説明

物体検出装置

【課題】 複数のレーダにより物体を検出する物体検出装置において、検出結果を融合する際の同一物体判定や位置情報の取得精度を向上させた物体検出装置を提供する。
【解決手段】 レーダ11で検出したa、c等から検出点の進路を求め、その進路に基づいた領域(Y座標がYth1〜Yth2の領域)にレーダ10による検出点が存在し、かつ、相対速度が合致する場合に、その検出点を対応する検出点としてペアリングする。例えば、距離が離れているe−f、i−jについてもペアリング可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダにより物体を検出する装置に関し、特に、検出領域の一部を重ね合わせてより広い領域の物体を検出することを可能とした物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両周辺の障害物や先行車両等をレーダを用いて検出するシステムが知られている。また、レーダと画像認識装置を組み合わせて障害物等の検出を行うシステムも知られている。こうしたレーダと画像認識装置の組み合わせや複数のレーダの組み合わせにより障害物を認識するシステムにおいては、それぞれの検出装置における検出結果を融合処理する際に、同一物体か否かを判定する処理を行う必要がある。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、レーダと画像認識装置により物体を検出するシステムにおける検出結果の融合処理に関するものであり、レーダと画像認識装置により、検出した物体までの距離、相対速度、方向が同一であると判定した場合に、同一物体であると判定するものである。
【特許文献1】特開2003−168197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、他車両を検出する場合を考えると、画像認識装置では、取得画像中の車両像を認識して、その位置を検出するため、車両が占める領域を含めて検出することができる。これに対して、レーダの場合には、他車両から返ってきた反射波に基づいて認識を行っているため、車両の部分位置を認識できるだけであり、その部分位置も他車両と自車両との位置関係によって変動する。このため、複数のレーダを用いて同一の他車両を検出しようとした場合に、当該他車両の別の部分位置を検出することがあり、検出した位置や移動方向に差異が生じ得る。上記、特許文献1の技術によれば、このような場合に同一物体ではないと判定してしまう可能性がある。
【0005】
このように本来は同一の物体を他物体と認識すると、例えば、他物体を追跡して制御を行っている場合に、追跡相手を見失うことで、制御の遅れが発生したり、本来行われるべき制御が行われなかったり、逆に本来行われるべきでない制御が行われる事態が発生する。さらに、検出領域が相互に重なり合う領域で一方のレーダのみからしか出力が得られていないことから、誤検出と判定してしまい、本来存在する障害物を見逃してしまうという可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、複数のレーダにより物体を検出する物体検出装置において、検出結果を融合する際の同一物体判定や位置情報の取得精度を向上させた物体検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかる物体検出装置は、送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第1検出手段と、この第1検出手段と検出領域の一部が重なり合うように配置され、送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第2検出手段と、第1または第2検出手段の一方で検出した物体位置に基づいて当該物体の進路に範囲を設定し、この範囲内に第1または第2検出手段の他方で検出した物体位置が含まれる場合に、第1検出手段で検出した物体と第2検出手段で検出した物体とが同一物体であると判定する同一物判定手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
