説明

特には繊維形態での、アクリロニトリル−シラザン共重合体、その調製方法及びその使用

本発明は、アクリロニトリル、またはアクリロニトリル及びアクリロニトリルと共重合せしめ得る有機分子の混合物と、少なくとも1種のモノマー態、オリゴマー態及び/またはポリマー態シラザンとを、共に転化せしめることにより得られる共重合体に関し、その場合、該シラザンは少なくとも1個のビニル型二重結合を含んでいる。この共重合体は、繊維形態にすること、及び/または非溶融性に変えることができる。繊維形態の共重合体を用いて、熱分解によりセラミック繊維を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリルと、少なくとも1個の有機的に重合可能な二重結合、特に1個のビニル基を有するシラザンとから得られる共重合体に関する。かかる共重合体は、ケイ素原子、窒素原子及び炭素原子を含んでいるため、例えば耐火性材料として、或いはSiCN(炭窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)又はSiN(窒化ケイ素)の組成を持つ熱分解された系を得るための出発原料として有望である。熱分解された材料も、熱分解されていない材料も、任意の形態、特に繊維の形態で存在することができる。
【0002】
上記の系は、高温度における機械的強度が高く、かつ耐酸化性が優れているために、広範囲の多種多様な応用に適している。熱分解生成物はセラミックスの性質を有し、例えば繊維又は強化要素としてのセラミック母材の形で、高温度及び/又は腐食性の媒質にさらされ、或いは耐えねばならない部材中に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
ポリシラザンとイソシアネート又はイソチオシアネートの付加重合体は、US4,929,704、US5,001,090及びUS5,021,533中に記載されている。イソ(チオ)シアネート類との付加重合により、主として直鎖状で、そのSi−N結合内に複数個の−N−C(A)基(Aは=O基若しくは=S基を示す)が挿入されている混合生成物が得られる。2,6−トルエンジイソシアネートを用いて転化された液状ポリシラザンの反応では、炭素含有量が著しく高いガラス状の生成物が得られる。これらの文献中には、ポリシラザンをケテン類、チオケテン類、カルボジイミド、若しくは二硫化炭素(CS)を用いて転化させる可能性も言及されている。しかしながら、これらの具体例も、或いは生成物の性質さえも、見出せない。生成物は、窒化ケイ素含有セラミック繊維を製造するための原料として提案されている。
【0004】
炭化ケイ素(SiC)系セラミック繊維は、シラン類又はポリシラン類を出発原料として合成されることが多い。それ故、使われることが稀な乾式紡糸プロセスのために、一方では可溶性であるが、他方では熱分解の際に加えられる熱エネルギーの影響下でも溶融しないような出発原料の熱分解生成物が見つからねばならない。しかるに、この基準を満足するような材料は、しばしば複雑な経路でしか調製し得ないか、さもなければ本来の熱分解の前に硬化されねばならない。これについては、フライベルク鉱山大学(TU Bergakademie Freiberg)並びにヴュルツブルクにあるフラウンホーファー・ゲゼルシャフトのシリケート研究部門(Institut fuer Silicatforschung der Fraunhofer-Gesellschaft)による研究成果を参照されたい。
【0005】
しばしば溶融紡糸プロセスが用いられる。しかしながら、この場合にはポリマー繊維を電子線照射によって硬化させることが不可欠で、そのためには約20MGy(メガグレイ)というきわめて高い吸収線量を要することが欠点になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US4,929,704
【特許文献2】US5,001,090
【特許文献3】US5,021,533
【発明の概要】
【0007】
本発明の課題は、防炎及び耐火の領域に好適であり、かつ安定な成形体、たとえば自己支持性繊維に加工し得るような材料を発見することである。好ましい発展形態においては、その材料は、特に、SiC、SiNあるいはSiCNの組成を持つ材料を得るために、安定な繊維の形で熱分解を受けることが可能でなければならない。
【0008】
課題を解決するために、(i)アクリロニトリル又はアクリロニトリルとアクリロニトリルと共重合可能な有機分子との混合物と、(ii)C=C二重結合を有するシラザン材料とから製造される共重合物が提供される。
【0009】
「シラザン」という用語は、一般的に、RSi−N(R)SiR基を含有する化合物を意味する。この群のきわめて簡単な代表例は、ジシラザン、すなわちHSi−NH−SiHである。環状または直鎖状のシラザンは、−Si(R)−N(R)−構造単位を含むか、該構造単位から構成される。これらの基本構造から出発して多数のシラザンが開発されており、それらのケイ素原子に結合する置換基は、例えば水素の他にアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、窒素原子に結合する置換基は、水素の他にアルキル基またはアリール基であり得る。オリゴマー構造やポリマー構造が存在し、尿素基及び種々の環構造及び多環構造のような追加の原子団が挿入されたものもある。
【0010】
本出願の発明者は、驚くべきことに、1個または複数個のC=C二重結合を有するシラザンが、この原料に適する溶媒中で通常の付加重合触媒の存在下にアクリロニトリルと共重合し、通常使用される反応溶媒(例えばDMF、もしくは他の、アクリロニトリルに適合する溶媒)に対して可溶性を失わない重合体を生成し得ることを確認することができた。共重合体は、通常アクリロニトリルまたはポリアクリロニトリルと同じ溶媒に可溶性である。溶媒を除去した後、該共重合物は室温では固体の形で存在するが、温度を高めた場合には高粘度の液体となる。溶融物は粘弾性を有し、それに応じて繊維状に引き延ばすことができる。この繊維状溶融物は冷却後、場合によっては延伸後、電子線照射によってさらに架橋せしめ、それによって熱硬化性の状態に移行させることが可能である。繊維の熱分解は、そのような繊維の後硬化処理に後続して行うことができる。
【0011】
共重合は、次の式に従って進行する。
【化1】

