説明

特に、電池ケースを製造するために使用される、電解被覆された冷延板並びに該冷延板を製造する方法。

その少なくとも片面に電解被覆されたコーティングが付けられており、深絞り及び/又はアイアニングにより特に電池ケースを製造するために用いられる冷延板であって、この電解被覆のコーティングには、2層、即ち、光沢のある固く且つ脆いニッケル層並びに、その上に塗布されたコバルト含有の層を有している。このタイプの冷延板を経済的に製造可能にするため、この冷延板から加工により作られた電池ケースには電解液に対する良好な接触抵抗並びに同じく良好な貯蔵安定性が備えている。このコバルト含有の層は電解槽から光沢剤を添加せずに析出されたつや消しのコバルト層またはつや消しのコバルト合金層であることを開示する。電池ケースと同様に、冷延板の電解被覆方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延された冷延板の少なくとも片方の面に電解被覆されたコーティングが施されており、深絞り法及び/又はアイアニング法によって主に電池のケースを製造するために使用されるその冷延板に関するものであり、この電解被覆コーティングは光沢のある硬く且つ脆いニッケル層並びにその上に塗布されたコバルトを含有している層の少なくとも2層からできている。更に、本発明は、冷延板に電解的に少なくとも2層を被覆形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
良好な性能特性を備えているアルカリ電池を得るには、電池の内部抵抗を最小限にすることが必須である。それに加えて給電体(Stromzuleiter)として機能する電池ケースとアクティブな陰極体(Kathodenmasse)間の接触抵抗をできるだけ少なく保たなければならない。これを達成するには、電池容器(Becher)の内側と陰極体との間になるべく広い接触面を設けることが望まれる。
【0003】
従って従来の技術では、例えば、電池ケースの内側において接触面を広げるために、電解被覆が施され、硬いと同時に脆い金属被覆が付けられているような、電池ケースの製造に用いられる冷延板が望ましく、これは、深絞り又はアイアニングによって変形させてボックス状の電池ケースを作る際に裂け目を生じて、表面の拡大が目指されると同時に、電池の陰極体と電池ケースの内側との間の電気・接触抵抗を所望通りに引き下げることになる。
【0004】
従来の技術、例えば、EP0629009B1号明細書中及びEP0809307A2号明細書中では、硬いと同時に脆い金属コーティングとして光沢のある硬く且つ脆いニッケル層について詳細に説明している。この光沢のあるニッケル層は深絞り及び/又はアイアニングによる変形の際に裂け目が生じ、また、亀裂によって引き離された数多くの斑点状の部分が生じ、同時に表面が拡大される。
【0005】
光沢のあるニッケルの代りもしくはこれを補足するものとして、WO 01/27355A1中では、有機物(いわゆる光沢をつける薬剤(Glanzmittel))の分解生成物乃至反応生成物が提案されている。これらはコバルトまたは一つのコバルト合金の分解生成物乃至反応生成物からできている。この光沢のあるコバルト乃至コバルト合金層は、上記の文献中に詳述されている光沢のあるニッケルと同様に、硬くしかも脆く、また冷延板を深絞り及び/又はアイアニングにより表面を拡大しながら変形してゆくと、これに裂け目ができる。
【0006】
コバルトとコバルト合金はニッケルと比較して、電解液で満たされた電池を貯蔵及び/又は使用する際、電池ケースの内表面上に形成されるコバルトの酸化物と水酸化物が、酸化ニッケルや水酸化ニッケルと比較すると、かなり良好な導電性を有しているという利点を持っている。しかしコバルトはニッケルと比較してより高価な材料である。その上光沢のあるコバルト乃至光沢コバルト合金の析出は、電解槽中に入れられている有機添加剤に起因して、電流密度が比較的低い場合でしか実行できず、このことは析出を遅くさせることから、これに対応して電解槽の中で被覆される冷延板の処理時間を引き伸ばす結果になる。
【特許文献1】EP0629009B1
【特許文献2】EP0809307A2
