出した目標発電電力(目標FC電力)Pfctgtが閾値電力Pthp以上であるかどうかを判定する(Pfctgt=Psys≧Pthp)。
【0081】
ここで、閾値電力Pthpは、「触媒が劣化しないと判断されるセル電圧(0.8V、切替電圧、所定電圧)」と、「FCスタック40を構成する単セル数Nfc」と、「FCスタック40の通常のIV特性162(図10参照)においてセル電圧を0.8Vとした場合における電流値Icellp」とを乗算することで与えられる次の(1)式に示す固定値である。なお、図10において、目標FC電力Pfctgtの軸は線形ではない点に留意する。
Pthp=0.8[V]×Nfc×Icellp (1)
【0082】
目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthp以上である場合には(ステップS22:YES)、ステップS23において、目標FC電力Pfctgtを得るべく、電圧可変・電流可変制御(モードA制御)を実行する。
【0083】
このモードA制御は、主として、目標FC電力Pfctgtが相対的に高いときに用いられるものであり、目標酸素濃度Cotgtを通常(酸素を豊潤な状態を含む。)に維持した状態で、目標FC電圧Vfctgtを調整することによりFC電流Ifcを制御する。
【0084】
すなわち、図13に示すように、目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthp以上で実行されるモードA制御では、FCスタック40の通常IV特性162(図10で示したものと同じ。)を用いる。モードA制御では、目標FC電力Pfctgtに応じて目標FC電流Ifctgtを算出し、さらに目標FC電流Ifctgtに対応する目標FC電圧Vfctgtを算出する。そして、FC電圧Vfcが目標FC電圧Vfctgtとなるように、ECU24は、DC/DCコンバータ22を制御する。すなわち、2次電圧V2が目標FC電圧Vfctgtとなるように1次電圧V1をDC/DCコンバータ22により昇圧することで、FC電圧Vfcを制御してFC電流Ifcを制御する。
【0085】
以上のようなモードA制御によれば、目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthp以上の高負荷であっても、目標FC電力Pfctgtに応じて2次電圧V2(FC電圧Vfc)を、通常IV特性162に沿うようにDC/DCコンバータ22で変化させることで、基本的に、システム負荷PsysをFC電力Pfcにより賄うことができる。
【0086】
一方、ステップS22の判定において、目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthp未満である場合には(ステップS22:NO)、ステップS24において、ステップS24で算出した目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthq未満(Pfctgt<Pthq)であるか否かを判定する。ここで、閾値電力Pthqを、例えば、セル電圧VcellがVcell=0.9[V]に対応して決定されるので、閾値電力Pthqは、閾値電力Pthpより低い値に設定される(Pthq<Pthp。図13参照)。
【0087】
ステップS24の判定が否定的となる場合、すなわち、目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthp未満であって、且つ閾値電力Pthq以上である場合には(ステップS24:NO、Pthq≦Pfctgt<Pthp)、ステップS25において、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御(モードB制御)を実行する。なお、モードB制御の電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御は、後述するモードC制御、モードD制御、及びモードE制御でも同様に行われるが、上述したモードA制御の電圧可変・電流可変制御に対しては、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御という点で共通しているので、CVVC(Constant Voltage Variable Current)制御ともいう。
【0088】
このモードB制御は、主として、システム負荷Psysが相対的に中くらいのときに用いられるものであり、目標セル電圧Vcelltgt(=目標FC電圧Vfctgt/セル数Nfc)を、酸化還元進行領域R3よりも低い電圧以下で設定された基準電圧{本実施形態では、電圧v2(=0.8V)}に固定すると共に、目標酸素濃度Cotgtを可変とすることにより、FC電流Ifcを可変とする。
【0089】
すなわち、図13に示すように、モードB制御では、閾値電力Pthq〜Pthpの範囲において、セル電圧Vcellを一定(Vcell=v2)に保った状態で目標酸素濃度Cotgtを下げていくことで酸素濃度Coを下げる。
【0090】
