説明

瓦等の粘土形成物の乾燥方法とその乾燥装置

【課題】 従来の瓦等のセラミック製品は、熱風発生炉と窯の余熱による粘土形成物の乾燥と焼成の処理工程を経て生産されるために、生産能率が低く、量産にも適当ではない。
【解決手段】瓦等のような塊状または厚物状のセラミック製品を生産するための粘形成形物100を乾燥させる乾燥装置において、粘土形成物100にマイクロ波電力を照射して乾燥させる乾燥室10と、乾燥室10内に空気を導入する吸収口16及び乾燥室10外に空気を導出する排出口18とを設け、乾燥室10内の空気を動かしながらマイクロ波電力を粘土形成物100に照射して乾燥させ、乾燥時間を飛躍的に短縮させる構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根瓦(鬼瓦、桟瓦、役瓦など)、碍子、土管などのような塊状或いは厚物状のセラミック製品の生産に必要な粘土形成物の乾燥方法と乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
屋根瓦などのセラミック製品は、各種成分を混合した原土に水を加えて土練した粘土を所定形状に形成し、さらに、その粘土形成品を熱風発生炉と窯の余熱を利用して乾燥させた後、焼成工程などを経て製造される。
また、このような製造過程では、含水率20〜25%程度の粘土を所定形状に形成し、乾燥工程において含水率5%程度になるまで乾燥させた後に焼成工程に入ることが一般的である。
このことから、屋根瓦を生産する場合には、乾燥工程に2.5日程を要し、焼成工程に3日程の処理時間が必要であった。
【0003】
一方、セラミック製品の生産には、乾燥時間を短縮するために、マイクロ波加熱を利用することが既に知られている。
しかし、上記したところの屋根瓦等のセラミック製品は、塊状または厚物状の物品となるために、その粘土形成物に一定のマイクロ波電力を照射して乾燥すると、加熱された水の急激な膨張や気化による爆発的膨張により、粘土形成物がクラックしたり粉々に割れたりする。
また、水の急激な膨張が生じなくとも、粘土形成物の内部と外部の温度差が大きく作用し、クラックや変形が生じるようになる。
したがって、マイクロ波加熱による乾燥は、自動車のハニカム製品や食器皿などのように、薄い構成部分からなる粘土形成物に限られて行われている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−345541号公報
【特許文献2】特開2003−106773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の瓦等のセラミック製品は、粘土形成物の乾燥工程と焼成工程を経て生産される。
乾燥工程は熱風発生炉と窯の余熱を利用する方法であるので、生産能率が低く、量産性にも適当ではなかった。
そこで、本発明では、マイクロ波乾燥を積極的に取り入れることで、粘土形成物の乾燥時間を飛躍的に短縮させ、瓦等のセラミック製品の生産能率と量産性とを高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するため、本発明では、第1の発明として、瓦等のような塊状または厚物状のセラミック製品を生産するための粘土形成物を乾燥させる乾燥方法において、乾燥室内で粘土形成物にマイクロ波電力を照射して乾燥させる乾燥工程と、乾燥室外から乾燥室内に空気を導入すると共に、乾燥室内から乾燥室外に空気を導出して乾燥室内の空気を動かす工程とを含むことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥方法を提案する。
【0007】
第2の発明としては、瓦等のような塊状または厚物状のセラミック製品を生産するための粘土形成物を乾燥させる乾燥装置において、粘土形成物にマイクロ波電力を照射して乾燥させる乾燥室と、乾燥室外から乾燥室内に空気を導入すると共に、乾燥室内から乾燥室外に空気を導出して乾燥室内の空気を動かす空気流動手段とを備えて構成したことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置を提案する。
【0008】
第3の発明としては、第2の発明の乾燥装置において、乾燥開始から所定時間の間は小さいマイクロ波電力を照射し、所定時間の経過後は大きいマイクロ波電力を照射して乾燥させるマイクロ波電力の制御手段を備えたことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置を提案する。
【0009】
