説明

片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを合成する方法

【課題】片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを連続的に、かつ、高収率、高選択的に合成する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】熱分解温度より低い温度によるポリスチレンまたはポリオレフィンの溶融工程と、移動管を通した熱分解反応場への移動工程と、減圧・不活性ガス雰囲気下、撹拌してポリスチレンまたはポリオレフィンを熱分解する熱分解工程と、不揮発物回収工程と、留出管を通した冷却場への揮発物の留出工程と、揮発物捕集工程と、揮発物回収工程と、を有し、前記各工程を連続的に行い、かつ、前記各工程を各々独立に進行させることを特徴とする片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを合成する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源のリサイクルの必要性が求められてきている中、石油起源のプラスチック材料から如何に高収率、高選択的に資源を回収するかが問題となっている。プラスチック廃材としては、ポリエチレン、ポリスチレン等が挙げられ、例えばポリスチレンからオリゴマーを合成する方法としては、ポリスチレンの熱分解による合成方法が知られている。
従来から用いられているポリスチレンの熱分解によるオリゴマー合成方法では、蒸留塔や精留塔を用いて同一の工程を繰り返す必要があり、コスト高になるという問題がある(特許文献1〜5)。
【0003】
このような、同一の工程を繰り返す問題を解消した、オリゴマーを合成する方法として、熱分解により生成したオリゴマーが再び熱分解反応容器に還流されないように、不活性ガス流で冷却容器に移動させる方法がある(特許文献6および7)。この方法は、通常の有機合成や重合では容易に合成することのできない片末端および両末端に二重結合を有する単分散の末端反応性オリゴマー(モノケリックスおよびテレケリックス)を高選択的に合成することができる。しかしながら、いずれの方法も、回分式による合成方法であるため、合成効率が悪く、収率が低下するという問題がある。
【特許文献1】特開2005−15635号公報
【特許文献2】特開2005−154509号公報
【特許文献3】特開2003−47801号公報
【特許文献4】特開2001−40136号公報
【特許文献5】特開2001−335658号公報
【特許文献6】特開平9−291046号公報
【特許文献7】特開2006−316202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを連続的に、かつ、高収率、高選択的に合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
熱分解温度より低い溶融温度でポリスチレンまたはポリオレフィンを溶融する溶融工程と、前記溶融工程で得た溶融ポリスチレンまたは溶融ポリオレフィンを、移動管を通して熱分解反応場に移動する移動工程と、前記熱分解反応場を減圧下、および前記溶融ポリスチレンまたは前記溶融ポリオレフィン中への不活性ガス導入下、撹拌機で撹拌しながら前記溶融ポリスチレンまたは前記溶融ポリオレフィンを熱分解する熱分解工程と、前記熱分解工程で生成した不揮発性生成物を回収する不揮発物回収工程と、前記熱分解工程で生成した揮発性生成物を、留出管を通して冷却場に留出する留出工程と、前記留出管を通過した揮発性生成物を減圧下の冷却場で捕集する揮発物捕集工程と、前記冷却場で捕集された揮発物を回収する揮発物回収工程と、を有し、前記各工程を連続的に行い、かつ、前記各工程を各々独立に進行させることを特徴とする片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを合成する方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを連続的に合成することができるので、高収率、高選択的に合成することができ、コスト効率も良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の合成方法に用いられる原料、生成物及び合成工程について詳細に説明する。
