説明

球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法、球状シルセスキオキサン微粒子及び高分子材料用表面改質剤

【課題】
粒子径の平均値が極めて小さく、また粒子径の分布が極めて狭い球状シルセスキオキサン微粒子を製造することができる方法、かかる方法により得られる球状シルセスキオキサン微粒子及びかかる球状シルセスキオキサン微粒子から成る高分子材料用表面改質剤を提供する。
【解決手段】
特定のシラノール形成性ケイ素化合物を、所定量の特定の酸触媒の存在下で、所定量の水と接触させ、所定の温度下で加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせて、球状シルセスキオキサン微粒子を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法、球状シルセスキオキサン微粒子及び高分子材料用表面改質剤に関する。高分子材料用表面改質剤、化粧品原料、コーティング材、診断薬用担体、塗料原料等として、球状シルセスキオキサン微粒子が広く利用されている。本発明は、粒子径の平均値が極めて小さく、また粒子径の分布が極めて狭い球状シルセスキオキサン微粒子を製造することができる方法、かかる方法により得られる球状シルセスキオキサン微粒子及びかかる球状シルセスキオキサン微粒子から成る高分子材料用表面改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法として、1)アルカリ触媒存在下に、シラノール形成性ケイ素化合物を水と接触させ、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせて球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法(例えば特許文献1〜14参照)、2)アルカリ触媒存在下に、シラノール形成性ケイ素化合物を水と接触させ、加水分解反応させてシラノール化合物とした後、該シラノール化合物を縮合反応させて球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法(例えば特許文献15参照)、3)無機酸触媒存在下に、シラノール形成性ケイ素化合物を水と接触させ、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせて球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法(例えば特許文献16参照)、4)有機酸触媒存在下に、シラノール形成性ケイ素化合物を水と接触させ、加水分解反応させてシラノール化合物とした後、該シラノール化合物を縮合反応させて球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法(例えば特許文献17参照)等が知られている。
【0003】
ところが、これら従来の製造方法ではいずれも、得られる球状シルセスキオキサン微粒子の粒子径の平均値が比較的に大きく、また粒子径の分布が比較的に広いという問題がある。具体的には、従来の製造方法では一般に、得られる球状シルセスキオキサン微粒子の粒子径の平均値が100nm以上であり、また粒子径の変動係数が30%以上なのである。
【特許文献1】特開昭61−159427号公報
【特許文献2】特開昭61−159467号公報
【特許文献3】特開昭62−43424号公報
【特許文献4】特開昭63−8461号公報
【特許文献5】特開昭63−15849号公報
【特許文献6】特開昭63−77940号公報
【特許文献7】特開昭63−295637号公報
【特許文献8】特開昭63−297313号公報
【特許文献9】特開平1−144423号公報
【特許文献10】特開平2−209927号公報
【特許文献11】特開平1−144423号公報
【特許文献12】特開平2−209927号公報
【特許文献13】特開平6−49209号公報
【特許文献14】特開昭63−312324号公報
【特許文献15】特開平6−263875号公報
【特許文献16】特開昭61−194009号公報
【特許文献17】特開平4−337390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする問題は、粒子径の平均値が極めて小さく、また粒子径の分布が極めて狭い球状シルセスキオキサン微粒子を製造できる方法、かかる方法により得られる球状シルセスキオキサン微粒子及びかかる球状シルセスキオキサン微粒子から成る高分子材料用表面改質剤を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のシラノール形成性ケイ素化合物を、所定量の特定の酸触媒の存在下で、所定量の水と接触させ、所定の温度下で加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせて、球状シルセスキオキサン微粒子を製造することが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、シラノール形成性ケイ素化合物を酸触媒存在下で水と接触させ、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせることにより球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法において、下記の条件1〜5を同時に満足することを特徴とする球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法に係る。また本発明は、かかる製造方法により得られる球状シルセスキオキサン微粒子に係る。更に本発明はかかる球状シルセスキオキサン微粒子から成る高分子材料用表面改質剤に係る。
