説明

環状カーボネート変性有機ケイ素化合物、それを含有する非水電解液並びに二次電池及びキャパシタ

【解決手段】 下記構造式(i)で代表例示される環状カーボネート変性シラン及びシロキサン系有機ケイ素化合物。


【効果】本発明の環状カーボネート変性シラン及びシロキサンから選ばれる有機ケイ素化合物を含有する非水電解液を使用した電池は優れた温度特性及び高出力特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な環状カーボネート基を有する有機ケイ素化合物に関するものであり、更には、この環状カーボネート変性有機ケイ素化合物を含む非水電解液に関するものである。本発明の非水電解液は、各種エネルギーデバイス、特に二次電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタ、とりわけリチウムイオンを正極と負極の間で移動させて充放電を行うリチウムイオン二次電池に使用される。本発明の非水電解液を使用した電池は温度特性、高出力特性に優れる。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラあるいはデジタルビデオカメラの充電可能なポータブル電源として、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池の使用が増大している。また、環境に対する配慮から、排気ガスを大気中に放出しない自動車として実用化が進められている電気自動車、ハイブリッド自動車用の補助電源としても非水電解液を使用したリチウムイオン二次電池あるいは電気二重層キャパシタが検討されている。
【0003】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は高性能であるものの、厳しい環境下(特に低温環境下)での放電特性及び短時間に大量の電気を必要とする高出力下での放電特性については十分とはいえない。一方、電気二重層キャパシタにおいてはその耐電圧が不十分であり、かつ電気容量が経時で低下する問題があった。更には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等で代表される引火点の低い溶媒を主成分とする非水電解液を使用する場合が多く、電池内で熱暴走が発生すると、電解液の気化、分解が起こり、電池の破裂や引火という事態になるおそれがある。そのため通常電池には異常時の電流遮断装置としてIC回路が組み込まれ、炭化水素ガス発生による電池内圧の上昇を避けるために安全弁が組み込まれている。安全性向上と軽量化及びコストダウンのためにも更なる電解液の検討が求められていた。
【0004】
このような中、化学的安定性が高く、電解液との相溶性の高いポリエーテル変性シロキサンが検討されてきた。このものはLiPF6等の電解質を十分に溶解させることができる上、ポリエーテル変性シロキサンが本来有する界面活性能から、電極あるいはセパレーターの濡れ性を改善する効果があった。また、電解液に数%添加することにより充放電サイクル特性が改善することが知られている。しかしながら、以上の効果も十分であるとはいえず、ポリエーテル変性シロキサンは熱安定性に乏しく、一方で比較的高い融点を持つことから低温時での使用に問題があった。更に安定性が高く、電解液との相溶性の高い添加剤の開発が求められていた。
【0005】
なお、本発明に関連する先行文献としては、下記のものが挙げられる。
【特許文献1】特開平11−214032号公報
【特許文献2】特開2000−58123号公報
【特許文献3】特開2001−110455号公報
【特許文献4】特開2003−142157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ポリエーテル変性シロキサンに代わる新規な環状カーボネート変性有機ケイ素化合物を提供することを目的とし、更には低温下での放電特性の向上、高出力下での放電特性の向上、安全性の向上を与える電池、特に非水電解液二次電池を可能にする非水電解液及びこれを用いた電池、電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタ、特にリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を行った結果、ポリエーテル変性シロキサンに代わる新規な変性物として環状カーボネート基を有する変性シラン及びシロキサンを見出すと共に、得られた特定の環状カーボネート変性シランあるいはシロキサンを含む非水電解液を二次電池や電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタに用いることにより、充放電特性、安全性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記一般式(1)〜(3)で示される環状カーボネート変性シラン及びシロキサンから選ばれる有機ケイ素化合物を提供する。
【化1】


