説明

環状シームレス成形体の製造用分割式金型、該金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置、および該金型を用いた環状シームレス成形体の製造方法

【課題】分割された金型部材間において、位置精度確保のために隙間を詰めた嵌め合い勘合を行っても、焼成後において円滑に金型の分解が可能な環状シームレス成形体製造用分割式金型、該金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置、および該金型を用いた環状シームレス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】外周面または内周面に成形体用樹脂溶液を塗布され、焼成されて、環状シームレス成形体を製造するための分割式金型であって、分割部10において一方の金型部材1の凸部2と他方の金型部材3の凹部4とが、それらの間に金型材料とは異なる材料からなる中間部材5を挟み込んだ状態で、嵌め合い勘合により結合していることを特徴とする金型、該金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置、および該金型を用いた環状シームレス成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環状シームレス成形体の製造用分割式金型、該金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置、および該金型を用いた環状シームレス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において感光体や中間転写体等には、薄肉の樹脂ベルトがよく用いられる。そのような樹脂ベルトは変形が可能なため、装置の小径化に有用である。樹脂ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目に起因する欠陥が生じるので、継ぎ目がないシームレスベルトが好ましい。
【0003】
シームレスベルトは、例えば、金型の外周面または内周面に樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱し、得られた樹脂皮膜を脱型する方法によって製造される。特に、ポリイミド樹脂からなるシームレスベルトは、金型の外周面または内周面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、樹脂塗膜を加熱して乾燥および反応させ、得られた樹脂皮膜を脱型する方法によって製造される。金型は一般に、樹脂皮膜の脱型を容易にするために、樹脂溶液塗布面にメッキ膜やシリコーン樹脂膜等の離型層が形成されて使用される(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、離型層には、加熱により表面が酸化劣化しやすい欠点があるので、離型層表面において樹脂溶液が塗布されずに、空気層と接していると加熱酸化が激しい。酸化劣化した離型層上に、樹脂溶液が塗布され加熱されると、樹脂皮膜が金型から離れず、樹脂皮膜成形体の破損が起こった。そのため、金型を繰り返し使用するのは困難であった。しかも、離型層の酸化劣化は目視では判別困難なため、樹脂皮膜成形体の破損が起こって初めて、酸化劣化が起こっていることを認識することが多かった。
【0005】
そのような問題を解決するためには、離型層全面に、樹脂溶液を塗布ができれば良い。しかしながら、離型層全面に樹脂溶液を塗布すると、金型端部で樹脂溶液の垂れが発生し、金型以外の装置に樹脂溶液が付着し、装置のメンテナンス障害が発生した。また金型端部に樹脂溶液が回り込むと、樹脂皮膜成形体がアンダーカット形状を有するようになるため、脱型が困難になった。そのため、金型には端部を残して樹脂溶液を塗布する必要があり、当該端部の離型層の酸化劣化の問題は回避できなかった。しかも、金型は一般に一部材からなっているので、離型層に酸化劣化が起こると、金型全体の交換または離型層全体の再形成が必要になり、経済性にも問題があった。
【特許文献1】特開2007−100208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の発明者等は、金型を少なくとも一部で分割して構成させる分割式金型を提案した。これによって、離型層に酸化劣化が生じても、酸化劣化が生じた金型部材のみを交換するか、または当該金型部材のみの離型層を再形成することができる。
【0007】
しかしながら、分割された金型部材の相対的位置を精度よく確保するために、それらの金型部材を嵌め合い勘合により結合すると、それらの分解が困難になるという新たな問題が生じた。詳しくは、それらの金型部材の位置精度を確保するためには、勘合により生じる隙間を極力小さくする必要があった。しかし、一方で、その隙間を小さくしすぎると、加熱後の熱収縮により、更に隙間が詰まり、金型使用後の分解性が悪化した。
