説明

物理蒸着装置および物理蒸着方法

【課題】プラズマやアーク放電などで加熱しても微粒子となり難い物質を成膜させる物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供する。
【解決手段】内部に蒸発源材料15と蒸発源材料15を加熱させる加熱部16とを備える蒸発チャンバー10と、内部に粉体を備える粉体供給源20と、成膜チャンバー30とを有し、蒸発源材料15を加熱部16により加熱し、微粒子(ナノ粒子)を発生させ、微粒子と粉体とを超音速ノズル35から噴出させ超音速ガス流に乗せ、成膜対象基板33に物理蒸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物理蒸着装置に関し、特に蒸発源材料から蒸発させた原子により生成させた微粒子と粉体を混合させて、成膜対象基板に堆積させる物理蒸着装置およびその物理蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コーティング技術の重要性が急速に高まってきており、種々のコーティング法が開発されている。
しかし、数10〜数100μm程度の膜厚の高密度なコーティング膜を低温で施工することが可能なコーティング法は知られていなかった。
【0003】
非特許文献1および非特許文献2は、超音速フリージェット(Supersonic Free Jet:SFJ)物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)装置について開示している。
このSFJ−PVD装置は、蒸発チャンバーと成膜チャンバーを備える。
蒸発チャンバー内には、水冷されたハース上に設置した蒸発源材料と、高融点金属(具体的にはタングステン)製の電極が備えられており、一度蒸発チャンバー内を所定の圧力に減圧した後、所定のガス雰囲気に置換して、蒸発源材料をアノード(陽極)とし、アノードと一定間隔離れた位置にある高電導性金属製電極をカソード(陰極)とし、それぞれ負電圧と正電圧を印加して両極間にアーク放電を生起させる移行式アークプラズマによって、蒸発源材料が加熱されて蒸発する。所定のガス雰囲気とした蒸発チャンバー内では、蒸発源材料の加熱により蒸発した原子は互いに凝集しナノメートルオーダーの直径の微粒子(以下ナノ粒子と称する)が得られる。
【0004】
得られたナノ粒子は蒸発チャンバーと成膜チャンバー間の差圧(真空度差)により生起するガス流に乗って移送管を通して成膜チャンバーへと移送される。成膜チャンバー内には、成膜対象基板が設置されている。
差圧によるガス流は、蒸発チャンバーから成膜チャンバーへと接続する移送管の先端に取り付けられた特別に設計された超音速ノズル(ラバールノズル)によりマッハ数3.6程度の超音速にまで加速され、ナノ粒子は超音速フリージェットの気流に乗って高速に加速されて成膜チャンバー中に噴出し、成膜対象基板上に堆積する。
【0005】
上記のSFJ−PVD装置を用いることにより、数10〜数100μm程度の膜厚の高密度なコーティング膜を低温で施工することが可能となっている。
【0006】
ここで成膜対象物表面に成膜する目的は、成膜対象物表面の保護、成膜対象物を絶縁させる等であり、成膜させる材料の特性は、耐熱性に優れ、化学的に安定であり、堅固であることが望まれている。
したがって、成膜対象物表面に成膜させる膜の上記特性を向上させるため、例えば特許文献1に記載されている2つの蒸発チャンバーにおいて第1微粒子と第2微粒子を生成し、これらを非特許文献3に記載の同軸対向衝突噴流の発振現象を利用して混合し、超音速ガス流に乗せて基板上に物理蒸着させる物理蒸着装置が知られている。
【特許文献1】特開2006−111921号公報
【非特許文献1】A. Yumoto, F. Hiroki, I. Shiota, N. Niwa, Surface and Coatings Technology, 169-170, 2003, 499-503
【非特許文献2】湯本敦史、廣木富士男、塩田一路、丹羽直毅:超音速フリージェットPVDによるTiおよびAl膜の形成、日本金属学会誌、第65巻、第7号(2001)pp635−643
