説明

環状同芯撚りビードコードの製造方法及び製造装置

【課題】巻き付け動作が速く、しかも巻き付け性が良好で、側線ワイヤ2の配列状態に乱れのない成形性が良好な環状同芯撚りビードコードを製造する。
【解決手段】環状コア1を定位置で周方向に回転させながら、側線ワイヤ2を巻いたリール21を、環状コア1に対し振り子運動させ、環状コア1の輪の外側から輪の中を通して元の位置に戻す巻回移動を繰り返し、リール21から引き出される側線ワイヤ2を、環状コア1の周囲に螺旋状に巻き重ねてシース層を一層又は複数層形成する際に、環状コア1への側線ワイヤ2の巻き付け点を通る環状コア1の円の接線(水平線)Hを基準にして、この水平線Hよりも上側で15度以内、下側で55度以内の角度範囲で側線ワイヤ2が環状コア1の巻き付け点に巻き付けられるように、リール21の振り子運動の支点19を決定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤのビード部分に埋め込まれるビードコード、特に、環状コアの周囲に、側線ワイヤを螺旋状に巻き続けて形成したシース層を一層又は複数層設けた環状同芯撚りビードコードを製造する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状同芯撚りビードコードは、各種車両のタイヤに使用されている。
この環状同芯撚りビードコードは、図9(a)、(b)に示すように、環状コア1の周囲に側線ワイヤ2のシース層を設けたものであり、側線ワイヤ2を、環状コア1の輪の外側から輪の中を通し、再び輪の外側から輪の中を通すことにより、環状コア1に側線ワイヤ2を螺旋状に巻き続けて製造されている。
【0003】
環状同芯撚りビードコードを製造する方法としては、従来、次のような方法が開示されている。
まず、特許文献1には、環状コアの回りに側線ワイヤを螺旋状に巻回する際に、側線ワイヤとして、予め環状コアの少なくとも2倍以上の径にくせづけしたものを使用してビードコードを製造する方法が開示されている。この方法により製造したビードコードをタイヤに使用した場合、いわゆる腰が強いというフィーリング感が得られ、グリップ力、旋回力、応答性が向上するとされている。
【0004】
また、特許文献2には、図10に示すように、チャック機構によって側線ワイヤ2の先端を環状コア1に仮止めし、環状コア1を周方向に回転させつつ、環状コア1の内外にリール3を公転させることによって、側線ワイヤ2を環状コア1の外周に螺旋状に巻き付け、環状コア1に仮止めされた側線ワイヤ2の先端がリール3の公転位置と重なる前にチャック機構を環状コア1から開放し、チャック機構とリール3との干渉を回避してリール3の公転を継続させるという方法が開示されている。この方法は、S巻きとZ巻きとを交互に多層巻きにすることができ、側線ワイヤ2の絡まり、ねじれ等の不具合が防止され、ビードコードの生産性及び品質を大幅に向上させることができるとしている。
【0005】
また、特許文献3には、側線ワイヤの先端を環状コアに固定せずに絡ませるか仮止めし、かつ自由に回転できるようにしておき、環状コアより小径にベンディングして巻かれているリールの平面移動および環状コアの上下作動と環状コアの回転を組み合わせ、側線ワイヤを環状コアに鋼線の曲げ応力によって絡ませ、撚回応力が発生しないようにして、ビードコードの製造を行う方法が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、図12に示すように、側線ワイヤ2を巻いたリール3を所定位置に固定し、環状コア1を周方向に回転させるドライビングユニット5を、環状コア1面に沿って直線的に往復運動させ、この往復周期の一端で、リール3が環状コア1の輪の外に位置し(図12の実線位置)、往復周期の他端で、リール3が環状コア1の輪の中に位置し(図12の破線位置)、環状コア1の輪の外と中の位置で、リール3を環状コア1の面に対し横断移動させるように受け渡すことにより、リール3から引き出される側線ワイヤ2を、環状コア1の周囲に螺旋状に巻き続けるようにしてビードコードを製造する方法が開示されている
【0007】
さらにまた、特許文献5には、図13及び図14に示すように、リール3を所定位置で環状コア1のコア面を横断往復させ、環状コア1を、側線ワイヤ2の巻き付け点となるクランプユニット4を支点にして、振り子運動させることにより、リール3から側線ワイヤ2の巻き付け点までの距離をほぼ一定に保ち、巻き付けの際に、リール3から引き出される側線ワイヤ2が緩んだりせず、一定の張力で側線ワイヤ2が環状コア1に巻き付けられるようにしたビードコードの製造方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3499261号公報
