説明

物体の評価方法および評価装置

【課題】 ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化について非破壊且つ非接触で迅速且つ高精度に評価することができる物体の評価方法および評価装置を提供する。
【解決手段】 ゲル状またはゾル状の物体1にコヒーレントな光2を照射する光源3と、前記光2の結像面における光強度分布を断続的にまたは連続的に測定するセンシング手段4と、前記センシング手段4から出力された測定時刻の異なる2以上の前記光強度分布信号を比較・演算して光強度分布の時間的な変動を求め、当該光強度分布の時間的な変動に基づいて前記物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を評価する信号処理装置5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状物体およびゾル状物体について、そのゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を非破壊且つ非接触で評価する評価方法および評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非エルゴード性試料のゲル化過程やゲル状態を評価する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。これは、非エルゴード性試料の透過散乱光の角度依存性を利用したものであり、受光素子が2次元的に配置されたエリアカメラ等を用いて一定の散乱角における透過散乱光の2次元散乱強度を測定している。
【特許文献1】特開2000−214086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ゲル状物体として、例えばゲル状食品の品質は、一般に物性、外観(形や色)、臭い、味を総合して食感を評価されるが、持に硬さや弾力のような物性が食感や製品価値に与える影響は大きい。例えば充填豆腐は、冷却豆乳と凝固剤を混合し、充填包装後に加熱凝固して製造されるが、豆乳の品質変動や人為的ミスなどによって、柔らか過ぎたり、未凝固・凝固ムラが生じたりする不良品がまれに発生する。その他、多くのゲル状物体でも、同様な問題が発生し得る。また、飲料等のゾル状食品で、加工工程や保管中に予期せぬ原因によってゲル化し、不良品になる物体がある。逆に、ゲル状態を形成していた物体が、撹拌、外力、加熱等によってゾル化し、不良品になる物体もある。
【0004】
このようなゲル状物体およびゾル状物体の加工製品は、出荷前に専属の検査担当者により抜き取り検査が実施されて不良品が除去されていた。しかし、人為的な抜き取り検査によると、人件費が掛かかり、また結果が出るまで時間がかかる上に、検査漏れを払拭できない等の問題があった。万一、不良品が市場に出荷されれば、クレーム問題になり、企業イメージや信用の低下、高額な補償金の請求、取引停止など、多大な損害を被る危険性がある。従って、生産ラインで全数検査が実施されることが望ましい。
【0005】
上記特許文献1に開示された評価方法は透過散乱光の角度依存性を利用したものであり、例えばゲル状物体およびゾル状物体の濁度が高い場合、光難透過性である場合、または肉厚の塊状である場合には光が当該物体を殆んど透過できないため、その透過散乱光の強度を測定することは困難であった。また、光を直接ゲル状物体やゾル状物体に照射する必要があり、パッケージ内部の物体を測定することはできなかった。そして、角度依存性評価のために装置が複雑化する、角度の限定によっては有用な情報が欠落してしまう、等の問題点があった。
【0006】
また、生産ラインでの全数検査においては1つの物体に対する測定時間が極短時間に限られるが、上記特許文献1に開示された評価方法は受光素子が2次元的に配置されたエリアカメラ等を用いて透過散乱光の2次元散乱強度を測定しており、1回の測定につき数秒の時間を要するものであるため、光量が不足してダイナミックレンジが低下すると共に、例えば生産ラインにおいてベルトコンベア上を連続的に搬送されている場合や、周囲の振動源の影響で不規則に振動している場合など、ゲル状物体およびゾル状物体が動的状態にある場合に、測定結果からこれらの動的影響を排除することが困難であった。よって、生産ラインでの全数検査においてゲル状物体およびゾル状物体の状態を高精度に評価することは困難であった。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産ラインでのゲル状物体およびゾル状物体の加工製品(包装製品や生産工程中の中間製品も含む。)の全数検査を安価に実施して上述のような品質管理上の問題点を解決すべく、ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化について非破壊且つ非接触で迅速且つ高精度に評価することができる物体の評価方法および評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る物体の評価方法は、下記の(1)〜(4)を特徴としている。
【0009】
(1) ゲル状またはゾル状の物体にコヒーレントな光を照射し、前記光の結像面における光強度分布を断続的にまたは連続的に測定し、測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を比較・演算して光強度分布の時間的な変動を求め、前記光強度分布の時間的な変動に基づいて前記物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を評価すること。
(2) 上記(1)に記載の物体の評価方法において、複数の受光素子が直線状に配列された1次元センサにより前記光強度分布を測定すること。
(3) 上記(2)に記載の物体の評価方法において、前記1次元センサにより、当該1次元センサに対する前記物体の相対移動方向と平行な前記結像面の1次元領域の光強度分布を測定すること。