【0007】
条件1:シラノール形成性ケイ素化合物が、下記の化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物から選ばれる一つ又は二つ以上であること。
【0008】
条件2:酸触媒が、有機スルホン酸、酸性有機硫酸エステル及び酸性有機リン酸から選ばれる一つ又は二つ以上であること。
【0009】
条件3:酸触媒の使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物1モル当たり0.002〜0.05モルであること。
【0010】
条件4:シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物/水=5/95〜16/84(重量比)であること。
【0011】
条件5:加水分解反応及び縮合反応時の温度が、0〜30℃であること。
【0012】
【化1】

【0013】
化1において、
:ケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基
:加水分解反応によってシラノール基を形成する有機基
【0014】
先ず、本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法(以下単に本発明の製造方法という)について説明する。本発明の製造方法は、シラノール形成性ケイ素化合物を酸触媒存在下で水と接触させ、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせることにより球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法において、後述する特定の条件1〜5を同時に満足することを特徴とする。
【0015】
条件1は、シラノール形成性ケイ素化合物が、前記の化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物から選ばれる一つ又は二つ以上であることである。化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物は、加水分解反応によって、1分子当たり3個のシラノール基を形成する。
【0016】
化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物において、化1中のRは、ケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基である。かかる有機基としては、1)メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ビニル基、アリール基等の炭化水素基、2)メルカプトプロピル基、メタクリロイルオキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−ウレイドプロピル基、N,N−ジメチルアミノ基等の置換炭化水素基が挙げられるが、なかでもメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0017】
化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物において、化1中のRは、加水分解反応によってシラノール基を形成する有機基である。かかる有機基としては、1)メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基、2)メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、ブトキシエトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を有するアルコキシエトキシ基、3)アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等の炭素数2〜4のアシロキシ基、4)ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1〜4のアルキル基を有するN,N−ジアルキルアミノ基、5)ハロゲン原子、6)水素原子等が挙げられるが、なかでも炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0018】
以上説明した化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物の具体例としては、
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリアセチルオキシシラン、メチルトリス(ジメチルアミノ)シラン、メチルトリクロルシラン、フェニルトリクロルシラン、メチルジクロルメトキシシラン、メチルジクロルハイドロジェンシラン、メタクリロイルオキシプロピル・トリメトキシシラン、ビニル・トリメトキシシラン、アリール・トリメトキシシラン、メルカプトプロピル・トリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル・トリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピル・トリメトキシシラン、N,N−ジメチルアミノプロピル・トリメトキシシラン等が挙げられる。以上説明した化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物は、単独で用いることもできるし、混合で用いることもできる。