【0008】
本発明は、分割された金型部材間において、位置精度確保のために隙間を詰めた嵌め合い勘合を行っても、焼成後において円滑に金型の分解が可能な環状シームレス成形体製造用分割式金型、該金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置、および該金型を用いた環状シームレス成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、外周面または内周面に成形体用樹脂溶液を塗布され、焼成されて、環状シームレス成形体を製造するための分割式金型であって、
分割部において一方の金型部材の凸部と他方の金型部材の凹部とが、それらの間に金型材料とは異なる材料からなる中間部材を挟み込んだ状態で、嵌め合い勘合により結合していることを特徴とする金型、該金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置、および該金型を用いた環状シームレス成形体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分割式金型によれば、分割された金型部材間において、位置精度確保のために隙間を詰めた嵌め合い勘合を行っても、焼成後において円滑に金型の分解が可能である。詳しくは、環状シームレス成形体の製造時において初期から焼成までは、分割された金型部材とそれらに挟み込まれた中間部材との間で隙間の発生がないため、金型部材間の位置精度確保が可能である。焼成後、中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱することにより、中間部材が軟化または溶融し、応力が開放されるので、冷却後は中間部材と金型部材との間に空間が発生する。そのため、金型の分割部(勘合部)が締まることがないため、容易に金型を分解可能である。中間部材は溶融まで至らなくとも、軟化する温度まで加熱すれば、分解性を十分に向上させることができる。
本発明の金型は分割構造を有するので、離型層に酸化劣化が生じても、酸化劣化が生じた金型部材のみを交換するか、または当該金型部材のみの離型層を再形成することができる。一方、酸化劣化が生じていない金型部材は繰り返し使用できる。その結果として、本発明の金型は経済性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<金型>
本発明に係る金型は、外周面または内周面に成形体用樹脂溶液を塗布され、焼成されて、環状シームレス成形体を製造するためのものであって、分割構造を有し、2以上の金型部材からなるものである。樹脂溶液を金型外周面に塗布する場合、当該金型は中空体であってもよいし、または中実体であってもよい。樹脂溶液を金型内周面に塗布する場合、当該金型は中空体である。
【0012】
本発明の金型は分割部において一方の金型部材の凸部と他方の金型部材の凹部とが嵌め合い勘合により結合しており、当該凸部と凹部との間に中間部材が挟み込まれている。嵌め合い勘合とは、凸部を凹部に嵌合させることによって結合を達成することである。本発明の金型は例えば、図1に示すように、金型部材1の凸部2と金型部材3の凹部4との嵌め合い勘合に際し、それらの間に中間部材5を介在させる。図1は本発明の金型における分割部10の拡大断面模式図を示す。
【0013】
中間部材5は、図1においてリング形状(円筒形状)を有しているが、中間部材が一方の金型部材の凸部と他方の金型部材の凹部との間の少なくとも一部において介在できる限り特に制限されず、例えば、多角形筒形状、プレート形状等であってもよい。
【0014】
中間部材5は、金型材料とは異なる材料、特に融点が環状シームレス成形体製造時の焼成温度より高く、かつ金型材料の融点より低い材料から構成される。環状シームレス成形体製造時の焼成温度を「T」、金型材料の融点を「M」としたとき、中間部材の融点はT+40℃〜M−150℃であることが好ましい。そのため、環状シームレス成形体の製造時において初期から焼成までは、分割された金型部材と中間部材との間で隙間の発生がなく、金型部材間の位置精度を有効に確保できる。一方、焼成後は、中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱されることにより、中間部材が軟化または溶融し、応力が開放されるので、図2に示すように、中間部材5と金型部材1,3との間に空間が発生する。そのため、金型を分割部(勘合部)10で容易に分解できる。金型部材間の位置精度が確保されていないと、樹脂溶液の塗り厚さが不均一になり、焼成後薄膜の厚さばらつきが生じたり、金型部材間に段差が生じ、当該段差部分が成形体にアンダーカット形状を付与し、成形体を金型から取り外すことが困難になったりする。分解される一方の金型部材と他方の金型部材とが互いに異なる材料から構成されている場合、融点が比較的低い金型部材材料の融点を「M」とする。図2は本発明の金型を焼成後に金型部材の分解のための加熱を行ったときの分割部10の拡大断面模式図を示す。
