説明

生体用セラミックス部材およびその製造方法

【課題】 緻密部と多孔部とが均質に存在する複合セラミックス材料からなる生体用部材を簡便に得ることができる製造方法および該製造方法により、緻密体のような優れた強度特性と、多孔体の特性である内部への細胞の侵入容易性とを兼ね備えた、特に、自家骨の形成促進に好適な生体用セラミックス部材を提供する。
【解決手段】 気孔率65%以上85%以下、かつ、平均気孔径50μm以上800μm以下であり、隣接する気孔間に連通孔を有する多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの粒径0.5mm以上10mm以下の顆粒を、リン酸カルシウム系スラリーと混合し、前記顆粒同士が相互に接触するように成形した後、焼成することにより、生体用セラミックス部材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内において、骨を結合するために補助的に用いられる部材であって、特に、傷病等で骨が欠損した場合に、その部位に補填して、自家骨の再生促進のために好適に用いられる生体用セラミックス部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
傷病による骨の欠損に対する治療のために、従来から、金属、セラミックス等を用いた人工的な骨、関節等の研究が行われている。
前記人工骨等の材料のうち、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス、チタン等の金属が、比較的高強度であり、生体為害性がほとんどないことから、実用化されている。
【0003】
しかしながら、アルミナ、ジルコニア、チタン等からなる人工骨は、生体為害性がほとんどないと言っても、あくまでも、可能な限り生体に害を及ぼすことの少ない部材によって、骨を置き換えたものにすぎず、長い年月を経ても、生体に馴染まない無機質な組織、すなわち、死組織であることには変わりはない。このような死組織は、成長期や老齢期等の患者の加齢に伴って変化することはない。
したがって、上記のような材料からなる人工骨、人工関節等は、成長期の患者に適用した場合であっても、当然、成長せず、また、老齢期の患者に適用しても、他の骨に合わせて変形するようなことはないため、患者が苦痛を感じる場合がある。
さらに、生体為害性がないと言っても、長年の使用により、イオンの放出等が生じることが予想され、不安要素は払拭しきれなかった。
【0004】
その後、さらなる研究開発の進展により、人工骨に適した材料として、本来の骨の組成に近い材質であるリン酸カルシウム系セラミックスが実用化されるようになった。
このリン酸カルシウム系セラミックスは、生体為害性がなく、また、生体親和性に優れ、徐々に自己組織と結合したり、破骨細胞により侵食された後、該侵食部に自家骨が形成される等の性質があることが認められている。すなわち、一旦手術において骨欠損部に埋入するのみで、その後、完全に自家骨に置換させることも可能であるという優れた特徴を有している。
【0005】
上記のようなリン酸カルシウム系セラミックスは、人工骨に適用するための十分な強度は得るためには、緻密体とする必要があるが、気孔を含まない緻密体は、内部に細胞等が侵入しにくく、生体に馴染むまでに非常に長い時間を要するという課題を有していた。
場合によっては、そのままの状態で体内に残留してしまうということもあり、緻密体では、上述したようなリン酸カルシウム系セラミックスとしての本来の特徴を十分に活かすことは困難であった。
【0006】
したがって、リン酸カルシウム系セラミックスからなる人工骨においては、該セラミックスを自家骨に置換させるためには、ある程度の強度を有していることが必要である一方、内部への細胞の侵入が容易な構成を有していることも求められていた。
【0007】
上記のような人工骨に適した構成を備えたセラミックス部材として、例えば、焼成後に緻密部となる部材と多孔部となる部材とを成形工程において複合一体化させることにより形成された複合セラミックス部材を、本出願人が提案している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−43243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているセラミックス部材は、緻密質ゲル化体と多孔質ゲル化体とを接触させて複合化するものであり、必ずしも成形加工が容易であるとは言えなかった。
また、上記のような複合部材は、セラミックス部材全体を均質なものとして得ることは困難であった。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、緻密部と多孔部とが均質に存在する複合セラミックス材料からなる生体用部材を簡便に得ることができる製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記製造方法により、緻密体のような優れた強度特性と、多孔体の特性である内部への細胞の侵入容易性とを兼ね備えた、特に、自家骨の形成促進に好適な生体用セラミックス部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る生体用セラミックス部材の製造方法は、気孔率65%以上85%以下、かつ、平均気孔径50μm以上800μm以下であり、隣接する気孔間に連通孔を有する多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの粒径0.5mm以上10mm以下の顆粒を、リン酸カルシウム系スラリーと混合し、前記顆粒同士が相互に接触するように成形した後、焼成することを特徴とする。