【非特許文献3】山本圭治郎、野本明、川島忠雄、中土宣明:同軸対向衝突噴流の発振現象、油圧と空気圧(1975)pp68−77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、耐熱性に優れ、化学的に安定な材料は、蒸発し難いことから蒸着法による成膜が他の材料に比べ困難であった。
例えば、セラミックスのように耐熱性のある物質は、プラズマやアーク放電などで加熱しても微粒子となり難く、プラズマやアーク放電などでこのような物質を成膜さるのは他の材料に比べ困難である。また、セラミックスは、基板上に薄膜として形成された場合には基板への密着力が弱くて剥がれやすく、もろくて壊れやすいという性質があり、安定した膜を形成することができなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、プラズマやアーク放電などで加熱しても微粒子となり難い物質を成膜させる物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供することにある。
さらに、単体で成膜した場合、脆性を呈する材料を他の材料と混合させて成膜させる物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供することにある。
さらに、複数の材料を混合させて成膜させる場合に、複数の真空容器、加熱装置を用いずに成膜させることができるため、安価な物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の物理蒸着装置は、内部に蒸発源材料と、蒸発源材料を加熱させる加熱部を備え、所定のガス雰囲気下あるいは大気下において前記加熱部により前記蒸発源材料を加熱して蒸発させ、蒸発した原子から微粒子を生成する蒸発チャンバーと、内部に粉体を備える粉体供給源と、内部に前記蒸発チャンバーから前記微粒子を含むガスを移送し、前記粉体供給源から前記粉体を含むガスを移送する経路となる移送管に接続され、前記微粒子および前記粉体とを混合させる混合部と、前記混合部に接続された超音速ノズルと、成膜対象基板とを備え、前記蒸発チャンバーおよび前記粉体供給源とから移送された前記微粒子および前記粉体を前記超音速ノズルが生み出す超音速ガス流に乗せ、前記成膜対象基板に前記微粒子および前記粉体とを物理蒸着させる成膜チャンバーとを有する。
【0010】
上記の本発明の物理蒸着装置は、好適には、前記微粒子として金属からなる微粒子を用い、前記粉体としてセラミックスからなる粉体を用いる。
【0011】
また、上記の本発明の物理蒸着方法は、蒸発チャンバーにおいて、蒸発源材料を蒸発させる加熱部により前記蒸発源材料を所定のガス雰囲気下あるいは大気下において加熱して蒸発させ、蒸発した原子から微粒子を生成させる生成工程と、前記蒸発チャンバーから前記微粒子と、粉体供給源から粉体とを混合部に移送させ、前記混合部において、前記微粒子と前記粉体とを混合させる混合工程と、混合させた前記微粒子と前記粉体とを前記混合部に接続されている超音速ノズルが生み出す超音速ガス流に乗せて、成膜対象基板に物理蒸着させ、前記微粒子と前記粉体とを含む膜を成膜させる成膜工程とを含む。
【0012】
上記の本発明の物理蒸着方法は、好適には、前記微粒子として金属からなる微粒子を用い、前記粉体としてセラミックスからなる粉体を用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラズマやアーク放電などで加熱しても微粒子となり難い物質を成膜させる物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、単体で成膜した場合、脆性を呈する物質を他の物質と混合させて成膜させる物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、複数の材料を混合させて成膜させる場合に、複数の真空容器、加熱装置を用いずに成膜させることができ、安価な物理蒸着装置および物理蒸着方法を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る物理蒸着装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本実施形態に係る物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)装置の模式構成図である。