図11に示したように、カソードストイキ比(≒酸素濃度Co)が低下するとセル電流Icell(FC電流Ifc)も低下する。このため、セル電圧Vcellを一定に保った状態(Vcell=v2=0.8V)で目標酸素濃度Cotgtを増減させることで、セル電流Icell(FC電流Ifc)及びFC電力Pfcを制御することが可能となる。なお、FC電力Pfcの不足分は、バッテリ20からアシストする。
【0091】
この場合、ECU24は、DC/DCコンバータ22の昇圧率を調整することにより、酸化還元進行領域R3よりも低い電圧以下で設定された基準電圧{本実施形態では、電圧v2(=0.8V)}に目標FC電圧Vfctgtを固定し、さらに、目標FC電力Pfctgtに対応する目標FC電流Ifctgtを算出する。また、目標FC電圧Vfctgtが基準電圧であることを前提として、目標FC電流Ifctgtに対応する目標酸素濃度Cotgtを算出する(図11及び図15参照)。なお、図15は、FC電圧Vfcが基準電圧であるときの目標FC電流Ifctgtと目標酸素濃度Cotgtとの関係を示す。
【0092】
ここで、ECU24は、目標酸素濃度Cotgtに応じて各部への指令値を算出及び送信する。ここで算出される指令値には、エアポンプ60の回転数(以下「エアポンプ回転数Nap」又は「回転数Nap」という。)、ウォータポンプ80の回転数(以下「ウォータポンプ回転数Nwp」又は「回転数Nwp」という。)、及び背圧弁64の開度(以下「背圧弁開度θbp」又は「開度θbp」という。)が含まれる。
【0093】
すなわち、図16及び図17に示すように、目標酸素濃度Cotgtに応じて目標エアポンプ回転数Naptgt、目標ウォータポンプ回転数Nwptgt及び目標背圧弁開度θbptgtが設定される。
【0094】
以上のようにして、ステップS25のモードB制御が実行される。
【0095】
次いで、ステップS26において、ECU24は、FCスタック40による発電が安定しているか否かを判定する。当該判定として、ECU24は、セル電圧モニタ42から入力される最低セル電圧が、平均セル電圧から所定電圧を減算した電圧よりも低い場合{最低セル電圧<(平均セル電圧−所定電圧)}、FCスタック40の発電が不安定であると判定する。なお、前記所定電圧は、例えば、実験値、シミュレーション値等を用いることができる。
【0096】
発電が安定している場合(S26:YES)、今回の処理を終える。発電が安定していない場合(S26:NO)、ステップS27において、ECU24は、目標酸素濃度Cotgtを1段増加させる(通常の濃度に近づける)。具体的には、エアポンプ60の回転数Napの増加及び背圧弁64の開度θbpの減少の少なくとも一方を1段階行う。
【0097】
ステップS28において、ECU24は、目標酸素濃度Cotgtが通常のIV特性における目標酸素濃度(通常酸素濃度Conml)未満であるか否かを判定する。目標酸素濃度Cotgtが通常酸素濃度Conml未満である場合(S28:YES)、ステップS26に戻る。目標酸素濃度Cotgtが通常酸素濃度Conml未満でない場合(S28:NO)、ステップS29において、ECU24は、FCユニット18を停止する。すなわち、ECU24は、FCスタック40への水素及び空気の供給を停止し、FCスタック40の発電を停止する。そして、ECU24は、図示しない警告ランプを点灯させ、運転者にFCスタック40が異常であることを通知する。なお、ECU24は、バッテリ20からモータ14に電力を供給し、FC車両10の走行は継続させる。
【0098】
上述したステップS24の判定において、目標FC電力Pfctgtが閾値電力Pthq未満である場合(ステップS24:YES)、ステップS30でモードC制御を行う。図13に示すように、モードC制御は、主として、目標FC電力Pfctgtが相対的に低いときに用いられるものであり、目標セル電圧Vcelltgt(=目標FC電圧Vfctgt/セル数)を、酸化還元進行領域R3外の電圧{本実施形態では、電圧v3(=0.9V)}に固定し、FC電流Ifcを可変とする。FC電力Pfcの不足分は、バッテリ20からアシストし、FC電力Pfcの余剰分は、バッテリ20に充電する。
【0099】
モードC制御では、図13に示すように、セル電圧Vcellを一定(Vcell=v3)に保った状態で目標酸素濃度Cotgtを下げていくことで酸素濃度Coを下げる。
【0100】
図11に示したように、カソードストイキ比(≒酸素濃度Co)が低下するとセル電流Icell(FC電流Ifc)も低下する。このため、セル電圧Vcellを一定に保った状態(Vcell=v3=0.9V)で目標酸素濃度Cotgtを増減させることで、セル電流Icell(FC電流Ifc)及びFC電力Pfcを制御することが可能となる。なお、FC電力Pfcの不足分は、バッテリ20からアシストする。よって、モードC制御では、上述したステップS25のモードB制御と同様な制御処理、及びステップS26〜S29の発電安定性に係る処理を実行する。
【0101】
以上のようにして、ステップS3及びS4のエネルギマネジメント及びFC発電制御の基本制御が実行される。
【0102】
次に、図18には、ステップS5の処理に係るモータ14のトルク制御のフローチャートが示されている。ステップS41において、ECU24は、車速センサ154から車速Vsを読み込む。ステップS42において、ECU24は、開度センサ150からアクセルペダル156の開度θpを読み込む。
