説明

球状弾性表面波素子

【課題】圧電性単結晶の基材を使用しても、従来に比べ球状弾性表面波素子を利用した装置の動作精度をさらに向上出来る球状弾性表面波素子を提供することである。
【解決手段】球状弾性表面波素子11は:圧電性単結晶基材13の球面の一部で形成され最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域12に電気音響変換素子15により弾性表面波14が励起され上記表面領域の延出方向に沿い周回させる。弾性表面波は、上記表面領域の延出方向に伝搬する間に所定の経路に沿い蛇行し、そして、電気音響変換素子のすだれ状電極の複数の電極枝15−1,15−2は、上記表面領域の上記所定の経路上ですだれ状電極が対応する位置における弾性表面波の音速の所望の中心周波数に一致する周期に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状弾性表面波素子に関係している。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電材料で形成されている平坦な表面を有する基材の上記表面上の相互に離れた2つの位置に電気音響変換素子を設けた弾性表面波素子が知られている。電気音響変換素子は通常、例えばすだれ状電極の如き高周波励起/高周波受信・手段である。
【0003】
この従来の弾性表面波素子においては、一方の電気音響変換素子に高周波電流を供給すると一方の電気音響変換素子が弾性表面波(SAW: Surface Acoustic Wave)を基材の表面に発生させ所定の方向に伝搬させることが出来る。そして、他方の電気音響変換素子は上記表面上で一方の電気音響変換素子からの弾性表面波を受信し受信した弾性表面波に対応した高周波電流を生じさせることが出来る。電気音響変換素子がすだれ状電極の場合には、すだれ状電極の複数の電極枝が並んでいる方向がすだれ状電極により発生された弾性表面波が伝搬する方向となり、また上記弾性表面波を効率よく受信する方向となる。
【0004】
なお弾性表面波とは、通常のバルク波と呼ばれる縦波や横波と異なり、物質表面にそのエネルギーの多くを集中して伝搬する弾性波である。弾性表面波としては、レーリー波,セザワ波,擬セザワ波,ラブ波等を例示することが出来、異方性材料の表面にも存在しえる。
【0005】
このような従来の弾性表面波素子は、遅延線,発信機の為の発振素子及び共振素子,周波数を選択する為のフィルター,化学センサー,バイオセンサー,またはリモートタグ等に使用されている。
【0006】
すだれ状電極が励起させた直後の弾性表面波の幅(弾性表面波の伝搬方向に対し直交する方向の寸法)は、すだれ状電極の複数の電極枝において隣接する2つの電極枝が相互に対面している長さに等しい。
【0007】
しかしながら、弾性表面波が伝搬する基板の表面が平坦である上述した如き従来の弾性表面波素子では、一方の電気音響変換素子により励起され一方の電気音響変換素子から伝搬された弾性表面波は、一方の電気音響変換素子から遠ざかるにつれてその幅方向に拡散し続けそれが有しているエネルギーを弱めている。従って、弾性表面波励起用の電気音響変換素子と弾性表面波受信用の電気音響変換素子とを離して配置することが出来る距離には限界があり、この結果として、上述した如き従来の弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置の動作精度の向上には限界があった。
【0008】
このような従来の弾性表面波素子に対し、本願の発明者の一人である山中を含む数人の研究者グループは、弾性表面波を励起させ伝搬させることが可能な球状表面を有した基材の上記球状表面において所定の条件で弾性表面波を励起させ伝搬させることで、励起された弾性表面波を伝搬方向と交差する方向に拡散させ続けることなく上記球状表面の最大径の外周線に沿い多数回周回させることが出来ることを発見し、電子情報通信学会技術研究報告(Technical Report of Institute of Electronics, Information and Communication Engineers)US2000巻14号(2000)のp.49(非特許文献1)に発表した。
【0009】
また、本願の発明者の一人である山中を含む複数の発明者は、上述した研究発表を基にして、実用化可能な球状弾性表面波素子を発明し、その内容は国際公開WO 01/45255号公報(特許文献1)により公開されている。この実用化可能な球状弾性表面波素子では、弾性表面波を励起させ伝搬方向と交差する方向に無限に拡散することなく伝搬させ周回させることが可能な最大径の外周線を含む球状表面の一部で構成された円環形状の表面領域を外表面に備えた球形状又は円盤形状の基材の上記表面領域に、電気音響変換素子としてすだれ状電極が設置され、また上記基材の外表面において上記表面領域以外(即ち、弾性表面波が全く伝搬されない領域)が支持部材により支持されている。そして、このような球状弾性表面波素子をボールSAWデバイスとも称している。
【0010】