本実施形態のPVD装置は、蒸発チャンバー10、粉体供給源20および成膜用の真空チャンバーである成膜チャンバー30を備える。
【0016】
蒸発チャンバー10には真空ポンプVP1に接続した排気管11が設けられており、真空ポンプVP1の作動により第1蒸発チャンバー10内が排気され、例えば10-10Torr程度の超高真空雰囲気とされる。さらに、蒸発チャンバー10にマスフローコントローラ12を介して設けられたガス供給源13から、必要に応じて、HeあるいはN2などの雰囲気ガスが蒸発チャンバー10内に所定の流量で供給される。あるいは大気雰囲気としてもよい。
【0017】
蒸発チャンバー10内には、水冷された銅製のるつぼ14が設けられ、この中に蒸発源材料15が入れられている。蒸発源材料15の近傍には、蒸発源材料15を加熱させる加熱部16が設けられており、加熱部16により蒸発源材料15が加熱されて蒸発し、蒸発源材料15から蒸発した原子からナノメートルオーダーの直径の微粒子(以下、ナノ粒子とも称する)が得られる。
得られたナノ粒子は、蒸発チャンバー10内の雰囲気ガスとともに移送管17を通して成膜チャンバー30へと移送される。
【0018】
粉体供給源20内には、粉体状の材料(以下、粉体とも称する)が収容されている。粉体供給源20を構成する容器内の圧力は、特に限定されないが、操作性の面から大気雰囲気であることが好ましい。
上記の粉体は市販されている粉体材料を用いることができ、粉体の粒子径は、例えば、数10μm以下、好ましくは例えば5〜10μm程度である。
そして、例えば粉体供給源20の容器を振動させるなどして、容器内で粉体を巻きあがらせ、巻きあがった粉体が、容器内の雰囲気ガスとともに移送管27を通して成膜チャンバー30へと移送させる。
【0019】
成膜チャンバー30には真空ポンプVP3に接続した排気管31が設けられており、真空ポンプVP3の作動により成膜チャンバー30内が排気され、例えば10-10Torr程度の超高真空雰囲気とされる。
成膜チャンバー30内には、X−Y方向に駆動するステージ32が設けられ、このステージ32に成膜対象基板33が固定される。
成膜対象基板としては、特に限定はないが、例えば、純チタン板(JISグレード1)、A1050アルミニウム合金板、SUS304ステンレススチール板などを用いることができる。成膜対象基板は、成膜チャンバーにセットする前にアセトン中で超音波洗浄してから用いることが好ましい。
【0020】
蒸発チャンバー10からの移送管17の先端と、粉体供給源20からの移送管27の先端との合流部に混合部34が設けられており、混合部34の中央部から延びるように超音速ノズル35(ラバールノズル)が設けられている。各移送管(17,27)の混合部34側の外周には、不図示のコイルヒーターが設けられて加熱可能となっていてもよい。
【0021】
上記の蒸発チャンバー10においてナノ粒子が生成され、粉体供給源20内に粉体を設置させ、成膜チャンバー30内を真空ポンプVP3の作動により減圧させると、蒸発チャンバー10および粉体供給源20と、成膜チャンバー30の間の圧力差によりガスの流れが生じ、ナノ粒子および粉体は雰囲気ガスとともに移送管を通して成膜チャンバー30へと移送される。
ナノ粒子を含む第1流体と粉体を含む第2流体とが、混合部34において混合され、混合部34の中央部に取り付けられた超音速ノズル(ラバーノズル)35から超音速ガス流(超音速フリージェットの気流)として成膜チャンバー30中の成膜対象基板33に向けて噴出する。
超音速ノズル35は、1次元もしくは2次元の圧縮性流体力学理論を基にガスの種類と組成および成膜チャンバーの排気能力に応じて設計されており、移送管の先端に接続され、あるいは移送管の先端部分と一体に形成されている。具体的には、ノズル内部径が変化している縮小―拡大管であり、蒸発チャンバーと成膜チャンバー間の差圧により生起するガス流を、例えばマッハ数1.2以上の超音速まで高めることができる。
ナノ粒子と粉体は、例えば、超音速ノズル35によってマッハ数3.6程度の超音速にまで加速され、超音速ガス流に乗って成膜チャンバー30中の成膜対象基板33に向けて噴出し、成膜対象基板33上に堆積(物理蒸着)する。