【特許文献3】WO 01/27355A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来の技術に鑑み、本発明の目的は、経済的に製造可能であり、また特に深絞り及び/又はアイアニングにより電池ケースを変形して製造すくための冷延板を提供することであり、この冷延板は陰極体とボックス状の電池ケース間の電気・接触抵抗を最小限にすると同時に、抜群の貯蔵安定性が備わっている。そのほかに、このタイプの冷延板を製造する方法も提示することになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この冷延板に関する本課題を解決するため、本発明では、初めに挙げたタイプの冷延板において、コバルトを含有している薄膜を電解槽から光沢剤を添加せずに析出したつや消しのコバルト層またはつや消しのコバルト合金層のどちらかにすることを提案する。
【0009】
第1の主発明の態様は、少なくとも片面に電解被覆されたコーティングを有し、深絞り及び/又はアイアニングにより、電池ケースを製造するための冷延板(ストリップ)であって、
この電解被覆のコーティングは少なくとも2つの層、即ち、光沢のある硬く且つ脆いニッケル層並びに、その上に被覆されているコバルト含有の層であり、
前記コバルト含有層が電解槽から光沢剤を添加することなく析出されるつや消しのコバルト層または同じくつや消しのコバルト合金層であることを特徴とする冷延板である。
【0010】
第2の主発明の態様は、少なくとも2層から形成されているコーティングを持つ冷延板を電解被覆する方法において、前記冷延板上へ先ず、ニッケルイオン並びに有機の添加物を含有している電解槽から、これらの添加物の分解生成物及び/又は反応性生成物を含有している脆いニッケル層を析出し、続いてこのニッケル層の上へ光沢のある有機添加物を含有しておらず、コバルトイオンを含有している電解槽から延性のあるコバルト層またはコバルト合金層を析出することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、それ自体として延性を備えており、しかも、良好に変形するつや消し・コバルト層乃至つや消しのコバルト合金層がその下の光沢ニッケル層の上で、深絞り及び/又はアイアニングにより冷延板を変形して電池ケースにする際、その下にある光沢・ニッケル層と一緒に、ちょうどこれが裂け目を作って、表面を拡大するのと同様に裂け目を作って表面を拡大するという驚くべき発見に基づくものである。ここではつや消し・コバルト層乃至つや消し・コバルト合金層は期待するほどには裂け目を作ってその表面を拡大しないので、光沢・ニッケルと比較すると、これはその延性のために取り立てて言うほど裂け目を作らないか、或いは、より少なく変形することになる。
【0012】
この認識によれば、本発明に係る電解被覆された重なる層を持つ冷延板を電池ケースの製造のために使用することが可能である。この種の冷延板は、コバルト含有の電解液の中では有機添加物を添加する必要がないため、一層経済的に製造可能とされる。コバルト析出の際には、有機添加剤が用いられていないという理由により、光沢付きのコバルトを析出する場合と比べると高めの電流密度を使用することができ、これは同じ設計の槽であるにもかかわらず、装入量を多くすると同時に、製造における経済性を改善することになる。
【0013】
光沢・コバルト層により完全に被覆された冷延板との比較によれば、本発明に記載されている通りの構造の冷延板は電池ケースに変形された後には寿命も十分長く、同時に貯蔵安定性も十分備わっているにもかかわらず、少なくとも同一の電導性を有していることが明らかにされた。密閉されている延性のあるつや消し・コバルト層乃至つや消し・コバルト合金層は、補足的に比較的薄い、即ち、0.01-0.05μmの範囲内であると特に好都合であるが、0.01-0.2μmの範囲内の薄さに仕上げられることができ、これは比較的強い光沢のコバルト層と比較すると、コバルト材料の節約になると同時に、価格を引き下げることが可能である。
【0014】
