生体サンプル解析方法、生体サンプル解析装置及び生体サンプル解析プログラム
【課題】診断までの時間を短縮させ得る生体サンプル解析方法、サンプル解析装置及び生体サンプル解析プログラムを提案する。
【解決手段】スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得し、そのスペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出し、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する。一方、スライドに配される生体サンプルの像を取得し、この像と、当該画像とを見比べ可能な状態で表示させる。
【解決手段】スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得し、そのスペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出し、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する。一方、スライドに配される生体サンプルの像を取得し、この像と、当該画像とを見比べ可能な状態で表示させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おおよそ0.1×1012[Hz]〜100×1012[Hz]帯域の電磁波(テラヘルツ波)を用いる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テラヘルツ波を発生又は検出するものとして、テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS:Terahertz Time-Domain Spectoroscopy)がある。このテラヘルツ時間領域分光法は、工業、医療、バイオ、農業又はセキュリティなどの様々な技術分野において注目されている。
【0003】
このテラヘルツ時間領域分光法では、超短レーザー光源から100フェトム秒程度のパルス光がポンプ光及びプローブ光に分割され、ポンプ光はテラヘルツ波発生素子に集光される。これによりテラヘルツ波発生素子ではサブピコ秒程度の電流が生成され、当該時間微分に比例したテラヘルツ波が発生する。
【0004】
このテラヘルツ波はサンプルを経由してテラヘルツ波検出素子に与えられ、このときにテラヘルツ波検出素子に対してプローブ光が照射されるとキャリアが生成され、テラヘルツ波の電場によって加速されて電気信号となる。
【0005】
プローブ光がテラヘルツ波検出素子に到達するタイミングをずらすことによって、テラヘルツ波の振幅電場の時間波形を測定し、該時間波形をフーリエ変換することによってテラヘルツ波のスペクトルを得ることができる。
【0006】
ところで、空港の税関などの荷物、あるいは人間の衣服や体内にある禁止薬物等を検査するため、テラヘルツ時間領域分光法を用いたイメージングが検討されている。また、サンプルが非破壊の状態で検査可能となるため、病理診への応用が検討されている。
【0007】
一般に、病理診では、生体サンプルにおける細胞の形態や色調などの形態学的な観点から、該生体サンプルに対する良悪が判定される。この生体サンプルの作製は、一般に、専門技術者の経験や技量に応じて差異が生じるものであり、この差異によって、生体サンプルの判定が困難となるという問題がある。
【0008】
この問題を解決する1つの手法として、血球サンプル像における細胞種の色差を明瞭化するといった画像処理手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−152868公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この特許文献1では、細胞種の色差が不明瞭であることよる診断者の判定のバラツキが低減されるものの、血球サンプル像における形態学的な一つの要素を強調したに過ぎない。したがって、細胞種の色差が明瞭であっても、その細胞種の同定が困難となる場合あるいは細胞の良悪が判定し難い場合がある。
【0011】
このような場合、一般には、蛍光染色を施した別のサンプルを用いて、分子生物学的な観点から細胞種の同定、悪性腫瘍の有無又は進行度などが2次的に判定される。しかしながらこの場合、別のサンプルの作製期間が必要となるのみならず、最初のサンプルと完全に一致するものではないため、診断までに過大な時間を要することになる。
【0012】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、診断までの時間を短縮させ得る生体サンプル解析方法、生体サンプル解析装置及び生体サンプル解析プログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため本発明は、生体サンプル解析方法であって、スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得ステップと、スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、スペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出ステップと、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成ステップと、像と画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御ステップとを有する。
【0014】
また本発明は、生体サンプル解析装置であって、スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得手段と、スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得手段と、スペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出手段と、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成手段と、像と画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御手段とを有する。
【0015】
また本発明は、生体サンプル解析プログラムであって、コンピュータに対して、スライドに配される生体サンプルの像を取得すること、スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得すること、スペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出すること、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成すること、像と画像とを見比べ可能な状態で表示させることを実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、生体サンプルの可視像の他に屈折率という物性科学的な観点の情報によって生体サンプルが分類され、しかも、可視像の位置関係と同じ位置関係のもとで分類される。このため、別のプレパラートの作製を要することなく、既知である形態学的な側面と、物性科学的な側面からの生体サンプルの状態を同時に把握させることができる。
かくして、診断までの時間を短縮させ得る生体サンプル解析方法、サンプル解析装置及び生体サンプル解析プログラムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】サンプル解析システムの構成を示す概略図である。
【図2】テラヘルツ波のサンプリングの説明に供する概略図である。
【図3】サンプル解析装置の構成を示す概略図である。
【図4】テラヘルツ波形の計測の説明に供する概略図である。
【図5】THz波形の理論上の屈折率を算出する際のモデルを示す概略図である。
【図6】屈折率像を示す写真である。
【図7】実験結果を示す写真及びグラフである。
【図8】染色と屈折率との関係を示すグラフである。
【図9】細胞の種類と屈折率の関係を示すグラフである。
【図10】解析処理手順を示すフローチャートである。
【図11】非晶質膜が形成された場合と非形成の場合との屈折率像を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための一実施の形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
<1.一実施の形態>
[1−1.サンプル解析システムの構成]
[1−2.テラヘルツ波分光装置の構成]
[1−3.サンプル撮像装置の構成]
[1−4.サンプル解析装置の構成]
[1−5.解析処理の内容]
[1−6.解析処理手順]
[1−7.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0019】
<1.一実施の形態>
[1−1.サンプル解析システムの構成]
図1において、サンプル解析システム1の構成を示す。このサンプル解析システム1は、テラヘルツ波分光装置10と、サンプル撮像装置20と、サンプル解析装置30とによって構成される。
【0020】
[1−2.テラヘルツ波分光装置の構成]
テラヘルツ波分光装置10は、超短レーザー11、ビームスプリッタ12、光学遅延部13、テラヘルツ波発生素子14、プレパラートステージ15及びテラヘルツ波検出素子16を含む構成とされる。
【0021】
超短レーザー11は、例えば、100[fs]程度のパルス幅、数十[MHz]程度の繰り返し周期、780[nm]程度の中心波長をもつパルス光を出射する。具体的な超短レーザー11として、例えば、フェトム秒パルスレーザーチタンやサファイアレーザーなどがある。
【0022】
ビームスプリッタ12は、超短レーザー11から出射されるパルス光をポンプ光と、プローブ光とに分離する。
【0023】
光学遅延部13は、ビームスプリッタ12から到来するプローブ光を反射鏡ROPに導く鏡13Aを有する。光学遅延部13は、この鏡13Aを、ビームスプリッタ12,反射鏡ROPに対して近づく方向又は離れる方向に、サンプル解析装置30によって指定される速度で移動させる。この結果、テラヘルツ波検出素子16に対するプローブ光の光路長が可変され、到達タイミングが遅延される。
【0024】
テラヘルツ波発生素子14は、ビームスプリッタ12を介して到来するポンプ光により励起されるキャリア(電子と正孔)に基づいてテラヘルツ波を発生する。具体的なテラヘルツ波発生素子14として、例えば、光伝導アンテナやZnTe等の非線形光学結晶などがある。
【0025】
ちなみに光伝導アンテナは、半絶縁性ガリウム砒素等でなる半導体基板と、半導体基板の一方の面に配される電極と、その電極に形成されるギャップ間に電圧を印加する印加部とを構成要素とするものである。この光伝導アンテナでは、ポンプ光の照射により半導体基板に生成されるキャリアがギャップ間電圧で加速され、このときギャップ間に電流が流れることでテラヘルツ波が発生する。
【0026】
テラヘルツ波発生素子14から放射されるテラヘルツ波は、プレパラートステージ15においてプレパラートPRTが配される面(以下、これをプレパラート配置面とも呼ぶ)15Aの裏面15B側に配される集光光学系OP1によって、該裏面15Bに対して鋭角な入射角となる状態で集められる。
【0027】
集光光学系OP1には例えば半球レンズや、半球レンズと放物面鏡の組み合わせなどが用いられる。半球レンズが用いられた場合、その非球面はテラヘルツ波発生素子14の構成要素である半導体基板の一面(パルス光が集光される面とは逆側の面)に対向される。
【0028】
プレパラートステージ15は、プレパラート配置面の方向(x軸方向及びy軸方向)と、該プレパラート配置面の法線方向(z軸方向)に移動可能とされる。プレパラートステージ15は、サンプル解析装置30の制御にしたがって、テラヘルツ波の焦点がプレパラートPRTの特定部位に位置される。
【0029】
プレパラートPRTは、結合組織、上皮組織又はそれらの双方の組織などの組織切片TRを、ガラス材でなるスライドSDに固定したものであり、該組織切片には必要に応じて染色が施される。この染色には、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色、ギムザ染色又はパパニコロウ染色等に代表される一般染色と呼ばれる染色のみならず、FISH(Fluorescence In-Situ Hybridization)や酵素抗体法等の特殊染色と呼ばれる染色が含まれる。
【0030】
プレパラートPRTにおいて反射するテラヘルツ波は、集光光学系OP2によって平行な光線の束としてテラヘルツ波検出素子16に導かれる。集光光学系OP2は、集光光学系OP1と同じ構成であっても異なる構成であってもよい。
【0031】
テラヘルツ波検出素子16は、図2に示すように、光学遅延部13によって可変されるプローブ光の到達タイミングをサンプリング点として、テラヘルツ波の振動電場の強度を検出する。
【0032】
具体的なテラヘルツ波検出素子16として、テラヘルツ波発生素子14と同様に、光伝導アンテナやZnTe等の非線形光学結晶等がある。ただし、テラヘルツ波検出素子16として採用される光伝導アンテナの場合、上述の印加部が電流計に変更される。
【0033】
なお、このテラヘルツ波分光装置10では信号対雑音比(S/N比)を向上させるため、ポンプ光に対して光チョッパーで変調を施し、参照信号をロックインアンプに入力することで同期検波が行われる。
【0034】
[1−3.サンプル撮像装置の構成]
