説明

特定物質の濃度プロファイル測定方法およびこれを用いた拡散係数の測定方法

【課題】コンクリート構造物内部の特定物質について、精度良く濃度プロファイルを測定する。
【解決手段】特定物質の濃度プロファイル測定方法は、コンクリート構造物10からコンクリートコア50を採取し、放射線の照射により発生する特性X線を検出し、コンクリートコア50における特定物質の濃度プロファイルを測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法であって、コンクリート構造物の一つの採取箇所から採取されるコンクリートコア50の直径Dmmと本数nとが、30≦D・nおよびD≦50の関係を満たす。これにより、精度良く特定物質の濃度プロファイルを求めることができる。たとえば、直径10mmのコンクリートコア50で特定物質の濃度プロファイル測定を行う場合には、コンクリートコア50を3本以上採取すればよく、25mmのコンクリートコア50で濃度測定を行う場合には、2本以上採取すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物のコンクリート中に存在する特定物質の濃度プロファイルを測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法およびこれを用いた拡散係数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中のコンクリートは時間の経過とともに劣化し、場合によってはその劣化はコンクリート構造物の強度や耐久性に重大な影響を与えうる。コンクリート構造物がおかれる環境により凍害、塩害、中性化など種々の原因でコンクリートは劣化するが、その中でも重要視されているものに塩害およびアルカリ骨材反応がある。塩害は、コンクリート内部へ塩化物イオンが侵入することにより発生する。また、アルカリ骨材反応は、細孔溶液成分とシリカ成分が反応して生成されたゲルが吸水し膨張することにより発生する。
【0003】
このようなコンクリートの劣化原因を調査するために、コンクリートの断面をEPMAで分析し、所定の物質の濃度プロファイルを測定する方法がある(特許文献1参照)。たとえば、特許文献1記載の測定方法は、直径10〜100mm程度の試料コア(3本以上)の断面を多数のピクセルに区画し、ピクセルごとに少なくともSiO濃度、CaO濃度、SO濃度のいずれかの濃度を測定し、組織を判定している。そして、ペースト部分と判定された部分の目的元素濃度に基づいて濃度プロファイルを求め、この濃度プロファイルに基づいて目的元素の拡散係数を求めている。
【特許文献1】特開2005−274551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような目的元素の濃度プロファイルを測定する方法では、できるだけ直径の大きい試料コアを多数採取する方が得られるデータが多くなるため濃度プロファイルを精度良く測定することができる。しかしながら、試料コアを採取するためにはコンクリート構造物を削孔する必要があり、試料コアの直径が大きいほど、そして採取本数が増加するほど採取がコンクリート構造物に与える損傷は大きくなる。つまり、損傷を許容範囲に抑えるためには、試料コアの直径を小さくし、採取本数を少なくする必要が生じる。
【0005】
本発明者らは、従来問題となっているコア採取時のコンクリート構造物の躯体損傷や鉄筋切断の危険性およびコア採取跡の補修作業の手間を軽減するため、小径のコンクリートコアを用いることを考案した。しかし、小径のコンクリートコアの使用によって分析精度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物に与える損傷をできるだけ小さくして、効率的な作業を可能にし、コンクリート構造物内部の特定物質について、精度良く濃度プロファイルを測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る特定物質の濃度プロファイル測定方法は、コンクリート構造物からコンクリートコアを採取し、放射線の照射により発生する特性X線を検出し、前記コンクリートコアにおける特定物質の濃度プロファイルを測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法であって、前記コンクリート構造物の一つの採取箇所から採取されるコンクリートコアの直径Dmmと本数nとが、30≦D・n、およびD≦50の関係を満たすことを特徴としている。
【0008】
