説明

生体情報取得装置

【課題】 被検体をプレートで押さえ、プレート越しに探触子で音響波を受信すると、被検体とプレートに音速差があるため音響波が屈折し、その屈折を考慮しないと解像度低下が生じてしまう。
【解決手段】 プレートの厚さと、プレートと被検体それぞれの音速と、画像情報の画素(ボクセルまたはピクセル)位置、または音源となる対象物からの音響波の到達時間から、信号または信号に相当する仮想的な波面を加算する重み付けを決定し、その信号または信号に相当する仮想的な波面を加算して画像情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体の内部から放出された音響波を画像再構成する生体情報取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載されている従来の生体情報取得装置としては、乳がんの検診用途に開発された光音響装置がある。非特許文献1の装置は、ガラスプレートと超音波探触子で被検体(乳房)を圧迫し、ガラスプレート越しに、Nd:YAGレーザを光源とする照明光(近赤外線)を被検体に照射する。そして被検体内部で発生する音響波としての光音響波を探触子で受信し、被検体内部の組織、特に乳がんにおける血管新生の画像を生成して表示する。このような画像生成のための演算を画像再構成という。なお、探触子表面には18.6mmの厚さのポリマーが設けられている。ポリマーと被検体とではそれぞれの中を伝播する音速が異なるため、光音響波は探触子で受信する前にポリマーで屈折する。画像再構成において、この屈折を考慮しないと解像度が低下してしまう。
【0003】
このような課題を解決する方法が、特許文献1に記載されている。特許文献1にはX線マンモグラフィと超音波装置との複合機が記載されている。X線マンモグラフィは被検体保持部材としての圧迫プレートで被検体を圧迫させ、被検体にX線を透過させて得られたX線の情報を基に画像化する。そのX線マンモグラフィに超音波装置を複合させると、超音波探触子は圧迫プレート越しに超音波を送受信することになる。そのため、圧迫プレートと被検体との音速差によって生じる音響波の屈折を補正するように、図11から超音波の遅延時間(素子毎の到達時間の差)を計算し、各素子からの電気信号を加算していた。図11において、c、cは夫々プレート中を伝播する音速と被検体中を伝播する音速、L、L、R、R、Dは夫々の距離を表し、β、βは角度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Srirang Manohar,etal.,TheTwente photoacoustic mammoscope: system overview and performance,Physics in Medicine and Biology 50(2005)2543−2557
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6607489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1では、画像再構成における屈折の補正については記述されておらず、被検体から発せられた光音響波がポリマーで屈折してしまい、解像度を低下させてしまう。特許文献1はこの課題解決を目的としているが、特許文献1では電気信号の整相加算時のアポダイゼーション(重み付け)に屈折を考慮していない。そのため、解像度の低下を招いていた。
【0007】
本発明はこのような背景技術の課題解決を目的としており、被検体と被検体保持部材との間に生じる音響波の屈折に伴う解像度低下を抑制させた生体情報取得装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の生体情報取得装置は、被検体から放出された音響波を受信して電気信号に変換する素子を複数備えた探触子と、前記被検体と前記探触子との間に設けられた被検体保持部材と、前記電気信号から画像情報を取得する処理部と、を備える生体情報取得装置であって、前記処理部では、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体中及び前記被検体保持部材中を伝播する各音速と、前記被検対中の音響波発生源からの前記音響波の到達時間と、から前記素子毎の電気信号または前記電気信号に相当する仮想的な波面を加算する際の重み付けを決定し、重み付けされた前記電気信号または重み付けされた前記仮想的な波面を加算して画像情報を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、被検体と被検体保持部材との間に生じる音響波の屈折を考慮し、電気信号または電気信号に相当する仮想的な波面を加算するだけでなく、加算時の重み付けにも屈折を考慮することができる。そのため、解像度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態におけるシステム構成を説明する図である。
