説明

生体物質検出装置

【課題】泳動流路に対して励起光スポットを制御することにより、屈曲部を持つ泳動流路に対してサンプルDNAバンドが傾斜した場合でも正確にサンプルDNAの測定ができる生体物質検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】蛍光物質が修飾された生体サンプルを流路に移送させるための流路を持つ生体物質検出用基板と前記流路に励起光を照射することにより前記生体サンプルの検出を行う生体物質検出装置において、前記励起光を照射するための光学ユニットと、前記励起光を前記流路に対して前記励起光の光軸を中心に回転させる回転機構と、前記流路に照射された励起光による前記生体サンプルの蛍光を検出する検出器と、前記生体サンプルの蛍光が最大になるように前記回転機構を制御する回転機構制御手段を備えた生体物質検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAやタンパク質などの生体物質を検出する生体物質検出装置に関し、より詳細には、検出分離能、分解能を向上した生体物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAやタンパク質などの生体物質を検出する手法として、蛍光標識を利用する蛍光検出法が採用されている。励起光源や光学フィルタや受光素子等からなる光学ユニットにより、ラジオアイソトープを使わず、安全、安価に生体物質の測定が可能であることから、蛍光検出法は酵素免疫測定、電気泳動、共焦点走査型蛍光顕微鏡法など、様々な生体物質の検出に応用されている。
【0003】
蛍光検出法は、励起光を照射することで生体物質に標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出することで生体物質の有無や量を測定する方法である。例えばCy5は波長635nmの励起光に対して、波長670nmの蛍光を発する蛍光標識である。Cy5を標識した生体物質を検出するためには、試料へ635nmの励起光を照射し、試料からの光を670nm付近の光のみ透過する光学フィルタを介して受光素子で検出する。蛍光標識には様々なものがあり、それぞれ蛍光標識の励起波長と蛍光波長に対応した励起光源と光学フィルタを選定することで、様々な蛍光標識を標識した生体物質を検出できる。
【0004】
蛍光検出を行う場合、試料を支持する基板やセルが必要であるが、試料が微量な場合でも測定できるように、基板に微細な流路を形成したものを用いて検出を行う装置が出てきている。この装置では、流路内に蛍光標識を標識した試料と緩衝剤を充填した後、緩衝液に所定の電位勾配をかけて試料を電気泳動させ、泳動中の試料に励起光を照射して蛍光の強度分布を検出することにより、試料の泳動状態を観察することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
図11に従来の生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着し蛍光を検出する時の主要部の構成を示す。図11において、生体物質検出用基板200上に微細な流路が形成されており、緩衝液が満たされた流路の一部に生体物質が導入され、その流路中を生体物質が電気泳動により輸送される。生体物質の種類や特性によって電気泳動の速度が異なるために流路の泳動方向に沿って分離され、生体物質の違いによる分布が生じる。例えば、生体物質をDNAとし流路にアクリルアミドゲルを充填して電気泳動を行うと、DNAの長さによってアクリルアミドゲルを輸送する際の抵抗力が異なるため、長いDNAは泳動速度が遅く、短いDNAは泳動速度が速い。これにより、生体物質導入部の近い方より泳動方向に向けてDNA断片の長い順番に分布が生じる。この分布は粗密のバンド状に形成されるため以降サンプルDNAバンドと呼ぶ。このサンプルDNAバンドのパターンを読み取ることにより、植物や動物の品種判定などのDNAの同定判別を行うことができる。
【0006】
生体物質検出用基板200上の複数の泳動流路は同心円周上に配置しており、生体物質検出用基板200をモータ201で回転させると、順次、複数の泳動流路をトレースすることができる。生体物質に蛍光標識を標識しておけば、生体物質検出用基板200を回転させて、順次、複数の泳動流路中の生体物質へ励起光を照射し、蛍光標識から発せられる蛍光を検出して生体物質の分布を得ることができる。
【0007】
励起光を照射し、蛍光を検出する光学ユニットの構成について、図11を用いて説明する。半導体レーザ210からの励起光を半導体レーザ用集光レンズ211によって略平行光とし、励起フィルタ212によって蛍光波長と同じ波長成分をカットして励起波長成分のみを透過させ、ダイクロイックミラー214で反射させて、対物レンズ215で集光して生体物質へ照射する。生体物質には蛍光標識が標識されており、励起光が照射されると励起光量に応じた蛍光を発する。蛍光標識からの蛍光は再び対物レンズ215によって集光され、ダイクロイックミラー214を透過する。蛍光フィルタ216、蛍光用集光レンズ217を通り、蛍光用光検出素子218によって蛍光の光量を検出して蛍光信号を出力する。この蛍光信号のレベルによって生体物質の有無、濃度、量などがわかる。
【特許文献1】特表2005−064339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図12に実際の生体物質検出用基板の電気泳動流路パターンの拡大図を示す。サンプル定量部23で定量されたサンプルを泳動流路14に送るように構成されている。100から103は2種類の生体物質が含まれているサンプルDNAバンドで、電気泳動する際にサンプルDNAが泳動流路14を移動する様子を示す。
【0009】
サンプルDNAが電気泳動するときは、図12に示す流路の屈曲部では、流路の内周寄りと外周寄りとで泳動距離が異なるため、サンプルDNAバンドが内周寄りでは早くなり、外周寄りでは遅れるので、サンプルDNAバンド全体は泳動流路に対して傾斜する。
【0010】
