説明

生体情報検出装置

【課題】加速度センサによる検知信号から患者の呼吸、心音、姿勢情報信号を得る生体情報検出装置を提供する。
【解決手段】患者の胸部に装着される加速度センサと、患者の左右方向をX軸とし、前後方向をY軸としたとき、加速度センサから得られる患者のY軸方向の動的加速度信号から患者の呼吸及び心音情報を検出する第1信号処理手段と、加速度センサから得られる患者のX軸方向の静的加速度信号とY軸方向の動的加速度信号とから患者の姿勢情報を検出する第2信号処理手段と、第1、第2及び第3信号処理手段から得られる呼吸、心音、姿勢及び行動情報を表示する表示手段とを備え、X,Y軸信号から呼吸、心音情報のほか姿勢、行動情報を検知するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の呼吸、心音及び姿勢を検知するため生体情報検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
患者(高齢者等の病弱者を含む)の体の一部に加速度センサを装着して患者の心拍、呼吸等の生体情報を取得する装置は従来より知られている。例えば特開2002−17693号公報には、人体の心拍、呼吸等の生体情報に異変が発見されたら、第三者に自動的に連絡し重大事故を未然に防ぐ携帯無線電話型バイタルチェッカーについて開示され、心拍、呼吸を検知する素子として加速度センサが使用できる旨記載されている。
【0003】
また睡眠検査、睡眠時無呼吸症候群の診断のために使用される装置として、例えば特許第3809847号公報開示の構成が知られている。この公報には3次元の加速度センサを用いてX,Y、Z方向の生体情報信号を出力し、X,Z方向のDC成分から患者の寝姿勢を検出し、X,Y、Z方向のAC成分取り出し、そのAC成分から呼吸数を検出し、Z方向のAC成分から心拍数を検出する旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−17693号公報
【特許文献2】特許第3809847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、人体の心拍、呼吸を検知する素子として加速度センサを使用することを開示しているものの、その検出信号から心拍、呼吸数を精度よく測定するための具体的な手法については何ら説明されていない。
【0006】
特許文献2に開示の構成では、3軸加速度センサからのX,Y、Zの3種類の信号を用いて、それらの組み合わせにより寝姿変化、心拍数、呼吸数を検出するものであり、信号処理が複雑になるという問題がある。またこの文献に開示の構成では心拍信号からR−R間隔情報を得られるものの、心雑音については検出できないないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、加速度センサの出力信号のうちX,Y方向の2種類の信号から患者の呼吸、心音、姿勢、行動情報を得ることができると同時に、特に心音情報については心雑音の検出も可能とした生体情報検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体情報検出装置は、患者の胸部に装着される加速度センサと、患者の左右方向をX軸とし、前後方向をY軸としたとき、前記加速度センサから得られる前記患者のY軸方向の動的加速度信号から前記患者の呼吸及び心音情報を検出する第1信号処理手段と、前記加速度センサから得られる前記患者のX軸方向の静的加速度信号とY軸方向の静的加速度信号とから前記患者の姿勢情報を検出する第2信号処理手段と、前記加速度センサから得られる前記患者のX軸方向の動的加速度信号とY軸方向の動的加速度信号とから前記患者の行動情報を検出する第3信号処理手段と、前記第1、第2及び第3信号処理手段から得られる呼吸、心音、姿勢及び行動情報を表示する表示手段とを含む。
【0009】
また本発明に係る生体情報検出装置においては、前記第1信号処理手段が、前記加速度センサ信号から呼吸の周波数成分を取り出す第1バンドパスフィルタと、前記加速度センサ信号から心音の周波数成分を取り出す第2バンドパスフィルタとを含み、前記第2信号処理手段が、前記加速度センサからのX軸方向及びY軸方向の静的加速度信号から前記患者の体の傾き等姿勢に関連する周波数成分を取り出すローパスフィルタとを含み、前記第3信号処理手段が、前記加速度センサからのX軸方向及びY軸方向の動的加速度信号から前記患者の体の動き等行動に関連する周波数成分を取り出すハイパスフィルタとを含むものである。
【0010】
かかる構成において、第1バンドパスフィルタからは呼吸情報信号のみが、また第2バンドパスフィルタからは心音情報信号のみが取り出される。これにより、呼吸情報信号及び心音情報信号が高精度で得られる。
【0011】
また本発明に係る生体情報検出装置においては、前記第1バンドパスフィルタが低域遮断周波数0.01〜0.1Hzから高域遮断周波数0.3〜3Hzの通過周波数帯域を有し、前記第2バンドパスフィルタが低域遮断周波数10〜50Hzから高域遮断周波数100〜1000Hzの通過周波数帯域を有し、前記ローパスフィルタが加速度センサ1からのX軸及びY軸信号を入力とし0.5Hz以下の周波数信号を通過させるものであり、前記ハイパスフィルタが1Hz以上の周波数信号を通過させるものである。
【0012】