サンプル撮像装置20は、光源21、偏光ビームスプリッタ22、1/4波長板23、撮像レンズ24及び撮像素子25を含む構成とされる。
【0035】
光源21は、無染色の組織切片TR又は一般染色が施された組織切片TRを照明する光(以下、これを明視野照明光とも呼ぶ)と、特殊染色が施された組織切片TRを照明する光(以下、これを暗視野照明光とも呼ぶ)とを切り換えて照射可能なものとされる。
【0036】
ただし、明視野照明光又は暗視野照射光のいずれか一方だけが照射可能なものであってもよい。なお、明視野照明光は一般に可視光とされ、暗視野照明光は特殊染色で用いられる蛍光マーカを励起する波長を含む光とされる。また暗視野照明光では蛍光マーカに対する背景部分はカットアウトされる。
【0037】
偏光ビームスプリッタ22は照明光源21の後方に配され、光源21から入射する光を透過し、偏光ビームスプリッタ22における透過側の後方に配される1/4波長板23から入射する光を反射する。
【0038】
1/4波長板23は、偏光ビームスプリッタ22から入射する直線偏光の光を円偏光とし、1/4波長板23の後方に配される撮影レンズ24から入射する円偏光(楕円偏光も含む)を直線偏光とする。
【0039】
撮像レンズ24は、1/4波長板23から入射する光をプレパラートステージ15におけるプレパラート配置面に集め、該プレパラート配置面に配されるプレパラートPRTで反射する光を平行な光線の束として1/4波長板23に導く。なお、この撮像レンズ24は、倍率の異なる複数の撮像レンズのなかからレンズ切換機構又は手動により選択される。
【0040】
撮像素子25は、偏光ビームスプリッタ22における反射側の後方に、撮像レンズ24のレンズ面に結像される像の投影先として予定される面を撮像面として配される。この撮像面には、撮像レンズ24によって集光される集光部分の拡大像が投影される。撮像素子25は、撮像面に投影される像をデータ(以下、これを撮像データとも呼ぶ)として生成する。
【0041】
[1−4.サンプル解析装置の構成]
サンプル解析装置30は、図3に示すように、制御を司るCPU(Central Processing Unit)31に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0042】
具体的にはROM(Read Only Memory)32、CPU31のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)33、ユーザの操作に応じた命令を入力する操作入力部34、インターフェイス部35、表示部36及び記憶部37がバス38を介して接続される。
【0043】
ROM32には、各種の処理を実行するためのプログラムが格納される。インターフェイス部35は、超短レーザー11と、光学遅延部13と、プレパラートステージ15と、テラヘルツ検出素子16と、撮像素子25とにそれぞれ伝送路を介して接続される。
【0044】
表示部36には、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ又はプラズマディスプレイ等が適用される。また記憶部37には、HD(Hard Disk)に代表される磁気ディスクもしくは半導体メモリ又は光ディスク等が適用される。USB(Universal Serial Bus)メモリやCF(Compact Flash)メモリ等のように可搬型メモリが適用されてもよい。
【0045】
CPU31は、ROM32に格納される複数のプログラムのうち、操作入力部34から与えられる命令に対応するプログラムをRAM33に展開し、該展開したプログラムにしたがって、表示部36及び記憶部37を適宜制御する。
【0046】
またCPU31は、展開したプログラムにしたがって、インターフェイス部35を介して超短レーザー11、光学遅延部13、プレパラートステージ15、テラヘルツ検出素子16又は撮像素子25を適宜制御するようになっている。
【0047】
[1−5.解析処理の内容]
CPU31は、解析処理の実行命令を操作入力部34から受けた場合、当該実行命令に対応付けられるプログラムをRAM33に展開する。
【0048】
この場合、CPU31は、プログラムにしたがって、図3に示したように、識別子割当部41、界面走査部42、時間波形取得部43、スペクトル波形取得部44、屈折率算出部45、屈折率像生成部46、サンプル像生成部47、提示部48及び判定部49として機能する。
【0049】
識別子割当部41は、プレパラートステージ15のプレパラート配置面に配されるプレパラートPRTに対して、例えば番号などのような固有の識別子を割り当てる。また識別子割当部41は、プレパラートPRTにおける組織切片TRに関する個人情報を取得し、この個人情報を、該プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0050】
なお、個人情報は、例えば、組織切片の被採取者(患者)の名もしくは割当番号、性別、年齢、採取日付等といった情報である。また個人情報の取得手法には、例えば、表示部36に入力画面を表示し、操作入力部34から入力させて取得する手法や、プレパラートPRTに貼り付けられるバーコードから取得する手法などが適用可能である。
【0051】
界面走査部42は、テラヘルツ波の媒質とスライドSDとの界面(以下、これを基準界面とも呼ぶ)を走査する。具体的にはプレパラートステージ15が、テラヘルツ波を計測すべき領域(以下、これを計測点とも呼ぶ)を単位として、初期位置からプレパラート配置面の方向(x軸方向又はy軸方向)に所定の順序で走査される。この結果、基準界面に計測点が配分される。
【0052】
時間波形取得部43は、界面走査部42によって計測対象とされる計測点に走査されるたびに、テラヘルツ波の振動電場の強度における時間波形(以下、これをTz波形とも呼ぶ)を、テラヘルツ波検出素子16を用いて計測する。
【0053】
図4に示すように、プレパラートPRTはスライドSDに組織切片TRを配した構造である(図4(A))。このため、基準界面B1で反射するTz波形(以下、これをRf−Tz波形とも呼ぶ)REFと、スライドSDと組織切片TRとの界面B2で反射するTz波形(以下、これをSm−Tz波形とも呼ぶ)SAMとが、十分分離可能な時間差を隔てて計測される(図4(B))。
【0054】
なお、図4(B)では、Rf−Tz波形REFは実線で、Sm−Tz波形SAMは破線でそれぞれ示され、便宜上、Sm−Tz波形SAMはRf−Tz波形REFから上側にシフトさせた状態で示している。また「Cut point」はRf−Tz波形REFとSm−Tz波形SAMとの分割点である。
【0055】
時間波形取得部43は、計測対象とされる計測点のTz波形からRf−Tz波形と、Sm−Tz波形とを抽出する。そして時間波形取得部43は、抽出した各Tz波形と計測点の位置情報とを、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0056】
スペクトル波形取得部44は、計測対象とされる計測点のRf−Tz波形が抽出された場合、そのRf−Tz波形に対してフーリエ変換処理を施し、該Rf−Tz波形における各周波数の位相スペクトルとパワースペクトル(以下、これをRf−スペクトルとも呼ぶ)を取得する。そしてスペクトル波形取得部44は、このRf−スペクトルを、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0057】
一方、スペクトル波形取得部44は、計測対象とされる計測点のSm−Tz波形が抽出された場合、そのSm−Tz波形に対してフーリエ変換処理を施し、該Sm−Tz波形における各周波数の位相スペクトルとパワースペクトル(以下、これをSm−スペクトルとも呼ぶ)を取得する。そしてスペクトル波形取得部44は、このSm−スペクトルを、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0058】
またスペクトル波形取得部44は、計測対象とされる計測点におけるTz波形のRf−スペクトルとSm−スペクトルの双方を取得した場合、これらスペクトルの比(以下、これをスペクトル比とも呼ぶ)を算出する。そしてスペクトル波形取得部44は、このスペクトル比を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0059】
屈折率算出部45は、計測対象とされる計測点におけるTz波形のRf−スペクトルとSm−スペクトルが算出された場合、第1段階として、Rf−スペクトルに応じた、テラヘルツ波検出素子16に導かれるTz波形の理論上のスペクトル(以下、これをモデルスペクトルとも呼ぶ)を算出する。
【0060】
具体的には、周波数を「f」とし、当該周波数での複素振幅を「E(f)」として例えば以下の演算が行われる。すなわち、Rf−スペクトル(図5における「Eexref.detector」)を用いて、プレパラートPRTに入射されるテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Eemitter(f)」)が次式
【0061】
【数1】
【0062】
によって算出される。この(1)式における「θ0」は入射角を意味する。また(1)式における「rS」はS偏光成分の反射率、「rP」はP偏光成分の反射率であり、次式
【0063】
【数2】
【0064】
として定義される。この(2)式における「i」と「t」は反射が起こる界面を挟む層を意味し、「θi」と「θt」は各層での入射角を意味する。また(2)式における「n〜」は、当該層での屈折率の複素部(虚部とも呼ばれる)を意味する。
【0065】
(1)式の算出結果を用いて、プレパラートPRTに入射されるテラヘルツ波の周波数スペクトルにおけるS偏光成分と、P偏光成分(図5における「Eimput(f)」)が、次式
【0066】
【数3】
【0067】
によって算出される。
【0068】
(3)式の算出結果を用いて、第1層の第1界面を透過するテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Ethinputsam(f)」)が、次式
【0069】
【数4】
【0070】
によって算出される。この(4)式における「P()」は次式
【0071】
【数5】
【0072】
として定義される。「n〜」は当該層での屈折率の複素部を意味し、「n」は当該層での屈折率の実部を意味する。また「k」は減衰係数を意味し、「d」は層の厚さを意味し、「c」は真空での光の速度を意味する。これらパラメータは予め設定される。なお、「t」は空気と第1層との界面における透過係数で、(7)式で与えられる。
【0073】
(4)式の算出結果を用いて、第1層の第2界面を反射するテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Ethoutputsam(f)」)が、次式
【0074】
【数6】
【0075】
によって算出される。この(6)式における「r1-2」は、第1界面から第2界面に導かれるS偏光成分の反射率とP偏光成分の反射率である。また「t1-2」は、第1界面から第2界面に導かれるS偏光成分の透過率とP偏光成分の透過率であり、「t2-1」は、第2界面から第1界面に導かれるS偏光成分の透過率とP偏光成分の透過率である。S偏光成分の透過率とP偏光成分の透過率は次式
【0076】
【数7】
【0077】
として定義される。また(6)式における「FP(f,2)」は、周波数f及び第2層(すなわち組織切片TRに相当する層)に対するファブリー・ペロー反射係数を意味し、次式
【0078】
【数8】
【0079】
として定義される。
【0080】
(6)式の算出結果を用いて、第1層の第1界面から出射するテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Ethsam(f)」)が、次式
【0081】
【数9】
【0082】
によって算出される。
【0083】
(9)式の算出結果を用いて、モデルスペクトル(図5における「Ethsam.detector(f)」)が、次式
【0084】
【数10】
【0085】
によって算出される。
【0086】
このように屈折率算出部45は、テラヘルツ波検出素子16に導かれるTz波形のP偏光及びS偏光を考慮し、Rf−スペクトルに応じたモデルスペクトルを算出するようになっている。
【0087】
屈折率算出部45は、モデルスペクトルを算出した場合、第2段階として、モデルスペクトルと、Sm−スペクトルとの比較結果から、計測対象とされる計測点における屈折率(実部、複素部及びそれら双方)を算出する。
【0088】
具体的には、スペクトル波形取得部44が取得したSm−スペクトルを「Eexsam.detector(f)」とし、モデルスペクトルを「Ethsam.detector(f)」とすると、次式
【0089】
【数11】
【0090】
のように、Sm−スペクトルとモデルスペクトルの比の絶対値と、偏角比の二乗値との和が最小となるときの屈折率が周波数ごとに算出される。ちなみに「abs」は絶対値を表し、「arg」は偏角を意味するものである。なお、Sm−スペクトルとモデルスペクトルとの差を最小にすることで周波数ごとの屈折率を算出するための最適化関数Mは、(11)式に限定されるものではない。
【0091】
このように屈折率算出部45は、界面走査部42によって走査される各計測点に対して、試料がもたらす減衰及び位相遅れを周波数ごとに検出して屈折率(実部、複素部及びそれら双方)を算出するようになっている。
【0092】
屈折率像生成部46は、各計測点での周波数ごとの屈折率が屈折率算出部45によって算出された場合、当該屈折率(実部と、複素部と、それら双方)を示す像(以下、これを屈折率像とも呼ぶ)を生成する。
【0093】