一方、励起光スポット104は楕円形をしており泳動流路に垂直な方向とその長軸とが一致するように構成されている。したがって102および103のように泳動流路に対して傾斜したサンプルDNAバンドに対してこのような励起光スポットを照射してスキャンすると図13の実線121に示すようなサンプルDNAバンドの測定波形が得られる。ところが真実のサンプルDNAバンドの分布は図13の点線120である。これはサンプルDNAバンドの傾斜と励起光スポットの長軸とが一致していないために生じる。したがって従来の構成ではサンプルDNAバンドの傾斜方向と励起光スポットの長軸とが一致していないときにサンプルDNAの正確な測定ができないという課題を有していた。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、屈曲部を持つ泳動流路に対して励起光スポットを制御することにより、泳動流路に対してサンプルDNAバンドが傾斜した場合でも正確にサンプルDNAの測定ができる生体物質検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の生体物質検出装置は、蛍光物質が修飾された生体サンプルを流路に移送させるための流路を持つ生体物質検出用基板と前記流路に励起光を照射することにより前記生体サンプルの検出を行う生体物質検出装置において、前記励起光を照射するための光学ユニットと、前記励起光を前記流路に対して前記励起光の光軸を中心に回転させる回転機構と、前記流路に照射された励起光による前記生体サンプルの蛍光を検出する検出器と、前記生体サンプルの蛍光が最大になるように前記回転機構を制御する回転機構制御手段を備えたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生体物質検出装置によれば、励起光スポットの長軸方向をサンプルDNAバンドの傾斜に合わせて回転させることにより、サンプルDNAバンドが傾斜しても感度を低下させることなく高分解能、高分離能な生体物質検出装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の生体物質検出装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1に、生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図を示す。図1において、光学ユニット60は複数の光学部品により構成しており、生体物質検出用基板1へ励起光を照射し、蛍光標識された生体物質からの蛍光を検出している。回転機構78はステッピングモータと送りねじによって回転する電動ステージであり、励起光の光軸91が回転機構78の回転中心に一致するように光学ユニット60を搭載している。回転機構78は、コントローラ80の指令に基づいて回転機構ドライブ回路77で回転させる。このように生体検出用基板1へ光学ユニット60から照射する励起光スポットを自由に回転させ、その回転角度を調整できるように構成されている。
【0016】
この光学ユニット60の構成について励起光照射側、蛍光検出側の順に説明する。励起光発光素子72として635nmの半導体レーザを用いている。励起光発光素子72からの発散光を励起光集光用レンズ71で略平行光にする。図2に励起発光素子付近の励起光ビームの詳細な様子を斜視図にて示す。励起光ビーム95は、励起光発光素子72から照射光はその断面が楕円形状をしているので、励起光集光用レンズ71を介して略平行光にされた励起光ビーム95の断面形状も楕円となる。
【0017】
図1において、励起フィルタ70により、励起光発光素子72の波長成分のうち生体物質に標識した蛍光標識の蛍光波長に相当する670nm付近の波長成分をカットし、635nm付近の励起波長成分のみを透過させる。励起フィルタ70を透過した励起光は、モニタ用ビームスプリッタ69で一定のパワー比率でモニタ光を分岐させる。モニタ光はモニタ光集光用レンズ73で集光し、モニタ光用受光素子74で電気信号に変換する。検出したモニタ光レベルが所定値になるように発光量制御回路75で励起光発光素子72の電流値を制御し、その所定値はコントローラ80より設定し、光パワーを所定の値、ここでは0.5mWに制御している。
【0018】
モニタ用ビームスプリッタ69を透過した略平行光の励起光は、リレーレンズ68で集光されダイクロイックミラー63に入射される。ダイクロイックミラー63は、励起光での波長成分を反射し蛍光の波長成分を透過させる波長特性を持つ。図中の右側から入射した励起光は45度の傾きで配置されたダイクロイックミラー63で反射されて90度方向を変えられる。ダイクロイックミラー63で反射され集光状態の励起光を対物レンズ62で略平行光にして生体物質検出用基板1へ励起光を照射する。このとき、リレーレンズ68による集光点を対物レンズ62の前側焦点位置とすることにより、対物レンズ出射光を平行光としている。図3に対物レンズ付近の励起光ビームの様子を示す。ダイクロイックミラー63で反射し、対物レンズ62で平行な励起光ビーム96とし、生体物質検出用基板1上の流路14へ照射して励起光スポット97を得ている。図中の下部、右側からのリレーレンズからの収束光が楕円形状なので、ダイクロイックミラー63及び対物レンズ62を介した後の励起光ビーム96及び励起光スポット97の断面形状は楕円となる。流路14の中心と励起光ビーム96の光軸91は一致するように配置されており、流路14へは楕円ビームの中央部分が照射されている。
【0019】
以上が励起光発光素子72から生体物質検出用基板1上の流路14にあるサンプルDNAへの励起光照射までの説明である。次にサンプルDNAへ照射された励起光により発生した蛍光を受光素子で検出するまでについて説明する。
【0020】
サンプルDNAには蛍光標識としてCy5を標識しており、Cy5は波長が635nmの励起光を照射すると波長が670nm程度の蛍光を発生する。生体物質検出用基板1上のサンプルDNAに標識されたCy5より発生した蛍光は、対物レンズ62によって平行光にされ、ダイクロイックミラー63を透過する。次に蛍光フィルタ64で、670nm付近の蛍光波長成分のみを透過させ、635nm付近の励起光波長成分を遮断する。次に蛍光集光用レンズ65で蛍光を集光させ、スリット66で生体物質検出基板1において発生した蛍光以外の迷光成分を遮光する。次に蛍光用受光素子67で受光した蛍光を電気信号に変換し、蛍光検出回路76で電気信号を増幅する。このように、生体物質検出用基板1上の生体物質より発生した蛍光を電気信号として検出する。コントローラ80は蛍光検出回路76の蛍光の電気信号の信号処理を行い、図示していないホストコンピュータへ測定データを転送する。