第1検出手段と、第2検出手段は、いずれも送信波を物体に送出して、物体からの反射波を検出することにより物体の存否およびその位置、速度等を検出するレーダである。検出領域の一部を重ね合わせた複数のレーダの検出結果を融合する場合に特に問題となるのは、一方の検出手段の検出領域から他方の検出手段の検出領域へと移動中の対象物である。例えば第1検出手段の検出領域から第2検出手段の検出領域へと移動している対象物を考えると、この対象物は、当初は第1検出手段のみによって検出されるが、その一部が第2検出手段の検出領域に進入すると、第1および第2の検出手段双方によって検出される。そして、対象物の全体が第1検出手段の検出領域から抜け出すまでは、この状態が継続し、抜け出した時点以降は第2検出手段のみにより検出される。このように、対象物が第1検出手段の検出領域と第2検出手段の検出領域にまたがるように位置している場合、第1検出手段と第2検出手段で検出可能な対象物の部位が異なること等により、別々の場所を検知してしまう可能性があり、これにより検出した対象物の位置等に差異が生ずる。
【0009】
本発明にかかる物体検出装置においては、対象物を先に継続して検出していた物体の位置情報等に基づいて物体の推定移動方向を判定する。一方の検出手段で継続的に検出している場合には、非検出対象物の特定部位を継続的に検出しており、移動方向情報も精度良く判定していると考えられる。この推定移動方向に基づいて設定した所定の範囲内に他方の検出手段による検出位置が含まれる場合に同一物体であると判定することで、検出位置が離れている場合でも精度良く検出位置のペアリングを行う。
【0010】
ここで、物体位置に基づいて当該物体の進路に設定する範囲は、検出領域の他方の検出手段側の境界位置近傍において、物体の推定移動軌跡から所定幅以内の領域であるとよい。
【0011】
自検出手段で継続的に検出していた物体が他方の検出手段の検出領域に進入を始めた段階では、当該物体の全体が自検出手段の検出エリアにとどまっていると考えられ、推定移動軌跡の信頼性も高い。他方の検出手段においてその検出領域内に推定移動軌跡から所定の幅以内の境界領域から進入してきたかのように検出された物体を当該推定軌跡上を移動中の物体と判定する。
【0012】
また、本発明にかかる物体検出装置は、送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第1検出手段と、この第1検出手段と検出領域の一部が重なり合うように配置され、送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第2検出手段と、第1検出手段と第2検出手段の検出結果のペアリングを行うペアリング手段と、ペアリング手段により、ペアリングした物体位置のうち、自検出手段の境界位置からの距離が遠い側の物体位置を物体位置として選択する選択手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
融合の際にペアリングした物体位置が略同一ではなく、離隔している場合に、物体検出位置としていずれを採用するかが問題となる。本発明にかかる物体検出装置においては、ペアリングした物体位置のうち、自検出手段の境界位置からの距離が遠い側の物体位置を物体位置として選択する。自検出手段の境界位置からの距離が遠い場合ほど、対象となる物体の多くの部分がその検出領域内に位置していると見られ、位置精度が高くなる。一方、境界位置近くで検出している場合には、対象となる物体の大部分が検出領域外に位置している可能性があり、このような場合には、物体の検出部位が変動している可能性があるからである。
【0014】
第1検出手段および第2検出手段は、物体からの反射波のうち反射強度の最も強い位置を物体位置として出力するものである。車両の場合は、通常、側面の場合はタイヤハウス、前部、後部の場合にはナンバープレートからの反射が最も強くなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数のレーダで物体を検出する場合に、それぞれのレーダでの検出位置が離れていた場合でも適切にペアリングを行うことができる。このため、物体があるレーダの検出領域から他のレーダの検出領域へと移動している場合に物体を適切に追跡することができるので、検出結果を用いた各種の制御や処理においても制御や処理の精度が向上する。
【0016】
物体が検出領域へと進入してくる際に、物体における検出部位の変動に伴い、当該物体が検出領域の境界付近であたかも停止しているかのような挙動を示す場合がある。進入時の判定を推定移動軌跡に基づいて行うことで、この種の滞留を判別することができ、正確な物体位置、移動状態の判定が行える。
【0017】
ペアリングした物体位置のうち、自検出領域中で他の物体の検出領域側の境界位置から遠い側の位置を物体位置として選択することで、特定の部位の追跡が容易になる。
【0018】
