説明

生体分子を急速に結晶化するための方法及び装置

本発明は、生体分子、好ましくはタンパク質の溶液からの生体分子結晶の急速な形成を促進するための方法及び装置であって、タンパク質の溶液が電場中のその等電点に従って急速に濃縮される方法及び装置に関する。本発明の方法によるタンパク質の結晶化は、数時間以内に起こる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子、好ましくはタンパク質の溶液からの生体分子結晶の急速な形成を促進するための方法及び装置であって、タンパク質の溶液が電場中のその等電点に従って急速に濃縮される方法及び装置に関する。本発明の方法によるタンパク質の結晶化は、数時間以内に起こる。
【背景技術】
【0002】
タンパク質結晶化には、3つの主な適用例、即ち(1)構造生物学及び薬剤設計、(2)生物分離、及び(3)精製がある。結晶形成は、典型的には最適条件での核形成後の飽和タンパク質溶液の調製に基づく、緩慢で冗長なプロセスである。タンパク質結晶化に関する最適条件には、特に飽和溶液中の最適なタンパク質濃度、pH及び温度があり、一方これらの条件は大規模な試行錯誤の実験によって決定される。
【0003】
従来のタンパク質結晶化法、及びタンパク質結晶化を容易にする条件を決定するための方法は、特に米国特許第6,596,077号、米国特許第6,593,118号、米国特許第6,579,358号、米国特許第6,500,933号、米国特許第6,409,832号、米国特許第6,268,158号、米国特許第5,976,325号、米国特許第5,728,559号、米国特許第5,271,795号、米国特許第5,104,478号、米国特許第4,737,232号及び米国特許第4,330,363号中に開示されている。
【0004】
シリカヒドロゲル、アガロース及びポリアクリルアミドなどのゲル中での生体分子、特にタンパク質の結晶化は当分野で知られている(例えば、CrystalEx(商標)、Hampton Research Corp.)。液体溶液からの成長と比較して浮力、対流及び沈降を考慮する必要がないので、この方法は有利であると考えられる。この方法はさらに、ゲルの粘性によって分子拡散を制御し、したがって多くの点で宇宙のような微重力環境中の結晶成長の有益な性質を模倣する。この方法の他の利点は、結晶は周囲温度ではゲル中において被包状態に保たれること、形状をX線回折に直接施すことさえも可能であることである。この方法は基本的に、重合前又は重合後、数日間から数週間の制御温度でのゲル中への保存後、ゲルに10〜20mg/mlの濃度でタンパク質溶液を、タンパク質の結晶化が起こるまで加えることを含む。この方法を使用して、適切な結晶が得られたことが示されたが(Sauterら、「タンパク質;構造、機能及び遺伝的性質(Proteins:Structure、Function and Genetics)」48:146〜150、2002)、しかしながら、この方法はタンパク質結晶の成長に関してはほとんど使用されず、当分野で知られている他の方法と同程度に緩慢である。
【0005】
等電点電気泳動(IEF)技術は、pHと共に変わるタンパク質の特徴的な純電荷に基づく、タンパク質の分離及び精製用に広く使用されている。タンパク質は、それぞれのタンパク質がその純電荷がゼロである勾配内の地点に移動するpH勾配のある電場に施し、この地点は「等電点」又は「pI」と呼ばれる。
【0006】
タンパク質の分離及び精製用のIEF技術は、特に本発明の本発明者によるWO03/008977、米国特許第6,537,432号、米国特許第5,480,562号、米国特許第5,464,517号、米国特許第5,451,662号、米国特許第5,082,548号、米国特許第4,971,670号、米国特許第4,495,279号、及び米国特許第4,243,507号中に記載されている。
【0007】
結晶の成長が遭遇する障害を克服するため、及び結晶化、特にタンパク質の結晶化を可能にするためのさらに迅速で消耗の少ない手段を提供するための、対処されていない必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体分子の濃縮溶液を得て次いで前記生体分子を急速に結晶化するための等電点電気泳動を使用して、典型的にはわずか数時間以内に、生体分子を急速に結晶化するための方法及び装置に関する。
【0009】
本発明は、任意のIEF手順を使用することにより希釈タンパク質溶液を濃縮することによって、溶液内のタンパク質の急速な結晶化を容易にするタンパク質溶液が生成するという、予期せぬ発見に部分的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様によれば、本発明は生体分子を急速に結晶化するための方法であって、
(a)少なくとも1つの生体分子種を提供するステップと、
(b)少なくとも1つの生体分子種のpIを含むpH範囲を有するIEFバッファーを含む、少なくとも1つの結晶化リアクターを提供するステップと、
(c)前記少なくとも1つの生体分子種と少なくとも1つの結晶化リアクターを接触させるステップと、
(d)前記少なくとも1つの結晶化リアクターに電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの生体分子種の濃縮溶液を生成するステップと、
(e)前記少なくとも1つの結晶化リアクター内で少なくとも1つの結晶を得るステップと
を含む上記方法を提供する。
【0011】
他の実施形態によれば、ステップ(c)は、少なくとも1つの結晶化リアクター及び少なくとも1つの生体分子種をランニングバッファー中に置くステップをさらに含む。ステップ(c)は、ランニングバッファーを攪拌するステップをさらに含むことが好ましい。ステップ(e)は、生体分子結晶の形成を監視するステップをさらに含むことが有利である。
【0012】
さらに他の実施形態によれば、結晶化は24時間以内、好ましくは12時間未満以内に起こる。
【0013】
他の実施形態によれば、少なくとも1つの生体分子種は、溶液、ゲル及び懸濁液からなる群から選択される媒体中に与えられる。
【0014】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの生体分子種は固体支持体上に固定される。
【0015】
本明細書で使用する用語「結晶化リアクター」又は「リアクター」は、一定のpH範囲を有するIEFバッファーを含む所定の体積、密度、及び粘度の任意の媒体を指す。いくつかの実施形態によれば、IEFバッファーは少なくとも1つのポリマーをさらに含み、生成する結晶化リアクターは所定の多孔度を有する。密度、粘度、孔の大きさ(IEFバッファーがポリマーを含む場合)及び結晶化リアクターの体積は、所望の生体分子がリアクターに入ることができ、さらにその中で拡散することができるように設計する。結晶化リアクターの体積は、使用される所望の生体分子の量に依存する。その体積内では、結晶化が起こる。本発明の結晶化リアクターは、電場の影響下で機能的に安定していることが好ましい。
【0016】
本明細書で使用する「IEFバッファー」は、その広い意味で使用して、所与のpH値付近でバッファー能力を有し、本明細書で以後バッファー剤とも呼ぶ成分を含むバッファーを表す。或いはバッファーは、両性電解質、アンフォリン、アクリルアミド誘導体又はバッファー剤の組合せだけには限られないがこれらを含めた、組織化してpH勾配を形成する成分を含むことができる。本発明のIEFバッファーは典型的には結晶化リアクターの成分であり、粘性液体、スラリー又はゲルの形である。本発明によれば、生体分子のpIがIEFバッファーのpH範囲内にない限り、生体分子はIEFバッファーを通過することができる。本発明のIEFバッファーは、電場の影響下で機能的に安定していることが好ましい。
【0017】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの生体分子種は、化学成分を含むタンパク質複合体、ペプチド、タンパク質、ポリペプチド、酵素、抗体、タンパク質−DNA複合体、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、抗原、抗原エピトープ及びその変異体、ホルモン、炭水化物、脂質、リン脂質並びにビオチン化プローブからなる群から選択される。好ましい実施形態によれば、生体分子種はタンパク質である。生体分子はタンパク質、ペプチド又はポリペプチドから選択されることが好ましい。
【0018】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターはキャピラリー内に与える。さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターは固体支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる。
【0019】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターはポリマーを含み、ポリマーは直鎖ポリマー、分岐ポリマー、ポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、セルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択される、1つ又は複数の物質を含む。さらに他の実施形態によれば、ステップ(b)で使用する物質はポリマーを含む。
【0020】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターはポリマーをさらに含み、ポリマーは分岐ポリマー、直鎖ポリマー、ポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、グリコールポリマー、セルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む。
【0021】
さらに他の実施形態によれば、IEFバッファーは0.2pH単位を超えない、好ましくは0.1pH単位を超えない、より好ましくは0.02pH単位を超えない狭いpH範囲を有する。
【0022】
さらに他の実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度は0〜30℃の範囲内に維持する。
【0023】
さらに他の実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度は0〜30℃の範囲内に維持し、電場強度は50V/cmと2000V/cmの間に維持する。
【0024】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(d)は電場を与えることができるデバイスの存在下で行い、電場はDC又はACとして供給する。
【0025】
ある実施形態によれば、デバイスは陰極、陽極及び電圧電源供給装置を含む。一実施形態によれば、電場がリアクター中又はリアクター内を通過するように、結晶化リアクターの反対側に電極を置く。他の実施形態によれば、電極はワイヤーである。さらに他の実施形態によれば、電極はワイヤー又は薄プレートの平行組である。さらに他の実施形態によれば、電極は白金、チタン、クロム、金、タンタル、パラジウム、酸化パラジウム、ゲルマニウム、ニッケル及びロジウム又はこれらを含む合金からなる群から選択される物質でできているか、或いはこれらでコーティングされている。電極はパラジウム、白金、チタン、炭素又はこれらを含む合金でできているか、或いはこれらでコーティングされていることが好ましい。
【0026】
デバイスが働いて、生体分子を結晶化リアクター内に向ける。したがって、さらに他の実施形態によれば、電場は交流電場又は直流電場から選択される。結晶化リアクターが密閉系内に含まれる場合、(例えば、電場がリアクターの片側、リアクターの反対側の外を通過することができない)、したがって、デバイスは電場を、バッファーを含む結晶化リアクターの内側及び外側に向けることができることが有利である(即ち、交流電場)。
【0027】
他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターは、任意の望ましい形状及び幾何形を有することができる。
【0028】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターは円筒形を有する。いくつかの実施形態によれば、前記少なくとも1つの結晶化リアクターの直径は約20μm〜約10mmである。いくつかの他の実施形態によれば、前記少なくとも1つの結晶化リアクターの長さは約0.5mm〜約10mmである。
【0029】
様々な実施形態によれば、本発明の方法のステップ(a)は、複数の結晶化リアクター中で互いに同じであるか或いは異なるIEFバッファーをそれぞれの結晶化リアクターが含む、複数の結晶化リアクターを提供することを含む。好ましい実施形態によれば、結晶化リアクターは互いに離れている。ある実施形態によれば、ステップ(e)は、それぞれの結晶化リアクター内で少なくとも1つの結晶を得ることを含む。他の実施形態によれば、ステップ(e)は、複数の結晶化リアクター内で複数の結晶を得ることを含む。
【0030】
一実施形態によれば、それぞれのIEFバッファーは0.2pH単位を超えない、好ましくは0.1pH単位を超えない、より好ましくは0.02pH単位を超えない狭いpH範囲を有する。他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターのpH範囲は重複しない。或いは、複数の結晶化リアクターのpH範囲は部分的に重複する。本明細書で使用する用語「部分的に重複する」は、その最も一般的な意味で解釈され、例えば1つのpH範囲の上限が少なくとも1つの他のpH範囲の下限と重複する複数のpH範囲を指す。或いはこの用語は、1つのpH範囲が少なくとも1つの他のpH範囲より広く、したがって広い方のpH範囲が1つの他のpH範囲を完全に含む、複数のpH範囲を指すことができる。
【0031】
さらに他の実施形態によれば、1つ又は複数のIEFバッファー間のpHステップは0.1pH単位を超えず、好ましくは0.02pH単位を超えない。用語「pHステップ」は、異なる又は部分的に異なるpH範囲を有する2つの異なるIEFバッファー間のpH値の増分差を指す。pHステップは、1つのpH範囲の上限と他のpH範囲の下限の間の差を指すことができる。或いはpHステップは、1つのpH範囲の中央pH値と他のpH範囲の中央pH値の間の差を指すことができる。
【0032】
さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターを支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる。他の実施形態によれば、結晶化リアクターを空間的に接触可能な方法で支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる。さらに他の実施形態によれば、支持体は生体分子不透過性である。さらに他の実施形態によれば、支持体はイオン不透過性である。
【0033】
さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターを含む支持体は固定化pH勾配、pH膜及びプレキャストゲルからなる群から選択される形態であってよい。
【0034】
他の態様によれば本発明は、複数の生体分子を含む溶液を選別し、そこから選択した少なくとも1つの生体分子種を急速に結晶化するための方法であって、
(a)複数の生体分子を含む媒体を提供するステップと、
(b)支持体上の複数の生体分子を選別し、それによって少なくとも1つの生体分子種を含む支持体上に少なくとも1つの位置を得るステップと、
(c)少なくとも1つの位置を含む部分を前記支持体から回収するステップと、
(d)少なくとも1つの生体分子種のpIを含むpH範囲を有するIEFバッファーを含む、少なくとも1つの結晶化リアクターを提供するステップと、
(e)(c)の部分と少なくとも1つの結晶化リアクターを接触させるステップと、
