説明

理美容用椅子

【課題】平行リンク機構により昇降する理美容用椅子を洗髪ボウルに向かって上昇及び後退させる際に、座部が上昇及び後退を行う区間と前後動抑制手段により後退を抑制しながら上昇を行う区間とを設け、理美容用椅子と洗髪ボウルとの間隔を容易に調整できる理美容用椅子を提供する。
【解決手段】平行リンク40を備えた昇降部30を有し、駆動源80により上記平行リンク40を変位させ上記昇降部30によって支持された座部17を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる理美容用椅子10において、上記昇降部30には上記座部17が上記の上昇及び後退の動きを行っている途中に上記座部17の後退を抑制する前後動抑制手段60を備え、上記座部17は上記平行リンク40の変位により洗髪ボウル91に向かって上昇且つ後退した後、上記前後動抑制手段60の作動により上記座部17は上記後退が抑制されながら上昇する理美容用椅子10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、理美容用椅子に関するものであり、特に、理美容院において被施術者がバックシャンプー方式の洗髪サービスを受ける際に使用される理美容用椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、理美容院にて被施術者が仰向けの状態で被背術者の頭部を洗髪ボウルに位置させて洗髪サービスを受けるバックシャンプー方式の理美容用椅子において、被施術者が着座する座部を平行リンクを用いた昇降機構(以下、平行リンク機構)により昇降させる理美容用椅子が広く使われている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−89971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
平行リンク機構とは、床面に設置された理美容用椅子の基台と座部との間に、基台と座部のそれぞれに回動可能に取り付けられた平行リンク部材を配置し、平行リンク部材を基台上に設けられた駆動源となるアクチュエーターの伸縮によって起倒させることにより、座部を昇降させるものである。
【0005】
平行リンク機構は、基台上に垂直にアクチュエーターを設け、アクチュエーターの先端部に設けられた座部をアクチュエーターの伸縮により昇降させる昇降機構と比較して、昇降ストロークが大きく座部の移動範囲を広くできる反面、平行リンク機構による昇降は座部が円弧上に上昇又は下降するため、前後方向の移動を伴いながら上下方向の移動が行なわれる。よって、洗髪サービス時に理美容用椅子を洗髪ボウルに向かって上昇及び後退させる際、理美容用椅子を洗髪ボウルに衝突させたり、逆に理美容用椅子が洗髪ボウルから離れすぎるなど、洗髪ボウルと理美容用椅子との間隔の調整に労を要し、特に、理美容用椅子と洗髪ボウルとの上下方向の間隔を調整するのに労を要していた。
【0006】
上記問題を解決するために、特許文献1においては、被施術者の座高の高低に対応すべく、座部の移動量と背もたれの起伏度を調整することによって洗髪ボウルと洗髪用椅子との間隔を調整することが提案されている。しかしながら、実際、洗髪サービスを受ける被施術者の座高が略等しかったとしても、被施術者が洗髪サービスを受ける際に、被施術者ごとに洗髪ボウルと理美容用椅子との間隔、特に上下方向の間隔の調整を行う必要があり、座部の昇降のみを調整することにより洗髪ボウルと理美容用椅子との上下方向の間隔の調整が容易に行える理美容用椅子が求められていた。
【0007】
本願発明はこのことに鑑み、平行リンク機構により昇降する理美容用椅子おいて、理美容用椅子と洗髪ボウルとの間隔、特に上下方向の間隔の調整を容易に行うことができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、平行リンクを備えた昇降部を有し、駆動源により上記平行リンクを変位させ上記昇降部によって支持された座部を洗髪ボウルに向かって上昇及び後退させる理美容用椅子において、上記昇降部には、上記座部の後退を抑制する前後動抑制手段を備え、上記前後動抑制手段は、上記座部が上記の上昇及び後退の動きを行っている途中に作動するものであり、上記座部は上記平行リンクの変位により洗髪ボウルに向かって上昇且つ後退した後、上記前後動抑制手段の作動によって、上記座部は上記後退が抑制されながら上昇するものであることを特徴とする理美容用椅子を提供する。
【0009】