−原料−
本発明の合成方法には、原料としてポリスチレンまたはポリオレフィン(以下に「ポリマー」と称することがある)が用いられる。ポリスチレンまたはポリオレフィンとしては、特に制限はなく、種々の分子量、種々の構造のものを用いることができるが、ポリスチレンまたはα−ポリオレフィンであることが好ましく、中でも、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイソブチレン、イタクチックポリ(1−ブテン)およびポリプロピレンをより好ましく用いることができる。
なお、ポリマーの形状に制限はないが、ポリマーの溶融性を考慮すると小片状であることが好ましい。
【0008】
−生成物−
本発明の合成方法により前記ポリスチレンまたはポリオレフィンを熱分解すると、片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを得ることができる。
以下、片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを「片末端ビニリデン型オリゴマー」または「モノケリックス」、両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを「両末端ビニリデン型オリゴマー」または「テレケリックス」と称することがある。さらに片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを総称して「末端ビニリデン型オリゴマー」と記すことがある。
【0009】
上述のモノケリックス、テレケリックスの構造は、例えば、ポリプロピレン由来のものは下記化学式で示される。
【0010】
【化1】

【0011】
上記化学式中、mはオリゴマーの重合度を示す。mは、熱分解反応の反応条件により異なるが、例えば、ポリプロピレン(分子量:100,000)から本発明の合成方法によりモノケリックスが得られる場合、mは2〜30であり、テレケリックスの場合は、mは20〜1000である。
【0012】
−合成工程−
本発明の末端ビニリデン型オリゴマーの合成方法は、以下の各工程を連続的に行い、かつ、各工程を各々独立して進行させることに特徴を有する。
<溶融工程>
原料ポリマーは、熱分解温度よりも低い温度で溶融する。溶融槽の温度は、原料によって異なるが、150〜250℃であることが好ましく、180〜230℃であることがより好ましい。150℃より低いと十分に溶融しないか、粘度が高くなることがあり、250℃より高いとポリマーが分解することがある。
また、溶融時間は原料の量、形状等に依存するが30〜180分であることが好ましい。30分より短いと、十分に溶融しないことがあり、180分より長いとポリマーが分解することがある。
例えば、分子量50,000〜100,000のポリスチレンの場合、溶融温度は190〜210℃が好ましく、溶融時間は、30〜120分であることが好ましい。
また、溶融槽の容量は原料ポリマーの仕込み量の5〜10倍以上あればよい。
【0013】
<移動工程>
溶融槽で溶融した原料のポリマーは移動管(以下、「溶融ポリマー移動管」と称することがある)を通じて原料ポリマーの熱分解反応場たる分解槽に移動される。溶融ポリマー移動管はポリマーの溶融工程とポリマーの熱分解工程とを連続的に行うために連結されており、前記溶融槽と前記溶融ポリマー移動管とは開閉可能な弁等で別個に独立した系をなすことが可能となっている。
前記開閉可能な弁(以下「開閉弁」と称することがある)は、結ばれた2つの系を自在に連結したり、遮断することが可能であれば、いかなる材質、形状のものでもよい。
【0014】
前記溶融ポリマー移動管は、溶融ポリマーの冷却・固化を防ぐため溶融槽と同じ温度に保持することが好ましい。すなわち、150〜250℃に保持することが好ましく,180〜230℃であることがより好ましい。