かかる構成において、第1バンドパスフィルタからは、呼吸に対応する信号のみが出力され、第2バンドパスフィルタから心電図波形のうちR波及びT波に対応する心音信号が出力され、ローパスフィルタから体の傾き等姿勢に関連する信号のみが出力され、さらにハイパスフィルタから体の動き等行動に関する信号のみが出力される。第2バンドパスフィルタからの房室弁及び動脈弁の閉鎖に対応する2種類の心音信号及び心雑音を検知することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加速度センサのX方向及びY方向の2種類の信号から、呼吸、心音及び患者の体動等姿勢変化に関する情報を得ることができる。それゆえ2軸の加速度センサにて3軸の加速度センサを用いた場合と同様の情報を得ることができ、かつ信号の種類が3軸の加速度センサより少ないことからその処理がしやすくなるという効果がある。
【0014】
また本発明によれば、心音情報として心電図波形R波信号に加えてT波信号に対応する信号を得ることができる。すなわち房室弁及び動脈弁の閉鎖に対応する2種類の心音信号及び心雑音を知ることができ、これより心臓異常の発見が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る生体情報検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】センサ部をバンドに固定した状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る生体情報検出装置を患者に装着した状態を示す正面図である。
【図4】被験者(患者)の身体傾斜角度と姿勢の関係を示す図である。
【図5】被験者(患者)の体動量と行動状態の関係を示す図である。
【図6】呼吸測定信号を示す波形図である。
【図7】心音図測定信号を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1において、1は2軸の加速度センサで、患者の胸部であって心臓に近い部位に装着される。この加速度センサ1は、直交する2種類の方向(X及びY)の加速度の変化を検知するものであり、本実施の形態では、患者の左右方向をX軸とし、前後方向(体の厚み方向)をY軸とする。なお2軸の加速度センサに変えて3軸の加速度センサを使用することもでき、この場合前記2種の信号が使用される。
【0017】
2は、加速度センサ1からのY軸信号を入力とする第1バンドパスフィルタで、0.1Hzから0.7Hzの通過周波数帯域を有し、呼吸の周波数成分を取り出す作用をなす。3は、同様に加速度センサ1からのY軸信号を入力とする第2バンドパスフィルタで、50Hzから100Hzの通過周波数帯域を有し、心音の周波数成分を取り出す作用をなす。Y軸信号は、これら第1及び第2バンドパスフィルタ2,3を通過することにより、呼吸に関する動的加速度信号及び心音に関する動的加速度信号が得られる。
【0018】
4及び5は、第1及び第2バンドパスフィルタ2、3の出力信号をそれぞれ入力するゲイン40dbの増幅器である。これら第1及び第2バンドパスフィルタ2,3と増幅器4,5にて第1信号処理手段6が構成される。
【0019】
7は、加速度センサ1からのY軸信号を入力とするローパスフィルタ、8は、加速度センサ1からのX軸信号を入力とし0.5Hz以下の周波数信号を通過させるローパスフィルタで、これらローパスフィルタ7,8から得られる2種のX軸方向,Y軸方向の静的加速度信号により身体傾斜角度を測定することができ、姿勢変化を検知することができる。これら2つのローパスフィルタ7,8にて第2信号処理手段9が構成される。
【0020】
10は、加速度センサ1からのY軸信号を入力とするハイパスフィルタ、11は、加速度センサ1からのX軸信号を入力とし1Hz以上の周波数信号を通過させるハイパスフィルタで、これらハイパスフィルタ10,11から得られる2種のX軸方向,Y軸方向の動的加速度信号により体動量を測定することができ、行動を検知することができる。これら2つのハイパスフィルタ10,11にて第3信号処理手段12が構成される。
【0021】
マイクロコントローラ13は、増幅器4,5、ローパスフィルタ7,8及びハイパスフィルタ10,11からの出力信号AD1,AD2,AD3,AD4,AD5,AD6を入力するマイクロコントローラで、ADコンバータを含み、サンプリング周波数200Hzでディジタル信号へ変換する。信号送信部14は、マイクロコントローラ13からの6種類の信号AD1,AD2,AD3,AD4,AD5,AD6を送信する信号送信部で、アンテナ部分を備えて単独で信号送信する構成とすることができる。またこの信号は、携帯電話、PHS等を介して送信することもできる。15は、携帯電話等信号送信部からの信号を受信し演算処理して呼吸、心音、姿勢、行動情報をモニター等表示手段に表示する信号処理部で、マイクロコンピュータよりなる。また信号処理部15をセンサ部16内に組み込むこともできる。
【0022】
図2において、16は、加速度センサ1、第1、第2、第3信号処理部6,9,12、マイクロコントローラ13及び信号送信部15を一体化したセンサ部で、約3cm平方、厚さ約1cmの大きさ、重量約20gとすることができる。17はこのセンサ部16を中間位置に固定したバンドであり、両端部に面状ファスナー18が形成されている。
【0023】
図3に示すように、バンド17はセンサ部16内側とした状態で被験者(患者)19の胸部に巻かれ、装着される。このときセンサ部16が、心臓の上に位置するよう配置される。センサ部16の装着は、下着等衣服の上からでもよく、センサ部16と被験者(患者)19の身体との間に隙間が開いていなければよい。かかる構成とすることにより患者に対する負担を軽くすることができる。