第4の発明としては、第2の発明の乾燥装置において、乾燥初期の段階では小さいマイクロ波電力を照射し、その後は段階的又は連続的に大きくしたマイクロ波電力を照射して乾燥させるマイクロ波電力の制御手段を備えたことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置を提案する。
【0010】
第5の発明としては、第2の発明〜第4の発明のいずれかの乾燥装置において、乾燥室内の一部の空気を循環させる空気循環手段を備えたことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置を提案する。
【発明の効果】
【0011】
第1、第2の発明は、粘土形成物にマイクロ波電力を照射して乾燥させる他に、乾燥室内に空気を導入し、また、乾燥室の空気を導出して粘土形成物から蒸発する水蒸気を乾燥室外に放出しながら乾燥させるので、乾燥時間を大きく短縮することができる。
なお、この発明では、粘土形成物にクラックや変形などが発生しない程度のマイクロ波電力に設定することが好ましい。
【0012】
第3、4の発明のように、乾燥初期段階ではマイクロ波電力を弱く、その後はマイクロ波電力を強くすれば乾燥時間をさらに短縮することができる。
乾燥が進んだ後はマイクロ波電力を強くしてもクラックや変形などが発生しないから、第3の発明の乾燥装置は一層効果を高めることができる。
【0013】
第5の発明では、乾燥室内の一部の空気を循環させるので、乾燥室内の空気温度の変化が小さくなる。
したがって、粘土形成物の表面状態に与えるマイクロ波加熱の影響を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明の一実施形態について図面に沿って説明する。
図1は、第1実施形態として示した乾燥装置の簡略構成図を示し、10は粘土形成物100をマイクロ波乾燥させる乾燥室(アプリケータ)で、11は粘土形成物100を乾燥室10に収納し、また、取り出す蓋である。
12は乾燥室10内にマイクロ波電力を照射するアンテナで、これはマイクロ波発振器13に連結されている。
【0015】
14は乾燥室10内に設けたターンテーブルで、このターンテーブル14をモーター15で回転させるようにしてある。
粘土形成物100は、ターンテーブル14に乗せて回転させながらマイクロ波電力を照射する。
【0016】
16は乾燥室10内に空気を取り入れる吸収口で、この吸収口16としてパンチングメタルからなるマイクロ波遮蔽板17を設けてある。
このマイクロ波遮蔽板17はマイクロ波電力を遮断し空気を通すものである。
18は乾燥室10内から外に空気を出す排出口で、この排出口18にも上記したマイクロ波遮蔽板17と同様のマイクロ波遮蔽板19が設けてある。
【0017】
本実施形態では、上記の乾燥装置を使って平瓦の粘土形成物100について乾燥実験を行った。
この実験では、厚さ25mm、重量約2kg、含水率20%の平瓦を一個ターンテーブル14に載せてマイクロ波電力を照射した。
この実験では、実験条件をいろいろ変えて4回の実験を行い、下記の表1〜表4に示す実験結果を得た。
なお、平瓦の粘土形成物100としては、複数の原土を混合し、水を加えて土練した粘土を所定形状に成形した粘土形成物としてある。
【0018】
乾燥実験1
【表1】

【0019】
この乾燥実験1では、最初の4時間は通風を行なわず、129Wのマイクロ波電力を照射し、粘土形成物100から出る水の放出量を求め、次の3時間は通風を行い、250Wのマイクロ波電力を照射し、粘土形成物100から出る水の放出量を求めた。
【0020】
図2は、この乾燥実験によって得られた乾燥特性図で、横軸にマイクロ波電力の照射エネルギー、縦軸に粘土形成物100から放出された水の累積放出量として描いてある。
なお、この特性図において、実線が実際の実験結果で、点線が最初の4時間についても通風していたと仮定したときの推定値を示す。
【0021】
表1に示すように、通風なしの条件で約1.9Mジュールのマイクロ波電力を照射して35gの水が放出されたが、通風があれば、約3分の1の0.6Mジュールで35gの水の放出ができることが、図2のグラフの傾向から容易に推定できる。
すなわち、乾燥室10内を通風すれば、水の放出効果が3倍になることが推定でき、このことから乾燥には乾燥室10の通風が重要であることが確認された。
【0022】
この乾燥実験1では、粘土形成物100にクラックや変形が生じなく、また、爆発することもなく、約150gの水が放出できた。
この結果から、更にマイクロ波電力の照射を続ければ、目標とする含水率5%まで乾燥が進む見通しを得ることができた。