【特許文献2】特開2001−47169号公報
【特許文献3】特開2004−98640号公報
【特許文献4】WO2004/018187 A1(図13)
【特許文献5】特開2006−110981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ビードコードにとって形状の安定性は、最重要品質であるが、前記各特許文献に示された方法によって製造されるビードコードには、次のような問題があった。
特許文献1に開示された方法によって製造されるビードコードの場合、タイヤの腰を強くするために環状コアの半径よりも2倍以上の半径に、予めくせづけした側線ワイヤを巻回するようにしている。このため、自動化し難く、コストアップの要素が多い。また、環状コアの回りを巻回する側線ワイヤのコイル径が大きい場合、人手で巻回するのも大変であるし、予めくせづけされているので、引き出し時に抵抗が増え、巻き付け時のトラブルの原因になる。また、側線ワイヤをリールに巻き取った後、環状コアの回りを巻回させる際に、常に一定以上の張力をかけておかないと巻きが緩むし、少しの張力でも環状コアが歪み易く、巻き付け性に悪影響を与える。
【0010】
次に、特許文献2に開示された方法の場合、チャック機構による環状コアの仮止めと、環状コアを周方向に回転させつつ、環状コアの内外にリールを公転させるため、環状コアに巻き付ける角度が大きく変化すると共に、動き自体に無駄が多く、装置自体も重厚となる。
【0011】
また、特許文献2に開示された方法の場合、図10の概念図に示すように、環状コア1の内外でリール3を公転させるため、図11(a)に示すように、側線ワイヤ2と環状コア1とが平行になる巻き付け振れ角βが0°の状態から、図11(b)に示すように、リール3が環状コア1から離れた巻き付け振れ角βが約50°の状態になるまで、巻き付け振れ角βが変化しながら、側線ワイヤ2が環状コア1に巻き付けられることになる。一般的に市販されているタイヤに使用されているビードコードの撚り角βは、二輪車用の1+m撚り構造で、3.5〜5.5°、乗用車・軽トラック用の1+m+n撚り構造で7°位であるから、巻き付け振れ角βと撚り角βとの差が前記のように大きくなると、巻き続ける側線ワイヤ2の配列状態に乱れが生じ易く、コード成形性が良くないという問題があった。
【0012】
さらに、環状コア1の内外でリール3を公転させる特許文献2の方法の場合、リール3が円軌道に沿って移動するため、動きが冗長で、巻き終わる迄に長時間を要する。また、側線ワイヤ2に一定張力を付加するようにして巻き付けているため、環状コア1が周方向に引っ張られて蛇行し易く、巻き付け性が悪いという問題もあった。
【0013】
次に、特許文献3に開示された方法の場合、環状コアが水平に置かれて複雑な動きをするため、特許文献2の場合と同様、巻き付け振れ角βが大きくばらつく要素を具えており、巻き付け性が不安定となる。また、リールの水平移動も一度置いて戻る動作であり、2倍の時間がかかるため、仕上がるのに2倍の時間を要する。また、巻き付け時に柱となる環状コアの動きを極力制限しないと、巻き付け性が不安定となり易い。特に、環状コアを重力方向に置き、それを重力方向に上下動させ、さらに、側線ワイヤを巻いているリールを断続的に動作させるので、巻き付け性が悪い。
【0014】
また、図12に示す特許文献4の場合、リール3を所定位置に固定し、ドライビングユニット5自体を直線的に往復動させることにより、リール3が環状コア1の輪の中と、輪の外に位置するように、リール3に対し、環状コア1が近接したり、離間したりする。このため、この環状コア1がリール3に近づく方向に移動する際には、側線ワイヤ2が緩む方向に押され、反対に、環状コア1がリール3から離れる方向に移動する際には、側線ワイヤ2が引っ張られるので、側線ワイヤ2の環状コア1に対する巻き付け点が、環状コア1の移動に伴って大きくずれ動き、側線ワイヤ2が整列し難く、側線ワイヤ2の配列に乱れが生じ易い。
【0015】
また、図13及び図14に示す特許文献5の場合、周方向に回転する環状コア1を、側線ワイヤ2の巻き付け点となるクランプユニット4を支点にして、振り子運動させているので、装置全体が大掛かりであるし、環状コア1の周方向の回転も不安定となり、側線ワイヤ2の配列に乱れが生じ易い。