【0103】
ステップS43において、ECU24は、車速Vsと開度θpに基づいてモータ14の仮目標トルクTtgt_p[N・m]を算出する。具体的には、図示しない記憶手段に車速Vsと開度θpと仮目標トルクTtgt_pを関連付けたマップを記憶しておき、当該マップと、車速Vs及び開度θpとに基づいて仮目標トルクTtgt_pを算出する。
【0104】
ステップS44において、ECU24は、モータ14が回生中であるか否かを判定し、回生中でない場合には、FCシステム12からモータ14に供給可能な電力の限界値(限界供給電力Ps_lim)[W]に等しいモータ14の限界出力(モータ限界出力Pm_lim)[W]を算出する。具体的には、限界供給電力Ps_lim及びモータ限界出力Pm_limは、FCスタック40からのFC電力Pfcとバッテリ20から供給可能な電力の限界値(限界出力Pbat_lim)[W]との和から補機の消費電力Paを引いたものである(Pm_lim=Ps_lim←Pfc+Pbat_lim−Pa)。
【0105】
ステップS45において、ECU24は、モータ14のトルク制限値Tlim[N・m]を算出する。具体的には、モータ限界出力Pm_limを車速Vsで除したものをトルク制限値Tlimとする(Tlim←Pm_lim/Vs)。
【0106】
一方、ステップS44において、ECU24は、モータ14が回生中であると判定した場合には、限界供給回生電力Ps_reglimを算出する。限界供給回生電力Ps_reglimは、バッテリ20に充電可能な電力の限界値(限界充電Pbat_chglim)とFCスタック40からのFC電力Pfcとの和から補機の消費電力Paを引いたものである(Ps_reglim=Pbat_chglim+Pfc−Pa)。回生中である場合、ステップS45において、ECU24は、モータ14の回生トルク制限値Treglim[N・m]を算出する。具体的には、限界供給回生電力Ps_reglimを車速Vsで除したものをトルク制限値Tlimとする(Tlim←Ps_reglim/Vs)。
【0107】
ステップS46において、ECU24は、目標トルクTtgt[N・m]を算出する。具体的には、ECU24は、仮目標トルクTtgt_pに対してトルク制限値Tlimによる制限を加えたものを目標トルクTtgtとする。例えば、仮目標トルクTtgt_pがトルク制限値Tlim以下である場合(Ttgt_p≦Tlim)、仮目標トルクTtgt_pをそのまま目標トルクTtgtとする(Ttgt←Ttgt_p)。一方、仮目標トルクTtgt_pがトルク制限値Tlimを超える場合(Ttgt_p>Tlim)、トルク制限値Tlimを目標トルクTtgtとする(Ttgt←Tlim)。そして、算出した目標トルクTtgtを用いてモータ14を制御する。
【0108】
図19には、上述した電力供給モードに係わるモードA制御、モードB制御、モードC制御と、FC電力Pfcと、FCスタック40の発電効率との関係が示されている。図19からわかるように、モードA制御では、基本的に、システム負荷Psysの全てをFC電力Pfcで賄いつつ、FCスタック40の発電効率を高く維持することができる。v2電圧固定低酸素ストイキ比可変制御のモードB制御では、基本的に、システム負荷Psysの全てをFC電力Pfcで賄うことで、バッテリ20の充放電の頻度を抑え、FCシステム12全体での出力効率を高くすることが可能である。モードC制御では、FC電力Pfcとバッテリ電力Pbatによりシステム負荷Psysを賄う。
【0109】
次に、上述した基本制御モード(モードA、B、C制御)を前提とする第1及び第2実施例のエネルギマネジメント・発電制御について、図20及び図21のフローチャートを参照して説明する。
【0110】
[第1実施例]
ステップS61において、FCスタック40の温度Tfcが低温(低温判断閾値温度Tlthが5[℃]以下、又は10[℃]以下)であるか否かが判定される。FCスタック40の温度Tfcは、冷媒の出口温度(図3中、配管82a中を流れる冷媒の温度)、FCスタック40のカソードオフガスの出口温度(図3中、配管62bを流れるカソードオフガスの温度)、又はFCスタック40のアノードオフガスの出口温度(図3中、配管48bを流れるアノードオフガスの温度)で代替することができる。この第1実施例及び次に説明する第2実施例では、カソードオフガスの温度を検出する温度センサ72で測定される温度をFCスタック40の温度Tfcであるとしている。
【0111】
FCスタック40の温度Tfcが低温でない場合には(Tfc>Tlth)、ステップS62において、モータ14が回生中であるか否かが判定される。
【0112】
ここで、モータ14が回生中である場合には(ステップS62:YES)、詳細を後述するステップS63でのモードE制御(CVVC制御)を実行する。モータ14が回生中でない場合には(ステップS62:NO)、ステップS64において、図12のフローチャートを参照して説明した基本制御を実施する。
【0113】