【0021】
次に、生体物質検出用基板1へ緩衝剤であるDNAコンジュゲートや生体物質としてサンプルDNAを遠心力によって充填するための生体物質検出用基板1を回転させる構成について説明する。生体物質検出用基板1をクランパ50で保持しモータ51で回転中心軸90を中心として回転させる。モータ制御回路83でモータ51の回転数の制御を行う。モータ51の回転数はコントローラ80よりモータ制御回路83へ対して設定する。DNAコンジュゲートを充填するときに一定回転数で回転させたり、サンプルDNAを定量化するために急ブレーキをかけたり、蛍光検出時にゆっくり回転させたり、などの回転制御は全てコントローラ80からモータ制御回路83への設定によって行う。また、一回転検出器81で生体物質検出用基板1の基準回転位置を検出し、この情報に基づいてコントローラ80で励起光の照射位置を求める。このときの充填、定量、測定などの具体的な動作については後ほど説明する。
【0022】
続いて、生体物質の電気泳動を行う生体物質検出用基板について説明する。図5は、本実施の形態1における生体物質検出用基板の流路形成面からみた図である。
【0023】
本実施の形態1における生体物質検出用基板1には、樹脂基板上に流路パターン2が8つ形成されており同時に最大8検体のDNA判別が可能である。生体物質検出用基板1の外形の4つの角のうち3つの角はRが設けられ、残りの1つの角は他の3つの角と形状を異なるように形成し、更に穴3および4を設けて外形を非対称にしてパターン2の場所を特定できるようにしている。流路形成面には溝が形成され、さらに樹脂製フィルムを溶着により溝を覆うことで密閉流路が形成されている。5は生体物質検出用基板1の中心を示している。
【0024】
図6は、図5に示す生体物質検出用基板1に形成された流路パターン2の詳細形状を示す図である。ここで、流路パターン2は、生体サンプルの判別に用いる微小な幅と深さを持つ溝によって形成された微細な流路と貫通穴と非貫通穴とからなっている。サンプル注入部9、緩衝剤注入部7、サンプルチャンバー部16、サンプル保持部20、およびバッファ部21は非貫通穴であり、サンプル注入口8と緩衝剤注入口6は流路形成面の裏側である試料注入面から各試料が注入できるように一部貫通している。更に、負電極部13と正電極部12も試料注入面から電圧が印加できるように貫通穴になっている。
【0025】
正電極部12は電気泳動用正電圧の印加部であり、負電極部13は電気泳動用負電圧の印加部である。これらは流路14を介して接続されており、さらには、流路10,流路11により緩衝剤注入部ともそれぞれ接続されている。チャンバー部16は、流路15によりサンプル注入部9と接続されている。また、サンプル保持部20は、流路17と流路18によりチャンバー部16と接続されている。バッファ部21は、流路17、流路18、流路19によりチャンバー部16、サンプル保持部20とそれぞれ接続されており、さらに、流路22によってバッファ部21の空気抜きが可能となる。サンプル定量部23は流路14と流路19との合流部分に設けられており、サンプルDNAを定量する所である。
【0026】
それでは、以下、前述したサンプルDNAのSNPs(一塩基多型)の有無を判別するまでの具体的操作および動作の一例について図6を用いて説明する。
【0027】
まず、検体となるサンプルDNAを準備する。本来DNAは2本鎖の螺旋構造をしたものであるが、本実施の形態1においては、判別したいSNPs部位を含む約60塩基長の1本鎖DNAを準備する。抽出方法、DNAの切断、1本鎖化については本発明とは直接関係がないので詳細な説明は省略する。
【0028】
次に、緩衝剤としてDNAコンジュゲートを準備する。DNAコンジュゲートとは、6〜12塩基長1本鎖DNAの5末端に高分子のリニアポリマーが共有結合したものである。このリニアポリマーを付けたDNAの配列は、正常型のサンプルDNAに対しては相補であるが変異型のサンプルDNAに対しては相補ではない配列とすることにより、正常型のサンプルDNAに対しての結合力が強く、変異型のサンプルDNAに対しての結合力が弱い特性を持たせてある。また、電気泳動した場合、5末端に結合したリニアポリマーがおもりとなり泳動速度がかなり遅いという特性もある。以下の「DNAコンジュゲート」は電気泳動時の電解質の役目もするpH緩衝剤、およびMgClなどのDNA結合力制御剤を含んだものとしている。
【0029】
試料の準備が終わったところで、DNAコンジュゲートおよびサンプルDNAを生体物質検出用基板1へ注入する。DNAコンジュゲートはピペッター等により定量を緩衝剤注入口6から緩衝剤注入部7へ分注する。サンプルDNAも同様に定量をサンプル注入口8よりサンプル注入部9へ分注する。次に、クランパ50で生体物質検出用基板1を固定し、モータ51で重心5を軸に回転させる。この時、分注されたDNAコンジュゲートとサンプルDNAは、遠心力により外周方向へと移動する。
【0030】
まず、注入されたDNAコンジュゲートの移動について、図6を用いて説明する。緩衝剤注入部7内のDNAコンジュゲートは流路10と流路11を通り正電極部12と負電極部13へ等分され正電極部12へ移動したDNAコンジュゲートはさらに流路14を通りサンプル定量部23まで移動する。負電極部13へ移動したDNAコンジュゲートも同様に流路14を通りサンプル定量部23まで移動する。DNAコンジュゲートは、正電極部12および負電極部13の7割程度まで充填されており、流路14を満たし、サンプル定量部23まで達している。正電極部12と負電極部13内に存在するDNAコンジュゲートの液面高さとサンプル定量部の液面高さは、図5の重心5を中心とする同一円周上となる。
【0031】
