説明

生体用補綴体

【課題】シャフトとプレートと固定ネジ部材とを備えてなる生体用補綴体において、折損事故を引き起こさないような新規な荷重支持構造を備えてなる生体用補綴体を提供する。
【解決手段】骨髄腔中に挿入されて中実体からなるシャフトと、シャフトの骨幹部からシャフトの軸方向に沿って延在するプレートであって、その厚み方向に貫通した挿通孔を有するプレートと、ヘッド部と、先端側に形成されたセルフタップネジ部と、ヘッド部とセルフタップネジ部との間に形成された固定部と、を有する固定ネジ部材と、を備え、挿通孔に挿通された固定ネジ部材を介してシャフトとプレートとの間で骨を挟持する生体用補綴体であって、固定ネジ部材は、固定部を介してプレートに固定されるとともに、セルフタップネジ部を介して骨に埋入固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故や疾病等による骨欠損部あるいは切除部を補綴するために用いられる生体用補綴体に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や疾病等によって生じた骨欠損部あるいは切除部を補綴するための補綴体として様々なタイプのものが提案されている。
【0003】
例えば、相対向するシャフトとプレートとの間で骨を挟むようにして複数個の固定ネジ部材で生体用補綴体を骨に固定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照すること。)。すなわち、特許文献1は、ストレート形状のシャフトを骨髄腔に挿入し、固定ネジ部材をプレートの貫通孔に挿通してシャフトの有底ボルト穴に螺合させることにより、生体用補綴体を骨に固定することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−47170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された生体用補綴体は、シャフトとプレートと複数個の固定ネジ部材という三種類の荷重支持要素が一体化された剛体として構成されている。したがって、特許文献1の生体用補綴体は、生体用補綴体全体で荷重を支持する構成となっている。しかしながら、特許文献1の生体用補綴体において、術者の不注意等の理由で、固定ネジ部材とシャフトの有底ボルト穴との間の螺合・固定が不十分となる場合がある。螺合・固定が不十分であるような生体用補綴体に対して荷重が負荷された場合、螺合・固定が不十分である固定ネジ部材は、荷重支持要素として十分に機能しなくなる。その結果、当該固定ネジ部材が折損するという折損事故が起こる可能性がある。複数個の固定ネジ部材のうちのいずれか一つの固定ネジ部材が折損すると、残存した固定ネジ部材で荷重を支持することになるために、残存した固定ネジ部材もさらに折損しやすくなる。そして、固定ネジ部材の全てが折損してしまうと、残っているシャフトだけで荷重を支持することになるために、ついにはシャフトの折損事故に至ってしまう。
【0006】
したがって、特許文献1の生体用補綴体では、荷重支持要素のうちのいずれか一つでも欠けてしまうと、生体用補綴体全体で荷重を支持するという構成が成立しなくなるために、生体用補綴体が急激に破損しやすくなるという問題がある。
【0007】
特に、特許文献1の生体用補綴体では、固定ネジ部材と螺合するための有底ボルト穴がシャフトに形成されているために、強度的に劣る有底ボルト穴の部分でシャフトが折損するという構造上の問題を有している。
【0008】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、シャフトとプレートと固定ネジ部材とを備えてなる生体用補綴体において、折損事故を引き起こさないような新規な荷重支持構造を備えてなる生体用補綴体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の生体用補綴体が提供される。
【0010】
すなわち、本発明の請求項1に係る生体用補綴体は、
骨髄腔中に挿入されて中実体からなるシャフトと、
前記シャフトの骨幹部からシャフトの軸方向に沿って延在するプレートであって、その厚み方向に貫通した挿通孔を有するプレートと、
ヘッド部と、先端側に形成されたセルフタップネジ部と、ヘッド部とセルフタップネジ部との間に形成された固定部と、を有する固定ネジ部材と、を備え、挿通孔に挿通された固定ネジ部材を介して前記シャフトとプレートとの間で骨を挟持する生体用補綴体であって、