(4) 上記(3)に記載の物体の評価方法において、前記測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を、前記1次元センサに対する前記物体の相対移動量に応じて各々シフトさせた上で比較・演算すること。
【0010】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係る物体の評価装置は、下記の(5)〜(8)を特徴としている。
【0011】
(5) ゲル状またはゾル状の物体にコヒーレントな光を照射する光源と、前記光の結像面における光強度分布を断続的にまたは連続的に測定するセンシング手段と、前記センシング手段から出力された測定時刻の異なる2以上の前記光強度分布信号を比較・演算して光強度分布の時間的な変動を求め、当該光強度分布の時間的な変動に基づいて前記物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を評価する信号処理装置と、を備えること。
(6) 上記(5)に記載の物体の評価装置において、前記センシング手段が、複数の受光素子が直線状に配列された1次元センサであること。
(7) 上記(6)に記載の物体の評価装置において、前記複数の受光素子の配列が前記1次元センサに対する前記物体の相対移動方向と平行になるように、前記1次元センサが配置されていること。
(8) 上記(7)に記載の物体の評価装置において、前記信号処理装置が、前記測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を、前記1次元センサに対する前記物体の相対移動量に応じて各々シフトさせた上で比較・演算すること。
【0012】
本発明者らは、コヒーレントな光を照射されたゲル状物体およびゾル状物体(以下、これらを総称して単に物体という場合がある。)から発生するスペックルパターンが、物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化(濃度、硬さ、弾性、触感、食感、粘性、凝固変質等の品質)を反映していることを見出し、本発明に至った。
【0013】
尚、スペックルパターンとは「レーザー光のようなコヒーレントな光で粗面を照明したとき、空間にコントラストの高い斑点の模様で、粗面の各点で散乱された光が互いに不規則な位相関係で干渉することによって生ずる複雑な干渉パターンである。」(「光用語事典」オーム社p.126−127)、「レーザー光を紙や摺りガラス、壁、木材、さらに金属やプラスティックのあらずり面に当てると、普通では見られない斑点状の模様が現れる。個々の斑点をスペックル(speckle)、模様をスペックルパターン(speckle pattern)と通常呼んでいる。この模様は、拡散面の各点で散乱された光が、面の微視的な凹凸に対応した不規則な位相関係で干渉し合うために生ずる。」(「光学的測定ハンドブック」朝倉書店p.234)と、定義されている。ただし、「模様の細かさは表面の粗さなど面の微視的な構造とは無関係で、面上の照射スポットの形と大きさで決まり、スポットを絞るほど模様は粗くなる。」「結像系のピントを拡散面から外すと、像はぼやけるが、スペックルは相変わらず明暸である。」とある。(「光学的測定ハンドブック」朝倉書店p.235)
【0014】
物体にコヒーレントな光(干渉可能な光であって、位相、波長、振幅等が揃った光)を照射すると、物体が半透明から不透明ならば入射側の表面、また透明から透明に近い半透明ならば物体の裏側に配設した不透明性部材面(入射の反対側)にて照射光の反射(または透過)散乱が起き、照射光の像ができる。さらに、その像を測定するセンシング手段の測定面でも結像する。
【0015】
この結像面、特に光線断面の像内やその周辺には、物体の表面の凹凸や内部の粗密、網目構造などによって複雑に反射する際に光路差や方向、位相などが微妙に変化し、その結果、光の不規則な干渉によって光強度の強い斑点(スペックル)が発生し、不規則な明暗模様(スペックルパターン)が現れる。
【0016】
そして、スペックルパターンの光強度分布は時間的に不変ではなく、物体の状態によって変動の度合いが異なる。例えば、豆乳では光強度分布の時間的な変動が大きいのに対し、豆腐では光強度分布の時間的な変化が少ない。即ち、硬いゲル状物体ではゲル構造は拘束された状態で、安定したスペックルパターンが得られるが、軟らかいゲル状やゾル状物体の構造は緩い状態で、スペックルパターンが変化しやすい。
【0017】
そこで、結像面の光強度分布を断続的にまたは連続的に測定し、測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を比較・演算して光強度分布の時間的な変動を求め、これを指標とすることにより物体の状態を評価することが可能である。
【0018】
光強度分布の時間的な変動の大きさ(以下、指標値とよぶ)を求める比較・演算は各種の方法が考えられるが、例えば、所定の時間にわたって断続的に測定された複数の光強度分布信号X(t=0,1,・・・,n)について、ある測定時刻の光強度分布信号Xと次ぎの測定時刻の光強度分布信号Xt+1との差分の絶対値|X−Xt+1|の平均値ΔXを各測定時刻の光強度分布信号X(t=0,1,・・・,n−1)について逐次求め、それらの平均値を指標値とする。この指標値が小さいほど物体が凝固している(破断力が大きい)といえる。尚、断続的な測定にかえて、連続的に測定されたものから測定時刻の異なる複数の光強度分布信号Xを抽出するようにしてもよい。
【0019】
尚、上記した比較・演算処理においては、ある測定時刻の光強度分布信号Xと次ぎの測定時刻の光強度分布信号Xt+1との差分を求めているが、場合によってはさらに遅い測定時刻の光強度分布信号(例えば、Xt+2)との差分を求めてもよい。また、差分の絶対値|X−Xt+1|にかえて差分の二乗平均平方根(RMS)を求めてもよく、フーリエ変換などの演算を加えてもよい。
【0020】