ここで、ステップS63のモードE制御を採用する意義について説明する。上述した基本制御中、モードA制御(CVVC制御ではない通常制御)を除く、モードB及びモードC制御(それぞれCVVC制御)では、酸化還元進行領域R3外の電圧v2=0.8V又はv3=0.9VにFCスタック40の電圧をDC/DCコンバータ22により固定し、ストイキ比を通常ストイキ比よりストイキ比が小さくなる低酸素ストイキ比可変としてFC電流Ifc、ひいてはFC電力Pfcを制御するようにしている。
【0114】
また、上記基本制御モード(モードA、B、C)での動作中に、例えば、図1に示すFC車両10の車速Vsが減速する減速走行時には、モータ14が発電機として動作し、モータ14の3相の各コイルで発生した電流(回生電流)がインバータ16を通じてDC/DCコンバータ22の2次側2Sに流れ込む。
【0115】
このとき、2次側2Sの電圧(2次電圧)V2は、ECU24を通じてDC/DCコンバータ22により設定制御されている。なお、回生電流であるか力行電流であるかは、ECU24が、モータ14の各相に流れる電流の向きを検出することにより検出することができる。
【0116】
モータ14は、ブラシレスモータである永久磁石同期電動機を利用しており、回生電力Pregの大きさは、基本的には、磁界の強さとモータ14の回転数により決定される。
【0117】
モータ14の相間電圧(モータ電圧Vmという。)は、2次電圧V2となるので(Vm=V2)、DC/DCコンバータ22により2次電圧V2を高く設定する程、回生電流の値が小さい値になる点に留意する。
【0118】
図22は、回生時のモータ14の効率(モータ効率Mη[%]という。)の特性164を示している。特性164は、モータ電圧Vmが高くなるほど回生電流の値が小さくなるので銅損及び鉄損が小さくなり、モータ効率Mη[%]が高くなることを示している。
【0119】
回生電流の余剰分は、DC/DCコンバータ22を介してバッテリ20に充電される。
【0120】
図23は、バッテリ20の充電効率Bηの特性166を示している。特性166は、充電電流Ichg[A]が大きくなるほど、バッテリ20の内部抵抗で発生する損失が、充電電流Ichgの2乗に比例して大きくなるので、充電効率Bηが低下することを示している。
【0121】
そこで、ステップ62において、モータ14が回生中であると判定された場合すなわちFCスタック40が低温状態ではない回生中の場合(ステップS62:YES)、ステップS63において、DC/DCコンバータ22によりFCスタック40のセル電圧Vcellを、図8の酸化安定領域R4中の劣化量Dの最も少ない電圧Vlmi2(例えば、Vlmi=0.95[V])に固定するとともに、回生電流分、FCスタック40の出力電流であるFC電流Ifcが少なくなるように、ストイキ比を通常ストイキ比よりも下げて発電させるモードE制御(CVVC制御)を実行する(図13のVcell=v3に固定するモードC制御を実行してもよい。)。
【0122】
このように、非低温時の回生中は、FCスタック40のFC電圧Vfcを上げることでモータ14のモータ電圧Vmを上げ、モータ効率Mηを向上させる。これにより回生電力Pregのエネルギの損失が少なくできるとともに、ストイキ比を下げて回生電流分充電電流が増加することを防止するので、その分、バッテリ20の充電効率Bηを向上させることができる。
【0123】
なお、セル電圧Vcellが高電圧となる酸化安定領域R4での低酸素ストイキ比可変固定電圧発電制御であるモードE制御は、図8から分かるように、劣化量Dの観点からはVcell=Vlmi2が好ましいが、効率の観点からは、より高いセル電圧VcellであるVcell=v4が好ましい。したがって、電圧固定ストイキ比可変電流制御(CVVC制御)のモードE制御は、セル電圧Vcellを電圧v3〜v4の間のいずれかの値に固定して(v3<Vcell≦v4)行う制御とする。
【0124】
図24は、時点t11で回生中と判定された場合のタイムチャートを示している。なお、図24中、Vfc[V/cell]=Vcell[V]より下に描いたタイムチャートにおいて、太い破線で示したものは基本制御による変化特性を示し、太い実線で示したものは、この第1実施例よる変化特性を示している。
【0125】
時点t11で車速Vsが減速を開始すると回生状態となるので、FC電圧Vfc[V/cell]を0.8[V/cell]から0.95[V/cell]に上げると同時に、ストイキ比を0.95[V]の通常ストイキ比(図10の通常IV特性162上の点)からFC電流IfcがFC電流IfchからFC電流Ifclになる低ストイキ比としている。モータ効率Mη及び充電効率Bηともに向上することが分かる。
【0126】
なお、時点t11〜t12程度までの過渡制御中にシステム負荷Psysの値が安定し、時点t12以降、等減速中は、システム負荷Psysが負(回生中)で一定値となる。
【0127】
[第1実施例のまとめ]