また、本願の請求項2に記載の発明は、上記平行リンクは、前位リンクと、上記前位リンクと平行移動すると共に上記前位リンクの後方に配位された後位リンクとを備え、上記後位リンクが接地され、上位前位リンクが前記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退するものであり、上記前後動抑制手段は、第2リンクと、台座部とを備え、上記第2リンクの一端側は上記平行リンクに回動可能に接続され、他端側は上記台座部に回動可能に接続されたものであり、上記平行リンク又は上記台座部の何れか一方には制限された摺動領域を備え、上記平行リンク又は上記台座部の何れか一方は上記第2リンクの一端側又は他端側に対して上記制限された摺動領域内で前後に摺動可能に接続されたものであり、上記台座部は上記前位リンクに対して前後に摺動可能に接続されると共に、上記台座部と共に上記座部が前後に移動するものであり、上記前位リンクが上記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退する際に、上記第2リンクの一端又は他端側は、上記制限された摺動領域の端部に移動し、これ以上の移動が不可能になった段階で、上記台座部が上記前位リンクに対して相対的に前進するものであることを特徴とする請求項1に記載の理美容用椅子を提供する。
【0010】
また、本願の請求項3に記載の発明は、上記平行リンクは、前位リンクと、上記前位リンクと平行移動すると共に上記前位リンクの後方に配位された後位リンクとを備え、上記後位リンクが接地され、上記前位リンクが前記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退するものであり、上記前後動抑制手段は、基端側を上記平行リンクに接続された第2リンクと、上記第2リンクの先端側に対して回動可能且つ制限された摺動領域内で前後に摺動可能に接続された台座部とを備え、上記台座部は上記前位リンクに対して前後に摺動可能に接続されると共に、上記台座部と共に上記座部が前後に移動するものであり、上記前位リンクが上記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退する際に、上記第2リンクの先端側は、上記制限された摺動領域の後端から前端に移動し、これ以上の前進が不可能になった段階で、上記台座部が上位前位リンクに対して相対的に前進するものであり、上記平行リンクは、上記前位リンクの上端と上記後位リンクの上端とを接続してなる上位リンクと、上記上位リンクと平行移動すると共に上記上位リンクの下方に配位された下位リンクとを備え、上記第2リンクの基端側は、上記上位リンク又は上記下位リンクに接続され、上記前位リンクが上記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退する際の上記前位リンクの最低位から最高位までの前後方向の移動距離が、上記摺動領域の前後方向距離よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の理美容用椅子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本願の請求項1の発明では、平行リンクを備えた昇降部に座部の後退を抑制する前後動抑制手段を備え、上記座部が洗髪ボウルに向かって上昇及び後退の動きを行っている途中に上記前後動抑制手段を作動するように設けることにより、上記座部が上昇及び後退を行う区間と後退を抑制しながら上昇を行う区間とを設けることができ、座部と洗髪ボウルの前後方向の位置関係を設定した後に、上下方向の位置関係を調整することができるため、理美容用椅子を洗髪ボウルに向かって上昇及び後退させる際に、洗髪ボウルと理美容用椅子との間隔、特に上下方向の間隔の調整を容易に行える理美容用椅子を提供することができたものである。
本願の請求項2又は3の発明では、上記請求項1の発明の効果に加え、一端側を上記平行リンクに回動可能に接続された第2リンクと、上記第2リンクの他端側に回動可能に接続された台座部とからなる前後動抑制手段を設け、上記平行リンク又は上記台座部の何れか一方に制限された摺動領域を備え、上記平行リンク又は上記台座部の何れか一方は上記第2リンクの一端側又は他端側に対して上記制限された摺動領域内で前後に摺動可能に接続されることにより、座部を洗髪ボウルに向かって上昇及び後退させる際、上記前後動抑制作用が作動する前、つまり、平行リンクの変位に伴い第2リンクの一端側又は他端側に接続されたスライド軸が摺動領域の端部に向かって移動している間は、座部が上昇及び後退の動きを行い、上記前後動抑制作用が作動した後、つまり、上記スライド軸が摺動領域の端部に当接した後は、座部が後退を抑制しながら上昇することにより、座部が上昇及び後退を行う区間と前後動抑制手段により後退を抑制しながら上昇を行う区間とを設けることができたものである。また、前後動抑制手段作動後は上記スライド軸のさらなる移動は不可能だが、平行リンクを構成する前位リンクに対して台座部が相対的に前進することにより、洗髪ボウルに向かって座部を後退を抑制しながら上昇させることができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本願発明に係る理美容用椅子全体を示す側面図である。