球状弾性表面波素子では、基材の外表面において最大径の外周線を含む球状表面の一部で構成された円環形状の表面領域を弾性表面波がその伝搬方向と交差する方向に拡散し続けることなく(即ち、エネルギーを損失させ続けることなく)多数回周回可能である。そしてそのような条件は、W=√(2aλ)であって、aは上記表面領域の上記球の一部の半径であり、λは上記弾性表面波の波長であり、そしてWは上記弾性表面波の幅である。
【0011】
従って、上述した如き従来の弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置に比べ、上述した如き従来の弾性表面波素子に代わり球状弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置は、さらに飛躍的に動作精度を向上させることが可能である。
【非特許文献1】電子情報通信学会技術研究報告(Technical Report of Institute of Electronics, Information and Communication Engineers)US2000巻14号(2000)
【特許文献1】国際公開WO 01/45255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
とはいうものの、このような球状弾性表面波素子において基材として最も安価に大量に調達可能な、例えば水晶を含む圧電性単結晶を使用した場合には、基材の円環形状の表面領域の位置が異なると電気機械的結合定数が異なり、同じ電気音響変換素子により同じ条件で弾性表面波を励起させたとしても、励起された弾性表面波の音速やパワーフローアングルが異なることが分っている。これは、圧電性単結晶の異方性に起因している。
【0013】
従って、電気音響変換素子が励起させようとする弾性表面波の音速やパワーフローアングルに対し基材の円環形状の表面領域において電気音響変換素子が配置された位置に実際に励起される弾性表面波の音速やパワーフローアングルが異なっていると、基材の円環形状の表面領域に電気音響変換素子により実際に励起され伝搬させられた弾性表面波が上記表面領域における周回を重ねるたびに、電気音響変換素子が受信する弾性表面波の波長が電気音響変換素子が励起させようとした弾性表面波の波長とずれていく。
【0014】
なお、電気音響変換素子が高周波励起/高周波受信・手段の一種であるすだれ状電極の場合、すだれ状電極が基材の円環形状の表面領域に発生させる弾性表面波の音速Vは、以下のようにして求めることが出来る。V=fλ:ここにおいて、fはすだれ状電極が基材の円環形状の表面領域に発生させる弾性表面波の周波数であり、λはすだれ状電極の複数の電極枝の配列周期である。
【0015】
このことは、基材の円環形状の表面領域において電気音響変換素子が配置された位置に電気音響変換素子が実際に励起させた弾性表面波の音速やパワーフローアングルに対し電気音響変換素子が励起させようとする弾性表面波の音速やパワーフローアングルを一致させることが出来れば、球状弾性表面波素子を利用した上述した如き種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来ることを意味している。
【0016】
この発明は上記事情の下でなされ、基材の円環形状の表面領域において電気音響変換素子が配置された位置に電気音響変換素子により実際に励起された弾性表面波の音速やパワーフローアングルに対し電気音響変換素子が励起させようとする弾性表面波の少なくとも音速やパワーフローアングルのいずれか一方を一致させることにより、従来に比べ球状弾性表面波素子を利用した種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来る球状弾性表面波素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述したこの発明の目的を達成する為に、この発明に従った球状弾性表面波素子は:
球面の一部で形成され最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域を含んでおり、上記表面領域には弾性表面波が励起され励起された弾性表面波を上記表面領域の円環状の延出方向に沿い周回させる圧電性単結晶基材と;そして
圧電性単結晶基材の上記表面領域に弾性表面波を励起させ、励起させた弾性表面波を上記表面領域の円環状の延出方向に沿い伝搬させる電気音響変換素子と;
を備えていて、
電気音響変換素子は、すだれ状電極を含んでいて、
すだれ状電極の複数の電極枝は、上記表面領域の上記所定の経路上においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波の音速の所望の中心周波数に一致する周期に配列されている、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