このように、本発明の特定物質の濃度プロファイル測定方法では、コンクリートコアの直径Dmmと本数nとが、30≦D・n、およびD≦50の関係を満たすようにコンクリートコアを採取し濃度測定を行う。これにより、精度良く特定物質の濃度プロファイルを求めることができる。たとえば、直径10mmのコンクリートコアで濃度測定を行う場合には、コンクリートコアを3本以上採取すればよく、25mmのコンクリートコアで濃度測定を行う場合には、2本以上採取すればよい。その結果、精度の高い濃度プロファイルを得ることができる。また、これらのようにD≦50の小径のコアを用いることにより、コンクリート構造物に与える損傷を抑制できる。なお、特定物質とは、コンクリート中に拡散する物質(単体、化合物、イオン)であり、たとえば塩化物イオン、硫酸等のコンクリートを劣化させる因子である。また、「D・n」とは、Dとnとの乗算であることを意味する。
【0009】
(2)また、本発明に係る特定物質の濃度プロファイル測定方法は、コンクリート構造物のコンクリート中に存在する特定物質の濃度プロファイルを測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法であって、前記コンクリート構造物から直径Dmmのコンクリートコアをn本採取する採取工程と、前記採取されたn本のコンクリートコアをそれぞれ前記コンクリート構造物の深さ方向に対応する方向に沿った面で切断する切断工程と、前記切断工程により得られる切断面を測定面として、放射線を照射し発生する特性X線を検出し、前記特定物質の濃度プロファイルを測定する濃度プロファイル測定工程と、を有し、前記コンクリート構造物の一つの採取箇所から採取されるコンクリートコアの直径Dmmおよび本数nが、30≦D・n、およびD≦50の関係を満たすことを特徴としている。
【0010】
このように、本発明の特定物質の濃度プロファイル測定方法では、コンクリートコアの直径Dmmと本数nとが、30≦D・n、およびD≦50の関係を満たすようにコンクリートコアを採取し、放射線を照射し発生する特性X線を用いて濃度プロファイルを測定する。これにより、精度良く特定物質の濃度プロファイルを求めることができる。
【0011】
(3)また、本発明に係る特定物質の濃度プロファイル測定方法は、前記採取されるコンクリートコアの直径Dmmおよび本数nが30≦D・n≦100、および5≦D≦50の関係を満たすことを特徴としている。この範囲内の直径および本数のコンクリートコアを採取することにより、効果的かつ実用的にコンクリート構造物の損傷防止、効率的な作業および精度の良い測定を可能にする。
【0012】
(4)また、本発明に係る拡散係数の測定方法は、上記の特定物質の濃度プロファイル測定方法で測定された前記特定物質の濃度プロファイルに基づき、拡散方程式を用いて前記特定物質の見掛けの拡散係数を算出するとしている。これにより、コンクリート構造物内部に拡散する特定物質の拡散係数を効率よく精度良く求めることができる。その結果、たとえば塩化物イオンの拡散係数を算出し、コンクリートに対する塩害の進行状況を調査し、早い段階でコンクリート構造物の寿命を予測することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート構造物に与える損傷をできるだけ小さくして、効率的な作業を可能にし、コンクリート構造物内部の特定物質について精度良く濃度プロファイルを測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。本発明に係るコンクリート構造物10のコンクリート中に存在する特定物質の濃度プロファイル(濃度分布)を測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法およびこれを用いた拡散係数の測定方法について、その工程を、順を追って説明する。
【0015】
まず、コンクリート構造物10の測定対象領域から、一つの採取箇所につきコンクリートコア50を複数本採取する(採取工程)。図1は、コンクリートコア50を採取されるコンクリート構造物10の斜視図である。図1の白抜きの矢印は、削孔方向を示しており(図2においても同様)、削孔方向はコンクリート構造物10の表面に垂直な方向、すなわち深さ方向である。図1に示すように、採取工程では、たとえば直径10mmのコンクリートコア50を3本採取する。あるいは直径25mmのコンクリートコア50を2本採取してもよい。このように採取されたコンクリートコア50の直径をDmm、本数をn本とすると、コンクリートコア50の直径Dmmおよび本数nが30≦D・n(nは整数)およびD≦50の関係を満たすように採取する。これにより、少ない採取量にもかかわらずコンクリート構造物におけるコンクリート中の特定物質の濃度プロファイルを精度良く測定することが可能となる。
【0016】
この場合に、採取したコンクリートコアを深さ方向に切断して得られる測定面(切断面)の幅の合計が30mm以上になるようにコンクリートコア50を切断することが好ましい。たとえば、直径10mmのコンクリートコア50を3本採取する場合には、各コンクリートコア50をその中心軸を含む平面で切断する。この場合、一つの測定面の幅は直径と同じ10mmであるので、切断面の幅の合計は30mm(10mm×3本)となる。