上記製造方法によれば、リン酸系カルシウムセラミックスの緻密体および多孔体の複合材料からなる生体用セラミックス部材を簡便に製造することができる。
【0011】
前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒は、有機高分子で表面処理されていることが好ましい。
前記有機高分子により、前記顆粒の多孔体内へのスラリーの流入防止を図ることができ、また、顆粒同士が接点を形成しやすくなり、焼成後の表面処理層消失跡の空隙が、顆粒間における生体組織の通り道としての役割を果たす。
【0012】
また、本発明に係る生体用セラミックス部材は、上記製造方法により製造された生体用セラミックス部材であって、初期圧縮強度が50MPa以上であることを特徴とする。
上記範囲の初期強度であれば、生体内に挿入する際に、破損することなく、容易に取り扱うことができるため好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上述したとおり、本発明に係る製造方法によれば、緻密体のような優れた強度特性と、多孔体の特性である内部への細胞の侵入容易性とを兼ね備えた生体用セラミックス部材を簡便な方法で製造することができる。
また、上記製造方法により得られた生体用セラミックス部材は、緻密部と多孔部とが均質に存在するため、あらゆる形状に加工した場合であっても、初期強度を維持したまま、優れた生体親和性を有するため、生体用部材として有用であり、特に、骨を結合するための補助的な部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る生体用セラミックス部材の製造方法は、多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒を、リン酸カルシウム系スラリー中において、相互に接触するように成形して焼成することを特徴とするものである。
すなわち、本発明に係る生体用セラミックス部材は、リン酸系カルシウムセラミックスからなる緻密体および多孔体の複合材料であり、上記のような製造方法によれば、このような複合セラミックス材料を簡便に得ることができる。
【0015】
前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒は、該顆粒の表面積や浸透性、気孔内への細胞の侵入および付着容易性等の観点から、気孔率65%以上85%以下、かつ、平均気孔径50μm以上800μm以下とする。
前記平均気孔径が50μm未満である場合は、細胞が気孔内部にまで侵入しにくい。
一方、前記平均気孔径が800μmを超える場合は、気孔内に侵入した細胞が係留されにくく、十分に定着しない。
【0016】
また、前記顆粒は、形状は問わないが、粒径0.5mm以上10mm以下のものを用い、より好ましくは、粒径0.5mm以上2mm以下のものを用いる。
前記顆粒の粒径が0.5mm未満の場合は、細粒となりすぎ、取り扱い上不便である。
一方、粒径が10mmを超える場合、成形時にスラリー中に均質に分散させることが困難となる。
【0017】
前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒は、隣接する気孔間に連通孔を有する構造である。
気孔同士が連通している顆粒を用いることにより、該顆粒の気孔内部への細胞の侵入が促進され、該部材全体の自家骨への置換の促進を図ることができる。
【0018】
成形工程において、前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒は、リン酸カルシウム系スラリー中で、前記顆粒同士が相互に接触するように配置される。
このように構成することにより、前記顆粒内の気孔同士の連通だけでなく、顆粒間同士も連通することとなるため、得られる生体用セラミックス部材の内部への細胞の侵入がより容易となる。
【0019】
したがって、前記顆粒同士は1点以上の接点を有していることが好ましく、そのために必要な量の顆粒をスラリー中に配合すること要する。
なお、前記顆粒の形状は、特に限定されるものではなく、すべてが同一形状でも異なる形状であってもよい。例えば、すべての顆粒を立方体状として、隣り合う顆粒同士が相互に接触するように規則的に配列させ、その周囲にスラリーを充填させてもよい。
【0020】
前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒は、有機高分子で表面処理されていることが好ましい。
顆粒表面の有機高分子により、スラリー混合時に、前記顆粒の多孔体内にスラリーが流入が抑制され、気孔率の低下を防止される。
また、表面処理された顆粒同士が、有機高分子を介して接点を形成しやすくなり、さらに、これを焼成することにより、表面処理層の消失跡に空隙が形成され、顆粒間における生体組織の通り道となり得るという利点を有する。
【0021】
前記表面処理に用いられる有機高分子としては、エポキシ樹脂、シランカップリング剤等が挙げられる。焼成後、完全に焼失することから、特に、エポキシ樹脂が好ましい。
【0022】
前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックス顆粒およびリン酸カルシウム系スラリーには、ハイドロキシアパタイト、β‐リン酸三カルシウム等が好適に用いられる。顆粒とスラリーとは、同一材料でも、異なる材料でもよい。
ハイドロキシアパタイトは、骨の主組成成分であり、人体への適用も既に認められており、骨との同化性、癒着性、早期回復および比較的高強度である等の観点から好ましい。また、細胞の足場としても好適である。
同様に、β‐リン酸三カルシウムも、生体親和性、生体適合性に優れた好適な材料である。
【0023】