前記溶融ポリマー移動管を溶融槽と同じ温度に保持するための方法は、特に制限はなく、一般的には溶融ポリマー移動管にリボンヒーターを巻きつけて温度制御したり、溶融ポリマー移動管を断熱材で覆う方法がある。
【0015】
<熱分解工程>
溶融した原料ポリマーは、原料ポリマーの熱分解温度に設定され、不活性ガスが導入された分解槽内で、減圧下、撹拌することにより熱分解する。前記分解槽は前記溶融ポリマー移動管と連結しており、前記分解槽と前記溶融ポリマー移動管との間には、開閉弁が設けられている。開閉弁については前記のとおりである。
分解槽の温度(以下「分解槽温度」と称することがある)は、原料ポリマーによるが、300〜450℃とすることが好ましく、
350〜400℃とすることがより好ましい。300℃よりも低いと原料ポリマーが熱分解反応を起こさないことがあり、450℃よりも高いと熱分解生成物が着色することがある。
分解に要する時間(以下「分解時間」と称することがある)は、原料ポリマーの構造、量にもよるが、30〜360分とすることが好ましい。30分より短いと熱分解生成物の分子量が十分に低下しないことがあり、360分よりも長いと熱分解生成物が着色することがある。なお、分解に要する時間とは、具体的には、溶融ポリマーを分解槽に入れ終えてから、熱分解生成物を分解槽から取り出すまでの時間をいう。
【0016】
例えば、分子量10,000〜1,000,000のポリスチレンの場合、分解槽温度は330〜390℃が好ましく、分解時間は、30〜360分であることが好ましい。
【0017】
熱分解反応により生成する不揮発性生成物の末端ビニリデン型オリゴマーの分子量は、前記分解槽温度および分解時間を調節することにより調整することができる。
原料にもよるが、分子量が5000程度の末端ビニリデン型オリゴマーを合成するには、分解槽温度を370〜400℃、分解時間を150〜210分とすることが好ましい。一方、分子量が3000程度の末端ビニリデン型オリゴマーを合成するには、分解槽温度を370〜400℃、分解時間を210〜270分とすることが好ましい。
【0018】
溶融した原料ポリマーは熱分解反応を均一に進行させるために十分に撹拌する必要がある。前記撹拌は撹拌機によるものに加え、溶融ポリマー中に不活性ガスを導入し、気泡を発生させることにより行うことができる。
不活性ガスは、原料ポリマーの熱分解反応を阻害しないものであれば特に限定されず、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が好ましく用いられる。さらに水蒸気も使用することができる。
【0019】
分解槽内は熱分解反応により得られた揮発性生成物を迅速に分解槽から排出するために系内を減圧にし、1〜4mmHgとすることが好ましい。また、原料ポリマー中に導入される不活性ガスも揮発性生成物を分解槽から排出する役割を果たす。不活性ガスにこのような揮発性成分排出機能を発揮させるためには、不活性ガスの流量を10〜1000ml/分に設定することが好ましい。
【0020】
<不揮発物回収工程>
前記熱分解反応により得られた生成物のうち不揮発性生成物は、分解槽から釜残受器に排出する。分解槽とは別に釜残受器を設けることで、ポリマーの熱分解反応を連続させつつ、釜残受器から不揮発性生成物を回収することが可能となる。分解槽と釜残受器との間には開閉弁が設けられており、分解槽内の系と釜残受器内の系とを独立させることが可能である。
釜残受器内の温度は、分解槽内と同じ温度、圧力にしておくことが好ましい。不揮発性生成物を回収するときは釜残受器内を常温・常圧にしてから行う。
【0021】
<留出工程>
一方、前記熱分解反応により得られた生成物のうち揮発性生成物は、留出管を通って冷却場たる揮発物捕集槽へ排出される。前記留出管は、300〜400℃に保持することが好ましく、350〜400℃に保持することがより好ましい。300℃より高ければ揮発性生成物を気体のまま揮発物捕集槽へ移動することができ、400℃より低ければ、揮発性生成物の二次反応を抑制することができる。
前記留出管を上述の温度に保持するための方法は、特に制限はないが、一般的には留出管の少なくとも一部にリボンヒーターを巻きつけて温度制御したり、留出管の少なくとも一部を断熱材で覆う方法がある。