【0022】
次に、蒸発源材料15を加熱する加熱部16について説明する。
図2は、本実施形態に係る物理蒸着装置を構成するアークトーチを示す図である。
本実施形態において加熱部16は、アークトーチ50を用い、蒸発源材料15を蒸発させる。
図2に示すように、アークトーチ50は先端部に、トーチ電極51を有しており、図示しないトーチ電極ホルダを有していてもよい。トーチ電極51は、例えばタングステンまたはステンレスなどの金属を用いることができる。また、トーチ電極51に流す電流は、直流電流、直流パルス電流、交流電流、交流パルス電流などであり、好ましくは直流電流である。
【0023】
そして、蒸発源材料15をアノードとし、トーチ電極51をカソードとし、両電極に例えば直流電流を流し、放電させ、発生したアークにより蒸発源材料15が加熱されて蒸発し、蒸発源材料15から蒸発した原子からナノメートルオーダーの直径の微粒子(以下、ナノ粒子とも称する)が得られる。
本実施形態において、加熱部16として、アークトーチ50を説明したが、これには限定されず、例えばプラズマトーチを用いてプラズマを発生させることにより、蒸発源材料15を加熱してもよい。また、その他、蒸発源材料15を加熱させ蒸発させることができる加熱装置を用いてもよい。
【0024】
次に、混合部34について説明する。
【0025】
混合部34は、移送管17と移送管27のそれぞれと結合しており、混合部34において、移送管17から移移送されるナノ粒子を含む第1流体と移送管27から移送される粉体を含む第2流体とが混合される。
混合部34は、第1流体と第2流体とが均一に混合することができる混合装置であればよく、構造は特に限定されない。例えば、図3に示す同軸対向衝突噴流の発振現象を利用して混合させる混合装置であってもよい。
【0026】
図3において、略矩形形状の第1噴き出し口71が設けられた円盤状の第1混合ノズル70と、同じく略矩形形状の第2噴き出し口81が設けられた円盤状の第2混合ノズル80とが、一対の仕切り板(90,91)で架橋するように接続されている。
第1噴き出し口71と第2噴き出し口81の間の空間が、第1流体の第1噴流と第2流体の第2噴流を混合させる混合領域MRとなる。
【0027】
第1混合ノズル70、第2混合ノズル80および一対の仕切り板(90,91)は、例えば一体に形成されており、例えば真鍮やステンレスなどの材料から、NC付きワイヤーカット放電加工装置などを用いて形成されている。あるいは、例えば各部分毎に形成されたものが組み立てられていてもよい。
【0028】
第1噴き出し口71と第2噴き出し口81の形状は、例えば短辺の長さが〜数mm程度であり、長辺の長さが数〜十数mm程度であり、短辺の長さと長辺の長さのアスペクト比が4〜6となっていることが好ましい。
また、第1混合ノズル70の第1噴き出し口71と第2混合ノズル80の第2噴き出し口81の間のノズル間距離は、例えば第1噴き出し口71および第2噴き出し口81の略矩形形状の短辺の長さの4〜35倍の距離であることが好ましい。
例えば、第1噴き出し口71および第2噴き出し口81の略矩形形状の短辺の長さが1mm程度、長辺の長さが4mm程度、アスペクト比が4、ノズル間距離が16mmである。
【0029】
また、一対の仕切り板(90,91)の間の距離は、第1噴き出し口71および第2噴き出し口81の略矩形形状の長辺の長さと略等しく設けられている。
【0030】
例えば、第1混合ノズル70の混合領域MRと反対側に面に、第1流体供給管T1を接続し、一方、第2混合ノズル80の混合領域MRと反対側に面に、第2流体供給管T2を接続する。
ここで、第1流体供給管T1からナノ粒子を含む第1流体を供給し、第2流体供給管T2から粉体を含む第2流体を供給する。第1流体は第1噴流72となって第1噴き出し口71から混合領域MRへと噴き出し、また、第2流体は第2噴流82となって第2噴き出し口81から混合領域MRへと噴き出し、同軸対向衝突噴流の発振現象により、第1流体と第2流体が混合領域MRで混合する。
混合領域MRに臨む開口部(92,93)から混合領域MRの外部へと、混合した流体(94,95)が流れだし、さらに例えば合流した流体96として、超音速ノズルへと流れていく。