【0016】
そこで、この発明は、巻き付け動作が速く、しかも巻き付け性が良好で、しかも環状コアの周方向の回転を安定化させることにより、側線ワイヤの配列状態に乱れのない成形性が良好な環状同芯撚りビードコードを製造する方法と装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明は、前記の課題を解決するために、環状コアを周方向に回転させながら、該環状コアの輪の中と外で、側線ワイヤを巻いたリールを環状コア面に対して横断往復させて巻回移動を繰り返し、リールから引き出される側線ワイヤを、環状コア面に対する側線ワイヤの巻き付け振れ角βが、29度を超えないようにリールを横断移動させることにより、環状コアの周囲に螺旋状に巻き続けてシース層を一層又は複数層形成する環状同芯撚りビードコードの製造方法において、環状コア面に対するリールの面内移動が振り子運動であり、振り子周期の一端で、前記リールが環状コアの輪の中を横断する位置に、振り子周期の他端で、前記リールが環状コアの輪の外を横断する位置に移動させ、前記リールを、環状コアの輪の中と外で、環状コア面に対して横断移動を繰り返すことにより、リールから引き出される側線ワイヤを環状コアの周囲に螺旋状に巻き続け、リールから引き出される側線ワイヤと、環状コアへの側線ワイヤの巻き付け点を通る環状コアの円の接線とが成す角度が、この接線に対して環状コアと逆側で15度以内、環状コア側で55度以内になるように、リールの振り子運動の支点位置を設定したものである。
なお、巻き付け点とは、側線ワイヤが環状コアの周上に巻き付けられる際の側線ワイヤと環状コアの接点である。
【0018】
この発明では、まず、環状コア面に対する側線ワイヤの巻き付け振れ角βが、29度を超えないようにリールを、環状コア面に対して横断往復させている。
【0019】
これにより、リールが環状コア面から離れる動きを最小限にして、リールを環状コア面に対して横断移動を繰り返すことが可能になり、リールから引き出される側線ワイヤと環状コアとの巻き付け振れ角βを小さい角度に保って、螺旋状に巻き続けることができる。
【0020】
次に、環状コアを定位置で周方向に回転させ、リールを環状コアに対して振り子運動させると、リールの振り子運動の支点の位置によって、リールが環状コアの輪の中を横断する位置にある振り子周期の一端と、リールが環状コアの輪の外を横断する位置にある振り子周期の他端とで、環状コアの巻き付け点を通る接線を基準にして側線ワイヤの方向を見た場合に、リールから繰り出されて環状コアの巻き付け点に至る側線ワイヤの方向が変動する。巻き付け点における環状コアの円の接線と側線ワイヤの方向とが成す角度が大きいと、側線ワイヤの配列状態が悪くなる。
【0021】
この配列状態に与える影響は、側線ワイヤがリールに、環状コアと同方向に、最小で環状コアのコア径の55%程度までのコイル径になるように巻き付けられているため、側線ワイヤが、環状コアの巻き付け点の外側から巻き付けられる場合と、環状コアの巻き付け点の内側から巻き付けられる場合とで異なり、外側から巻き付けられる場合の方が、側線ワイヤの配列状態に与える影響が大きい。側線ワイヤの配列状態に悪影響を及ぼさない角度としては、環状コアへの側線ワイヤの巻き付け点を通る環状コアの円の接線を基準にして、環状コアと逆側で15度以内、環状コア側で55度以内の範囲であり、この角度範囲で側線ワイヤが環状コアの巻き付け点に巻き付けられるように、リールの振り子運動の支点位置を決定する必要がある。
【0022】
また、この発明では、環状コアを定位置で周方向に回転させているので、安定した状態で環状コアが回転し、側線ワイヤの巻き付けに乱れが生じ難い。
そして、リールを振り子運動させることにより、環状コアを振り子運動させる場合よりも装置全体を格段に小型化することができる。
【0023】
上記側線ワイヤの巻始め端末は、未加硫ゴムシートで仮止めして、リールから引き出される側線ワイヤを、環状コアの周囲に螺旋状に巻き重ねるようにすることが好ましい。未加硫ゴムはタイヤ用ゴムと同質であるため、後工程において取り除く必要がない。
【0024】
また、側線ワイヤが膨れるのを防止し、環状コアに側線ワイヤを螺旋状に巻き付ける際に、効果的に側線ワイヤの剛性を分散させるために、リールに巻き取る前の側線ワイヤのコイル径を予め次式のいずれかを満足するように、調整しておくことが好ましい。