(f)少なくとも1つの結晶化リアクターに電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの結晶化リアクター内に、前記少なくとも1つの生体分子種の濃縮溶液を生成するステップと、
(g)前記少なくとも1つの結晶化リアクター内で少なくとも1つの生体分子結晶を得るステップと
を含む上記方法を提供する。
【0035】
他の実施形態によれば、ステップ(b)は支持体上の複数の生体分子を選別し、それによって少なくとも1つの位置、1つの生体分子種を含む位置を支持体上に得ることを含む。
【0036】
一実施形態によれば、ステップ(b)中の選別は、少なくとも1つの生体分子種の質量によるものである。他の実施形態によれば、等電点電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術を含めた薄層クロマトグラフィー(TLC)、及びゲル電気泳動からなる群から選択される方法によってステップ(b)を行う。これらの方法のいずれか1つは、非変性条件下で行うことが好ましい。
【0037】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(e)は前記部分及び前記少なくとも1つの結晶化リアクターをランニングバッファー中に置くステップをさらに含む。ステップ(e)は、ランニングバッファーを攪拌するステップをさらに含むことが好ましい。ステップ(g)は、生体分子結晶の形成を監視する及び/又は検出するステップをさらに含むことが有利である。
【0038】
さらに他の実施形態によれば、結晶を24時間以内、好ましくは12時間以内に得る。
【0039】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(d)のIEFバッファーは0.2pH単位を超えない、好ましくは0.1pH単位を超えない、より好ましくは0.02pH単位を超えないpH範囲を有する。
【0040】
さらに他の実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度は0〜30℃の範囲内に維持する。さらに他の実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度は0〜30℃の範囲内に維持し、電場は50V/cmと2000V/cmの間である。さらに他の実施形態によれば、電場はDC又はACとして供給する。
【0041】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(b)中で使用する支持体はゲルである。他の実施形態によれば、ステップ(b)中で使用する支持体は、ポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、セルロース、ニトロセルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択されるポリマーを含む。さらに他の実施形態によれば、ステップ(b)中で使用する支持体はポリマーを含み、ステップ(f)は、
少なくとも1つの結晶化リアクターに電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの結晶化リアクターにおいて、前記少なくとも1つの生体分子種の濃縮バンドを生成させることを含む。
【0042】
さらに他の実施形態によれば、本発明の方法は自動化されており、生体分子、好ましくはタンパク質の高スループットの結晶化に適している。
【0043】
本発明の方法は、それが典型的には1時間未満以内に急速なタンパク質結晶化を助長する点において、タンパク質結晶化のための当分野で知られている方法より有利である。さらに本発明の方法は大きな結晶を得ることができ、したがって十分大きな結晶を必要とする適用例、例えば高品質のX線回折データの回収に適している。
【0044】
本発明の方法による急速な結晶化は、固定化pH勾配(IPG)ストリップ、pH膜、及び所望のpH範囲を有するゲル中の両性電解質の任意の組成物などの、当分野で知られている多くのIEF系を使用して実施することができる。ただし、IEF系は本発明の原理に適合しているか、或いは適合するように改変されているものとする。好ましくは、本発明のIEF系は、結晶化リアクターとも呼ばれる複数の異なる物体を含み、それぞれの結晶化リアクターはあるpH範囲を有するIEFバッファーを有する。場合によっては、結晶化リアクターは互いに離れており、したがって複数の離れたpH範囲、場合によっては狭いpH範囲の系を確立する。複数の離れた結晶化リアクターによって広がるpH範囲は、重複するか或いは重複しない可能性がある。
【0045】
本発明の方法の他の特定の利点は、十分に精製されていないタンパク質溶液から、タンパク質結晶を得ることができることである。何故なら本発明の方法は、タンパク質分離及び不純物からの分離を対象とする等電点電気泳動を含むからである。
【0046】
他の態様によれば本発明は、生体分子、好ましくはタンパク質の結晶の急速な形成を誘導するのに適した装置であって、
(a)上側及び下側を有するバッファー室であって、バッファー室が流体を保持することができる少なくとも1つのバッファー区画を囲うように下側が底部で封じられているバッファー室と、
(b)少なくとも1つの結晶化リアクターであって、この少なくとも1つの結晶化リアクターはIEFバッファーを含み、この少なくとも1つの結晶化リアクターがバッファー室内に含まれる少なくとも1つの結晶化リアクターと、
(c)電場を生成させるためのデバイスと、場合によって、
(d)バッファー区画内に含まれる流体を循環させるための手段と
を含む上記装置を提供する。
【0047】
一実施形態によれば、装置は上側及び下側を有するホルダーをさらに含み、このホルダーは少なくとも1つの結晶化リアクターを含み、或いは少なくとも1つの結晶化リアクターを含む支持体を支持するように適合されており、前記少なくとも1つの結晶化リアクターがIEFバッファーを含み、このホルダーはバッファー室内に含まれている。他の実施形態によれば、少なくとも1つのバッファー区画内にホルダーを配備する。ある実施形態によればホルダーは、少なくとも1つの結晶化リアクターを含むキャピラリーである。
【0048】
他の実施形態によれば、装置は2つの端部を有する2つの塩橋をさらに含み、それぞれの塩橋の1つの端部はホルダーの1つの端部と接触しており、それぞれの塩橋の1つの端部は少なくとも1つのバッファー室内に含まれている。装置は、それぞれのバッファー室が1つの塩橋の1つの端部を囲うようなそれぞれのバッファー室である、2つのバッファー室を含むことが好ましい。
【0049】
好ましい実施形態によれば、装置は少なくとも1つの結晶化リアクターにおいて温度を管理することができる温度制御モジュールをさらに含む。
【0050】
他の実施形態によれば、ホルダーは少なくとも1つの空洞を含み、この少なくとも1つの空洞はIEFバッファーを含む結晶化リアクターを含む。
【0051】
さらに他の実施形態によれば、それぞれの空洞を結晶化リアクターを含むように適合させた複数の空洞を、ホルダーは有する。いくつかの実施形態によれば、1つの結晶化リアクターの温度は他の結晶化リアクターの温度と異なる。
【0052】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは、結晶化リアクター内に含まれるポリマーの耐性より大きな耐性を有する物質を含む。
【0053】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは非導電性物質を含む。非導電性物質は、ポリ−N−メチルメタクリルアミド、アクリル、ルサイト、ポリスチレン、セラミック、ガラス及びポリ−メチル−メタクリレートからなる群から選択することができる。
【0054】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは生体分子に対して不透過性である物質を含み、1つの空洞内の結晶化リアクターから任意の他の空洞内の結晶化リアクターへのタンパク質の拡散を回避する。
【0055】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターはポリマーをさらに含み、ポリマーは、分岐ポリマー、直鎖ポリマー、ポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、グリコールポリマー、セルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択される、少なくとも1つの物質を含む。
【0056】
さらに他の実施形態によれば、バッファー室は非導電性物質を含む。
【0057】
さらに他の実施形態によれば、本発明の装置を、少なくとも1つの結晶化リアクター内での結晶の形成を顕微鏡下で監視するために適合させる。
【0058】
他の実施形態によれば、バッファー区画は、ランニングバッファー及びランニングバッファー中に溶けた少なくとも1つの生体分子を含む溶液を保持するように適合させる。
【0059】
一実施形態によれば本発明は、高スループットで急速なマクロ分子の結晶化のための、小型化及び自動化された装置並びに方法を提供する。本発明の装置は、自動式相互作用成分、例えばIEFバッファー(イモビリン、両性電解質など)を含む前重合結晶化リアクターを空洞に充填するための滴定装置、空洞又は結晶化リアクターからタンパク質結晶を回収するための抽出装置、及び結晶化リアクター内のタンパク質結晶の形成を調べて記録するためのデバイスを有すると解釈することができる。
【0060】
本発明のこれらの目的及び他の目的、特徴並びに利点は、以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
本発明は、タンパク質溶液からのタンパク質結晶の急速な生成を誘導するための方法及び装置を提供する。本発明の方法は等電点電気泳動、及びしたがって典型的には15時間の間以内の急速なタンパク質の結晶化を容易にする、濃縮タンパク質溶液又はバンドの形成を含む。
【0062】
タンパク質結晶を成長させるために使用されている現在の方法はいずれも、結晶の形成をもたらすと思われる最適条件のために、冗長な「試行錯誤の」実験及び調査を利用するものである。タンパク質の結晶化に影響を与える様々な要因の総説は、McPherson、Methods Enzymol.、114、pp.112〜20(1985)によって公開されている。McPherson及びGilliland、J.「結晶の成長(Crystal Growth)」、90、pp.51〜59(1988)は、結晶化されたタンパク質及び核酸、並びにそれらが結晶化された条件のリストを編集した。結晶及び結晶化法、並びに解明されたタンパク質及び核酸構造の配位のまとめの概要は、Brookhaven National LaboratoryのProtein Data Bankによって保持されている[http//www.pdb.bnl.gov;Bernsteinら、J.Mol.Biol.、112、pp.535〜42(1977)]。これらの参照を使用して、適切なタンパク質結晶を形成するための前置きとしてタンパク質の結晶化に必要な条件を決定することができ、他のタンパク質用の結晶化戦略を手助けすることができる。或いは、優れた試行錯誤式の検索戦略は大抵の場合、タンパク質に関する許容可能なレベルの純度を得ることができるという条件で、多くのタンパク質に関する適切な結晶化条件を生み出すことができる[例えば、C.W.Carter、Jr.及びC.W.Carter、J.Biol.Chem.、254、pp.12219〜23(1979)を参照のこと]。
【0063】
一般に結晶は、結晶化するタンパク質と適切な水性溶媒又は塩などの適切な結晶化剤を含む水性溶媒、又は有機溶媒を組み合わせることによって生成される。溶媒はタンパク質と組み合わせ、結晶化を誘導するのに適しておりタンパク質の活性及び安定性を維持するのに認め得ると実験によって決定した温度において攪拌を施すことができる。溶媒は2価カチオンなどの共溶質、共因子又はカオトロープ剤、並びにpHを調節するためのバッファー種を場合によっては含むことができる。共溶質及びそれらの濃度に関する必要性を実験によって決定して、結晶化を容易にする。
【0064】
産業規模のプロセスでは、結晶化をもたらす調節型の沈殿を、バッチプロセスにおけるタンパク質、沈殿剤、共溶質、及び場合によってはバッファーの単純な組合せによって最適に行うことができる。他のオプションとして、出発物質としてタンパク質沈殿剤を使用することによって、タンパク質を結晶化することができる。この場合、タンパク質沈殿剤を結晶化溶液に加え、結晶が形成されるまでインキュベートする。他の研究室での結晶化法、透析又は蒸気拡散法なども採用することができる。McPherson同書及びGilliland同書は、結晶化の文献のその総説中に適切な条件の包括的なリストを含む。
【0065】
明確な等電点を有する任意のタンパク質を使用して、本発明の教示に従いタンパク質結晶を調製することができる。しかしながら、結晶化に関する条件、IEPバッファーの含量、密度、粘性、及び他の特徴など、並びに結晶化リアクターにおける温度、特に設定パラメータを最適化して、望ましい質の結晶を生成することができることを記さなければならない。したがって、これらの特徴及び条件をある程度調節することは、本発明の方法及び装置を使用して結晶を与えるために必要な可能性があることは、当業者により理解されるであろう。
【0066】
用語「タンパク質結晶」又は「結晶」を本明細書において交互に使用して、結晶格子に配列したタンパク質分子を記載する。タンパク質結晶は、3次元構造中で周期的に繰り返されるある型の特異的なタンパク質−タンパク質結合を含む。本発明のタンパク質結晶は、タンパク質溶液の凍結乾燥によって得られるものなどの、無定形の固体形タンパク質又はタンパク質の沈殿は含まない。結晶は格子構造、独特な形状、並びに屈折率及び複屈折などの光学的性質を含めた独特な特徴を示す。結晶は、3次元構造中で周期的に繰り返される型で配列した原子からなる。対照的に無定形物質は、ときどき無定形沈殿と呼ばれる非結晶性の固体形の物質である。このような沈殿は結晶固体状態に独特な分子の格子構造を有しておらず、結晶形の物質に典型的な複屈折及び他の分光性を示さない。
【0067】
用語「濃縮タンパク質溶液」又は「濃縮溶液」を本明細書において交互に使用して、タンパク質の濃度が飽和、又はさらに過飽和から約50%飽和と等しい濃度の範囲である、少なくとも1つのタンパク質を含む媒体を記載する。IEFバッファーが重合される場合、タンパク質は濃縮によってバンドを形成し、したがって「濃縮タンパク質バンド」又は「濃縮バンド」の用語を使用する。
【0068】
典型的には、本発明のタンパク質結晶化は、ランニングバッファー中においてタンパク質溶液を用いて開始することができ、そのタンパク質溶液は知られている等電点(pI)を有する少なくとも1つのタンパク質を含む。タンパク質溶液は希釈溶液であってよい。タンパク質溶液に電場を導入すると、タンパク質のpIと重複するpH範囲を有するIEFバッファーを含む結晶化リアクター中にタンパク質が誘導される。したがって、それぞれのタンパク質分子は、前記リアクターの体積中に誘導されるとその電荷を放出し、電場中での動きが止まり、結晶化リアクター中に非電荷タンパク質の濃縮溶液又はバンドが生成する。最初に希釈した溶液からの、タンパク質の電気泳動による蓄積及び濃縮のプロセスは非常に早く効率的であり、典型的には約数分間、或いはさらに数十分間のタイムスパン内で起こる。蓄積するタンパク質分子は、拡散によって結晶化リアクター内で広がり、その中での急速な結晶核形成及び成長をもたらす。
【0069】
「等電点電気泳動」又は「IEF」は、IEF法に曝される分子、典型的にはタンパク質の純電荷に基づく一般的な分離技術である。タンパク質の純電荷は、そのアミノ酸含量から測定する。典型的なタンパク質で見られる20個のアミノ酸のうち、4個(アスパラギン酸及びグルタミン酸、システイン及びチロシン)は負電荷を有しており、3個(リシン、アルギニン及びヒスチジン)はあるpH範囲で正電荷を有する。アミノ酸のその特異的配列によって定義される特異的タンパク質は、その長さ部分に沿っていくつかの帯電した基をしたがって取り込む可能性がある。電荷及びpHに関する滴定曲線に従い問題のアミノ酸のpKに従うと、それぞれのアミノ酸によって貢献される電荷の程度は周辺溶液の優勢pHによって支配され、最小値0から最大値1の電荷まで変わる可能性がある(アミノ酸に依存して陽性又は陰性)。すべてのアミノ酸が露出される変性条件下では、タンパク質分子の合計電荷は、いずれも優勢な溶液pHにおける、その成分であるアミノ酸の電荷の合計によって大まかに与えられる。