式中:
Xは、アルキレン基であり;
oは、0または1であり;
mは、0、1、2、3、又はさらに大きな任意の数であり、
nは、0、1、2、3、又はさらに大きな任意の数であり、
pは、0、1、2、3、又はさらに大きな任意の数であるが、
m及びpは同時に0ではあり得ず、かつn及びpも同時に0ではあり得ず;
yは、使用されるシラザンに含まれるSi−N−単位の個数であり;
Rは、使用されるシラザンの置換基であって、通常下記の構造式(I)〜(III)におけるRに相当する。
【0012】
上に示した式は、使用される出発原料、重合時間、重合温度、及び選択される触媒の種類に応じて、長さが等しい、あるいは長さの異なる、アクリロニトリルのオリゴ重合体ブロックと使用されるシラザンのオリゴ重合体ブロックとが生成される重合体中に含まれている(p=0の場合)こと、重合成分であるアクリロニトリル分子及びシラザン分子が交互に入れ替わる(m及びnが、それぞれ≠0の場合)こと、あるいは上記二つの形態が種々異なった成分比で、混合して生成する(m≠0、n≠0、p≠0の場合)ことを反映している。アクリロニトリルとの共重合に適切な反応相手は、ケイ素に結合した1個または複数個のアルキレン基を有する、すべてのモノマー態、オリゴマー態もしくはポリマー態のシラザンである。
【0013】
「オリゴマー態シラザン」は、本発明では2〜10個のケイ素原子を有するシラザンと理解されるべきである。したがって、ポリマー型シラザンは11個以上のケイ素原子を有するものである。
【0014】
使用され得るシラザンまたはオリゴシラザン/ポリシラザンは、一般式(I)
【化2】