前記固定ネジ部材は、固定部を介してプレートに固定されるとともに、セルフタップネジ部を介して骨に埋入固定されることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る生体用補綴体では、固定部が雄ネジ部であるとともに、前記挿通孔は、雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る生体用補綴体では、雄ネジ部のリードと前記セルフタップネジ部のリードとが同じ長さであることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る生体用補綴体では、挿通孔がシャフトの軸方向に沿って複数個配設されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る生体用補綴体では、シャフトと別体に構成されたプレート体が、シャフトの軸方向に沿って延在してその厚み方向に貫通した挿通孔を有するプレート部と、シャフトの軸直交方向に延在してシャフトの骨幹部に形成された軸支穴に挿通される軸支部と、を備え、前記シャフトの骨幹部に対して高さ調整可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る生体用補綴体では、表面を粗面化した粗面部が、前記シャフト及びプレートのうち、少なくとも骨に当接する部分に形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る生体用補綴体では、プレートの挿通孔が、ヘッド部を受け入れるための座ぐりを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る本発明は、大きな荷重が生体用補綴体に負荷された場合、骨髄腔内に挿入されたシャフトが荷重を支持して、プレート及び骨にそれぞれ固定された固定ネジ部材が生体用補綴体の回旋方向の微動を防止するように働く。本願のシャフトは、特許文献1のような強度低下を招く有底ボルト穴のような空洞部を有していない中実体からなる構成であるので、本来のシャフト強度を提供する。したがって、シャフト、ひいては生体用補綴体の折損事故の発生を防止するという効果を奏する。
【0018】
固定ネジ部材の固定部を介してプレートに固定する固定構造として、様々な態様が利用可能であるが、請求項2に係る本発明は、簡単且つ確実な固定構造を提供するという効果を奏する。また、後述するように、請求項2に係る本発明は、シャフトを骨の方に引き寄せる働きにより、シャフトを骨に密接させる効果も奏する。
【0019】
請求項3に係る本発明は、固定ネジ部材を骨にねじ込む際に固定ネジ部材の雄ネジ部又はセルフタップネジ部のいずれかに無理な力が働くことを防止するので、固定ネジ部材の破損事故が回避されるという効果を奏する。
【0020】
請求項4に係る本発明は、固定ネジ部材による生体用補綴体の回旋止め作用が増大するという効果を奏する。
【0021】
請求項5に係る本発明は、骨の厚みの違いに柔軟に対応して安定した装着・固定を実現するという効果を奏する。
【0022】
請求項6に係る本発明は、粗面部によって生体用補綴体と骨組織との間での結合力が向上するという効果を奏する。
【0023】
請求項7に係る本発明は、固定ネジ部材の突出したヘッド部によるプレート表面での引っ掛かりを低減するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る生体用補綴体を含む大腿骨コンポーネントを模式的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る生体用補綴体の正面図である。
【図3】図2に示した生体用補綴体の平面図である。
【図4】図2に示した生体用補綴体に使用される固定ネジ部材の正面図である。
【図5】図2に示した生体用補綴体を骨に装着・固定した状態を示す模式的断面図である。
【図6】固定ネジ部材によってシャフトが骨に密着固定される様子を説明する図である。(A)はセルフタップネジ部のねじ込み初期状態を示す図であり、(B)は雌ネジと雄ネジ部とが螺合し始めた状態を示す図であり、(C)は雌ネジと雄ネジ部との螺合が完了した状態を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る生体用補綴体を示す図である。(A)は可動プレート体の位置決めを示す図であり、(B)は固定ネジによる螺合固定の開始を示す図であり、(C)は固定ネジによる螺合固定が完了した状態を示す図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る生体用補綴体を示す正面図である。