【0019】
条件2は、酸触媒が、有機スルホン酸、酸性有機硫酸エステル及び酸性有機リン酸から選ばれる一つ又は二つ以上であることである。前記の有機スルホン酸としては、デシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、イソトリドデシルスルホン酸、テトラデシルスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸等のアルキルスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸エステル、ジブチルスルホコハク酸エステル、ドデシルスルホ酢酸エステル、ノニルフェノキシポリエチレングリコールスルホ酢酸エステル等のエステルスルホン酸等が挙げられる。また前記の酸性有機硫酸エステルとしては、硫酸デシル、硫酸ドデシル、硫酸テトラデシル、硫酸ヘキサデシル等の硫酸アルキル、牛脂硫酸化油、ひまし油硫酸化油等の天然油脂の硫酸化物等が挙げられる。更に前記の酸性有機リン酸としては、リン酸モノドデシル二水素、リン酸モノトリデシル二水素、リン酸モノミリスチル二水素、リン酸モノセチル二水素、リン酸モノステアリル二水素、リン酸モノパルミトオレイル二水素、リン酸モノオレイル二水素、リン酸モノドデシルポリオキシエチレン=二水素、リン酸モノトリデシルポリオキシエチレン=二水素、リン酸モノミリスチルポリオキシエチレン=二水素、リン酸モノセチルポリオキシエチレン=二水素、リン酸モノステアリルポリオキシエチレン=二水素、リン酸モノパルミトオレイルポリオキシエチレン=二水素、リン酸モノオレイルポリオキシエチレン=二水素、リン酸ジドデシル水素、リン酸ジトリデシル水素、リン酸ジミリスチル水素、リン酸ジセチル水素、リン酸ジステアリル水素、リン酸ジパルミトオレイル水素、リン酸ジオレイル水素、リン酸ジドデシルポリオキシエチレン水素、リン酸ジトリデシルポリオキシエチレン水素、リン酸ジミリスチルポリオキシエチレン水素、リン酸ジセチルポリオキシエチレン水素、リン酸ジステアリルポリオキシエチレン水素、リン酸ジパルミトオレイルポリオキシエチレン水素、リン酸ジオレイルポリオキシエチレン水素等が挙げられる。以上説明した酸触媒のなかでも、有機スルホン酸が好ましく、アルキルアリールスルホン酸がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。以上説明した酸触媒は、単独で用いることもできるし、混合で用いることもできる。
【0020】
条件3は、酸触媒の使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物1モル当たり、0.002〜0.05モル、好ましくは0.004〜0.03モルであることである。
【0021】
条件4は、シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物/水=5/95〜16/84(重量比)、好ましくは7/93〜13/87(重量比)であることである。ここで使用する水は脱イオン水が好ましい。
【0022】
条件5は、加水分解反応及び縮合反応時の温度が、0〜30℃、好ましくは10〜27℃、より好ましくは15〜25℃であることである。かかる温度の制御は、反応系の加熱や冷却の他に、シラノール形成性ケイ素化合物に対する酸触媒の使用割合、シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合、シラノール形成性ケイ素化合物及び水の温度、反応装置等を適宜選択して行うことができる。
【0023】
本発明の製造方法は、以上説明したように、シラノール形成性ケイ素化合物を酸触媒の存在下で水と接触させ、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせることにより球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法において、特定の条件1〜5を同時に満足させる方法である。より具体的に本発明の製造方法を説明すると、例えば、1)反応容器に水及び酸触媒を仕込んだ後、攪拌しつつシラノール形成性ケイ素化合物を滴下して、反応系の温度を制御しながら加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせる方法、2)反応容器に水を仕込んでおき、攪拌しつつ酸触媒及びこれとは別のシラノール形成性ケイ素化合物を同時に滴下して、反応系の温度を制御しながら加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせる方法等が挙げられる。本発明の製造方法によれば、球状シルセスキオキサン微粒子をその半透明の水性懸濁液として得る。かかる水性懸濁液は、アルカリで中和した水性懸濁液として、又は更に乾燥した粉末として利用することができる。
【0024】