または一般式(II)
【化3】


または一般式(III)
【化4】


を有するものであり、
式中:
は、アルケニル基であり;
は、水素、または直鎖、分岐鎖もしくは環状で、置換もしくは−好ましくは−無置換のアルキル基、Rと同一のアルケニル基、それと異なるアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基またはアリールアルケニル基を示し、かつ置換基R及びRのそれぞれは、m及び/又はoが1よりも大きい場合には、異なる構造単位内では異なる意味を持っても良い(同一の意味を持つ方が好ましい);
但し
(a)R2’及びR3’は、同一でも異なっていても良く、直鎖、分岐鎖もしくは環状で、置換もしくは−好ましくは−無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基またはアリールアルケニル基を表わし、かつ置換基R2’及びR3’のそれぞれは、n及び/又はoが1よりも大きい場合には、異なる構造単位内では異なる意味を持っても良い(同一の意味を持つ方が好ましい);
あるいは
(b)先に示した意味を持つR及びR2’ならびに−少なくとも1個の残基R及び少なくとも1個の残基R3’が存在する場合には−残基R及びR3’のすべて又はそれぞれの一部が一体となって、好ましくは2個の架橋炭素原子を有する無置換または置換の、直鎖または分岐鎖のアルキレン基を形成しても良く、その場合、残基R及びR3’の残り部分は(a)に述べる意味を持つこともあり、
また式中:
及びR4’は、好ましくは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル基または水素を意味し、その場合1個のシラザン分子中にある複数個のR残基及び/又はR4’残基は同じであっても異なっていても良く;
とRは、同一であるか異なっており、かつRまたはRと同じ意味を持つことができ、その場合Rは、さらにSi(R)(R2’)(R3’)を意味しても良く、またR及びRが一体となって1個の単結合を形成しても良く;
は、Si(R)(R2’)−X−R−Si(R(OR2’3−q[式中のXはOまたはNRを意味する]を意味し;
は、単結合、又は置換もしくは−好ましくは−無置換の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキレン基を表わし、かつqは0、1、2または3であることができ;
Pは、1〜12個の炭素原子を有するアルキレン基、好ましくはエチレン基であり;
m及びpは、互に独立して1,2,3,4、5,6,7,8,9,10、又は11〜25000、好ましくは11〜200の整数を意味し;
n及びoは、互に独立して0、1、2、3,4,5,6,7,8,9,10、又は11〜25000、好ましくは1〜200の整数を意味し、その場合角括弧に囲まれている構造単位は、好ましくはランダムに、他の場合はその代わりにブロック状に、場合によっては規則的に、それぞれの分子中で分布することができる。
【0015】
式(I)〜(III)で示されるシラザンの定義との関連における用語「構造単位」は、それぞれが角括弧に囲まれ、分子中のこれら構造単位の量が指数(m、n・・・)で表示されている分子の部分を表す。
【0016】
第1の好ましい実施形態では、式(I)〜(III)中のRはビニル基である。
【0017】
は、この実施形態ではアルキル基であることがきわめて好ましく、特にきわめて好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0018】
式1〜3中のnが1以上である限り、当該構造単位それぞれのケイ素原子に結合している置換基(R2’及びR3 ’)は、第1の好ましい実施形態に左右されることなく、次のように選択されることが好ましい:1個のアルキル残基と、水素原子、別のアルキル残基、アルケニル残基(好ましくはビニル残基)、もしくはフェニル残基との組み合わせ。
【0019】
それに左右されない第3の好ましい実施形態では、式(I)〜(III)中のアルキル残基またはアルケニル残基は、1〜6個の炭素原子を有する。メチル残基、エチル残基及びビニル残基が、特に好ましい。アリール残基、アリールアルキル残基、アルキルアリール残基、アルケニルアリール残基またはアリールアルケニル残基は、好ましくは5〜12個の炭素原子を有する。フェニル残基及びスチリル残基が特に好ましい。この実施形態は、第1の実施形態と組み合わせると特に好ましい。
【0020】
それに左右されない式(I)〜(III)の、さらに別の一実施形態では、R及び/またはR4’はアルキル基、特にメチル基を表す。そのような材料を用いて製造される炭素繊維は、すぐれた性質を有する筈である。
【0021】
それに左右されない第5の好ましい実施形態では、R、R、R2’及びR3’は、好ましくはアルキル基、特に1〜8個の炭素原子を有するアルキル基から選ばれる。
【0022】
それに左右されない第6の実施形態では、置換基R、R、R2’及びR3’にフッ素原子が付いている。この実施形態は、第4の実施形態と組み合わせると特に好ましい。
【0023】
さらに別の、式(I)の独立した好ましい一実施形態では、指数oは0である。
【0024】
さらに別の、式(I)または(II)の独立した好ましい一実施形態では、指数mはそれぞれ0である。
【0025】
さらに別の、独立した好ましい実施形態では、R及びRが一体となって1個の単結合を形成する。この実施形態は、式(I)で表わされる化合物であって、指数oが0であり、時には指数mも0である化合物の場合に特に好ましい。
【0026】
さらに別の、独立した好ましい実施形態では、指数oは0であり、指数m及びnは1より大きく、好ましくは2〜25000、特に2〜200である。その場合、m及びnは同一でも、また異なっていても良い。それに加えて、あるいはその代わりに、m個またはn個の構造単位は、ランダムに分布しても、また規則的に分布しても良い。その場合、それら構造単位はブロック的な配置でも、また非ブロック的な配置でも良い。
【0027】
それに左右されない、さらに別の好ましい一実施形態では、式(I)中の指数n及びoは0を表わし、RはSi(R)(R2’)(R3’)の意味を有する。この実施形態の一例(この場合、m=1である)を下の式に示す。
【化5】

