説明

生体吸収性エラストマー動脈支持装置および使用方法

本発明は、活性種に暴露されると重合するエステルまたはα-アミノ酸含有架橋剤によって線状ポリマーが架橋するエラストマー高分子網目構造および半相互侵入網目構造を使用して製造される生体吸収性エラストマー動脈支持装置を提供する。本発明の装置は、動脈の湾曲したセグメントに埋め込まれるために設計されており、動脈埋め込み時に拡張させ、拡張状態でインビボで架橋させて、閉塞した動脈を拡張した機能に回復させることができる。本発明の装置は、患部動脈中へのインビボ埋め込みに有用であり、多様な治療分子を周囲組織に徐放的に送達して装置の埋め込みに対する動脈応答を軽減または解消することに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、薬物送達システムに関し、特に、インビボ動脈インプラントのための、および多様な異なるタイプの分子を徐放的に送達するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
生分解性ポリマーが、バイオテクノロジーおよびバイオエンジニアリングの様々な分野において、組織工学、外科用装置および薬物送達のためのインプラントとして広く使用されるようになっている。たとえば、非毒性構成単位、たとえば疎水性α-アミノ酸、脂肪族ジオールおよびジカルボン酸からなる、規則的なAA-BBタイプの生体類似性ポリ(エステルアミド)(PEA)、ポリ(エステルウレタン)(PEUR)およびポリ(エステルウレア)(PEU)。これらの生体類似性ポリマーは、それらの優れた血液および組織適合性(K. DeFife et al. Transcatheter Cardiovascular Therapeutics―TCT 2004 Conference. Poster presentation. Washington DC. 2004(非特許文献1)、J. Da, Poster presentation, ACS Fall National Meeting, San Francisco, 2006(非特許文献2))および生物学的分解プロファイル(G. Tsitlanadze, et al. J. Biomater. Sci. Polymer Edn. (2004). 15:1-24(非特許文献3))のおかげで、生物医学用途にとって重要な材料であることが証明されている。PEAの制御された酵素分解および低い非特異的分解速度により、PEAは薬物送達用途において魅力的なものとなっている。
【0003】
多くの生物医学用装置が、動的ストレスを受ける身体環境に埋め込まれるため、インプラントは、ホストの周囲組織を刺激を与えることなく、また、ポリマーまたは装置の機械的損傷なしに、変形を起こし、変形から復元するのに十分な弾性を有しなければならない。理想的には、そのような装置は、組織および器官に機械的安定性および構造的結着性を提供する、柔らかで強靱なエラストマータンパク質性網目構造である細胞外マトリックスの性質に似た性質を有するであろう。そのような高分子網目構造は、実質的な変形からの速やかな復元を可能にするであろう。
【0004】
そのような装置の製造における推定的な使用のための様々なクラスの生分解性ポリマーエラストマーが開示されている。エラスチン様ペプチドエラストマーはタンパク質ポリマーに基づき、組換えにより製造される。ポリヒドロキシアルカノエート、たとえばポリ-4-ヒドロキシブチレートもまた、エラストマーポリマーとして使用されている。アルギネート、合成水溶性ポリマー(PEG)と架橋した植物性タンパク質および架橋ヒアルロン酸のような様々な化合物に基づくハイドロゲルが提案されている。ポリマーインプラントに使用するための、少なくとも一つのモノマーが三官能価である、共有結合的に架橋し、水素結合した三次元高分子網目構造が、最近記載された(Y Wang et al., Nat. Biotech (2002) 20:602-606(非特許文献4))。
【0005】
特に、ステントが、大きな管腔を提供することによって機械的方法で動脈再狭窄を減らすことを狙った様々な材料で製造されている。たとえば、一部のステントは時間とともに徐々に拡大する。ステントの埋め込みの際に管腔壁に対する損傷を防ぐために、多くのステントは、バルーンカテーテルの部分的に拡張したバルーンに取り付けられた収縮形態で埋め込まれたのち、インサイチューで拡張して管腔壁と接触する。米国特許第5,059,211号(特許文献1)は、環状大動脈内壁を支持するための拡張性ステントであって、ステントボディが多孔性生体吸収性材料でできているステントを開示している。そのようなステントの埋め込みの際の血管系の損傷を回避しやすくするために、米国特許第5,662,960号(特許文献2)は、ステント表面に適用することができるポリマープラスチック、ゴムまたは金属基材への適用に適した混合ハイドロゲルの摩擦軽減コーティングを開示している。
【0006】
当技術分野におけるそのような進歩にもかかわらず、新規でより良い生体吸収性エラストマー動脈支持装置、たとえば非生分解性または生分解性の相互侵入網目構造を形成することができるポリマーでできている装置が要望されている。特に、埋め込み可能であり、有毒な分解生成物を形成することなく制御された様式で生分解するそのような装置が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,059,211号
【特許文献2】米国特許第5,662,960号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K. DeFife et al. Transcatheter Cardiovascular Therapeutics―TCT 2004 Conference. Poster presentation. Washington DC. 2004
【非特許文献2】J. Da, Poster presentation, ACS Fall National Meeting, San Francisco, 2006
【非特許文献3】G. Tsitlanadze, et al. J. Biomater. Sci. Polymer Edn. (2004). 15:1-24
【非特許文献4】Y Wang et al., Nat. Biotech (2002) 20:602-606
【発明の概要】
【0009】
本発明は、高分子網目構造、特に半相互侵入網目構造を使用して生分解性エラストマー動脈支持装置を製造することができるという発見に基づく。エラストマー高分子網目構造は、線状ポリマー、好ましくは生体吸収性α-アミノ酸ベースの線状ポリマー、たとえばポリ(エステルアミド)(PEA)、ポリ(エステルウレタン)(PEUR)またはポリ(エステルウレア)(PEU)と、加水分解により生分解する一つまたは複数の官能基を含有し、活性種に暴露されると重合する多様な二官能性および多官能性架橋剤とを使用して形成される。架橋は、可塑化効果を付与することにより、増大した弾性を動脈支持装置に提供する。架橋剤が重合したのち、装置は、増大した靱性をも有するようになる。したがって、本発明の装置は、非架橋状態で動脈に埋め込み、たとえば、光ファイバカテーテルによって送られる紫外線によって提供されるような光架橋への暴露によってインサイチューで架橋させることができる。
【0010】
したがって、一つの態様において、本発明は、ミクロサイズの孔および軸方向に離間した一連のスカイブカット(skive cut)を有する細いエラストマー管を有する生体吸収性エラストマー動脈支持装置を提供する。管は、線状生分解性ポリマーと、少なくとも一つの二官能性または多官能性α-アミノ酸含有エステルアミド架橋剤との混合物で形成されており、架橋剤は、活性種に暴露されると重合して半相互侵入高分子網目構造を形成する。
【0011】
もう一つの態様において、本発明は、本発明の動脈支持装置を活性種に暴露する前に該装置を対象の動脈に導入することによって装置を埋め込む方法を提供する。ひとたび埋め込まれると、装置は、動脈中においてインサイチューで活性種に暴露されて、そこで架橋剤を架橋させ、半相互侵入高分子網目構造を形成する。
【0012】
少なくとも一つの線状ポリマーと、活性種に暴露されると重合する、少なくとも一つの加水分解性官能基および二つまたはそれ以上の官能基を含有する二官能性または多官能性架橋剤とを含有する、組成物。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】スキーム4 (スキーム中、R3=CH2(C6H5)であり、R4=(CH2)8である)にしたがって調製されたジアミノ-ジエステル遊離塩基(Phe-8,b)のFTIRスペクトルのトレースである。
【図2】スキーム4 (スキーム中、R4=(CH2)6である)にしたがって調製された、トランスエポキシコハク酸およびPhe-6 (t-ES-Phe-6)で構成され、様々な量の有機塩基(Phe-6,b)で架橋させたエポキシPEAのリパーゼ接触インビトロ生分解を示すグラフである。
【図3】120℃で1〜24時間熱的に架橋させた、トランスエポキシコハク酸およびPhe-6 (t-ES-Phe-6)で構成されたエポキシPEAのリパーゼ接触インビトロ生分解を示すグラフである。1=1時間、2=対照膜、すなわち熱処理なし、3=6時間、4=12時間および5=熱暴露24時間。
【図4】スキーム5の8-Lys(Bz)のけん化によって得られた脱ベンジル化の前(a)および後(b)のポリアミド(PA)タイプ多官能性架橋剤のDMF中のUVスペクトルのトレースである。
【図5】ポリマー光架橋剤ポリ-8-Lys-DEA/MA、C=10-2モル/LのDMF中のUVスペクトルのトレースである。
【図6】ポリマー光架橋剤ポリ-8-Lys-DEA/CA、C=10-2モル/LのDMF中のUVスペクトルのトレースである。
【図7】(a)側鎖基中にアクリル残基を有するポリアミド(PA)タイプ多官能性架橋剤、および(b)側鎖二重結合のエポキシ化後の同じポリマーのDMF中のUVスペクトルのトレースである。
【図8】不飽和ポリマーUPEAの光架橋後のヤング率の変化を示すグラフである。
【図9】細い管4が、ミクロ孔6および管4の長手に沿って軸方向に離間して位置する一連のスカイブカット8を有する生体吸収性エラストマー動脈支持装置2の平面図である。
【図10】折りたたまれた血管形成バルーン10に取り付けられた生体吸収性エラストマー動脈支持装置2の平面図である。
【図11】血管形成バルーン10が管4の中で周方向に拡張して、管4の内径が拡張した血管形成バルーン10の外径にまで伸長している、血管形成バルーン10に取り付けられた図9の生体吸収性エラストマー動脈支持装置2の平面図である。
【図12】ポリマーが、拡張した血管形成バルーンと定位置で架橋して管4中で固化し、血管形成バルーン10がすでに収縮している、図9の装置2の平面図である。
【図13】展開したスカイブカット8によって曲げられた管4を有する装置2の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、二官能性および多官能性架橋剤および線状ポリマーを使用して、エラストマー非生分解性または生分解性高分子網目構造、特に半相互侵入網目構造を形成することができるという発見に基づく。本発明の組成物において使用される架橋剤は、一つまたは複数の加水分解性官能基を含有し、活性種に暴露されると重合する。架橋剤の重合は、可塑化効果を付与することにより、増大した弾性を組成物に提供する。架橋剤が重合したのち、エラストマー組成物は、増大した靱性をも有するようになる。
【0015】
したがって、一つの態様において、本発明は、以下、図9〜13を参照して説明する生分解性エラストマー装置を提供する。装置2は、ミクロサイズ孔4および管4の長手に沿って軸方向に離間した一連のスカイブカット6を有する細いエラストマー管4を含む。本発明の装置の管は、約5mm〜約16mmの長さを有することができ、管4中のスカイブカット6は、管の非カットセグメントによって間隔をあけられていてよい。たとえば、管の長手に沿って約2mmの非カットセグメントが長さ約1mmのスカイビングされたセグメントに隣接して、図13に示すように、硬化したポリマー管が曲がることを可能にする。
【0016】
本発明の装置2の管4は、装置が活性種に暴露される前で厚さ約50ミクロン〜約2mmのエラストマー壁である。管の長さにわたって外向きの円周方向圧が加えられると、装置が崩壊することなく、たとえばポリマー管が裂けることなく、壁の厚さは約25ミクロン〜約1mmまで減少することができる。したがって、管は、装置が活性種に暴露される前の約100%から約800%まで、たとえば約1mmから約6mmまで内径が拡張することができる。
【0017】
図9〜11に示すように、対象の動脈に挿入する場合、装置2は、折りたたみ状態または非拡張状態の血管形成バルーン10の外面に取り付けられる。当技術分野で公知であるように、使用中、そのような血管形成バルーンは、対象の動脈系の中を装置2の埋め込みが望まれる場所まで通すための動脈カテーテル(図示せず)の先端に接続される。続いて、血管形成バルーンを周方向に拡張させると(図11)、拡張したバルーン10の外面が管4の内面に対して外向きの圧力を加えて、対応する管4の拡張を生じさせる。続いて、バルーン10が定位置にある間、装置2を活性種の生成に供し、その中で架橋剤の架橋を生じさせる。その後、バルーン10を収縮させ(たとえば折りたたみ)、管4から取り出すと、管4はその拡張し、硬化した状態のままとなる(図12)。結果として、装置2は拡張状態で架橋する。たとえば、管4が拡張している間、光ファイバ管を使用して紫外線を装置に送ることができる。
【0018】
管の組成物は、線状生分解性ポリマーと、少なくとも一つの加水分解性官能基を有する少なくとも一つの二官能性または多官能性α-アミノ酸含有エステルアミド架橋剤との混合物を含み、架橋剤は、フリーラジカルに暴露されると重合して半相互侵入高分子網目構造を形成する。一つの態様において、架橋剤は、混合物中、約30%〜約70%の重量パーセントで存在し、線状ポリマーは、約10%〜約90%の重量パーセントで存在する。
【0019】
これらの性質のおかげで、特定の態様において、本発明の装置を成形された形(すなわち架橋前)としてインビボに導入し、所定の位置で架橋させて、埋め込み可能な固定装置における使用に適した弾性および靱性を有するポリマー装置を作り出すことができる。または、この装置の組成物は、埋め込む前にエクスビボで架橋(すなわち重合)させることもできる。エクスビボで重合させる場合、組成物は、患部血管系の安定化および修復のための拡張可能な生体吸収性動脈支持装置へと速やかに成形されることができる。
【0020】
本発明の装置の製造に使用される組成物は少なくとも二つの成分を含む。第一の成分は、少なくとも一つの生分解性線状ポリマーであり、ホモポリマーまたはコポリマーであることができる。好ましいポリマーは、1繰り返し単位あたり少なくとも一つのアミノ酸部分および非アミノ酸部分を含有する。第二の成分は、一つまたは複数の加水分解性基、たとえばエステル基および少なくとも二つの重合性基を含有する少なくとも一つの二官能性または多官能性架橋剤であり、組成物中のこの少なくとも一つの架橋剤が、活性種に暴露されると重合する。重合性基は、フリーラジカル、カチオン性または付加環化型の架橋を起こすことができる。架橋剤が重合すると、ポリマーの生分解性半相互侵入高分子網目構造が形成される。本発明の組成物の第二の成分は一つまたは複数の二官能性または多官能性架橋剤である。両成分が混合し、架橋剤が架橋したのち、強靱な高分子網目構造または半相互侵入高分子網目構造が形成される。
【0021】
組成物は、任意で、組成物の粘度を変化させる、および/または硬化速度を調節するために使用することができる反応性希釈剤ならびに非反応性粘度調整剤をさらに含むことができる。加えて、本発明の装置を製造するために使用される組成物は、様々な添加剤、充填材、無機粒子(ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、溶解性塩)、治療および診断剤をさらに含むことができ、任意で、分散剤、光開始剤および/または光増感剤(光開始の量子収率を改善することができる)をさらに含有することができる。たとえば、反応温度、光照射の強さ、酸素の有無ならびに開始剤のタイプおよび濃度のような要因が組成物の光化学反応性を決定する。これらの要因は、光化学反応の開始、伝播および停止の速度定数のような力学的パラメータに影響する。
【0022】
本明細書で使用される「相互侵入網目構造」という用語は、二つまたはそれ以上の混合した架橋ポリマーによって形成されるポリマーブレンドをいう。ポリマーの一つが完全に線状である場合、そのような組成物は、本明細書では「半相互侵入網目構造」と呼ばれる。
【0023】
本明細書で使用される「生体活性剤」という用語は、生物学的プロセスに影響する、またはそれを診断するために使用することができる化学薬剤または分子をいい、したがって、この用語は、治療剤、緩和剤および診断剤を指す場合を含む。生体活性剤は、以下に記載されるように、ポリマーコンジュゲート内に含有されてもよいし、他の様式で組成物のポリマー中に分散していてもよい。そのような生体活性剤は、非限定的に、多様な画像診断技術で使用される診断剤ならびに小さな無機分子(すなわち薬物)、ペプチド、タンパク質、DNA、cDNA、RNA、糖、脂質および細胞全体を含むことができる。一つまたは複数のそのような生体活性剤が本発明の組成物に含められてもよい。
【0024】
本明細書で使用される「分散」という用語は、生体活性剤に言及するのに使用され、生体活性剤が線状ポリマー中に分散、混合もしくは溶解していること、線状ポリマーと均質化していること、および/または線状ポリマーに共有結合的に結合していること、たとえば組成物の線状ポリマー中の官能基に、または本発明の組成物を使用して製造される内部固定装置のような物品の表面に結合していること、をいう。
【0025】
一つの態様において、線状ポリマーは、1繰り返し単位あたり少なくとも一つのアミノ酸および非アミノ酸部分を含有する。本明細書で使用される「アミノ酸」および「α-アミノ酸」という用語は、アミノ基、カルボキシル基および側基であるR基、たとえば本明細書で定義されるR3基を含有する化合物をいう。本明細書で使用される「生物学的α-アミノ酸」という用語は、合成に使用されるアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、メチオニンまたはそれらの混合物から選択されることをいう。
【0026】
本明細書で使用される「非アミノ酸部分」という用語は、様々な化学部分を含むが、特に、本明細書に記載されるようなアミノ酸、アミノ酸誘導体およびそれらのペプチド模倣体を除外する。加えて、少なくとも一つのアミノ酸を含有するポリマーは、特に記載されない限り、ポリ(アミノ酸)セグメント、たとえば天然のポリペプチドを含むことは企図されない。一つの態様において、非アミノ酸は、繰り返し単位中で二つの隣接するα-アミノ酸の間に位置する。ポリマーは、1繰り返し単位あたり少なくとも二つの異なるアミノ酸を含むことができ、一つのポリマー分子は、分子のサイズに依存して、ポリマー分子中に多数の異なるα-アミノ酸を含有することができる。他の態様において、非アミノ酸部分は疎水性または親水性である。
【0027】
線状ポリマーは、組成物の約10重量%〜約90重量%、たとえば組成物の約30重量%〜約70重量%を構成することができる。架橋ポリマーは、半相互侵入網目構造組成物の約30重量%〜約70重量%、たとえば組成物の約40重量%〜60重量%を構成することができ、残りは添加剤、生体活性剤または診断剤および他の成分である。この態様の組成物は、これらの成分が混合されて架橋剤が架橋したとき、半相互侵入高分子網目構造を形成する。
【0028】
本明細書で使用される「半相互侵入網目構造」という用語は、少なくとも一方が他方の直接的な存在下で重合および/または架橋している、網目構造形態の二つまたはそれ以上のポリマーの組み合わせをいう。半相互侵入網目構造の形成は、不混和性高分子網目構造の分子相互侵入に作用して相分離を回避させる。線形ポリマーそのものが重合する態様においては、組成物は完全相互侵入網目構造を形成する。したがって、半および完全相互侵入網目構造は、本明細書に記載されるポリマー組成物の広いクラスの一部である。
【0029】
本組成物は、架橋の前には、射出に適した粘稠性の液体と成形可能なペースト状パテとの間の任意の粘度を有することができる。粘度は、反応性希釈剤および/または適切な溶媒を加えることによって調節することができる。しかし、架橋すると、組成物は、動脈修復を支持することができる強さおよび弾性といった性質を有する半または完全相互侵入網目構造になる。もう一つの態様において、本発明の装置は、マンドレル上で管をディップ成形したのち、微小孔およびスカイブカットをレーザカットすることによって製造される。続いて、管を所望の長さに切断して本発明の装置を得ることができる。
【0030】
重合すると、架橋剤は、組成物に可塑化効果を付与することによって組成物の弾性を増大させる。したがって、本発明の動脈支持装置は、たとえば折りたたんだ状態の血管形成バルーンの外面に取り付けられた、成形されてはいるが架橋していないエラストマー管として治療対象の損傷または閉塞した動脈に導入することができる。血管形成バルーンは、当技術分野で公知であるように、血管形成カテーテルの一体部分を形成することもできるし、そのようなカテーテルの先端に取り付けられることもできる。ひとたび対象の損傷または閉塞した動脈に挿入すると、血管形成バルーンを拡張させて、装置の管、ひいては動脈の内径を拡張させたのち、血管形成バルーンを収縮または再び折りたたみ、回収する。その後、本発明の装置は、本明細書に記載されるような活性種に供され、本発明の動脈支持装置の架橋をインサイチューで生じさせる。本発明の動脈装置は、組成物のインビボ架橋により、剛性および靱性がインサイチューで増大する。もう一つの態様において、本発明の装置中の線状ポリマーは、活性種に暴露されることなく、たとえば光誘導付加環化によって自己架橋する。
【0031】
一つの態様において、本発明の組成物およびそれにより製造された本発明の動脈支持装置は、架橋または重合の前には延性でかつ成形に対し抵抗性であるが、重合すると、弾性および靱性を併せ持つ。たとえば、架橋性組成物を使用して製造された光硬化性ポリマー動脈支持装置は、はじめは延性(塑弾性)であるため、埋め込み用のバルーンカテーテルによって拡張させることができるが、バルーンカテーテルが除去されると、所望のサイズまで収縮する。続いて、本発明の動脈支持装置は、光放射への暴露、または組成物中の架橋剤を重合させるために組成物に含まれた開始剤から活性種を生成するための別のエネルギー源への暴露によって硬化する。
【0032】
開始剤を本発明の組成物に含めることができるが、本発明の組成物の光化学反応性または熱反応性は、架橋剤の官能価および化学構造、その粘度ならびに反応条件に依存する。架橋剤の官能価は、たとえばビニル、アクリロイル、メタクリロイル、シンナモイル官能価の存在に関わらず、たとえば、合成に使用される非アミノ酸部分によって提供される。
【0033】
線状疎水性生分解性ポリマー
線状ポリマーは、架橋していないホモポリマーまたはブロックコポリマーと定義される。生分解性ポリマーは当業者には周知である。線状ポリマーを説明するために使用される「生分解性」とは、生理学的条件下で約2時間〜1年、好ましくは約2ヶ月〜6ヶ月、より好ましくは約2週〜4ヶ月の半減期を有するものである。
【0034】
適切な生分解性ポリマーの例は、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酸、ポリジオキサノン、ポリカーボネートおよびポリアミノカーボネートを含む。適切な親水性ポリマーは、合成ポリマー、たとえばポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、部分的または完全に加水分解されたポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマー(ポロキサマーおよびメロキサポール)、ポロキサミン、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシアルキル化セルロース、たとえばヒドロキシエチルセルロースおよびメチルヒドロキシプロピルセルロースならびに天然ポリマー、たとえばポリペプチド、多糖類または糖質、たとえばFicoll(商標)ポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストラン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリンもしくはアルギネートおよびタンパク質、たとえばゼラチン、コラーゲン、アルブミンもしくはオボアルブミンまたはそれらのコポリマーもしくはブレンドを含む。本明細書で使用される「セルロース」は、セルロースおよび上記タイプの誘導体を含み、「デキストラン」は、デキストランおよびその類似した誘導体を含む。
【0035】
もう一つのタイプの生分解性ポリマーは、1繰り返し単位あたり少なくとも一つの非アミノ酸部分にコンジュゲートした少なくとも一つのα-アミノ酸を含むものである。本発明の組成物および使用方法における使用に好ましい生分解性線状ポリマーは下記ポリマーの少なくとも一つを含む。
下記一般構造式(I)によって示される化学式を有するPEA:

