説明

球状弾性表面波素子

【課題】たとえば、球状基材を加熱しながらその熱を周囲に放出する程度を計測することによってガスの状態の計測を行なう用途において、球形基材の大きな熱容量による応答速度の低下、あるいは、加熱部分と温度計測を行なう弾性表面波の周回領域の位置的なずれによる計測精度の低下をもたらさない加熱配線付の球状弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】球形基材11を、弾性表面波の周回経路12によって分けられる2つの領域を周回経路以外の領域について切削した樽型形状とすることで、球形基材11の熱容量を相対的に小さくするとともに、上記切削によって生じた平面11a,11bに、加熱用の配線パターン15a,15bを形成することで、加熱領域と弾性表面波の伝搬領域(周回経路12)と3次元的に接近した加熱配線付の球状弾性表面波素子10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)の解析によりガスの状態など各種の計測を行なうための球状弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電材料で形成されている平坦な表面を有する基材の上記表面上の相互に離れた2つの位置に電気音響変換素子を設けた板状の弾性表面波素子が知られている。電気音響変換素子は通常、たとえば、すだれ状電極のごとき高周波励起/高周波受信手段である。
【0003】
この従来の弾性表面波素子においては、一方の電気音響変換素子に高周波電流を供給すると、この一方の電気音響変換素子が弾性表面波を基材の表面に発生させ、所定の方向に伝搬させることができる。そして、他方の電気音響変換素子は、上記表面上で一方の電気音響変換素子からの弾性表面波を受信し、受信した弾性表面波に対応した高周波電流を生じさせることができる。
【0004】
電気音響変換素子がすだれ状電極の場合には、すだれ状電極の複数の電極枝が並んでいる方向がすだれ状電極により発生された弾性表面波が伝搬する方向となり、また上記弾性表面波を効率よく受信する方向となる。
【0005】
なお、弾性表面波とは、通常のバルク波と呼ばれる縦波や横波と異なり、物質表面にそのエネルギーの多くを集中して伝搬する弾性波である。弾性表面波としては、レーリー波、セザワ波、擬セザワ波、ラブ波等を例示することができ、異方性材料の表面にも存在しえる。
【0006】
球状弾性表面波素子の周回経路を伝搬する弾性表面波の周回速度や周回に要する時間は、一般には温度依存性を持つことから、その変化を計測することで高精度の温度計として使用できる。この弾性表面波の伝搬状態の変化から温度計測する方法は、現在様々な用途で使用されており、公知の技術である。
【0007】
従来の板状の弾性表面波素子は、遅延線、発振器のための発振素子および共振素子、周波数選択フィルタ、化学センサ、バイオセンサ、リモートタグ等に使用されている。そして、圧電体の上面の弾性表面波励起手段と弾性表面波検知手段との間の距離を長くとれればとれるほど、弾性表面波素子を利用したこれら種々の装置の精度は高まる。
【0008】
しかしながら、このような従来の板状の弾性表面波素子においては、平坦な基体上に配置された圧電体が平坦であるために、弾性表面波励起手段が圧電体の上面に励起した弾性表面波は平坦な圧電体の上面に沿い弾性表面波検知手段に向かい伝搬される間に、その伝搬方向に対し直交する方向に拡散してしまい、そのエネルギーを失う。したがって、平坦な圧電体の上面において設定可能な弾性表面波励起手段と弾性表面波検知手段との間の距離は、おのずと限りがある。
【0009】
球状弾性表面波素子は、弾性表面波を励起させ伝搬させることができる球形状の基体の表面に対し弾性表面波励起検知手段としてのすだれ状電極を載置し、基体の半径とすだれ状電極により基体の表面に励起させる弾性表面波の周波数および幅(基体の表面を弾性表面波が伝搬する方向に対し基体の表面に沿い直交する方向における弾性表面波の寸法)とを所定の条件に設定することにより、すだれ状電極により基体の表面に励起された弾性表面波を、基体の表面に沿い伝搬する方向に対し基体の表面に沿い直交する方向に無限に拡散させることなく、伝搬させることができ、ひいては繰り返し周回させることができることが明らかにされている。
【0010】
球形状の基体の表面を弾性表面波が周回する軌跡は、球形状の基体の表面において球形状の基体の最大外周線を含んでいる球面の一部が円環状に連続している領域内にあり、この領域を弾性表面波周回路と呼んでいる。そして、球形状の基体を使用したこのような球状弾性表面波素子は、弾性表面波周回路に沿い弾性表面波周回路の延出方向と交差する方向に拡散することなく弾性表面波を多数回周回させることができる(すなわち、すだれ状電極が弾性表面波を励起させてから弾性表面波周回路を周回する弾性表面波をすだれ状電極が正確に検知することができなくなるまでに弾性表面が周回する回数が多い)ので、周回数の増大に伴う弾性表面波の伝搬速度の減速の程度や弾性表面波の位相の遅れの程度や弾性表面波の強度の減少の程度を精密に測定することができる。
【0011】