次に、注入されたサンプルDNAの移動について、同じく図6を用いて説明する。サンプル注入部9内のサンプルDNAは流路15を通りチャンバー部16さらには流路17、流路18を通り外周側に位置するサンプル保持部20まで達する。しかしながら、図6に示すように流路18はサンプル保持部20の外周側に接続され、かつサンプル保持部20には空気抜き用の穴が存在しない。そのためサンプル保持部20内に残った空気は抜けることはなく加圧された状態となり、回転中のみこのような遠心力と加圧力とが平衡となった状態を維持する。このように、生体物質検出用基板1を一定時間回転させてDNAコンジュゲートとサンプルDNAの移動が停止した状態とした後、回転を急停止させる。サンプル保持部20内に存在していたサンプルDNAは遠心力が無くなり、空気の圧力によりサンプル保持部20から流路18へ逆流しようとする。さらに、サンプルDNAはサンプル保持部20内の空気が大気圧となるまで流路17、流路19へと移動しようとするが、この時、流路17は流路19にくらべ細く形成されているためサンプルDNAは流路17よりも流路19へ多く流れる。つまり、サンプル保持部20内のサンプルDNAは空気の膨張により流路18、流路19を通りサンプル定量部23およびバッファ部21まで達する。これにより、サンプル定量部23でサンプルDNAは、充填されたDNAコンジュゲートと接することになる。
【0032】
次に、生体物質検出用基板1を中速にて数秒間もう一度回転させて緩やかに停止する。流路19に充填されていたサンプルDNAはチャンバー部16へと流れるが、サンプル定量部23にはサンプルDNAが一定量残存する。このように一回目の回転時と異なる動作をする理由は、回転速度が遅く減速度が緩やかであるためサンプル保持部20内の空気が強く圧縮されることがないからである。よって逆流して流路19へサンプルが再度充填されることもない。以上の動作で、サンプル定量部23に残存したサンプルDNAがSNPsの判別を行なう最終試料となる。
【0033】
次に、電気泳動を行なう。電気泳動は、正電極部12に正電極、負電極部13に負電極を接触させ、数百Vの電圧を印加する。すると、サンプル定量部23を含む流路14において電界が発生し、サンプル定量部23に一定量残存したサンプルDNAは、流路14中を正電極側へ泳動する。
【0034】
流路14中にはDNAコンジュゲートが充填されており、サンプルDNAはDNAコンジュゲートとの結合を繰り返しながら電気泳動する。この時、上述したようにサンプルDNA中の正常型DNAはDNAコンジュゲートとの結合力が強いため泳動速度が遅くなり、変異型DNAは結合力が弱いため正常型に比べ泳動速度は速くなる。つまりサンプルDNA中に正常型、変異型両方が存在した場合は、正常型のDNAと変異型のDNAが分離していくこととなり、SNPsの判別が行なえる。ここで、サンプルDNAには蛍光物質が標識されており、励起光を照射するとサンプルDNAの濃度に応じた蛍光を発する。電気流路14中の蛍光の強度分布を測定することで、サンプルDNAの濃度分布を測定することが出来る。
【0035】
ここで、サンプルDNAバンドとは、電気泳動の際に泳動流路で見られるサンプルDNAの濃度による縞模様を言う。泳動流路に屈曲部があると、サンプルDNAバンドが傾斜するので、この傾斜に合わせて励起光スポットを回転させねばならない。
【0036】
この詳細について以下に説明する。図7は、実施の形態1における生体物質検出用基板に形成されるパターンの拡大図である。泳動を行う流路14中の100、101、102、103は時系列でのサンプルDNAバンドの移動の様子を示している。ここで、流路14の幅は約300μmとした。図7の他の符号は図6と同一である。さて、流路に屈曲部があると、屈曲部の内周と外周とで泳動距離が異なる。そのため、サンプルDNAバンドは、内周では早く、外周では遅く流れるため、屈曲部を通過したサンプルDNAバンドは傾斜する。すなわち、サンプルDNAバンド100のように流路14の泳動方向に対して垂直に分布していたバンドが、屈曲部を通過するとサンプルDNAバンド103のように正常型のDNAと変異型のDNAに応じて前方と後方との2つに分離すると共に、内周寄りが前に外周寄りが後ろにずれる形で斜めになってしまう。これは、緩衝液の粘度、塩濃度、分子量などの組成やサンプルの種類、電気泳動の電界強度などによって泳動速度が異なるので、サンプルDNAバンドの傾きは一定にならない。
【0037】
一方、励起光源である励起光発光素子72に半導体レーザを用いており、半導体レーザのビーム形状は楕円であるため、励起光スポット105も楕円となる。本実施の形態1においては、励起光のスポット径を単軸方向が約300μm、長軸方向が約1000μmとなるように光学ユニットを設計、調整してある。基本的には楕円の方向はトレースする方向が短軸方向へ、トレースする流路と垂直方向が長軸方向となるようにしている。これは流路14をトレースする際にサンプルDNAバンド検出の分解能を高くするためと、生体物質検出用基板1を回転させた際の偏芯によるトレースずれによる信号低下を防止するためである。また、流路幅全体に渡って励起光を照射することができるため、流路の全てのサンプルDNAに照射することになり、小さな励起光スポットでトレースする場合に比べてより褪色が少なく、より大きな蛍光信号量を得ることもできる。励起光スポットは、当初、105のように流路に対して垂直にされているが、サンプルDNAバンドの傾きに合わせて106のように励起光スポットを回転機構78により回転させる。
【0038】
図8は図7に示す流路14を電気泳動するサンプルDNAを励起光スポット106でトレースした蛍光信号強度を表したグラフである。横軸が励起光スポット106の位置を表し、DNAはグラフ中の左から右へ泳動する。つまりグラフの左側がサンプル定量部23寄りで右側が正電極部12寄りである。縦軸は蛍光強度で、上からt1、t2、t3、t4と計時変化した波形110、111、112、113、114を表す。徐々に2つの山が分離していく様子がわかる。ここではt2時に回転角度の調整を行った。111が回転角度調整前の波形で112が回転角度調整後の波形であり、回転角度調整によって波形がシャープになった。グラフ右側の山の方が、より泳動速度が速いので変異型のサンプルDNAの分布115、左側が遅く泳動しているので正常型のサンプルDNAの分布116を示している。