上述した如く構成されたことを特徴とするこの発明に従った球状弾性表面波素子によれば、球状弾性表面波素子において基材として圧電性単結晶を使用した場合でも、基材の円環形状の表面領域において電気音響変換素子のすだれ状電極が配置された位置に電気音響変換素子により実際に励起された弾性表面波の音速やパワーフローアングルに対し電気音響変換素子が励起させようとする弾性表面波の少なくとも音速やパワーフローアングルのいずれか一方を一致させることが出来、従来に比べ球状弾性表面波素子を利用した種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
次に、図1及び図2を参照しながら本発明の第1の実施の形態に従っている球状弾性表面波素子を説明する。
【0020】
球状弾性表面波素子11は、例えば水晶のような圧電性単結晶の基材13を備えている。基材13は、球面の一部で形成され最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域12を含んでおり、上記表面領域12には弾性表面波14が励起可能であり励起された弾性表面波14を上記表面領域の円環状の延出方向に沿い周回させることが可能である。この実施の形態では、基材13は球形状であるが、上記表面領域12以外の部分を削除した形状とすることも出来る。
【0021】
基材13は、上記表面領域12には含まれない基材13を地球に見立てた時の南極の地軸中心を、−Z軸と同軸で−Z軸方向に延びる支柱SCにより図示しない台座に支持されている。
【0022】
水晶の場合、基材13の外表面において弾性表面波14を周回させることが出来る所定の円環形状の表面領域12は、基材13の結晶面が基材13の球形状の外表面と交差する円環形状の線に沿った基材13の外表面の表面領域であり、従って基材13を地球に見立てて基材13のZ軸を地軸とした場合の上記円環形状の線は赤道となる。
【0023】
球状弾性表面波素子11はさらに、圧電性単結晶の基材13の上記表面領域12に弾性表面波14を励起させ、励起させた弾性表面波14を上記表面領域12の円環状の延出方向に沿い伝搬させる電気音響変換素子15を備えている。この実施の形態では、電気音響変換素子15は、高周波励起/高周波受信・手段の一種であるすだれ状電極といわれているオルターニット・フェーズアレイを含んでおり、上記表面領域12上に後述する如く設けられている。
【0024】
電気音響変換素子15には、切り替え部17を介して、高周波信号発生部16、そしてアンプ18及び検出・出力部19の組み合わせが電気的に接続されている。高周波信号発生部16は、切り替え部17を介して電気音響変換素子15に高周波信号を極短時間投入することにより、圧電性単結晶の基材13の上記表面領域12に弾性表面波14を励起して伝搬させることが出来る。その後、切り替え部17はアンプ18及び検出・出力部19の組み合わせの側に切り替えられ、電気音響変換素子15が上記表面領域12に沿い伝搬し周回してきて受信した弾性表面波14に対応する高周波信号が切り替え部17を介してアンプ18及び検出・出力部19の組み合わせに送られる。
【0025】
なお、基材13に用いることのできる圧電性結晶として水晶のほかにニオブ酸リチウム(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTa O3)等を例示することができる。水晶以外の圧電性結晶により基材13を形成した場合でも、基材13の外表面において弾性表面波を周回させることが出来る所定の円環形状の表面領域12は、基材13の結晶面が基材13の球形状の外表面と交差する円環形状の線に沿った基材13の外表面の表面領域となる。
【0026】
なお、切り替え部17に代わり、高周波信号発生部16から電気音響変換素子15へのみ一方向に高周波信号を送信する、及び電気音響変換素子15において受信した弾性表面波14から変換された高周波信号を検出・出力部19へのみ送信する、公知の方向性結合回路等を使用することも出来る。
【0027】
球状弾性表面波素子11を、ガスセンサとして用いる場合、特定のガスに感応する感応膜20を上記表面領域12に設ける。感応膜20は、例えば、特定のガスをその表面に吸着させることにより増加したその質量の量に応じて上記表面領域12を伝搬する弾性表面波の伝搬速度を遅くさせても良いし、或いは、特定のガスを感応膜20内に吸蔵し、その吸蔵量に応じてその薄膜の機械的堅さを変化させることにより、上記表面領域12を伝搬する弾性表面波の伝搬速度や減衰率を変化させても良い。更には、特定のガスと反応することにより反応した特定のガスの量に応じて吸熱或いは発熱反応を起こし、吸熱或いは発熱反応の量に応じて上記表面領域12を伝搬する弾性表面波の伝搬速度を変化させても良い。感応膜20は、可逆反応を起こす材料であることが望ましい。
【0028】
例えば、この様な感応膜20として、水素(H)を吸蔵し水素化物を形成して機械的性質が変化するパラジウム(Pd)、アンモニア(NH)に対する吸着性が高いプラチナ(Pt)、水素化物を吸着する酸化タングステン(WO)、一酸化炭素(CO),二酸化炭素(CO),二酸化硫黄(SO),二酸化窒素(NO)等を選択的に吸着するフタロシアニン(Phthalocyanine)等が知られている。