具体的には、各計測点での特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均が、設定される複数の段階(階調)によって色で分類され、当該計測点の位置関係で示される。なお、特定周波数又は特定周波数帯域と、階調数と、当該階調に対応付けるべき色と、屈折率像として表現すべき解像度とは操作入力部34を介して設定され、必要に応じて変更可能とされる。
【0094】
屈折率像生成部46は、屈折率像を生成し終えた場合、該屈折率像を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0095】
この屈折率像生成部46には、指定位置を基準として屈折率像を再分類すべき再分類命令が必要に応じて操作入力部34から与えられるなっている。指定位置は、操作入力部34の操作に応じて屈折率像を移動可能なポインタ等によって指定される。
【0096】
屈折率像生成部46は、この再分類命令が与えられた場合、指定位置を基準として他の位置との屈折率の差を示す像(以下、これを屈折率相関像とも呼ぶ)を生成する。
【0097】
具体的には、図6(A)に示すように、指定位置に対応するピクセルの屈折率に対する、該指定位置以外のピクセルに対応する屈折率の自己相関係数の差が、設定される複数の段階(階調)によって色で分類され、当該計測点の位置関係で示される。なお、階調数と、当該階調に対応付けるべき色と、屈折率相関像として表現すべき解像度とは操作入力部34を介して設定され、必要に応じて変更可能とされる。
【0098】
屈折率像生成部46は、屈折率相関像を生成し終えた場合、該屈折率相関像を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0099】
またこの屈折率像生成部46には、特定周波数帯域の屈折率として入力される値を基準として屈折率像を再分類すべき再分類命令が必要に応じて操作入力部34から与えられるなっている。
【0100】
屈折率像生成部46は、この再分類命令が与えられた場合、特定周波数帯域の屈折率の類似性に基づいたクラスター分析を実行する。そして屈折率像生成部46は、図6(B)に示すような屈折率像を生成する。具体的には例えば、指定される値に対する各計測点での屈折率の差が、設定される複数の段階(階調)によって色で分類し各計測点の位置関係で示される。屈折率像生成部46は、この屈折率相関像を生成し終えた場合にも、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0101】
ちなみに図6では、10[μm]の厚みでなる組織切片が用いられ、0.8−1.2[THz]が対象とされている。
【0102】
サンプル像生成部47は、界面走査部42によって走査される計測点ごとに撮像素子25を制御し、該撮像素子25の撮像面に投影されるプレパラート部位の拡大像(以下、これをPT部位拡大像とも呼ぶ)を取得する。
【0103】
サンプル像生成部47は、各計測点に対応するPT部位拡大像を取得した場合、これらPT部位拡大像を連結し、その連結像から組織切片(以下、これを組織サンプル像とも呼ぶ)を抽出する。そしてサンプル像生成部47は、組織サンプル像を複数の解像度ごとに生成し、これら各解像度の組織サンプル像を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0104】
なお、サンプル像生成部47は、組織サンプル像を抽出した場合、その組織サンプル像から選択用の縮小像(以下、これをサムネイル像とも呼ぶ)を生成し、これをプレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶するようにもなっている。このサムネイル像は、複数の識別子に関連付けられる屈折率像又は組織サンプル像から、特定の識別子に関連付けられる屈折率像又は組織サンプル像を表示させる場合に用いられる。
【0105】
提示部48は、屈折率像と組織サンプル像が生成された場合、初期設定され又は操作入力部34で指定される解像度に対応する屈折率像と組織サンプル像を、見比べ可能な状態で表示部36に表示する。なお、表示すべき屈折率像は、実部の屈折率、複素部の屈折率又はこれら双方の屈折率に基づく像のいずれかであり、操作入力部34によって適宜設定することができる。
【0106】
また提示部48は、屈折率相関像が生成された場合、該屈折率相関像を、屈折率像及び組織サンプル像と見比べ可能な状態で表示部36に表示する。
【0107】
ここで、実験結果を図7に示す。図7(A)は、銀染色が施された肺組織の切片の顕微鏡像(可視像)を示す写真である。図7(B)は屈折率の実部の屈折率像、図7(D)は屈折率の複素部の屈折率像、図7(F)は屈折率の実部及び複素部の双方から得られる屈折率像を示す写真である。また図7(C)は正規化された屈折率の実部、図7(E)は正規化された屈折率の複素部を示している。なおこの図7では、図6と同様に10[μm]の厚みでなる組織切片が用いられ、0.8−1.2[THz]が対象とされている。
【0108】
この図7から分かるように、形態学的アプローチとは異なる、屈折率というアプローチから組織切片TRが分類され表現される。図8に示す実験結果から分かるように、屈折率は染色の違いや有無にかかわらず同等の値として得られ、当該染色の違いや有無によって特別なデータ処理を施すことなく屈折率像が取得可能となるため便宜である。
【0109】
判定部49は、屈折率像提示部46によって屈折率像が生成された場合、屈折率像を所定の探索範囲ごとに特徴部分となるか否かを判定する。
【0110】
具体的には、データベースとして管理される複数の屈折率パターンとマッチングされ、屈折率パターンとの類似度に対して設定される閾値よりも大きいマッチング結果となる特徴部分が屈折率像のなかから探索される。
【0111】
一般に、テラヘルツ波は水分に吸収されるものであるため、屈折率は無細胞部分では低く、細胞の密集度が大きいほど高くなる。また例えば図9に示すように、細胞の種類や悪性度等の細胞の状態に応じて屈折率が異なることが知られている。したがってこの実施の形態における記憶部37では、細胞の種類や悪性度等の細胞の状態と、屈折率パターンとの対応付けがデータベースとして記憶され管理される。
【0112】
ちなみに図9の上段に示される写真は可視像であり、中段に示される写真は特定周波数帯域の屈折率の類似性に基づいたクラスター分析により得られる像である。また図9の下段に示されるグラフは、左から2番目の肺組織切片に関して、屈折率の類似性に基づいたクラスター分析結果である。
【0113】
判定部49は、閾値よりも大きいマッチング結果となる特徴部分が探索された場合、表示部36に表示される屈折率像と組織サンプル像に対して、該特徴部分を他の部分と区別する処理を施す。具体的には例えば、屈折率像と組織サンプル像に対して、特徴部分に対応する領域を単一色の枠により囲む処理が施される。そして判定部49は、特徴部分と類似度が閾値以上となる屈折率パターンに対応付けられた細胞の状態を、表示部36に表示する等して通知する。
【0114】
また判定部49は、屈折率像のうち、屈折率パターンとして登録すべき特徴部分が指定された場合、その特徴部分の細胞の種類や悪性度等の細胞の状態の入力画面を提示する。この入力画面を介して入力される細胞の状態が入力されると、判定部49は、該細胞の状態と指定対象の特徴部分とを対応付けて記憶部37に記憶し、データベースを更新する。
【0115】
このように判定部49は、屈折率像提示部46によって生成される屈折率像に特徴的な屈折率パターンを呈する部分がある場合にはその部分を通知し、また屈折率パターンとしてデータベースに未登録である部分がある場合にはその部分を登録できるようになっている。
【0116】
[1−6.解析処理手順]
次に、解析処理手順について図10に示すフローチャートを用いて説明する。すなわちCPU31は、例えば操作入力部34から解析処理の実行命令を受けた場合、この解析処理手順を開始し、ステップSP1に進む。
【0117】
CPU31は、ステップSP1では、プレパラートステージ15のプレパラート配置面に配されるプレパラートPRTに対して固有の識別子を割り当てて、ステップSP2に進む。CPU31は、ステップSP2では、テラヘルツ波の媒体との界面のうち対象とすべき部分に計測点が位置するようプレパラートステージ15を走査し、ステップSP3に進む。
【0118】
CPU31は、ステップSP3では、計測点におけるプレパラート部位の拡大像(PT部位拡大像)を取得し、ステップSP4に進む。CPU31は、ステップSP4では、Tz波形の計測を開始してRf−Tz波形と、Sm−Tz波形とを抽出し(図4)、これらTz波形のスペクトル(Rf−スペクトルSm−スペクトル)と、そのスペクトル比を算出し、ステップSP5に進む。
【0119】
CPU31は、ステップSP5では、ステップSP4で算出したRf−Tz波形及びSm−Tz波形と、上述の(1)式〜(11)式を用いて屈折率を算出し、ステップSP6に進む。CPU31は、ステップSP6では、テラヘルツ波の媒体との界面全体に計測点が配分されたか否かを判定し、否定結果を得た場合にはステップSP2に戻って上述の処理を繰り返す。
【0120】
CPU31は、ステップSP2〜ステップSP6の処理ループを経ることで、テラヘルツ波の媒体との界面全体に計測点が配分されるとステップSP7に進んで、各計測点の屈折率を用いて屈折率像(図6)を生成する。またCPU31は、各計測点のPT部位拡大像を用いて組織サンプル像を生成し、ステップSP8に進む。
【0121】
CPU31は、ステップSP8では、ステップSP7で生成される屈折率像と、組織サンプル像とを見比べ可能な状態で表示部36に表示し、ステップSP9に進む。CPU31は、ステップSP9では、ステップSP7で生成される屈折率像に特徴部分が含まれているか否か判定する。
【0122】
CPU31は、ステップSP9で特徴部分が屈折率像に含まれると判定したときには、ステップSP10に進んで、ステップSP8で表示した屈折率像と組織サンプル像に対して所定の処理を施して特徴部分を強調表示した後、この解析処理手順を終了する。
【0123】
一方、CPU31は、ステップSP9で特徴部分が屈折率像に含まれていないと判定したときには、ステップSP10における強調表示処理を施すことなく、この解析処理手順を終了する。
【0124】
[1−7.効果等]
以上の構成において、このサンプル解析装置30は、スライドSDとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するTz波形のスペクトルを取得する。
【0125】
そしてサンプル解析装置30は、このスペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出し、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、該計測点の位置関係で示す画像(屈折率像)を生成する。
【0126】
またサンプル解析装置30は、スライドSDに配される組織切片TRの拡大像(組織サンプル像)を取得し、この組織サンプル像と屈折率像とを見比べ可能な状態で表示部36に表示させる。
【0127】
したがってこのサンプル解析装置30では、可視像の他に屈折率という物性科学的な観点の情報によって組織切片TRが分類され、しかも、可視像の位置関係と同じ位置関係のもとで分類される。このため、別のプレパラートPRTの作製を要することなく、既知である形態学的な側面と、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を、同時に把握させることができる。
【0128】
この実施の形態におけるTz波形のスペクトルは、基準界面B1で反射するRf−Tz波形REF(図4)のスペクトル(Rf−スペクトル)と、スライドSDと組織切片TRとの界面B2で反射するSm−Tz波形SAM(図4)のスペクトル(Sm−スペクトル)として取得される。
【0129】
そしてRf−スペクトルに応じたモデルスペクトルが、テラヘルツ波検出素子16に導かれるTz波形のP偏光及びS偏光を考慮して算出され((1)式〜(10)式)、このモデルスペクトルとSm−スペクトルとを用いて屈折率が算出される((11)式)。
【0130】
したがってこのサンプル解析装置30は、より一段と真値に近い屈折率を得ることができるため、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を示す屈折率像を精細に示すことができる。
【0131】
またこの実施の形態における屈折率像は、特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、設定される複数の段階(階調)によって色として分類され、当該計測点の位置関係で示される。したがって、例えば棒グラフによって示す場合に比べて、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を細かく分類することができ、またその分類能の変更も可能となる。
【0132】
またこのサンプル解析装置30は、屈折率像におけるある位置の屈折率が指定された場合、指定位置の屈折率に対する指定位置以外の屈折質の自己相関の差を、設定される複数の段階(階調)によって色として分類し、当該計測点の位置関係で示す像(屈折率相関像)を生成する。そしてサンプル解析装置30は、この屈折率相関像を、組織サンプル像及び屈折率像と見比べ可能な状態で表示部36に表示させる。
【0133】
したがってこのサンプル解析装置30では、例えば、着目すべき悪性細胞を基準として、その悪性細胞に対する悪性度の高い又は低い細胞が存在する分布を把握させる等のように、屈折率の観点から組織切片TRにおける細胞分布を把握させることができる。