また、上記した比較・演算処理において、各測定時刻における平均値ΔXを、当該平均値を求めた2つの光強度分布信号XおよびXt+1の平均値で除して正規化し、正規化された平均値ΔX′(t=0,1,・・・,n−1)の平均値を指標値としてもよい。これによれば、照射光の光量変化や、物体の反射率がサンプル毎に異なるなどの理由による測定面での光量変化の影響を抑えることができる。また、上記した比較・演算において、光強度信号XとXt+1の差分に代えて、光強度信号X,Xt+1の場所軸方向の1次微分値や2次微分値の差分を求めることによっても、光量などの影響を抑えることができる。
【0021】
また、上記した比較・演算処理において、ノイズの影響を除去するために光強度分布信号XおよびXt+1にフィルタリング処理を行った後に平均値ΔXを求めてもよい。また他の統計的演算(最小値、メディアン等)を行った結果を指標値としてもよい。
【0022】
指標値と品質評価との関係式は、あらかじめモデル信号を元に作成した回帰式(最小2乗法による線形近似式1次式、2次式や多変量解析による多項式、対数近似式、累乗近似式、指数近似式、判別式など統計解析手法による)や、教師信号を用いて作成したニューロコンピューターの学習構造、ファジー理論による論理式、遺伝的アルゴリズムによる論理式などを用いる。これらの関係式を用いて、指標値から物体の状態を評価することができ、生産ラインではしきい値を設けて不良品を検出することができる。
【0023】
上述した評価方法によると、あろ入射角θ1で入射した光を、ある角度θ2で反射(または透過)散乱した光を測定するものであり、特にθ1やθ2は限定されない。即ち、従来のように様々な散乱角度で拡散した透過散乱光を一定の散乱角で抽出するのではなく、ある測定方向からみて広範囲の散乱角度によって広く形成された結像面の所定の領域を測定するものである。本発明は、広範囲の散乱角度によって形成される光強度分布を測定することで、散乱角度や散乱方向の多少の乱れには影響され難く、最適な散乱角を探す(走査する)必要がない上、正確な焦点調整が不要で、どんな対象にも直ちに適用しやすい。そして、この光強度分布の時間的な変動を評価することにより、物体の状態を高精度に評価することができる。
【0024】
尚、本発明においては、結像面における少なくとも一点の光強度を断続的にまたは連続的に測定できれば足り、従って、光強度分布を測定するセンシング手段は特に限定されない。即ち、エリアカメラ等の2次元センサ、ラインセンサ等の1次元センサ、フォトダイオード等の0次元センサ、およびこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0025】
ここで、光強度分布の時間的な変動を評価する本発明においては、光強度分布の測定間隔は1m秒以下であり、好ましくは500μ秒以下である。このように高速な光強度分布の測定を可能とするセンシング手段としては、受光素子が直線状に配置されたラインセンサ等の1次元センサを例示することができる。一般に、ラインセンサ等の1次元センサは、エリアカメラ等の2次元センサに比べて非常に速い信号出力レートを有しており、現状では、市販エリアカメラの信号出力レートが10m秒以上であるのに対して、ラインセンサの信号出力レートは、一般的なもので30μ秒〜200μ秒であり、高速なものでは20μ秒以下である。また、1次元センサは、一般に2次元センサに比べてダイナミックレンジに優れる。従って、センシング手段としては1次元センサを用いることが好ましい。ただし、極短時間に撮影することができるダブルシャッター式エリアカメラのように、複数回、極微小な間隔で高速に測定することができる2次元センサであれば本発明に好適に用いることができる。
【0026】
センシング手段として1次元センサを用いる場合に、複数の受光素子の配列が1次元センサに対する物体の相対移動方向と平行になるように1次元センサを配置して、物体の相対移動方向と平行な結像面の1次元領域の光強度分布を測定することが好ましい。即ち、生産ラインでは、物体がベルトコンベアにより連続的に搬送されている場合や、周囲の振動源の影響で不規則に振動している場合など、物体が動的状態にある場合が想定される。このような場合に、物体の相対移動方向と平行な結像面の1次元領域の光強度分布を測定することで、物体の状態を高精度に評価することができる。
【0027】
物体の相対移動方向と平行な結像面の1次元領域の光強度分布を測定する場合に、1次元センサから出力される光強度分布信号は、物体の相対移動に伴って、時間とともに物体の相対移動方向にシフトする。そこで、1次元センサに対する物体の相対移動量に応じて光強度分布信号を各々シフトさせた上で比較・演算することにより、光強度分布の時間的な変動から物体の相対移動の影響を排除して、物体の状態を高精度に評価することができる。
【0028】
物体の相対移動量を求める方法は各種の方法が考えられるが、例えば、上記したある測定時刻の光強度分布信号Xと次ぎの測定時刻の光強度分布信号Xt+1との差分の絶対値|X−Xt+1|の平均値ΔX(t=0,1,・・・,n−1)を求める処理において、Xt+1を物体の相対移動方向に沿って前後にシフトさせ、XとXt+1とが最も一致するシフト量を求める方法が有効である。また、物体の移動速度、1次元センサのレンズ倍率、1次元センサの受光素子サイズ、および測定間隔等から求める方法も考えられる。尚、物体の相対移動速度に対して測定間隔が極短時間である場合には、受光素子(ピクセル)単位でのシフトではなく、サブピクセル単位でのシフトを行うことが望ましい。
【0029】
センシング手段としてエリアカメラ等の2次元センサを用いる場合には、マトリックス状態に配置されている受光素子の行方向もしくは列方向を物体の相対移動方向と平行に配置することが望ましい。そして、2次元の光強度分布信号を一括して処理してもよいが、マトリックス状態に配置されている受光素子の行または列(好ましくは、物体の相対移動方向に平行な行または列)毎に光強度分布信号を抽出し、上記した比較・演算処理をおこなってもよい。物体の相対移動量に応じて光強度分布信号を各々シフトさせる上記の処理は、2次元センサを用いる場合でも同様である。
【0030】