物体からの反射波のうち反射強度が最も強い位置を物体位置とすることで、処理が容易になるほか、ノイズとの判別が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明にかかる物体検出装置の概略構成を示すブロック図である。この物体検出装置は、車両に搭載され、複数のレーダにより車両周囲の障害物等を検出するものである。図1には、簡略化のためレーダA10と、レーダB11として2つのみを示しているが、2個以上のレーダを配置してもよい。図2は、車両3へのレーダ10〜15の搭載例およびそれらの検出領域を示している。
【0021】
レーダA10、レーダB11の各出力は、データ処理部2へと送られる。このデータ処理部2は、CPU、ROM、RAM等によって構成されており、レーダA10、レーダB11の検出結果から、物体の追跡を行う指標追跡部20と、レーダA10、レーダB11の処理結果を融合するために検出結果の対応を判定する対応判定部21、検出結果を合成する合成部22と、検出結果を出力する出力部23とからなる。各構成要素は、別々のハードウェアによって構成されてもよいが、ハードウェアの一部または全部を共有し、ソフトウェア的にそれぞれの機能を実現してもよい。この場合、各構成要素に応じた機能が実現されれば足り、各構成要素が独立したソフトウェアとなっていることは要しない。また、指標追跡部20は、レーダA10、レーダB11のそれぞれに内蔵されていてもよい。
【0022】
データ処理部2にはさらに、車速を検出する車速センサ31、車両に働くヨーレートを検出するヨーレートセンサ32、車両の現在位置や周囲の地形情報等を取得するナビゲーション装置33等の出力が入力されている。
【0023】
車両3の周囲全周を検出する場合には、例えば、図2に示されるように、車両前方、後方および左右の側方の前方および中央に計6個のレーダ10〜15が配置される。これにより、進路が交錯する他車両40、41や並走車両42、後続車両43等を検知する。図には示していないが、先行車両や自転車、歩行者等、あるいは静止している障害物等も検出対象となる。
【0024】
本発明にかかる物体検出装置による検出結果の融合処理について説明する前に、融合処理にあたって解決すべき問題点について具体的に述べる。ここでは、図3に示されるように車両3の前方に配置されるレーダA10と、左前方に配置されるレーダB11によって、停車中の車両3の前を左方向から右方向へ向かって走行している他車両40を検出する場合を考える。
【0025】
レーダA10は、境界RとLとで挟まれた扇形の領域aを検出領域としている。一方、レーダB11は、境界RとLとで挟まれた扇形の領域aを検出領域としている。領域aと領域aの重複領域は、境界LとRとで挟まれた扇形の領域aABである。
【0026】
ここで、他車両40が左方向から右方向に一定速度で走行している場合のレーダB11により検出した検出点の移動は、図4に示されるようになる。PB0〜PB6は、一定時刻おきの検出点位置を表す。車両40の全体がレーダB11の検出領域a内に位置している場合には、車両40の右前側タイヤハウス付近からの反射波強度が最も強くなるため、検出点PB0〜PB4もほぼ一定間隔で並ぶことになる。この後、車両40が検出領域aの右側境界Rを越えると、検出領域a内に残存する車両40部分からの反射波しか検知できないため、その中で最強の強度となる点は、境界R付近に現れる。この結果、PB4〜PB6は、ほぼ同じ位置に現れ、あたかも物体が境界R付近で滞留しているかのように見える。
【0027】
同じ状況においてレーダA10により検出した検出点の移動は、図5に示されるようになる。図4と同様に、PA0〜PA4は、一定時刻おきの検出点位置を表す。なお、PAiとPBjは、i=jの時に同じ時点を示すものではない。車両40のうち、最初に境界Lを越えて検出領域a内に進入するのは、その左前隅部である。このときの検出点をPA0とする。その後、車両40が進入してくるに連れて反射波強度の強い点は、車両の左前隅部から車両40の前端部を左端から右端方向へと移動し(検出点PA1)、次に、右側面に沿って移動していき、右前側のタイヤハウス付近に達する(検出点PA2)。車両の右前側のタイヤハウス付近までが検出領域a内に進入した以降は、継続的にこのタイヤハウス付近の検出を続けるため、検出点はPA2〜PA4へ示されるように移動していく。つまり、車両40が検出エリアに進入する際に、検出点は、PA0位置に登場した後、境界L上付近を車両3側へと移動し、PA1、PA2付近で一時滞留した後に、右方向へ進行するという挙動を示す。