伝搬速度の減速の程度や弾性表面波の位相の遅れの程度や弾性表面波の強度の減少の程度は、球状弾性表面波素子の弾性表面波周回路が接している環境の変化(たとえば、ガス濃度の増加)の程度に対応する。したがって、上述した種々の程度を測定することは球状弾性表面波素子の弾性表面波周回路が接している環境の変化を測定することを意味する。
【0012】
そのひとつの応用例が、流速計への応用として提案されている。
特許文献1には、球状弾性表面波素子の球形基材の表面、あるいは、それに接触させて加熱するヒータが説明されている。特に、特許文献1では、弾性表面波の周回経路の両側に抵抗加熱のための配線パターンを実装している。球形基材を加熱しながら、周囲のガスの流がれに伴って熱が奪われる現象を計測してガスの流速を計測する。
【0013】
用いる計測アルゴリズムは、弾性表面波素子を周回する弾性表面波の周回速度をその位相速度が一定になるための温度調節するためのヒータ電流値を計測する方法がある。あるいは、さらに単純に、一定の電流を流すことで同じ熱量が球状弾性表面波素子に印加される状態を作り、弾性表面波の周回速度の変化から素子温度を計測することで、間接的に周囲のガスによって熱が奪われる量を計測するものである。
【0014】
これらの加熱配線付の球状弾性表面波素子は、球状弾性表面波素子が高精度の温度計になることが期待されているが、球形基材が大きな熱容量を有しているために、高速の応答を得ることが難しかった。
【0015】
さらに、従来の加熱配線付の球状弾性表面波素子は、温度計測の対象である弾性表面波素子の周回経路とは異なる位置に加熱配線が形成されているために、温度計測位置と加熱位置が異なり、最も放熱が大きくなる領域の温度が正確に計測できない。
【0016】
特許文献2には、弾性表面波素子の弾性表面波の位相速度から温度を計測するのではなく、弾性表面波の周回する伝搬路上に直接抵抗測温体を形成することが示されている。
【0017】
なお、本発明では、電気音響変換素子としてすだれ状電極を使用するとともに、すだれ状電極は球形基材の表面に実装することを前提に説明する。しかし、結晶球とは別個の基材の上にすだれ状電極を形成してすだれ状電極を結晶球の表面に接近することでも球状弾性表面波素子として機能する。本発明では、この場合も「球形結晶球の表面にすだれ状電極を形成する」と表現するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−101450号公報
【特許文献2】特開2008−082984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
表面に加熱用配線を有した球状弾性表面波素子は、周囲のガスの流れ等の変化を計測する用途において、その使用が期待されているに関わらず、球形基材の大きな熱容量や、加熱用配線が弾性表面波の伝搬位置と位置的に離れていることから、応答が遅く正確な計測ができなくなるという課題がある。
【0020】
そこで、本発明は、たとえば、球状基材を加熱しながらその熱を周囲に放出する程度を計測することによってガスの状態の計測を行なう用途において、球形基材の大きな熱容量による応答速度の低下、あるいは、加熱部分と温度計測を行なう弾性表面波の周回領域の位置的なずれによる計測精度の低下をもたらさない加熱配線付の球状弾性表面波素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る球状弾性表面波素子は、球面の一部で形成され前記球面の最大径の外周線を含み円環上に延出している表面領域を含んでおり、前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い励起された弾性表面波が前記外周線に沿い周回する基材と、前記基材の前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い弾性表面波を励起させる電気音響変換素子と、前記弾性表面波の伝搬する円環状の球形領域を挟む2つの表面領域は平面であって、この2つの平面状の表面領域に形成された加熱用の配線パターンとを具備している。
【0022】
また、本発明の請求項2に係る球状弾性表面波素子は、球面の一部で形成され前記球面の最大径の外周線を含み円環上に延出している表面領域を含んでおり、前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い励起された弾性表面波が前記外周線に沿い周回する基材と、前記基材の前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い弾性表面波を励起させる電気音響変換素子と、前記弾性表面波の伝搬する円環状の球形領域を挟む2つの表面領域を連通する貫通孔と、前記円環状の球形表面以外の表面領域に形成された加熱用の配線パターンとを具備している。
【0023】