【0134】
以上の構成によれば、別のプレパラートPRTの作製を要することなく、既知である形態学的な側面と、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を同時に把握させることができるようにしたことにより、診断までの時間を短縮させ得るサンプル解析装置30が実現される。
【0135】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、生体サンプルとして組織切片TRが適用された。しかしながら生体サンプルはこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、塗抹細胞や染色体等が適用でき、この例示以外の種々の生物体における全部又は一部を生体サンプルとして幅広く適用できる。
【0136】
上述の実施の形態では、ガラス材のスライドSDが用いられた。しかしながらスライドの材質は、テラヘルツ帯に対して光学的な影響度が小さいものであれば、ガラス材以外のものを適用できる。
【0137】
なお、ガラス材は疎水性が高いため、スライドSD表面と組織切片TRとの間に隙間が生じ易く接着性が悪い。したがって一般に、スライドSD表面には、親水性の高いシランがコーティングされ、スライドSDと組織切片TRとの接着性が高められている。
【0138】
しかし、シランコーティングはプレパラートPRTの洗浄により比較的に容易にはがれてしまうので、プレパラートPRTの使用は、事実上、一度きりとなる。近年では、スライドSDと組織切片TRとの接着性が高められ、かつ、複数回使用可能となる条件を満たすコーティング手法が求められている。
【0139】
この点、ダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の双方が混在する非晶質膜をコーティングしたスライドSDが、かかる条件を満たしながらもテラヘルツ帯に透明となることが本発明者らにより確認されている。
【0140】
この非晶質膜は、アモルファスカーボンあるいはDLC(Diamond Like Carbon)等と呼ばれ、はがれ難い、平滑な膜として得ることができる、親水性が高いなどといった性質をもつ。したがって、上述の実施の形態のように、生体サンプルが配される面とは逆の面から照射されるテラヘルツ波の反射強度の時間波形を計測する場合あるいはテラヘルツ波強度の時間波形から屈折率を算出する場合、非晶質膜をコーティングしたスライドSDを用いることが特に好ましい。
【0141】
ここで、図11において、非コーティング(破線の上側)と、非晶質膜をコーティングした場合(破線の下側)における1[THz]の屈折率像の写真を示す。この図11では、3[mm]の厚みでなるスライドSDに対して、10[μm]の厚みでなる組織切片TRが配され、500[μm]の厚みでなる封入材を介して、2[mm]の厚みでなるカバーガラスが配されるプレパラートPRTが用いられた。この図11から、非晶質膜のコーティングの有無にかかわらず屈折率像が同等であり、この結果、非晶質膜がテレヘルツ帯に非影響であることが分かる。
【0142】
なお、非晶質膜は、プラズマCVT(Chemical Vapor Deposition)を用いて形成することができる。ちなみに、図11に示す実験におけるプラズマCVTのコーティング過程では1−プロパノール(CH3 CH2 CH2 OH)がソースとして採用され、ソースの流速は10[SCCM]、ソース圧は10[Pa]、RF powerは10[W]、コーティング時間は180[sec]とされている。またプラズマ処理過程では酸素がソースとして採用され、ソースの流速は30[SCCM]、ソース圧は20[Pa]、RF powerは100[W]、プラズマ処理時間は30[sec]とされている。
【0143】
上述の実施の形態では、スライドSDのうち組織切片TRが固定される界面側の媒体MD(図4(A))が空気とされた。しかしながらこの媒体MDは空気に限定されるものではない。媒体MDとしては、溶液層、あるいは蒸着された金属層など、組織切片TRと媒体MDとの間の界面においてテラヘルツ波の強い反射を引き起こす物質が適用可能である。この物質を適用した場合、反射波SAMの振幅が増強されるため、生体サンプルが配される面とは逆の面から照射されるテラヘルツ波における反射強度の時間波形に対する再現性が大幅に向上する。
【0144】
一般に、媒体MDは空気、もしくは空気中の水分によるテラヘルツ波の吸収を防ぐために窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換された雰囲気であることが多い。また一般に用いられるスライドSDは平坦性、平行性が十分ではない。このため、得られるテラヘルツ像に組織切片TRに起因しない間違った像コントラストを生じてしまうことが確認されている。また、組織切片TRを作製する際に、厚みの不均一性を避けることができない。さらに、スライドガラスがテラヘルツ波を吸収してしまい、反射波SAMの振幅が小さくなってしまうことも確認されている。
【0145】
スライドSDの平坦性、平行性に関しては、例えば光学実験等に用いられる高品質の石英板等をスライドSDに用い、その上に組織切片TRを固定することで改善される。あるいは、通常のスライドガラスに組織切片TRを固定し、組織切片TRの側をスライドSDである石英板に圧着する方法もある。この場合、媒体MDはスライドガラスになる。
【0146】
組織切片TRの厚みの誤差、反射波SAMの振幅の問題は、次のように同時に解決できる。スライドSD上に組織切片TRを固定し、媒体MDは水、その他溶媒(細胞培養液、グリセロール、各種アルコール、油脂等)を用いる。媒体MDと組織切片TRのテラヘルツ領域での屈折率が大きく異なることが重要である。媒体MDは、溶液だけでなく、金などの金属を蒸着した層を用いても同様の効果が得られる。要は、上述したように、組織切片TRと媒体MDとの間の界面においてテラヘルツ波の強い反射を引き起こす物質が好ましい。
【0147】
組織切片TRとしては、パラフィン包埋された組織切片、パラフィンを融解し、染色を施した組織切片のどちらも用いることができる。パラフィン包埋組織切片TRの場合、媒体MDとの屈折率差が大きいため、反射波SAMの振幅が著しく増強される。一方、染色を施した組織切片TRの場合、媒体MDとの屈折率差が小さいため、反射波SAMの振幅の増強は期待されない。しかし、厚みの不均一性に起因する誤差が減少し、測定の再現性が大幅に向上する。いずれにしても、テラヘルツ用の病理標本として特別な処理を施すことなく、一般に広く採用されている病理標本の作製過程で得られる標本を用いることができるため、診断までの時間を短縮させる観点では有用である。
【0148】
上述の実施の形態では、テラヘルツ分光装置10における計測結果からRf−Tz波形、Sm−Tz波形、Rf−スペクトル、Sm−スペクトル及びスペクトル比が取得された。しかしながら取得手法はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0149】
例えば、Rf−Tz波形、Sm−Tz波形、Rf−スペクトル、Sm−スペクトル及びスペクトル比の全部又は一部が予め記憶されたROM32、記憶部37又は他の装置の記憶媒体から伝送路を介して取得する手法が適用可能である。
【0150】
上述の実施の形態では(1)式から(11)式を用いて屈折率が算出された。しかしながら屈折率の算出手法はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、Rf−Tz波形、Sm−Tz波形から、Kramers-Kronig変換を用いて屈折率が算出されてもよい。なお、操作入力部37から生体サンプルの種類を入力させ、当該種類と屈折率とを対応付けたデータベースから参照することにより取得してもよく、操作入力部37から屈折率を入力させるようにしてもよい。
【0151】
上述の実施の形態では、屈折率像が、各計測点の位置関係で、当該計測点での特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、設定される複数の段階(階調)によって色として分類して示すものとされた。しかしながら屈折率像としての示し方はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0152】
例えば、特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、棒グラフにより計測点の位置関係で示す屈折率像が適用されてもよい。要は、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、該計測点の位置関係で示す像であればよい。
【0153】
なお、特定周波数帯域の屈折率は、平均に限らず、例えば分散等のように所定の統計学的手法により得られる値(統計値)であればよい。
【0154】
上述の実施の形態では、各計測点での周波数ごとの屈折率像が表示用として用いられた。これに加えて、ゲイン調整用のパラメータとして用いることもできる。
【0155】
上述の実施の形態における解析処理では、屈折率像と組織サンプル像(可視像)とが見比べ可能な状態で表示された。屈折率像に対して、見比べ可能な状態で表示すべき情報は、組織サンプル像(可視像)に限定されるものではない。
【0156】
例えば、Rf−Tz波形、Sm−Tz波形、Rf−スペクトル、Sm−スペクトル及びスペクトル比の全部又は一部を、組織サンプル像(可視像)とともに表示する形態が適用されてもよい。この形態を適用すれば、生体サンプルの状態をより一段と詳細に把握させることができる。
【0157】
上述の実施の形態ではプレパラートステージ15の移動によって焦点位置が可変された。しかしながら焦点可変手法は、この実施の形態に限定されるものではない。例えば、集光光学系OP1又は撮像レンズ24に対するステージの移動によって焦点位置を可変する焦点可変手法が適用可能である。別例として、プレパラートステージ15と集光光学系OP1又は撮像レンズ24に対するステージとの双方の移動によって焦点位置を可変する焦点可変手法が適用可能である。
【0158】
ちなみにステージの駆動手段は、電磁方式のリニアモータ,ステッピングモータや、ピエゾアクチュエータ,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などがある。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、工業、医療、バイオ、農業、セキュリティ又は情報通信・エレクトロニクスなどの産業上において利用可能である。
【符号の説明】
【0160】
1……サンプル解析システム、10……テラヘルツ波分光装置、11……超短レーザー、12……ビームスプリッタ、13……光学遅延部、14……テラヘルツ波発生素子、15……プレパラートステージ、16……テラヘルツ波検出素子、20……サンプル撮像装置、21……光源、22……偏光ビームスプリッタ、23……1/4波長板、24……撮像レンズ、25……撮像素子、30……サンプル解析装置、31……CPU、32……ROM、33……RAM、34……操作入力部、35……インターフェイス部、36……表示部、37……記憶部、41……識別子割当部、42……界面走査部、43……時間波形部、44……スペクトル波形取得部、45……屈折率算出部、46……屈折率像生成部、47……サンプル像生成部、48……提示部、49……判定部、OP1,OP2……集光光学系、PRT……プレパラート、SD……スライド、TR……組織切片。
【技術分野】
【0001】
本発明は、おおよそ0.1×1012[Hz]〜100×1012[Hz]帯域の電磁波(テラヘルツ波)を用いる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テラヘルツ波を発生又は検出するものとして、テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS:Terahertz Time-Domain Spectoroscopy)がある。このテラヘルツ時間領域分光法は、工業、医療、バイオ、農業又はセキュリティなどの様々な技術分野において注目されている。
【0003】
このテラヘルツ時間領域分光法では、超短レーザー光源から100フェトム秒程度のパルス光がポンプ光及びプローブ光に分割され、ポンプ光はテラヘルツ波発生素子に集光される。これによりテラヘルツ波発生素子ではサブピコ秒程度の電流が生成され、当該時間微分に比例したテラヘルツ波が発生する。
【0004】
このテラヘルツ波はサンプルを経由してテラヘルツ波検出素子に与えられ、このときにテラヘルツ波検出素子に対してプローブ光が照射されるとキャリアが生成され、テラヘルツ波の電場によって加速されて電気信号となる。
【0005】
プローブ光がテラヘルツ波検出素子に到達するタイミングをずらすことによって、テラヘルツ波の振幅電場の時間波形を測定し、該時間波形をフーリエ変換することによってテラヘルツ波のスペクトルを得ることができる。
【0006】
ところで、空港の税関などの荷物、あるいは人間の衣服や体内にある禁止薬物等を検査するため、テラヘルツ時間領域分光法を用いたイメージングが検討されている。また、サンプルが非破壊の状態で検査可能となるため、病理診への応用が検討されている。
【0007】
一般に、病理診では、生体サンプルにおける細胞の形態や色調などの形態学的な観点から、該生体サンプルに対する良悪が判定される。この生体サンプルの作製は、一般に、専門技術者の経験や技量に応じて差異が生じるものであり、この差異によって、生体サンプルの判定が困難となるという問題がある。