本発明が適用できるゲル状物体とは、水、油、有機溶剤や空気を分散媒として、タンパク質や多糖類や樹脂などの高分子を分散質または溶質とする物体であって、最終状態が固体又はゲル状である物体をいう。例えば食品、化粧品、医薬品、無機質ゲル、樹脂等の工業製品、生体組織、農水産物、液晶等の分野で、様々な材質からなるが、一般に高分子が三次元の網目状または蜂の巣状のようなスポンジ状構造(空隙は例えば0.001〜数十μmの空間に溶媒を保持した状態)を形成し、固体化(または結晶化)したものである。一見滑らかな表面は内部構造同様に微視的には粗面と言える。ゲル状物体のゲル網目空隙が照射光波長の8分の1以上〜10倍程度(好ましくは1〜2倍)であれば、粗面または粗な網目状態であり、本発明を適用できる。
【0031】
ゲル状物体は例えば寒天ゲル、ゼラチンゲル、豆腐、こんにゃく等のゲル状食品、ゲル状整髪料や口紅、高分子吸水シート、コラーゲンゲル等の化粧品、軟膏、ゼリー状クリーム、整形用シリコーンゲルなどの医薬・医療品、シリカゲルや土壌等の無機質ゲル、樹脂系ゲル(ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリエステル樹脂(PET)、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂(PA)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂(MF)、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、オキシベンソイールポリエステル樹脂、ポリ乳酸樹脂等の生分解性プラスティック類、天然ゴム、合成ゴム、これらの複合材、発泡材など)からなるプラスティック製品やタイヤ等、漆や人工漆等やその加工製品(漆器、塗料等)、消臭剤保持材、人体の眼球、皮膚や内臓、脳等の生体組織、米・大豆等の穀物、野菜や果物、海草、魚介類、食肉などの農水畜産物、皮革製品、木材等、油ゲル化剤で固まった油脂、エマルションやミセル(マイクロカプセル)等であり、ポリマー、タンパク質、多糖類、油脂、界面活性剤やゲル化剤などの高分子が三次元の網目状または蜂の巣状のようなスポンジ状構造を形成し、固体化したものである。細胞が多数集合した生体組織や、コアセルベーションによるコアセルベートなども、近似的にゲル構造と見なすことができ、その形成や崩壊についても本発明が適用できる。
【0032】
ゲル化剤とはゼラチン、寒天、デンプンや、松ヤニ、油ゲル化剤(12−ヒドロキシステアリン酸やパラフィンロウ等)や架橋酵素(ラッカーゼ、トランスグルタミナーゼ、チロシナーゼなどや、逆反応が架僑作用を示すリパーゼ、プロテアーゼ等)などの工業用添加物など、増粘力またはゲル化力、三次元網目構造や結晶構造を形成させる作用のある物質で特に限定しない。その他、樹脂のように加熱冷却によって、ゾル−ゲル転移を起こすような物質も含まれる。また界面活性剤のように油脂の結晶化に作用する物質、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど長大な分子で、高級脂肪酸側鎖を有する乳化剤も油脂やエマルションに作用して、近似的に三次元構造や結晶構造を形成する。
【0033】
ゾル状物体としては、マヨネーズ、シリコーン分散液、豆腐用乳化凝固剤などの乳濁液・乳化物を例示することができる。また、上記のゲル状物体のゾル状原材料の大部分が該当する。また、通常は流動性や粘性を有する液状(ゾル状)であって、加工や保存中に適当な刺激(微生物増殖、酵素反応、加熱、冷却、濃縮、乾燥、静置、腐敗、凝固剤添加、光化学反応等)によってゲル化する性質のゲル形成性ゾル状物体も該当する。例えば豆乳、調整豆乳、豆乳飲料、高濃度の大豆タンパク溶液、生卵、卵白、卵豆腐や茶碗蒸しの仕込原料液、牛乳や牛乳加工飲料、寒天飲料、生澱粉液などのゾル状食品(飲料)や、血液、溶媒に分散した樹脂粉末原料、澱粉糊や接着剤、油ゲル化剤、化粧品の乳液やクリーム等であるが、これらに限定するものではない。例えば、豆乳や牛乳が凝固する過程、パン生地や魚肉すり身が熟成中に弾性が増す過程なども本発明で評価できる対象である。
【0034】
また、ゲル状物体で、適当な刺激(撹拌、外力、振動、加熱など)によって、ゾル状に変化する過程も本発明の対象になるゾル−ゲル状態変化である。チキソトロピー性を示す物質のように、適当な刺激(撹拌、外力、振動、加熱など)によって、ゾル状に変化する物体であって、前記ゲル状物体の一部が該当する。例えば、高濃度の冷却豆乳ゲル、大豆タンパク質ゲル、寒天ゲル、ゼラチンゲル、ペクチンゲル等が挙げられる。生体細胞組織の崩壊や地震による土壌の液状化現象もゾル−ゲル状態変化と言える。
【0035】
また、物体の内部は均一組織で、表面または表面近傍の表層組織が内部組織を代表している物体が好ましい。また繊維状、糸状、粒子状、塊状などの集合体でもよい。前記物体は透明(光透過性)であっても、不透明(光不透過性)であってもよい。特に、光透過性の低い、半透明から不透明ゲルに対しても有効である。透明である場合、透過散乱光を前記センシング手段で結像させるか、その透過散乱光の結像ができる光不透過性の部材を設ける形態をとることが好ましい。なお、その部材の表面は粗面であっても平滑な面であっても、一定であれば、相対的な比較が可能である。
【0036】
物体の形状は立方体、直方体、円柱、カップ状、球状(例えば、風船ゴムのような材質で包装された球状充填豆腐)、粒子状、粉体状、塊状、板状、線(麺)状、繊維状、紡糸状、布状、フィルム状、チューブ状、ブロー容器、ボトル状、スタンディングパウチなど形状に特に限定しない。包装の有無も限定しないが、包装製品の場合、上面・側面・底面のいずれかに少なくとも、特定波長領域の光が一部分でも通過できる部分を有する包装材料で包装した場合に限る。
【0037】
照射光は、干渉性(コヒーレンス性)、単色性、指向性のある光であることが好ましく、一般にレーザー光が最適であろ。待にコヒーレントな光は、反射各光線の位相が複雑かつ微妙に変化し、回折、干渉や偏光を起こしやすく、波長によっては物体内部に浸透し、結像面上で、照射光断面のまたはその周囲にスペックルパターンを形成する。このスペックルパターンによって物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化の情報を得ることができる。