また、本発明の請求項3に係る球状弾性表面波素子は、球面の一部で形成され前記球面の最大径の外周線を含み円環上に延出している表面領域を含んでおり、前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い励起された弾性表面波が前記外周線に沿い周回する基材と、前記基材の前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い弾性表面波を励起させる電気音響変換素子と、前記弾性表面波の伝搬する円環状の球形領域を挟む2つの表面領域は平面であって、この2つの平面状の表面領域を連通する貫通孔と、前記円環状の球形領域以外の表面領域に形成された加熱用の配線パターンと、前記円環状の球形表面以外の表面領域であって、前記貫通孔の周面を除く平面部分に形成され、前記電気音響変換素子に対し電気信号の送受を行なうための第1の結線部と、前記円環状の球形表面以外の表面領域であって、前記貫通孔の周面を除く平面部分に形成され、前記加熱用の配線パターンに対し電力を供給するための第2の結線部とを具備している。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、たとえば、球状基材を加熱しながらその熱を周囲に放出する程度を計測することによってガスの状態の計測を行なう用途において、球形基材の大きな熱容量による応答速度の低下、あるいは、加熱部分と温度計測を行なう弾性表面波の周回領域の位置的なずれによる計測精度の低下をもたらさない加熱配線付の球状弾性表面波素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構成を概略的に示す斜視図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構成を概略的に示す斜視図。
【図3】本発明の第2の実施の態に係る球状弾性表面波素子に対して結線を行なう状況を概略的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
まず、第1の実施形態について説明する。
【0027】
図1は、第1の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構成を概略的に示すものである。図1において、球状弾性表面波素子10は、たとえば、水晶またはランガサイトのような三方晶系圧電性単結晶の基材11を備えている。基材11は、本実施形態では直径が3.3mmの水晶を使用した。水晶によりなる基材11は、水晶の単結晶基材を球形に加工されて後に、水晶のZ軸を地軸として赤道近傍を弾性表面波の周回経路12とすることができる。
【0028】
本実施形態に使用する圧電性結晶の基材11は温度が変わると、弾性表面波の周回速度が変わる温度依存性を持った圧電性結晶基材であることが求められる。たとえば、水晶球を用いた球状弾性表面波素子の温度依存性は室温付近で25ppm/度であり、ランガサイト結晶球を使用した場合は40ppm/度である。温度依存性が高いほど正確に弾性表面波の周回速度から温度を計測できる。
【0029】
赤道にそって弾性表面波が周回するように、すだれ状電極13を赤道にその電極枝が赤道に垂直になる方向に形成している。すだれ状電極13の周期は、励起あるいは検出する弾性表面波の周波数を決定するが、本実施形態では150MHzの弾性表面波を励起するために21ミクロンの周期にすだれ状電極13を形成する。
【0030】
なお、三方晶系圧電性単結晶を用いて球形基材11を作る場合には、Z軸を結晶方位を地軸とする赤道に沿って(Z軸シリンダ経路と呼称される)弾性表面波の周回経路を形成できるが、たとえば、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムなど多くの圧電結晶でZ軸シリンダ経路以外の経路で弾性表面波が周回することが知られており、本実施形態は弾性表面波の多重周回が可能で、その周回速度が温度依存性を有していればよく、赤道に沿った経路以外を除外するものではない。
【0031】
球形基材11は、Z軸を地軸として両極を切削、研磨して樽型形状とする。Z軸シリンダ領域は、幅0.8mmにわたって球形表面を残している。加工方法は、製作した球形の水晶球を樹脂に埋め込み、樹脂ごと研磨を北極側と南極側の両面について行なって、その後に樹脂を溶解除去して樽型の結晶球を作ることができる。
【0032】
すだれ状電極13は、少なくとも弾性表面波の周回経路12の領域にアルミ薄膜(1000Å)、あるいは、クロム(500Å)と金(1000Å)の積層薄膜を真空成膜によって成膜後、フォトリソグラフィ方法にしたがってパターン化して形成した。すだれ状電極13は、2つの電極取出部(第1の結線部)14a,14bを有している。
【0033】
すだれ状電極13を形成した後、前記切削研磨した2つの平面状の領域11a,11bに、クロム薄膜をスパッタによって形成した後にエッチングを行なって抵抗加熱用の配線パターン15a,15bを形成する。なお、配線パターン15a,15bの形状や膜厚は、使用する加熱用途にしたがって設計を行なえばよい。
【0034】
本実施形態において、樽型形状の基材11は、球形状と比較して3分の1以下の水晶基材の体積となり、熱容量が小さくなる。加熱用の配線パターン15a,15bに加熱用電源16から電流を流して発熱させ、その際の弾性表面波素子10の温度上昇を弾性表面波の周回速度の計測によって行なうことができる。
【0035】
これにより、圧電性結晶球の比熱も小さく、より高速に加熱や冷却が可能で、もって周囲のガスとの熱の送受が圧電性結晶基材11の温度に正確に反映する。つまり、周囲のガスの状況をより正確かつ高速に計測できる。
【0036】