【0031】
ここで、第1流体供給管T1および第2流体供給管T2で供給する流体の圧力と、各流体を噴き出す前の混合領域の圧力としては、例えば、第1流体供給管T1および第2流体供給管T2で供給する流体の圧力を60〜90kPa、各流体を噴き出す前の混合領域の圧力を0.5〜2kPaとし、噴き出し口の上流と下流における圧力比を例えば45程度に設定する。
上記の第1流体と第2流体の混合の状況は、例えば、混合部の混合領域における圧力の振動を観測することで、確認することが可能である。
【0032】
混合部34は、同軸対向衝突噴流の発振現象を利用した混合装置に限定されず、ナノ粒子と粉体とを均一に混合させることができる混合装置であればよく、例えば、Y字型流体混合装置などの外部からの電気エネルギーを用いて、流体の取り出し口への流入を機械的に制御させる混合装置でもよい。
【0033】
以下より、本発明にかかる本実施形態における物理蒸着方法について説明する。
【0034】
図4は、本発明にかかる本実施形態における物理蒸着方法のフローである。
【0035】
蒸発源材料から微粒子(ナノ粒子)を生成する(ST10)。
蒸発チャンバー10内にるつぼ14が設けられ、この中に蒸発源材料15が入れられている。そして、蒸発源材料15の近傍には、加熱部16であるアークトーチが設けられている。このるつぼ14をアノード電極、アークトーチをカソード電極とし、直流電流を流すことにより両電極間での放電によりアークが発生し、その熱により蒸発源材料15を蒸発させる。蒸発源材料15が蒸発することにより蒸発源材料15が原子となり、この原子からナノ粒子が生成される。
【0036】
微粒子(ナノ粒子)と粉体とを混合させる(ST20)。
次に、ステップST10により生成されたナノ粒子は蒸発チャンバー内から移送管17を通り混合部34に移送される。また、粉体供給源20内には、粉体が収容されており、例えば、粉体供給源20の容器を振動させるなどして、容器内に粉体を巻きあがらせる。 そして、巻きあがった粉体は、移送管27を通り、混合部34に移送される。
そして、混合部34に移送されたナノ粒子と粉体が、混合部34内で混合される。
【0037】
成膜対象基板に微粒子(ナノ粒子)と粉体とを混合させる(ST30)。
次に、ナノ粒子と粉体とが混合しているガスを、混合部34で混合されたナノ粒子と粉体とを混合部34の中央部に設けられている超音速ノズル35から成膜チャンバー30内に噴出させる。このとき成膜チャンバー30内が超高真空雰囲気であるため、混合部34と成膜チャンバー30との圧力差により、超音速ノズル35から噴出する。噴出されたガスは成膜対象基板33に衝突し、ナノ粒子と粉体とが成膜対象基板33に成膜される。
【0038】
次に、本実施形態における物理蒸着装置および物理蒸着方法により製造される分散膜について説明する。
図5は、本実施形態における物理蒸着装置および物理蒸着方法により製造した分散膜の断面を示す断面図である。
図5に示すように、本実施形態における物理蒸着装置により製造された分散膜は、粉体状の材料である粉体100とバインダーとしての役割を呈する微粒子の材料からなる微粒子材料膜101とから構成される。
【0039】
本実施形態において、蒸発源材料15から生成される微粒子として、例えば、金属を用いることができ、粉体状の材料として、例えば、セラミックスを用いることができる。
蒸発源材料15の金属として、例えば、Ti、Al、Cr、Fe、Ni、Cuなどが挙げられ、粉体状材料として、例えば、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、二硫化モリブデン(MoS)、酸化チタン(TiO)、窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
ここで、粉体100がセラミックスの場合単体で成膜すると、膜の強度は高くなるが脆性的な性質を呈する可能性がある。そのため、金属の微粒子と混合して成膜させることにより、金属が結合剤の役割を果たし、セラミックスの強度を有し、脆性的な性質を低下させた膜を成膜することができる。例えば、金属膜中にハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))を分散されてなる分散膜は、金属よりも生体親和性が高く、代替骨として利用することができる。