【0038】
上記の照射光を発射する光源は、具体的には半導体レーザー(LD、2波長以上の光を含む場合も含む)が最も小型で安価である。また複数の、波長の異なる光源を組み合わせて、より多くの情報を得るよう構成してもよい。そのほか、固体レーザー(Nd:YAG、Ti:サファイア、Nd:ガラスなど)、液体レーザー(色素レーザー)、気体レーザー(He:Ne、Ar、炭酸ガス、エキシマレーザーなど)も利用できる。発光ダイオード(LED)、ストライプ型半導体レーザー(SLD)の使用も可能である。レーザー発振方法では連続レーザーやパルスレーザーでもよい。
【0039】
また、光源は、上記のレーザー光源以外に、フーリエ変換レンズ(コヒーレント処理)やバンドパスフィルターなど光学処理を組み合わせた水銀灯、ストロボ光源、白色光源(キセノンランプ、蛍光灯)、太陽光、白熱灯、ナトリウム灯、赤外光源(ニクロム線ヒーター、セラミックヒーター、タングステンランプ、タングステン・ハロゲンランプ等)や紫外線ランプ、X線を発生させるレーザープラズマ光源等も利用できる。
【0040】
光源は、光軸断面形状による分類として、極小さい点光源、点光源の集まりになる線光源や面光源(円形、楕円、スポット光源、四角、リング状など)やマルチライン光源などが適用できる。そのほか、レンズ(凹凸レンズ、フーリエ変換レンズ等)やスリット板(1本以上の線状孔を有する)やピンホール板(1以上の小孔を有する)、反射板、(鏡などの平滑な板や金属板などの粗面の板など)光ファイバーなどによって光軸断面形状を変形、分散・干渉(例えば、コヒーレント性を部分的に有するスペックル状の照射光を用いる等)、制限または伝搬した投光方法も用いられる。また開口絞り、NDフィルター、バンドパスフィルター、偏光フィルター、干渉フィルターなどによる光量の調整や波長・偏光制限や、回折格子やプリズムによる分光を行ってもよい。その光軸断面の形状やサイズは製品の照射面積未満であれば特に限定しない。例えば、ゲル状食品またはゾル状食品や化粧品、等のように小さい形態の製品では、スポット状等の面光源は0.01〜100mm程度が好ましく、1〜10mm程度が最適である。また線光源も幅、長さともに特に限定しないが、幅0.1〜10mm、長さ1mm〜1m程度が実用的である。
【0041】
照射光のエネルギー密度は特に限定しないが、10W以下で10mWから1Wが適当である。物体内に浸透するために十分な出力を得たい場合、さらに高出力の光を用いる。照射光の波長域は0.15〜0.4μm(紫外領域)、0.38〜0.75μm(可視領域)、0.75〜2.51μm(近赤外領域)、2.51〜25μm(中赤外領域)、25〜2,000μm(遠赤外領域)の範囲にあればよい。ただし、分散媒(例えば水や有機溶剤等)や包装材料など、物体を構成する分散質(高分子物質等)以外の強い吸収波長帯は避けた方が好ましい。
【0042】
センシング手段には、開口絞り、NDフィルターなどによる光量の調整や、シャッタースピード・感度等の調整や、バンドパスフィルターによる波長の制限や、偏光フィルターによる偏光の制限や、フーリエ変換レンズなどによる光学処理や、回折格子やプリズムによる分光処理を行ってもよい。なお、介在する部材表面からの乱反射を抑えるため、偏光フィルターを用いる場合もある。いずれにおいても計測条件によって最適なスペックルパターンを観測できるように選定する。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化について当該物体のパッケージを開封せずに非破壊かつ非接触で迅速且つ高精度に評価することができる物体の評価方法および評価装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明に係る好適な実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(a)は本発明の物体の評価装置に係る一実施形態の概略構成図であり、(b)は結像面、ラインセンサによる測定範囲、およびラインセンサに対する物体の相対移動方向の関係を説明するための模式図である。図2(a)はラインセンサから出力された結像面の光強度分布信号を示すグラフ、(b)は同図(a)の光強度分布信号を白黒の濃淡で可視化した1次元画像、(c)は同図(b)の画像を時系列に並べたものであり、光強度分布の時間的な変動を可視化した2次元画像である。図3はラインセンサに対して物体が静止している場合の光強度分布の時間的な変動を可視化した2次元画像であって、(a)は豆乳で測定される2次元画像、(b)は豆腐で測定される2次元画像である。図4(a)〜(d)は光強度分布の時間的な変動の大きさ(指標値)を求める比較・演算方法を説明するためのグラフである。図5はラインセンサに対して物体が相対移動していろ場合の光強度分布の時間的な変動を可視化した2次元画像であって、(a)は豆乳で測定される2次元画像、(b)は豆腐で測定される2次元画像である。図6はラインセンサに対して物体が相対移動している場合に時間とともに光強度分布信号がシフトする様子を示す2次元画像である。図7はラインセンサに対して豆腐が静止している場合に測定される豆腐の指標値と硬さとの関係を示すグラフである。図8はラインセンサに対して豆腐が相対移動している場合に測定される豆腐の指標値と硬さとの関係を示すグラフである。図9はラインセンサに対してプリンが静止している場合に測定されるプリンの指標値と硬さとの関係を示すグラフである。図10はラインセンサに対して卵豆腐が静止している場合に測定される卵豆腐の指標値と硬さとの関係を示すグラフである。
【0045】
図1に示すように、本発明の物体の評価装置は、ゲル状またはゾル状の物体1にコヒーレントな光2を角度θ1で照射する光源3と、光2の結像面における光強度分布を角度θ2で測定するセンシング手段としてのラインセンサ4と、ラインセンサ4から出力された光強度分布信号を蓄積して処理するパソコン等の信号処理装置5とを備える。
【0046】