上記のような多孔質セラミックスは、ハイドロキシアパタイトの場合は、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを撹拌起泡させて焼成することにより容易に作製することができる。そして、これを粉砕等により細粒化加工することにより、本発明に係る製造方法に用いるための所望の顆粒を得ることができる。
なお、上記のようにして製造された多孔質ハイドロキシアパタイトセラミックスは、NEOBONE(登録商標)という製品名で市販されている。
撹拌起泡により気孔が形成された多孔体は、気孔を区画する骨格自体は緻密であり、気孔がほぼ球状となり、高強度を得ることができ、また、毛管現象により、細胞や血液等が浸透しやすい性状が得られる。さらに、単位体積当たりの表面積が大きく、侵入した細胞の足場としても好適な性状となりやすい等の優れた特性を有している。
【0024】
なお、前記多孔質の顆粒には、骨の形成の促進を図るために、骨を形成する細胞や活性化物質を導入しておいてもよい。例えば、軟骨細胞、骨芽細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、神経細胞、または、これらの前駆細胞、間葉系幹細胞または胚性幹細胞(ES細胞)等のうちの少なくとも1種を導入することができる。
これにより、本発明に係る生体用セラミックス部材について、骨補填材としての機能をより高めることができる。
【0025】
図1に、本発明に係る製造方法により得られた生体用セラミックス部材の構成を示す。
図1に示した生体用セラミックス部材は、隣り合う多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒2同士が接触しており、その接点付近は、前記顆粒2の表面処理に用いられた有機高分子が焼成により消失した跡がネック状の空隙3となっている。そして、残りの部分は、リン酸カルシウム系スラリーが焼成されて形成された緻密部1となっている。
【0026】
上記のような本発明に係る製造方法により得られた生体用セラミックス部材は、通常の多孔体のみからなるセラミックス部材よりも強度が高く、しかも、セラミックス部材表面に多数存在する多孔質部に生体組織が侵入して自家骨の形成促進が図られるため、初期強度が必要とされる生体部位に好適に用いることができる。
特に、本発明に係る生体用セラミックス部材は、傷病等で骨が欠損した場合に、その部位に直接補填することができる程度の十分な強度を有していることから、このような骨補填材として好適に用いることができる。
前記生体用セラミックス部材の初期強度は、生体内に挿入する際に破損することなく、取り扱い容易とするためには、圧縮強度において50MPa以上であることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る生体用セラミックス部材は、部材内に、多孔質の顆粒が一様に存在しているため、緻密体および多孔体の複合材料として均質な状態を損なうことなく、あらゆる形状に加工することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
気孔率75%、平均気孔径150μmのハイドロキシアパタイトセラミックスからなる多孔質顆粒を、レジン(日本地科学社製 p-レジン)を用いて表面処理し、該表面処理した顆粒同士が1点以上の接点を有するように、型内に配置した。
前記型内に、ハイドロキシアパタイトのスラリーを充填し、乾燥後、1200℃で焼成し、生体用セラミックス部材とした。
得られた生体用セラミックス部材を直径10mm、高さ10mmの円柱状に加工し、該円柱状試料5個について、圧縮強度を測定したところ、最大値が527.63MPa、最小値が233.97MPa、平均値が380.62MPaであった。
また、各試料とも、多孔質部が一様に導入されていることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る生体用セラミックス部材の概略断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 緻密部
2 多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒
3 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔率65%以上85%以下、かつ、平均気孔径50μm以上800μm以下であり、隣接する気孔間に連通孔を有する多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの粒径0.5mm以上10mm以下の顆粒を、リン酸カルシウム系スラリーと混合し、前記顆粒同士が相互に接触するように成形した後、焼成することを特徴とする生体用セラミックス部材の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質リン酸カルシウム系セラミックスの顆粒が、有機高分子で表面処理されていることを特徴とする請求項1記載の生体用セラミックス部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された製造方法により製造された生体用セラミックス部材であって、初期圧縮強度が50MPa以上であることを特徴とする生体用セラミックス部材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−198276(P2006−198276A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14962(P2005−14962)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】