つや消し・コバルト層またはつや消し・コバルト合金層の中では、冷延板から深絞り及び/又はアイアニングにより形作られた電池ケースの電導性を改善するため、例えば、グラファイト、煤、TiNのような伝導性を備えた粒子及び/又はニッケル、鉄、錫、インジウム、パラジウム、金及び/又はビスマスの1種以上の添加物を含有することができる。この種の添加物により、このように被覆された冷延板の伝導性を更に高めることが可能になり、同時に、その冷延板から作り上げられる電池ケースの接触抵抗もさらに引き下げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好都合とされるその他の形態によれば、金属担体材料(Traegermaterial)として使用されるのは、0.20%以下の炭素含有量、1mm未満の厚みを持つ鋼である。その厚みはここでは0.1-0.7mmが望ましい。この種の鋼は電池ケースを製造する原料として特に適している。この担体材料には、光沢・ニッケル層の下部においてその他の一次コーティングを被覆しておくことが可能である。
【0016】
この種のコーティングは、特に、延性のあるつや消し・ニッケル層として形成されているニッケル層にすることができる。この層は冷延板を変形させて電池ケースを形成する際、取り立てて言うほどの裂け目を作らずに変形するので、従って担体材料のベース材上では腐食を防止する。このニッケル層は例えば、拡散焼鈍のような熱処理を通して、担体材料の範囲内で合金にされるので、担体材料としての鋼が使われる場合、Fe-Ni-合金ゾーンが形成されることになる。
【0017】
光沢・ニッケル層の厚みは2μm以下であると好都合であるが、1μm以下であると特に好ましい。
【0018】
上記の目的を解決する一つの方法は、少なくとも2層から形成されているコーティング付きの冷延板を電解的に被覆する方法である。即ち、この冷延板を、先ずニッケルイオン並びに有機物添加物を含有している電解槽において、これらの添加物の分解生成物及び/又は反応生成物を含有している、脆いニッケル層を析出させ、続いてこのニッケル層の上へ、有機物の添加物を含有しておらず、コバルトイオンを含有する電解槽において、延性を備えているコバルト層またはコバルト合金層を析出させる方法である。
【0019】
このような方法により冷延板にコーティングをすることができ、また、上記の電解被覆された冷延板を手に入れることができる。本発明に係る方法は、その簡単なこと及び経済性において優れている、なぜならば、高めの電流密度並びに高めの析出スピードで有機物の添加物、特に、いわゆる光沢剤を含んでいないコバルトイオン含有の電解液で作業することができるからである。
【0020】
脆いニッケルの析出層を形成と延性のあるコバルトの析出層の形成との間にこの冷延板は洗浄することができる。
【0021】
脆いニッケル層を析出するために使われる電解液には、いわゆる副次的な光沢剤である有機物の光沢をつける添加剤、特に、ブチンジオールが、いわゆる一次の光沢剤、特に、o-ベンゾエ酸サルフィミド(サッカリン)無しに、或いはこれと共に添加される。この種の副次的な光沢剤は脆い光沢・ニッケル層を形成させ、これは深絞り及び/又はアイアニングにより冷延板を変形させる際、所望の裂け目を形成することを示している。
【0022】
延性のあるコバルト層乃至コバルト合金層の伝導性を更に改善するため、その析出に使用された電解液にグラファイト、煤、TiNの粒子及び/又はニッケル、鉄、錫、パラジウム、金及び/又はビスマスのイオンを1種以上添加しておくことが可能である。
【0023】
この脆いニッケル層の析出は、16A/dm2が特に望ましく、8及び16A/dm2の電流密度の時に遂行可能であり、延性のあるコバルト層乃至コバルト合金層の析出は16A/dm2であると特に望ましいが、10-20A/dm2の電流密度の範囲で遂行可能である。
【0024】
脆いニッケル層を電解析出する前に、冷延板上で腐食を防止する一層が析出される限り、これに加えて延性を備えた最初のニッケル層を析出することもでき、これらの析出は主に電解的に、或いはPVD(physical vapour deposition)法により遂行可能である。
【0025】
このニッケル層を被覆した後にその冷延板を拡散焼鈍し、また、必要に応じて追加圧延される場合には、変形特性及び腐食防止特性が更に改善された最初の延性・ニッケル層を手に入れることができる。この延性を備えている最初のニッケル層が被覆された後に、更に冷間圧延処理をしてから、初めて拡散焼鈍と、必要に応じて、追加の圧延が施される場合、更に良好な変形特性及び腐食防止特性を入手することができる。
【0026】