【図9】図8に示した生体用補綴体の平面図である。
【図10】本発明の第四実施形態に係る生体用補綴体を骨に装着・固定した状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の第一実施形態に係る生体用補綴体10を、図1乃至6を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1に示すように、人工膝関節の大腿骨コンポーネント2は、大腿骨40に装着・固定される生体用補綴体10と、生体用補綴体10の嵌合部14に装着される関節摺動部材3と、嵌合部14及び関節摺動部材3をネジ止めするための固定用ネジ5と、を備えている。なお、生体用補綴体10と関節摺動部材3との間に不図示の中間部材を介在させることも可能である。
【0027】
図2及び3に示すように、生体用補綴体10は、中実体からなるシャフト12と、シャフト12と一体的に構成されて骨切り面に当接する骨幹部18と、骨幹部18と一体的に構成されて接続ネジ穴15を有する嵌合部14と、骨幹部18からシャフト12の軸方向に沿って延在するプレート20と、を備えている。
【0028】
生体用補綴体10の母材は、Ti合金(例えば、生体用Ti合金として、Ti−6Al−4V、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−6Al−2Nb−1Ta)やCo−Cr−Mo合金やステンレス等の金属材料若しくはアルミナ等のセラミックス材料等の生体安全性の高い材料からできている。
【0029】
大略円柱形状をしているシャフト12の根元部12aは、骨幹部18の曲面から連続的に変化しているストレート形状をしており、その表面が平滑面である。シャフト12の先端部12bは、先細形状をしており、その表面も平滑面である。根元部12aの及び先端部12bの間にある粗面部16は、ストレート形状をしており、微小な凹凸を持った粗面である。なお、本願発明を限定しない例示として、シャフト12の外径と長さとが、それぞれ、15mm、52mmであり、粗面部16の長さが35mmである。
【0030】
シャフト12の粗面部16は、シャフト12の母材と実質的に同系の材料を熔射することで、表面を粗面化している。例えば、シャフト12の母材がTi合金であれば、純Tiやシャフト12の母材と同じあるいは同系のTi合金がアーク熔射される。あるいは、シャフト12の母材がCo−Cr−Mo合金である場合でも、純Tiや同系のTi合金がアーク熔射される。すなわち、骨成長の面から、粗面部16を純TiやTi合金から構成することが好適である。
【0031】
さらに、新生骨の生成を早めるために、粗面部16の最表面には、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム化合物がプラズマ熔射等で形成されていることが好適である。なお、粗面部16は、強度低下の一因となる表面の微小傷の発生し難さの面から好適であるが、粗面部16は、表面を微小な凹凸を持った粗面にすることによって骨組織との結合力を向上させるためのものであるから、エッチングやフライス削りやサンドブラスト加工やエンボス加工や機械加工等で形成することもできる。
【0032】
大略平板形状をしているプレート20は、その厚み方向に貫通した三個のネジ穴22と、シャフト12に対面する対向面24と、を備える。三個のネジ穴22は、シャフト12の軸方向に沿って配設されている。各ネジ穴22の内面には、雌ネジが形成されており、後述する固定ネジ部材30の雄ネジ部34と雌ネジとが螺合する。また、各ネジ穴22に座ぐり加工を施すことにより、固定ネジ部材30のヘッド部32がプレート20の表面からできるだけ突出しないように構成されている。なお、本願発明を限定しない例示として、プレート20の厚みと幅と長さとが、それぞれ、2.5mm、11mm、35mmであり、ネジ穴22のピッチ間隔が9mmである。また、シャフト12とプレート20との間隔が5.5mmである。
【0033】