【0028】
図6は、図4と図5に示される検出点を同じ図上に重ねて示したものである。レーダB11で検出した検出点を黒丸で示し、レーダA10で検出した検出点を黒三角で示している。同じ位置の車両40に対応する検出点の組み合わせは、a−b、c−d、e−f、g−h、i−jである。このうち、位置が近接する組み合わせは、c−dと、g−hのみであり、この2組についてはペアリングが可能であるが、他の3つの組み合わせについては位置が離隔しているため、別物体と判定される可能性がある。本発明にかかる物体検出装置における融合処理は、このような場合でもペアリングを可能とするものである。
【0029】
図7、図8に本実施形態における融合処理のフローチャートを示す。この処理はデータ処理部2により、装置の電源がオンにされてからオフにされるまでの間(物体検出装置自体の作動/不作動を切り替えるスイッチがある場合には、そのスイッチが作動に設定されている間)所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0030】
まず、データ処理部2の指標追跡部20が、レーダA10とレーダB11の出力を取得し(ステップS1)、車速センサ31、ヨーレートセンサ32から車速やヨーレート等の車両状態量を取得する(ステップS2)。また、ナビゲーション装置33から車両の現在位置および道路情報を取得する(ステップS3)。以下、レーダB11で取得した検出点位置をP(1,i)とし、レーダA10で取得した検出点位置をP(2,j)とする。そして、レーダB11で取得した検出点の個数をm、レーダA10で取得した検出点の個数をnとする。
【0031】
次に対応判定部21が、mの個数を判定する(ステップS4)。mが1未満の場合(実際には0の場合)とは、レーダB11では物体を検出していないことを意味する。したがって、レーダA10で検出した検出点に対応するペアは存在し得ないからステップS30へと移行し、検出点が存在する場合(nが1以上の場合)であればP(2,1)〜P(2,n)を全てペアなしと設定して処理を終了する。
【0032】
mが1以上、つまり、レーダB11で物体を検出している場合には、さらに、nの個数を判定する(ステップS5)。nの個数が1未満の場合とは、上述したように実際には0の場合で、レーダA10では物体を検出していないことを意味する。この場合には、レーダB11で検出した検出点のペアとなるレーダA10で検出した検出点は存在し得ないからステップS31へと移行して、レーダB11で検出した検出点の全て、つまり、P(1,1)〜P(1,m)をペアなしと設定し、処理を終了する。nの個数が1以上の場合には、レーダA10、B11ともに物体を検出した場合であるから、ペアの存否を判定し、必要ならペアリングを行うステップS6以降の処理に移る。
【0033】
最初に変数iに初期値0を設定する(ステップS6)。次に、P(1,i)が重複領域aAB内かその近傍に存在するか否かを調べる(ステップS7)。検出点が重複領域aABから十分に離れている場合(例えば、図6において、点aより左側の黒丸位置の検出点の場合)には、物体自体が重複領域aABから遠くにあると推定できる。この場合には、ステップS12へと移行して、P(1,i)をペアなしと設定し、後述するステップS13へと移行する。
【0034】
一方、検出点が重複領域aAB内またはその近傍に存在する場合には、ステップS8へと移行し、指標追跡部20により求めたP(1,i)の予想進路情報を得る。この予想進路情報は、検出点を時間的に追跡することにより得られた移動軌跡を基にしてその進行方向を予測することで得られる。その際に、ドップラーシフト成分から得られた相対速度等の情報を用いると、追跡点数が少ない場合でも精度良く進行方向を予測することができる。
【0035】
次に、得られた進行方向予測データからP(1,i)の進行方向がレーダA10の検出領域a内へと近づく方向か、同領域aから離れる方向かを判定する(ステップS9)。領域aから離れる方向の場合には、ステップS10へと移行してペア保留として、後述するステップS14へと移行する。領域aから離れる方向に移動中の検出点は、領域a内から領域aへ移動してきたものと考えられ、対応する検出点がレーダA10の検出点中にある場合、当該レーダA10の検出点のほうが既に長時間追跡されていると考えられるため、レーダA10側の検出点により検出を行うことが精度の点からも好ましいからである。
【0036】
