説明

現像ローラおよび現像ローラ製造プロセスの良否判定方法

【課題】弾性層の外周面を研磨しなくとも、良好な画像を形成することのできる現像ローラを提供するともに、現像ローラの製造プロセスが、良好な画像を形成できる現像ローラを形成することのできるものであるか否かを判定する現像ローラ製造プロセス判定方法を提供する。
【解決手段】現像ローラ10は、その回転中心軸周りの回転角θ(度)に対する、回転中心軸から外周面までの半径方向距離をr(θ)としたとき、特定の式によって求められる値Sが、0.1〜50の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置において現像剤を感光ドラム等の潜像担持体に供給する現像ローラに関し、特に、弾性層の外周面を研磨しなくとも、良好な画像を形成することのできるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機やプリンタ等の画像形成装置においては、感光ドラム等の潜像担持体の表面に形成された潜像を顕像化するため、軸部材の周囲に弾性層を配置した現像ローラを用いて、その周面から感光ドラム上に現像剤を供給することが行われている。
【0003】
そして、このような現像ローラとしては、感光ドラムとの柔らかな接触を確保するため弾性層をフォーム体で構成したものが知られている。このような、軸部材の周囲にフォーム体よりなる弾性層を形成する方法としては、軸部材を発泡性のポリウレタン材料中に配置し、次いでこれをオーブン中で加熱させて発泡硬化させたあと、硬化した弾性層を研磨して形成する方法が知られているが、現像ローラの仕上がり断面を円形にするための研磨装置が必要なだけではなく、研磨するために予め大きな余分な大きさの弾性層を形成しておかねばならず、そのための材料が無駄になり、また、研磨によって大量の廃棄物がでてしまう等の問題があった。
【0004】
これに代わる現像ローラの形成方法として、軸部材を円筒状の金型内に配置し、軸部材の周囲にフォーム体材料を注入したあと、金型内で加熱して硬化させる方法も提案されている。
【特許文献1】特開2004−44038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金型による成型方法は、図1に、金型の断面の概略図として示すように、円筒状金型の中央に軸部材を配置し、金型内周面と、軸部材とに囲まれた筒状の空間の軸方向両端をキャップで区画し、この中に、キャップに設けられた注入口からフォーム体材料を注入して前記キャビティを充満させたあと、これ加熱して硬化させて行われる。
【0006】
この材料を注入する過程において、材料は軸の一方から注入されるため、注入口が複数個ある場合には、隣接する口から注入したそれぞれの材料は、周方向両側から合流し、また、注入口が一つの場合でも、注入口から注入された材料は軸部材によって二つに分岐されたあと再び合流することになり、弾性層の外周面上にいわゆるウェルドラインを形成し、このようなウェルドラインの近傍において、材料は周囲とは異なる物性を有するので、外周面の物性が不均一となり、このローラを用いて現像した場合には、前記ウェルドラインの周期と同じ周期で並んだ細かい横スジが印刷画像に発生し画像不良の原因となってしまうという問題があった。
【0007】
したがって、この場合にも、研磨代を設定してその分だけ予め大きめに金型成形品を形成し、その後、不均一な外周面部分を研磨することが行われている。しかしながら、この方法は、金型を用いない方法に対比して、材料の無駄を少なくはできるが研磨工程を省くことはできず、改善が求められていた。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、弾性層の外周面を研磨しなくとも、良好な画像を形成することのできる現像ローラを提供するともに、現像ローラの製造プロセスが、良好な画像を形成できる現像ローラを形成することのできるものであるか否かを判定する現像ローラ製造プロセス判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1>は、軸部材の半径方向外側にフォーム体よりなる弾性層を配設し、この弾性層の外周面を金型成形により形成してなる現像ローラにおいて、
現像ローラの回転中心軸周りの回転角θに対する、回転中心軸から外周面までの半径方向距離をr(θ)としたとき、式(1)〜(8)によって求められる値Sが、0.1〜50の範囲にあることを特徴とする現像ローラ。