【図2】本発明の第一の実施形態における信号処理部を説明する図である。
【図3】本発明の第一の実施形態における屈折補正を説明する図である。
【図4】本発明の第一の実施形態における立体角補正について説明する図である。
【図5】本発明の第一の実施形態におけるアポダイゼーションについて説明する図である。
【図6】本発明の第二の実施形態におけるcircular back projectionのための波面位置の計算方法を説明する図である。
【図7】本発明の第二の実施形態におけるcircular back projectionの方法を説明する図である。
【図8】本発明の第三の実施形態における信号処理部を説明する図である。
【図9】本発明の第三の実施形態におけるビームフォーミングを説明する図である。
【図10】本発明の第三の実施形態におけるアポダイゼーションについて説明する図である。
【図11】背景技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
被検体と音響波を受信して信号(電気信号)に変換する素子を複数備えた探触子との間に被検体保持部材が設けられている場合、被検体保持部材の厚さと、被検体保持部材中と被検体中を伝播するそれぞれの音速から、スネルの法則に従い、音響波の屈折を幾何学的に求めることができる。そして、画像情報の画素位置(ボクセルまたはピクセル)、または被検対中の音響波発生源となる対象物からの音響波の到達時間から、信号または信号に相当する仮想的な波面を加算する重み付けを決定し、その重み付けされた信号または重み付けされた信号に相当する仮想的な波面を加算して画像情報を取得する。
【0012】
なお、本発明において音響波とは、音波、超音波、光音響波と呼ばれるものを含み、例えば、被検体内部に近赤外線等の光を照射して被検体内部で発生する光音響波や、被検体内部に超音波を送信して反射された超音波を含む。また、被検体から放出された音響波とは、被検対の少なくともある部分で反射した音響波や、当該部分で発生した音響波を含む。すなわち本発明の生体情報取得装置とは、被検体内部に光を照射して、被検体内部で発生する光音響波を探触子で受信し、被検体内部の組織画像を表示する光音響装置や、被検体内部に超音波を送受信して、被検体内部の組織画像を表示する超音波装置を含む。被検体保持部材としては、被検体と探触子との間に設けられ、被検体の少なくとも一部の形状を保つものであり、圧迫板、平行平板、プレートと呼ばれるものを含み、表面が曲率を持っていてもよい。
【0013】
以下、実施の形態について説明する。なお、第一の実施形態と第二の実施形態ではPhotoacoustic tomography(以下、PATと表記)を原理とするPhotoacoustic mammography(以下、PAMと表記)の光音響波の屈折を考慮した生体情報取得方法とPAM装置について説明する。特に、第一の実施形態ではdelay and sum方式における光音響波の屈折を考慮した画像再構成方法とPAM装置について説明し、第二の実施形態ではcircular back projection方式における光音響波の屈折を考慮した画像再構成方法について説明する。さらに、第三の実施形態では、超音波装置における超音波の屈折を考慮した生体情報取得方法について説明する。
【0014】
[実施形態]
[第一の実施形態]
図1はPAM装置の構成を示した模式図である。Photoacoustic(光音響波)は、特異的に血液や血管の画像を取得できるため、がんの血管新生を撮影できる。図1はこの原理を乳がんの検診用に適用した構成である。
【0015】
図1において、プレート1は本発明でいう被検体保持部材としての平行平板である。圧迫機構2は、二枚のプレート1を相対的に近づけたり遠ざけるように駆動する。これらは、被検体(乳房)をプレート1の間に入れ、圧迫させるためのものである。なお、圧迫機構5は自動で圧迫を行うロボット機構を図示したが、これに限定されず、エアシリンダ機構や、万力機構あるいはラックアンドピニオンやウォームギアなどを用いて手動で行っても良い。
【0016】
照明光学系3は被検体から光音響波を発生させるために、700nmから1100nm程度の波長のレーザ光を照射するための光学系である。なお、レーザ光源ならびに、レーザ光源から照明光学系3までの照明光の伝播経路は不図示とした。4は照明光学系を走査させる照明光スキャンユニットである。探触子5は被検体から発せられた光音響波を受信する音響波トランスデューサであり、6は探触子5を走査させる探触子スキャンユニットである。