【0028】
この例における単結合の線は、特にアルキル基、特にきわめて好ましくはメチル基に結合し得るが、ハイドライド基に結合しても良く、一部がアルキル基、一部がハイドライド基に結合しても良い。
【0029】
さらに別の、独立した好ましい一実施形態では、式(I)中のmは1、2、3、4、5または6〜50の整数を表わし、nならびにoは0であるか、これら種々のシラザンが混合した物である。その場合、置換基R及びRは同一であるか異なっていて良く、Rと同一の意味を有しており、その場合Rは、さらにSi(R)(R2 ’)(R3 ’)を表わしても良い。この、あるいはこれらのシラザンは、場合によっては、特にRならびにRが合体して1個の単結合を形成するシラザンと混合して存在しても良い。
【0030】
さらに別の、独立した好ましい一実施形態では、式(I)中の指数oは0であり、一方指数m及びnは同一であるか異なった2以上200〜25000以下の数を表す。その場合、置換基R及びRは同一であっても異なっていても良いし、またRと同じ意味を有しても良く、その場合Rは、さらにSi(R)(R2 ’)(R3 ’)を表わしても良い。この、あるいはこれらのシラザンは、場合によっては、特にRならびにRが一体となって1個の単結合を形成するシラザンと混合して存在しても良い。
【0031】
例は、下記のオリゴマー/ポリマーであり:
【化6】

その場合、角括弧に囲まれている構造単位は、分子中にランダムに、場合によってはその代わりにブロック状に、また他の場合には規則的に配置され、互に示されている量比で存在し、かつ分子の末端は水素原子、またはアルキル基もしくはアリール基を含む。
【0032】
さらに別の、独立した好ましい一実施形態では、指数n及び指数oは0であり、指数mは3を表わし、R及びRは合体して1個の単結合を形成する。この実施形態は、一般的に式(Ia)によって表すことができる:
【化7】


式中、R、R及びRは、式(I)について記載の意味を有する。
【0033】
さらに別の、独立した好ましい式(I)の一実施形態では、指数n及び指数oは0に等しく、指数mは2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくはそれより大きな数の意味を有し、R及びRは一体となって1個の単結合を形成する。
【0034】
さらに別の、独立した好ましい式(I)及び式(II)の実施形態では、指数m及び指数nは、それぞれ2,3,4,5,6,7,8,9,10もしくはそれより大きな数を表わし、R及びRは一体となって1個の単結合を形成する。これらの化合物(ここでは、oまたはp=0)も、同様に以下に示す式で例示することができ、
【化8】