0.90D≦DSO≦3.3D
又は
0.55D≦DSO≦2.0D
式中、Dは、リールの外径、DSOは、調整された側線ワイヤのコイル径、Dは、環状コアの中心径である。
【0025】
さらに、螺旋状に巻き付ける際に、側線ワイヤの少しの緩みを許容し、側線ワイヤが膨れるのを防止するために、リール外径より少し大きい径で、且つリール内幅に相当する円筒形状の外周壁を有するカセット内に、リールを回転可能に収容し、カセットの外周壁に設けた引き出し孔から側線ワイヤを引き出すようにすることが好ましい。
【0026】
また、リールから引き出される側線ワイヤの湾曲方向を、巻き付け点における環状コアの湾曲方向に沿った方向とすることにより、側線ワイヤのくせ付けされた湾曲形状が環状コアの湾曲方向に従うように巻き付けられるため、側線ワイヤの巻き乱れが生じにくくなる。一方、側線ワイヤの湾曲方向が環状コアの湾曲方向と逆方向である場合、巻き付けた側線ワイヤが環状コアの湾曲方向に反発して環状コアの真円度が崩れていびつになるため、巻き乱れが生じやすくなってしまう。
【0027】
この発明の同芯撚りビードコードの製造方法を可能にする製造装置は、環状コアを周方向に回転させるドライビングユニットと、環状コアの巻き付け部に側線ワイヤを供給するリールと、このリールを環状コアの面に沿って振り子運動させ、リールの振り子周期の一端で、前記リールが環状コアの輪の中を横断する位置に、振り子周期の他端で、前記リールが環状コアの輪の外を横断する位置に移動させる振り子機構と、環状コアの周方向の回転を妨げない距離をおいて環状コアの面を挟んで対向するリール受け渡し機構とを備え、前記リールを、環状コアの輪の中と外で、環状コア面に対して横断移動を繰り返すことにより、リールから引き出される側線ワイヤを環状コアの周囲に螺旋状に巻き続け、リールから引き出される側線ワイヤと、環状コアへの側線ワイヤの巻き付け点を通る環状コアの円の接線とが成す角度が、この接線に対して環状コアと逆側で15度以内、環状コア側で55度以内になるように、リールの振り子運動の支点位置を設定している。
ここで、リールから引き出される側線ワイヤと、環状コアへの側線ワイヤの巻き付け点を通る水平線とが成す角度とは、側線ワイヤの引き出し時における、ワイヤのリール巻き表面が離れる点と巻き付け点とを結ぶ直線と、側線ワイヤの巻き付け点を通る水平線とが成す角度をいう(図1のαとα参照)。
【0028】
前記ドライビングユニットには、環状コアをスリップのない安定した状態で周方向に回転させる2つのピンチローラと、側線ワイヤの供給側に、環状コアと側線ワイヤの巻き付け点の全周を保持し、横方向の振れを防止しながら、巻き付け点の位置決めを行うクランプユニットを備えている。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、この発明によると、リールを振り子運動させるので、巻き付け動作が速く、しかも巻き付け性が良好で、しかも環状コアの周方向の回転を安定化させることにより、側線ワイヤの配列状態に乱れのない成形性が良好な環状同芯撚りビードコードを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明に係る環状同芯撚りビードコードの製造装置の一例を図1〜図8に基づいて説明する。
この製造装置は、環状コア1を定位置で周方向に回転させるドライビングユニット10と、リール21に巻かれた側線ワイヤ2を環状コア1の巻き付け部に供給する側線ワイヤ2のサプライ部20とを有する。
【0031】
ドライビングユニット10は、環状コア1を垂直面内において周方向に回転させるように、駆動モータと連結された2つのピンチローラ12a、12bを有し、ピンチローラ12a、12bは、固定台14上の支柱11に設置されている。
【0032】
上記支柱11には、環状コア1の回転方向と逆方向に位置する側線ワイヤ2の供給側に、環状コア1の周囲を囲むクランプユニット13を設けている。このクランプユニット13は、2個のローラ13a、13bからなり、環状コア1の前後方向の振れを防止し、垂直面内において安定した周方向回転を維持している。このクランプユニット13により、側線ワイヤ2の巻き付け点の位置決めが行われ、高い巻き付け性が確保される。さらに、環状コア1の垂直面内における回転を安定化させるために、環状コア1の下側部分をガイドする案内ローラ15a、15bを、支柱11から水平に延びるアーム15に設置している。
【0033】