一方、進行方向がレーダA10の検出領域a内へと近づく方向にある場合には、さらに、判定した進路上でP(1,i)と相対速度が一致するP(2,j)を探索する(ステップS11)。この進路は線ではなく、所定の幅を有する領域として設定される。例えば、図9に示される例では、進路は、Y座標がYth1〜Yth2の領域として設定される。一致するP(2,j)が見つかった場合には、ステップS12へと移行して、当該P(1,i)とP(2,j)とをペアリングする。一方、一致するP(2,j)が見つからなかった場合には、P(1,i)をペアなしと設定する(ステップS13)。
【0037】
ステップS10、S12、S13のいずれかの終了後は、ステップS14へと移行し、変数iとmとを比較する。変数iがm未満の場合には、P(1,i)の全てのペアリング判定を終了していないからiに1を加算し(ステップS15)、ステップS7へと戻り、S14までの処理を繰り返すことで、全てのP(1,i)について判定処理を行う。
【0038】
ステップS14で、変数iがm以上と判定した場合には、ステップS16へと移行し、変数jに初期値1を設定する。続いて、P(2,j)のペアリングが既に済んでいるか否かを判定する(ステップS17)。ペアリングが既に済んでいる場合には、ペアリング判定を行う必要がないので、後述するステップS25に移行する。一方ペアリング未了である場合には、P(2,j)の進路を予測し(ステップS18)、レーダB11の検出領域a内へと近づく方向か、同領域aから離れる方向かを判定する(ステップS19)。
【0039】
領域aから離れる方向の場合は、さらに重複領域aAB内に位置しているか否かを判定する(ステップS20)。重複領域aAB内に位置している場合、通常なら、レーダB11の検出領域a内に対応点が存在するはずであり、前述したステップS8→S9→S11→S12の処理によってペアリングされているはずである。にもかかわらず、ペアリングされていないことから、図6におけるb点のように、物体位置を正しく検出していない場合であると考えられる。そのため、検出点として無視すべきデータであると設定する(ステップS22)。一方、重複領域aAB外に位置している場合には、ステップS21へと移行して、ペアなしと設定する。
【0040】
一方、進行方向がレーダB11の検出領域a内へと近づく方向にある場合には、さらに、判定した進路(この進路は線ではなく、所定の幅を有する領域として設定される。)上でP(2,j)と相対速度が一致するP(1,i)を探索する(ステップS23)。一致するP(1,i)が見つかった場合には、ステップS24へと移行して、当該P(1,i)とP(2,j)とをペアリングする。一方、一致するP(1,i)が見つからなかった場合には、ステップS21へと移行し、P(1,i)をペアなしと設定する。
【0041】
ステップS17でペアリング済みと判定された場合、およびステップS21、S22、S24の終了後は、ステップS25へと移行し、変数jとnとを比較する。変数jがn未満の場合には、P(2,j)の全てのペアリング判定を終了していないからjに1を加算し(ステップS26)、ステップS17へと戻り、S25までの処理を繰り返すことで、全てのP(2,j)について判定処理を行う。jがn以上の場合は、ペアリング判定を終了したことを意味するから、ステップS27へと移行する。
【0042】
ステップS27では、ペア保留のP(1,i)を探索し、それが重複領域aAB内に位置している場合には、無視すべきデータである旨を設定し、重複領域aAB外に位置している場合には、ペアなしである旨を設定し、処理を終了する。
【0043】
ペアリングに際して、位置と速度が略合致する場合のみにペアリングを行うのではなく、追跡した側の進路で相対速度の略合致する場合にペアリングを行うことで、図6に示されるc−d、e−f、i−jについてもペアリングを行うことが可能となる。このため、検出領域を越えて物体が移動する場合に、その追跡を確実に行うことができ、物体を見失うロストの発生を抑制することができる。このため、追跡に基づいた各種の制御を安定して迅速に行うことができるという利点がある。
【0044】
本実施形態においては、離れた位置の検出点同士をペアリングすることが可能となる。一方で、略同一位置のみペアリングした場合と異なり、ペアリングした検出点位置=物体の代表位置とはならないので、検出点位置に基づいて物体の代表位置を設定する必要がある。図10は、このように検出点位置から物体位置を算出する際の処理フローチャートである。
【0045】