式中、
nは、約10〜約150であり、各R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C12)エポキシアルキレン、α,ω-ビス(o、mまたはp-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、かつ各nモノマー中のR4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、下記一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される

;または
下記一般構造式(III)によって示される化学構造を有するPEA:

式中、
mは、約0.1〜約0.9であり、pは、約0.9〜約0.1であり、nは、約10〜約150であり、各R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C12)エポキシアルキレン、α,ω-ビス(o、mまたはp-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、R2は、独立して、水素、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび保護基からなる群より選択され、各R3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、各R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、かつR5は、独立して、(C2〜C20)アルキルまたは(C2〜C20)アルケニル、たとえば(C3〜C6)アルキルまたは(C3〜C6)アルケニル、好ましくは-(CH2)4-である;
下記構造式(IV)によって示される化学式を有するPEUR:

式中、
nは、約5〜約150の範囲であり、個々のnモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、R4およびR6は、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C20)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される;
または
下記一般構造式(V)によって示される化学構造を有するPEUR:

式中、
nは、約5〜約150の範囲であり、mは、約0.1〜約0.9の範囲であり、pは、約0.9〜約0.1の範囲であり、R2は、独立して、水素、(C1〜C12)アルキル、(C2〜C8)アルキルオキシ、(C2〜C20)アルキル(C6〜C10)アリールおよび保護基からなる群より選択され、個々のmモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、R4およびR6は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C20)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、かつR5は、独立して、(C1〜C20)アルキルおよび(C2〜C20)アルケニルからなる群より選択され、たとえば(C3〜C6)アルキルまたは(C3〜C6)アルケニル、好ましくは-(CH2)4-である。
【0036】
たとえば、PEAポリマーの一つの態様において、少なくとも一つのR1は、α,ω-ビス(4-カルボキシフェノキシ)(C1〜C8)アルカンまたは4,4'(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基であり、かつR4は、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントである。または、式(I)のPEAポリマーにおいて、R1は、-(CH2)8 0.75体積部以上とトランス-CH=CH- 0.25体積部以下との組み合わせであり、R3は-CH2C6H5であり、かつR4は-(CH2)6-である。本発明の装置において線状ポリマーとして使用される場合、この装置の管は、架橋前には約1.0〜約2.0GPaの範囲、たとえば約1.8GPaのヤング率を有することができ、架橋後には約2.3〜約3.0GPaの範囲、たとえば約2.7GPaのヤング率を有することができる。
【0037】
本発明の装置の製造に使用される線状ポリマーが一般構造式(I)によって示されるPEAであるもう一つの態様において、R1は-CH=CH-であり、R3は-CH2CH(CH3)2であり、かつR4は-(CH2)12-である。
【0038】
本発明の装置の製造に使用される線状ポリマーが一般構造式(I)または(II)によって示されるPEAであるもう一つの態様においては、R4が1,4:3,6-ジアンヒドロソルビトールである、またはR1が1,3-ビス(カルボキシフェノキシ)プロパンである。
【0039】
PEURポリマーの一つの代替的な態様において、R4またはR6の少なくとも一つが1,4:3,6-ジアンヒドロソルビトール(DAS)である。
【0040】
本発明の実施における使用に適した保護基は、t-ブチルおよび当技術分野で公知であるような他の保護基を含む。1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの適切な二環式フラグメントは、糖アルコール、たとえばD-グルシトール、D-マンニトールおよびL-イジトールから誘導することができる。たとえば、1,4:3,6-ジアンヒドロソルビトール(イソソルビド、DAS)は、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントとしての使用に特に適している。
【0041】
本発明の装置で使用されるPEA、PEURおよびPEU線状ポリマーを説明するために本明細書で使用される「生分解性」という用語は、そのポリマーが、体の正常な機能において無害な生体活性生成物に分解されることができることをいう。一つの態様において、組成物全体が生分解性である。これらの生分解性PEA、PEURおよびPEUポリマーは、生分解性を提供する加水分解性エステル結合および酵素的に開裂可能なアミド結合を有し、典型的には、主としてアミノ基によって連鎖を止められている。
【0042】
構造式(IおよびIII〜V)によって本明細書で示されるPEA、PEURおよびPEUポリマーの多くは、側鎖上に組み込まれた官能基を有し、これらの組み込まれた官能基が、他の化学物質と反応し、さらなる官能基の組み込みを生じさせて、ポリマーの官能価をさらに拡大させることができる。したがって、本発明の方法で使用されるそのようなポリマーは、事前の改変の必要なく、水溶性を高めるための親水性構造を有する他の化学物質および/または生体活性剤および被覆分子と反応する用意ができている。
【0043】
加えて、本発明の装置で使用されるPEA、PEURおよびPEU線状ポリマーは、食塩水(PBS)媒体中で試験した場合にはごくわずかな加水分解しか示さないが、たとえばキモトリプシンまたはCTなどの酵素溶液中では均一な浸食挙動を示す。
【0044】
一つの代替的な態様において、式(IおよびIII〜V)のポリマーの少なくとも一つのnモノマー中のR3はCH2Phであり、合成に使用されるα-アミノ酸はL-フェニルアラニンである。モノマー中のR3が-CH2-CH(CH3)2である代替的な態様において、ポリマーはα-アミノ酸であるロイシンを含有する。R3を変更することにより、他のα-アミノ酸、たとえばグリシン(R3が-Hである場合)、アラニン(R3が-CH3である場合)、バリン(R3が-CH(CH3)2である場合)、イソロイシン(R3が-CH(CH3)-CH2-CH3である場合)、フェニルアラニン(R3が-CH2-C6H5である場合)、リシン(R3が-(CH2)4-NH2である場合)またはメチオニン(R3が(CH2)2SCH3である場合)を使用することもできる。
【0045】
ポリマーが式IまたはIII〜VIIのPEA、PEURまたはPEUを含むさらなる態様において、少なくとも一つのモノマーにおいて、R3はさらに-(CH2)3-であることができ、ここで、R3は環化して、下記構造式(VIII)によって示される化学構造を形成することができる:

R3が-(CH2)3-である場合、ピロリジン-2-カルボン酸(プロリン)に類似したα-イミノ酸が使用される。
【0046】
式(IおよびIII〜V)によって示されるPEA、PEURおよびPEUは、酵素反応によって実質的に生分解して、分散した生体活性剤を時間とともに放出する生分解性ポリマーである。これらのポリマーの構造的性質のゆえに、本発明の方法で使用される場合、そのようにして形成された組成物は、その三次元構造、ひいては生体活性を保存しながらも生体活性剤の安定な添加を提供する。
【0047】
式(IおよびIII〜VII)によって示される、本発明の装置におけるPEA、PEURおよびPEU線状ポリマーを説明するために本明細書で使用される「生分解性」という用語は、ポリマーが、体の正常な機能において無害な生成物に分解されることができることをいう。一つの態様において、組成物全体が生分解性である。これらの生分解性ポリマーは、生分解性を提供する加水分解性エステル結合を有し、典型的には、主としてアミノ基によって連鎖を止められている。
【0048】
本明細書で使用される「アミノ酸」および「α-アミノ酸」という用語は、アミノ基、カルボキシル基および側基であるR基、たとえば本明細書で定義されるR3基を含有する化合物をいう。本明細書で使用される「生物学的α-アミノ酸」という用語は、合成に使用されるアミノ酸が、フェニルアラニン、ロイシン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、メチオニン、プロリンまたはそれらの混合物から選択されることをいう。本明細書で使用される「非アミノ酸部分」という用語は、様々な化学部分を含むが、特に、本明細書に記載されるようなアミノ誘導体およびペプチド模倣体を除外する。加えて、少なくとも一つのアミノ酸を含有するポリマーは、特に記載されない限り、ポリ(アミノ酸)セグメント、たとえば天然のポリペプチドを含むことは企図されない。一つの態様において、非アミノ酸は、繰り返し単位中で二つの隣接するα-アミノ酸の間に位置する。
【0049】
本発明を実施するのに有用な生分解性PEA、PEURおよびPEUポリマーにおいて、多数の異なるα-アミノ酸を一つのポリマー分子中に使用することができる。これらのポリマーは、1繰り返し単位あたり少なくとも二つの異なるアミノ酸を含むことができ、一つのポリマー分子が、分子サイズに依存して、ポリマー分子中に多数の異なるα-アミノ酸を含有することができる。一つの代替的な態様において、本発明のポリマーの製造に使用されるα-アミノ酸の少なくとも一つは生物学的α-アミノ酸である。
【0050】
「アリール」という用語は、本明細書における構造式を参照して、フェニル基または、約9〜10個の環原子を有する、少なくとも一つの環が芳香環であるオルト縮合二環式炭素環式基を指すために使用される。特定の態様において、環原子の一つまたは複数は、ニトロ、シアノ、ハロ、トリフルオロメチルまたはトリフルオロメトキシの一つまたは複数で置換されていることができる。アリールの例は、非限定的に、フェニル、ナフチルおよびニトロフェニルを含む。
【0051】
「アルケニレン」という用語は、本明細書における構造式を参照して、主鎖または側鎖中に少なくとも一つの不飽和結合を含有する二価の分岐鎖状または非分岐鎖状炭化水素鎖をいうために使用される。
【0052】
加えて、本発明の装置で使用されるPEA、PEURおよびPEUポリマーは、酵素作用によって表面で生分解して均一な浸食挙動を示すが、食塩水(PBS)媒体中で試験した場合には、ごくわずかな加水分解しか示さない。したがって、そのようなポリマーを線状ポリマーとして含有する組成物を使用して製造された物品は、インビボに埋め込まれた場合、長期間にわたって特異的かつ一定である制御された放出速度で、分散した生体活性剤を対象に放出することができる。
【0053】
式(IおよびIII〜V)のPEAおよびPEURポリマーは完全に生分解性であり、分解生成物は体によって容易に使用または排出されるようになっているが、生分解性ポリマーのいくつかの他のものにおいては、排出を可能にするために低分子量ポリマーが必要である場合がある。人間(または使用が企図される他の種)における排出を可能にするための最大分子量はポリマータイプによって異なり、多くの場合、約20,000Daまたはそれ未満であると考えられる。
【0054】
架橋剤
本発明の装置の管の第二の成分は、エステルタイプ架橋剤(ESC)、エステルアミドタイプ架橋剤(EAC)、水溶性エステルタイプ架橋剤(WESC)および水溶性エステルアミドタイプ架橋剤(WEAC)から選択される少なくとも一つの二官能性または多官能性架橋剤である。架橋剤を説明するために使用される「官能価」および「官能性」という用語は、1分子あたりの反応性官能価(二重結合または第一級アミン基)の数をいう。たとえば、二官能性架橋剤は二つの二重結合を含有する。官能価はまた、モノマー1kgあたりの二重結合の数として表すこともできる。本明細書に記載される架橋剤は、アクリレート、メタクリレートおよびシンナモイル官能価または第一級アミン基を有する。
【0055】
適切なフリーラジカル重合性基は、エチレン性不飽和基(すなわちビニル基)、たとえばビニルエーテル、アリル基、不飽和モノカルボン酸および不飽和ジカルボン酸を含む。不飽和モノカルボン酸はアクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸を含む。不飽和ジカルボン酸はマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸またはシトラコン酸を含む。
【0056】
本発明の装置の管において架橋剤として使用することができる市販の二官能性および四官能性モノマーの例はアルキルフマレート、たとえばジエチルフマレートである。他の例はエステルタイプ多官能性架橋剤、たとえばテトラおよびヘキサアクリレートを含む。
【0057】
1.a.
下記式(IX)のアルキルフマレートがいくつかの研究グループによって可塑剤または溶媒および同時に架橋剤として不飽和脂肪族ポリエステルと組み合わせてうまく使用されている(J. P. Fisher et al., Biomaterials (2002) 22:4333-4343およびその中で引用されている文献)。下記一般構造式(IX)によって示されるジエチルフマレートは、本明細書に記載される構造式(IおよびIII〜VII)のポリマーと組み合わせて架橋剤として使用される場合には架橋剤として機能するが、ラジカル光架橋中にはむしろ不活性であり、架橋剤としてのフマル酸ベースのオリゴまたはポリ(エステルアミド)よりも長い暴露時間を要するということが見いだされた。