次に、本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子について説明する。本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子は、以上説明した本発明の製造方法によって得られるものである。例えば、前記した本発明の製造方法により得られる球状シルセスキオキサン微粒子の水性懸濁液をアルカリで中和した後、スプレードライヤーにより100〜250℃で加熱乾燥して得ることができる。
【0025】
本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子は通常、球状シルセスキオキサン微粒子の粒子径の平均値が2〜100nmであり、また粒子径の変動係数が25%以下のものとなるが、前記した条件1〜5のなかにおける適宜の選択によって、球状シルセスキオキサン微粒子の粒子径の平均値が4〜60nmであり、また粒子径の変動係数が20%以下のものとするのが好ましく、球状シルセスキオキサン微粒子の粒子径の平均値が10〜30nmであり、また粒子径の変動係数が15%以下のものとするのがより好ましい。
【0026】
最後に、本発明に係る高分子材料用表面改質剤について説明する。本発明に係る高分子材料用表面改質剤は、前記した本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子から成るものである。前記した本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子は、高分子材料用表面改質剤、化粧品原料、コーティング材、診断薬用担体、塗料原料等として広く利用できる。なかでも、前記した本発明に係る球状シルセスキオキサン微粒子は、粒子径の平均値が極めて小さく、また粒子径の分布が極めて狭いため、従来の球状シルセスキオキサン微粒子と比べて、フィルムやシート等の高分子材料成形品表面への高速塗工性に優れ、かかる高分子材料成形品表面に平滑性、密着防止性及び離型性等の表面特性を安定して付与することができるので、高分子材料用表面改質剤として、特に滑剤として有用である。
【0027】
本発明に係る高分子材料用表面改質剤を適用する高分子材料としては、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカプロラクトン、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート等の合成高分子から成形された合成高分子フィルムやシート、同様の合成高分子から成形されたフィラメントヤーンやステープルファイバー等の合成繊維が挙げられる。
【0028】
本発明に係る高分子材料用表面改質剤を合成高分子フィルムの滑剤として適用する方法としては、高分子材料用表面改質剤の水性懸濁液を調製し、又は本発明の製造方法によって得られる前記の水性懸濁液をそのまま使用して、これをローラータッチ法、スプレー法、スピンコート法等の公知の方法によって合成高分子フィルムの表面に塗布する方法が挙げられる。塗布する工程としては、合成高分子フィルムの製造工程において、これらの溶融押出し直後における延伸配向前の工程、一軸延伸配向後における二軸延伸配向前の工程等が挙げられる。これらの工程で塗布する場合に通常は、高分子材料用表面改質剤を、合成高分子フィルム1m当たり、0.01〜0.2gとなるように塗布する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、粒子径が極めて小さく、また粒子径の分布が極めて狭い球状シルセスキオキサン微粒子を提供できるという効果がある。
【0030】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は重量部を、また%は重量%を意味する。
【実施例】
【0031】
試験区分1(球状シルセスキオキサン微粒子の製造と評価)
・実施例1
反応容器に水672g及びドデシルベンゼンスルホン酸6g(0.018モル)を仕込み、攪拌しながら、メチルトリメトキシシラン90g(0.66モル)を10分間かけて滴下し、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせた。滴下中は、発熱による反応系の温度上昇を20〜25℃に制御するため、適宜冷却した。メチルトリメトキシシランの滴下終了後、更に反応系の温度を20〜25℃に制御しながら、攪拌を続けて、メチルトリメトキシシラン滴下開始から24時間後に、5%水酸化ナトリウム水溶液14.7gを投入して触媒を中和し、加水分解反応及び縮合反応を終了させて、水性懸濁液を得た。この水性懸濁液をスプレードライヤーで乾燥処理して、白色粉体42gを得た。この白色粉体を元素分析、NMR分析、ICP発光分光分析により分析したところ、ケイ素含有量41%、炭素含有量18%の球状シルセスキオキサン微粒子であり、走査型電子顕微鏡による任意の100個の球状シルセスキオキサン微粒子の測定結果から、粒子径の平均値21nm、粒子径の変動係数12%の球状シルセスキオキサン微粒子であった。これを球状シルセスキオキサン微粒子(P−1)とした。
【0032】
・実施例2〜7及び比較例1〜8
実施例1の球状シルセスキオキサン微粒子(P−1)と同様にして、実施例2〜7の球状シルセスキオキサン微粒子(P−2)〜(P−7)及び比較例1〜8の球状シルセスキオキサン微粒子(R−1)〜(R−8)を得た。これらの内容を表1にまとめて示した。
【0033】
・実施例8