さらに、骨幹部18の外表面及びプレート20の対向面24にも、シャフト12の粗面部16と同様の粗面化処理やリン酸カルシウム化合物の被着処理が施されている。
【0034】
図4に示した固定ネジ部材30は、ヘッド部32と、雄ネジ部34と、セルフタップネジ部36と、を有する。固定部としての雄ネジ部34は、メートル並目ネジ(Mネジ)である。本願発明を限定しない例示として、雄ネジ部34の長さと山径と谷径とリードとピッチとが、それぞれ、1.8mm、3.5mm、2.85mm、1mm、0.5mmである。セルフタップネジ部36は、切欠37の端面が切り刃として働くことによって自ら雌ネジを大腿骨40に形成しながら螺合するものである。本願発明を限定しない例示として、セルフタップネジ部36の長さと山径と谷径とリードとピッチとが、それぞれ、6mm、2.7mm、1.9mm、1mm、1mmである。ここで、雄ネジ部34のリードとセルフタップネジ部36のリードとが同じ長さに構成されているので、固定ネジ部材30を大腿骨40にねじ込む際に固定ネジ部材30の雄ネジ部34又はセルフタップネジ部36のいずれかに無理な力が働くことが防止され、固定ネジ部材30の破損を回避することができる。
【0035】
次に、上記生体用補綴体10の使用態様について、図5及び6を参照しながら説明する。なお、以下の使用形態においては、生体用補綴体10を大腿骨40に適用した場合について説明するが、本発明に係る生体用補綴体10は脛骨にも適用可能である。
【0036】
事故や疾病等によって切除することが必要になった大腿骨40の遠位側の患部がオッシレータによって切除される。患部の切除された大腿骨40の骨切り面には、骨髄腔42が現れ、穴開けされた骨髄腔42に対して生体用補綴体10のシャフト12が挿入される。
【0037】
図6(A)に示すように、プレート20とシャフト12とによって骨髄腔42を挟持した状態で、プレート20の一つのネジ穴22に対して固定ネジ部材30を挿入し、不図示のドライバーを用いて固定ネジ部材30が大腿骨40に向けてねじ込まれる。
【0038】
図6(B)に示すように、固定ネジ部材30のセルフタップネジ部36を大腿骨40に対してある程度ねじ込むと、雌ネジ形状をした埋入固定部44が大腿骨40に形成されながらセルフタップネジ部36が大腿骨40に埋入される。それとともに、固定ネジ部材30の雄ネジ部34がネジ穴22の雌ネジと螺合し始める。雄ネジ部34と雌ネジとの螺合によって固定ネジ部材30のヘッド部32の側が固定されると、固定ネジ部材30のねじ込み力の反力として、プレート20をシャフト12の反対側に押圧する外側反力がプレート20に働く。
【0039】
そして、固定ネジ部材30のねじ込みをさらに進めると、図6(C)に示すように、上記外側反力が働いているプレート20とつながっているシャフト12が大腿骨40の方に引き寄せられる。その結果、固定ネジ部材30によるネジ止めが図6の(A)、(B)、(C)の順序で進行するにつれて、シャフト12と大腿骨40との隙間が狭くなり、ついには図6(C)のように、シャフト12が大腿骨40に密接する。
【0040】
固定ネジ部材30のねじ込みを他のネジ穴22に対して順次行うことによって、図5に示すように、全てのネジ穴22において、固定ネジ部材30の雄ネジ部34がそれぞれ螺合固定されるとともに、大腿骨40に形成された埋入固定部44において、固定ネジ部材30のセルフタップネジ部36がそれぞれ埋入固定される。
【0041】
固定ネジ部材30は、略円柱状のシャフト12が骨髄腔42内で回旋方向に微動することを防止するための回旋止め要素であって、大腿骨40に装着された生体用補綴体10に印加される荷重を支持するための荷重支持要素ではない。したがって、三箇所のネジ穴22の全てに対して固定ネジ部材30によるネジ止めを行うことが最も好ましいことは言うまでもないが、一箇所のネジ止めであっても適宜の回旋止め作用が得られる。
【0042】
本願のシャフト12は、その内部に空洞部を有しない中実体であるので、本来のシャフト強度を提供する。したがって、シャフト12ひいては生体用補綴体10の破損事故の発生が防止されるという効果を奏する。
【0043】
次に、図7を参照しながら、本発明の第二実施形態に係る生体用補綴体10について説明するが、上記第一実施形態と重複する部分の説明を省略して上記第一実施形態と相違する部分について説明する。
【0044】
図7に図示した生体用補綴体10では、可動プレート体50が骨幹部18と別体であってシャフト12の軸直交方向に移動可能に構成されていることを特徴としている。