(但し、式中のR1はハロゲンに置換されていてもよい炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ置換アルキル基、カルボキシル置換アルキル基、アルコキシ基から選択される同一又は異種の有機基であり、aは1〜4の正数であり、b、cはそれぞれ0≦b≦3、0≦c≦3の整数、x及びyは0又は1である。但し、c=0である場合には1≦x+yである。d、eはそれぞれ0≦d≦5、1≦e≦6の整数であって、3≦d+e≦6である。R2は下記式(4)
【化2】


で示される環状カーボネート基である。)
また、本発明は、非水溶媒と、電解質塩と、上記一般式(1)〜(3)で示される環状カーボネート変性シラン及びシロキサンから選ばれる有機ケイ素化合物の1種又は2種以上とを必須成分とすることを特徴とする非水電解液を提供する。
更に、本発明は、この非水電解液を含む二次電池、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の環状カーボネート変性シラン及びシロキサンから選ばれる有機ケイ素化合物を含有する非水電解液を使用した電池は優れた温度特性及び高出力特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の環状カーボネート変性有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)〜(3)で示されるシラン及びシロキサンである。
【化3】

【0011】
式中のR1は、同一又は異なってもよく、一部ハロゲンに置換されてもよい炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ置換アルキル基、カルボキシル置換アルキル基、アルコキシ基である。これらの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などを挙げることができる他、3−アミノプロピル基、3−[(2−アミノエチル)アミノ]プロピル基などのアミノ置換アルキル基、3−カルボキシプロピル基等のカルボキシ置換アルキル基などが挙げられる。また、トリフロロプロピル基やノナフロロオクチル基などのように一部の水素がハロゲンに置換されたハロゲン化アルキル基等の基も挙げられる。アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。これらのうち好ましいのは、炭素数1〜6の一価炭化水素基、特にアルキル基及びフッ素置換アルキル基であって、最も好ましいのはメチル基あるいはエチル基である。特に、R1の80モル%以上がメチル基あるいはエチル基であることが好ましい。
【0012】
2は下記式(4)で示される環状カーボネート基である。
【化4】