式中、
n=0〜12の任意の整数である。
【0058】
1.b.
エステルタイプ架橋剤(ESC)は、もっとも廉価で広く利用されている架橋剤であり、ジ-、トリ-、テトラ-またはポリ-アルコール、たとえばポリビニルアルコールと不飽和炭酸塩化物、たとえばアクリル酸、メタクリル酸またはケイ皮酸塩化物との相互作用によって合成することができる。ESC架橋剤の例は、すなわちAldrich Chemicalsから市販されている1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリトリトールトリ-およびテトラ-アクリレートを含む。しかし、これらの市販の架橋剤は、光誘導重合を阻害するおそれのある安定剤を含有する。したがって、さらなる精製手順が必要である。構造式(IおよびIII〜VII)を有する本明細書に記載されるポリマーと組み合わせてポリマー構築物を構築する場合には、調製されたばかりの、阻害剤を含まないESCの使用が有利である。阻害剤を使用せずにこれらのタイプの化合物を調製する方法が以下の実施例1に記載されている。本発明の装置および使用方法の管で使用される組成物における使用に適した二官能性エステルタイプ架橋剤(ESC-2)の例は、非毒性脂肪酸ジオールに基づく。「2」はESC (下記式X)の(二)官能価を示す。

【0059】
1.c.
また、本明細書に記載される組成物および方法における使用に適した水溶性エステルタイプ架橋剤(WESC)が見いだされている。二官能性WESC-2は、7を超えるpHで水溶性であり、マレイン酸ベースのジエステル二酸架橋剤である。本発明の組成物中の線状ポリマーが、10000〜100000Daの平均分子量を有する多糖類の不飽和誘導体である場合、活性種への架橋剤の暴露により、約200〜約1,500、たとえば約400〜約1,200の範囲の水中平衡膨潤率を有するハイドロゲルの性質を有する高分子網目構造が形成される。そのような水溶性架橋剤の化学構造は下記一般構造式(XI)によって示される:

式中、
n=2〜12の任意の整数である。
【0060】
短い脂肪族(脂肪酸)ジオールに基づく二官能性WESC-2は、本明細書の実施例2に記載されるように、ジオールとマレイン酸無水物との相互作用によって合成されている。
【0061】
1.d.
非毒性多官能性ジオールに基づく多官能性ESC、たとえば三、四および五以上の官能性の架橋剤を同様にして調製することができる(本明細書の実施例1および2に記載のようにして)。そのような多官能性架橋剤の調製における使用に適した多官能性ジオールは、非限定的に、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセロールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタ/ヘキサアクリレートなどを含む。ペンタエリトリトールをアクリロイル、メタクリロイルおよびシンナモイル塩化物と縮合させることによって例示的なESC-4が調製されている。
【0062】
ポリ(ビニルアルコール)に基づくオリゴおよびポリマーエステルタイプ架橋剤(ESC-P)の一般構造式が下記式(XII)に示されている:

式中、
nは、2、4、6または8であり、R7は、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)、-CH=CH-COOHである。
【0063】
2.a. ジアミンタイプ非光反応性架橋剤
本明細書の実施例に示すように、フマル酸で構成された不飽和PEAおよびエポキシPEAの分子内および分子間架橋のためにジアミンを適用することもできる。モデルジアミン(1,6-ヘキシレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン)による化学架橋は、穏やかな(加温)条件下で効率的に進行する。しかし、脂肪酸ジアミンはいくらか毒性であり、これらの化合物で形成される分子間結合は生分解性ではない。したがって、より有望な架橋剤は、対応するジ-p-トルエンスルホン酸塩から遊離塩基として分離したビス-(α-アミノ酸)-α,ω-アルキレンジエステル、すなわち(α-アミノアシルジオール)である。ビス-(α-アミノ酸)-α,ω-アルキレンジエステルは、上記AABBタイプのPEA、PEURおよびPEUポリマー(式(IおよびIII〜VII))の形成で使用される主要モノマーを代表する。
【0064】
ジアミンによって活性化される非光反応性架橋剤としてのビス-(α-アミノ酸)-α,ω-アルキレンジエステルの開発は、N-アシル-L-α-アミノ酸のエステルがα-キモトリプシンの作用によって容易に開裂するという事実と一貫しており、たとえば、それらの加水分解の速度は、対応する脂肪族アミドの加水分解速度よりも約105倍高い(M. L. Bender and F. J. Kezdy, Ann. Rev. Biochem. (1965) 34:49およびI. V. Berezin, et al. FEBS lett. (1971) 15:125)。同じタイプのジエステル-ジアミンモノマーに基づくポリ(エステルアミド)(PEA)は、エステラーゼの影響を受けるインビトロ生分解実験では生分解性であることが知られている(G. Tsitlanadze, et al. J. Biomater. Sci. Polymer Edn. (2004). 15:1-24)。したがって、ビス(α-アミノアシル)-α,ω-アルキレンジエステルに基づくモノマーおよびオリゴマー架橋剤もまた、その中に含まれる加水分解的に不安定なエステル基に起因して、架橋した場合、生分解性になると予想することができる。ジアミンタイプ非光反応性架橋剤は、本明細書において実施例3に記載されている。
【0065】
3.a.
エステルアミドタイプ(EAC)架橋剤は、完全に生分解性の系を調製する場合およびエステルタイプ架橋剤が架橋性骨格ポリマーと低い混和性(低い親和性)しか示さない場合に有用である。EAC架橋剤は、そのエステルアミド性および非毒性α-アミノ酸起源のおかげで、他のタイプの線状ポリマーよりも、本明細書に開示されるα-アミノ酸ベースのPEA、PEURおよびPEUとより高い適合性を示すと予想される。
【0066】
光硬化性基を有するEACファミリーの三つのタイプの架橋剤が本発明の動脈支持装置における使用のために本明細書に開示される。二官能性エステルアミド架橋剤(EAC-2)は、ビス-(α-アミノアシル)ジオール-ジエステルに基づき、これはまた、AABBタイプ生物医学用ポリマーの合成のための主要モノマーでもあり、下記一般構造式(XIII)によって示される化学構造を有する:

式中、
各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され;かつR7は、独立して、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【0067】
3.b.
EAC架橋剤はまた、下記一般構造式(XIV)によって示される化学構造を有する多官能性、たとえば三、四、五または六官能性架橋剤であることもできる:

式中、
n=3〜6であり、R8は、多官能性脂肪族ポリオール、たとえばグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールなどの残基である。たとえば、R8は、分岐鎖状(C2〜C12)アルキレンまたは分岐鎖状(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレンからなる群より選択することができる。好ましくは、R8は、-CH(CH2-)2、CH3-CH2-C(CH2-)3、C(CH2-)4および(-CH2)3C-CH2-O-CH2-C(CH2-)3からなる群より選択される。
【0068】
たとえば、下記構造式(XV)によって示される四官能性架橋剤(EAC-4)が、以下の実施例5に記載されるようにして、テトラ(α-アミノアシル)ペンタエリトリトールのテトラp-トルエンスルホン酸塩に基づいて合成された:

式中、
各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;かつR5は、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【0069】
3.c.
または、EAC架橋剤は、下記一般構造式(XVI)によって示される化学式を有するポリアミドタイプ架橋剤(EAC-PA)であることができる:

式中、
nは、約10〜約150であり;R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、α,ω-ビス(o、mまたはp-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;かつR7は、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【0070】
3.d.
さらにまたは、EAC架橋剤はまた、下記一般構造式(XVII)によって示される化学式を有するPEAポリマー(EAC-PEA)に基づくポリ(エステルアミド)架橋剤であることができる:

式中、
mは、約0.1〜約0.9であり;qは、約0.9〜約0.1であり;nは、約10〜約150であり;各R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、α,ω-ビス(o、mまたはp-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;mモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、一般式IIの1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され;R5は、独立して、(C2〜C20)アルキルまたは(C2〜C20)アルケニルであり;かつR7は、独立して、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【0071】
反応性希釈剤
本発明の動脈支持装置の管に使用されるポリマー混合物に含まれる架橋剤は、組成物の粘度を変化させ、組成物の硬化速度を調節するならば、反応性希釈剤とみなされる。反応性希釈剤は、上記のような架橋剤モノマーおよびマクロマー両方を含む。
【0072】
添加剤
本発明の動脈支持装置の管を構成する組成物はまた、添加剤、たとえばセラミックスの粒子を含むことができる。そのような添加剤の適切な非限定的例は、ヒドロキシアパタイト、焼き石膏、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ポリホスフェート、ポリホスホネートポリホスフェートなどを含む。
【0073】
生体活性剤
組成物はまた、治療用または診断用の様々な生体活性剤を含むことができる。生体活性剤は、本明細書に記載される本発明の動脈支持装置の管に含まれるポリマー混合物中に分散させることもできるし、または、本発明の動脈支持装置の外面を被覆するポリマーコーティング層中に分散させることもできるし、微粒子に組み込んだのち、その微粒子を組成物に組み込むこともできる。薬剤を微粒子に組み込むことは、本発明の動脈支持装置の製造に使用される本発明の組成物の成分の一つまたは複数と不都合に反応性である薬剤、すなわち、ヒドロキシまたはアミン官能価を有し、エステル結合を含む組成物に組み込まれる薬剤の場合に、有利であり得る。ポリマーコーティングおよびポリマー微粒子ならびにそれらの調製方法は当業者に周知であり、参照により本明細書に組み入れられる。
【0074】
組成物に組み込むことができる生体活性剤の例は、タンパク質、多糖類、核酸分子および合成有機または無機分子を含む。これらの生体活性剤は、治療、緩和または診断の目的に有用であることができる。使用することができる薬物は、麻酔剤、抗生物質、抗ウイルス剤、核酸、化学療法剤、抗血管新生剤、ホルモン、血管流に対する効果を有する薬物および抗炎症剤を含む。
【0075】
本発明の装置および方法で使用される組成物は、細胞移植を促進するための液性因子を含むことができる。たとえば、組成物は、血管新生因子、抗生物質、抗炎症剤、成長因子、分化を誘発する化合物およびそのような目標を達成するのに適した当業者に公知である他の細胞培養因子と組み合わされることができる。核酸分子は、遺伝子、相補的DNAに結合して転写を阻害するアンチセンス分子、リボザイムおよびリボザイムガイド配列を含む。タンパク質とは、100またはそれ以上のアミノ酸残基からなるものと定義され、ペプチドとは、100未満のアミノ酸残基からなるものと定義される。断りない限り、「タンパク質」という用語はタンパク質およびペプチドの両方を指す。そのようなタンパク質の例はホルモンを含む。多糖類、たとえばヘパリンを投与することもできる。たとえば50〜500,000Daの広い範囲の分子量を有する化合物を、乾燥および硬化の前に、組成物に組み込まれた線状ポリマーまたは架橋した組成物中に分散させることができる。
【0076】
本発明の組成物中に分散させ、それから放出させるための生体活性剤はまた、増殖抑制剤、たとえばラパマイシンおよびその類似物または誘導体、パクリタキセルまたは任意のそのタキセン類似物または誘導体、エベロリムス、シロリムス、タクロリムスまたは名前に-リムスを有する任意のその薬物ファミリーならびにスタチン、たとえばシンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチン、ゲルダナマイシン、たとえば17AAG (17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン)、エポチロンDおよび他のエポチロン、17-ジメチルアミノエチルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシンおよび熱ショックタンパク質90 (Hsp90)の他のポリケチド阻害薬、シロスタゾールなどを含む。
【0077】
本発明の装置で使用されるポリマー内に分散させることが企図されるさらなる生体活性剤は、ポリマー組成物から放出または溶出すると、内皮細胞によって内因的に産生される、治療的な天然の創傷治癒剤、たとえば一酸化窒素の内因性生産を促進する薬剤を含む。または、分解中のポリマーから放出される生体活性剤は、内皮細胞による天然の創傷治癒過程を促進する際に直接的に活性を示すこともできる。これらの生体活性剤は、一酸化窒素を供与、移動または放出する、一酸化窒素の内在レベルを高める、一酸化窒素の内因性合成を刺激する、もしくは一酸化窒素シンターゼのための基質として働く、または平滑筋細胞の増殖を阻害する任意の薬剤であることができる。そのような生体活性剤は、たとえば、アミノキシル、フロキサン、ニトロソチオール、ニトレートおよびアントシアニン、ヌクレオシド、たとえばアデノシンおよびヌクレオチド、たとえばアデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)、神経伝達物質/神経調節物質、たとえばアセチルコリンおよび5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン/5-HT)、ヒスタミンおよびカテコールアミン、たとえばアドレナリンおよびノルアドレナリン、脂質分子、たとえばスフィンゴシン-1-リン酸およびリゾホスファチド酸、アミノ酸、たとえばアルギニンおよびリシン、ペプチド、たとえばブラジキニン、サブスタンスPおよびカルシウム遺伝子関連ペプチド(CGRP)ならびにタンパク質、たとえばインスリン、血管内皮成長因子(VEGF)およびトロンビンを含む。
【0078】
多様な生体活性剤、コーティング分子および生体活性剤のためのリガンドを、たとえば共有結合的に、本発明の装置中のポリマーの表面のポリマーに付着させることができる。たとえば、標的抗体、ポリペプチド、薬物などを組成物の表面のポリマーに共有結合的にコンジュゲートさせることができる。加えて、抗体もしくはポリペプチドの付着のためのリガンドとしてのコーティング分子、たとえばポリエチレングリコール(PEG)または対象の非標的生物学的分子および対象の表面が本発明の装置に粘着することを防ぐために物品表面上の付着部位をブロックするための手段としてのホスファチジルコリン(PC)。
【0079】
たとえば、小さなタンパク質様モチーフ、たとえばバクテリアプロテインAのBドメインおよびプロテインGの機能的に同等の領域が、Fc領域によって抗体分子に結合し、それによって抗体分子を捕捉することが知られている。このようなタンパク質様モチーフを、ポリマー、特に内部固定装置の表面のポリマーに付着させることができる。このような分子は、たとえば、標的抗体として使用するための抗体を付着させる、または抗体を捕捉して前駆細胞を保持する、もしくは患者の血流からの抗体を捕捉するためのリガンドとして作用する。したがって、プロテインAまたはプロテインG機能領域を使用してポリマーコーティングに付着させることができる抗体タイプは、Fc領域を含有する抗体タイプである。捕捉抗体は、他方、ポリマー表面の近くで前駆細胞に結合し、それを保持し、好ましくは本発明の装置の孔内の増殖培地に浸漬された前駆細胞は、様々な因子を分泌し、対象の他の細胞と相互作用する。加えて、本発明の組成物または装置中に(たとえばその孔の中に)分散した一つまたは複数の生体活性剤、たとえばブラジキニンが前駆細胞を活性化することもできる。
【0080】
加えて、前駆細胞を付着させる、または患者の血流から内皮前駆細胞(PEC)を捕捉するための生体活性剤は、公知の前駆細胞表面マーカーに対するモノクロナール抗体である。たとえば、内皮細胞の表面を装飾することが報告されている相補性決定因子(CD)は、CD31、CD34、CD102、CD105、CD106、CD109、CDw130、CD141、CD142、CD143、CD144、CDw145、CD146、CD147およびCD166を含む。これらの細胞表面マーカーは、異なる特異性を有することができ、特定の細胞/発達タイプ/段階に対する特異性の程度は、多くの場合、十分には特性決定されていない。加えて、抗体がそれに対して産生されたこれらの細胞マーカー分子は、特に同じ系列の細胞、内皮細胞の場合には単球上のCDと重複する(抗体認識の観点で)。循環する内皮前駆細胞は、(骨髄)単球から成熟内皮細胞への発生経路の途中にある。CD106、142および144は、いくらかの特異性をもって成熟内皮細胞を標識すると報告されている。CD34は、内皮前駆細胞に対して特異的であることが現在知られており、したがって、現在のところ、活性薬剤の局所送達のために本発明の組成物または装置が埋め込まれる部位の血液からの内皮前駆細胞を捕捉するのに好ましい。そのような抗体の例は、単鎖抗体、キメラ抗体、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、抗体フラグメント、Fabフラグメント、IgA、IgG、IgM、IgD、IgEおよびヒト化抗体を含む。
【0081】
対象の疾病もしくは病状またはその症候の処置における適切な治療または緩和効果に関して選択される場合、本発明の組成物のポリマー内に分散させるのには、以下の生体活性剤(有機または無機合成分子(たとえば薬物)を含む)が特に有効である。
【0082】
一つの態様において、適切な生体活性剤は、非限定的に、特に徐放的に提示された場合に創傷治癒を促進する、またはそれに寄与する様々なクラスの化合物を含む。そのような生体活性剤は、本発明の組成物および装置によって保護され、かつ送達されることができる、特定の前駆細胞を含む創傷治癒細胞を含む。そのような創傷治癒細胞は、たとえば、周皮細胞および内皮細胞ならびに炎症治癒細胞を含む。そのような細胞を、本発明の組成物を使用して製造された装置のインビボ埋め込み部位に動員するためには、「細胞接着分子」(CAM)に特異的に結合する、そのような細胞のためのリガンド、たとえば抗体および小分子リガンドを使用することができる。創傷治癒細胞のための例示的なリガンドは、細胞間接着分子(ICAM)、たとえばICAM-1 (CD54抗原)、ICAM-2 (CD102抗原)、ICAM-3 (CD50抗原)、ICAM-4 (CD242抗原)およびICAM-5、血管細胞接着分子(VCAM)、たとえばVCAM-1 (CD106抗原)、神経細胞接着分子(NCAM)、たとえばNCAM-1 (CD56抗原)またはNCAM-2、血小板内皮細胞接着分子PECAN、たとえばPECAM-1 (CD31抗原)、白血球内皮細胞接着分子(ELAM)、たとえばLECAM-1またはLECAM-2 (CD62E抗原)などに特異的に結合するものを含む。
【0083】
もう一つの局面において、適切な生体活性剤は、本発明の組成物および装置で使用されるポリマー中に分散させる、たとえば共有結合的または非共有結合的に付着させることができる高分子である細胞外マトリックスタンパク質を含む。有用な細胞外マトリックスタンパク質の例は、たとえば、通常はタンパク質に結合したグリコサミノグリカン(プロテオグリカン)および繊維状タンパク質(たとえばコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチンおよびラミニン)を含む。細胞外タンパク質のバイオミメティックを使用することもできる。これらは通常、非ヒトの、生体適合性糖タンパク質、たとえばアルギネートおよびキチン誘導体である。そのような細胞外マトリックスタンパク質および/またはそれらのバイオミメティックの特異的フラグメントである創傷治癒ペプチドを生体活性剤として使用することもできる。
【0084】
タンパク質様成長因子が、本明細書に記載される本発明の組成物および装置における分散に適した生体活性剤のさらなるカテゴリーである。そのような生体活性剤は、当技術分野で公知であるように、創傷治癒および他の疾病状態を促進するのに有効である。たとえば、血小板由来成長因子BB (PDGF-BB)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、上皮成長因子(EGF)、ケラチン合成細胞成長因子(KGF)、チモシンB4ならびに様々な血管新生因子、たとえば血管内皮細胞成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、腫瘍壊死因子β(TNF-β)およびインスリン様成長因子-1 (IGF-1)。これらのタンパク質様成長因子の多くは市販されており、当技術分野で周知の技術を使用して組換えにより製造することもできる。
【0085】
または、成長因子、たとえばVEGF、PDGF、FGF、NGFおよび進化的かつ機能的に関連する生物製剤ならびに血管新生酵素、たとえばトロンビンを生体活性剤として本発明で使用することもできる。
【0086】
有機または無機合成分子、たとえば薬物が、本明細書に記載される本発明の組成物および装置における分散に適した生体活性剤のさらなるカテゴリーである。そのような薬物は、たとえば、抗菌剤および抗炎症剤ならびに特定の治癒促進剤、たとえばビタミンAおよび合成脂質過酸化阻害剤を含む。
【0087】
感染を防止または抑制することによって天然の治癒過程を間接的に促進するための多様な抗生物質を本発明の組成物で使用することができる。適切な抗生物質は、多くのクラス、たとえばアミノグリコシド系抗生物質またはキノロンもしくはβラクタム系、たとえばセファロスポリン、たとえばシプロフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、エリスロマイシン、バンコマイシン、オキサシリン、クロキサシリン、メチシリン、リンコマイシン、アンピシリンおよびコリスチンを含む。適切な抗生物質は文献に記載されている。
【0088】
適切な抗菌剤は、たとえば、Adriamycin PFS/RDF (登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、Blenoxane (登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Cerubidine (登録商標)(Bedford)、Cosmegen(登録商標)(Merck)、DaunoXome (登録商標)(NeXstar)、Doxil (登録商標)(Sequus)、Doxorubicin Hydrochloride (登録商標)(Astra)、Idamycin (登録商標) PFS (Pharmacia and Upjohn)、Mithracin (登録商標)(Bayer)、Mitamycin (登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Nipen (登録商標)(SuperGen)、Novantrone (登録商標)(Immunex)およびRubex (登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)を含む。一つの態様において、ペプチドは糖ペプチドであることができる。「糖ペプチド」とは、糖類基によって置換されていてもよい多環ペプチドコアを特徴とするオリゴペプチド(たとえばヘプタペプチド)抗生物質、たとえばバンコマイシンをいう。
【0089】
このカテゴリーの抗菌剤に含まれる糖ペプチドの例は、Raymond C. RaoおよびLouise W. Crandallによる「Glycopeptides Classification, Occurrence, and Discovery」("Bioactive agents and the Pharmaceutical Sciences" Volume 63, edited by Ramakrishnan Nagarajan, published by Marcal Dekker, Inc.)に見ることができる。糖ペプチドのさらなる例は、米国特許第4,639,433号、第4,643,987号、第4,497,802号、第4,698,327号、第5,591,714号、第5,840,684号および第5,843,889号、EP0802199、EP0801075、EP0667353、WO97/28812、WO97/38702、WO98/52589、WO98/52592ならびにJ. Amer. Chem. Soc., 1996, 118, 13107-13108、J. Amer. Chem. Soc., 1997, 119, 12041-12047およびJ. Amer. Chem. Soc., 1994, 116, 4573-4590に開示されている。代表的な糖ペプチドは、A477、A35512、A40926、A41030、A42867、A47934、A80407、A82846、A83850、A84575、AB-65、アクタプラニン、アクチノイジン、アルダシン、アボパルシン、アズレオマイシン、バルヒマイシン、クロロオリエンチエイン、クロロポリスポリン、デカプラニン、-デメチルバンコマイシン、エレモマイシン、ガラカルジン、ヘルベカルジン、イズペプチン、キブデリン、LL-AM374、マンノペプチン、MM45289、MM47756、MM47761、MM49721、MM47766、MM55260、MM55266、MM55270、MM56597、MM56598、OA-7653、オレンチシン、パルボジシン、リストセチン、リストマイシン、シンモニシン、テイコプラニン、UK-68597、UD-69542、UK-72051、バンコマイシンなどとして識別されるものを含む。本明細書で使用される「糖ペプチド」または「糖ペプチド抗生物質」という用語はまた、糖部分が存在しない上記糖ペプチドの一般的なクラス、すなわち、アグリコン系の糖ペプチドを含むことを意図する。たとえば、バンコマイシン上のフェノールに付加された二糖類部分を穏やかな加水分解によって除去すると、バンコマイシンアグリコンが得られる。また、「糖ペプチド抗生物質」という用語の範囲内には、上記糖ペプチドの一般的なクラスの合成誘導体、たとえばアルキル化およびアシル化誘導体が含まれる。さらに、この用語の範囲には、バンコサミンと同様に、さらなる糖類残基をさらに付加された糖ペプチド、特にアミノグリコシドがある。
【0090】
「脂質化グリコペプチド」という用語は、具体的には、脂質置換基を含有するように合成的に修飾された糖ペプチド抗生物質をいう。本明細書で使用される「脂質置換基」という用語は、5個またはそれ以上の炭素原子、好ましくは10〜40個の炭素原子を含有する任意の置換基をいう。脂質置換基は、任意で、ハロ、酸素、窒素、硫黄、およびリンから選択される1〜6個のヘテロ原子を含有することができる。脂質化グリコペプチド抗生物質は当技術分野で周知である。たとえば、米国特許第5,840,684号、第5,843,889号、第5,916,873号、第5,919,756号、第5,952,310号、第5,977,062号、第5,977,063号、EP667,353、WO98/52589、WO99/56760、WO00/04044、WO00/39156を参照のこと。これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0091】
抗炎症性生体活性剤もまた、本発明の組成物および方法で使用されるポリマー粒子中に分散させるのに有用である。埋め込まれる身体部位、治療される疾病および所望の効果に依存して、そのような抗炎症性生体活性剤は、たとえば、鎮痛剤(たとえばNSAIDSおよびサリチル酸)、ステロイド、抗リウマチ剤、胃腸剤、痛風剤、ホルモン(糖質コルチコイド)、点鼻剤、点眼剤、点耳剤(たとえば抗生物質およびステロイドの組み合わせ)、吸入剤ならびに皮膚および粘膜剤を含む。Physician's Desk Reference, 2001 Editionを参照のこと。具体的には、抗炎症剤は、(1lθ,16I)-9-フルオロ-11,17,21-トリヒドロキシ-16-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンとして化学的に指定されるデキサメタゾンを含むことができる。または、抗炎症性生体活性剤は、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)から単離されたトリエンマクロライド系抗生物質であるシロリムス(ラパマイシン)であるか、またはそれを含むことができる。
【0092】
生体活性剤は、線状ポリマーに化学結合させることなくポリマーマトリックス内に分散させることができるが、生体活性剤はまた、多種多様な適切な官能基を介して生分解性ポリマーに共有結合させることもできると考えられる。たとえば、生分解性ポリマーがポリエステルである場合、カルボキシル基鎖端を使用して生体活性剤または被覆分子上の相補的部分、たとえばヒドロキシ、アミノ、チオなどと反応させることができる。多種多様な適切な試薬および反応条件が、たとえばMarch's Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms, and Structure, Fifth Edition, (2001)およびComprehensive Organic Transformations, Second Edition, Larock (1999)に開示されている。
【0093】
たとえば、ポリマー層および本発明の装置における使用のために記載されるPEA、PEURおよびPEUポリマーの多くは、側鎖上に組み込まれた官能基を有し、これらの組み込まれた官能基が他の化学物質と反応し、さらなる官能基の組み込みを生じさせて、ポリマーの官能価をさらに拡大させることができる。したがって、本発明の方法で使用されるそのようなポリマーは、事前の修飾の必要なく、水溶性を高めるための親水性構造を有する他の化学物質ならびに生体活性剤および被覆分子と反応することができる状態にある。
【0094】
他の態様において、生体活性剤は、アミド、エステル、エーテル、アミノ、ケトン、チオエーテル、スルフィニル、スルホニルまたはジスルフィド結合を介して、本明細書に記載されるPEA、PEURまたはPEUポリマーに結合させることができる。そのような結合は、当技術分野で公知である合成手順を使用して、適切に官能化された出発原料から形成することができる。
【0095】
たとえば、一つの態様において、ポリマーは、ポリマーの末端または側部のカルボキシル基(たとえばCOOH)を介して生体活性剤に結合させることができる。たとえば、構造III、VおよびVIIの化合物は、生体活性剤のアミノ官能基またはヒドロキシル官能基と反応して、それぞれアミド結合またはカルボン酸エステル結合を介して生体活性剤が付着した生分解性ポリマーを提供することができる。もう一つの態様において、ポリマーのカルボキシル基は、ハロゲン化アシル、アシル無水物/「混合」無水物または活性エステルへとベンジル化または変換することができる。他の態様において、ポリマー分子の遊離-NH2端をアシル化して、生体活性剤が、ポリマーの自由端に結合するのではなく、ポリマーのカルボキシル基を介してのみ結合することを保証することができる。
【0096】
また、水溶性被覆分子、たとえばポリ(エチレングリコール)(PEG);ホスホリルコリン(PC);ヘパリンを含むグリコサミノグリカン;ポリシアル酸を含む多糖類;ポリセリン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリシンおよびポリアルギニンを含むポリ(電離性または極性アミノ酸);本明細書に記載されるキトサンおよびアルギネートならびに標的分子、たとえば抗体、抗原およびリガンドを、粒子の製造後、粒子の外面のポリマーにコンジュゲートして、当技術分野で公知であるように、生理活性剤によって占有されない活性部位をブロックする、または粒子の送達を特定の体の部位に標的化することもできる。単一粒子上のPEG分子の分子量は、実質的に、約200〜約200,000の範囲の任意の分子量であることができ、そのため、粒子に付着される様々なPEG分子の分子量は異なり得る。
【0097】
または、生体活性剤は、リンカー分子を介して線状ポリマーに付着させることもできる。たとえば、生分解性線状ポリマーの表面疎水性を改善し、酵素活性化に対する生分解性ポリマーのアクセス可能性を改善し、本発明の組成物の放出プロファイルを改善するために、リンカーを使用して生体活性剤を生分解性線状ポリマーに間接的に付着させることもできる。特定の態様において、リンカー化合物は、約44〜約10,000、好ましくは44〜2000の分子量(MW)を有するポリ(エチレングリコール)、アミノ酸、たとえばセリン、1〜100の繰り返し数を有するポリペプチドおよび他の適切な低分子量ポリマーを含む。リンカーは典型的には、生体活性剤をポリマーから約5オングストローム〜約200オングストロームだけ分離させる。
【0098】
なおさらなる態様において、リンカーは、式:W-A-Qの二価基であり、式中、Aは、(C1〜C24)アルキル、(C2〜C24)アルケニル、(C2〜C24)アルキニル、(C3〜C8)シクロアルキルまたは(C6〜C10)アリールであり、WおよびQは、それぞれ独立して、-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、-OC(=O)-、-C(=O)O、-O-、-S-、-S(O)、-S(O)2-、-S-S-、-N(R)-、-C(=O)-であり、ここで、各Rは、独立して、Hまたは(C1〜C6)アルキルである。
【0099】
上記リンカーを説明するための使用される「アルキル」という用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルなどを含む、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基をいう。
【0100】
上記リンカーを説明するために使用される「アルケニル」という用語は、一つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する直鎖状または分岐鎖状のヒドロカルビル基をいう。
【0101】
上記リンカーを説明するために使用される「アルキニル」という用語は、少なくとも一つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖状または分岐鎖状のヒドロカルビル基をいう。
【0102】
上記リンカーを説明するために使用される「アリール」という用語は、6〜14個の範囲の炭素原子を有する芳香族基をいう。
【0103】
特定の態様において、リンカーは、約2〜約25個のアミノ酸を有するポリペプチドであることができる。使用が企図される適切なペプチドは、ポリ-L-グリシン、ポリ-L-リシン、ポリ-L-グルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-ヒスチジン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-L-セリン、ポリ-L-トレオニン、ポリ-L-チロシン、ポリ-L-ロイシン、ポリ-L-リシン-L-フェニルアラニン、ポリ-L-アルギニン、ポリ-L-リシン-L-チロシンなどを含む。
【0104】
一つの態様において、生体活性剤は、PEA、PEURまたはPEUポリマーを共有結合的に架橋させる。すなわち、生体活性剤は、一つより多いポリマー分子に結合する。この共有結合的架橋は、さらなるポリマー-生体活性剤リンカーの添加を用いて、または用いずに実施することができる。
【0105】
生体活性剤分子はまた、二つのポリマー分子の間の共有結合的付着によって分子内架橋に組み込むこともできる。
【0106】
線状ポリマーポリペプチドコンジュゲートは、ポリペプチド主鎖上の潜在的求核剤を保護し、一つの反応性基だけをポリマーまたはポリマーリンカー構築物に結合した状態に残すことによって製造される。脱保護は、ペプチドの脱保護のための当技術分野で周知の方法(たとえばBocおよびFmoc化学)にしたがって実施される。
【0107】
本発明の一つの態様において、ポリペプチド生体活性剤は、レトロ・インベルソ(retro-inverso)型または部分的レトロ・インベルソ型ペプチドとして提示される。
【0108】
リンカーは、まず、線状ポリマーまたは生体活性剤もしくは被覆分子に付着させることができる。合成中、リンカーは、非保護形態または当業者に周知の多様な保護基を使用して保護された形態のいずれかにあることができる。保護されたリンカーの場合、まずリンカーの非保護端をポリマーまたは生体活性剤もしくは被覆分子に付着させることができる。次いで、Pd/H2水素化分解、穏やかな酸もしくは塩基加水分解または当技術分野で公知である他の一般的な脱保護法を使用して保護基を脱保護することができる。続いて、脱保護されたリンカーを生体活性剤もしくは被覆分子またはポリマーに付着させることができる。
【0109】
本発明の生分解性PEAポリマーの例示的な合成(付着される分子がアミノキシルである場合)を以下に記載する。
【0110】
ポリエステルを、N,N'-カルボニルジイミダゾールの存在下、アミノ置換アミノキシル(Nオキシド)基含有基、たとえば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシと反応させて、ポリエステルの鎖端のカルボキシル基中のヒドロキシル部分をアミノ置換アミノキシル(Nオキシド)基含有基で置換して、アミノ部分がカルボキシル基のカルボニル残基の炭素に共有結合してアミド結合を形成するようにすることができる。N,N'-カルボニルジイミダゾールまたは適切なカルボジイミドがポリエステルの鎖端のカルボキシル基中のヒドロキシル部分を中間生成物部分に変換し、それがアミノキシル、たとえば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシと反応する。アミノキシル反応体は、典型的には、1:1〜100:1の範囲の、ポリエステルに対する反応体のモル比で使用される。アミノキシルに対するN,N'-カルボニルジイミダゾールのモル比は好ましくは約1:1である。
【0111】
典型的な反応は次のとおりである。ポリエステルを反応溶媒に溶解し、溶解に使用した温度で直ちに反応を実施する。反応溶媒は、ポリエステルが溶解するいかなる溶媒であってもよい。ポリエステルがポリグリコール酸またはポリ(グリコリド-L-ラクチド)(50:50を超える、L-乳酸に対するグリコール酸のモノマーモル比を有する)である場合、115℃〜130℃の高精製度(純度99.9+%)ジメチルスルホキシドまたは室温のDMSOがポリエステルを溶解させるのに適切である。ポリエステルがポリ-L-乳酸、ポリ-DL-乳酸またはポリ(グリコリド-L-ラクチド)(50:50の、または50:50未満のL-乳酸に対するグリコール酸のモノマーモル比を有する)である場合、室温から40〜50℃のテトラヒドロフラン、ジクロロメタン(DCM)およびクロロホルムがポリエステルを溶解するのに適切である。
【0112】
たとえば、構造式(IおよびIII〜V)によって示されるPEAおよびPEURポリマーの一つの残基を生体活性剤の一つの残基に直接的に結合させることができる。ポリマーおよび生体活性剤は、それぞれが一つの空き原子価を有することができる。または、一つより多い生体活性剤、多数の生体活性剤または異なる治療もしくは緩和活性を有する生体活性剤の混合物をポリマーに直接的に結合させることもできる。しかし、各生体活性剤の残基をポリマーの対応する残基に結合させることができるため、一つまたは複数の生体活性剤の残基の数は、ポリマーの残基上の空き原子価の数に対応することができる。
【0113】
本明細書で使用される「ポリマーの残基」とは、一つまたは複数の空き原子価を有するポリマーの基をいう。基が生体活性剤の残基に付着しているときの生体活性が実質的に保持されるならば、本発明のポリマーの合成的に適した原子または官能基(たとえばポリマー主鎖または側基上にある)を除去して空き原子価を提供することができる。さらには、基が生体活性剤の残基に付着しているときの生体活性が実質的に保持されるならば、合成的に適した官能基(たとえばカルボキシル)をポリマー上(たとえばポリマー主鎖または側基上)に生成して空き原子価を提供することもできる。所望の結合に基づいて、当業者は、当技術分野で公知である手順を使用して、本発明のポリマーから誘導することができる適切に官能化された出発原料を選択することができる。
【0114】
本明細書で使用される「構造式(*)の化合物の残基」とは、一つまたは複数の空き原子価を有する、本明細書に記載されるポリマー式(I)および(III〜VII)の化合物の基をいう。基が生体活性剤の残基に付着しているときの生体活性が実質的に保持されるならば、化合物の合成的に適した任意の原子または官能基(たとえばポリマー主鎖または側基上にある)を除去して空き原子価を提供することができる。さらには、基が生体活性剤の残基に付着しているときの生体活性が実質的に保持されるならば、合成的に適した任意の官能基(たとえばカルボキシル)を式(I)および(III〜VII)の化合物上(たとえばポリマー主鎖または側基上)に生成して空き原子価を提供することもできる。所望の結合に基づいて、当業者は、当技術分野で公知である手順を使用して、式(I)および(III〜VII)の化合物から誘導することができる適切に官能化された出発原料を選択することができる。
【0115】
たとえば、生体活性剤の残基は、アミド(たとえば-N(R)C(=O)-または-C(=O)N(R)-)、エステル(たとえば-OC(=O)-または-C(=O)O-)、エーテル(たとえば-O-)、アミノ(たとえば-N(R)-)、ケトン(たとえば-C(=O)-)、チオエーテル(たとえば-S-)、スルフィニル(たとえば-S(O)-)、スルホニル(たとえば-S(O)2-)、ジスルフィド(たとえば-S-S-)または直接(たとえばC-C結合)結合を介して構造式(I)または(III〜VII)の化合物の残基に結合させることができ、ここで、各Rは、独立して、Hまたは(C1〜C6)アルキルである。このような結合は、当技術分野で公知である合成手順を使用して、適切に官能化された出発原料から形成することができる。所望の結合に基づいて、当業者は、当技術分野で公知である手順を使用して、式(I)または(III〜VII)の化合物の残基および生体活性剤もしくはアジュバントの所与の残基から誘導することができる適切に官能性である出発原料を選択することができる。生体活性剤またはアジュバントの残基は、構造式(I)または(III〜VII)の化合物の残基上の合成的に適した位置に結合させることができる。さらには、本発明はまた、構造式(I)または(III〜VII)の化合物に直接的に結合した生体活性剤またはアジュバント生体活性剤の一つより多い残基を有する化合物を提供する。
【0116】
PEA、PEURまたはPEUポリマー分子に直接的に結合させることができる生体活性剤の数は、典型的には、ポリマーの分子量に依存し得る。たとえば、nが約5〜約150、好ましくは約5〜約70である構造式(I)の化合物の場合、生体活性剤をポリマーの側基と反応させることにより、約150個までの生体活性剤分子(すなわちその残基)をポリマー(すなわちその残基)に直接的に結合させることができる。不飽和ポリマーにおいて、生体活性剤はまた、ポリマー中の二重(または三重)結合と反応させることもできる。
【0117】
本明細書に記載されるPEAおよびPEURポリマーは水を吸収して(ポリマー膜上、5〜25%w/w吸水率)、親水性分子がその中に容易に拡散することを可能にする。この特性が、これらのポリマーを、放出速度を制御するための物品上のオーバコーティングとしての使用に適したものにする。吸水はまた、ポリマーおよびそのようなポリマーに基づく組成物の生体適合性を高める。
【0118】
治療および緩和剤
本発明の装置および方法で有用な生体活性剤は、組成物の投与および架橋または組成物を使用して、もしくは含んで製造された物品の埋め込み後に、組み込まれた診断剤を局所的または全身的に送達するために本発明の装置内に分散させることができる多様な治療および緩和剤のいずれかを含む。
【0119】
診断剤
本発明の組成物および方法で有用な生体活性剤はまた、組成物の投与および架橋または組成物を含有する物品の埋め込み後に、組み込まれた診断剤を局所的または全身的に送達するために本発明の組成物内に分散させることができる多様な診断剤のいずれかを含む。たとえば、画像診断剤を使用して、対象への埋め込み後の本発明の装置の生分解の長さをモニタリングすることができる。適切な画像診断剤は、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、コンピュータ支援断層撮影法(CAT)、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法、X線法、蛍光透視法、磁気共鳴画像診断法(MRI)などのような技術で使用されている市販薬剤を含む。
【0120】
当技術分野で周知であるMRIにおける造影剤としての使用に適した物質の非限定的な例は、現在利用可能なガドリニウムキレート、たとえばジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびガドペンテト酸ジメグルミンならびに鉄、マグネシウム、マンガン、銅、クロムなどを含む。当技術分野で周知であるCATおよびX線法に有用な物質の非限定的な例は、ヨウ素系物質、たとえばジアトリゾ酸塩およびイオタラム酸塩によって代表されるイオンモノマー、非イオンモノマー、たとえばイオパミドール、イソヘキソールおよびイオベルソル、非イオンダイマー、たとえばイオトロールおよびイオジキサノールならびにイオンダイマー、たとえばイオキサグレートを含む。
【0121】
これらの薬剤は、当技術分野で利用可能な標準的技術および市販の装備を使用して検出することができる。
【0122】
孔形成剤
組成物はまた、生理学的条件下で、組成物の分解速度よりも比較的速い速度で溶解する様々な無機塩、タンパク質様物質、たとえばゼラチンおよびそれらの組み合わせを含むことができる。ひとたび粒子が溶解すると、これらの粒子の比較的速やかな溶解が組成物中に孔を形成する。物質は、これらの目標に適した所望のサイズまたはサイズ分布を有するように選択することができ、制御された空隙率を提供するために組成物中に均一に分散させることができる。
【0123】
適切な孔形成剤は塩の粒子を含む。粒子は、約100〜250ミクロンの直径を有する結晶または粒子を形成し、ポリマーとは反応せず、浸出後いくらかの残渣がポリマー中に残留するとしても非毒性である、任意の塩であってよい。さらに、上記微粒子はまた、架橋組成物よりも速い速度で分解するならば、孔を提供するために使用することもできる。本発明の装置の本発明の管に孔を形成する際の使用に適した他の孔形成剤の非限定的例は、タンパク質、たとえばゼラチンおよびアガロース、デンプン、多糖類、たとえばアルギネート、他のポリマーなどを含む。たとえば、塩は、ナトリウム塩、たとえば塩化ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびポリマー溶媒、たとえばTHFには溶けない他の水溶性塩であることができる。
【0124】
好ましくは、まず、粒子をメッシュまたは一連のスクリーンに通してふるい分けして、比較的均一な直径の粒子を提供する。次いで、粒子を組成物に加える。孔形成剤の初期重量分率は、好ましくは、乾燥重量で約0.02%〜約0.9%である。初期重量分率は、半相互侵入高分子組成物の孔特性、ひいては有用性を決定するのに役立つ。
【0125】
粒状物浸出プロセスを使用して多孔性ポリマーマトリックスを生成することができる。一つの態様において、塩粒子を、線状ポリマーおよび反応性架橋剤を含む溶液に懸濁させ、溶媒を除去し、モノマーおよび/またはマクロマーが重合したのち、硬化したポリマーから粒子を浸出させる。組成物中には酵素的加水分解可能な結合が存在するため、孔を形成するために塩を除去する場合に酵素溶液の使用を避けることが好ましく、むしろ水またはpH5〜8の他の水溶液(食塩水、緩衝剤)を使用することが好ましい。
【0126】
粒子の除去により、以前は粒子結晶によって占有されていた、比較的均一な間隔の相互接続された複数の間隙空間または孔を有するポリマーマトリックスが生成され、その間隙空間または孔の中に細胞が移動し、付着し、増殖することができる。マトリックスの空隙率は非常に高く、組み込まれる粒子の量に依存して典型的には60%〜90%である。
【0127】
本発明の装置の架橋した管における孔の相互接続網目構造の形成は、細胞の侵入を容易にし、入り込む細胞および組織の組織化された成長を促進することが知られている。孔はまた、ミクロンサイズの孔の場合、様々な多孔性材料への所望の細胞の生体適合性および内殖に影響することが実証されている。したがって、本発明の組成物の孔は、ミクロンサイズであることができ、このサイズは、浸出性粒子のサイズの適切な選択によって達成される。
【0128】
または、本発明の動脈支持装置の管における孔は、管そのものの形成の際に機械的に形成される。
【0129】
溶媒
組成物は、溶液中に懸濁される成分または粒子に悪影響を及ぼさない、またはそれらと反応しない溶媒に溶解させることができる。溶媒の相対量は、製造されるマトリックスの構造にはごくわずかな影響しか及ぼさないが、溶媒蒸発時間には影響する。溶媒中の組成物の濃度は、典型的には1〜50%w/vの範囲、好ましくは10〜30%w/vの範囲である。
【0130】
使用される溶媒は、組成物の成分と非反応性であるべきである。エステル結合が存在するため、プロトン性溶媒を使用しないことが好ましい。架橋した組成物から調製される物品、たとえば内部固定装置を埋め込む前に溶媒を効果的に除去することができるよう組成物をエクスビボで重合させる態様においては、ハロゲン化溶媒を使用することができる。インビボ用途の場合には、非毒性である溶媒を使用することが好ましい。これらの用途に適した溶媒は、グリム(ポリグリコールジメチルエーテル)、ジメチルスルホキシド(DMSO)および他の極性非プロトン性溶媒を含む。
【0131】
アミノ酸含有ポリマーの合成
一般式のα-アミノ酸を含有する構造式のポリマーを製造する方法は、当技術分野で周知である。たとえば、R4がα-アミノ酸に組み込まれている構造式(I)のポリマーの態様の場合、ポリマー合成のために、たとえばα-アミノ酸含有側基R3をジオールHO-R4-OHと縮合させることにより、側基R3を有するα-アミノ酸をエステル化によってビス-α,ω-ジアミンに変換することができる。その結果、反応性α,ω-アミノ基を有するジエステルモノマーが形成する。続いて、ビス-α,ω-ジアミンを二酸、たとえばセバシン酸またはビス活性化エステルまたはビス塩化アシルと重縮合反応させて、エステル結合およびアミド結合を有する最終ポリマー(PEA)を得る。または、たとえば、構造(I)のポリマーの場合、二酸ではなく、活性化された二酸誘導体、たとえばビス-パラ-ニトロフェニルジエステルを活性化二酸として使用することができる。加えて、ビス-ジカーボネート、たとえばビス(p-ニトロフェニル)ジカーボネートを活性化種として使用して、二酸の残基を含有ポリマーを得ることができる。PEURポリマーの場合、エステル結合およびウレタン結合を有する最終ポリマーが得られる。
【0132】
より具体的に、上記に開示された、構造式(I)の生分解性ポリマーとして有用な不飽和ポリ(エステルアミド)(UPEA)の合成を説明する:
式中、