【0029】
ここで基材13に用いる圧電性結晶の多くは異方性をもち、それを原因として表面領域12内の位置によって電気機械結合定数が異なり、同じ電気音響変換素子15により同じ条件で実際に励起された弾性表面波14の音速やパワーフローアングルが異なる。
【0030】
電気音響変換素子15が励起させようとする弾性表面波の音速やパワーフローアングルが基材13の円環形状の表面領域12において電気音響変換素子15が配置された位置に電気音響変換素子15により実際に励起された弾性表面波の音速やパワーフローアングルと異なっていると、基材13の円環形状の表面領域12に電気音響変換素子15が励起させ伝搬させた弾性表面波14が上記表面領域12において周回を重ねるたびに、電気音響変換素子15が受信する弾性表面波14の波長が電気音響変換素子15が励起させようとした弾性表面波の波長とずれていく。この結果、球状弾性表面波素子11を使用した種々の装置の動作精度の向上に限界が生じている。
【0031】
図2中に示されている如く、電気音響変換素子15のすだれ状電極に高周波信号が印加されると、電気音響変換素子15は基材13の円環形状の表面領域12において電気音響変換素子15の両側に弾性表面波14−1及び弾性表面波14−2を励起させる。
【0032】
電気音響変換素子15のすだれ状電極は、2対の電極対15−1及び15−2を有している。そして、一方の電極対15−1の電極枝の周期はλ1であり、他方の電極対15−2の電極枝の周期はλ2である。
【0033】
この際に、基材13の円環形状の表面領域12において電極対15−1,15−2が配置されている位置に励起される弾性表面波14−1,14−2の音速がv1,v2となり相互に異なっていると、一方の弾性表面波14−1の中心周波数f1=v1/λ1と他方の弾性表面波14−2の中心周波数f1=v1/λ2も相互に異なることになる。
【0034】
ここで、一方の弾性表面波14−1の中心周波数f1=v1/λ1と他方の弾性表面波14−2の中心周波数f1=v1/λ2を一致させる(所望の中心周波数f=v1/λ1=v2/λ2の関係とする)ように、一方の電極対15−1の電極枝の周期λ1と他方の電極対15−2の電極枝の周期λ2が設定されている。
【0035】
この結果として、基材13の円環形状の表面領域12において電極対15−1,15−2が配置されている位置に励起される弾性表面波14−1,14−2の中心周波数f1,f2が一致するので、弾性表面波14−1,14−2が上記表面領域12における周回を重ねても、電気音響変換素子15の電極対15−1,15−2が受信する弾性表面波14−1,14−2の波長f1,f2が電気音響変換素子15が励起させようとした弾性表面波の波長とずれることがなく、従来に比べ球状弾性表面波素子11を利用した種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来る。
【0036】
[第2の実施形態]
以下、図3及び図4を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に従っている球状弾性表面波素子25を説明する。
【0037】
前述した如く、圧電性単結晶により形成されている基材13の多くは異方性をもち、それを原因として表面領域12内の位置によって電気機械結合定数が異なり、同じ電気音響変換素子29により同じ条件で実際に励起された弾性表面波30の音速やパワーフローアングルが異なる。そして、表面領域12内の位置によってパワーフローアングルが異なるために、圧電性単結晶により形成されている基材13の上記表面領域12に励起された弾性表面波30は、上記表面領域12の円環状の延出方向に沿い伝搬する間にその周回経路が円とならず、弾性表面波はパワーフローアングルに従い所定の周回経路31に沿い蛇行する。
【0038】
そして、表面領域12において所定の周回経路31から外れた位置に電気音響変換素子15が配置されると、弾性表面波は表面領域12内を周回するが強度が指数関数的に減衰せず、また、一周あたりの周回時間が変化する。
【0039】
このことは、基材13の円環形状の表面領域12を伝搬する弾性表面波30を指数関数的に減衰させることが出来、周回速度も一定に保つことが出来れば、球状弾性表面波素子25を利用した上述した如き種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来ることを意味している。
【0040】
本願の発明者等は、基材として最も安価に大量に調達可能な、例えば水晶を含む圧電性単結晶を使用した場合には、各球状弾性表面波素子間で、僅かではあるが弾性表面波の強度や減衰定数や周回速度に個体差があることの原因として、例えば水晶を含む圧電性単結晶の多くは異方性を有していることに注目し、以下に示す種々の実験を行った。その結果としてこのような基材の外表面において弾性表面波を周回させることが出来る所定の円環形状の表面領域(基材の結晶面が基材の球形状の外表面と交差する円環形状の線に沿った基材の外表面の表面領域)では、その幾つかの周方向位置で上記異方性の影響により上記表面領域を伝搬する弾性表面波の音速や電気機械結合定数やパワーフローアングルが異なることが分った。