【0017】
照明光学系3側のプレート1の材質は、アクリルやポリカーボネートのような透光性の樹脂や石英ガラスなどの無機材料が好適である。もう一方の探触子5側の被検体保持部材としてのプレート1は被検体から探触子5までの音響インピーダンスの整合を合わせるため、材質は樹脂が好ましく、特にポリメチルペンテンが好適である。
【0018】
次に、音響波を探触子5で受信してから、画像再構成を行うまでの構成について説明する。図2(a)は探触子5が検出した光音響波から被検体の生体情報を画像化するまでの信号の流れを示したものである。図2(a)において、7はADC(A/D変換器)で、探触子5が受信したアナログの信号をディジタル化する。なお、探触子5とADC7の間には信号を増幅するための増幅器を設けることが好ましく、例えば探触子5に内蔵していてもよい。8はメモリで、ディジタル化した信号を一時的に記憶する手段である。そして、9は処理部であり、ノイズ低減のためのフィルタ処理が施され、探触子スキャンユニット6からの信号取得位置情報に基づき画像再構成を行う。10は表示部で、処理部9で画像再構成した画像情報を表示する。
【0019】
図1および図2(a)で説明したPAM装置において、被検体中を伝播する音速とプレート中を伝播する音速が異なるため、光音響波はその界面で屈折する。例えば、被検体の音速は約1540m/s(乳房の場合約1510m/s)であり、プレート1の材質をポリメチルペンテンとするとその音速は約2200m/sである。ただし、被検体の音速は上記数値を用いても良いが、音速測定手段12であらかじめ音速を測定し、測定した音速を後述の補正テーブル又は補正式を求める際に用いることが好ましい。図2(b)のように、音速測定手段12は、探触子5から、被検体を挟んだ状態のプレート1同士の間に超音波を送信し、反射した超音波を受信するまでの時間tusと二枚のプレート1の距離Lから音速を計算する等の方法を用いて測定すれば良い。なお、図2(b)の場合、被検体の音速は、プレート1の厚さz、プレート1の音速cは既知なので、被検体の音速c=L/(tus/2―z/c)で計算できる。
【0020】
図3は音響波としての光音響波の屈折の様子を示している。なお、図3以降では説明を容易にするため二次元で説明するが、これに限定されず、三次元に拡張することができる。そのため、これ以降の説明では、画素をボクセルと表記する。
【0021】
従来のdelay and sumによる画像再構成では、画像再構成するためにボクセルを定義し、各ボクセルについて計算していく。それには、計算するボクセルAから素子Eまでの到達時間τと、その直線距離R、音速cとの関係式を式(1)に基づき計算し、画像化する。ところが、被検体中を伝播する音速とプレート中を伝播する音速は異なる。そのため音響波はその界面で屈折し、θとRに応じて、平均音速が変わる。したがって、音速cはθ、Rの関数となり、到達時間τを式(2)で表すことができる。
【0022】
【数1】

【0023】
さらに、光音響波の経路から、到達時間τの式(2)は式(3)で示すことができる。
【0024】
【数2】

【0025】
また図3(a)から幾何学的な関係式を式(4)から式(7)まで示す。
【0026】
【数3】

【0027】
ここで、被検体の音速c、プレートの音速c、プレートの厚さzは既知である。また計算するボクセルAの位置が既知なので、被検体内におけるボクセルAまでの深さzや、ボクセルAから素子Eまでの距離R、角度θも既知となる。したがって、未知なのはxとxの比率、すなわちそれぞれの値である。これらは、xとxについて、式(4)に式(5)と式(6)を代入し、式(7)との連立方程式によって解くことができる。また、xとxが計算によって求まれば、θとθも求めることができる。以上の既知値と計算で求めた値から、式(3)に基づき、到達時間τを求めることができる。そして、メモリ8内の信号を参照し、到達時間τに被検体から発せられた光音響波があるかを調べる。例えば、素子EとボクセルAとの関係において、到達時間τに信号があれば、このボクセルAには音響波発生源、すなわち照明光の吸収体(例えば新生血管)があると判断できる。これを各ボクセルについて、各素子で取得した信号から整相加算して画像再構成すれば、照明光の吸収体のコントラストを高めた画像を取得することができる。整相加算とは、複数ある素子のそれぞれの位置によって同一の音響波を受信する時間が異なるため、この異なる時間(遅延時間)だけ補正してから信号を加算することをいう。
【0028】