および/または(b)R4は、-CH2-CH=CH-CH2-である。(a)が存在し、(b)が存在しない場合、(I)中のR4は、-C4H8-または-C6H12-である。(a)が存在せず、(b)が存在する場合、(I)中のR1は、-C4H8-または-C8H16-である。
【0133】
UPEAは、(1) R4中に少なくとも一つの二重結合を含むビス(α-アミノ酸)ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩と飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステルとの、または(2) R4中に二重結合を含まないビス(α-アミノ酸)ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩と不飽和ジカルボン酸のジ-ニトロフェニルエステルとの、または(3) R4中に少なくとも一つの二重結合を含むビス(α-アミノ酸)ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩と不飽和ジカルボン酸のジニトロフェニルエステルとの、溶液重縮合によって調製することができる。
【0134】
アミノ酸残基を含有するポリマーを合成する際に使用するためのp-トルエンスルホン酸の塩は公知である。ビス(α-アミノ酸)ジエステルのアリールスルホン酸塩は再結晶によって精製しやすく、ワークアップ(workup)を通してアミノ基を非反応性トシル酸アンモニウムにするため、遊離塩基の代わりにアリールスルホン酸塩が使用される。重縮合反応においては、有機塩基、たとえばトリエチルアミンの添加によって求核性アミノ基が容易に現れ、そのため、ポリマー生成物が高収率で得られる。
【0135】
不飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステルは、p-ニトロフェノールおよび不飽和ジカルボン酸塩化物から、たとえばトリエチルアミンおよびp-ニトロフェノールをアセトンに溶解し、-78℃で撹拌しながら不飽和ジカルボン酸塩化物を滴下し、水に注加して生成物を沈殿させることによって合成することができる。この目的に有用な適切な酸塩化物は、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、エテニルブタン二酸および2-プロペニルブタン二酸の塩化物を含む。
【0136】
ビス(α-アミノ酸)ジエステルのジアリールスルホン酸塩は、α-アミノ酸、p-アリールスルホン酸(たとえばp-トルエンスルホン酸一水和物)および飽和または不飽和ジオールをトルエン中で混合し、環流温度に加熱し、水放出が最小限になったのち冷却することによって調製することができる。この目的に有用な不飽和ジオールは、たとえば、2-ブテン-1,3-ジオールおよび1,18-オクタデカ-9-エンジオールを含む。
【0137】
ジカルボン酸の飽和ジ-p-ニトロフェニルエステルおよびビス(α-アミノ酸)ジエステルの飽和ジ-p-トルエンスルホン酸塩は、米国特許第6,503,538B1号に記載のようにして調製することができる。
【0138】
次に、上記で開示したような構造式(I)の生分解性ポリマーとして有用な不飽和ポリ(エステルアミド)(UPEA)の合成を説明する。構造式(I)を有するUPEAは、米国特許第6,503,538B1号の化合物(VII)と同様にして製造することができる(ただし、6,503,538号の(III)のR4および/または6,503,538号の(V)のR1は、上記のような(C2〜C20)アルキレンである)。反応は、たとえば、室温で、乾燥トリエチルアミンを乾燥N,N-ジメチルアセトアミド中6,503,538号の前記(III)および(IV)ならびに6,503,538号の前記(V)の混合物に加え、次いで温度を80℃に上げ、16時間撹拌し、次いで反応溶液を室温に冷まし、エタノールで希釈し、水に注加し、ポリマーを分離し、分離したポリマーを水洗し、減圧下、約30℃で乾燥させ、次いでp-ニトロフェノールおよびp-トルエンスルホネート上で負のテストまで精製することによって実施される。好ましい反応体(IV)は、リシンベンジルエステルのp-トルエンスルホン酸塩であり、ベンジルエステル保護基は、生分解性を付与するために好ましくは(II)から除去されるが、米国特許第6,503,538号の実施例22におけるような水素化分解によって除去されるべきではない。理由は、水素化分解は、所望の二重結合を飽和させるからである。むしろ、ベンジルエステル基は、不飽和状態を保存する方法によって酸基に変換されるべきである。または、リシン反応体(IV)は、不飽和状態を保存しながらも完成生成物から容易に除去することができる、ベンジルとは異なる保護基によって保護されることもでき、たとえば、リシン反応体はt-ブチルによって保護されることができ(すなわち、反応体はリシンのt-ブチルエステルであることができる)、t-ブチルは、酸による生成物(II)の処理により、不飽和状態を保存しながらもHに変換されることができる。
【0139】
構造式(I)を有する化合物の実施例は、6,503,538号の実施例1の(III)の場合にはビス(L-フェニルアラニン)-2-ブテンジオール-1,4-ジエステルのp-トルエンスルホン酸塩を置換することによって、または、6,503,538号の実施例1の(V)の場合にはジ-p-ニトロフェニルフマレートを置換することによって、または、6,503,538号の実施例1のIIIの場合にはビス(L-フェニルアラニン)-2-ブテンジオール-1,3-ジエステルのp-トルエンスルホン酸塩を置換することによって、および、6,503,538号の実施例1の(V)の場合にはジ-p-ニトロフェニルフマレートを置換することによって提供される。
【0140】
構造式(I)または(III)を有する不飽和化合物においては、以下が当てはまる。カルボニルジイミダゾールまたは適切なカルボジイミドを縮合剤として使用してアミノキシル基、たとえば4-アミノTEMPOを付着させることができる。本明細書に記載されるような生体活性剤は、二重結合官能価を介して付着させることができる。親水性は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートに結合することによって付与される。
【0141】
さらに別の局面において、本発明の組成物を形成する際の使用が企図されるポリマーは、米国特許第5,516,881号、第6,476,204号、第6,503,538号および米国特許出願第10/096,435号、第10/101,408号、第10/143,572号および第10/194,965号、第10/362,848号、第11/344,689号、第11/344,689号、第11/543,321号、第11/584,143号に記載されているものを含む。これらそれぞれの内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0142】
本明細書に記載される生分解性PEAおよびPEURポリマーおよびコポリマーは、1モノマーあたり二つまでのアミノ酸、1ポリマー分子あたり複数のアミノ酸を含むことができ、好ましくは、10,000〜125,000の範囲の重量平均分子量を有することができる。これらのポリマーおよびコポリマーは、典型的には、標準的な粘度測定法によって測定して、25℃で0.3〜4.0の範囲、たとえば0.5〜3.5の範囲の固有粘度を有する。
【0143】
本発明の実施における使用が企図されるポリマーの合成は、当技術分野で周知の多様な方法によって達成することができる。たとえば、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド)などのようなポリエステルを形成するためには、トリブチルスズ(IV)触媒が一般に使用される。しかし、多種多様な触媒を使用して本発明の実施における使用に適したポリマーを形成することができることが理解される。
【0144】
使用が企図されるそのようなポリ(カプロラクトン)は下記例示的構造式(XVIII)を有する。