また、留出工程では、系内の圧力を分解槽内と同じ圧力に保持することが好ましい。
【0022】
<揮発物捕集工程>
前記留出管を通過した揮発性生成物は、冷却場の揮発物捕集槽で捕集する。揮発物捕集槽は揮発性生成物を容易に捕集することができるように、槽内を−20〜−30℃に冷却し、1〜4mmHgに減圧することが好ましい。槽内温度が−20℃以下となれば揮発性生成物を固体として捕集することができる。
ポリマーの熱分解反応場と冷却場との系を独立することができるように、溶融ポリマー移動管と揮発物捕集槽との間には、開閉弁が設けられている。開閉弁については前記のとおりである。
【0023】
揮発性生成物を冷却場で効率よく捕集するために、前記留出管と冷却場の間に、揮発性生成物を冷却するコンデンサーを設けることが好ましい。前記コンデンサーは、冷媒を流すことにより、0〜100℃に保持しておくことが好ましい。冷媒は、通常、水が用いられるが、低温に保持する場合はアルコールを用いてもよいし、高温に保持する場合はオイルを用いてもよい。
【0024】
<揮発物回収工程>
揮発物捕集槽に集まった揮発性生成物は、揮発物回収槽に移動し、揮発物回収槽内を常温・常圧にすることで回収可能となる。前記揮発物捕集槽と前記揮発物回収槽との間には開閉弁が設けられている。これにより、ポリマーの熱分解反応により生成した揮発性生成物の冷却・捕集と、回収とを別個独立に行うことができ、熱分解反応を続行する一方で揮発性生成物を回収することが可能となる。
【0025】
上記のように、各工程を行う容器を連結することで、一連の工程を連続的に進行させることができ、かつ、容器と容器の間に設けられた開閉弁を閉めることで、各工程を各々独立して進行させることができる。このような方法によって、ポリマーから連続的に末端ビニリデン型オリゴマーを合成することができる。
【0026】
本発明の末端ビニリデン型オリゴマーの合成工程を、図1を用いて説明する。なお、本発明の前記合成工程は、下記の内容に限定されるものではない。
図1に示されるように、溶融槽1の底部は溶融ポリマー移動管10と連結しており、溶融槽1の底部から溶融槽内の溶融ポリマーが移動管10に移動することができるようになっている。さらに溶融ポリマー移動管10は分解槽2の上部と連結している。溶融槽1は、図示しないオイルヒーターで加熱され、溶融ポリマー移動管10には、図示しないリボンヒーターが巻きつけられて保温されている。
溶融槽1を180〜250℃に保持することで原料のポリマー溶融し、同じく180〜250℃に設定された溶融ポリマー移動管10を通じて溶融ポリマーを分解槽2に移動させることで、溶融ポリマーを冷却・固化させることなく、連続的に分解槽2に移動することが可能となる。
【0027】
溶融ポリマー移動管10の溶融槽1側には開閉弁12aが設けられ、溶融槽1と溶融ポリマー移動管10の系をそれぞれ独立させることが可能となっている。また、溶融ポリマー移動管10の分解槽2側にも開閉弁12bが設けられ、溶融ポリマー移動管10と分解槽2の系内をそれぞれ独立させることが可能となっている。このように各々の系内を独立な状態におくことで、分解槽2において原料ポリマーの熱分解反応を進める傍ら、溶融槽1で次の原料ポリマーを溶融させることが可能となる。
【0028】
分解槽2は、図示しない電気ヒーターでポリマーを加熱することができるようになっている。分解槽2の底部に設けられた開閉弁12cが閉まっていることを確認の上、溶融ポリマーをあらかじめ原料ポリマーの溶融温度に設定しておいた分解槽2に移し、その後、溶融ポリマー移動管10の開閉弁12bを閉める。溶融ポリマーは、撹拌機8、および溶融ポリマー中に挿入されたチューブから導入される不活性ガス9の気泡によって撹拌される。さらに、後述する開閉弁12fを開き、開閉弁12gが閉まっていることを確認の上、分解槽2の槽内を1〜4mmHgに減圧し、溶融ポリマーの熱分解温度である300〜450℃に昇温することによりポリマーの熱分解反応が進行し始める。
分解槽2の槽内は後述する揮発物捕集槽5に直結された真空ポンプ7aを用いて減圧し、槽内の圧力は分解槽2に設置した図示しないマノメータ等の圧力計で確認する。