【0015】
中間部材5は、特にポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、融点300〜450℃、特に360〜400℃の材料から構成されることが好ましい。そのような融点を有する材料として、例えば、液晶ポリマー樹脂(LCP)、PFA、フッ素系樹脂等が挙げられる。
中間部材の融点は、例えばLCPにて370℃である。
【0016】
金型部材1の凸部2と中間部材5との間、および該中間部材5と金型部材3の凹部4との間での結合は締まり嵌めによって達成されることが好ましい。締まり嵌めとは、嵌め合いに際し、嵌入させる部材の寸法が嵌入される孔の寸法よりもわずかに大きいために、寸法上は嵌め合い不可能なものを、強制的に変形等によって嵌入させる結合形態をいう。そのような締まり嵌めによって結合を達成すると、部材間で隙間がほとんど発生しないので、分割された金型部材間での位置精度を一層有効に確保できる。
【0017】
金型部材1,3を構成する材料としては、シームレス成形体の製造時における焼成・加熱によっても変形が起こらないものであれば特に制限されず、通常は融点が550℃以上程度の金属が使用される。例えば、アルミニウム、銅、鋼等の金属が好ましく使用される。中でも市場流通性、耐溶剤性、熱伝導性、強度等の観点から、アルミニウムが特に好ましく用いられる。そのような金属を型本体部または端部型の所定形状に加工するに際しては、管材または棒材を切削により所定形状にすればよい。特にアルミニウムを用いる場合は、金属の中でも比較的硬度が低く、切削性に優れるため、加工し易い特徴があり、型生産効率を上げられる。
【0018】
金型(金型部材)の融点は、例えば600℃(A5056TE)を用いる。
【0019】
図1中、6は離型層を示す。離型層6は得られた成形体を容易に脱型するために形成されるものである。離型層6は金型における樹脂溶液塗布面に形成され、例えば、シリコーン樹脂やフッ素含有樹脂等を被覆したり、シリコーン系、フッ素系離型剤をコーティングして使用される。
【0020】
以上に示す本発明の分割式金型は上記した中間部材5を用いた分割部(勘合部)10を有する限り、環状シームレス成形体のいかなる製造方式で使用されてよい。例えば、本発明の金型は、1つの金型毎に成形体用樹脂溶液を塗布し、焼成して、環状シームレス成形体を製造する単一製造方式、または複数の金型を連結した連結式金型に対して、連続的に、成形体用樹脂溶液を塗布し、焼成して、複数の環状シームレス成形体を連続的に製造する連続製造方式で使用されるものであってよい。
【0021】
単一製造方式で使用される本発明の金型の一例を図3に示す。図3は、本発明の一実施形態の金型に対して樹脂溶液7を塗布したところの概略構成図である。
図3に示す金型20は、両方の端部に分割部10を有するものである。すなわち金型20は型本体部21と、該型本体部の両端に着脱可能に結合された端部型22,23を有してなっている。端部型22,23は分割部10を構成する分割面11によって型本体部21から着脱可能に分割されている。金型20は、一方の端部のみに分割部10を有してもよい。
【0022】
分割面とは金型軸を分割する面であり、例えば、金型軸を通る垂直断面において一本の直線で表される面であっても、二本以上の直線で表される面であっても、曲線で表される面であってもよい。分割面は通常、金型軸に対して対照に形成される。
【0023】
金型20において分割部10の分割面11は樹脂溶液塗布領域内に存在することが好ましい。詳しくは、金型の樹脂溶液塗布面における分割面の位置が樹脂溶液塗布領域内になるように、分割面は存在することが好ましい。
樹脂溶液塗布領域とは、樹脂溶液7が実際に塗布される領域であり、環状シームレス成形体の製造に際して予め設定されるものである。従って、樹脂溶液塗布領域内に分割面が存在するとは、樹脂溶液が実際に塗布された時、当該樹脂溶液によって隠れるところに分割面を有するという意味である。これによって、金型を構成する少なくとも1つの金型部材における離型層の酸化劣化を防止できる。例えば図3において、型本体部21は、離型層6の全面に樹脂溶液7が塗布されるため、加熱時に離型層が空気に触れることを防止できる。したがって、酸化を抑制できるため、型本体部21の離型層6は、加熱後も離型性を確保でき、繰り返し使用可能である。また離型層6の酸化劣化は端部型21,22で限定的に発生するため、目視では難しい離型層劣化部分の特定に有効である。そのため、端部型のみの離型層再形成により、金型全体の離型性を確保することが可能で有り、コストダウンおよび品質確保に有効である。また酸化劣化により再利用できなくなった際にも、端部型のみを交換すればよく、金型全体を交換することと比較して、コスト的に優位である。金型が分割面を有する位置が樹脂溶液塗布領域外であると、当該分割面によって分割されたいずれの金型部材にも離型層が露出した領域が存在し、酸化劣化が発生するので、いずれの金型部材も離型層の再形成または交換が必要になる。