上記2個のローラ13a、13bからなるクランプユニット13は、環状コア1の横方向の振れを防止し、最終仕上げコード径でも環状コア1の周囲を囲んで、安定した周方向回転を維持し、側線ワイヤ2の撚り口として、巻き付け点を固定する機能を持たせればよいので、溝形状は特に拘らず、図6(a)に示すように、コ字形の溝形状のほか、図6(b)に示す円弧状の溝形状、図6(c)に示すV字形の溝形状でもよい。
【0034】
側線ワイヤ2のサプライ部20は、振り子運動する。そして、振り子運動の周期の一端で、図1の実線で示すように、リール21が、環状コア1の輪の外に位置し、振り子運動の周期の他端で、図1の破線で示すように、環状コア1の輪の中に位置するように、サプライ部20を支持するアーム18を振り子運動させている。
【0035】
側線ワイヤ2のサプライ部20は、図7に示すように、側線ワイヤ2を巻き取ったリール21と、このリール21の外径より少し大きい径で、且つ少なくともリール内幅に相当する円筒形状の外周壁を有するカセット23とからなる。リール21は、側線ワイヤ2の巻き面全体を被うようにカセット23内に回転可能に収容され、所謂カートリッジ化されている。カセット23の外周壁には、巻き出し穴が形成され、この巻き出し穴から側線ワイヤ2が環状コア1の巻き付け点のクランプユニット13に向かって引き出されている。
【0036】
側線ワイヤ2は、予め調整されたコイル径でリール21に巻かれており、サプライ部20のカセット23内にセットされている。リール21に巻き取られた側線ワイヤ2のコイル径は、事前に次式のいずれかを満足するように調整されていることが好ましい。
0.90D≦DSO≦3.3D
又は
0.55D≦DSO≦2.0D
式中、Dは、リールの外径、DSOは、調整された側線ワイヤのコイル径、Dは、環状コアの中心径である。
【0037】
上記側線ワイヤ2のサプライ部20は、前後一対の対向するカセットスタンド22の一方に設置されている。カセットスタンド22は、振り子運動するアーム18の上部に設置されている。そして、カセットスタンド22は、振り子運動した際に、側線ワイヤ2のサプライ部20が環状コア1に当たらない距離をおいて、環状コア1を挟んで垂直に一対設けられている。この一対のカセットスタンド22の先端の対向位置には、それぞれカセット23を抜き差し自在に装着することができるガイドロッド24と、一方のガイドロッド24に装着されたカセット23を他方のガイドロッド24に移し替える受け渡し機構とが設置されている。この受け渡し機構は、図7に示すように、エアーシリンダ25によって出入りするロッド26と、このロッド26の先端に設けられたカセット23の中心部を押す押し出し板27とによって構成され、エアーシリンダ25のロッド26を伸ばし、押し出し板27によってカセット23の中心部を押すことにより、一方のガイドロッド24に装着されたカセット23を他方のガイドロッド24に移し替えることができる。
【0038】
アーム18は、支柱11の下方に設けられた回転円盤31とクランクシャフト32からなる揺動機構30によって振り子運動するように、固定台14に設置されている。
【0039】
側線ワイヤ2の巻き付け開始は、確実性を期し、人的手段により未加硫ゴムシートや粘着テープで側線ワイヤ2の先端を環状コア1に仮止めしておくことが好ましい。未加硫ゴムシートはタイヤ用ゴムと同質のため、後で取り除く必要はない。このように側線ワイヤ2の先端を環状コア1に仮止めしてから、環状コア1を周方向に回転させ、S巻きの場合は、側線ワイヤ2のリール21が環状コア1の面に対して右側に位置し、図1に実線で示すリール21が環状コア1の輪の外に位置する状態から、アーム18を、図1に破線で示すリール21が環状コア1の輪の中に入る位置まで、振り子運動させ、カセットスタンド22の先端に設けてあるエアーシリンダ25により、リール21を環状コア1の面に対して直角に移動させ、他方のカセットスタンド22のガイドロッド24にカセット23を移し替えると、巻き付けが半巻き行われる。その後、図1に破線で示すリール21が環状コア1の輪の中に位置する状態から、図1に実線で示すリール21が環状コア1の輪の外に出る位置まで、アーム18を振り子運動させ、環状コア1の輪の外で、再びエアーシリンダ25によりカセット23とともにリール21を環状コア面に対して直角に移動させると、1巻き付けが完了する。
【0040】