まず、ペアデータ間の距離を所定値(しきい値)と比較する(ステップS41)。距離が所定値を上回っている場合には、ステップS42へと移行し、自レーダの境界から離れているデータ位置を物体位置に設定する。具体的な例を図9におけるi−jにより説明する。点iはレーダB11で検出された点であるから、レーダB11のレーダA10側の境界線Rからi点までの距離dが自レーダの境界からの距離として設定される。一方、点jはレーダA10で検出された点であるから、レーダA10のレーダB11側の境界線Lからj点までの距離dが自レーダの境界からの距離として設定される。d>dであるから、j点が物体位置として設定される。
【0046】
一方、ペアデータ間の距離が所定値を下回っている場合には、ステップS43へと移行し、ペアデータの中間位置を物体位置に設定する。図9に示される例では、c−d、g−hの組み合わせが挙げられる。
【0047】
ここでは、物体位置を1カ所に特定する例で説明したが、ペアデータ間の距離が所定値を超えている場合には、自レーダの相手レーダ側境界位置からの距離が所定距離以内のデータを除外する選別処理を行うようにしてもよい。図11は、図6、図9に示されるペアデータからこの選別処理により選ばれたデータを示したものである。図9におけるペアリングされたデータ中でさらにe、f、i点が除去される。図11においては、選別した点、a、c−d、g−h、jはほぼ等間隔に並んでおり、検出点の滞留なくして精度良く追跡が可能となる。また、対象物の移動に伴い、レーダB11のみにより検出している状態(a点)から、レーダA10とレーダB11の双方で検出している状態(c−d点、g−h点)を経て、レーダA10のみで検出している状態(j点)へと移行するので、領域を超えて移動する物体の情報引継を確実に行うことができる。
【0048】
ここでは、ペアリングを行う際に、追跡されている検出点の予想進路上に他のレーダで検出した検出点がある場合にペアリングする例を説明してきたが、ペアリングの手法はこれに限られるものではない。図9において、レーダB11の検出領域a内からレーダA10の検出領域aへと対象物が移動する場合、レーダA10による検出点は、最初は検出領域a側の境界線L近傍に出現する。あたかも境界線Lから進入してきたようなデータとして出現する。そこで、境界線Lに近い領域でレーダB11の検出結果から定めた進路から定めた所定幅の領域内に出現した検出点を対応点とすればよい。当該領域から離れた点については当該領域からの追跡処理により対応する。図9においては、Yth1〜Yth2の幅のある領域のうちLに近い領域に出現した検出点(d点)がある場合にペアリングを行い、その移動を追跡する。これによっても検出領域を越えて移動してくる物体を精度良く追跡することができる。
【0049】
以下、追跡結果の利用について具体例のいくつかを説明する。図12は、十字交差点6における接近車両の検出を説明する図である。自車両3は、道路60の交差点6の手前で停車中であり、交差する道路61上を左から他車両40が接近している。この接近車両を検出する場合、本実施形態の物体検出装置によれば、レーダ11による検出領域aからレーダ10による検出領域aへと車両40が移動する際に、確実に追跡を行うことができる。このため、重複領域aAB付近で接近車両40をロストすることがない。
【0050】
車両40の接近を運転者に警報したり、衝突を回避する制御を行う場合、誤警報や誤制御を予防するため、障害物等を一定時間連続して検出していることを制御開始の条件としている。本実施形態を用いた制御では、重複領域aABを越える際も連続して車両40を検出しているため、重複領域aAB内およびその近傍の障害物に対しても反応が遅れることがなくなり、安全性・制御性が向上する。
【0051】
図13は、複数のカメラで撮像した画像上にレーダで検出した検出点を重ね合わせて表示する表示装置の画像例である。ここでは、画像内の車両にレーダの検出結果を従事せんで重ねて示している。中央の黒い部分は、カメラの死角となっている領域である。例えば、死角領域とレーダの重複領域が重なり合っている場合、重複領域でのペアリングがうまくできないと、死角部分で物体(車両)の追跡が行えない。これに対して、本実施形態ではペアリングの精度が向上しているので、死角領域においても車両を追跡することができ、安全性が向上する。
【0052】
さらに、後方から接近する他車両42や側方を後から通過する自転車45(図14参照)や後退中に進路上に飛び出してきた歩行者46(図15参照)、自車両3を追い抜く他車両42a→42b(図16参照)についても、重複領域を通過する際に対象物をロストすることがないので、迅速に各種の制御を開始することができる。
【0053】