以上説明したように、第1実施例に係る燃料電池車両10は、酸素を含む第1ガスと水素を含む第2ガスが供給され、触媒によって反応が促進されて発電するFCスタック40と、このFCスタック40に、前記第1ガス及び前記第2ガスの少なくとも一方を供給するガス供給手段{燃料ガス供給手段(水素タンク44)、酸化剤ガス供給手段(エアポンプ60)}と、FCスタック40のFC電圧Vfcを調整するDC/DCコンバータ22(電圧調整手段)と、FCスタック40の出力電力により駆動される負荷としてのモータ14(駆動モータ)と、モータ14からの回生発電による電力を蓄電するバッテリ20(蓄電装置)と、FCスタック40、前記ガス供給手段、DC/DCコンバータ22、モータ14、及びバッテリ20を制御するECU24(制御手段)と、を有する。
【0128】
ECU24は、モータ14の回生発電時にFCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外の所定電圧(v3〜v4までの酸化安定領域R4内の電圧)内でDC/DCコンバータ22によりFCスタック40のFC電圧Vfcを固定(たとえば、Vfc=v3やVfc=Vlmi2に固定)した状態で、前記ガス供給手段により前記酸素又は水素濃度を低下させてFCスタック40のFC電力Pfcを減少させるようにしている。
【0129】
このように、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外でFCスタック40の電圧をDC/DCコンバータ22により固定した状態でガス供給手段により酸素濃度又は水素濃度を低下させてFCスタック40の出力電力を減少させることでFCスタック40の劣化を抑制し(図8参照)、劣化を抑制した状態で、回生発電により発生した回生電力Pregをバッテリ20に回収するようにしたので、FCスタック40の出力電力を減少させた分、回生電力Pregを有効に回収することができる。よって、FCスタック40の劣化を抑制しながら、回生電力Pregの回収効率(回生効率)を上げ、結果として、システム効率を上げることができる。また、酸素又は水素の供給量を低減することができる。燃料電池車両の水素の使用量を少なくすることができ、いわゆる燃費(例えば、単位水素量当たりの走行距離)が向上する。
【0130】
この場合、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外の所定電圧は、酸化還元進行電圧範囲の上限電圧v3より高くカーボン酸化進行領域R5の下限電圧v4よりも低い所定電圧(v3〜v4)の高電圧とすることで、回生時におけるモータ14のモータ電圧Vmが高電圧となり、劣化抑制が維持されつつ回生効率がより向上する。
【0131】
なお、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外の前記所定電圧は、酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)の上限電圧v3を上回る高電圧(v3<Vcell<v4)中、FCスタック40の劣化量Dが少ない電圧Vlmi2(図8参照)とすることで、劣化の抑制を最大(劣化の進行を最小)にすることができる。
【0132】
[第2実施例]
一方、ステップS61において、FCスタック40の温度Tfcが低温(Tfc≦Tlth)であると判定された場合(ステップS61:YES)、ステップS65において、モータ14が回生中であるか否かが判定される。
【0133】
回生中でない場合には、ステップS64の基本制御が実行される。回生中である場合、すなわちFCスタック40の温度Tfcが低温である(Tfc≦Tlth)回生中には、ステップ66において、図25のバッテリ温度Tbatに対するバッテリ充電可能電力Pbchgの特性168を参照して、バッテリ温度Tbatからバッテリ充電可能電力Pbchgを算出する。
【0134】
次いで、ステップS67において、モータ14の要求回生電力Pregを次の(2)式により算出する。
Preg=k×Tqreg×Nm×Mη …(2)
【0135】
ここで、kは係数、Tqregは要求回生トルク、Nmはモータ回転数、Mηは回生時のモータ効率である。
【0136】
次に、ステップS68において、FCスタック40の低温回生中の目標発電電力Pfctgtltを次の(3)式により算出する。換言すれば、モータ14の回生電力Pregを取りきる(全て回収する)発電電力を算出する。
Pfctgtlt=Pbchg−Preg+Pa …(3)
【0137】
ここで、Pbchgは、ステップS66で算出したバッテリ充電可能電力、Pregは、ステップS67で算出した要求回生電力Pregは、エアポンプ60等の補機の消費電力である。
【0138】
次いで、ステップS69において、上述したCVVC制御である電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御であるモードB制御に準じたモードB´制御を実行する。
【0139】
図26に示すように、このモードB´制御では、目標セル電圧Vcelltgt(=目標FC電圧Vfctgt/セル数Nfc)を、酸化還元進行領域R3よりも低い電圧以下で設定された基準電圧{本実施形態では、電圧v2(=0.8V)}に固定すると共に、目標酸素濃度Cotgtを可変とすることにより、FC電流Ifcを可変とする。
【0140】