上記のように、環状コア1を定位置で周方向に回転させ、リール21を環状コア1に対して振り子運動させると、リール21の振り子運動の支点19の位置、即ち、アーム18の下端の支点19の水平方向の位置によって、リール21が図1の破線で示す環状コア1の輪の中を横断する位置にある振り子周期の一端と、リール21が図1の実線で示す環状コア1の輪の外を横断する位置にある振り子周期の他端とで、環状コア1の巻き付け点を通る接線(本実施形態では、水平線)Hを基準に、リール21から繰り出されて環状コア1の巻き付け点に至る側線ワイヤ2の方向を見た場合、水平線を基準にして側線ワイヤ2の方向が上下に変動する。この上下変動によって生じる水平線Hと側線ワイヤ2の方向との角度α、αが大き過ぎると、側線ワイヤの配列状態が悪くなる。
角度α、αとは、図1に示すとおり、側線ワイヤの引き出し時における、ワイヤのリール巻き表面が離れる点と巻き付け点とを結ぶ直線と、側線ワイヤの巻き付け点を通る環状コア1の円の接線(水平線)Hとが成す角度をいう。
【0041】
この配列状態に与える影響は、側線ワイヤ2がリール21に、環状コア1と同方向に、最小で環状コアのコア径の55%程度までのコイル径になるように巻き付けられているため、側線ワイヤ2が、環状コア1の巻き付け点の上方(接線に対して環状コアと逆側)から巻き付けられる場合と、環状コアの巻き付け点の下方(接線に対して環状コアのある側)から巻き付けられる場合とで異なり、上方から巻き付けられる場合の方が、側線ワイヤ2の配列状態に与える影響が大きい。側線ワイヤ2の配列状態に悪影響を及ぼさない角度としては、環状コア1への側線ワイヤ2の巻き付け点を通る環状コア1の円の接線(水平線)Hを基準にして、この水平線Hよりも上側で15度以内、下側で55度以内の範囲であり、この角度範囲で側線ワイヤが環状コアの巻き付け点に巻き付けられるように、リール21の振り子運動の支点、即ち、アーム18の支点19の水平方向の位置が決定される。
【0042】
次に、側線ワイヤ2を巻いたリール21の移動軌跡と、振り子運動するリール21の移動軌跡とを、図示すると、図8のようになる。
即ち、リール21が、環状コア1の外側の図8(a)に示す位置にある状態から、図8(b)に示す環状コア1の輪の中にリール21が位置する状態までリール21を振り子運動させ、この図8(b)に示す位置で、リール21を図8(c)に示す環状コア1の反対面に移し替え、次いで、環状コア1の反対面にリール21がある状態で、図8(c)に示す位置から図8(d)に示す環状コア1の輪の外にリール21が位置する状態まで、リール21を振り子運動させ、リール21を環状コア1の反対面から元の面の始点位置(図8の(a)の位置)に戻すというサイクルを繰り返す。このように、この発明では、図8の(a)→(b)→(c)→(d)→(a)のように、リール21を振り子移動させ、図8の(b)→(c)、(d)→(a)のように、環状コア1のコア面に対してリール21を直角移動させることにより、側線ワイヤ2を環状コア1の周囲に螺旋状に巻き付けている。
【0043】
このリール21が環状コア1を直角に横断する際の移動量は、環状コア1をくぐり抜けるだけの最小限でよく、環状コア1の面に対する巻き付け振れ角βが、29度を超えないようにすることが好ましい。29度を超えると、撚り角との差が大きくなり、側線ワイヤ2の整列性、配列性に悪影響を及ぼす。
【0044】
また、リール21に巻かれた側線ワイヤ2は、その巻かれた状態のコイル径でくせ付けされているが、巻き付けられる側線ワイヤ2の湾曲方向が巻き付け点における環状コア1の湾曲方向と逆方向である場合、巻き付けた側線ワイヤ2が環状コア1の湾曲方向に反発して環状コアの真円度が崩れていびつになるため、巻き乱れが生じやすくなってしまう。そのため、本実施形態では、図1に示すように、リール21から引き出される側線ワイヤ2の湾曲方向を、巻き付け点における環状コア1の湾曲方向に沿った方向としており、これにより側線ワイヤ2のくせ付けされた湾曲形状が環状コア1の湾曲方向に従うように巻き付けられるため、側線ワイヤ2の巻き乱れを生じにくくしている。
【0045】
なお、上記の実施の形態は、環状コア1に側線ワイヤ2をS方向に巻き付ける内容であるが、更に2層、3層と積層することも可能であり、2層積層でZ方向に巻きつける場合はリール21の横断方向を逆方向、図8の(d)→(c)→(b)→(a)→(d)にするだけで行える。以後3層、4層実施への切り替えも1層及び2層のときと同様である。
【0046】