ただし、pは周期(度)を、Nは360°を等分に分割する際の分割数を、nはNより小さな自然数を、それぞれ表し、f(θ)max、 f(θ)minは、0〜360度のθに対するf(θ)の最大値、および、最小値をそれぞれ表し、xmax、ymaxは、0〜180度の周期pに対するx、yの最大値をそれぞれ表す。
【0010】
<2>は、<1>において、前記弾性層は、気泡を予め分散させた液状材料を、円筒状金型内に配置された前記軸部材の周囲に注入して形成されることを特徴とする現像ローラである。
【0011】
<3>は、<1>もしくは<2>において、前記弾性層の外側に、1〜5層よりなる樹脂表面層を形成してなる現像ローラである。
【0012】
<4>は、<1>〜<3>のいずれかにおいて、表面粗さが、Ra=0.3〜2.0μm、Sm=10〜200μmを満足する現像ローラである。
【0013】
<5>は、<1>〜<4>のいずれかにおいて、抵抗値が103〜109Ωである現像ローラである。
【0014】
<6>は、<1>〜<5>のいずれかにおいて、アスカーC硬度が20〜80度である現像ローラである。
【0015】
<7>は、<1>〜<6>のいずれかの現像ローラを製造するためのプロセスの良否を判定する方法であり、前記式(1)〜(5)によって求められる前記値Sが所定の範囲内にあるとき、そのプロセスが適切であると判定する現像ローラ製造プロセスの良否判定方法である。
【発明の効果】
【0016】
<1>によれば、前記式(1)〜(5)によって求められる値Sが、0.1〜50の範囲にあるように構成されているので、詳細を後述するように、弾性層の外周面を研磨しなくとも、良好な画像を形成することができ、Sが50を超える場合には、印刷画像に横スジが入る可能性があり、一方、これが0.1を下回った場合には、これを制作するのが極めてむつかしくなってしまう。
【0017】
<2>によれば、前記弾性層は、気泡を予め分散させた液状材料を、円筒状金型内に配置された前記軸部材の周囲に注入して形成されるので、金型に液状材料を注入したあと金型内部で発泡させる方法に対比して、液状材料の流れの状態がそのままウェルドラインにおける物性不均一として現れやすく、したがって、前記数値Sを、0.1〜50の範囲に限定することの効果を一層際だたせることができる。
【0018】
<3>によれば、前記弾性層の外側に、1〜5層よりなる樹脂表面層を形成するので、弾性層の物性に依存しない表面性状を得ることができ、このことによって、現像ローラの現像材供給性能を、より細かく最適化することができ、さらに、樹脂表面層を、塗料を塗布することによって形成した場合には、弾性層における前記ウェルドラインにおける物性の不均一さの現像性能への影響を緩和することができる。
【0019】
<4>によれば、表面粗さが、Ra=0.3〜2.0μm、Sm=10〜200μmを満足するので、現像剤を感光ドラムに均一に供給することができ、もし、表面粗さがこの範囲外のものとなった場合には、均一な現像剤の供給が阻害される虞が生じてしまう。
【0020】
<5>によれば、抵抗値を103〜109Ωとしたので、現像剤を感光ドラムに均一に供給することができ、もし、抵抗値がこの範囲外のものとなった場合には、同様に均一な現像剤の搬送がむつかしくなる。
【0021】
<6>によれば、アスカーC硬度を20〜80度としたので、現像剤の劣化を遅らせることができ、その結果、同様に、現像剤の感光ドラムへの均一な供給を可能にすることができる。
【0022】
<7>によれば、前記式(1)〜(5)によって求められる前記値Sが所定の範囲内にあるとき、そのプロセスが適切であると判定するので、詳細を後述するように、前記ウェルドラインの不均一さの小さなプロセスと、そうでないプロセスとの違いを正確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態について、図に基づいて説明する。図1は、本発明に係る実施形態の現像ローラを示す断面図であり、現像ローラ10は、軸部材1の半径方向外側にフォーム体よりなる弾性層2を配設して構成される。
【0024】
図2(a)は、軸部材1の周囲に弾性層2を形成するための円筒状金型を示す断面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A矢視に対応する矢視図であり、円筒状金型11を用いて弾性層2を形成するには、金型11の内側にキャビティ16を区画するためのキャップ12、13を、軸部材1の両端にセットし、その状態のまま、軸部材1を金型11内に挿入する。この状態において、軸部材1、金型内周面、および両方のキャップ12、13で区画されたキャビティ16が形成される。
【0025】