モードB´制御により、FCスタック40は、力行中(モードA制御)から低温回生中の目標発電電力Pfctgtltとなるように、目標酸素濃度Cotgtがフィードバック制御され、FC電流Ifcが減少され、FCスタック40の発電電力が減少される。FCスタック40の発電電力は減少するが、目標セル電圧Vcelltgt=v2=0.8Vと低い値に設定しているので、FCスタック40の損失が大きくなり、その分、FCスタック40の暖機が促進される。
【0141】
次に、図21のフローチャートに基づき、FCスタック40が低温であるか否か及びFCスタック40が電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)であるか否かに応じてFCスタック40のスタック温度Tfcを調整する冷却系58の冷媒流量Qcm[L/min]を決定する。
【0142】
この第2実施例において、冷媒流量Qcmは、基本的に次の(1)〜(3)の条件に基づき決定される。
【0143】
(1)冷媒流量Qcm[L/min]を決定するウォータポンプ80の回転数Nwp[rpm]は、エアポンプ60の回転数Nap[rpm]で決定される(図16参照)。例えば、エアポンプ60の回転数Nap[rpm]が増加すると反応が促進されてFCスタック40が昇温方向となるのでウォータポンプ80の回転数Nwp[rpm]が増加される。
【0144】
(2)FCスタック40の温度Tfcが低温判断閾値温度Tlthより低いとき(低温時)には、冷媒流量Qcmを抑制してFCスタック40の昇温を促進する。
【0145】
(3)電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)は、通常制御中に比較して、同一のFC電流Ifcの値では、FC電圧Vfcが低く設定されることからFCスタック40の損失が増加し熱の発生が大きくなるので、冷媒流量Qcmを増加してFCスタック40の昇温を防止する。
【0146】
そこで、図21のステップS71において、ステップS61と同様に、FCスタック40の温度Tfcが低温(低温判断閾値温度Tlthが5[℃]以下、又は10[℃]以下:Tfc≦Tlth)であるか否かが判定される。
【0147】
FCスタック40の温度Tfcが低温ではないと判定された場合には(ステップS71:NO、Tfc>Tlth)、ステップS72において、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)であるか否かが判定される。
【0148】
低温ではない(Tfc>Tlth)電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)である場合、ステップS73において、冷媒流量Qcmは、図27の冷媒流量マップ(冷媒流量表)192中、冷媒流量Qcmの最も大きい状態ST1の冷媒流量Qcmに設定する。
【0149】
ステップS72の判定において、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)でなかった場合、すなわち、低温ではない(Tfc>Tlth)通常発電中である場合、ステップS74において、冷媒流量Qcmは、図27の冷媒流量マップ(冷媒流量表)192中、冷媒流量Qcmが2番目に大きい状態ST2の冷媒流量Qcmに設定する。
【0150】
一方、ステップS71において、FCスタック40の温度Tfcが低温であると判定された場合には(ステップS71:YES、Tfc≦Tlth)、ステップS75において、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)であるか否かが判定される。
【0151】
低温であり(Tfc≦Tlth)電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)である場合、ステップS76において、冷媒流量Qcmは、図27の冷媒流量マップ(冷媒流量表)192中、冷媒流量Qcmが2番目に小さい状態ST3の冷媒流量Qcmに設定する。
【0152】
ステップS75の判定において、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御中(CVVC制御中)でなかった場合、すなわち、低温である(Tfc≦Tlth)が通常発電中である場合、ステップS77において、冷媒流量Qcmは、図27の冷媒流量マップ(冷媒流量表)192中、冷媒流量Qcmが最も小さい状態ST4の冷媒流量Qcmに設定する。
【0153】
[第2実施例のまとめ]
上述した第2実施例では、ECU24は、ステップS61において、FCスタック40の温度Tfcが閾値温度Tlth以下である低温時に、回生電力Pregを取りきる(全て回収する)ためにステップS66〜S69でFCスタック40の目標FC電圧Vfctgtを、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲外の下限電圧v2以下の電圧に固定(第2実施例では、v2に固定)して電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御(CVVC制御)とするが、下限電圧v2に固定するために、FCスタック40での熱損失が増加し、その分、FCスタック40の暖機を促進することができる。