【0024】
型本体部21における樹脂溶液塗布領域の軸方向長さXはシームレス成形体1個分の所定幅Y以上であり、例えばYに等しくても、n×Y(nは2以上の自然数;Yの整数倍長)に等しくても、またはそれらの長さより大きくても良い。好ましくは長さXは当該所定幅Yに等しい。長さXがYに等しいと、加熱後に形成される樹脂皮膜成形体を分割面でカットし、分離・分割された型本体部から成形体を脱型するだけで、そのまま使用可能な所定幅のシームレス成形体を容易に得ることができる。
【0025】
図3において金型20は金型外周面に樹脂溶液を塗布するものであるが、金型内周面に塗布し、環状シームレス成形体を製造するものであってもよい。
【0026】
連続製造方式で使用される本発明の金型の一例を図4に示す。図4は、本発明の一実施形態の金型に対して樹脂溶液7を塗布したところの概略構成図である。
図4に示す金型30は、複数の金型31,32,33を連結したものであって、連結部ごとに分割部10を有する連結式金型である。すなわち連結式金型30において個々の金型31,32,33は隣接する金型と、前記した分割部10の関係を有しながら、相互に着脱可能に結合してなっている。図4は3つの金型31,32,33からなる連結式金型30を示しているが、連結部として分割部10を有する限り、これに制限されるものではなく、連結式金型30は2つの金型からなっていてもよいし、または4つまたはそれ以上の金型からなっていてもよい。
【0027】
金型が上記連結式金型の構成を採ることにより、環状シームレス成形体を連続的に製造しながらも、金型の位置精度確保と金型の分解円滑化との両立を達成できる。しかも、離型層6の全面に樹脂溶液7が塗布されるため、加熱時に離型層が空気に触れることを防止できる。
【0028】
個々の金型における樹脂溶液塗布領域の軸方向長さXはシームレス成形体1個分の所定幅Y以上であり、例えばYに等しくても、n×Y(nは2以上の自然数;Yの整数倍長)に等しくても、またはそれらの長さより大きくても良い。好ましくは長さXは当該所定幅Yに等しい。長さXがYに等しいと、加熱後に形成される樹脂皮膜成形体を分割面でカットし、分離・分割された金型から成形体を脱型するだけで、そのまま使用可能な所定幅のシームレス成形体を容易に得ることができる。
【0029】
図4において金型30は金型外周面に樹脂溶液を塗布するものであるが、金型内周面に塗布し、環状シームレス成形体を製造するものであってもよい。
【0030】
<環状シームレス成形体の製造装置>
本発明の環状シームレス成形体の製造装置は上記した金型が備わっている限り特に制限されず、通常は該金型に環状シームレス成形体用樹脂溶液を塗布するための塗布手段、および得られた樹脂塗膜および金型を加熱するための加熱手段を有している。
【0031】
塗布手段は金型の外周面または内周面の離型層上に樹脂溶液を塗布できる限り特に制限されず、環状シームレス成形体の製造分野で従来から使用されているものが使用可能である。例えば、後述の塗布方法を採用した装置等が挙げられる。
加熱手段は特に制限されず、例えば、ハロゲンヒーター、ファンヒーター等が挙げられる。
【0032】
<環状シームレス成形体の製造方法>
本発明の環状シームレス成形体の製造方法は、以下の工程;
上記金型の離型層上に環状シームレス成形体用樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を形成する樹脂塗膜形成工程;
樹脂塗膜を焼成し、樹脂皮膜を形成する樹脂皮膜形成工程;および
樹脂皮膜を金型から剥離する脱型工程
を含み、
樹脂皮膜形成工程の後であって、脱型工程の前または後に、中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱することを特徴とする。
【0033】
本発明においては、従来から環状シームレス成形体の製造に使用されている公知の樹脂が使用され、押出成形では製造困難な熱硬化性樹脂、特にポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を使用することが好ましい。
【0034】
ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、ポリイミド前駆体として、いわゆるポリアミック酸、例えば、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)からなる前駆体、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4'−ジアミノフェニルエーテル(ODA)からなる前駆体等が使用される。
【0035】
ポリアミドイミド樹脂製の環状シームレス成形体を製造する場合、ポリアミドイミド前駆体として、例えば、アミド基含有芳香族ジアミンとPMDAからなる前駆体や、芳香族ジアミンまたはその誘導体と無水トリメリット酸(TMA)からなる前駆体等が使用される。
以下、特に好ましい態様として、ポリイミド樹脂製の環状シームレス成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0036】
(樹脂塗膜形成工程)
本工程では、まず、ポリイミド前駆体を有機溶剤に溶解させて樹脂溶液を調製する。
ポリイミド前駆体は上記したものが使用可能であり、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
有機溶剤は、ポリイミド前駆体を溶解可能なものであれば、特に制限されず、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。樹脂溶液におけるポリイミド前駆体の濃度、粘度等は、塗布方法および成形体の所望厚み等に応じて適宜選択される。
【0038】
得られる成形体を、定着ベルト、中間転写ベルト、接触帯電ベルト等、導電性機能を有する部材として使用する場合は、樹脂溶液の中に導電性物質等の添加剤を分散させることができる。
導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンブラックを造粒したカーボンビーズ、カーボンファイバー、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2−In23複合酸化物等の導電性金属酸化物等が挙げられる。
【0039】
次いで、樹脂溶液を上記金型の離型層上に塗布して、例えば、図3〜図4に示すように、樹脂塗膜7を形成する。特に図3に示す金型20においては、型本体部21の離型層6上だけでなく、型本体部21からみて分割面11を超える範囲まで塗布を行う。端部型22,23においては液垂れ防止やアンダーカット形状の付与防止の観点から、端部に離型層6の露出領域を確保する。
【0040】
塗布方法としては、金型の外周面または内周面の離型層上に樹脂溶液を塗布できる限り特に制限されず、環状シームレス成形体の製造分野で従来から使用されている方法が使用可能である。例えば、リングコート法、ブレードコート法、バーコート法、ロールコート法等が挙げられる。
【0041】
(樹脂皮膜形成工程)
本工程では、樹脂塗膜を加熱して焼成し、樹脂皮膜を形成する。詳しくは、樹脂塗膜を加熱乾燥させてから、加熱反応させてポリイミド樹脂皮膜を形成する。
【0042】
まず、樹脂塗膜中に過度に残留する溶剤を除去する目的で、静置しても塗膜が変形しない程度まで加熱乾燥を行う。乾燥条件は、80〜200℃の温度で30〜60分間であることが好ましい。その際、温度が高いほど、加熱時間は短くてよい。また、加熱することに加え、風を当てることも有効である。また、遠赤外線加熱を用いれば、溶剤除去をさらに効率よく行うことができる。加熱は、時間内において、段階的に上昇させたり、一定速度で上昇させてもよい。なお、樹脂塗膜から溶剤を除去させすぎると、塗膜はまだ成形体としての強度を保持していないので、割れを生じる虞がある。そのため溶剤を適度に残留させておくことが好ましい。具体的には樹脂塗膜中に15〜50質量%、特に35〜50質量%の割合で溶剤を残留させることが好ましい。
【0043】
次いで、好ましくは300〜340℃で、20〜60分間、樹脂塗膜を加熱反応させることで、ポリイミド樹脂皮膜を形成できる。加熱反応の際、塗膜中に有機溶剤が残留していると、ポリイミド樹脂皮膜に膨れが生じることがあるため、加熱の最終温度に達する前に、完全に残留溶剤を除去することが好ましく、具体的には、加熱前に、200〜250℃の温度で、10〜30分間加熱乾燥して残留溶剤を除去し、続けて、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱し、ポリイミド樹脂皮膜を形成することが好ましい。この際、遠赤外線加熱を併用すれば、残留溶剤の除去とイミド化反応を効率的に行える。本工程における最高温度を焼成温度「T」とする。
【0044】