【0029】
図1に示すように、分解槽2の上部には留出管11が連結されており、冷却場の揮発物捕集槽5に通じている。上述したように、揮発物捕集槽5の上部には真空ポンプ7aが連結している。留出管11には全範囲に図示しないリボンヒーターが巻きつけられて、温度制御することができるようになっている。留出管11と揮発物捕集槽5との間にはコンデンサー4が連結されており、さらにコンデンサー4と揮発物捕集槽5との間には開閉弁12fが設けられている。
一方、分解槽2の底部は管を通じて釜残受器3と連結しており、当該管の分解槽2側に開閉弁12cが設けられ、釜残受器3側には開閉弁12dが設けられている。また分解槽2と釜残受器3との間には真空ポンプ7bが連結されており、真空ポンプ7bへ通ずる管には開閉弁12eが設けられている。
【0030】
原料ポリマーの熱分解反応により得られた生成物のうち揮発性の生成物は、熱分解反応中、真空ポンプ7aの吸引により、随時、分解槽2の上部に連結された留出管11を通って分解槽2から排出される。一方、釜残受器3の系内は、分解槽2とは独立に分解槽2の槽内と同程度の圧力にすべく、開閉弁12dと12eを開栓して真空ポンプ7bにより1〜4mmHgに減圧される。釜残受器3を減圧状態にした後は開閉弁12eと12dを閉める。
【0031】
熱分解反応終了後、開閉弁12fは閉められ、開閉弁12cと開閉弁12dを開けることにより、熱分解反応で得られた不揮発性の生成物が釜残受器3に排出される。開閉弁12dを閉めた後、釜残受器3の系内を常温・常圧し、不揮発性生成物を回収する。不揮発性生成物として、分子量千〜数万の末端ビニリデン型オリゴマーを得ることができる。
【0032】
分解槽2の上部に連結された留出管11は、熱分解反応により生成した揮発性成分が二次反応を起こさないように、300〜400℃に設定する。留出管11に連結したコンデンサー4には10〜30℃の水が流され、揮発性生成物を冷却する。
コンデンサー4に連結した揮発物捕集槽5は図示しない温度制御装置で冷却可能となっている。また、揮発物捕集槽5の底部は、管で揮発物回収槽6と連結している。当該管の揮発物捕集槽5側に開閉弁12gが設けられ、揮発物回収槽6側には開閉弁12hが設けられている。揮発物捕集槽5と揮発物回収槽6との間には真空ポンプ7cが設けられ、真空ポンプ7cに通ずる管には開閉弁12iが設けられている。
【0033】
上述したように、熱分解反応を開始する際には、揮発物捕集槽5の底部に設けられた開閉弁12gは閉められる。また、揮発物捕集槽5は予め槽内温度を−20〜−30℃に設定し、揮発物捕集槽5に連結された真空ポンプ7aにより槽内を1〜4mmHgに減圧することで、熱分解反応により生成した揮発性成分を捕集することが可能となっている。
【0034】
一方、揮発物回収槽6の系内は、開閉弁12hと12iが開栓されることにより、揮発物捕集槽5とは独立に、真空ポンプ7aにより1〜4mmHgに減圧される。揮発物回収槽6を減圧状態にした後は開閉弁12hと12iを閉める。
【0035】
熱分解反応終了後、開閉弁12fは閉められ、開閉弁12gと12hを開くことで、揮発物捕集槽5に捕集された揮発性生成物が揮発物回収槽6に排出される。その後、開閉弁12hを閉め、揮発物回収槽6の槽内を常温・常圧にすることにより、揮発性生成物を回収する。揮発性生成物として、分子量数百の片末端ビニリデン型オリゴマーを得ることができる。
本発明の合成方法により得られた揮発性生成物ならびに不揮発性生成物は、必要に応じて蒸留し、末端ビニリデン型オリゴマーとして回収される。
【0036】
なお、後述の実施例では、設定温度、圧力等の数値条件を除き、上記と同じ機器を用い、上記と同じ要領で機器を操作した。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例で更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、機器、操作等は本発明の範囲から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」及び「部」は、「質量%」及び「質量部」を表し、分子量とは重量平均分子量のことを示す。