【図2】理美容用椅子の昇降過程を示す説明図であり、(A)は座部が最低位に位置する状態、(B)は座部が中間位に位置する状態、(C)は前後動抑制手段作動時の状態、(D)は座部が最高位に位置する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本願発明の実施の形態の一例を取り上げて説明する。なお、本願の請求項及び明細書の記載における上下前後左右の表現は、相対的な位置関係を示すにとどまり、絶対的な位置関係を特定するものではない。
【0014】
本願発明に係る理美容用椅子10は、洗髪ボウル台座92に備えられた洗髪ボウル91に仰向けの状態で被施術者の頭部を洗髪ボウル91に位置させて、洗髪サービスを受けるのに適したものであり、図1に示すように、理美容院の床面90に設置される基台11と、基台11の上部に設けられた昇降部30と、昇降部30の上部に設けられた座部基板12、前垂れ基板13及び背もたれ基板14の各基板及び座部15、前垂れ部16及び背もたれ部17とから構成される。
【0015】
昇降部30は、基台11の上部に立設された支柱31と、その一端側が支柱31に回動可能に接続され、他端側がリンクブラケット32に回動可能に接続された平行リンク40と、リンクブラケット32と、平行リンク40に接続された第2リンク61と、座部基板12及び座部15を支持する台座部70と、支柱31に備えられ平行リンク40に接続されたアクチュエーター80とから構成される。また、上記基台11及び上記昇降部30の一部(支柱31やアクチュエーター80の一部等)は、ケース19によってカバーされている。
【0016】
平行リンク40は、上位リンク43、下位リンク44及びそれらを回動可能に接続する回動軸46,47,48,49とから構成される。図1に示すように、ロッド形状に形成された上位リンク43とロッド形状に形成された下位リンク44は、その一端を第1回動軸46、第3回動軸48によって支柱31に回動可能に接続され、他端を第1回動軸46、第3回動軸48と平行で、第1回動軸46、第3回動軸48と同間隔の第2回動軸47、第4回動軸49によってリンクブラケット32に回動可能に接続されている。よって、上位リンク43と下位リンク44、上位リンク43及び下位リンク44が回動可能に接続された支柱31とリンクブラケット32、及びそれらを回動可能に接続する回動軸46,47,48,49とで平行四辺形を形成することができ、その平行四辺形の前方側の短辺を前位リンク41、後方側の短辺を後位リンク42とすることができる。前位リンク41はリンクブラケット32によって構成され、後位リンク42は支柱31によって構成されている。よって、後位リンク42は接地されており、この不動の後方リンク42を基準として、平行リンク40が変位する。また、上位リンク43の支柱31側の下方には突起部45を備え、アクチュエーター80と接続されている。上記突起部45は、下位リンク44に設けてもよい。
【0017】
アクチュエーター80は、図1に示すように、平行リンク40を駆動し変位させる駆動源である。本実施形態においては、シリンダ本体81とピストンロッド82とを備えた油圧シリンダを使用している。上記アクチュエーター80は、油圧以外の流動圧シリンダや電動式の直線駆動源や、リンクを回動させるための回転運動駆動源に変更して実施することが出来る。
【0018】
上記シリンダ本体81の基端側は、シリンダ軸83により支柱31に回動可能に接続され、また、ピストンロッド82の先端側は、第6回動軸84によって上位リンク43の突起部45に回動可能に接続されている。上記平行リンク40は上記ピストンロッド82の伸縮により変位する。より詳しくは、上記ピストンロッド82の伸長により上位リンク43の突起部45が上方に押し出され、上位リンク43は、第1回動軸46を中心とし、第2回動軸47を回動点として円弧上に上昇する。下位リンク44は、上位リンク43と第1〜第4回動軸46,47,48,49とによって、上位リンク43との平行を維持したまま回動し、第2回動軸47及び第4回動軸49に回動可能に接続されたリンクブラケット32、つまり前位リンク41についても、上位リンク43及び下位リンク44の回動により上昇及び後退する。
【0019】