【0039】
励起光スポット角度の決定はコントローラ80より回転機構ドライブ回路77を介して行うが、その角度の決定方法は次の通りである。まず、角度の決定方法の概要を説明し、続いてより具体的に詳細を説明する。
【0040】
角度の決定方法の概要は、励起光スポット角度を変えながらサンプルDNAバンドによる蛍光信号の波形を取得し、その波形が最もシャープになる角度を設定値とするものである。最もシャープとなる角度の判定方法には、(1)蛍光信号波形の最大値が最も高くなるときと判定する方法、(2)蛍光信号波形の面積を求めてその面積が最小になるときと判定する方法、(3)蛍光信号のピークの幅を求めてその幅が最小になるときと判定する方法がある。
【0041】
電気泳動中のサンプルDNAバンドの傾きは屈曲部通過後にはほぼ一定で変化しないので、屈曲部を通過した後に回転角度を決定し、その角度を保持する。例えば、最初に励起光スポットの楕円の長径の方向を流路14に垂直とし、この位置を角度=0度とする。まず、0度にて流路14をトレースし蛍光信号波形を取得し、角度調整可能な位置までサンプルDNAバンドの泳動が進んだかどうかを確認する。この確認は具体的には、生体物質検出用基板1を回転させるモータ51をステッピングモータとしているため、コントローラ80からは励起光スポットがどこをトレースしているかわかるので、取得した蛍光信号のピーク位置を求め、例えば屈曲部より5mm以上進んだことを確認する。このときに回転角度0〜60度まで、5度ステップで蛍光信号の波形を取得し最もシャープになる角度を設定値とする。この後、回転角度は固定とし、さらに電気泳動を進めてサンプルDNAバンドの分離を進めることができる。
【0042】
また、別の方法として、回転角度を固定とせず、流路をトレースしながら励起光スポットを回転させ、サンプルDNAバンドによる蛍光信号の波形を取得し、その波形が最もシャープになる角度を常に変化させるように制御しても良い。
【0043】
図4にコントローラ80のうち角度調整機能のブロック図を示す。図4を用いてコントローラ80の角度調整機能についてより詳細に説明する。電気泳動を開始する際に電気泳動開始信号150を内部生成し角度調整開始タイマー151を起動する。所定時間経過後、角度調整開始タイマー151より角度調整開始信号152が生成される。所定時間待つのは屈曲部付近をサンプルDNAバンドが通過するのを待つためであり、所定時間は泳動速度によって決定し、ここでは泳動時間が早い方にばらついてもサンプルDNAバンドが角度調整位置を大幅に通り過ぎないように30秒とした。角度調整開始信号152により角度設定部153へ初期角度の0度が設定され、角度制御信号154により回転機構ドライブ回路77を通じて励起光ビームの楕円の長軸が流路14に垂直となる初期角度の0度へと回転させる。蛍光信号記憶部155より回転制御部156へ一回転させる回転指令が出され、回転制御部156は一回転検出信号157をモニタしながら回転制御信号158を生成して図4では図示していないモータ51を回転させて生体物質検出用基板1を回転させる。その間、蛍光信号記憶部155で回転制御信号158と一回転検出信号157をモニタして励起光ビームの流路14上の回転位置を求め、回転位置と蛍光信号159と関連付けて記憶する。この時点ではサンプルDNAバンドが角度調整位置にまで到達しているとは限らないので角度調整位置へサンプルDNAバンドが到達しているかどうか確認する。角度調整位置にまで到達しているかの確認は、角度調整位置判定部160で蛍光信号記憶部155の回転位置と蛍光信号159のデータより蛍光信号159が最大となる位置を見つけ、屈曲部より5mm以上進んだ位置かどうか判定する。5mm未満の場合には所定時間だけ再度電気泳動を行い、再度角度調整位置にまで到達しているかの確認を行う。一方、5mm以上の場合は角度調整実行信号161を蛍光信号波形演算部162へ出力し角度調整実行に移る。
【0044】
角度調整の実行は次のように行う。蛍光信号波形演算部162で蛍光信号記憶部155の蛍光信号159のデータより蛍光信号159の最大値を求める。角度調整量記憶部163では、蛍光信号波形演算部162からの最大値と角度設定部153からの角度設定量とを関連付けて記憶する。一回転検出信号157により生体物質検出用基板1の一回転毎に角度設定部153の値を順次大きな角度へ向けて更新し、角度制御信号154により回転機構ドライブ回路77を通じて励起光ビームの楕円の方向を回転させる。角度調整量記憶部163は角度設定部153の角度設定量が最大設定量の60度に至ると、記憶した蛍光信号の最大値のうち最も大きい値となる角度設定量を角度設定部153へ設定し、角度調整動作を完了する。
【0045】
角度調整の実行として次のような別の方法も可能である。蛍光信号波形演算部162で蛍光信号記憶部155の蛍光信号159のデータより蛍光信号159の総和を求める。蛍光信号159のデータは流路上を等間隔となっているため、その総和は蛍光信号波形の面積に相当する。角度調整量記憶部163では、蛍光信号波形演算部162からの総和と角度設定部153からの角度設定量とを関連付けて記憶する。一回転検出信号157により生体物質検出用基板1の一回転毎に角度設定部153の値を順次大きな角度へ向けて更新し、角度制御信号154により回転機構ドライブ回路77を通じて励起光ビームの楕円の方向を回転させる。角度調整量記憶部163は角度設定部153の角度設定量が最大設定量の60度に至ると、記憶した蛍光信号の総和のうち最も大きい値となる角度設定量を角度設定部153へ設定し、角度調整動作を完了する。
【0046】
角度調整の実行として次のような別の方法も可能である。蛍光信号波形演算部162で蛍光信号記憶部155の蛍光信号159のデータより蛍光信号159の最大値を求め、その最大値の50%の値を演算し、最大値となる位置の直近の前後に位置する1/2となる位置を求めその距離を演算する。角度調整量記憶部163では、蛍光信号波形演算部162からの1/2位置の距離と角度設定部153からの角度設定量とを関連付けて記憶する。一回転検出信号157により生体物質検出用基板1の一回転毎に角度設定部153の値を順次大きな角度へ向けて更新し、角度制御信号154により回転機構ドライブ回路77を通じて励起光ビームの楕円の方向を回転させる。角度調整量記憶部163は角度設定部153の角度設定量が最大設定量の60度に至ると、記憶した1/2位置の距離のうち最も小さい値となる角度設定量を角度設定部153へ設定し、角度調整動作を完了する。