【0145】
使用が企図されるポリ(グリコリド)は下記例示的構造式(XIX)を有する。

【0146】
使用が企図されるポリ(ラクチド)は下記例示的構造式(XX)を有する。

【0147】
アミノキシル部分を含む適切なポリ(ラクチド-コ-εカプロラクトン)の例示的合成を以下に記載する。第一のステップは、下記構造式(XXI)のポリマーを形成するための、オクタン酸第一スズを触媒として使用する、ベンジルアルコールの存在下におけるラクチドおよびεカプロラクトンの共重合を含む。

【0148】
続いて、末端ヒドロキシ修飾ポリマーをマレイン酸無水物でキャッピングして、下記構造式(XXII)を有するポリマー鎖を形成する。

【0149】
この時点で、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシをカルボン酸末端基と反応させて、4-アミノ基とカルボン酸末端基との反応から生じるアミド結合を介して、アミノキシル部分をコポリマーに共有結合的に付着させることができる。または、マレイン酸でキャッピングされたコポリマーにポリアクリル酸をグラフトして、のちにさらなるアミノキシル基を付着させるためのさらなるカルボン酸部分を提供することもできる。
【0150】
本発明の組成物の様々な成分は、広い範囲の比率で存在することができる。たとえば、生体活性剤に対するポリマー繰り返し単位の比率は、典型的には、1:50〜50:1、たとえば1:10〜10:1、約1:3〜3:1または約1:1である。しかし、特定の目的の場合、たとえば特定の生体活性剤が、特定のポリマーに配合させにくく、かつ低い活性を有する場合には、他の比率がより適切であるかもしれず、そのような場合には、生体活性剤のより高い相対量が必要になる。
【0151】
本明細書で使用される「分散」とは、本明細書に開示されるような分子、たとえば生体活性剤が、線状ポリマー中に混合もしくは溶解している、線状ポリマーと均質化している、または線状ポリマーに共有結合的もしくは非共有結合的に結合していることをいう。一つより多い生体活性剤が求められるならば、複数の生体活性剤を個々のポリマー中に分散させたのち、必要に応じて混合して最終組成物を形成することもできるし、生体活性剤どうしを混合したのち、一つのポリマー中に分散させ、そのポリマーを本発明の組成物で線状ポリマーとして使用することもできる。
【0152】
任意で、本発明の装置は、管の外面を被覆しているポリマーの層を有する二層の装置であってよく、ここで、生体活性剤が、その被覆層、たとえば線状ポリマーの被覆層中の分散している。使用中、装置の外面の被覆層が、装置が埋め込まれたところの動脈面と接触し、周囲の動脈組織への生体活性剤の送達速度の制御を支援することができる。
【0153】
本明細書に記載されるPEA、PEURおよびPEUポリマーは水を容易に吸収して(ポリマー膜上、5〜25%w/w吸水率)、親水性分子、たとえば多くの生物製剤がその中に容易に拡散することを可能にする。この特性が、本明細書に記載されるPEA、PEURおよびPEUポリマーを、分散した生体活性剤の放出速度を制御するための本発明の装置上の外部コーティングとしての使用に適したものにする。吸水はまた、ポリマーおよびそのようなポリマーのコーティングを有する装置の生体適合性を高める。
【0154】
本発明の動脈支持装置は、生分解性線状ポリマーでできている場合、多様な要因、たとえば線状ポリマーおよび架橋剤のタイプおよび相対比率、重合度(たとえば線状ポリマーおよび架橋剤の両方が重合しているかどうか)ならびに装置の寸法に依存して、時間とともに分解することができる。しかし、本発明の装置で使用することができる化学構造の大きな多様性に起因して、本発明の装置は、約6ヶ月〜約6年またはそれ以上の期間で分解することが企図される。装置を交換する必要をなくすのに十分な期間その構造および治療目的に関して有効であり続ける埋め込み可能な装置を提供するためには、長めの寿命を有する生分解性線状ポリマーが特に適している。
【0155】
本明細書に記載される組成物からの生体活性剤の放出の速度は、管またはコーティングの厚さ、装置の外面を被覆する生体活性剤分子の数ならびにコーティングが存在するならばその密度のような要因を調節することによって制御することができる。コーティングの密度は、コーティング中に生体活性剤があるならばその添加量を調節することによって調節することができる。コーティングが生体活性剤を含有しない場合、ポリマーコーティングは非常に高密度であり、生体活性剤は非常にゆっくりとコーティングから溶出する。対照的に、生体活性剤がコーティング中に添加されている場合、ひとたび生体活性剤が溶出すると、コーティングは、コーティングの外面から始まってより多孔性になり、したがって、粒子の中心にある生体活性剤は、増大した速度で溶出することができる。被覆中の添加量が多ければ多いほど、コーティング層の密度は低くなり、溶出速度は高くなる。
【0156】
本発明の装置を製造する方法
本発明の装置がそこから作られる組成物は、重合すると組成物を架橋させて半相互侵入網目構造または高分子網目構造を形成するフリーラジカル重合性基を含有する。これらの組成物は、埋め込みのための固体装置を形成するためにエクスビボで重合させることもできるし、インサイチューで重合させることもできる。
【0157】
エクスビボ重合:
本発明の装置の組成物をエクスビボで重合させる場合、材料を所望の管形状に成形し、架橋剤を架橋させることができるよう、組成物の粘度は、好ましくは、注入可能なペーストの粘度である。この態様において、組成物の溶液または分散液は、平坦面または成形面上に流延することもできるし、適切な管状型に注入することもできる。モノマーおよび/またはマクロマーが重合した後で形成する半相互侵入網目構造は、表面または型の形状を保持する。続いて、室温で一定の時間、たとえば24時間かけて組成物から溶媒を蒸発させる。残留溶媒があるならば後で組成物の凍結乾燥によって除去することができる。
【0158】
インサイチュー重合:
本明細書に記載されるように装置をインサイチューで重合させる特定の用途の場合、組成物は上記のように調合される。組成物を対象の動脈部位に配置したのち、架橋させて固体相互侵入高分子網目構造を形成することができる。この実施態様においては、本明細書に記載されるような適切な粘度調整剤を加えることにより、組成物の粘度を調節することができる。
【0159】
本発明の装置は、ヒトの治療に加えて、多様な非ヒト対象、たとえばペット(たとえばネコ、イヌ、ウサギおよびフェレット)、家畜(たとえば家禽、ブタ、ウマ、ラバ、乳牛および肉牛)および競走馬の獣医学的治療における使用にも向けられている。
【0160】
組成物の重合方法
本装置の組成物は、一つまたは複数の適切なフリーラジカル、すなわち活性種、開始剤を使用して重合させることができる。たとえば、光開始剤および熱活性化性開始剤が、本発明の組成物の重合のために、細胞にとって毒性ではない濃度、たとえば組成物の1重量%未満、より好ましくは組成物の0.05〜0.01重量%の濃度で使用される。
【0161】
組成物中のフリーラジカル重合性基は、電磁放射線、たとえばUV光または好ましくは長波長紫外線(LWUV)または可視光線に暴露されると、特定の染料および化合物の光子吸収によって活性種を生成する光開始剤を使用して、重合させることができる。組織および他の生物学的物質に対する損傷がUV光の場合よりも少ないため、LWUVおよび可視光線が好ましい。有用な光開始剤は、細胞毒性なしに短い時間枠で、多くとも分単位で、もっとも好ましくは秒単位でマクロマーの重合を開始させるために使用することができるものである。
【0162】
光開始剤としての染料および助触媒、たとえばアミンの、可視光またはLWUV光への暴露により、活性種を生成することができる。染料による光吸収が染料をトリプレット状態にし、そのトリプレット状態がのちにアミンと反応して、重合を開始させる活性種を形成する。重合は、約200〜700nm、もっとも好ましくは長波長紫外線範囲または可視範囲、320nmまたはそれ以上、もっとも好ましくは約365〜514nmの波長の光の照射によって開始させることができる。
【0163】
数多くの染料が、光重合のための開始剤として使用できる。本発明の実施における使用に適した染料は当業者に周知であり、非限定的に、エリトロシン、フロキシム、ローズベンガル、チオニン、カンファーキノン、エチルエオシン、エオシン、メチレンブルー、リボフラビン、2,2-ジメチル-2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、他のアセトフェノン誘導体およびカンファーキノンを含む。また、適切な光開始剤は、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(DAROCUR (登録商標) TPO)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノール(DAROCUR (登録商標) 1173)および2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)などのような化合物を含む。本発明の実施における使用に適した助触媒は、アミン、たとえばN-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、N-ベンジルエタノールアミン、N-イソプロピルベンジルアミンなどを含む。トリエタノールアミンが好ましい助触媒である。
【0164】
本明細書で使用される「電磁放射線」という用語は、X線、紫外線、可視光線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波および無線周波数をはじめとする電磁スペクトルのエネルギー波をいう。
【0165】
本明細書で使用される「可視光線」という用語は、少なくとも約4.0×10-5cmの波長を有する電磁エネルギー波をいう。本明細書で使用される「紫外線」という用語は、少なくとも約1.0×10-5cmでありかつ4.0×10-5cm未満の波長を有するエネルギー波をいう。本明細書で使用される「青色光」とは、少なくとも約4.5×10-5cmでありかつ4.9×10-5cm未満の波長を有する電磁エネルギー波をいう。
【0166】
本明細書で使用される「放射線源」とは、先に定義したような波長の電磁波の供給源をいう。例示的な放射線源は、非限定的に、ランプ、太陽、青色灯および紫外線灯を含む。そのような電磁波は、インビボ架橋のために、直接的に、または光ファイバカテーテルもしくは他の光伝達装置によって架橋性組成物に伝達することができる。
【0167】
侵入の深さは、光重合を生じさせるために使用される光の波長によって制御することができる。たとえば、可視光線は、UV光よりも深く組織に侵入する。組織への侵入は、数ミクロン〜1cmの範囲であることができ、可視光線の場合、1cmの侵入が一般的である。200〜700mnの波長の放射線が、活性種を生成し、網目構造を重合させるのに最適である。
【0168】
好ましくは、架橋がインビボで起こるとき、重合条件は、周囲の組織を損傷しない程度に穏やかである。本明細書では主として皮膚に対して外部にある光源の適用に関して説明するが、上記条件は、たとえば、組成物が注入されたところに隣接するまたは修復される骨に隣接する空間に隣接する血管中のカテーテルから、組織を通して適用される光にも適用可能である。
【0169】
適切な熱的に活性化可能な有機および無機開始剤は、様々な過酸化物、ペルオキシ酸、過硫酸カリウム、アゾ開始剤―アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)およびそれらの有機溶液または水溶液を含む。
【0170】
本発明の動脈支持装置は、当技術分野で周知であり、本明細書に記載されるような、たとえば、損傷または閉塞した動脈の修復のための標準的な外科技術を使用して埋め込むことができる。一つの態様において、血管支持装置を製造するために使用される組成物は、挿入しやすさおよび埋め込み後の強度を提供するために、インサイチューで重合させる。
【0171】
線状ポリマーは、好ましくは組成物の10〜90重量%、より好ましくは組成物の30〜70重量%を構成する。架橋ポリマーは、好ましくは半相互侵入網目構造組成物の約30〜70重量%、より好ましくは組成物の40〜60重量%を構成し、残りが開始剤、添加剤、治療剤および他の成分である。これらの成分が混合し、架橋性成分が架橋すると、本発明のエラストマー組成物は半相互侵入高分子網目構造を形成する。
【0172】
以下の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【0173】
実施例1
エステルタイプ二官能性架橋剤(ESC-2)の合成
エステルタイプ二官能性架橋剤ESC-2、たとえば1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートおよび1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートは市販の製品であるが、新規な製剤を調製する際に使用するための高純度生成物を合成するための新規な手法の開発が望まれる。特に望ましいものは、目的生成物の望ましくない早期重合を避けるために、フリーラジカルを生成することなく、穏やかな条件下、不飽和酸塩化物を使用してヒドロキシル基をアシル化する簡便な方法の開発である。
【0174】
典型的なアシル化手順において、ジオール10gをDMA 100mLに溶解し、溶液を0℃に冷却し、温度を0〜5℃に維持しながら塩化アクリロイル(OH基1モルあたり1.1モル)を滴下した。酸塩化物の全量を加えたのち、室温で24時間撹拌を継続した。次いで、反応混合物(場合によっては白色のペースト状塊)を水に注加した。得られた二層系を分液漏斗に入れ、有機層を捕集し、NaHCO3 (5%)水溶液で繰り返し洗浄し、次いで水洗し、モレキュラーシーブ4A上で乾燥させ、冷蔵庫に保存した。この一般的な方法によって調製されたいくつかの新規なESC-2タイプ架橋剤の収率および特性を以下の表3にまとめる。
【0175】
(表3)式(IX)の水不溶性エステルタイプ架橋剤(ESC)

1)略号の意味:3=1,3-プロパンジオール、4=1,4-ブタンジオール、6=1,6-ヘキサンジオール、AA=アクリロイル
【0176】
実施例2
マレイン酸に基づく水溶性エステルタイプ二官能性架橋剤(WSEC-2)の合成
この実施例は、水溶性エステルタイプ二官能性架橋剤(WSEC-2)の合成のための一般的手順を説明する。ベンゼン200mL中、脂肪酸ジオール0.05モル、マレイン酸無水物10.0g(0.1025モル、わずかに過剰)、p-トルエンスルホン酸一水和物0.19g (0.001モル)の混合物を8時間環流させた。反応混合物を室温に冷まし、沈殿した白色固体を濾別し、乾燥させ、ベンゼンから再結晶させた。この方法によって調製されたいくつかの新規なWSEC-2タイプ架橋剤の収率および特性を以下の表4にまとめる。
【0177】
(表4)式(IX)の不溶性エステルタイプ二官能性架橋剤(WESC-2)

1)略号の意味:3=1,3-プロパンジオール、4=1,4-ブタンジオール、6=1,6-ヘキサンジオール、8=1,8-オクタンジオール、PER=ペンタエリトリトール、MLA=マレイニル
【0178】
実施例3
ジアミンタイプ非光反応性架橋剤
ビス(α-アミノ酸)エステルの酸塩の合成:
ビス(α-アミノ酸)-ジオールジエステルの酸塩の合成は米国特許第6,503,538 B1号に開示されている。スキーム3にしたがって手順を実施した。
【0179】
ビス-L-ロイシン-ヘキサン-1,6-ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩の例示的合成は次のとおりである。トルエン250mL中L-ロイシン(0.132モル)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.132モル)および1,6-ヘキサンジオール(0.06モル)を、Dean-Stark装置およびオーバーヘッド撹拌機を備えたフラスコに入れた。不均質反応混合物を、水4.3mL (0.24モル)が発生するまで、環流状態で約12時間加熱した。次いで、反応混合物を室温に冷まし、濾過し、アセトンで洗浄し、メタノール/トルエン(2:1混合物)から二回再結晶させた。モノマー塩の収率および融点は、公表されているデータ(Katsarava et al. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. (1999) 37. 391-407)と同一であった。

【0180】
スキーム4にしたがって、対応するジトシル酸塩からの遊離塩基を分離した。

式中、
R3=CH2C6H5、(L-Phe)またはCH2CH(CH3)2、(L-Leu)およびR4:6=(CH2)6、8=(CH2)8または12=(CH2)12
【0181】
遊離ジアミン調製のための一般的手順(スキーム4):
典型的手順で、0.1モルのビス-(α-アミノ酸)-α,ω-アルキレンジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩を0.21モルNa2CO3水溶液500mLに溶解し、10時間撹拌した。次いで、二層反応混合物を冷蔵庫に入れて一晩保存して、油状生成物をタール様塊へと硬化させた。水層をデカントし、タール様塊(遊離ジエステルジアミン)を蒸留水で室温にて洗浄した。これらの条件下、タール様塊は再び油状になった。冷蔵庫に戻したのち、塊は再び硬化し、水をデカントし、得られた生成物を真空中で室温でNaOH上で乾燥させた。得られたグリース様生成物の収率を以下の表5にまとめる。
【0182】
(表5)ビス-α-アミノアシルジオール(遊離塩基、スキーム4)の収率