【0041】
この実験では、図7中に図示されている如く、水晶により直径10mmの球状に形成された基材1をそのZ軸を地球の地軸に見たててZ軸の回りに360°回転させ、複数の回転角度毎(15°毎)に回転を停止させている間に電気音響変換素子のすだれ状電極2を基材1の赤道上の複数の回転角度位置に接近させて弾性表面波を上記赤道上に励起させ上記赤道に沿い伝搬させた時の経過時間に伴う弾性表面波の減衰傾向を測定し、さらに、すだれ状電極2を基材1を地球に見立てた時の南北の複数の緯度(+−1.5°及び3°)で基材1の赤道上の複数の回転角度位置(15°毎)に接近させて弾性表面波を上記赤道上に励起させ上記赤道に沿い伝搬させた時の経過時間に伴う弾性表面波の減衰傾向を100周分測定した。
【0042】
なお水晶において、基材1の外表面において弾性表面波を周回させることが出来る所定の円環形状の表面領域は、基材1の結晶面が基材の球形状の外表面と交差する円環形状の線に沿った基材1の外表面の表面領域であり、上記円環形状の線は基材1を地球に見立てた時の赤道である。
【0043】
そして、基材1は、上記表面領域には含まれない基材1を地球に見立てた時の南極の地軸中心を、−Z軸と同軸で−Z軸方向に延びる回転中心軸3により支持されていて、回転中心軸3は図示しない公知の回転装置により所望の回転角度で回転可能である。
【0044】
その測定結果を、以下の表1,表2,表3,表4,表5,表6,表7,表8,表9,表10,表11,そして表12に示す。
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【0053】
【表10】

【0054】
【表11】

【0055】
【表12】

【0056】
これらの表において、水晶により球状に形成された基材1を赤道に沿い多重周回する弾性表面波の強度減衰が指数関数的な減衰と良く一致する経度(即ち、赤道上の回転角度)と緯度との組み合わせ位置に丸印が付されている。
【0057】
そして、経度の120°毎の周期で南北の緯度の3°の範囲内を、多重周回する弾性表面波の強度減衰が指数関数的な減衰と良く一致する経度(即ち、赤道上の回転角度)と緯度との組み合わせ位置(丸印が付されている)が正弦的に蛇行するように配置されていることが分る。
【0058】
このことは、水晶により球状に形成された基材1において、すだれ状電極2の中心を赤道上に接近させた場合に、赤道に沿い多重周回する弾性表面波は上述したように蛇行していることを意味している。
【0059】
この実験結果は、水晶が有するパワーフローアングルや三方晶系の異方性と一致していることが分る。
【0060】
この実施の形態では、基材13の円環形状の表面領域12を伝搬する弾性表面波30を指数関数的に減衰させ、周回速度を一定に保つようにするために、周回経路31上に電気音響素子29のすだれ状電極の中心を配置し、周回経路31上において電気音響素子29のすだれ状電極が配置された位置によって、すだれ状電極の複数の電極枝を、上記表面領域12においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波30の等位相面の延出方向と同じ方向に延出しているとともに、上記対応する位置における上記弾性表面波30のパワーフローアングルに沿い上記延出方向に相互にずれて配置されている。
【0061】
図4の(A)及び(B)に概略的にではあるが、すだれ状電極の複数の電極枝に関する上述した配置が拡大されて図示されている。
【0062】
図4の(A)では、基材13の円環形状の表面領域12における弾性表面波30の蛇行する所定の周回経路31上で電気音響変換素子29のすだれ状電極が配置されている位置における周回経路31のパワーフローアングルが左上から右下に向かい傾斜している状況が図示されている。そしてここにおいては、電気音響変換素子29のすだれ状電極の複数の電極枝EBが、上記表面領域12においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波30の等位相面33の延出方向と同じ方向に延出しているとともに上記対応する位置における上記弾性表面波30の周回経路31のパワーフローアングルに沿い上記延出方向に相互にずれて配置されていることも図示されている。
【0063】
図4の(B)では、基材13の円環形状の表面領域12における弾性表面波30の蛇行する所定の周回経路31上で電気音響変換素子29のすだれ状電極が配置されている位置における周回経路31のパワーフローアングルが左下から右上に向かい傾斜している状況が図示されている。そしてここにおいても、電気音響変換素子29のすだれ状電極の複数の電極枝EBが、上記表面領域12においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波30の等位相面33の延出方向と同じ方向に延出しているとともに上記対応する位置における上記弾性表面波30の周回経路31のパワーフローアングルに沿い上記延出方向に相互にずれて配置されていることも図示されている。