【0154】
暖機の効果をより高めるために、ECU24は、ステップS71において、FCスタック40の温度Tfcが低温判断閾値温度Tlth以下である低温時に、電圧固定・トイキ比可変電流可変制御(CVVC制御)を行う際には、冷媒流量Qcmを状態ST3まで低下させることが好ましい。
【0155】
図28は、時点t21で低温下回生中と判定された場合のタイムチャートを示している。
【0156】
なお、図28中、冷媒流量Qcm[L/min]より下に描いたタイムチャートにおいて、太い破線で示したものは比較例による変化特性を示し、太い実線で示したものは、この第2実施例よる変化特性を示している。
【0157】
時点t21で車速Vsが減速を開始すると回生状態となる。時点t21を含め全時間領域で、FCスタック40の温度Tfcが低温判断閾値温度Tlth以下と判定されているので、時点t21以降、FCスタック40の目標FC電圧Vfctgtが酸化還元進行電圧範囲外の下限電圧v2に固定し、電圧固定・ストイキ比可変電流可変制御(CVVC制御)を行い熱損失を発生させつつFC電力Pfcを低下させて、回生電力Pregをバッテリ充電可能電力Pbchgとして充電する。
【0158】
また、時点t21以降、冷媒流量Qcmを状態ST3まで低下させている。
【0159】
よって、時点t21以降の低温下回生中には、FCスタック40の温度Tfcを上昇させることができる。
【0160】
[第3実施例]
図29は、第3実施例に係るFCユニット18の概略構成を示している。この第3実施例に係るFCユニット18において、カソード系56aに、エアポンプ60、加湿器62、及び背圧弁64の他、循環弁(カソード循環弁)66が含まれる。
【0161】
この場合、背圧弁64の出力側の配管64bと空気取入口側(入力側)の配管60aとの間に、配管66a、循環弁66、及び配管66bが接続されている。これにより、排気ガス(カソードオフガス)の一部が循環ガスとして、配管66a、循環弁66及び配管66bを通って、配管60aに供給され、車外からの新規空気に合流し、エアポンプ60に吸気される。
【0162】
循環弁66は、例えば、バタフライ弁で構成され、その開度(以下「循環弁開度θc」又は「開度θc」という。)がECU24によって制御されることで循環ガスの流量が制御される。流量センサ70は、配管66bに取り付けられ、配管60aに向かう循環ガスの流量Qc[g/s]を検出してECU24に出力する。
【0163】
図30の特性167に示すように、排気ガスが通流する循環弁66の循環弁開度θcを大きくすればするほど、カソード流路74中の酸素濃度Coを低下させることができる。
【0164】
そこで、この第3実施例では、ECU24は、モータ14の回生発電時にFCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外の所定電圧(v3〜v4までの酸化安定領域R4内の電圧)内でDC/DCコンバータ22によりFCスタック40のFC電圧Vfcを固定(たとえば、Vfc=v3やVfc=Vlmi2に固定)した状態で、目標酸素濃度Cotgtを可変する際に、循環弁66の開度θcのみを可変することでFC電流Ifcを可変とする。
【0165】
このように、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外でFCスタック40の電圧をDC/DCコンバータ22により固定した状態で循環弁66の開度θcを可変することでFCスタック40の出力電力を減少させ、これによりFCスタック40の劣化を抑制し(図8参照)、劣化を抑制した状態で、回生発電により発生した回生電力Pregをバッテリ20に回収するようにしたので、FCスタック40の出力電力を減少させた分、回生電力Pregを有効に回収することができる。よって、FCスタック40の劣化を抑制しながら、回生電力Pregの回収効率(回生効率)を上げ、結果として、システム効率を上げることができる。
【0166】
この場合においても、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外の所定電圧は、酸化還元進行電圧範囲の上限電圧v3より高くカーボン酸化進行領域R5の下限電圧v4よりも低い所定電圧(v3〜v4)の高電圧とすることで、回生時におけるモータ14のモータ電圧Vmが高電圧となり、劣化抑制が維持されつつ回生効率がより向上する。
【0167】
なお、FCスタック40の酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)外の前記所定電圧は、酸化還元進行電圧範囲(酸化還元進行領域R3)の上限電圧v3を上回る高電圧(v3<Vcell<v4)中、FCスタック40の劣化量Dが少ない電圧Vlmi2(図8参照)とすることで、劣化の抑制を最大(劣化の進行を最小)にすることができる。
【0168】
すなわち、第3実施例では、回生制御を行う際に、第1実施例のように、エアポンプ60の回転数Napや背圧弁64の開度θbpを変えることなく、循環弁66の開度θcのみを可変することでFC電流Ifcを可変するようにしたので、制御が簡便になるという利点が得られる。