【0013】
aは1〜4の正数であるが、aが3あるいは4であると相対的にカーボネート基の含有量が増してシランあるいはシロキサンの特徴が減じられるため、好ましいのは1あるいは2である。更に最も好ましいのは1である。
【0014】
b、cはそれぞれ0≦b≦3、0≦c≦3の整数である。従ってb+cは0≦b+c≦6である。重合度b及びcが大きいとカーボネート変性シロキサンの粘度が高くなり、電解液中のイオン移動度が低下する場合がある。また、電解液との相溶性が低下し、安定に電解質を溶解するのが困難となる場合があるため、好ましくは0≦b+c≦3であって、更に好ましくは0≦b+c≦2である。x及びyは0又は1であるが、c=0である場合には1≦x+yとなり、x+yは1あるいは2である。d、eはそれぞれ0≦d≦5、1≦e≦6の整数であって、3≦d+e≦6であるが、重合度d及びeが大きいとカーボネート変性シロキサンの粘度が高くなり、電解液中のイオン移動度が低下する場合があり、また電解液との相溶性が低下し、安定に電解質を溶解するのが困難となる場合があるため、好ましくは0≦d≦3、1≦e≦3である。更に好ましくは0≦d≦3、1≦e≦2である。
【0015】
本発明の一般式(1)〜(3)で示される環状カーボネート変性シラン及び環状カーボネート変性シロキサンを具体的に示すと、下記に示すものを挙げることができる。
【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
本発明の環状カーボネート変性シラン及びシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンシラン及びオルガノハイドロジェンシロキサンと、炭素−炭素二重結合を有する環状カーボネートとの付加反応により得ることができる。例えば、式(ii)の場合は、SiH基を有するシロキサンとして、ペンタメチルジシロキサンとビニルエチレンカーボネート(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)との付加反応により得ることができる。
【0019】
上記付加反応は、白金触媒又はロジウム触媒の存在下で行うことが望ましく、具体的には塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸−ビニルシロキサン錯体等の触媒が好適に使用される。
また、助触媒、pH調整剤として酢酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムを添加してもよい。
【0020】
なお、触媒の使用量は触媒量とすることができるが、SiH基含有シロキサンとビニルエチレンカーボネートとの総量に対して白金又はロジウム量で50ppm以下であることが好ましく、特に20ppm以下であることが好ましい。
【0021】
上記付加反応は、必要に応じて有機溶剤中で行ってもよい。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。付加反応条件は特に限定されるものではないが、還流下で1〜10時間反応させる条件が採用される。
【0022】
本発明は、上記環状カーボネート変性有機ケイ素化合物を含む非水電解液を提供する。この場合、非水電解液は、上記環状カーボネート変性有機ケイ素化合物のほか、非水溶媒と電解質塩とを含む。
【0023】
本発明の環状カーボネート変性有機ケイ素化合物を、非水電解液中に0.001体積%以上含有することが有効である。0.001体積%未満では本発明の効果が十分発揮できない場合がある。好ましくは0.1体積%以上含有することである。また、含有量の上限については、用いる非水電解液用溶媒によっても異なるが、非水電解液内でのLiイオンの移動が実用レベル以下にならない程度の含有量とする。通常、80体積%以下、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。一方で、揮発性の非水電解液用溶媒を全く用いずに非水電解液中のシラン及びシロキサン含有量を100体積%とすることも可能である。
【0024】
本発明の環状カーボネート変性有機ケイ素化合物の粘度については特に制限はないが、非水電解液内でのLiイオンのスムーズな移動を考慮すると、例えばキャノン−フェンスケ法による粘度測定において、25℃での粘度が500mm2/s以下、好ましくは100mm2/s以下、更に好ましくは50mm2/s以下である。粘度の下限は特に限定されないが、通常、0.1mm2/s以上であればよい。
【0025】
本発明の非水電解液は、電解質塩及び非水溶媒を含有する。電解質塩としては、例えば、軽金属塩が挙げられる。軽金属塩にはリチウム塩、ナトリウム塩あるいはカリウム塩などのアルカリ金属塩、又はマグネシウム塩あるいはカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、又はアルミニウム塩などがあり、目的に応じて1種又は複数種が選択される。例えば、リチウム塩であれば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、C49SO3Li、CF3CO2Li、(CF3CO22NLi、C65SO3Li、C817SO3Li、(C25SO22NLi、(C49SO2)(CF3SO2)NLi、(FSO264)(CF3SO2)NLi、((CF32CHOSO22NLi、(CF3SO23CLi、(3,5−(CF32634BLi、LiCF3、LiAlCl4あるいはC4BO8Liが挙げられ、これらのうちのいずれか1種又は2種以上を混合して用いられる。
【0026】
非水電解液の電解質塩の濃度は、電気伝導性の点から、0.5〜2.0mol/Lが好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/m以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0027】
本発明に使用される非水電解液用溶媒としては、非水電解液用として使用し得るものであれば特に制限はない。一般に、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、メチルアセテート等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン性液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF4-、PF6-、(CF3SO22-等が挙げられる。イオン性液体は前述の非水電解液溶媒と混合して使用することが可能である。
【0028】
固体電解質やゲル電解質とする場合にはシリコーンゲル、シリコーンポリエーテルゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリ(ビニリデンフルオライド)などを高分子材料として含有することが可能である。なお、これらは予め重合していてもよく、注液後重合してもよい。これらは単独もしくは混合物として使用可能である。
【0029】
更に、本発明の非水電解液中には必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4−ビニルエチレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0030】
本発明に係る非水電解液は、正極、負極、セパレータ、電解液を備えた二次電池に使用することができる。