【0064】
この結果として、基材13の円環形状の表面領域12における弾性表面波30の蛇行する所定の周回経路31上で電気音響変換素子29のすだれ状電極が配置されている位置での周回経路31のパワーフローアングルに沿い、電気音響変換素子29のすだれ状電極により表面弾性波を励起させ伝搬させることが出来る。従って、基材13の円環形状の表面領域12を周回経路31に沿い伝搬する弾性表面波30を指数関数的に減衰させることが出来、周回速度も一定に保つことが出来るので、球状弾性表面波素子25を利用した上述した如き種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来る。
【0065】
なお、図3及び図4を参照した第2の実施の形態における電気音響変換素子29のすだれ状電極の複数の電極枝EBの上述した如き配列に、図1及び図2を参照した第1の実施の形態における電気音響変換素子15のすだれ状電極の電極枝の配列周期を組み合わせることにより、前述した如き両者の技術的な利点を同時に達成することが出来るので、球状弾性表面波素子25を利用した上述した如き種々の装置の動作精度をよりさらに向上させることが出来る。
【0066】
[第3の実施の形態]
次に、図5及び図6を参照しながら、本発明の第3の実施の形態に従っている球状弾性表面波素子35を説明する。
【0067】
圧電性単結晶の基材13の上記表面領域12において弾性表面波39が拡散することなく周回する条件はW=√(2aλ)であって、aは上記表面領域12の上記球の一部の半径であり、λは上記弾性表面波39の波長であり、そしてWは上記弾性表面波39の幅である。
【0068】
上記弾性表面波39の幅はすだれ状電極の複数の電極枝において相互に隣接した2つの電極枝が相互に対面する長さにより規定され、上記相互に対向する長さは、上記表面領域12においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波39の波長に対応して上記条件を満たす長さに設定されている。
【0069】
球状弾性表面波素子35の電気音響変換素子37のすだれ状電極に高周波信号が印加されると、電気音響変換素子37は基材13の円環形状の表面領域12において電気音響変換素子37の両側に弾性表面波39−1及び弾性表面波39−2を励起させる。
【0070】
電気音響変換素子37のすだれ状電極は、2対の電極対37−1及び37−2を有している。そして、一方の電極対37−1の電極枝の周期はλ1であり、他方の電極対37−2の電極枝の周期はλ2である。
【0071】
この際に、基材13の円環形状の表面領域12において電極対37−1,37−2が配置されている位置に励起される弾性表面波39−1,39−2の音速がv1,v2となり相互に異なっていると、一方の弾性表面波39−1の中心周波数f1=v1/λ1と他方の弾性表面波39−2の中心周波数f1=v1/λ2も相互に異なることになる。
【0072】
ここで、一方の弾性表面波39−1の中心周波数f1=v1/λ1と他方の弾性表面波39−2の中心周波数f1=v1/λ2を一致させる(所望の中心周波数f=v1/λ1=v2/λ2の関係とする)ように、一方の電極対37−1の電極枝の周期λ1と他方の電極対37−2の電極枝の周期λ2が設定されている。
【0073】
この結果として、基材13の円環形状の表面領域12において電極対37−1,37−2が配置されている位置に励起される弾性表面波39−1,39−2の中心周波数f1,f2が一致するので、弾性表面波39−1,39−2が上記表面領域12における周回を重ねても、電気音響変換素子37の電極対37−1,37−2が受信する弾性表面波39−1,39−2の波長f1,f2が電気音響変換素子37が励起させようとした弾性表面波の波長とずれることがなく、従来に比べ球状弾性表面波素子37を利用した種々の装置の動作精度をさらに向上させることが出来る。
【0074】
しかも、圧電性単結晶材料の基材13の上記表面領域12において弾性表面波39が拡散することなく周回する条件がW=√(2aλ)であり、aは上記表面領域12の上記球の一部の半径であり、λは上記弾性表面波39の波長であり、そしてWは上記弾性表面波39の幅なので、電極対37−1において相互に隣接する2つの電極枝が相互に対面する長さをw1、電極対37−2において相互に隣接する2つの電極枝が相互に対面する長さをw2とすると、w1=√(2aλ1)、w2=√(2aλ2)と設定し、圧電性単結晶材料の基材13の上記表面領域12において弾性表面波39が拡散することなく多数回周回することを確実にしている。このこともまた、従来に比べ球状弾性表面波素子35を利用した種々の装置の動作精度をさらに向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施の形態に従っている球状弾性表面波素子を概略的に示す図である。