なお、上記の通り、少なくとも被検体とプレート1との界面での屈折を補正することで解像度が向上するが、プレート1と探触子5との間には図5(b)に示すように、水や油のような音響マッチング剤を設ける場合がある。さらに、プレート1と被検体との間にもソナーゲルなど音響マッチング剤を設ける場合もある。これらの音速は被検体に近いものの、これらの界面で生じる屈折も補正することが好ましい。特にプレート1と探触子5との間に設けた音響マッチング剤による屈折は補正することが好ましい。この場合でも屈折による影響は以下のように幾何学的に求めることができる。図3(b)において、式(3)に相当するのが、τ=τ+τ+τである。τは音響マッチング剤中の光音響波の伝播時間であり、τ=Z/(ccosθ)で表される。同じようにプレート中の光音響波の伝播時間τ=Z/(ccosθ)であり、被検体中の光音響波の伝播時間τ=Z/(ccosθ)である。また、式(4)に相当するのが、sinθ/sinθ=c/cと、sinθ/sinθ=c/cである。さらに、式(5)、式(6)に相当するのが、θ=tan−1(x/z)、θ=tan−1(x/z)、θ=tan−1(x/z)である。式(7)に相当するのが、x+x+x=Rcosθである。
【0029】
ここで、被検体の音速cやプレート1の音速c、マッチング剤の音速cは既知であり、プレートの厚さzと音響マッチング剤の厚さzも既知である。また、計算するボクセルの位置が既知なので、被検体内におけるボクセルAまでの深さzや、ボクセルAから素子Eまでの距離R,角度θも既知となる。したがって、未知数であるx、x、xは、上式の連立方程式から求めることができる。このように屈折する界面の数が増えても、幾何学的に補正量を求めることができる。ただし、以降の説明では解像度低下に起因する屈折の内、最も補正の効果の大きい被検体とプレート1での屈折の部分について説明し、プレート1と探触子5との間やプレート1と被検体との間の音響マッチング剤での屈折に関しては説明を省略する。
【0030】
つぎに整相加算におけるアポダイゼーション(重み付け)について説明する。
【0031】
PATにおける整相加算は図4で示すように、立体角補正(solid angle weighting factor)を考慮することによってアポダイゼーションをかけることができる。この場合の立体角補正とは、素子の位置によって、光音響波の発生位置に対する受信の強度が変わるため、その強度の差を補正することである。このアポダイゼーションをかけた時の整相加算の式は式(8)と式(9)で示される。
【0032】
【数4】

【0033】
ここで、tは時間であり、τは前述の式(3)〜(7)から求めた到達時間である。Pはメモリ8に格納されている取得信号、Ωは検出器(探触子5)が囲んでいる領域(検出する領域)を意味する。図1で示したように、探触子5は平面のプレート1を走査するため、整相加算の式は式(10)で示すことができる。なお、Aは素子面積を意味する。
【0034】
【数5】

【0035】
図1に示したPAM装置ではプレート1で光音響波が屈折するため、図5のように、ボクセルAから発せられた光音響波は、素子Ei+1に到達するものが素子Eに到達することになる。すなわち、素子Eで取得した信号は素子Ei+1で所得すべき信号だったものとして整相加算するとよい。言い換えると、式(10)を素子Eと素子Ei+1の間の距離xdiだけ光音響波の到達位置を補正するとよい。図5より素子Eで取得した信号を素子Ei+1で所得すべき信号だったものとすると、直線距離R、αは、式(11)で示すように表される。そして、式(11)を式(10)に代入すると、整相加算時に音響波の屈折を考慮したアポダイゼーションをかけることができる。
【0036】
【数6】

【0037】
なお、ここまで、プレート1は平面の板を想定して説明してきたが、被検体保持部材としてのプレートは、これに限定されず、その平面度が曲率を持っていても有効である。プレート1の面に曲率がある場合、入射角としてθ、θに反映させることが好ましい。そして、式(10)と式(11)のアポダイゼーションは平面の探触子5を平面のプレート1内でスキャンさせる場合の整相加算を示した式である。平面でない場合は、測定する面の領域に応じて、式(8)から展開し、式(10)、式(11)に相当する式を導いて音響波の屈折分を補正すれば良い。
【0038】
さらに図1において、プレート1は二枚の平行平板として説明したが、ここまで説明した画像情報取得方法は被検体と探触子5との間にプレート1を設けた場合に適用でき、被検体を圧迫することに限定するものではない。
【0039】
以上の説明した通り、被検体中を伝播する音速とプレート1中を伝播する音速の差によって生じる屈折を考慮して画像再構成できる。その際、信号を加算するときに屈折を考慮させるだけでなく、そのアポダイゼーションにも屈折を考慮させることができる。そのため、光音響波の屈折に起因する解像度低下を軽減することができる。