物体1に照射されたコヒーレントな光2は、物体1が半透明から不透明ならば入射側の表面でランダムに飛散して表面反射散乱光(拡散反射光、θ1に無関係)となる。また物体1が透明から透明に近い半透明ならば物体1の内部に侵入し、複雑に透過または散乱または屈折または分散(分光)または回折または偏光した後、物体1の裏側に配設された包装材料等の不透明性部材面にて反射されて透過反射散乱光となる。表面反射散乱光および透過反射散乱光は、物体1の表面およびラインセンサ4の受光面(結像面)で結像するが、その過程でお互いに複雑に干渉する結果、スペックルパターンが形成される。なお、θ2は必ずしもθ1と等しくなくてもよい。
【0047】
表面反射散乱光を測定する場合、一般にはθ1は0°≦θ1<90°(ただし、θ1<臨界角である。θ1は厳密には空気と包装材料の界面、包装材料と内部物体との界面での各々の屈折率で決定される臨界角より小さくなるように調整する。)で好ましくは20°≦θ1<70°であり、θ2は0°≦θ2<90°、好ましくは0°≦θ2<70°である。尚、θ1=θ2、特にθ1=θ2=0というような同軸落射方式でもよい。ただし、入射光軸と受光光軸の成す面内に法線が含まれ、かつθ1=θ2のときに起きる全反射は場合によっては避けた方がよい。観測角θ3は0≦θ3<180°であり、好ましくは20°≦θ3<140°である。
【0048】
透過反射散乱光を測定する場合、反射光測定の場合と同様にθ1は0°≦θ1<90°(θ1<臨界角)で、好ましくは20°≦θ1≦70°であり、θ2は0°≦θ2≦180°であり、好ましくは20°≦θ2≦180°である。観測角θ3は0≦θ3<180°であり、好ましくは20°≦θ3≦180°である。θ1=0°、θ2=0°の透過光測定は、反射光測定に似ているが、例えば、入射光軸と受光光軸が平行で入射箇所と受光箇所が異なる場合である。
【0049】
光源3から照射される光2をフーリエ変換レンズ、偏光フィルター、バンドパスフィルター、反射鏡(平滑面や粗面のもの)、フォトリフラクティブ結晶フィルター、干渉フィルター(曇りガラス、樹脂、ゲル状物質、液晶、コロイド粒子分散液など)など光学的変換・制限用光学補助部品や線状またはスポット状など光軸変換レンズやスリット板など光軸形状変換・制限用光学補助部品を介して、適当なコヒーレントな光にすることも有効である。ラインセンサ4の手前に、開口絞り、偏光フィルター、バンドパスフィルターなどの光学補助部品や集光レンズ、拡散レンズ等の光学補助部品を介して、受光(映像)を加工、制限することも有効である
【0050】
本実施形態において、物体1は例えば生産ラインのコンベア上を搬送されて、ラインセンサ4に対して所定の方向(図1において矢印B方向)に相対的に移動する。ラインセンサ4の測定範囲Aの長辺(即ち、複数の受光素子の並び)が当該ラインセンサ4に対する物体1の相対移動方向と平行となるようにラインセンサ4は配置されている。よって、ラインセンサ4は、物体1の相対移動方向と平行な結像面の1次元領域の光強度分布を微小時間をおいて断続的に測定する。
【0051】
コンベア速度は、1〜10000mm/秒、好ましくは100〜1000mm/秒であり、一般的な工場ラインの生産能力から200〜600mm/秒が特に好ましい。コンベアの種類は特に限定されるものではない。即ち、通常のベルトコンベア、金属ベルトコンベア、駆動手段や環境から受ける振動を抑えたコンベア(例えば、強力な磁力を介して回転力・駆動力をコンベアに伝達するようなコンベアなど)等を用いることができる。また、コンベアに限定されず、空中での自然落下、シュートなどを滑り落ちる落下、水流や風力による搬送など様々な搬送手段を適用することができる。
【0052】
上述のように、結像面にはスペックルパターンが形成されており、結像面の場所によって光強度が異なっている。よって、ラインセンサ4からは図2(a)に示すような光強度分布信号が微小時間Δtをおいて断続的に出力され、信号処理装置5に蓄積される。図2(b)に示す1次元画像は図2(a)に示す光強度分布信号を白黒の濃淡で可視化したものであり、これを時系列で並べると図2(c)に示す2次元画像となる。図2(c)に示す2次元画像は前記1次元領域における光強度分布の時間的な変動を可視化したものといえる。
【0053】
スペックルパターンの光強度分布は時間的に不変ではなく、物体の状態によって変動の度合いが異なる。図2(c)に示す2次元画像において白線が上下に直線状に連続しているものほど光強度分布の時間的な変動が少なく、例えば、図3(a)に示す豆乳の光強度分布の時間的な変動は、図3(b)に示す豆腐の光強度分布の時間的な変動に比べて大きいといえる。尚、図3(a)および(b)に示すものは、ラインセンサ4に対して物体1が静止している場合の光強度分布である。
【0054】
信号処理装置5は、蓄積した光強度分布信号を比較・演算して、光強度分布の時間的な変動の大きさを(指標値)を求める。以下に、ラインセンサ4が1秒間に10000回の信号出力レートを有し、物体1について0.5秒間にわたり断続的に測定するものとして、信号処理装置5における光強度分布信号の比較・演算処理を具体的に説明する。尚、以下の説明では、ラインセンサ4に対して物体1が静止しているものとする。尚、測定時間は0.5秒に限定されるものではなく、例えば0.1秒で測定することもできる。
【0055】
0.5秒間にわたって0.0001秒毎に測定された複数の光強度分布信号X(t=0,1,・・・,4999)について、測定時刻0.0000秒における光強度分布信号X(図4(a)参照)と、測定時刻0.0001秒の光強度分布信号X(図4(b)参照)との差分の絶対値|X−X|(図4(c)参照)を求め、その平均値ΔXを求める。図示の例ではΔX=1.64である。
【0056】
次いで、平均値ΔXを、当該平均値を求めた2つの光強度分布信号XおよびXの平均値で除して正規化する。図示の例では、光強度分布信号Xの平均値X=54.9であり、光強度分布信号Xの平均値X=54.7であり、よって平均値ΔXを正規化した平均値ΔX′=0.0299(=1.64/((54.9+54.7)/2))である。