キャップ12,14には、軸部材1の端部を固定するための凹部をなす軸端固定部15の他、キャビティ16内に液状材料を注入するための注入口14が設けられている。なお、この注入口14は、一方のキャップ12にあっては、材料の注入に用いられるが、他方のキャップ13にあっては、ガスをキャビティ16から排出するための口として機能する。
【0026】
図2(a)に示す状態の後、液状材料を、注入口14を通して注入したあと、金型11を加熱して液状材料を硬化させて弾性層2を形成するが、液状材料の中には予め気泡が含有されているので、弾性層2は、その中に気泡を含有するフォーム体となって形成される。
次に、軸部材1の周囲に成形された弾性層2を、軸部材1およびキャップ12、13ごと金型11から取り出し、そのまま、現像ローラとして製品とすることもできるが、弾性層2の外側に、例えばディップ塗装等により、樹脂材料を塗布することにより、1〜5層の樹脂表面層3を形成するのが好ましい。
【0027】
このようにして形成された本発明の現像ローラ10は、先に説明したような構成において、次のような特徴を有する。すなわち、現像ローラ10は、その回転中心軸周りの回転角θに対する、回転中心軸から外周面までの半径方向距離をr(θ)としたとき、先に示した式(1)〜(8)によって求められるSが、0.1〜50の範囲にあることを特徴とする。
【0028】
ここで、式(1)におけるAは、式(2)で表されるが、その中のf(θ)、もしくは、式(6)におけるr(θ)は、それらの周方向分布を、図3に示した構造の真円度計30を用いて測定したものであり、真円度計30としては、東京精密製RONDCOM46Aを例示することができる。真円度計30は、垂直に向けられた現像ローラ10の軸部材1の一方の端を回転自在に支持するベース34と、ベース34上に同じく垂直に向けられて固定された直動ガイド33と、その上を上下可能に支持された検出子支持ブロック32と、検出子支持ブロック32の先端に取り付けられた検出子31とを具えて構成され、現像ローラ10を回転したとき、検出子31は、現像ローラ10の周面上を相対的に周方向に移動することによりその周面を極めて軽くなぞることができるよう構成されていて、そのため、周面の半径方向距離r(θ)の変動に応じて、軸部材1に対して垂直な方向に往復変位することができるようになっている。また、このような真円度計30を用いて、現像ローラ10の異なる軸方向位置における周面の半径方向距離r(θ)の周方向分布を測定する場合には、検出子支持ブロック32を、直動ガイド33上を移動させたあと所望の位置で固定ことができる。
【0029】
図4は、このような真円度計30を用いて測定されたf(θ)の周方向分布を例示するグラフであり、図示の場合、現像ローラ10の1周360度に対して12個のピークを有する周方向分布を示し、従って、ピークとピークとの間の周期pは30度である。
【0030】
なお、式(4)、(5)、(7)におけるx、y、r(θ)aveを算出するに際しては、360度をN等分し、N等分されたそれぞれの角度θ(例えば、n番目の角度はn/N・360度)に対するr(θ)、もしくはf(θ)を求めて算出した。
【0031】
そして、図5は、f(θ)をフーリエ変換した関数を、周期を横軸にとって示したグラフであり、f(θ)における、各周期pに対するそれぞれの周期性の強さを表すことができ、例えば、図4に示した12個のピークを有するf(θ)の場合には、30度の周期で最大の周期性が表れ、次いで、その整数倍の高次成分において周期性が高く現れていることがわかる。
【0032】
式(2)から判るように、Aは、真円度を表すパラメータであり、これが大きいほど真円度が低く、一方、Bは、周期性の高さを表すパラメータであり、例えばpを30度としたときBは最大となり、AとBとの積Sが大きい場合には、前記f(θ)には、f(θ)最大値を与えるpの周期で周期性があり、しかも、その振幅が大きいことを意味しており、実際に、印刷画像における横スジはこの値の大きさに依存して発生し、具体的には、この値が50以下であると、画像不良と判定される横スジは発生しないことがわかり、本発明がなされたものである。
【0033】
AとBとの積Sを大きくするには、周方向に並ぶ注入口の数を増やして流れを細かく分散したり、また、注入口の長さを短くしてできるだけ不規則にしたりすることによって達成することができる。
【0034】
なお、現像ローラ10としては、表面粗さを、Ra=0.3〜2.0μm、Sm=10〜200μmとするのが好ましく、抵抗値は、103〜109Ωとするのが好ましく、また、アスカーC硬度は、20〜80度とするのが好ましい。
【実施例】
【0035】