【0040】
[第二の実施形態]
第一の実施形態では、delay and sum方式による画像再構成における光音響波の屈折補正方法について説明したが、これに限定されず、circular back projection方式でも有効である。
【0041】
図6(a)はcircular back projectionによる線(点B)の計算方法を説明する図である。図6より、β=sin−1(z/cτ)からβend=π−βまでの曲線を求める。例えば、点Bを求める場合、zはプレート1の厚さ、cはプレート1の音速で既知であるため、界面までの距離がわかる。したがって、その距離の光音響波の伝搬時間tが計算できる。そして、屈折する角度は式(4)で示したスネルの法則より計算できる。取得した信号から光音響波の到達時間はτなので、被検体内の伝播時間はt=τ−tで計算でき、屈折した角度方向にc・tだけ伸ばした点を点Bとして求めることができる。また点Bが求まれば、素子Eとの直線を結んだ時の角度θ、点Bまでの距離Dが計算できる。こうすることで、Dはθの関数(D(θ))で表すことができ、circular back projectionのための曲線、すなわち素子毎の仮想的な波面を描くことが可能となる。
【0042】
そして、メモリ8に格納された光音響波の信号から各素子について到達時間τを求め、上述のようにそれぞれ曲線を描くと画像再構成することが可能となる。
【0043】
なお、第一の実施の形態で,図3(b)を用いて説明した通り、プレート1と探触子5との間には水や油のような音響マッチング剤が存在する場合があるが、屈折する界面の数が増えても、幾何学的に補正量を求めることができる。例えば、図6(b)において、上記Dは、D(θ)=((Ztanθ+Ztanθ+Ztanθ+(Z+Z+Z1/2、tanθ=(Z+Z+Z)/(Ztanθ+Ztanθ+Ztanθ)から計算ができる。すなわちDはθの関数であり,そのθは各界面での屈折角θ、θ、θの関数となる。これらは、スネルの法則から、sinθ/sinθ=c/c、sinθ/sinθ=c/cより関係式を導くことができる。Zは音響マッチング剤の厚みであり、cは音響マッチング剤の音速である。
【0044】
また、光音響波の到達時間τ=τ+τ+τである。τは音響マッチング剤中の光音響波の伝播時間であり、τ=Z/(ccosθ)で表される。同じようにプレート中の光音響波の伝播時間τ=Z/(ccosθ)であり、被検体中の光音響波の伝播時間τ=Z/(ccosθ)である。これらの式から、D(θ)が計算できる。
【0045】
図7は一例として素子E、Eとそれぞれの音響波到達時間τ、τから画像再構成するための模式図を示す。図7のように素子毎にcircular back projectionのための仮想的な波面を描き、その重なる点(ボクセルA)を光音響波の音源、すなわち照明光の吸収体として画像再構成ができる。
【0046】
そして、アポダイゼーションに相当する重み付けは、circular back projectionのための仮想的な波面の位置に応じて濃淡をつけることによって行う。それは素子の真上、すなわち図6においてβが90°を最大の濃さとし、θが小さくなるに従って薄くする。一例として、重み付けは最大の濃さにcosθをかけて仮想的な波面に濃淡をつければよい。このように、素子からの角度を変数として仮想的な波面に濃淡をつけて重み付けを決定すれば良い。
【0047】
このように、第一の実施形態で説明したdelay and sum方式以外のアルゴリズム(circular back projection)にも、屈折を考慮した画像再構成ができる。その際、信号に相当する仮想的な波面に屈折を考慮させるだけでなく、その濃淡にも屈折を考慮させることができる。そのため、光音響波の屈折に起因する解像度低下を軽減することができる。
【0048】
[第三の実施形態]
第一の実施形態と第二の実施形態ではPATを原理とするPAM装置について説明した。第三の実施形態では超音波装置に適用した場合の構成ならびに処理方法について説明する。超音波を被検体へ向けて送受信する超音波装置でも、超音波探触子と被検体との間にプレートがあれば、超音波は屈折する。一般的に超音波装置はプレート越しに被検体に超音波を送受信することはない。しかしながら、図1のPAM装置の探触子5と並列に超音波探触子を設けた場合、あるいはX線マンモグラフィ装置の圧迫プレートに超音波探触子を設けた場合には、被検体とプレートとの音速差によって生じる屈折を考慮する必要がある。このような場合を想定して、図8は超音波探触子から被検体に向けて超音波を送信し、被検体から反射した超音波を受信して画像化するまでの信号の流れを示したものである。