反応容器に水588gを仕込み、攪拌しながら、メチルトリメトキシシラン90g(0.66モル)と、ドデシルベンゼンスルホン酸6g(0.018モル)を溶解した水溶液90gとを、10分間かけて同時に滴下した。滴下中は、発熱による反応系の温度上昇を20〜25℃に制御するため、適宜冷却した。メチルトリメトキシシラン及びドデシルベンゼンスルホン酸水溶液の滴下終了後、更に反応系の温度を20〜25℃に制御しながら、攪拌を続けて、これらの滴下開始から24時間後に、5%水酸化ナトリウム水溶液14.7gを投入して触媒を中和し、加水分解反応及び縮合反応を終了させて、水性懸濁液を得た。この水性懸濁液をスプレードライヤーで乾燥処理して、白色粉体42gを得た。この白色粉体について実施例1と同様に分析し、測定したところ、粒子径の平均値22nm、粒子径の変動係数12%の球状シルセスキオキサン微粒子であった。これを球状シルセスキオキサン微粒子(P−8)とした。
【0034】
・実施例9〜11
実施例8の球状シルセスキオキサン微粒子(P−8)と同様にして、実施例9〜11の球状シルセスキオキサン微粒子(P−9)〜(P−11)を得た。これらの内容を表1にまとめて示した。
【0035】
比較例9
反応容器にpH12.5の水酸化ナトリウム水溶液800gを入れ、撹拌しつつ、昇温した。液温が50℃に到達したところで、メチルトリメトキシシラン67g(0.49モル)を5分間かけて滴下した。滴下中は、発熱による反応系の温度上昇を50〜55℃に制御するため、適宜冷却した。滴下終了後、さらに2分間撹拌した後、撹拌を止め、静置下に50〜55℃で1時間熟成した。その後、50%酢酸水溶液8gを添加して触媒を中和し、濾過した。濾別したケークを取出し、150℃で2時間乾燥して白色粉末28gを得た。この白色粉末を実施例1と同様にして測定したところ、粒子径の平均値500nm、粒子径の変動係数15%の球状シルセスキオキサン微粒子であった。これを球状シルセスキオキサン微粒子(R−9)とした。
【0036】
比較例10
反応容器に水216g及び酢酸0.04gを仕込み、撹拌しつつメチルトリメトキシシラン272g(2.0モル)を加えた。加水分解反応が進行し、10分間で液温が60℃に上昇した。4時間撹拌を続けた後、濾過して透明なシラノール溶液を得た。別の反応容器に水2000g及び28%アンモニア水溶液50gを仕込み、25℃に調温した。これを撹拌しながら、前記のシラノール溶液488gを10分間かけて滴下した。滴下終了後、16時間撹拌を続けた。反応系を遠心分離処理して沈降物を取り出し、150℃で2時間乾燥して白色粉末131gを得た。この白色粉末を実施例1と同様にして測定したところ、粒子径の平均値130nm、粒子径の変動係数30%の球状シルセスキオキサン微粒子であった。これを球状シルセスキオキサン微粒子(R−10)とした。
【0037】
・比較例11
反応容器にpH4.0の塩酸水溶液500g及びメチルトリメトキシシラン100g(0.74モル)を仕込み、5時間撹拌して、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせ、シルセスキオキサンの硬化物を得た。この硬化物をアトマイザーで粉砕し、白色粉体44gを得た。この白色粉末を実施例1と同様にして測定したところ、粒子径の平均値5000nm、粒子径の変動係数75%のシルセスキオキサン微粒子であった。これをシルセスキオキサン微粒子(R−11)とした。
【0038】
・比較例12
反応容器に水216g及び酢酸0.04gを仕込み、撹拌しつつメチルトリメトキシシラン272g(2.0モル)を加えた。加水分解反応が進行し、10分間で液温が60℃に上昇した。4時間撹拌を続けた後、濾過して透明なシラノール溶液を得た。別の反応容器に水475g及びドデシルベンゼンスルホン酸50g(0.15モル)を仕込み、液温を80〜85℃に加熱調温した。これを撹拌しながら、先のシラノール溶液300gを2時間かけて滴下した。滴下終了後、15分間撹拌を続けた後、冷却し、炭酸ナトリウム水溶液でpH7となるよう中和して、水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を遠心分離処理して沈降物を取り出し、150℃で2時間乾燥して、白色粉末75gを得た。この白色粉末を実施例1と同様にして測定したところ、粒子径の平均値85nm、粒子径の変動係数55%の球状シルセスキオキサン微粒子であった。これを球状シルセスキオキサン微粒子(R−12)とした。
【0039】
【表1】

【0040】
表1において、
*1:シラノール形成性ケイ素化合物1モルに対する酸触媒のモル数
A−1:メチルトリメトキシシラン
A−2:プロピルトリメトキシシラン
A−3:フェニルトリメトキシシラン
B−1:ドデシルベンゼンスルホン酸
B−2:ジノニルベンゼンスルホン酸
B−3:酸性硫酸ドデシル
B−4:リン酸モノデシル=二水素
BR−1:硫酸
BR−2:トリメチルラウリルアンモニウムクロライド
BR−3:水酸化ナトリウム
【0041】
試験区分2(高分子材料用表面改質剤としての評価)
・平滑性の評価
25℃のオルソクロロフェノール中で測定した極限粘度が0.62の、無機質フィラーを全く含まないポリエチレンテレフタレートを、エクストルーダーで口金から押し出し、これを40℃に冷却したドラム上で静電印加を行ないながら厚さ152μmの押し出しフィルムとし、続いて93℃に加熱した金属ロール上で長手方向へ3.6倍に延伸して、一軸延伸フィルムとした。次にこの一軸延伸フィルムがテンターに至る直前の位置で、該一軸延伸フィルムの片面上に、試験区分1で合成した球状シルセスキオキサン微粒子の0.1%水性懸濁液を3本のロールからなるコーターヘッドから均一塗布した。この際の球状シルセスキオキサン微粒子の塗工量は上記一軸延伸フィルム1m2当り2.3gとした(この塗布量は、下記の二軸延伸フィルムでは1m2当り0.0129gに相当する)。最後に片面塗工した一軸延伸フィルムをテンター内に導き、101℃で横方向へ3.5倍に延伸し、更に225℃で6.3秒間熱固定して、二軸延伸フィルムとした(片面塗工後のフィルムが加熱を受けた時間は合計で11秒間である)。この二軸延伸フィルムを23℃×65%RHの雰囲気にて調湿し、同条件下で、梨地表面のステンレス板に対する動摩擦係数を摩擦係数測定機(東洋精機社製のTR型、荷重200g、速度300mm/分)で測定し、下記の基準で評価した。結果を表2にまとめて示した。