また、上記の実施の形態では、環状コア1に対する側線ワイヤ2の巻き付け点を、環状コア1の最上部に設定したが、巻き付け点は環状コア1の如何なる位置であっても良い。巻き付け点の位置に関わらず、リール21から引き出される側線ワイヤ2と、環状コア1への側線ワイヤ2の巻き付け点を通る環状コア1の円の接線とが成す角度が、この接線に対して環状コア1と逆側で15度以内、環状コア側で55度以内になるように、リール21の振り子運動の支点位置を設定すれば良い。
【0047】
上記実施形態の装置を使用して、種々の条件で実際に1層積層及び2層積層ビードコードを作製して、製品の蛇行性及び成形性の評価を行った。両特性に最も影響を与えるのは環状コア面に対する巻き付け振れ角βと、巻き付け点における環状コアの円の接線(図1の形態では水平線H)と側線ワイヤとが成す角度であり、次に側線ワイヤの張力及び側線ワイヤの予め調整されるコイル径であることが解った。表1にその結果を示す。
【0048】
なお、表1の評価項目の蛇行性及び成形性は次の方法によって評価を行った。
(1)蛇行性
コードを定盤等の平面上に置き、コードが定盤から浮いている箇所の最大隙間をスケールで測定して次のように評価した。試料数nは20本である。
◎:隙間0.5mm以下が11本以上あり、他は全て隙間が1.0mm以下である。
○:隙間0.5mm以下が11本未満であり、隙間1.0mm以下が11本以上ある。
△:隙間1.0mm以下が11本未満であり、隙間1.5mm以下が11本以上ある。
×:隙間1.5mm以下が11本未満である。
(2)成形性
環状コアまたは一層巻き中間線表面への側線ワイヤの配列性を目視で評価した。試料数nは20本である。
◎:20本とも配列の乱れがない。
○:配列の乱れのないものが18本以上ある。
△:配列の乱れのないものが10本以上且つ、18本未満である。
×:配列の乱れのないものが10本未満である。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】リールの振り子運動の周期の一端でリールが環状コアの輪の外に位置する状態を実線で示し、リールの振り子運動の周期の他端でリールが環状コアの輪の中に位置する状態を破線で示した、この発明に係る環状同芯撚りビードコードの製造装置の一例を示す正面図である。
【図2】図1の斜視図である。
【図3】図1の右側面図である。
【図4】図1の左側面図である。
【図5】図1の平面図である。
【図6】(a)、(b)、(c)は、それぞれドライビングユニットに設けられたクランプユニットの各例を示す側面図である。
【図7】リール受け渡し機構を示す図1の装置の一部縦断平面図である。
【図8】(a)〜(d)は、この発明の環状同芯撚りビードコードを製造する際のリールの移動状態を平面的に見た概念図である。
【図9】(a)は環状同芯撚りビードコードの全体図、(b)は環状同芯撚りビードコードの部分を示す斜視図である。
【図10】従来の環状同芯撚りビードコードを製造する際のリールの移動状態を正面側から見た概念図である。
【図11】従来の環状同芯撚りビードコードを製造する際のリールの移動状態を平面側から見た概念図である。
【図12】環状コアを水平移動させる従来の環状同芯撚りビードコードの製造装置を示す概念図である。
【図13】環状コアを振り子運動させる従来の環状同芯撚りビードコードの製造装置を示す概念図である。
【図14】図13の装置の振り子運動の状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0051】
1 環状コア
2 側線ワイヤ
3 リール
4 クランプユニット
5 ドライビングユニット
10 ドライビングユニット
11 支柱
12a、12b ピンチローラ
13 クランプユニット
13a、13b ローラ
14 固定台
15 アーム
15a、15b 案内ローラ
18 アーム
19 支点
20 サプライ部
21 リール
22 カセットスタンド
23 カセット
24 ガイドロッド
25 エアーシリンダ
26 ロッド
27 押し出し板
30 揺動機構
31 回転円盤