【0047】
また、複数の流路を用いて同時に電気泳動を行う場合は、同様な方法で流路毎に独立に角度設定値を求めて、実際のデータを得るためにトレースする際には流路毎に回転機構78の角度を変えることも可能である。トレース時のモータ51の回転速度は10rpm、6秒で1回転と非常に遅くしており、角度の設定変更を前のサンプルDNA流路と次のサンプルDNA流路との間で行うことができる。
【0048】
以上のように、本実施の形態1によれば、光学ユニット60を回転機構78に搭載し、励起光スポット106を回転させることによって、励起光スポットの傾きをサンプルDNAバンドの傾きにあわせることができる。これによって、細胞や血液等から特定のDNAを取り出したサンプルDNAを本生体物質検出用基板において測定する際に、高感度で高分離能、高分解能な検出結果を得ることが可能となる。
【0049】
なお、ここでは励起光発光素子72に半導体レーザを用いたが、ランプやLEDのような等方的に光を放射する光源と、楕円または長方形の絞りとを組み合わせたものでもかまわない。
【0050】
また、ここでは生体物質を一本鎖DNAとしDNAのアフィニティを利用して分離する例について述べたが、生体物質を二本鎖DNAやたんぱくとし、分子量や電荷の違いで分離するような場合にでも適用できる。
【0051】
(実施の形態2)
図9は、実施の形態2におけるコントローラ80の角度調整機能のブロック図を示す。実施の形態1の構成と異なるのはコントローラ80の構成と角度調整の方法のみであり、実施の形態1と同様の部材については同じ番号を振っており、特に機能的に変わらず重要でない部分については説明を省略する。
【0052】
実施の形態2における励起光スポット角度の決定方法として、電気泳動開始時刻と流路14の特定のポイントへのサンプルDNAバンドの到着時刻より泳動に要した時間を算出し、この時間より回転角度を決定する方法がある。サンプルDNAバンドの傾き量は泳動速度に依存し、泳動に要した時間は泳動速度に依存する関係があるので、泳動に要した時間と回転角度の関係を予め求めてテーブル化しておくことができる。より具体的には次の通りである。
【0053】
図9にコントローラ80のうち角度調整機能のブロック図を示す。図9を用いてコントローラ80の角度調整機能について説明する。電気泳動を開始する際に電気泳動開始信号150を内部生成し角度調整開始タイマー151を起動する。所定時間経過後、角度調整開始タイマー151より角度調整開始信号152が生成される。所定時間待つのは屈曲部付近をサンプルDNAバンドが通過するのを待つためであり、所定時間は泳動速度によって決定し、ここでは泳動時間が早い方にばらついてもサンプルDNAバンドが角度調整位置を通り過ぎないように10秒とした。角度調整開始信号152により角度設定部153へ初期角度の0度が設定され、角度制御信号154により回転機構ドライブ回路77を通じて励起光ビームの楕円の長軸が流路14に垂直となる初期角度の0度へと回転させる。蛍光信号記憶部155より回転制御部156へ一回転させる回転指令が出され、回転制御部156は一回転検出信号157をモニタしながら回転制御信号158を生成して図9では図示していないモータ51を回転させて生体物質検出用基板1を回転させる。その間、蛍光信号記憶部155で回転制御信号158と一回転検出信号157をモニタして励起光ビームの流路14上の回転位置を求め、回転位置と蛍光信号159と関連付けて記憶する。サンプルDNA到達判定部170で蛍光信号記憶部155の回転位置と蛍光信号159のデータより蛍光信号159が最大となる位置を見つけ、サンプルDNAが調整角度判定位置まで進んだかどうか判定する。ここでは調整角度判定位置を屈曲部より5mmとした。5mm未満の場合には所定時間だけ再度電気泳動を行い、再度調整角度判定位置にまで到達しているかの確認を行う。一方、5mm以上の場合は、そのときのサンプルDNA到達時間情報171を到達時間−角度調整テーブル172へ送り、テーブル172に基づいて角度設定部153へ角度が設定され、角度制御信号154により回転機構ドライブ回路77を通じて励起光ビームを回転させる。
【0054】
また、複数の流路を用いて同時に電気泳動を行う場合は、モータ51をステッピングモータとしているため、コントローラ80は励起光スポットが流路14上のどこに位置しているかわかるので、流路14上の特定の位置にサンプルDNAバンドが到着した時刻を複数の流路ごとに得ることができる。
【0055】
別のサンプルDNAバンドの泳動速度を測定する方法として、図7の105の位置で、モータ51を停止して固定し、サンプルDNAバンドの到着を待ち受けてもかまわない。サンプルDNAバンドが励起光スポット105の領域に進むと蛍光信号レベルが上昇し、離れると下降する。コントローラ80で蛍光信号をモニタしながらピークとなった時刻をサンプルDNAバンド到着時刻とする。コントローラ80で泳動開始時刻はわかるので、泳動に要した時間を算出し、泳動に要した時間と励起光スポット角度の関係のテーブルより励起光スポット角度を決定する。この待ち受け位置は図7の105の場所に限られる訳ではなく、流路14上であればどこでもかまわない。
【0056】
このように角度調整を行うことにより、図7に示す流路14を電気泳動するサンプルDNAを励起光スポット106でトレースした実施の形態1と同様に図8の実線のような明瞭な分布波形を得ることができた。
【0057】
以上のように、本実施の形態2によれば、光学ユニット60を回転機構78に搭載し、励起光スポット106を回転させることによって、励起光スポットの傾きをサンプルDNAバンドの傾きにあわせることができる。これによって、細胞や血液等から特定のDNAを取り出したサンプルDNAを本生体物質検出用基板において測定する際に、高感度で高分離能、高分解能な検出結果を得ることが可能となる。