【0024】
図4は、ローパスフィルタ7,8から出力された信号AD3,AD4より、5秒ごとに患者の身体傾斜角度と姿勢を測定した結果であり、小円にて測定値を示す。「前」が患者の前面、「後」が背面である。図より、伏臥位、左右側臥位置、仰臥位、座位及び立位が正確に検知されることが判る。
【0025】
図5は、ハイパスフィルタ10,11から出力された信号AD5,AD6より、5秒ごとに患者の体動量を測定した結果である。図より、安静時、歩行及び走行の行動状態が正確に検知できる。
【0026】
図6は、椅子に座った安静状態の22歳男性被験者19(図3)の胸部にセンサ部16を装着して呼吸を測定した結果を示す。波形Aは、第1バンドパスフィルタ2及び増幅器4を介して得られた信号AD1に基づく呼吸波形を示し、波形Bは比較例として呼吸波形の正確な検出が可能な方法として知られている胸部圧電フィルムを同じ被験者19に貼り付けて同時に測定した結果を示す。本発明により得られる波形信号Aは、比較信号Bに比べて周期にずれが存在するもののピーク間隔、周波数は同一であり、正確な呼吸検知がなされていることが判る。
【0027】
図7は同様の被験者19において、心音図波形を測定した結果を示す。波形Aは、第2バンドパスフィルタ3及び増幅器5を介して得られた信号AD2に基づく波形を示し、波形Bは比較例として同時に測定した心電図波形を示す。心電図波形のうち最も大きいピークを示すR波は、心臓の房室弁が閉鎖するとき発せられる音信号に対応し、これに続くT波は、心臓の動脈弁が閉鎖するとき発せられる音信号に対応する。本発明により得られる波形信号は、これらのR波及びT波に対応する2種の信号を出力している。それゆえ心拍数、R−R間隔の測定に加えて、房室弁及び動脈弁の閉鎖に対応する2種類の心音信号及び心雑音を知ることができ、これより心臓異常の発見が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にかかる生体情報検出装置は、病院において入院患者に適用すれば、看護センターにて患者の正常、異常及び就寝状態にあるか、起床しているか等を把握することができる。また携帯電話を利用して信号を送信することにより離隔地において在宅医療を続けている高齢者の看護にも有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 加速度センサ
2 第1バンドパスフィルタ
3 第2バンドパスフィルタ
4、5 増幅器
6 第1信号処理手段
7、8 ローパスフィルタ
9 第2信号処理手段
10、11 ハイパスフィルタ
12 第3信号処理手段
13 マイクロコントローラ
14 信号送信部
15 信号処理部
16 センサ部
17 バンド
18 ファスナー部
19 被験者(患者)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸部に装着される加速度センサと、患者の左右方向をX軸とし、前後方向をY軸としたとき、前記加速度センサから得られる前記患者のY軸方向の動的加速度信号から前記患者の呼吸及び心音情報を検出する第1信号処理手段と、前記加速度センサから得られる前記患者のX軸方向の静的加速度信号とY軸方向の静的加速度信号とから前記患者の姿勢情報を検出する第2信号処理手段と、前記加速度センサから得られる前記患者のX軸方向の動的加速度信号とY軸方向の動的加速度信号とから前記患者の行動情報を検出する第3信号処理手段と、前記第1、第2及び第3信号処理手段から得られる呼吸、心音、姿勢及び行動情報を表示する表示手段とを含むことを特徴とする生体情報検出装置。
【請求項2】
前記第1信号処理手段は、前記加速度センサ信号から呼吸の周波数成分を取り出す第1バンドパスフィルタと、前記加速度センサ信号から心音の周波数成分を取り出す第2バンドパスフィルタとを含み、前記第2信号処理手段は、前記加速度センサからのX軸方向及びY軸方向の静的加速度信号から前記患者の体の傾き等姿勢に関連する周波数成分を取り出すローパスフィルタとを含み、前記第3信号処理手段は、前記加速度センサからのX軸方向及びY軸方向の動的加速度信号から前記患者の体の動き等行動に関連する周波数成分を取り出すハイパスフィルタとを含むことを特徴とする請求項1記載の生体情報検出装置。
【請求項3】
前記第1バンドパスフィルタが低域遮断周波数0.01〜0.1Hzから高域遮断周波数0.3〜3Hzの通過周波数帯域を有し、前記第2バンドパスフィルタが低域遮断周波数10〜50Hzから高域遮断周波数100〜1000Hzの通過周波数帯域を有し、前記ローパスフィルタが加速度センサ1からのX軸及びY軸信号を入力とし0.5Hz以下の周波数信号を通過させるフィルタであることを特徴とする請求項2に記載の生体情報検出装置。
【請求項4】
前記加速度センサが2軸又は3軸の加速度センサよりなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の生体情報検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−119822(P2010−119822A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4619(P2009−4619)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【Fターム(参考)】