【0031】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び離脱することが可能な酸化物あるいは硫化物などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上が用いられる。具体的には、例えば、TiS2、MoS2、NbS2、ZrS2、VS2あるいはV25、MoO3及びMg(V382などのリチウムを含有しない金属硫化物もしくは酸化物、又はリチウム及びリチウムを含有するリチウム複合酸化物が挙げられ、また、NbSe2などの複合金属も挙げられる。中でも、エネルギー密度を高くするには、LipMetO2を主体とするリチウム複合酸化物が好ましい。なお、この場合のMetは具体的には、コバルト、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの少なくとも1種が好ましく、pは、通常、0.05≦p≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、層構造を持つLiCoO2、LiNiO2、LiFeO2、LiqNirCo1-r2(但し、q及びrの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0<q<1、0.7<r≦1)、スピネル構造のLiMn24及び斜方晶LiMnO2が挙げられる。更に高電圧対応型としての置換スピネルマンガン化合物としてLiMetsMn1-s4(0<s<1)も使用されており、この場合のMetはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛などが挙げられる。
【0032】
なお、上記のリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムの炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物とを所望の組成に応じて粉砕混合し、酸素雰囲気中において600〜1,000℃の範囲内の温度で焼成することにより調製される。
【0033】
更に正極活物質としては有機物も使用することができる。例示するとポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセン、ポリスルフィド化合物などである。
【0034】
リチウムイオンを吸蔵及び離脱することが可能な負極材料としては、炭素材料、金属元素あるいは類金属元素、金属複合酸化物あるいはポリアセチレンあるいはポリピロールなどの高分子材料などが挙げられる。
【0035】
炭素材料としては、炭素化プロセスによりアセチレンブラック、熱分解炭素、天然黒鉛等の気相法により合成される炭素類、人造黒鉛類、石油コークスもしくはピッチコークスなどのコークス類を含む液相法により合成される炭素類、高分子、木質原料、フェノール樹脂、炭素フィルムを焼成してなる熱分解炭素、木炭、ガラス状炭素類、炭素繊維などの固相法により合成される炭素類が挙げられる。
【0036】
リチウムを吸蔵及び離脱することが可能な負極材料としては、更に、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは類金属元素の単体、合金又は化合物も挙げられる。その形態には固溶体、共晶、金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。これらのいずれか1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
このような金属元素あるいは類金属元素としては、例えば、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、ケイ素、亜鉛、銅、コバルト、アンチモン、ビスマス、カドミウム、マグネシウム、ホウ素、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、テルル、銀、ハフニウム、ジルコニウム及びイットリウムが挙げられる。中でも、4B族の金属元素あるいは類金属元素の単体、合金又は化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素あるいはスズ、又はこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質でもアモルファスでもよい。
【0038】
このような合金あるいは化合物について具体的に例を挙げれば、LiAl、AlSb、CuMgSb、SiB4、SiB6、Mg2Si、Mg2Sn、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si/SiC複合物、Si34、Si22O、SiOv(0<v≦2)、SiO/C複合物、SnOw(0<w≦2)、SnSiO3、LiSiOあるいはLiSnOなどがある。
【0039】
正極、負極の作製方法については特に制限はない。一般的には、溶媒に活物質、結着剤、導電剤等を加えてスラリー状とし、集電体シートに塗布し、乾燥、圧着して作製する。
【0040】
結着剤としては、一般的にポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、各種ポリイミド樹脂等が挙げられる。
導電剤としては、一般的に黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル等の金属材料が挙げられる。
集電体としては、正極用にはアルミニウム又はその合金、負極用には銅、ステンレス、ニッケル等の金属又はそれらの合金等が挙げられる。
【0041】
正極と負極の間に用いられるセパレータは電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系の多孔質シート又は不織布が挙げられる。また、多孔質ガラス、セラミックスなども使用される。
【0042】
二次電池の形状は任意であり、特に制限はない。一般的にはコイン形状に打ち抜いた電極とセパレータを積層したコインタイプ、電極シートとセパレータをスパイラル状にした円筒型等が挙げられる。
【0043】
本発明に係る非水電解液は、電極、セパレータ、電解液を備えた電気化学キャパシタ、特に電気二重層キャパシタあるいは疑似電気二重層キャパシタ、非対称キャパシタ、レドックスキャパシタ等に使用することができる。
【0044】
キャパシタに使用される電極のうち少なくとも一方は炭素質物質を主成分とする分極性電極である。分極性電極は一般に炭素質物質、導電剤、結着剤から構成されるが、かかる分極性電極の製法は上述のリチウム二次電池と全く同様の処方で作製される。例えば主に粉末状あるいは繊維状活性炭とカーボンブラックとアセチレンブラックなどの導電剤を混合し、結着剤としてポリテトラフルオロエチレンを加え、この混合物をステンレスやアルミニウムなどの集電体に塗布あるいはプレスしたものが用いられる。同様にセパレータや電解液はイオン透過性の高い材料が好ましく、リチウム二次電池で使用される材料がほぼ同様に使用される。また形状もコイン型、円筒型、角型などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、製造例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、粘度はキャノン−フェンスケ法による25℃における値である。
【0046】
[製造例]
式(i)の化合物の合成
【化7】