【0058】
なお、ここでは励起光発光素子72に半導体レーザを用いたが、ランプやLEDのような等方的に光を放射する光源と、楕円または長方形の絞りとを組み合わせたものでもかまわない。
【0059】
また、ここでは生体物質を一本鎖DNAとしDNAのアフィニティを利用して分離する例について述べたが、生体物質を二本鎖DNAやたんぱくとし、分子量や電荷の違いで分離するような場合にでも適用できる。
【0060】
(実施の形態3)
図10は、実施の形態3における生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図を示す。図10において、実施の形態1の構成と大きく異なる所は、光学ユニットが蛍光検出ユニット84と励起光ユニット85との2ピースから構成され、励起光ユニット85に回転機構79を設けた点である。実施の形態1と同様の部材については同じ番号を振っており、特に機能的に変わらず重要でない部分については説明を省略する。
【0061】
回転機構79は蛍光検出ユニット84を基準に励起光ユニット85を励起光ユニットの光軸92の周りに回転させるガイドと、ステッピングモータと送りねじによって回転角度を変更し、保持する機構とから構成されている。この回転機構は回転中心が中空の回転ステージと同様な構成で実現することができる。回転機構79は回転機構ドライブ回路77から接続され、コントローラ80の指令に基づいて回転機構79を回転させる。
【0062】
このような光学ユニットにおいて励起光スポットの回転について説明する。励起光発光素子72に半導体レーザを用いており、励起光発光素子72からの励起ビームは楕円となっている。回転機構79の回転角度が0度の時、楕円の方向は、図10の紙面上が長軸方向、奥行き方向が単軸方向となっており、励起光発光素子72から生体物質検出用基板へ照射されるまで同一の方向である。回転機構79の回転方向を励起光の進行方向に向かって右回りを正とし、正の方向に回転させると、ダイクロイックミラー反射後は正反対の左回りの負の方向に回転する。図7の生体物質検出用基板のパターン図は、図10の下方より見た図であり、励起光スポット106を図中の矢印の左回りの方向に回転させるためには回転機構79を右回りの正の方向に回転させる必要がある。図3において再度説明する。ダイクロイックミラー63へ右方より入射する収束光が励起光ユニットからの励起光である。ここで励起光を進行方向に向かって右回りに回転させると、ダイクロイックミラー63で反射し、対物レンズ透過後の励起光ビーム96は進行方向に向かって左回りに回転する。生体物質検出用基板1は図中の左が内周側、右が外周側で、流路14の手前側から奥行き方向に向かって電気泳動される。つまり、励起光を進行方向に向かって右回りに回転させると図7の生体物質検出用基板上では太い矢印の左回転方向に回転する。
【0063】
生体物質検出用基板1については実施の形態1と同様であるので、電気泳動時のサンプルDNAバンドの傾斜も同様に発生する。励起光の回転角度決定方法についても実施の形態1と同様に蛍光検出波形が最もシャープになるものを探す方法と、特定のポイントでサンプルDNAバンドが到着するのを待ち受けて、泳動に要した時間と回転角度の関係のテーブルより回転角度を決定する方法とを適用できる。このように角度調整を行うことにより、実施の形態1や2と同様に図8の実線のような明瞭な分布波形を得ることができた。
【0064】
以上のように、本実施の形態3によれば、光学ユニットを蛍光検出ユニット84と励起光ユニット85との2ピースから構成し、励起光ユニット85に回転機構79を設けることによって、励起光スポットの傾きをサンプルDNAバンドの傾きにあわせることができる。これによって、細胞や血液等から特定のDNAを取り出したサンプルDNAを本生体物質検出用基板において測定する際に、高感度で高分離能、高分解能な検出結果を得ることが可能となる。
【0065】
さらには、実施の形態1や2に比べて、回転部分の小型化、軽量化を実現でき、これにより励起光回転動作を高速化できるので、流路14のトレース速度をより高速化することが可能となる。なお、ここでは励起光ユニット85全体を回転させる構成としているが、励起光ユニット85のうち励起光発光素子72を含む一部のみを回転する構成としてもかまわない。例えば、励起光発光素子72と励起光集光用レンズ71とのセットで回転させることも可能である。最小構成としては励起光発光素子72のみを回転させる構成も不可能ではないが、励起光発光素子72の光軸からの位置ズレによる励起光の光軸ズレが非常に大きいため、励起光発光素子72の位置ズレが小さくなるような注意が必要である。
【0066】
なお、ここでは励起光発光素子72に半導体レーザを用いたが、ランプやLEDのような等方的に光を放射する光源と、楕円または長方形の絞りとを組み合わせたものでもかまわない。
【0067】
また、ここでは生体物質を一本鎖DNAとしDNAのアフィニティを利用して分離する例について述べたが、生体物質を二本鎖DNAやたんぱくとし、分子量や電荷の違いで分離するような場合にでも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明にかかる生体物質検出装置は、電気泳動時に発生するサンプルDNAバンドの傾斜に合わせて励起光スポットを傾けることにより、高感度で高分解能、高分離能な生体物質検出性能を有し、光学的に信号検出を行う装置において検出する形状に傾きがある場合にその補正が必要な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態1における生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における励起光発光素子付近の励起光ビーム形状の拡大図
【図3】本発明の実施の形態1における対物レンズ付近の励起光ビーム形状の拡大図
【図4】本発明の実施の形態1におけるコントローラの角度調整機能のブロック図
【図5】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板のパターン形成面を示す図