最終的には、上記のタイプの冷延板を特に深絞り及び/又はアイアニングにより変形させることにより電池ケースが提供される。
【0027】
本発明において、本発明に係る冷延板の場合、脆いニッケル層がその上に被覆されている延性を備えたつや消し・コバルト層乃至つや消しコバルト合金層と必ず一様に裂け目を作り、その際、その亀裂が電池ケースの縦方向だけではなく、これに対して約45度の角度にも走ることは、特に有利である。従ってこれは、電池を作る際、一般に陰極体が予めプレスされていわゆる「ペレット」を呈しており、電池ケースの中へ押し付けるので特に利点である。
【0028】
これは二酸化マンガン、炭素、苛性カリ溶液及び結合剤の混合物から構成されるリング又はディスクである。このリングを電池容器中へ押し付ける際、電子の導出に合わせて適切に接触するように押し付けられる。本発明に係る冷延板から作られる電池ケースの場合、変形方向に対して約45度の角度にも亀裂が生じるので、ペレットを使用する際、この陰極体の一部はそのプレス方向へその角度で走る亀裂中へ割り込むことができる。これにより陰極体を電池ケースの内面と特別良好に接触させることになる。
【0029】
コンタクトが改善されたという利点と同時に、その内側をコバルトでコーティングされた電池ケースの良好な貯蔵安定性も達成された。その結果、本発明に係る電池ケースから、表面に亀裂が作られたことに起因して陰極体が電池ケースの内側と見事に接触する電池のみならず、その使用されたコバルトのお蔭で抜群の貯蔵安定性も補足的に備えたことになる電池を製造可能である。
【0030】
本発明は従来の技術に従って製造された冷延板乃至この冷延板から作られた電池ケースと比較しながら、添付の図1乃至図3に記載の1実施例に基づき下記の通り詳述される。
【実施例1】
【0031】
図1は、本発明に係る冷延板を製造する3つの異なる製造手順を示す概略図である。
【実施例2】
【0032】
図2は、本発明の実施例並びに3つの比較例を示す写真に関するエイジング時間と関係する接触抵抗への冷延板被覆の影響を示す図である。
【実施例3】
【0033】
図3は、本実施例乃至比較例のREM写真による表面被膜と関係する、ケース内面の表面構造を360分の1の縮尺で示す図である。
【0034】
比較実験では冷延板の基質として、ニッケルで予め被覆された冷延板が使用され、その際、追加の圧延までの予備被覆は図1に図示されている製造手順1〜3の通りに実施可能である。1の手順によれば、ニッケルを予備コーティングする前に、最初に熱間圧延冷延板を腐食させ、続いて冷間圧延し、続いて必要に応じて中間焼鈍を施してから再度冷間圧延し、仕上げの焼鈍と追加の圧延を行う。
【0035】
2の手順では、先ず熱間圧延冷延板を腐食させ、続いて冷間圧延、続いてニッケルで予備コーティングし、更に再度冷間圧延、仕上げの焼鈍と追加の圧延を行う。第3の手順の場合、熱間圧延冷延板を最初に腐食させ、続いて冷間圧延、必要に応じて、中間焼鈍と冷間圧延し、ニッケルで予備コーティングしてから、続いて仕上げの焼鈍と追加の圧延を行う。ニッケルでの予備コーティングは、ここでは電解的或いは、場合によってはPVD析出法により遂行することができる。
【0036】
比較測定を実施するため、下記図表1に記載されている通り、異なるコーティングを施した4枚のサンプル薄板を用意した。
【表1】

【0037】
電池ケースの製造に適している典型的な標準材料として2μmの厚みのニッケルコーティングが施された、ニッケルのつや消し鍍金に続いて拡散焼鈍及び追加・圧延を施された冷延板を使用した(サンプルA)。続いて0.7μmのつや消しニッケルの拡散焼鈍されたベース・コーティングされた冷延板材料(サンプルB)を作った。続いて、第二の処理過程では厚さ1μmの脆い光沢ニッケル層が電解析出された。光沢のあるニッケル層の析出は、表2に挙げられている組成の電解液によってそこに記載のプロセス・パラメータの下で実施した。
【0038】
本発明に係る冷延板材料はサンプルCとして作られた。これは厚さ0.7μmのつや消しニッケルの拡散焼鈍されたベース・コーティングをされている。その上に第二の処理過程では表2に図示されている組成の電解液により、しかも、この表2に図示されているプロセス・パラメータの下に、厚さ0.9μmの光沢ニッケル層を析出した。このために使用されたのは、図3に図示されている手順構成及びこの表中に図示されているその他のプロセス条件を備えた電解液である。