【0070】
IEFは、それらの等電点によってタンパク質を分離するための、広く使用されている電気泳動法である。IEFは、典型的にはゲル内で所望のIEFバッファーによって確定されるpH勾配による、帯電したタンパク質の移動に関するものであり、タンパク質の移動は電場から派生するか或いは電場によって誘導される。特定のpIを有するタンパク質はその電荷を失い、そのタンパク質のpIと等しいpHを有するpH勾配ゲル中の位置に達すると、したがってゲル内での移動を止める。この位置でタンパク質は蓄積する。IEFの利点は、それぞれが特定のpIを有する複数のタンパク質を、溶液中のタンパク質混合物に直接由来する別個のバンド中で分析することができることである。古典的IEF法の最終的な結果は、それぞれのpHバンドが特定のpIを有する特定のタンパク質に載せられている、複数のpHバンドである。異なる比率の帯電アミノ酸を有する2つのタンパク質は、あるpHでのそれらの異なる純電荷によって分離することができる。印加する電場の影響下では、より強く帯電したタンパク質が、同じ大きさ及び形状のあまり帯電していないタンパク質より速く移動するであろう。非対流媒体(典型的にはポリアクリルアミドなどのゲル)を介してサンプルゾーンからタンパク質を移動させる場合、電気泳動による分離が生じるであろう。印加する電場の下での移動の過程で、そのpHがタンパク質の純電荷がゼロである値を有する領域(等電点pH)にタンパク質が入る場合、タンパク質はその媒体に対して移動するのを止めるであろう。さらに、単調なpH勾配を介して移動が起こる場合、タンパク質はこの等電点pH値に「集まる」であろう。タンパク質がさらに酸性のpH値に移動する場合、タンパク質はさらに正に帯電し、正確に方向付けされた電場は等電点にタンパク質を押し戻すであろう。同様に、タンパク質がさらに塩基性のpH値に移動する場合、タンパク質はさらに負に帯電し、同じ電場が等電点にタンパク質を押し戻すであろう。等電点電気泳動と呼ばれるこの分離法は、各配列中の数百個の中のわずか1個の帯電したアミノ酸が異なる2つのタンパク質を解明することができる。
【0071】
等電点電気泳動の手順に関する重要な要件は、適切な空間的pH勾配の形成である。これは帯電分子(両性電解質)の異種混合物を最初は均質な分離媒体に封入することによって動的に、或いは空間的勾配の滴定基を、その中で移動が起こるゲルマトリクスに取り込ませることによって静的に実施することができる。前者は古典的な両性電解質系の等電点電気泳動であり、後者はさらに最近開発された固定化pH勾配(IPG)等電点電気泳動技術である。IPG手法はpH勾配がゲル中で固定されるという利点を有し、一方で両性電解質系の手法は、両性電解質分子が印加した電場中を移動するので位置移動の影響を受けやすい。最良の現在の方法は2つの手法を組み合わせて、pH勾配が空間的に固定されているが、少量の両性電解質が存在してタンパク質のIPGの帯電したゲルマトリクス上への吸着を低下させる系を与える。
【0072】
所望のpH勾配IPGゲルを形成するのに必要な組成勾配は、塩基性pHを生み出すために配合した重ゲルモノマー組成物、酸性pHを生み出すために配合した軽ゲルモノマー組成物、過硫酸アンモニウムなどの重合開始剤、及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)などの重合触媒から一般に生成される。グリセロール及び酸化ジューテリウム(重水)を使用して、溶液の密度を増大させることができ、したがって生じる密度勾配と地球の重力の相互作用によって、モールド中で形成される勾配の安定化を手助けすることができる。いくつかの参照文献は、重合可能なモノマーの勾配を生み出すための自動式デバイスを記載している。このようなシステムは、タンパク質の分子量による分離において使用する多孔質勾配ゲルを作製するために使用されてきている。Altlandら(Clin.Chem.30(12Pt1):2098〜2103、1984)は、IPGゲルの作製において使用する滴定モノマーの勾配を生み出すための、このようなシステムの使用を示している。米国特許第4,169,036号は、電気泳動分離用のスラブ−ゲルホルダーを装着させるためのシステムを記載している。勾配ゲルを生成するための自動装置の開示は、特に米国特許第4,594,064号、米国特許第6,554,991号中に開示されている。
【0073】
本発明による急速な結晶化は、本発明の実施を可能にするための適切な物理的条件を必要とする。本発明の方法及び装置内のいくつかの要因が、結晶化の動態に影響を与える。
【0074】
最初に、所望のタンパク質が適切な結晶化リアクターに接近することを確実にするために、ランニングバッファー中の分子の動態を速めて、任意の分子が結晶化リアクターと衝突する確率を高めることが有利である。
【0075】
ランニングバッファー中のタンパク質の移動は、本発明の方法によって導入する電場によって生じる対流熱の結果として増大することが有利である。タンパク質のこの増大した動態は、任意のタンパク質がランニングバッファー中に浸された結晶化リアクターと衝突し、さらにその中で捕捉される確率を高めると企図される。
【0076】
一実施形態によれば、ランニングバッファー中のタンパク質の速度は、ランニングバッファーを循環させるデバイスによって加速させる。循環は典型的には、攪拌バー、ポンプ、バイブレータ、例えば圧力バイブレータ、攪拌装置、傾斜型デバイス、又は当分野で知られている任意の攪拌デバイス及び技術を使用して実施することができる。他の実施形態では、循環用のデバイスは、ランニングバッファーに対してIEFバッファー又は結晶化リアクターを動かすための機構であってよい。例えば、IEFバッファー又は結晶化リアクターをランニングバッファー中で回転させることができる。
【0077】
或いは、本発明の方法はこのような循環デバイスを欠く。本発明の他の実施形態では、等電点電気泳動中に自然に生じる対流電流によってのみ循環を与える。
【0078】
他の実施形態によれば、生体分子を循環させるのに十分な対流エネルギーの量は、ランニングバッファー1cm当たり10−10ジュールである。
【0079】
さらに他の実施形態によれば、本発明の方法は、WO03/008977中に開示された原理に従う迅速なIEF手順を使用することを含む。
【0080】
第2に、適切な結晶化リアクターと接触する所望のタンパク質が前記リアクターと衝突し、濃縮タンパク質溶液又は濃縮タンパク質バンドを形成することを確実にすること。典型的には、濃縮タンパク質溶液/バンドは結晶化リアクター内、結晶化リアクターと外部環境の間の界面の近辺で生じ、次いでタンパク質は結晶化リアクター内に入り拡散し、タンパク質結晶を最終的に形成する。
【0081】
結晶化リアクターの粘性及び体積は、所望のタンパク質がリアクターに入りその中で拡散することができ、そのリアクター内でさらに結晶化することができるように設計する。結晶化リアクター内のIEFバッファーがゲルの形である場合、したがってそのゲルの多孔度をさらに調節して所望の結晶を得る。ゲル中のタンパク質に関する典型的な拡散定数は、タンパク質分布が約0.1mmの距離に広がる拡散時間が約1000秒(20分まで)であるような拡散定数である。したがって、比較可能な寸法を有する結晶の結晶成長に関する予想時間はこの程度である。
【0082】
結晶化の効率に影響を与える他の重要なパラメータは、結晶化リアクターにおけるpHである。生体分子のpI値よりわずかに上又は下に結晶化リアクターのpH値を変化させることによって、生体分子をリアクターに入った後にわずかな電荷を有する、したがって結晶化リアクター内で他の形式の動きをする状態にする。
【0083】
さらに、結晶化リアクターの構造は他の適用例のための結晶の単離、又は/及び結晶化リアクター内の結晶のX線回折データの回収に適したものでなければならない。
【0084】
結晶化リアクターの構築において、固定液体膜を使用することができる。特に、固定液体膜は本発明の結晶化リアクターに対する外被として使用することができ、所望の生体分子に対する選択的透過性の境界をリアクターに与える。固定液体膜は、典型的には微孔質固体内に封じられる。多孔質膜を作製するための最も広く使用されている簡単な方法の1つはGelgard(商標)法であり、その方法中では半晶質のフィルム又は繊維を溶融物から押し出しする。ポリプロピレンのような固体状ポリマーを伸長させることによって、多孔性が誘導される。0.04μmまでの孔の大きさ、並びに100〜1500μmのID及び25μmの壁の厚さを有する中空繊維が利用可能であり、例えば血中酸素供給器において使用される。このような固定液体膜は、エチルアルコール、エチレングリコール、及びイソプロピルアルコールと一般に適合性がある。広く使用されている多孔質膜の他の例は、Gore−Tex(商標)、微孔質ポリ(テトラフルオロエチレン)であり、これは伸長法によっても製造され、化学的に不活性であり、疎水性合成ポリマー膜である。
【0085】
結晶化リアクターの寸法は使用する所望のタンパク質の量、及び使用するシステム及び/又は装置の型に依存する。結晶化リアクターの容量は、(1)リアクター内、典型的にはリアクターと外部環境の間の界面の近辺の濃縮生体分子溶液/バンドの形成を容易にする、且つ(2)その中での生体分子の拡散を可能にし、したがって前記生体分子の結晶化を可能にするように設計することもできる。
【0086】
第3に本発明の方法は、結晶化リアクター当たりに1つのタンパク質種のみが存在することを必要とする。何故なら、無関係なタンパク質又は他の不純物の存在が、所望の結晶化プロセスに干渉するからである。1つのタンパク質種のみが結晶化リアクターに入ることを確実にするために、IEFバッファーによって結晶化リアクター中に広がるpH範囲はその1つのタンパク質種のpIを含む。しかしながら本発明の方法は、前記種が精製されていない場合でさえも、任意の所望のタンパク質種の結晶化を容易にする。非精製タンパク質の溶液を与える場合、少なくとも1つの結晶化リアクターが、IEFバッファーによって結晶化リアクター中に広がるpH範囲が十分狭く、好ましくは非常に狭く、したがって不純物の結晶化を避ける、所望のタンパク質種のpIを含むIEFバッファーを含むことが必要とされる。
【0087】
したがって、ある実施形態によれば、それぞれの結晶化リアクター内のIEFバッファーは、極端に狭いpH範囲、例えば5.50〜5.60(0.1pH単位以下の差)、又は非常に狭いpH範囲、例えば5.52〜5.54(0.02pH単位以下の差)を有する。本発明のIEFバッファーは一定のpH値に調節された一種のバッファー剤であり得るので、このことは可能である。この場合、IEFバッファーのpH範囲は、バッファー剤が調節されたpH値周辺のバッファー剤のバッファー能力と等しい。本発明に従い使用することができるIEFバッファーの一例は、トリスグリシン(pH8.20+/−0.05、Biorad、カタログ番号161〜0771)である。
【0088】
用語「pH範囲」はIEFバッファー中の最高のpH値から最低のpH値まで(例えば、pH7.9〜pH8.9)、或いはIEFバッファー中の最高のpH値と最低のpH値の間の差を指す(例えば、1.0pH単位)。
【0089】
さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターのpH範囲は重複しない。さらに他の実施形態によれば、1つ又は複数のIEFバッファー間のpHステップは0.1pH単位を超えず、0.02pH単位を超えないことが好ましい。
【0090】
用語「ステップ」又は「pHステップ」を本明細書において交互に使用して、異なるか或いは部分的に異なるpH範囲を有する2つの異なるIEFバッファー間の、pH値の増分差を記載する。例えば、結晶化リアクター#1と結晶化リアクター#2の間のpHステップが0.1pH単位である場合、結晶化リアクター#1はpH6.8で始まりpH7.8で終わるpH勾配を有する可能性があり、結晶化リアクター#2はpH7.9で始まりpH8.9で終わるpH勾配を有する可能性がある(即ち、結晶化リアクター#1の下限、pH7.9と結晶化リアクター#2の上限、pH7.8の間の差、0.1pH単位のステップに相当)。
【0091】
いくつかの実施形態によれば、3つ以上の結晶化リアクターの間のpHステップは均一である必要はない。
【0092】
さらに他の実施形態によれば、結晶化リアクター内の間隔は均一である必要はない。用語「間隔」は、IEFバッファーによって生み出されたpH勾配内のpH値間の増分差を指す。例えば結晶化リアクター内では、リアクター内の全pH範囲中、間隔はわずか0.02pH単位であってよい(例えば、pH6.8、pH6.82、pH6.84、pH6.86など)。
【0093】
いくつかの実施形態によれば、結晶化リアクターの間隔は均一である必要はない。
【0094】
一実施形態によれば、結晶化リアクター内のIEFバッファーのpH範囲は比較的広く、例えば1pH単位を超え、或いは2pH単位を超える。他の実施形態によれば、結晶化リアクター内のIEFバッファーのpH範囲は狭く、例えば約1pH単位以下である。さらに他の実施形態によれば、結晶化リアクター内のIEFバッファーのpH範囲は非常に狭く、例えば約0.2pH単位以下、或いは約0.02pH単位以下である。
【0095】
一実施形態によれば、IEFバッファーのpH間隔は0.1pH単位以下である。他の実施形態によれば、IEFバッファーのpH間隔は0.02pH単位以下である。
【0096】
本発明の一実施形態によれば、2つ以上のIEFバッファーの間のpHステップは0.01単位以下である。本発明の他の実施形態によれば、2つ以上のIEFバッファーの間のpHステップは0.02単位以下である。
【0097】
一実施形態によれば本発明は、生体分子を急速に結晶化するための方法であって、
(a)少なくとも1つの生体分子種を提供するステップと、
(b)少なくとも1つの生体分子種のpIに対応するpHを含むpH範囲を有するIEFバッファーを含む、少なくとも1つの結晶化リアクターを提供するステップと、
(c)前記少なくとも1つの生体分子種と前記少なくとも1つの結晶化リアクターを接触させるステップと、
(d)ランニングバッファー中に電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの結晶化リアクター内に前記少なくとも1つの生体分子種の濃縮溶液を生成するステップと、
(e)濃縮溶液中の前記少なくとも1つの生体分子種を、前記少なくとも1つの結晶化リアクター内で結晶化するステップと
を含む上記方法を提供する。
【0098】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(c)は、少なくとも1つの生体分子種及び前記少なくとも1つの結晶化リアクターをランニングバッファー中に置くステップをさらに含む。さらに他の実施形態によれば、ステップ(c)は、ランニングバッファーを攪拌するステップをさらに含む。ステップ(e)は、生体分子結晶の形成を監視すること及び/又は検出するステップをさらに含むことが有利である。
【0099】
本発明の方法のステップ(c)に従う、少なくとも1つの生体分子種と少なくとも1つの結晶化リアクターの接触は、様々な方法で実施することができる。例えば、溶液中に生体分子を提供する場合、生体分子溶液と少なくとも1つの結晶化リアクターの接触は、一滴又は複数滴の溶液を結晶化リアクターに施すことによって実施することができる。生体分子溶液は、結晶化リアクターに設置、配置又は位置付けして、生体分子と結晶化リアクターの間の接触を得る、膜、マトリクス又は任意の他の吸収性物質上に施すことができる。ゲル断片中に生体分子を提供する場合、そのゲル断片を少なくとも1つの結晶化リアクターと接触させることができる。
【0100】