【0045】
可動プレート体50は、大略平板形状をしてシャフト12の軸方向に延在するプレート部51と、その厚み方向に貫通した三個の挿通孔52と、シャフト12に対面する対向面53と、シャフト12の軸直交方向に延在する軸支部54と、を備える。三個の挿通孔52は、シャフト12の軸方向に沿って配設されている。各挿通孔52の内面には、雌ネジが形成されており、前述した固定ネジ部材30の雄ネジ部34と挿通孔52の雌ネジとが螺合する。また、各挿通孔52が座ぐり加工されている。
【0046】
軸支部54は、骨幹部18の挿通穴に対して滑動自在に構成されている。軸支部54の挿通穴の内面には、雌ネジ56が形成されていて、固定用ネジ60の雄ネジ部64と螺合する。
【0047】
このように構成された生体用補綴体10は、上記第一実施形態と同様に、大腿骨40の骨髄腔42に装着・固定されるが、大腿骨40の厚みに応じて、可動プレート体50とシャフト12との間隔を変えることができる。可動プレート体50をシャフト12の軸直交方向に例えば18mm程度変位させることができる。
【0048】
図7(A)に示すように、軸支部54を骨幹部18の挿通穴の中に挿通した状態で、プレート部51をシャフト12の軸直交方向に動かすことにより、図7(B)のように、プレート部51が最適な位置に位置決めされる。そして、図7(C)のように、固定用ネジ60の雄ネジ部64を軸支部54の挿通穴の雌ネジ56に螺合させることにより、可動プレート体50が骨幹部18に固定される。
【0049】
第二実施形態に係る生体用補綴体10によれば、大腿骨40の厚みの違いに柔軟に対応して安定した装着・固定を実現できるという効果を奏する。
【0050】
次に、図8及び9を参照しながら、本発明の第三実施形態に係る生体用補綴体10について説明するが、上記第一実施形態と重複する部分の説明を省略して上記第一実施形態と相違する部分について説明する。
【0051】
図8及び9に図示した生体用補綴体10では、固定ネジ部材30がプレート20に対してワイヤー止めされていることを特徴としている。
【0052】
プレート20の各ネジ穴22に対応する側面部分に対して、プレート20の長手直交方向に延在するワイヤー用貫通孔70がそれぞれ形成されている。また、ワイヤー用貫通孔70に対応するように、使用する固定ネジ部材30にも、固定部としてのワイヤー貫通孔がそれぞれ形成されている。したがって、大腿骨40への固定ネジ部材30の埋入固定を行った際には、プレート20のワイヤー用貫通孔70と固定ネジ部材30のワイヤー用貫通孔とが同軸になるように構成されている。本願発明を限定しない例示として、プレート20のワイヤー用貫通孔70及び固定ネジ部材30のワイヤー用貫通孔の穴径が1mm程度であり、ワイヤー72の直径が0.7mm程度である。
【0053】
大腿骨40への固定ネジ部材30の埋入固定を行ったあと、プレート20のワイヤー用貫通孔70及び固定ネジ部材30のワイヤー貫通孔に例えばチタン系のワイヤー72を挿入する。そして、プレート20の側面部分から露出しているワイヤー72をプレート20に巻き付けた後、ワイヤー72の両端を結び止めする。したがって、一端が大腿骨40の埋入固定部44に埋入固定された固定ネジ部材30の他端が、ワイヤー72でプレート20に固定されているので、略円柱状のシャフト12が骨髄腔42内で回旋方向に微動することを防止するという効果を奏する。
【0054】
次に、図10を参照しながら、本発明の第四実施形態に係る生体用補綴体10について説明するが、上記第一実施形態と重複する部分の説明を省略して上記第一実施形態と相違する部分について説明する。
【0055】
図10に図示した生体用補綴体10では、固定ネジ部材30がプレート20に対して締まり嵌めされていることを特徴としている。
【0056】
プレート20の各挿通孔は、雌ネジを有しない嵌合穴23として構成されている。他方、固定ネジ部材30は、ヘッド部32と、固定部としての嵌合部35と、セルフタップネジ部36と、を有する。嵌合穴23の穴径は、固定ネジ部材30の嵌合部35の直径よりもほんの少し小さいように寸法構成されている。固定ネジ部材30のセルフタップネジ部36を大腿骨40にねじ込む際に、上記第一実施形態の場合よりも少し大きめの押し込み力でねじ込むことにより、固定ネジ部材30の嵌合部35が嵌合穴23に嵌合する。あるいは、プレート20と固定ネジ部材30との間に温度差を設けた状態で固定ネジ部材30を大腿骨40にねじ込むようにしてもよい。したがって、一端が大腿骨40の埋入固定部44に埋入固定された固定ネジ部材30の他端が、嵌合部35と嵌合穴23との間での締まり嵌めでプレート20に固定されているので、略円柱状のシャフト12が骨髄腔42内で回旋方向に微動することを防止するという効果を奏する。