【0169】
[変形例]
なお、この発明は、上記実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0170】
上記実施形態では、FCシステム12をFC車両10に搭載したが、これに限らず、別の対象に搭載してもよい。例えば、FCシステム12を船舶や航空機等の移動体に用いることもできる。或いは、FCシステム12を家庭用電力システムに適用してもよい。
【0171】
上記実施形態では、FCスタック40と高電圧バッテリ20を並列に配置し、バッテリ20の手前にDC/DCコンバータ22を配置する構成としたが、これに限らない。例えば、図31に示すように、FCスタック40とバッテリ20を並列に配置し、昇圧式、降圧式又は昇降圧式のDC/DCコンバータ22をFCスタック40の手前に配置する構成であってもよい。あるいは、図32に示すように、FCスタック40とバッテリ20を並列に配置し、FCスタック40の手前にDC/DCコンバータ160を、バッテリ20の手前にDC/DCコンバータ22を配置する構成であってもよい。あるいは、図33に示すように、FCスタック40とバッテリ20を直列に配置し、バッテリ20とモータ14の間にDC/DCコンバータ22を配置する構成であってもよい。
【0172】
上記実施形態では、ストイキ比を調整する手段又は方法として、目標酸素濃度Cotgtを調整するものを用いたが、これに限らず、目標水素濃度を調整することも可能である。また、目標濃度の代わりに、目標流量又は目標濃度と目標流量の両方を用いることもできる。
【0173】
上記実施形態では、酸素を含む空気を供給するエアポンプ60を備える構成を例示したが、これに代えて又は加えて、水素を供給する水素ポンプを備える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0174】
10…燃料電池車両 12…燃料電池システム
14…駆動モータ 16…インバータ
18…燃料電池ユニット 20…高電圧バッテリ(蓄電装置)
22…DC/DCコンバータ(電圧調整手段)
24…ECU(電子制御装置) 33…負荷
40…FC 44…水素タンク
60…エアポンプ 80…ウォータポンプ
90…エアコンディショナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含む第1ガスと水素を含む第2ガスが供給され、触媒によって反応が促進されて発電する燃料電池と、
前記燃料電池に、前記第1ガス及び前記第2ガスの少なくとも一方を供給するガス供給手段と、
前記燃料電池の出力電圧を調整する電圧調整手段と、
前記燃料電池の出力電力により駆動される負荷としての駆動モータと、
前記駆動モータからの回生発電による電力を蓄電する蓄電装置と、
を備えた燃料電池車両において、
前記燃料電池、前記ガス供給手段、前記電圧調整手段、前記駆動モータ、及び前記蓄電装置を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、
前記駆動モータの回生発電時に前記燃料電池の酸化還元進行電圧範囲外の所定電圧で前記電圧調整手段により前記燃料電池の電圧を固定した状態で前記ガス供給手段により前記酸素又は水素濃度を低下させて前記燃料電池の出力電力を減少させる
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池車両において、
前記燃料電池の前記酸化還元進行電圧範囲外の前記所定電圧は、前記酸化還元進行電圧範囲の上限電圧を上回る電圧とする
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池車両において、
前記燃料電池の前記酸化還元進行電圧範囲外の前記所定電圧は、前記酸化還元進行電圧範囲の前記上限電圧を上回る前記電圧中、前記燃料電池の劣化量が少ない電圧とする
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池車両において、
さらに、前記燃料電池の温度を検出する温度センサを有し、
前記制御手段は、
前記温度センサにより検出される前記燃料電池の温度が閾値温度以下の温度であると判断したとき、前記燃料電池の前記酸化還元進行電圧範囲外の前記所定電圧を、前記酸化還元進行電圧範囲の下限電圧を下回る電圧にする
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池車両において、
さらに、前記燃料電池を冷媒により冷却する冷却手段を有し、
前記制御手段は、
前記温度センサにより検出される前記燃料電池の温度が閾値温度以下の温度であると判断したとき、
前記冷却手段を通じて前記冷媒の流量を低下させる
ことを特徴とする燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2013−62153(P2013−62153A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200069(P2011−200069)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】