本実施形態において製造される分散膜について蒸発源材料15から生成される微粒子として金属を用い、粉体状の材料としてセラミックスを用いて説明したが、これには限定されず、本発明における物理蒸着装置を用いて物理蒸着することができる種々の材料を用いて成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は本発明の本実施形態に係る物理蒸着装置の模式構成図である。
【図2】図2は本発明の本実施形態に係る物理蒸着装置を構成するアークトーチを示す図である。
【図3】図3は本発明の本実施形態における同軸対向衝突噴流の発振現象を利用した混合装置の模式図である。
【図4】図4は本発明の本実施形態における物理蒸着方法のフローである。
【図5】図5は本発明の本実施形態における物理蒸着装置により製造した膜の断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10…蒸発チャンバー
11…排気管
12…マスフローコントロール
13…ガス供給源
14…るつぼ
15…蒸発源材料
16…加熱部
17,27…移送管
20…粉体供給源
30…成膜チャンバー
31…排気管
32…ステージ
33…成膜対象基板
34…混合部
35…超音速ノズル
50…アークトーチ
51…トーチ電極
60…結合剤
61…粉体
70…第1混合ノズル
71…第1噴き出し口
72…第1噴流
80…第2混合ノズル
81…第2噴き出し口
82…第2噴流
90、91…仕切り板
92、93…開口部
94、95…混合した
96…合流した流体
100…粉体
101…微粒子材料膜
ARC…アーク
T1…第1流体供給管
T2…第2流体供給管
VP1,VP2,VP3…真空ポンプ
MR…混合領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に蒸発源材料と、蒸発源材料を加熱させる加熱部を備え、所定のガス雰囲気下あるいは大気下において前記加熱部により前記蒸発源材料を加熱して蒸発させ、蒸発した原子から微粒子を生成する蒸発チャンバーと、
内部に粉体を備える粉体供給源と、
内部に前記蒸発チャンバーから前記微粒子を含むガスを移送し、前記粉体供給源から前記粉体を含むガスを移送する経路となる移送管に接続され、前記微粒子および前記粉体とを混合させる混合部と、前記混合部に接続された超音速ノズルと、成膜対象基板とを備え、前記蒸発チャンバーおよび前記粉体供給源とから移送された前記微粒子および前記粉体を前記超音速ノズルが生み出す超音速ガス流に乗せ、前記成膜対象基板に前記微粒子および前記粉体とを物理蒸着させる成膜チャンバーと
を有する、
物理蒸着装置。
【請求項2】
前記微粒子として金属からなる微粒子を用いる、
請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項3】
前記粉体としてはセラミックスからなる粉体を用いる、
請求項1または2に記載の物理蒸着装置。
【請求項4】
蒸発チャンバーにおいて、蒸発源材料を蒸発させる加熱部により前記蒸発源材料を所定のガス雰囲気下あるいは大気下において加熱して蒸発させ、蒸発した原子から微粒子を生成させる生成工程と、
前記蒸発チャンバーから前記微粒子と、粉体供給源から粉体とを混合部に移送させ、前記混合部において、前記微粒子と前記粉体とを混合させる混合工程と、
混合させた前記微粒子と前記粉体とを前記混合部に接続されている超音速ノズルが生み出す超音速ガス流に乗せて、成膜対象基板に物理蒸着させ、前記微粒子と前記粉体とを含む膜を成膜させる成膜工程と
を含む、
物理蒸着方法。
【請求項5】
前記微粒子として金属からなる微粒子を用いる、
請求項4に記載の物理蒸着方法。
【請求項6】
前記粉体としてセラミックスからなる粉体を用いる、
請求項4または5に記載の物理蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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