【0023】
乾燥実験2
【表2】

【0024】
この乾燥実験では、乾燥室10を通風として、一定のマイクロ波電力250Wを10時間照射した。
この実験においてもクラックも爆発も生じることなく、259gの水が放出できた。
照射したマイクロ波エネルグーは9Mジュールである。
【0025】
乾燥実験3
【表3】

【0026】
この乾燥実験では、乾燥室10を通風として500Wのマイクロ波電力を2時間照射し、水の放出量が219gになったことを確認した。
その後、直ちに1kWのマイクロ波電力を15分間照射したところ、さらに49gの水の放出量を得た。
いずれの場合にもクラックの発生も爆発も生じなかった。
図3は、この乾燥時間において、照射したマイクロ波エネルギーと粘土形成物100からの水の放出量との関係を示した乾燥特性図である。
【0027】
図3の乾燥特性図から分かるように、照射エネルギー約4.5Mジュールで、水の放出量が268gとなり、乾燥実験2の9Mジュールで259gの水の放出量に対し半分のエネルギーでほぼ同量の水の放出ができた。
マイクロ波電力の総照射時間も2時間15分であり、短時間乾燥を実現することができた。
【0028】
すなわち、乾燥が進めば、大きなマイクロ波電力を照射することができ、乾燥時間も短縮できることが分かった。
また、このことは乾燥の進行と共に、照射するマイクロ波電力を段階的に増加すれば、さらに短時間で乾燥できることを示唆した。
なお、乾燥の進行を確認する方法は、瓦の重量変化を確認する方法と、瓦の表面温度を確認する方法の2つがある。
【0029】
乾燥実験4
【表4】

【0030】
この乾燥実験は、含水率の高い粘土形成物100を試験した。
そして、この実験では乾燥室10の通風を行うと共に、400Wのマイクロ波電力を1時間照射し、続いて、マイクロ波電力を500Wに上昇させて30分間照射した後、粘土形成物100の重量を測定し、水の放出量が114gになっていることを確認した。
【0031】
引き続き、マイクロ波電力を600Wに上昇させて15分間照射した後、粘土形成物100の重量を測定し、水の放出量が32gであることを確認した。
その後、直ちに、マイクロ波電力を1kWに上昇させて10分間照射して水の放出量が33gとなったことを確認した。
【0032】
この乾燥実験においても、粘土形成物100にはクラックが発生しなかったし、爆発も生じなかった。
図4は、この乾燥実験で得られた乾燥特性図であり、上記した乾燥実験3の実験結果の結論を裏付ける結果となった。
【0033】
上記した各乾燥実験の他に、マイクロ波電力とクラックとの関係を調べる実験を行った。
この実験では、含水率が上限に近い22〜25%程度の粘土を使った粘土形成物100を用い、500Wのマイクロ波電力を照射したところ、照射時間20分でクラックが発生することがわかった。
図5はこの実験で求めたマイクロ波電力とクラックの関係を示す特性図である。
この図から分かるように、初期段階で照射するマイクロ波電力が400Wであれば、クラックの発生のない良好な乾燥ができることになる。
また、乾燥実験3との比較で500W前後のマイクロ波電力を照射したときは、粘土形成物100を形成する際の粘土の初期含水率の変動範囲内で乾燥が成功したりクラックが発生したりすることも分った。
【0034】
図6は、第2実施形態として示した乾燥装置の簡略構成図を示す。
本実施形態では、排出口18の筒部にダンパー21を設け、空気の排出量を制御できる構成としたこと、また、吸収口16に連通させた空気の循環機構を設け、乾燥室10内の一部の空気を循環させる構成としたことに特徴があり、その他の構成は図1に示した第1実施形態と同じ構成としてある。
【0035】
本実施形態の循環機構は、吸収口16に連結させた筒状体22を構成し、この筒状体22の筒口23の近くに設けたダンパー24によって空気の取り入れ量を制御するようしてある。
また、筒状体22の筒口23の近くには、乾燥室10内から空気を取り出す取出口25を連結し、筒口23から入る空気と取出口25から出る空気とを混合させ、この混合空気を送風機27で送ると共にヒーター28で加温して吸収口16から乾燥室10内に吹き出させ、乾燥室10内の空気を循環させる。
なお、取出口25には、上記したマイクロ波遮蔽板17、19と同様のマイクロ波遮蔽板26が設けてある。
【0036】
このように構成した本実施形態では、排出口18から出る空気の排出量に関係なく、乾燥室10内の空気を循環させて動かすことができる他、吸収口16から吹き出す空気の温度を効率良く調整することができるから、乾燥室10内の湿度の制御が可能になり、乾燥室10内が水蒸気の飽和状態になることもなく、効率よく乾燥することができる。