さらに他の実施形態によれば、本発明の方法のステップ(c)は、実質的に結合した生体分子及び少なくとも1つの結晶化リアクターをランニングバッファーの溶液中に置くことを、さらに含むことができる。
【0101】
本明細書で使用する用語「生体分子」は、細胞、細胞成分又は生物に対して観察可能な影響を有する、人工又は天然の任意の化合物を指す。この用語はタンパク質、化学成分を含むタンパク質複合体、タンパク質−DNA複合体、DNA、RNA、酵素、ペプチド、ポリペプチド、抗体、抗原、抗原エピトープ及びその変異体、ポリヌクレオチド、ホルモン、炭水化物、脂質、リン脂質並びにビオチン化プローブに適用する。用語「生体分子」は、「タンパク質」の好ましい実施形態と共に例示されることが多い。
【0102】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」を交互に使用して、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工の化学成分類似体であるアミノ酸ポリマー、及び天然に存在するアミノ酸ポリマーに適用することもできる。1つ又は複数のアミノ酸残基が「非天然」アミノ酸であり、いずれの天然に存在するアミノ酸にも対応しないアミノ酸ポリマーも、本明細書の用語「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」を使用することによって含まれる。
【0103】
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、RNA又はDNA配列のいずれかであってよい、一連の核酸を5’から3’リン酸ジエステル結合中に含むヌクレオチド配列を指す。核酸がDNAである場合、ヌクレオチド配列は一本鎖又は二本鎖のいずれかである。本発明のタンパク質をコードする核酸は、セルロースと高い親和性で結合することができ、このようなタンパク質をコードする核酸配列と相補的であり、或いはこのようなタンパク質をコードする核酸配列とハイブリダイズし、ストリンジェントな条件下でそれと安定的に結合した状態である、タンパク質をコードするRNA又はDNAである。
【0104】
任意の形のタンパク質を、本発明の方法に従い結晶化することができる。タンパク質は糖タンパク質、リンタンパク質、スルホタンパク質、ヨードタンパク質、メチル化タンパク質、非修飾タンパク質であってよく、或いは他の修飾を含んでよい。このようなタンパク質は、例えば抗体を含めた治療用タンパク質、予防用タンパク質、界面活性剤タンパク質を含めた清浄剤タンパク質、化粧品タンパク質を含めたパーソナルケアタンパク質、獣医学用タンパク質、食品タンパク質、飼料タンパク質、診断用タンパク質及び除染タンパク質であってよい。このようなタンパク質中に含まれるのは、例えばリゾチーム、デヒドロゲナーゼ、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、アデニル酸シクラーゼ、トランスフェラーゼ及びオキシドレダクターゼなどの酵素である。ヒドロラーゼの例には、エラスターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ニトリラーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ、ヒダントイナーゼ、アスパラギナーゼ、ウレアーゼ、スブチリスチン、サーモリシン、並びに他のプロテアーゼ及びリゾチームがある。リアーゼの例には、アルドラーゼ及びヒドロキシニトリルリアーゼがある。オキシドレダクターゼの例には、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸アルコールデヒドロゲナーゼ、及び他のデヒドロゲナーゼがある。他の酵素にはセルラーゼ及びオキシダーゼがある。
【0105】
治療用タンパク質又は予防用タンパク質の例には、ホルモン、例えばインシュリン、グルコゴン様ペプチド1及び副甲状腺ホルモンなど、抗体、阻害剤、成長因子、後中耳ホルモン、神経成長ホルモン、血液凝固因子、接着性分子、骨形態形成タンパク質及びレクチン栄養因子、サイトカイン、例えばTGF−β、IL−2、IL−4、α−IFN、β−IFN、γ−IFN、TNF、IL−6、IL−8、リンホトキシン、IL−5など、遊走阻止因子、GMCSF、IL−7、IL−3、単球−マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、多剤耐性タンパク質、他のリンホカイン、トキソイド、エリスロポイエチン、第VIII因子、アミリン、TPA、ドルナーゼ−α、α−1−アンチトリプシン、ヒト成長ホルモン、神経成長ホルモン、骨形態形成タンパク質、ウレアーゼ、トキソイド、生殖ホルモン、FSH及びLSHがある。
【0106】
治療用タンパク質、以下の:白血球マーカー、例えばCD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD18、CD19、CE20、CD22、CD23、CD27及びそのリガンドCD28、及びそのリガンドB7.1、B7.2、B7.3、CD29及びそのリガンドCD30、及びそのリガンドCD40、及びそのリガンドgp39、CD44、CD45及びイソ型、Cdw52(Campath抗原)、CD56、CD58、CD69、CD72、CTLA−4、LFA−1、及びTCR組織適合性抗原、例えばMHCクラスI又はII抗原、ルイスY抗原、SLex、SLey、SLea及びSLebなど;インテグリン、例えばVLA−1、VLA−2、VLA−3、VLA−4、VLA−5、VLA−6及びLFA−1など;接着性分子、例えばMac−1及びp150、95など;セレクチン、例えばL−セレクチン、P−セレクチン及びE−セレクチン及びそれらの抗受容体VCAM−1、ICAM−1、ICAM−2及びLFA−3など;インターロイキン、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14及びIL−15など;インターロイキン受容体、例えばIL−1R、IL−2R、IL−4R、IL−5R、IL−6R、IL−7R、IL−8R、IL−10R、IL−11R、IL−12R、IL−13R、IL−14R及びIL−15Rなど;ケモカイン、例えばPF4、RANTES、MIP1α、MCP1、NAP−2、Groα、Groβ及びIL−8など;成長因子、例えばTNFα、TGFβ、TSH、VEGF/VPF、PTHrP、EGFファミリー、EGF、PDGFファミリー、エンドセリン及びガストリン放出ペプチド(GRP)など;成長因子受容体、例えばTNFαR、RGFβR、TSHR、VEGFR/VPFR、FGFR、EGFR、PTHrPR、PDGFRファミリー、EPO−Rなど;GCSF−R及び他の造血因子受容体;インターフェロン受容体、例えばIFNαR、IFNβR及びIFNγRなど;免疫グロブリン及びそれらの受容体、例えばIgE、FceRI及びFceRIIなど;血液因子、例えば補体C3b、補体C5a、補体C5b−9、Rh因子、フィブリノゲン、フィブリン及びミエリン関連成長阻害剤なども含まれる。
【0107】
本発明の方法により結晶化されるタンパク質は、例えば破傷風毒素、ジフテリア毒素、ウイルス表面タンパク質、例えばCMV糖タンパク質B、H及びgCIIIなど、HIV−1エンベロープ糖タンパク質、RSVエンベロープ糖タンパク質、HSVエンベロープ糖タンパク質、EBVエンベロープ糖タンパク質、VZVエンベロープ糖タンパク質、HPVエンベロープ糖タンパク質、インフルエンザウイルス糖タンパク質、肝炎ファミリー表面抗原;ウイルス構造タンパク質、ウイルス酵素、寄生虫タンパク質、寄生虫糖タンパク質、寄生虫酵素及び細菌タンパク質を含めた、任意の天然、合成又は組換えタンパク質抗原であってよい。her2−neu、ムチン、CEA及びエンドシアリンなどの腫瘍抗原も含まれる。イエダニ抗原、lolp1(牧草)抗原及びウルシオールなどのアレルゲンが含まれる。シュードモナス内毒素及びオステオポンチン/ウロポンチン、蛇毒及び蜂毒などの毒素が含まれる。糖タンパク質腫瘍関連抗原、例えば胎児性癌抗原(CEA)、ヒトムチン、her−2/neu及び前立腺特異的抗原も含まれる(PSA;Hendersonら、「免疫学の進展(Advances in Immunology)」、62、pp.217〜56、1996)。
【0108】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターはポリマーを含み、ポリマーは直鎖ポリマー、分岐ポリマー、ポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、セルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択される1つ又は複数の物質を含む。結晶化リアクターは、従来のアクリルアミド/ビスアクリルアミド溶液又はアガロース溶液以外の、或いはこれに加えた、様々なモノマーを含むことができる。従来の化学重合型ゲルにおいて、ヒドロキシエチルメタクリレート及び他の低分子量アクリレート型化合物をモノマーとして使用することは知られており、これらは「Lone−Ranger」ゲルとして商用化されてきている。1つ又は複数のアクリレート型基で置換されたポリマーの使用は、アルコール又はアセトンなどの混和性有機溶媒と水の混合溶媒中での分離に非常に適しているとして、文献中にも記載されている(Zewert及びHarrington、「電気泳動(Electrophoresis)」13:824〜831、1992)。ゲル形成モノマーは、ひとたび重合するとその組合せが特定の型の電気泳動に適したゲルを形成するという条件で、架橋を形成することができる物質と組み合わせた、光重合反応基を含む任意の実質的に水溶性である分子であってもよい。
【0109】
IEFバッファーに加えることができる例示的な物質には、メチレン−ビス−アクリルアミド又は他の知られている架橋剤と組み合わせたアクリルアミド;ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリル酸、メタクリル酸の他の低分子量(約300ダルトン未満)誘導体、並びにクロトン酸などのそのアルキル置換誘導体;ビニルピロリドン、並びに他の低分子量ビニル及びアリル化合物;アガロース(「Acrylaide」架橋剤、FMC Corp.)、デキストラン、及び他の多糖の誘導体、並びにヒドロキシエチルセルロースを含めたセルロース誘導体などの誘導体を含めた、非イオン性ポリマーのビニル、アリル、アクリル及びメタクリル誘導体;ポリビニルアルコール;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドのポリマー、及びこれらのコポリマーを含めた、グリコールのモノマー、オリゴマー及びポリマー誘導体;ポリHEMA(ポリヒドロキシエチルアクリル酸)、ポリマーN−イソプロピルアクリルアミド(これは温度感受性である)、マレイン酸ポリマー及びコポリマー、部分的に加水分解されたEVAC(エチレンと酢酸ビニルのポリマー)、エチレンイミン、ポリアミノ酸、ポリヌクレオチド、並びにこれら同士、及びピリジン、ピロリドン、オキサゾリジン、スチレン、及びヒドロキシ酸などのさらに疎水性である化合物とのサブユニットのコポリマーなどの、他の水適合性ポリマーのアクリル、ビニル又はアリル誘導体がある。特に溶媒又は界面活性剤がゲル形成溶液中に含まれるときは、重合可能な物質は完全に水溶性である必要はない。
【0110】
追加的或いは代替的にIEFバッファーは、当分野で知られている方法によって調製することができる一般的なポリマーの誘導体を含むことができる。例えば、酸、無水物又は塩化アシル、無水アクリル酸などを用いたヒドロキシルのエステル化と同様に、アリルグリシジルエーテルをヒドロキシル基に加えることは知られている。無水アシル又は塩化アシルを用いてアミンは容易に誘導体化する。
【0111】
候補となる非アクリルアミドモノマーは、例えばアリルアルコール、HEMA(ヒドロキシエチル[メチル]アクリレート)、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ビニルカプロラクタム、ビニルピロリドン、アリルグリシジルデキストラン、ポリビニルアルコールのアリルグリシジル誘導体、セルロース及び誘導体、酢酸ビニル、並びに1つ又は複数のアクリル、ビニル又はアリル基を含む他の分子を含むことができる。
【0112】
一実施形態によれば、結晶化リアクターは重合IEFバッファーを含み、約20μm〜約5mmの直径、及び約0.5mm〜約10mmの長さなどの寸法を有する。重合バッファーを含む結晶化リアクターは、バッファー区画内のバッファー溶液中に浸したときにその構造を保ち、特にバッファー溶液が電場の影響を受けるときにその構造を保つことが好ましい。
【0113】
結晶化リアクターが重合IEFバッファーを含む場合、IEF手順中に生体分子種の濃縮バンドが、その生体分子種の等電点(pI)がIEFバッファーによって広がるpH範囲内にある場合、結晶化リアクターと外部環境の間の界面付近に形成される。バンド内の生体分子種が次いで結晶化リアクター内に拡散し、予想外に急速な結晶の成長が始まる。
【0114】
前に詳細に述べたように、結晶化リアクターのポリマーは、電気泳動目的に適していることが知られている、任意のよく知られている典型的なゲル形成物質であってよい。このような物質には、十分に化学反応性がありイオン化可能な基、即ちカルボキシル、スルホン、ホスホン基などの酸性基、及びアミノ基などの含窒素塩基性基の導入を可能にするゲル形成ポリマーがある。典型的な適切な物質は、セルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール及び架橋ポリエチレンオキシドを含めたヒドロキシルポリマーである。適切に化学修飾された架橋ポリアクリルアミドゲル、寒天又はアガロースゲルも使用することができる。重合IEFバッファーを含む結晶化リアクターは、ポリマーを加えることによって重合するバッファーを与えることによって、電気泳動の分野で知られているポリマー及び方法を使用することによって一般的に調製することができる。例えば、Sambrookら、(1989)「分子クローニングにおける電気泳動バッファー(Electrophoresis buffers in Molecular Cloning)」(Nolan、C.ed.)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク、pp.B.23〜24を参照。
【0115】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターを固体支持体と連結させる。好都合なことに、結晶化リアクターを支持体、例えば多孔質担体支持体、濾過紙、綿布又は亜麻布、又は適切な強度を与えるのに適した他のウエブ状物質などの上で支持することができる。さらに、寒天又はアガロースゲルのいくつかの架橋が、電場の影響に耐えるために望ましい。
【0116】
さらに他の実施形態によれば、少なくとも1つの結晶化リアクターはキャピラリー内に与える。通常、X線結晶学法による回折像の回収用の結晶は、その結晶化媒体から注意深く分離し、キャピラリーチューブ中に挿入する。チューブはデンタルワックス又はシリコーングリース、及び水和作用状態を保つための少量の内部の結晶化媒体を使用して外気から密封する(McPhersonら、Krieger Publishing、Malabar、p.214、1989)。キャピラリー内の結晶化リアクターを使用することによって本発明の方法を適用すること、
【0117】
さらに他の実施形態によれば、本発明の方法は複数の結晶化リアクターを提供することを含む。さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターは、空間的に接触可能な方法で固体支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる。さらに他の実施形態によれば、本発明の方法は複数の結晶を得ることを含み、その複数の結晶は、1つの装置内に含まれる同じ結晶化リアクター又は異なる結晶化リアクターで形成することができる。1つの装置内に含まれる異なる結晶化リアクターにおける複数の結晶は、実質的に同じ時間及び/又は実質的に同じ結晶化の設定下で形成することができる。したがって本発明の方法及び装置は、同時及び/又は同様の条件及び/又は設定下の、様々な生体分子の高スループット結晶化に適している。