【化9】

【化10】

その場合、分子中の角括弧で囲まれている構造単位は、ランダムに、あるいはブロック状に、また多くの場合には規則的に分布し、示されている相互の量比のm倍またはn倍、あるいは最後に示されている式の場合には(m+n)倍の比率で存在するが、分子は閉じた鎖の形態で存在する。この変種は、特にそれらに対応する開いた分子鎖のシラザンとの混合で存在している状態で、本発明に使用され得る。
【0035】
上に好ましいものとして挙げられている実施形態は、相互に共存不可能でない限り、それらの2種または数種を組み合わせることができる。
【0036】
式(I)のシラザンで指数oが0であるものは、市販品が入手可能であり、また標準的な合成方法、特にモノハロシランのアンモノリシスにより、例えばUS4,395,460及びその中に引用されている文献に記載されているようにして製造可能である。その場合、例えば3個の有機残基を有するモノハロシランの転化により、指数n及び指数oが0であり、指数mが1を表わし、RがSi(R)(R2 ’)(R3 ’)の意味を持つ、式(I)のシラザンが生成する。反応の際、有機残基は開裂しない。
【0037】
同様に、カイオン社(Kion Corporation)のUS6,329,487B1に類似して、モノハロシラン、ジハロシラン、またはトリハロシランを加圧装置中、液体アンモニアでアンモノリシス反応させ、一般式(I)のシラザンを得ることも可能である。
【0038】
その場合、少なくとも1個のSi−H結合を有するハロゲン化シランが単独で、及び/またはジハロシランもしくはトリハロシランとの組み合わせで、過剰の液体無水アンモニア中で転化され、長時間この媒質中に放置されるならば、生成するハロゲン化アンモニウム塩または生成する酸によって酸性になった環境中に、時間の経過と共にSi−H結合のアブリアクション(Abreaktion)により、指数m、n及びoが上記よりも大きな値であり及び/または上記と異なった比率を有する重合生成物が、おそらくは溶解しイオン化しているハロゲン化アンモニウムが存在するために、その触媒作用によって生成する。
【0039】
またUS6,329,487B1には、それらに相当する重合生成物をアンモニア中に溶解したナトリウムの作用によっても得ることができるとも記述されている。
【0040】
さらにUS4,621,383ならびにWO87/05298には、遷移金属を触媒とする反応によってポリシラザンを合成する可能性が記述されている。
【0041】
シランまたは相当する複数種の出発原料シランの混合物のケイ素原子に結合している有機置換基の適切な選択によって、このプロセスで指数oが0である式(I)のシランを多数種類生成せしめることができ、その場合、しばしば直鎖状のポリマーの混合物が生成する。
【0042】
反応機構については、カールスルーエ研究センター材料研究所のミヒャエル・シュルツの学位論文「紫外線及びX線ディープリソグラフィーを用いるセラミックス前駆ポリマーの微細構造加工」(FZKA 6901,2003年11月)(Michael Schulz am Forschungszentrum Karlsruhe, Institut fuer Materialforschung “Mikrostrukturierung praekeramischer Polymere mit Hilfe der UV- und Roentgentiefenlithographie”, November 2003, FZKA 6901)も目を向けている。この論文には、指数oが0であり、指数m及びnのブロック内にあるケイ素原子に種々の置換基が結合している式(I)のシラザンの合成法も記述されている。
【0043】
また、この論文では、尿素シラザンの製造法も言及されている。シラザンに単官能イソシアネートを加えると、N−結合にNCO−基の挿入反応が起こり、尿素基が形成される(先に述べた式(II)のシラザンを参照)。尿素シラザン及びポリ(尿素シラザン)の製造に関するその他の点では、US6,165,551、US4,929,704及びUS3,239,489を参照されたい。
【0044】
式(III)の化合物(アルコキシ置換されたシラザン)の製造法は、US6,652,978B2によって知られている。これら化合物の製造のため、モノマー態あるいはオリゴマー/ポリマー態の、式(I)で表わされ、指数oが0であるシラザンを、アミノ基またはヒドロキシル基を含有するアルコキシシラン、例えば3−アミノプロピル−トリエトキシシランを用いて転化させることができる。
【0045】