第2リンク61は、ロッド形状に形成された第2リンク61及び第2リンク61を回動可能に接続する回動軸62,63からなる。本実施形態においては、図1に示すように、第2リンク61の基端側は、上位リンク43の略中央に第5回動軸62によって回動可能に接続され、先端側は後述する台座部70に設けられた摺動領域75に配位されたスライド軸63に回動可能且つ摺動可能に接続されている。また、摺動領域75を平行リンク40に設け、第2リンク61の基端側は、平行リンク40に設けられた摺動領域75に配位されたスライド軸63によって回動可能且つ摺動可能に接続され、先端側は後述する台座部70に第5回動軸62によって回動可能に接続されていてもよく、本実施形態のように、台座部70に摺動領域75を設けた方が、上記スライド軸63を円滑に摺動させることができる。第2リンク61の基端側が平行リンク40に回動可能に接続されていることにより、平行リンク40の変位に伴い、第2リンク61も変位される。本実施形態においては、第2リンク61の基端側は上位リンク43の略中央に配置されているが、第2リンク61の基端側は上位リンク43の第1及び第3回動軸48間に第5回動軸62を介して接続されていればよく、略中央に接続させる必要はない。また、第2リンク61の基端側は下位リンク44に第5回動軸62を介して接続してもよい。さらに、上位リンク43及び下位リンク44を板状やブロック状のもので形成し、その上面と第2リンク61の基端側を回動可能に接続してもよい。この例では、摺動領域75として、長孔を採用し、これにスライド軸63を摺動可能に挿通しているが、所定の前後長さに制限された区間内のみを、第2リンク61の先端側が移動可能とするものであればよく、ロッドとこれに挿通された摺動子など、適宜変更して実施する事かできる。
【0020】
台座部70は、座部基板12及び座部15を支持するもので、図1に示すように、座部基板12が取り付けられた台座板71と台座板71の下方に設けられた座支持部74とから構成される。
【0021】
台座板71は、上部に座部基板12が取り付けられ、下部後方に座支持部74が取り付けられている。また、下部前方及び下部後方で且つ上記座支持部74の前方にはガイド取付部72が設けられ、後述するリンクブラケット32を摺動可能に備えるガイド73が取り付けられている。また、上記座部基板12の上部には座部15が取り付けられている。
【0022】
座支持部74は、台座板71の下部後方に備えられ、台座板71及び台座板71の上部に取り付けられた座部基板12及び座部15を支持している。また、上記座支持部74の下部には制限された摺動領域75を備え、上記摺動領域75に摺動可能に挿通されたスライド軸63によって第2リンク61と回動可能且つ前後に摺動可能に接続され、上記第2リンク61と台座部70とから上記座部15の後退を抑制する前後動抑制手段60が構成される。本実施形態においては、上述の通り、上記摺動領域75は長孔となっているが、上記スライド軸63に対して回動可能且つ制限された摺動領域75内を前後に摺動可能とするものであれば矩形の孔やレールなどどのような形状であってもよい。さらに、座支持部74は背もたれ基板14及び背もたれ部17を支持する背もたれ支持部18を備えている。
【0023】
リンクブラケット32は、図1に示すように、台座板71の下方、かつ座支持部74の前方に配置され、平行リンク40の一端側を回動可能に接続し前位リンク41を構成するとともに、上部前方及び後方にそれぞれガイド溝33が取り付けられ、台座板71に備えられたガイド73がガイド溝33に前後方向に摺動可能に取り付けられることによりリンクブラケット32と台座部70とが前後に摺動可能に接続される。よって、平行リンク40がアクチュエーター80によって変位すると、上記前後動抑制手段60が作動するまでは、台座部70とリンクブラケット32とがともに回動される。
【0024】
上記台座板71は、本実施形態においては、上記座支持部74の上部に取り付けられているが、リンクブラケット32の上部に取り付けられていてもよい。また、上記台座部70又は上記リンクブラケット32のどちらか一方にガイド73を、他方にガイド溝33を備え、ガイド73がガイド溝33に前後方向に摺動可能に取り付けられていればよく、ガイド73及びガイド溝33により前位リンク41(リンクブラケット32)に対して台座部70が前後に摺動可能に接続されていればよい。また、リンクブラケット32の下部後方と座支持部74の下部前方には引張バネ76が取り付けられている。
【0025】
上記昇降部30による座部15の昇降動作は、以下のとおりである。座部15を図2(A)の位置から図2(B)の位置まで洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる場合、まず、油圧供給部(図示省略)により油圧シリンダが加圧され、ピストンロッド82を伸長する。ピストンロッド82が伸長されると、上位リンク43の突起部45が上方に押し出され、平行リンク40は第1回動軸46、第3回動軸48を中心とし、第2回動軸47及び第4回動軸49を回動点として時計回りに上方に回動する。よって、前位リンク41は後位リンク42と平行なまま洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退(図示右側)するため、座部15が取り付けられた台座部70及び前位リンク41(リンクブラケット32)は洗髪ボウル91に向かって基台11に対する角度を維持した状態で上昇及び後退する。