樹脂皮膜形成工程の後であって、脱型工程の前または後には、中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱し(分解用加熱工程)、金型を分割部で分解する。金型に塗布された離型層を保護する観点からは、樹脂皮膜形成工程の後であって、脱型工程の前に、分解用加熱工程を実施することが好ましい。
【0045】
(分解用加熱工程)
本工程では、金型を中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱する。中間部材を構成する材料の融点を「M」、金型材料の融点を「M」としたとき、本工程での加熱温度はM−20℃〜M−150℃であることが好ましい。そのような温度で加熱することにより、中間部材が軟化または溶融し、応力が開放されるので、金型を分割部(勘合部)で容易に分解できる。
【0046】
本工程における加熱温度は中間部材の構成材料およびその融点、ならびに金型材料およびその融点に依存して決定される。
【0047】
(脱型工程)
本工程では、ポリイミド樹脂皮膜を金型から剥離し、脱型する。金型上に形成された樹脂皮膜はそのまま後述する方法で加圧空気により剥離させてもよいが、本発明においては上記した金型が使用されるので、分解用加熱工程において分割面で樹脂被膜をカットし、金型を分解した後、本工程において金型表面に形成された樹脂皮膜を剥離することが好ましい。
【0048】
樹脂皮膜の剥離は金型と皮膜との隙間に、加圧空気を注入することで、皮膜を膨張させて剥離する。加圧空気の圧力は、一般的な空気圧縮機で得られる数気圧程度でよい。注入された加圧空気は、ある程度は皮膜端部から漏れるが、全部が漏れるわけではないので、皮膜は空気圧により、多少、膨れることになる。そのため、形成された樹脂皮膜を金型から容易に抜き取ることができる。
【0049】
抜き取られた樹脂皮膜が所定の幅を有している場合はそのままポリイミド樹脂環状シームレス成形体として使用できる。樹脂皮膜が所定幅より大きい場合は、不要部分を切断して、ポリイミド樹脂環状シームレス成形体を得ることができる。樹脂皮膜が所定幅の整数倍の長さを有している場合は、所定幅に切断するだけで、そのまま使用可能なポリイミド樹脂環状シームレス成形体を複数個得ることができる。
【0050】
成形体の厚みは樹脂塗膜の厚みを調整することによって制御可能で、例えば、20〜1000μm、特に30〜100μmとすることができる。
【0051】
成形体表面には、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂層が形成されてもよい。その場合には、樹脂皮膜形成工程の加熱反応処理後であって、脱型工程前に、樹脂皮膜を外周面に有した金型に対して、所定のポリマーからなるチューブを被せ、加熱溶着処理を行った後、脱型工程を行うことが好ましい。このとき分解用加熱工程は当該脱型工程の直前または直後に行ってよい。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
(金型Aの製造)
図3に示す構造と同様の構造を有するアルミニウム製金型(融点600℃)を切削加工法により製造した。中間部材5は注型法で融点370℃のLCP(液晶ポリマー)にて製造した。寸法は図5に示す通りであった。
型本体部21の外周面にシリコーン系離型剤(商品名;KS700、(株)信越化学社製)を塗布することによって離型層6としてシリコーン樹脂膜(膜厚約1μm)を形成した。
端部型22、23の外周面にも、型本体部と同じ離型剤を塗布した。
【0053】
(樹脂塗膜形成工程)
3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、p−フェニレンジアミン(PDA)とを、N,N−ジメチルアセトアミド中で反応させて、22質量%濃度ポリイミド前駆体溶液Aを調製した。この前駆体溶液Aに、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で23%混合し、次いでジェットミルにより分散し、樹脂溶液Aを得た。
樹脂溶液Aをリング塗布法により金型外周面に図3に示す範囲で塗布し、約500μm厚の樹脂塗膜を形成した。
【0054】
(樹脂皮膜形成工程)
次に、金型Aを水平にして、20rpmにて回転させながら、室温で5分間の乾燥後、80℃で20分間、100℃で1時間、加熱乾燥させた。これにより、厚さ約150μmの樹脂塗膜を得た。次に、金型Aを一旦、室温まで冷却した。その後、金型Aを垂直に立てて、200℃で30分、330℃で30分加熱反応させ、樹脂皮膜を形成した。
【0055】
(分解用加熱工程)
表面に樹脂皮膜を有する金型を360℃に加熱し、8分間保持した。室温に冷えた後、分割面のところで樹脂被膜をカットし、型本体部と端部型とを分離・分解した。分解は手動により容易に行うことができた。