【0008】
この問題を解決する1つの手法として、血球サンプル像における細胞種の色差を明瞭化するといった画像処理手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−152868公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この特許文献1では、細胞種の色差が不明瞭であることよる診断者の判定のバラツキが低減されるものの、血球サンプル像における形態学的な一つの要素を強調したに過ぎない。したがって、細胞種の色差が明瞭であっても、その細胞種の同定が困難となる場合あるいは細胞の良悪が判定し難い場合がある。
【0011】
このような場合、一般には、蛍光染色を施した別のサンプルを用いて、分子生物学的な観点から細胞種の同定、悪性腫瘍の有無又は進行度などが2次的に判定される。しかしながらこの場合、別のサンプルの作製期間が必要となるのみならず、最初のサンプルと完全に一致するものではないため、診断までに過大な時間を要することになる。
【0012】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、診断までの時間を短縮させ得る生体サンプル解析方法、生体サンプル解析装置及び生体サンプル解析プログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため本発明は、生体サンプル解析方法であって、スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得ステップと、スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、スペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出ステップと、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成ステップと、像と画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御ステップとを有する。
【0014】
また本発明は、生体サンプル解析装置であって、スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得手段と、スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得手段と、スペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出手段と、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成手段と、像と画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御手段とを有する。
【0015】
また本発明は、生体サンプル解析プログラムであって、コンピュータに対して、スライドに配される生体サンプルの像を取得すること、スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得すること、スペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出すること、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成すること、像と画像とを見比べ可能な状態で表示させることを実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、生体サンプルの可視像の他に屈折率という物性科学的な観点の情報によって生体サンプルが分類され、しかも、可視像の位置関係と同じ位置関係のもとで分類される。このため、別のプレパラートの作製を要することなく、既知である形態学的な側面と、物性科学的な側面からの生体サンプルの状態を同時に把握させることができる。
かくして、診断までの時間を短縮させ得る生体サンプル解析方法、サンプル解析装置及び生体サンプル解析プログラムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】サンプル解析システムの構成を示す概略図である。
【図2】テラヘルツ波のサンプリングの説明に供する概略図である。
【図3】サンプル解析装置の構成を示す概略図である。
【図4】テラヘルツ波形の計測の説明に供する概略図である。
【図5】THz波形の理論上の屈折率を算出する際のモデルを示す概略図である。
【図6】屈折率像を示す写真である。
【図7】実験結果を示す写真及びグラフである。
【図8】染色と屈折率との関係を示すグラフである。
【図9】細胞の種類と屈折率の関係を示すグラフである。
【図10】解析処理手順を示すフローチャートである。
【図11】非晶質膜が形成された場合と非形成の場合との屈折率像を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための一実施の形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
<1.一実施の形態>
[1−1.サンプル解析システムの構成]
[1−2.テラヘルツ波分光装置の構成]
[1−3.サンプル撮像装置の構成]
[1−4.サンプル解析装置の構成]
[1−5.解析処理の内容]
[1−6.解析処理手順]
[1−7.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0019】
<1.一実施の形態>
[1−1.サンプル解析システムの構成]
図1において、サンプル解析システム1の構成を示す。このサンプル解析システム1は、テラヘルツ波分光装置10と、サンプル撮像装置20と、サンプル解析装置30とによって構成される。
【0020】
[1−2.テラヘルツ波分光装置の構成]
テラヘルツ波分光装置10は、超短レーザー11、ビームスプリッタ12、光学遅延部13、テラヘルツ波発生素子14、プレパラートステージ15及びテラヘルツ波検出素子16を含む構成とされる。
【0021】
超短レーザー11は、例えば、100[fs]程度のパルス幅、数十[MHz]程度の繰り返し周期、780[nm]程度の中心波長をもつパルス光を出射する。具体的な超短レーザー11として、例えば、フェトム秒パルスレーザーチタンやサファイアレーザーなどがある。
【0022】
ビームスプリッタ12は、超短レーザー11から出射されるパルス光をポンプ光と、プローブ光とに分離する。
【0023】
光学遅延部13は、ビームスプリッタ12から到来するプローブ光を反射鏡ROPに導く鏡13Aを有する。光学遅延部13は、この鏡13Aを、ビームスプリッタ12,反射鏡ROPに対して近づく方向又は離れる方向に、サンプル解析装置30によって指定される速度で移動させる。この結果、テラヘルツ波検出素子16に対するプローブ光の光路長が可変され、到達タイミングが遅延される。
【0024】
テラヘルツ波発生素子14は、ビームスプリッタ12を介して到来するポンプ光により励起されるキャリア(電子と正孔)に基づいてテラヘルツ波を発生する。具体的なテラヘルツ波発生素子14として、例えば、光伝導アンテナやZnTe等の非線形光学結晶などがある。
【0025】
ちなみに光伝導アンテナは、半絶縁性ガリウム砒素等でなる半導体基板と、半導体基板の一方の面に配される電極と、その電極に形成されるギャップ間に電圧を印加する印加部とを構成要素とするものである。この光伝導アンテナでは、ポンプ光の照射により半導体基板に生成されるキャリアがギャップ間電圧で加速され、このときギャップ間に電流が流れることでテラヘルツ波が発生する。
【0026】
テラヘルツ波発生素子14から放射されるテラヘルツ波は、プレパラートステージ15においてプレパラートPRTが配される面(以下、これをプレパラート配置面とも呼ぶ)15Aの裏面15B側に配される集光光学系OP1によって、該裏面15Bに対して鋭角な入射角となる状態で集められる。
【0027】
集光光学系OP1には例えば半球レンズや、半球レンズと放物面鏡の組み合わせなどが用いられる。半球レンズが用いられた場合、その非球面はテラヘルツ波発生素子14の構成要素である半導体基板の一面(パルス光が集光される面とは逆側の面)に対向される。
【0028】
プレパラートステージ15は、プレパラート配置面の方向(x軸方向及びy軸方向)と、該プレパラート配置面の法線方向(z軸方向)に移動可能とされる。プレパラートステージ15は、サンプル解析装置30の制御にしたがって、テラヘルツ波の焦点がプレパラートPRTの特定部位に位置される。
【0029】
プレパラートPRTは、結合組織、上皮組織又はそれらの双方の組織などの組織切片TRを、ガラス材でなるスライドSDに固定したものであり、該組織切片には必要に応じて染色が施される。この染色には、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色、ギムザ染色又はパパニコロウ染色等に代表される一般染色と呼ばれる染色のみならず、FISH(Fluorescence In-Situ Hybridization)や酵素抗体法等の特殊染色と呼ばれる染色が含まれる。
【0030】
プレパラートPRTにおいて反射するテラヘルツ波は、集光光学系OP2によって平行な光線の束としてテラヘルツ波検出素子16に導かれる。集光光学系OP2は、集光光学系OP1と同じ構成であっても異なる構成であってもよい。
【0031】
テラヘルツ波検出素子16は、図2に示すように、光学遅延部13によって可変されるプローブ光の到達タイミングをサンプリング点として、テラヘルツ波の振動電場の強度を検出する。
【0032】
具体的なテラヘルツ波検出素子16として、テラヘルツ波発生素子14と同様に、光伝導アンテナやZnTe等の非線形光学結晶等がある。ただし、テラヘルツ波検出素子16として採用される光伝導アンテナの場合、上述の印加部が電流計に変更される。
【0033】
なお、このテラヘルツ波分光装置10では信号対雑音比(S/N比)を向上させるため、ポンプ光に対して光チョッパーで変調を施し、参照信号をロックインアンプに入力することで同期検波が行われる。
【0034】
[1−3.サンプル撮像装置の構成]
サンプル撮像装置20は、光源21、偏光ビームスプリッタ22、1/4波長板23、撮像レンズ24及び撮像素子25を含む構成とされる。
【0035】
光源21は、無染色の組織切片TR又は一般染色が施された組織切片TRを照明する光(以下、これを明視野照明光とも呼ぶ)と、特殊染色が施された組織切片TRを照明する光(以下、これを暗視野照明光とも呼ぶ)とを切り換えて照射可能なものとされる。
【0036】
ただし、明視野照明光又は暗視野照射光のいずれか一方だけが照射可能なものであってもよい。なお、明視野照明光は一般に可視光とされ、暗視野照明光は特殊染色で用いられる蛍光マーカを励起する波長を含む光とされる。また暗視野照明光では蛍光マーカに対する背景部分はカットアウトされる。
【0037】
偏光ビームスプリッタ22は照明光源21の後方に配され、光源21から入射する光を透過し、偏光ビームスプリッタ22における透過側の後方に配される1/4波長板23から入射する光を反射する。
【0038】
1/4波長板23は、偏光ビームスプリッタ22から入射する直線偏光の光を円偏光とし、1/4波長板23の後方に配される撮影レンズ24から入射する円偏光(楕円偏光も含む)を直線偏光とする。
【0039】
撮像レンズ24は、1/4波長板23から入射する光をプレパラートステージ15におけるプレパラート配置面に集め、該プレパラート配置面に配されるプレパラートPRTで反射する光を平行な光線の束として1/4波長板23に導く。なお、この撮像レンズ24は、倍率の異なる複数の撮像レンズのなかからレンズ切換機構又は手動により選択される。
【0040】
撮像素子25は、偏光ビームスプリッタ22における反射側の後方に、撮像レンズ24のレンズ面に結像される像の投影先として予定される面を撮像面として配される。この撮像面には、撮像レンズ24によって集光される集光部分の拡大像が投影される。撮像素子25は、撮像面に投影される像をデータ(以下、これを撮像データとも呼ぶ)として生成する。
【0041】
[1−4.サンプル解析装置の構成]
サンプル解析装置30は、図3に示すように、制御を司るCPU(Central Processing Unit)31に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0042】
具体的にはROM(Read Only Memory)32、CPU31のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)33、ユーザの操作に応じた命令を入力する操作入力部34、インターフェイス部35、表示部36及び記憶部37がバス38を介して接続される。
【0043】
ROM32には、各種の処理を実行するためのプログラムが格納される。インターフェイス部35は、超短レーザー11と、光学遅延部13と、プレパラートステージ15と、テラヘルツ検出素子16と、撮像素子25とにそれぞれ伝送路を介して接続される。
【0044】
表示部36には、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ又はプラズマディスプレイ等が適用される。また記憶部37には、HD(Hard Disk)に代表される磁気ディスクもしくは半導体メモリ又は光ディスク等が適用される。USB(Universal Serial Bus)メモリやCF(Compact Flash)メモリ等のように可搬型メモリが適用されてもよい。
【0045】