なお、本実施形態の例では、すだれ状電極13は単一に形成し、励起用(送信用)と受信用の役割を兼ねているが、弾性表面波の送信用と受信用に別個に製作することができる。
【0037】
このように、平面形状に切削した面11a,11bに加熱用の配線パターン15a,15bを形成することで、配線パターン15a,15bと弾性表面波の周回経路12が3次元的に近いだけでなく、切削して生まれた平面への形成であるために配線パターン15a,15bの形成プロセスが簡単で、また、配線パターン15a,15bへの加熱用電源16の結線も容易になるなどの加工上のメリットを有している。
【0038】
さらに、上記切削によって生じた平面11a,11bに、弾性表面波の励起検出用のすだれ状電極13の電極取出部(第1の結線部)14a,14bを形成することがよい。すだれ状電極13との接続が切削平面11a,11bで可能であり、実装が容易である。
【0039】
なお、切削によって生じた平面11a,11bに形成する加熱用の配線パターン15a,15bは、図1に示すような単純な形状でもよいし、蛇行形状に形成してもよい。蛇行形状に形成することで、抵抗値の増大と発熱分布の均一化やその分布の均一化のための制御が可能である。
【0040】
本実施形態における基材11の切削平面11a,11bに対して、加熱用の配線パターン15a,15bにより大気中で加熱を行ないながら、すだれ状電極13に対して150MHzの搬送周波数でバースト信号の継続時間が1マイクロ秒の高周波信号を加えて弾性表面波を励起する。周回経路12を周回してすだれ状電極13を通過する度に発生する電圧を増幅して、周回周期を計測すると、温度にしたがった所定の時間間隔となることで温度計測が可能である。
【0041】
たとえば、流量計測では、計測対象となる大気流(風)の環境に設置することで、無風の状態で加熱用の配線パターン15a,15bにより45度に上昇して安定化した温度が、毎秒1mの風の中では約10度以上に低下することが観測できる。
【0042】
本実施形態は、基材の体積(熱容量に比例)の減少よりその表面積(熱放射に比例)の減少が小さく、加熱した基材11の熱放射に伴う温度変化を大きくすることは明らかで、その効果は、熱放射の速度を利用する他の用途についても応答速度の向上として期待される。
【0043】
次に、第2の実施形態について説明する。
なお、前述した第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して説明は省略し、異なる部分についてだけ説明する。
【0044】
図2は、第2の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構成を概略的に示すものである。第2の実施形態は、前述した第1の実施形態の球状弾性表面波素子よりもさらに熱容量を小さくしたものであり、以下、詳細に説明する。
【0045】
基材11として用いる結晶球は、直径が3.3mmのランガサイト球であって、Z軸シリンダ経路近傍を0.7mmの厚さを残して平面部11a,11bを両極に形成し、さらに、地軸に沿って平面部11a,11bを連通する貫通孔17を有している。ここに、貫通孔17の直径Dは2mmである。
【0046】
本実施形態では、少なくとも貫通孔17の周面に加熱用の配線パターン15として作用するクロム薄膜よりなる薄膜をスパッタ法等によって形成する。加熱用の配線パターン15に電力を供給するための2つの電極取出部(第2の結線部)18a,18bは、貫通孔17以外の残された平面部、この例では平面部11aに形成する。また、すだれ状電極13の電極取出部(第1の結線部)14a,14bも同様に平面部11a,11bに形成する。
【0047】
貫通孔17の大きさは、大きい方がより結晶基材の11熱容量を小さくできることから望まれるが、大きくすると結晶基材11そのものの剛性が弱くなり、加熱用の配線パターン15との結線プロセスや、すだれ状電極13との結線プロセスで結晶基材11に圧力が掛かる際に結晶基材11そのものの破壊に繋がる。さらに、弾性表面波の波長に比較して例えば20倍以上の厚さが弾性表面波の周回経路12の幅にわたってないと、弾性表面波の伝搬自体を阻害することから問題が生じる。
【0048】
本実施形態では、150MHzの水晶結晶中の代表的な波長は約21ミクロンであり、420ミクロンの幅を残すために、[3300マイクロメートル−(420マイクロメートル×2)=2480マイクロメートル]により、2480マイクロメートル以上の直径を持った貫通孔17を設けることは、弾性表面波素子として動作しなくなる。このように、周回経路12の肉厚を薄くする限度については、弾性表面波の周波数や伝搬モード、結晶材料についても考慮して弾性表面波が伝搬可能な大きさに選べばよい。
【0049】
平面部11a,11bにすだれ状電極13の電極取出部(第1の結線部)14a,14bおよび加熱用の配線パターン15の電極取出部(第2の結線部)18a,18bを位置させることには次のような利点がある。
【0050】
すなわち、プリント配線板への実装や、超音波結線機を用いて結線する際に、基材11にかかる圧力や超音波振動が結晶材を破壊することを防ぐよう、平面のテーブルに基材11を設置して上方から圧力や超音波振動を印加できる。
【0051】