【0026】
このとき、第2リンク61は平行リンク40の回動により、基端側の第5回動軸62を中心として反時計回りに回動し、先端側に接続されたスライド軸63が摺動領域75内を摺動する。より詳しくは、図2(A)の位置では、上記スライド軸63は摺動領域75の後端に当接していたが、図2(B)の位置まで座部15を上昇及び後退させると、上記スライド軸63は摺動領域75内を後方から前方へ(図示右側から図示左側へ)摺動する。
【0027】
次に、座部15を図2(C)の位置まで上昇及び後退させると、平行リンク40は第1回動軸46、第3回動軸48を中心とし、第2回動軸47及び第4回動軸49を回動点として時計回りに上方に回動し、台座部70及び前位リンク41(リンクブラケット32)は洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退する一方、第2リンク61が反時計回りに回動することにより、先端側に接続されたスライド軸63は、摺動領域75内を前方へ摺動し、摺動領域75の前端に当接する。
【0028】
さらに、座部15を図2(D)の位置まで上昇させると、平行リンク40は第1回動軸46、第3回動軸48を中心とし、第2回動軸47及び第4回動軸49を回動点として時計回りに上方に回動するが、第2リンク61の先端側に接続されたスライド軸63が摺動領域75の前端に当接したため、これ以上の前進が不可能となり、台座部70及び台座部70に取り付けられた座部15の後退は抑制又は停止される。しかしながら、前位リンク41(リンクブラケット32)は、リンクブラケット32のガイド溝33に摺動可能に取り付けられたガイド73に沿って前位リンク41(リンクブラケット32)のみが後方へ摺動することができ、洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退することができる。すなわち、前位リンク41(リンクブラケット32)側からみると、前位リンク41(リンクブラケット32)は後退しているが台座部70が後退を抑制又は停止されているため、上記台座部70が上記リンクブラケット32、つまり前位リンク41に対して相対的に前進する。よって、座部15の後退は抑制又は停止されたにもかかわらず、座部15をさらに上昇させることができる。また、リンクブラケット32の下部後方と座支持部74の下部前方に取り付けられた引張バネ76が前位リンク41(リンクブラケット32)のみの後方へ摺動を助ける。
【0029】
上記のように、座部15を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる際に、上記座部15が上記の上昇及び後退の動きを行っている途中に座部15の後退を抑制する前後動抑制手段60を作動させることにより、台座部70及び台座部70に取り付けられた座部15の後退を抑制又は停止することができる。より詳しくは、平行リンク40を時計回りに上方に回動させ、台座部70及び前位リンク41(リンクブラケット32)を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる一方、基端側が平行リンク40に回動可能に接続された第2リンク61の先端側に回動可能に接続されたスライド軸63が摺動領域75内を後方から前方へ摺動し、上記スライド軸63が摺動領域75の前端に当接することにより、台座部70の後退を抑制又は停止する。よって、座部15を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる際、前後動抑制手段60が作動する前、つまり、第2リンク61の先端側に接続されたスライド軸63が摺動領域75の前端に当接するまでは、座部15が上昇及び後退の動きを行い、前後動抑制手段60が作動した後、つまり、上記スライド軸63が摺動領域75の前端へ当接後は、座部15の後退を抑制しながら上昇することになり、座部15が上昇及び後退を行う区間と前後動抑制手段60により後退を抑制しながら上昇を行う区間とを設けることができる。よって、座部15を洗髪ボウル91付近まで上昇及び後退させ、座部15と洗髪ボウル91の前後方向の位置関係を設定した後、上下方向の位置関係を容易に調整することができるため、洗髪ボウル91と理美容用椅子10との間隔の調整を容易に行うことができる。また、前後動抑制手段60を作動させる位置については、理美容用椅子10と洗髪ボウル91との関係から任意に設定することができる。本実施形態においては、座部15が上昇及び後退を行う区間の前後方向の距離は約86mmであり、前後動抑制手段60の作動により後退を抑制しながら上昇を行う区間の上下方向の距離は約60mmとして実施しているが、これらの距離は適宜変更して実施することが出来る。