【0049】
図8において、11は超音波を送波するための送信ビームフォーミングなどの処理を行う送信手段である。51は超音波探触子で、送信手段11からの送信信号に基づき超音波を送受信する。91はフィルタ処理や増幅を行うアナログ信号処理部である。7はアナログ信号処理部91で信号処理されたアナログ信号をディジタル化するA/D変換器(ADC)である。8はそのディジタル信号を時系列に格納するメモリ、92はディジタル信号処理部で、メモリ8の受信信号から画像情報を取得し、表示部10に画像情報を表示させる。超音波装置の場合、ディジタル信号処理部92はメモリ8の受信信号から、超音波エコーの検波や整相加算など受信ビームフォーミングを行い、対数圧縮などの信号処理、ならびに画像処理を行う。この際、整相加算における遅延時間(素子毎の到達時間の差)は、被検体とプレート1の各音速を考慮する。同様に、送信手段11は送信ビームフォームングのため、被検体とプレート1の各音速を考慮して遅延時間を決定し、超音波探触子51を発振させる。
【0050】
ディジタル信号処理部92および送信手段の各ビームフォーミングでは、被検体とプレートの音速差を考慮する場合と考慮しない場合で、図9のように差が生じる。図9では、音速差を考慮する場合を実線で示し、音速差を考慮しない場合を破線で示した。図9より、所望のフォーカスの位置にするためには、被検体とプレート1との音速差を考慮する必要がある。そのため、各ビームフォーミングにおける遅延時間の決定方法は、図3を用いて説明した方法と同様の方法にすれば良い。
【0051】
被検体の音速c、プレートの音速c、プレートの厚さzは既知である。また所望のフォーカス位置からzと、素子Eまでの距離R、角度θも既知となる。したがって、未知なのはxとxの比率、すなわちそれぞれの値である。これらは、xとxについて、式(4)に式(5)と式(6)を代入し、式(7)との連立方程式によって解くことができる。また、xとxが計算によって求まれば、θとθも求めることができる。以上の既知値と計算で求めた値から、式(3)に基づき、素子毎の遅延時間を計算する。そして、素子毎の遅延時間が計算されたら、それに従ってビームフォーミングする。なお、受信ビームフォーミングにおける整相加算では、素子毎の受信信号にアポダイゼーションをかけて整相加算を行う。アポダイゼーションでは一般的に窓関数と言われる関数を適用する。
【0052】
なお、第一の実施の形態と同様に、プレート1と探触子5との間に水や油のような音響マッチング剤が存在する場合でも、幾何学的に補正量を求めることができる。
【0053】
窓関数の一例としてhammingを適用した時のアポダイゼーションの補正方法について説明する。hammingは、w(x)=0.54−0.46cos(2πx)で表される。ただしxは無次元化した開口幅であり、その中央をゼロにするためには、w(x)=0.54−0.46cos[2π(x−0.5)]とする。また、アポダイゼーションの補正は図5より、w(x)=0.54−0.46cos[2π(xdi−0.5)]となる。xdiは遅延時間を求めるときにすでに計算しているθから、幾何学的に求めることができる。こうすることによって、アポダイゼーションを求めることができ、補正前(点線)と補正後(実線)を比較するため、図10に窓関数をhammingとしたときのアポダイゼーションを示す。
【0054】
以上のアポダイゼーションは、窓関数をhammingとしたが、これに限定されず、他の窓関数を用いた場合も上記と同じ方法でアポダイゼーションを決定すれば良い。
【0055】
このように、第一の実施形態と第二の実施形態で説明したPAT(PAM装置)に限らず、超音波装置にも屈折を考慮した画像取得が可能となる。その際、整相加算時に屈折を考慮させるだけでなく、アポダイゼーションにも屈折を考慮させることができる。そのため、超音波の屈折に起因する解像度低下を軽減することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 プレート
2 圧迫機構
3 照明光学系
4 照明光スキャンユニット
5 探触子
51 超音波探触子
6 探触子スキャンユニット
7 ADC
8 メモリ
9 処理部
91 アナログ信号処理部
92 ディジタル信号処理部
10 表示部
11 送信手段
12 音速測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から放出された音響波を受信して電気信号に変換する素子を複数備えた探触子と、前記被検体と前記探触子との間に設けられた被検体保持部材と、前記電気信号から画像情報を取得する処理部と、を備える生体情報取得装置であって、