また、レーダを配置する際に、隣接するレーダ間で過度に重複領域を設ける必要がなくなり、また、制御対象に応じてレーダの中心位置を厳密に設定する必要がなくなるので、広域でないレーダを用いる場合でもその個数を減らすことができるとともに、レーダの配置の自由度が増すという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる物体検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】車両3へのレーダ10〜15の搭載例およびそれらの検知領域を示す図である。
【図3】車両3の前方に配置されるレーダA10と、左前方に配置されるレーダB11の検知領域の位置関係を示す図である。
【図4】他車両40が左方向から右方向に一定速度で走行している場合のレーダB11により検出した検出点の移動状況を説明する図である。
【図5】図4と同じ場合のレーダA10により検出した検出点の移動状況を説明する図である。
【図6】図4と図5に示される検出点を同じ図上に重ねて示したものである。
【図7】図1の装置における融合処理の一例を示すフローチャートの前半部である。
【図8】図1の装置における融合処理の一例を示すフローチャートの後半部である。
【図9】ペアリング手法を説明する図である。
【図10】検出点位置から物体位置を算出する際の処理フローチャートである。
【図11】ペアデータから図10の選別処理により選ばれたデータを示したものである。
【図12】十字交差点6における接近車両の検出を説明する図である。
【図13】死角表示カメラの画像例を示す。
【図14】並走車両等との位置関係を示す図である。
【図15】後退時の進路上に飛び出してきた歩行者との位置関係を示す図である。
【図16】追い抜き車両との位置関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
2…データ処理部、3…自車両、10〜15…レーダ、6…十字交差点、20…指標追跡部、21…対応判定部、22…合成部、23…出力部、31…車速センサ、32…ヨーレートセンサ、33…ナビゲーション装置、40〜43…他車両、45…自転車、46…歩行者、60、61…道路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第1検出手段と、
前記第1検出手段と検出領域の一部が重なり合うように配置され、送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第2検出手段と、
前記第1または第2検出手段の一方で検出した物体位置に基づいて当該物体の進路に範囲を設定し、該範囲内に前記第1または第2検出手段の他方で検出した物体位置が含まれる場合に、前記第1検出手段で検出した物体と前記第2検出手段で検出した物体とが同一物体であると判定する同一物判定手段と、
を備えていることを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】
前記物体位置に基づいて当該物体の進路に設定する範囲は、検出領域の他方の検出手段側の境界位置近傍において、前記物体の推定移動軌跡から所定幅以内の領域であることを特徴とする請求項1記載の物体検出装置。
【請求項3】
送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第1検出手段と、
前記第1検出手段と検出領域の一部が重なり合うように配置され、送出した送信波の物体からの反射波を受信することで当該物体の位置を検出する第2検出手段と、
第1検出手段と第2検出手段の検出結果のペアリングを行うペアリング手段と、
前記ペアリング手段により、ペアリングした物体位置のうち、自検出手段の他方の検出領域側の境界からの距離が遠い側の物体位置を物体位置として選択する選択手段と、
を備えていることを特徴とする物体検出装置。
【請求項4】
前記第1検出手段および前記第2検出手段は、物体からの反射波のうち反射強度の最も強い位置を物体位置として出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の物体検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2007−232594(P2007−232594A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55399(P2006−55399)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】