式(I)の、指数oが0ではない化合物を製造する方法が、G.モッツがシュツットガルト大学に提出した学位論文(G. Motz, Dissertation, Universitaet Stuttgart, 1995)中に、1,2−ビス(ジクロロメチルシリル)エタンのアンモノリシスの例について具体的に紹介されている。この化合物の特別な代表であるABSEの製造は、S.ココット及びG.モッツの「ABSE−ポリカルボシラザンを多重壁カーボンナノチューブを用いて改質することによる紡糸可能な素地の製造」(S. Kokott und G. Motz, “Modifizierung des ABSE-Polycarbosilazans mit Multi-Walled Carbon Nanotubes zur Herstellung spinnfaehiger Massen”, Mat.-wiss. u. Werkstofftech. 2007, 38 (11), 894-900)に従って、メチルジクロロシラン(MeHSiCl)とメチルビニルジクロロシラン(MeViSi−Cl)から得られる混合物の加水分解とアンモノリシスによってもたらされる。
【0046】
窒素原子がアルキル置換されているシラザンも同様にして、相当するハロゲン化シランをアルキルアミンと、例えばUS4,935,481及びUS4,595,775に記述されているようにして反応せしめることにより、当業者にとっては簡単に製造可能である。
【0047】
使用されるシラザンと使用されるアクリロニトリルの量比は、原則的には重要ではない。例えば、シラザン対アクリロニトリルの量比は100:1〜1:100の範囲であっても良い。4:1〜1:20の比率が有利であることが明らかになっている。シラザンのモル分率は、アクリロニトリルのモル分率を超えないことが好ましい。
【0048】
転化は、各成分に通常用いられる溶媒中で行われる。特に、アクリロニトリル重合用の普通の溶媒、例えばDMF、1,3−ジオキソラン−2−オン、ジメチルアセトアミドまたはDMSOを使用することができる。ラジカル重合、特に重付加に使用される通常の触媒が加えられる。ここでは、例えばポリアクリロニトリル製造用の公知の触媒、例えばアゾイソブチロニトリルを起用することができる。
【0049】
反応は、常温より高い温度、例えば40〜100℃で(あるいは溶媒の還流温度で)行われるのが普通である。反応は、大抵は数時間後に完了する。直鎖の−C−C−結合を有する生成物が得られる。使用される1種または複数種のシラザンが2個以上のアルケニル基を含んでいるならば、複数個のそのような結合が1個のシラザン分子から生じるか、あるいはこの分子を含む可能性がある。それ故に立体配置の状況如何によっては、このシラザンは三次元的な結合の出発点たり得る。オリゴマー態ないしポリマー態のシラザンが使用されるならば、得られる生成物はさらにSi−N−基から成る鎖状または環状構造を含み、そのため構造の密度をさらに高める。
【0050】
本発明の材料は、アクリロニトリルとシラザンのみから製造されることが好ましい。しかしながら、他の添加物を含むことも可能である。
【0051】
添加物としては、例えばアクリロニトリルと共重合可能な有機物質(モノマーもしくはその他の有機分子)が考慮の対象となる。このためには、例えばスチレン、及び/またはブタジエン、及び/またはビニルカルバゾールが問題となる。望まれる性質、特に耐炎性及び防火性を甚だしく劣化させないためには、この添加物はアクリロニトリルと有機分子の合計分量に対して、通常20重量%を超えてはならない。該有機物質(単数種であれ複数種であれ)は、好ましくは同一の溶液に添加混合されるが、重合を行わせるために他の成分にも添加される。
【0052】
それに加えて、あるいはその代わりに、材料は1種または複数種の充填剤を含むことができ、該充填剤は好ましくは無機的な性質であるが、例えば重合体との混和を容易にするために、有機的に改質されても良い。充填剤は必要ならば、材料の重量に対して60重量%までの量を加えることもできる。20重量%までの量が好ましい。充填材は、好ましくは溶媒が分離される前に添加される。
【0053】
本発明の材料は、原理上は任意の形態とすることができる。しかしながら、該材料は繊維の製造に使用されることが、つまり繊維状の形態で存在することが好ましい。
【0054】
繊維を製造するためには、得られたポリマー溶液(充填剤が添加された場合には、ポリマー懸濁液)から溶媒を分離する。生成物は、通常室温では固体である。温度を高めると、互に絡み合ったポリマー分子から成る粘弾性の溶融物が得られる。多くの場合、軟化点は100℃を超える。
【0055】
溶融物(好ましくは、充填剤を含まない溶融物)から、好ましくは多数の噴射口を持つノズルを通して押し出すことにより、紡糸が行われる。噴射口の断面は約150〜400μmであることが好ましい。次いで繊維は冷却され、その際に好ましくは延伸される。延伸によって繊維の直径は著しく縮小する。連続的に繊維を製造する場合には、その後に繊維を巻き取ることが好ましい。
【0056】
かくして得られた繊維は、例えば織布、編物、敷物などのような繊維製品に加工され、あるいは強化材としてポリマー素材中に埋め込まれるのに好適である。これらの繊維はケイ素及び窒素の含有量が高いため難燃性を有するので、特に耐火材に使用するために関心が持たれる。
【0057】