【0056】
(脱型工程)
型本体部と皮膜との隙間に圧力0.5MPaの加圧空気を注入したところ、ポリイミド樹脂皮膜が膨張し、容易に抜き取ることができた。得られたポリイミド樹脂シームレス成形体はそのまま電子写真用転写ベルトとして使用できる寸法を有していた。
【0057】
樹脂塗膜形成工程、樹脂皮膜形成工程、分解用加熱工程および脱型工程からなる成形体の製造工程を繰り返して行い、100個の成形体を製造した。成形体の破損は全く起こらなかった。但し、20個の成形体を製造するごとに、端部型22,23は新しいものに交換した。型本体部21は同じものを継続して用いた。
【0058】
<比較例1>
(金型Bの製造)
中間部材を有さないこと、および型本体部の形状を、図3における型本体部21と中間部材5とを一体化した形状としたこと以外、金型Aと同様の金型を、金型Aと同様の方法により製造した。
金型の外周面にシリコーン系離型剤(商品名;KS700、(株)信越化学社製)を塗布することによって離型層6としてシリコーン樹脂膜(膜厚約1μm)を形成した。
【0059】
金型Bを用いたこと以外、実施例1と同様の樹脂塗膜形成工程、樹脂皮膜形成工程、分解用加熱工程および脱型工程からなる成形体の製造工程を行ったところ、型本体部からの端部型の分離・分解は、手動では非常に困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の金型は、画像形成装置の定着ベルト、中間転写ベルト、接触帯電ベルト等として使用可能な環状シームレス成形体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の金型における分割部の拡大断面模式図である。
【図2】本発明の金型を焼成後に金型部材の分解のための加熱を行ったときの分割部の拡大断面模式図である。
【図3】本発明の金型の一実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の金型の一実施形態を示す概略構成図である。
【図5】実施例1で製造した金型の寸法を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1:金型部材、2:凸部、3:金型部材、4:凹部、5:中間部材、6:離型層、7:樹脂塗膜(樹脂溶液)、10:分割部、11:分割面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面または内周面に成形体用樹脂溶液を塗布され、焼成されて、環状シームレス成形体を製造するための分割式金型であって、
分割部において一方の金型部材の凸部と他方の金型部材の凹部とが、それらの間に金型材料とは異なる材料からなる中間部材を挟み込んだ状態で、嵌め合い勘合により結合していることを特徴とする金型。
【請求項2】
一方の金型部材の凸部と中間部材との間、および該中間部材と他方の金型部材の凹部との間での結合が締まり嵌めによって達成されている請求項1に記載の金型。
【請求項3】
中間部材を構成する材料の融点が、環状シームレス成形体製造時の焼成温度より高く、かつ金型材料の融点より低い温度である請求項1または2に記載の金型。
【請求項4】
環状シームレス成形体製造時において、焼成後、中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱される請求項1〜3のいずれかに記載の金型。
【請求項5】
金型が金属からなり、中間部材がフッ素系樹脂または液晶ポリマー樹脂からなる請求項1〜4のいずれかに記載の金型。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の金型を備えた環状シームレス成形体の製造装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の金型の外周面または内周面に環状シームレス成形体用樹脂溶液を塗布し、樹脂塗膜を形成する樹脂塗膜形成工程;
樹脂塗膜を焼成し、樹脂皮膜を形成する樹脂皮膜形成工程;および
樹脂皮膜を金型から剥離する脱型工程
を有する環状シームレス成形体の製造方法であって、
樹脂皮膜形成工程の後であって、脱型工程の前または後に、中間部材を構成する材料の融点−20℃以上で、かつ金型材料の融点より低い温度に加熱することを特徴とする環状シームレス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−178960(P2009−178960A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20701(P2008−20701)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】