【0038】
(実施例1)
ポリスチレン(分子量183,000)2kgを容量10,000mlの溶融槽に仕込み、溶融槽内を200℃に設定した。ポリスチレンが十分に溶融することを確認した後、200℃に設定した溶融ポリマー移動管を通じて分解槽に移動させた。溶融ポリスチレン中に窒素ガスを流量100ml/分で導入し、撹拌機で撹拌した。分解槽内を2mmHgに減圧し、分解槽温度を390℃に昇温して熱分解反応を開始した。分解時間は120分とした。
その結果、不揮発性生成物として分子量11,600のモノケリックス(片末端ビニリデン型オリゴマー)220g、揮発性生成物として分子量200のモノケリックス1,600gを回収することができた。テレケリックスは、ほとんど生成しなかった。前記揮発性生成物としての全モノケリックスの内訳は、モノマー:ダイマー:トリマー:テトラマー以上の多量体=50:15:30:5[質量%]であった。
【0039】
(実施例2)
原料として、表1に示すポリプロピレンを用い、表1に示す分解槽温度、分解時間としたほかは実施例1と同様に行った。
その結果、表2に示す不揮発性生成物および揮発性生成物を回収することができた。
【0040】
(実施例3)
原料として、表1に示すイソタクチックポリ(1−ブテン) を用い、表1に示す分解槽温度、分解時間としたほかは実施例1と同様に行った。
その結果、表2に示す不揮発性生成物および揮発性生成物を回収することができた。
【0041】
(実施例4)
原料として、表1に示すポリプロピレン−1−ブテンランダム共重合体を用い、表1に示す分解槽温度、分解時間としたほかは実施例1と同様に行った。
その結果、表2に示す不揮発性生成物および揮発性生成物を回収することができた。
【0042】
下記表1中、R、Rおよびnは下記一般式(1)におけるR、Rおよびnに対応する。
【0043】
【表1】

【0044】
【化2】

【0045】
<fTVD値の測定>
13C−NMR測定により、熱分解反応により得られた生成物について、fTVD値を決定した。fTVD値は、一分子あたりの二重結合の平均数を表しており、fTVD値が2に近いほどテレケリックスの組成(全不揮発性生成物中、または全揮発性生成物中のテレケリックスの割合)が高いことを示す。例えば、不揮発性生成物において、fTVD値が1.8であれば、その組成は、テレケリックス:モノケリックス:飽和成分=81:18:9[質量%]であると統計的に推算される。また、fTVD値が1.7であれば、テレケリックス:モノケリックス:飽和成分=73:25:2[質量%]である。
【0046】
<生成物の構造特定>
熱分解反応により得られた生成物は下記の如く確認した。
(1)ポリスチレンの揮発性生成物の構造特定
GC及びGPCによりスチレンモノマー、ダイマー、トリマーの組成を求めた。その結果は50:15:30:5質量%であった。モノマー、ダイマー、トリマーはそれぞれ蒸留により単離精製し、H−NMR測定により構造を決定した。
H−NMR測定において、スチレンダイマーは、7.5〜7.1ppmにベンゼン環のプロトンが検出され、5.30ppmと5.29ppmにビニリデン二重結合の二つのプロトンが検出され、及び2.80ppmに主鎖のメチレンプロトンが検出された。スチレントリマーでは、7.5〜7.0ppmにベンゼン環のプロトンが検出され、5.15ppmと4.88ppmにビニリデンの二つのプロトンが検出され、2.81ppmに主鎖のメチレンプロトンが検出され、2.68ppmに主鎖のメチンプロトンが検出され、2.37ppmにビニリデンのα位のメチレンプロトンが検出され、2.03ppmと1.88ppmにビニリデンのγ位のメチレンプロトンが検出された。
また、13C−NMR測定において、それぞれ114ppmと34ppmに検出された不飽和末端と飽和末端のメチレン炭素の強度比を用いてfTVD値を決定した。
【0047】
(2)ポリプロピレンの不揮発性生成物の構造特定
13C−NMRにより、19.8ppm、27.1ppmと44.7ppmにプロピレンのイソタクチック連鎖のメチル、メチンとメチレン炭素が検出された。加えて、12.4ppmと20.6ppmに飽和末端であるn−プロピル基と不飽和末端であるビニリデン基のメチル炭素が検出された。この強度比を用いてfTVD値を決定した。