【0118】
「固体支持体」又は「ホルダー」又は「マトリクス」を本明細書において交互に使用して、少なくとも1つの結晶化リアクターを含む不活性支持成分を指す。この成分は、少なくとも1つの結晶化リアクターを含むストリップ、膜、チップ、シート、又は任意の他の支持形であってよい。
【0119】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは、結晶化リアクター内に含まれるポリマーの耐性より大きな耐性を有する物質を含む。
【0120】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは非導電性物質を含む。非導電性物質は、ポリ−N−メチルメタクリルアミド、アクリル、ルサイト、ポリスチレンからなる群から選択することができる。
【0121】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは生体分子に対して不透過性である物質を含み、1つの空洞内の結晶化リアクターから任意の他の空洞内の結晶化リアクターへのタンパク質の拡散を回避する。
【0122】
本発明のホルダーは固形物質又は半固形物質、例えばセラミック、ガラス、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ルサイト、又はゲルなどであり、1つ又は複数の結晶化リアクターを含むことができ、或いは結晶化リアクターを含むように適合させた1つ又は複数の空洞を含むことができる。一実施形態によれば、ホルダーを形成する物質は伝導性が乏しい。他の実施形態によれば、ホルダーは一部分或いは全体が、生体分子不透過性及びイオン不透過性である物質でできている。結晶化リアクターは例えばゲルとして、或いは支持体と連結、接合、又は実質的に接触したゲルとして、ホルダーの表面上に設定することができ、或いはホルダー中にエッチングした溝中に設定することができ、或いは結晶化リアクターがランニングバッファーと接触することができる限りはホルダー中で延長することができる。ホルダーは本発明の装置のバッファー室内を移動することができるか、或いはその中に固定することができる。
【0123】
本発明の一実施形態によれば、結晶化リアクターがマトリクス中で延長する場合、したがって結晶化リアクターの片側はランニングバッファーと接触しており、その側は生体分子不透過性物質でできた層で覆われていることが好ましい。
【0124】
それぞれの空洞が結晶化リアクターをほぼ含む複数の空洞を含むホルダーは、例えばホルダーの片側からホルダーの反対側まで穴又はチャンネルを掘ることによって、所定のpH範囲を有するゲルに凝固するIEFバッファーと混合させた、アガロース又はポリアクリルアミドゲルなどのポリマーをチャンネルに充填することによって作製することができる。ホルダー中の溝は、ホルダーの反対側に延長することはできない。溝はホルダーのいずれかの側に作製することができる。一実施形態によれば、溝はホルダーの片側に存在する。
【0125】
さらに他の実施形態によれば、本発明の方法は、同じであるか或いは異なるIEFバッファーを含む複数の結晶化リアクターを提供することを含む。さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターのpH範囲は重複しない。
【0126】
さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクターを含む固体支持体は、ProteomIQ(商標)IPGストリップ(Proteome systems)などの固定化pH勾配(IPG)ストリップ、Servalyt Precotes(商標)ゲル(Invitrogen、Inc.)、pH膜及び市販のプレキャストゲル(例えばInvitrogen、Inc.、Amersham Pharmacia Biotech、Stratagene、Amresco Inc.、Bio−Rad Laboratories及びその他)からなる群から選択される。ただし、複数の結晶化リアクターの配列は本発明の原理に適合しているか、或いは適合するように改変されているものとする。好ましくは、本発明によれば、複数の結晶化リアクターは不連続な配列のリアクターを形成し、それぞれのリアクターはあるpH範囲を有するIEFバッファーを含み、それぞれのIEFバッファーによって広がるpH範囲は、その不連続な配列中の他のIEFバッファーのpH範囲と重複するか或いは重複しない可能性がある。
【0127】
いくつかの実施形態によれば、本発明の方法は重合IEFバッファーを含む複数の結晶化リアクターを提供する。複数の結晶化リアクターは同一であってよく、或いはそれぞれの結晶化リアクターは異なるゲル(ポリマー)を含むことができる。場合によっては複数の結晶化リアクターは、特に異なる透過性(例えば、異なる孔サイズ)、構造及び粘性を示す複数の結晶化リアクターから生じる、異なる濃度の同じポリマーを含む。
【0128】
市販のIPGストリップは、それぞれのIPGストリップが複数の単離pHバンドを含み、それぞれのpHバンドが一定のpH範囲を含むという条件で、本発明を実施するために使用することができる。しかしながら、市販のIPGストリップの欠点は、それぞれ個々のpHバンドの体積及び形状は、特に生体分子の拡散はバンド内では制限されるので、結晶を形成するのに一般に適していないことである。したがって、カスタムメイドのIPGストリップは、本発明の原理に従い結晶を得るのに非常に適している。カスタムメイドのストリップの設計を最適化して、その中での生体分子の濃縮、拡散及び結晶化を容易にする。
【0129】
カスタムメイドのIPGストリップは、不活性支持体、典型的にはアクリルアミドゲルと化学結合するように処理したマイラープラスチック製シートと結合した薄い平面状のIPGゲル形(例えば、Gelbond(商標)PAGフィルム、FMC Corporation)を作製するための、現在の慣習に従い典型的には作製する。IPGゲルは、0.5mm厚、10〜30cm長(分離方向)及び約10cm幅の長方形プレートとして典型的には形成される。多数のサンプルをこのようなゲルに平行したレーンで施すことはできるが、交差汚染を生み出すレーン間のタンパク質の拡散という付随する問題点がある。所与のレーンに施したタンパク質すべてをそのレーン中で回収することが重要である場合(典型的には2−D電気泳動の場合と同様に)、ゲルを狭いストリップ(典型的には3mm幅)に分けることが必要不可欠であり、そのそれぞれが別個のゲルとして働くことがしたがって可能であることが分かっている。したがってサンプルのタンパク質は1つのストリップによって表されるゲルの体積に制限されるので、それはいずれもそのストリップ中で回収される。IPG技術における等電点電気泳動によるタンパク質の分離は、当分野において広く記載されている。IPGの概念は米国特許第4,130,470号中に開示されており、多数の後の刊行物中にさらに記載されている。
【0130】
或いは、米国特許第4,243,507号中に開示されたのと同様に、重合IEFバッファーを含む結晶化リアクターは結合剤によってホルダーに取り付けることができる。
【0131】
本明細書で使用する用語「IEFバッファー」は、所与のpH値周辺でバッファー能力を有する成分(バッファー剤)、又は構造化してpH勾配を形成する成分(例えば両性電解質、イモビリン又はバッファー剤の組合せ)を含むバッファーを指す。
【0132】
本発明のIEFバッファーは、タンパク質のpIがIEFバッファーのpH範囲内にない限り、IEFバッファー中の電場内をタンパク質が移動することができる、粘性液体又はスラリー又はゲルの形であってよい。本発明のIEFバッファーは、尿素、界面活性剤及び還元剤などの他の成分を必要に応じて含むことができる。本発明のIEFバッファーは、電場の影響下で機能的に安定していることが望ましい。
【0133】
本明細書で使用する用語「粘性液体」は、最小の対流移動、好ましくは対流移動なしで、最小〜ゼロの沈降で、粘性液体中でのマクロ分子の拡散を容易にする、最適化された粘性を有する液体又は他の媒体を指す。
【0134】
IEFバッファー、及びIEFバッファーを含む結晶化リアクターは手作業によって、或いは様々なデバイスによって形成することができる。例えば、IEFバッファーは支持体の表面に堆積させる(例えばコーティング、プリント又はスポットする)ことができ、表面に固定することができ、或いは支持体の溝又はチャンネルに堆積させることができる。支持体はマトリクス、マトリクスと同じ物質でできた膜又はビーズなどであってよい。
【0135】
酸性溶液と塩基性溶液を混合して所望のpH値を有するバッファーを形成するデバイス(「滴定装置」)によって、IEFバッファーを作製することができる。重合の目的用に、バッファーをモノマー(例えばアクリルアミド)及び重合剤とさらに組み合わせ、所望の位置にIEFバッファーを置く他のデバイス(例えば空洞)に充填することができる。
【0136】
一実施形態によれば、本発明のIEFバッファーを生成するために使用する両性電解質は、両性(即ち、酸性媒体中では正に帯電し、塩基性媒体中では負に帯電している)、可溶性であり、且つ約300から1000uまでのMr値を有する、一組の様々なオリゴ−アミノ及び/又はオリゴカルボン酸である。本発明で使用する両性電解質は、調製することができるか或いは購入することができる。例えば、いくつかの担体両性電解質が当分野では知られている(例えば、ページ31〜50、Righetti、P.G.、(1983)「等電点電気泳動:理論、方法及び用途(Isoelectric Focusing:Theory、Methodology and Applications)」、Eds.、Work and Burdon、Elsevier Science Publishers B.V.、アムステルダム;米国特許第3,485,736号)。或いは、購入される両性電解質には、Ampholines(LKB)、Servalytes(Serva)、Biolytes又はPharmalytes(Amersham Pharmacia Biotech、Uppsala、スウェーデン)がある。
【0137】
イモビリンを使用して、本発明のIEF溶液を生成することもできる。イモビリンは、一般式:CH2=CH−CO−NH−Rの非両性、二官能性のアクリルアミド誘導体である。本発明に従い有用であるイモビリンは、調製することができるか或いは購入することができる。イモビリンを合成するための方法は当分野で知られている、例えば、Bjellquistら、(J.Biochem.Biophys.Methods、6:317、1983)。イモビリンをアクリルアミドと共重合させて、固定化pH勾配からなる結晶化リアクターを形成することができる。本発明のpH勾配は、両性又は非両性のバッファーを混合することによって形成することができる。例えば、このようなバッファーの組合せは、Allen、RCら、「タンパク質のゲル電気泳動及び等電点電気泳動(Gel Electrophoresis and Isoelectric Focusing of Proteins)」:「選択された技術(Selected Techniques)」、ベルリン:Walter de Gruyter & Co.(1984)中、及び米国特許第5,447,612号(Bier)中に記載されている。いくつかのIEFバッファー剤には、(1)50mMのグリシン、14mMのNaOH;(2)50mMのHEPES、12mMのNaOH;(3)50mMのTHMA、44.6mMのHCl;(4)52mMのクエン酸、96mMのNaHPO;(5)50mMのBICINE、18mMのNaOH;及び(6)50mMのDMGA、40mMのNaOHからなる群から選択されるバッファー剤がある。それぞれのセル中でIEFバッファーによって生じるpH勾配は、狭いpH範囲又は広いpH範囲(例えば、それぞれpH6.8〜pH7.8又はpH6.8〜pH12.8)を有する可能性がある。
【0138】
本発明の方法において使用し、本発明の装置及び方法の電力供給によって生じる電場は、本発明の方法及び装置が耐えることができる任意の電圧、例えば100〜10000ボルト、又は500〜10000ボルト、又は500〜5000ボルトであってよい。ただし、生成する熱はランニングバッファーを含む区画中に放散させることができ、適切な冷却によって調節することができるものとする。供給される電圧はDC又はACであってよい。DC及びAC電流を供給することができる電力供給装置及び電極は市販されており、当分野で知られている。
【0139】
一実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度は0〜30℃の範囲内に維持し、電場は50V/cmと2000V/cmの間である。
【0140】
さらに他の実施形態によれば、電場は交流電場、直流電場からなる群から選択される。IEFバッファーを含む結晶化リアクターが、結晶化リアクター中へのその進入の反対側に電流が出るのを妨げるように密閉される場合、したがって一実施形態によれば、電場は可逆的である。結晶化リアクターが開放状態である場合、したがって電場は直流、即ち単向性、又は交流である可能性がある。
【0141】
用語「バッファー」又は「バッファー溶液」又は「ランニングバッファー」を本明細書において交互に使用して、一方では弱酸(炭酸など)及びこの酸の塩の1つ、及び弱酸の少なくとも1つの酸塩;或いは他方では、弱塩基(アンモニアなど)及び塩基の塩の1つを含む溶液を記載する。これらの成分を有するので、バッファーはそれぞれの成分の濃度に従って、溶液のpHを確定することができる。バッファーはさらに、水素イオン濃度の変化に対するその耐性のために、酸又は塩基を加えても確定したpHを維持することができる。pHを確定し維持する所与のバッファーの能力は、「バッファー能力」とも呼ばれる。
【0142】
さらに他の実施形態によれば、単離したほぼ純粋なタンパク質の溶液を本発明において使用して、タンパク質結晶を得ることができる。純粋なタンパク質は、当分野で知られている任意の適切なタンパク質精製法によって得ることができ、Deutscher(Meth.「酵素学(Enzymology)」、182:83〜89、1990)中及びScopes(「タンパク質の精製(Protein Purification)」:「原理及び実践(Principles and Practice)」、Springer−Verlag、ニューヨーク、1982)中に記載されたものを含む。タンパク質の精製は、他の生物物質から、所望のタンパク質をコードする組換え核酸を用いて形質転換した細胞の細胞成分などからの、所望のタンパク質の単離を含む。例えば、免疫親和性クロマトグラフィーを使用することによって、例えば所望のタンパク質と特異的に結合する抗体を使用して、精製を実施することができる。
【0143】
用語「非精製タンパク質」及び「十分に精製されていないタンパク質」を本明細書において交互に使用して、その本来の状態で付随しないその構造又は成分の一部分ではない成分から、完全に分離されていないタンパク質を記載する。典型的には、精製タンパク質は約60〜90%W/W、約95%、及び約99%の純粋なタンパク質をタンパク質サンプル中に含む。本発明において使用するタンパク質は、IEF手順の前に必ずしも十分に精製する必要はない。
【0144】
一実施形態によれば本発明は、多数のタンパク質を分析し選択したタンパク質を急速に結晶化するための方法であって、
(a)少なくとも1つの生体分子種を含む溶液を提供するステップと、
(b)支持体上での電気泳動によって溶液を分析し、それによって少なくとも1つの生体分子種に対応する少なくとも1つのバンドを支持体中に得るステップと、
(c)支持体から一部分を分離することであって、その部分が(b)で分析した少なくとも1つのバンドを含むステップと、
(d)あるpH範囲を有するIEFバッファーを含む少なくとも1つの結晶化リアクターを提供するステップであって、そのpH範囲が前記少なくとも1つのバンドのpIを含むステップと、