【0057】
以上の演算を各測定時刻の光強度分布信号X(t=0,1,・・・,n−1)について逐次行い、正規化されたこれらの平均値ΔX′(t=0,1,・・・,n−1)(図4(d)参照)の平均値を指標値とする。尚、信号処理装置5への光強度分布信号の蓄積と上記の演算処理は並行して行われる場合もある。
【0058】
この指標値と物体1の状態評価との関係式は、あらかじめモデル信号を元に作成した回帰式(最小2乗法による線形近似式1次式、2次式や多変量解析による多項式、対数近似式、累乗近似式、指数近似式、判別式など統計解析手法による)や、教師信号を用いて作成したニューロコンピューターの学習構造、ファジー理論による論理式、遺伝的アルゴリズムによる論理式などを用いる。これらの関係式を用いて、指標値から物体の状態を評価し、生産ラインではしきい値を設けて不良品を検出する。
【0059】
ここで、ラインセンサ4に対して物体1が相対移動している場合には、光強度分布の時間的な変動に物体1の相対移動の影響が現れる。図5(a)および(b)は、それぞれラインセンサ4に対して相対移動している豆乳および豆腐の光強度分布の時間的な変動を示し、図3(a)および(b)に示す豆乳および豆腐の光強度分布の時間的な変動に比べて大きくなっていることがわかる。これは、ラインセンサ4から出力される光強度分布信号が、物体1の相対移動に伴って、図6に示すように、時間とともに物体の相対移動方向にシフトするためである。
【0060】
そこで、ラインセンサ4に対する物体1の相対移動量に応じて、信号処理装置5において蓄積された光強度分布信号を各々シフトした上で比較・演算し、光強度分布の時間的な変動から物体1の相対移動の影響を排除する。
【0061】
具体的には、上記したあろ測定時刻の光強度分布信号Xと次ぎの測定時刻の光強度分布信号Xt+1との差分の絶対値|X−Xt+1|を求める処理において、Xt+1を物体の相対移動方向に沿って前後にシフトさせ、XとXt+1とが最も一致するシフト量ΔSを求める。そしてXt+1をΔSシフトさせた上で|X−Xt+1|を求める。以後の処理は上記の通りである。
【0062】
(実施例)
ゲル状物体の一例として冷却豆乳に凝固剤を混合し充填包装の後に加熱凝固する充填豆腐を用い、硬さ(破断力)が夫々異なる充填豆腐に対して本発明を適用し、それらの指標値を求めた。充填豆腐は下記のように調整した。10℃以下に冷却した豆乳(固形分11%wt、大豆は石川県産エンレイ)1,000m1に対して、GDL(グルコノデルタラクトン、扶桑化学製)を、0%品:0g、40%品:1.0g、50%品:1.25g、70%品:1.75g、85%品:1.75g、100%品:2.13g、130%品:2.5g、160%品:4.23gを10ml蒸留水に溶かした凝固剤液を、直ちに、添加・攪拌し、300g豆腐パック(16号富山型、内装ポリプロピレン−外装ポリスチレン製の白色容器)に充填・密封した。80℃恒温水槽に30分間静置して、凝固を行い、十分水で冷却し、一夜冷蔵して、調整した。
【0063】
豆腐パックのフィルムを剥がし、そのまま、中央付近2カ所にて、レオメーター(不動工業製、NRM−2002J、プランジャー直径20又は10mmφ、試料台上昇速度60mm/分、最大荷重1kg、記録紙速度120mm/分)を用いて、室温にて破断試験を行った。豆腐が破断した時点の荷重を、プランジャー面積で除した値を硬さとした。各試料について2点の平均値を求めた。
【0064】
充填豆腐が静止している場合の各充填豆腐の硬さ及び指標値を図7に示す。また、充填豆腐が200mm/秒でベルトコンベアにより搬送されている場合の各充填豆腐の硬さ及び指標値を図8に示す。尚、指標値は、いずれの場合も、パッケージを開封せずに白色のパッケージ越しに測定して求めた。
【0065】
充填豆腐の硬さと指標値との間に、指標値が小さいほどが硬いという相関関係が認められ、指標値に対して適切なしきい値を設定することで、例えば硬さ80gf/cmの充填豆腐と硬さ100gf/cmの充填豆腐を区別することができた。このように、本発明によれば、ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を高精度に評価することができる。
【0066】
そして、充填豆腐がベルトコンベアにより搬送されている場合には、充填豆腐が静止している場合に比べて各充填豆腐の指標値が総じて高くなっているものの、充填豆腐の硬さと指標値との相関関係は、充填豆腐が静止している場合とベルトコンベア上を搬送されている場合とで同様の傾向が認められた。即ち、本発明によれば、1次元センサに対して物体が相対移動している場合にも、物体の相対移動の影響を排除して、ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を高精度に評価することができる。
【0067】
他の例として、硬さが夫々異なるプリンに対して本発明を適用し、それらの指標値を求めた。プリンは下記のように調製した。市販プリンミックス(ハウス食品製)を、8.33%品:25g、15%品:45g、21.1%品:63.3g計量し、300mlの熱湯(90℃)に溶き、直ちに、300ml容の上記の豆腐パックに充填した。透明フィルムで密封シールした後、冷蔵庫で冷却して、調製した。
【0068】
プリンが静止している場合の各プリンの硬さ及び指標値を図9に示す。尚、プリンの硬さの測定は、上述した充填豆腐の場合と同様である。また、指標値は、パッケージを開封せずに白色のパッケージ越しに測定して求めた。
【0069】
プリンの硬さと指標値との間に、指標値が小さいほどが硬いという略線形な相関関係が認められ、指標値に対して適切なしきい値を設定することで不良品を確実に検出することができる。このように、本発明によれば、ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を高精度に評価することができる。
【0070】