【0183】
NaClプレート上に薄膜として塗布された上記ビス-α-アミノアシルジオールのFTIRスペクトルを図1に示す。領域3200〜3400cm-1 (NH2の場合)および1730〜1740cm-1 (エステルCOの場合)における強い吸収極大は、推測された構造と合致している。しかし、3200〜3400cm-1の吸収バンドの複雑さおよび領域1650〜1670cm-1のピーク(Pheベースの化合物の場合のアミドCO+ベンゼン環)は、ある程度の形成したアミド結合を有する得られたジアミノジエステルの自己縮合を示す。
【0184】
実施例4
得られたビス-α-アミノアシルジオールを、フマル酸で構成された不飽和PEA (式I)およびエポキシコハク酸で構成されたエポキシPEAを硬化させるための架橋剤として使用した。この硬化反応の場合、PEA 100mgをクロロホルム2mLに溶解し、ジアミノジエステル20mg (20重量%)を溶液に加え、溶液を疎水面に流延した。大気条件下でクロロホルムを蒸発乾固させ、得られた膜を室温で一週間保存した。次いで、膜を再び室温のクロロホルム2mLに入れた。膜はクロロホルムには不溶性であり(膨潤しただけ)、高分子網目構造形成が確認された。
【0185】
架橋エポキシPEAのリパーゼ接触インビトロ生分解:
トランスエポキシコハク酸、L-フェニルアラニンおよび1,6-ヘキサンジオールに基づく式IのPEAのインビトロ生分解:
(ポリ-t-ES-Phe-6)を様々な濃度のPhe-6,bと架橋させた。本発明の組成物の生分解の速度に対する架橋剤濃度の効果を測定するための実験を実施した。この実験に使用された膜は、それぞれ重さ400mgであり、架橋剤を5%、10%および30%含有するものであった。膜の調製には以下の重量比ポリマー:架橋剤を使用した。
対照、t-ES-Phe-6ポリマー400mg:0%ジアミン
5%w/wジアミン:t-ES-Phe-6 380mg+Phe6,b 20mg
10%w/wジアミン:t-ES-Phe-6 360mg+Phe6,b 40mg
30%w/wジアミン:t-ES-Phe-6 280mg+Phe6,b 120mg
【0186】
一般的手順は次のとおりであった。電磁撹拌器を使用して所定量のポリマーをクロロホルム7mLに溶解し、所定量の架橋剤をポリマー溶液に加えた。混合物をさらに5時間撹拌し、得られたエマルション(架橋剤はクロロホルムには溶けない)を直径4cmのTeflon (登録商標)処理した皿に流延した。クロロホルムを室温で24時間かけて蒸発させ、膜を50℃で5時間乾燥させ、次いで37℃にサーモスタット制御された環境に24時間配したのち、分解実験を開始した。架橋した膜をクロロホルムへの溶解性に関してチェックして、膜が架橋していることを確認した。乾燥膜を、リパーゼ(Sigma Chemicals) 4mgを含有するPBSに入れた。一定時間後、膜をPBS-酵素溶液から取り出し、蒸留水で洗浄し、50℃で恒量まで乾燥させ、計量して、重量損失を膜表面1平方センチメートルあたりmgの単位(mg/cm2)で測定した。
【0187】
結果を図2にグラフとして表す。これらのデータから見てとれるように、生分解性架橋剤との化学的架橋はPEAの生分解にわずかしか影響しない。5%および10%架橋膜の重量損失速度は互いに非常に近く、対照膜(非架橋状態)の重量損失速度に近い。架橋剤を30%含有する膜だけが対照よりもいくらか低い生分解速度を示した。これらのデータは、架橋剤の含量が高ければ高いほどPEAの重量損失速度が低くなる、熱的に架橋させた膜に関して得られたデータ(図3)(1時間しか架橋させなかった膜を除く。この膜の生分解速度は対照膜の生分解速度と実質的に同じであった)とは対照的である。
【0188】
実施例5
エステルアミドタイプ光架橋剤(EAC)の合成
エステルアミドタイプ架橋剤の合成に関して、不飽和酸塩化物とのビス-(α-アミノ酸)α,ω-アルキレンジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩の界面縮合を使用した。生成物EACは有機溶媒中で溶解性を保持した。
【0189】
二官能性エステルアミドタイプ架橋剤EAC-2の合成:
EAC-2の合成のための一般的手順においては、合成反応の前に二つの別々の溶液を調製した。
【0190】
1. 溶液A
0.005モルのビス-(α-アミノ酸)α,ω-アルキレンジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(米国特許第6,503,538号に記載のようにして調製)およびNa2CO3 2.12g (0.02モル)を300mLフラスコに入れ、水60mLを加えた。固体が完全に溶解したのち、得られた溶液を0〜5℃に冷却した。
【0191】
2. 溶液B
0.011モルの不飽和酸(アクリロイル、メタクリロイルまたはシンナモイル)塩化物をクロロホルム(または塩化メチレン) 30mLに溶解した。
【0192】
3. 反応温度を0〜5℃に維持しながら溶液Bを冷却溶液Aに滴下し、溶液Bの各部分を加えるたびに混合物を激しく振とうした。溶液Bの最後の部分の添加ののち、反応溶液をさらに30分間振とうした。得られた二相反応混合物を分液漏斗に入れ、有機相を捕集し、そこからクロロホルムを蒸発乾固させた。得られた生成物が結晶質であるならば、生成物をエタノール/水混合物から再結晶させた。生成物が非晶質であるならば、生成物をエタノールに溶解し、水の添加によって沈殿させ、得られた白色固体をエタノール/水混合物から再結晶させた。この方法によって得られた新規なEAC-2タイプ架橋剤の収率および特性を本明細書の表6に記す。
【0193】
実施例6
この実施例は、例示的な水不溶性エステルアミドタイプ架橋剤EAC-4およびEAC-Pの合成を例示する。
【0194】
EAC-4合成方法
テトラキス-(L-フェニルアラニン)-2,2-ビス-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールテトラエステルのテトラ-p-トルエンスルホン酸塩(Phe-PER)の合成:
ペンタエリトリトール(PER) 3.40g (0.025モル)、L-フェニルアラニン18.17g (0.11モル)およびp-トルエンスルホン酸一水和物20.92g (0.11モル)を、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに入れ、トルエン250mLを加え、混合物を撹拌した。反応混合物を32時間環流させ、放出した水をDean-Stark凝縮器に捕集した。第一段階で、反応は均質に進行した。この手順の約9時間後、固体生成物が形成した。理論量の水を除去したのち、得られたガラス状固体を濾過し、真空中で乾燥させ、生成物を、イソプロピルアルコール(20mL)とジエチルエーテル(約20mL)との添加混合物に溶解した。溶液から沈殿した白色の結晶質生成物を濾別し、乾燥させた。テトラキス-(L-フェニルアラニン)-2,2-ビス-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールテトラエステルのテトラ-p-トルエンスルホン酸塩(Phe-PER)の収率は60%であり、その融点は151〜154℃であった。0.1 NaOHによる滴定は、得られた生成物1モルあたり4モルのp-トルエンスルホン酸を示し、それにより、テトラキス誘導体の形成を確認した。
【0195】
四官能性エステルアミドタイプ架橋剤の合成:
一般的な調製方法は、以下のように、Phe-PER-CAの形成(表7、#3)によって示されている。Phe-PER 2.83g (0.002モル)およびNa2CO3 1.69g (0.016モル)を300mLフラスコに入れ、蒸留水90mLを加えて溶液を形成し、溶液を0℃に冷却した。この冷却溶液に、塩化シンナモイル1.34g (0.0088モル)を加え、0℃で2時間激しく撹拌した。得られた二層反応混合物を分液漏斗に入れ、クロロホルム層を分離した。クロロホルムの蒸発ののち、得られた固体生成物を、ガラスフィルタ上、室温のエタノールで洗浄し、乾燥させた。Phe-PER-CA架橋剤の収率は41%であり、その融点は232〜236℃であった。臭素価:計算値51.39、実測値52.91。これらのデータは化合物の割り当て構造を確認する。
【0196】
(表6)二官能性エステルアミドタイプ架橋剤(EAC-2、式XIII)


1)略号の意味:3=1,3-プロパンジオール、4=1,4-ブタンジオール、6=1,6-ヘキサンジオール、AA=アクリロイル、MA=メタクリロイル、CA=シンナモイル、MLA=マレイン酸、dec=分解(タール形成)
【0197】
(表7)式XVの四官能性エステルアミドタイプ架橋剤

1)略号の意味:3=1,3-プロパンジオール、4=1,4-ブタンジオール、6=1,6-ヘキサンジオール、PER=ペンタエリトリトール、AA=アクリロイル、MA=メタクリロイル、CA=シンナモイル、MLA=マレイン酸
2)臭素価:不飽和結合と相互作用したBr2のグラム単位量
【0198】
実施例7
マレイン酸ベースの水溶性エステルアミドタイプ架橋剤(WEAC-2)の合成
二官能性水溶性エステルアミド可溶剤(WEAC-2)の合成のための一般的手順は次のとおりであった。0.005モルのビス-(α-アミノ酸)-α,ω-アルキレンジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩およびトリエチルアミン1.53mL (0.011モル)を、撹拌下、室温でN,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 30mLに溶解した。撹拌した溶液に、反応温度を25℃に維持にしながらマレイン酸無水物1.078g(0.011モル)を段階的に加えた(発熱反応)。マレイン酸無水物の全量を加えたのち、反応溶液を室温で1時間撹拌した。得られた溶液を酸性化水(pH1〜2)に注加し、分離した白色固体生成物を、減圧下、五酸化リン上で乾燥させた。新規なWEAC-2タイプ架橋剤の収率を表6の化合物#13〜15に示す。
【0199】
実施例8
ポリアミド(PA)タイプ多官能性架橋剤(EAC-PA)
ポリアミド(PA)タイプ多官能性架橋剤(EAC-PA)の合成は、ポリ(N,N'-セバコイル-L-リシン)に基づく合成によって例示される。EAC-PAは、以下の反応スキーム3に示すようなAABBタイプPAのマルチステップ変換によって調製した。第一ステップで、米国特許第6,503,538号に記載された手順に類似した手順により、活性重縮合法を適用することによってリシンベースのPA (8-Lys(Bz))を調製した。その後、対応するベンジルエステルから、Pd/HCOOHを使用する接触水素化分解またはNaOHのエタノール溶液によるポリアミドのけん化により、側鎖にカルボキシル基を有するポリマーを得た。
【0200】
PAの脱保護ののち、以下(スキーム5)に示すように、まず、ポリ-N,N'-セバコイル-L-リシン(8-Lyz(H))を、ジエタノールアミンとの相互作用により、対応するポリアルコールに変換し、その後、DMA中の不飽和酸塩化物によってポリオール(8-Lyz-DEA)のアシル化を実施した。

【0201】
典型的なけん化手順で、8-Lys(Bz) 10gをDMSO 75mLに溶解し、エタノール(95%) 26mL中NaOH 2.88g (0.072モル)の溶液を室温で加えた。10〜15分後、白色生成物が沈殿した。8-Lys (H)のナトリウム塩であるこの生成物を水に溶解し、外寄りゾーンで水の中性反応が達成されるまで水に対して透析した。得られた溶液を塩酸でpH2〜3に酸性化した。沈殿した白色の塑弾性ポリマーを濾別したのち、恒量に達するまで乾燥させた。電位差滴定法によって測定されたけん化(脱ベンジル化)の程度は92%であった。図4に示すベンジル化PA8-K(Bz)のUVスペクトルとポリ酸8-KのUVスペクトルとを比較すると、167nmでの非常に弱いベンジル基吸収が高度な脱ベンジル化を示す。
【0202】
8-Lys(H)とジエタノールアミンとのコンジュゲート(8-Lys-DEAの合成):
ポリ酸8-Lys(H) (5g)を、不活性雰囲気下、乾燥DMF50mLに溶解した。次いで、N,N'-カルボニルジイミダゾール(Im2CO) 2.6gを室温で加え、40分間撹拌した。得られた溶液に、ジエタノールアミン(DEA) 1.7gを加え、撹拌をさらに4時間継続した。得られたポリマーを乾燥アセトン中の沈殿によって反応溶液から分離し、濾別し、乾燥させた。91%の収率で得られたポリオール8-Lys-DEAは非常に吸湿性であり、水溶性であった。DMF中のポリマーのUVスペクトル(図4)は、8-Lys(H)の場合と同じくらい弱い残留ベンジル基吸光度を示した。残留カルボキシル基含量を電位差滴定法によって測定すると、87%の変換率を示した。
【0203】
不飽和酸塩化物によるポリ8-Lys-DEAのアシル化
ポリ8-Lys-DEA/MAの合成:
ポリ8-Lys-DEA 1gを乾燥N,N-ジメチルアセトアミド(DMA) 10mLに溶解し、塩化メタクリロイル1g (過剰)を0〜5℃で滴下した。得られた溶液を4時間撹拌したのち、温度を室温に上げ、撹拌をさらに20時間継続した。溶液を水に注加し、沈殿したポリマーをNaHCO3 (5%)水溶液で5〜6回洗浄し、再び水洗した。メタクリル側鎖部分を有するポリマーを、減圧下、室温で乾燥させた。収率は89%であった。臭素価によって測定された達成されたヒドロキシル基の変換率は94%であった。
【0204】
ポリ8-Lys-DEA/CAの合成:
塩化シンナモイルによるポリ8-Lys-DEAのアシル化を上記8-Lys-DEA/MAの場合と同じ条件下で実施した。達成された最終生成物の収率は92%であった。臭素価によって測定されたOH基の変換度は92%変換率に相当した。したがって、ポリ8-Lysポリマー1モルあたりの二重結合のモル単位含量は、0.92×0.87×0.92×2 (1COOH基あたり二つの付着する二重結合部分を考慮する)=1.47である。
【0205】
ポリマー架橋剤ポリ8-Lys-DEA/MAおよびポリ8-Lys-DEA/CAのUVスペクトルは、ポリ8-Lysおよびポリ8-Lys-DEAのUVスペクトルとは対照的に、UV吸光度領域で新たな吸収極大を示した(図5および6)。8-Lys-DEA/MAのUVスペクトル(図5)において、吸収極大はメタクリル酸残基の二重結合のせいである。対照的に、8-Lys-DEA/CAのUVスペクトル(図6)において、二重結合の吸着はケイ皮酸のフェニル基の吸収と重複している。
【0206】
実施例9
エポキシ側基を有するポリアミドタイプ多官能性架橋剤(EAC-PA)
この実施例は、本明細書のスキーム4にしたがって実施されたマルチステップ合成を説明する。まず、ポリN,N'-セバコイル-L-リシン(8-Lyz(H))を、ジエタノールアミンの場合の実施例8に記載された様式(スキーム6)と同様な様式で、カルボニルジイミダゾールを縮合剤として使用して、モノエタノールアミンとの相互作用により、8-Lyz(H)の対応するポリアルコールポリ(2-オキシエチルアミド)に変換した。ポリオールのヒドロキシル価(計算値4.31、実測値4.03)は、アミド化による変換率93.5モル%に相当する。その後、溶媒N,N-ジメチルアセトアミド中、第三級アミンを使用せずにアシル化を実施した。理由は、トリエチルアミンの存在下で得られたポリマーが有機溶媒に不溶性であったからである(望ましくない架橋が発生していた)。
【0207】
臭素価:
アクリル酸誘導体(スキーム6、EAC-PA。ここで、R7=CH=CH)二重結合への臭素の付加:計算値32.82、実測値29.94)、91.2モル%の変換率および76.7モル%のマクロ鎖中の二重結合含量に相当。ケイ皮酸誘導体(R7=CH=CH-C6H5)は、側鎖二重結合の変換(計算値27.74、実測値27.50)を示し、これは、99.1モル%の変換率および83.4モル%のマクロ鎖中の二重結合含量に相当する)。
【0208】
DMA中、H2O2を酸化剤として使用し、Na2WO4を触媒として使用して、側鎖二重結合の接触エポキシ化を実施した。変換度は、二重結合を有する化合物はエポキシド化誘導体とは対照的にスペクトルのUV領域で吸収するという事実に基づき、UV分光測定法を使用して測定した。アクリル酸のメチル誘導体のエポキシド化度は約60%に相当した(UV分光測光法によって測定。図7)。
【0209】

【0210】
実施例10
合成した架橋剤の光化学活性試験
光化学的変換を実験するために、15の二官能性(EAC-2)および6の四官能性(EAC-4)エステルアミドタイプ架橋剤を選択した(表6および7より)。選択した21のエステルアミドタイプ架橋剤を三重再結晶(結晶質生成物の場合)またはエタノール溶液から蒸留水への三重再沈殿(非晶出性の粘稠性の液体の場合)によって精製した。すべての生成物を真空中50℃で乾燥させ、デシケータ中に減圧下で貯蔵した。
【0211】
選択された架橋剤の光変換を次のように実施した。各化合物0.1gをクロロホルムに溶解し、得られた溶液を直径2cmの小さなTeflon (登録商標)皿に注加した。クロロホルムを蒸発乾固させ、架橋剤(結晶質化合物の場合には粉末、非晶出性化合物の場合には粘着性の膜)が入ったTeflon皿を真空オーブンに入れ、3時間乾燥させた。次いで、Teflon (登録商標)皿の内容物を、大気酸素の存在下、5、10、15または30分間UV照射に供した(さらに、断りない限り、光硬化の例においては、輻射束72WのメタルハライドUV灯400Wを使用。試料までの距離20cm。温度が40℃を超えないようファンを使用して試料を冷却した)。照射後、架橋剤の小さな部分をTeflon (登録商標)皿から取り出し、クロロホルムへの溶解性に関してチェックした。光架橋を起こした化合物はクロロホルムへの溶解性を失っていた。
【0212】
5%w/w光開始剤の存在下で同様な実験を実施した。三つの広く使用されているラジカル光開始剤―ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(Darocur (登録商標) TPO)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノール(Darocur (登録商標) 1173)または2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を架橋剤に加え、混合物をUV暴露に供した。
【0213】
表8および9にまとめる得られた結果から、以下の結論を下すことができる。
1. アクリル酸およびメタクリル酸から誘導される架橋剤は速やかな硬化を起こす。
2. 2+2付加環化を介して重合を起こすケイ皮酸およびマレイン酸の誘導体はずっと低速の光変換を示した。
3. 四官能性架橋剤は二官能性類似物よりもはるかに活性である。
4. 架橋剤の大多数(二官能性および四官能性)は光変換を起こし、光開始剤の非存在下で5〜10分以内にゲルを形成した。
【0214】
(表8)開始剤なしの二官能性EAC-2架橋剤の光変換