【0039】
最後に比較のためWO 01/27355A1の開示に従って、0.7μmのつや消しニッケルの拡散焼鈍されたベース・コーティングをされた冷延板材料(サンプルD)を作った。第二処理過程では、この上に先ず厚さ0.8μmの光沢ニッケル層、これに続いて、厚さ0.2μmの光沢コバルト層が析出された。
【表2】


光沢剤A:22重量%のサッカリンを含有している溶液、光沢剤B:ブチンジオール

【表3】

【0040】
変形後のさまざまなコーティングの特性を比較するため、4通りの手順でAA・電池ケースを深絞りによって製造した。
【0041】
図3にはこのように作られた電池ケースの内側表面のA乃至Dと銘打たれた4通りのREM・写真が図示されている。つや消し・ニッケルでコーティングされたサンプルAだけは確かに亀裂の形成がみられること、しかし、これらの亀裂は不都合なことに、大部分がもっぱら変形方向へ伸びていることをはっきりと確認可能である。
【0042】
縦方向への亀裂に加えて、変形方向に対して約45度の角度でも亀裂が生じる望ましいとされる亀裂サンプルは、B、CとDのサンプルに見られる。ここにおいて、光沢のあるニッケル層の上に析出されたつや消しコバルト層の上にコバルト層を付けている本発明に係る冷延板は、光沢のあるニッケル被覆だけを施されたか、或いは光沢のあるニッケル層と光沢のあるコバルト層を組み合わせた周知の冷延板と等価と見なすことができる。
【0043】
このことは、延性のあるつや消しコバルト(サンプルC)を使用する場合には、光沢のあるコバルトでコーティングされた試作品(サンプルD)より劣った形の亀裂を生み出すことになるのではということが先ず予測された限り、意外である。これらの写真によれば、つや消しニッケルだけでコーティングされたサンプルAと比較すると、試作品B、CとDはこれらが電池ケースへと変形された後には、表面の凹凸が改善されると同時に、表面積もかなり広くなることが分かる。
【0044】
接触抵抗を測定するため特殊な測定器を用いて、テストすべき電池ケース材料のエイジングに対する安定性の測定を実施した。ここではできるだけ現実に近い測定値を出すため、テストする冷延板を最初に加工して電池ケースを作ったので、特に、本発明に記載されている通りに析出された脆いコーティングはその表面を拡大する間にひび割れした。続いてカット並びにフラットに折り曲げられたフレームから予め決められた直径の円形プレス粗材を打ち抜いた。
【0045】
このテストされる円形プレス粗材は、特定の圧力をかけて、しかも、グラファイト、二酸化マンガンおよび苛性カリ溶液から構成されている標準の陰極体と空気を遮断して実際のケースの内側と永久接触させられ、更に、71℃の温度で28日間以上の間貯蔵される。この貯蔵期間中、テスト材料は規則どおりの間隔を置いて室温まで冷却され、また、陰極体とテストされる冷延板間の調整中の接触抵抗を測定する。28日間の期間にわたる71℃での加速エイジングは室温におけるエイジングでは2年間以上に匹敵する。
【0046】
経験によれば、それらの測定結果はその傾向として基本的には実際のアルカリ電池にも転用可能である。エイジングが始まる前の最初の測定によれば、さまざまに被覆された冷延板についても同一の接触抵抗が示されるのが普通である。これは、従来空気のみと接触している金属表面において優れた酸化金属被膜又は水酸化被膜がなにも形成されないことに起因していると言える。陰極体と接触させてエイジングさせる間に漸く比較的厚めの酸化金属被膜又は水酸化被膜が形成され、これが続いて電気抵抗を上昇させるきっかけとなる。
【0047】
本発明では、新しい電池の中での冷延板材料の反応について詳述するため、主に7日後の接触抵抗を考察した。これは室温における貯蔵時間に換算すると、約半年のものに相当する。この期間が顧客に購入された時の買ったばかりの電池の期間に相当するという所からスタート可能である。図2に図示されているエイジングの安定性についての測定結果は、本発明に従って製造された冷延板材料の望ましい特性を裏付けている。Cのサンプルの電気・接触抵抗は、エイジングの全ての段階においてサンプルAとBについて測定された数値をはるかに下回っており、また、その冷延板に光沢のあるニッケル層と、この上に光沢のあるコバルト層を持っているサンプルDの場合と同レベルである。