【図2】図1中に図示されている球状弾性表面波素子の電気音響変換素子のすだれ状電極の構成を拡大して示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に従っている球状弾性表面波素子を概略的に示す図である。
【図4】(A)及び(B)は、図3中に図示されている球状弾性表面波素子の電気音響変換素子のすだれ状電極の2種類の構成を拡大して示す図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に従っている球状弾性表面波素子を概略的に示す図である。
【図6】図5中に図示されている球状弾性表面波素子の電気音響変換素子のすだれ状電極の構成を拡大して示す図である。
【図7】水晶による圧電性結晶材料により形成された球状基材における弾性表面波の経過時間に伴う弾性表面波の減衰傾向を、基材をそのZ軸を地球の地軸に見たててZ軸の回りに360°回転させている間に複数の回転角度毎(15°毎)に南北の+−1.5°と+−3°の位置で測定する為の実験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0076】
1…基材
2…すだれ状電極
3…回転中心軸
11…球状弾性表面波素子
12…表面領域
13…基材
14,14−1,14−2…弾性表面波
15…電気音響変換素子
15−1,15−2…電極対
16…高周波信号発生部
17…切り替え部
18…アンプ
19…検出・出力部
20…感応膜
f1,f2…中心周波数、
v1,v2…速度
λ1,λ2…周期
25…球状弾性表面波素子
29…電気音響変換素子
30…弾性表面波
31…周回経路
33…等位相面
34…等位相面
EB…電極枝
35…球状弾性表面波素子
37…電気音響変換素子
37−1,37−2…電極対
39,39−1,39−2…弾性表面波
f1,f2…中心周波数、
v1,v2…速度
λ1,λ2…周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の一部で形成され最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域を含んでおり、上記表面領域には弾性表面波が励起され励起された弾性表面波を上記表面領域の円環状の延出方向に沿い周回させる圧電性単結晶基材と;そして
圧電性単結晶基材の上記表面領域に弾性表面波を励起させ、励起させた弾性表面波を上記表面領域の円環状の延出方向に沿い伝搬させる電気音響変換素子と;
を備えていて、
電気音響変換素子は、すだれ状電極を含んでいて、
すだれ状電極の複数の電極枝は、上記表面領域の上記所定の経路上においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波の音速の所望の中心周波数に一致する周期に配列されている、
ことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項2】
すだれ状電極の複数の電極枝は、上記表面領域においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波の等位相面の延出方向と同じ方向に延出しているとともに、上記対応する位置における上記弾性表面波のパワーフローアングルに沿い上記延出方向に相互にずれて配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の球状弾性表面波素子。
【請求項3】
圧電性単結晶基材の上記表面領域において弾性表面波が拡散することなく周回する条件はW=√(2aλ)であって、aは上記表面領域の上記球の一部の半径であり、λは上記弾性表面波の波長であり、そしてWは上記弾性表面波の幅であり、
上記弾性表面波の幅はすだれ状電極の複数の電極枝において相互に隣接した2つの電極枝が相互に対面する長さにより規定され、
上記相互に対向する長さは、上記表面領域においてすだれ状電極が対応する位置における弾性表面波の波長に対応して上記条件を満たす長さに設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の球状弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−225104(P2009−225104A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67407(P2008−67407)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年11月14日 超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム運営委員会発行の「超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム論文集,第28巻」に発表
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】