(e)前記少なくとも1つのバンドを少なくとも1つの結晶化リアクターに加えるステップと、
(f)ランニングバッファーに電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの結晶化リアクター内に、(b)で分析した少なくとも1つの生体分子種の濃縮溶液を生成するステップと、
(g)少なくとも1つの結晶化リアクター内で、(f)の濃縮溶液中の前記少なくとも1つの生体分子種を結晶化するステップと
を含む上記方法を提供する。
【0145】
さらに他の実施形態によれば、さらに他の実施形態によれば、ステップ(e)は、加えた少なくとも1つのバンドをランニングバッファー中の少なくとも1つの結晶化リアクターに置くステップをさらに含む。ステップ(e)は、ランニングバッファーを攪拌するステップをさらに含むことが好ましい。ステップ(g)は、タンパク質結晶の形成を監視する及び/又は検出するステップをさらに含むことが有利である。
【0146】
結晶の形成の調査及び検出は、結晶化リアクター中のサンプルの生体分子を検出するためのデバイス;検出デバイスからのデータを受信するためのデバイス;及び受信したデータを処理するためのデバイスの、いずれか1つによって実施することができる。一実施形態によれば、走査型マイクロデンシトメーターが、結晶化リアクターからのシグナルを検出し、受信し処理する。
【0147】
結晶化リアクター中のサンプルの生体分子を検出し、検出デバイスからのデータを受信し、受信したデータを処理するのに必要不可欠な1つ又は複数のデバイスを、コンピュータ中にパッケージ化することができる。
【0148】
検出デバイスを設計して、波長、複数の波長又は1つの波長のスペクトルである電磁放射を、同時又は順次にレーン上に投影することができる。一実施形態によれば、照明光源は単色である。例えば検出デバイスは、狭いスペクトルの光がそれぞれのリアクター上に投影された後の特定の波長における、それぞれの結晶化リアクターからの吸収の程度を迅速に順次読み取る、カスタムメイドの光度計であってよい。或いは、検出デバイスを設計してそれぞれのリアクターを同時に読み取る、且つ/或いはいくつかの波長においてそれぞれのリアクターから放出された電磁放射に関する読み取り値を得ることができる。
【0149】
適切な検出デバイスには、裸眼、分光光度、化学発光、光度/密度計、電気化学検出装置、又は生体分子が標識されているかどうか、及びその標識の型に依存する放射化学検出装置があるが、これらだけには限られない。シグナルを生成する反応を引き起こすための他の成分、又は前述の方法に従い検出可能なシグナルを増大させるための他の成分を、標識が必要とする可能性がある。適切なシグナル生成システムの詳細な論述は、米国特許第5,185,243号中で見ることができる。標識を結合させるための技術の詳細は当分野で知られている。例えば、Matthewsら、Anal.Biochem.(1985)151:205〜209、及び欧州特許出願第0302175号を参照のこと。
【0150】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(b)の溶液は支持体上での等電点電気泳動によって溶液を分析し、それによって少なくとも1つの生体分子種の等電点に対応する少なくとも1つのバンドを支持体中に得る。
【0151】
さらに他の実施形態によれば、ステップ(d)のIEFバッファーは0.2pH単位を超えない、好ましくは0.1pH単位を超えない、より好ましくは0.02pH単位を超えないpH範囲を有する。
【0152】
さらに他の実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度が0〜30℃の範囲内に維持されるように本発明の方法を行う。他の実施形態によれば、ランニングバッファー溶液の温度は0〜30℃の範囲内に維持し、電場は50V/cmと2000V/cmの間である。
【0153】
さらに他の実施形態によれば、本発明は、それぞれの結晶化リアクターにおける温度が、任意の他の結晶化リアクターの温度とは別個である、好ましくは異なる、複数の結晶化リアクターを提供する。温度は、本発明の方法において拡散及び結晶の成長を最適化するために調節することができる、1つのパラメータである。
【0154】
様々な市販の温度制御モジュールを、本発明の文脈で使用するために適合させることができる。代表的な適切なモジュールは、ロボットによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)用に設計した自動式熱循環装置であり、これを改変して本発明の要件に適合させることができる。例えば、MJ Researchの熱循環装置(MJR、Waltham、マサチューセッツ州;例えば、DNA Engine(商標)、Dyad(商標)、Mini−Cycler、PTC−100(商標)、Tetrad(商標))はペルティエ熱を特徴とし、Alpha(商標)モジュールは交換可能な発熱体であり、ユーザがサンプル形式を迅速に変えるのを可能にする。これらの循環装置のいくつかはHot Bonnet(商標)加熱蓋を特徴とし、マイクロウエルプレート及びさらに顕微鏡スライドを含めた、様々なサンプル形式に使用することができる。他の適切なシステムは、Smart Cycler(登録商標)装置(Cepheid、Sunnyvale、カリフォルニア州)である。このシステムはミクロ流体に基づくこの会社のI−CORE(登録商標)技術に基づくものであり、それぞれのサンプルを異なる実験条件に施すことを可能にする温度制御モジュールである。StratageneのRoboCycler(La Jolla、カリフォルニア州)は、他の適切な温度制御モジュールを与える。RoboCyclerは4つのプログラム可能なブロックを特徴とし、最適化を簡潔にするための勾配特徴を与える。この循環装置の特異性は、それがロボットアームを使用してサンプルをブロックからブロックに動かし、それぞれのブロックの温度が異なる可能性があることである。
【0155】
一連の開示は、マクロ分子及びマクロ分子含有サンプルをゲル、最も頻繁にはタンパク質又は核酸分離用に使用されるスラブゲルの表面に充填するために使用される、様々な形状の開口部(「サンプルウエル」)を扱っている。それぞれの場合、サンプル中のマクロ分子をそれらが分解ゲル中を移動する前に薄い開始ゾーン中に濃縮させるために、これらのサンプルウエルを設計する。以下の参照文献は、ウエルを形成するためにゲルに対して配置したデバイスの使用を記載している:米国特許第5,304,292号は、破片の両端がスラブの上端と接触するウエル壁をスラブの上部に形成するための、圧縮性ガスケットの破片の使用を記載している。米国特許第5,164,065号は、DNAシークエンシングゲルと組み合わせて使用するサメの歯のすきぐしを記載している。
【0156】
急速な結晶化のための装置
本発明は、急速な結晶化のための装置も提供する。さらに他の実施形態によれば、本発明は、タンパク質結晶の急速な形成を誘導するのに適した装置であって、
(a)少なくとも1つの結晶化リアクターであって、前記少なくとも1つの結晶化リアクターがIEFバッファーを含み、前記少なくとも1つの結晶化リアクターがバッファー室内に含まれる少なくとも1つの結晶化リアクターと、
(b)電場を生成させるためのデバイスと、場合によって、
(c)バッファー区画内に含まれる流体を循環させるための手段と
を含む上記装置を提供する。
【0157】
一実施形態によれば、装置は上側及び下側を有するホルダーをさらに含み、そのホルダーは少なくとも1つの結晶化リアクターを含むか、或いは少なくとも1つの結晶化リアクターを含む支持体を支持するように適合しており、前記少なくとも1つの結晶化リアクターはIEFバッファーを含み、ホルダーはバッファー区画内に含まれる。他の実施形態によれば、ホルダーは少なくとも1つのバッファー区画内に置く。ある実施形態によれば、ホルダーは少なくとも1つの結晶化リアクターを含むキャピラリーである。
【0158】
さらに他の実施形態によれば、装置は2つの端部を有する2つの塩橋をさらに含み、それぞれの塩橋の1つの端部はホルダーの1つの端部と接触しており、それぞれの塩橋の1つの端部は少なくとも1つのバッファー室内に含まれる。装置は2つのバッファー室、それぞれのバッファー室が1つの塩橋の1つの端部を囲うようなそれぞれのバッファー室を含むことが好ましい。
【0159】
典型的には、塩橋はイオン導電体として働き、生体分子溶液を含む少なくとも1つの結晶化リアクター、或いはそれを含む成分、ホルダー及び/又は支持体などと、バッファー区画内のバッファーの間に通常配置される。本発明の装置に適した塩橋の例には、塩化カリウム又は硝酸カリウムなどの電解質を寒天培地に溶かすことによって得ることができるイオン導電体を充填した、ガラス、セラミック材料又はプラスチックチューブがある。
【0160】
他の実施形態によれば、バッファー区画は、ランニングバッファー及びランニングバッファー内に溶解した少なくとも1つの生体分子種を含む溶液を保持するように適合させる。
【0161】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは少なくとも1つの空洞を有しており、この少なくとも1つの空洞はIEFバッファー及びポリマーを含む結晶化リアクターを保持するように適合している。
【0162】
さらに他の実施形態によれば、ホルダーは複数の空洞を含み、それぞれの空洞は、ポリマー及びIEFバッファーを含む結晶化リアクターを含む。
【0163】
さらに他の実施形態によれば、複数の結晶化リアクター内のIEFバッファーのpH範囲は重複しない。
【0164】
記載する種類の装置中の複数の結晶化リアクターを含むホルダーは、任意の所望の形状、例えば並んで配置される水平系の結晶化リアクターとして配置することができ、一般的なスペーサーによって、或いは垂直系として隔てることができる。
【0165】
ここで図1を参照すると、本発明の装置は、数本の電極、即ちアノード及びカソード、並びにランニングバッファーを含むバッファー室を含む。この装置はイモビリンバッファーを含む結晶化リアクター(図1A)、キャピラリー内の結晶化リアクター(図1B)、又は複数の別個で単離されたpHバンドを含むカスタムメイドのIPGストリップ(図1C)をさらに含む。
【0166】
ここで図2及び3を参照すると、本発明の装置は、バッファー室(2)内に囲われたバッファー区画(1)、ホルダー(3)、結晶化リアクター(5)及び電極(6)を含む複数の空洞(4)を含む。
【0167】
一実施形態によれば、本発明の装置は複数の結晶化リアクターを含み、それぞれの結晶化リアクターはIEFバッファーを含み、場合によってはIEFバッファーは重合されている。複数のIEFバッファーによって生じるpH範囲のpHの上限及び下限は、異なっているか或いは同一であってよい。例えば、結晶化リアクター#1中のIEFバッファーはpH6.8で始まりpH7.8で終わるpH範囲を有する可能性があり、結晶化リアクター#2中のIEFバッファーはpH7.9で始まりpH8.9で終わるpH範囲を有する可能性がある。さらに、結晶化リアクター#1と結晶化リアクター#2のIEFバッファー間のpHステップは、異なるpI単位又は同一のpI単位であってよい。
【0168】
さらに他の実施形態によれば、IEFバッファーのpH範囲は広くて、狭くて或いは非常に狭くてよく、例えば0.1pH単位以下、0.02pH単位以下、或いは0.01pH単位以下で広がる。
【0169】
さらに他の実施形態によれば、IEF手順は本発明の装置を使用して行い、ランニングバッファーを含むバッファー区画は、IEFバッファーを含む複数の結晶化リアクターを含む複数の空洞を含むホルダーをさらに含む。この設定を使用して、複数の空洞を物理的に隔てることによって互いに離し、これによってランニングバッファーを介した動きではなく、1つの結晶化リアクターから他の結晶化リアクターへの直接の生体分子の動きを実質的に妨げる。したがって生体分子は主に、ランニングバッファーを介して1つの結晶化リアクターから他の結晶化リアクターに動く。他の実施形態によれば、結晶化リアクターは同じ又は異なるpH範囲を含む。さらに他の実施形態では、本発明は、1つの設定を使用して複数の別個のタンパク質を結晶化することができるように、実質的に重複しないpH範囲を有する多数の別個の隔離された結晶化リアクターを含む。さらに、結晶化リアクターが狭い、好ましくは非常に狭いpH範囲を有するIEFバッファーを含む、本発明の装置、システム及び方法を使用することによって、特に伝統的なIEFゲルと比較して高い、本発明の方法の分解能のために、0.02pH単位以下離れたpI値を有する複数の別個のタンパク質を1つの設定で結晶化することが可能である。
【0170】
システムの1つの形状によれば、1つの結晶化リアクターから隣接する結晶化リアクター中、例えばわずかに異なるpH範囲を有するIEFバッファーを含む結晶化リアクター間の生体分子の拡散は、本発明の装置を使用することによって避けられる。ただし、結晶化リアクターを含むホルダーが、生体分子に対して不透過性である物質を含むものとする。
【0171】
以下の名称は、それらが本明細書全体及び以下の特許請求の範囲中に現れるとき、本発明の装置の成分に使用する:用語「バッファー室」又は「ランニングバッファー室」は交互に使用することができ、タンパク質溶液を含むバッファーを保持する容器又はリザーバを表す。用語「マトリクス」又は「チップ」又は「アレイ」又は「ホルダー」は交互に使用することができ、結晶化リアクターを含む成分を表すことができる。
【0172】
急速な結晶化の適用例
急速なマクロ分子の結晶化は、保存、薬剤設計及び薬剤送達に関して非常に産業的価値がある。多量の結晶マクロ分子の調製に関する産業上の必要性も存在する。産業規模の処理に適した、当分野で知られている結晶化の方法は存在しない。何故なら、結晶が成長しない危険性が常に存在し、結晶が実際に成長し始める場合、所望の大きさの結晶を得るのに必要とされる長い時間は実用的ではないからである。
【0173】
大規模なマクロ分子の結晶化、及び特にタンパク質の結晶化用の、迅速で効率の良い技術を生み出すための動機は以下のものである。
【0174】
第1に、純粋である結晶状態のマクロ分子を生成することが望ましい。このような結晶は、治療剤及びワクチンの剤形調製に非常に有利な形のタンパク質又は核酸を構成する。本発明は、マクロ分子を結晶化するための迅速な方法を提供する。大規模な結晶化は、臨床薬製造プロセス、治療剤及びワクチンを製造するためのプロセスにおける、最終的な精製ステップ及び/又は濃縮ステップとして導入することができる。さらに、大規模な結晶化は、製造プロセス中のいくつかの精製ステップを交換することができる。例えば、タンパク質の結晶化はタンパク質配合物の生成を簡素化し、それを一層手ごろなものにすることができる。
【0175】
第2に、マクロ分子の結晶を保存することは、溶液を保存することより有利である。何故なら、溶液中で起こるマクロ分子の相互作用は、全体の反応速度が相当低下するために、結晶状態を妨げるか或いは著しく低下させるからである。したがって結晶状態は、生物マクロ分子の混合物の保存に特に適している。結晶の貯蔵寿命は、米国特許第6,541,606号中に開示されたのと同様に、ポリマー担体を含むマトリクス内に結晶を被包して組成物を形成することによって、さらに延長させることができる。この組成物は、タンパク質の本来の生物学的活性がある三次構造の保存状態を高め、必要とされる場所及び時に活性タンパク質をゆっくりと放出することができるリザーバを形成する。
【0176】
第3に、固体状の結晶調製物を容易に還元して、非常に高いタンパク質濃度を有する直ぐに使用可能な非経口配合物を生成することができる。このようなタンパク質濃度は、配合物が皮下投与を目的とするものである場合は非常に有用であるとみなされる、例えば国際特許公開WO97/04801を参照のこと。皮下投与に関しては、1.5ml以下の注射体積が十分許容可能である。したがって、1週間単位では1mg/kgで投与されるタンパク質に関しては、少なくとも50mg/mlのタンパク質濃度が必要とされ、100〜200mg/mlが好ましい。凝集の問題のために、これらの濃度を液体配合物において得るのは困難である。本発明の方法によって得られるタンパク質結晶を使用して、これらの濃度は容易に得ることができる。