◎:動摩擦係数が0.3未満、優れている。
○:動摩擦係数が0.3以上0.5未満、良好である。
△:動摩擦係数が0.5以上0.7未満、やや劣る。
×:動摩擦係数が0.7以上、劣る。
【0042】
・高速塗工性の評価
前記の一軸延伸フィルム上に、球状シルセスキオキサン微粒子の0.1%水性懸濁液を、スピンコーターによるスピンコート法により、回転速度4000rpmで高速塗工した。一軸延伸フィルムの高速塗工面を走査型電子顕微鏡で観察し、球状シルセスキオキサン微粒子の水性懸濁液の高速塗工性を下記の基準で評価した。結果を表2にまとめて示した。
評価基準
◎:均一な塗工膜である。
○:ほぼ均一な塗工膜である。
△:塗工抜けが幾分あるが、全体としてはほぼ均一な塗工膜である。
×:塗工抜けが多く、不均一な塗工膜である。
【0043】
・剥離性(密着防止性又は離型性)の評価
前記の一軸延伸フィルム上に、球状シルセスキオキサン微粒子の0.1%水性懸濁液を、スピンコーターによるスピンコート法により、回転速度4000rpmで高速塗工した。一軸延伸フィルムの高速塗工面に粘着テープを貼り合わせ、20mm幅に切り出し、一軸延伸フィルムの高速塗工面と粘着テープとの間の180度剥離力をテンシロンにより測定して、下記の基準で評価した。結果を表2にまとめて示した。
◎:剥離力が10g/20mm未満、優れている。
○:剥離力が10g/20mm以上50g/20mm未満、良好である。
△:剥離力が50g/20mm以上70g/20mm未満、やや劣る。
×:剥離力が70g/20mm以上、劣る。

【0044】
【表2】

【0045】
表2において、
P−1〜P−11及びR−1〜R−12:試験区分1で合成した球状シルセスキオキサン微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラノール形成性ケイ素化合物を酸触媒存在下で水と接触させ、加水分解反応及び縮合反応を同時に行なわせることにより球状シルセスキオキサン微粒子を製造する方法において、下記の条件1〜5を同時に満足することを特徴とする球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法。
条件1:シラノール形成性ケイ素化合物が、下記の化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物から選ばれる一つ又は二つ以上であること。
条件2:酸触媒が、有機スルホン酸、酸性有機硫酸エステル及び酸性有機リン酸から選ばれる一つ又は二つ以上であること。
条件3:酸触媒の使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物1モル当たり0.002〜0.05モルであること。
条件4:シラノール形成性ケイ素化合物と水との使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物/水=5/95〜16/84(重量比)であること。
条件5:加水分解反応及び縮合反応時の温度が、0〜30℃であること。
【化1】

(化1において、
:ケイ素原子に直結した炭素原子を有する有機基
:加水分解反応によってシラノール基を形成する有機基)
【請求項2】
シラノール形成性ケイ素化合物が、化1中のRがメチル基であり、またRが炭素数1〜4のアルコキシ基である場合の化1で示されるシラノール形成性ケイ素化合物から選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1記載の球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項3】
酸触媒が、有機スルホン酸である請求項1又は2記載の球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項4】
酸触媒の使用割合が、シラノール形成性ケイ素化合物1モル当たり0.004〜0.03モルである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの項記載の球状シルセスキオキサン微粒子の製造方法によって製造される球状シルセスキオキサン微粒子。
【請求項6】
粒子径の平均値が2〜100nmであり、また粒子径の変動係数が25%以下である請求項5記載の球状シルセスキオキサン微粒子。
【請求項7】
請求項5又は6記載の球状シルセスキオキサン微粒子から成る高分子材料用表面改質剤。
【請求項8】
高分子材料用滑剤である請求項7記載の高分子材料用表面改質剤。

【公開番号】特開2006−89514(P2006−89514A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273005(P2004−273005)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】