【0017】
なお、コンクリートコア50を、その中心軸を含む面で切断しなくても、切断面の幅を合計で30mm以上にすれば、上記の場合と同程度の精度で濃度プロファイル(濃度分布)および拡散係数を測定することができる。その場合には、中心軸に平行な面で切断することが好ましい。この関係を数式で表すと、30≦ΣWである。この数式では、コンクリートコア50の切断面の幅、すなわち特定物質の浸透方向に垂直な方向の幅をWmmと表している(図3(b)に示すW参照)。ΣWが30に満たないと測定領域における面方向の情報が不足する場合があるので好ましくない。ただし、採取したコンクリートコア50を最小採取本数で最大限に活用するためには、中心軸を含む面で切断するのが好ましい。このような観点において、上記の30≦D・nの限定は採取すべきコンクリートコア50の最小本数を決める条件となっている。
【0018】
採取の際には、あらかじめ目視点検等の予備調査の結果から測定対象領域および採取位置を定めて採取を行う。目視点検とは、コンクリート構造物の劣化診断のために行う調査である。目視点検には、たとえばひび割れ、変色等の目視観測、打音測定等が挙げられる。予備調査の結果に基づき、コンクリート構造物10の測定対象領域のコンクリート表面上において、環境条件が同一であると判断される領域に仮想的に円20を定め、その円20の内側からコンクリートコア50を複数本採取する。これにより、コンクリート構造物10の測定対象領域について所定の条件を満たした濃度プロファイルを精度良く測定することができる。また、測定対象領域(同一状況にあると判断される領域)の中心を上記の円の中心とすることが好ましい。所定の条件の詳細については後述する。図1は、中心40から半径25mmの円30の円周上で削孔する例を示している。
【0019】
なお、コンクリートコア50を3本以上採取する際にその採取位置が同一直線上に存在しないように採取するのが好ましい。これにより、採取の対象とされるコンクリート構造物10への損傷をさらに低減することができる。また、測定対象領域が広い場合には、上記の円20を複数定めてもよい。なお、上記の例では、中心軸に平行な面でコンクリートコア50を切断するが、中心軸に対して傾いた面で切断してもよい。たとえば、コンクリート構造物10内の鉄筋を避けるためにその表面に垂直な方向から傾いた方向に削孔する場合もある。そのような場合には、採取元のコンクリート構造物10の深さ方向に対応する方向に沿った面で採取されたコンクリートコア50を切断する。
【0020】
このようにして、特定物質の濃度プロファイルや拡散係数を精度良く測定するために、必要な小径のコンクリートコア50を効果的に採取することができる。従来採取していた大径のコンクリートコア50に比べて小径のコンクリートコア50を適切な本数採取することで、コンクリート構造物10に与える損傷を小さくできる。図2(a)、(b)は、コンクリートコア50採取後のコンクリート構造物10を示す正面図および側断面図である。図2(b)は、図2(a)の断面2bを実線矢印の方向から見た図である。図2(a)、(b)に示す従来多く用いられている直径100mmのコンクリートコア50の採取孔91は、コンクリート部分70の測定のためにコンクリート構造物10内部の鉄筋80まで削り取っていることを示している。
【0021】
一方、本発明の直径25mmのコンクリートコア50の採取孔92は、鉄筋80を避けたコンクリート部分70のみの削孔が可能であることを示している。採取するコンクリートコア50の径は5mm以上50mm以下が好ましい。5mmより小さいとコンクリートコア50を採取し難くなる。また、採取するコンクリートコアの本数は、上記の関係式を満たせば少ない方が好ましく、通常2〜4本である。より好ましくは、30≦D・n≦100、5≦D≦50、および2≦n≦4の関係を満たすよう採取することが好ましい。
【0022】
加えて、コンクリートコア50を複数本採取する場合には、上述のように環境条件が一致すると判断される範囲で採取するのが好ましい。たとえば、温度の影響によって塩化物イオンの浸透速度が異なるため、北面および南面のそれぞれから複数本のコンクリートコアを採取して各面を評価する。また、両方から採取可能であっても環境条件が一致すると判断される一方のみから採取する場合もある。その他、塩化物イオンが水で洗い流されることを考慮し、雨がかり等の水分供給の条件が同じ範囲から採取する。また、海岸面か、陸側面か、融雪剤(凍結防止剤)の供給の有無等についてもなるべく条件の一致する範囲を選ぶ。
【0023】