また、過乾燥状態を避けることができるので、粘土形成物100の表面状態の劣化やクラックの発生を防ぐことができる。
【0037】
なお、吸収口16から吹き出させる空気を加温する目的は、粘土形成物100の表面で蒸発する水が必要とする潜熱(気化熱)を、エネルギーコストの安い、例えば、石油や電気を利用して供給するためである。
したがって、マイクロ波エネルギーを利用して加温することもできる。
【0038】
以上、好ましい実施形態について説明したが、第2実施形態のヒーター28は必ずしも必要ではなく、また、ターンテーブル14に関連する構造物に重量センサーを取り付けたり、粘土形成物100の表面温度を測定する温度センサーなどを設ければ、それらセンサーの検出信号に基づいてマイクロ波電力を段階的に、或いは、連続的に制御する乾燥装置として構成とすることができる。
なお、上記のセンサー信号に基づいて上記したダンパーの開閉を制御することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
瓦、碍子、土管などを生産するための粘土形成物の乾燥方法または乾燥装置として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1実施形態として示した乾燥装置の簡略構成図である。
【図2】乾燥実験1で得た乾燥特性図である。
【図3】乾燥実験3で得た乾燥特性図である。
【図4】乾燥実験4で得た乾燥特性図である。
【図5】マイクロ波電力とクラックとの関係を示す特性図である。
【図6】第2実施形態として示した乾燥装置の簡略構成図である。
【符号の説明】
【0041】
10 乾燥室
13 マイクロ波発振器
16 吸収口
18 排出口
22 筒状体
25 取出口
27 送風機
28 ヒーター
100 粘土形成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瓦等のような塊状または厚物状のセラミック製品を生産するための粘土形成物を乾燥させる乾燥方法において、
乾燥室内で粘土形成物にマイクロ波電力を照射して乾燥させる乾燥工程と、
乾燥室外から乾燥室内に空気を導入すると共に、乾燥室内から乾燥室外に空気を導出して乾燥室内の空気を動かす工程と、
を含むことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥方法。
【請求項2】
瓦等のような塊状または厚物状のセラミック製品を生産するための粘土形成物を乾燥させる乾燥装置において、
粘土形成物にマイクロ波電力を照射して乾燥させる乾燥室と、
乾燥室外から乾燥室内に空気を導入すると共に、乾燥室内から乾燥室外に空気を導出して乾燥室内の空気を動かす空気流動手段と、
を備えて構成したことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置。
【請求項3】
請求項2に記載した乾燥装置において、
乾燥開始から所定時間の間は小さいマイクロ波電力を照射し、所定時間の経過後は大きいマイクロ波電力を照射して乾燥させるマイクロ波電力の制御手段を備えたことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置。
【請求項4】
請求項2に記載した乾燥装置において、
乾燥初期の段階では小さいマイクロ波電力を照射し、その後は段階的又は連続的に大きくしたマイクロ波電力を照射して乾燥させるマイクロ波電力の制御手段を備えたことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載した乾燥装置において、
乾燥室内の一部の空気を循環させる空気循環手段を備えたことを特徴とする瓦等の粘土形成物の乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126746(P2009−126746A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304138(P2007−304138)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000114031)ミクロ電子株式会社 (37)
【出願人】(304013331)有限会社ミネルバライトラボ (4)
【出願人】(507388937)株式会社 CIVIL PLANNING (1)
【出願人】(507388982)
【Fターム(参考)】