【0048】
(3)イソタクチックポリ(1−ブテン)不揮発性生成物の構造特定
前記ポリプロピレンの構造特定の場合と同様にしてfTVD値を決定した。13C−NMRにより、8.8ppm、25.8ppm、33.1ppmと38.3ppmにそれぞれ1−ブテンのイソタクチック連鎖のメチル、側鎖のメチレン、メチンと主鎖のメチレン炭素がそれぞれ検出された。加えて、10.7ppmと12.1ppmに不飽和末端であるビニリデン基のメチル炭素と飽和末端であるn−ブチル基のメチル炭素がそれぞれ検出され、この強度比からfTVD値を求めた。
【0049】
(4)プロピレン−1−ブテンランダム共重合体の構造特定
前記ポリプロピレンの構造特定と前記イソタクチックポリ(1−ブテン)の構造特定の場合と同様に、13C−NMRにおいて、ポリプロピレンとイソタクチックポリ(1−ブテン)の両方のピークが検出された。それぞれの不飽和末端と飽和末端の強度比によりfTVD値を求めた。
【0050】
(5)生成物の構造特定のための上記各測定において、GPC測定には「東ソー(株)製 TOSOH HLC−8220 GPC」を用い、高温GPC測定には「東ソー(株)製 TOSOH HLC−821 GPC/HT」を用い、H−NMR測定および13C−NMR測定には「日本電子(株)製 JEOL−EC500」を用い、GC測定には「HEWLETT PACKARD社製 HP6890」を用いた。
【0051】
実施例1〜4の熱分解反応により得られた各不揮発性生成物および揮発性生成物の収量(質量%)と分子量、および上記測定により求めたfTVD値を表2に示す。また、不揮発性生成物においてはテレケリックスの組成(質量%)、揮発性生成物においてはモノケリックスの組成(質量%)を表2に示す。
【0052】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の末端ビニリデン型オリゴマーの合成工程の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 溶融槽
2 分解槽
3 釜残受器
4 コンデンサー
5 揮発物捕集槽
6 揮発物回収槽
7a〜7c 真空ポンプ
8 撹拌機
9 不活性ガス
10 溶融ポリマー移動管
11 留出管
12a〜12i 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解温度より低い溶融温度でポリスチレンまたはポリオレフィンを溶融する溶融工程と、
前記溶融工程で得た溶融ポリスチレンまたは溶融ポリオレフィンを、移動管を通して熱分解反応場に移動する移動工程と、
前記熱分解反応場を減圧下、および前記溶融ポリスチレンまたは前記溶融ポリオレフィン中への不活性ガス導入下、撹拌機で撹拌しながら前記溶融ポリスチレンまたは前記溶融ポリオレフィンを熱分解する熱分解工程と、
前記熱分解工程で生成した不揮発性生成物を回収する不揮発物回収工程と、
前記熱分解工程で生成した揮発性生成物を、留出管を通して冷却場に留出する留出工程と、
前記留出管を通過した揮発性生成物を減圧下の冷却場で捕集する揮発物捕集工程と、
前記冷却場で捕集された揮発物を回収する揮発物回収工程と、
を有し、前記各工程を連続的に行い、かつ、前記各工程を各々独立に進行させることを特徴とする片末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマー及び/又は両末端にビニリデン型二重結合を有するオリゴマーを合成する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−255159(P2008−255159A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96439(P2007−96439)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(596056896)株式会社三栄興業 (12)
【Fターム(参考)】