その他、劣化状況が同等である範囲からコンクリートコア50を採取するのが好ましい。たとえば、ひび割れがないことや気泡が極端に多くないこと、見た目の色が同じことを条件に採取範囲を選ぶことが好ましい。
【0024】
また、削孔によるコンクリートコア50の採取は従来と同様の方法で行う。採取装置としては、コアマシン(シブヤ社製のダイモドリル(登録商標)TS−132など)が挙げられる。コアマシンを用いる場合には、たとえば、アンカーを中心に半径30cm程度の円周上でコアマシンを1回転移動させると、1つのアンカーでコアを複数本採取できる。このとき、鉄筋の位置をレーダーで確認し、コンクリート表面の対応箇所に白線などで印を付けて置くことが好ましい。上記のような条件下で鉄筋を避けて直径100mmの大径のコンクリートコア50を採取する場合には、採取位置が制限され、経験上、ほとんどの場合において採取できるコンクリートコア50は1本程度である。一方、採取するコンクリートコア50の直径が25mmの小径コアであれば、数cm間隔で複数本を採取できる。
【0025】
なお、採取するコンクリートコア50の長さは、コンクリート構造物内の特定物質が影響する位置、拡散係数の正確性、経験等の要素によって決められる。たとえば、塩害調査のためにコンクリートコア50を採取する場合、鉄筋位置の塩化物イオン濃度が重要となる。したがって、採取するコンクリートコア50の長さは鉄筋かぶり(表面から鉄筋までの距離)以上とすることが好ましい。また、拡散係数を算出する場合、塩化物イオン濃度が一定となる範囲(たとえば、図5の45〜50mm付近)を測定する必要があり、この範囲をカバーできる長さのコンクリートコア50を採取するのが好ましい。一方、コンクリートコア50の長さに上限はない。経験的にコンクリートコア50の長さは15cm以下とすることが好ましい。
【0026】
次に、採取されたn本のコンクリートコア50を、それぞれ中心軸を含むあるいは中心軸に平行な切断面53で切断し(切断工程)、2本の試料51、52に分割する。図3(a)、(b)は、切断されたコンクリートコア50および分割後の試料51を示す斜視図である。なお、コンクリートコア50が長い場合には、扱い易くするため中心軸に垂直な方向に切断してもよい。
【0027】
次に、切断工程により得られる切断面53を測定面として、放射線を照射し発生する特性X線を検出し、面分析を行い、特定物質の濃度プロファイルを測定する(濃度プロファイル測定工程)。図4は、EPMAにより分析された切断面53の表示画面例60を示す図である。EPMA(電子線マイクロアナライザ)等の装置を用い、電子線の試料への照射により、発生する特性X線を検出する。このような面分析の結果、切断面53上の特定物質の濃度プロファイルを検出することができる。図4の表示画面例60に示すように、分析結果では切断面53の位置に対応してペースト対応領域61と骨材対応領域62とを区分できる。これを利用し、骨材対応領域62を避けて特定物質の濃度プロファイルを測定し、正確な濃度プロファイルを得ることができる。
【0028】
図5は、EPMAによる分析結果を示す濃度プロファイルの一例である。図5に示す濃度プロファイルは、直径25mm、長さ60mmのコンクリートコア50の切断面53における塩化物イオンの濃度(重量%)を測定して得られたものである。具体的には、塩化物イオンの測定と同時にSiO、CaO、SOも測定し、ペースト部の領域を判定することで、ペースト部の塩化物イオンを分析する。そして、EPMAの分析結果に基づいて実測値から初期値を引くことで塩化物イオン濃度が得られる。コンクリートコア50の切断面を多数のピクセルに区画してピクセルごとに塩化物イオン濃度を測定する。
【0029】
図5に示す濃度プロファイルは、切断面をX軸方向(図上横方向)とY軸方向(図上縦方向)の升目に区画し、各々のピクセルについて、図示する濃度区分ごとに塩化物イオン濃度を表示したものである。なお、試料断面の大きさは、例えば各辺が約5cmであって、断面内の各ピクセルの大きさはX軸0.1mm、Y軸0.1mmである。詳細は特開2005−274551に開示される方法に準ずる。EPMAを用いれば、切断面53のコンクリート深さ方向について0.1mm間隔で塩化物イオン等の特定物質の濃度を測定することができるので精度の良い濃度プロファイルの測定ができる。また、コンクリート表面に劣化兆候の現れていない若い材齢のコンクリート構造物に対しても、特定物質に起因する劣化を早期の段階で予測できる。
【0030】
劣化兆候が現れるのは、塩害がかなり進行した段階である。一般に、鉄筋位置で腐食発生限界塩化物イオン濃度(1.2〜2.5kg/m)に達すると、鉄筋に錆が生じる。鉄筋に錆が生じると鉄筋は膨張し、この膨張圧によってコンクリート表面にひび割れが生じる。しかし、初期段階では、塩化物イオンの浸透が浅いため、外観に変化は生じない。EPMAは分解能が高く、コンクリート表面部にしか存在しない塩化物イオン等の濃度プロファイルが精度良く測定できる。したがって、早期の段階でも劣化予測を行うことが可能である。