図2に示した構造の金型11を用いて、キャップ12の注入口14から、表1に示す成分を有する液状材料をキャビティ16内に注入した後、金型11を加熱して、液状材料を硬化させて弾性層2を形成し、次いで、弾性層2のついた軸部材1を金型11から取り出したあと、ディッピング法により弾性層2の外側に樹脂材料を含有する塗料を塗布して樹脂表面層3を形成して複数種類の現像ローラ10を試作した。
【0036】
液状材料の注入に際しては、注入口14の数、および、注入口14の長さの異なる複数種類のキャップ12を用い、また、金型温度や注入にかける注入時間も変化させて、これら製造条件の異なる複数種類の現像ローラを試作し、それらを、実施例1〜3、および比較例1〜4とした。表2には、これらの例の現像ローラの製造条件、および、前記数値、A、BおよびS、画像評価等の評価結果を示した。
【0037】
画像評価は、ヒューレッドパッカード製LaserJet4050に現像ローラを装着してべた黒の条件で画像を印刷し、横スジの出現度合いを目視で1〜5の5段階評価し、4以上を合格とした。また、すべての例において、軸部材1の直径は8mm、弾性層の外径は16mm、その長さは300mmであった。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表2から明らかなように、Sが50である場合には、合格レベルの画像をえることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る現像ローラを示す断面図である。
【図2】本発明に係る現像ローラの弾性体を形成する金型を示す断面図である。
【図3】値Sを算出する基礎となるf(θ)の周方向分布を測定するための真円度計を示す概略斜視図である。
【図4】f(θ)の周方向分布の測定例を示すグラフである。
【図5】f(θ)をフーリエ変換した値を、周期pを横軸にとって示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 軸部材
2 弾性層
3 樹脂表面層
10 現像ローラ
11 円筒状金型
12、13 キャップ
13 下部プレート
14 注入口
15 軸端固定部
16 キャビティ
30 真円度計
31 検出子
32 直動ガイド
33 検出子支持ブロック
34 ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の半径方向外側にフォーム体よりなる弾性層を配設し、この弾性層の外周面を金型成形により形成してなる現像ローラにおいて、
現像ローラの回転中心軸周りの回転角θ(度)に対する、回転中心軸から外周面までの半径方向距離をr(θ)としたとき、式(1)〜(8)によって求められる値Sが、0.1〜50の範囲にあることを特徴とする現像ローラ。


ただし、pは周期(度)を、Nは360°を等分に分割する際の分割数を、nはNより小さな自然数を、それぞれ表し、f(θ)max、 f(θ)minは、0〜360度のθに対するf(θ)の最大値、および、最小値をそれぞれ表し、xmax、ymaxは、0〜180度の周期pに対するx、yの最大値をそれぞれ表す。
【請求項2】
前記弾性層は、気泡を予め分散させた液状材料を、円筒状金型内に配置された前記軸部材の周囲に注入して形成されることを特徴とする請求項1に記載の現像ローラ。
【請求項3】
前記弾性層の外側に、1〜5層よりなる樹脂表面層を形成してなる請求項1もしくは2に記載の現像ローラ。
【請求項4】
表面粗さが、Ra=0.3〜2.0μm、Sm=10〜200μmを満足する請求項1〜3のいずれかに記載の現像ローラ。
【請求項5】
抵抗値が103〜109Ωである請求項1〜4のいずれかに記載の現像ローラ。
【請求項6】
アスカーC硬度が20〜80度である請求項1〜5のいずれかに記載の現像ローラ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の現像ローラを製造するためのプロセスの良否を判定する方法であり、前記式(1)〜(5)によって求められる前記値Sが所定の範囲内にあるとき、そのプロセスが適切であると判定する現像ローラ製造プロセスの良否判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−322860(P2007−322860A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154379(P2006−154379)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】