CPU31は、ROM32に格納される複数のプログラムのうち、操作入力部34から与えられる命令に対応するプログラムをRAM33に展開し、該展開したプログラムにしたがって、表示部36及び記憶部37を適宜制御する。
【0046】
またCPU31は、展開したプログラムにしたがって、インターフェイス部35を介して超短レーザー11、光学遅延部13、プレパラートステージ15、テラヘルツ検出素子16又は撮像素子25を適宜制御するようになっている。
【0047】
[1−5.解析処理の内容]
CPU31は、解析処理の実行命令を操作入力部34から受けた場合、当該実行命令に対応付けられるプログラムをRAM33に展開する。
【0048】
この場合、CPU31は、プログラムにしたがって、図3に示したように、識別子割当部41、界面走査部42、時間波形取得部43、スペクトル波形取得部44、屈折率算出部45、屈折率像生成部46、サンプル像生成部47、提示部48及び判定部49として機能する。
【0049】
識別子割当部41は、プレパラートステージ15のプレパラート配置面に配されるプレパラートPRTに対して、例えば番号などのような固有の識別子を割り当てる。また識別子割当部41は、プレパラートPRTにおける組織切片TRに関する個人情報を取得し、この個人情報を、該プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0050】
なお、個人情報は、例えば、組織切片の被採取者(患者)の名もしくは割当番号、性別、年齢、採取日付等といった情報である。また個人情報の取得手法には、例えば、表示部36に入力画面を表示し、操作入力部34から入力させて取得する手法や、プレパラートPRTに貼り付けられるバーコードから取得する手法などが適用可能である。
【0051】
界面走査部42は、テラヘルツ波の媒質とスライドSDとの界面(以下、これを基準界面とも呼ぶ)を走査する。具体的にはプレパラートステージ15が、テラヘルツ波を計測すべき領域(以下、これを計測点とも呼ぶ)を単位として、初期位置からプレパラート配置面の方向(x軸方向又はy軸方向)に所定の順序で走査される。この結果、基準界面に計測点が配分される。
【0052】
時間波形取得部43は、界面走査部42によって計測対象とされる計測点に走査されるたびに、テラヘルツ波の振動電場の強度における時間波形(以下、これをTz波形とも呼ぶ)を、テラヘルツ波検出素子16を用いて計測する。
【0053】
図4に示すように、プレパラートPRTはスライドSDに組織切片TRを配した構造である(図4(A))。このため、基準界面B1で反射するTz波形(以下、これをRf−Tz波形とも呼ぶ)REFと、スライドSDと組織切片TRとの界面B2で反射するTz波形(以下、これをSm−Tz波形とも呼ぶ)SAMとが、十分分離可能な時間差を隔てて計測される(図4(B))。
【0054】
なお、図4(B)では、Rf−Tz波形REFは実線で、Sm−Tz波形SAMは破線でそれぞれ示され、便宜上、Sm−Tz波形SAMはRf−Tz波形REFから上側にシフトさせた状態で示している。また「Cut point」はRf−Tz波形REFとSm−Tz波形SAMとの分割点である。
【0055】
時間波形取得部43は、計測対象とされる計測点のTz波形からRf−Tz波形と、Sm−Tz波形とを抽出する。そして時間波形取得部43は、抽出した各Tz波形と計測点の位置情報とを、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0056】
スペクトル波形取得部44は、計測対象とされる計測点のRf−Tz波形が抽出された場合、そのRf−Tz波形に対してフーリエ変換処理を施し、該Rf−Tz波形における各周波数の位相スペクトルとパワースペクトル(以下、これをRf−スペクトルとも呼ぶ)を取得する。そしてスペクトル波形取得部44は、このRf−スペクトルを、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0057】
一方、スペクトル波形取得部44は、計測対象とされる計測点のSm−Tz波形が抽出された場合、そのSm−Tz波形に対してフーリエ変換処理を施し、該Sm−Tz波形における各周波数の位相スペクトルとパワースペクトル(以下、これをSm−スペクトルとも呼ぶ)を取得する。そしてスペクトル波形取得部44は、このSm−スペクトルを、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0058】
またスペクトル波形取得部44は、計測対象とされる計測点におけるTz波形のRf−スペクトルとSm−スペクトルの双方を取得した場合、これらスペクトルの比(以下、これをスペクトル比とも呼ぶ)を算出する。そしてスペクトル波形取得部44は、このスペクトル比を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0059】
屈折率算出部45は、計測対象とされる計測点におけるTz波形のRf−スペクトルとSm−スペクトルが算出された場合、第1段階として、Rf−スペクトルに応じた、テラヘルツ波検出素子16に導かれるTz波形の理論上のスペクトル(以下、これをモデルスペクトルとも呼ぶ)を算出する。
【0060】
具体的には、周波数を「f」とし、当該周波数での複素振幅を「E(f)」として例えば以下の演算が行われる。すなわち、Rf−スペクトル(図5における「Eexref.detector」)を用いて、プレパラートPRTに入射されるテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Eemitter(f)」)が次式
【0061】
【数1】
【0062】
によって算出される。この(1)式における「θ0」は入射角を意味する。また(1)式における「rS」はS偏光成分の反射率、「rP」はP偏光成分の反射率であり、次式
【0063】
【数2】
【0064】
として定義される。この(2)式における「i」と「t」は反射が起こる界面を挟む層を意味し、「θi」と「θt」は各層での入射角を意味する。また(2)式における「n〜」は、当該層での屈折率の複素部(虚部とも呼ばれる)を意味する。
【0065】
(1)式の算出結果を用いて、プレパラートPRTに入射されるテラヘルツ波の周波数スペクトルにおけるS偏光成分と、P偏光成分(図5における「Eimput(f)」)が、次式
【0066】
【数3】
【0067】
によって算出される。
【0068】
(3)式の算出結果を用いて、第1層の第1界面を透過するテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Ethinputsam(f)」)が、次式
【0069】
【数4】
【0070】
によって算出される。この(4)式における「P()」は次式
【0071】
【数5】
【0072】
として定義される。「n〜」は当該層での屈折率の複素部を意味し、「n」は当該層での屈折率の実部を意味する。また「k」は減衰係数を意味し、「d」は層の厚さを意味し、「c」は真空での光の速度を意味する。これらパラメータは予め設定される。なお、「t」は空気と第1層との界面における透過係数で、(7)式で与えられる。
【0073】
(4)式の算出結果を用いて、第1層の第2界面を反射するテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Ethoutputsam(f)」)が、次式
【0074】
【数6】
【0075】
によって算出される。この(6)式における「r1-2」は、第1界面から第2界面に導かれるS偏光成分の反射率とP偏光成分の反射率である。また「t1-2」は、第1界面から第2界面に導かれるS偏光成分の透過率とP偏光成分の透過率であり、「t2-1」は、第2界面から第1界面に導かれるS偏光成分の透過率とP偏光成分の透過率である。S偏光成分の透過率とP偏光成分の透過率は次式
【0076】
【数7】
【0077】
として定義される。また(6)式における「FP(f,2)」は、周波数f及び第2層(すなわち組織切片TRに相当する層)に対するファブリー・ペロー反射係数を意味し、次式
【0078】
【数8】
【0079】
として定義される。
【0080】
(6)式の算出結果を用いて、第1層の第1界面から出射するテラヘルツ波の周波数スペクトル(図5における「Ethsam(f)」)が、次式
【0081】
【数9】
【0082】
によって算出される。
【0083】
(9)式の算出結果を用いて、モデルスペクトル(図5における「Ethsam.detector(f)」)が、次式
【0084】
【数10】
【0085】
によって算出される。
【0086】
このように屈折率算出部45は、テラヘルツ波検出素子16に導かれるTz波形のP偏光及びS偏光を考慮し、Rf−スペクトルに応じたモデルスペクトルを算出するようになっている。
【0087】
屈折率算出部45は、モデルスペクトルを算出した場合、第2段階として、モデルスペクトルと、Sm−スペクトルとの比較結果から、計測対象とされる計測点における屈折率(実部、複素部及びそれら双方)を算出する。
【0088】
具体的には、スペクトル波形取得部44が取得したSm−スペクトルを「Eexsam.detector(f)」とし、モデルスペクトルを「Ethsam.detector(f)」とすると、次式
【0089】
【数11】
【0090】
のように、Sm−スペクトルとモデルスペクトルの比の絶対値と、偏角比の二乗値との和が最小となるときの屈折率が周波数ごとに算出される。ちなみに「abs」は絶対値を表し、「arg」は偏角を意味するものである。なお、Sm−スペクトルとモデルスペクトルとの差を最小にすることで周波数ごとの屈折率を算出するための最適化関数Mは、(11)式に限定されるものではない。
【0091】
このように屈折率算出部45は、界面走査部42によって走査される各計測点に対して、試料がもたらす減衰及び位相遅れを周波数ごとに検出して屈折率(実部、複素部及びそれら双方)を算出するようになっている。
【0092】
屈折率像生成部46は、各計測点での周波数ごとの屈折率が屈折率算出部45によって算出された場合、当該屈折率(実部と、複素部と、それら双方)を示す像(以下、これを屈折率像とも呼ぶ)を生成する。
【0093】
具体的には、各計測点での特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均が、設定される複数の段階(階調)によって色で分類され、当該計測点の位置関係で示される。なお、特定周波数又は特定周波数帯域と、階調数と、当該階調に対応付けるべき色と、屈折率像として表現すべき解像度とは操作入力部34を介して設定され、必要に応じて変更可能とされる。
【0094】
屈折率像生成部46は、屈折率像を生成し終えた場合、該屈折率像を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0095】
この屈折率像生成部46には、指定位置を基準として屈折率像を再分類すべき再分類命令が必要に応じて操作入力部34から与えられるなっている。指定位置は、操作入力部34の操作に応じて屈折率像を移動可能なポインタ等によって指定される。
【0096】
屈折率像生成部46は、この再分類命令が与えられた場合、指定位置を基準として他の位置との屈折率の差を示す像(以下、これを屈折率相関像とも呼ぶ)を生成する。
【0097】
具体的には、図6(A)に示すように、指定位置に対応するピクセルの屈折率に対する、該指定位置以外のピクセルに対応する屈折率の自己相関係数の差が、設定される複数の段階(階調)によって色で分類され、当該計測点の位置関係で示される。なお、階調数と、当該階調に対応付けるべき色と、屈折率相関像として表現すべき解像度とは操作入力部34を介して設定され、必要に応じて変更可能とされる。
【0098】
屈折率像生成部46は、屈折率相関像を生成し終えた場合、該屈折率相関像を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0099】
またこの屈折率像生成部46には、特定周波数帯域の屈折率として入力される値を基準として屈折率像を再分類すべき再分類命令が必要に応じて操作入力部34から与えられるなっている。
【0100】
屈折率像生成部46は、この再分類命令が与えられた場合、特定周波数帯域の屈折率の類似性に基づいたクラスター分析を実行する。そして屈折率像生成部46は、図6(B)に示すような屈折率像を生成する。具体的には例えば、指定される値に対する各計測点での屈折率の差が、設定される複数の段階(階調)によって色で分類し各計測点の位置関係で示される。屈折率像生成部46は、この屈折率相関像を生成し終えた場合にも、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0101】
ちなみに図6では、10[μm]の厚みでなる組織切片が用いられ、0.8−1.2[THz]が対象とされている。
【0102】
サンプル像生成部47は、界面走査部42によって走査される計測点ごとに撮像素子25を制御し、該撮像素子25の撮像面に投影されるプレパラート部位の拡大像(以下、これをPT部位拡大像とも呼ぶ)を取得する。
【0103】
サンプル像生成部47は、各計測点に対応するPT部位拡大像を取得した場合、これらPT部位拡大像を連結し、その連結像から組織切片(以下、これを組織サンプル像とも呼ぶ)を抽出する。そしてサンプル像生成部47は、組織サンプル像を複数の解像度ごとに生成し、これら各解像度の組織サンプル像を、プレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶する。
【0104】