【0031】
得られた測定値には異常なものも含まれているので、正常である条件を満たす値のみを採用値とし、その他は不採用値として測定値の濃度プロファイルを得る。このようにして、塩化物イオンが流出しているコンクリート構造物10の表層付近の異常なデータを棄却できるため、測定精度を向上できる。なお、複数本のコンクリートコアを用いて分析をする場合には、同一深さの塩化物イオン濃度の平均値を用いて分析することができる。その他、個々の濃度プロファイルデータから拡散係数を算出し、拡散係数を平均化する方法もある。なお、測定手段はEPMAに限らず、放射線の照射により特性X線を発生するものであれば他の手段を用いても良い。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)、X線分析顕微鏡、オージェ電子分光法(AES)、X線光電子分光分析法(XPS,ESCA)、二次イオン質量分析法(SIMS,IMA)等が利用できる。
【0032】
次に、特定物質の濃度プロファイル測定方法で測定された特定物質の濃度プロファイルに基づき、拡散方程式を用いて特定物質の見掛けの拡散係数を算出する(拡散係数算出工程)。具体的には、拡散方程式に基づいた関数を測定値にフィッティングすることで、図5に示すような解析値の曲線を得ることができる。なお、複数本のコンクリートコアを用いて分析をする場合には、個々の拡散係数を算出し、これらの平均値を算出することもできる。
【0033】
特定物質の濃度のプロファイルに基づき、特定物質の浸透を拡散とみなすことで拡散係数を算出できる。すなわち、式〔1〕に示す拡散方程式の解析解を、非線形最小二乗法を用いて拡散係数Daおよび表面濃度Coを可変パラメータとしてフィッティングさせることによって、特定物質の濃度プロファイルの拡散係数Daおよび表面濃度Coを算出することができる。
C=Co〔1−erf(x/2√Da・t)〕……〔1〕
〔式中、C:深さx(cm)、時刻t(sec)における塩化物イオン濃度(mass%、dry試料)、Co:表面における塩化物イオン濃度(mass%、dry試料)、D:見掛けの拡散係数(cm/sec)、erf:誤差関数である。〕
【0034】
このようにして拡散係数を算出することができ、特定物質の拡散状況を把握することができる。また、このようにして算出した拡散係数からコンクリート構造物10の寿命予測を行うこともできる。寿命予測は、たとえば鉄筋位置の塩化物イオン濃度が、鉄筋の腐食発生限界塩化物イオン濃度(コンクリート中の塩化物イオン濃度=1.2〜2.5kg/m)に達したかどうかで判断する。なお、EPMAでは、塩化物イオン濃度はペースト部の質量パーセントで出力されるため、コアを採取した躯体コンクリートの配合表からペースト量を算出し、コンクリート中の塩化物イオン濃度に換算する。このように小径のコアを用いることで、コンクリート構造物に与える損傷を抑えつつ、特定物質の拡散係数を精度良く求めることができる。
【実施例】
【0035】
上記に示した方法を利用してコンクリートコア50を採取し、EPMAを用いて特定物質として選択した塩化物イオンの拡散状況を検出する実験を行った。以下に実験を行なう条件および実験の結果を説明する。
【0036】
実験に使用したコンクリート試験体の配合を下表に示す。目標スランプは12cm、目標空気量は4・0%とした。なお、セメントは普通ポルトランドセメント、粗骨材は砕石2005、減水剤は、高性能減水剤を使用した。
【表1】

【0037】
コンクリート試験体の寸法は1200×1200×1000mmの板体とした。コンクリート試験体への塩化物イオン浸透方法は、0.2NaCl溶液を1200×1200mmの面に週3回、1年10ヶ月間散布した(NaCl散布量40g/m)。コアはコンクリート試験体の塩化物イオンを浸透させた1200×1200mm面から垂直に採取した。直径25mmおよび直径10mmのコンクリートコア50をそれぞれ上記の面に描いた直径100mmの円内の範囲から複数本採取した。
【0038】
採取されたコンクリートコアを採取元のコンクリート構造物の深さ方向に対応する方向に切断し、切断面を測定面とした。円柱の軸を通る切断面53でコンクリートコア50を切断し、EPMAで面分析を行った。試料調整および分析方法は、JSCE−G574−2005に従った。測定面は、塩化物イオンの浸透面から深さ50mm程度、深さ方向の幅は各試料の直径を基本とした。分析条件は、ピクセルサイズ100μm、プローブ径50μm、電流値0.1μA、加速電圧15kV、単位測定時間40msとした。測定する特定物質は、Clとした。Clの濃度プロファイルは、JSCE−G574−2005の付属書3に準拠して深さ方向1mmの分解能で作成した。拡散係数の算出方法は、JSCE−G572−2003の方法に準拠して行った。