32 クランクシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状コアを周方向に回転させながら、該環状コアの輪の中と外で、側線ワイヤを巻いたリールを環状コア面に対して横断往復させて巻回移動を繰り返し、リールから引き出される側線ワイヤを、環状コア面に対する側線ワイヤの巻き付け振れ角βが、29度を超えないようにリールを横断移動させることにより、環状コアの周囲に螺旋状に巻き続けてシース層を一層又は複数層形成する環状同芯撚りビードコードの製造方法において、環状コア面に対するリールの面内移動が振り子運動であり、振り子周期の一端で、前記リールが環状コアの輪の中を横断する位置に、振り子周期の他端で、前記リールが環状コアの輪の外を横断する位置に移動させ、前記リールを、環状コアの輪の中と外で、環状コア面に対して横断移動を繰り返すことにより、リールから引き出される側線ワイヤを環状コアの周囲に螺旋状に巻き続ける際に、リールから引き出される側線ワイヤと、環状コアへの側線ワイヤの巻き付け点を通る環状コアの円の接線とが成す角度が、この接線に対して環状コアと逆側で15度以内、環状コア側で55度以内になるように、リールの振り子運動の支点位置を設定したことを特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項2】
側線ワイヤの巻始め端末を未加硫又は半加硫ゴムシートで仮止めして、リールから引き出される側線ワイヤを、環状コアの周囲に螺旋状に巻き続けることを特徴とする請求項1に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項3】
前記リールに巻き取られた側線ワイヤのコイル径が、事前に次式のいずれかを満足するように調整されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法。
0.90D≦DSO≦3.3D
又は
0.55D≦DSO≦2.0D
式中、Dは、リールの外径、DSOは、調整された側線ワイヤのコイル径、Dは、環状コアの中心径である。
【請求項4】
前記リールから引き出される前記側線ワイヤの湾曲方向を、前記巻き付け点における前記環状コアの湾曲方向に沿った方向とすることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項5】
環状コアを周方向に回転させるドライビングユニットと、環状コアの巻き付け部に側線ワイヤを供給するリールと、このリールを環状コアの面に沿って振り子運動させ、リールの振り子周期の一端で、前記リールが環状コアの輪の中を横断する位置に、振り子周期の他端で、前記リールが環状コアの輪の外を横断する位置に移動させる振り子機構と、環状コアの周方向の回転を妨げない距離をおいて環状コアの面を挟んで対向するリール受け渡し機構とを備え、前記リールを、環状コアの輪の中と外で、環状コア面に対して横断移動を繰り返すことにより、リールから引き出される側線ワイヤを環状コアの周囲に螺旋状に巻き続け、リールから引き出される側線ワイヤと、環状コアへの側線ワイヤの巻き付け点を通る環状コアの円の接線とが成す角度が、この接線に対して環状コアと逆側で15度以内、環状コア側で55度以内になるように、リールの振り子運動の支点位置を設定していることを特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造装置。
【請求項6】
前記ドライビングユニットに、環状コアを回転させる2つのピンチローラと、この2つのピンチローラの側線ワイヤ供給側に、環状コアをルーズに案内するクランプユニットとを設け、このクランプユニットを、側線ワイヤを環状コアに巻き付ける際の巻き付け点にした請求項5に記載の環状同芯撚りビードコードの製造装置。
【請求項7】
対向する2つのリール受け渡し機構が、環状コア面に対してリールがくぐれる最小限の距離をおいて設けられている請求項5又は6に記載の環状同芯撚りビードコードの製造装置。
【請求項8】
側線ワイヤを巻いたリールを、リール外径より少し大きい径で、且つリール内幅に相当する円筒形の外周壁を有するカセット内に回転可能に収容し、カセットの外周壁に設けた引き出し孔から側線ワイヤを引き出すようにした請求項5〜7のいずれかの項に記載の環状同芯撚りビードコードの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−168612(P2008−168612A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116046(P2007−116046)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【特許番号】特許第4058703号(P4058703)
【特許公報発行日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】