なお、サンプル像生成部47は、組織サンプル像を抽出した場合、その組織サンプル像から選択用の縮小像(以下、これをサムネイル像とも呼ぶ)を生成し、これをプレパラートPRTに割り当てられる識別子に関連付けて記憶部37に記憶するようにもなっている。このサムネイル像は、複数の識別子に関連付けられる屈折率像又は組織サンプル像から、特定の識別子に関連付けられる屈折率像又は組織サンプル像を表示させる場合に用いられる。
【0105】
提示部48は、屈折率像と組織サンプル像が生成された場合、初期設定され又は操作入力部34で指定される解像度に対応する屈折率像と組織サンプル像を、見比べ可能な状態で表示部36に表示する。なお、表示すべき屈折率像は、実部の屈折率、複素部の屈折率又はこれら双方の屈折率に基づく像のいずれかであり、操作入力部34によって適宜設定することができる。
【0106】
また提示部48は、屈折率相関像が生成された場合、該屈折率相関像を、屈折率像及び組織サンプル像と見比べ可能な状態で表示部36に表示する。
【0107】
ここで、実験結果を図7に示す。図7(A)は、銀染色が施された肺組織の切片の顕微鏡像(可視像)を示す写真である。図7(B)は屈折率の実部の屈折率像、図7(D)は屈折率の複素部の屈折率像、図7(F)は屈折率の実部及び複素部の双方から得られる屈折率像を示す写真である。また図7(C)は正規化された屈折率の実部、図7(E)は正規化された屈折率の複素部を示している。なおこの図7では、図6と同様に10[μm]の厚みでなる組織切片が用いられ、0.8−1.2[THz]が対象とされている。
【0108】
この図7から分かるように、形態学的アプローチとは異なる、屈折率というアプローチから組織切片TRが分類され表現される。図8に示す実験結果から分かるように、屈折率は染色の違いや有無にかかわらず同等の値として得られ、当該染色の違いや有無によって特別なデータ処理を施すことなく屈折率像が取得可能となるため便宜である。
【0109】
判定部49は、屈折率像提示部46によって屈折率像が生成された場合、屈折率像を所定の探索範囲ごとに特徴部分となるか否かを判定する。
【0110】
具体的には、データベースとして管理される複数の屈折率パターンとマッチングされ、屈折率パターンとの類似度に対して設定される閾値よりも大きいマッチング結果となる特徴部分が屈折率像のなかから探索される。
【0111】
一般に、テラヘルツ波は水分に吸収されるものであるため、屈折率は無細胞部分では低く、細胞の密集度が大きいほど高くなる。また例えば図9に示すように、細胞の種類や悪性度等の細胞の状態に応じて屈折率が異なることが知られている。したがってこの実施の形態における記憶部37では、細胞の種類や悪性度等の細胞の状態と、屈折率パターンとの対応付けがデータベースとして記憶され管理される。
【0112】
ちなみに図9の上段に示される写真は可視像であり、中段に示される写真は特定周波数帯域の屈折率の類似性に基づいたクラスター分析により得られる像である。また図9の下段に示されるグラフは、左から2番目の肺組織切片に関して、屈折率の類似性に基づいたクラスター分析結果である。
【0113】
判定部49は、閾値よりも大きいマッチング結果となる特徴部分が探索された場合、表示部36に表示される屈折率像と組織サンプル像に対して、該特徴部分を他の部分と区別する処理を施す。具体的には例えば、屈折率像と組織サンプル像に対して、特徴部分に対応する領域を単一色の枠により囲む処理が施される。そして判定部49は、特徴部分と類似度が閾値以上となる屈折率パターンに対応付けられた細胞の状態を、表示部36に表示する等して通知する。
【0114】
また判定部49は、屈折率像のうち、屈折率パターンとして登録すべき特徴部分が指定された場合、その特徴部分の細胞の種類や悪性度等の細胞の状態の入力画面を提示する。この入力画面を介して入力される細胞の状態が入力されると、判定部49は、該細胞の状態と指定対象の特徴部分とを対応付けて記憶部37に記憶し、データベースを更新する。
【0115】
このように判定部49は、屈折率像提示部46によって生成される屈折率像に特徴的な屈折率パターンを呈する部分がある場合にはその部分を通知し、また屈折率パターンとしてデータベースに未登録である部分がある場合にはその部分を登録できるようになっている。
【0116】
[1−6.解析処理手順]
次に、解析処理手順について図10に示すフローチャートを用いて説明する。すなわちCPU31は、例えば操作入力部34から解析処理の実行命令を受けた場合、この解析処理手順を開始し、ステップSP1に進む。
【0117】
CPU31は、ステップSP1では、プレパラートステージ15のプレパラート配置面に配されるプレパラートPRTに対して固有の識別子を割り当てて、ステップSP2に進む。CPU31は、ステップSP2では、テラヘルツ波の媒体との界面のうち対象とすべき部分に計測点が位置するようプレパラートステージ15を走査し、ステップSP3に進む。
【0118】
CPU31は、ステップSP3では、計測点におけるプレパラート部位の拡大像(PT部位拡大像)を取得し、ステップSP4に進む。CPU31は、ステップSP4では、Tz波形の計測を開始してRf−Tz波形と、Sm−Tz波形とを抽出し(図4)、これらTz波形のスペクトル(Rf−スペクトルSm−スペクトル)と、そのスペクトル比を算出し、ステップSP5に進む。
【0119】
CPU31は、ステップSP5では、ステップSP4で算出したRf−Tz波形及びSm−Tz波形と、上述の(1)式〜(11)式を用いて屈折率を算出し、ステップSP6に進む。CPU31は、ステップSP6では、テラヘルツ波の媒体との界面全体に計測点が配分されたか否かを判定し、否定結果を得た場合にはステップSP2に戻って上述の処理を繰り返す。
【0120】
CPU31は、ステップSP2〜ステップSP6の処理ループを経ることで、テラヘルツ波の媒体との界面全体に計測点が配分されるとステップSP7に進んで、各計測点の屈折率を用いて屈折率像(図6)を生成する。またCPU31は、各計測点のPT部位拡大像を用いて組織サンプル像を生成し、ステップSP8に進む。
【0121】
CPU31は、ステップSP8では、ステップSP7で生成される屈折率像と、組織サンプル像とを見比べ可能な状態で表示部36に表示し、ステップSP9に進む。CPU31は、ステップSP9では、ステップSP7で生成される屈折率像に特徴部分が含まれているか否か判定する。
【0122】
CPU31は、ステップSP9で特徴部分が屈折率像に含まれると判定したときには、ステップSP10に進んで、ステップSP8で表示した屈折率像と組織サンプル像に対して所定の処理を施して特徴部分を強調表示した後、この解析処理手順を終了する。
【0123】
一方、CPU31は、ステップSP9で特徴部分が屈折率像に含まれていないと判定したときには、ステップSP10における強調表示処理を施すことなく、この解析処理手順を終了する。
【0124】
[1−7.効果等]
以上の構成において、このサンプル解析装置30は、スライドSDとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するTz波形のスペクトルを取得する。
【0125】
そしてサンプル解析装置30は、このスペクトルを用いて、各計測点における周波数ごとの屈折率を算出し、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、該計測点の位置関係で示す画像(屈折率像)を生成する。
【0126】
またサンプル解析装置30は、スライドSDに配される組織切片TRの拡大像(組織サンプル像)を取得し、この組織サンプル像と屈折率像とを見比べ可能な状態で表示部36に表示させる。
【0127】
したがってこのサンプル解析装置30では、可視像の他に屈折率という物性科学的な観点の情報によって組織切片TRが分類され、しかも、可視像の位置関係と同じ位置関係のもとで分類される。このため、別のプレパラートPRTの作製を要することなく、既知である形態学的な側面と、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を、同時に把握させることができる。
【0128】
この実施の形態におけるTz波形のスペクトルは、基準界面B1で反射するRf−Tz波形REF(図4)のスペクトル(Rf−スペクトル)と、スライドSDと組織切片TRとの界面B2で反射するSm−Tz波形SAM(図4)のスペクトル(Sm−スペクトル)として取得される。
【0129】
そしてRf−スペクトルに応じたモデルスペクトルが、テラヘルツ波検出素子16に導かれるTz波形のP偏光及びS偏光を考慮して算出され((1)式〜(10)式)、このモデルスペクトルとSm−スペクトルとを用いて屈折率が算出される((11)式)。
【0130】
したがってこのサンプル解析装置30は、より一段と真値に近い屈折率を得ることができるため、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を示す屈折率像を精細に示すことができる。
【0131】
またこの実施の形態における屈折率像は、特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、設定される複数の段階(階調)によって色として分類され、当該計測点の位置関係で示される。したがって、例えば棒グラフによって示す場合に比べて、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を細かく分類することができ、またその分類能の変更も可能となる。
【0132】
またこのサンプル解析装置30は、屈折率像におけるある位置の屈折率が指定された場合、指定位置の屈折率に対する指定位置以外の屈折質の自己相関の差を、設定される複数の段階(階調)によって色として分類し、当該計測点の位置関係で示す像(屈折率相関像)を生成する。そしてサンプル解析装置30は、この屈折率相関像を、組織サンプル像及び屈折率像と見比べ可能な状態で表示部36に表示させる。
【0133】
したがってこのサンプル解析装置30では、例えば、着目すべき悪性細胞を基準として、その悪性細胞に対する悪性度の高い又は低い細胞が存在する分布を把握させる等のように、屈折率の観点から組織切片TRにおける細胞分布を把握させることができる。
【0134】
以上の構成によれば、別のプレパラートPRTの作製を要することなく、既知である形態学的な側面と、物性科学的な側面からの組織切片TRの状態を同時に把握させることができるようにしたことにより、診断までの時間を短縮させ得るサンプル解析装置30が実現される。
【0135】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、生体サンプルとして組織切片TRが適用された。しかしながら生体サンプルはこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、塗抹細胞や染色体等が適用でき、この例示以外の種々の生物体における全部又は一部を生体サンプルとして幅広く適用できる。
【0136】
上述の実施の形態では、ガラス材のスライドSDが用いられた。しかしながらスライドの材質は、テラヘルツ帯に対して光学的な影響度が小さいものであれば、ガラス材以外のものを適用できる。
【0137】
なお、ガラス材は疎水性が高いため、スライドSD表面と組織切片TRとの間に隙間が生じ易く接着性が悪い。したがって一般に、スライドSD表面には、親水性の高いシランがコーティングされ、スライドSDと組織切片TRとの接着性が高められている。
【0138】
しかし、シランコーティングはプレパラートPRTの洗浄により比較的に容易にはがれてしまうので、プレパラートPRTの使用は、事実上、一度きりとなる。近年では、スライドSDと組織切片TRとの接着性が高められ、かつ、複数回使用可能となる条件を満たすコーティング手法が求められている。
【0139】
この点、ダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の双方が混在する非晶質膜をコーティングしたスライドSDが、かかる条件を満たしながらもテラヘルツ帯に透明となることが本発明者らにより確認されている。
【0140】
この非晶質膜は、アモルファスカーボンあるいはDLC(Diamond Like Carbon)等と呼ばれ、はがれ難い、平滑な膜として得ることができる、親水性が高いなどといった性質をもつ。したがって、上述の実施の形態のように、生体サンプルが配される面とは逆の面から照射されるテラヘルツ波の反射強度の時間波形を計測する場合あるいはテラヘルツ波強度の時間波形から屈折率を算出する場合、非晶質膜をコーティングしたスライドSDを用いることが特に好ましい。
【0141】
ここで、図11において、非コーティング(破線の上側)と、非晶質膜をコーティングした場合(破線の下側)における1[THz]の屈折率像の写真を示す。この図11では、3[mm]の厚みでなるスライドSDに対して、10[μm]の厚みでなる組織切片TRが配され、500[μm]の厚みでなる封入材を介して、2[mm]の厚みでなるカバーガラスが配されるプレパラートPRTが用いられた。この図11から、非晶質膜のコーティングの有無にかかわらず屈折率像が同等であり、この結果、非晶質膜がテレヘルツ帯に非影響であることが分かる。
【0142】
なお、非晶質膜は、プラズマCVT(Chemical Vapor Deposition)を用いて形成することができる。ちなみに、図11に示す実験におけるプラズマCVTのコーティング過程では1−プロパノール(CH3 CH2 CH2 OH)がソースとして採用され、ソースの流速は10[SCCM]、ソース圧は10[Pa]、RF powerは10[W]、コーティング時間は180[sec]とされている。またプラズマ処理過程では酸素がソースとして採用され、ソースの流速は30[SCCM]、ソース圧は20[Pa]、RF powerは100[W]、プラズマ処理時間は30[sec]とされている。