前記処理部では、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体中及び前記被検体保持部材中を伝播する各音速と、前記被検対中の音響波発生源からの前記音響波の到達時間と、から前記素子毎の電気信号または前記電気信号に相当する仮想的な波面を加算する際の重み付けを決定し、
重み付けされた前記電気信号または重み付けされた前記仮想的な波面を加算して画像情報を取得することを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項2】
前記音響波は、前記被検体に光を照射することにより前記被検体中の音響波発生源から発生した光音響波であり、
前記処理部では、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体中及び前記被検体保持部材中を伝播する各音速と、前記音響波発生源からの前記光音響波の到達時間と、から前記素子毎の電気信号または前記電気信号に相当する仮想的な波面を加算する際の重み付けを決定し、
重み付けされた前記電気信号または重み付けされた前記仮想的な波面を加算して画像情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の生体情報取得装置。
【請求項3】
前記処理部は、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体中及び前記被検体保持部材中を伝播する各音速と、前記画像情報の画素位置と、からスネルの法則に基づき前記音響波発生源からの前記音響波の到達時間を計算することを特徴とする請求項1または2に記載の生体情報取得装置。
【請求項4】
前記処理部は、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体中及び前記被検体保持部材中を伝播する各音速と、前記画像情報の画素位置と、からスネルの法則に基づき、前記音響波の到達位置を補正することによって前記素子毎の電気信号を加算する際の重み付けを決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項5】
前記処理部は、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体保持部材中及び前記被検体中を伝播する各音速と、前記音響波発生源からの前記音響波の到達時間と、からスネルの法則に基づき前記素子毎の仮想的な波面を計算することを特徴とする請求項1または2に記載の生体情報取得装置。
【請求項6】
前記処理部は、少なくとも前記素子からの角度を変数として前記仮想的な波面に濃淡をつけることによって、前記仮想的な波面を加算する際の重み付けを決定することを特徴とする請求項1または2または5のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項7】
前記音響波は、前記被検体に送信した超音波が前記音響波発生源によって反射して返ってきた超音波であり、
前記処理部では、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体中及び前記被検体保持部材中を伝播する各音速と、前記画像情報の画素位置と、から前記素子毎の電気信号を整相加算する際の重み付け及び遅延時間を決定し、
重み付けされた前記電気信号を整相加算して画像情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の生体情報取得装置。
【請求項8】
前記処理部は、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体保持部材中及び前記被検体中を伝播する各音速と、前記画像情報の画素位置と、からスネルの法則に基づき整相加算する際の遅延時間を計算することを特徴とする請求項1または7に記載の生体情報取得装置。
【請求項9】
前記処理部は、少なくとも前記被検体保持部材の厚さと、前記被検体保持部材中及び前記被検体中を伝播する各音速と、前記画像情報の画素位置と、からスネルの法則に基づき窓関数を補正することによって前記素子毎の電気信号を整相加算する際の重み付けを決定することを特徴とする請求項1または3または8のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−167258(P2010−167258A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239400(P2009−239400)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】