【0048】
表面の写真を見ると分かるように、たとえBのサンプルがC及びDのサンプルの場合との比較において、近似的に同一の表面構造を呈しているとしても、一連の測定を進めてゆく間には、顕著により劣った接触抵抗が示された。これはCとDのサンプルの場合、コバルト被覆が施されていることにその原因がある。その電池ケースの内側の一番外側には最初に非常に安定性の高いしかも良好な伝導性の酸化コバルト層、即ち水酸化層が形成され、これには酸化ニッケル層、即ち水酸化層と比べると、顕著に高い電導性が備わっていると考えられる。
【0049】
顕微鏡による分析結果も、エイジング期間と関連する接触抵抗の測定結果も、本発明に係る冷延板からWO 01/27355A1中に記載されている通りの冷延板から技術的に同価値の製品が製造可能であることを裏付けている。しかしこの達成可能な生産性および製造コストに基づき、本発明に係る冷延板は従来の技術と比較すると、重要な利点を有している。
それは、例えば、析出されたコバルト層又はコバルト合金層の厚みがWO01/27355A1と比較して75%削減可能であるという利点である、なぜならば、これは比較的薄く、特別良好な貯蔵安定性を備えており、しかも、電導性の良好なカバー被膜を形成するのに役立つからである。析出された被膜の厚みは、最大で0.2μmであるが、0.05μmであると特に望ましい。これによりコバルトを含有している被膜のための材料コストを最小限にすることができる。
【0050】
これと同時に、WO 01/27355A1中に記載の従来の技術と比較すると、コバルト析出時に電流を8を最大16A/dm2まで高めることが出来、特に電流密度は望ましくは10から最大で20A/dm2まで高めることができる。この電流密度が電解被覆プロセスの生産性に直接影響を及ぼすので、ユニットの設計を同一にしたままで100%までの高生産性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明に係る冷延板を製造する3つの異なる製造手順を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施例並びに3つの比較例を示す写真に関するエイジング時間と関係する接触抵抗への冷延板被覆の影響を示す図である。
【図3】図3は、本実施例乃至比較例のREM写真による表面被膜と関係する、ケース内面の表面構造を360分の1の縮尺で示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に電解被覆されたコーティングを有し、深絞り及び/又はアイアニングにより、電池ケースを製造するための冷延板(ストリップ)であって、
この電解被覆のコーティングは少なくとも2つの層、即ち、光沢のある硬く且つ脆いニッケル層並びに、その上に被覆されているコバルト含有の層であり、
前記コバルト含有層が電解槽から光沢剤を添加することなく析出されるつや消しのコバルト層または同じくつや消しのコバルト合金層であることを特徴とする冷延板。
【請求項2】
前記冷延板から深絞り及び・又はアイアニングにより成形された電池ケースの電導性を改善するため、つや消しのコバルト層または同じくつや消しのコバルト合金層は、
グラファイト、煤、TiNを含む電導性の粒子及び/又はニッケル、鉄、錫、インジウム、パラジウム、金、ビスマスの1種以上の添加物を含有していることを特徴とする、請求項1に記載の冷延板。
【請求項3】
前記冷延板が、炭素含有量が0.20%以下であって、厚みが1mm以下である鋼板であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の冷延板。
【請求項4】
前記光沢のあるニッケル層の下部では前記冷延板の片面もしくは両面上に前もって被覆が施されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の冷延板。
【請求項5】
検討必用
前記冷延板は、拡散焼鈍されたニッケル層が前もって被覆されていることを特徴とする、請求項4に記載の冷延板。
【請求項6】
前記光沢のあるニッケル層の厚みは、2μm以下であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の冷延板。