【0057】
また、固定ネジ部材30の固定部として、PMMA(polymethylmethacrylate)(ポリメタクリル酸メチル)と呼ばれるアクリル樹脂系の骨セメントを用いて、固定ネジ部材30をプレート20に固定することもできる。
【0058】
なお、生体用補綴体10に関する形状や材質や具体的数値は、あくまでも本願発明の理解を助けるために例示したものであり、本願発明がこれらの例示に限定されるものではない。さらに、本発明に係る生体用補綴体10は、上述した大腿骨40に適用されるだけでなく、脛骨や上腕骨や前腕骨等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
2:大腿骨コンポーネント
3:関節摺動部材
5:固定用ネジ
10:生体用補綴体
12:シャフト
12a:根元部
12b:先端部
14:嵌合部
15:接続ネジ穴
16:粗面部
18:骨幹部
20:プレート
22:ネジ穴(挿通孔)
23:嵌合穴(挿通孔)
24:対向面
30:固定ネジ部材
32:ヘッド部
34:雄ネジ部(固定部)
35:嵌合部(固定部)
36:セルフタップネジ部
37:切欠
40:大腿骨
42:骨髄腔
44:埋入固定部
50:可動プレート体
51:プレート部
52:軸支穴
53:対向面
54:軸支部
56:雌ネジ
60:固定用ネジ
62:ヘッド部
64:雄ネジ部
70:貫通孔
72:ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄腔中に挿入されて中実体からなるシャフトと、
前記シャフトの骨幹部からシャフトの軸方向に沿って延在するプレートであって、その厚み方向に貫通した挿通孔を有するプレートと、
ヘッド部と、先端側に形成されたセルフタップネジ部と、ヘッド部とセルフタップネジ部との間に形成された固定部と、を有する固定ネジ部材と、を備え、挿通孔に挿通された固定ネジ部材を介して前記シャフトとプレートとの間で骨を挟持する生体用補綴体であって、
前記固定ネジ部材は、固定部を介してプレートに固定されるとともに、セルフタップネジ部を介して骨に埋入固定されることを特徴とする生体用補綴体。
【請求項2】
前記固定部が雄ネジ部であるとともに、前記挿通孔が、雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を有することを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。
【請求項3】
前記雄ネジ部のリードと前記セルフタップネジ部のリードとが同じ長さであることを特徴とする、請求項2に記載の生体用補綴体。
【請求項4】
前記挿通孔がシャフトの軸方向に沿って複数個配設されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。
【請求項5】
前記シャフトと別体に構成されたプレート体が、シャフトの軸方向に沿って延在してその厚み方向に貫通した挿通孔を有するプレート部と、シャフトの軸直交方向に延在してシャフトの骨幹部に形成された軸支穴に挿通される軸支部と、を備え、前記シャフトの骨幹部に対して高さ調整可能に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。
【請求項6】
表面を粗面化した粗面部が、前記シャフト及びプレートのうち、少なくとも骨に当接する部分に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。
【請求項7】
前記プレートの挿通孔が、ヘッド部を受け入れるための座ぐりを有することを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−184034(P2010−184034A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29957(P2009−29957)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】