さらに上記の繊維は、熱分解によってセラミック繊維に変えることができる。このためには、溶融物から得られるポリマー繊維を、まず通常の方法によって、例えば電子線照射によって非溶融性に変える。このためには、通常は約200キログレイ(KGy)の吸収線量で十分である。
【0058】
熱分解は、好ましくは酸素を含まないブランケット・ガス、例えばアルゴン中で行われる。反応条件(ガス雰囲気、温度)は、生成物中のケイ素対窒素対炭素の比率がほぼ生成時の値を保つように選択される(但し、炭素含有量は通常若干低下する。少量のメタンが生成し得る故である)。このようにして、SiCN系セラミック繊維を得ることができる。この繊維は、場合によっては公知の処置を用いてSiC系繊維もしくはSiN系繊維に転換させることができる。例えば、この繊維を1450℃以上に過熱すればSiCが生成し、アンモニア雰囲気中で熱分解し、炭素からメタンを生成させればSiNが得られる。
【実施例】
【0059】
以下に示す実施例は、本発明をより詳細に説明するものである。記載されている当量比は、(ビニル基またはアクリル基の)二重結合に基づく。
【0060】
例1:ジビニルテトラメチルジシラザン(DVTMDS)とアクリロニトリル(ACN)の当量比1:1での反応
窒素雰囲気下で、1.59g(8.6mmol)のDVTMDSと、0.91g(17.2mmol)のACNと、2.5gのジメチルホルムアミド(DMF)とを、バブルカウンター付き還流冷却器、ガス供給管及び磁気撹拌機を備えた三つ口フラスコ中で混合する。この混合物に37.5mgのアゾイソブチロニトリル(AIBN)を加え、次いで5時間、75℃で撹拌する。見かたにより濃黄色ないし琥珀色の溶液が得られる。ラマンスペクトルによれば、シラザンに由来するビニル基の二重結合は、ほぼ完全に消失している。
【0061】
例2:ジビニルテトラメチルシラザンとアクリロニトリルの当量比1:4での反応
窒素雰囲気下で、0.76g(4.1mmol)のDVTMDSと、1.74g(32.8mmol)のACNと、2.5gのジメチルホルムアミド(DMF)とを、バブルカウンター付き還流冷却器、ガス供給管及び磁気撹拌機を備えた三つ口フラスコ中で混合する。この混合物に37.5mgのアゾイソブチロニトリル(AIBN)を加え、次いで5時間、75℃で撹拌する。見かたにより濃黄色ないし琥珀色の溶液が得られる。ラマンスペクトルによれば、シラザンに由来するビニル基の二重結合は、ほぼ完全に消失している。
【0062】
例3:50モル%のジクロロビニルメチルシランと50モル%のジクロロジメチルシラン(VML50)の混合物のアンモノリシスによって得られるシラザンとアクリロニトリルのモル比1:1での反応
窒素雰囲気下で、1.82gのVML50と、0.61gのACNと、2.5gのジメチルホルムアミド(DMF)とを、バブルカウンター付き還流冷却器、ガス供給管及び磁気撹拌器を備えた三つ口フラスコ中で混合する。この混合物に75mg(0.46mmol)のアゾイソブチロニトリル(AIBN)を加え、次いで5時間、75℃で撹拌する。黄色で高粘度の溶液が得られる。
【0063】
例4:50モル%のジクロロビニルメチルシランと50モル%のジクロロジメチルシラン(VML50)の混合物のアンモノリシスによって得られるシラザンとアクリロニトリルのモル比1:4での反応
窒素雰囲気下で、1.04g(0.66mmol当量)のVML50と、1.39g(26.1mmol)のACNと、2.5gのジメチルホルムアミド(DMF)とを、バブルカウンター付き還流冷却器、ガス供給管及び磁気撹拌器を備えた三つ口フラスコ中で混合する。この混合物に75mg(0.46mmol)のアゾイソブチロニトリル(AIBN)を加え、次いで5時間、75℃で加温する。2時間よりもはるかに短時間で、すでにゲル生成のために撹拌不可能になる。黄色のゲル状物が得られる。
【0064】
例5:繊維の製造
ビニルシラザンとアクリロニトリルの重合によって得られる重合体から溶媒を除去し加温すれば、粘性の溶融物が得られる。この溶融物を、直径200〜300μmの噴出口を数百個有するノズルプレートを通じて押し出す。生成する糸状物は常温の室内を、重力によって下向きに降下する。繊維の末端は捉えられ、繊維の束は引っ張られつつ回転しているローラーに巻き取られる。それにより、繊維は約10〜30μmの太さに延伸される。
【0065】
例6:繊維の後架橋
実施例5で得られた繊維を、200KGyの電子線照射に曝す。その後、繊維は熱硬化性となり、もはや溶融し得ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アクリロニトリルと、
(ii)少なくとも1種のモノマー態、オリゴマー態及び/またはポリマー態のシラザンと
を共に転化させることにより得られる共重合体であって、該シラザンが少なくとも1個のビニル型二重結合を含むことを特徴とする共重合体。
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体であって、前記シラザンが、一般式(I):
【化1】