たとえば、図3に示すように、超音波結線機は、通常、平面のテーブル(結線機定盤)21に基材11を設置し、上方から超音波結線機のヘッド22により超音波振動を加えながら、金ワイヤ23等を金薄膜等で形成された電極取出部(図3の例の場合、電極取出部14a)に対して力をかけながら結線する。平面部に結線を行なうのがリング状に加工されることで剛性の弱くなった結晶基材11に破壊に繋がる力をかけることなく行なうのに適している。
【0052】
なお、上記第2の実施形態では、加熱用の配線パターン15は貫通孔17の周面に形成した例を示したが、基材11の平面部11a,11bに形成してもよいことは明らかである。
【0053】
以上説明したように上記実施形態によれば、球形基材11を、弾性表面波の周回経路12によって分けられる2つの領域を周回経路以外の領域について切削した樽型形状とすることで、球形基材11の熱容量を相対的に小さくするとともに、上記切削によって生じた平面11a,11bに、加熱用の配線パターン15a,15bを形成することで、加熱領域と弾性表面波の伝搬領域(周回経路12)と3次元的に接近した加熱配線付の球状弾性表面波素子10を提供できる。
【0054】
このように構成された球状弾性表面波素子10によれば、球状弾性表面波素子10が加熱用の配線パターン15a,15bを有して自身を加熱しながら、周囲のガスの流速などの熱の漏出の程度を弾性表面波の周回速度の変化に基づく温度計測を高速かつ正確に行なうことが可能になる。
【符号の説明】
【0055】
10…球状弾性表面波素子、11…基材、11a,11b…平面状の領域(平面)、12…周回経路、13…すだれ状電極(電気音響変換素子)、14,14a,14b…すだれ状電極の電極取出部(第1の結線部)、15,15a,15b…加熱用の配線パターン、16…加熱用電源、17…貫通孔、18a,18b…配線パターンの電極取出部(第2の結線部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の一部で形成され前記球面の最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域を含んでおり、前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い励起された弾性表面波が前記外周線に沿い周回する基材と、
前記基材の前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い弾性表面波を励起させる電気音響変換素子と、
前記弾性表面波の伝搬する円環状の球形領域を挟む2つの表面領域は平面であって、この2つの平面状の表面領域に形成された加熱用の配線パターンと、
を具備したことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項2】
球面の一部で形成され前記球面の最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域を含んでおり、前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い励起された弾性表面波が前記外周線に沿い周回する基材と、
前記基材の前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い弾性表面波を励起させる電気音響変換素子と、
前記弾性表面波の伝搬する円環状の球形領域を挟む2つの表面領域を連通する貫通孔と、
前記円環状の球形表面以外の表面領域に形成された加熱用の配線パターンと、
を具備したことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項3】
球面の一部で形成され前記球面の最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域を含んでおり、前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い励起された弾性表面波が前記外周線に沿い周回する基材と、
前記基材の前記表面領域に当該表面領域の円環状の延出方向に沿い弾性表面波を励起させる電気音響変換素子と、
前記弾性表面波の伝搬する円環状の球形領域を挟む2つの表面領域は平面であって、この2つの平面状の表面領域を連通する貫通孔と、
前記円環状の球形領域以外の表面領域に形成された加熱用の配線パターンと、
前記円環状の球形表面以外の表面領域であって、前記貫通孔の周面を除く平面部分に形成され、前記電気音響変換素子に対し電気信号の送受を行なうための第1の結線部と、
前記円環状の球形表面以外の表面領域であって、前記貫通孔の周面を除く平面部分に形成され、前記加熱用の配線パターンに対し電力を供給するための第2の結線部と、
を具備したことを特徴とする球状弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−75002(P2012−75002A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219287(P2010−219287)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】