また、座部15が洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退する際の前位リンク41(リンクブラケット32)の最低位から最高位までの前後方向の移動距離は、上記摺動領域75の前後方向距離よりも大きくなるよう設定する。図2(D)に示すように、図2(A)の位置における第4回動軸49の前後方向の位置をa、図2(D)の位置における第4回動軸49の前後方向の位置をd、上記摺動領域75の前後方向距離lとすると、ad>lとなるよう設定する。そのように設定することで、前後動抑制手段60作動後に、台座部70及び台座部70に取り付けられた座部15の後退は抑制又は停止されるが、前位リンク41(リンクブラケット32)のみが、ガイド溝33に摺動可能に取り付けられたガイド73に沿って後方へ摺動することができる。なお、図2(D)の二点鎖線は、図2(A)の位置における平行リンク40及びリンクブラケット32を示す。
【0030】
一方、座部15を図2(D)に示すような最高位から図2(C)に示す位置まで下降させる場合は、油圧供給部(図示省略)が油圧シリンダを減圧し、ピストンロッド82を短縮する。ピストンロッド82が短縮されると、上位リンク43の突起部45が下方に引き込まれ、平行リンク40は第1回動軸46、第3回動軸48を中心とし、第2回動軸47及び第4回動軸49を回動点としてとして反時計回りに下方に回動する。
【0031】
このとき、前後動抑制手段60が作動しているため、台座部70の前方への移動は抑制又は停止されたままとなるが、前位リンク41(リンクブラケット32)はガイド溝33に摺動可能に取り付けられたガイド73に沿って下降及び前進(洗髪ボウル91から離れる方向)(図示左側)する。よって、座部15の前進は抑制又は停止されたにもかかわらず、座部15を下降させることができる。
【0032】
さらに、座部15を図2(C)から図2(B)の位置まで下降及び前進させる場合は、平行リンク40は第1回動軸46、第3回動軸48を中心とし、第2回動軸47及び第4回動軸49を回動点として反時計回りに下方に回動する。図2(C)の位置において、前後動抑制手段60の作動が解除され、台座部70及び前位リンク41(リンクブラケット32)はともに洗髪ボウル91から離れる方向に向かって基台11に対する角度を維持した状態で下降及び前進する。一方、第2リンク61は平行リンク40の回動により、基端側の第5回動軸62を中心として時計回りに回動し、先端側に接続されたスライド軸63が、摺動領域75の前端から後方へ摺動する。図2(A)に示すように、座部15が最低位に達した際、第2リンク61に連結されたスライド軸63は、摺動領域75の後端に当接する。
【0033】
背もたれ基板14の上部に取り付けられた背もたれ部17及び前垂れ基板13の上部に取り付けられた前垂れ部16はそれぞれ起倒するものとし、起倒に関する手段は公知技術を用いるものとする。その際、上記平行リンク40と連動させて起倒させてもよいし、個別に起倒させてもよい。実際に、本願発明に係る理美容用椅子10を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる際は、少なくとも背もたれ部17を起倒させて上昇及び後退の動きを行うものとする。
【0034】
以上により、本願発明に係る理美容用椅子10によれば、平行リンク40と、一端側を上記平行リンク40に回動可能に接続された第2リンク61と、上記第2リンク61の他端側に回動可能に接続された台座部70とからなる前後動抑制手段60とを備えた昇降部30を設け、上記平行リンク40又は上記台座部70の何れか一方には制限された摺動領域75を備え、上記平行リンク40又は上記台座部70の何れか一方は上記第2リンク61の一端側又は他端側に対して上記制限された摺動領域75内で前後に摺動可能に接続されることにより、上記平行リンク40を変位させ座部15を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させる際に、摺動領域75に摺動可能に挿通された上記スライド軸63は摺動領域75の端部に向かって摺動し、上記座部15が上記の上昇及び後退の動きを行っている途中で、上記スライド軸63が上記摺動領域75の端部に当接することにより上記座部15の後退を抑制するものである。さらに、上記座部15を洗髪ボウル91に向かって上昇及び後退させようとすると、上記前後動抑制手段60の作動により、台座部70の後退は抑制されるが、前位リンク41(リンクブラケット32)が台座板71に備えられたガイド73に沿って摺動することにより、前位リンク41(リンクブラケット32)のみを後退させることができる。すなわち、前位リンク41(リンクブラケット32)側からみると、前位リンク41(リンクブラケット32)は後退しているが台座部70が後退を抑制又は停止されているため、上記台座部70が上記前位リンク41(リンクブラケット32)に対して相対的に前進していることになる。よって、座部15の後退は抑制又は停止されたにもかかわらず、座部15をさらに上昇することができ、従来のように、理美容用椅子10と洗髪ボウル91との間隔の調整において、上下方向の調整を、座部15の前後動を少なくし、最も望ましくは前後動を伴うことなく容易に行えるようになったものである。