他の例として、硬さが夫々異なる卵豆腐に対して本発明を適用し、それらの指標値を求めた。卵豆腐は下記のように調製した。市販生卵10個を割り、ジューサーで均質化した卵液と出汁(味の素製ほんだし)を、10%品:35ml+315ml、20%品:70ml+280ml、30%品:105ml+245ml、40%品:140ml+210ml、50%:175ml+175mlをそれぞれ混合して、300ml容の上記の豆腐パックに充填した。透明フィルムで密封シール後、湯浴にて80℃40分間加熱し、冷却して、調製した。
【0071】
卵豆腐が静止している場合の各卵豆腐の硬さ及び指標値を図10に示す。尚、卵豆腐の硬さの測定は、上述した充填豆腐の場合と同様である。また、指標値は、パッケージを開封せずに白色のパッケージ越しに測定して求めた。
【0072】
卵豆腐の硬さと指標値との間に、指標値が小さいほどが硬いという相関関係が認められ、指標値に対して適切なしきい値を設定することで不良品を確実に検出することができる。このように、本発明によれば、ゲル状物体およびゾル状物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を高精度に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)は本発明の物体の評価装置に係る一実施形態の概略構成図であり、(b)は結像面、ラインセンサによる測定範囲、およびラインセンサに対する物体の相対移動方向の関係を説明するための模式図である。
【図2】(a)はラインセンサから出力された結像面の光強度分布信号を示すグラフ、(b)は同図(a)の光強度分布信号を白黒の濃淡で可視化した1次元画像、(c)は同図(b)の画像を時系列に並べたものであり、光強度分布の時間的な変動を可視化した2次元画像である。
【図3】ラインセンサに対して物体が静止している場合の光強度分布の時間的な変動を可視化した2次元画像であって、(a)は豆乳で測定される2次元画像、(b)は豆腐で測定される2次元画像である。
【図4】(a)〜(d)は光強度分布の時間的な変動の大きさ(指標値)を求める比較・演算方法を説明するためのグラフである。
【図5】ラインセンサに対して物体が相対移動している場合の光強度分布の時間的な変動を可視化した2次元画像であって、(a)は豆乳で測定される2次元画像、(b)は豆腐で測定される2次元画像である。
【図6】ラインセンサに対して物体が相対移動している場合に時間とともに光強度分布信号がシフトする様子を示す2次元画像である。
【図7】ラインセンサに対して豆腐が静止している場合に測定される豆腐の指標値と硬さとの関係を示すグラフである。
【図8】ラインセンサに対して豆腐が相対移動している場合に測定される豆腐の指標値と硬さとの関係を示すグラフである。
【図9】ラインセンサに対してプリンが静止している場合に測定されるプリンの指標値と硬さとの関係を示すグラフである。
【図10】ラインセンサに対して卵豆腐が静止している場合に測定される卵豆腐の指標値と硬さとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
1 物体
2 コヒーレントな光
3 光源
4 ラインセンサ(センシング手段)
5 信号処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル状またはゾル状の物体にコヒーレントな光を照射し、
前記光の結像面における光強度分布を断続的にまたは連続的に測定し、
測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を比較・演算して光強度分布の時間的な変動を求め、
前記光強度分布の時間的な変動に基づいて前記物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を評価することを特徴とする物体の評価方法。
【請求項2】
複数の受光素子が直線状に配列された1次元センサにより前記光強度分布を測定することを特徴とする請求項1に記載の物体の評価方法。
【請求項3】
前記1次元センサにより、当該1次元センサに対する前記物体の相対移動方向と平行な前記結像面の1次元領域の光強度分布を測定することを特徴とする請求項2に記載の物体の評価方法。
【請求項4】
前記測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を、前記1次元センサに対する前記物体の相対移動量に応じて各々シフトさせた上で比較・演算することを特徴とする請求項3に記載の物体の評価方法。
【請求項5】
ゲル状またはゾル状の物体にコヒーレントな光を照射する光源と、
前記光の結像面における光強度分布を断続的にまたは連続的に測定するセンシング手段と、
前記センシング手段から出力された測定時刻の異なる2以上の前記光強度分布信号を比較・演算して光強度分布の時間的な変動を求め、当該光強度分布の時間的な変動に基づいて前記物体のゲル状態またはゾル状態またはゾル−ゲル状態変化を評価する信号処理装置と、
を備えることを特徴とする物体の評価装置。
【請求項6】
前記センシング手段が、複数の受光素子が直線状に配列された1次元センサであることを特徴とする請求項5に記載の物体の評価装置。
【請求項7】
前記複数の受光素子の配列が前記1次元センサに対する前記物体の相対移動方向と平行になるように、前記1次元センサが配置されていることを特徴とする請求項6に記載の物体の評価装置。
【請求項8】
前記信号処理装置が、前記測定時刻の異なる2以上の光強度分布信号を、前記1次元センサに対する前記物体の相対移動量に応じて各々シフトさせた上で比較・演算することを特徴とする請求項7に記載の物体の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−292709(P2006−292709A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139061(P2005−139061)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(591162631)株式会社高井製作所 (32)
【出願人】(504275786)株式会社松浦電弘社 (5)
【Fターム(参考)】