【0039】
図6(a)は、直径25mmのコンクリートコア50の採取本数と測定された拡散係数との関係を示すグラフ、(b)直径10mmのコンクリートコア50の採取本数(測定本数)と測定された拡散係数との関係を示すグラフである。小径のコンクリートコア50の採取本数を増加して、それぞれ得られる拡散係数の平均値を算出することにより、拡散係数が一定値に近づく傾向が示された。直径10mmのコンクリートコア50を採取した場合、3本以上採取することで拡散係数が一定値に収束した。また、直径25mmのコンクリートコア50を採取した場合、2本以上採取することで拡散係数が一定値に収束した。直径10mmのコンクリートコア50を採取する場合には3本以上、直径25mmのコンクリートコア50を採取する場合には2本以上採取することにより精度良く拡散係数を算出できることが実証された。直径が10mmや25mmの小径コアを用いても、採取本数を適切に選びEPMAを用いて測定すれば、精度の良い特定物質の濃度プロファイルや拡散係数が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】コンクリートコアを採取されるコンクリート構造物の斜視図である。
【図2】(a)、(b)コンクリートコア採取後のコンクリート構造物を示す正面図および側断面図である。
【図3】(a)、(b)切断されたコンクリートコアおよび分割後の試料を示す斜視図である。
【図4】EPMAにより分析された切断面の表示画面例を示す図である。
【図5】EPMAによる分析結果を示す濃度プロファイルの一例である。
【図6】(a)、(b)コンクリートコアの採取本数と測定された拡散係数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
10 コンクリート構造物
20、30 円
40 中心
50 コンクリートコア
51 試料
53 切断面
60 表示画面例
61 ペースト対応領域
62 骨材対応領域
70 コンクリート部分
80 鉄筋
91、92 コンクリートコアの採取孔
Co 表面濃度
Da 拡散係数
D 直径
n 本数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物からコンクリートコアを採取し、放射線の照射により発生する特性X線を検出し、前記コンクリートコアにおける特定物質の濃度プロファイルを測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法であって、
前記コンクリート構造物の一つの採取箇所から採取されるコンクリートコアの直径Dmmと本数nとが、30≦D・n、およびD≦50の関係を満たすことを特徴とする特定物質の濃度プロファイル測定方法。
【請求項2】
コンクリート構造物のコンクリート中に存在する特定物質の濃度プロファイルを測定する特定物質の濃度プロファイル測定方法であって、
前記コンクリート構造物から直径Dmmのコンクリートコアをn本採取する採取工程と、
前記採取されたn本のコンクリートコアをそれぞれ前記コンクリート構造物の深さ方向に対応する方向に沿った面で切断する切断工程と、
前記切断工程により得られる切断面を測定面として、放射線を照射し発生する特性X線を検出し、前記特定物質の濃度プロファイルを測定する濃度プロファイル測定工程と、
を有し、
前記コンクリート構造物の一つの採取箇所から採取されるコンクリートコアの直径Dmmおよび本数nが、30≦D・n、およびD≦50の関係を満たすことを特徴とする特定物質の濃度プロファイル測定方法。
【請求項3】
前記採取されるコンクリートコアの直径Dmmおよび本数nが30≦D・n≦100、および5≦D≦50の関係を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2記載の特定物質の濃度プロファイル測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の特定物質の濃度プロファイル測定方法で測定された前記特定物質の濃度プロファイルに基づき、拡散方程式を用いて前記特定物質の見掛けの拡散係数を算出することを特徴とする拡散係数の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−276291(P2009−276291A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129946(P2008−129946)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(398043285)株式会社太平洋コンサルタント (20)
【Fターム(参考)】