一般式(II):
【化2】


または一般式(III):
【化3】


のシラザンから選択されるものであり、
ここで、
(a)Rは、アルケニル基であり;
は、水素、または直鎖、分岐鎖もしくは環状の置換もしくは無置換アルキル基、Rと同一かもしくはそれと異なるアルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基またはアリールアルケニル基を表わし、かつ置換基R及びRのそれぞれは、m及び/またはoが1よりも大きい場合、異なる構造単位内では異なる意味もしくは同一の意味を持ち、
2’及びR3’は、同一であるか異なっており、直鎖、分岐鎖もしくは環状の置換もしくは無置換アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基またはアリールアルケニル基を表わし、かつ置換基R2’及びR3’のそれぞれは、n及び/またはoが1よりも大きい場合、異なる構造単位内では異なる意味もしくは同一の意味を有し、
あるいは、
(b)少なくとも1個の残基R及び1個の残基R3’が存在するならば、R及びR2’は上に述べた意味を持ち、残基R及びR3’の(i)すべてまたは(ii)それぞれの一部が一体となって1個の無置換または置換の直鎖または分岐鎖アルキル基を形成し、かつ(ii)の場合には、残基R及びR3 ’の残り部分が上記(a)に述べた意味を有しており、
またここで、
及びR4’は、アルキル基、フェニル基または水素を表わし、その場合、式(I)〜式(III)それぞれの分子中にある複数個の残基R及びR4’は同じであっても異なっていても良く;
及びRは、同一であるか異なっており、かつRまたはRと同一の意味を有しており、その場合、Rは、さらにSi(R)(R2’)(R3’)を表わしても良く;あるいは、R及びRは、一体となって1個の単結合を形成し;
は、Si(R)(R2’)−X−R−Si(R(OR2’3−q[式中のXは、OまたはNRを意味する]を表わし、Rは、単結合、または置換もしくは無置換の、直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキレン基を表わし、かつqは0、1、2または3であることができ;
Pは、1〜12個の炭素原子を有するアルキレン基であり;
m及びpは、互に独立して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11〜25000の整数を表わし;
n及びoは、互に独立して0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11〜25000の整数を表わし;
その場合、角括弧に囲まれている構造単位は、規則的に、ランダムに、またはブロック状に、それぞれの分子中に分布することができる、共重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の共重合体であって、アクリロニトリル及びシラザンのみから得られることを特徴とする共重合体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の共重合体であって、
(i)アクリロニトリル及びアクリロニトリルと共重合し得る有機分子の混合物であって、この有機ポリマーが混合物中に最高20重量%の分量で存在する混合物と、
(ii)モノマー態、オリゴマー態及び/またはポリマー態のシラザンであって、該シラザンが少なくとも1個のビニル型二重結合を含むシラザンと
の転化によって得られることを特徴とする共重合体。
【請求項5】
請求項4に記載の共重合体であって、前記有機分子がスチレン、ブタジエン、ビニルカルバゾール、及びこれら3種の分子の内いずれか2種の混合物、またはすべての混合物から選択されるものであることを特徴とする共重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の共重合体であって、充填剤が充填されていることを特徴とする共重合体。
【請求項7】
繊維状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項8】
非溶融性であることを特徴とする請求項7に記載の共重合体。
【請求項9】
セラミック繊維の製造のための、請求項8または9のいずれかに記載の繊維状共重合体の使用。
【請求項10】
請求項1に記載の共重合体を製造する方法であって、
(i)アクリロニトリルと、
(ii)少なくとも1種の、モノマー態、オリゴマー態及び/またはポリマー態であり、かつ少なくとも1個のビニル型二重結合を含むシラザンと、
を溶媒中に溶解し、ラジカル重合用触媒を用いて共重合させることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、溶媒に充填剤を添加することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の共重合体から繊維を製造する方法であって:
(A)(i)アクリロニトリルと、
(ii)少なくとも1種のモノマー態、オリゴマー態及び/またはポリマー態であり、少なくとも1種のビニル型二重結合を含むシラザンと
を溶媒に溶解し、ラジカル重合用触媒を用いて共重合せしめ;
(B)得られた共重合体溶液から溶媒を分離し;
(C)上記(B)に従って得られた生成物が室温で液状もしくは粘性でないならば、溶融物に変換し;次いで
(D)前記生成物またはそれから得られた溶融物を1個または複数個の噴出口を通して押し出すこと
を特徴とする方法。
【請求項13】
押し出された繊維が、次いで非溶融性に変えられることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
繊維が電子線照射によって非溶融性に変えられることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
SiCN系セラミック繊維を製造する方法であって、請求項13または14のいずれかに記載の方法で製造された非溶融性繊維を、酸素を含まない雰囲気下で熱分解することを特徴とする方法。
【請求項16】
SiC系セラミック繊維を製造する方法であって、請求項15に記載の方法によって製造されたSiCN系セラミック繊維を1450℃以上で加熱することを特徴とする方法。
【請求項17】
SiN系セラミック繊維を製造する方法であって、請求項15に記載の方法によって製造されたSiCN系セラミック繊維をアンモニア雰囲気中で熱分解することを特徴とする方法。

【公表番号】特表2013−513683(P2013−513683A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542542(P2012−542542)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069196
【国際公開番号】WO2011/070081
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(305036159)フラウンフォーファー−ゲゼルシャフト ズール フェルデルンク デル アンゲヴァンデッテン フォルシュング エ ファウ (2)
【出願人】(397054015)クラリアント ファイナンス (ビーブイアイ) リミティド (9)
【Fターム(参考)】