【図6】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板に形成されるパターンを示す図
【図7】本発明の実施の形態1における生体物質検出用基板に形成されるパターンの拡大図
【図8】本発明の実施の形態1におけるサンプルDNA泳動時の検出信号を時系列で示した図
【図9】本発明の実施の形態2におけるコントローラの角度調整機能のブロック図
【図10】本発明の実施の形態3における生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した際の断面図
【図11】従来の生体物質検出装置に生体物質検出用基板を装着した図
【図12】従来の生体物質検出用基板に形成されるパターンの拡大図
【図13】従来の生体物質検出装置での信号検出波形と分離の状態を示す図
【符号の説明】
【0070】
1 生体物質検出用基板
2 パターン
3 回転部固定用穴
4 位置決め穴
5 プレート重心
6 緩衝剤注入口
7 緩衝剤注入部
8 サンプル注入口
9 サンプル注入部
10 第1の流路
11 第2の流路
12 正電極部
13 負電極部
14 第3の流路
15 流路
16 チャンバー部
17 流路
18 流路
19 流路
20 サンプル保持部
21 バッファ部
22 流路
23 サンプル定量部
37 フィルム
50 クランパ
51 モータ
60 光学ユニット
62 対物レンズ
63 ダイクロイックミラー
64 蛍光フィルタ
65 蛍光集光用レンズ
66 スリット
67 蛍光用受光素子
68 リレーレンズ
69 モニタ用ビームスプリッタ
70 励起フィルタ
71 励起光集光用レンズ
72 励起光発光素子
73 モニタ光集光用レンズ
74 モニタ光用受光素子
75 発光量制御回路
76 蛍光検出回路
77 回転機構ドライブ回路
78 回転機構
79 回転機構
80 コントローラ
81 一回転検出器
83 モータ制御回路
84 蛍光検出ユニット
85 励起光ユニット
90 生体物質検出基板の回転軸
91 励起光の光軸
92 励起光ユニットの光軸
95 励起光ビーム
96 励起光ビーム
97 励起光スポット
100 サンプルDNAバンド
101 サンプルDNAバンド
102 サンプルDNAバンド
103 サンプルDNAバンド
104 励起光スポット
105 励起光スポット
106 励起光スポット
110 t1経過後の蛍光信号波形
111 t2経過後の蛍光信号波形
112 t2経過後の蛍光信号波形(回転角度調整後)
113 t3経過後の蛍光信号波形
114 t4経過後の蛍光信号波形
115 変異型DNAの分布
116 正常型DNAの分布
150 電気泳動開始信号
151 角度調整開始タイマー
152 角度調整開始信号
153 角度設定部
154 角度制御信号
155 蛍光信号記憶部
156 回転制御部
157 一回転検出信号
158 回転制御信号
159 蛍光信号
160 角度調整位置判定部
161 角度調整実行信号
162 蛍光信号波形演算部
163 角度調整量記憶部
170 サンプルDNA到達判定部
171 サンプルDNA到達時間情報
172 到達時間−角度調整テーブル
200 生体物質検出用基板
201 モータ
210 半導体レーザ
211 半導体レーザ用集光レンズ
214 ダイクロイックミラー
215 対物レンズ
216 蛍光フィルタ
217 蛍光用集光レンズ
218 蛍光用光検出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質が修飾された生体サンプルを流路に移送させるための流路を持つ生体物質検出用基板と前記流路に励起光を照射することにより前記生体サンプルの検出を行う生体物質検出装置において、
前記励起光を照射するための光学ユニットと、
前記励起光を前記流路に対して前記励起光の光軸を中心に回転させる回転機構と、
前記流路に照射された励起光による前記生体サンプルの蛍光を検出する検出器と、
前記生体サンプルの蛍光が最大になるように前記回転機構を制御する回転機構制御手段を備えた生体物質検出装置。
【請求項2】
前記流路に対して前記生体サンプルのサンプルDNAバンドの蛍光値を検出する傾き検出手段と、
前記傾き検出手段で検出した蛍光値に基づいて前記回転機構を制御する回転機構制御手段と、を備えた請求項2に記載の生体物質検出装置。
【請求項3】
前記光源ユニットは前記励起光を照射するための光源と前記検出器より成り、且つ前記励起光の光軸を中心に回転するように配置された回転機構を持つ請求項1及び2に記載の生体物質検出装置。
【請求項4】
前記光源ユニットは励起光を励起光ユニットと蛍光を検出する蛍光検出ユニットとから成り、励起光ユニットのみを回転させて前記励起光の光軸を中心に回転するように配置された励起光ユニット回転機構を持つ請求項1及び2に記載の生体物質検出装置。
【請求項5】
前記回転機構制御手段は、前記励起光の光軸を回転させた時に前記傾き検出手段で検出した蛍光値の最大値を検出する波形レベル判定手段をさらに含む請求項2に記載の生体物質検出装置。
【請求項6】
前記回転機構制御手段は、前記励起光の光軸を回転させた時に前記傾き検出手段で検出した蛍光値の累積値を計算してその最小値を検出する波形累積値判定手段をさらに含む請求項2に記載の生体物質検出装置。
【請求項7】
前記回転機構制御手段は、前記励起光の光軸を回転させた時に前記傾き検出手段で検出した前記サンプルDNAバンドの流速を検出する流速判定手段をさらに含む請求項2に記載の生体物質検出装置。
【請求項8】
生体物質検出用基板上の複数の流路を用いて前記輸送反応を同時に行う際に、流路毎に回転角度を独立に設定することを特徴とする請求項5から7に記載の生体物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−80070(P2009−80070A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250896(P2007−250896)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】