撹拌機、温度計及び還流管を備えた反応器にビニルエチレンカーボネート103gとトルエン100g及び塩化白金酸0.5質量%のトルエン溶液0.05gを仕込み、撹拌しながら80℃にて徐々にトリエチルシラン100gを滴下した。SiH基に対する末端不飽和基のモル比は約1.05で行った。滴下終了後、2時間100℃にて熟成して反応を完結させた。反応液を減圧下で精密蒸留を行い、148℃/7Paのフラクションをとることにより、式(i)で示されるカーボネート基で変性したシランを収率49%で得た。粘度は17mm2/s、比重は1.006であった。ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.1%であった。重クロロホルムを測定溶剤とした1H−NMRの測定を行ったところ、0.47ppm(8H,m)、0.88ppm(9H,t)、1.67ppm(2H,m)、4.04ppm(1H,dd)、4.48ppm(1H,dd)、4.61ppm(1H,m)となった(図1参照)。更にIRの測定において1807cm-1に強いカルボニル基のシグナルが観測された(図2参照)。以上から目的のカーボネートであることを確認した。
【0047】
式(ii)の化合物の合成
【化8】

撹拌機、温度計及び還流管を備えた反応器にビニルエチレンカーボネート100gとトルエン100g及び塩化白金酸0.5質量%のトルエン溶液0.05gを仕込み、撹拌しながら100℃にてペンタメチルジシロキサン130gを滴下した。SiH基に対する末端不飽和基のモル比は約1.0で行った。滴下終了後、2時間80℃にて熟成して反応を完結させた。反応液を減圧下で精密蒸留を行い、123℃/12Paのフラクションをとることにより、式(ii)で示されるカーボネート基で変性したシロキサンを収率52%で得た。粘度は9.3mm2/s、比重は0.996であった。ガスクロマトグラフィー分析による純度は99.5%であった。重アセトンを測定溶剤とした1H−NMRの測定を行ったところ、0.10ppm(15H,s)、0.55ppm(2H,m)、1.78ppm(2H,m)、4.15ppm(1H,dd)、4.59ppm(1H,dd)、4.78ppm(1H,m)となった(図3参照)。更にIRの測定において1807cm-1に強いカルボニル基のシグナルが観測された(図4参照)。以上から目的のカーボネートであることを確認した。
【0048】
式(iii)〜(vii)の化合物の合成は、式(ii)の化合物の合成方法と同様な処方で、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを代えて反応を行うことで合成した。
【0049】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)に式(i)〜(vii)で示されるシロキサンを表1の割合で溶解した。次に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解し、非水電解液とした。また、比較例として、非水電解液にシロキサンを含有しない場合とポリエーテル変性シリコーンを10体積%及び20体積%添加した場合についても同様の評価を行った。
【0050】
【表1】