【0143】
上述の実施の形態では、スライドSDのうち組織切片TRが固定される界面側の媒体MD(図4(A))が空気とされた。しかしながらこの媒体MDは空気に限定されるものではない。媒体MDとしては、溶液層、あるいは蒸着された金属層など、組織切片TRと媒体MDとの間の界面においてテラヘルツ波の強い反射を引き起こす物質が適用可能である。この物質を適用した場合、反射波SAMの振幅が増強されるため、生体サンプルが配される面とは逆の面から照射されるテラヘルツ波における反射強度の時間波形に対する再現性が大幅に向上する。
【0144】
一般に、媒体MDは空気、もしくは空気中の水分によるテラヘルツ波の吸収を防ぐために窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換された雰囲気であることが多い。また一般に用いられるスライドSDは平坦性、平行性が十分ではない。このため、得られるテラヘルツ像に組織切片TRに起因しない間違った像コントラストを生じてしまうことが確認されている。また、組織切片TRを作製する際に、厚みの不均一性を避けることができない。さらに、スライドガラスがテラヘルツ波を吸収してしまい、反射波SAMの振幅が小さくなってしまうことも確認されている。
【0145】
スライドSDの平坦性、平行性に関しては、例えば光学実験等に用いられる高品質の石英板等をスライドSDに用い、その上に組織切片TRを固定することで改善される。あるいは、通常のスライドガラスに組織切片TRを固定し、組織切片TRの側をスライドSDである石英板に圧着する方法もある。この場合、媒体MDはスライドガラスになる。
【0146】
組織切片TRの厚みの誤差、反射波SAMの振幅の問題は、次のように同時に解決できる。スライドSD上に組織切片TRを固定し、媒体MDは水、その他溶媒(細胞培養液、グリセロール、各種アルコール、油脂等)を用いる。媒体MDと組織切片TRのテラヘルツ領域での屈折率が大きく異なることが重要である。媒体MDは、溶液だけでなく、金などの金属を蒸着した層を用いても同様の効果が得られる。要は、上述したように、組織切片TRと媒体MDとの間の界面においてテラヘルツ波の強い反射を引き起こす物質が好ましい。
【0147】
組織切片TRとしては、パラフィン包埋された組織切片、パラフィンを融解し、染色を施した組織切片のどちらも用いることができる。パラフィン包埋組織切片TRの場合、媒体MDとの屈折率差が大きいため、反射波SAMの振幅が著しく増強される。一方、染色を施した組織切片TRの場合、媒体MDとの屈折率差が小さいため、反射波SAMの振幅の増強は期待されない。しかし、厚みの不均一性に起因する誤差が減少し、測定の再現性が大幅に向上する。いずれにしても、テラヘルツ用の病理標本として特別な処理を施すことなく、一般に広く採用されている病理標本の作製過程で得られる標本を用いることができるため、診断までの時間を短縮させる観点では有用である。
【0148】
上述の実施の形態では、テラヘルツ分光装置10における計測結果からRf−Tz波形、Sm−Tz波形、Rf−スペクトル、Sm−スペクトル及びスペクトル比が取得された。しかしながら取得手法はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0149】
例えば、Rf−Tz波形、Sm−Tz波形、Rf−スペクトル、Sm−スペクトル及びスペクトル比の全部又は一部が予め記憶されたROM32、記憶部37又は他の装置の記憶媒体から伝送路を介して取得する手法が適用可能である。
【0150】
上述の実施の形態では(1)式から(11)式を用いて屈折率が算出された。しかしながら屈折率の算出手法はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、Rf−Tz波形、Sm−Tz波形から、Kramers-Kronig変換を用いて屈折率が算出されてもよい。なお、操作入力部37から生体サンプルの種類を入力させ、当該種類と屈折率とを対応付けたデータベースから参照することにより取得してもよく、操作入力部37から屈折率を入力させるようにしてもよい。
【0151】
上述の実施の形態では、屈折率像が、各計測点の位置関係で、当該計測点での特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、設定される複数の段階(階調)によって色として分類して示すものとされた。しかしながら屈折率像としての示し方はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0152】
例えば、特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、棒グラフにより計測点の位置関係で示す屈折率像が適用されてもよい。要は、各計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の平均を、該計測点の位置関係で示す像であればよい。
【0153】
なお、特定周波数帯域の屈折率は、平均に限らず、例えば分散等のように所定の統計学的手法により得られる値(統計値)であればよい。
【0154】
上述の実施の形態では、各計測点での周波数ごとの屈折率像が表示用として用いられた。これに加えて、ゲイン調整用のパラメータとして用いることもできる。
【0155】
上述の実施の形態における解析処理では、屈折率像と組織サンプル像(可視像)とが見比べ可能な状態で表示された。屈折率像に対して、見比べ可能な状態で表示すべき情報は、組織サンプル像(可視像)に限定されるものではない。
【0156】
例えば、Rf−Tz波形、Sm−Tz波形、Rf−スペクトル、Sm−スペクトル及びスペクトル比の全部又は一部を、組織サンプル像(可視像)とともに表示する形態が適用されてもよい。この形態を適用すれば、生体サンプルの状態をより一段と詳細に把握させることができる。
【0157】
上述の実施の形態ではプレパラートステージ15の移動によって焦点位置が可変された。しかしながら焦点可変手法は、この実施の形態に限定されるものではない。例えば、集光光学系OP1又は撮像レンズ24に対するステージの移動によって焦点位置を可変する焦点可変手法が適用可能である。別例として、プレパラートステージ15と集光光学系OP1又は撮像レンズ24に対するステージとの双方の移動によって焦点位置を可変する焦点可変手法が適用可能である。
【0158】
ちなみにステージの駆動手段は、電磁方式のリニアモータ,ステッピングモータや、ピエゾアクチュエータ,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などがある。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、工業、医療、バイオ、農業、セキュリティ又は情報通信・エレクトロニクスなどの産業上において利用可能である。
【符号の説明】
【0160】
1……サンプル解析システム、10……テラヘルツ波分光装置、11……超短レーザー、12……ビームスプリッタ、13……光学遅延部、14……テラヘルツ波発生素子、15……プレパラートステージ、16……テラヘルツ波検出素子、20……サンプル撮像装置、21……光源、22……偏光ビームスプリッタ、23……1/4波長板、24……撮像レンズ、25……撮像素子、30……サンプル解析装置、31……CPU、32……ROM、33……RAM、34……操作入力部、35……インターフェイス部、36……表示部、37……記憶部、41……識別子割当部、42……界面走査部、43……時間波形部、44……スペクトル波形取得部、45……屈折率算出部、46……屈折率像生成部、47……サンプル像生成部、48……提示部、49……判定部、OP1,OP2……集光光学系、PRT……プレパラート、SD……スライド、TR……組織切片。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得ステップと、
上記スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、
上記スペクトルを用いて、各上記計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出ステップと、
各上記計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成ステップと、
上記像と上記画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御ステップと
を有する生体サンプル解析方法。
【請求項2】
上記生成ステップでは、
上記画像における屈折率が指定された場合、その指定された屈折率に対する、指定外の屈折質の差を、上記計測点の位置関係で示す相関像を生成し、
上記表示制御ステップでは、
上記相関像を、上記画像に代えて又は上記像と上記画像と見比べ可能な状態で、表示させる
請求項1に記載の生体サンプル解析方法。
【請求項3】
スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得手段と、
上記スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得手段と、
上記スペクトルを用いて、各上記計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出手段と、
各上記計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成手段と、
上記像と上記画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御手段と
を有する生体サンプル解析装置。
【請求項4】
コンピュータに対して、
スライドに配される生体サンプルの像を取得すること、
上記スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得すること、
上記スペクトルを用いて、各上記計測点における周波数ごとの屈折率を算出すること、
各上記計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成すること、
上記像と上記画像とを見比べ可能な状態で表示させること
を実行させる生体サンプル解析プログラム。
【請求項1】
スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得ステップと、
上記スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得ステップと、
上記スペクトルを用いて、各上記計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出ステップと、
各上記計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成ステップと、
上記像と上記画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御ステップと
を有する生体サンプル解析方法。
【請求項2】
上記生成ステップでは、
上記画像における屈折率が指定された場合、その指定された屈折率に対する、指定外の屈折質の差を、上記計測点の位置関係で示す相関像を生成し、
上記表示制御ステップでは、
上記相関像を、上記画像に代えて又は上記像と上記画像と見比べ可能な状態で、表示させる
請求項1に記載の生体サンプル解析方法。
【請求項3】
スライドに配される生体サンプルの像を取得する取得手段と、
上記スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得するスペクトル取得手段と、
上記スペクトルを用いて、各上記計測点における周波数ごとの屈折率を算出する算出手段と、
各上記計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成する生成手段と、
上記像と上記画像とを見比べ可能な状態で表示させる表示制御手段と
を有する生体サンプル解析装置。
【請求項4】
コンピュータに対して、
スライドに配される生体サンプルの像を取得すること、
上記スライドとテラヘルツ波の媒質との界面に割り当てられる各計測点にそれぞれ照射され、該界面から出射するテラヘルツ波強度の時間波形のスペクトルを取得すること、
上記スペクトルを用いて、各上記計測点における周波数ごとの屈折率を算出すること、
各上記計測点における特定周波数の屈折率又は特定周波数帯域の屈折率の統計値を、該計測点の位置関係で示す画像を生成すること、
上記像と上記画像とを見比べ可能な状態で表示させること
を実行させる生体サンプル解析プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2011−112548(P2011−112548A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270260(P2009−270260)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FLASH
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FLASH
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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