1)略号の意味:4=1,4-ブタンジオール、6=1,6-ヘキサンジオール、AA=アクリロイル、MA=メタクリロイル、CA=シンナモイル、MLA=マレイン酸、(+)=不溶性になる(架橋した)、(-)=架橋せず(クロロホルムに可溶)。
2)400Wメタルハライド灯、試料までの距離20cm。
【0215】
(表9)光開始剤なしの式(XV)の四官能性EAC-4架橋剤の光変換

1)略号の意味:3=1,3-プロパンジオール、4=1,4-ブタンジオール、6=1,6-ヘキサンジオール、PER=ペンタエリトリトール、AA=アクリロイル、MA=メタクリロイル、CA=シンナモイル、(+)=不溶性になる(架橋した)。
2)400Wメタルハライド灯、試料までの距離20cm。
【0216】
実施例11
この実施例は本発明の架橋剤の使用を例示する。方法:本明細書に記載される引っ張り強さ計測は、クロロホルム溶液から平均厚さ0.125mmに流延させたダンベル形PEU膜(4×1.6cm)を、Nexygen FMソフトウェア(Amtek, Largo, FL)を使用するPCを組み込んだ引っ張り強さ機(Chatillon TDC200)またはMultitest 1-I (Mecmesin Ltd, UK)上、60mm/minのクロスヘッド速度で引っ張り試験に供することによって得た。
【0217】
本明細書における平均分子量および多分散度は、ポリスチレン標準を使用するゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。より具体的には、数および重量平均分子量(MnおよびMw)は、たとえば、高圧液クロマトグラフィーポンプ、Waters 486 UV検出器およびWaters 2410示差屈折率検出器を備えたモデル510ゲル透過クロマトグラフィー(Water Associates, Inc., Milford, MA)を使用して測定した。N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)またはN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)中0.1% LiClの溶液を溶離剤として使用した(1.0mL/min)。狭い分子量分布を有するポリスチレン(PS)またはポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)標準を校正に使用した。
【0218】
当技術分野で公知の手段を使用して、たとえばMettler Toledo DSC 822e (Mettler Toledo Inc. Columbus, OH)示差走査熱量計を使用する示差走査熱量測定法(DSC)により、ポリマーガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)を測定した。計測に際して、本明細書に開示された試料をアルミニウム平なべに入れた。窒素流下、10℃/minの走査速度で計測を実施した。
【0219】
半相互侵入網目構造
半IPN実験のために、一般式(I)(式中、R1=(CH2)4であり、R3=CH2C6H5であり、R4=(CH2)4である)の線状マトリックスポリマーPEA4-Phe-4を合成した。Mw=65,500Da、Mw/Mn=1.80、DMF、PMMA中GPC)。
【0220】
第一段階で、この実施例は、組成物を他の物質の表面(たとえば鋼および他の医療装置表面)に不都合に付着させてしまうことなく、本発明の架橋剤を可塑剤として使用することができるかどうかという問題に取り組む。このために、本発明の架橋剤に対するポリ(4-Phe-4)の所定の比率(表10を参照)を使用して組成物膜をクロロホルム中に流延し、可塑化効果を測定した。
【0221】
乾燥させた膜を折りたたみ、ダブルペーパクリップで絞り合わせ、24時間水に浸漬した。次いで、試料を水から取り出し、ダブルクリップを取り外し、「自己粘着性」を目視で試験した。本明細書の表10にまとめたこの試験の結果は、メタクリル酸、マレイン酸および特にケイ皮酸に基づく二官能性架橋剤が、これらの架橋剤を含有する非架橋膜が水中24時間浸漬後でも粘着性にならなかったため、可塑剤として最適な結果を提供する可能性がもっとも高いということを示す。
【0222】
(表10)PEA4-Phe-4と二官能性架橋剤EAC-21との混合物の性質

1)一般式(XIII)のEAC-2、R4:6=1,6-ヘキサンジオール、R7:AA=アクリロイル、MA=メタクリロイル、CA=シンナモイル、MLA=マレイン酸。
2)試料を室温の水に24時間予備浸漬した。
3)(-)は「自己粘着性認めず」を意味する。
【0223】
架橋剤の非存在下におけるポリマーPEA4-Phe-4の機械的性質を、架橋剤の非存在下においてもっとも一般的に使用される合成生物医学用コポリマー、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、PLLA (Boehringer Ingelheim)の機械的性質と比較した。上記のようにして、ただしPEA4-Phe-4 (Mw=73,000)およびポリエステルPLLA (Mw=100,000)を使用して、調製した膜の機械的性質はむしろ類似していた(本明細書の表11)。
【0224】
(表11)ポリマーおよび半IPNの機械的性質

1)式(I)(式中、R1=(CH2)4、R3=CH2C6H5、R4=(CH2)4)のPEA
2)Phe-6-MAをEAC-2として適用(ビス(L-Phe)-1,6-ヘキサンジオールジエステルのジメタクリレート)。
3)膜を5分間暴露。400Wメタルハライド灯、試料までの距離20cm。
【0225】
もう一つの実験において、架橋剤Leu-6-MA (一般式EAC-2、式中、n=6、R5=C(CH3)=CH2)を80/20w/w含有するPEA4-Phe-4の膜を流延し(上記のように)、架橋のためのUV暴露の前後で引っ張り性を試験した。図11に示すように、架橋剤と混合した後(ただし架橋前)のPEA4-Phe-4膜の引っ張り強さ(σ)は約5倍低下し、破断点伸びは4倍増した。すなわち、ポリマー膜は、架橋剤の存在下において、ただし光照射の前で、より弾性(延性)になった。
【0226】
5分間のUV照射への暴露ののち、混合物の引っ張り強さは約3倍増し、破断点伸び(ε)は約2倍低下したが、ヤング率は実質的に変化しなかった。換言するならば、膜は照射後いくぶん強化された。しかし、計測された性質はなおもPEA4-Phe-4単独の場合よりも低かった。
【0227】
実施例13
この実施例は、ランダムコイルの三次元網目構造が形成される加硫ゴムの調製に使用される技術と類似した架橋技術を使用してポリマーの弾性を改善することができることを示す。靱性のエラストマー材料を達成するためのそのような戦略は自然界にも見られる。たとえば、細胞外マトリックスの主要な繊維状タンパク質成分であるコラーゲンおよびエラスチンは、いずれも架橋して弾性を達成している(Voet D. & Voet J. G. Biochemistry (John Wiley & Sons, New York, 1995)。光反応性生分解性架橋剤ESCまたはEACと架橋した、不飽和二重結合を主鎖中に有する生分解性PEAポリマーをこの実験で使用するように選択した。以下の構築物PEA 75/25 Seb/Fum-Leu-6の例示的なフマル酸ベースの不飽和コ-PEAを、他所(Guo K. et al., J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. (2005), 43, 1463-1477)で記載されている方法と同様な方法によって調製した。

式中、
75/25は、式(I)のコポリマー中のフマル酸に対するセバシン酸のモル比であり、R3=CH2C6H5であり、かつR4=(CH2)6である。
【0228】
図12に示すような、純粋な(すなわち架橋剤なし)PEA 75/25 (Seb/Fum)-Leu-6の膜の引っ張り性を測定した。次いで、同じポリマー膜の試料を広帯域UV灯からの光による照射に5分間暴露した。本明細書の表12にまとめたデータによって示されるように、光開始剤の非存在下においてさえ、強固な高分子網目構造の形成の結果として、照射されたポリマーは、機械的性質の望ましい変化を示し、引っ張り強さおよびヤング率は増大し、弾性は実質的に低下した。
【0229】
(表12)不飽和コポリマーおよびその網目構造の機械的性質

1)式(I)(式中、R1=75/25(CH2)8/CH=CH、R3=CH2C6H5、R4=(CH2)4)のPEA
2)膜を5分間暴露。400Wメタルハライド灯、試料までの距離20cm。
3)Phe-6-MAをESC-2として適用(ビス(L-Phe)-1,6-ヘキサンジオールジエステルのジメタクリレート)。
【0230】
次の実験において、架橋剤Phe-6-MA (構造を以下に示す)を30%w/w含有する不飽和コ-PEAの膜を調製し、引っ張り性を試験した。

【0231】
表12にまとめたデータによって示されるように、PEA8/FA-75/25-Phe-6への架橋剤Phe-6-MAの添加は引っ張り強さおよびヤング率を実質的に低下させたが、弾性を増大させた。UV照射は、機械的性質をわずかに改善したが、純粋なPEA8/FA-75/25-Phe-6ポリマー膜の機械的性質とは大きく異なるものであった。
【0232】
実施例14
これまでの実施例においては、本発明の二官能性架橋剤を試験した。比較のために、この実施例においては、市販の架橋剤であるペンタエリトリトールテトラアクリレートを、分子量Mw=56000Da、多分散度=1.73およびTg=19.7℃の75/25 Seb/Fum-Leu-6 (下記式)のPEAと高分子網目構造を形成するためのモデル架橋剤として試験した。
【0233】

【0234】
光開始剤としてのDAROCUR (登録商標) TPO 4%w/wおよび架橋剤(表13) 1〜5%w/wを含有するポリマーブレンドを疎水面に流延した。光源から4cm離れたところに取り付けられた厚さ約0.13mmの試料膜を、広帯域UV (100W水銀)灯に対し、導光端で10000mW/cm2の暴露強さで5分の照射期間暴露した。反応モデルを以下のスキーム7に示す。

【0235】
ポリマーの機械的性質をUV照射の前後で試験し、結果を以下の表13にまとめる。
【0236】
(表13)市販の光開始剤2)を4%w/w含有する不飽和コポリマーPEA1)/ペンタエリトリトールテトラアクリレートブレンドの、UV暴露の前後での機械的性質

1)用いたPEAはSeb/Fum 75/25-Leu-6であった。
2)ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(Darocur TPO(商標))
3)膜を5分間暴露。UV10000mW/cm2、光源からの距離4cm。
【0237】
照射されたUPEAのヤング率は、テトラアクリレート含量が4%w/wに達するとともに2500%超に増大した(図8)。この結果は、UPEAが広い範囲の用途で明らかな反応性および強固な足場を構成する能力を示すことを示す。
【0238】
すべての刊行物、特許および特許文献が、個々に本明細書に組み入れられるごとく、参照により本明細書に組み入れられる。様々な具体的および好ましい態様および技術を参照して本発明を説明した。しかし、本発明の真意および範囲内にありながらも多くの改変および変形を加えることができることが理解されよう。
【0239】
上記実施例を参照して本発明を説明したが、変形および改変が本発明の真意および範囲に包含されるということが理解されよう。したがって、本発明は、添付の請求の範囲のみによって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロサイズの孔と管に沿って軸方向に離間した一連のスカイブカット(skive cut)とを有する細いエラストマー管を含む装置であって、
該管の組成物が、
線状生分解性ポリマー;および
少なくとも一つの加水分解性官能基を有する少なくとも一つの二官能性または多官能性架橋剤であって、フリーラジカルに暴露されると重合して半相互侵入高分子網目構造を形成する、架橋剤
の混合物を含む、装置。
【請求項2】
架橋剤が、下記一般構造式(XIV)によって示される化学構造を有する、請求項1記載の装置:

式中、
各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;R7は、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択され;R8は、分岐鎖(C2〜C12)アルキレンまたは分岐鎖(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレンより選択され;かつnは、3、4、5または6である。
【請求項3】
架橋剤が、下記一般構造式(XV)によって示される化学構造を有する四官能性エステルアミド架橋剤である、請求項2記載の装置:

式中、
各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;かつR7は、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【請求項4】
R8が、-CH(CH2-)2、CH3-CH2-C(CH2-)3、C(CH2-)4および(-CH2)3C-CH2-O-CH2-C(CH2-)3からなる群より選択される、請求項2記載の装置。
【請求項5】
架橋剤が、下記一般構造式(XIII)によって示される化学構造を有する二官能性エステルアミド架橋剤である、請求項1記載の装置:

式中、
各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ、(C2〜C20)アルキレン、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され;かつR7は、独立して、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【請求項6】
架橋剤が、下記一般構造式(XVI)によって示される化学構造を有するポリアミドタイプの架橋剤である、請求項1記載の装置:

式中、
nは、約10〜約150であり;R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、α,ω-ビス(o、mまたはp-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基またはそれらの組み合わせであり;かつR7は、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【請求項7】
架橋剤が、下記一般構造式(XVII)によって示される化学式を有するポリ(エステルアミド)架橋剤である、請求項1記載の装置:

式中、
mは、約0.1〜約0.9であり;qは、約0.9〜約0.1であり、nは、約10〜約150であり、各R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、α,ω-ビス(p-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;mモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、一般式IIの1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され;R7は、独立して、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH-CH-(C6-H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択され;かつR5は、独立して、(C2〜C20)アルキルまたは(C2〜C20)アルケニルである。
【請求項8】
生分解性線状ポリマーが、下記ポリマーの少なくとも一つを含む、請求項1記載の装置:
下記一般構造式(I)によって示される化学式を有するポリ(エステルアミド)(PEA):

式中、
nは、約10〜約150であり、各R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C12)エポキシアルキレン、α,ω-ビス(p-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、各nモノマー中のR4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、下記一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される

下記一般構造式(III)によって示される化学構造を有するPEA:

式中、
mは、約0.1〜約0.9であり、pは、約0.9〜約0.1であり、nは、約10〜約150であり、各R1は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C12)エポキシアルキレン、α,ω-ビス(o、mまたはp-カルボキシフェノキシ)-(C1〜C8)アルカン、3,3'-(アルケンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸、4,4'-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基およびそれらの組み合わせからなる群より選択され、R2は、独立して、水素、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび保護基からなる群より選択され、各R3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、各R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、かつR5は、独立して、(C2〜C20)アルキルまたは(C2〜C20)アルケニルである;
下記構造式(IV)によって示される化学式を有するポリ(エステルウレタン)(PEUR):

式中、
nは、約5〜約150の範囲であり、個々のnモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、R4およびR6は、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される;
下記一般構造式(V)によって示される化学構造を有するPEUR:

式中、
nは、約5〜約150の範囲であり、mは、約0.1〜約0.9の範囲であり、pは、約0.9〜約0.1の範囲であり、R2は、独立して、水素、(C1〜C12)アルキル、(C2〜C8)アルキルオキシ、(C2〜C20)アルキル(C6〜C10)アリールおよび保護基からなる群より選択され、個々のmモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され、R4およびR6は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、構造式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され、かつR5は、独立して、(C1〜C20)アルキルおよび(C2〜C20)アルケニルからなる群より選択される。
【請求項9】
PEAにおいて、少なくとも一つのR1が、α,ω-ビス(4-カルボキシフェノキシ)(C1〜C8)アルカンまたは4,4'(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸の残基またはそれらの組み合わせであり、かつR4が、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントである、請求項8記載の装置。
【請求項10】
架橋剤が、下記一般構造式(XIII)によって示される化学構造を有する、請求項1記載の装置:

式中、
各nモノマー中のR3は、独立して、水素、(C1〜C6)アルキル、(C2〜C6)アルケニル、(C2〜C6)アルキニル、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルおよび(CH2)2SCH3からなる群より選択され;R4は、独立して、(C2〜C20)アルキレン、(C2〜C20)アルケニレン、(C2〜C8)アルキルオキシ(C2〜C20)アルキレン、一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式フラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群より選択され;かつR7は、独立して、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-(C6H5)および-CH=CH-COOHからなる群より選択される。
【請求項11】
組成物が、約400nm〜約700nmの範囲の波長を有する光への暴露によって架橋する、請求項1記載の装置。
【請求項12】
架橋剤が架橋して半相互侵入網目構造を形成する、請求項1記載の装置。
【請求項13】
ポリマーが主鎖中に少なくとも一つの二重結合を含み、かつ組成物が、光活性化への暴露によって架橋したのち高分子網目構造を形成する、請求項1記載の装置。
【請求項14】
架橋前に約1.0〜約2.0の範囲、および架橋後に約2.3〜約3.0の範囲のヤング率を有する、請求項1記載の装置。
【請求項15】
架橋剤が架橋している、請求項1記載の装置。
【請求項16】
組成物が、ポリマー中に分散した生体活性剤をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項17】
管が、装置を活性種に暴露する前に約50ミクロン〜約2mmの厚さのエラストマー壁を有する、請求項1記載の装置。
【請求項18】
管の長さにわたって周方向の圧力を加えると、装置の崩壊を伴うことなく壁の厚さが約25ミクロン〜約1mmまで減少する、請求項1記載の装置。
【請求項19】
管が、内径において、装置を活性種に暴露する前の約100%〜約800%まで拡張する、請求項1記載の装置。
【請求項20】
拡張時の管の内径が約1mm〜約6mmである、請求項19記載の装置。
【請求項21】
管におけるスカイブカットが、管の長手に沿って約2mmのカットされていないセグメントによって間隔を空けられ、それらの間に1mmのスカイビングされたセグメントがある、請求項1記載の装置。
【請求項22】
管が約5mm〜約16mmの長さを有する、請求項1記載の装置。
【請求項23】
装置が埋め込まれたとき制御された様式で放出される少なくとも一つの生体活性剤を中に分散させて含む外部ポリマーコーティングをさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項24】
請求項1記載の装置を対象に埋め込む方法であって、
(a) 請求項1記載の装置を活性種に暴露する前に、該装置を対象の動脈に導入する工程、および
(b) 該装置を該動脈中インサイチューで活性種に暴露して架橋剤をその中で架橋させ、半相互侵入高分子網目構造を形成させる工程
を含み、該装置が対象の動脈に埋め込まれる、方法。
【請求項25】
暴露する工程が、装置を光開始に供することを含む、請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−533548(P2010−533548A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517034(P2010−517034)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/058785
【国際公開番号】WO2009/011938
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(505323312)メディバス エルエルシー (12)
【Fターム(参考)】