【請求項7】
前記つや消しのコバルト層乃至同じく前記つや消しのコバルト合金層の厚みは、0.01乃至0.2μmであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の冷延板。
【請求項8】
少なくとも2層から形成されているコーティングを持つ冷延板を電解被覆する方法において、前記冷延板上へ先ず、ニッケルイオン並びに有機の添加物を含有している電解槽から、これらの添加物の分解生成物及び/又は反応性生成物を含有している脆いニッケル層を析出し、続いてこのニッケル層の上へ光沢のある有機添加物を含有しておらず、コバルトイオンを含有している電解槽から延性のあるコバルト層またはコバルト合金層を析出することを特徴とする方法。
【請求項9】
前記脆いニッケルの析出させ、次いで前記延性のあるコバルト層またはコバルト合金層の析出させる間に、洗浄を行うことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脆いニッケル層を析出するために用いられる電解液に光沢のある有機添加剤として、いわゆる二次の光沢剤として、ブチンジオールを添加し、いわゆる一次光沢剤として、o-ベンゾエ酸サルフィミド(o-Benzoesaeuresulfimid)(サッカリン)を添加または添加しないことを特徴とする、請求項8または9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記延性のあるコバルトまたは前記延性のあるコバルト合金を析出するために使われる前記電解液にはグラファイト、煤、TiNの粒子及び/又はニッケル、鉄、錫、パラジウム、金、ビスマスの1種以上のイオンを含有させることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記脆いニッケル層の析出を、電流密度8-16A/dm2で行うことを特徴とする、請求項8乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記延性のあるコバルト層乃至コバルト合金層の析出を、10-20A/dm2で行うことを特徴とする、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記冷延板の上では前記脆いニッケル層を電解析出する前に、延性のある最初のニッケル層が析出させ、その際、該析出は電解的或いはPVDによって行うことを特徴とする、請求項8乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記冷延板には前記延性のある最初のニッケル層の塗布後、拡散焼鈍及び、追加の圧延が施されることを特徴とする、請求項8乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記冷延板には前記延性のある最初のニッケル層を塗布した後、中間ステップとして冷間圧延が行われることを特徴とする、請求項8乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1項乃至7項のいずれか1項に記載された方法により製造された冷延板を深絞り及び/又はアイアニングにより変形し、請求項8乃至16のいずれか1項に記載の方法により製造することを特徴とする電池ケース。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

image rotate

image rotate


【公表番号】特表2006−522869(P2006−522869A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505079(P2006−505079)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003794
【国際公開番号】WO2004/090198
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(505377773)ヒル アンド ミューラー ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】Hille & Mueller GmbH
【Fターム(参考)】