*:ポリエーテル変性シリコーン(特開平11−214032号公報に記載)
【化9】

【0051】
(電池材料の作製)
正極材料として、LiCoO2を活物質とし、集電体としてアルミニウム箔を用いた単層シート(パイオニクス(株)製、商品名;ピオクセル C−100)を用いた。また、負極材料として、黒鉛を活物質とし、集電体として銅箔を用いた単層シート(パイオニクス(株)製、商品名;ピオクセル A−100)を用いた。セパレータはポリオレフィンの多孔質膜(セルガード社製、商品名;セルガード2400)を用いた。
(電池の組み立て)
アルゴン雰囲気下のドライボックス内で、前記電池材料と正極導電体を兼ねるステンレス製缶体と負極導電体を兼ねるステンレス製封口板と絶縁用ガスケットを用いて2032コイン型電池を組み立てた。
(電池性能の評価;低温特性)
25℃下で充電(0.6mA一定電流下で4.2Vまで)と放電(0.6mA一定電流下で2.5Vまで)を10サイクル繰り返した後、5℃下で同様に充放電を繰り返した。25℃下で10サイクル目の放電容量を100として、5℃下での放電容量が80に低下した時のサイクル数を求めた。
(電池性能の評価;高出力特性)
25℃下で充電(0.6mA一定電流下で4.2Vまで)と放電(0.6mA一定電流下で2.5Vまで)を5サイクル繰り返した後、充電条件はそのままで、放電の電流を5mAにして5サイクル繰り返した。
この2種類の条件の充放電を交互に繰り返した。最初の0.6mA充放電における5サイクル目の放電容量を100として、放電容量が80に低下した時のサイクル数を求めた。
結果を表2に示す。
【表2】

【0052】
表2の結果から、カーボネート変性シラン及びシロキサンを含有しない比較例1及びポリエーテル変性シリコーンを添加した比較例2,3と比較して優れた低温特性と高出力特性をいずれも示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】式(i)の化合物の核磁気共鳴スペクトルである。
【図2】式(i)の化合物の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】式(ii)の化合物の核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】式(ii)の化合物の赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)〜(3)で示される環状カーボネート変性シラン及びシロキサンから選ばれる有機ケイ素化合物。
【化1】


(但し、式中のR1はハロゲンに置換されていてもよい炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ置換アルキル基、カルボキシル置換アルキル基、アルコキシ基から選択される同一又は異種の有機基であり、aは1〜4の正数であり、b、cはそれぞれ0≦b≦3、0≦c≦3の整数、x及びyは0又は1である。但し、c=0である場合には1≦x+yである。d、eはそれぞれ0≦d≦5、1≦e≦6の整数であって、3≦d+e≦6である。R2は下記式(4)
【化2】


で示される環状カーボネート基である。)
【請求項2】
非水溶媒と、電解質塩と、請求項1記載の一般式(1)〜(3)で示される環状カーボネート変性シラン及びシロキサンから選ばれる有機ケイ素化合物の1種又は2種以上とを必須成分とすることを特徴とする非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(1)〜(3)において、R1が炭素数1〜6の一価炭化水素基である請求項2記載の非水電解液。
【請求項4】
前記有機ケイ素化合物の含有量が非水溶媒全体の0.001体積%以上であることを特徴とする請求項2又は3記載の非水電解液。
【請求項5】
前記電解質塩がリチウム塩であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の非水電解液。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項記載の非水電解液を含むことを特徴とする二次電池。
【請求項7】
請求項2乃至5のいずれか1項記載の非水電解液を含むことを特徴とする電気化学キャパシタ。
【請求項8】
請求項2乃至5のいずれか1項記載の非水電解液を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−137741(P2006−137741A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233232(P2005−233232)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】