【符号の説明】
【0035】
10 理美容用椅子
11 基台
17 座部
30 昇降部
40 平行リンク
41 前位リンク
42 後位リンク
43 上位リンク
44 下位リンク
60 前後動抑制手段
61 第2リンク
70 台座部
75 摺動領域
80 アクチュエーター
91 洗髪ボウル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行リンクを備えた昇降部を有し、駆動源により上記平行リンクを変位させ上記昇降部によって支持された座部を洗髪ボウルに向かって上昇及び後退させる理美容用椅子において、
上記昇降部には、上記座部の後退を抑制する前後動抑制手段を備え、
上記前後動抑制手段は、上記座部が上記の上昇及び後退の動きを行っている途中に作動するものであり、
上記座部は上記平行リンクの変位により洗髪ボウルに向かって上昇且つ後退した後、上記前後動抑制手段の作動によって、上記座部は上記後退が抑制されながら上昇するものであることを特徴とする理美容用椅子。
【請求項2】
上記平行リンクは、前位リンクと、上記前位リンクと平行移動すると共に上記前位リンクの後方に配位された後位リンクとを備え、上記後位リンクが接地され、上位前位リンクが前記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退するものであり、
上記前後動抑制手段は、第2リンクと、台座部とを備え、
上記第2リンクの一端側は上記平行リンクに回動可能に接続され、他端側は上記台座部に回動可能に接続されたものであり、
上記平行リンク又は上記台座部の何れか一方には制限された摺動領域を備え、上記平行リンク又は上記台座部の何れか一方は上記第2リンクの一端側又は他端側に対して上記制限された摺動領域内で前後に摺動可能に接続されたものであり、
上記台座部は上記前位リンクに対して前後に摺動可能に接続されると共に、上記台座部と共に上記座部が前後に移動するものであり、
上記前位リンクが上記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退する際に、上記第2リンクの一端又は他端側は、上記制限された摺動領域の端部に移動し、これ以上の移動が不可能になった段階で、上記台座部が上記前位リンクに対して相対的に前進するものであることを特徴とする請求項1に記載の理美容用椅子。
【請求項3】
上記平行リンクは、前位リンクと、上記前位リンクと平行移動すると共に上記前位リンクの後方に配位された後位リンクとを備え、上記後位リンクが接地され、上位前位リンクが前記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退するものであり、
上記前後動抑制手段は、基端側を上記平行リンクに接続された第2リンクと、上記第2リンクの先端側に対して回動可能且つ制限された摺動領域内で前後に摺動可能に接続された台座部とを備え、
上記台座部は上記前位リンクに対して前後に摺動可能に接続されると共に、上記台座部と共に上記座部が前後に移動するものであり、
上記前位リンクが上記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退する際に、上記第2リンクの先端側は、上記制限された摺動領域の後端から前端に移動し、これ以上の前進が不可能になった段階で、上記台座部が上記前位リンクに対して相対的に前進するものであり、
上記平行リンクは、上記前位リンクの上端と上記後位リンクの上端とを回動可能に接続してなる上位リンクと、上記上位リンクと平行移動すると共に上記上位リンクの下方に配位された下位リンクとを備え、
上記第2リンクの基端側は、上記上位リンク又は上記下位リンクに接続され、
上記前位リンクが上記洗髪ボウルに向かって上昇及び後退する際の上記前位リンクの最低位から最高位までの前後方向の移動距離が、上記摺動領域の前後方向距離よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の理美容用椅子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−240077(P2011−240077A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117227(P2010−117227)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000149789)株式会社大廣製作所 (11)
【Fターム(参考)】