【0177】
第4に、タンパク質結晶は薬剤調製に非常に有利な形も構成する。in vivo用の徐放性配合物の主成分として結晶を使用することができる。当業者が理解するように、粒子の大きさは結晶の溶解及び活性物質の放出のために重要である。結晶が実質的に均一な粒子の大きさを有し非晶質沈殿を含まない場合、放出の速度はさらに予想しやすくなることも知られている、例えば欧州特許第265,214号を参照のこと。したがって、タンパク質結晶は植え込み型デバイスにおいて有利に使用することができる、例えば国際特許公開WO96/40049を参照のこと。植え込み型リザーバは一般に約25〜250μlである。この体積制限によって、高濃度(10%を超える)の配合物及び最小量の懸濁媒体が好ましい。本発明の方法によって得られるタンパク質結晶は、このような高濃度で非水性懸濁液に容易に配合することができる。
【0178】
第5に、結晶の他の利点は、いくつかの変数を操作して経時的にマクロ分子の放出を調節することができることである。例えば、結晶の大きさ、形状、溶解に影響を与える賦形剤との配合、架橋、架橋のレベル、及びポリマーマトリクス中への被包をいずれも操作して、生物分子用の送達媒体を生成することができる。
【0179】
本発明は、前に記載したニーズを提供する。本発明の方法の以下の利点によって、本発明の方法はマクロ分子の高スループットの産業用の結晶化に適したものとなる:
1.少量の希釈した、必ずしも精製されていないタンパク質サンプルから結晶を成長させる能力。
2.濃縮タンパク質溶液又は濃縮タンパク質バンドが、数時間以内、さらに数分間以内に直ぐに生成される。
3.結晶化リアクター中に蓄積するマクロ分子は非帯電状態であるか、或いは非常に少量の電荷を有しており、したがって静電気による反発作用は、無視できる程度であるか或いは存在しない。
4.沈降、対流又は沈殿が、濃縮したマクロ分子溶液の形成中又は結晶の形成中に生じない。
5.結晶の成長が非常に速い、約数分間又は数時間以内である可能性がある。
6.本発明の方法のIEF成分による、結晶化過程中のタンパク質サンプルの製造過程の精製によって、不純物及び他のイソ型による考えられる汚染が排除され、したがって本発明の方法は、既存の結晶化法と比較して、あまり精製されていないタンパク質サンプルを用いた作業を可能にする。
7.キャピラリー内で結晶化リアクターを使用する、本発明の方法を適用するためのオプションは、結晶学的方法に特に適している。何故なら、リアクターから異なる環境に結晶を移動させる必要がないからである。このような移動は、結晶の構造及び安定性を危うくする。
【0180】
本発明の方法の前述の利点によって本発明の方法は、所与のタンパク質の個々のイソ型の同時の分離及び結晶化に適したものとなる。
【0181】
一実施形態によれば本発明は、高スループットで急速なマクロ分子の結晶化のための、小型化及び自動化された装置並びに方法を提供する。本発明の装置は、自動式相互作用成分、例えばIEFバッファー(イモビリン、両性電解質など)を含む前重合結晶化リアクターを空洞に充填するための滴定装置、空洞又は結晶化リアクターからタンパク質結晶を回収するための抽出装置、及び結晶化リアクター内のタンパク質結晶の形成を調べて記録するためのデバイスを有ように構築することができる。
【0182】
本発明の原理に従い形成される結晶のさらなる安定性は、この目的用の当分野で知られている任意の方法によって得ることができる。例えば、米国特許第6,541,606号中に開示されたのと同様に結晶を被包することができ、或いはキャピラリーチューブ中に挿入することができ、次いでこれをデンタルワックス又はシリコーングリース、及び水和作用状態を保つための少量の内部の結晶化バッファーを使用して外気から密封する(McPhersonら、同書)。
【0183】
本発明の方法及び装置による結晶化プロセスの最適化は、異なるゲル濃度(孔径、拡散定数)及び様々なタンパク質希釈液を有するいくつかの結晶化リアクターを使用して、1つの実験によって達成することができる。それぞれの結晶化リアクターは、異なる温度に曝すこともできる。
【実施例】
【0184】
(実施例1)
p53タンパク質の成分の結晶化
3つのタンパク質サンプルが供給された:
(a)p53ヒトDBD[pI(理論値)=8.83]
(b)C Elegansからのβ−転写因子[pI(理論値)=5.98]
(c)ヒトβ−転写因子[pI(理論値)=5.5]
【0185】
3つのサンプルすべてを、市販のIPGストリップpH3〜10(Amersham)上での当初のIEFによって分析して、特定のタンパク質のpHを測定した(図4)。図4中に見ることができるように、3つの「精製」タンパク質溶液のそれぞれは、多数の異なるタンパク質バンドから構成されることが分かった。
【0186】
本発明の方法による結晶化用に、特定のタンパク質のあるpIに対応するバンドを選択した。図4C中に図式的に記載したのと同様に、理論値pI付近のpH値を有する手製のIPGストリップ及び装置を使用して、結晶化を行った。数個の結晶が急速に形成された。結晶をIPGゲルから抽出し、p53サンプルに関して得た散乱像は実際、2.8Å分解能で多結晶サンプルに特徴的であった。
【0187】
(実施例2)
LPGズームストリップを使用することによる、IEFによって分離したタンパク質の結晶化の可能性の実証
我々の結晶化技術はわずか数マイクログラムの量のタンパク質を必要とするので、IEFによる分離は結晶を得るための物質の源として働くことができる。このような実験は、図5中に見られるのと同様にp53サンプルから分離したバンドの1つで行った。
【0188】
以下の手順を使用した:IPGストリップから、我々はpH9.6までのバンドを選択し切断し、結晶化用に我々は、図4C中に示すシステムを選択して使用した。その目的で短いIPGズームストリップを、9.5〜9.75の範囲0.05のステップで調製した。ストリップは標準的な密度勾配法によって調製した。IEF実験から切断したタンパク質バンドは、IPGストリップの端近くのポリアクリルアミドに接着させた。ストリップは図4C中に示す電気泳動チャンバーの上に置いた。図6A中に実証したように、標準的なIEF手順は分離画分の集中及び結晶化をもたらし、上質の結晶が生じた。2.4Åの分解能を実証する回折像を図6Bに示す。
【0189】
(実施例3)
ミオグロビンの結晶化
ウマ心臓ミオグロビン(75μg)を1.5mlの水に溶かし、結晶化装置中に導入した。この溶液はIEF手順用のランニングバッファー(pH=7.00)として働いた。イモビリン(商標)バッファー(Amersham)を、直径1mm及び深さ1mmの10%ポリアクリルアミドゲルの円筒形空洞中に重合させた(pH=6.80)。IEF分離は以下の条件:1200V、30分間、及び電極間の距離0.5cmの下で行った。
【0190】
IEFは装置の強い攪拌下4℃で行って、バッファー溶液内のタンパク質の移動を容易にした。IEF手順のために行った有効な測定によって、ゲルの空洞中に蓄積したタンパク質の量は、溶液中の全タンパク質の約50%であったことが示された。
【0191】
顕微鏡下でゲルの空洞を監視することによって、ゲル中の非常に発達した結晶構造が明らかになった(図7A)。
【0192】
(実施例4)
ヘモグロビンSの結晶化
ヘモグロビンSの溶液(1μg/ml、水中;Sigma)、pI=7.0を、6.9〜7.05のpH範囲を有するpHバッファー(イモビリン(商標)、4%ポリアクリルアミドゲル中)中への等電点電気泳動によって濃縮した。1000V/cmの電場を、25℃の温度の下で30分間引加した。30分後、400μm長の結晶を得た(図7B)。
【0193】
(実施例5)
フィコシアニンの結晶化
1μg/mlの溶液中で約4.5のpIを有する市販のフィコシアニン(1μg;Sigma)に、4.4〜4.6のpH範囲を有するpHバッファー(イモビリン(商標)、4%ポリアクリルアミドゲル中)においてIEF手順を施した。等電点電気泳動の条件は:25℃、100V/cmの電場、及び30分の実験時間であった。30分後、結晶を得た(図8A)。
【0194】
同様に、アルコールデヒドロゲナーゼ(図8B)及びグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH;図9A)の結晶を得た。
【0195】
(実施例6)
アクアポリン3の結晶化
膜タンパク質は一般に、構造決定に関する最も重要なタンパク質であるとみなされている。残念ながら、タンパク質を結晶化するための最も標準的な方法は、膜タンパク質の結晶を生成することができない。この本発明の実施例は、最も重要な膜タンパク質の1つであるアクアポリンの結晶化を可能にする本発明の方法の能力を実証する。
【0196】
水及びAmpholine(商標)(Amersham)を含むランニングバッファー中でpI=6.7のラットアクアポリン3の溶液(1μg/ml;Alpha Diagnostic International)に、結晶化手順を施した。pHゲル空洞(4%ポリアクリルアミド、pH6.65〜6.8)中のタンパク質の濃縮手順は、以下の条件:40分の実験時間、25℃及び100V/cmを使用してIEFによって行った。生成した結晶は図9Bに示す。
【0197】
(実施例7)
ウシ炭酸脱水酵素の結晶化
5.95のpIを有するウシ炭酸脱水酵素の溶液(1μg/ml;Sigma)を、IEFによって5.8〜6.0のpHを有するpHゲル区画(空洞;4%ポリアクリルアミド)中に濃縮した。この濃縮手順は、100V/cmの電場の下で25℃において40分を要した。40分後、結晶を得た(図10)。
【0198】
(実施例8)
ペプシン−4、クレアチンキナーゼ1、β−ヒト成長因子、アビジン、ヘルセプチン、Ly1リゾチーム、リボヌクレアーゼ−1及びプロスタグランジンの結晶化
ペプシン−4、クレアチンキナーゼ(CK)、β−ヒト成長因子(βhGF)、アビジン、ヘルセプチン、Ly1リゾチーム、リボヌクレアーゼ−1(RNAse−1)及びプロスタグランジンのタンパク質結晶化は、表1中に詳細に述べたように行った。生成した結晶及び/又は結晶化したタンパク質の分画の回折は図11〜15中に示す。
【0199】
【表1】

【0200】
特定の実施形態のこれまでの説明は、本発明の一般的性質を完全に明らかにするため、現行の知識を適用することによって、他者はこのような特定の実施形態を過度の実験を必要とせず一般的概念から逸脱しないように、各種用途に容易に改変及び/又は適合させることができ、したがって、このような適合及び改変は、開示した実施形態の均等物の意味及び範囲内に含まれるはずであり、含まれるものとする。本明細書で使用する語法又は述語は、制限ではなく説明を目的とすることは理解されよう。各種の開示された機能を果たすための手段、材料、及びステップは、本発明から逸脱することなく各種の代替形をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】バッファー室(2)内に囲われたバッファー区画(1)、ホルダー(3)、電極(6)、塩橋(10)及び固体支持体(7)、1つ又は複数の結晶化リアクター(5)を含むキャピラリー(8)又はストリップ(14)、及び場合によっては荷重点(9)を含む、様々な結晶化システムの概略図(A−C)である。
【図2】バッファー室(2)内に囲われたバッファー区画(1)、ホルダー(3)、結晶化リアクター(5)及び電極(6)を含む複数の空洞(4)を含む、結晶化装置の概略図である。
【図3】(A)はホルダー(3)中に含まれる結晶化リアクター(5)内の、タンパク質バンド(12)からのタンパク質の移動を記載する図であり、(B)は3つの結晶化リアクターを含むホルダー(3)の上面図(左図)及び側面図を記載する横断面図である。
【図4】3〜10のpH範囲の市販のIPGストリップ(Amersham Biosciences)上でのIEFによる、3つのタンパク質サンプルの分離を表す図である。
【図5】9.5〜9.75の狭いpH範囲を有するIEFバッファーを用いて本発明の方法を使用して図1のIPGストリップから得た、タンパク質の分離及び急速な結晶化を示す図である。
【図6】本発明の方法によって得たp53の結晶(A)及びその回折像(B)を示す図である。
【図7】結晶化リアクター中で得た一種のミオグロビンタンパク質結晶、約100μm長の像(A)(300μm×150μm)及びゲル中のヘモグロビン結晶の像(B)を示す図である。中央の縦長の物体は、約400μm長のヘモグロビン結晶である。
【図8】フィコシアニン結晶(A)及びゲル中のアルコールデヒドロゲナーゼ結晶(B)の像を示す図である。
【図9】空洞内のゲルから抽出したグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)結晶の像(A)及びゲル中のアクアポリン3の結晶の像(B)を示す図である。
【図10】重合IEFバッファーからなる結晶化リアクター内の炭酸脱水酵素結晶(A)及び結晶化リアクターから抽出した結晶(B)の像を示す図である。
【図11】ペプシン−4結晶(B)の回折像(A)の像を示す図である。
【図12】クレアチンキナーゼ1結晶(A)、β−ヒト成長因子結晶(B)及びアビジン結晶(C)の像を示す図である。
【図13】ヘルセプチン(A)及びLy1リゾチーム(B)のタンパク質結晶を示す図である。
【図14】リゾチーム結晶(A)及びリボヌクレアーゼ−1結晶(B)の回折像を示す図である。
【図15】プロスタグランジン結晶(A)及びタンパク質結晶を含まない重合IEFバッファーからなる結晶化リアクター(B)の回折像を示す図である。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を急速に結晶化するための方法であって、
(a)少なくとも1つの生体分子種を提供するステップと、
(b)少なくとも1つの生体分子種のpIを含むpH範囲を有するIEFバッファーを含む、少なくとも1つの結晶化リアクターを提供するステップと、
(c)前記少なくとも1つの生体分子種と少なくとも1つの結晶化リアクターを接触させるステップと、
(d)前記少なくとも1つの結晶化リアクターに電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの生体分子種の濃縮溶液を生成するステップと、
(e)前記少なくとも1つの結晶化リアクター内で少なくとも1つの結晶を得るステップと
を含む上記方法。
【請求項2】
ステップ(c)が少なくとも1つの結晶化リアクター及び少なくとも1つの生体分子種をランニングバッファー中に置くステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ランニングバッファーを攪拌するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(e)が生体分子結晶の形成を監視するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
結晶化が24時間以内、好ましくは12時間未満以内に起こる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの生体分子種がペプチド、タンパク質、ポリペプチド、酵素、抗体、タンパク質−DNA複合体、化学成分を含むタンパク質複合体、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、抗原、抗原エピトープ及びその変異体、ホルモン、炭水化物、脂質、リン脂質並びにビオチン化プローブからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
生体分子種がポリペプチド又はタンパク質から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)の少なくとも1つの生体分子種を支持体上に固定する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの結晶化リアクターをキャピラリー内に与える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの結晶化リアクターを固体支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
IEFバッファーがポリマーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ポリマーが直鎖ポリマー、分岐ポリマー、ポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、セルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの結晶化リアクターが円筒形を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
円筒形が約20μm〜約10mmの直径、及び約0.5mm〜約10mmの長さを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
IEFバッファーが0.2pH単位を超えないpH範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
IEFバッファーが0.02pH単位を超えないpH範囲を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ランニングバッファーの温度を0〜30℃の範囲内に維持する、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
電場を50V/cmと2000V/cmの間に維持する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
電場をDC又はACとして供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(b)において複数の結晶化リアクターを提供し、それぞれの結晶化リアクターがIEFバッファーを含む、請求項1から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
IEFバッファーが0.2pH単位を超えないpH範囲を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
IEFバッファーが0.02pH単位を超えないpH範囲を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
複数の結晶化リアクター中のIEFバッファーが互いに異なる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
複数のIEFバッファーのpH範囲が互いに部分的に重複する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
pH範囲が重複しない、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
1つ又は複数のIEFバッファーの間のpHステップが0.1pH単位を超えない、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1つ又は複数のIEFバッファーの間のpHステップが0.02pH単位を超えない、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
結晶化リアクターが互いに離れている、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
複数の結晶化リアクターを支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
複数の結晶化リアクターを、空間的に接触可能な方法で支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
支持体が生体分子不透過性である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
支持体がイオン不透過性である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
複数の結晶化リアクターを、固定化pH勾配ストリップ、pH膜及びプレキャストゲルからなる群から選択される形態で支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
ステップ(a)の前に少なくとも1つの生体分子種を含む溶液を選別するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
複数の生体分子を含む溶液を選別し少なくとも1つの生体分子種を急速に結晶化するための方法であって、
(a)複数の生体分子を含む媒体を提供するステップと、
(b)支持体上の複数の生体分子を選別し、それによって少なくとも1つの生体分子種を含む支持体上に少なくとも1つの位置を得るステップと、
(c)少なくとも1つの位置を含む部分を前記支持体から回収するステップと、
(d)少なくとも1つの生体分子のpIを含むpH範囲を有するIEFバッファーを含む、少なくとも1つの結晶化リアクターを提供するステップと、
(e)(c)の部分と少なくとも1つの結晶化リアクターを接触させるステップと、
(f)少なくとも1つの結晶化リアクターに電場を導入し、それによって前記少なくとも1つの結晶化リアクター内に、前記少なくとも1つの生体分子種の濃縮溶液を生成するステップと、
(g)(f)の前記少なくとも1つの結晶化リアクター内で少なくとも1つの結晶を得るステップと
を含む上記方法。
【請求項36】
等電点電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術を含めた薄層クロマトグラフィー、及びゲル電気泳動からなる群から選択される方法によってステップ(b)を行う、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記方法を非変性条件下で行う、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ステップ(b)中の選別が少なくとも1つの生体分子種の質量によるものである、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
ステップ(e)が前記部分及び少なくとも1つの結晶化リアクターをランニングバッファー中に置くステップをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
ランニングバッファーを攪拌するステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つの生体分子種がタンパク質又はポリペプチドから選択される、請求項35から40までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
結晶を24時間以内、好ましくは12時間未満以内に得る、請求項35から41までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
IEFバッファーがポリマーを含む、請求項35から42までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
pH範囲が0.2pH単位を超えない、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
ランニングバッファーの温度を0〜30℃の範囲内に維持する、請求項35に記載の方法。
【請求項46】
電場が50V/cmと2000V/cmの間である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
電場をDC又はACとして供給する、請求項35に記載の方法。
【請求項48】
ステップ(b)中の支持体がゲルである、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
ステップ(b)中の支持体がポリアクリルアミド、アガロース、ヒドロゲル、セルロース、ニトロセルロース、修飾セルロース、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリエチレンオキシド及びグリコールポリマーからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
ステップ(d)において複数のIEFバッファーを含む複数の結晶化リアクターを提供し、それぞれのIEFバッファーがpH範囲を確定し、少なくとも1つのIEFバッファーが少なくとも1つの生体分子のpIを含むpH範囲を確定する、請求項35に記載の方法。
【請求項51】
pH範囲が0.2pH単位を超えない、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
狭いpH範囲が0.02pH単位を超えない、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
複数のIEFバッファーがポリマーを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
複数のIEFバッファーが部分的に重複するpH範囲を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
複数のIEFバッファーが重複しないpH範囲を有する、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
複数の結晶化リアクターが互いに離れている、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
複数の結晶化リアクターを支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
複数の結晶化リアクターを、空間的に接触可能な方法で支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
支持体が生体分子不透過性である、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
支持体がイオン不透過性である、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
複数の結晶化リアクターを、固定化pH勾配ストリップ、pH膜及びプレキャストゲルからなる群から選択される形態で支持体と連結、接合、又は実質的に接触させる、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
1つ又は複数のIEFバッファー間のpHステップが0.1pH単位を超えない、請求項50に記載の方法。
【請求項63】
1つ又は複数のIEFバッファー間のpHステップが0.02pH単位を超えない、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
生体分子結晶の急速な形成を誘導するのに適した装置であって、
(a)上側及び下側を有するバッファー室であって、バッファー室が流体を保持することができる少なくとも1つのバッファー区画を囲うように下側が底部で封じられているバッファー室と、
(b)少なくとも1つの結晶化リアクターであって、前記少なくとも1つの結晶化リアクターがIEFバッファーを含み、前記少なくとも1つの結晶化リアクターがバッファー室内に含まれる少なくとも1つの結晶化リアクターと、
(c)電場を生成させるためのデバイスと、場合によって、
(d)少なくとも1つのバッファー区画内に含まれる流体を循環させるための手段と
を含む上記装置。
【請求項65】
成分(b)が上側及び下側の2つの端部を有するホルダーであり、前記ホルダーが少なくとも1つの結晶化リアクターを含み、前記少なくとも1つの結晶化リアクターがIEFバッファーを含み、前記ホルダーがバッファー区画内に含まれる、請求項64に記載の装置。
【請求項66】
2つの端部を有する2つの塩橋をさらに含み、それぞれの塩橋の1つの端部がホルダーの1つの端部と接触しており、それぞれの塩橋の1つの端部が少なくとも1つのバッファー室内に含まれる、請求項64に記載の装置。
【請求項67】
2つのバッファー室を含み、それぞれのバッファー室が1つの塩橋の1つの端部を囲う、請求項66に記載の装置。
【請求項68】
ホルダーが少なくとも1つの結晶化リアクターを含むように適合させたキャピラリーである、請求項65に記載の装置。
【請求項69】
少なくとも1つの結晶化リアクターにおいて温度を管理することができる温度制御モジュールをさらに含む、請求項64に記載の装置。
【請求項70】
成分(b)が少なくとも1つの結晶化リアクターを含む支持体を支持するように適合させたホルダーを含む、請求項64に記載の装置。
【請求項71】
ホルダーが少なくとも1つの空洞を含み、前記少なくとも1つの空洞を結晶化リアクターを含むように適合させた、請求項65に記載の装置。
【請求項72】
ホルダーが、それぞれの空洞が結晶化リアクターを含むように適合させた複数の空洞を有する、請求項71に記載の装置。
【請求項73】
空洞中の1つの結晶化リアクターの温度が、他の空洞中の他の結晶化リアクターの温度と異なる、請求項72に記載の装置。
【請求項74】
バッファー室が非導電性物質を含む、請求項64に記載の装置。
【請求項75】
ホルダーが、結晶化リアクター内に含まれるポリマーの抵抗より大きな抵抗を有する物質を含む、請求項65に記載の装置。
【請求項76】
非導電性物質が、ポリ−N−メチルメタクリルアミド、アクリル、ルサイト、ポリスチレン、セラミック、ガラス及びポリ−メチル−メタクリレートからなる群から選択される、請求項75に記載の装置。
【請求項77】
ホルダーが生体分子に対して不透過性である材料を含む、請求項70に記載の装置。
【請求項78】
顕微鏡下での少なくとも1つの結晶化リアクターの検出用にさらに適合させた、請求項64に記載の装置。
【請求項79】
電場を生成させるためのデバイスが複数の電極を含む、請求項64に記載の装置。
【請求項80】
複数の電極が、白金、チタン、クロム、金、タンタル、パラジウム、酸化パラジウム、ゲルマニウム、ニッケル及びロジウム又はこれらを含む合金からなる群から選択される金属を含む、請求項79に記載の装置。
【請求項81】
電場を生成させるためのデバイスがDC又はAC電流を供給する、請求項64に記載の装置。
【請求項82】
バッファー区画が、ランニングバッファー及び前記ランニングバッファーによって溶解した少なくとも1つの生体分子を含む溶液を保持するように適合された、請求項64に記載の装置。
【請求項83】
小型化された、請求項64に記載の装置。
【請求項84】
さらに自動化された、請求項83に記載の装置。
【請求項85】
生体分子が、ペプチド、タンパク質、ポリペプチド、酵素、抗体、タンパク質−DNA複合体、化学成分を含むタンパク質複合体、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、抗原、抗原エピトープ及びその変異体、ホルモン、炭水化物、脂質、リン脂質並びにビオチン化プローブからなる群から選択される、請求項64に記載の装置。
【請求項86】
生体分子がタンパク質である、請求項85に記載の装置。
【請求項87】
結晶化が24時間以内、好ましくは12時間未満以内に起こる、請求項64に記載の装置。


【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−504215(P2007−504215A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525263(P2006−525263)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000794
【国際公開番号】WO2005/021841
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506075207)バイオフォームズ (1)
【Fターム(参考)】